【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1では、レーザビームの走査方向前方において強度が次第に低くなる強度分布に起因する課題を解決するものとしており、具体例としては1mmの走査ピッチが示されている。
しかし、本願発明者らの研究によれば、特許文献1で示されるような走査ピッチでは、レーザビームの走査方向後端部において強度が次第に低下する領域(以下、スティープネス部という)に起因して半導体としての性能に影響が生じていることが明らかになった。
【0008】
すなわち、
図6に示すように、パルスレーザが照射された例えばシリコン膜101上に、ラインビーム短軸の端部に応じてパルス照射毎にポリシリコン膜の盛り上がり部102が形成される。この部分はレーザ照射による半導体膜の溶融部と半導体膜が溶融するのに十分な強度を有するレーザが照射されておらず固体のままである部分の境目に相当する。この盛り上がりは、照射エネルギーの強度に比例して大きくなると考えられる。すなわち、照射エネルギーが大きくなるに従い半導体膜の膜厚方向に溶融が進み、また膜全体が溶融した後も液体となった半導体膜層の温度が増大する。この液相部分が温度低下に伴い結晶化する際に、より先行して温度が低下し始める固液界面すなわちラインビーム短軸エッジ部に液体が吸い寄せられつつ固化するため、盛り上がりが生じる。
【0009】
このような盛り上がり部では、レーザのエネルギー変動、ラインビーム短軸形状の変化、レーザビームに対して相対移動する半導体膜の位置の乱れなどが要因になって、盛り上がり部の高さや間隔の乱れとなって現れる。この乱れが照射ムラと認知され、半導体膜をデバイスとして利用した際に特性のバラツキになる。
【0010】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、ビームの走査方向端部のスティープネス部による影響を軽減して照射ムラの少ない結晶半導体膜を製造することができるレーザ処理方法およびレーザ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明のレーザ処理方法のうち、第1の本発明は、非単結晶半導体膜上に所定のビーム断面形状を有するパルスレーザを走査しつつ所定の走査ピッチでオーバーラップ照射して結晶半導体膜とするレーザ処理方法において、
前記半導体膜へのパルスレーザの照射によって、前記半導体膜上で照射されたパルスレーザビームの走査方向後端側に形成される盛り上がり部の底辺における走査方向長さをbとし、前記走査ピッチをpとして、
前記走査ピッチを下記式(1)を満たす範囲に設定して前記パルスレーザのオーバーラップ照射を行うことを特徴とするレーザ処理方法。
0.75b≧p≧0.25b …(1)
【0012】
第2の本発明のレーザ処理方法は、前記第1の本発明において、前記半導体膜へのパルスレーザの照射は、前記半導体膜上において結晶化に最適な照射エネルギー密度で行われることを特徴とする。
【0013】
第3の本発明のレーザ処理方法は、前記第1または第2の本発明において、前記パルスレーザの波長が400nm以下であることを特徴とする。
【0014】
第4の本発明のレーザ処理方法は、前記第1〜第3の本発明のいずれかにおいて、前記パルスレーザのパルス半値幅が200ns以下であることを特徴とする。
【0015】
第5の本発明のレーザ処理方法は、前記第1〜第4の本発明のいずれかにおいて、前記非単結晶半導体がシリコンであることを特徴とする。
【0016】
第6の本発明のレーザ処理方法は、前記第1〜第5の本発明のいずれかにおいて、前記走査ピッチが、5〜20μmであることを特徴とする。
【0017】
第7の本発明のレーザ処理方法は、前記第1〜第6の本発明のいずれかにおいて、前記半導体膜へのパルスレーザの照射によって、前記半導体膜上で照射されたパルスレーザビームの走査方向後端側に形成される盛り上がり部の底辺における走査方向長さを測定し、該測定結果に基づいて前記走査ピッチを決定することを特徴とする。
【0018】
第8の本発明のレーザ処理装置は、
所定の繰り返し周波数でパルスレーザを出力するパルス発振レーザ光源と、
前記パルスレーザのビーム断面形状を整形して非単結晶半導体膜に導く光学系と、
前記パルスレーザのエネルギー密度を調整するアテニュエータと、
前記パルスレーザを前記非単結晶半導体膜に対し所定の走査速度で相対的に走査させる走査装置と、
前記レーザ光源、前記アテニュエータおよび前記走査装置を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、半導体膜へのパルスレーザの照射によって、前記半導体膜上で照射されたパルスレーザビームの走査方向後端側に形成される盛り上がり部の底辺における走査方向長さbを取得し、該走査方向長さに従って、前記パルスレーザの前記非単結晶半導体膜への照射に際しての走査ピッチpが下記式(1)を満たすように、前記レーザ光源における繰り返し周波数と前記走査装置の走査速度を決定することを特徴とする。
0.75b≧p≧0.25b …(1)
【0019】
第9の本発明のレーザ処理装置は、前記第8の本発明において、半導体膜へのパルスレーザの照射によって、前記半導体膜上で照射されたパルスレーザビームの走査方向後端側に形成される盛り上がり部の底辺における走査方向長さbを計測する膜表面形状計測装置を備えることを特徴とする。
【0020】
本願発明では、走査ピッチを適正範囲にすることで、レーザビーム断面の走査方向後端側のスティープネス部による盛り上がり部が近接して形成されることになる。ここで、走査ピッチを規定した理由を説明する。
盛り上がり部の底辺をbとして、走査ピッチpを小さくすることで盛り上がり部間の高低差を小さくすることができる。pが0.75bよりも大きいと、高低差を小さくする効果が十分に得られない。また、pを0.25b未満にまで小さくすると、オーバーラップ回数が多くなって、生産効率が低下する。このため、走査ピッチpに関しては、0.75b以下、0.25b以上とする。なお、同様に理由で、0.7b未満、0.5b以上とするのがそれぞれ望ましい。
なお、走査ピッチpの絶対的な数値は限定されないが、例えば5〜20μmを例示することができる。
【0021】
盛り上がり部の底辺の大きさは本発明としては特に限定されるものではないが、例えば10〜30μmの範囲が例示される。
盛り上がり部は、レーザビームの走査方向後端部側の照射によって半導体膜の溶融部と半導体膜が溶融するのに十分な強度を有するレーザが照射されておらず固体のままである部分の境目を起点として、半導体膜の盛り上がり高さが最大となる位置を経由してその減少傾向が収まる地点までとする。なお、盛り上がり部高さの増減傾向は、盛上がり部高さの近似線(多項式近似線など)などを用いることで明確に現すことができる。
【0022】
また、盛り上がり部の底辺の大きさは、パルスレーザの走査方向後端のスティープネス部の幅の大きさが影響する。なお、スティープネス部は、ビーム強度プロファイルにおける最大強度の10%以上90%以下の強度を有する領域として示すことができる。本発明のパルスレーザにおける走査方向後端側のスティープネス部の幅は、例えば100μm以下が例示される。スティープネス部の幅は光学部材の設計や光路上へのスリットの配置などにより調整することができる。但し、余りにスティープネス部を狭くしようとすると、ビーム強度プロファイルにおける平坦部の短軸方向端に強度が急激に増加する突部が形成されてしまう。このため、スティープネス部の幅は、例えば30μm以上に調整される。
【0023】
なお、半導体膜へのパルスレーザの照射は、前記半導体膜上において結晶化に最適な照射エネルギー密度で行うのが望ましい。結晶化に最適な照射エネルギー密度は適宜の基準で決定することができるが、例えば、複数回数N回の照射によって結晶粒径成長が飽和する照射パルスエネルギー密度Eと同程度の照射パルスエネルギー密度とすることができる。具体的には、E×0.98〜E×1.03の範囲が望ましい。最適な照射エネルギー密度は、照射回数などによって異なり、本願発明としては特定の数値に限定されるものではないが、例えば250〜500mJ/cm
2を例示することができる。
【0024】
また、本発明に用いられるパルスレーザは、特定のものに限定されないが、例えば、波長400nm以下、半値幅200ns以下のものが例示される。またパルスレーザの種類も特に限定されないが、例えばエキシマレーザが挙げられる。
【0025】
パルスレーザにより結晶半導体膜とされる非単結晶半導体膜は、本発明としては特定の材料に限定されないが、例えばシリコンを材料として例示することができる。本発明は、材料の如何に拘わらず効果を得ることができる。
【0026】
また、本発明のレーザ処理装置では、所定の繰り返し周波数でパルスレーザを出力する。この繰り返し周波数は本発明としては特に限定されるものではないが、例えば、1〜1200Hzの繰り返し周波数を挙げることができる。繰り返し周波数は、制御部による制御を受けてレーザ光源において設定することができる。
【0027】
また、パルスレーザは、シリンドリカルレンズなどの各種光学部材を用いて適宜形状、例えば四角形状やラインビーム形状に整形される。なお、ラインビームの形状は特定のものに限定されるものではなく、短軸に対し、長軸が大きい比率を有するものであればよい。例えば、その比が10以上のものが挙げられる。長軸側の長さ、短軸側の長さは本発明としては特定のものに限定されないが、例えば、長軸側の長さが370〜1300mm、短軸側の長さが100μm〜500μmのものが挙げられる。また、パルスレーザは、ホミジナイザ、シリンドリカルレンズなどの光学部材によって、ビーム強度プロファイルにおいて例えば最大強度の96%以上の平坦部と、端部に位置する最大強度の10〜90%のスティープネス部を有するプロファイルとすることができる。
【0028】
アテニュエータは、パルスレーザ光が非単結晶半導体膜上で所定のエネルギー密度が得られるようにパルスレーザの透過率を調整するものであり、制御部による制御を受けて前記透過率を調整することができる。
【0029】
また、パルスレーザを非単結晶半導体膜に対し相対的に走査する装置として、パルスレーザまたは非単結晶半導体膜の一方または両方を移動させる移動装置を備えることができる。パルスレーザの移動は、水平方向の移動の他、ポリゴンミラーやガルバノミラーを用いた機構により実行することができる。非単結晶半導体膜の移動は、非単結晶半導体膜を保持するステージなどを移動させる機構などにより実行することができる。
なお、走査速度は本発明としては特に限定されるものではないが、例えば、1〜100mm/秒を例示することができる。走査装置は、制御部による制御を受けて走査速度を設定することができる。
【0030】
制御部では、盛り上がり部の底辺における走査方向長さを取得して走査ピッチを決定することができるが、盛り上がり部の長さは、膜表面形状計測装置により計測することができる。膜表面形状計測装置は、パルスレーザの照射を受けた半導体膜の膜表面形状を計測できるものであればよく、特定のものに限定されないが、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)、触針式表面形状測定器などを挙げることができる。制御部では、走査方向長さに基づいて走査ピッチを決定し、レーザ光源、アテニュエータおよび走査装置を制御して処理を実行する。走査ピッチは、レーザ光源の繰り返し周波数と走査装置の走査速度とによって定めるため、制御部では、これらの一方または両方を設定することで走査ピッチを設定することができる。制御部は、CPUとこれを動作させるプログラム、動作パラメータを記憶した記憶部などにより構成される。