特許第5789075号(P5789075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5789075
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】インクジェットインク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20150917BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20150917BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   C09D11/30
   B41M5/00 E
   B41J2/01 501
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2009-11631(P2009-11631)
(22)【出願日】2009年1月22日
(65)【公開番号】特開2010-168455(P2010-168455A)
(43)【公開日】2010年8月5日
【審査請求日】2011年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(72)【発明者】
【氏名】江▲崎▼ 直史
(72)【発明者】
【氏名】林 大嗣
【審査官】 桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−350493(JP,A)
【文献】 特開2006−290976(JP,A)
【文献】 特開2007−277342(JP,A)
【文献】 特開2007−106105(JP,A)
【文献】 特開2006−206686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/30
B41J 2/01
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材及び非水溶性溶剤を含有するインクジェットインクであって、
前記色材は、水溶性色材及び水分散性の自己分散性顔料のうち少なくとも1種であり、インク中の水分量が、前記水溶性色材では溶解度から算出される飽和水溶液の水分量より少なく、前記自己分散性顔料では分散限界濃度から算出される分解限界溶液の水分量より少なく、インク全量に対して0.6質量%以上である、インクジェットインク。
【請求項2】
前記水溶性色材が水溶性染料である、請求項1に記載されたインクジェットインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系インクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、流動性の高いインクジェットインクを微細なヘッドノズルからインク粒子として噴射し、上記ノズルに対向して置かれた被印刷体に画像を記録するものであり、低騒音で高速印字が可能であることから、近年急速に普及している。
【0003】
溶剤からみると、インクは大きく、水系タイプインクと非水系タイプインクに分けられる。揮発性溶剤を主体とする溶剤系インクや不揮発性溶剤を主体とするオイル系インクのように、インク用溶媒として水を使用しない非水系インクは、水系インクに比べ乾燥性が良く、印刷適性にも優れている。
【0004】
非水系インクの色材としては、染料と顔料を使用することができるが、染料を用いる場合、発色が良いといった利点がある。
【0005】
非水系タイプのインクでは、油溶性染料が用いられるところ、この油溶性染料は、普通紙に印刷した際に非水系溶媒とともに紙内部に引き込まれやすい傾向がある。その結果、画像濃度が低くなり、裏抜け(印刷物の裏面にインクが浸透する現象)が発生しやすい。
【0006】
染料を用いた非水系タイプのインクの別例として、水溶性染料を溶解した水溶液を非水系溶剤に乳化した油中水型(W/O)エマルションインクがある。特許文献1及び2には、インクジェット用インクとして、油相成分、水と水性染料を主成分とする水相成分、及び乳化剤より構成される油中水滴型エマルジョンインクが開示されている。特許文献3には、着色剤を第1の溶媒に溶解あるいは分散したものからなる芯物質を、芯物質に相溶しない第2の溶媒中に乳化したインクジェット用インクが開示されている。
【0007】
W/Oエマルションインクは、普通紙に印刷したときの裏抜けは少ないが、水への溶解性が低い染料を使用する場合に、画像濃度とインクの保存安定性を両立することが難しいという問題がある。
【0008】
従来のW/Oエマルションインクでは、インク中に染料が完全に溶解する量の水が必要であるため、インク中の染料濃度を高くするためには水分量も多くする必要がある。しかし、インク中の水分量が多くなると、エマルションの乳化安定性が低下することがあり、又は、そもそもW/Oエマルションの形態を形成することができないという問題がある。言い換えれば、従来のW/Oエマルションインクでは、水分量によって染料の含有量に限界があることから、インクの保存安定性を良好に維持するために、水分量を少なくすると染料も少なくなり画像濃度を高くすることができないという問題もある。
【0009】
特許文献4には、非極性有機溶剤に界面活性剤を溶解した逆ミセル溶液と、染料水溶液との混合液から形成されたインクジェット用油性インクが開示されている。しかしながら、W/Oエマルションインクと同様に、インク中に染料が完全に溶解する量の水が必要であるため、保存安定性を良好に維持しながら、画像濃度を高めることが難しいという問題がある。
【0010】
また、自己分散性顔料を用いた非水系インクジェットインクにおいても、上記した染料を用いる場合と同様に、インク中に自己分散性顔料が完全に分散する量の水が必要であるため、保存安定性を良好に維持しながら、画像濃度を高めることが難しいという問題がある。
【0011】
このように、水溶性又は水分散性の色材を非水系インクジェットインクに用いる場合には、保存安定性と画像濃度の点で問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平4−170475号公報
【特許文献2】特開平4−183762号公報
【特許文献3】特開平5−9421号公報
【特許文献4】特開2002−212466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来技術には上記した問題がある。そこで、本発明の目的としては、インクの保存安定性に優れ、画像濃度を高くすることができる非水系インクジェットインクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一構成としては、色材及び非水溶性溶剤を含有する非水系インクジェットインクであって、前記色材は、水溶性又は水分散性であり、インク中の水分量が、前記色材を溶解又は分散するために必要な水の量より少ない、非水系インクジェットインクである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、インクの保存安定性に優れ、画像濃度を高くすることができる非水系インクジェットインクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施の形態について説明するが、本実施の形態における例示が本発明を限定することはない。
【0017】
本発明の非水系インクジェットインク(以下、単にインクと称することがある)としては、色材及び非水溶性溶剤を含有する非水系インクジェットインクであって、色材は、水溶性又は水分散性であり、インク中の水分量が、色材を溶解又は分散するために必要な水の量より少ないことを特徴とする。このようなインクは、インクの保存安定性に優れ、画像濃度を高くすることができる。
【0018】
本発明によれば、インク中の水分量が色材を溶解又は分散するために必要な水の量よりも少ないため、インク中の水分量に対し、色材の含有量が多いインクを得ることができる。インク中の水分量を少なく抑えながら、色材の含有量を多くすることで、保存安定性を良好に維持しながら、高濃度の画像を得ることができる。すなわち、インク中の水分量が少ないことで、インク中の水の乳化又は可溶化を安定に保ち、保存安定性を良好に維持することができる。また、インク中の水分量に対して、色材の含有量が多いため、保存安定性を良好に維持しながら、画像濃度を高めることができる。
【0019】
また、本発明によれば、水溶性又は水分散性の色材にあらゆる種類を用いても、低水分量で高濃度の色材を含有させることができる。例えば、水溶性又は水分散性であっても低溶解度又は低分散能の染料又は顔料に対しても効果的である。また、一般的に各種堅牢度を高めた染料は水への溶解性が低い上に染料濃度を高くしなければ充分な着色力が得られないものが多いが、このような染料に対しても効果的である。
【0020】
本発明の非水溶性溶剤としては、特に限定されず、例えば、炭化水素溶剤、エステル溶剤、アルコール溶剤、高級脂肪酸溶剤等を使用することができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。2種以上を混合して使用する場合には、混合液は単一の連続する相を形成する必要がある。
【0021】
炭化水素溶剤としては、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤等が挙げられる。脂肪族炭化水素溶剤及び脂環式炭化水素系溶剤としては、新日本石油社製「テクリーンN−16、テクリーンN−20、テクリーンN−22、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、AF−4、AF−5、AF−6、AF−7」(いずれも商品名)、新日本石油化学社製「日石アイソゾール、ナフテゾール」(いずれも商品名)、エクソンモービル社製「IsoparG、IsoparH、IsoparL、IsoparM、ExxolD40、ExxolD80、ExxolD100、ExxolD140、ExxolD140」(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0022】
エステル溶剤としては、ラウリル酸メチル、ラウリル酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソステアリル、パルミチン酸イソオクチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、リノール酸メチル、リノール酸イソブチル、リノール酸エチル、イソステアリン酸イソプロピル、大豆油メチル、大豆油イソブチル、トール油メチル、トール油イソブチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、モノカプリン酸プロピレングリコール、トリ2エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリ2エチルヘキサン酸グリセリル等が挙げられる。
【0023】
アルコール溶剤としては、イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール等が挙げられる。
【0024】
高級脂肪酸溶剤としては、イソノナン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、オレイン酸、イソステアリン酸等が挙げられる。
【0025】
非水溶性溶剤の含有量は、後述するインク中の水分量に対応して適宜調整することができるが、例えば、インク全量に対し、40質量%〜95質量%が好ましく、50質量%〜90質量%がより好ましい。
【0026】
本発明の色材は、水溶性又は水分散性であれば特に限定されないが、水溶性染料及び自己分散性顔料のうち少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0027】
水溶性染料としては、特に限定されず、塩基性染料、酸性染料、直接染料、可溶性バット染料、酸性媒染染料、媒染染料、反応染料、バット染料、硫化染料等のうち、水溶性の染料及び還元等により水溶性にされた染料を用いることができる。具体的には、水溶性染料としては、アゾ染料、ローダミン染料、メチン染料、アゾメチン染料、キサンテン染料、キノン染料、フタロシアニン染料、トリフェニルメタン染料、ジフェニルメタン染料、メチレンブルー等を挙げることができる。これらの染料は、いずれか1種が単独で用いられるほか、2種以上が組み合わされて使用されてもよい。
【0028】
本発明によれば、低溶解度の水溶性染料であっても、低水分量でインク中に含有させることができる。そのため、水溶性染料の水に対する25℃における溶解度が、20%以下、さらには10%以下であっても、低水分量でインク中に水溶性染料を高濃度に安定させて含有させることができる。
【0029】
水溶性染料(固形分)の含有量は、インク全量に対して、0.1質量%〜20質量%が好ましく、1質量%〜10質量%の範囲がより好ましく、4.5質量%〜10質量%の範囲が一層好ましい。本発明によれば、染料の溶解に必要な水の量よりインク中の水分量を少なくすることができるため、保存安定性を維持しながら、染料の含有量を多くし、画像濃度を高くすることができる。例えば、インク中の水分量が30質量%以下であっても、水溶性染料の含有量を4質量%以上、より好ましくは4.5質量%以上、一層好ましくは5.0質量%以上とすることができる。
【0030】
自己分散性顔料としては、特に限定されず、化学的又は物理的処理により顔料の表面に親水性官能基が導入された自己分散性顔料を用いることができる。
【0031】
親水性官能基が導入される顔料としては、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、染料系、縮合多環系、ニトロ系、ニトロソ系等の有機顔料(ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウォッチングレッド、ジスアゾイエロー、ハンザイエロー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー、アニリンブラック等);コバルト、鉄、クロム、銅、亜鉛、鉛、チタン、バナジウム、マンガン、ニッケル等の金属類、金属酸化物及び硫化物、ならびに黄土、群青、紺青等の無機顔料、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック類を用いることができる。これらの顔料は、いずれか1種が単独で用いられるほか、2種以上が組み合わせて使用されてもよい。
【0032】
また、自己分散性顔料に導入させる親水性官能基としては、イオン性を有するものが好ましく、顔料表面をアニオン性又はカチオン性に帯電させることにより、静電反発力によって顔料粒子を水中に安定に分散させることができる。アニオン性官能基としては、スルホン酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、ホスホン酸基等が好ましい。カチオン性官能基としては、第4級アンモニウム基、第4級ホスホニウム基等が好ましい。
【0033】
これらの親水性官能基は、顔料表面に直接結合させてもよいし、他の原子団を介して結合させてもよい。他の原子団としては、アルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられるが、これらに限定されることはない。顔料表面の処理方法としては、ジアゾ化処理、スルホン化処理、次亜塩素酸処理、フミン酸処理、真空プラズマ処理等が挙げられる。
【0034】
本発明によれば、低分散限界濃度の自己分散性顔料であっても、低水分量でインク中に含有させることができる。そのため、自己分散性顔料の水に対する25℃における分散限界濃度が、25%以下、さらには15%以下であっても、低水分量でインク中に自己分散性顔料を高濃度に安定させて含有させることができる。
【0035】
自己分散性顔料(固形分)の含有量は、インク全量に対して、0.1質量%〜25質量%程度であることが好ましく、1質量%〜20質量%であることがより好ましく、5質量%〜15質量%であることが一層好ましい。本発明によれば、自己分散性顔料の分散に必要な水の量よりインク中の水分量を少なくすることができるため、保存安定性を維持しながら、自己分散性顔料の含有量を多くし、画像濃度を高くすることができる。例えば、インク中の水分量が30質量%以下であっても、自己分散性顔料の含有量を4質量%以上、より好ましくは4.5質量%以上、一層好ましくは5.0質量%以上とすることができる。
【0036】
上記した水溶性染料と自己分散性顔料は、それぞれ単独で用いられてもよいし、組み合わせて使用されてもよい。
【0037】
本発明のインクは、インク中の水分量が色材を溶解又は分散するために必要な水の量より少ない。ここで、溶解又は分散するために必要な水の量は、水溶性の色材では、色材を水に溶解するときの溶解度から算出される飽和水溶液の水分量、又は、水分散性の色材では、色材を水に分散するときの分散限界濃度から算出される分散限界溶液の水分量から求めることができる。
【0038】
また、インク中の水分量はカールフィッシャー法によって測定することができる。本発明において、インク中の水分量は、色材を溶解又は分散するために必要な水の量より少なければよく、インク中に水が含有されていなくてもよい。
【0039】
水としては、特に限定されず、イオン交換水、蒸留水等の純水、又は超純水等を使用することが好ましい。
【0040】
本発明によれば、水溶性の色材の溶解度、又は水分散性の色材の分散能に対して、インク中の水分量を少なくすることができるため、インク中の水分量に対し、水溶性又は水分散性の色材の含有量を多くすることができる。これによって、保存安定性を良好に保ちながら、高濃度の画像を得ることができる。
【0041】
より好適には、インク中の水分量は、色材を溶解又は分散するために必要な水の量に対し、60質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、さらに、インクの保存安定性の観点からは、10質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。
【0042】
インク中の水分量は、上記の範囲である限り制限されないが、例えば、インク全量に対し、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが一層好ましい。インク中の水分量がこの範囲であることで、インキ中で水の乳化又は可溶化の状態を安定にすることができる。インクの保存安定性を良好に維持するためには、インク中の水分量は少ない方が好ましい。
【0043】
本発明のインクには、非水溶性溶剤への水の乳化又は可溶化を促進するために、界面活性剤が含まれてもよい。界面活性剤としては、特に限定されず、例えば、金属石鹸、高級アルコール硫酸エステル化塩、ポリオキシエチレン付加物の硫酸エステル化塩等の陰イオン界面活性剤や、1〜3級アミン塩、4級アンモニウム塩等の陽イオン界面活性剤、もしくは、多価アルコールと脂肪酸のエステル系の非イオン性界面活性剤、脂肪酸のポリオキシエチレン・エーテル、高級アルコールのポリオキシエチレン・エーテル、アルキル・フェノール・ポリオキシエチレン・エーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルのポリオキシエチレン・エーテル、ひまし油のポリオキシエチレン・エーテル、ポリオキシ・プロピレンのポリオキシエチレン・エーテル、脂肪酸のアルキロールアマイド等の非イオン性界面活性剤等が挙げられ、これらを単独で又は2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0044】
界面活性剤の含有量は、各々の界面活性剤のモル濃度、非水溶性溶剤と水及び水溶性染料との界面の面積、及び、一部は非水溶性溶剤と自己分散性顔料等の固体との界面の面積を考慮して決めることができる。界面活性剤の含有量は、例えば、インク全量に対し、0.1質量%〜10質量%であることが好ましく、0.5質量%〜5.5質量%であることがより好ましい。
【0045】
本発明のインクには、必要に応じて、本発明の目的を阻害しない範囲内で、当該分野において通常用いられている各種添加剤を含ませることができる。
【0046】
具体的には、消泡剤、表面張力低下剤等として、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、または高分子系、シリコーン系、フッ素系の界面活性剤をインクに含有させることができる。なお、これらの界面活性剤は、上記した非水溶性溶剤と水との可溶化及び乳化のために添加される界面活性剤の機能を損なわない範囲で添加されることが好ましい。
【0047】
インクの粘度を調整するために、インクに電解質を配合することもできる。電解質としては、たとえば、硫酸ナトリウム、リン酸水素カリウム、クエン酸ナトリウム、酒石酸カリウム、ホウ酸ナトリウム等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。硫酸、硝酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、トリエタノールアミン等も、インクの増粘助剤として用いることができる。なお、これをインクのpHを調整するためにpH調整剤として用いることもできる。
【0048】
酸化防止剤を配合することにより、インク成分の酸化を防止し、インクの保存安定性を向上させることができる。酸化防止剤としては、たとえば、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウム、イソアスコルビン酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
【0049】
防腐剤を配合することにより、インクの腐敗を防止して保存安定性を向上させることができる。防腐剤としては、たとえば、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾロン系防腐剤;ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)−s−トリアジン等のトリアジン系防腐剤;2−ピリジンチオールナトリウム−1−オキシド、8−オキシキノリン等のピリジン・キノリン系防腐剤;ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム等のジチオカルバメート系防腐剤;2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、1,2−ジブロモ−2,4−ジシアノブタン等の有機臭素系防腐剤;p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、サリチル酸等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
【0050】
本発明のインクの粘度は、吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において5〜60mPa・sであることが好ましく、5〜30mPa・sであることがより好ましく、5〜20mPa・sであることが一層好ましい。この範囲であることで、インクジェット記録装置用として適する。ここで粘度は、23℃において0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおける値を表す。
【0051】
本発明のインクの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、水溶性又は水分散性の色材を水に溶解又は分散させ、この溶液を非水溶性溶剤に超音波処理をしながら滴下し、W/Oエマルションを調製し、このW/Oエマルションからエバポレーター等を用いて水分を除去する方法がある。このように、水溶性又は水分散性の色材を水に溶解又は分散させてから、その他の成分とともにインクを調製し、その後に水分を除去することで、色材の含有量に対しインク中の水分量を少なく抑えたインクを提供することができる。
【0052】
また、上記した非水系インクジェットインクを用いて印刷された印刷物は、画像濃度が高く、良好な画質を得ることができる。印刷を行うインクジェットプリンタは、サーマル方式、ピエゾ方式、静電方式等いずれの方式のものであってもよく、デジタル信号に基づいてインクジェットのノズルから本発明の非水系インクジェットインクを噴出させ、噴出されたインク液滴を用紙等の記録媒体に付着させるようにする。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
(実施例及び比較例)
実施例1から7のインクは、表1に示す成分を用いて、非水溶性溶剤と活性剤との混合物に、超音波処理をしながら、色材と水とからなる水溶液を滴下し、W/Oエマルションを作製し、次に、得られたW/Oエマルションをエバポレーターで脱水することでインク中の水分量を調整して得た。W/Oエマルションの脱水は、50℃、100hPaで行った。
【0055】
比較例1から3のインクは、実施例1から7と同様にW/Oエマルションを作製することで得て、W/0エマルションの脱水は行わなかった。比較例1は、W/Oエマルションの形態を形成しなかった。比較例4のインクは、油溶性染料を非水溶性溶剤に溶解して作製した。
【0056】
使用した成分は以下の通りである。
Water Red 27 酸性染料(ローダミン系) オリヱント化学工業株式会社製
Water Yellow 6 酸性染料(ジアゾ系) オリヱント化学工業株式会社製
Water Blue 3 直接染料(フタロシアニン系) オリヱント化学工業株式会社製
CAB−O−JET 300 自己分散性カーボン Cabot Corp.製
Oil Yellow 129 油溶性染料 オリヱント化学工業株式会社製
AF−7 ナフテン系非極性溶剤 新日本石油株式会社製
IOP パルミチン酸イソオクチル 日光ケミカルズ株式会社製
Hexaglyn PR−15 テトラグリセリンポリリシノレイン酸エステル 日光ケミカルズ株式会社製
【0057】
【表1】
【0058】
「水溶性染料の溶解度」
過剰な量の各水溶性染料を10gの水に添加し、25℃で3時間攪拌した後に、25℃で一晩静置した。溶解していない染料をろ過で取り除き、染料飽和水溶液を作製した。染料飽和水溶液1gを100℃のオーブンで乾燥し、残った固形分の質量を測定し、25℃における水溶性染料の溶解度を求めた。結果を表2に示す。
【0059】
「自己分散性顔料の分散限界濃度」
25℃で自己分散性顔料が安定に分散した水をエバポレーターで脱水し、自己分散性顔料を濃縮した。過剰に濃縮した後にフィルターでろ過し、ろ液中の顔料の含有量を測定し、25℃における分散限界濃度を求めた。結果を表2に併せて示す。
【0060】
【表2】
【0061】
また、上記水溶性染料の溶解度及び自己分散性顔料の分散限界濃度の測定結果から、溶解・分散に必要な水分量を次の式から求め、結果を表3に示す。
(溶解・分散に必要な水分量)=(色材質量)÷(染料の溶解度、または自己分散性顔料の分散限界濃度)−(色材質量)
【0062】
「インクの水分量」
各実施例及び比較例のインク中の水分量をカールフィッシャー法により測定した。測定には、カールフィッシャー水分測定装置(701型、メトローム・シバタ株式会社製)を使用した。結果を表3に示す。
【0063】
(評価)
次に、各実施例及び比較例について画像濃度及び保存安定性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0064】
「画像濃度の評価」
各実施例及び比較例のインクを、インクジェット記録装置「HC5000」(理想科学工業株式会社製)に装填し、普通紙(理想用紙薄口(理想科学工業株式会社製)にベタ画像を印刷し、印刷物を得た。HC5000は、300dpiのライン型インクジェットヘッド(各ノズルが約85μm間隔で並ぶ)を使用し、主走査方向(ノズルが並んでいる方向)に直交する副走査方向に用紙を搬送して、印刷を行うシステムである。印刷した普通紙を一晩静置した後、印刷面のOD値をOD計(RD920、マクベス社製)で測定し、次の基準で評価した。
◎ 1.1以上
○ 1.1未満1.0以上
△ 1.0未満0.9以上
× 0.9未満
【0065】
「裏抜けの評価」
上記「画像濃度の評価」で得られた印刷物の非印刷面(裏面)を目視で観察し、目立った裏抜けが無いものを○、裏抜けが目立つものを×として評価した。
【0066】
「保存安定性の評価」
各実施例及び比較例のインクの粘度を粘度計(AR−G2、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製)を用いて測定し、さらに、これらのインクを25℃で1週間放置した後に、同様に粘度を測定した。(放置後粘度/放置前粘度)で表される粘度変化率からインクの保存安定性を次の基準で評価した。
◎ 5%未満
○ 5%以上10%未満
△ 10%以上20%未満
× 20%以上
【0067】
なお、比較例1はW/Oエマルションの形態が形成されなかったため、各評価を実施することができなかった。
【0068】
【表3】
【0069】
表3に示すように、実施例1から7では、W/Oエマルションインクの脱水によって、水分量が染料又は顔料の溶解・分散に必要な水分量より少なくなっており、保存安定性及び画像濃度が良好であった。
【0070】
これに対し、比較例1から3では、インク中に染料又は顔料の溶解・分散に必要な水分量を有する。比較例1では、インク中に水分量が多く、W/Oエマルションの形態を安定して形成することができなかった。比較例2も同様に水分量が多く、W/Oエマルションの形態を形成することはできたが、保存安定性が良好ではなかった。比較例3では、インク中に水分量は少ないが、染料の含有量も少なく、画像濃度が低く良好ではなかった。比較例4は、油溶性染料を用いたものであり、画像濃度が低いうえ、裏抜けも目立ち、良好ではなかった。