(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5789092
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】可動鉄心及びそれを用いた電磁弁
(51)【国際特許分類】
F16K 31/06 20060101AFI20150917BHJP
H01F 7/16 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
F16K31/06 305J
F16K31/06 305H
F16K31/06 305L
H01F7/16 D
H01F7/16 R
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-241798(P2010-241798)
(22)【出願日】2010年10月28日
(65)【公開番号】特開2012-92923(P2012-92923A)
(43)【公開日】2012年5月17日
【審査請求日】2013年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005175
【氏名又は名称】藤倉ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132207
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 昌孝
(74)【代理人】
【識別番号】100095463
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 潤三
(74)【代理人】
【識別番号】100098006
【弁理士】
【氏名又は名称】皿田 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】白瀬 利和
【審査官】
北村 一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−217854(JP,A)
【文献】
実開昭63−089477(JP,U)
【文献】
実開平04−136379(JP,U)
【文献】
実開平02−040170(JP,U)
【文献】
実開昭55−161970(JP,U)
【文献】
特開2000−205434(JP,A)
【文献】
実開平04−106576(JP,U)
【文献】
特開2008−309210(JP,A)
【文献】
特公昭47−043252(JP,B1)
【文献】
特開平06−147344(JP,A)
【文献】
実開昭61−131576(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/06−31/11; 1/32
H01F 7/06− 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定鉄心を有する電磁弁において、流体の流路を開閉するために当該固定鉄心に対向して移動させて用いられる可動鉄心であって、
少なくとも一端部に所定の深さの凹状の弁体保持部を有する可動鉄心本体と、
前記弁体保持部内に脱落不可能に遊嵌されてなる弾性弁体と
を備え、
前記弁体保持部は、前記弁体保持部の開口部の径よりも大きい内径の大径部を有し、
前記開口部の径が6〜7mmであって、前記大径部の内径が8〜9mmであり、
前記弁体保持部内には、前記弾性弁体のみが遊嵌されており、
前記弾性弁体が、前記弁体保持部の内表面に加硫接着されていないことを特徴とする可動鉄心。
【請求項2】
前記弁体保持部は、前記開口部から深さ方向に連続する、前記開口部と略同一の内径の同径部をさらに有し、
前記大径部は、前記同径部から前記弁体保持部の深さ方向に連続することを特徴とする請求項1に記載の可動鉄心。
【請求項3】
前記弁体保持部の内側面に突起部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の可動鉄心。
【請求項4】
前記弾性弁体が、フッ素ゴム、シリコーンゴム、パーフルオロポリエーテル系ゴム、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)、フロロシリコーンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、又はウレタンゴムからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の可動鉄心。
【請求項5】
前記可動鉄心の他端部から当該可動鉄心の軸方向に延伸するとともに、前記弁体保持部の手前で当該可動鉄心の周壁に向かって折曲し、当該可動鉄心の周壁に開口する貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の可動鉄心。
【請求項6】
前記可動鉄心本体の他端部に、前記可動鉄心と前記固定鉄心との接触による衝撃を吸収する衝撃吸収部が設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の可動鉄心。
【請求項7】
前記衝撃吸収部が、基部と、前記基部上に複数設けられ、前記固定鉄心に当接する凸部とを有することを特徴とする請求項6に記載の可動鉄心。
【請求項8】
前記衝撃吸収部が、フッ素ゴム、シリコーンゴム、パーフルオロポリエーテル系ゴム、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)、フロロシリコーンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、又はウレタンゴムからなることを特徴とする請求項6又は7に記載の可動鉄心。
【請求項9】
前記衝撃吸収部が、熱可塑性エラストマーであることを特徴とする請求項6又は7に記載の可動鉄心。
【請求項10】
前記衝撃吸収部が、前記可動鉄心本体の他端部に接着されていることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の可動鉄心。
【請求項11】
前記衝撃吸収部の表面にテフロンからなる保護膜が形成されていることを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載の可動鉄心。
【請求項12】
コイルが巻回されてなるコイルボビンと、
前記コイルボビン内に固設されてなる固定鉄心と、
前記固定鉄心に対向して移動可能に設けられてなる請求項1〜11のいずれかに記載の可動鉄心と
を備えることを特徴とする電磁弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動鉄心及びそれを用いた電磁弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流体の流路の開閉を電磁石装置による弁体の駆動により行う電磁弁が使用されている。このような電磁弁としては、例えば、コイルが巻回されたコイルボビンと、コイルボビン内に固設された固定鉄心と、固定鉄心に対向して移動する可動鉄心と、可動鉄心の弁体と当接し得る弁座とを備えるものが挙げられる。
【0003】
このような電磁弁においては、コイルに通電することにより、固定鉄心が帯磁して磁気的クーロン力が発生し、可動鉄心が固定鉄心側に吸引されることで弁体が弁座から離間して、流体の流路が開成される。一方、コイルへの通電を停止すると、固定鉄心の吸引力が低下して可動鉄心が固定鉄心から離間する方向に移動し、流体の流路が閉成される。
【0004】
このような電磁弁に用いられる可動鉄心の弁体としては、弁座と当接して流路を確実に閉成することができるようにフッ素ゴム等のゴム材料が用いられることが多い。このような可動鉄心は、軟磁性材料からなる可動鉄心本体の一端部に、所定深さ(4mm以上)を有する凹状の弁体保持部を形成し、当該弁体保持部にゴムを嵌入させることにより製造されるが、弁体保持部に嵌入された弁体(ゴム)の脱落を防止するために、弁体保持部の上端周縁部を内側にかしめるカシメ工程が行われることがある(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、上記のようにカシメ工程を行うことで、弁体(ゴム)の表面に傷がついてしまい、弁体のシール特性を低下させてしまうおそれがある。そこで、弁体の表面に傷をつけることなく、かつ弁体保持部から弁体の脱落を防止するために、弁体を弁体保持部の内面(側面及び底面)に固着(接着)してなる可動鉄心及びそれを用いた電磁弁が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−141516号公報
【特許文献2】特開平6−147344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献2に記載の可動鉄心において弁体としてゴムを用いる場合、一般に、可動鉄心の弁体保持部内に接着用プライマーを塗布し、未加硫ゴムを流し込み、架橋剤を添加して加硫させることにより可動鉄心の弁体保持部内にゴムからなる弁体を加硫接着させて当該可動鉄心を製造することが考えられる。しかしながら、このような方法により可動鉄心を製造すると、弁体保持部内の弁体(ゴム)が加硫する過程で収縮するため、弁体保持部の内側面及び底面に弁体(ゴム)が接着・拘束されていることで、拘束されていない弁体表面にヒケが生じてしまう。その結果、弁体の弁座に対するシール特性を低下させてしまい、電磁弁を確実に閉成することができず、閉弁状態であっても流体が漏洩してしまうという問題がある。
【0008】
また、当該弁体の厚さ(軸方向厚さ)を所定の厚さ(例えば、4mm以上)にすることで、閉弁時における弁体の弁座への当接に伴う衝撃音を軽減させることができるが、そのような厚さを有するゴムからなる弁体を弁体保持部内に加硫接着させると、弁体表面に気泡が発生したり、弁体内部にボイドが生じてしまったりするおそれがある。弁体表面に気泡が発生したり、弁体内部にボイドが生じたりすると、所望とするゴム性能を得られないおそれがあるとともに、弁体が破損するおそれがあるという問題がある。
【0009】
このような問題に鑑みて、本発明は、表面にヒケや気泡を有さず、かつ内部にボイドを有しない弁体を備える可動鉄心及び電磁弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、固定鉄心を有する電磁弁において、流体の流路を開閉するために当該固定鉄心に対向して移動させて用いられる可動鉄心であって、少なくとも一端部に所定の深さの凹状の弁体保持部を有する可動鉄心本体と、前記弁体保持部内に脱落不可能に遊嵌されてなる弾性弁体とを備え、前記弁体保持部内には、前記弾性弁体のみが遊嵌されており、
前記弁体保持部は、前記弁体保持部の開口部の径よりも大きい内径の大径部を有し、前記開口部の径が6〜7mmであって、前記大径部の内径が8〜9mmであり、前記弾性弁体が、前記弁体保持部の内表面に加硫接着されていないことを特徴とする可動鉄心を提供する(発明1)。
【0011】
上記発明(発明1)によれば、弾性弁体と弁体保持部の内表面とが加硫接着されていないため、弾性弁体が収縮しても弁体表面にヒケや気泡が発生したり、弁体内部にボイドが発生したりするのを防止することができる。また、弁体保持部内に弾性弁体が隙間なく嵌入されていると、弾性弁体の弁座への当接により大きな衝撃音が発生するが、上記発明(発明1)によれば、弁体保持部の内表面(底面及び内側面)と弾性弁体とが加硫接着されていないことで、弾性弁体の収縮により当該弾性弁体が弁体保持部内に僅かな間隙をもって遊嵌されることになるため、弾性弁体の弁座への当接に伴う衝撃音をより軽減することができるという効果も併せ持つ。
【0012】
上記発明(発明1)においては
、前記弁体保持部は、前記開口部から深さ方向に連続する、前記開口部と略同一の内径の同径部をさらに有し、前記大径部は、前記同径部から前記弁体保持部の深さ方向に連続するものであるのが好ましい(発明
2)。
【0013】
上記発明(発明
2)によれば、弁体保持部の上端周縁部をかしめたり、弁体保持部と弾性弁体とを接着(加硫接着)させたりしなくても、弾性弁体が弁体保持部から脱落するのを防止することができる。
【0014】
上記発明(発明1
,2)においては、前記弁体保持部の内側面に突起部が形成されているのが好ましい(発明
3)。かかる発明(発明
3)によれば、弁体保持部の内側面に形成されている突起部に弾性弁体が引掛され、係止されるため、弾性弁体が弁体保持部から脱落するのを防止することができる。
【0015】
上記発明(発明1〜
3)においては、前記弾性弁体を、フッ素ゴム、シリコーンゴム、パーフルオロポリエーテル系ゴム、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)、フロロシリコーンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、又はウレタンゴムからなるものとすることができる(発明
4)。
【0016】
上記発明(発明1〜
4)においては、前記可動鉄心の他端部から当該可動鉄心の軸方向に延伸するとともに、前記弁体保持部の手前で当該可動鉄心の周壁に向かって折曲し、当該可動鉄心の周壁に開口する貫通孔が形成されているのが好ましい(発明
5)。
【0017】
上記発明(発明1〜
5)においては、前記可動鉄心本体の他端部に、前記可動鉄心と前記固定鉄心との当接による衝撃を吸収する衝撃吸収部が設けられているのが好ましい(発明
6)。可動鉄心が固定鉄心に対向して移動して、固定鉄心と当接し続けると、可動鉄心が変形し、外径が大きくなってしまい、その結果、可動鉄心のストロークが変動してしまうおそれがある。しかしながら、かかる発明(発明
6)によれば、固定鉄心と当接し得る可動鉄心の他端部に衝撃吸収部が設けられていることで、衝撃吸収部が固定鉄心との接触による衝撃を吸収するため、固定鉄心との接触が継続されても可動鉄心の変形を防止し、可動鉄心のストロークが変動するのを防止することができる。
【0018】
上記発明(発明
6)においては、前記衝撃吸収部が、基部と、前記基部上に複数設けられ、前記固定鉄心に当接する凸部とを有する構成とすることができる(発明
7)。かかる発明(発明
7)によれば、衝撃吸収部のうち固定鉄心に当接しない部分(凸部以外の部分,凹状の部分)が、衝撃吸収部と固定鉄心との当接の際に生じる衝撃音の伝播を妨げることができるため、固定鉄心に衝撃吸収部が当接した際の衝撃音を軽減することができる。
【0019】
上記発明(発明
6,7)においては、前記衝撃吸収部が、フッ素ゴム、シリコーンゴム、パーフルオロポリエーテル系ゴム、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)、フロロシリコーンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、又はウレタンゴムからなるものであってもよいし(発明
8)、熱可塑性エラストマーからなるものであってもよい(発明
9)。
【0020】
上記発明(発明
6〜
9)においては、前記衝撃吸収部が、前記可動鉄心本体の他端部に接着されているのが好ましい(発明1
0)。また、上記発明(発明
6〜
10)においては、前記衝撃吸収部の表面にテフロンからなる保護膜が形成されていてもよい(発明
11)。
【0021】
また、本発明は、コイルが巻回されてなるコイルボビンと、前記コイルボビン内に固設されてなる固定鉄心と、前記固定鉄心に対向して移動可能に設けられてなる上記発明(発明1〜
11)に係る可動鉄心とを備えることを特徴とする電磁弁を提供する(発明
12)。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、表面にヒケや気泡を有さず、かつ内部にボイドを有しない弁体を備える可動鉄心及び電磁弁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係る可動鉄心を用いた閉弁状態の電磁弁を示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る可動鉄心を示す断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る可動鉄心の他端部方向からの斜視図である。
【
図4】本発明の他の実施形態に係る可動鉄心を示す断面図(その1)である。
【
図5】本発明の他の実施形態に係る可動鉄心を示す断面図(その2)である。
【
図6】実施例1における可動鉄心の要部を示す断面図である。
【
図7】比較例1における可動鉄心の要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る可動鉄心を用いた閉弁状態の電磁弁を示す断面図であり、
図2は、本実施形態に係る可動鉄心を示す断面図であり、
図3は、本実施形態に係る可動鉄心の他端部方向からの斜視図である。
【0025】
図1に示すように、本実施形態における電磁弁1は、両端にフランジを有する中空円筒形状のコイルボビン2と、コイルボビン2の胴部に巻回されてなるコイル3と、コイルボビン2の中空部内に一部が嵌挿されている中空円筒形状のガイドスリーブ4と、コイルボビン2の中空部内及びガイドスリーブ4の中空部内に嵌挿・固設されている固定鉄心5と、固定鉄心5に対向して摺動可能にガイドスリーブ4内に挿入されている、ゴム弁体11を有する可動鉄心10と、可動鉄心10のゴム弁体11が当接する弁座61を有するボディ6と、可動鉄心10を弁座6側に付勢するバネ7と、コイルボビン2を収容・固定する第1のフレーム8と、コイルボビン2(第1のフレーム8)から突出するガイドスリーブ4及びボディ6を固定する第2のフレーム9とを備える。なお、第1のフレーム8における固定鉄心5との接触面には、固定鉄心5の流路51に連続する入口ポート81が設けられており、ボディ6には出口ポート62が設けられている。
【0026】
ガイドスリーブ4は、その一端部がコイルボビン2の中空部の一端部から途中まで嵌挿されており、固定鉄心5は、コイルボビン2の中空部の他端部からコイルボビン2の中空部内に嵌挿されているガイドスリーブ4の一端部にまで至る大径部52と、大径部52に連続し、ガイドスリーブ4の中空部内に嵌挿されている小径部53とを有する。そして、ガイドスリーブ4と固定鉄心5とが、例えば溶接等により固定されている。なお、固定鉄心5には、その軸方向に沿って流路51が貫設されている。なお、固定鉄心5の大径部52は、コイルボビン2の中空部の内径と略同一の外径を有し、小径部53は、ガイドスリーブ4の中空部の内径と略同一の外径を有する。
【0027】
また、ガイドスリーブ4は、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼等の高硬度非磁性材料により構成されており、ガイドスリーブ4の中空部側には、可動鉄心10の摺動による摩擦抵抗を低減し、耐磨耗性を向上させ得る被膜(例えば、Ni−Pメッキ、潤滑性塗料(PTFE、PFA、FEP、ETFE等)からなる塗膜等)が設けられている。
【0028】
可動鉄心10は、一端部に所定の深さの凹状の弁体保持部12が形成されてなる、略円柱状の可動鉄心本体13と、当該弁体保持部12内に脱落不可能に、かつ僅かな隙間をもって遊嵌されているゴム弁体11とを有する。
【0029】
図1及び
図2に示すように、可動鉄心10には、可動鉄心本体13の他端部から弁体保持部12の底面の手前まで軸方向に延伸する第1の流路14と、第1の流路14の端部(可動鉄心本体13の一端部側の端部)から4方向に分岐し、可動鉄心本体13の周壁に開口する第2の流路15とが穿設されている。第1の流路14は、可動鉄心本体13の他端部から第1の流路14の途中まで、拡径部として構成されており、かかる拡径部にバネ7が挿入されている。なお、本実施形態においては、第1の流路14の端部から分岐する4つの第2の流路15が設けられているが、第2の流路15の数はこれに限定されるものではない。
【0030】
弁体保持部12は、平面視略円形の開口部12aと、開口部12aの径よりも大径の部分を有している。具体的には、弁体保持部12は、開口部12aから弁体保持部12の深さ方向に連続する当該開口部12aと同径の同径部12bと、当該同径部12bに連続し、開口部12a(同径部12b)の径よりも大きい径を有する大径部12cとを有する。弁体保持部12がこのような形状を有することで、ゴム弁体11が弁体保持部12から脱落するのを防止することができる。
【0031】
弁体保持部12の開口部12a(同径部12b)の径は、φ6〜φ7mm程度であればよく、大径部12cの径は、φ8〜φ9mm程度であればよい。また、弁体保持部12の軸方向深さは、3mm以上であるのが好ましく、特に3〜5mmであるのが好ましい。当該深さが3mm未満であると、ゴム弁体11と弁座61との当接による衝撃音を軽減することができないおそれがある。
【0032】
なお、本実施形態において、可動鉄心10の弁体保持部12の底面は略平坦面として構成されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、当該底面の全体又は一部がすり鉢状に窪んだ形状であってもよい。
【0033】
弁体保持部12内に遊嵌されているゴム弁体11は、所定の弾性を有し、流体(LPG等)に対する耐腐食性を有する材料からなるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、フッ素ゴム、シリコーンゴム、パーフルオロポリエーテル系ゴム、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)、フロロシリコーンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、又はウレタンゴム等により構成されていればよい。なお、上述のパーフルオロポリエーテル系ゴムとしては、例えば、SIFEL(製品名,信越化学工業社製)等が挙げられる。
【0034】
ゴム弁体11は、弁体保持部12内に僅かな隙間(例えば、60μm程度)を有するようにして遊嵌されている。このように、僅かな隙間を有するようにして遊嵌されていることで、ゴム弁体11と弁座61との当接による衝撃音をさらに軽減することができる。
【0035】
図3に示すように、可動鉄心本体13の他端部には、環状の基部16と、基部16上から突出し、固定鉄心5に当接し得る複数(本実施形態では4つ)の凸部17とを有する衝撃吸収部18が接着されている。衝撃吸収部18がこのような形状を有することで、固定鉄心5に当接する凸部17以外の部分(凸部17間の凹状の部分)が、凸部17が固定鉄心5に当接する際における衝撃音の伝播を抑制することができる。
【0036】
衝撃吸収部18は、所定の弾性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、フッ素ゴム、シリコーンゴム、パーフルオロポリエーテル系ゴム、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)、フロロシリコーンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、若しくはウレタンゴム、又はポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリエステル系等の熱可塑性エラストマー等により構成されていればよい。なお、衝撃吸収部18のゴム材料としてフッ素ゴム、シリコーンゴム、パーフルオロポリエーテル系ゴム、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)、フロロシリコーンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、又はウレタンゴムを用いる場合、ゴム弁体11と同一のゴム材料を用いてもよいし、異なるゴム材料を用いてもよいが、異なるゴム材料を用いる場合には、同様の加硫条件(例えば、加硫時間、加硫温度等)で好適に加硫し得るゴム材料を選択するのが好ましい。このようなゴム材料を選択することで、ゴム弁体11と衝撃吸収材18とのそれぞれを構成する未加硫ゴムを同時に加硫させて可動鉄心10を製造することができる。なお、衝撃吸収部18のゴム材料のうち、パーフルオロポリエーテル系ゴムとしては、上記ゴム弁体11を構成するゴム材料として例示したパーフルオロポリエーテル系ゴムと同様のものを用いることができる。
【0037】
衝撃吸収部18の表面には、テフロンからなる保護膜が形成されていてもよい。電磁弁1の運転に伴いコイル3が発熱し、かかる熱により衝撃吸収部18を構成するゴム材料や熱可塑性エラストマーが固定鉄心5に固着しやすくなってしまい、可動鉄心10の応答性不良を引き起こすおそれがあるが、当該衝撃吸収部18の表面にテフロンからなる保護膜が形成されていることで、衝撃吸収部18を構成するゴム材料や熱可塑性エラストマーの固定鉄心5への固着等による可動鉄心10の応答性不良を防止することができる。
【0038】
なお、上記電磁弁1の入口ポート81側には、LPGタンク(図示せず)が接続されており、出口ポート側62には、ベーパライザ(図示せず)を介して内燃機関(LPGエンジン等,図示せず)が接続されている。
【0039】
上述した構成を有するゴム弁体11を有する可動鉄心10は、以下のようにして製造することができる。まず、弁体保持部12が形成されてなる可動鉄心本体13を用意するとともに、可動鉄心本体13の他端部側に所望形状の衝撃吸収部18を形成するためのキャビティを有する型枠を用意する。次に、弁体保持部12の内表面に接着用プライマーを塗布せず、可動鉄心本体13の他端部に接着用プライマーを塗布した上で、可動鉄心本体13を型枠内に設置し、弁体保持部12内に未加硫ゴムを流し込むとともに、可動鉄心本体13の他端部側のキャビティに未加硫ゴムを流し込み、両未加硫ゴムを加硫させる。ゴム弁体11及び衝撃吸収部18の成形方法は、特に限定されるものではなく、例えば、トランスファー成形、インジェクション成形、コンプレッション成形等が挙げられる。このようにして製造することで、ゴム弁体11が加硫接着することなく、弁体保持部12内に保持されることになる。また、未加硫ゴムが加硫する際に僅かに収縮するため、僅かな隙間(例えば、60μm程度)を有するようにして弁体保持部12内にゴム弁体11が遊嵌されることになる。
【0040】
なお、本実施形態に係る可動鉄心10の製造方法は、上記の方法に限定されるものではなく、例えば、上述のようにして弁体保持部12内にゴム弁体11のみを遊嵌させた後、予め所定形状に成形した衝撃吸収部18を可動鉄心本体13の他端部に接着剤等を用いて接着してもよいし、当該衝撃吸収部18を可動鉄心本体13の他端部に接着した後に、弁体保持部12内にゴム弁体11を遊嵌させてもよい。
【0041】
上述した構成を有する電磁弁1において、コイル3に通電されていない状態では、
図1に示すように、バネ7の付勢力によって可動鉄心10は下方(弁座61側)に付勢され、ゴム弁体11が弁座61に当接し、入口ポート81と出口ポート62とを連通する流路が遮断されている。すなわち閉弁状態となっている。
【0042】
コイル3に通電されると、固定鉄心5が磁化されて、可動鉄心10が上方(固定鉄心5側)に吸引される。これにより、可動鉄心10は、バネ7の付勢力に抗して上方(固定鉄心5側)に摺動し、ゴム弁体11が弁座61から離れ、入口ポート81と出口ポート62とをつなぐ流路が連通する。すなわち、開弁状態となる。
【0043】
電磁弁1の出口ポート62側に接続されているLPGエンジンの作動中には、LPGエンジンに燃料としてのLPGを供給する必要があるため、電磁弁1のコイル3に通電されたままの状態、すなわち開弁状態となっており、LPGタンクから固定鉄心5の流路51、可動鉄心10の第1及び第2の流路14,15、及びベーパライザを介してLPGエンジンにLPGを供給することができる。
【0044】
一方、LPGエンジンの作動を停止すると、LPGエンジンに燃料としてのLPGを供給する必要がなくなるため、電磁弁1のコイル3への通電を停止する。通電を停止すると、固定鉄心5は磁化を失い、可動鉄心10はバネ7の付勢力により下方(弁座61側)に付勢され、ゴム弁体11が弁座61に当接し、閉弁状態となる。これにより、LPGエンジンへのLPGの供給が停止される。
【0045】
このとき、ゴム弁体11が可動鉄心10の弁体保持部12に加硫接着されていないことで、ゴム弁体11表面にヒケが生じていないため、ゴム弁体11と弁座61との間に隙間を生じさせることなく両者を当接させ、LPGの流路を確実に遮断することができる。また、ゴム弁体11表面に気泡を有さず、内部にボイドを有しないため、ゴム弁体11が所望とするゴム性能を発揮し、LPGの流路を確実に遮断することができるとともに、ゴム弁体11の破損を防止することができる。
【0046】
このように、本実施形態に係る可動鉄心10を用いた電磁弁1によれば、可動鉄心10が優れたシール特性を有することで、閉弁状態時にLPG等の流体が漏洩するのを防止することができる。
【0047】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属するすべての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0048】
上記実施形態に係る可動鉄心10において、凹状の弁体保持部12を、開口部12aから同径で連続する同径部12bと、同径部12bから連続する、同径部12bよりも径の大きい大径部12cとを有する構成としているが、例えば、
図4に示すように、弁体保持部12を開口部12aから深さ方向に同径の凹状とし、弁体保持部12の内側面に1若しくは2以上の凸部、又は周方向に連続する1若しくは2以上の凸条部を有する構成であってもよいし、
図5に示すように、弁体保持部12の内側面にネジ状部を設けたものであってもよい。
【0049】
また、上記実施形態に係る可動鉄心10において、その軸方向に沿って第1の流路14及び第1の流路14の端部から分岐する第2の流路15が貫設されたものであり、当該可動鉄心10が流体の流路に沿って摺動し得る電磁弁1を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、可動鉄心10が第1の流路14及び第2の流路15を有しないものであってもよい。この場合、流体の流路に対して直交する方向に可動鉄心10が摺動し得る電磁弁1において当該可動鉄心10を用いることができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例等に何ら限定されるものではない。
【0051】
〔実施例1〕
可動鉄心10のゴム弁体11のヒケ量に関し、以下のようにしてシミュレーション解析実験を行った。
【0052】
かかるシミュレーション解析実験においては、
図2に示す可動鉄心10において、弁体保持部12の開口部12aの径をφ6.5mm、弁体保持部12の深さ(開口部12aから底面までの深さ)を4mm、同径部12bの内径をφ6.5mm及び深さを1.5mm、大径部12cの内径をφ8mmとし、当該弁体保持部12内にフッ素ゴム(未加硫,線膨張係数α=1.0×10
-4)を充填して、177℃で10分間加熱して一次加硫させ、200℃で12時間加熱して二次加硫させた後、25℃に冷却したモデルを用い、非線形解析プログラム(Marc2010,日本エムエスシーソフトウェア社製)によりゴム弁体11表面のヒケ量を算出した。その結果、
図6に示すように、ゴム弁体11表面のヒケ量は0.07mmであった。
【0053】
〔比較例1〕
弁体保持部12の内表面(内側面及び底面)に接着用プライマーを塗布した以外は、実施例1と同様にしてフッ素ゴムを加硫させたときのゴム弁体11表面のヒケ量を算出したところ、
図7に示すように、ゴム弁体11表面のヒケ量は0.48mmであった。
【0054】
以上の結果から、弁体保持部12内に接着用プライマーを塗布せずに未加硫ゴムを充填し、加硫接着させないことにより、ゴム弁体11表面のヒケ量を低減させることができることが判明した。
【符号の説明】
【0055】
1…電磁弁
5…固定鉄心
10…可動鉄心
11…ゴム弁体
12…弁体保持部
13…可動鉄心本体
16…基部
17…凸部
18…衝撃吸収部