(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記編地全体のセルロース長繊維混率をX、そして前記編地の深さ0.13mm以内の領域内のセルロース長繊維の出現比率をYとするとき、X>Yである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の編地。
【背景技術】
【0002】
綿、キュプラなどのセルロース系素材は吸湿性、吸水性に優れ、衣服として用いた場合、一般に汗をかいていない状態(不感蒸泄時)や少量の発汗時には非常に快適である。しかしながら、夏季や運動時に発汗量が約100g/m
2を超える場合には、セルロース系素材は、吸った汗を保持しやすいため、いわゆるベタツキ感や運動後の冷え感を生じやすい。特に、発汗量が約200g/m
2を超える場合には、かかるベタツキ感や冷え感は深刻であり、着衣者により非常に不快に感じられる。
【0003】
このようなベタツキ感や冷え感に因る不快感を防止するための方法として、汗を衣服の肌側から表側に移行させ、肌側に水分を残さないことを狙い、種々の布帛の検討が進められている。その多くは肌側に疎水性繊維を用いることによるものであり、使用する糸の単糸繊度や断面形状を編地表側と裏側で異ならせた布帛などが各種提案されている。
例えば、以下の特許文献1と特許文献2には、編地表側に吸水能力に優れた繊維、編地裏(肌)側に吸水能力の劣る繊維を使用することで編地裏側に水分を残さない構造とし、ベタツキ感や冷え感を抑制する編地が提案されている。
特許文献1では、編地裏(肌)側に吸水能力に劣る繊維を用いているため、汗を吸う能力が十分とはいえない、また、吸水能力に優れた繊維として綿など短繊維を用いているため、吸った汗を拡散する能力にも劣るため、べたつき低減の効果が十分ではない。
一方、特許文献2では吸水能力の高い繊維としてセルロースフィラメントを用いているため、拡散する能力には優れるが、編地裏(肌)側に疎水繊維を用いているため、汗を吸う能力は十分ではない。
【0004】
また、以下の特許文献3には、編地裏(肌)側に凹凸を設け、その凸部にポリエステルフィラメント繊維、凹部にレーヨンフィラメント繊維を配置する編地も開示されているが、肌に接する凸部が疎水性繊維であるため、特許文献1又は特許文献2に記載された編地と同様に汗を吸う能力が十分ではない。
【0005】
さらに、特許文献4には、編地裏(肌)側に親水性繊維を含んだ編地が開示されている。特許文献4では、親水性繊維と疎水性繊維をからなる編地を使用し、編地裏(肌)側のコース密度を編地表側のものよりも大きくして、編地裏(肌)側に凹凸を付与することで、肌のサラサラ感を有する編地が開示されている。
しかしながら、該編地は、高密度でかつ親水性繊維の混率が25〜75%と非常に高いため、肌側に保水され、凹凸があってもベタツキ感は大きく、衣料用途としての肌DRY性は不十分である。
【0006】
このように、不感蒸泄時や少量の発汗時から大量の発汗時に至るまで、ムレがなく、ベタツキ感や冷え感を抑制することができる快適な編地を提供する必要性が未だ在る。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の編地は、セルロース系長繊維5〜25重量%及び合成繊維75〜95重量%を少なくとも含む編地である。すなわち、本発明の編地においては、セルロース系長繊維は編地全体の5〜25重量%、好ましくは5〜20重量%含まれている。
本明細書中、セルロース系長繊維とは、レーヨン、キュプラ、アセテート等の再生セルロース長繊維、絹等の天然セルロース長繊維等があり、特に限定されない。これらは、綿や再生セルロース短繊維などのセルロース短繊維に比べ、毛羽が少なく、糸表面がなめらかであるため水分の拡散能力が高い。なかでも再生セルロース長繊維が好ましく、再生セルロース長繊維のうちレーヨン長繊維、キュプラ長繊維は、原料の綿に比べ繊維の水分率も大きく吸湿効果が大きいため、より好ましい。特にキュプラ長繊維はレーヨン長繊維に比べて繊維1本の表面形状もなめらかであり、繊度も細いため、編地に用いた際に非常にやわらかく、風合いが良く、特に好ましい。これらの繊維を編地中に効果的に配することにより、吸湿性とべたつき低減効果に優れ、不感蒸泄時や少量から多量の発汗時にもムレやべたつきがなく、着用した際に快適な編地とすることができる。セルロース長繊維の編地全体に対する含有量が5%より小さい場合には吸湿性が小さく、不感蒸泄時や少量発汗時の気体の汗を吸う能力に劣り、また、セルロース長繊維による吸水・移水性も不十分となり、汗をかいた際のべたつき低減効果が期待できず編地は着用時の快適性に劣る。一方、セルロース長繊維の該含有量が25%を超える場合には後述する発汗時のべたつきや発汗後の冷え感が大きくなるため、編地は着用時の快適性に劣る。
セルロース系長繊維の繊度は特に限定されないが、約22〜約84デシテックス(dtex)が好ましく、約33〜約56dtexがより好ましい。セルロース系長繊維の単糸繊度も特に限定されないが、約0.5〜約2dtexが、肌触りや風合いの観点から、好ましい。
【0020】
セルロース系長繊維を編地に含有させる際に、ポリエステル系やポリアミド系などの合成繊維の長繊維や短繊維と交編して用いることが可能であるが、セルロース系長繊維が、ポリエステル系又はポリアミド系長繊維などの合成繊維、特に合繊長繊維との複合糸として編地に配されていることが、汗処理の観点から好ましい。複合する際には肌触りを損ねないよう、合繊長繊維の繊度が約22〜約84dtex、単糸繊度が約0.5〜約2dtexのマルチフィラメント糸が好ましい。セルロース系長繊維と複合する合繊長繊維との繊度の比は1:3〜2:1が好ましい。合繊長繊維は、汗をかいた際の拡散による汗処理の観点から異型断面であることが好ましく、W型断面繊維は異型で扁平であるため、毛管作用による汗処理とやわらかさの双方を満たすため、より好ましい。
【0021】
セルロース系長繊維又はセルロース系長繊維と合繊の長繊維との複合糸は、他の繊維と交編されて編地に配される。交編相手糸は合繊の長繊維、特にポリエステル系又はポリアミド系長繊維であることが好ましく、繊度が約16〜約170dtex、単糸繊度が約0.5〜約2dtexのマルチフィラメント糸が好ましい。ポリウレタン繊維を適宜交編し、編地にストレッチ性を付与してもよい。本発明に用いるマルチフィラメント糸には、二酸化チタン等の艶消剤、リン酸等の安定剤、ヒドロキシベンゾフェノン誘導体等の紫外線吸収剤、タルク等の結晶化核剤、アエロジル等の易滑剤、ヒンダードフェノール誘導体等の抗酸化剤、難燃剤、制電剤、顔料、蛍光増白剤、赤外線吸収剤、消泡剤等が含有されていてもよい。
【0022】
本発明の編地に使用する素材は、捲縮を有していてもよく、肌触りの観点から、捲縮伸長率が0〜150%が好ましい。なお、仮撚糸の捲縮伸長率は以下の条件で測定したものである。
捲縮糸の上端を固定し、下端に1.77×10
-3cN/dtの荷重をかけ、30秒後の長さ(A)を測定する。次いで、1.77×10
-3cN/dtの荷重を取り外し、0.088cN/dtの荷重をかけ、30秒後の長さ(B)を測定し、下記式(1):
捲縮伸長率(%)={(B−A)/A}×100 (1)
により捲縮伸長率を求める。
前記したように、本発明の編地は、セルロース系長繊維5〜25重量%及び合成繊維75〜95重量%を少なくとも含む編地である。すなわち、本発明の編地には、該セルロース系長繊維と合成繊維以外の繊維が含まれていてもよい。但し、該合成繊維は編地全体の75〜95重量%、好ましくは80〜95重量%含まれる。
【0023】
本発明の編地は一方の表面Aにおいて、深さ0.13mm以内の領域におけるセルロース系長繊維の出現部分の面積が編地全体の面積に対して0.2〜15%、好ましくは0.5〜10%であることを特徴とする。ここで深さ0.13mm以内の領域とは表面Aにおける最外層を意味し、この層が肌の汗に直接触れ、汗を吸収する。この層に少量のセルロース長繊維が配置され、編地の内部層にセルロース長繊維が多く配置される傾斜配置構造とすることにより、編地肌面に合成繊維100%が位置している従来の編地に比較して汗を素早く吸収し、傾斜配置しているセルロース長繊維により編地内部層に強く吸引し、さらに、セルロース長繊維の拡散性により、汗を滞留させずに編地内に広く拡散させる。このように、肌の汗は素早く、かつ、多量に編地内に取り込まれ、着用時のべたつきを飛躍的に改善することが可能となる。また、セルロース系長繊維は水の拡散性にも優れるため、内部層で水の拡散が起こりやすく、拡散した汗は肌側より湿度の低い表側に放散される。
【0024】
編地の最外層から内部層にセルロース長繊維を傾斜配置するためには編物全体におけるセルロース長繊維混率をX(重量%)、最外層におけるセルロース長繊維の出現比率をY(面積%)とすると、X>Yであることが好ましく、(2/3)・X>Yであればより好ましく、(1/2)・X>Yであれば特に好ましい。本発明では、このように最外層表面におけるセルロース長繊維出現率が編地全体におけるセルロース長繊維混率より低くなることを、セルロース長繊維が傾斜配置されていると表現する。
尚セルロース長繊維の比重は約1.5であり、合成繊維の比重は通常それより小さい(一般に、ポリエステル系繊維は約1.4、ポリウレタン繊維は約1.2、ポリアミド系繊維のは約1.1である)ことを考慮した、最外層におけるセルロース長繊維の出現量比率Yw(重量%)とXとの関係においても、X>Ywであることが好ましく、(2/3)・X>Ywであればさらに好ましく、(1/2)・X>Ywであればより好ましい。
このとき、Ywは下記式(2)で求められる:
Yw=Y・D
1/{X・D
1+(100−X)・D
2} (2)
{式中、D
1はセルロース長繊維の比重であり、そして、D
2はセルロース長繊維以外の繊維の平均比重である。}。
【0025】
本発明の編地は肌に触れる表面Aにセルロース系長繊維が少量配置されていることによって、肌触りにも優れる。また、吸湿性に優れるために、ムレ感も抑えることができる。
本発明の編地のべたつき低減効果をさらに高めるには表面Aに凹凸を付与した編組織にするとよい。凸部と凹部の高さの差は約0.13〜約0.50mmであることが好ましい。また、凸部は表面Aに均等に分布しており、具体的には試料中任意の1cm×1cm範囲を測定したときにどの範囲にも上記範囲の凸部が10個以上存在していることが好ましく、凸部面積が表面の面積の10〜70%程度であることが好ましい。凹凸を付与する方法としては、編み組織を工夫し、タック組織や針抜き組織を組み込む方法、凸部で糸を重ねる方法、糸繊度を変える方法などが挙げられる。
【0026】
編地の表面に凹凸をつけることで接触冷温感が小さくなるために、この面を肌面として使用したときに、汗をかいた時のベタツキをさらに軽減することが可能となる。凸部と凹部の高さの差が約0.13mm未満では肌との接触面積が凹凸のないものと変わらないことから、凹凸があるとはいえず、編地のベタツキ感のさらなる低減効果は期待できない。凸部と凹部の高さの差が約0.13mm以上であれば、編地の凹凸を有する側を肌面として着用した時の肌と編地の接触面積が少なくなり、編地が水分を吸った時にベタツキ感の低減効果が大きい。一方、凸部と凹部の高さの差が約0.50mmを超えると生地として厚みの大きいものとなり、凹凸によるごわつきが大きくなる他、空気層を保有するために蒸れる等の着用感を損なうことがあるため、好ましくない。
また、凸部と凹部の高さの差が0.13mmを超えていれば、上述の、表面からの深さが0.13mm以下の領域に含まれない領域が存在することになる。すなわちこの場合に、表面Aについて、深さが0.13mm以下の領域(以下、表面Aにおける最外層とする)と、深さが0.13mmを超える領域(以下、表面Aにおける内層とする)とに分けることができる。表面Aにおける最外層における編地凸部の占有面積が、表面Aの全面積の10〜70%であることが好ましい。
【0027】
凸部と凹部の高さの差は、編地の断面写真を電子顕微鏡等で撮影し、5か所で測定して平均する。凸部と凹部との差は、約0.17〜約0.45mmであればより好ましい。
【0028】
本発明の編地の表面Aを着用者の肌側になるように繊維製品に配することによって、前記した本発明の編地の奏する効果が好適に発現される。
【0029】
本発明の編地は、表面Aの200g/m
2水分付与時の接触冷感性が約180〜約330W/m
2・℃であることを特徴とする。該接触冷感性(以下、接触冷感値ともいう。)は、好ましくは約180〜280W/m
2・℃、より好ましくは約180〜約260W/m
2・℃、さらに好ましくは約180〜約240W/m
2・℃である。
接触冷感性の測定には、カトーテック社製のサーモラボIIを使用する。この装置は温められた熱板を試料上に置いたときの熱の移動量を測定するものである。具体的な測定方法は以下のとおりである。
【0030】
測定に使用する試料を20℃、65%RH(相対湿度)の環境下で24時間調湿した後、8cm×8cmにサンプリングし、編地表面Aを上にして置いた編地サンプルに、20℃、65%RH環境下で30℃に温められた熱板を載せた瞬間の最大熱移動量を測定する。
200g/m
2の水分を付与したときの水分は、かなり汗をかくような運動をした時に布帛が吸う汗の水分量を想定した条件である。
測定時の水分の付与方法は、試料の表面A側に霧吹きにて、8cm×8cmにサンプリングされた試料の重量が+1.28gになるように水分を付与すればよい。このときの霧吹き内の水温は20℃である。
編地に水分が残っていると、水の熱伝導率が高いため、熱板から熱を多量に奪い、接触冷感性が大きくなる。すわなち、接触冷感性が大きい試料はベタツキ感が大きいことを意味し、約330W/m
2・℃を超えるとベタツキ感が非常に大きく好ましくなく、一方、約180W/m
2・℃未満は、ベタツキ感が小さいため、好ましいが、接触冷感性を約180W/m
2・℃未満にするためには凹凸を著しく大きくする必要があり、肌触りの観点からは、好ましくない。尚、従来のセルロースを含む編地は通常約330W/m
2・℃を大きく超えるが、本発明では、編地にセルロース長繊維を傾斜配置し、セルロース長繊維の吸水、拡散能力を活かすことにより、多量の水分が付与された状態でもベタツキ性が改良された編地となる。
【0031】
本発明の編地の厚みは約0.5〜約1.2mmであることが好ましい。
編地の厚みは、Peacock社製の厚み測定器を用い、φ3.0cmの測定部を5gの荷重にて編地に接触させ、3か所で測定して平均する。厚みが約0.5mmより小さい場合には汗処理性に乏しく、快適感が得にくく、一方、厚みが約1.2mmを超える場合には生地のごわつきが大きくなり、肌触りを損ねる。本発明の編地の厚みは、より好ましくは約0.5〜約1.0mmである。本発明はセルロース長繊維の吸水、拡散性により、肌の汗を素早く吸い上げるため、ポリエステル100%で表と裏の密度差や繊度差によりべとつき低減を狙った編地に比較してより薄い編地であっても同程度の効果を発揮させることが可能となる。
【0032】
本発明の編地において表面Aと反対の表面Bは主として合成繊維からなることが好ましい。編地の表面にセルロース系長繊維が配置されると着用時の繊維製品表面側が摩擦で糸切れが発生しやすく、また、他の交編又は複合繊維と色差や光沢差が生じやすく外観を損なうおそれがあるためである。表面Bにおけるセルロース系長繊維の出現部分の面積は、編地全体の面積に対して5%以下であることが好ましく、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.2%以下であり、前述の、表面Aの深さ0.13mm以内の領域におけるセルロース系長繊維の出現部分の面積比率より小さいことが好ましい。表面Bが合成繊維のみから構成されることが最も好ましい。
【0033】
本発明の編地は、経編みでも緯編みでもよく、表裏2層とその間に内層をもつ3層以上の層構造が好ましいが、編組織上の制約により、各層の境界が不明瞭であっても構わないし、機能的に3層と同等の働きをする編地ならばそれでも構わない。
【0034】
本発明の編地を作製するための編機としては、横編機やダブル丸編機、トリコット編機、ラッセル編機等を使用できるが、3層以上の層を持つ多層編地を作製するためにはダブル丸編機が好ましい。使用する編機の編ゲージとしては約10〜約40GGが好ましい。
本発明の編地を作製するための編組織としては、ダブル丸編み地の場合、ヘリンボン、ブリスター、ワッフル、デンプルメッシュ等が使用でき、これに限定されるものではないが編地裏側に凹凸が得られるタック編みを使用した組織が好ましい。経編では、例えば3枚筬でミドルにセルロース系繊維を配し、凹凸を発現する組織にすれば所望の効果が奏される。本発明の編地表裏のコース方向のループ数は編成上問題なければ特に限定されない。
【0035】
本発明の編地のベタツキ低減効果を発揮させるためには、3層構造の編地の表面Aの最外層に少量のセルロース長繊維を、表面Aの内層に最外層より多量のセルロース長繊維を配置させ、表面Bは合成繊維を配置させる、傾斜配置構造が有効である。この場合、例えば、給糸する口数や糸繊度を変えることで交編相手の糸とセルロース長繊維の供給量をコントロールすることにより、セルロース長繊維の傾斜をつけることが可能である。また、2層構造編地で表面Aをセルロース長繊維やその複合糸と合成繊維のプレーティング編みとし、セルロース長繊維を編地表面Aの内層側に主に配置させることによって、明確な3層構造でなくても本発明の構成を満たす方法も好適に用いられる。表面Aにセルロース長繊維やその複合糸と合成繊維を使用し、その糸繊度を変更し、合成繊維の糸を太くすることにより、相対的に内部にセルロース長繊維を配置させる方法も用いることができ、この場合、表面Aにおける合成繊維の繊度を、セルロース長繊維又はその複合糸の繊度の1.5倍以上とすることが好ましい。
【0036】
本発明の編地の目付は特に限定されないが、約50〜約300g/m
2が好ましく、より好ましくは約80〜約250g/m
2である。
【0037】
また、本発明の編地には吸水加工を施すことが望ましい。
本発明の編地は、表面Bの編密度を表面Aの編密度より大きくすることにより、毛細管現象を発現させて表面A側から表面B側へ水分を移動させてもよい。このような、水分移動機能を有する本発明の編地表面Aを、衣類の肌面として着用すれば、多量の発汗時でも肌面に水分が残りにくく、着用時のベタツキ感や冷え感をさらに軽減することができる。このような編地は、ダイアル側とシリンダ側で異なるゲージを有する異ゲージ編機によって製造することができる。
【0038】
毛細管現象を発現させるには編地表面Bのウェル方向のループ数を、編地表面A側のウェル方向のループ数の約1.1倍〜約4.5倍にするのがよい。表面のウェル方向のループ数は、幅2.54cm(1インチ)当たりの編目ループの数をデンシメーターやリネンテスター等で測定する。ここでループ数とは、編地の表裏それぞれに確認されるニットループの編目の数であり、タックループやシンカーループといった編目はループ数に含まない。
毛細管現象を発現させるもう一つの方法としては、表面B側の単糸の糸繊度を表面A側の単糸の糸繊度より小さくする、好ましくは表面B側の単糸の糸繊度を表面A側の単糸の糸繊度の1/2以下にすることが挙げられる。
【0039】
本発明の編地は、人体に着用する繊維製品に用いることができる。このとき、本発明の編地の表面Bが外気側、表面Aが肌側に位置するように用いれば、前記した効果が奏される。
本発明の編地は、繊維製品の中でも衣料、特にスポーツウエアやインナー等の汗処理機能が必要な衣料用途に好適であるがこれらには限定されず、アウターや裏地等の衣料や、シーツ等の寝具、さらには失禁パンツ等の衛生物品にも適用でき、吸湿性能による快適性を有し、かつ、水分によるベタツキ感や冷え感を低減する効果を発揮することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。無論、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例で得た編地は、以下の方法で評価した。
(1)表面Aのセルロース長繊維の出現面積
(i)編地試料を中濃色の直接染料(Sumilight Blueなど)1%owfとNa
2SO
4 5g/l含有する染料液に浸漬させて90℃30分加熱し、生地のセルロース長繊維部分を染色する。染色後の試料は染色前と密度が変わらないようにセットする。
(ii)上記(i)の試料からランダムに、縦横1cm×1cmの範囲を3箇所定め、糸等で立体的に識別できるようマーキングする。
(iii)試料の表面Aのマーキング部分を3次元表面形状測定装置で測定間隔20μmで計測し、データの傾きを補正した後、エクセルの等高線図で高さのmax値を20μm毎に変え、1cm×1cmの試料中に偏りなく分布が出現される高さを表面Aの最外面の高さとし、そこから0.13mm小さい値を等高線図のmax値としで2次元図を作図することで、表面Aの最外層部(深さ0.13mm以内の領域)を特定できる。ここで、「偏りなく分布が出現される高さ」とは、1cm×1cmの領域を5mm×5mmずつ4つに分割たときに、分割されたどの領域にも表面が出現する高さを意味する。最外層表面におけるセルロース長繊維を以下の方法で計測する。
【0041】
(iv)同じ試料の表面Aのマーキング部分をマイクロスコープで写真撮影を行い、上記(iii)と(iv)のデータを重ねて、表面Aの最外層表面における着色された糸が現れている部分を、セルロース長繊維の出現面積として算出する。尚、(iv)の画像処理が困難な場合は上記(iii)と(iv)のデータを同じサイズにプリントアウトし、1cm×1cm部分の紙の重量を測定した後、双方を重ねて、最外層部を切り取り、その中での染色糸部分をさらに切り取り、重量を測定して算出してもよい。編地の表面Aのセルロース長繊維の出現面積は、下記式(3)により算出される:
編地の表面Aのセルロース長繊維の出現比率(面積%)=最外層部表面におけるセルロース長繊維の出現面積/試料面積 (3)
【0042】
(2)セルロース長繊維混率(重量%)
編地全体のセルロース混率Xは、編地のセルロース長繊維の交編率であり、編地編成時の糸の消費重量、または得られた編地を分解して測定されたセルロース長繊維重量から下記式(4):
X(重量%)=(編地中のセルロース長繊維重量/編地重量)×100 (4)
により算出されるが、使用糸量による算出が困難な場合には、編地の水分率から算出してもよい。
【0043】
(3)着用試験
染色加工された編地の裏側が肌面になるように作製されたシャツを着用し、28℃、65%RH環境の人工気候室にて10分間安静にした後に、大武・ルート工業社製トレッドミルORK−3000にて時速8kmで30分の走行運動を行い、再び10分間安静にした。走行運動前の肌触り/風合い、及び快適感、並びに走行運動後のベタツキ感、及び冷え感を、それぞれ、以下の評価基準に従い官能評価した:
<走行運動前の肌触り/風合い>
○:肌触りや風合いが良い。
△:肌触りや風合いがやや悪い。
×:肌触りや風合いが悪い。
<走行運動前の快適感>
○:快適である。
△:やや不快である。
×:不快である。
<走行運動後のベタツキ感>
○:ベタツキ感を感じない。
△:ベタツキ感をやや感じる。
×:ベタツキ感を感じる。
<走行運動後の冷え感>
○:冷え感を感じない。
△:冷え感をやや感じる。
×:冷え感を感じる。
【0044】
[実施例1]
ダイアル側が18GG、シリンダ側が24GGであるダブル異ゲージ丸編機を使用し、ポリエステル丸断面加工糸84dtex/72fと、33dtex/24fのキュプラ丸断面糸と56dtex/72fのポリエステル丸断面糸をインターレース混繊後仮撚りして作製した複合糸(捲縮伸張率7.4%)と、ポリエステル丸断面加工糸84dtex/72fを4本引き揃えた糸(総繊度336dtex)とを、
図1の編組織(図中の丸数字は編成順を示す)に示すように給糸し、編地生機を得た。この生機を液流染色機にて80℃×20分で精練、水洗した後に、ピンテンターにて幅出し率20%で180℃×90秒のプレセットを行った。その後、液流染色機にて130℃でのポリエステル染色、吸水加工、水洗を行った後に、ピンテンターにて、しわが取れる程度に伸長し、150℃×90秒のファイナルセットを行い、目付150g/m
2、厚み0.97mmの編地を得た。得られた編地の表面A側には、配された糸の繊度違いによる凸部が存在し、深さ0.13mm以内の領域(最外層部)は編地全体の面積中の55%であった。表面A最外層のセルロース長繊維の出現面積比率は編地全体の面積の2.5%であり、セルロース長繊維が傾斜配置されていた。表面Bにおけるセルロース長繊維の出現面積比率は0%であった。表面Aの水分200g/m
2付与時の接触冷感値は195W/m
2・℃であり、この編地から得たシャツの着用試験では運動前も快適で、発汗後もベタツキ感や冷え感がないという結果が得られた。結果を以下の表1に示す。
【0045】
[実施例2]
28ゲージダブル丸編機を使用し、ポリエステル丸断面加工糸56dtex/72fと、33dtex/24fのキュプラ丸断面糸と56dtex/72fのポリエステル丸断面糸をインターレース混繊後仮撚りして作製した複合糸と、ポリエステル丸断面加工糸56dtex/24fとを、
図2の編組織(図中の丸数字は編成順を示し、同一行に記された編成箇所(例えば、丸数字1と13)では同じ糸種を給糸する)に示すように給糸し、複合糸とポリエステル丸断面加工糸56dtex/24を給糸する際にはプレーティングして複合糸が編地内側に配されるように編成し、実施例1と同様に加工して、目付134g/m
2、厚み0.69mmの編地を得た。得られた編地の表面A側には、糸重なりによる凸部が存在し、表面A最外層のセルロース長繊維の出現面積比率は4.7%であり、セルロース長繊維が傾斜配置されていた。表面Bにおけるセルロース長繊維の出現面積比率は0%であった。表面Aの水分200g/m
2付与時の接触冷感値は220W/m
2・℃であり、この編地から得たシャツの着用試験では運動前も快適で、発汗後もベタツキ感や冷え感のないものであった。結果を以下の表1に示す。
【0046】
[実施例3]
28GGのトリコット編み機を用いて、フロントにポリエステル丸断面加工糸56dtex/24fを組織10/23とし、ミドルにポリエステル丸断面加工糸56dtex/24fとキュプラ丸断面糸56dtex/30fを組織21/10で1本交互に配置し、バックにポリエステルW断面加工糸56dtex/30fを組織10/12として配置した。キュプラ丸断面糸は主として編地の中間層に配置されていた。実施例1と同様に加工処理をして、目付138g/m
2、厚み0.61mmの編地を得た。得られた編地の表面A側には、編組織による凹凸が存在し、表面A最外層のセルロース長繊維の出現面積比率は9.3%であり、セルロース長繊維が傾斜配置されていた。表面Bにおけるセルロース長繊維の出現面積比率は0%であった。表面Aの水分200g/m
2付与時の接触冷感値は255W/m
2・℃であり、この編地から得たシャツの着用試験では快適でベタツキ感や冷え感がなかった。結果を以下の表1に示す。
【0047】
[実施例4]
26ゲージダブル丸編機を使用し、ポリエステル丸断面加工糸84dtex/72fと、33dtex/24fのキュプラ丸断面糸と56dtex/72fのポリエステル丸断面糸をインターレース混繊後仮撚りして作製した複合糸と、ポリエステル丸断面加工糸56dtex/24fとを、
図3の編組織(図中の丸数字は編成順を示し、同一行に記された編成箇所(例えば、丸数字1と5と9)では同じ糸種を給糸する)に示すように給糸し、複合糸とポリエステル丸断面加工糸56dtex/24を給糸する際にはプレーティングして複合糸が編地内側に配されるように編成し、実施例1と同様に加工して、目付148g/m
2、厚み0.68mmの編地を得た。得られた編地の表面Aにおける凹凸は小さく、表面Aのセルロース長繊維の出現面積比率は4.2%でありセルロース長繊維が傾斜配置されていた。表面Bにおけるセルロース長繊維の出現面積比率は0%であった。表面Aの水分200g/m
2付与時の接触冷感値は229W/m
2・℃であり、この編地から得たシャツの着用試験では運動前も快適で、発汗後もベタツキ感や冷え感のないものであった。結果を以下の表1に示す。
【0048】
[実施例5]
実施例2のキュプラ丸断面原糸33dtex/24fの代わりにレーヨン84dtex/30fを用いた他は実施例2と同様の編地を作製し、目付147g/m
2、厚み0.78mmの編地を得た。得られた編地の表面A側には、糸重なりによる凸部が存在し、表面A最外層のセルロース長繊維の出現面積比率は9.8%でありセルロース長繊維が傾斜配置されていた。表面Bにおけるセルロース長繊維の出現面積比率は5%であった。表面Aの水分200g/m
2付与時の接触冷感値は273W/m
2・℃であり、この編地から得たシャツの着用試験では快適で、ベタツキ感や冷え感が小さいものであった。結果を以下の表1に示す。
【0049】
[実施例6]
実施例2の複合糸を56dtex/30fのキュプラ丸断面糸に変更し、
図2の編組織に示すように給糸し、他の条件は実施例2と同様にして、目付127g/m
2、厚み0.68mmの編地を得た。得られた編地の表面A側には、糸重なりによる凸部が存在し、表面A最外層のセルロース長繊維の出現面積比率は13.8%であった。表面Bにおけるセルロース長繊維の出現面積比率は3%であった。表面Aの水分200g/m
2付与時の接触冷感値は294W/m
2・℃であり、この編地から得たシャツの着用試験ではベタツキ感や冷え感の小さいものであった。結果を以下の表1に示す。
【0050】
[比較例1]
28GGのダブル丸編機を使用し、56dtex/24fのキュプラ丸断面糸と56dtex/72fのポリエステル丸断面糸をインターレース混繊後仮撚りして作製した複合糸とポリエステル丸断面加工糸84dtex/72fを1本交互に配置して
図4に示す編組織で編成した。実施例1と同様に加工を行い、目付139g/m
2、厚み0.71mmの編地を得た。得られた編地の表面Aにおける凹凸は小さく、表面Aのセルロース長繊維の出現面積比率は18.8%と大きく、セルロース長繊維が傾斜配置されていなかった。表面Bにおけるセルロース長繊維の出現面積比率は18%であった。水分200g/m
2付与時の接触冷感値は355W/m
2・℃であり、この編地から得たシャツの着用試験ではベタツキ感や冷え感の大きいものであった。結果を以下の表1に示す。
【0051】
[比較例2]
すべての糸をポリエステル丸型断面加工糸84dtex/72fとした以外は実施例2と同様にして、目付126g/m
2、厚み0.66mmの編地を得た。編地はポリエステル100%であり、水分200g/m
2付与時の接触冷感値は348W/m
2・℃であり、この編地から得たシャツの着用試験では運動前後の快適性に欠けるものであった。結果を以下の表1に示す。
【0052】
【表1】