特許第5788862号(P5788862)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社エフテックの特許一覧 ▶ 本田技研工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5788862-摩擦攪拌接合装置 図000002
  • 特許5788862-摩擦攪拌接合装置 図000003
  • 特許5788862-摩擦攪拌接合装置 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5788862
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】摩擦攪拌接合装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20150917BHJP
【FI】
   B23K20/12 340
   B23K20/12 320
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-288333(P2012-288333)
(22)【出願日】2012年12月28日
(65)【公開番号】特開2014-128825(P2014-128825A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2014年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】592037790
【氏名又は名称】株式会社エフテック
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 学
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153349
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 茂
(72)【発明者】
【氏名】山口 博康
(72)【発明者】
【氏名】庄子 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】佐山 満
(72)【発明者】
【氏名】小林 努
【審査官】 岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−094176(JP,A)
【文献】 特開2001−087871(JP,A)
【文献】 特開2003−290950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象部材の加工対象側面に対して上下移動自在であり、前記加工対象部材に対して回転自在であるプローブを有する接合ツールと、
前記加工対象部材を載置する載置治具を有する載置部材と、
前記接合ツールが装着される装着治具を固定したアームを有して、前記アームを移動して前記接合ツールを前記加工対象部材に対して移動自在な移動機構と、
前記加工対象部材を保持自在に、前記加工対象部材に対して可動な保持部材を有して、前記保持部材及び前記保持部材に対向自在な前記載置治具の部分が対を成す保持機構と、
前記対を成した前記保持部材及び前記載置治具の前記部分に対して、クーラントを供給自在なクーラント供給源と、
を備え
前記対を成した前記保持部材及び前記載置治具の前記部分の間は、柔軟性を有する配管で接続され、前記クーラントは、前記クーラント供給源から前記保持部材及び前記載置治具の前記部分の一方に供給され、前記保持部材及び前記載置治具の前記部分の前記一方から、前記配管を介して、前記保持部材及び前記載置治具の前記部分の他方に流された後、前記クーラント供給源に戻される摩擦撹拌接合装置。
【請求項2】
前記載置治具は、下側載置部、及び前記下側載置部上に設けられて前記加工対象部材に接する上側載置部を有して、前記下側載置部の熱伝導率は、前記上側載置部の熱伝導率よりも大きく、かつ、前記上側載置部の強度は、前記下側載置部の強度よりも大きく設定される請求項に記載の摩擦撹拌接合装置。
【請求項3】
前記対を成した前記保持部材及び前記載置治具の前記部分は、前記載置治具の上面視での形状に応じて複数の対を成し、前記複数の対を成した前記保持部材及び前記載置治具の前記部分は、前記クーラントを独立して循環させる互いに独立した冷却系を成す請求項1又は2に記載の摩擦撹拌接合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌接合装置に関し、特に、加工対象部材やそれを載置する載置治具を冷却する冷却系を有する摩擦攪拌接合装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、一般的なアーク溶接等に加えて、アルミニウム板等の複数の金属板から成る加工対象部品における所定の接合部位を高速で回転するプローブで摩擦攪拌して、その金属板同士を接合する摩擦攪拌接合装置が提案されてきており、自動車等の移動体の強度部品においても、摩擦攪拌接合装置で接合された接合部を有する構成が実現されるようになってきている。
【0003】
かかる摩擦攪拌接合装置では、プローブが高速で回転しながら加工対象部品を相対移動していくものであるから、その摩擦熱で加工対象部材が高温になる傾向が強い。このように加工対象部材が高温になり過ぎると、摩擦撹拌接合される接合部位の接合品質に影響が出ることも考えられるため、加工対象部材が過度に高温になることは、抑制されていた方が好ましい。
【0004】
かかる状況下で、特許文献1は、摩擦攪拌溶接システムに関し、裏当て板14と、裏当て板14に沿って配置されたタングステン基部材12と、を備え、裏当て板14が、タングステン基部材12及びワークピース20を冷却又は加熱するガス流路24及び液体流路26を有する構成を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−162603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献1においては、裏当て板14、ガス流路24及び液体流路26を有するタングステン基部材12が、ワークピース20を載置する構成を備えるものであるため、ワークピース20の形状が変わる度に、ガス流路24及び液体流路26の配置や、裏当て板14及びタングステン基部材12の形状を変更して最適化する必要があり、構成が煩雑で改良の余地がある。
【0007】
更に、本発明者の検討によれば、特許文献1においては、ワークピース20を下方からのみを冷却等する構成であるため、ワークピース20を上方からも冷却等するには、ガス流路及び液体流路を有する別のタングステン基部材をワークピース20の上側にも設ける必要があり、構成が煩雑で改良の余地がある。
【0008】
つまり、現状では、特に、多種多様な加工対象部材が存在する自動車等の車両の強度部品の分野では、かかる多種多様な加工対象部材を摩擦撹拌接合する際に、簡便な構成で、載置治具の不要な熱膨張を抑えながら、冷却が必要な部位を的確かつ均一に冷却することができる新規な冷却系を有する摩擦撹拌接合装置の実現が待望された状況にあるといえる。
【0009】
本発明は、以上の検討を経てなされたもので、多種多様な加工対象部材を摩擦撹拌接合する際に、簡便な構成で、載置治具の不要な熱膨張を抑えながら、冷却が必要な部位を的
確かつ均一に冷却することができる新規な冷却系を有する摩擦撹拌接合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的を達成すべく、本発明の第1の局面における摩擦撹拌接合装置は、加工対象部材の加工対象側面に対して上下移動自在であり、前記加工対象部材に対して回転自在であるプローブを有する接合ツールと、前記加工対象部材を載置する載置治具を有する載置部材と、前記接合ツールが装着される装着治具を固定したアームを有して、前記アームを移動して前記接合ツールを前記加工対象部材に対して移動自在な移動機構と、前記加工対象部材を保持自在に、前記加工対象部材に対して可動な保持部材を有して、前記保持部材及び前記保持部材に対向自在な前記載置治具の部分が対を成す保持機構と、前記対を成した前記保持部材及び前記載置治具の前記部分に対して、クーラントを供給自在なクーラント供給源と、を備え、前記対を成した前記保持部材及び前記載置治具の前記部分の間は、柔軟性を有する配管で接続され、前記クーラントは、前記クーラント供給源から前記保持部材及び前記載置治具の前記部分の一方に供給され、前記保持部材及び前記載置治具の前記部分の前記一方から、前記配管を介して、前記保持部材及び前記載置治具の前記部分の他方に流された後、前記クーラント供給源に戻される。
【0012】
また、本発明における摩擦撹拌接合装置は、かかる第の局面に加え、前記載置治具は、下側載置部、及び前記下側載置部上に設けられて前記加工対象部材に接する上側載置部を有して、前記下側載置部の熱伝導率は、前記上側載置部の熱伝導率よりも大きく、かつ、前記上側載置部の強度は、前記下側載置部の強度よりも大きく設定されることを第の局面とする。
【0013】
また、本発明における摩擦撹拌接合装置は、かかる第1又は第2の局面に加え、前記対を成した前記保持部材及び前記載置治具の前記部分は、前記載置治具の上面視での形状に応じて複数の対を成し、前記複数の対を成した前記保持部材及び前記載置治具の前記部分は、前記クーラントを独立して循環させる互いに独立した冷却系を成すことを第の局面とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の局面における構成によれば、加工対象部材を保持自在に、加工対象部材に対して可動な保持部材を有して、保持部材及び保持部材に対向自在な載置治具の部分が対を成す保持機構と、対を成した保持部材及び載置治具の部分に対して、クーラントを供給自在なクーラント供給源と、を備えることにより、多種多様な加工対象部材を摩擦撹拌接合する際に、簡便な構成で、載置治具の不要な熱膨張を抑えながら、冷却が必要な部位を的確かつ均一に冷却することができる。
【0015】
併せて、本発明の第の局面における構成によれば、対を成した保持部材及び載置治具の部分の間が、柔軟性を有する配管で接続され、クーラントは、クーラント供給源から保持部材及び載置治具の部分の一方に供給され、保持部材及び載置治具の部分の一方から、配管を介して、保持部材及び載置治具の部分の他方に流された後、クーラント供給源に戻されることにより、流路の配策構成を簡便にしながら、一連の流路を順次流れるクーラントを用いて、載置治具の不要な熱膨張を抑えることができると共に、冷却が必要な部位を的確かつ均一に冷却することができる。
【0016】
本発明の第の局面における構成によれば、載置治具が、下側載置部、及び下側載置部上に設けられて加工対象部材に接する上側載置部を有して、下側載置部の熱伝導率が、上側載置部の熱伝導率よりも大きく、かつ、上側載置部の強度が、下側載置部の強度よりも大きく設定されることにより、接合ツールを用いた摩擦撹拌接合時において、加工対象部材を上側載置部で確実に支持しながら、加工対象部材に生じた熱が、上側載置部を介して下側載置部に伝熱され、特に上側載置部の不要な熱膨張を抑えることができると共に、冷却が必要な部位を的確かつ均一に冷却することができる。
【0017】
本発明の第の局面における構成によれば、対を成した保持部材及び載置治具の部分は、載置治具の上面視での形状に応じて複数の対を成し、複数の対を成した保持部材及び載置治具の部分は、クーラントを独立して循環させる互いに独立した冷却系を成すことにより、載置治具に載置される加工対象部材の接合部位の構成に応じて、冷却の自由度の高い態様で、載置治具の不要な熱膨張を抑えることができると共に、冷却が必要な部位を的確かつ均一に冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態における摩擦攪拌接合装置の全体構成を示す側面図である。
図2】本実施形態における摩擦撹拌接合装置の載置台の載置治具上に載置された加工対象部材を保持機構が保持した状態を示す上面図である。
図3】本実施形態における摩擦攪拌接合装置の載置台の載置治具上に載置された加工対象部材を保持機構が保持した状態を示す側面図であり、図3(a)は図2をy軸の正方向に見た側面図を示し、図3(b)は図2をx軸の負方向に見た側面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を適宜参照して、本発明の実施形態における摩擦攪拌接合装置につき詳細に説明する。なお、図中、x軸、y軸及びz軸は、3軸直交座標系を成す。また、x軸及びy軸が成す平面は、水平面に平行な平面であり、z軸の正方向は、上方向であるとする。
【0020】
まず、本の実施形態における摩擦攪拌接合装置の構成につき、図1から図3を参照して、詳細に説明する。
【0021】
図1は、本実施形態における摩擦攪拌接合装置の全体構成を示す側面図である。図2は、本実施形態における摩擦撹拌接合装置の載置台の載置治具上に載置された加工対象部材を保持機構が保持した状態を示す上面図である。また、図3は、本実施形態における摩擦攪拌接合装置の載置台の載置治具上に載置された加工対象部材を保持機構が保持した状態を示す側面図であり、図3(a)は図2をy軸の正方向に見た側面図を示し、図3(b)は図2をx軸の負方向に見た側面図を示す。なお、図1中では、便宜上、配管の図示を省略し、図2及び図3中では、便宜上、載置台に関しては載置部及び載置治具のみを示し、接合ツール等は図示を省略している。
【0022】
図1から図3に示すように、摩擦攪拌接合装置1は、加工対象部材Wを載置すべく床Fに固設された載置台10と、載置台10に固設されて加工対象部材Wを装脱自在に固定する保持機構20と、載置台10の上方で載置台10に対向して配置自在な接合ツール30と、載置台10の下方で載置台10の下面に当接するように配置自在な補助支持機構40と、接合ツール30及び補助支持機構40を装着治具52で保持して床Fに固設されたロボット50と、を備える。載置台10及び保持機構20に対しては、クーラント供給源Sから配管Pを介してクーラントが供給される。なお、クーラントは、原理的には、液体及び気体の別を問わない。
【0023】
詳しくは、載置台10は、その載置部10a上に固設されて加工対象部材Wを載置する
載置治具12を備える載置部材である。かかる載置部10aは、充分な強度及び剛性を有する典型的には鉄材等の金属製であり、載置治具12は、充分な強度、剛性及び熱伝導性を有する典型的には金属製である。加工対象部材Wは、典型的には第1部材W1及び第2部材W2が上下方向に並置されて互いに重なり合った部分を有するアルミニウム材等の金属製の板状部材であり、第1部材W1及び第2部材W2の重なり合った部分の所定の部位が、所定の加工方向に沿って移動されるべき接合ツール30により所定の接合線でもって接合されるものである。載置治具12上における加工対象部材Wの位置は、保持機構20で加工対象部材Wの一部を保持することにより、正確に維持される。また、接合ツール30により形成される所定の接合線は、典型的には加工対象部材Wの縁部を延在するものを含む。
【0024】
載置治具12は、特に図1及び図3に示すように、載置台10の載置部10aの上面に固設されると共に典型的には真鍮製である下側載置部12aと、下側載置部12a上に固設されると共に下側載置部12aよりも強度が大きい鉄材製である上側載置部12bと、から成る2層構造を有する。下側載置部12aの熱伝導率は、上側載置部12bの熱伝導率よりも大きく、上側載置部12bの強度は、下側載置部12aの強度よりも大きい。また、載置治具12は、典型的には上面視で矩形枠状の形状を有し、かかる場合には、加工対象部材Wは、主として矩形枠上に支持され、接合ツール30により形成されるべき加工対象部材Wの所定の接合線は、矩形枠上に順次形成されていく。
【0025】
保持機構20は、特に図2及び図3に示すように、典型的には上面視で矩形枠状の載置治具12の各辺に対応して設けられ、ここでは一例としてその各辺に2個設けられた構成について説明する。かかる保持機構20は、載置治具12上に載置された加工対象部材Wの第1部材W1の上面を押圧自在な保持部材22aと、載置台10の載置部10a側に固定されて保持部材22aを上方位置及び下方位置間で移動自在な駆動力を印加するモータ22bと、を備える。保持部材22aを駆動する駆動源としては、モータの他やエアシリンダ等が挙げられる。
【0026】
保持部材22aは、充分な強度、剛性及び熱伝導性を有する典型的には鉄材等の金属製の厚板状部材である。かかる保持部材22aは、それとモータ22bとの間を連結するシャフト22cに軸支されて装着されると共に、充分な強度及び剛性を有する典型的には鉄材等の金属製の支持部材22eに装着される。モータ22bは、載置台10の載置部10aの上面に固設されると共に充分な強度及び剛性を有する典型的には鉄材等の金属製である基体ブロック22dの下面に固定される。支持部材22eは、保持部材22aを軸支する回動軸22fと、基体ブロック22dに軸支される回動軸22gと、を備えて、保持部材22aを上方位置及び下方位置間で移動自在に支持する。つまり、保持部材22aは、モータ22bが駆動されることにより、基体ブロック22dに支持される支持部材22eを介して、加工対象部材Wに対して進退自在に移動され、保持部材22aが加工対象部材Wに対して進出してそれを保持する部位は、接合線の内で加工対象部材Wの縁部を延在するものに隣接している。
【0027】
ここで、保持部材22aには、それを貫通する流路22hが設けられ、流路22hには、クーラント供給源Sから配管Pを介して供給されるクーラントが流入自在である。また、保持部材22aには、熱電対等の温度センサDが配設されている。
【0028】
かかる保持機構20においては、載置治具12上に加工対象部材Wが載置された際に、モータ22bが駆動されてシャフト22cが上下方向に移動することにより、保持部材22aが支持部材22eに画成された回動軸22f、22gの周りに回動し、これに対応して保持部材22aは、図1に示す上方位置と図2及び図3に示す下方位置との間で移動して加工対象部材Wに対して進退自在である。ここで、保持部材22aが図2及び図3に示
す下方位置にあって加工対象部材Wの第1部材W1の上面を所定荷重で押圧し保持している際に、保持部材22aに配された温度センサDの温度が所定温度を超えた場合には、クーラント供給源Sからクーラントが供給され、クーラントは配管Pを介して流路22hに流入してその中を流れた後その後段の配管Pに排出される。また、保持部材22aが図2及び図3に示す下方位置にあって加工対象部材Wの第1部材W1の上面を所定荷重で押圧し保持している際には、加工対象部材W及び載置治具12の上面視で見た重複部分を覆って位置される。
【0029】
一方で、載置治具12の下側載置部12aには、それを貫通する複数の流路12cが設けられ、かかる流路12cには、クーラント供給源Sから配管Pを介して供給されるクーラントが各々流入自在である。また、載置治具12の上側載置部12bには、熱電対等の温度センサDが配設されている。上側載置部12bに配された温度センサDの温度が所定温度を超えた場合には、クーラント供給源Sからクーラントが供給され、クーラントは配管Pを介して流路12cに流入してその中を流れた後その後段の配管Pに排出される。
【0030】
ここで、載置治具12の下側載置部12aにおける流路12cは、複数経路設けられており、各経路における流路12cは、保持部材22aが図2及び図3に示す下方位置にあって加工対象部材Wの第1部材W1の上面を所定荷重で押圧し保持している際に、対応する保持部材22aに対して上下方向で対向するように配されている。つまり、保持部材22aが図2及び図3に示す下方位置にあって加工対象部材Wの第1部材W1の上面を所定荷重で押圧し保持している際には、下側載置部12aにおける複数の流路12cが設けられた部分は、各々が対応する保持部材22aに対して、加工対象部材Wを介して上面視で重複し、このように互いに対応して対向する下側載置部12aにおける流路12cが設けられた部分と保持部材22aとは、対を成しているといえる。結果的に、下側載置部12aにおける流路12cが設けられた部分及び保持部材22aから成る対の数は、保持部材22aの個数と等しくなる。なお、加工対象部材Wを効率的に冷却する観点からは、このように互いに対応する下側載置部12aにおける流路12cと保持部材22aにおける流路12cとが、上面視で重複することが好ましい。
【0031】
具体的には、摩擦攪拌接合装置1の冷却系は、クーラント供給源Sと、流路22hが設けられた保持部材22aを有する保持機構20と、複数の流路12cが設けられた下側載置部12aを有する載置治具12と、それらの間を対応して連絡する配管Pと、から成り、典型的には矩形状の載置治具12の各辺において独立した態様を成す。つまり、載置治具12の各辺の冷却系に関しては、他の辺のものから独立して、クーラント供給源Sからクーラントが独自に供給され、供給されたクーラントは、図3(a)及び図3(b)で示す左側の下側載置部12aにおける流路12c、左側の保持部材22aの流路22h、右側の保持部材22aの流路22h、及び右側の下側載置部12aにおける流路12cを流れて、再び同じクーラント供給源Sに戻り、以降このような循環路で流れていき、かかる構成は、載置治具12の各辺において同様である。ここで、保持部材22aの流路22hに接続される配管Pは、合成樹脂等の柔軟性を有する材料製であり、保持部材22aが加工対象部材Wを保持し解放する際に、保持部材22aの動きに追従して変形自在である。つまり、図3(a)及び図3(b)においては、左側の下側載置部12aにおける流路12cと左側の保持部材22aの流路22hとの間の配管P、左側の保持部材22aの流路22hと右側の保持部材22aの流路22hとの間の配管P、及び右側の保持部材22aの流路22hと右側の下側載置部12aにおける流路12cとの間の配管Pは、このような柔軟性を有する。
【0032】
なお、図1では、クーラント供給源Sは、構成の簡便化のため1個に統合化されているが、もちろん、載置治具12の各辺の冷却系に対して個別のクーラント供給源Sを設けてもよい。また、載置治具12の各辺の冷却系においてクーラントを流す順序は、下側載置
部12aにおける流路12cと保持部材22aの流路22hとの間でクーラントが流通するものであれば、その流す順序は限定的なものではない。また、配管Pが載置部10aを通過する構成としては、載置部10aに流路10bや切欠き等を設けてそれを通過させる構成でもよいし、それらを設けずそれを迂回させる構成であってもよい。また、載置治具12の形状が、加工対象部材Wの形状に応じて、他の角形状や円状等である場合には、載置治具12の冷却系は、それらの各辺や所定長の各円弧等に関して分割されて独立させればよい。また、載置部10aと載置治具12の下側載置部12aとを、一体化させた構成としてもよく、かかる場合には、載置部10aには、充分な熱伝導性をも呈する材料を用いて流路を設けてもよい。
【0033】
接合ツール30は、典型的には上下方向に延在する鉄材等の金属製の円柱部材であって、z軸と平行な中心軸Zの周りに回転自在であると共に上下移動自在であるプローブ32と、プローブ32を保持するホルダ34と、ホルダ34に保持されたプローブ32を上下移動させると共に、プローブ32を中心軸Zの周りに回転させる駆動機構38と、を備える。また、駆動機構38は、その筐体38a内に、いずれも図示を省略するモータやシャフト等を内蔵する。また、プローブ32の中心軸Zの方向が、摩擦攪拌接合時にプローブ32回転して加工対象部材Wを押圧する押圧方向である。
【0034】
ここで、筐体38aは、各種構成部品を支持しながら装着治具52に固定されるフレーム部材としても機能し、その構造の一例として中空直方体状の形状を有するとものとする。かかる接合ツール30においては、駆動機構38がプローブ32を保持するホルダ34を下方に移動させた場合には、プローブ32の下部は、加工対象部材Wに圧入されていき、加工対象部材Wにおいて、第1部材W1を貫通して第2部材W2に侵入する位置まで到達自在である。なお、加工対象部材Wの第1部材W1における上面を、便宜上、加工対象側面Wsと呼ぶ。
【0035】
補助支持機構40は、載置治具12とは反対側で載置部10aの下面に当接する典型的には鉄材等の金属製のボール部材である補助支持部材42と、補助支持部材42をその中心位置を不動にしながら回転自在に保持するホルダ44と、を備える。かかる補助支持機構40においては、補助支持部材42が加工対象部材Wを挟んでプローブ32の下端と対向した状態で、補助支持部材42が、その上部の1点において載置台10の載置部10aの下面に当接しながら載置台10を補助的に支持自在である。
【0036】
ロボット50は、接合ツール30と、載置台10の載置治具12上に固定された加工対象部材Wと、を相対移動自在な移動機構であり、典型的には産業用ロボットである。具体的には、ロボット50は、側面視で2股形状を呈した金属製で接合ツール30及び補助支持機構40を対応して装着する上方装着部52a及び下方装着部52bを有する典型的には鋼材の削り出し品である装着治具52と、装着治具52を装着して典型的には多関節を有するマニピュレータであるアーム54と、いずれも図示は省略するがアーム54を移動する駆動機構、演算処理装置及びメモリ等を内蔵するロボット本体56と、を備える。
【0037】
装着治具52の上方装着部52aには、接合ツール30の駆動機構38の筐体38aが装着されて固定される一方で、装着治具52の下方装着部52bには、補助支持機構40のホルダ44が装着されて固定される。アーム54の一端の支持部54aには、装着治具52の上方装着部52a及び下方装着部52b間の結合部が締結等により固定されて装着され、アーム54の他端には、ロボット本体56が連絡する。ロボット本体56の駆動機構が動作することによりアーム54が移動し、対応して、接合ツール30と補助支持機構40との相対的な位置的関係を維持したままで、上下左右等の多自由度でもって接合ツール30及び補助支持機構40を移動自在である。
【0038】
かかる摩擦攪拌接合装置1の該当する各種構成要素は、コントローラCから送出される制御信号を受けて適宜制御され、加工対象部材Wに摩擦攪拌接合を為すように動作するものである。具体的には、コントローラCは、ロボット50のロボット本体56を介してアーム54を移動し、接合ツール30を載置治具12に載置された加工対象部材Wの上方に位置させた後、かかる加工対象部材Wに対して接合ツール30を下降させてプローブ32を加工対象部材Wに圧入させると共に回転させることにより、プローブ32で加工対象部材Wに摩擦熱を発生させながら撹拌すると共に、アーム54でプローブ32と加工対象部材Wとを相対移動して、加工対象部材Wを所定の接合線に沿って摩擦攪拌接合する制御を行う。併せて、コントローラCは、かかる摩擦撹拌接合を実行する際に、載置治具12の各辺に対応する各冷却系にクーラントを流す制御を実行する。なお、コントローラCは、いずれも図示を省略する演算処理装置やメモリ等を内蔵し、メモリには、摩擦撹拌接合を実行するための制御プログラムや所定の加工方向に関するデータ等が記憶される。
【0039】
ついで、以上の構成の摩擦攪拌接合装置1を用いて、加工対象部材Wに対して摩擦攪拌接合を実行する際に、摩擦攪拌接合装置1で実施される種々の動作につき、以下詳細に説明する。
【0040】
まず、摩擦攪拌接合の一連の工程を開始する前にその準備として、コントローラCの制御の下で、クーラント供給源Sの動作を開始して、載置治具12の各辺の冷却系にクーラントを供給して、保持部材22aの流路22h、下側載置部12aの流路12c、及びそれらを連絡する配管P内をクーラントで満たした後、クーラント供給源Sの動作を停止してクーラントの供給を停止する。
【0041】
次に、加工対象部材Wを載置台10の載置治具12上に載置した後、コントローラCの制御の下で、図2及び図3に示すように、保持機構20のモータ22bを駆動して、保持部材22aを下方に移動し、その下面を第1部材W1の上面に当接させた後に更にそれを所定荷重で押圧させて保持させ、加工対象部材Wの位置を正確に維持させる。
【0042】
次に、コントローラCの制御の下で、図1に示すように、ロボット本体56の駆動機構がアーム54を上下左右等に適宜移動させて、装着治具52の上方装着部52aに装着された接合ツール30のプローブ32を、加工対象部材Wの上方の所定位置で、加工対象部材Wにその上方で対向するように配置すると共に、装着治具52の下方装着部52bに装着された補助支持機構40の補助支持部材42を、加工対象部材Wを挟んでプローブ32の下部と対向するようにその補助支持部材42の上部の1点において載置台10の載置部10aの下面に当接させる。
【0043】
次に、このようにプローブ32及び補助支持部材42の各々の位置が実現されたならば、コントローラCの制御の下で、接合ツール30の駆動機構38がプローブ32を保持するホルダ34を下方に移動させてプローブ32を下降させ、プローブ32の下部を、加工対象部材Wにおいて第1部材W1を貫通して第2部材W2に侵入する所定位置まで到達させる。かかるプローブ32が第1部材W1を貫通して第2部材W2に対する侵入深さは、摩擦溶融接合の実行時には実質的に一定に維持されるものである。なお、この際、必要に応じて、接合ツール30の駆動機構38は、ホルダ34を介してプローブ32を回転させていてもよい。
【0044】
次に、このようにプローブ32の下部が所定位置に到達したならば、コントローラCの制御の下で、接合ツール30の駆動機構38がプローブ32を継続的に回転させた状態で、ロボット本体56の駆動機構が、プローブ32及び補助支持部材42がこれらの加工対象部材Wに対する位置的な対応関係を維持した状態で所定の加工方向である移動方向に移動されるように、アーム54を移動させる。その結果、第1部材W1と第2部材W2とは
、プローブ32の下部の移動した軌跡に対応して、摩擦攪拌接合されていく。併せて、補助支持部材42は、加工対象部材Wを挟んでプローブ32の下部と対向するように補助支持部材42の上部の1点において載置台10の載置部10aの下面に当接した状態でホルダ44内において回転しながら、所定の加工方向の方向に移動されている。
【0045】
この際、コントローラCは、載置治具12の各辺の冷却系の各々において、保持部材22aの流路22hに配された温度センサDの検出温度値、及び上側載置部12bに配された温度センサDの検出温度値をモニタしており、それらの検出温度値のいずれかが所定温度値を超えた高温になったと判定した場合には、コントローラCの制御の下で、クーラント供給源Sの動作を開始して、載置治具12の各辺の冷却系にクーラントを供給して、保持部材22aの流路22h、下側載置部12aの流路12c、及びそれらを連絡する配管P内にクーラントを流し、その後、それらの検出温度値の全てが所定温度値以下になったと判定した場合には、コントローラCの制御の下で、クーラント供給源Sの動作を停止する。かかる冷却系の制御は、摩擦攪拌接合を実行している間は実行される。
【0046】
ここで、載置治具12の各辺の冷却系にクーラントを供給して、保持部材22aの流路22h、下側載置部12aの流路12c、及びそれらを連絡する配管P内にクーラントを流している間は、載置治具12の温度は、載置治具12に載置された加工対象部材Wの温度よりも低くなってその不要な熱膨張が抑制されると共に、その温度勾配に従って、加工対象部材Wの熱が、上側載置部12b及び下側載置部12aを介して下側載置部12aの流路12c内を流れるクーラントに伝熱されて、加工対象部材Wが冷却される。同時に、保持部材22aの温度は、載置治具12に載置された加工対象部材Wの温度よりも低くなり、その温度勾配に従って、加工対象部材Wの熱が、保持部材22aを介しその流路22h内を流れるクーラントに伝熱されて、加工対象部材Wが冷却される。
【0047】
次に、このようにアーム54の移動に伴ってプローブ32を摩擦攪拌接合が必要な部位の終点である所定位置まで移動させ終えると、コントローラCの制御の下で、接合ツール30の駆動機構38が、プローブ32の回転を維持したままでプローブ32を上方に移動させて加工対象部材Wから引き抜き、その上方位置まで上昇させた後にその移動を停止させる。そして、ロボット本体56の駆動機構が、アーム54を移動させて、プローブ32及び補助支持部材42を、加工対象部材Wの上下領域から退出させた後にその移動を停止させる。
【0048】
次に、このようにプローブ32及び補助支持部材42を退出させ終わると、コントローラCの制御の下で、モータ22bを駆動して、保持部材22aを上方に移動して加工対象部材Wの第1部材W1の上方領域から退出させた後にその移動を停止させる。
【0049】
最後に、加工対象部材Wを載置台10から取り外せば、所定の部位が摩擦攪拌接合された加工品が得られる。
【0050】
なお、以上の本実施形態の構成においては、以上の本実施形態の構成においては、補助支持機構40を適用した構成例で説明したが、必要とされる加工精度が相対的に低い場合等では、補助支持機構40は省略してもかまわない。
【0051】
また、以上の本実施形態の構成においては、補助支持機構40の補助支持部材42をボール部材として説明したが、その他の回転等の可動部材も適用できるし、摩擦等が発生しにくい場合には固定部材を用いてもかまわない。
【0052】
以上の本実施形態の構成によれば、加工対象部材Wを保持自在に、加工対象部材Wに対して可動な保持部材22aを有して、保持部材22a及び保持部材22aに対向自在な載
置治具12の部分が対を成す保持機構20と、対を成した保持部材22a及び載置治具12の部分に対して、クーラントを供給自在なクーラント供給源Sと、を備えることにより、多種多様な加工対象部材Wを摩擦撹拌接合する際に、簡便な構成で、載置治具12の不要な熱膨張を抑えながら、冷却が必要な部位を的確かつ均一に冷却することができる。
【0053】
また、本実施形態の構成によれば、対を成した保持部材22a及び載置治具12の部分の間が、柔軟性を有する配管Pで接続され、クーラントは、クーラント供給源Sから保持部材22a及び載置治具12の部分の一方に供給され、保持部材22a及び載置治具12の部分の一方から、配管Pを介して、保持部材22a及び載置治具12の部分の他方に流された後、クーラント供給源Sに戻されることにより、流路12c、22h、Pの配策構成を簡便にしながら、一連の流路12c、22h、Pを順次流れるクーラントを用いて、載置治具12の不要な熱膨張を抑えることができると共に、冷却が必要な部位を的確かつ均一に冷却することができる。
【0054】
また、本実施形態の構成によれば、載置治具12が、下側載置部12a、及び下側載置部12a上に設けられて加工対象部材Wに接する上側載置部12bを有して、下側載置部12aの熱伝導率が、上側載置部12bの熱伝導率よりも大きく、かつ、上側載置部12bの強度が、下側載置部12aの強度よりも大きく設定されることにより、接合ツール30を用いた摩擦撹拌接合時において、加工対象部材Wを上側載置部12bで確実に支持しながら、加工対象部材Wに生じた熱が、上側載置部12bを介して下側載置部12aに伝熱され、特に上側載置部12bの不要な熱膨張を抑えることができると共に、冷却が必要な部位を的確かつ均一に冷却することができる。
【0055】
また、本実施形態の構成によれば、対を成した保持部材22a及び載置治具12の部分は、載置治具12の上面視での形状に応じて複数の対を成し、複数の対を成した保持部材22a及び載置治具12の部分は、クーラントを独立して循環させる互いに独立した冷却系を成すことにより、載置治具12に載置される加工対象部材Wの接合部位の構成に応じて、冷却の自由度の高い態様で、載置治具12の不要な熱膨張を抑えることができると共に、冷却が必要な部位を的確かつ均一に冷却することができる。
【0056】
なお、本発明は、部材の形状、配置、個数等は前述の実施形態に限定されるものではなく、その構成要素を同等の作用効果を奏するものに適宜置換する等、発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上のように、本発明においては、多種多様な加工対象部材を摩擦撹拌接合する際に、簡便な構成で、載置治具の不要な熱膨張を抑えながら、冷却が必要な部位を的確かつ均一に冷却することができる新規な冷却系を有する摩擦撹拌接合装置を提供することができるものであるため、その汎用普遍的な性格から広範に自動車等の移動体の強度部材の接合分野に適用され得るものと期待される。
【符号の説明】
【0058】
W…加工対象部材
W1…第1部材
W2…第2部材
Ws…加工対象側面
C…コントローラ
F…床
S…クーラント供給源
P…配管
D…温度センサ
1…摩擦攪拌接合装置
10…載置台
10a…載置部
10b…流路
12…載置治具
12a…下側載置部
12b…上側載置部
12c…流路
20…保持機構
22a…保持部材
22b…モータ
22c…シャフト
22d…基体ブロック
22e…支持部材
22f、22g…回動軸
22h…流路
30…接合ツール
32…プローブ
34…ホルダ
38…駆動機構
38a…筐体
40…補助支持機構
42…補助支持部材
44…ホルダ
50…ロボット
52…装着治具
52a…上方装着部
52b…下方装着部
54…アーム
54a…支持部
56…ロボット本体
図1
図2
図3