【実施例1】
【0017】
図1に示す本発明に係る散乱X線除去用グリッド1は、X線吸収物質である多数枚のタンタル箔3と、互いに平行な2枚のカーボンファイバシート製のグリッドカバー2によって構成される。全てのタンタル箔3の面の延長が、
図1の直線C−C′に集束するように、それぞれのタンタル箔3のグリッドカバー2に対する角度と方向が設定されている。その結果、
図2の(A)および(B)に示されているように、散乱X線除去用グリッド1の中央部(
図1のA部)では、タンタル箔3はグリッドカバー2に対してほぼ直角に接着され、散乱X線除去用グリッド1の端部(
図1のB部)ではタンタル箔3はグリッドカバー2に対して傾斜して接着される。このように構成された散乱X線除去用グリッド1を、直線C−C′の中点をX線撮像装置のX線管焦点4に合致させて配置すれば、各タンタル箔3の面は近傍を通過する一次X線に平行となる。
【0018】
本実施例では、タンタル箔3の厚みは0.034mm、タンタル箔3相互の間隔は0.6mm、グリッドカバー2の厚みは0.13mmである。また、
図2の(A)および(B)に示すように、グリッドカバー2の互いに対向する面には接着剤層5が塗布されており、タンタル箔3はその両端を接着剤層5に埋めた形でグリッドカバー2に固着されている。接着剤層5の厚みは、本実施例では0.3mmである。
【0019】
本実施例の散乱X線除去用グリッド1を上記のような構成に組み立てるために、特許文献2によって提案されている組立手段を治具として用いた。その治具の概念図を
図3に示す。また、その治具の要素の一つであるガイドスリット板9の形状を
図4に示す。
図4に示すように、ガイドスリット板9には約0.6mmの間隔で多数のガイドスリット9aが形成されており、各ガイドスリット9aの傾斜角は、挿入されるタンタル箔3が一次X線に平行になるように製作されている。
【0020】
図3および
図6に示す組立治具には、複数枚のガイドスリット板9が相対的にベース板14上に固定して配置されている。これらの各ガイドスリット板9の互いに対向する各ガイドスリットにタンタル箔3が挿入される。タンタル箔3の長尺方向の一端は、タンタル箔3に設けられた穴にロッド10を貫通させて固定する。一方、タンタル箔3の他端に設けられた穴にはロッド11を貫通させ、ロッド11と、固定されたロッド12の間に引張バネ13を架設して、引張バネ13によりタンタル箔3の長尺方向に張力が付加された状態で保持する。この張力によってタンタル箔3のたるみや歪が除去される。
【0021】
グリッドカバー2に接着剤層5を塗布する治具を
図5に示す。
【0022】
厚さ0.13mmのカーボンファイバシートからなる出射側のグリッドカバー2を吸着ベース8上に設置し、真空吸着によってグリッドカバー2の反りや弛みを矯正し平面に保つ。この上に、チキソ製接着剤からなる接着剤層5を約0.3mmの厚みに均一に塗布する。厚みの調節は、調整板6の高さをシムで調節することによっておこなう。接着剤を調整板6の高さより少し高めに盛って、スキージ7を調整板6の上に滑らせて均一な厚みの接着剤層を塗布する。
【0023】
次に、接着剤層5の塗布されたグリッドカバー2を、接着剤層5を下にして、
図3および
図6のタンタル箔3の上に破線で示した位置に押し付けて接着させる。これが出射側のグリッドカバー2である。
【0024】
出射側のグリッドカバー2の接着剤層5が完全に硬化したのち、入射側のグリッドカバー2を取り付ける。治具のベース板14には、
図6において破線で示した矩形の穴が上下に貫穿されており、この穴を通して、
図6の左右のガイドスリット板9の中間のタンタル箔3の下端(入射端)全体に到達することができる。入射側にグリッドカバー2を取り付けるには、
図6に示す組立治具全体を上下に反転させる。上述の方法で接着剤層5を塗布された入射側のグリッドカバー2を、上記のベース板14の穴を介してタンタル箔3の入射側に接着する。
【0025】
両面の接着剤層5の接着剤が完全に硬化した後、引張バネ13を取り外し、タンタル箔3に通しているロッド10および11をタンタル箔3から取り外す。次に、グリッドカバー2が上下に接着されたタンタル箔3を両側のガイドスリット板9から取り外す。最後に、上下のグリッドカバー2の両端より突出しているタンタル箔3の不要部分を切断する。これで
図1に示す形の散乱X線除去用グリッド1が完成する。
【0026】
一般にチキソ性物質とは、せん断応力を加えられると粘度が低下する性質を持つものを指す。よって、チキソ性接着剤は、狭い間隙に圧力を加えて注入するときは、粘度が低下して容易に流入し、圧力を除けば粘度が高くなり、不要な場所に移動流入することがないという特徴のため、広い用途に使用されている。本実施例における、各タンタル箔3にグリッドカバー2を接着する工程において、チキソ性接着剤はヘラなどで目的の厚さよりやや厚めにグリッドカバー2に接着剤層5を塗布した後に、余分な厚さの部分をスキージ7により、容易に取り除くことができる。また、接着剤の流動性が小さいため、厚さの不足している部分が容易に判別でき、その部分に再度ヘラなどで接着剤を補充し、再度、スキージ7で厚さを揃えることができる。この手順を繰り返すことで目標の厚さに正確に且つ均一に塗布することが可能である。
【0027】
また、接着剤層5が塗布された面を下にしてグリッドカバー2を持ち、タンタル箔3に上から貼り付ける際にも、接着剤がチキソ性を有するため、重力により一部が流動して厚さが変化することがなく、タンタル箔3に局部的な応力や歪を与えることなく均一に密着する。その結果、タンタル箔3にグリッドカバー2を貼り付ける際に生じる歪は最小限に抑えられ、また、グリッドカバーと金属箔の端面とに未接着部分が生じない。
さらに、グリッドカバー接着後、接着剤が完全に硬化するまでに接着剤の一部が金属箔と金属箔の間に表面張力によって浸透することもない。また、硬化収縮率が小さいため、硬化する間に金属箔に歪を生じさせることがない。
このような特性のために、接着に起因するタンタル箔の変形や歪みは最小限に抑えられる。
【0028】
チキソ性接着剤は、上記のように多くの利点を有しているが、実際には硬化前の粘度と、接着剤の硬化時の収縮の度合いを示す硬化収縮率が製品によって異なる。最適の接着剤の特性を求めるために、コニシ株式会社製の3種類のチキソ性接着剤を用いて実験を行った。これらはいずれも2液混合型のエポキシ樹脂を主材とするチキソ性接着剤である。そのうちの一つで、混合液の硬化前の粘度が5000〜20000mPa・sのものは、硬化時の液の流動性のため、接着剤層5が変形したり、タンタル箔3同士の間に侵入する現象が見られた。また、他の一つで、混合液の粘度が高くグリース状の製品は、接着時にタンタル箔3の変形が見られた。他の一つの製品「ボンドE208(R)」(混合液の粘度が20000mPa・s以上でマヨネーズ状の特性を持つもの)は、接着時のタンタル箔3の変形や歪みは見られず、良好な結果を示した。
【0029】
硬化時にタンタル箔3やグリッドカバー2に生じる歪を最小限に抑えるためには、接着剤の硬化収縮率は限りなくゼロに近い方が望ましいが、実質的には、3%以下であれば使用上大きな不都合は生じないと考えられる。上記3種類の接着剤の硬化収縮率は、いずれも2%であった。この結果、本実施例では、コニシ株式会社製接着剤「ボンドE208(R)」を採用した。
【0030】
本発明の特徴は上述のとおりであるが、上記の記載や図面に限定されず、より広く適用されるものである。例えば、
図1に示すように、本実施例の散乱X線除去用グリッド1はタンタル箔3の角度が位置によって変化する「集束型グリッド」であるが、タンタル箔3が全て互いに平行な「平行グリッド」にも適用できる。
【0031】
グリッド箔の材料もタンタル以外に鉛、モリブデンなども使用でき、グリッドカバーの材料も、カーボンファイバ以外にアルミニウムなども使用可能である。