(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
2軸以上の並進軸と1軸以上の回転軸を有する工作機械において、幾何学的な誤差による被加工物に対する工具の位置若しくは位置および姿勢の誤差を補正する、前記工作機械の補正値演算方法であって、
前記回転軸の指令位置に係る座標系である回転軸指令位置座標系における前記回転軸の指令位置と、
前記並進軸の指令位置に係る座標系である並進軸指令位置座標系内の予め指定した1つの点である補正基準点の座標値と、
前記幾何学的な誤差を前記並進軸ないし前記回転軸間の幾何学的な相対誤差として表す幾何パラメータと、
を用いて前記並進軸の補正値の演算をするものであり、
前記並進軸の補正値の演算は、
前記被加工物に係る座標系である被加工物座標系における前記幾何パラメータによる前記工具の位置誤差を、
前記幾何パラメータを考慮した前記工具に係る座標系である工具座標系から前記被加工物座標系への同次座標変換により求めた前記幾何学的な誤差がある場合の前記工具の位置と、
前記幾何パラメータを考慮しない前記工具座標系から前記被加工物座標系への同次座標変換により求めた理想的な前記工具の位置と
から演算し、
前記被加工物座標系から前記回転軸指令位置座標系ないし前記並進軸指令位置座標系への同次座標変換により、前記工具の位置誤差を前記回転軸指令位置座標系ないし前記並進軸指令位置座標系に変換することで行われる
ことを特徴とする工作機械の補正値演算方法。
【背景技術】
【0002】
図1は当該工作機械の一例である、3つの並進軸と2つの回転軸を有する工作機械(5軸制御マシニングセンタ、5軸機)の模式図である。主軸頭2は、並進軸であり互いに直交するX軸・Z軸によって、ベッド1に対して並進2自由度の運動が可能である。テーブル3は、回転軸であるC軸によってクレードル4に対して回転1自由度の運動が可能である。クレードル4は、回転軸であるA軸によって、トラニオン5に対して回転1自由度の運動が可能であり、A軸とC軸は互いに直交している。トラニオン5は、並進軸でありX軸・Z軸に直交するY軸により、ベッド1に対して並進1自由度の運動が可能である。各軸は数値制御装置により制御されるサーボモータ(図示せず)により駆動され、被加工物(ワーク)をテーブル3に固定し、主軸頭2に工具を装着して回転させ、被加工物と工具の相対位置を制御して加工を行う。
【0003】
前記5軸機の運動精度に影響を及ぼす要因として、例えば、回転軸の中心位置の誤差(想定されている位置からのズレ)や回転軸の傾き誤差(軸間の直角度や平行度)等の各軸間の幾何学的な誤差(幾何誤差)がある。幾何誤差が存在すると工作機械としての運動精度が悪化し、被加工物の加工精度が悪化する。そのため、調整により幾何誤差を小さくする必要があるが、ゼロにすることは困難であり、幾何誤差を補正する制御を行うことで高精度な加工を行うことができる。
【0004】
幾何誤差を補正する手段として、下記特許文献1に記載されるような方法が提案されている。特許文献1のものでは、工作機械の幾何誤差を考慮して工具先端点の位置を各並進軸の位置に変換し、それらを指令位置とすることで幾何誤差による工具先端点の位置誤差を補正することができる。一方、特許文献2のものでは、幾何誤差のある場合の被加工物に対する工具先端点の位置と幾何誤差がない場合の位置との差分値を、並進軸の補正値として制御することで、幾何誤差による工具先端点の位置誤差を補正することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2のものにおいて、回転軸の傾き誤差を補正する場合、並進軸の動作に伴って並進軸が補正指令されるため、並進軸を1軸だけ動作させても他の並進軸が微小動作する。例えば、X軸とA軸の平行度誤差が存在する場合に、X軸のみを動作させても、Y軸もしくはZ軸が微小動作する。
【0007】
このような動作は、平面加工や穴開け加工などの加工精度に悪影響を与える場合がある。例えば、
図1の5軸機において、
図2に示すように、Y軸周りの回転幾何誤差によりA軸がX軸に対して角度βだけ傾いている場合、
図2紙面表から裏への方向をフィード方向、太矢印P方向をピック方向としてスクエアエンドミル(工具)6にて平面加工を行うとすると、工具先端点は、ピック方向において、補正によりX軸に対して傾きβの直線上の点群上に位置決めされ、即ちピック方向の各位置決め位置Qが傾きβで傾いた直線上に並ぶため、加工面に段差が発生してしまう。又、直線軸がスベリ案内の場合、上述のような微小動作をさせると、軸が動いたり動かなかったりする、いわゆる「ため送り」が発生し、加工面に凹凸ができる等、加工面性状を低下させてしまう。更に、スクエアエンドミル6での平面加工ではなく、ドリルによる穴開け加工を行う場合、ドリルの軸方向であるZ軸に対して傾きβの方向にZ軸が送られることになるため、穴径異常が発生し、ドリルの寿命低下も招く。
【0008】
そこで、本発明のうち、請求項1〜
2,3では、5軸機を始めとする工作機械において、幾何誤差による工具の位置若しくは位置および姿勢の誤差を補正すると共に工具の姿勢誤差を補正可能であり、しかも、補正指令による並進軸の微小動作が行われないようにすることで加工精度を向上することのできる回転軸の補正値を演算可能な方法,プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、2軸以上の並進軸と1軸以上の回転軸を有する工作機械において、幾何学的な誤差による被加工物に対する工具の位置若しくは位置および姿勢の誤差を補正する、前記工作機械の補正値演算方法であって、
前記回転軸の指令位置に係る座標系である回転軸指令位置座標系における前記回転軸の指令位置と、前記並進軸の指令位置
に係る座標系である並進軸指令位置
座標系内の予め指定した1つの点である補正基準点の座標値と、前記幾何学的な誤差を
前記並進軸ないし前記回転軸間の幾何学的な相対誤差として表す幾何パラメータと、を用いて前記並進軸の補正値
の演算
をする
ものであり、前記並進軸の補正値の演算は、前記被加工物に係る座標系である被加工物座標系における前記幾何パラメータによる前記工具の位置誤差を、前記幾何パラメータを考慮した前記工具に係る座標系である工具座標系から前記被加工物座標系への同次座標変換により求めた前記幾何学的な誤差がある場合の前記工具の位置と、前記幾何パラメータを考慮しない前記工具座標系から前記被加工物座標系への同次座標変換により求めた理想的な前記工具の位置とから演算し、前記被加工物座標系から前記回転軸指令位置座標系ないし前記並進軸指令位置座標系への同次座標変換により、前記工具の位置誤差を前記回転軸指令位置座標系ないし前記並進軸指令位置座標系に変換することで行われることを特徴とするものである。
【0011】
請求項2に記載の発明は、上記発明にあって、前記補正基準点が、前記回転軸の指令位置により移動することを特徴とするものである。
【0012】
上記目的を達成するために、
請求項3に記載の発明は、上記の工作機械の補正値演算方法をコンピュータに実行させるための工作機械の補正値演算プログラムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、回転軸の動作の場合に並進軸補正値を変化させるものの、並進軸の動作の場合に並進軸補正値を変化させないため、回転軸を割り出して平面加工や穴開け加工などを行った場合でも、加工面精度・品位や工具寿命の低下を起こさず、高精度な加工を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1形態]
以下、本発明に係る実施の形態の例として、
図1に示す5軸機における補正について、適宜図面に基づいて説明する。当該補正は補正プログラムを実行するコンピュータにより行われるが、そのコンピュータとは、5軸機の数値制御装置であっても良いし、これと接続された独立の制御装置であっても良いし、これらの組合せであっても良い。なお、当該形態は、下記の例に限定されず、例えば4軸以下や6軸以上の工作機械に適用しても良いし、回転軸によりテーブル3が回転2自由度を持つことに代えて、主軸頭2が回転2自由度を持つこととしても良いし、主軸頭2とテーブル3がそれぞれ回転1自由度以上を持つこととしても良い。又、工作機械として、マシニングセンタ(
図1)に代えて、旋盤、複合加工機、研削盤等を採用することができる。
【0016】
図3は本発明に係る第1形態の制御方法を行うための数値制御装置10の一例である。指令値生成手段11は、加工プログラムGが入力されると、各駆動軸の指令値を生成する。補正値演算手段12は、指令値生成手段11で生成された指令値を基に各軸の補正値を演算し、当該指令値と補正値の合計値を受けたサーボ指令値変換手段13は、各軸のサーボ指令値を演算して、各軸のサーボアンプ14a〜14eへ送る。各軸のサーボアンプ14a〜14eはそれぞれサーボモータ15a〜15eを駆動し、テーブル3に対する主軸頭2の相対位置および姿勢を制御する。
【0017】
次に、幾何誤差について説明する。幾何誤差を各軸間の相対並進誤差3方向および相対回転誤差3方向の合計6成分(δx,δy,δz,α,β,γ)であると定義する。5軸機のテーブル3に固定されるワーク7から主軸頭2に固定される工具までの軸のつながりは、C軸,A軸,Y軸,X軸,Z軸の順番であり、Z軸と工具間及びワーク7とC軸間も考慮すると合計36個の幾何誤差が存在する。但し、36個の幾何誤差の中には冗長の関係にあるものが複数存在するため、最終的な幾何誤差としては、それらを除外する。
【0018】
すると、最終的な幾何誤差は、軸名並びに各幾何誤差の工具側からの順番を添え字として表すと、δx
5,δy
5,α
5,β
5,δy
4,δz
4,β
4,γ
4,γ
3,α
2,β
2,α
1,β
1の合計13個となる。これらは、順に、それぞれ、C軸中心位置X方向誤差,C−A軸間オフセット誤差,A軸角度オフセット誤差,C−A軸間直角度,A軸中心位置Y方向誤差,A軸中心位置Z方向誤差,A−X軸間直角度,A−Y軸間直角度,X−Y軸間直角度,Y−Z軸間直角度、Z−X軸間直角度、主軸−Y軸間直角度、主軸−X軸間直角度である。なお、数値制御装置10には、これらの幾何誤差を記憶する記憶手段(図示せず)が含まれる。
【0019】
続いて、数値制御装置10により実行される、第1形態に係る補正値の演算方法について説明する。
図4は、当該補正値演算のフローチャートである。
【0020】
ステップS1では並進軸指令値の代わりに補正基準点の座標値を補正値演算に使用するかどうかを判定する。補正基準点とは、指令値と同じ座標系(指令座標系)に属する任意の点であり、その座標値は、X,Y,Z軸の指令値の範囲内の値とし、予め設定し記憶された値や、指令値を生成するための加工プログラムG等に記述した値等を用いる。
【0021】
補正基準点を使用する場合、ステップS2において、並進軸の指令値P
O=(x,y,z)を、補正基準点の座標値P
d=(x
d,y
d,z
d)に置き換える。一方、補正基準点座標値を使用しない場合、置き換えを行わない。そして、ステップS3において、各軸の指令値を用いて補正値を演算する。
【0022】
ステップS3の演算について説明する。主軸頭2にある主軸座標系上の工具先端点ベクトルP
Tを、テーブル3にあるワーク座標系に変換するには、使用する工具の長さをtとし、X,Y,Z,A,C軸の指令位置をそれぞれx,y,z,a,cとすると、次に示す[数1]を用いて同次座標変換を行うことで求めることができる。即ち、幾何誤差がない場合のワーク座標系での工具先端点ベクトルP
Iを求める。
【0024】
一方、次の[数2]のように、各幾何誤差を、変換マトリックスとして上記[数1]の各軸の変換マトリックス間に配置することで、幾何誤差がある場合のワーク座標系での工具先端点ベクトルP
Rを求める。なお、[数2]は幾何誤差が微小であるとしてそれらの積を0とみなした近似式である。
【0026】
従って、ワーク座標系での工具先端点の位置誤差ΔP
W=(δx,δy,δz)は次に示す[数3]となる。
【0028】
更に、ワーク座標系での工具先端点の位置誤差ΔP
Wを、次の[数4]のように座標変換することで、指令値における誤差ΔP
Oを求めることができる。
【0030】
よって、各軸の指令値と、上述の式の幾何誤差を予め計測・同定したパラメータ(幾何パラメータ)とした下記[数5]により、X,Y,Z軸の補正値ΔP=(Δx,Δy,Δz)が得られる。
【0032】
このようにして得た各並進軸の補正値ΔPを、対応する並進軸の指令値にそれぞれ加算して指令することで、幾何誤差による工具先端点の位置誤差を補正することができる。
【0033】
なお、以上では、補正基準点を使用する場合、ステップS2において並進軸の指令値P
Oを補正基準点の座標値P
dに置き換えるとしたが、この置き換えを行わず、ステップS3の補正値演算において、並進軸の指令値P
Oの代わりに補正基準点の座標値P
dを用いてもよい。即ち、[数1]のマトリックスM
1,M
2,M
3の代わりに、下記[数6]のM
1d,M
2d,M
3dをそれぞれ用いる。
【0035】
[第2形態]
続いて、本発明に係る第2形態につき、第1形態との相違点を中心に説明する。第2形態の物的構成は第1形態と同様であり、補正値の演算方法が異なる。
【0036】
即ち、第2形態の演算では、補正基準点を、指令値座標系ではなく、任意のテーブル基準座標系上の点として定義する。テーブル基準座標系とは、テーブル3上に固定される座標系であり、指令値座標系においてテーブル3の回転・傾斜に伴って移動する座標系である。
図5は、テーブル基準座標系と補正基準点の例であり、被加工物(ワーク7)の頂点が原点O
wであるテーブル基準座標系と補正基準点P
dとは、A・C軸の回転により、それぞれO
w’、P
d’に移動する。
【0037】
図6は、第2形態に係る補正値演算方法のフローチャートである。第1形態(
図3)と内容が同じステップは、符号も第1形態と同じものを付し、再度の説明を適宜省略する。
【0038】
ステップS1において補正基準点を使用すると判断された場合、ステップS5にて、テーブル基準座標系での補正基準点の座標値
WP
d = (x
wd,y
wd,z
wd)を、下記[数7]により、指令値座標系での値P
d=(x
d,y
d,z
d)に変換する。ここで、テーブル基準座標原点O
W=(x
w,y
w,z
w)である。
【0040】
次に、ステップS6において、回転軸と同期するかどうかの判定を行う。回転軸と同期する場合は、ステップS7において、指令値座標系での補正基準点座標値の並進・回転変換を行う。本形態のように、A,C軸の回転中心が設計上一点で交わり、その交点が指令値座標系原点と同一の場合では、次の[数8]により並進・回転変換された、指令値座標系での補正基準点P
d’=(x
d’,y
d’,z
d’)が得られる。一方、同期させない場合は並進・回転変換を行わない。
【0042】
この後、ステップS2にて並進軸指令値を補正基準点座標値に置き換え、ステップS3にて補正値の演算を行う。
【0043】
[各形態の効果]
上記各形態の効果を、数式を用いて説明する。なお、双方の形態とも、演算途中で着目する座標系が相違するものの、実質的な演算結果ないし補正効果は同様である。
【0044】
機械には13個の幾何誤差δx
5,δy
5,α
5,β
5,δy
4,δz
4,β
4,γ
4,γ
3,α
2,β
2,α
1,β
1が存在しているとする。なお、以降の式は簡略化のため、幾何誤差が微小であるとして幾何誤差同士の積を0として扱う近似を行っている。
【0045】
工具長t=0の場合の並進軸の補正値(Δx,Δy,Δz)は、次の[数9]となる。従って、X軸の補正値は、Y,Z,A軸指令値に依存して変化し、Y軸の補正値は、X,Z,A軸指令値に依存して変化し、Z軸の補正値は、X,Y,A軸指令値に依存して変化する。
【0047】
例えば、X,Y,Z,A,C軸の指令値(x,y,z,a,c)が(0,0,0,0,0)から(x
1,0,0,0,0)となるまでまでX軸のみを動作させた場合、従来の補正値の変化量(e
x,e
y,e
z)は、下記[数10]となる。即ち、Y,Z軸が微小動作する。
【0049】
これに対し、上記形態のように補正基準点(x
d’,y
d’,z
d’)を用いた場合の補正値は、下記[数11]となる。従って、各補正値は、並進軸の指令値に依存せず、回転軸の指令値に依存して変化する。
【0051】
上記形態のように補正基準点を用いて上述のX軸のみの動作をさせた場合、補正値の変化量(e
x’,e
y’,e
z’)は、次の[数12]となる。即ち、並進軸は微小動作しない。
【0053】
又、上記形態において指令値(x,y,z,a,c)が(0,0,0,0,0)から(0,0,0,−90°,0)までA軸のみを−90°動作させた場合、補正基準点を用いた補正値の変化量は、下記[数13]となる。即ち、A軸動作により補正値が変化する。
【0055】
以上から、上述した従来における
図2と同様の平面加工を行う場合、補正基準点を用いる上記形態では、
図7に示すように、ピック方向(太矢印P方向)等において段差が発生することなく加工することができる。更に、加工点付近に補正基準点(
図7の点H)を設定することで、回転軸を別の角度に割り出した場合でも、補正基準点付近であれば、幾何誤差を十分な精度で補正して加工を行うことができる。
【0056】
なお、以上の各形態では、工具の位置誤差と共に、工具の回転誤差(姿勢誤差)を演算したが、後者の姿勢誤差のパラメータ等を省略し、姿勢誤差の補正値は算出せず、位置誤差のみについて、補正基準点を用いた並進軸の補正値を演算しても良い。又、幾何パラメータや、各種マトリックスの行数ないし列数あるいは要素や、各種数式における演算対象となるマトリックス等について、増減したり、変更したりすることができる。