特許第5788897号(P5788897)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5788897剛体ドッキングのためのオン格子/オフ格子を併用した最適化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5788897
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】剛体ドッキングのためのオン格子/オフ格子を併用した最適化方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 19/16 20110101AFI20150917BHJP
【FI】
   G06F19/16
【請求項の数】20
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-541291(P2012-541291)
(86)(22)【出願日】2010年12月2日
(65)【公表番号】特表2013-512515(P2013-512515A)
(43)【公表日】2013年4月11日
(86)【国際出願番号】CA2010001923
(87)【国際公開番号】WO2011066655
(87)【国際公開日】20110609
【審査請求日】2013年11月26日
(31)【優先権主張番号】61/266,059
(32)【優先日】2009年12月2日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510214045
【氏名又は名称】ザイムワークス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(72)【発明者】
【氏名】オーン,アンダース
【審査官】 松野 広一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−504805(JP,A)
【文献】 特表2006−504677(JP,A)
【文献】 特表2008−532549(JP,A)
【文献】 特表2002−533477(JP,A)
【文献】 特開2003−206246(JP,A)
【文献】 David Levine et al,Stalk: An Interactive System for Virtual Molecular Docking,IEEE Computational Science and Engineering,1997年 4月,Vol.4 No.2,pp.55-65
【文献】 Garrett M. Morris et al,AutoDock User's Guide,[online],2001年11月20日,pp.1-86,[検索日 2014年11月10日],URL,http://autodock.scripps.edu/faqs-help/manual/autodock-3-user-s-guide/AutoDock3.0.5_UserGuide.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 19/10−19/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互作用対に関する立体配座空間をサンプリングする方法であって、前記相互作用対が、(a)接近物体四元数によって特徴付けられる接近物体と、(b)中心物体四元数によって特徴付けられる中心物体とを備え、前記相互作用対が、エネルギーおよび質量中心ベクトルによって特徴付けられ、前記質量中心ベクトルが前記接近物体の質量中心および前記中心物体の質量中心により拘束され、前記方法が、
(i)前記質量中心ベクトルを一定に保ちながらオフ格子変換により前記接近物体四元数または前記中心物体四元数を変えることによって、エネルギーの第1の最小化を行うステップと、続いて、
(ii)前記質量中心ベクトルに沿って、前記中心物体に向けて前記接近物体の第1の並進を行うステップであって、前記並進がオン格子変換からなり、前記エネルギーが前記第1の並進中に最小化されず、前記接近物体四元数および前記中心物体四元数が前記第1の並進中にそれぞれ一定に保たれる、ステップと、
任意選択で、前記接近物体と前記中心物体が激しく衝突しない場合には、
(iii)オフ格子変換により前記接近物体四元数を変えることによって、エネルギーの第2の最小化を行うステップと、続いて、
(iv)前記質量中心ベクトルに沿って、前記中心物体に向けて前記接近物体の第2の並進を行うステップであって、前記並進がオン格子変換からなるステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記接近物体四元数が連続的尺度で変化する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接近物体の並進が、前記中心物体に向けて前記接近物体をある距離だけ離散的に移動させることからなる請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記エネルギーの前記第2の最小化中に、前記質量中心ベクトルが一定である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記接近物体の前記第2の並進中に、前記接近物体四元数および前記中心物体四元数が一定である請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記エネルギーの前記第1の最小化を行う前記ステップが、
(i)前記中心物体を固定して保つステップと、
(ii)前記接近物体四元数を、初期値から第1の極小エネルギーに達するまで変えるステップとを含み、
前記エネルギーの前記第2の最小化を行う前記ステップが、
(iii)前記接近物体四元数を初期値にリセットするステップと、
(iv)前記接近物体四元数を、初期値から始めて、第2の極小エネルギーに達するまで変えるステップとを含む
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記エネルギーの前記第1の最小化を行うステップが、
(i)前記中心物体四元数を変えるステップと、
(ii)前記接近物体四元数を、初期値から第1の極小エネルギーに達するまで変えるステップとを含み、
前記エネルギーの前記第2の最小化を行う前記ステップが、
(iii)前記接近物体四元数を初期値にリセットするステップと、
(iv)前記接近物体四元数を、初期値から始めて、第2の極小エネルギーに達するまで変えるステップとを含む
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記エネルギーの前記第1の最小化を行う前記ステップが、
(i)前記中心物体を固定して保つステップと、
(ii)前記接近物体四元数を、第1の極小エネルギーに達する中間接近物体四元数まで変えるステップとを含み、
前記エネルギーの前記第2の最小化を行う前記ステップが、
(iii)前記接近物体四元数を、前記中間接近物体四元数から始めて、第2の極小エネルギーに達するまで変えるステップを含む
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記エネルギーの前記第1の最小化を行う前記ステップが、
(i)前記中心物体四元数を変えるステップと、
(ii)前記接近物体四元数を、第1の極小エネルギーに達する中間接近物体四元数まで変えるステップとを含み、
前記エネルギーの前記第2の最小化を行う前記ステップが、
(iii)前記接近物体四元数を、前記中間接近物体四元数から始めて、第2の極小エネルギーに達するまで変えるステップを含む
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記エネルギーの前記第1または第2の最小化が、前記相互作用対の複数のエネルギーを記録するステップを含み、方法がさらに、複数のエネルギーに基づいてエネルギースペクトルを計算するステップを含む請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法を実施するための命令を備えるコンピュータ可読媒体。
【請求項12】
データ記憶システムと、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法を行うための命令を備える処理装置とを備えるコンピュータシステム。
【請求項13】
前記接近物体における原子または粒子が前記中心物体における原子または粒子からカットオフ距離にない場合に、前記接近物体および前記中心物体は衝突しないとみなされる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記カットオフ距離は3.0Åである請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記カットオフ距離は2.5Åである請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記接近物体は分子量が1000ダルトン未満の分子であり、前記中心物体はタンパク質またはポリヌクレオチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記中心物体は分子量が1000ダルトン未満の分子であり、前記接近物体はタンパク質またはポリヌクレオチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記接近物体は糖類またはペプチドである請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記中心物体は糖類またはペプチドである請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記エネルギーの前記第1の最小化は最急降下法に従って行われる請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、全体を参照により援用する2009年12月2日出願の米国特許出願第61/266,059号の利益を米国特許法第119条(e)の下で主張するものである。
【0002】
技術分野
本発明は、化学的モデリングおよび設計の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
分子間相互作用は、免疫認識から転写開始および信号伝達まで、多様な重要な生物学的現象の要因である。剛体ドッキングは、分子の組合せの性質および/またはあり得る分子錯体の形成の可能性の貴重な洞察を与えることができ、例えば合理的創薬の文脈で多くの用途があり得る。剛体ドッキングは、例えば、小さな剛体分子(または分子断片)と、よく定義されたほぼ剛性の活性部位を有する単純なタンパク質とのドッキングに関して適していることがある。別の例として、剛体ドッキングを使用して、所与のターゲットに関して、分子ライブラリ内の非活性と考えられる配位子の部分集合をより効率的かつ迅速にふるい落とし、次いで、残っている候補分子に、より複雑な融通性の高いドッキング処置を適用することもできる。また、剛体ドッキングは、新規配位子設計およびコンビナトリアルライブラリ設計(combinatorial library design)にも適していることがある。これらの方法は、2つのタンパク質など、他の相互作用対をドッキングするのにも同様に適している。
【0004】
2つのドッキングする剛体のポテンシャルエネルギー表面を探索する際に行われている従来の作業は、完全にオン格子の手法または完全にオフ格子の手法に関わる。例えば、高速フーリエ変換(FFT)または遺伝子アルゴリズムを使用する既知のドッキング法では、並進および回転空間が、完全にオン格子の手法で最適化される。FFTドッキング法では、数学的な畳み込み演算を使用して、低エネルギー点を探してグリッドが探索される。これは、タンパク質ドッキングにおける一般的な方法であり、多くの異なる形態がある。例およびさらなる文献としては、VajdaおよびCamachoのTRENDS in Biotechnolgy, 2004, 22(3): 110-116;SmithおよびSternbergのCurrent Opinion in Structural Biology, 2002, 12: 28-35;Mandell等のProtein Engineering, 2001, 14: 105-113;ならびにKowalsmanおよびEisensteinのBioinformatics, 2007, 23: 421-426を参照されたい。遺伝子アルゴリズムは、エネルギーを最小化するために遺伝子最適化アルゴリズムを使用する。SmithおよびSternberg;ならびにGardiner等のProteins: Structure, Function, and Genetics, 2001, 44: 44-56を参照されたい。Brownianダイナミクスおよび(モンテカルロ法を用いた)実空間最小化を使用する既知のドッキング法では、並進および回転空間は、完全にオフ格子の手法で最適化される。例えば、Fernandez-RecioのProtein Science, 2002, 11: 280-291を参照されたい。実空間最小化は、極小値を克服するために、モンテカルロ法やシミュレートアニーリングなどいくつかの追加の方法と組み合わされることが多い。ZachariasのProtein Science, 2003, 12: 1271-1282;Gray等のJournal of Molecular Biology, 2003, 331: 281-299;およびDominguezのJournal of the American Chemical Society, 2003, 125: 1731-1737を参照されたい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、相互作用する物体の立体配座空間を探索する改良された方法が必要である。本発明によってこれらの方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
一態様では、本発明は、相互作用対に関する立体配座空間をサンプリングする方法であって、相互作用対が、(a)接近物体四元数によって特徴付けられる接近物体と、(b)中心物体四元数によって特徴付けられる中心物体とを備え、相互作用対が、エネルギーおよび質量中心ベクトルによって特徴付けられる方法であって、(i)オフ格子変換により接近物体四元数を変えることによってエネルギーの第1の最小化を行うステップと、続いて、(ii)質量中心ベクトルに沿って、中心物体に向けて接近物体の第1の並進を行うステップとを含み、並進がオン格子変換からなる方法を提供する。この方法は、さらに、任意選択で、接近物体と中心物体が激しく衝突しない場合には、(iii)オフ格子変換により接近物体四元数を変えることによってエネルギーの第2の最小化を行うステップと、続いて、(iv)質量中心ベクトルに沿って、中心物体に向かう接近物体の第2の並進を行うステップとを含み、並進がオン格子変換からなる。
【0007】
本発明は、効果的な最適化法を構成するために、並進空間と回転空間の分離を利用する方法を提供する。これらの方法を使用して、所与のポテンシャルに関して、低エネルギー構成を探索することができる。これらの方法の有効性は、1つには、容易に評価できる量の使用に起因し、また、多数の局所的であってあまり重要でない極小値を有する系のポテンシャルエネルギー表面をナビゲートすることができる能力にも起因する。オン格子/オフ格子を併用したモデルでは、回転空間の最適化は、拘束されているが連続的な問題であり、すなわち「オフ格子」である。並進空間内での点間のステップは、離散化されており、すなわち「オン格子」である。並進空間と回転空間は直交しており、これは、最小化処置の拘束が自明であり、単純で数学的によく定義された最小化プロトコルをもたらすことを示唆する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ドッキングされた系の例を示す図である。2つの物体AとBが存在する。ベクトルRが、2つの物体の質量中心の相対位置を表す。QおよびQは、それぞれAおよびBの分子フレームが実験室フレームLに対して回転される様子を表す四元数である。Rは、オン格子で最適化され、QおよびQは、オフ格子で最適化される。
図2】異なる乱数種を使用した2回の計算からの4つの異なるDroqDock法に関するスペクトルを示す図である。開始構成の数は4000個である。
図3】4つの異なる方法によってサンプリングされたエネルギーの正規化スペクトルを示す図である。DroqDock-IVについては、より少数の開始構成を使用した2つのさらなる計算も示されている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
詳細な説明
内部が剛性の相互作用する2つ以上の物体は、最低エネルギーの少なくとも1つの構成を有する。最低構成を見付けることは、最適化問題である。本発明は、剛体の自由度を並進成分と回転成分に分離することに基づいて、この最適化問題を解くための方法を提供する。並進成分は、剛体に関する質量中心の空間的な離間距離を表し、オン格子で処理される。回転成分は、剛体の相対向きを表し、オフ格子で処理される。所与の構成に関して、本発明の方法を使用して、連続空間内で標準のエネルギー最小化を用いて、一定の並進成分に関してオフ格子問題を解く。
【0010】
したがって、一態様では、本発明は、相互作用対に関する立体配座空間をサンプリングする方法であって、相互作用対が、(a)接近物体四元数によって特徴付けられる接近物体と、(b)中心物体四元数によって特徴付けられる中心物体とを備え、相互作用対が、エネルギーおよび質量中心ベクトルによって特徴付けられる方法であって、(i)オフ格子変換により接近物体四元数を変えることによってエネルギーの第1の最小化を行うステップと、続いて、(ii)質量中心ベクトルに沿って、中心物体に向けて接近物体の第1の並進を行うステップとを含み、並進がオン格子変換からなり、任意選択で、接近物体と中心物体が激しく衝突しない場合には、(iii)オフ格子変換により接近物体四元数を変えることによってエネルギーの第2の最小化を行うステップと、続いて、(iv)質量中心ベクトルに沿って、中心物体に向かう接近物体の第2の並進を行うステップとを含み、並進がオン格子変換からなる方法を提供する。
【0011】
本発明による方法は、任意の組の物体に適用することができる。「物体」は、任意の原子、分子、または任意の異なる群もしくは組合せの原子および分子でよい。例示的な物体としては、小さな分子(すなわち低分子量(例えば<1000Da、典型的には300〜700Da)を有する分子、例えば薬剤)、糖類(例えば多糖類)、ペプチド(例えばタンパク質)、およびヌクレオチド(例えばポリヌクレオチド)が挙げられる。この方法は、一般に、何らかの形で互いに相互作用する2つ以上の異なる物体に適用される。例えば、2つの物体は、時として2つの物体が互いに結合するように、引力によって互いに引き付けられることがある。本発明による方法を使用して、「接近物体」と「中心物体」を備える「相互作用対」の2つの要素間の相互作用をモデル化することができる。これらの用語は、相互作用対の2つの異なる要素を簡便に区別するために使用される。これらの用語は相対的な用語であるので、異なる実施形態では交換することもできる。接近物体/中心物体の対の例としては、様々な配位子/受容体の対、例えば抗原/抗体、阻害剤/酵素、活性剤/酵素、小さな分子/受容体などが挙げられる。
【0012】
固定座標系に対する質量中心の座標および相対向きが、剛体の構成を定義することができる。2つの物体は、1つまたは複数の定量的尺度によって互いに関係付けられることがあり、この尺度は、例えば、エネルギー、一方の物体の質量中心から他方の質量中心に向かう質量中心ベクトル、および例えば一方の物体に対する他方の物体の内部座標軸を表す1つまたは複数の四元数である。質量中心ベクトルは、並進空間を表すと考えることができ、四元数は、回転空間を表すと考えることができる。エネルギーを計算するために使用されるポテンシャルは、そのポテンシャルが現実的な複雑さである限り、当技術分野で理解されている任意の数の適切な項を備えることができる。
【0013】
典型的には、本発明による方法において、第1の最小化は、オフ格子変換により接近物体四元数を変えることによって行われる。「オフ格子」変換は、連続変換を表す。いくつかの実施形態では、このステップ中に、物体の一方にオフ格子変換が施される。いくつかの実施形態では、このステップ中に、両方の物体にオフ格子変換が施される。第1の最小化の後、接近物体が、オン格子変換により、質量中心ベクトルに沿って、中心物体に向けて並進される。「オン格子」変換は、離散ステップによって行われる変換を表す。すなわち、オン格子変換の一例では、物体の質量中心は、グリッドの一点から別の点へ移動すると考えることができる。
【0014】
接近物体と中心物体が激しく衝突しない場合には、本発明による方法の最小化および並進ステップを繰り返すことができる。2つの物体は、物体(例えばドッキングされる2つのタンパク質)内の原子または粒子が結合していない状態で非常に短い距離(例えば約2.0Å、2.5Å、または3.0Å未満、特に約2.5Å未満)しか離れておらず、したがって大きな斥力相互作用を生み出している場合に、「激しく衝突している」と考えられる。激しく衝突する物体は相互作用のエネルギーを高め、したがっていくつかの実施形態では、対のエネルギーがあるしきい値以下である場合にステップを繰り返すことができ、そのしきい値は、使用者が任意に選択することができる。例えば、使用者が決定するとき、または当技術分野で理解されているように、しきい値は、ありそうもない状態を避けるように設定することができる。別の例では、しきい値は、空間内の2つ以上の原子の近接性に起因する斥力相互作用に関する上限でよい。したがって、本発明による方法は、任意選択で繰り返す処置を企図している。
【0015】
一実施形態では、接近物体四元数は、連続的に変えられる。
【0016】
一実施形態では、接近物体の並進は、中心物体に向けて接近物体をある距離だけ離散的に移動させることからなる。一実施形態では、離散的な距離は、使用者が予め決定する。すなわち、並進中にはエネルギーは最小化されない。
【0017】
一実施形態では、エネルギーの最小化中、質量中心ベクトルは一定である。したがって、一実施形態では、エネルギーの最小化は、物体の並進を含まない。
【0018】
一実施形態では、接近物体の並進中、接近物体四元数と中心物体四元数は一定である。したがって、一実施形態では、接近物体の並進中には、接近物体も中心物体も回転しない。
【0019】
最小化の後、拘束系の最適なエネルギーを記録することができる。最小化中に計算されたエネルギーは、後のデータ処理および分析で使用することができる。一実施形態では、エネルギーの最小化は、相互作用対の複数のエネルギーを記録するステップを含み、方法はさらに、複数のエネルギーに基づいてエネルギースペクトルを計算するステップを含む。
【0020】
一実施形態では、本方法は、2つの剛体の所与の構成から始まる(C1)。この構成は、1つの質量中心ベクトルR1と、相対向きを表すための1つの四元数Q1に対応する。標準の最小化法(例えば最急降下法)によって、エネルギーは、回転空間のみを最適化することによって最小化される。並進空間は拘束されている。回転空間の最小化の収束後、ベクトルR1および最適化された四元数Q1_optと共に、エネルギーが記録される(E1)。2つの物体の質量中心をより近付けるように並進空間内で1ステップ進めることによって、新たな構成が生成される(C2)。新たな構成に関して、回転自由度が最適化される。手順が繰り返される。2つの物体を互いにより近付ける質量中心の並進は、2つの物体が激しく衝突すると終了する。次いで、新たな無作為な構成が生成され、より近付けるように物体を徐々に並進させる(物体を押し進める)手順が繰り返される。
【0021】
本発明による方法は、DroqDock-I、DroqDock-II、DroqDock-III、およびDroqDock-IVと呼ばれる4つのサブクラスに概念的に分けることができる。タンパク質に関して言及するが、これらのサブクラスは、任意のタイプの物体に当てはまる。
【0022】
DroqDock-Iでは、中心タンパク質(CP)が常に固定される。接近するタンパク質(AP)が一定のRに関して回転空間内で極小値に達したとき、APの四元数をその初期値にリセットすることによって、並進空間内での次の構成が生成される。
【0023】
DroqDock-IIでは、CPは、その内部軸の周りで回転するように成される。APの四元数をその初期値にリセットすることによって、APに関する並進空間内での次の構成が生成される。
【0024】
DroqDock-IIIでは、CPは常に固定される。並進空間内での前の点での最適位置からの四元数を、次のQ最適化の初期値になるように進めることによって、APに関する並進空間内での次の構成が生成される。
【0025】
DroqDock-IVでは、CPは、その内部軸の周りで回転するように成される。前の点での最適位置からの四元数を進めることによって、APに関する並進空間内での次の構成が生成される。
【0026】
単純な階層では、DroqDock-Iは最も融通性の低い方法であり、DroqDock-IVは最も融通性の高い方法であり、DroqDock-IIおよびDroqDock-IIIは、それらの間の点にある。
【0027】
したがって、一実施形態では、エネルギーの第1の最小化を行うステップは、(i)中心物体を固定して保つステップと、(ii)接近物体四元数を、初期値から第1の極小エネルギーに達するまで変えるステップとを含み、エネルギーの第2の最小化を行うステップは、(iii)接近物体四元数を初期値にリセットするステップと、(iv)接近物体四元数を、初期値から始めて第2の極小エネルギーに達するまで変えるステップとを含む。
【0028】
一実施形態では、エネルギーの第1の最小化を行うステップは、(i)中心物体四元数を変えるステップと、(ii)接近物体四元数を、初期値から第1の極小エネルギーに達するまで変えるステップとを含み、エネルギーの第2の最小化を行うステップは、(iii)接近物体四元数を初期値にリセットするステップと、(iv)接近物体四元数を、初期値から始めて第2の極小エネルギーに達するまで変えるステップとを含む。
【0029】
一実施形態では、エネルギーの第1の最小化を行うステップは、(i)中心物体を固定して保つステップと、(ii)接近物体四元数を、第1の極小エネルギーに達する中間接近物体四元数まで変えるステップとを含み、エネルギーの第2の最小化を行うステップは、(iii)接近物体四元数を、中間接近物体四元数から始めて、第2の極小エネルギーに達するまで変えるステップを含む。
【0030】
一実施形態では、エネルギーの第1の最小化を行うステップは、(i)中心物体を変えるステップと、(ii)接近物体四元数を、第1の極小エネルギーに達する中間接近物体四元数まで変えるステップとを含み、エネルギーの第2の最小化を行うステップは、(iii)接近物体四元数を、中間接近物体四元数から始めて、第2の極小エネルギーに達するまで変えるステップを含む。
【0031】
コンピュータシステムへの実装
本明細書で述べる任意の方法は、それぞれ処理装置とデータ記憶システムを備える1つまたは複数のプログラマブルコンピュータ上で実行される1つまたは複数のコンピュータプログラムとして実装することができる。コンピュータプログラムは、ある活動を行うために、またはある結果をもたらすためにコンピュータで直接または間接的に使用することができる1組の命令である。コンピュータプログラムは、コンパイル言語または解釈言語を含めた任意の形態のプログラミング言語で書くことができ、例えばスタンドアローンプログラムとして、またはモジュール、コンポーネント、サブルーチン、ファンクション、プロシージャ、もしくは計算環境で使用するのに適した他のユニットとしてなど、任意の形態で展開することができる。
【0032】
コンピュータプログラムは、コンピュータ可読記憶システムに記憶することができる。記憶システムの例としては、限定はしないが以下のものが挙げられる。CD、DVD、およびブルーレイディスク(BD)などの光ディスク;光磁気ディスク;磁気テープおよび内部ハードディスクおよびリムーバブルディスクなどの磁気媒体;EPROM、EEPROM、およびフラッシュメモリなどの半導体メモリデバイス;ならびにRAM。
【0033】
コンピュータ可読記憶システムは、コンピュータプログラムを含むように物理的に変形することができる。本明細書で開示する任意の方法を行うための命令を備えるコンピュータ可読記憶システムは、そのような命令を備えないコンピュータ可読記憶システムとは物理的に異なることを当業者は理解されよう。すなわち、任意の所与のコンピュータ可読記憶システムは、本明細書で開示する任意の方法を行うための命令を備えるように物理的に変形しなければならない。本明細書で開示する任意の方法を行うための命令などコンピュータ実行可能命令を備えるコンピュータ可読記憶システムは、プロセスまたは方法を行うためにコンピュータが記憶システムと対話するように物理的に構成される。本明細書で開示する任意の方法を行うためのコンピュータ実行可能命令を備えるコンピュータ可読記憶システムは、汎用コンピュータによってアクセスされて読み取られるとき、その汎用コンピュータを専用コンピュータに変えることを当業者は理解されよう。
【0034】
したがって、一態様では、本発明は、本明細書で述べる任意の方法を行うためのコンピュータ実行可能命令を備えるコンピュータ可読記憶システムを提供する。一実施形態では、コンピュータ可読記憶システムが、相互作用対に関する立体配座空間をサンプリングする方法のためのコンピュータ実行可能命令を備え、相互作用対が、(a)接近物体四元数によって特徴付けられる接近物体と、(b)中心物体四元数によって特徴付けられる中心物体とを備え、相互作用対が、エネルギーおよび質量中心ベクトルによって特徴付けられ、方法が、(i)オフ格子変換により接近物体四元数を変えることによってエネルギーの第1の最小化を行うステップと、続いて、(ii)質量中心ベクトルに沿って、中心物体に向けて接近物体の第1の並進を行うステップとを含み、並進がオン格子変換からなり、任意選択で、接近物体と中心物体が激しく衝突しない場合には、(iii)オフ格子変換により接近物体四元数を変えることによってエネルギーの第2の最小化を行うステップと、続いて、(iv)質量中心ベクトルに沿って、中心物体に向かう接近物体の第2の並進を行うステップとを含み、並進がオン格子変換からなる。
【0035】
さらなる態様では、本発明は、本明細書で述べる任意の方法を行うためのコンピュータシステムであって、データ記憶システムと、本明細書で述べる任意の方法を行うための命令を備える処理装置とを備えるコンピュータシステムを提供する。一実施形態では、コンピュータシステムが、(1)データ記憶システムと、(2)相互作用対に関する立体配座空間をサンプリングする方法のための命令を備える処理装置とを備え、相互作用対が、(a)接近物体四元数によって特徴付けられる接近物体と、(b)中心物体四元数によって特徴付けられる中心物体とを備え、相互作用対が、エネルギーおよび質量中心ベクトルによって特徴付けられ、方法が、(i)オフ格子変換により接近物体四元数を変えることによってエネルギーの第1の最小化を行うステップと、続いて、(ii)質量中心ベクトルに沿って、中心物体に向けて接近物体の第1の並進を行うステップとを含み、並進がオン格子変換からなり、任意選択で、接近物体と中心物体が激しく衝突しない場合には、(iii)オフ格子変換により接近物体四元数を変えることによってエネルギーの第2の最小化を行うステップと、続いて、(iv)質量中心ベクトルに沿って、中心物体に向かう接近物体の第2の並進を行うステップとを含み、並進がオン格子変換からなる。
【0036】
本明細書で開示する任意の方法を行うための命令を備える処理装置が、そのような命令を備えない処理装置とは物理的に異なることを当業者は理解されよう。すなわち、任意の所与の処理装置は、本明細書で開示する任意の方法を行うための命令を備えるように物理的に変形しなければならない。
【0037】
処理装置およびデータ記憶システムは、特定用途向け集積回路(ASIC)によって補う、または特定用途向け集積回路に組み込むことができる。そのようにして物理的に変形されたコンピュータの処理装置に読み取られて実行される、または実行前にさらに処理されるとき、プログラムの命令は、本明細書で説明する様々な処理をプログラマブルコンピュータに行わせる。処理装置とデータ記憶システムは、典型的にはバスによって接続される。
【0038】
ユーザとの対話を可能にするために、本発明は、ユーザに情報を表示するためのディスプレイデバイス、例えば陰極線管(CRT)や液晶ディスプレイ(LCD)モニタなどを備えるコンピュータに実装することができる。ユーザは、例えばキーボード、タッチスクリーン、またはマウスやトラックパッドなどのポインティングデバイスを介して入力を行うことができる。本発明による方法によって生成される様々なデータおよび分子立体配座は、モデリングおよびグラフィックスソフトウェアを使用してグラフィック表示することができる。
【0039】
本明細書で述べる様々な態様および実施形態は、データサーバなどのバックエンドコンポーネント、アプリケーションサーバやインターネットサーバなどのミドルウェアコンポーネント、またはユーザインターフェースやインターネットブラウザなどを有するクライアントコンピュータなどのフロントエンドコンポーネント、またはそれらの任意の組合せを含むコンピュータシステムに実装することができる。システムのコンポーネントは、任意のデジタルデータ通信形態または媒体によって接続することができる。
【0040】
本発明による方法は、様々な構成でハードウェアに実装することができる。すなわち、いくつかの実施形態では、計算プロセス(例えば複数の分子ダイナミクスシミュレーション)は、当技術分野で構成が理解されているようにコンピュータクラスタのノード上、分散コンピューティングシステム内、またはグラフィックス処理ユニット上で並列して行われる。
【0041】
限定を意図せずに、以下の実施例を示して、本発明の作成および使用法の完全な開示および説明を当業者に提示する。これらの実施例は、本発明とみなされるものの範囲を限定する意図はない。使用する数値(例えば量、温度、濃度など)については、正確さを期すよう努力はしたが、多少の実験誤差および偏差は許容されたい。
【実施例】
【0042】
実施例1
本発明の方法を、タンパク質ドッキング問題に関して単純であるが現実的なポテンシャルエネルギー表面で試験した。ここで、アクチンおよびビタミンD結合タンパク質(タンパク質データバンクID 1KXP参照)を調べた。粗視化されたC−β−ポテンシャルを使用して、いくつかの異なるDroqDock計算を行った。このポテンシャルは、タンパク質ドッキング問題で見出される代表的なポテンシャルエネルギー表面上での広範なサンプリングを可能にする。初期構成は無作為に生成した。最適化された構成のエネルギースペクトルは、低エネルギー構成を見出す際に様々な方法がどのように実施されるかを明瞭に表す。
【0043】
検証する第1の問題は、統計的に有意な主張となるように、開始構成の数が十分に大きいことである。これは、以下の非常に簡単な処置によって行われる。すなわち、異なる乱数種を用いて2回の計算が行われる。2回の計算のスペクトルがほとんど異ならない場合、サンプリングが飽和している。
【0044】
図2から、4つの部分図それぞれにおける2つのスペクトル間の小さな差に鑑みて、4000個の開始構成ではサンプリングが飽和していると言ってよい。
【0045】
4つの方法に関して、開始構成が同数でも、サンプリングされた構成は同数ではないことに留意すべきである。表1は、このことが当てはまるデータを示す。
【0046】
【表1】
【0047】
同じ開始構成密度から始めて、空間をサンプリングするのにDroqDock-IIIがより効果的であり、DroqDock-IVがさらに効果的であることが明らかである。DroqDock-IVは、大幅に少ない数の開始構成のみを使用して、方法DroqDock-IおよびDroqDock-IIと同じ密度の点をサンプリングすることができる(しかし同じタイプの点ではない。下記参照)。
【0048】
スペクトルの比較
前項では、サンプリングされる点の数のみを扱い、点のタイプは扱わなかった。この項では、様々な計算のエネルギースペクトルを比較する。
【0049】
図3における結果は、低エネルギー構成をサンプリングするのにDroqDock-IVが最良であることを明らかに示す。これは、DroqDock-IVがより多数の点をサンプリングするからではない。より少数の点をサンプリングする計算においてさえ(例えば、サンプリングされる点の総数がDroqDock-Iよりも少ない250個の開始構成を用いた計算)、DroqDock-IVスペクトルは、定性的に互いに同様であるが、他の3つの方法とは定性的に異なる。
【0050】
したがって、オフ格子最適化とオン格子最適化を組み合わせた方法が効果的であることが示されている。これらの方法は、ポテンシャルエネルギー表面の低エネルギー部分を好適にサンプリングする。4つのサブクラスのうち、DroqDock-IVが、最大密度の低エネルギー構成をサンプリングすることが分かり、したがってより優れている。
【0051】
本明細書で使用するとき、文脈上そうでないことが明らかな場合を除き、単数表記は、その指示対象が複数存在することも除外しない。接続詞「または」は、文脈上そうでないことが明らかな場合を除き、相互に排他的ではない。用語「含む」は、排他的でない例を表すために使用する。
【0052】
本明細書で引用する全ての参考文献、公開物、特許出願、付与された特許、受理記録(accession records)、およびデータベースは、付録も含め、全体を参照により本明細書に援用する。
図1
図2
図3