特許第5789087号(P5789087)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5789087内装用の非有機錫系接着剤組成物およびその硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5789087
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】内装用の非有機錫系接着剤組成物およびその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C09J 201/10 20060101AFI20150917BHJP
   C08G 65/336 20060101ALI20150917BHJP
   C08G 85/00 20060101ALI20150917BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20150917BHJP
   C09J 171/02 20060101ALI20150917BHJP
   C09J 123/00 20060101ALI20150917BHJP
   C09J 133/04 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   C09J201/10
   C08G65/336
   C08G85/00
   C09J11/06
   C09J171/02
   C09J123/00
   C09J133/04
【請求項の数】9
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2010-100057(P2010-100057)
(22)【出願日】2010年4月23日
(65)【公開番号】特開2011-231148(P2011-231148A)
(43)【公開日】2011年11月17日
【審査請求日】2013年2月20日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】野呂 典子
(72)【発明者】
【氏名】矢野 理子
【審査官】 松波 由美子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/108500(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/108491(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/108492(WO,A1)
【文献】 特開2008−280434(JP,A)
【文献】 特開2007−302774(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/142067(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 201/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)シロキサン結合を形成することにより架橋し得るケイ素含有基を末端に有する3官能の有機重合体であって、該ケイ素含有基がトリエトキシシリル基であり、主鎖骨格がポリオキシアルキレン系であ数平均分子量が3,000〜20,000の有機重合体、
(B)チタン触媒、
を含み、JIS K 6253に準拠して、硬化物をタイプAデュロメータで測定した場合の硬度がA40〜A90である内装用の非有機錫系接着剤組成物。
【請求項2】
前記ポリオキシアルキレン系重合体が、ポリオキシプロピレン系重合体である、請求項に記載の内装用の非有機錫系接着剤組成物。
【請求項3】
チタン触媒(B)が、一般式(3):
Ti(OR34 (3)
(R3は有機基であり、4個のR3は相互に同一であっても異なっていてもよい。)で表されるチタン触媒、および/または、一般式(4):
O=Ti(OR32 (4)
(R3は前記と同じ。)で表されるチタン触媒である、請求項1または2に記載の内装用の非有機錫系接着剤組成物。
【請求項4】
前記チタン触媒が、一般式(5):
【化1】

(b個のR4はそれぞれ独立に炭素原子数1〜20の炭化水素基である。(4−b)個のR5はそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1〜8の炭化水素基である。(8−2b)個のR6はそれぞれ独立に炭素原子数1〜8の炭化水素基、または、−OR7(R7は炭素原子数1〜8の炭化水素基である。)である。bは0〜3の整数である。)で表されるチタニウムキレート触媒、一般式(6):
【化2】

(R5およびR6は前記と同じ。R8は炭素原子数1〜20の2価の炭化水素基である。)
で表されるチタニウムキレート触媒、一般式(7):
【化3】

(R5およびR6は前記と同じ。)で表されるチタニウムキレート触媒、
からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項に記載の内装用の非有機錫系接着剤組成物。
【請求項5】
更に、可塑剤を含む内装用の非有機錫系接着剤組成物であって、可塑剤成分の10〜100重量%が非フタル酸エステル系可塑剤(C)である、請求項1〜のいずれか1項に記載の内装用の非有機錫系接着剤組成物。
【請求項6】
前記非フタル酸エステル系可塑剤(C)が、シクロヘキサンジカルボン酸ジエステル、アルキルスルホン酸フェニルエステル、芳香族ビニル化合物からなるオリゴマー、からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項に記載の内装用の非有機錫系接着剤組成物。
【請求項7】
更に、エポキシ基含有シランカップリング剤(D)を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の内装用の非有機錫系接着剤組成物。
【請求項8】
JIS K 6251に準拠して、硬化物を3mm厚のダンベル状3号形試験片で測定した場合の50%引張応力が、0.3MPa〜5MPaである、請求項1〜のいずれか1項に記載の内装用の非有機錫系接着剤組成物。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載の内装用の非有機錫系接着剤組成物を硬化させた硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素原子に結合した加水分解性基を有し、シロキサン結合を形成することにより架橋し得るケイ素基(以下、「反応性ケイ素基」ともいう。)を有する有機重合体を含む内装用の接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
分子中に少なくとも1個の反応性ケイ素基を有する有機重合体は、室温においても湿分による反応性ケイ素基の加水分解反応等を伴うシロキサン結合の形成によって架橋し、ゴム状の硬化物が得られるという性質を有することが知られている。
【0003】
反応性ケイ素基を有する有機重合体の中で、主鎖骨格がポリオキシアルキレン系重合体やポリイソブチレン系重合体は、特許文献1や特許文献2等に開示されており、既に工業的に生産され、シーリング材、接着剤、塗料等の用途に広く使用されている。また、これらの有機重合体は、反応性ケイ素基として一般的にはメチルジメトキシシリル基やトリメトキシシリル基を有しており、加水分解反応によってメタノールが大気中に放出される。しかしながら、今後、特に内装用の接着剤用途等においては、このような脱メタノール型有機重合体よりも、メタノールを放出しないより安全な有機重合体を使用することが求められると予想される。
【0004】
一方、反応性ケイ素基を有する有機重合体を含む硬化性組成物は、硬化物を得るために硬化触媒を使用する。硬化触媒としては、ジブチル錫ビス(アセチルアセトナート)やジブチル錫ジラウレート等の、炭素−錫結合を有する有機錫系触媒が広く使用されているが、近年、有機錫系触媒はその毒性が指摘されており、非有機錫系触媒の開発が進められている。しかしながら、非有機錫系触媒を用いて作製した硬化性組成物は、有機錫系触媒を用いて作製した硬化性組成物に比べて、硬化性、貯蔵安定性、接着性等の種々物性が不十分な場合がおおかった。
【0005】
特許文献3や特許文献4では、イソプロペノキシシリル基を有する脱アセトン型有機重合体が開示されており、更にこの脱アセトン型有機重合体の硬化触媒としてアミン化合物を使用する技術も開示されている。しかしながら、脱アセトン型有機重合体とアミン化合物を用いて1液型接着剤組成物を作製した場合、作製直後の硬化性は良好なものの、一定期間貯蔵した後では接着剤の粘度が上昇し、ひどい場合には容器内で硬化し使用できないことがあった。接着剤は製造してすぐに使用されるとは限らず、倉庫や店頭で数ヶ月間保管されることがおおく、硬化性や粘度が貯蔵前後で一定であること(貯蔵安定性が良好であること)が望まれている。
【0006】
特許文献5の実施例では、エトキシシリル基を有する脱エタノール型有機重合体とチタン触媒を用いて作製される硬化性組成物が開示されている。この硬化性組成物は、接着性を確保するために、引張応力が小さい、すなわち柔らかい(低硬度である)硬化物を与える有機重合体を使用することが必須である。しかしながら、このような有機重合体を用いて接着剤組成物を作製し、基材と基材を接着させたところ、接着性は良好なものの、接着剤硬化物が柔らかいために、場合によっては基材間のずれを生じるという課題があった。一般的な接着剤においては、接着する基材間のずれを防ぐために、接着剤硬化物は引張応力が大きく、比較的硬い(高硬度である)ことが望まれている。また、脱エタノール型有機重合体は、脱メタノール型有機重合体に比べて加水分解反応が穏やかであることが分かっている。そのため、脱エタノール型有機重合体と非有機錫系触媒を用いて接着剤組成物を作製した場合、実用に供し得る硬化性を確保することは特に困難である場合があった。
【0007】
このように、安全性が求められる内装用接着剤において、脱メタノール型有機重合体や有機錫系触媒を使用せずに、硬化性、貯蔵安定性、接着性、引張応力、硬度、全てに実用特性を満たす接着剤の開発は難易度の高い課題であり、いまだ成しえていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭52−73998号公報
【特許文献2】特開昭63−6041号公報
【特許文献3】特開平7−216216号公報
【特許文献4】特開2010−24369号公報
【特許文献5】WO2005/108500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、反応性ケイ素基を有する有機重合体と硬化触媒を含む内装用の接着剤組成物であって、安全性を確保しつつ、硬化性、貯蔵安定性、接着性、引張応力、硬度に優れた接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前記の課題を解決するため鋭意検討した結果、脱メタノール型有機重合体や有機錫系触媒を使用しなくても、特定構造の反応性ケイ素基を有する有機重合体(A)とチタン触媒(B)を用いることで、安全性を確保しつつ、硬化性、貯蔵安定性、接着性、引張応力、硬度に優れた内装用の接着剤組成物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち本発明は、
(I).(A)シロキサン結合を形成することにより架橋し得るケイ素含有基を有する有機重合体であって、該ケイ素含有基が、一般式(1):
−SiR13-aa (1)
((3−a)個のR1はそれぞれ独立に炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基、炭素原子数7〜20のアラルキル基、−OSi(R23(R2はそれぞれ独立に炭素原子数1〜20の炭化水素基である。)で表されるトリオルガノシロキシ基、からなる群より選択される少なくとも1つである。a個のXはそれぞれ独立にエトキシ基、イソプロポキシ基、イソプロペノキシ基、アセトキシ基、からなる群より選択される少なくとも1つである。aは1〜3の整数である。)で表される基である有機重合体、
(B)チタン触媒、
を含む内装用の非有機錫系接着剤組成物、
(II).(A)成分のケイ素基が、一般式(2):
−SiX3 (2)
(Xは前記と同じ。)で表される基を含む、(I)に記載の内装用の非有機錫系接着剤組成物、
(III).(A)成分の主鎖骨格が、ポリオキシアルキレン系重合体、飽和炭化水素系重合体、(メタ)アクリル酸エステル系重合体、からなる群より選択される少なくとも1つである、 (I)または(II)に記載の内装用の非有機錫系接着剤組成物、
(IV).前記ポリオキシアルキレン系重合体が、ポリオキシプロピレン系重合体である、(III)に記載の内装用の非有機錫系接着剤組成物、
(V).チタン触媒(B)が、一般式(3):
Ti(OR34 (3)
(R3は有機基であり、4個のR3は相互に同一であっても異なっていてもよい。)で表されるチタン触媒、および/または、一般式(4):
O=Ti(OR32 (4)
(R3は前記と同じ。)で表されるチタン触媒である、(I)〜(IV)のいずれか1項に記載の内装用の非有機錫系接着剤組成物、
(VI).前記チタン触媒が、一般式(5):
【0012】
【化4】
【0013】
(b個のR4はそれぞれ独立に炭素原子数1〜20の炭化水素基である。(4−b)個のR5はそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1〜8の炭化水素基である。(8−2b)個のR6はそれぞれ独立に炭素原子数1〜8の炭化水素基、または、−OR7(R7は炭素原子数1〜8の炭化水素基である。)である。bは0〜3の整数である。)で表されるチタニウムキレート触媒、一般式(6):
【0014】
【化5】
【0015】
(R5およびR6は前記と同じ。R8は炭素原子数1〜20の2価の炭化水素基である。)で表されるチタニウムキレート触媒、一般式(7):
【0016】
【化6】
【0017】
(R5およびR6は前記と同じ。)で表されるチタニウムキレート触媒、
からなる群より選択される少なくとも1つである、(V)に記載の内装用の非有機錫系接着剤組成物、
(VII).更に、可塑剤を含む内装用の非有機錫系接着剤組成物であって、可塑剤成分の10〜100重量%が非フタル酸エステル系可塑剤(C)である、(I)〜(VI)のいずれか1項に記載の内装用の非有機錫系接着剤組成物、
(VIII).前記非フタル酸エステル系可塑剤(C)が、シクロヘキサンジカルボン酸ジエステル、アルキルスルホン酸フェニルエステル、芳香族ビニル化合物からなるオリゴマー、からなる群より選択される少なくとも1つである、(VII)に記載の内装用の非有機錫系接着剤組成物、
(IX).更に、エポキシ基含有シランカップリング剤(D)を含む、(I)〜(VIII)のいずれか1項に記載の内装用の非有機錫系接着剤組成物。
(X).JIS K 6251に準拠して、硬化物を3mm厚のダンベル状3号形試験片で測定した場合の50%引張応力が、0.3MPa〜5MPaである、(I)〜(IX)のいずれか1項に記載の内装用の非有機錫系接着剤組成物、
(XI).JIS K 6253に準拠して、硬化物をタイプAデュロメータで測定した場合の硬度が、A10〜A90である、(I)〜(X)のいずれか1項に記載の内装用の非有機錫系接着剤組成物、
(XII).(I)〜(XI)のいずれか1項に記載の内装用の非有機錫系接着剤組成物を硬化させた硬化物、
に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の内装用の接着剤組成物は、脱メタノール型有機重合体および有機錫系触媒を含まないため安全性が高く、更には、硬化性、貯蔵安定性、接着性、引張応力、硬度にも優れたものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0020】
本発明の接着剤組成物は、特定構造の反応性ケイ素基を有する有機重合体(A)を必須成分とし、硬化触媒によって加速される反応によりシロキサン結合が形成され、架橋する特徴を有する。ここで、反応性ケイ素基とは、ケイ素原子に結合した水酸基または加水分解性基を有する有機基であり、有機重合体(A)は、反応性ケイ素基を1分子あたり平均して1個以上有する。但し、有機重合体(A)の反応性ケイ素基としては、加水分解反応に伴ってメタノールを放出するようなジメトキシメチルシリル基やトリメトキシシリル基は有さない。
【0021】
有機重合体(A)の反応性ケイ素基としては、一般式(1):
−SiR13-aa (1)
((3−a)個のR1はそれぞれ独立に炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基、炭素原子数7〜20のアラルキル基、−OSi(R23(R2はそれぞれ独立に炭素原子数1〜20の炭化水素基である。)で表されるトリオルガノシロキシ基、からなる群より選択される少なくとも1つである。a個のXはそれぞれ独立にエトキシ基、イソプロポキシ基、イソプロペノキシ基、アセトキシ基、からなる群より選択される少なくとも1つである。aは1〜3の整数である。)で表される基があげられる。
【0022】
一般式(1)中に記載のXで示される加水分解性基は、エトキシ基、イソプロポキシ基、イソプロペノキシ基、アセトキシ基のいずれかである。これらの中では、加水分解性が適度に穏やかで取扱いやすいことからエトキシ基が好ましい。加水分解性基は、1個のケイ素原子に1〜3個の範囲で結合することができ、加水分解性基が反応性ケイ素基中のケイ素原子に2個以上結合する場合には、それらは同じであってもよいし、異なってもよい。
【0023】
また、一般式(1)中に記載のR1としては、特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基等があげられ、これらの中でもメチル基が好ましい。
【0024】
一般式(1)で表される反応性ケイ素基としては、例えば、トリエトキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基、トリイソプロペノキシシリル基、トリアセトキシシリル基、ジエトキシメチルシリル基、ジイソプロポキシメチルシリル基、ジイソプロペノキシメチルシリル基、ジアセトキシメチルシリル基、エトキシジメチルシリル基等があげられる。これらの中でも、加水分解反応に伴って生成するアルコールが安全性の高いエタノールであることから、トリエトキシシリル基、ジエトキシメチルシリル基、エトキシジメチルシリル基が好ましい。また、加水分解反応が速く硬化性が良好なことから、トリイソプロペノキシシリル基、トリアセトキシシリル基、ジイソプロペノキシメチルシリル基、ジアセトキシメチルシリル基が好ましい。更に、硬化性および貯蔵安定性が良好な接着剤組成物が得られることから、一般式(1)で表される反応性ケイ素基は、一般式(2)で表される反応性ケイ素基であることが好ましく、トリエトキシシリル基、トリイソプロペノキシシリル基、トリアセトキシシリル基がより好ましく、トリエトキシシリル基が特に好ましい。
−SiX3 (2)
(Xは前記と同じ。)
反応性ケイ素基の導入方法としては、特に限定されず公知の方法があげられ、例えば以下に示す(イ)〜(ハ)の方法があげられる。
【0025】
(イ).分子中に水酸基等の官能基を有する重合体に、この官能基に対して反応性を示す活性基および不飽和基を有する有機化合物を反応させ、不飽和基を有する重合体を得る。もしくは、不飽和基を有するエポキシ化合物との共重合により不飽和基を有する重合体を得る。次いで得られた反応生成物に反応性ケイ素基を有するヒドロシランを作用させてヒドロシリル化する方法。
【0026】
(ロ).(イ)の方法と同様にして得られた不飽和基を有する有機重合体にメルカプト基および反応性ケイ素基を有する化合物を反応させる方法。
【0027】
(ハ).分子中に水酸基、エポキシ基やイソシアネート基等の官能基を有する有機重合体に、この官能基に対して反応性を示す官能基および反応性ケイ素基を有する化合物を反応させる方法。
【0028】
これらの方法の中では、(イ)の方法、または(ハ)の方法のうち末端に水酸基を有する重合体とイソシアネート基および反応性ケイ素基を有する化合物を反応させる方法は、比較的短い反応時間で高い転化率が得られることから好ましい。また、(イ)の方法で得られた反応性ケイ素基を有する有機重合体を主成分とする接着剤組成物は、(ハ)の方法で得られた有機重合体を主成分とする接着剤組成物よりも低粘度になる傾向があり、その結果、作業性の良い接着剤組成物が得られること、更に、(ロ)の方法で得られた有機重合体は、(イ)の方法で得られた有機重合体に比べメルカプトシランに基づく臭気が強いこと等から、(イ)の方法がより好ましい。
【0029】
(イ)の方法において使用されるヒドロシラン化合物としては、特に限定されず、例えば、トリエトキシシラン、トリイソプロポキシシラン、トリイソプロペノキシシラン、トリアセトキシシラン、ジエトキシメチルシラン、ジイソプロポキシメチルシラン、ジイソプロペノキシメチルシラン、ジアセトキシメチルシラン、ジエトキシフェニルシラン、ジイソプロポキフェニルシシラン、1−[2−(トリエトキシシリル)エチル]−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン等があげられる。これらの中でも、得られる有機重合体を主成分とする接着剤組成物が、加水分解性が穏やかで取り扱いやすいことから、トリエトキシシラン、ジエトキシメチルシランが好ましい。また、入手が容易なこと、接着剤組成物の硬化性や貯蔵安定性が優れることから、トリエトキシシランが好ましい。
【0030】
(ロ)の合成方法としては、特に限定されず、例えば、メルカプト基および反応性ケイ素基を有する化合物を、ラジカル開始剤および/またはラジカル発生源存在下でのラジカル付加反応によって、有機重合体の不飽和結合部位に導入する方法等があげられる。メルカプト基および反応性ケイ素基を有する化合物としては、特に限定されず、例えば、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリイソプロポキシシランエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリイソプロペノキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルジエトキシメチルシラン、γ−メルカプトプロピルジイソプロペノキシメチルシラン、メルカプトメチルトリエトキシシラン、メルカプトメチルトリイソプロペノキシシラン等があげられる。
【0031】
(ハ)の合成方法の中で末端に水酸基を有する重合体とイソシアネート基および反応性ケイ素基を有する化合物を反応させる方法としては、特に限定されず、例えば、特開平3−47825号公報に開示される方法等があげられる。イソシアネート基および反応性ケイ素基を有する化合物としては、特に限定されず、例えば、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリイソプロペノキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリアセトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルジエトキシメチルシラン、γ−イソシアネートプロピルジイソプロペノキシメチルシラン、イソシアネートメチルトリエトキシシラン、イソシアネートメチルトリイソプロペノキシシラン、イソシアネートメチルジエトキシメチルシラン、イソシアネートメチルジプロペノキシメチルシラン等があげられる。
【0032】
トリエトキシシラン等の1つのケイ素原子に3個の加水分解性基が結合しているシラン化合物は不均化反応が進行する可能性がある。不均化反応が進むと、ジエトキシシラン等の危険性のある化合物が生じる。
【0033】
しかし、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランやγ−イソシアネートプロピルトリエトキシシランでは、このような不均化反応は進行しない。このため、ケイ素基として、トリエトキシシリル基等の1つのケイ素原子に3個の加水分解性基が結合している基を用いる際は、(ロ)または(ハ)の合成法を用いることが好ましい。
【0034】
一方、一般式(8):
H−(SiR92O)nSiR92−R10−SiX3 (8)
(3個のXは一般式(1)の表記と同じ。(2n+2)個のR9はそれぞれ独立に炭化水素基である。R10は2価の有機基である。また、nは0〜19の整数である。)で表されるシラン化合物は、不均化反応が進まない。このため、(イ)の合成法で、1つのケイ素原子に3個の加水分解性基が結合している基を導入する場合には、一般式(8)で表されるシラン化合物を用いることが好ましい。
【0035】
一般式(8)中に記載のR9としては、炭化水素基であれば特に限定されず、この中でも、入手性およびコストの点から、炭素原子数1〜20の炭化水素基が好ましく、炭素原子数1〜8の炭化水素基がより好ましく、炭素原子数1〜4の炭化水素基が特に好ましい。
【0036】
一般式(8)中に記載のR10としては、2価の有機基であれば特に限定されず、この中でも、入手性およびコストの点から、炭素原子数1〜12の2価の炭化水素基が好ましく、炭素原子数2〜8の2価の炭化水素基がより好ましく、炭素原子数2の2価の炭化水素基が特に好ましい。
【0037】
一般式(8)中に記載のnは0〜19の整数であるが、この中でも入手性およびコストの点から1が好ましい。
【0038】
一般式(8)で表されるシラン化合物としては、1−[2−(トリエトキシシリル)エチル]−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1−[2−(トリエトキシシリル)プロピル]−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1−[2−(トリエトキシシリル)ヘキシル]−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン等があげられる。
【0039】
反応性ケイ素基を有する有機重合体(A)としては、分子中に直鎖状、または分岐状の構造を有するいずれの重合体の使用も可能であり、その数平均分子量は、GPCの測定値をポリスチレンで換算した値において、500〜100,000が好ましい。数平均分子量が500未満では、得られる硬化物は、伸び特性に劣る傾向があり、100,000を越えると、接着剤組成物が高粘度となり、作業性に劣る傾向がある。また、有機重合体(A)を主成分とする接着剤組成物において、引張応力が大きく、高硬度の接着剤硬化物が得られることから、有機重合体(A)の数平均分子量は、1,000〜50,000が好ましく、2,000〜35,000がより好ましく、3,000〜20,000が更に好ましく、4,000〜16,000が特に好ましい。
【0040】
有機重合体(A)の1分子中に含まれる反応性ケイ素基の数は、平均値として、1以上が好ましく、1.1〜5が好ましい。分子中に含まれる反応性ケイ素基の数が平均して1個未満になると、接着剤組成物は硬化性に劣る傾向があり、得られる硬化物は良好なゴム弾性挙動を発現しにくくなる傾向がある。
【0041】
反応性ケイ素基は、主鎖の末端あるいは側鎖の末端にあってもよく、また、両方にあってもよい。特に、反応性ケイ素基が主鎖の末端にのみあるときは、得られる硬化物に含まれる有機重合体成分の有効網目長が長くなるため、高強度、高伸びで、低弾性率を示すゴム状硬化物が得られやすくなる。
【0042】
有機重合体(A)の主鎖骨格としては、特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン、ポリオキシテトラメチレン、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシプロピレン−ポリオキシブチレン共重合体等のポリオキシアルキレン系重合体;エチレン−プロピレン系共重合体、ポリイソブチレン、イソブチレンとイソプレン等との共重合体、ポリクロロプレン、ポリイソプレン、イソプレンあるいはブタジエンとアクリロニトリルおよび/またはスチレン等との共重合体、ポリブタジエン、イソプレンあるいはブタジエンとアクリロニトリルおよびスチレン等との共重合体、これらのポリオレフィン系重合体に水素添加して得られる水添ポリオレフィン系重合体等の炭化水素系重合体;アジピン酸等の2塩基酸とグリコールとの縮合、または、ラクトン類の開環重合で得られるポリエステル系重合体;エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等の化合物をラジカル重合して得られる(メタ)アクリル酸エステル系重合体;(メタ)アクリル酸エステル系化合物、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン等の化合物をラジカル重合して得られるビニル系重合体;前記重合体中でビニル系化合物を重合して得られるグラフト重合体;ポリサルファイド系重合体;ε−カプロラクタムの開環重合によるポリアミド6、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の縮重合によるポリアミド6・6、ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸の縮重合によるポリアミド6・10、ε−アミノウンデカン酸の縮重合によるポリアミド11、ε−アミノラウロラクタムの開環重合によるポリアミド12、前記ポリアミドの複数からなる共重合ポリアミド等のポリアミド系重合体;ビスフェノールAと塩化カルボニルより縮重合によるポリカーボネート等のポリカーボネート系重合体;ジアリルフタレート系重合体;等の有機重合体があげられる。
【0043】
これらの中でも、ポリイソブチレン、水添ポリイソプレン、水添ポリブタジエン等の飽和炭化水素系重合体や、ポリオキシアルキレン系重合体、(メタ)アクリル酸エステル系重合体を主鎖骨格にもつ有機重合体は比較的ガラス転移温度が低く、得られる硬化物が耐寒性に優れることから好ましい。
【0044】
有機重合体(A)のガラス転移温度は、特に限定されず、20℃以下であることが好ましく、0℃以下であることがより好ましく、−20℃以下であることが特に好ましい。ガラス転移温度が20℃を上回ると、接着剤組成物の冬季または寒冷地での粘度が高くなり作業性が悪くなる傾向があり、また、得られる硬化物の柔軟性が低下し、伸びが低下する傾向がある。
【0045】
なお、前記ガラス転移温度はJIS K7121規定の測定方法に則ったDSCの測定により求めることができる。
【0046】
また、飽和炭化水素系重合体、ポリオキシアルキレン系重合体および(メタ)アクリル酸エステル系重合体を主鎖骨格に持つ有機重合体を主成分とする接着剤組成物は、低分子量成分の被接着物への移行(汚染)等が少なく、より好ましい。
【0047】
更に、ポリオキシアルキレン系重合体および(メタ)アクリル酸エステル系重合体を主鎖骨格に持つ有機重合体は、透湿性が高く、一液型の接着剤の主成分として使用した際、深部硬化性に優れ、得られる硬化物は接着性が優れることから特に好ましく、ポリオキシアルキレン系重合体を主鎖骨格に持つ有機重合体が最も好ましい。
【0048】
有機重合体(A)の主鎖骨格として使用されるポリオキシアルキレン系重合体は、一般式(9):
−R11−O− (9)
(R11は炭素原子数1〜14の直鎖状もしくは分岐状アルキレン基である。)で表される繰り返し単位を有する重合体である。
【0049】
一般式(9)中に記載のR11は、炭素原子数1〜14の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基であれば特に限定されず、この中でも、炭素原子数2〜4の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基が好ましい。
【0050】
一般式(9)で表される繰り返し単位としては、特に限定されず、例えば
−CH2O−、−CH2CH2O−、−CH2CH(CH3)O−、−CH2CH(C25)O−、−CH2C(CH32O−、−CH2CH2CH2CH2O−
等があげられる。
【0051】
ポリオキシアルキレン系重合体は、1種類のみの繰り返し単位から構成されていてもよく、複数種の繰り返し単位から構成されていてもよい。接着剤用途に使用する場合には、主鎖骨格としてプロピレンオキシド重合体を主成分とする有機重合体が、非晶質であること、比較的低粘度であることから好ましい。
【0052】
ポリオキシアルキレン系重合体の製造方法としては、特に限定されず公知の方法があげられ、例えば、KOHのようなアルカリ触媒による方法、特開昭61−215623号に開示されている有機アルミニウム化合物とポルフィリンとを反応させて得られる錯体のような遷移金属化合物−ポルフィリン錯体を触媒として用いた方法、特公昭46−27250号、特公昭59−15336号、米国特許3278457号、米国特許3278458号、米国特許3278459号、米国特許3427256号、米国特許3427334号、米国特許3427335号等に開示されている複合金属シアン化物錯体を触媒として用いた方法、特開平10−273512号に開示されているポリホスファゼン塩を触媒として用いた方法、特開平11−060722号に開示されているホスファゼン化合物を触媒として用いた方法等があげられる。
【0053】
反応性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体の製造方法としては、特に限定されず公知の方法があげられ、例えば、特公昭45−36319号、同46−12154号、特開昭50−156599号、同54−6096号、同55−13767号、同55−13468号、同57−164123号、特公平3−2450号、米国特許3632557号、米国特許4345053号、米国特許4366307号、米国特許4960844号等に開示されている方法、特開昭61−197631号、同61−215622号、同61−215623号、同61−218632号、特開平3−72527号、特開平3−47825号、特開平8−231707号等に開示されている高分子量(数平均分子量6,000以上)で分子量分布が狭い(Mw/Mn1.6以下)重合体が得られる方法等があげられる。
【0054】
前記の反応性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体は、接着剤組成物に配合する際、1種類のみを配合してもよく、複数種を組み合わせて配合してもよい。
【0055】
有機重合体(A)の主鎖骨格として使用される飽和炭化水素系重合体とは、分子中に芳香環以外の炭素−炭素不飽和結合を実質的に有しない重合体をいい、耐熱性、耐候性、耐久性、および、湿気遮断性に優れる特徴を有する。
【0056】
飽和炭化水素系重合体としては、特に限定されず、(i)繰り返し単位としてエチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等の炭素原子数2〜6のオレフィン系化合物からなる重合体、(ii)繰り返し単位としてブタジエン、イソプレン等のジエン系化合物からなる重合体、(iii)前記ジエン系化合物と前記オレフィン系化合物を共重合させた後、水素添加する等の方法により得られる重合体等があげられる。この中でも、イソブチレン系重合体や水添ポリブタジエン系重合体は、末端に官能基を導入しやすいこと、分子量を制御しやすいこと、末端官能基の数を調整できること等から好ましく、イソブチレン系重合体がより好ましい。
【0057】
イソブチレン系重合体は、繰り返し単位のすべてがイソブチレンから形成されていてもよく、他の化合物との共重合体でもよい。主鎖骨格としてイソブチレン系の共重合体を使用する際は、得られる硬化物のゴム特性が優れることからイソブチレンに由来する繰り返し単位を1分子中に50重量%以上有する重合体が好ましく、80重量%以上有する重合体がより好ましく、90〜99重量%有する重合体が特に好ましい。
【0058】
飽和炭化水素系重合体の製造方法としては、特に限定されず、従来から公知の各種重合方法があげられる。この中でも、近年開発が顕著であるリビング重合法が好ましく、例えば、リビング重合法を用いたイソブチレン系重合体の製造方法としては、Kennedyらによって見出されたイニファー重合(J.P.Kennedyら、J.Polymer Sci., Polymer Chem. Ed. 1997年、15巻、2843頁)があげられる。
【0059】
この重合方法は、分子末端に各種官能基の導入が可能であり、得られたイソブチレン系重合体は分子量分布1.5以下で分子量500〜100,000程度であることが知られている。
【0060】
反応性ケイ素基を有する飽和炭化水素系重合体の製造方法としては、特に限定されず公知の方法があげられ、例えば、特公平4−69659号、特公平7−108928号、特開昭63−254149号、特開昭64−22904号、特開平1−197509号、特許2539445号、特許2873395号、特開平7−53882号等に開示されている方法があげられる。
【0061】
前記の反応性ケイ素基を有する飽和炭化水素系重合体は、接着剤組成物に配合する際、1種類のみを配合してもよく、複数種を組み合わせて配合してもよい。
【0062】
有機重合体(A)の主鎖骨格として使用される(メタ)アクリル酸エステル系重合体とは、繰り返し単位として(メタ)アクリル酸エステル系化合物からなる重合体である。なお、前記の記載方法((メタ)アクリル酸エステル)は、アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルを表すものであり、以後の記載方法においても同様の意味を表す。
【0063】
繰り返し単位として使用される(メタ)アクリル酸エステル系化合物としては、特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、γ−(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロイルオキシ)プロピルジメトキシメチルシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ビス(トリフルオロメチル)メチル、(メタ)アクリル酸2−トリフルオロメチル−2−パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキサデシルエチル等の(メタ)アクリル酸系化合物があげられる。
【0064】
(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル化合物と、これと共重合可能なビニル化合物の共重合体を含む。
【0065】
ビニル化合物としては、特に限定されず、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、スチレンスルホン酸およびその塩等のスチレン系化合物;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素基を有するビニル系化合物;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル類およびジアルキルエステル類;フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル類およびジアルキルエステル類;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基を有するビニル系化合物;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基を有するビニル系化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル、アリルアルコール等があげられ、これらは、複数を共重合成分として使用することも可能である。
【0066】
前記化合物から得られる(メタ)アクリル酸エステル系の重合体の中でも、スチレン系化合物と(メタ)アクリル酸系化合物からなる共重合体を主鎖骨格に持つ有機重合体が、得られる硬化物が物性に優れることから好ましく、アクリル酸エステル化合物とメタクリル酸エステル化合物からなる共重合体を主鎖骨格に持つ有機重合体がより好ましく、アクリル酸エステル化合物からなる重合体を主鎖骨格に持つ有機重合体が特に好ましい。
【0067】
接着剤組成物が低粘度であること、得られる硬化物が、耐候性および耐熱性に優れることから、有機重合体の主鎖骨格がアクリル酸ブチル系化合物からなるものがより好ましい。
【0068】
また、自動車用途等に使用される接着剤の場合、得られる硬化物としては耐油性に優れること等が要求される。得られる硬化物が耐油性に優れるものとしては、有機重合体の主鎖骨格がアクリル酸エチルを主とした共重合体からなるものがより好ましい。
【0069】
このアクリル酸エチルを主とした共重合体を主鎖骨格とする有機重合体を含む接着剤組成物は、得られる硬化物が耐油性に優れるが低温特性(耐寒性)にやや劣る傾向があり、低温特性を向上させる目的で、アクリル酸エチルの一部をアクリル酸ブチルに置き換えることが行われる。但し、アクリル酸ブチルの比率を増やすに伴い、その良好な耐油性が損なわれる傾向があるため、耐油性を要求される用途に使用する際は、その比率は40%以下にするのが好ましく、更には30%以下にするのがより好ましい。
【0070】
また、耐油性を損なわずに低温特性等を改善するために側鎖のアルキル基に酸素が導入されたアクリル酸2−メトキシエチルやアクリル酸2−エトキシエチル等共重合体成分に用いるのも好ましい。
【0071】
但し、側鎖にエーテル結合を持つアルコキシ基の導入により、得られる硬化物は耐熱性が劣る傾向があるので、耐熱性が要求される用途に使用の際は、その比率を40%以下にするのが好ましい。
【0072】
以上のように、アクリル酸エチルを主とした共重合体を主鎖骨格とする有機重合体は、各種用途や要求される目的に応じて、得られる硬化物の必要とされる耐油性や耐熱性、低温特性等の物性を考慮し、共重合体成分の種類や比率を変化させ、適した重合体を得ることが可能である。例えば、特に限定されないが、耐油性や耐熱性、低温特性等の物性バランスに優れている例としては、アクリル酸エチル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−メトキシエチル(重量比で40〜50/20〜30/30〜20)の共重合体があげられる。
【0073】
本発明においては、これらの好ましい化合物を他の化合物と共重合、更にはブロック共重合させることが可能であり、その際は、これらの好ましい化合物が重量比で40%以上含まれていることが好ましい。
【0074】
(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法としては、特に限定されず、公知の方法があげられる。この中でも、高い割合で分子鎖末端に架橋性官能基を導入しやすいこと、分子量分布が狭く、粘度が低い重合体が得られること等から、リビングラジカル重合法を用いることが好ましい。
【0075】
なお、重合開始剤としてアゾ系化合物、過酸化物等を用いる、通常のフリーラジカル重合法で得られる重合体は、分子量分布の値が一般に2以上と大きく、粘度が高くなる傾向がある。
【0076】
前記「リビングラジカル重合法」を用いた(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法の中でも、開始剤として有機ハロゲン化物あるいはハロゲン化スルホニル化合物等使用し、触媒として遷移金属錯体を使用した「原子移動ラジカル重合法」は、分子量分布が狭く、低粘度の重合体が得られるという「リビングラジカル重合法」の特徴に加え、開始剤や触媒の選定の自由度が大きいこと、官能基変換反応に比較的有利なハロゲン等を末端に有すること等から、特定の官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法としてより好ましい。原子移動ラジカル重合法としては、例えば、Matyjaszewskiら、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカルソサエティー(J.Am.Chem.Soc.)1995年、117巻、5614頁等があげられる。
【0077】
反応性ケイ素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法としては、特に限定されず、例えば、特公平3−14068号、特公平4−55444号、特開平6−211922号等に開示されている連鎖移動剤を用いたフリーラジカル重合法、特開平9−272714号等に開示されている原子移動ラジカル重合法等があげられる。
【0078】
前記(メタ)アクリル酸エステル系化合物の複数からなる(メタ)アクリル酸エステル系共重合体も有機重合体(A)の主鎖骨格として使用することが可能である。
【0079】
複数の(メタ)アクリル酸エステル系化合物からなるメタアクリル酸エステル系共重合体の具体例としては、主鎖骨格が実質的に、一般式(10):
−CH2−C(R12)(COOR13)− (10)
(R12は水素原子またはメチル基、R13は炭素原子数1〜8のアルキル基である。)で表される炭素原子数1〜8のアルキル基を有する繰り返し単位と、
一般式(11):
−CH2−C(R12)(COOR14)− (11)
(R12は一般式(10)の表記と同じ。R14は炭素原子数9以上のアルキル基である。)で表される炭素原子数9以上のアルキル基を有する繰り返し単位とからなる共重合体があげられる。
【0080】
一般式(10)中に記載のR13としては、炭素原子数1〜8のアルキル基であれば特に限定されず、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基等があげられる。これらの中でも炭素原子数が1〜4のアルキル基が好ましく、炭素原子数が1または2のアルキル基がより好ましい。なお、共重合体中に含まれるR13は必ずしも1種類のアルキル基に限定されるものでは無い。
【0081】
一般式(11)中に記載のR14としては、炭素原子数9以上のアルキル基であれば特に限定されず、例えばラウリル基、トリデシル基、セチル基、ステアリル基、ベヘニル基等があげられる。これらの中でも炭素原子数が10〜30のアルキル基が好ましく、炭素原子数が10〜20の長鎖のアルキル基がより好ましい。なお、共重合体中に含まれるR14は必ずしも1種類のアルキル基に限定されるものではない。
【0082】
(メタ)アクリル酸エステル系共重合体は実質的に一般式(10)および一般式(11)記載の繰り返し単位から構成される。ここで、「実質的に」とは共重合体中に占める、一般式(10)、(11)記載の繰り返し単位の合計の割合が50重量%を超えることを意味し、共重合体に占める一般式(10)、(11)記載の繰り返し単位の合計の割合は70重量%以上が好ましい。
【0083】
また、共重合体中に存在する一般式(10)、(11)の繰り返し単位の比率は、重量比(一般式(10):一般式(11))で95:5〜40:60が好ましく、90:10〜60:40がより好ましい。
【0084】
(メタ)アクリル酸エステル系共重合体は、一般式(10)、(11)記載の繰り返し単位として使用される(メタ)アクリル酸エステル系化合物と、これと共重合可能なビニル化合物の共重合体を含む。
【0085】
ビニル化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル酸;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等のアミド基、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、アミノエチルビニルエーテル等のアミノ基を有する化合物;その他アクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレン、アルキルビニルエーテル、塩化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、エチレン等の化合物があげられる。
【0086】
有機重合体(A)の主鎖骨格中には、必要に応じ本発明の効果を大きく損なわない範囲で、前記以外の、例えばウレタン結合を持つ繰り返し単位が存在してもよい。
【0087】
ウレタン結合を持つ繰り返し単位としては、特に限定されず、例えば、イソシアネート基と活性水素基との反応により生成する基(以下、アミドセグメントともいう。)を有する繰り返し単位があげられる。
【0088】
アミドセグメントとは一般式(12):
−NR15−C(=O)− (12)
(R15は水素原子または有機基である。)で表される有機基をいう。
【0089】
アミドセグメントとしては、特に限定されず、例えば、イソシアネート基と水酸基との反応により生成するウレタン基;イソシアネート基とアミノ基との反応により生成する尿素基;イソシアネート基とメルカプト基との反応により生成するチオウレタン基等があげられる。
【0090】
なお、本発明では、ウレタン基、尿素基、および、チオウレタン基中の活性水素と、イソシアネート基との反応により生成する有機基もアミドセグメントと定義する。
【0091】
主鎖骨格にアミドセグメントを有する反応性ケイ素基を有する有機重合体の製造方法としては、特に限定されず、例えば、特公昭46−12154号(米国特許3632557号)、特開昭58−109529号(米国特許4374237号)、特開昭62−13430号(米国特許4645816号)、特開平8−53528号(EP0676403)、特開平10−204144号(EP0831108)、特表2003−508561(米国特許6197912号)、特開平6−211879号(米国特許5364955号)、特開平10−53637号(米国特許5756751号)、特開平11−100427号、特開2000−169544号、特開2000−169545号、特開2002−212415号、特許第3313360号、米国特許4067844号、米国特許3711445号、特開2001−323040号、等に開示されている末端に活性水素を有する有機基をもつ有機重合体に、過剰量のポリイソシアネート化合物を反応させることで、ポリウレタン系主鎖の末端にイソシアネート基を有する重合体を得た後、あるいは同時に、重合体中のイソシアネート基の全部または一部と一般式(13):
W−R16−SiR13-aa (13)
(R1、X、aは一般式(1)の表記と同じ。R16は2価の有機基であり、より好ましくは炭素原子数1〜20の2価の炭化水素基である。Wは水酸基、カルボキシル基、メルカプト基およびアミノ基(1級または2級)からなる群より選択される少なくとも1つの活性水素を有する基である。)で表されるケイ素化合物中のWを反応させる方法があげられる。
【0092】
また、特開平11−279249号(米国特許5990257号)、特開2000−119365号(米国特許6046270号)、特開昭58−29818号(米国特許4345053号)、特開平3−47825号(米国特許5068304号)、特開平11−60724号、特開2002−155145号、特開2002−249538号、WO03/018658号、WO03/059981号等に開示されている有機重合体の末端に存在する活性水素を有する基と一般式(14):
O=C=N−R16−SiR13-aa (14)
(R1、R16、X、aは一般式(1)および一般式(13)の表記と同じ。)で表される反応性ケイ素基を有するイソシアネート化合物のイソシアネート基を反応させる方法があげられる。
【0093】
末端に活性水素を有する基を持つ有機重合体としては、特に限定されず、例えば、末端に水酸基を有するオキシアルキレン重合体(ポリエーテルポリオール)、ポリアクリルポリオール、ポリエステルポリオール、末端に水酸基を有する飽和炭化水素系重合体(ポリオレフィンポリオール)、ポリチオール化合物、ポリアミン化合物等があげられる。
【0094】
これらの中でも、ポリエーテルポリオール、ポリアクリルポリオール、および、ポリオレフィンポリオール成分を主鎖骨格に有する有機重合体は、ガラス転移温度が比較的低く、得られる硬化物が耐寒性に優れることから好ましい。
【0095】
ポリエーテルポリオール成分を含む有機重合体は、粘度が低く作業性が良好であり、得られる硬化物の深部硬化性および接着性が良好であることから特に好ましい。また、ポリアクリルポリオールおよび飽和炭化水素系重合体成分を有する有機重合体を用いた接着剤組成物は、得られる硬化物の耐候性・耐熱性が良好であることからより好ましい。
【0096】
ポリエーテルポリオールとしては、1分子あたり平均して少なくとも0.7個の水酸基を末端に有するものが好ましい。
【0097】
その製造方法としては、特に限定されず公知の方法があげられ、例えば、アルカリ金属触媒を使用した重合法、複合金属シアン化物錯体やセシウムの存在下、開始剤として1分子中に少なくとも2個の水酸基を有するポリヒドロキシ化合物を使用した、アルキレンオキシドの重合法等があげられる。
【0098】
前記の重合法の中でも、複合金属シアン化物錯体を使用する重合法は、不飽和度が低く、分子量分布(Mw/Mn)が狭く、低粘度の重合体が得られること、得られる硬化物の耐酸性および耐候性がすぐれること等により好ましい。
【0099】
ポリアクリルポリオールとは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(共)重合体を骨格とし、かつ、分子内にヒドロキシル基を有するポリオールをいう。
【0100】
その製造方法としては、得られる重合体の分子量分布が狭く、低粘度化が可能なことからリビングラジカル重合法が好ましく、原子移動ラジカル重合法がより好ましい。また、特開2001−207157号に開示されているアクリル酸アルキルエステル系化合物を高温、高圧下で連続塊状重合するいわゆるSGOプロセスによる重合法が好ましい。ポリアクリルポリオールとしては、東亞合成(株)製のアルフォンUH−2000等があげられる。
【0101】
ポリイソシアネート化合物としては、特に限定されず、例えば、トルエン(トリレン)ジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族系ポリイソシアネート;イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族系ポリイソシアネート等があげられる。
【0102】
一般式(13)記載のケイ素化合物としては、特に限定されず、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エチルアミノイソブチルトリメトキシシラン、N−シクロヘキシルアミノメチルトリエトキシシラン、N−シクロヘキシルアミノメチルジエトキシメチルシラン、N−フェニルアミノメチルトリメトキシシラン、等のアミノ基を有するシラン化合物;γ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン等のヒドロキシ基を有するシラン化合物;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基を有するシラン化合物;等があげられる。
【0103】
更に、一般式(14)記載のケイ素化合物としては、特開平6−211879号(米国特許5364955号)、特開平10−53637号(米国特許5756751号)、特開平10−204144号(EP0831108)、特開2000−169544号、特開2000−169545号に開示されている各種のα,β−不飽和カルボニル化合物と一級アミノ基を有するシラン化合物とのMichael付加反応物、または、各種の(メタ)アクリロイル基を有するシラン化合物と一級アミノ基を有する化合物とのMichael付加反応物等もあげられる。
【0104】
一般式(14)記載の反応性ケイ素基を有するイソシアネート化合物としては、特に限定されず、例えば、γ−トリメトキシシリルプロピルイソシアネート、γ−トリエトキシシリルプロピルイソシアネート、γ−メチルジメトキシシリルプロピルイソシアネート、γ−メチルジエトキシシリルプロピルイソシアネート、トリメトキシシリルメチルイソシアネート、トリエトキシメチルシリルメチルイソシアネート、ジメトキシメチルシリルメチルイソシアネート、ジエトキシメチルシリルメチルイソシアネート等があげられる。
【0105】
更に、一般式(14)記載の反応性ケイ素基を有するイソシアネート化合物としては、特開2000−119365号(米国特許6046270号)に開示されている一般式(13)記載のケイ素化合物と、過剰のポリイソシアネート化合物の反応生成物等もあげられる。
【0106】
本発明では、チタン触媒(B)を使用する。このチタン触媒(B)は、有機重合体(A)の硬化触媒として機能する。
【0107】
従来より、反応性ケイ素基を有する有機重合体(A)の硬化触媒として、ジブチル錫ジラウレートやジブチル錫ジアセチルアセトネート等の有機錫系触媒が用いられているが、これらの有機錫系触媒は毒性が指摘されている。有機錫系触媒はその添加量に応じて毒性または環境への負荷が大きくなるため、本発明の非有機錫系接着剤組成物は、組成物中に有機錫系触媒を実質的に含有していないことを特徴とする。ここで「実質的に含有していない」とは、有機重合体(A)100重量部に対する有機錫系触媒の含有量が0.5重量部以下であることを意味する。上記有機錫系触媒の含有量は、0.1重量部以下であることが好ましく、0.01重量部以下であることがより好ましく、全く含有していないことが特に好ましい。
【0108】
なお、有機重合体(A)の硬化触媒として機能しないTiO2等の化合物は、本発明の(B)成分に含まれない。
【0109】
チタン触媒(B)は、水酸基またはアルコキシ基と結合したチタン原子を有する化合物であり、チタン触媒(B)の好ましい具体例としては、一般式(3):
Ti(OR34 (3)
(R3は有機基であり、4個のR3は相互に同一であっても異なっていてもよい。)で表されるチタン触媒、および/または、一般式(4):
O=Ti(OR32 (4)
(R3は前記と同じ。)で表されるチタン触媒があげられる。
【0110】
中でもチタニウムアルコキシドが代表的な化合物として例示できる。その他に、一般式(3)および一般式(4)で表されるチタン触媒としては、一般式(3)および一般式(4)中に記載のOR3基の一部または全部が、一般式(15):
−OCOR17 (15)
(R17は有機基であり、より好ましくは炭素原子数1〜20の炭化水素基である。)で表されるアシルオキシ基であるチタニウムカルボキシレートがあげられる。
【0111】
また、一般式(3)および一般式(4)で表されるチタン触媒以外の他のチタン触媒としては、一般式(16):
TiX24-c(OR18c (16)
(X2はハロゲン原子であり、(4−c)個のX2は相互に同一であっても、異なっていてもよい。R18は有機基であり、より好ましくは炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、c個のR18は相互に同一であっても、異なっていてもよい。cは1〜3の整数である。)で表されるハロゲン化チタニウムアルコキシドがあげられる。
【0112】
これらの中でも、チタニウムアルコキシドは、湿分に対する安定性、および、硬化性の点から好ましい。
【0113】
前記一般式(3)および一般式(4)で表されるチタン触媒の中でも、チタニウムキレートが好ましく、中でも一般式(5):
【0114】
【化7】
【0115】
(b個のR4はそれぞれ独立に炭素原子数1〜20の炭化水素基である。(4−b)個のR5はそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1〜8の炭化水素基である。(8−2b)個のR6はそれぞれ独立に炭素原子数1〜8の炭化水素基、または、−OR7(R7は炭素原子数1〜8の炭化水素基である。)である。bは0〜3の整数である。)で表されるチタニウムキレート触媒、一般式(6):
【0116】
【化8】
【0117】
(R5およびR6は前記と同じ。R8は炭素原子数1〜20の2価の炭化水素基である。)で表されるチタニウムキレート触媒、一般式(7):
【0118】
【化9】
【0119】
(R5およびR6は前記と同じ。)で表されるチタニウムキレート触媒が、有機重合体(A)との相溶性、触媒活性の高さ、および、貯蔵安定性の点からより好ましい。
【0120】
一般式(5)で表されるチタニウムキレート触媒は、触媒活性が高いことから特に好ましい。一般式(5)中に記載のbが2であるチタニウムキレート触媒は、比較的結晶性(融点)が低く、作業性が良好で、触媒活性が高いため特に好ましい。また、一般式(7)で表されるチタニウムキレート触媒は、引張応力が大きい接着剤組成物が得られることから特に好ましい。
【0121】
一般式(3)および一般式(4)で表される化合物のうち、チタニウムアルコキシドを具体的に例示すると、チタニウムテトラメトキシド、チタニウムテトラエトキシド、チタニウムテトラアリルオキシド、チタニウムテトラn−プロポキシド、チタニウムテトライソプロポキシド、チタニウムテトラn−ブトキシド、チタニウムテトライソブトキシド、チタニウムテトラsec−ブトキシド、チタニウムテトラt−ブトキシド、チタニウムテトラn−ペンチルオキシド、チタニウムテトラシクロペンチルオキシド、チタニウムテトラヘキシルオキシド、チタニウムテトラシクロヘキシルオキシド、チタニウムテトラベンジルオキシド、チタニウムテトラオクチルオキシド、チタニウムテトラキス(2−エチルヘキシルオキシド)、チタニウムテトラデシルオキシド、チタニウムテトラドデシルオキシド、チタニウムテトラステアリルオキシド、チタニウムテトラブトキシドダイマー、チタニウムテトラキス(8−ヒドロキシオクチルオキシド)、チタニウムジイソプロポキシドビス(2−エチル−1,3−ヘキサンジオラト)、チタニウムビス(2−エチルヘキシルオキシ)ビス(2−エチル−1,3−ヘキサンジオラト)、チタニウムテトラキス(2−クロロエトキシド)、チタニウムテトラキス(2−ブロモエトキシド)、チタニウムテトラキス(2−メトキシエトキシド)、チタニウムテトラキス(2−エトキシエトキシド)、チタニウムブトキシドトリメトキシド、チタニウムジブトキシドジメトキシド、チタニウムブトキシドトリエトキシド、チタニウムジブトキシドジエトキシド、チタニウムブトキシドトリイソプロポキシド、チタニウムジブトキシドジイソプロポキシド、チタニウムテトラフェノキシド、チタニウムテトラキス(o−クロロフェノキシド)、チタニウムテトラキス(m−ニトロフェノキシド)、チタニウムテトラキス(p−メチルフェノキシド)、チタニウムテトラキス(トリメチルシリルオキシド)、ジメトキシオキソチタン、ジエトキオキソチタン、ジn−プロポキシオキソチタン、ジイソプロポキシオキソチタン、ジn−ブトキシオキソチタン、ジイソブトキシオキソチタン、ジt−ブトキシオキソチタン、メタチタン酸ジ(2−ヒドロキシエチル)等があげられる。
【0122】
一般式(3)および一般式(4)中に記載のOR3基の一部または全部が、一般式(15) で表される基であるチタニウムカルボキシレートを具体的に例示すると、チタニウムアクリレートトリイソプロポキシド、チタニウムメタクリレートトリイソプロポキシド、チタニウムジメタクリレートジイソプロポキシド、チタニウムイソプロポキシドトリメタクリレート、チタニウムヘキサノエートトリイソプロポキシド、チタニウムステアレートトリイソプロポキシド等があげられる。
【0123】
一般式(16)のハロゲン化チタニウムアルコキシドを具体的に例示すると、チタニウムクロライドトリイソプロポキシド、チタニウムジクロライドジイソプロポキシド、チタニウムイソプロポキシドトリクロライド、チタニウムブロマイドトリイソプロポキシド、チタニウムフルオライドトリイソプロポキシド、チタニウムクロライドトリエトキシド、チタニウムクロライドトリブトキシド等があげられる。
【0124】
一般式(5)、一般式(6)、一般式(7)のチタニウムキレートを具体的に例示すると、チタニウムジメトキシドビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムジメトキドビス(アセチルアセトネート)、チタニウムジエトキシドビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムジエトキドビス(アセチルアセトネート)、チタニウムジイソプロポキシドビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムジイソプロポキシドビス(メチルアセトアセテート)、チタニウムジイソプロポキシドビス(t−ブチルアセトアセテート)、チタニウムジイソプロポキシドビス(メチル−3−オキソ−4,4−ジメチルヘキサノエート)、チタニウムジイソプロポキシドビス(エチル−3−オキソ−4,4,4−トリフルオロブタノエート)、チタニウムジイソプロポキシドビス(アセチルアセトネート)、チタニウムジイソプロポキシドビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)、チタニウムジ−n−ブトキシドビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムジ−n−ブトキシドビス(アセチルアセトネート)、チタニウムジイソブトキシドビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムジイソブトキシドビス(アセチルアセトネート)、チタニウムジ−t−ブトキシドビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムジ−t−ブトキシドビス(アセチルアセトネート)、チタニウムジ−2−エチルヘキソキシドビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムジ−2−エチルヘキソキシドビス(アセチルアセトネート)、チタニウムビス(1−メトキシ−2−プロポキシド)ビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムビス(3−オキソ−2−ブトキシド)ビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムビス(3−ジエチルアミノプロポキシド)ビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムトリイソプロポキシド(エチルアセトアセテート)、チタニウムトリイソプロポキシド(ジエチルマロネート)、チタニウムトリイソプロポキシド(アリルアセトアセテート)、チタニウムトリイソプロポキシド(メタクリロキシエチルアセトアセテート)、1,2−ジオキシエタンチタニウムビス(エチルアセトアセテート)、1,3−ジオキシプロパンチタニウムビス(エチルアセトアセテート)、2,4−ジオキシペンタンチタニウムビス(エチルアセトアセテート)、2,4−ジメチル−2,4−ジオキシペンタンチタニウムビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムジイソプロポキシドビス(トリエタノールアミネート)、チタニウムテトラキス(エチルアセトアセテート)、チタニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、チタニウムビス(トリメチルシロキシ)ビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムビス(トリメチルシロキシ)ビス(アセチルアセトナート)、オキソチタン(1,2−ベンゼンジオラート)、オキソビス(2,4−ペンタンジオナト)チタン、オキソビス(エチルアセトアセテート)チタン等があげられる。
【0125】
これらの中でもチタニウムジエトキシドビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムジエトキドビス(アセチルアセトネート)、チタニウムジイソプロポキシドビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムジイソプロポキシドビス(アセチルアセトネート)、チタニウムジブトキシドビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムジブトキシドビス(アセチルアセトネート)、オキソビス(2,4−ペンタンジオナト)チタンが、入手性および触媒活性の点から好ましく、チタニウムジエトキシドビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムジイソプロポキシドビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムジブトキシドビス(エチルアセトアセテート)、オキソビス(2,4−ペンタンジオナト)チタンがより好ましく、チタニウムジイソプロポキシドビス(エチルアセトアセテート)が特に好ましい。チタニウムジイソプロポキシドビス(エチルアセトアセテート)は、松本製薬工業(株)から商品名オルガチックスTC−750として、またデュポン(株)から商品名タイザーPITAとして市販されており、容易に入手できる。
【0126】
また、上記以外のチタン触媒を具体的に記載すると、チタニウムトリス(ジオクチルフォスフェート)イソプロポキシド、チタニウムトリス(ドデシルベンゼンスルフォネート)イソプロポキシド、ジヒドロキシチタニウムビスラクテート等があげられる。
【0127】
また、前記チタニウムキレートのキレート配位子を形成し得るキレート試薬の具体例としては、アセチルアセトン、2,2,4,4−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン等のβ−ジケトン;アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸t−ブチル、アセト酢酸アリル、アセト酢酸(2−メタクリロキシエチル)、3−オキソ−4,4−ジメチルヘキサン酸メチル、3−オキソ−4,4,4−トリフルオロブタン酸エチル等のβ−ケトエステル;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル等のβ−ジエステル;が硬化性の点から好ましい。これらの中でも、β−ジケトンおよびβ−ケトエステルが硬化性および貯蔵安定性の点からより好ましく、β−ケトエステルが特に好ましい。また、硬化性、貯蔵安定性および入手性の点から、アセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチルがより好ましく、アセト酢酸エチルが特に好ましい。また、キレート配位子が2個以上存在する場合、それぞれのキレート配位子は同一であっても異なっていてもよい。
【0128】
前記チタニウムキレートを添加する方法として、上記に例示したチタニウムキレートを直接添加する以外に、チタニウムテトライソプロポキシドやチタニウムジクロライドジイソプロポキシド等のキレート試薬と反応し得るチタン化合物と、アセト酢酸エチル等のキレート試薬を、本発明の組成物にそれぞれ添加し、組成物中にてキレート化させる方法も適用し得る。
【0129】
チタン触媒(B)は、接着剤組成物に配合する際、1種のみを配合してもよく、複数種を組み合わせて配合してもよい。チタン触媒(B)の配合量としては、有機重合体(A)100重量部に対して、0.01〜20重量部が好ましく、0.1〜15重量部がより好ましく、0.5〜10重量部が更に好ましく、1〜5重量部が特に好ましい。チタン触媒(B)の配合量が0.01〜20重量部の場合、接着剤組成物はより優れた硬化性を有し、また、適度な硬化時間を有するため、作業性に優れたものとなる。
【0130】
本発明の接着剤組成物は、硬化触媒としてチタン触媒(B)を使用するが、必要に応じて本発明の効果を阻害しない程度に他の硬化触媒を添加することもできる。
【0131】
チタン触媒(B)以外の硬化触媒としては、特に限定されず、例えば、カルボン酸錫、カルボン酸鉛、カルボン酸ビスマス、カルボン酸カリウム、カルボン酸カルシウム、カルボン酸バリウム、カルボン酸チタン、カルボン酸ジルコニウム、カルボン酸ハフニウム、カルボン酸バナジウム、カルボン酸マンガン、カルボン酸鉄、カルボン酸コバルト、カルボン酸ニッケル、カルボン酸セリウム等のカルボン酸金属塩;ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレエート、ジブチル錫フタレート、ジブチル錫ジオクタノエート、ジブチル錫ビス(2−エチルヘキサノエート)、ジブチル錫ビス(メチルマレエート)、ジブチル錫ビス(エチルマレエート)、ジブチル錫ビス(ブチルマレエート)、ジブチル錫ビス(オクチルマレエート)、ジブチル錫ビス(トリデシルマレエート)、ジブチル錫ビス(ベンジルマレエート)、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ビス(エチルマレエート)、ジオクチル錫ビス(オクチルマレエート)、ジブチル錫ジメトキサイド、ジブチル錫ビス(ノニルフェノキサイド)、ジブテニル錫オキサイド、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ビス(アセチルアセトナート)、ジブチル錫ビス(エチルアセトアセトナート)等の有機錫化合物;アルミニウムトリス(アセチルアセトナート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート等のアルミニウム化合物類;ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトナート)等のジルコニウム化合物類;テトラブトキシハフニウム等の各種金属アルコキシド類;有機酸性リン酸エステル類;トリフルオロメタンスルホン酸等の有機スルホン酸類;塩酸、リン酸、ボロン酸等の無機酸類;等があげられる。
【0132】
チタン触媒(B)以外の前記硬化触媒を併用させることにより、触媒活性が高くなり、深部硬化性、薄層硬化性、接着性等の改善が期待される。
【0133】
しかしながら、毒性の面から、有機錫系触媒の添加量は少ないことが好ましい。本発の非有機錫系接着剤組成物は、有機錫系触媒の添加量が、硬化触媒として作用する化合物成分中の50重量%以下であることが好ましく、30重量%以下がより好ましく、10重量%以下が更に好ましく、1重量%以下が特に好ましく、含有していないことが最も好ましい。更に、環境への負荷を考慮すると、有機錫系化合物やカルボン酸錫等の錫化合物を実質的に含有していない非錫系接着剤組成物がより好ましい。
【0134】
本発明の接着剤組成物は、必要に応じて可塑剤が添加される。可塑剤の添加により、接着剤組成物の粘度やスランプ性、および、得られる硬化物の引張強度、伸び等の機械特性が調整できる。
【0135】
通常よく使用される可塑剤として、ジブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、ブチルベンジルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤があげられる。これらフタル酸エステル系可塑剤は、従来から低粘度で安価な可塑剤として広く使用されており、本発明の接着剤組成物へ添加しても構わない。しかしながら、フタル酸エステル化合物は環境ホルモンの疑いが浮上し、人体への影響が懸念されるため、本発明の接着剤組成物への添加は少ないほうが好ましい。従って、本発明の接着剤組成物へ可塑剤を添加する場合、非フタル酸エステル系可塑剤(C)を添加することが好ましい。つまり、可塑剤成分中の10重量%以上が非フタル酸エステル系可塑剤(C)であることが好ましく、30重量%以上が非フタル酸エステル系可塑剤(C)であることがより好ましく、50重量%以上が非フタル酸エステル系可塑剤(C)であることが更に好ましく、80重量%以上が非フタル酸エステル系可塑剤(C)であることが特に好ましく、100重量%が非フタル酸エステル系可塑剤(C)であることが最も好ましい。
【0136】
ここで言う非フタル酸エステル系可塑剤(C)とは、分子内にフタル酸エステル構造を有さない可塑剤である。非フタル酸エステル系可塑剤(C)は、いわゆる環境ホルモンと言われているフタル酸エステル化合物とは異なり環境に優しい化合物であり、人体へ及ぼす悪影響が少ない。
【0137】
非フタル酸エステル系可塑剤(C)としては、入手性、安全性の点から、シクロヘキサンジカルボン酸ジエステル、アルキルスルホン酸フェニルエステル、芳香族ビニル化合物からなるオリゴマーのいずれかがより好ましい。これらの中でも、得られる接着剤組成物が貯蔵安定性に優れることから、シクロヘキサンジカルボン酸ジエステル、芳香族ビニル化合物からなるオリゴマーが好ましく、シクロヘキサンジカルボン酸ジエステルがより好ましい。
【0138】
シクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの具体例としては、シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジエチルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジブチルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジイソブチルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジノルマルヘキシルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2−エチルヘキシル)エステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジノルマルオクチルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジノニルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジイソデシルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジイソウンデシルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ビスブチルベンジルエステル等があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0139】
これらの中でも、有機重合体(A)との相溶性や接着剤組成物に与える可塑化効果の点からシクロヘキサンジカルボン酸ビス(2−エチルヘキシル)エステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジイソデシルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジイソウンデシルエステルが好ましく、シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステルが特に好ましい。シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステルは、BASF(株)から商品名Hexamoll DINCHとして市販されており、容易に入手できる。
【0140】
芳香族ビニル化合物からなるオリゴマーとしては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロロスチレン等の芳香族ビニル化合物のダイマー、トライマー、テトラマー等があげられる。この場合、オリゴマーを構成する分子がすべて同一分子である、ホモダイマー、ホモトライマー、ホモテトラマーであってもよく、オリゴマーを構成する分子が異なる、ヘテロダイマー、ヘテロトライマー、ヘテロトライマーであってもよい。
【0141】
芳香族ビニル化合物からなるオリゴマーとしては、前記芳香族ビニル化合物と、これと共重合可能な化合物、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル酸;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等のアミド基、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、アミノエチルビニルエーテル等のアミノ基を有する化合物;その他アクリロニトリル、アルキルビニルエーテル、塩化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、エチレン等の化合物からなるオリゴマーであってもよい。
【0142】
芳香族ビニル化合物からなるオリゴマーは、ルトガースケミカル(株)から商品名ノバレスL100等として市販されており、容易に入手できる。
【0143】
また、アルキルスルホン酸フェニルエステルは、ランクセス(株)から商品名メザモールII等として市販されており、容易に入手できる。
【0144】
その他の非フタル酸エステル系可塑剤(C)としては、ジオクチルアジペート、ジオクチルセバケート、ジブチルセバケート、コハク酸ジイソデシル等の非芳香族二塩基酸エステル類;オレイン酸ブチル、アセチルリシリノール酸メチル等の脂肪族エステル類;トリクレジルホスフェート、トリブチルホスフェート等のリン酸エステル類;トリメリット酸エステル類;塩素化パラフィン類;アルキルジフェニル、部分水添ターフェニル、等の炭化水素系油;プロセスオイル類;エポキシ化大豆油、エポキシステアリン酸ベンジル等のエポキシ可塑剤類をあげることができる。
【0145】
非フタル酸エステル系可塑剤(C)として、分子量が500以上の高分子可塑剤を使用することもできる。高分子可塑剤を使用すると重合体成分を分子中に含まない可塑剤である低分子可塑剤を使用した場合に比較して、初期の物性を長期にわたり維持する。更に、該硬化物にアルキド塗料を塗布した場合の乾燥性(塗装性ともいう)を改良できる。高分子可塑剤の具体例としては、ビニル系モノマーを種々の方法で重合して得られるビニル系重合体;ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエート、ペンタエリスリトールエステル等のポリアルキレングリコールのエステル類;セバシン酸、アジピン酸、アゼライン酸、フタル酸等の2塩基酸とエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等の2価アルコールから得られるポリエステル系可塑剤;分子量500以上、更には1000以上のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオールあるいはこれらポリエーテルポリオールの水酸基をエステル基、エーテル基等に変換した誘導体等のポリエーテル類;ポリブタジエン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ブタジエン−アクリロニトリル、ポリクロロプレン等があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0146】
これらの高分子可塑剤はチタン触媒(B)と併用して用いると、貯蔵後に硬化性が低下し難い接着剤組成物が得られることから好ましい。中でもポリエーテル類が好ましく、ポリプロピレングリコールがより好ましい。また、高分子可塑剤は有機重合体(A)と相溶するものが好ましい。この点から、ポリエーテル類やビニル系重合体が好ましい。相溶性および耐候性、耐熱性の点からビニル系重合体が好ましい。ビニル系重合体の中でもアクリル系重合体および/またはメタクリル系重合体が好ましく、ポリアクリル酸アルキルエステル等のアクリル系重合体が更に好ましい。この重合体の合成法は、分子量分布が狭く、低粘度化が可能なことからリビングラジカル重合法が好ましく、原子移動ラジカル重合法が更に好ましい。また、特開2001−207157号公報に記載されているアクリル酸アルキルエステル系単量体を高温、高圧で連続塊状重合によって得た、いわゆるSGOプロセスによる重合体を用いるのが好ましい。
【0147】
高分子可塑剤の数平均分子量は、好ましくは500〜15,000であるが、より好ましくは800〜10,000であり、更に好ましくは1,000〜8,000、特に好ましくは1,000〜5,000である。最も好ましくは1,000〜3,000である。分子量が低すぎると熱や降雨により可塑剤が経時的に流出し、初期の物性を長期にわたり維持できず、アルキド塗装性が改善できない。また、分子量が高すぎると粘度が高くなり、作業性が悪くなる。高分子可塑剤の分子量分布は特に限定されないが、狭いことが好ましく、1.80未満が好ましい。1.70以下がより好ましく、1.60以下がなお好ましく、1.50以下が更に好ましく、1.40以下が特に好ましく、1.30以下が最も好ましい。
【0148】
数平均分子量はビニル系重合体の場合はGPC法で、ポリエーテル系重合体の場合は末端基分析法で測定される。また、分子量分布(Mw/Mn)GPC法(ポリスチレン換算)で測定される。
【0149】
また、高分子可塑剤は、反応性ケイ素基を有しないものでよいが、反応性ケイ素基を有してもよい。反応性ケイ素基を有する場合、反応性可塑剤として作用し、硬化物からの可塑剤の移行を防止できる。反応性ケイ素基を有する場合、1分子あたり平均して1個以下、更には0.8個以下が好ましい。反応性ケイ素基を有する可塑剤、特に反応性ケイ素基を有するオキシアルキレン重合体を使用する場合、その数平均分子量は有機重合体(A)より低いことが必要である。
【0150】
可塑剤は、接着剤組成物に配合する際、1種のみを配合してもよく、複数種を組み合わせて配合してもよい。また、低分子可塑剤と高分子可塑剤を併用してもよい。なおこれら可塑剤は、重合体製造時に配合することも可能である。可塑剤の配合量としては、有機重合体(A)100重量部に対して、5〜300重量部が好ましく、10〜200重量部がより好ましく、20〜100重量部が更に好ましく、40〜80重量部が特に好ましい。可塑剤の配合量が5重量部未満であると十分な可塑化が得られずに作業性が低下する場合があり、配合量が300重量部を越えると、基材との接着性が低下する場合がある。
【0151】
一方、使用する有機重合体(A)の数平均分子量が小さく、得られる接着剤組成物が低粘度で作業性に優れる場合は、可塑剤を添加しないほうが、可塑剤の被接着物への移行(汚染)等が少なく、人体への影響や環境への負荷が小さくなるため好ましい。この場合の有機重合体(A)の数平均分子量は、50,000以下が好ましく、35,000以下がより好ましく、20,000以下が更に好ましく、16,000以下が特に好ましい。また、このように使用する有機重合体(A)の数平均分子量が小さいほど、得られる接着剤組成物の硬化性がより良好になる傾向にあることからも好ましい。
【0152】
本発明の接着剤組成物は、必要に応じてシランカップリング剤が添加される。ここでシランカップリング剤とは、分子中に加水分解性ケイ素基とそれ以外の官能基を有する化合物で、接着剤組成物中に配合することにより、得られる硬化物の各種被着体に対する接着性の改善効果を示したり、接着剤組成物中に含まれる水分を除く(脱水)効果を示すものである。また、シランカップリング剤は、前記の効果に加え物性調整剤、無機充填材の分散性改良剤等として機能し得る化合物である。
【0153】
シランカップリング剤中に存在する加水分解性ケイ素基としては、一般式(1):−SiR1a3-a中に記載のXが加水分解性基であるものがあげられる。加水分解性基としては、特に限定されず、例えば、具体的には、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、酸アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基、アルケニルオキシ基等があげられる。この中でも、メトキシ基、エトキシ基等が適度な加水分解速度を有することから好ましい。シランカップリング剤1分子中に含まれる加水分解性基の個数は、2個以上、特に3個以上が好ましい。
【0154】
シランカップリング剤中に存在する加水分解性ケイ素基以外の官能基としては、置換または非置換のアミノ基、メルカプト基、エポキシ基、カルボキシル基、ビニル基、イソシアネート基、イソシアヌレート、ハロゲン等を例示できる。これらの中でも、得られる硬化物と被着体との接着性を特に高めることから、エポキシ基を有するシランカップリング剤(D)が好ましい。また、接着剤組成物の経時の粘度上昇等が抑制され、良好な状態で長期間保存できることからも、エポキシ基を有するシランカップリング剤(D)が好ましい。
【0155】
エポキシ基を有するシランカップリング剤(D)としては、特に限定されず、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイソプロペノキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリイソプロポキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリイソプロペノキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリアセトキシシラン等のエポキシシラン類があげられる。
【0156】
エポキシ基を有するシランカップリング剤(D)の中でも、相溶性、透明性、入手性が良好な点から、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイソプロペノキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリアセトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが好ましく、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイソプロペノキシシランがより好ましく、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0157】
また、エポキシ基を有するシランカップリング剤(D)以外のシランカップリング剤も添加することができ、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−アミノプロピルトリイソプロペノキシシラン、γ−アミノプロピルトリアセトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリイソプロペノキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリアセトキシシラン、γ−(2−(2−アミノエチル)アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(6−アミノヘキシル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(N−エチルアミノ)−2−メチルプロピルトリエトキシシラン、2−アミノエチルアミノメチルトリエトキシシラン、N−シクロヘキシルアミノメチルトリエトキシシラン、N−シクロヘキシルアミノメチルジエトキシメチルシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニルアミノメチルトリエトキシシラン、N−ベンジル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−ビニルベンジル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール、N−シクロヘキシルアミノメチルトリエトキシシラン、N−シクロヘキシルアミノメチルジエトキシメチルシラン、N−フェニルアミノメチルトリメトキシシラン、N−フェニルアミノメチルトリエトキシシラン、(2−アミノエチル)アミノメチルトリメトキシシラン、(2−アミノエチル)アミノメチルトリエトキシシラン、N,N’−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン等のアミノシラン類;N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン等のケチミン型シラン類;γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、(イソシアネートメチル)トリメトキシシラン、(イソシアネートメチル)ジメトキシメチルシラン、(イソシアネートメチル)トリエトキシシラン、(イソシアネートメチル)ジエトキシメチルシラン等のイソシアネートシラン類;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン類;β−カルボキシエチルトリエトキシシラン、β−カルボキシエチルフェニルビス(2−メトキシエトキシ)シラン、N−β−(カルボキシメチル)アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のカルボキシシラン類;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリイソプロペノキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロイルオキシメチルトリメトキシシラン等のビニル型不飽和基含有シラン類;γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン等のハロゲン含有シラン類;トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等のイソシアヌレートシラン類;等があげられる。また、上記アミノシラン類とエポキシシラン類の反応物、アミノシラン類とイソシアネートシラン類の反応物等も使用できる。上記シラン類を部分的に縮合した縮合体も使用できる。更に、これらを変性した誘導体である、アミノ変性シリルポリマー、シリル化アミノポリマー、不飽和アミノシラン錯体、フェニルアミノ長鎖アルキルシラン、アミノシリル化シリコーン、シリル化ポリエステル等もシランカップリング剤として用いることができる。
【0158】
但し、添加するアミノシラン類の種類によっては、チタン触媒(B)の触媒活性を低下させる場合があるため注意が必要である。特に、一級アミノ基を有するアミノシラン類は、チタン触媒(B)の触媒活性を低下させる傾向にあるため、使用しないことが好ましい。
【0159】
シランカップリング剤を選択する際は、貯蔵中に接着剤組成物の硬化性が変化するのを防止する目的で、有機重合体(A)が有する加水分解性基と同じ構造の加水分解性基を有するものを用いることが好ましい。つまり、有機重合体(A)の加水分解性シリル基がエトキシシリル基である場合は、シランカップリング剤もエトキシシリル基構造のもの、有機重合体(A)の加水分解性シリル基がイソプロペノキシシリル基である場合は、シランカップリング剤もイソプロペノキシシリル基構造のものを選択することが好ましい。
【0160】
また、シランカップリング剤においても、加水分解反応に伴ってメタノールを放出するようなメチルジメトキシシリル基やトリメトキシシリル基を有するシランカップリング剤は使用しないことが好ましい。一方、メチルジエトキシシリル基やトリエトキシシリル基を有するシランカップリング剤は、安全性の高いエタノールを放出することから好ましい。
【0161】
シランカップリング剤は、接着剤組成物に配合する際、1種のみを配合してもよく、複数種を組み合わせて配合してもよい。シランカップリング剤を添加する場合、その添加量としては、有機重合体(A)100重量部に対し、0.01〜20重量部が好ましく、0.1〜10重量部がより好ましく、1〜7重量部が特に好ましい。シランカップリング剤の配合量が0.01重量部を下回ると、接着剤組成物の貯蔵安定性が劣る傾向があり、得られる硬化物の接着性が劣る傾向がある。一方、配合量が20重量部を上回ると実用的な深部硬化性が得られない傾向がある。
【0162】
また、1液型の接着剤組成物を作製する場合、より良好な貯蔵安定性を有すために、チタン触媒(B)とシランカップリング剤とを予め混合し、加熱養生したものを使用することが好ましい。特に、チタン触媒(B)とエポキシ基を有するシランカップリング剤(D)を予め混合し、加熱養生したものを使用した場合、接着性と貯蔵安定性を両立した接着剤組成物が得られることからより好ましい。
【0163】
本発明の接着剤組成物中には必要に応じて、接着性付与効果を持たせるために、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、硫黄、アルキルチタネート類、芳香族ポリイソシアネート等が添加される。これらは1種類のみを添加してもよく、複数種を組み合わせて添加してもよい。
【0164】
本発明の接着剤組成物中には、必要に応じて充填剤が添加される。充填剤としては、特に限定されず、例えば、フュームシリカ、沈降性シリカ、結晶性シリカ、溶融シリカ、ドロマイト、無水ケイ酸、含水ケイ酸、およびカーボンブラック等の補強性充填剤;重質炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイソウ土、焼成クレー、クレー、タルク、酸化チタン、ベントナイト、有機ベントナイト、酸化第二鉄、アルミニウム微粉末、フリント粉末、酸化亜鉛、活性亜鉛華、シラスバルーン、ガラスミクロバルーン、フェノール樹脂や塩化ビニリデン樹脂の有機ミクロバルーン、PVC粉末、PMMA粉末等の有機粉末;石綿、ガラス繊維およびフィラメント等の繊維状充填剤があげられる。
【0165】
充填剤を添加する場合、その添加量は(A)成分の有機重合体100重量部に対して1〜250重量部が好ましく、10〜200重量部がより好ましい。
【0166】
1液型の接着剤組成物に使用する際は、良好な貯蔵安定性を得るために、前記充填剤を特開2001−181532号等に開示されているように、酸化カルシウム等の脱水剤と均一に混合した後、気密性素材からなる袋に封入し、適当な時間放置することにより予め脱水乾燥した後、添加することが好ましい。
【0167】
また、得られる硬化物が、透明性を必要とされる用途に使用される場合、添加される充填材は、特開平11−302527号等に開示のメタクリル酸メチル等の重合体からなる高分子粉体や、非晶質シリカ等が好ましく、特開2000−38560号等に開示の疎水性シリカ等がより好ましい。
【0168】
ここで疎水性シリカとは、一般的にシラノール基(−SiOH)が占める二酸化珪素微粉末の表面を、有機珪素ハロゲン化物やアルコール類等で処理することにより、(−SiO−疎水基)としたものをいう。疎水性シリカとしては、特に限定されず、例えば、二酸化珪素微粉末の表面に存在するシラノール基を、ジメチルシロキサン、ヘキサメチルジシラザン、ジメチルジクロルシラン、トリメトキシオクチルシラン、トリメチルシラン等で処理したものがあげられる。なお、表面がシラノール基(−SiOH)で占められている未処理の二酸化珪素微粉末は、親水性シリカ微粉末と呼ばれる。
【0169】
また、得られる硬化物が、高強度が必要とされる用途に使用される場合、添加される充填材としては、ヒュームシリカ、沈降性シリカ、結晶性シリカ、溶融シリカ、ドロマイト、無水ケイ酸、含水ケイ酸等のケイ素化合物;カーボンブラック、表面処理微細炭酸カルシウム、焼成クレー、クレー、活性亜鉛華等が好ましく、添加量は、有機重合体(A)100重量部に対し、1〜200重量部が好ましい。
【0170】
更に、得られる硬化物が、低強度で高い伸び率を必要とされる用途に使用される場合、添加される充填材は、酸化チタン、および重質炭酸カルシウム等の炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、酸化第二鉄、酸化亜鉛、シラスバルーン等が好ましく、添加量は(A)成分の有機重合体100重量部に対して5〜200重量部が好ましい。
【0171】
なお、炭酸カルシウムを添加する場合は、比表面積が大きいものほど得られる硬化物の破断強度、破断伸び、接着性の改善傾向は大きくなる。これらの充填剤は1種類のみを添加してもよいし、複数種を組み合わせて添加してもよい。
【0172】
複数の添加剤を添加する例としては、特に限定されず、表面処理微細炭酸カルシウムと重質炭酸カルシウム等の粒径が大きい炭酸カルシウムを併用することが、得られる硬化物の諸物性が優れていることから好ましい。
【0173】
表面処理微細炭酸カルシウムとしては、粒径は0.5μm以下で粒子表面が脂肪酸や脂肪酸塩で処理されているものが好ましい。
【0174】
また、粒径が大きい炭酸カルシウムとしては、粒径は1μm以上で粒子表面が処理されていないものが好ましい。
【0175】
接着剤組成物として作業性(キレ等)が求められる場合や、得られる硬化物の表面が艶消し状であることが求められる場合、添加される充填材は、有機バルーン、無機バルーンが好ましい。これらの充填剤は表面処理の有無を問わず、また、1種類のみを添加してもよいし、複数を混合添加してもよい。バルーンの粒子径は、作業性(キレ等)を向上させる目的では、0.1mm以下が好ましく、硬化物の表面を艶消し状にする目的では、5〜300μmが好ましい。
【0176】
本発明の接着剤組成物は、得られる硬化物が耐薬品性に優れること等から、窯業系等のサイディングボード用、住宅の外壁の目地や外壁タイル用のシーリング材、接着剤等に好適に使用される。
【0177】
このような用途に使用される際、目地部分等表面に現れる部分に、得られる硬化物が存在するため、外壁の意匠と硬化物の意匠が調和することが望まれる。殊に近年ではスパッタ塗装や、着色骨材等を添加したもの等高級感のある外壁が用いられるようになっており、硬化物の意匠性の重要度は増している。
【0178】
高級感のある意匠性を得るため、本発明の接着剤組成物中には、鱗片状または粒状の物質が添加される。ここで、粒状の物質を添加すると砂まき調あるいは砂岩調のざらつき感がある表面となり、鱗片状物質を添加すると鱗片状に起因する凹凸状の表面となる。
【0179】
なお、得られた硬化物は、高級感のある外壁と調和するとともに、耐薬品性がすぐれるため、高級感のある外観は長期にわたって持続する特徴を有する。
【0180】
鱗片状または粒状の物質としては、特に限定されず、例えば特開平9−53063号に開示されているものがあげられ、直径としては外壁の材質、模様等に合わせ適宜選択されるが0.1mm以上が好ましく、い。0.1〜5.0mmがより好ましい。なお、鱗片状物質の場合厚さは、直径の1/10〜1/5(0.01〜1.00mm)が好ましい。
【0181】
鱗片状または粒状の物質の添加量は、鱗片状または粒状の物質の大きさ、外壁の材質、模様等によって、適宜選定されるが、接着剤組成物100重量部に対して、1〜200重量部が好ましい。
【0182】
鱗片状または粒状の物質の材質としては、特に限定されず、例えば、ケイ砂、マイカ等の天然物、合成ゴム、合成樹脂、アルミナ等の無機物があげられ、る。これらは、目地部等に充填した際の意匠性を高めるため、外壁の材質、模様等に合わせ、適宜着色されてもよい。
【0183】
なお、好ましい仕上げ方法等は特開平9−53063号等に開示されている。
【0184】
鱗片状または粒状の物質は、接着剤組成物中に予め混合してもよく、使用時に接着剤組成物と混合してもよい。
【0185】
また、同様の目的で接着剤組成物中にバルーン(好ましくは平均粒径が0.1mm以上のもの)を添加することも可能であり、得られる硬化剤は砂まき調あるいは砂岩調のざらつき感がある表面となり、かつ軽量化を図ることができる。なお、バルーンとは、球状体充填剤で内部が中空のものをいう。
【0186】
バルーンとしては、特に限定されず、例えば特開平10−251618号、特開平2−129262号、特開平4−8788号、特開平4−173867号、特開平5−1225号、特開平7−113073号、特開平9−53063号、特開2000−154368号、特開2001−164237号、WO97/05201号等に開示されている物があげられる。
【0187】
バルーンの材質としては、ガラス、シラス、シリカ等の無機系の材料;フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリスチレン、サラン等の有機系の材料;があげられる。また、無機系の材料と有機系の材料との複合材;複数の層からなる積層材があげられる。これらは1種類のみを使用してもよく、複数種を組み合わせて添加してもよい。
【0188】
また、バルーンとしては、その表面をコーティング加工されたもの、各種表面処理剤で処理されたもの等も使用可能であり、具体例としては、有機系のバルーンを炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン等でコーティングしたもの、無機系のバルーンを接着性付与剤で表面処理したもの等があげられる。
【0189】
更に、バルーンの粒径としては、0.1mm以上が好ましく、0.2mm〜5.0mmがより好ましく、0.5mm〜5.0mmが特に好ましい。0.1mm未満では、多量に添加しても組成物の粘度を上昇させるだけで、得られた硬化物はざらつき感が発現されない場合がある。
【0190】
バルーンを添加する場合、その添加量としては、目的とする意匠性により適宜選択が可能であるが、粒径が0.1mm以上のものを接着剤組成物中に容積濃度が5〜25vol%となるよう添加することが好ましく、8〜22vol%となるように添加するのがより好ましい。バルーンの容積濃度が5vol%未満の場合はざらつき感がなくなる傾向があり、また25vol%を超えると、接着剤組成物の粘度が高くなり、作業性が悪くなる傾向がある。また、得られる硬化物のモジュラスも高くなり、接着剤の基本性能が損なわれる傾向にある。
【0191】
バルーンを添加する際には、特開2000−154368号に開示されているようなスリップ防止剤、特開2001−164237号に開示されているような、得られる硬化物の表面に凹凸を加え、艶消し状にするアミン化合物等を併用して添加することができる。なお、前記アミン化合物としては、融点が35℃以上の第1級および/または第2級アミンが好ましい。
【0192】
なお、バルーンとしては、特開2004−51701号または特開2004−66749号等に開示されている熱膨張性微粒中空体を使用することもできる。熱膨張性微粒中空体とは、炭素原子数1〜5の炭化水素等の低沸点化合物を高分子外殻材(塩化ビニリデン系共重合体、アクリロニトリル系共重合体、または塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体)で球状に包み込んだプラスチック球体である。
【0193】
本発明の接着剤組成物中に熱膨張性微粒中空体を添加することにより、不要となった際には加熱するだけで簡単に、被着材料の破壊を伴わずに剥離でき、且つ有機溶剤を一切用いないで加熱剥離可能な接着性組成物が得られる。これは、接着剤部分を加熱することによって、熱膨張性微粒中空体の殻内のガス圧が増し、高分子外殻材が軟化することで劇的に膨張し、接着界面を剥離させる機構による。
【0194】
本発明の接着剤組成物には、必要に応じて、シリケートが添加される。シリケートは、有機重合体(A)に対して架橋剤として作用し、その結果、得られる硬化物の復元性、耐久性、および、耐クリープ性を改善する機能を有するものである。また、シリケートの添加により、得られる硬化物は接着性および耐水接着性、高温高湿下での接着耐久性が改善される。
【0195】
シリケートとしては、特に限定されず、例えば、テトラアルコキシシランまたはその部分加水分解縮合物があげられ、より具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、エトキシトリメトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、メトキシトリエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−i−ブトキシシラン、テトラ−t−ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン(テトラアルキルシリケート)、および、それらの部分加水分解縮合物があげられる。
【0196】
シリケートを添加する場合、その添加量としては、有機重合体(A)100重量部に対して0.1〜20重量部が好ましく、0.5〜10重量部がより好ましい。
【0197】
なお、テトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物としては、特に限定されず、例えばテトラアルコキシシランに水を添加し、部分加水分解させ縮合させたものがあげられる。
【0198】
テトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物を添加すると、テトラアルコキシシランを添加した接着剤組成物に比べ、得られる硬化物の復元性、耐久性、および、耐クリープ性の改善効果が大きいことから好ましい。
【0199】
テトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物は、例えば、メチルシリケート51、エチルシリケート40(いずれもコルコート(株)製)等が市販されており、これらを添加剤として使用することができる。
【0200】
シリケートを添加する際は、貯蔵中に接着剤組成物の硬化性が変化するのを防止する目的で、有機重合体(A)が有する加水分解性基と同じ構造の加水分解性基を有するものを用いることが好ましい。つまり、有機重合体(A)の加水分解性シリル基がエトキシシリル基である場合は、エトキシシリル基を有するシリケートを、有機重合体(A)の加水分解性シリル基がイソプロペノキシシリル基である場合は、イソプロポキシシリル基を有するシリケートを選択することが好ましい。
【0201】
また、シリケートにおいても、加水分解反応に伴ってメタノールを放出するようなメトキシシリル基を有するシリケートは使用しないことが好ましい。一方、エトキシシリル基を有するシリケートは、安全性の高いエタノールを放出することから好ましい。
【0202】
本発明の接着剤組成物中には、必要に応じて、粘着性付与剤が添加される。粘着性付与樹脂としては、常温で固体、液体を問わず通常使用されるものであれば特に限定されず、例えば、スチレン系ブロック共重合体、その水素添加物、フェノール系樹脂、変性フェノール系樹脂(例えば、カシューオイル変性フェノール系樹脂、トール油変性フェノール系樹脂等)、テルペンフェノール系樹脂、キシレン−フェノール系樹脂、シクロペンタジエン−フェノール系樹脂、クマロンインデン系樹脂、ロジン系樹脂、ロジンエステル系樹脂、水添ロジンエステル系樹脂、キシレン系樹脂、低分子量ポリスチレン系樹脂、スチレン共重合体樹脂、石油樹脂(例えば、C5炭化水素系樹脂、C9炭化水素系樹脂、C5C9炭化水素共重合樹脂等)、水添石油樹脂、テルペン系樹脂、DCPD樹脂石油樹脂等があげられる。これらは1種類のみを添加してもよく、複数種を組み合わせて添加しても良い。
【0203】
前記スチレン系ブロック共重合体およびその水素添加物としては、特に限定されず、例えばスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−エチレンブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレンプロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)等があげられる。
【0204】
粘着性付与剤を添加する場合、その添加量としては、有機重合体(A)100重量部に対して、5〜1,000重量部が好ましく、10〜100重量部がより好ましい。
【0205】
本発明の接着剤組成物中には、必要に応じて、溶剤または希釈剤が添加される。溶剤および希釈剤としては、特に限定されず、例えば、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、脂環式炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類等があげられる。これらは1種類のみを添加してもよく、複数種を組み合わせて添加してもよい。
【0206】
溶剤または希釈剤を添加する場合、接着剤組成物を屋内で使用した時の空気中への揮発成分の放散を防止するため、溶剤または希釈剤の沸点は、150℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。
【0207】
本発明の接着剤組成物中には、必要に応じて、物性調整剤が添加される。物性調整剤とは、生成する硬化物の引張特性および硬度を調整する機能を有するものである。
【0208】
物性調整剤としては、特に限定されず、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン等のアルキルアルコキシシラン類;ジメチルジイソプロペノキシシラン、メチルトリイソプロペノキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジイソプロペノキシシラン等のアルキルイソプロペノキシシラン;γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等の官能基を有するアルコキシシラン類;シリコーンワニス類;ポリシロキサン類等があげられる。これらは1種類のみを添加してもよく、複数種を組み合わせて添加しても良い。
【0209】
物性調整剤の中でも、加水分解により分子内に1価のシラノール基を有する化合物を生成するものは、得られる硬化物の表面のべたつきを悪化させずにモジュラスを低下させる作用を有することから好ましい。この中でも、加水分解によりトリメチルシラノールを生成するものがより好ましい。
【0210】
加水分解により分子内に1価のシラノール基を有する化合物を生成する化合物としては、特に限定されず、例えば特開平5−117521号に開示されている化合物、また、ヘキサノール、オクタノール、デカノール等のアルキルアルコールの誘導体であって、加水分解によりトリメチルシラノール等のR3SiOHで表される有機ケイ素化合物を生成する化合物、特開平11−241029号に開示されているトリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールあるいはソルビトール等の1分子中に水酸基を3個以上有する多価アルコールの誘導体であって、加水分解によりトリメチルシラノール等のR3SiOHで表される有機ケイ素化合物を生成する化合物等があげられる。
【0211】
更に、特開平7−258534号に開示されているオキシプロピレン重合体の誘導体であって加水分解によりトリメチルシラノール等のR3SiOHで表される有機ケイ素化合物を生成する化合物、更に特開平6−279693号に開示されている架橋可能な加水分解性ケイ素を有する基と加水分解により1価のシラノール基を有する化合物を生成しうるケイ素基を持つ化合物があげられる。
【0212】
物性調整剤を添加する場合、その添加量としては、有機重合体(A)100重量部に対して、0.1〜20重量部が好ましく、い。0.5〜10重量部がより好ましい。
【0213】
物性調整剤を添加する際は、貯蔵中に接着剤組成物の硬化性が変化するのを防止する目的で、有機重合体(A)が有する加水分解性基と同じ構造の加水分解性基を有するものを用いることが好ましい。つまり、有機重合体(A)の加水分解性シリル基がエトキシシリル基である場合は、エトキシシリル基を有する物性調整剤を、有機重合体(A)の加水分解性シリル基がイソプロペノキシシリル基である場合は、イソプロポキシシリル基を有する物性調整剤を選択することが好ましい。
【0214】
また、物性調整剤においても、加水分解反応に伴ってメタノールを放出するようなメトキシシリル基を有する物性調整剤は使用しないことが好ましい。一方、エトキシシリル基を有する物性調整剤は、安全性の高いエタノールを放出することから好ましい。
【0215】
本発明の接着剤組成物中には、必要に応じてチクソ性付与剤(垂れ防止剤)が添加される。チクソ性付与剤とは、接着剤組成物の垂れを防止し、作業性を良くする機能を有するものをいう。
【0216】
チクソ性付与剤としては特に限定されず、例えば、ポリアミドワックス類;水添ヒマシ油誘導体類;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸バリウム等の金属石鹸類等があげられる。更に、特開平11−349916号等に開示されている粒子径10〜500μmのゴム粉末や、特開2003−155389号等に開示されている有機質繊維があげられる。これらチクソ性付与剤(垂れ防止剤)は1種類のみを添加してもよく、複数種を組み合わせて添加してもよい。
【0217】
チクソ性付与剤を添加する場合、その添加量としては、有機重合体(A)100重量部に対して、0.1〜20重量部が好ましい。
【0218】
本発明の接着剤組成物中には、必要に応じて、1分子中にエポキシ基を有する化合物が添加される。エポキシ基を有する化合物を添加することにより、得られる硬化物の復元性を高めることができる。
【0219】
エポキシ基を有する化合物としては、特に限定されず、例えば、エポキシ化不飽和油脂類;エポキシ化不飽和脂肪酸エステル類;脂環式エポキシ化合物類;エピクロルヒドリン誘導体等の化合物;およびそれらの混合物等があげられる。より具体的には、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、ビス(2−エチルヘキシル)−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカーボキシレート(E−PS)、エポキシオクチルステアレ−ト、エポキシブチルステアレ−ト等があげられる。これらの中ではE−PSが好ましい。
【0220】
本発明の接着剤組成物中には、必要に応じて、光硬化性物質が添加される。光硬化性物質とは、光の作用によって短時間に分子構造が化学変化をおこし、硬化等の物性的変化を生ずるものである。接着剤組成物中に光硬化性物質を添加すると、得られる硬化物の表面に光硬化性物質の皮膜が形成され、硬化物のべたつきや耐候性が改善される。
【0221】
光硬化性物質としては、特に限定されず、有機単量体、オリゴマー、樹脂或いはそれらを含む組成物等公知のものがあげられ、例えば、不飽和アクリル系化合物、ポリケイ皮酸ビニル類あるいはアジド化樹脂等があげられる。
【0222】
不飽和アクリル系化合物としては、アクリル系またはメタクリル系の不飽和基を1分子中に1ないし複数個有するモノマー、オリゴマー或いはそれ等の混合物があげられ、具体的には、プロピレン(またはブチレン、エチレン)グリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等の単量体または分子量10,000以下のオリゴエステルがあげられる。より具体的には、例えば特殊アクリレート(2官能)のアロニックスM−210、アロニックスM−215、アロニックスM−220、アロニックスM−233、アロニックスM−240、アロニックスM−245;(3官能)のアロニックスM−305、アロニックスM−309、アロニックスM−310、アロニックスM−315、アロニックスM−320、アロニックスM−325、および(多官能)のアロニックスM−400(アロニックスはいずれも東亜合成(株)製)等があげられる。この中でも、アクリル官能基を有する化合物が好ましく、また1分子中に平均して3個以上のアクリル官能基を有する化合物がより好ましい。
【0223】
前記ポリケイ皮酸ビニル類としては、シンナモイル基を感光基とする感光性樹脂でありポリビニルアルコールをケイ皮酸でエステル化した化合物、その他多くのポリケイ皮酸ビニル誘導体があげられる。
【0224】
前記アジド化樹脂は、アジド基を感光基とする感光性樹脂として知られており、通常はジアジド化合物を感光剤として加えたゴム感光液の他、「感光性樹脂」(昭和47年3月17日出版、印刷学会出版部発行、第93頁〜、第106頁〜、第117頁〜)に詳細な例示があり、これらを単独または混合し、必要に応じて増感剤を加えて使用することができる。
【0225】
なお、ケトン類、ニトロ化合物等の増感剤やアミン類等の促進剤を添加すると、効果が高められる場合がある。
【0226】
光硬化性物質を添加する場合、その添加量としては、有機重合体(A)100重量部に対して0.1〜20重量部が好ましく、い。0.5〜10重量部がより好ましい。0.1重量部以下では得られる硬化物の耐候性を高める効果はほとんどなく、20重量部以上では得られる硬化物が硬くなりすぎ、ヒビ割れ等を生じる傾向がある。
【0227】
本発明の接着剤組成物中には、必要に応じて、酸素硬化性物質が添加される。酸素硬化性物質とは、空気中の酸素と反応して硬化しうるもので、酸素硬化性物質を添加することにより、得られる硬化物の表面付近に硬化皮膜が形成され、硬化物表面のべたつきやゴミやホコリの付着を防止できる。
【0228】
酸素硬化性物質としては、空気中の酸素と反応し得る不飽和化合物有する化合物であれば特に限定されず、例えば、キリ油、アマニ油等の乾性油や、該化合物を変性して得られる各種アルキッド樹脂;乾性油により変性されたアクリル系重合体、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂;ブタジエン、クロロプレン、イソプレン、1,3−ペンタジエン等のジエン系化合物を重合または共重合させて得られ1,2−ポリブタジエン、1,4−ポリブタジエン、C5〜C8ジエンの重合体等の液状重合体;これらジエン系化合物と共重合可能なアクリロニトリル、スチレン等のビニル系化合物と、ジエン系化合物を、ジエン系化合物が主成分となるように共重合させて得られるNBR、SBR等の液状共重合体や、更にはそれらの各種変性物(マレイン化変性物、ボイル油変性物等)等があげられる。これらの中では、キリ油や液状ジエン系重合体が好ましい。酸素硬化性物質は1種類のみを添加してもよく、複数種を組み合わせて添加してもよい。
【0229】
なお、酸素硬化性物質は硬化反応を促進する触媒や金属ドライヤーを混合添加すると効果が高められる場合がある。硬化反応を促進する触媒や金属ドライヤーとしては、特に限定されず、例えば、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸鉛、ナフテン酸ジルコニウム、オクチル酸コバルト、オクチル酸ジルコニウム等の金属塩や、アミン化合物等があげられる。
【0230】
酸素硬化性物質を添加する場合、その添加量としては、有機重合体(A)100重量部に対して0.1〜20重量部が好ましく、い。0.5〜10重量部がより好ましい。添加量が0.1重量部未満になると得られる硬化物の汚染性の改善硬化が充分でなくなる傾向があり、20重量部をこえると得られる硬化物の引張り特性等が損なわれる傾向がある。
【0231】
更に、酸素硬化性物質は、特開平3−160053号に開示されているように、光硬化性物質と混合添加するのが好ましい。
【0232】
本発明の接着剤組成物中には必要に応じて、酸化防止剤が添加される。酸化防止剤を添加することにより、得られる硬化物の耐熱性を高めることができる。
【0233】
酸化防止剤としては、特に限定されず、例えば、ヒンダードフェノール系、モノフェノール系、ビスフェノール系、ポリフェノール系の酸化防止剤があげられる。この中でもヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。また、チヌビン622LD、チヌビン144;CHIMASSORB944LD、CHIMASSORB119FL(以上いずれもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製);アデカスタブ LA−57,アデカスタブ LA−62,アデカスタブ LA−67,アデカスタブ LA−63,アデカスタブ LA−68(以上いずれも(株)ADEKA製);サノールLS−770、サノールLS−765、サノールLS−292、サノールLS−2626、サノールLS−1114、サノールLS−744(以上いずれも三共ライフテック(株)製)等のヒンダードアミン系光安定剤も好ましい。なお、酸化防止剤の具体例は特開平4−283259号や特開平9−194731号にも開示されている。
【0234】
酸化防止剤を添加する場合、その添加量としては、有機重合体(A)100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましく、0.2〜5重量部がより好ましい。
【0235】
本発明の接着剤組成物中には、必要に応じて、光安定剤が添加される。光安定剤の添加により、得られる硬化物の光酸化劣化が防止できる。
【0236】
光安定剤としては、特に限定されず、例えば、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系、ベンゾエート系化合物等があげられる。この中でもヒンダードアミン系光安定剤が好ましい。
【0237】
光安定剤を添加する場合、その添加量は、有機重合体(A)100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましく、い。0.2〜5重量部がより好ましい。なお、光安定剤の具体例は特開平9−194731号にも開示されている。
【0238】
本発明の接着剤組成物中に不飽和アクリル系化合物等の光硬化性物質を添加する場合、特開平5−70531号に開示されているように3級アミン基を有するヒンダードアミン系光安定剤を添加するのが、接着剤組成物の保存安定性が改良されることより好ましい。
【0239】
3級アミン基を有するヒンダードアミン系光安定剤としては、特に限定されず、例えば、チヌビン622LD、チヌビン144、CHIMASSORB119FL(以上いずれもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製);アデカスタブ LA−57、LA−62、LA−67、LA−63(以上いずれも(株)ADEKA製);サノールLS−765、LS−292、LS−2626、LS−1114、LS−744(以上いずれも三共ライフテック(株)製)等があげられる。
【0240】
本発明の接着剤組成物中には、必要に応じて紫外線吸収剤が添加される。紫外線吸収剤の添加により、得られた硬化物の表面耐候性が向上する。
【0241】
紫外線吸収剤としては、特に限定されず、例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリシレート系、置換トリル系および金属キレート系化合物等があげられる。この中でもベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましい。
【0242】
紫外線吸収剤を添加する場合、その添加量は、有機重合体(A)100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましく、い。0.2〜5重量部がより好ましい。
【0243】
前記酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤は、接着剤組成物中に併用添加するのが好ましく、例えば、フェノール系やヒンダードフェノール系酸化防止剤とヒンダードアミン系光安定剤とベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を混合添加するのが好ましい。
【0244】
本発明の接着剤組成物中には、必要に応じて、エポキシ樹脂が添加される。エポキシ樹脂の添加により、得られた硬化物の接着性が改善され、エポキシ樹脂を添加した接着剤組成物は、接着剤として、特に外壁タイル用接着剤として好ましく使用される。
【0245】
エポキシ樹脂としては、特に限定されず、例えばエピクロルヒドリン−ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エピクロルヒドリン−ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールAのグリシジルエーテル等の難燃型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAプロピレンオキシド付加物のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、p−オキシ安息香酸グリシジルエーテルエステル型エポキシ樹脂、m−アミノフェノール系エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン系エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、各種脂環式エポキシ樹脂、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−o−トルイジン、トリグリシジルイソシアヌレート、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリン等の多価アルコールのグリシジルエーテル、ヒダントイン型エポキシ樹脂、石油樹脂等の不飽和重合体のエポキシ化物等があげられる。
【0246】
これらの中でも、1分子中にエポキシ基を少なくとも2個以上有するものが、接着剤組成物の反応性を高めること、得られた硬化物が3次元網目構造をつくりやすいこと等から好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂またはノボラック型エポキシ樹脂等がより好ましい。
【0247】
エポキシ樹脂を添加する場合、その添加量は、接着剤組成物の使用用途等により異なり、例えばエポキシ樹脂硬化物の耐衝撃性、可撓性、強靱性、剥離強度等を改善する場合には、エポキシ樹脂100重量部に対して有機重合体(A)を1〜100重量部添加することが好ましく、5〜100重量部添加することがより好ましい。一方、有機重合体(A)の硬化物の強度を改善する場合には、有機重合体(A)100重量部に対してエポキシ樹脂を1〜200重量部添加することが好ましく、5〜100重量部添加することがより好ましい。
【0248】
本発明の接着剤組成物中にエポキシ樹脂を添加する場合、エポキシ樹脂用の硬化剤を併用添加するのが好ましい。
【0249】
エポキシ樹脂用の硬化剤としては、エポキシ樹脂を硬化させる働きを有する化合物であれば特に制限はなく、例えば、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペリジン、m−キシリレンジアミン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、アミン末端ポリエーテル等の一級、二級アミン類;2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、トリプロピルアミン等の三級アミン類、および、これら三級アミン類の塩類;ポリアミド樹脂類;イミダゾール類;ジシアンジアミド類;三弗化硼素錯化合物類;無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ドデシニル無水琥珀酸、無水ピロメリット酸、無水クロレン酸等の無水カルボン酸類;アルコール類;フェノール類;カルボン酸類;アルミニウムまたはジルコニウムのジケトン錯化合物等の化合物があげられる。これらは一種類のみを添加してもよく、複数種を組み合わせて添加してもよい。
【0250】
エポキシ樹脂硬化剤の添加量としては、エポキシ樹脂100重量部に対し、0.1〜300重量部が好ましい。
【0251】
エポキシ樹脂用の硬化剤の中でも、1液型の硬化組成物が得られることより、ケチミン化合物を用いることが好ましい。ケチミン化合物は、水分のない状態では安定に存在し、水分によって一級アミンとケトンに分解され、生じた一級アミンがエポキシ樹脂の室温硬化性の硬化剤となる性質を有する。ケチミン化合物としては、アミン化合物とカルボニル化合物との縮合反応により得られる化合物があげられる。
【0252】
ケチミン化合物の製造に使用されるアミン化合物、カルボニル化合物としては、特に限定されず、公知の化合物があげられ、例えばアミン化合物としてはエチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、1,3−ジアミノブタン、2,3−ジアミノブタン、ペンタメチレンジアミン、2,4−ジアミノペンタン、ヘキサメチレンジアミン、p−フェニレンジアミン、p,p’−ビフェニレンジアミン等のジアミン類;1,2,3−トリアミノプロパン、トリアミノベンゼン、トリス(2−アミノエチル)アミン、テトラキス(アミノメチル)メタン等の多価アミン類;ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン等のポリアルキレンポリアミン;ポリオキシアルキレン系ポリアミン;γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノシラン類;等があげられる。
【0253】
また、カルボニル化合物としてはアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ジエチルアセトアルデヒド、グリオキサール、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類;シクロペンタノン、トリメチルシクロペンタノン、シクロヘキサノン、トリメチルシクロヘキサノン等の環状ケトン類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジブチルケトン、ジイソブチルケトン等の脂肪族ケトン類;アセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸メチルエチル、ジベンゾイルメタン等のβ−ジカルボニル化合物;等があげられる。
【0254】
イミノ基を有するケチミン化合物は、イミノ基をスチレンオキサイド;ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル;グリシジルエステル等と反応させたものを含む。
【0255】
これらのケチミン化合物は、一種類のみを添加してもよく、複数種を組み合わせて添加してもよい。
【0256】
ケチミン化合物を添加する場合、その添加量としては、エポキシ樹脂およびケチミンの種類によって異なるが、通常、エポキシ樹脂100重量部に対し、1〜100重量部が好ましい。
【0257】
本発明の接着剤組成物には、必要に応じて、難燃剤が添加される。難燃剤としては特に限定されず、例えばポリリン酸アンモニウム、トリクレジルホスフェート等のリン系難燃剤;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、および、熱膨張性黒鉛等の難燃剤を添加することができる。難燃剤は1種類のみを添加してもよく、複数種を組み合わせて添加してもよい。
【0258】
難燃剤を添加する場合、その添加量としては、有機重合体(A)100重量部に対して、5〜200重量部が好ましく、10〜100重量部がより好ましい。
【0259】
本発明の接着剤組成物中には、接着剤組成物または得られる硬化物の諸物性を調整することを目的に、必要に応じて前記以外の各種添加剤が添加される。このような添加剤としては、例えば、硬化性調整剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、オゾン劣化防止剤、リン系過酸化物分解剤、滑剤、顔料、発泡剤、防蟻剤、防かび剤等があげられる。これらの具体例としては、特公平4−69659号、特公平7−108928号、特開昭63−254149号、特開昭64−22904号、特開2001−72854号の各公報等に開示されている。また、これらの添加剤は、1種類のみを添加してもよく、複数種を組み合わせて添加してもよい。
【0260】
接着剤組成物が1液型の場合、すべての配合成分が予め配合されているため、配合物中に水分が存在すると貯蔵中に硬化が進行することがある。そこで、水分を含有する配合成分を予め脱水乾燥してから添加するか、また配合混練中に減圧等により脱水するのが好ましい。
【0261】
接着剤組成物が2液型の場合、反応性ケイ素基を有する有機重合体を含む主剤に硬化触媒を配合する必要がないので配合物中には若干の水分が含有されていても硬化の進行(ゲル化)の心配は少ないが、長期間の貯蔵安定性が必要とされる場合は、脱水乾燥するのが好ましい。
【0262】
脱水、乾燥方法としては配合物が粉体等の固体物の場合は加熱乾燥法または減圧脱水法、液体物の場合は減圧脱水法または合成ゼオライト、活性アルミナ、シリカゲル、生石灰、酸化マグネシウム等を使用した脱水法が好ましい。更に、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリイソプロペノキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリイソプロペノキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、メチルシリケート、エチルシリケート、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン化合物;3−エチル−2−メチル−2−(3−メチルブチル)−1,3−オキサゾリジン等のオキサゾリジン化合物;または、イソシアネート化合物を接着剤組成物中に添加して、配合物中に含まれる水と反応させることによってなされる脱水方法も好ましい。このように、アルコキシシラン化合物やオキサゾリジン化合物、および、イソシアネート化合物の添加により、接着剤組成物の貯蔵安定性が向上する。
【0263】
これらの中でも、接着剤組成物の貯蔵安定性がより良好なことから、アルコキシシラン化合物が好ましく、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリイソプロペノキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロペノキシシランがより好ましく、フェニルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0264】
アルコキシシラン化合物を添加する際は、貯蔵中に接着剤組成物の硬化性が変化するのを防止する目的で、有機重合体(A)が有する加水分解性基と同じ構造の加水分解性基を有するものを用いることが好ましい。つまり、有機重合体(A)の加水分解性シリル基がエトキシシリル基である場合は、アルコキシシラン化合物もエトキシシリル基構造のもの、有機重合体(A)の加水分解性シリル基がイソプロペノキシシリル基である場合は、アルコキシシラン化合物もイソプロペノキシシリル基構造のものを選択することが好ましい。
【0265】
また、アルコキシシラン化合物においても、加水分解反応に伴ってメタノールを放出するようなメトキシシリル基を有するアルコキシシラン化合物は使用しないことが好ましい。一方、エトキシシリル基を有するアルコキシシラン化合物は、安全性の高いエタノールを放出することから好ましい。
【0266】
アルコキシシラン化合物を、乾燥目的に使用する際の添加量としては、有機重合体(A)100重量部に対して、0.1〜20重量部が好ましい。0.5〜10重量部がより好ましい。
【0267】
本発明の接着剤組成物の調製法としては、特に限定はなく、例えば、前記した配合成分を調合し、ミキサーやロールやニーダー等を用いて常温または加熱下で混練する方法、適した溶剤を少量使用して配合成分を溶解させたのち混合する方法等公知の方法が採用されうる。
【0268】
本発明の接着剤組成物は、大気中に暴露されると水分の作用により、三次元的な網状構造を形成し、ゴム状弾性を有する固体へと硬化する。本発明の接着剤組成物を硬化させて得られる硬化物は、引張応力が大きいことが好ましい。具体的には、接着剤組成物を厚さ3mmのシート状にして、23℃50%RH条件下に3日間置き、更に50℃に4日間置いて養生を行い、ダンベル状3号形に打ち抜いた後、JIS K 6251に準拠して測定した場合の50%引張応力が、0.3MPa〜5MPaであることが好ましく、0.5MPa〜4MPaであることがより好ましく、0.7MPa〜3MPaであることが更に好ましく、1MPa〜2MPaであることが特に好ましい。
【0269】
また、本発明の接着剤組成物を硬化させて得られる硬化物は、高い硬度を有することが好ましい。具体的には、23℃50%RH条件下で、およそ直径4cm、厚み1.5cmになるように硬化物を作製し、7日間養生して得られた硬化物の中心を、JIS K 6253に準拠してデュロメータタイプAで測定した場合の硬度が、A10〜A100であることが好ましく、A20〜A90であることがより好ましく、A30〜A80であることが更に好ましく、A40〜A70であることが特に好ましい。
【0270】
得られる硬化物の50%引張応力が0.3MPa未満や、硬度がA10未満の柔らかい硬化物を与える接着剤を用いて、基材と基材を接着させた場合、力が加わると基材間がずれるという問題を生じる傾向がある。また、柔らかい硬化物を与える接着剤は、通常、分子量が高い有機重合体が使用されており、作業性が悪い、もしくは実用的な硬化性が得られない等の問題も生じる傾向がある。一方、得られる硬化物の50%引張応力が5MPaを超えたり、硬度がA100を超えるような硬すぎる硬化物を与える接着剤を用いて、基材と基材を接着させた場合、接着性が悪く基材が剥れる、もしくは、力を加えた場合に基材が割れるという問題を生じる傾向がある。
【0271】
本発明の接着剤組成物は、安全性が高いことから内装用の接着剤に好適に使用される。また、弾性接着剤;コンタクト型接着剤;スプレー型シール材;クラック補修材;タイル張り用接着剤等様々な用途に利用可能である。更に、単独あるいはプライマーの助けをかりてガラス、磁器、木材、金属、樹脂成形物等の如き広範囲の基質に密着しうるので、種々のタイプの接着用組成物としても使用可能である。
【0272】
また、本発明の接着剤組成物は、内装パネル用接着剤、タイル張り用接着剤、石材張り用接着剤、天井仕上げ用接着剤、床仕上げ用接着剤、壁仕上げ用接着剤、車両パネル用接着剤、電気・電子・精密機器組立用接着剤、ダイレクトグレージング用シーリング材、複層ガラス用シーリング材、SSG工法用シーリング材、または、建築物のワーキングジョイント用シーリング材、としても使用可能である。
【実施例】
【0273】
つぎに実施例および比較例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0274】
(実施例1)
脱エタノール型有機重合体A−1(数平均分子量約26,000(送液システムとして東ソー製HLC−8120GPCを用い、カラムは東ソー製TSK−GEL Hタイプを用い、溶媒はTHFを用いて測定したポリスチレン換算分子量)であり、末端にトリエトキシシリル基を有する3官能ポリオキシプロピレン系重合体)100重量部に対して、表面処理膠質炭酸カルシウム(白石工業(株)製、商品名:白艶華CCR)100重量部、重質炭酸カルシウム(白石カルシウム(株)製、商品名:ホワイトンSB)150重量部、ジイソデシルフタレート系可塑剤(ジェイ・プラス(株)製、商品名:DIDP)50重量部、タレ防止剤(楠本化成(株)製、商品名:ディスパロン6500)3重量部、サリシレート系紫外線吸収剤(住友化学(株)製、商品名:スミソーブ400)1重量部、ヒンダートアミン系光安定剤(三共ライフテック(株)製、商品名:サノールLS−765)1重量部を混合して充分混練りした後、3本ペイントロールに3回通して分散させた。この後、120℃で2時間減圧脱水を行い、50℃以下に冷却後、脱水剤としてビニルトリエトキシシラン(モメンティブ(株)製、商品名:A−151)2.5重量部、接着付与剤としてγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン(信越シリコーン(株)製、商品名:KBE−603)3.5重量部、チタン触媒としてチタニウムジイソプロポキシドビス(エチルアセトアセテート)(デュポン(株)製、商品名:タイザーPITA)4重量部を加えて混練し、実質的に水分の存在しない状態で混練した後、防湿性の容器であるカートリッジに密閉し、1成分型接着剤組成物を得た。
【0275】
(実施例2〜16)および(比較例1〜4)
実施例1と同じ方法で、表1に記載の配合剤と配合量に従って調整した。用いた配合剤を以下に示す。
・脱エタノール型有機重合体A−2:数平均分子量約15,300であり、末端にトリエトキシシリル基を有する2官能ポリオキシプロピレン系重合体
・脱エタノール型有機重合体A−3:数平均分子量約16,300であり、末端にトリエトキシシリル基を有する3官能ポリオキシプロピレン系重合体
・脱メタノール型有機重合体A−4:数平均分子量約15,300であり、末端にトリメトキシシリル基を有する2官能ポリオキシプロピレン系重合体
・脱メタノール型有機重合体A−5:数平均分子量約16,300であり、末端にトリメトキシシリル基を有する3官能ポリオキシプロピレン系重合体
・珪砂8号:丸尾カルシウム(株)製、珪砂
・Hexamoll DINCH:BASF(株)製、シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル
・ノバレスL100:ルトガースケミカル(株)製、液体炭化水素樹脂
・オルトケイ酸テトラエチル:東京化成工業(株)製
・KBE−103:信越シリコーン(株)製、フェニルトリエトキシシラン
・A−171:モメンティブ(株)製、ビニルトリメトキシシラン
・KBE−403:信越シリコーン(株)製、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン
・A−187:モメンティブ(株)製、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
・タイザーTPT:デュポン(株)製、チタニウムテトライソプロポキシド
・チタニウムテトラエトキシド:東京化成工業(株)製
・ネオスタンU220H:日東化成(株)製、ジブチル錫ビス(アセチルアセトナート)
・S−1:日東化成(株)製、シロキシ基含有ジオクチル錫化合物
【0276】
(安全性)
上記接着剤組成物において、脱メタノール型有機重合体も有機錫系触媒も使用していないものをA、脱メタノール型有機重合体を使用し有機錫系触媒を使用していないものをB、脱メタノール型有機重合体を使用せず有機錫系触媒を使用しているものをCと記した。Aの接着剤組成物は、BやCの接着剤組成物に比べて、安全性が高いと言える。
【0277】
(表面硬化時間)
23℃50%RH条件下にて、上記接着剤組成物を厚みが約3mmになるようヘラを用いて伸ばし、ミクロスパテュラを用いて経時で接着剤組成物の表面に軽く触れ、組成物がミクロスパテュラにつかなくなるまでの時間を測定した(貯蔵前の表面硬化時間)。また、接着剤組成物を50℃で28日間保存した後、23℃50%RH条件下に1日間おき、前記と同様の方法で硬化時間を測定した(貯蔵後の表面硬化時間)。
【0278】
(粘度)
23℃50%RH条件下にて、上記接着剤組成物を東京計器(株)製のBM型粘度計、ローターNo.7を使用して、2rpm粘度を測定した(貯蔵前の2rpm粘度)。また、接着剤組成物を50℃で28日間保存した後、23℃50%RH条件下に1日間おき、前記と同様の方法で2rpm粘度を測定した(貯蔵後の2rpm粘度)。
【0279】
(貯蔵安定性)
貯蔵前の表面硬化時間に対する貯蔵後の表面硬化時間の変化率、および、貯蔵前の粘度に対する貯蔵後の粘度の変化率を求めた。変化率が100%に近いほど、貯蔵安定性に優れると言える。
【0280】
(接着性)
23℃50%RH条件下にて、スレート板(長さ100mm、幅25mm、厚さ4mm)の表面に、上記接着剤組成物を縦25mm、横25mm、厚さ1mmで塗布して、その上に合板(長さ100mm、幅25mm、厚さ3mm)を貼り合わせた。この試験片を23℃50%RH条件下に3日間置き、更に50℃に4日間置いて養生を行った。その後、JIS K 6850に準拠して、島津(株)製のオートグラフを用いて引張速度50mm/分で引張試験を行い、せん断接着強度と凝集破壊率を測定した。凝集破壊率は、凝集破壊(接着剤部分で破壊)、界面破壊(接着剤と基材の界面で剥離)を目視で確認し、塗布面に対して凝集破壊となっている部分の面積比を求めた。せん断接着強度および凝集破壊率が高いもの程、接着性に優れると言える。
【0281】
(50%引張応力)
23℃50%RH条件下にて、上記接着剤組成物を厚さ3mmのシート状にして3日間置き、更に50℃で4日間置いて養生を行った。JIS K 6253に準拠して、硬化物をダンベル状3号形に打ち抜いた後、島津(株)製のオートグラフを用いて引張速度200mm/分で引張試験を行い、50%引張応力を測定した。
【0282】
(硬度)
23℃50%RH条件下にて、上記接着剤組成物をおよそ直径4cm、厚み1.5cmになるよう、表面を平滑にして硬化物を作製し7日間養生した。その後、JIS K 6253に準拠して、高分子計器(株)のタイプAデュロメータを用いて硬化物の硬度を測定した。
【0283】
【表1】
【0284】
表1に示すように、実施例は脱メタノール型有機重合体も有機錫系触媒も含まないため、従来から使用されてきた脱メタノール型有機重合体や有機錫系触媒を含む比較例に比べて、安全性が高いことが分かる。さらに、硬化性、貯蔵安定性、接着性、引張応力、硬度の種々物性においても、実用に供し得るものである。