特許第5788972号(P5788972)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5788972モニタ機能を有するノイズリダクション回路
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5788972
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】モニタ機能を有するノイズリダクション回路
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/10 20060101AFI20150917BHJP
   G10K 11/178 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   H04R1/10 101B
   G10K11/16 H
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-510048(P2013-510048)
(86)(22)【出願日】2011年4月21日
(65)【公表番号】特表2013-526798(P2013-526798A)
(43)【公表日】2013年6月24日
(86)【国際出願番号】SG2011000157
(87)【国際公開番号】WO2011142722
(87)【国際公開日】20111117
【審査請求日】2014年3月27日
(31)【優先権主張番号】12/780,720
(32)【優先日】2010年5月14日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500268395
【氏名又は名称】クリエイティブ、テクノロジー、リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】チェア チェー シン
(72)【発明者】
【氏名】コー フオイ ル レイチェル
(72)【発明者】
【氏名】エヌジー ブーン チェオン レイモンド
【審査官】 下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−300894(JP,A)
【文献】 特開平06−343195(JP,A)
【文献】 特開2012−063483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10
G10K 11/00 − 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのスピーカードライバーを備えたヘッドホン用の、モニタ機能を有するノイズリダクション回路であって、
周囲音を、対応する電気的な周囲信号に変換するように構成されており、前記スピーカードライバーの振動板に隣接して前記ヘッドホンのイヤーカップ内に配置されているマイクロホンと、
前記対応する電気的な周囲信号に基づいて、前記周囲音に対するアクティブ型ノイズリダクションを実行するように構成されている、アクティブ型ノイズリダクションパスと、
前記周囲音における音声信号の可聴性を増大するために、前記対応する電気的な周囲信号における人の音声領域に属する前記イヤーカップによって減衰された周波数成分を復元するように構成されている、音声信号補償パスと、
前記対応する電気的な周囲信号を、前記アクティブ型ノイズリダクションパスあるいは前記音声信号補償パスに、選択的に伝達するように構成されている、スイッチング装置と、を備えているノイズリダクション回路。
【請求項2】
前記音声信号補償パスが、前記音声領域に属する減衰された信号の周波数応答を強めるように構成されている、音声品質補償器を備えている、請求項1に記載のノイズリダクション回路。
【請求項3】
前記音声品質補償器が、バンドパスフィルタ、および、このバンドパスフィルタの出力部に結合された信号増幅器を含んでいる、請求項2に記載のノイズリダクション回路。
【請求項4】
前記音声品質補償器が、並列に接続された複数のバンドパスフィルタを含んでいる、請求項2に記載のノイズリダクション回路。
【請求項5】
前記音声品質補償器がハイパスフィルタを含んでいる、請求項2に記載のノイズリダクション回路。
【請求項6】
前記周波数応答が、ヘッドホンのイヤーカップの構造およびデザインの双方に依存しており、この周波数応答が、音声領域における200Hzから1kHzまでの範囲にある、
請求項2に記載のノイズリダクション回路。
【請求項7】
対応する電気的な周囲信号を増幅するように設定されているマイクロホンアンプをさらに備えており、
前記スイッチング装置が、増幅された対応する電気的な周囲信号を受信するように設定されている、請求項1に記載のノイズリダクション回路。
【請求項8】
前記アクティブ型ノイズリダクションパスが、アクティブ型ノイズ相殺フィルタを備えている、請求項1に記載のノイズリダクション回路。
【請求項9】
前記マイクロホンが、ユーザーに対向するように設定されている、請求項1に記載のノイズリダクション回路。
【請求項10】
前記マイクロホンが、スピーカードライバーの振動板の前に配置されている、請求項1に記載のノイズリダクション回路。
【請求項11】
請求項1に記載のノイズリダクション回路を備えたヘッドホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モニタ機能を有するノイズリダクション回路に関する。このノイズリダクション回路は、特に、ヘッドホン用であるけれども、これに限られるわけではない。
【背景技術】
【0002】
パッシブ型ノイズリダクションを有するヘッドホンは、通常、耳を完全に覆う(すなわち、耳覆い型の)イヤークッションを備えている。このクッションは、パッシブ型リダクションを実施するか、あるいは、周囲ノイズを遮断する。リダクションの及ぶ範囲は、周囲ノイズの性質、および、ヘッドホンのイヤークッションにおける音響特性に、大きく依存する。イヤークッションの特性に起因して、ほとんどのパッシブ型ノイズリダクション・ヘッドホンは、周囲ノイズにおける高周波数成分(約200Hz以上)を減衰するものの、低周波数成分は、ヘッドホンのユーザーに聞こえてしまっている。その結果、このようなパッシブ型ヘッドホンは、ノイズの多い環境下においては、十分な、あるいは効果的なノイズリダクションを実施できていない可能性がある。
【0003】
上記の問題点に対処するために、ヘッドホンに、アクティブ型ノイズリダクション回路が設けられてきている。この回路は、より効果的なノイズ減衰を得るために、周囲ノイズにおける低周波数成分を除去あるいは減衰するように構成されている。理想的には、周囲ノイズの波形が検出され、同質のアンチノイズ波形が生成される。このアンチノイズ波形は、等しい大きさを有する一方、反対の極性を有する。ノイズ波形とアンチノイズ波形との相互作用によって、ノイズ波形が相殺される。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、類似の既知の回路における有用な代替物となる、モニタ機能を有するノイズリダクション回路を提供することにある。
【0005】
本発明における第1の態様では、少なくとも1つのスピーカードライバーを備えたヘッドホン用の、モニタ機能を有するノイズリダクション回路が提供される。この回路は、
周囲音を、対応する電気的な周囲信号に変換するように構成されており、前記スピーカードライバーの振動板に隣接して配置されているマイクロホンと、
前記対応する電気的な周囲信号に基づいて、前記周囲音に対するアクティブ型ノイズリダクションを実行するように構成されている、アクティブ型ノイズリダクションパスと、
前記周囲音における音声信号の可聴性を増大するために、前記対応する電気的な周囲信号における音声領域に属する減衰された信号を復元するように構成されている、音声信号補償パスと、
前記対応する電気的な周囲信号を、前記アクティブ型ノイズリダクションパスあるいは前記音声信号補償パスに、選択的に伝達するように構成されている、スイッチング装置と、
を備えている。
【0006】
好ましくは、前記音声信号補償パスは、前記音声領域に属する減衰された信号の周波数応答を強めるように構成されている、音声品質補償器を備えている。前記音声品質補償器は、バンドパスフィルタ、および、このバンドパスフィルタの出力部に結合された信号増幅器を含んでいてもよい。1つの代替例では、前記音声品質補償器は、並列に接続された複数のバンドパスフィルタを含んでいてもよい。他の代替例では、前記音声品質補償器は、ハイパスフィルタを含んでいてもよい。
【0007】
前記周波数応答は、ヘッドホンのイヤーカップの構造およびデザインの双方に依存するものであってもよい。この周波数応答は、音声領域における200Hzから1kHzまでの範囲にある。
【0008】
好ましくは、前記ノイズリダクション回路は、対応する電気的な周囲信号を増幅するように設定されているマイクロホンアンプをさらに備えており、前記スイッチング装置が、増幅された対応する電気的な周囲信号を受信するように設定されている。
【0009】
前記アクティブ型ノイズリダクションパスは、アクティブ型ノイズ相殺フィルタを備えていることが有利である。前記マイクロホンは、ユーザーに対向するように設定されていてもよい。追加的あるいは代替的に、前記マイクロホンは、スピーカードライバーの振動板の前に配置されていてもよい。
【0010】
当然のことながら、上述したノイズリダクション回路は、ヘッドホンに組み込まれていてもよい。これは、本発明の第2の態様となる。
【0011】
次に、本発明の実施形態を、以下の添付図面を参照しながら例示する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明のアクティブ型ノイズリダクション回路を含むヘッドホン100の概略図である。
図2図2は、音声品質補償器を含む、図1に示したアクティブ型ノイズリダクション回路を示すブロック図である。
図3図3は、図1に示したヘッドホン100によって得られる、一般的なパッシブ型遮断周波数応答を示す。
図4図4は、図2に示した音声品質補償器を示す概略図である。
図5図5は、図2に示した音声品質補償器の効果を示すグラフである。
図6図6は、図4に示した音声品質補償器の変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
図1は、ヘッドホン100を示す概略図である。ヘッドホン100は、一対のイヤーカップ102a、102bを含んでおり、これらは、ヘッドバンド104によって接続されている。各イヤーカップ102a、102bは、耳覆い型のイヤークッション106a、106bを含んでおり、耳の周囲にフィットするように設定されている。イヤーカップ102a、102bのそれぞれは、振動板110を有するスピーカードライバー108を含んでいる(図1では、図の複雑化を避けるために、一方だけを示している)。ヘッドホン100は、さらに、モニタ機能を有するアクティブ型ノイズリダクション回路200(図1には示されていない)を含んでいる。この回路200は、マイクロホン112を含んでいる。マイクロホン112は、振動板110の前に隣接するように配置されており、ユーザーの耳に対向するように設定されている。マイクロホン112は、ユーザーの耳に届く周囲ノイズを検出するために、ユーザーの耳に対向するように配置されている。スピーカードライバー108から流れるオーディオ出力については、アクティブ型ノイズ相殺回路200による位相反転を用いて相殺することができる。アクティブ型ノイズ相殺回路200については、この説明における後続のセクションにおいて、詳細に説明する。
【0014】
マイクロホン112は、スピーカードライバーにおける振動板110の前のごく近くに配置されているとともに、耳に届くはずの無用な周囲ノイズをより正確に拾うために、耳に対向するように設定されている。モニタモードでは、マイクロホン112は、さらに、話し声あるいは会話のような、有用な周囲音を拾うためにも使用される。本発明の好ましい実施形態について、詳細に説明する。この実施形態では、マイクロホン112を使用することによって、無用な周囲ノイズが正確に拾われるとともに、有用な周囲音が十分に補償される。
【0015】
図2は、アクティブ型ノイズリダクション回路200のブロック図である。この回路200は、ヘッドホン100における一方のイヤーカップ102b内に組み込まれている。アクティブ型ノイズリダクション回路200は、イヤーカップ102bの筐体内に収容されており、マイクロホンプリアンプ202、第1スイッチング装置204、アンチノイズ相殺(ANC)フィルタ206、音声品質補償器208、第2スイッチング装置210、加算器212、および、ヘッドホンアンプ214を含んでいる。
【0016】
上述したように、マイクロホン112は、無用な音波と有用な音波との双方を受信するように設定されている。マイクロホン112は、これを電気エネルギーに変換し、これをフィードバック信号としてマイクロホンプリアンプ202に供給する。マイクロホンプリアンプ202は、フィードバック信号を第1スイッチング装置204に伝達する前に、フィードバック信号のゲインをブーストする。第1スイッチング装置204は、スイッチ204aと、2つのコネクタ204b、204cとを含んでいる。スイッチ204aが第1コネクタ204bに接続されると、ANCフィルタ206に伝達されるブーストされたフィードバック信号のための、アクティブ型ノイズリダクションパスが生成される。スイッチ204aが、第2コネクタ204cに接続されると、音声品質補償器208に向かうブーストされたフィードバック信号のための、音声信号補償パスが生成される。
【0017】
ANCフィルタ206は、周囲ノイズにおける低周波数成分が相殺される際、パッシブ型イヤークッション106bの不備を補償するように構成されている。これに関連して、ANCフィルタ206は、ブーストされたフィードバック信号をフィルタリングおよび増幅するように設定されている。これにより、無用な周囲音(すなわちノイズ)の低周波数成分を、第2スイッチング装置210に伝達することが可能となる。第2スイッチング装置210は、第1スイッチング装置204と同一の構成を有していていもよい。第2スイッチング装置210は、スイッチ210aと、2つのコネクタ210b、210cとを含んでいる。スイッチ210aが第1コネクタ210bに接続されると、ANCフィルタ206から加算器212に向かって、フィルタリングされたフィードバック信号が伝達される。
【0018】
加算器212は、2つの入力部212a、212bと、出力部212cとを有している。第1入力部212aは正の入力部として構成されている一方、第2入力部212bは、負の入力部として構成されている。第1入力部212aは、オーディオ補償器216に接続されている。オーディオ補償器216は、音源218に接続されている。音源218は、音楽あるいはビデオのサウンドトラックなどのオーディオ信号を、イヤーカップ102a、102bに伝達あるいは流入する。アクティブ型ノイズ相殺の実施に伴って、音源218の一部が歪んだり失われたりする(品質が劣化する)可能性もある。この場合、オーディオ補償器216が、オーディオ入力を、オリジナルの波形に復元し、これを、オーディオ入力として加算器212の第1入力部212aに供給する。
【0019】
第2入力部212bは、第2スイッチング装置210に接続されている。その極性が負であることを考慮すると、これは、ANCフィルタ206からのフィルタリングされたフィードバック信号の極性を反転する。これにより、アンチノイズ信号が生成される。加算器212の出力は、オーディオ入力とアンチノイズ信号とを含む結合信号であり、ヘッドホンアンプ214に伝達される。ヘッドホンアンプ214は、ヘッドホンドライバー108によって処理される結合信号のゲインを、ブーストするように設定されている。結合信号を受信すると、ヘッドホンドライバー108は、結合信号を、アンチノイズ信号およびオーディオ入力の音波に変換する。アンチノイズ信号は、耳に届く低周波のノイズ成分を相殺するためのものであり、イヤークッション106a、106bによっては減衰されない。このようにして、アクティブ型のノイズリダクションあるいはノイズ相殺が実現される。
【0020】
ヘッドホン100のユーザーにとって有利なことに、ユーザーは、必要なときに、たとえば、ヘッドホン100の使用時に他人と会話しているときに、周囲音を聞き取ることが可能である。このことは、ヘッドホン100の使い勝手、および、話し声(会話)の可聴性を改善する。第1および第2スイッチング装置204、210は、トグルとして使用される。このトグルは、フィードバック信号が「周囲音が遮蔽/減少される、アクティブ型ノイズリダクションパス」あるいは「ユーザーの可聴性を増すために、周囲音(たとえば発話)が増幅される、音声信号補償パス」のいずれに伝達されるのか、をヘッドホン100のユーザーが選択することを可能とする。マイクロホン112の位置に起因して、このことは、ヘッドホン100の外部における有用な周囲音をマイクロホン112が拾うことを、困難にしている。しかしながら、この点は、音声品質補償器208によって対処される。
【0021】
音声品質補償器208は、第1スイッチング素子204の第2コネクタ204cに接続された入力部と、第2スイッチング素子210の第2コネクタ210cに接続された出力部と、を有している。音声品質補償器208を起動するために、ユーザーは、「第1スイッチング装置204のスイッチ204a、および、第2スイッチング装置210のスイッチ210aを、それぞれ、第2コネクタ204cおよび210cに接続すること」を選択することによって、モニタモードを起動する。当然ながら、音声品質補償器208を通過する信号は、ずれた位相を有している。このため、第2スイッチング素子210は、オーディオ補償器216を通過する信号の位相と、音声品質補償器208を通過する信号の位相とを、一致させることを求められる。
【0022】
音声品質補償器208の構成は、図1に示したアクティブ型ノイズリダクション・ヘッドホン100のパッシブ型遮断周波数応答の研究に基づいている。一般的なパッシブ型遮断周波数応答が、図3に示されている。周囲ノイズの低周波数成分は、fよりも低く、イヤーカップ102a、102bの(イヤークッション106a、106bによって得られる)パッシブ型遮断によっては、遮蔽されない。周囲ノイズにおけるfよりも高い高周波数成分は、パッシブ型遮断によって大きく減少する。周波数fにおける、fでのオーディオレベルからの減少分は、−20dBよりも大きくなる可能性がある。通常の会話における人の音声領域は、一般的には、90Hzから400Hzまでの範囲にある。基本的な音声周波数およびその高調波は、個人の完全な音声プロファイルを示す。したがって、音声音補償器208のない場合、ユーザーは、ヘッドホン100を使用しているときには、通常の会話をしにくくなる。たとえば、パッシブ型遮断が、せいぜい200Hzから減衰を開始する場合、人の音声領域の一部だけが聞き取られることになり、話し声が不明瞭となることは明らかである。このため、音声品質補償器208は、会話における聞き取り可能な話し声がヘッドホン100のユーザーに聞こえるように、fからfまでの周囲ノイズの減衰レベルを、0dBに回復するように構成されている(図3の破線を参照)。
【0023】
ヘルムホルツ共鳴のために、一般的なフィードバックアクティブ型のノイズ相殺ヘッドホンは、周波数fにおいて、ハイピッチノイズを連続的に生成する。fおよびfの値は、イヤーカップ102a、102bの構造およびデザインの双方に依存することに注意されたい。しかしながら、fおよびfの値の双方が90Hzから400Hzまでの人の音声領域に含まれる可能性は、非常に高い。したがって、当然ながら、音声品質補償器208による音声信号の復元では、f以上の周波数に関しては、フィルタリングすることが好ましい。最適な性能を発揮するためには、音声品質補償器208は、fからfまでの範囲で、減衰されたオーディオレベルを復元するように動作する。このことは、可聴的な周波数帯域幅を、音声領域の基本周波数およびその2次および3次の高調波を含むように、効果的に広げる。その結果、これにより音声領域の完全性が維持されるとともに、ユーザーは、大きい鮮明な会話を楽しむことが可能となる。
【0024】
音声品質補償器208の概略図が、図4に示されている。これは、多重フィードバック(MFB)バンドパスフィルタ220および信号増幅器222を含んでいる。MFBフィルタ220は、オペアンプU100を含んでいる。このオペアンプU100は、負極性の入力部226、接地されている正極性の入力部228、および、フィルタ出力部230を備えている。負極性の入力部226は、コンデンサC100、C102およびレジスタR100、R101を介して、補償器入力部224に電気的に結合されている。補償器入力部224は、第1スイッチング装置204の第2コネクタ204cに接続されている。MFBフィルタ200は、フィードバックレジスタR102およびフィードバックコンデンサC101を含んでいる。これらは、フィルタ出力部230と負極性の入力部226との間に、結合されている。
【0025】
信号増幅器222は、反転増幅器として構成されたオペアンプU101を含んでいる。オペアンプU101は、負極性の入力部232、接地されている正極性の入力部234およびアンプ出力部236を備えている。アンプ出力部236は、第2スイッチング装置210の第2コネクタ210cに、電気的に結合されている。レジスタR104は、アンプ出力部236と負極性の入力部232との間に結合されている。これは、レジスタR103とともに、反転増幅器U101に関するゲインを与える。負極性の入力部232は、DC遮蔽コンデンサC103を介して、MFBバンドパスフィルタ220のフィルタ出力部230に結合されている。
【0026】
MFBバンドパスフィルタ220は、中間周波数を、ヘッドセット100のパッシブ型遮断プロファイルに基づいて選択された周波数の中心とするとともに、高いゲインおよび高い品質係数を有するように構成されている。中間周波数は、図3に示すように、ヘルムホルツ共鳴を避けるために、fとfとの中心にある。表1は、図4に示した回路において使用されている部材と、以下に示すフィルタゲイン、品質係数および中間周波数を得るための、各部材の値とを示している。
【0027】
フィルタゲイン、K=−16.7
品質係数、Q=8.1
中間周波数、f=915Hz
【0028】
【表1】
当然ながら、表1に示した様々な部材の値は、単なる例示であり、いかなる意味においても限定であると見なされるべきものではない。
【0029】
ヘッドホン100のユーザーが、モニタモードを選択したいと考えた場合、ユーザーは、スイッチ204a、210aを選択する。これにより、マイクロホンアンプ202からのブーストされたフィードバック信号が、音声品質補償器208に伝達される。これにしたがって、ANCフィルタ206のANC機能が停止する。これは、マイクロホン112によって拾われた周囲の信号あるいは音が、ANCフィルタ206の代わりに、音声品質補償器208に伝達されること、を意味する。上述したように、音声品質補償器208は、パッシブ型遮断によって、減衰された信号(特に、音声帯域の信号)を、復元するように構成されている。
【0030】
図5は、音声品質補償器208の効果を示すグラフである。このグラフは、音声品質補償器208を通過しない第1発話信号の、第1周波数応答238(破線)を含んでいる。周囲信号が、(イヤーカップ106a、106bによる)パッシブ型遮断によって、約200Hz以上から、減衰し始めていることがわかる。このグラフは、さらに、音声品質補償器208を通過した第2発話信号の、第2周波数応答240を含んでいる。第1および第2発話信号の双方は、マイクロホン112によって拾われる。そして、以下のことがわかる。すなわち、音声品質補償器208が、周波数200Hzから1kHzまでの範囲で、第2発話信号の周波数応答240を、ブーストあるいは拡張し、特に、岐点Aによって示されるように、音声帯域幅が、約700Hzのマークにおいて、0dBに復元される。このように、音声品質補償器208は、パッシブ型遮断による減衰を補償することが可能である。
【0031】
使用時に、ヘッドホン100のユーザーが、音源218からイヤーカップ102a、102bに流れるオーディオを聞いている場合、第1スイッチング装置204のスイッチ204a、および、第2スイッチング装置210のスイッチ210aが、それぞれ、第1コネクタ204b、210bに接続されるように、選択される。マイクロホン112は、周囲信号を拾うが、そのほとんどが低周波数成分となるはずである。なぜならば、高周波数成分は、イヤークッション106a、106bによって得られるパッシブ型遮断によって、遮蔽されるからである。そして、マイクロホン112は、拾った周囲信号を、フィードバック信号として、マイクロホンアンプ202に伝達し、さらに、周囲信号は、ANCフィルタ206に伝達される。その結果、フィードバック信号の逆位相信号が生成され、マイクロホン112によって拾われた周囲信号が相殺される。
【0032】
ユーザーが、ヘッドホン100を外すことなく、会話に参加したり周囲音を聞いたりすることを望む場合、ユーザーは、第1スイッチング装置204のスイッチ204aおよび第2スイッチング装置210のスイッチ210aを、それぞれ第2の接触部204c、210cに接続するように、選択する。これにより、マイクロホン112からのフィードバック信号は、ANCフィルタ206に代わって、音声品質補償器208に伝達される。音声品質補償器208は、フィードバック信号のゲインをブーストするように、(マイクロホンアンプ202からの)フィードバック信号を処理する。その結果、ユーザーは、明瞭な周囲音を聞くことができる。したがって、ユーザーは、よりしっかりと会話することができる。
【0033】
連結されたMFBバンドパスフィルタが使用されている場合には、図4に示した構成に代えて、より広い音声帯域幅を復元することができる。図6は、その例を示している。詳細に述べるために図6を参照すると、図4に示した2つのMFBフィルタ220’、220”が、並列に連結されている。入力部は、第1スイッチング装置204の第2コネクタ204cに結合されている。連結されたMFBフィルタ220’、220”の出力部は、信号増幅器222’に結合されている。この信号増幅器222’は、図4に示した信号増幅器222と同様の構成を有しており、同様に、アナログ加算器/加算器として機能する。連結されたMFBフィルタ220’、220”は、図4に示した単独のフィルタ構成に比して、音声の品質を高めることが可能である。信号増幅器222および連結されたMFBフィルタ220’、220”における様々な部材の値は、所望される効果に基づいて選択される。この点は、当業者の知識の及ぶ範囲である。特に、周波数帯における異なる位置において中間周波数が中心となるように、各バンドパスフィルタ220’、220”が、独自のパラメータを有している。このように、この回路デザインは、より広い帯域を補償すること、および、音声の品質を復元することが可能である。さらに、MFBバンドパスフィルタ220’、220”が並列接続で連結されている場合、各フィルタは、選択された中間周波数を補償する。さらに、より広い帯域が復元されることさえ可能である。
【0034】
上述した実施形態から明らかなように、マイクロホン112は、スピーカードライバー108に搭載されているか、あるいは、その近傍に配されており、周囲音(無用な周囲ノイズ、および、会話のような有用な周囲音の双方)を拾う。このようなマイクロホン112を有することは、アクティブ型相殺回路200の回路を単純化する。アクティブ型相殺回路200のモードに応じて、拾われる周囲音は、周囲音をアクティブに相殺するための逆位相信号を生成するために使用されるか、あるいは、周囲音における特定の成分の周波数応答をブーストするために使用される。換言すれば、マイクロホン112は、実質的に、無用な周囲音および有用な周囲音を拾う、という二重の役割を果たす。
【0035】
上述した実施形態は、制限的に解釈されるべきものではない。たとえば、マイクロホン112は、ユーザーの耳に対向していることが好ましい。けれども、マイクロホン112は、周囲音を拾うために、この音が有用な周囲音(たとえば音声)であるか無用の周囲音であるかに関わらず、他の位置に配置されていてもよい。
【0036】
音声品質補償器208は、バンドパスフィルタとして記述されているけれども、ハイパスフィルタであってもよい。上述した実施形態は、MFBフィルタにおける2つの例を示している。しかし、当然ながら、音声の品質を高めるために、多数のMFBフィルタが連結されてもよい。これは、ハイパスフィルタが使用されている場合にも、同様である。
【0037】
イヤークッション106a、106bは、耳覆い型であると記載されているけれども、他のタイプ(たとえば、耳内型および耳当て型)を含んでいてもよい。
【0038】
本発明を余すところなく記述したけれども、特許請求されている範囲から逸脱することなく、多くの変形例を形成することが可能であることは、当業者にとっては当然である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6