(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5788946
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】ろう付け性に優れたろう付け接合により組み立てられる部材用フェライト系ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20150917BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20150917BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/38
C22C38/58
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-213135(P2013-213135)
(22)【出願日】2013年10月10日
(62)【分割の表示】特願2008-307534(P2008-307534)の分割
【原出願日】2008年12月2日
(65)【公開番号】特開2014-25151(P2014-25151A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2013年10月10日
【審判番号】不服2014-9449(P2014-9449/J1)
【審判請求日】2014年5月21日
(31)【優先権主張番号】特願2007-339732(P2007-339732)
(32)【優先日】2007年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】新日鐵住金ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】平出 信彦
(72)【発明者】
【氏名】梶村 治彦
(72)【発明者】
【氏名】土居 大治
(72)【発明者】
【氏名】前田 滋
【合議体】
【審判長】
鈴木 正紀
【審判官】
河本 充雄
【審判官】
松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】
特許第5390175(JP,B1)
【文献】
特開昭57−060056(JP,A)
【文献】
特開平7−292446(JP,A)
【文献】
特開2005−154862(JP,A)
【文献】
特開2000−73147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.03%以下、N:0.05%以下、C+N:0.02〜0.031%、Si:0.12〜1.5%、Mn:0.02〜2%、Cr:15〜22%、Nb:0.2〜1%、Al:0.1%以下を含有し、更に、Tiを下記(1)および(2)式(但し、(1)および(2)式中における元素記号は、その元素の含有量(質量%)を示す。また、元素記号の前の数値は定数である。)を満足する範囲に制限し、残部がFeおよび不可避不純物からなるフェライト系ステンレス鋼であり、板厚0.4mmの冷延鋼板とした場合に板厚方向に2個以上の結晶粒が存在することを特徴とするろう付け性に優れたろう付け接合により組み立てられる部材用フェライト系ステンレス鋼。
Ti−3N≦0.03 ・・・(1)
10(Ti−3N)+Al≦0.5 ・・・(2)
【請求項2】
質量%で、C:0.03%以下、N:0.05%以下、C+N:0.02〜0.031%、Si:0.12〜1.5%、Mn:0.02〜2%、Cr:15〜22%、Nb:0.2〜1%、Al:0.1%以下を含有し、更に、Tiを下記(1)および(2)式(但し、(1)および(2)式中における元素記号は、その元素の含有量(質量%)を示す。また、元素記号の前の数値は定数である。)を満足する範囲に制限し、残部がFeおよび不可避不純物からなるフェライト系ステンレス鋼を、板厚0.4mmの冷延鋼板に製造し、1100℃、5×10−3torrの真空雰囲気で10分加熱した後、常温まで冷却した場合に、板厚方向に2個以上の結晶粒が存在することを特徴とするろう付け性に優れたろう付け接合により組み立てられる部材用フェライト系ステンレス鋼。
Ti−3N≦0.03 ・・・(1)
10(Ti−3N)+Al≦0.5 ・・・(2)
【請求項3】
更に、質量%で、Mo:3%以下、Ni:3%以下、Cu:3%以下、V:3%以下、W:5%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のろう付け性に優れたろう付け接合により組み立てられる部材用フェライト系ステンレス鋼。
【請求項4】
更に、質量%で、Ca:0.002%以下、Mg:0.002%以下、B:0.005%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のろう付け性に優れたろう付け接合により組み立てられる部材用フェライト系ステンレス鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろう付け接合により組み立てられる部材に使用されるフェライト系ステンレス鋼に関する。こうした部材の例としては、EGR(Exhaust Gas Recirculation)クーラ、オイルクーラ、自動車や各種プラントで使用される熱交換器類や、自動車尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)システムで用いられる尿素水タンク、自動車のフューエルデリバリ系部品などがあり、一般に形状が複雑で精密な部品が多い。ろう付け方法としては、Niろう付けやCuろう付けのように、高温、低酸素分圧下でろう付け接合される場合を対象とする。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する意識の高まりから、排ガス規制がより強化されると共に、炭酸ガス排出抑制に向けた取り組みが進められている。自動車分野においては、バイオエタノールやバイオディーゼル燃料といった燃料面からの取り組みに加え、軽量化や排気熱を熱回収する熱交換器をとりつけて燃費向上を図ったり、EGRクーラ、DPF(Diesel Particulate Filter)、尿素SCRシステムといった排ガス処理装置を設置したりするといった取り組みを実施している。
【0003】
このうち、EGRクーラは、エンジンの排ガスを冷却させた後、吸気側にもどして再燃焼させることで、燃焼温度を下げ、有害ガスであるNOxを低下させることを目的としている。そのため、EGRクーラの熱交換器部分には熱効率が要求され熱伝導性が良好であることが望まれる。従来、これらの部材には、SUS304やSUS316といったオーステナイト系ステンレス鋼が使用され、一般的にろう付け接合により組み立てられている。
【0004】
最近、燃焼温度をより低下させるために、EGRクーラの出側温度を低下させたいとのニーズがあり、熱疲労特性への配慮も必要な状況になりつつある。そこで、オーステナイト系ステンレス鋼よりも熱伝導率に優れ、また熱膨張係数が小さく、そして安価なフェライト系ステンレス鋼が注目されている。
【0005】
従来、ろう付け用のステンレス鋼として、例えば、次のような鋼板がある。
特許文献1には、Ni系ろう材を有機系バインダーと共に懸濁して、ステンレス鋼板表面上に噴霧塗布後加熱して作製される、プレコートろう被覆金属板材が開示されている。また、特許文献2には、表面粗さを調整したステンレス鋼板上に、プラズマ溶射にてNi系ろう材を被覆させた、自己ろう付け性に優れたニッケルろう被覆ステンレス鋼板の製造方法が開示されている。いずれの場合も、実施例の対象にしているステンレス鋼は、オーステナイトステンレス鋼であり、フェライト系ステンレス鋼については、特に開示していない。
【0006】
特許文献3には、C:0.08%以下、Si:0.01〜2.0%、Mn:0.05〜1.5%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:13〜32%、Mo:3.0%以下、Al:0.005〜0.1%、Ni:1.0%以下、Cu:1.0%以下、Ti:0.05%以下からなるロウ接性に優れたアンモニア−水系吸収式サイクル熱交換器用フェライト系ステンレス鋼が開示されている。ここでTiは、Tiの炭化物または窒化物による皮膜を形成してろう付け性を阻害することから、0.05%以下に制限されている。また、表1には、18種のフェライト系ステンレス鋼が記載されているが、そのC量は0.031〜0.032%と、現在、一般的に製造されている高純度フェライト系ステンレス鋼のC含有範囲に比べ高い値である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−249294号公報
【特許文献2】特開2001−26855号公報
【特許文献3】特開平11−236654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、NiろうやCuろうのように、高温、低酸素分圧下でろう付けされる場合において、優れたろう付け性を有するフェライト系ステンレス鋼を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前述の課題を解決すべく、NiろうやCuろうのように高温、低酸素分圧下でろう付けされる場合において、ろう付け性に対する合金元素の影響について鋭意検討の結果、フェライト系ステンレス鋼において、加工性や粒界腐食性の向上を目的として添加されることが多いTi、および脱酸を目的として添加されるAlに、良好なろう付け性を確保できる上限値があることを知見した。
【0010】
Niろう付けやCuろう付けは、1000〜1100℃、10
−3〜10
−4torr程度の真空中あるいは水素雰囲気中で行われるとされている。また、Agろう付けの場合にもろうの種類にもよるが、800〜900℃、10
−4〜10
−5torr程度の真空雰囲気でろう付けされる場合がある。しかしながらこれらの条件は小規模な実験のような理想的な条件である場合が多く、大規模かつ量産設備の場合には設備の構造からくる制約や工程上の要件から真空度に劣る、あるいは露点の高い雰囲気になると考えられる。
【0011】
良好なろう付け性を得るには、溶融したろうがステンレス鋼表面上をぬれ広がる必要があるが、ぬれ性にはステンレス鋼上に形成される表面皮膜が影響する。上記のような雰囲気では、Fe、Crの酸化物は還元される条件は維持できたとしても、Fe、Crよりも酸化しやすいTi、Alは酸化物を形成して、ろうのぬれ広がりを阻害して、ろう付け性を劣化させる。こうしたろう付け性を阻害する皮膜形成に寄与するのは固溶しているTi、Alであり、ろう付け温度でも比較的安定な窒化物として存在している場合には皮膜形成には寄与せず、ろうのぬれ広がりを阻害しない。
【0012】
こうした点から、Ti、Al量とろうの濡れ拡がり性との関係を検討した。
後述する実施例と同一の供試鋼および試験条件にてろうのぬれ拡がり性を評価した結果を、
図1に示す。図に示されるように、元素の質量%で、Ti−3N≦0.03、Al≦0.5を満足し、かつ、10(Ti−3N)+Al≦0.5を満足する領域において(但し、上記式中における元素記号は、その元素の含有量(質量%)を示す。また、元素記号の前の数値は定数である。)ろうのぬれ拡がり性が良好であることが判明した。
【0013】
TiないしAl量が上記条件を満足しない材料について、ろう付け熱処理後の表面皮膜を分析したところ、数十から数百nmの厚さで、TiないしAlの濃化した酸化皮膜が一様に形成されており、こうした皮膜形成がろうのぬれ広がりを阻害していると考えられた。
【0014】
Ti、Alと同様に酸化されやすい元素としてSi、Nb、Ca、Mgといった元素があるが、これらの元素においては、酸化皮膜中への濃化は認められるものの、厚く一様な酸化皮膜形成にはいたらず、ろうのぬれ広がり性を阻害しない。
また、EGRクーラにはSUS304やSUS316といったオーステナイトステンレス鋼が使用されているが、オーステナイト中に比べフェライト中の方が元素の拡散が早く、それに伴い酸化皮膜形成も早くなるため、フェライトステンレス鋼の方が良好な成分範囲が限定される。
【0015】
本発明のステンレス鋼が対象とする部材のなかには強度が必要な部材も多く、ろう付け後の強度低下を抑制する必要がある。特に、Niろう付けやCuろう付けのように1000〜1100℃といった高温でろう付けされる場合には、結晶粒粗大化に伴う強度低下を抑制することが重要と考えられた。結晶粒の粗大化を抑制するには析出物によるピン止めが有用であり、析出物としてNbの炭窒化物を活用し、Nbを0.03%以上、C+Nを0.015%以上とすることにより、結晶粒の粗大化抑制に有用なNbの炭窒化物の析出量、安定性が確保されることが知見された。
【0016】
本発明は、上記の知見を基になされたろう付け性に優れたフェライト系ステンレス鋼であり、その要旨とするところは下記のとおりである。
(1)質量%で、C:0.03%以下、N:0.05%以下、C+N:0.02〜0.031%、Si:0.12〜1.5%、Mn:0.02〜2%、Cr:15〜22%、Nb:0.2〜1%、Al:0.1%以下を含有し、さらに、Tiを下記〔1〕および〔2〕式を満足する範囲に制限し、残部がFeおよび不可避不純物からなるフェライト系ステンレス鋼であり、
板厚0.4mmの冷延鋼板とした場合に板厚方向に2個以上の結晶粒が存在することを特徴とするろう付け性に優れたろう付け接合により組み立てられる部材用フェライト系ステンレス鋼。
Ti−3N≦0.03 ・・・〔1〕
10(Ti−3N)+Al≦0.5 ・・・〔2〕
ここで、Ti、N、Alは各元素の質量%で表される含有量である。
(2)質量%で、C:0.03%以下、N:0.05%以下、C+N:0.02〜0.031%、Si:0.12〜1.5%、Mn:0.02〜2%、Cr:15〜22%、Nb:0.2〜1%、Al:0.1%以下を含有し、更に、Tiを下記(1)および(2)式(但し、(1)および(2)式中における元素記号は、その元素の含有量(質量%)を示す。また、元素記号の前の数値は定数である。)を満足する範囲に制限し、残部がFeおよび不可避不純物からなるフェライト系ステンレス鋼を、板厚0.4mmの冷延鋼板に製造し、1100℃、5×10−3torrの真空雰囲気で10分加熱した後、常温まで冷却した場合に、板厚方向に2個以上の結晶粒が存在することを特徴とするろう付け性に優れたろう付け接合により組み立てられる部材用フェライト系ステンレス鋼。
Ti−3N≦0.03 ・・・(1)
10(Ti−3N)+Al≦0.5 ・・・(2)
【0017】
(
3)更に、質量%で、Mo:3%以下、Ni:3%以下、Cu:3%以下、V:3%以下、W:5%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)
又は(2)に記載のろう付け性に優れたろう付け接合により組み立てられる部材用フェライト系ステンレス鋼。
(
4)更に、質量%で、Ca:0.002%以下、Mg:0.002%以下、B:0.005%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)
〜(3)のいずれかに記載のろう付け性に優れたろう付け接合により組み立てられる部材用フェライト系ステンレス鋼。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ろう付けに優れたフェライト系ステンレス鋼であって、EGRクーラ、オイルクーラ、自動車や各種プラントで使用される熱交換器類や、自動車尿素SCRシステムにおける尿素水タンク、自動車のフューエルデリバリ系部品など形状が複雑な部品や、小型で精密な部品のようにろう付け接合により製作される部材に好適なステンレス鋼を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ろうのぬれ拡がり性とTi、Al量の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、特に、TiとAl、ならびにNbとC+Nについての上述のような知見に基づいてなされたものである。以下に本発明で規定される鋼の化学組成についてさらに詳しく説明する。なお、%は質量%を意味する。
【0021】
C:耐粒界腐食性、加工性を低下させるため、その含有量を低く抑える必要がある。そのため、0.03%以下とした。しかしながら、過度に低めることはろう付け時の結晶粒粗大化を助長し、かつ精練コストを上昇させるため、0.002%以上とすることが望ましい。より望ましくは0.005〜0.02%である。
【0022】
N:耐孔食性に有用な元素であるが、耐粒界腐食性、加工性を低下させるため、その含有量を低く抑える必要がある。そのため、0.05%以下とした。しかしながら、過度に低めることはろう付け時の結晶粒粗大化を助長し、精練コストを上昇させるため、0.002%以上とすることが望ましい。より望ましくは0.005〜0.03%である。
【0023】
C+N:Nbの炭窒化物によりろうづけ時の加熱による結晶粒粗大化を抑制して、部材の強度低下を抑制するという観点から、0.015%以上必要である。望ましくは0.02%以上である。
【0024】
Si:脱酸元素として有用であると共に、耐食性に有効な元素であるが、加工性を低下させるため、その含有量を0.02〜1.5%とした。望ましくは0.1〜1%である。
【0025】
Mn:脱酸元素として有用であるが、過剰に含有させると耐食性を劣化させるので、0.02〜2%とした。望ましくは、0.1〜1%である。
【0026】
Cr:想定される腐食環境としては、大気環境、冷却水環境、排ガス凝縮水環境などが挙げられ、こうした環境での耐食性を確保する上で、少なくとも10%以上必要である。含有量を増加させるほど耐食性は向上するが、加工性、製造性を低下させるため、上限を22%以下とした。望ましくは15〜21%である。
【0027】
Ti:C、Nを固定し、溶接部の耐粒界腐食性、加工性などを向上する目的で添加される場合もあるが、前述のようにろう付け性を阻害する元素であり、不純物としての含有も含めその含有量を厳しく制限する必要がある。そのためTiの含有範囲をTi−3Nで0.03%以下とする。望ましくは0.02%以下である。加工性など特に要求されない場合には、Tiは無添加としてもよい。
【0028】
Nb:Nbの炭窒化物によりろうづけ時の加熱による結晶粒粗大化を抑制して、部材の強度低下を抑制するという観点から重要な元素である。また、高温強度の向上や溶接部の粒界腐食性の向上に有用であり、0.03%以上含有させる必要がある。しかしながら、過剰の添加は、加工性や製造性を低下させるため、上限を1%以下とした。望ましくは0.2〜0.8%、さらに望ましくは0.3〜0.6%である。なお、粒界腐食性を確保する観点からNb/(C+N)を8以上(但し、上記式中における元素記号は、その元素の含有量(質量%)を示す。)とすることが望ましい。
【0029】
Al:脱酸効果等精練上有用な元素であり、また、成形性を向上させる効果がある。特に下限は規定しないが、この効果を安定して得るためには0.002%以上含有するのが好ましい。しかしながら、0.5%を超えて含有させると、本発明で最も重要な特性であるろう付け性を阻害するため0.5%以下とした。望ましくは0.003〜0.1%である。SiなどAl以外の元素で脱酸する場合には、Alは無添加としてもよい。
【0030】
10(Ti−3N)+Al≦0.5:本発明における最も重要な特性であるろう付け性において、良好なろうのぬれ拡がり性を得るため、
図1を用いて説明したように、式:10(Ti−3N)+Al≦0.5を、式:Ti−3N≦0.03と同時に満足させる必要がある。
【0031】
以上が本発明のフェライト系ステンレス鋼の基本となる化学組成であるが、本発明では、更に、次のような元素を必要に応じて含有させることができる。
【0032】
Mo:耐食性を向上させる上で、3%以下の範囲で含有させることができる。安定した効果が得られるのは0.3%以上である。過剰の添加は、加工性を劣化させると共に、高価であるためコストアップにつながる。したがって、0.3〜3%含有させるのが望ましい。
【0033】
Ni:耐食性を向上させる上で、3%以下の範囲で含有させることができる。安定した効果が得られるのは0.2%以上である。過剰の添加は、加工性を劣化させると共に、高価であるためコストアップにつながる。したがって、0.2〜3%含有させるのが望ましい。
【0034】
Cu:耐食性を向上させる上で、3%以下の範囲で含有させることができる。安定した効果が得られるのは0.2%以上である。過剰の添加は、加工性を劣化させると共に、高価であるためコストアップにつながる。したがって、0.2〜3%含有させるのが望ましい。
【0035】
V:耐食性を向上させる上で、3%以下の範囲で含有させることができる。安定した効果が得られるのは0.2%以上である。過剰の添加は、加工性を劣化させると共に、高価であるためコストアップにつながる。したがって、0.2〜3%含有させるのが望ましい。
【0036】
W:耐食性を向上させる上で、5%以下の範囲で含有させることができる。安定した効果が得られるのは0.5%以上である。過剰の添加は、加工性を劣化させると共に、高価であるためコストアップにつながる。したがって、0.5〜5%含有させるのが望ましい。
なお、Mo、Ni、Cu、V、Wの1種または2種以上の合計は、コストアップなどの点から6%以下が望ましい。
【0037】
Ca:脱酸効果等精練上有用な元素であり、0.002%以下含有させることができる。含有させる場合は、安定した効果が得られる0.0002%以上が望ましい。
【0038】
Mg:脱酸効果等精練上有用な元素であり、また、組織を微細化し、加工性、靭性の向上にも有用であり、0.002%以下含有させることができる。含有させる場合は、安定した効果が得られる0.0002%以上が望ましい。
【0039】
B:2次加工性を向上させるのに有用な元素であり、0.005%以下含有させることができる。含有させる場合は、安定した効果が得られる0.0002%以上が望ましい。
【0040】
なお、不可避不純物であるPについては、溶接性の観点から0.04%以下とすることが望ましい。また、Sについても、耐食性の観点から0.01%以下とすることが望ましい。
【0041】
以下、実施例を用いて、本発明の実施可能性及び効果についてさらに説明する。
【実施例】
【0042】
表1に示す化学組成を有する鋼を溶製し、熱延、冷延、焼鈍工程を経て、板厚0.4mmの冷延鋼板を製造した。
この冷延鋼板より、幅50mm、長さ70mmの試験片を切り出した後、エメリー紙にて片面を#400まで湿式研磨を施した。その後、研磨面上に0.1gのNiろうを置き、1100℃、5×10
−3torrの真空雰囲気で10分加熱した後、常温まで冷却し、加熱後の試験片のろう面積を測定した。
【0043】
ろう付け性について、加熱前のろう面積に対して加熱後のろう面積が2倍以上あるときは○、2倍未満のときは×とした。
その後、試験片の断面ミクロ組織を観察した。圧延方向に平行に長さ20mmの範囲にわたって、板厚方向に存在する結晶粒の数を測定し、板厚方向に2個以上の結晶粒が存在するものを○、1個しか存在しないものを×とした。
【0044】
試験結果を同じく表1に示す。
本発明範囲内にあるNo.1〜10の鋼は、ろうのぬれ拡がり性が良好であると共に、結晶粒の粗大化が抑制されている。(1)式、(2)式共に満足しないNo.11、No.12、No.15ならびにAlの範囲が本発明から外れるNo.13、(2)式を満足しないNo.14は、いずれもろうのぬれ拡がり性に劣っている。Nb量が本発明範囲外にあるNo.11、No.14は、顕著な結晶粒の粗大化が認められた。
【0045】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のろう付けに優れたフェライト系ステンレス鋼は、EGRクーラ、オイルクーラ、自動車や各種プラントで使用される熱交換器類や、自動車尿素SCRシステムにおける尿素水タンク、自動車のフューエルデリバリ系部品など形状が複雑な部品や、小型で精密な部品のようにろう付け接合により製作される部材に好適である。