特許第5788855号(P5788855)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5788855
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】レーザ処理方法およびレーザ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/20 20060101AFI20150917BHJP
   H01L 21/268 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   H01L21/20
   H01L21/268 T
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-254284(P2012-254284)
(22)【出願日】2012年11月20日
(65)【公開番号】特開2014-103248(P2014-103248A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2014年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】次田 純一
(72)【発明者】
【氏名】町田 政志
(72)【発明者】
【氏名】鄭 石煥
【審査官】 河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−311494(JP,A)
【文献】 特表2009−535857(JP,A)
【文献】 特開2005−40806(JP,A)
【文献】 特開平1−128422(JP,A)
【文献】 特開昭62−130510(JP,A)
【文献】 特開平9−45926(JP,A)
【文献】 特開2002−83769(JP,A)
【文献】 特開平10−74697(JP,A)
【文献】 特開平9−321311(JP,A)
【文献】 特表2010−500759(JP,A)
【文献】 特開2008−16717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/20
H01L 21/268
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非単結晶半導体膜上に所定のビーム断面形状を有するパルスレーザを走査しつつ所定の走査ピッチでオーバーラップ照射して結晶半導体膜とするレーザ処理方法において、
前記半導体膜へのパルスレーザの照射によって、前記半導体膜上で照射されたパルスレーザビームの走査方向後端側に形成される盛り上がり部の底辺における走査方向長さをbとし、前記走査ピッチをpとして、
前記走査ピッチを下記式(1)を満たす範囲に設定して前記パルスレーザのオーバーラップ照射を行うことを特徴とするレーザ処理方法。
0.75b≧p≧0.25b …(1)
【請求項2】
前記半導体膜へのパルスレーザの照射は、前記半導体膜上において結晶化に最適な照射エネルギー密度で行われることを特徴とする請求項1記載のレーザ処理方法。
【請求項3】
前記パルスレーザの波長が400nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のレーザ処理方法。
【請求項4】
前記パルスレーザのパルス半値幅が200ns以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のレーザ処理方法。
【請求項5】
前記非単結晶半導体がシリコンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のレーザ処理方法。
【請求項6】
前記走査ピッチが、5〜20μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のレーザ処理方法。
【請求項7】
前記半導体膜へのパルスレーザの照射によって、前記半導体膜上で照射されたパルスレーザビームの走査方向後端側に形成される盛り上がり部の底辺における走査方向長さを測定し、該測定結果に基づいて前記走査ピッチを決定することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のレーザ処理方法。
【請求項8】
所定の繰り返し周波数でパルスレーザを出力するパルス発振レーザ光源と、
前記パルスレーザのビーム断面形状を整形して非単結晶半導体膜に導く光学系と、
前記パルスレーザのエネルギー密度を調整するアテニュエータと、
前記パルスレーザを前記非単結晶半導体膜に対し所定の走査速度で相対的に走査させる走査装置と、
前記レーザ光源、前記アテニュエータおよび前記走査装置を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、半導体膜へのパルスレーザの照射によって、前記半導体膜上で照射されたパルスレーザビームの走査方向後端側に形成される盛り上がり部の底辺における走査方向長さbを取得し、該走査方向長さに従って、前記パルスレーザの前記非単結晶半導体膜への照射に際しての走査ピッチpが下記式(1)を満たすように、前記レーザ光源における繰り返し周波数と前記走査装置の走査速度を決定することを特徴とするレーザ処理装置。
0.75b≧p≧0.25b …(1)
【請求項9】
半導体膜へのパルスレーザの照射によって、前記半導体膜上で照射されたパルスレーザビームの走査方向後端側に形成される盛り上がり部の底辺における走査方向長さbを計測する膜表面形状計測装置を備えることを特徴とする請求項8記載のレーザ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非単結晶半導体にラインビーム形状のパルスレーザを走査しつつ複数回のオーバーラップ照射をして非晶質膜の結晶化や結晶膜の改質を行うレーザアニール方法およびレーザアニール装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的にTVやPCディスプレイで用いられている薄膜トランジスタは、アモルファス(非結晶)シリコン(以降a−シリコンという)により構成されているが、何らかの手段でシリコンを結晶化(以降p−シリコンという)して利用することでTFTとしての性能を格段に向上させることができる。現在は、低温度でのSi結晶化プロセスとしてエキシマレーザアニール技術がすでに実用化されており、スマートフォン等の小型ディスプレイ向け用途で頻繁に利用されており、さらに大画面ディスプレイなどへの実用化がなされている。
【0003】
このレーザアニール法では、高いパルスエネルギーを持つエキシマレーザを非単結晶半導体膜に照射することで、光エネルギーを吸収した半導体が溶融または半溶融状態になり、その後冷却され凝固する際に結晶化する仕組みである。この際には、広い領域を処理するために、例えばラインビーム形状に整形したパルスレーザを相対的に短軸方向に走査しながら照射する。通常は、非単結晶半導体膜を設置した設置台を移動させることでパルスレーザの走査が行われる。
上記パルスレーザの走査においては、非単結晶半導体膜の同一位置にパルスレーザが複数回照射(オーバーラップ照射)されるように、所定の走査ピッチでパルスレーザを走査方向に移動させている。これにより、サイズの大きい半導体膜のレーザアニール処理を可能にしている。
【0004】
そして、従来のラインビームを用いたレーザアニール処理では、レーザパルスの走査方向のビーム幅を0.35〜0.4mm程度に固定し、複数の薄膜トランジスタの性能の均一性を確保するためパルス毎の基板送り量をビーム幅の5%から8%程度に設定しており、生産効率を考慮した上でレーザの照射回数を定めている。
【0005】
ところで、パルスレーザのビーム断面の強度分布においては、走査方向端部で次第に強度が低くなって0になる領域を有している。特許文献1では、このような強度分布を有するパルスレーザをオーバーラップ照射した際に、異なる強度領域で複数回照射された照射領域間でトランジスタとした際の移動度に相違が生じることを課題としており(段落0015〜0019)、この課題を解決するため強度領域に応じて走査ピッチを所定の値以下とする方法が提案されている。特許文献1では、この方法によって移動度のバラツキが極めて小さい薄膜トランジスタを製造することができるとしている(段落0026)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−45926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1では、レーザビームの走査方向前方において強度が次第に低くなる強度分布に起因する課題を解決するものとしており、具体例としては1mmの走査ピッチが示されている。
しかし、本願発明者らの研究によれば、特許文献1で示されるような走査ピッチでは、レーザビームの走査方向後端部において強度が次第に低下する領域(以下、スティープネス部という)に起因して半導体としての性能に影響が生じていることが明らかになった。
【0008】
すなわち、図6に示すように、パルスレーザが照射された例えばシリコン膜101上に、ラインビーム短軸の端部に応じてパルス照射毎にポリシリコン膜の盛り上がり部102が形成される。この部分はレーザ照射による半導体膜の溶融部と半導体膜が溶融するのに十分な強度を有するレーザが照射されておらず固体のままである部分の境目に相当する。この盛り上がりは、照射エネルギーの強度に比例して大きくなると考えられる。すなわち、照射エネルギーが大きくなるに従い半導体膜の膜厚方向に溶融が進み、また膜全体が溶融した後も液体となった半導体膜層の温度が増大する。この液相部分が温度低下に伴い結晶化する際に、より先行して温度が低下し始める固液界面すなわちラインビーム短軸エッジ部に液体が吸い寄せられつつ固化するため、盛り上がりが生じる。
【0009】
このような盛り上がり部では、レーザのエネルギー変動、ラインビーム短軸形状の変化、レーザビームに対して相対移動する半導体膜の位置の乱れなどが要因になって、盛り上がり部の高さや間隔の乱れとなって現れる。この乱れが照射ムラと認知され、半導体膜をデバイスとして利用した際に特性のバラツキになる。
【0010】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、ビームの走査方向端部のスティープネス部による影響を軽減して照射ムラの少ない結晶半導体膜を製造することができるレーザ処理方法およびレーザ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明のレーザ処理方法のうち、第1の本発明は、非単結晶半導体膜上に所定のビーム断面形状を有するパルスレーザを走査しつつ所定の走査ピッチでオーバーラップ照射して結晶半導体膜とするレーザ処理方法において、
前記半導体膜へのパルスレーザの照射によって、前記半導体膜上で照射されたパルスレーザビームの走査方向後端側に形成される盛り上がり部の底辺における走査方向長さをbとし、前記走査ピッチをpとして、
前記走査ピッチを下記式(1)を満たす範囲に設定して前記パルスレーザのオーバーラップ照射を行うことを特徴とするレーザ処理方法。
0.75b≧p≧0.25b …(1)
【0012】
第2の本発明のレーザ処理方法は、前記第1の本発明において、前記半導体膜へのパルスレーザの照射は、前記半導体膜上において結晶化に最適な照射エネルギー密度で行われることを特徴とする。
【0013】
第3の本発明のレーザ処理方法は、前記第1または第2の本発明において、前記パルスレーザの波長が400nm以下であることを特徴とする。
【0014】
第4の本発明のレーザ処理方法は、前記第1〜第3の本発明のいずれかにおいて、前記パルスレーザのパルス半値幅が200ns以下であることを特徴とする。
【0015】
第5の本発明のレーザ処理方法は、前記第1〜第4の本発明のいずれかにおいて、前記非単結晶半導体がシリコンであることを特徴とする。
【0016】
第6の本発明のレーザ処理方法は、前記第1〜第5の本発明のいずれかにおいて、前記走査ピッチが、5〜20μmであることを特徴とする。
【0017】
第7の本発明のレーザ処理方法は、前記第1〜第6の本発明のいずれかにおいて、前記半導体膜へのパルスレーザの照射によって、前記半導体膜上で照射されたパルスレーザビームの走査方向後端側に形成される盛り上がり部の底辺における走査方向長さを測定し、該測定結果に基づいて前記走査ピッチを決定することを特徴とする。
【0018】
第8の本発明のレーザ処理装置は、
所定の繰り返し周波数でパルスレーザを出力するパルス発振レーザ光源と、
前記パルスレーザのビーム断面形状を整形して非単結晶半導体膜に導く光学系と、
前記パルスレーザのエネルギー密度を調整するアテニュエータと、
前記パルスレーザを前記非単結晶半導体膜に対し所定の走査速度で相対的に走査させる走査装置と、
前記レーザ光源、前記アテニュエータおよび前記走査装置を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、半導体膜へのパルスレーザの照射によって、前記半導体膜上で照射されたパルスレーザビームの走査方向後端側に形成される盛り上がり部の底辺における走査方向長さbを取得し、該走査方向長さに従って、前記パルスレーザの前記非単結晶半導体膜への照射に際しての走査ピッチpが下記式(1)を満たすように、前記レーザ光源における繰り返し周波数と前記走査装置の走査速度を決定することを特徴とする。
0.75b≧p≧0.25b …(1)
【0019】
第9の本発明のレーザ処理装置は、前記第8の本発明において、半導体膜へのパルスレーザの照射によって、前記半導体膜上で照射されたパルスレーザビームの走査方向後端側に形成される盛り上がり部の底辺における走査方向長さbを計測する膜表面形状計測装置を備えることを特徴とする。
【0020】
本願発明では、走査ピッチを適正範囲にすることで、レーザビーム断面の走査方向後端側のスティープネス部による盛り上がり部が近接して形成されることになる。ここで、走査ピッチを規定した理由を説明する。
盛り上がり部の底辺をbとして、走査ピッチpを小さくすることで盛り上がり部間の高低差を小さくすることができる。pが0.75bよりも大きいと、高低差を小さくする効果が十分に得られない。また、pを0.25b未満にまで小さくすると、オーバーラップ回数が多くなって、生産効率が低下する。このため、走査ピッチpに関しては、0.75b以下、0.25b以上とする。なお、同様に理由で、0.7b未満、0.5b以上とするのがそれぞれ望ましい。
なお、走査ピッチpの絶対的な数値は限定されないが、例えば5〜20μmを例示することができる。
【0021】
盛り上がり部の底辺の大きさは本発明としては特に限定されるものではないが、例えば10〜30μmの範囲が例示される。
盛り上がり部は、レーザビームの走査方向後端部側の照射によって半導体膜の溶融部と半導体膜が溶融するのに十分な強度を有するレーザが照射されておらず固体のままである部分の境目を起点として、半導体膜の盛り上がり高さが最大となる位置を経由してその減少傾向が収まる地点までとする。なお、盛り上がり部高さの増減傾向は、盛上がり部高さの近似線(多項式近似線など)などを用いることで明確に現すことができる。
【0022】
また、盛り上がり部の底辺の大きさは、パルスレーザの走査方向後端のスティープネス部の幅の大きさが影響する。なお、スティープネス部は、ビーム強度プロファイルにおける最大強度の10%以上90%以下の強度を有する領域として示すことができる。本発明のパルスレーザにおける走査方向後端側のスティープネス部の幅は、例えば100μm以下が例示される。スティープネス部の幅は光学部材の設計や光路上へのスリットの配置などにより調整することができる。但し、余りにスティープネス部を狭くしようとすると、ビーム強度プロファイルにおける平坦部の短軸方向端に強度が急激に増加する突部が形成されてしまう。このため、スティープネス部の幅は、例えば30μm以上に調整される。
【0023】
なお、半導体膜へのパルスレーザの照射は、前記半導体膜上において結晶化に最適な照射エネルギー密度で行うのが望ましい。結晶化に最適な照射エネルギー密度は適宜の基準で決定することができるが、例えば、複数回数N回の照射によって結晶粒径成長が飽和する照射パルスエネルギー密度Eと同程度の照射パルスエネルギー密度とすることができる。具体的には、E×0.98〜E×1.03の範囲が望ましい。最適な照射エネルギー密度は、照射回数などによって異なり、本願発明としては特定の数値に限定されるものではないが、例えば250〜500mJ/cmを例示することができる。
【0024】
また、本発明に用いられるパルスレーザは、特定のものに限定されないが、例えば、波長400nm以下、半値幅200ns以下のものが例示される。またパルスレーザの種類も特に限定されないが、例えばエキシマレーザが挙げられる。
【0025】
パルスレーザにより結晶半導体膜とされる非単結晶半導体膜は、本発明としては特定の材料に限定されないが、例えばシリコンを材料として例示することができる。本発明は、材料の如何に拘わらず効果を得ることができる。
【0026】
また、本発明のレーザ処理装置では、所定の繰り返し周波数でパルスレーザを出力する。この繰り返し周波数は本発明としては特に限定されるものではないが、例えば、1〜1200Hzの繰り返し周波数を挙げることができる。繰り返し周波数は、制御部による制御を受けてレーザ光源において設定することができる。
【0027】
また、パルスレーザは、シリンドリカルレンズなどの各種光学部材を用いて適宜形状、例えば四角形状やラインビーム形状に整形される。なお、ラインビームの形状は特定のものに限定されるものではなく、短軸に対し、長軸が大きい比率を有するものであればよい。例えば、その比が10以上のものが挙げられる。長軸側の長さ、短軸側の長さは本発明としては特定のものに限定されないが、例えば、長軸側の長さが370〜1300mm、短軸側の長さが100μm〜500μmのものが挙げられる。また、パルスレーザは、ホミジナイザ、シリンドリカルレンズなどの光学部材によって、ビーム強度プロファイルにおいて例えば最大強度の96%以上の平坦部と、端部に位置する最大強度の10〜90%のスティープネス部を有するプロファイルとすることができる。
【0028】
アテニュエータは、パルスレーザ光が非単結晶半導体膜上で所定のエネルギー密度が得られるようにパルスレーザの透過率を調整するものであり、制御部による制御を受けて前記透過率を調整することができる。
【0029】
また、パルスレーザを非単結晶半導体膜に対し相対的に走査する装置として、パルスレーザまたは非単結晶半導体膜の一方または両方を移動させる移動装置を備えることができる。パルスレーザの移動は、水平方向の移動の他、ポリゴンミラーやガルバノミラーを用いた機構により実行することができる。非単結晶半導体膜の移動は、非単結晶半導体膜を保持するステージなどを移動させる機構などにより実行することができる。
なお、走査速度は本発明としては特に限定されるものではないが、例えば、1〜100mm/秒を例示することができる。走査装置は、制御部による制御を受けて走査速度を設定することができる。
【0030】
制御部では、盛り上がり部の底辺における走査方向長さを取得して走査ピッチを決定することができるが、盛り上がり部の長さは、膜表面形状計測装置により計測することができる。膜表面形状計測装置は、パルスレーザの照射を受けた半導体膜の膜表面形状を計測できるものであればよく、特定のものに限定されないが、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)、触針式表面形状測定器などを挙げることができる。制御部では、走査方向長さに基づいて走査ピッチを決定し、レーザ光源、アテニュエータおよび走査装置を制御して処理を実行する。走査ピッチは、レーザ光源の繰り返し周波数と走査装置の走査速度とによって定めるため、制御部では、これらの一方または両方を設定することで走査ピッチを設定することができる。制御部は、CPUとこれを動作させるプログラム、動作パラメータを記憶した記憶部などにより構成される。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように本発明によれば、レーザビーム断面の走査方向後端側のスティープネス部による盛り上がり部が近接して形成されることで盛り上がり部の高低差が小さくなり、照射ムラが低減される効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の一実施形態におけるレーザ処理装置の概略を示す図である。
図2】同じく、整形されたパルスレーザの短軸方向におけるビーム強度プロファイルを示す図である。
図3】同じく、本発明の走査ピッチでパルスレーザが照射された際の盛り上がりの形成を説明する図である。
図4】同じく、照射ムラを数値化した試験例のグラフである。
図5】同じく、照射ムラを強調した試験例の画像である。
図6】従来の走査ピッチでパルスレーザが照射された際の盛り上がりの形成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、本発明の実施形態のレーザ処理装置1を添付図面に基づいて説明する。
レーザ処理装置1は、処理室2を備えており、処理室2内にX−Y方向に移動可能な走査装置3を備え、その上部に基台4を備えている。基台4上には、ステージとして基板配置台5が設けられている。走査装置3は、図示しないモータなどによって駆動される。
また、処理室2には、外部からパルスレーザを導入する導入窓6が設けられている。
【0034】
アニール処理時には、該基板配置台5上に半導体膜として、非単結晶半導体として非晶質のシリコン膜101が形成された基板100などが設置される。シリコン膜101は、図示しない基板上に、例えば40〜100nm厚(具体的には例えば50nm厚)で形成されている。該形成は常法により行うことができ、本発明としては半導体膜の形成方法が特に限定されるものではない。
なお、本実施形態では、非晶質膜をレーザ処理により結晶化するレーザ処理に関するものとして説明するが、本発明としてはレーザ処理の内容がこれに限定されるものではなく、例えば、非単結晶の半導体膜を単結晶化したり、結晶半導体膜の改質を行うものであってよい。
【0035】
処理室2の外部には、パルス発振レーザ光源10が設置されている。パルス発振レーザ光源10は、エキシマレーザ発振器で構成されており、波長400nm以下、繰り返し発振周波数1〜1200Hzのパルスレーザを出力可能になっており、該パルス発振レーザ光源10では、フィードバック制御によってパルスレーザの出力を所定範囲内に維持するように制御することができる。パルス発振レーザ光源10には、制御部7が制御可能に接続されており、制御部7によってパルス発振レーザ光源10で出力されるパルスレーザの繰り返し周波数や出力を調整することができる。
制御部は、CPUやこれを動作させるプログラムを主構成とすることができ、その他に、不揮発メモリやRAMなどを備えることができる。
【0036】
パルス発振レーザ光源10でパルス発振されて出力されるパルスレーザ15は、アテニュエータ11でエネルギー密度が調整される。アテニュエータ11は、制御部7に制御可能に接続されており、制御部7によってアテニュエータ11を透過するパルスレーザ15の透過率を調整することができる。
【0037】
アテニュエータ11を透過したパルスレーザ15は、光学系12に至る。光学系12は、ホモジナイザー12a、反射ミラー12b、シリンドリカルレンズ12cなどの光学部材によって構成され、パルスレーザ15に対し、ラインビーム形状への整形や偏向、平坦部とスティープネス部とを有するビーム強度プロファイル形成などがなされ、パルスレーザ150として、処理室2に設けた導入窓6を通して処理室2内の非晶質シリコン膜101に照射される。なお、光学系12を構成する光学部材は上記に限定されるものではなく、各種レンズ(ホモジナイザー、シリンドリカルレンズなど)、ミラー、導波部などを備えることができる。
【0038】
次に、上記レーザ処理装置1の動作について説明する。
パルス発振レーザ光源10において、制御部7の制御によって所定の繰り返し周波数でパルス発振されて、所定出力でパルスレーザ15が出力される。パルスレーザ15は、例えば、波長400nm以下、パルス半値幅が200n秒以下のものとされる。ただし、本発明としてはこれらに限定されるものではない。
パルスレーザ15は、制御部7により制御されるアテニュエータ11でパルスエネルギー密度が調整される。アテニュエータ11は所定の減衰率に設定されており、シリコン膜101への照射面上で結晶化に最適な照射パルスエネルギー密度が得られるように、減衰率が調整される。例えば非晶質のシリコン膜101を結晶化するなどの場合、その照射面上において、エネルギー密度が250〜500mJ/cmとなるように調整することができる。
【0039】
アテニュエータ11を透過したパルスレーザ15は、光学系12でラインビーム形状に整形され、さらに光学系12のシリンドリカルレンズ12cを経て短軸幅を集光して、処理室2に設けた導入窓6に導入される。
ラインビームは、例えば、長軸側の長さが370〜1300mm、短軸側の長さが100μm〜500μmのものに整形される。
【0040】
ラインビーム150は、図2に示すように、最大エネルギー強度に対し96%以上となる平坦部151と、長軸方向の両端部に位置し、前記平坦部151よりも小さいエネルギー強度を有し、外側に向けて次第にエネルギー強度が低下するスティープネス部152とを有している。スティープネス部は、最大強度の10%〜90%の範囲の領域である。
ラインビーム150のシリコン膜101上でのスティープネス部152の幅は、例えば、40〜100μmになっている。
【0041】
制御部7によって制御される走査装置3で所定の走査速度でシリコン膜101を移動させることで、ラインビーム150をシリコン膜101に対し相対的に走査しつつシリコン膜101に照射することができる。この際の走査速度は、例えば1〜100mm/秒の範囲内とする。但し、本発明としては前記走査速度が特定のものに限定されるものではない。
なお、走査速度および繰り返し周波数の決定に際しては、図3に示されるように、パルスレーザ15の照射によってシリコン膜101上に形成される盛り上がり部102の底辺の走査方向長さをbとして、走査ピッチpが下記式を満たすようにする。
0.75b≧p≧0.25b …(1)
【0042】
走査ピッチは、上記(1)式の条件を満たすことが必要であって、特定の数値に限定されるものではないが、例えば5〜15μmの範囲を挙げることができる。
なお、盛り上がり部102の底辺の走査方向長さは、制御部7において予め取得しておくことで、走査ピッチを決定することができる。
【0043】
盛り上がり部102の底辺の走査方向長さは、原子間力顕微鏡(AFM)、触針式表面形状測定器などの膜表面形状計測装置20で測定することができる。具体的には、想定されるオーバーラップ回数に応じた、結晶化に最適なエネルギー密度でレーザパルスを照射し、ビームの短軸方向端部の照射によって形成される盛り上がり部の底辺長さを測定する。測定は、予め基準として行っておくものでもよく、また、処理をしたシリコン膜において測定を行うものであってもよい。
予め測定する際には、パルスレーザをワンショットすることでも走査方向長さとして測定を行うことができる。盛り上がり部の底辺長さが得られると、走査ピッチを決定することができるが、走査ピッチの決定によって所定のビーム形状では照射回数が定まる。この照射回数における最適なエネルギー密度が盛り上がり部102の底辺長さを測定した際のエネルギー密度と異なることがある。この場合、照射回数の変更によって最適なエネルギー密度が変われば、変更された最適なエネルギー密度において、盛り上がり部102の底辺の走査方向長さを測定し、その結果に応じて走査ピッチを決定することができる。
【0044】
適正な走査ピッチの結果、盛り上がり部102は、図3に示されるように近接して形成され、盛り上がり部102間の高低差が小さくなる。これにより仮にレーザのエネルギー変動、ラインビーム短軸形状の変化、レーザビームに対して相対移動する半導体膜の位置の乱れなどが生じても、その影響を軽微なものにすることができる。
【実施例1】
【0045】
次に、実施形態に示したレーザ処理装置を用いて評価する試験を行った。試験条件は以下の通りとした。
a−Si(非単結晶半導体) 膜厚:50nm
パルス発振レーザ光源 LSX315C(コヒーレント社製)
/波長308nm、繰り返し周波数300Hz
ビームサイズ 370mm×0.4mm
レーザパルス半値幅 50ns
照射エネルギー密度 結晶化最適エネルギー密度:370mJ/cm
(半導体膜上)
盛り上がり部底辺長さb 18μm(ワンショット測定)
走査ピッチp 15μm、10μm、5μm(15μmは比較例)
盛り上がり部底辺長さ測定装置 エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 走査型プローブ顕微鏡ユニット商品名「S-image(エスイメージ)」
【0046】
上記条件でパルスレーザを照射し、得られたポリシリコンにおける照射ムラを評価した。照射ムラは、以下の基準で評価した。
結晶シリコン膜に検査光を複数地点に照射し、それぞれ反射光を受光してカラー画像を取得し、カラー画像の色成分を検出し、検出された色成分に基づいてカラー画像をモノクロ化した。次いで、モノクロ化された画像のデータをコンボリューションして画像濃淡を強調した画像データを取得し、画像濃淡を強調した画像データを射影変換し、射影変換がされた画像データに基づいて表面ムラを評価した。モノクロ化は、検出がされた色成分のうち、主となる色成分を用いて行うことができ、主となる色成分は、光分布が他の色成分よりも相対的に大きい色成分とすることができる。
モノクロ化した画像データは、レーザのビーム方向を行、レーザの走査方向を列とする行列データで示し、コンボリューションでは、所定係数の行列をモノクロ化された画像のデータの行列に掛け合わせることによって行った。
所定係数の行列は、ビーム方向を強調するものと、スキャン方向を強調するものとをそれぞれ用いてビーム方向の画像濃淡を強調した画像データとスキャン方向の画像濃淡を強調した画像データとをそれぞれ取得した。
具体的には、以下のコンボリューションを行った。なお、所定係数の行列が下記に限定されるものではない。
【0047】
【数1】
【0048】
画像の濃淡を強調した画像データに対しては、スキャン方向、ショット方向にまとまったスジが現われることを利用して、それぞれの方向の射影を求める。
具体的には下記に示す式によってショット方向、スキャン方向にそれぞれ射影変換する。
ショット方向=(Max(Σf(x)/Nx)-Min(Σf(x)/Nx))/平均
スキャン方向=(Max(Σf(y)/Ny)-Min(Σf(y)/Ny))/平均
ただし、xはショット方向の画像の位置、yはスキャン方向の画像の位置、f(x)はx位置における画像データ、f(y)はy位置における画像データ、Nxはショット方向の画像の数、Nyはスキャン方向の画像の数を示す。
【0049】
射影は、それぞれの方向における総和となるため、ノイズに強く、ランダムな値は相殺される。即ち、ショットムラは、ショット方向の射影の差を計算することにより、数値として表すことができる。ショットムラの強い画像は、ショット方向の射影の差が大きくなり、弱い画像は射影の差が小さくなる。同様に、スキャンムラは、スキャン方向の射影の差を計算することにより、数値として表すことができる。スキャンムラの多い画像は、スキャン方向の射影の差が大きくなり、弱い画像は射影の差が小さくなる。このように、射影の差を基に、ショットムラとスキャンムラを数値化することができる。
【0050】
図4は、走査ピッチを変えて試験を行った場合のショットムラを数値化したグラフを示す。
比較例では、照射ムラの程度は0.22〜0.27という指標となった。
一方、走査ピッチ10μm、5μmは、本発明の条件式(1)を満たしており、走査ピッチ10μmではショットムラは0.13〜0.18、5μmではショットムラは0.081〜0.11という指標となり、照射ムラが著しく緩和された。
【0051】
図5の図面代用写真(倍率6倍)は、上記評価において濃淡を強調した画面を示すものである。走査ピッチ15μmの比較例では、ムラが目立つのに対し、走査ピッチ10μm、5μmでは、ムラが少なくなっているのが分かる。
【0052】
以上、本発明について上記実施形態に基づいて説明をしたが、本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りは適宜の変更が可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 レーザアニール装置
2 処理室
3 走査装置
5 基板配置台
6 導入窓
7 制御部
10 パルス発振レーザ光源
11 アテニュエータ
12 光学系
20 膜面形状計測装置
100 基板
101 シリコン膜
102 盛り上がり部
図1
図2
図3
図4
図6
図5