(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5789191
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】クメン生産プロセス
(51)【国際特許分類】
C07C 2/86 20060101AFI20150917BHJP
C07C 2/70 20060101ALI20150917BHJP
C07C 15/085 20060101ALI20150917BHJP
C07C 37/08 20060101ALI20150917BHJP
C07C 39/04 20060101ALI20150917BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20150917BHJP
【FI】
C07C2/86
C07C2/70
C07C15/085
C07C37/08
C07C39/04
!C07B61/00 300
【請求項の数】16
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2011-530110(P2011-530110)
(86)(22)【出願日】2009年9月23日
(65)【公表番号】特表2012-504621(P2012-504621A)
(43)【公表日】2012年2月23日
(86)【国際出願番号】US2009057941
(87)【国際公開番号】WO2010042314
(87)【国際公開日】20100415
【審査請求日】2012年9月5日
(31)【優先権主張番号】61/103,076
(32)【優先日】2008年10月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508328604
【氏名又は名称】バジャー・ライセンシング・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(74)【代理人】
【識別番号】100118407
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 尚美
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100125036
【弁理士】
【氏名又は名称】深川 英里
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100154298
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100162330
【弁理士】
【氏名又は名称】広瀬 幹規
(72)【発明者】
【氏名】フワン,シー‐ユアン,ヘンリー
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン,デイナ・イー
(72)【発明者】
【氏名】ピーターズ,ジョゼフ・シー
(72)【発明者】
【氏名】チー,チュン‐ミン
(72)【発明者】
【氏名】ファロン,ケヴィン・ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】デマーズ,フランシス・エイ
【審査官】
井上 典之
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/102664(WO,A1)
【文献】
国際公開第2008/079552(WO,A1)
【文献】
特開平11−035497(JP,A)
【文献】
特開2001−055351(JP,A)
【文献】
特許第5072951(JP,B2)
【文献】
特表2003−523985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 2/
C07C 15/
C07C 37/
C07C 39/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゼンを含む供給流と、イソプロパノールまたはイソプロパノールとプロピレンの混合物を含むさらなる供給流とを、MCM−22ファミリーのモレキュラーシーブを少なくとも含むアルキル化触媒の存在下で、アルキル化ゾーンにおいて、少なくとも部分的に液相であり該液相中の水の濃度が少なくとも50ppmであるアルキル化条件下で接触させて前記イソプロパノールおよびベンゼンの少なくとも一部を反応させて、クメンを含有する排出流を生産することを含む、クメンを生産するためのプロセス。
【請求項2】
前記MCM−22ファミリーのモレキュラーシーブが、12.4±0.25、6.9±0.15、3.57±0.07および3.42±0.07オングストロームの面間隔d最大値を含むX線回折パターンを有する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記MCM−22ファミリーのモレキュラーシーブが、MCM−22、PSH−3、SSZ−25、ERB−1、ITQ−1、ITQ−2、MCM−36、MCM−49、MCM−56、UZM−8、およびそれらの混合物から選択される、請求項1または請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記アルキル化触媒が、ZSM−3、ZSM−4、ZSM−5、ZSM−11、ZSM−12、ZSM−14、ZSM−18、ZSM−20、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−48、ゼオライトベータ、ゼオライトY、超安定Y(Ultrastable Y:USY)、脱アルミニウムY(Dealuminized Y:Deal Y)、モルデン沸石、MCM−22、PSH−3、SSZ−25、ERB−1、ITQ−1、ITQ−2、MCM−36、MCM−49、MCM−56、およびUZM−8を含むグループから選択される少なくとも1つのゼオライト触媒をさらに含む、請求項1〜3のいずれかに記載のプロセス。
【請求項5】
前記液相中の水の濃度が、少なくとも100ppmである、請求項1〜4のいずれかに記載のプロセス。
【請求項6】
前記液相中の水の濃度が、40,000ppm以下である、請求項1〜5のいずれかに記載のプロセス。
【請求項7】
前記液相中の水の濃度が、8,500ppm〜40,000ppmの範囲内である、請求項1〜6のいずれかに記載のプロセス。
【請求項8】
前記アルキル化条件が、20℃から350℃の温度、100kPaから20,000kPaの圧力、および前記アルキル化ゾーンに供給されるベンゼンのC3アルキル化剤(イソプロパノール+プロピレン)に対するモル比0.1:1から100:1をさらに含む、請求項1〜7のいずれかに記載のプロセス。
【請求項9】
前記アルキル化ゾーンに供給されるベンゼンのC3アルキル化剤(イソプロパノール+プロピレン)に対するモル比が、0.3:1〜10:1の範囲内である、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記温度が、100℃から300℃の範囲内である、請求項8に記載のプロセス。
【請求項11】
前記さらなる供給流が、イソプロパノールとプロピレンの混合物を含み、該混合物中の該イソプロパノール対プロピレンモル比が、99.9:0.1〜0.1:99.9の範囲内である、請求項1〜10のいずれかに記載のプロセス。
【請求項12】
前記排出流の少なくとも一部を前記アルキル化ゾーンに再循環させることをさらに含む、請求項1〜11のいずれかに記載のプロセス。
【請求項13】
(i)前記排出流を冷却することと、
(ii)前記冷却排出流を、水が豊富な水性流と、クメンおよび未反応ベンゼンから主として成る芳香族流とに分けることと、
(iii)前記芳香族流の少なくとも一部をアルキル化ゾーンに再循環させることと
をさらに含む、請求項1〜12のいずれかに記載のプロセス。
【請求項14】
(a)ベンゼンを含む供給流と、イソプロパノールまたはイソプロパノールとプロピレンの混合物を含むさらなる供給流とを、MCM−22ファミリーのモレキュラーシーブを少なくとも含むアルキル化触媒の存在下で、アルキル化ゾーンにおいて、少なくとも部分的に液相であり該液相中の水の濃度が少なくとも50ppmであるアルキル化条件下で接触させて前記イソプロパノールおよびベンゼンの少なくとも一部を反応させて、クメンを含有する排出流を生産することと、
(b)前記(a)において生産した前記クメンの少なくとも一部を酸化して、クメンヒドロペルオキシドを形成することと、
(c)前記(b)からの前記クメンヒドロペルオキシドの少なくとも一部を開裂させて、フェノールおよびアセトンを含有する開裂排出流を形成することと、
(d)前記開裂排出流から前記アセトンの少なくとも一部を分離することと、
(e)前記(d)において分離した前記アセトンの少なくとも一部を水素化して、イソプロパノールを生産することと、
(f)前記(e)において生産された前記イソプロパノールの少なくとも一部を前記接触(a)に再循環させることと
を含む、フェノールを生産するための一貫プロセス。
【請求項15】
前記MCM−22ファミリーのモレキュラーシーブが、12.4±0.25、6.9±0.15、3.57±0.07、および3.42±0.07オングストロームの面間隔d最大値を含むX線回折パターンを有する、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
前記MCM−22ファミリーのモレキュラーシーブが、MCM−22、PSH−3、SSZ−25、ERB−1、ITQ−1、ITQ−2、MCM−36、MCM−49、MCM−56、UZM−8、およびそれらの混合物から選択される、請求項14または請求項15に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クメンを生産するためのプロセスに関し、詳細には、排他的にではないが、クメンを生産するためのおよびクメンをフェノールに転化させるための一貫プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
クメンは、化学および高分子工業における重要な中間体であり、2006年のクメンの世界生産量は、約1200万トンであり、クメンの世界的需要は、2006年〜2011年の間に年4%を超える伸びをみせると予想される。
【0003】
今日、世界で製造されている全クメンの大半がフェノールの生産に用いられている。ビスフェノールAおよび続いてポリカーボネートの製造ためのフェノールの需要は、電子工業、ヘルスケア産業および自動車工業でのポリカーボネートの利用が拡大しているため、加速している。
【0004】
概して、クメンは、工業的には、酸性触媒の存在下、完全液相または気相液相混合状態でベンゼンとプロピレンを反応させることにより生産されている。後に触媒のコーキングおよび失活の原因となるプロピレンのオリゴマー化を制御するまたは最小限にするために、プロピレン供給量に対して化学量論的に過剰なベンゼン供給量が概して反応器に供給される。固体リン酸に基づく先行プロセスは、概して、約8:1モルのベンゼン対プロピレン供給比を用いる。固体リン酸(SPA)触媒を用いて生産されるポリイソプロピルベンゼンは、クメンに有効に転化させることができず、ガソリン配合用ストックとして使用せねばならず、プロセス収率ロスと見なさねばならないので、ポリイソプロピルベンゼン、主としてジイソプロピルベンゼンおよびトリイソプロピルベンゼン、の生産を制限するためにも、これらのプロセスでは高いベンゼン対プロピレン供給比を用いる必要がある。その高いベンゼン対プロピレン供給比の結果として、反応器排出物中に大量の未転化ベンゼンが存在することにもなり、それを蒸留によって回収し、反応器に循環させて戻す必要がある。これらの要因の両方が、SPAプロセスを不経済なものにする。
【0005】
1980年代に開発された、塩化アルミニウム触媒に基づく幾つかのプロセスは、供給ベンゼン対プロピレン比を約3:1モルに低下させることができ、従って、過剰ベンゼンの回収および再循環に関連した資本経費および運転費を削減し、ならびに従って、プロセス経済性をいくらか改善した。より低いベンゼン対プロピレン比のため、より多くのポリイソプロピルベンゼンが塩化アルミニウムプロセスのアルキル化セクションにおいて生産されるが、これらのプロセスでは生産されたポリイソプロピルベンゼンをベンゼンで有効にトランスアルキル化して追加のクメンを生産することができ、総プロセス収率は、SPA触媒に基づくものより有意に改善される。しかし、触媒としての塩化アルミニウムのクメンプラントへの導入は、該触媒の高い腐食性のため、それに伴う多数の環境、プラント維持、ならびにプラントおよび人員安全の問題をもたらす。結果として、前記塩化アルミニウムプロセスに基づくクメンプラントは少数しか建設されていない。
【0006】
1990年代におけるゼオライト触媒に基づくクメン技術の導入は、クメン製造工業に革命を起こした。ゼオライト触媒は、非腐食性であり、環境にやさしい。従って、ゼオライト触媒を使用することで、塩化アルミニウム触媒に関連した環境、維持および安全性の懸念がなくなる。ゼオライトに基づくプロセスは、固体リン酸に基づくものより高い製品純度およびプロセス収率でクメンを生産することができる。ゼオライトに基づく技術の大部分は、穏やかな条件で、および固体リン酸に基づくプロセスに用いられるものより多少低い6:1モルと3:1モルの間の供給ベンゼン対プロピレン比を用いて、アルキル化を果たすことができ、同時に、プロピレンオリゴマー化および触媒コーキングを制限して1から2年の触媒サイクル長を達成することができる。ゼオライトに基づくより先進の技術、例えば、Badger LicensingによってライセンスされるMobil/Badgerクメン技術は、2:1モル以下の極めて低いベンゼン対プロピレン比で運転でき、同時に、5年以上の触媒サイクル長を達成することができる。より多くのポリイソプロピルベンゼンが低いベンゼン対プロピレン比で生産されるが、それらをベンゼンで非常に効率的にトランスアルキル化して追加のクメンを生産することができるので、全プロセス性能に対するそれらの影響を無視できる。さらに、蒸留により回収して反応器に再循環させなければならない未転化ベンゼンの量を有意に低減すると、結果として、そのクメンプラントの資本投資と運転費の両方が有意に削減できる。
【0007】
しかし、クメン、フェノールおよびビスフェノール−A生産量の急速な伸びは、フェノールプラントから生産されるアセトン併産物の不均衡に関連した幾つかの懸念を生じさせた。アセトンおよびフェノールは、クメンからおおよそ1:1のモル比で生産されるが、下流のビスフェノール−A生産プロセスではおおよそ1:2のモル比で使用される。ビスフェノール−Aの生産に用いられない過剰なアセトンは、それが供給−需要不均衡を生じさせてフェノール生産事業の経済性を破壊しかねないことへの生産業者の相当な懸念を生じさせた。
【0008】
加えて、従来のフェノール生産はプロピレン供給原料の使用に基づくので、プロピレンの供給源付近にフェノールプラントを立地する必要性が生産業者には重要な問題となった。今日のオレフィン市場では、プロピレンの生産に一般に好都合である供給原料の入手可能性のため、エチレンプラントなどの従来の供給源から生産されるプロピレンの供給にも供給−需要不均衡がある。この不均衡がフェノール製造業者に製品販路ではなく供給原料供給業者のより近くに彼らのプラントを建設することを余儀なくさせた。
【0009】
フェノールプラントにおいて生産される過剰なアセトンを再循環させてクメンを生産することにより、上で説明したアセトン不均衡およびプロピレン問題を解決することに、非常の多くの研究努力が注がれた。例えば、米国特許第2,410,553号は、水素および塩化亜鉛触媒の存在下でベンゼンをアセトンと反応させてクメンを形成するアルキル化プロセスを教示している。加えて、米国特許第2,412,230号は、周期表IB族から選択される金属のピロリン酸塩の存在下でのベンゼンおよびイソプロパノールからのクメンの生産を教示している。
【0010】
米国特許第5,015,786号は、(a)液相条件下でゼオライト触媒を使用してイソプロパノールでベンゼンをアルキル化してクメンを合成する工程と、(b)工程(a)からのクメンを酸素分子でクメンヒドロペルオキシドに酸化する工程と、(c)クメンヒドロキシペルオキシドを酸開裂に付して、フェノールおよびアセトンを合成する工程と、(d)工程(c)からのアセトンを液相条件下、水素ガスでイソプロパノールに水素化し、それを工程(a)に再循環させる工程とを含む、フェノールを調製するためのプロセスを教示している。
【0011】
米国特許第5,017,729号には、(a)塩化アルミニウム錯体の存在下でベンゼンとプロピレンを反応させてクメンを合成する工程と、(b)工程(a)のクメンを酸素分子でクメンヒドロキシペルオキシドに酸化する工程と、(c)クメンヒドロキシペルオキシドを酸性化合物でフェノールおよびアセトンに酸開裂させる工程と、(d)工程(c)のアセトンを水素化触媒の存在下、水素でイソプロパノールに水素化する工程と、(e)工程(d)のイソプロパノールを酸性化合物の存在下でプロピレンに脱水する工程と、(f)液体状態の工程(e)のプロピレンを工程(a)に再循環させる工程とを含む、フェノールを調製するためのプロセスが開示されている。
【0012】
米国特許第5,160,497号には、次の逐次的工程を含む、フェノールを生産するためのプロセスが開示されている。そのプロセスとは、(1)アルキル化工程において、8〜70の範囲のSiO
2/Al
2O
3モル比を有する脱アルミニウムY型ゼオライトの存在下、プロピレンおよびイソプロパノールを含む供給原料とベンゼンを反応させて生成物を得、それを分留して、未転化ベンゼン、クメンおよびポリイソプロピルベンゼンをそれぞれ含有する3つの留分を回収する工程、(2)トランスアルキル化工程において、8〜70の範囲のSiO
2/Al
2O
3モル比を有する脱アルミニウムY型ゼオライトと接触させることにより、前記ポリイソプロピルベンゼン留分の少なくとも一部をベンゼンと反応させ、クメンを回収する工程、(3)工程(1)および(2)から得たクメンを空気で酸化させてクメンヒドロペルオキシドを得、それを酸で開裂させて、フェノールとアセトンの混合物を得、その後、その混合物を分留して、フェノールおよびアセトンを別々に回収する工程、および(4)工程(3)の最後に得たアセトンを少なくとも一部はイソプロパノールに水素化し、その後、それを少なくとも一部は直接工程(1)に再循環させる工程、である。
【0013】
米国特許第6,841,704号には、10:1より大きいSiO
2/Al
2O
3モル比を有するベータ型ゼオライト触媒の存在下で、イソプロパノールまたはイソプロパノールとプロピレンの混合物をベンゼンと反応させることを含む、クメン調製のための方法であって、水の表面付加によって前記触媒の酸性度が変更され、使用されるイソプロパノールが少なくとも2つのプロセス段階によるアセトンの水素化によって得られるものである方法が開示されている。
【0014】
欧州特許第1,069,099号には、反応セクションに存在する混合物の完全な気相に対応する圧力および温度条件下、ならびにベータ型ゼオライトおよび無機配位子を含むゼオライト触媒の存在下で、イソプロパノールまたはイソプロパノールとプロピレンの混合物でベンゼンをアルキル化するプロセスが開示されている。
【0015】
米国特許第6,512,153号には、反応液相中の水の濃度が8,000ppmより高くならないような温度および圧力で、触媒の存在下、および気液混合相または完全液相のもと、ベンゼンを、単独でのまたはプロピレンと混合されたイソプロパノールと反応させるプロセスが開示されている。この特許は、反応液中の水分レベルを8,000pm未満に維持したとき、試験したベータ型触媒が十分な安定性を有したことを示している。しかし、反応液中の水分含有率が8,000ppmを超えると前記触媒は有意に失活した。
【0016】
ベンゼンでのイソプロパノールのアルキル化は、その反応中に消費されるイソプロパノール1モルごとに1モルの水を生成するので、米国特許第6,512,153号に記載されている反応液中の水8,000ppmという制約は、この反応系の設計に有意な制限を加える。そのような8,000ppm制約は、反応系内の水の非常に効率的な除去を必要とし、大きなプロセス装置、例えばポンプ、熱交換器およびデシケータ、ならびに大きなエネルギー消費を必要とし、その結果、高い資本経費および運転費を生じさせ、そのようなプロセスを不経済なものにする。
【0017】
アルキル化反応器へのイソプロパノール供給材料は実質的に乾燥していることが求められるので、米国特許第6,512,153号に記載されている8,000ppm制限は、フェノールとクメンの一貫生産を有意に制限する。対照的に、(クメンを酸素分子でクメンヒドロペルオキシドに酸化し、その後、アセトンおよびフェノールに開裂させる)従来のフェノールプラントにおいて生産される粗アセトンは、概して5重量%〜10重量%の水を含有する。従って、アセトンをイソプロパノールに転化させる前またはさせた後にこの大量の水を除去することが必要となり、その後、そのイソプロパノールをイソプロパノールアルキル化反応器に供給することができる。これは、低いベンゼン対(プロピレン+イソプロパノール)比が望まれるアルキル化プロセスを最適化するために特に重要である。このような場合、イソプロパノールは、アルキル化反応器への供給原料の大部分を構成するからであり、アルキル化反応で追加の水分が生成される前でさえ、イソプロパノールと共にやって来る5〜10%の水分が反応器内の水分含有率を高くするからである。アセトンおよびイソプロパノールから水を除去することは難しいので、アセトンおよびイソプロパノール中の水のレベルを低下させることに有意な資本投資およびユーティリティー消費が必要とされる。アルキル化反応における含水率に対する8,000ppm制限を実質的に拡大するまたは除去することができれば、資本経費およびユーティリティー費用の有意な節約を実現することができる。
【0018】
本発明に従って、MCM−22ファミリー・モレキュラーシーブをアルキル化触媒として利用すると、触媒安定性に有意な悪影響を及ぼすことなく、供給原料中に高レベルの水が存在する状態で、イソプロパノールまたはイソプロパノールとプロピレンの混合物でベンゼンをアルキル化することができることが、今般判明した。
【発明の概要】
【0019】
1つの態様において、本発明は、ベンゼンを含む供給流と、イソプロパノールまたはイソプロパノールとプロピレンの混合物を含むさらなる供給流とを、MCM−22ファミリーのモレキュラーシーブを少なくとも含むアルキル化触媒の存在下で、アルキル化ゾーンにおいて、少なくとも部分的に液相であり該液相の水の濃度が少なくとも50ppmであるアルキル化条件下で接触させて前記イソプロパノールおよびベンゼンの少なくとも一部を反応させて、クメンを含有する排出流を生産することを含む、クメンを生産するためのプロセスに関する。
【0020】
適便には、前記液相の水の濃度は、少なくとも100ppm、例えば、少なくとも500ppm、例えば少なくとも1,000ppmである。一般に、前記液相中の水の濃度に関する上限は、40,000ppmである。1つの実施形態において、前記液相の水の濃度は、8,500ppm〜40,000ppmの範囲内、例えば10,000ppm〜20,000ppmの範囲内である。
【0021】
適便には、前記アルキル化条件は、約20℃から約350℃の温度、約100kPaから約20,000kPaの圧力、および前記アルキル化ゾーンに供給されるベンゼンのC
3アルキル化剤(イソプロパノール+任意のプロピレン)に対するモル比約0.1:1から約100:1を含む。
【0022】
1つの実施形態において、前記アルキル化ゾーンに供給されるベンゼンのC
3アルキル化剤(イソプロパノール+任意のプロピレン)に対するモル比は、0.3:1〜10:1、例えば、0.5:1〜5:1、例えば1:1〜3:1にわたる。
【0023】
1つの実施形態において、前記温度は、100℃から300℃、例えば、150℃から280℃にわたる。
【0024】
適便には、前記さらなる供給流は、イソプロパノール、またはイソプロパノールとプロピレンの混合物(この場合のイソプロパノール対プロピレンモル比は、99.9:0.1〜0.1:99.9の範囲内である)を含む。
【0025】
適便には、前記プロセスは、前記排出流の少なくとも一部を前記アルキル化ゾーンに再循環させることを含む。1つの実施形態において、前記プロセスは、排出流を冷却することと、前記排出流を、水が豊富な水性流と、クメンおよび未反応ベンゼンから主として成る芳香族流とに分けることと、前記芳香族流の少なくとも一部をアルキル化ゾーンに再循環させることとをさらに含む。
【0026】
さらなる態様において、本発明は、
(a)アルキル化ゾーンにおいて、MCM−22ファミリーのモレキュラーシーブを少なくとも含むアルキル化触媒の存在下で、C
3アルキル化剤でベンゼンをアルキル化して、クメンを含有するアルキル化排出流を生産することと(前記反応は、完全または部分的水相のもとで、および少なくとも50ppmである該水相中の水の濃度で行われる)、
(b)工程(a)におけるクメンの少なくとも一部を酸化して、クメンヒドロペルオキシドを形成することと、
(c)工程(b)におけるクメンヒドロペルオキシドの少なくとも一部を開裂させて、フェノールおよびアセトンを含有する開裂排出流を形成することと、
(d)工程(c)における開裂排出流からアセトンの少なくとも一部を分離することと、
(e)工程(d)からのアセトンの少なくとも一部を水素化して、イソプロパノールを形成することと、
(f)工程(e)におけるイソプロパノールの少なくとも一部を前記アルキル化工程(a)に再循環させることと
を含む、クメンおよびフェノールの一貫生産プロセスに存する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1-16】
図1〜
図16は、それぞれ、実施例1〜実施例16のプロセスについての触媒1グラムあたりのクメン生産性に対して芳香族化合物選択性およびクメン選択性をプロットしているグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
アルキル化ゾーンにおいて、アルキル化触媒の存在下、イソプロパノールまたはイソプロパノールとプロピレンの混合物でベンゼンをアルキル化することによるクメン生産プロセスを本明細書に記載する。概して、ベンゼンのC
3アルキル化剤(イソプロパノール+プロピレン)に対するモル比を、約0.1:1〜約100:1の範囲内、概して0.3:1〜10:1、例えば0.5:1〜5:1、例えば1:1〜3:1に維持する。C
3アルキル化剤が、イソプロパノールとプロピレンの混合物を含む場合、その混合物中のイソプロパノール対プロピレンモル比は、一般に、99.9:0.1〜0.1:99.9、例えば、90:10〜10:90の範囲内となる。
【0029】
前記プロセスの間、反応混合物の少なくとも一部を液相状態で維持するために、前記アルキル化反応を約20℃から約350℃、例えば約100℃から約300℃、約150℃から約280℃の温度で、および約100kPaから約20,000kPa、例えば約500kPaから約10,000kPa、の圧力で行う。
【0030】
アルキル化ゾーンにおいて用いる触媒は、MCM−22ファミリーのモレキュラーシーブを少なくとも1つ含む。本明細書において用いる場合、用語「MCM−22ファミリーのモレキュラーシーブ」(または「MCM−22ファミリーの材料」または「MCM−22ファミリー材料」または「MCM−22ファミリーゼオライト」)は、
●MWW骨格トポロジーを有する単位格子である、共通の一次結晶構成単位・単位結晶から構成されたモレキュラーシーブ(単位格子は、三次元空間にタイリングすると結晶構造を表す、原子の立体配列である。そのような結晶構造は、「Atlas of Zeolite Framework Types」,Fifth edition,2001において論じられている(その全内容を参照として援用する));
●1単位格子厚、好ましくは1C単位格子厚、の単層を形成する、そのようなMWW骨格トポロジー単位格子の2次元タイリングである、共通の二次構成単位から構成されたモレキュラーシーブ;
●1単位格子以上の厚さの層である、共通の二次構成単位から構成されたモレキュラーシーブ(この場合の1単位格子より厚い厚さの層は、1単位格子厚の単層少なくとも2層の積層、充填または成形から作られる)。そのような二次構成単位の積層は、規則様式、不規則様式、ランダム様式、またはそれらの任意の組み合わせのものであり得る。および、
●MWW骨格トポロジーを有する単位格子の任意の規則的なまたはランダムな2次元または3次元の組み合わせによって作られるモレキュラーシーブ;
のうちの1つ以上を含む。
【0031】
MCM−22ファミリーのモレキュラーシーブは、12.4±0.25、6.9±0.15、3.57±0.07および3.42±0.07オングストロームの面間隔d最大値を含むX線回折パターンを有するモレキュラーシーブを含む。前記材料を特性づけするために用いるX線回折データは、入射放射線として銅のK−アルファ二重線を用い、収集システムとしてシンチレーションカウンタおよび付属コンピュータを装備した回折計を用いる標準的な技術によって得られる。
【0032】
MCM−22ファミリーの材料としては、MCM−22(米国特許第4,954,325号参照)、PSH−3(米国特許第4,439,409号参照)、SSZ−25(米国特許第4,826,667号参照)、ERB−1(欧州特許第0293032号参照)、ITQ−1(米国特許第6,077,498号参照)、ITQ−2(国際特許公開第97/17290号参照)、MCM−36(米国特許第5,250,227号参照)、MCM−49(米国特許第5,236,575号参照)、MCM−56(米国特許第5,362,697号参照)、UZM−8(米国特許第6,756,030号参照)、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0033】
MCM−22ファミリー材料に加えて、前記アルキル化触媒は、米国特許第4,016,218号において定義されているように、2〜12の拘束係数(Constraint Index)を有する少なくとも1つの中細孔モレキュラーシーブを含むことがある。適する中細孔モレキュラーシーブとしては、ZSM−5、ZSM−11、ZSM−12、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−35、およびZSM−48が挙げられる。ZSM−5は、米国特許第3,702,886号および米国特許再発行番号第29,948号に詳細に記載されている。ZSM−11は、米国特許第3,709,979号に詳細に記載されている。ZSM−12は、米国特許第3,832,449号に記載されている。ZSM−22は、米国特許第4,556,477号に記載されている。ZSM−23は、米国特許第4,076,842号に記載されている。ZSM−35は、米国特許第4,016,245号に記載されている。ZSM−48は、米国特許第4,234,231号により詳細に記載されている。
【0034】
あるいは、前記アルキル化触媒は、MCM−22ファミリー材料に加えて、2未満の拘束係数を有する1つより多くの大細孔モレキュラーシーブを含むことがある。適する大細孔モレキュラーシーブとしては、ゼオライトベータ、ゼオライトY、超安定Y(Ultrastable Y:USY)、脱アルミニウムY(Dealuminized Y:Deal Y)、モルデン沸石、ZSM−3、ZSM−4、ZSM−18、およびZSM−20が挙げられる。ゼオライトZSM−14は、米国特許第3,923,636号に記載されている。ゼオライトZSM−20は、米国特許第3,972,983号に記載されている。ゼオライトベータは、米国特許第3,308,069号および米国特許再発行番号第28,341号に記載されている。低ナトリウム超安定Y型モレキュラーシーブ(USY)は、米国特許第3,293,192号および同第3,449,070号に記載されている。脱アルミニウムY型ゼオライト(Deal Y)は、米国特許第3,442,795号において見つけられる方法によって調製することができる。ゼオライトUHP−Yは、米国特許第4,401,556号に記載されている。モルデン沸石は、自然に存在する材料であるが、合成形態、例えばTEA−モルデン沸石(すなわち、テトラエチルアンモニウム指向剤を含む反応混合物から調製された合成モルデン沸石)、で利用することもできる。TEA−モルデン沸石は、米国特許第3,766,093号および同第3,894,104号に記載されている。
【0035】
上記のモレキュラーシーブを、任意の結合剤またはマトリックスを伴わずに、すなわちいわゆる自己結合形態で、アルキル化剤として使用することができる。あるいは、前記モレキュラーシーブを、前記アルキル化反応において用いられる温度および他の条件に対して耐性である別の材料と複合させることができる。そのような材料としては、活性材料および不活性材料ならびに合成ゼオライトまたは自然に存在するゼオライト、ならびに無機材料、例えば、クレーおよび/または酸化物、例えばアルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシアもしくはこれらの混合物ならびに他の酸化物が挙げられる。後述のものは、自然に発生するものである場合もあり、またはシリカと金属酸化物の混合物を含むゼラチン状沈殿物もしくはゲルの形態のものである場合もある。触媒の機械的特性を変性させるためにまたはその製造を助長するために、酸化物型結合剤と共にクレーを含めることもできる。モレキュラーシーブと併用での、すなわち、それと組み合わせたまたはその合成中に存在する、それ自体触媒活性である材料の使用は、前記触媒の転化および/または選択性を変化させることがある。不活性材料は、転化量を制御するための希釈剤として適切に役立つので、反応速度を制御するための他の手段を用いずに製品を経済的に規則正しく得ることができる。これらの材料を、工業運転条件下での前記触媒の破砕強度を向上させるためにおよび前記触媒のための結合剤またはマトリックスとして機能するように、自然に存在するクレー、例えばベントナイトおよびカオリン、に組み込むことができる。モレキュラーシーブと無機酸化物マトリックスの相対比率には大きな幅があり、シーブの含有率は、約1重量パーセント〜約90重量パーセントにわたり、より通例的には、特に、その複合材がビーズの形態で調製されるときには、その複合材の約2重量パーセント〜約80重量パーセントの範囲内で様々である。
【0036】
前記アルキル化反応を回分式で行うことができ、または連続的に行うこともできる。さらに、前記反応を固定層で行うことができ、または移動層で行うこともできる。しかし、固定層操作のほうが好ましく、概して、前記アルキル化反応ゾーンはアルキル化触媒の1つ層または多数の直列接続層を含む。
【0037】
前記アルキル化反応は、一般に、C
3アルキル化剤(イソプロパノール+任意のプロピレン)の実質的に完全な転化を達成するように操作されるので、アルキル化ゾーンからの排出物は、クメン、併産され共に供給される水、未反応ベンゼン、ならびに他の反応生成物から主として成る。概して、前記排出物の一部をアルキル化ゾーンに再循環させて、反応温度を制御する。しかし、アルキル化反応器内の水の過剰蓄積を避けることが重要であるので、アルキル化排出物を少なくとも部分的に脱水した後、その排出物を再循環させる。前記排出流を冷却し、水が豊富な水性流と、クメン、未反応ベンゼンおよび他の反応生成物を含む水枯渇芳香族流とに分けることができる。その後、前記芳香族流の一部をアルキル化反応ゾーンに再循環させる。
【0038】
MCM−22ファミリーのモレキュラーシーブを少なくとも1つ含む触媒を使用することにより、本アルキル化プロセスは、アルキル化反応ゾーンの液相中の水の存在に並はずれて耐性であることが認められる。従って、液相反応媒体中の全含水率が非常に低く(概して50pmmより十分に下に)なるようにアルキル化供給材料を乾燥させることが普通であるが、本プロセスは、少なくとも50ppm、例えば少なくとも100ppm、例えば少なくとも500ppm、例えば少なくとも1,000ppmまたはさらに少なくとも5,000ppmの水のレベルで触媒安定を有意に損なうことなく運転することができることが認められる。一般に、前記液相の水の濃度に関する上限は、40,000ppmである。一つの実施形態において、前記液相の水の濃度は、8,500ppm〜40,000ppmの間、例えば10,000ppm〜20,000ppmの間にわたる。これらの範囲内の水のレベルは、一般に、C
3アルキル化剤の含水量の適切な制御(部分的乾燥を伴うまたは伴わない)、アルキル化排出物再循環の量の適切な制御、および/またはアルキル化排出物再循環の含水率の適切な制御によって達成することができる。
【0039】
1つの実施形態において、イソプロパノールをクメンに転化させるための本プロセスは、フェノールを生産するための一貫プロセスの一部を構成する。そのような一貫プロセスでは、本プロセスにおいて生産されたクメンを酸化してクメンヒドロペルオキシドを形成し、そのクメンヒドロペルオキシドを開裂させて、フェノールおよびアセトンを含有する開裂排出流を形成する。その後、そのアセトンを前記開裂排出流から分離し、イソプロパノールに水素化し、本プロセスに再循環させて戻す。クメン酸化および開裂工程の詳細は、例えば、参照により本明細書に援用する米国特許第5,017,729号において見つけることができる。イソプロパノールへのアセトン水素化の詳細は、例えば、同じく参照により本明細書に援用する米国特許第5,081,321号において見つけることができる。
【実施例1】
【0040】
34インチ(864cm)の全長を有する3/4インチ(19cm)径Schedule 40 Stainless Steel 316パイプから製造した固定層反応器(fixed bed reactor)において、イソプロパノールおよびプロピレンでのベンゼンのアルキル化試験を行った。ベンゼン/イソプロパノール混合物に1つの貯蔵タンクを使用し、プロピレンに別のタンクを使用した。ベンゼン/イソプロパノール混合物を反応器に供給するために1つの容積式ポンプを使用し、プロピレンを反応器に供給するために別の容積式ポンプを使用した。ベンゼン/イソプロパノール混合物およびプロピレンの流量を、ポンプ設定によって設定し、電子式重量計によってモニターした。反応器運転条件を自動制御システムによって制御およびモニターした。反応器排出物の一部を遠心ポンプによって反応器入口に循環させて戻して、触媒層の全域での温度上昇を制御した。一方は、0.25mmの内径、0.5μmの膜厚および60メートルの長さを有するChrompack CP−Wax 52CBカラムを備えたものであり、他方は、0.20mmの内径、0.5μmの膜厚および50メートルの長さを有するAgilent HP−PONAカラムを備えたものである、2つのHewlett Packard 5890 Series II Gas Chromatographによって、供給原料および反応器排出物を分析した。
【0041】
60グラムのMCM−22を固定層反応器に投入した。ベンゼン/イソプロパノール混合物をその反応器に導入する前、その反応器への供給材料は、純粋なベンゼンおよびプロピレンから成り、触媒性能は安定していた。プロピレン供給重量空間速度(WHSV)は、0.5hr
−1であり、供給ベンゼン対プロピレン比は、1.2:1モルであり、反応器入口温度は、128℃であった。触媒層の全域での温度上昇を20℃未満に制御するように反応器循環を調整した。
図1に示すように、純粋なベンゼン供給材料を、1重量%イソプロパノールおよび99重量%ベンゼンから成る混合物で置換し、反応器入口温度を147℃に調整した後、クメン/(イソプロパノール+プロピレン)選択性は、わずかに下降し、前より低いレベルで安定した。これは、ポリイソプロピルベンゼンの生産のわずかな増加に起因する。
図1に示すように、その芳香族化合物/(イソプロパノール+プロピレン)選択性は、この試験全体を通して本質的に変わらないままであった。米国特許第6,512,153号の実施例に示されているような漸進的劣化も急速劣化も観察されなかった。プロピレン転化率は100%であり、イソプロパノール転化率は99%であった。反応器内の水分レベルは、ベンゼン供給材料に関しては約20ppm、ベンゼン/イソプロパノール混合物に関しては約2,100ppmであった。対応するイソプロパノールWHSVは0.01であり、反応容器供給材料におけるイソプロパノール対プロピレンモル比は、2:98であった。
【実施例2】
【0042】
上で説明した固定層反応器に30グラムのMCM−49を投入した。その反応器排出物をほぼ周囲温度に冷却し、その後、デカンタで遊離水を除去した。デカンタで遊離水を除去した後、実施例1において説明した遠心ポンプによって反応器排出物の一部を反応器入口に循環させて戻して、反応器内の水分含有率を制御した。
【0043】
6:1のベンゼン対イソプロパノールモル比と等価の、88.6重量%ベンゼンおよび11.4重量%イソプロパノールから成る供給材料を、0.5hr
−1のイソプロパノールWHSVが得られるように1時間に134グラムで反応器に供給した。10,300ppmの反応器内水分含有率が得られるように反応器循環を調整した。入口温度は210℃であり、反応器圧を470psig(3342kPa)で維持し、完全液相状態で反応を行った。イソプロパノール転化率は、この実験全体を通して100%であった。本実施例において観察されたクメン/イソプロパノール選択性は、実施例1において観察されたクメン/(イソプロパノール+プロピレン)選択性よりはるかに高かった。これは、本実施例における前の実施例より高いベンゼン対(イソプロパノール+プロピレン)比での低減されたポリイソプロピルベンゼン生産に起因する。
図2に示すように、触媒性能はこの実験全体を通して安定であり、米国特許第6,512,153号の実施例に示されているような漸進的老化も急速老化も観察されなかった。
【実施例3】
【0044】
実施例2において説明したのと同じ反応器設定および触媒投入量を本実施例では用いた。3:1のベンゼン対イソプロパノールモル比と等価の、79.6重量%ベンゼンおよび20.4重量%イソプロパノールから成る供給材料を、1時間に75グラムで反応器に供給して、0.5hr
−1のイソプロパノールWHSVを得た。反応器循環を調整して、10,400ppmの反応器内水分含有率を得た。入口温度は210℃であり、反応器圧を470psig(3342kPa)で維持し、完全液相状態で反応を行った。イソプロパノール転化率は、この実験全体を通して100%であった。本実施例において観察されたクメン/イソプロパノール選択性は、実施例2において観察されたものより低かった。これは、本実施例におけるほうが低いベンゼン対イソプロパノール比での増加されたポリイソプロピルベンゼン生産に起因する。
図3に示すように、触媒性能は初期調整を行った後、安定であり、米国特許第6,512,153号の実施例に示されているような漸進的劣化も急速劣化も観察されなかった。
【実施例4】
【0045】
実施例2において説明したのと同じ反応器設定および触媒投入量を本実施例では用いた。2:1のベンゼン対イソプロパノールモル比と等価の、72.2重量%ベンゼンおよび27.8重量%イソプロパノールから成る供給材料を、1時間に55グラムで反応器に供給して、0.5hr
−1のイソプロパノールWHSVを得た。反応器循環を調整して、10,400ppmの反応器内水分含有率を得た。入口温度は230℃であり、反応器圧を470psig(3342kPa)で維持し、完全液相状態で反応を行った。イソプロパノール転化率は、この実験全体を通して100%であった。本実施例において観察されたクメン/イソプロパノール選択性は、実施例3において観察されたものより低かった。これは、本実施例におけるほうが低いベンゼン対イソプロパノール比での増加されたポリイソプロピルベンゼン生産に起因する。
図4に示すように、触媒性能はこの実験全体を通して安定であり、米国特許第6,512,153号の実施例に示されているような漸進的劣化も急速劣化も観察されなかった。
【実施例5】
【0046】
実施例2において説明したのと同じ反応器設定および触媒投入量を本実施例では用いた。2:1のベンゼン対イソプロパノールモル比と等価の、72.2重量%ベンゼンおよび27.8重量%イソプロパノールから成る供給材料を、1時間に55グラムで反応器に供給して、0.5hr
−1のイソプロパノールWHSVを得た。反応器循環を調整して、14,950ppmの反応器内水分含有率を得た。入口温度は230℃であり、反応器圧を470psig(3342kPa)で維持し、完全液相状態で反応を行った。イソプロパノール転化率は、この実験全体を通して100%であった。本実施例において観察されたクメン/イソプロパノール選択性は、実施例4において観察されたものよりわずかに高かった。これは、本実施例におけるほうが高い水分含有率でのわずかに低いポリイソプロピルベンゼン生産に起因する。
図5に示すように、触媒性能はこの実験全体を通して安定であり、米国特許第6,512,153号の実施例に示されているような漸進的劣化も急速劣化も観察されなかった。
【実施例6】
【0047】
実施例2において説明したのと同じ反応器設定および触媒投入量を本実施例では用いた。2:1のベンゼン対イソプロパノールモル比と等価の、72.2重量%ベンゼンおよび27.8重量%イソプロパノールから成る供給材料を、1時間に56グラムで反応器に供給して、0.5hr
−1のイソプロパノールWHSVを得た。反応器循環を調整して、20,000ppmの反応器内水分含有率を得た。入口温度は230℃であり、反応器圧を540psig(3824kPa)で維持し、完全液相状態で反応を行った。イソプロパノール転化率は、この実験全体を通して100%であった。本実施例において観察されたクメン/イソプロパノール選択性は、実施例5において観察されたものと同様であった。
図6に示すように、触媒性能はこの実験全体を通して安定であり、米国特許第6,512,153号の実施例に示されているような漸進的劣化も急速劣化も観察されなかった。
【実施例7】
【0048】
実施例2において説明したのと同じ反応器設定および触媒投入量を本実施例では用いた。2:1のベンゼン対イソプロパノールモル比と等価の、72.2重量%ベンゼンおよび27.8重量%イソプロパノールから成る供給材料を、1時間に56グラムで反応器に供給して、0.5hr
−1のイソプロパノールWHSVを得た。反応器循環を調整して、23,700ppmの反応器内水分含有率を得た。入口温度は230℃であり、反応器圧を470psig(3342kPa)で維持し、完全液相状態で反応を行った。液相中の水分含有率を18,600ppmであると算出した。イソプロパノール転化率は、この実験全体を通して100%であった。本実施例において観察されたクメン/イソプロパノール選択性は、実施例6において観察されたものよりわずかに高かった。
図7に示すように、触媒性能はこの実験全体を通して安定であり、米国特許第6,512,153号の実施例に示されているような漸進的劣化も急速劣化も観察されなかった。
【実施例8】
【0049】
実施例2において説明したのと同じ反応器設定および触媒投入量を本実施例では用いた。2:1のベンゼン対イソプロパノールモル比と等価の、72.2重量%ベンゼンおよび27.8重量%イソプロパノールから成る供給材料を、1時間に54グラムで反応器に供給して、0.5hr
−1のイソプロパノールWHSVを得た。加えて、1時間に6グラムで反応器にプロピレンを供給して、0.2hr
−1のプロピレンWHSVを得た。全ベンゼン対(イソプロパノール+プロピレン)モル比は、1.3:1であり、反応器供給材料におけるイソプロパノール対プロピレンモル比は、64:36であった。反応器循環を調整して、8,600ppmの反応器内水分含有率を得た。入口温度は230℃であり、反応器圧を470psig(3342kPa)で維持し、完全液相状態で反応を行った。プロピレン転化率およびイソプロパノール転化率は、この実験全体を通して両方とも100%であった。
図8に示すように、クメン/(イソプロパノール+プロピレン)選択性の最初の変化後、触媒性能は、安定していた。これは、この実験の開始時のベンゼン対(イソプロパノール+プロピレン)比の低減に起因する。米国特許第6,512,153号の実施例に示されているような漸進的劣化も急速劣化も観察されなかった。
【実施例9】
【0050】
実施例2において説明したのと同じ反応器設定および触媒投入量を本実施例では用いた。2:1のベンゼン対イソプロパノールモル比と等価の、72.2重量%ベンゼンおよび27.8重量%イソプロパノールから成る供給材料を、1時間に56グラムで反応器に供給して、0.5hr
−1のイソプロパノールWHSVを得た。加えて、1時間に6グラムで反応器にプロピレンを供給して、0.2hr
−1のプロピレンWHSVを得た。全ベンゼン対(イソプロパノール+プロピレン)モル比は、1.3:1であり、反応器供給材料におけるイソプロパノール対プロピレンモル比は、64:36であった。反応器循環を調整して、19,300ppmの反応器内水分含有率を得た。入口温度は230℃であり、反応器圧を470psig(3342kPa)で維持し、気相液相混合状態で反応を行った。液相中の水分含有率を15,800ppmであると算出した。プロピレンおよびイソプロパノール転化率は、この実験全体を通して両方とも100%であった。
図9に示すように、クメン/(イソプロパノール+プロピレン)選択性の最初の変化後、触媒性能は、安定していた。米国特許第6,512,153号の実施例に示されているような漸進的劣化も急速劣化も観察されなかった。
【実施例10】
【0051】
実施例2において説明したのと同じ反応器設定および触媒投入量を本実施例では用いた。5.2:1のベンゼン対イソプロパノールモル比と等価の、87.1重量%ベンゼンおよび12.9重量%イソプロパノールから成る供給材料を、1時間に95グラムで反応器に供給して、0.4hr
−1のイソプロパノールWHSVを得た。加えて、1時間に9グラムで反応器にプロピレンを供給して、0.3hr
−1のプロピレンWHSVを得た。全ベンゼン対(イソプロパノール+プロピレン)モル比は、2.5:1であり、反応器供給材料におけるイソプロパノール対プロピレンモル比は、49:51であった。反応器循環を調整して、8,500ppmの反応器内水分含有率を得た。入口温度は230℃であり、反応器圧を470psigで維持し、完全液相状態で反応を行った。プロピレンおよびイソプロパノール転化率は、この実験全体を通して両方とも100%であった。
図10に示すように、クメン/(イソプロパノール+プロピレン)選択性の最初の変化後、触媒性能は、安定していた。これは、この実験の開始時のベンゼン対(イソプロパノール+プロピレン)比の増加に起因する。米国特許第6,512,153号の実施例に示されているような漸進的劣化も急速劣化も観察されなかった。
【実施例11】
【0052】
実施例2において説明したのと同じ反応器設定および触媒投入量を本実施例では用いた。2:1のベンゼン対イソプロパノールモル比と等価の、72.2重量%ベンゼンおよび27.8重量%イソプロパノールから成る供給材料を、1時間に56グラムで反応器に供給して、0.5hr
−1のイソプロパノールWHSVを得た。反応器循環を調整して、5,300ppmの反応器内水分含有率を得た。入口温度は230℃であり、反応器圧を470psig(3342kPa)で維持し、完全液相状態で反応を行った。イソプロパノール転化率は、この実験全体を通して100%であった。
図11に示すように、この実験全体を通して触媒性能は安定していた。
【実施例12】
【0053】
実施例2において説明したのと同じ反応器設定を本実施例では用いた。30グラムのMCM−22触媒を固定層反応器に投入した。2.9:1のベンゼン対イソプロパノールモル比と等価の、79.2重量%ベンゼンおよび20.8重量%イソプロパノールから成る供給材料を、1時間に74グラムで反応器に供給して、0.5hr
−1のイソプロパノールWHSVを得た。反応器循環を調整して、9,800ppmの反応器内水分含有率を得た。入口温度は230℃であり、反応器圧を470psig(3342kPa)で維持し、完全液相状態で反応を行った。プロピレンおよびイソプロパノール転化率は、この実験全体を通して両方とも100%であった。
図12に示すように、小さな初期変化後、触媒性能は安定であり、米国特許第6,512,153号の実施例に示されているような劣化は観察されなかった。
【実施例13】
【0054】
実施例12において説明したのと同じ反応器設定および触媒投入量を本実施例では用いた。2.9:1のベンゼン対イソプロパノールモル比と等価の、79.2重量%ベンゼンおよび20.8重量%イソプロパノールから成る供給材料を、1時間に73グラムで反応器に供給して、0.5hr
−1のイソプロパノールWHSVを得た。反応器循環を調整して、15,800ppmの反応器内水分含有率を得た。入口温度は250℃であり、反応器圧を550psig(3893kPa)で維持し、気相液相混合状態で反応を行った。液相中の水分含有率を13,400ppmであると算出した。イソプロパノール転化率は、この実験全体を通して100%であった。本実施例において観察されたクメン/イソプロパノール選択性は、実施例12において観察されたものと本質的に同じであった。
図13に示すように、触媒性能は、この実験全体を通して安定であり、米国特許第6,512,153号の実施例に示されているような劣化は観察されなかった。
【実施例14】
【0055】
実施例13において説明したのと同じ反応器設定および触媒投入量を本実施例では用いた。2.0:1のベンゼン対イソプロパノールモル比と等価の、72.2重量%ベンゼンおよび27.8重量%イソプロパノールから成る供給材料を、1時間に57グラムで反応器に供給して、0.5hr
−1のイソプロパノールWHSVを得た。反応器循環を調整して、15,600ppmの反応器内水分含有率を得た。入口温度は250℃であり、反応器圧を550psig(3893kPa)で維持し、気相液相混合状態で反応を行った。液相中の水分含有率を14,900ppmであると算出した。イソプロパノール転化率は、この実験全体を通して100%であった。
図14に示すように、触媒性能は、この実験全体を通して安定であり、米国特許第6,512,153号の実施例に示されているような劣化は観察されなかった。
【実施例15】
【0056】
実施例14において説明したのと同じ反応器設定および触媒投入量を本実施例では用いた。2.0:1のベンゼン対イソプロパノールモル比と等価の、72.2重量%ベンゼンおよび27.8重量%イソプロパノールから成る供給材料を、1時間に56グラムで反応器に供給して、0.5hr
−1のイソプロパノールWHSVを得た。反応器循環を調整して、5,200ppmの反応器内水分含有率を得た。入口温度は210℃であり、反応器圧を550psig(3893kPa)で維持し、完全液相状態で反応を行った。イソプロパノール転化率は、この実験全体を通して100%であった。
図15に示すように、触媒性能は、この実験全体を通して安定していた。
【実施例16】
【0057】
実施例15において説明したのと同じ反応器設定および触媒投入量を本実施例では用いた。2.0:1のベンゼン対イソプロパノールモル比と等価の、72.2重量%ベンゼンおよび27.8重量%イソプロパノールから成る供給材料を、1時間に58グラムで反応器に供給して、0.5hr
−1のイソプロパノールWHSVを得た。反応器循環を調整して、5,100ppmの反応器内水分含有率を得た。入口温度は230℃であり、反応器圧を550psig(3893kPa)で維持し、完全液相状態で反応を行った。イソプロパノール転化率は、この実験全体を通して100%であった。
図16に示すように、触媒性能は、この実験全体を通して安定していた。
【0058】
特定の実施形態への参照により本発明を説明し、例証したが、本明細書中で必ずしも例証していない変形に本発明を容易に適用できることは、当業者には理解される。この理由から、本発明の真の範囲を決定するには添付の特許請求の範囲のみを参照すべきである。