【文献】
The Journal of Biological Chemistry,2006年,Vol.281, No.29,p.20190-20196
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a) Fc結合を破壊する少なくとも一つのアミノ酸置換および(b) VH3結合を破壊する少なくとも第二のアミノ酸置換および(c) SEQ ID NO:2のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する変種プロテインA (SpA)を含み、変種SpAがSEQ ID NO:2のアミノ酸9、10、36または37に対応するアミノ酸位置に2つ以上のアミノ酸置換を有し、変種プロテインAが毒素非産生性であり、かつブドウ球菌プロテインAおよび/またはこれを発現する細菌に対する免疫反応を刺激する、単離ポリペプチド。
ブドウ球菌抗原セグメントがEmp、EsxA、EsxB、EsaC、Eap、Ebh、EsaB、Coa、vWbp、vWh、Hla、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、IsdC、ClfA、ClfBおよび/またはSasFセグメントである、請求項10記載の単離ポリペプチド。
第二のブドウ球菌抗原がEsaB、Emp、EsxA、EsxB、EsaC、Eap、Ebh、Coa、vWbp、vWh、Hla、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、IsdC、ClfA、ClfBおよび/またはSasFペプチドから選択される、請求項14記載の免疫原性組成物。
Emp、EsxA、EsxB、EsaC、Eap、Ebh、EsaB、Coa、vWbp、vWh、Hla、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、IsdC、ClfA、ClfBおよびSasFからなる群より選択される少なくとも一つの他のブドウ球菌抗原またはその免疫原性断片をさらに含む、請求項12〜18のいずれか一項記載の免疫原性組成物。
黄色ブドウ球菌(S. aureus)由来のV型および/またはVIII型莢膜多糖類またはオリゴ糖をさらに含む、請求項12〜20のいずれか一項記載の免疫原性組成物。
タンパク質担体が、破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイド、CRM197、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)プロテインD、肺炎球菌溶血素およびαトキソイドからなる群より選択される、請求項22記載の免疫原性組成物。
【発明を実施するための形態】
【0104】
詳細な説明
黄色ブドウ球菌は、ヒト皮膚および鼻孔の片利共生生物であり、血流、皮膚および軟組織感染の主因である(Klevens et al., 2007)。ブドウ球菌疾患の死亡率の最近の劇的な増加は、抗生物質に対して感受性を示さないことが多いメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)株の広がりに起因する(Kennedy et al., 2008)。大規模な遡及的研究において、米国ではMRSA感染の発生率が全入院の4.6%であった(Klevens et al., 2007)。米国では94,300人のMRSA感染個体のための年間医療費は24億ドルを超える(Klevens et al., 2007)。現在のMRSA流行病は、予防ワクチンの開発によって取り組む必要がある公衆衛生の危機を引き起こしている(Boucher and Corey, 2008)。これまでに、黄色ブドウ球菌疾患を予防するFDA認可済みワクチンは利用可能ではない。
【0105】
本発明者らは本明細書で、サブユニットワクチンとなりうる変種の作出のために、ブドウ球菌の細胞壁固定表面タンパク質であるプロテインAを用いることについて記述する。ブドウ球菌感染の発病は、外傷、手術創傷または医療装置を介して細菌が皮膚または血流に侵入する際に始まる(Lowy, 1998)。侵入病原菌は食菌され殺処理されうるが、ブドウ球菌は先天性免疫防御を回避し、器官組織において感染の種をまき、マクロファージ、好中球および他の食細胞を誘引する炎症反応を誘導することもできる(Lowy, 1998)。感染部位への免疫細胞の応答性浸潤には、宿主がブドウ球菌のまん延を阻止し壊死組織残屑の除去を可能にしようとするので、液化壊死が付随して起こる(Lam et al., 1963)。そのような病変部は顕微鏡検査により壊死組織、白血球および中央の細菌病巣を含む富細胞性域として観察することができる(Lam et al., 1963)。ブドウ球菌性膿瘍が外科手術で排出され、抗生物質で処置されなければ、播種性感染および敗血症が致命的結末をもたらす(Sheagren, 1984)。
【0106】
III. ブドウ球菌抗原
A. ブドウ球菌プロテインA (SpA)
黄色ブドウ球菌株はどれも、プロテインA、つまり細胞壁固定表面タンパク質産物(SpA)がE、D、A、BおよびCと命名された5つの高度に相同的な免疫グロブリン結合ドメインを包含するよく特徴付けられた病毒性因子に対する構造遺伝子(spa) (Jensen, 1958; Said-Salim et al., 2003)を発現する(Sjodahl, 1977)。これらのドメインはアミノ酸のレベルでおよそ80%の同一性を示し、長さが56〜61残基であり、縦列反復配列として組織化される(Uhlen et al., 1984)。SpAは、N末端YSIRK/GSシグナルペプチドおよびC末端LPXTGモチーフ選別シグナルを有する前駆体タンパク質として合成される(DeDent et al., 2008; Schneewind et al., 1992)。細胞壁固定プロテインAは、ブドウ球菌表面に非常に豊富に提示される(DeDent et al., 2007; Sjoquist et al., 1972)。その免疫グロブリン結合ドメインの各々が、3ヘリックスバンドルへ集合しかつ免疫グロブリンG (IgG)のFcドメインを結合する逆平行α-ヘリックス(Deisenhofer, 1981; Deisenhofer et al., 1978)、IgMのVH3重鎖(Fab) (すなわち、B細胞受容体) (Graille et al., 2000)、そのA1ドメインのフォンウィルブランド因子[vWF AIは血小板に対するリガンドである] (O'Seaghdha et al., 2006)、および気道上皮の表面に提示される(Gomez et al., 2004; Gomez et al., 2007)腫瘍壊死因子α (TNF-α)受容体I (TNFRI) (Gomez et al., 2006)から構成される。
【0107】
SpAは、IgGのFc成分を結合するというその特質を通じて好中球によるブドウ球菌の食作用を妨げる(Jensen, 1958; Uhlen et al., 1984)。さらに、SpAはフォンウィルブランド因子AIドメインとのその結合を介して血管内凝固を活性化することができる(Hartleib et al., 2000)。フィブリノゲンおよびフィブロネクチンのような血漿タンパク質は、ブドウ球菌(ClfAおよびClfB)と血小板インテグリンGPIIb/IIIa (O'Brien et al., 2002)との間の、つまりvWF AIとのプロテインAの結び付きを通じて補完される活性の間の橋渡しの役目をし、これによってブドウ球菌はGPIb-α血小板受容体を介して血小板を捕捉することができる(Foster, 2005; O'Seaghdha et al., 2006)。SpAはまた、TNFRIを結合し、この相互作用がブドウ球菌性肺炎の発病に寄与する(Gomez et al., 2004)。SpAはTNFR1を介したTRAF2、p38/c-Junキナーゼ、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)およびRel転写因子NF-KBの活性化を通じて炎症性シグナル伝達を活性化する。SpAの結合はTNFR1の切断、つまりTNF変換酵素(TACE)を要するように思われる活性をさらに誘導する(Gomez et al., 2007)。上記のSpA活性の全てがその5つのIgG結合ドメインを通じて媒介され、プロテインAとヒトIgG1との間の相互作用に対するその必要によって最初に規定された、同じアミノ酸の置換によって撹乱されうる(Cedergren et al., 1993)。
【0108】
SpAはまた、VH3を持つIgMのFab領域、B細胞受容体を捕捉することによりB細胞超抗原として機能する(Gomez et al., 2007; Goodyear et al., 2003; Goodyear and Silverman, 2004; Roben et al., 1995)。静脈内攻撃の後、ブドウ球菌プロテインA (SpA)変異は、器官組織においてブドウ球菌負荷の低減を示し、(本明細書において記述される)膿瘍形成能を劇的に弱めた。野生型黄色ブドウ球菌による感染の間に、膿瘍は48時間以内に形成され、ヘマトキシリン・エオシン染色し、薄切片にした腎臓組織の光学顕微鏡検査によって検出可能であり、病初では多形核白血球(PMN)の流入が目立つ。感染5日目に、膿瘍はサイズが増大し、好酸球性の無形性物質の層および大きなPMNカフで囲まれた、中心のブドウ球菌集団を含んでいた。病理組織診断によって、膿瘍病変部の中心にあるブドウ球菌巣のすぐ近くでのPMNの大量壊死および一面の正常食細胞が明らかになった。本発明者らはまた、正常腎組織を感染病変部と区別する好酸球性の偽被膜に隣接する、膿瘍病変部周辺の壊死PMNの縁を観察した。プロテインAを欠いたブドウ球菌変種は、膿瘍の組織病理学的特徴を確立することができず、感染の間に除去される。
【0109】
過去の研究で、Cedergrenら(1993)は、SpAのBドメインのFc断片結合サブドメインにおいて5つの個別の置換L17D、N28A、I31AおよびK35Aを設計した。これらの著者らは、これらのタンパク質を作出して、SpAの一つのドメインとFc
1との間の複合体の三次元構造から集められたデータを検証した。Cedergrenらは、安定性および結合に及ぼすこれらの変異の効果を判定したが、しかしワクチン抗原の産生のためにそのような置換を用いることを企図していなかった。
【0110】
Brownら(1998)は、親和性リガンドとして用いられた場合にいっそう好ましい溶出条件の使用を可能にするSpAに基づいた新しいタンパク質を操作するためにデザインされた研究について記述している。研究された変異には、Q13A、Q14H、N15A、N15H、F17H、Y18F、L21H、N32HまたはK39Hの単一変異が含まれた。Brownらは、Q13A、N15A、N15HおよびN32H置換が解離定数値に差異をほとんど生じなかったこと、ならびに、Y18F置換が野生型SpAと比べて結合親和性の2倍の減少をもたらしたことを報告している。Brownらは、L21HおよびF17H置換が結合親和性をそれぞれ5倍および100倍低減することも報告している。著者らは、二つのタンデムドメインにおける類似の置換についても研究している。このように、Brownらの研究は、より好ましい溶出プロファイルを有するSpAの作出、ゆえに結合親和性のpH感受性変化をもたらすためのHis置換の使用を対象としていた。Brownらは、ワクチン抗原としてのSpAの使用については何も語っていない。
【0111】
Grailleら(2000)はSpAのドメインDおよびヒトIgM抗体のFab断片の結晶構造について記述している。Grailleらは結晶構造の解析によって、ドメインDサブドメイン間で界面を形成するアミノ酸残基のほかに、残基Q26、G29、F30、Q32、S33、D36、D37、Q40、N43、E47またはL51として、Fab断片と相互作用するDドメインアミノ酸残基を規定している。Grailleらは、これらの二つのタンパク質の分子相互作用を規定しているが、しかしワクチン抗原の産生での相互作用残基における置換のいかなる使用に関しても何も語っていない。
【0112】
O'Seaghdhaら(2006)は、ドメインDのどのサブドメインがvWFに結合するかの解明に向けた研究について記述している。著者らは、FcまたはVH3結合サブドメインのいずれかにおいて単一の変異、すなわち、アミノ酸残基F5A、Q9A、Q10A、F13A、Y14A、L17A、N28A、I31A、K35A、G29A、F30A、S33A、D36A、D37A、Q40A、E47AまたはQ32Aを作出した。著者らは、vWFが、Fcに結合する同じサブドメインに結合することを発見した。O'Seaghdaらは、vWFの結合に関与するドメインDのサブドメインを規定しているが、しかしワクチン抗原の産生での相互作用残基における置換のいかなる使用に関しても何も語っていない。
【0113】
Gomezら(2006)は、F5A、F13A、Y14A、L17A、N21A、I31A、Q32AおよびK35Aの単一変異を用いることによりTNFR1の活性化に関与する残基を特定することについて記述している。Gomezらは、ワクチン抗原の産生での相互作用残基における置換のいかなる使用に関しても何も語っていない。
【0114】
組み換え親和性タグ付きのプロテインA、つまり5つのIgGドメイン(EDCAB) (Sjodahl, 1977)を含むがC末端の領域X (Guss et al., 1984)を欠くポリペプチドを組み換え大腸菌から精製し、ワクチン抗原として用いた(Stranger-Jones et al., 2006)。IgGのFc部分に結合する際のSpAの特質のため、プロテインAに対する特異的な体液性免疫反応を測定することができなかった(Stranger-Jones et al., 2006)。本発明者らは、SpA-DQ9,10K;D36,37Aの作出を通じてこの障害を克服した。組み換えプロテインA (SpA)で免疫されたBALB/cマウスは、黄色ブドウ球菌株での静脈内攻撃に対して顕著な防御を示した; 野生型と比べてブドウ球菌負荷の2.951 logの低下(P > 0.005; スチューデントt検定) (Stranger-Jones et al., 2006)。SpA特異的抗体は膿瘍形成の前に食細胞除去を引き起こし、および/またはブドウ球菌群集を免疫細胞と区別する膿瘍における前述の好酸球性障壁の形成に、これらがプロテインA変異体菌株の感染中には生じないことから、影響を与えうる。5つのSpAドメイン(すなわち、3つのヘリックスバンドルから形成され、E、D、A、BおよびCと命名されたドメイン)の各々が類似の結合特性を及ぼす(Jansson et al., 1998)。プロテインAに異なる部位で非競合的に結合するFcおよびVH3 (Fab)リガンドの有る状態でも無い状態でも、ドメインDの溶液・結晶構造が解析されている(Graille et al., 2000)。IgG結合に関与することが知られている残基(FS、Q9、Q10、S11、F13、Y14、L17、N28、I31およびK35)における変異も、vWF AIおよびTNFR1の結合に必要とされる(Cedergren et al,, 1993; Gomez et al., 2006; O'Seaghdha et al., 2006)が、VH3相互作用に重要な残基(Q26、G29、F30、S33、D36、D37、Q40、N43、E47)は他の結合活性に影響を与えないように思われる(Graille et al., 2000; Jansson et al., 1998)。SpAは、表面にVH3ファミリー関連のIgM、すなわち、VH3型B細胞受容体を発現するB細胞のサブセットを特異的に標的とする(Roben et al., 1995)。SpAとの相互作用によって、これらのB細胞は増殖し、アポトーシスに傾倒し、先天性様Bリンパ球(すなわち、辺縁帯B細胞および濾胞性B2細胞)の選択的かつ持続的欠失を引き起こす(Goodyear et al., 2003; Goodyear et al., 2004)。
【0115】
プロテインA表面提示および機能の分子基盤
プロテインAは、細菌細胞質中で前駆体として合成され、そのYSIRKシグナルペプチドを介して隔壁、すなわち、ブドウ球菌の細胞分裂隔壁の位置で分泌される(
図1) (DeDent et al., 2007; DeDent et al., 2008)。C末端LPXTG選別シグナルの切断の後、プロテインAはソルターゼAによって細菌ペプチドグリカン架橋に固定される(Mazmanian et al., 1999; Schneewind et al., 1995; Mazmanian et al., 2000)。プロテインAは最も豊富なブドウ球菌表面タンパク質である。この分子はほぼ全ての黄色ブドウ球菌株によって発現される(Cespedes et al., 2005; Kennedy et al., 2008; Said-Salim et al., 2003)。ブドウ球菌は分裂周期1回につきその細胞壁の15〜20%を代謝する(Navarre and Schneewind 1999)。ネズミヒドロラーゼはペプチドグリカンのグリカン鎖および壁ペプチドを切断し、それにより、付着されたC末端細胞壁二糖類テトラペプチドを有するプロテインAを細胞外培地へ放出する(Ton-That et al., 1999)。このように、生理学的デザインによって、プロテインAは細胞壁に固定もされ、細菌表面に提示もされるが、宿主感染の間に周辺組織中に放出もされる(Marraffini et al., 2006)。
【0116】
プロテインAは免疫グロブリンを細菌表面に捕捉し、この生化学的活性によって宿主先天性および後天性免疫反応からのブドウ球菌による回避が可能とされる(Jensen, 1958; Goodyear et al., 2004)。興味深いことに、プロテインAの領域X (Guss et al., 1984)、つまりLPXTG選別シグナル/細胞壁アンカーにIgG結合ドメインをつなぎ止める繰り返しドメインは、おそらく、ブドウ球菌ゲノムのなかで最も可変的な部分である(Said-Salim, 2003; Schneewind et al., 1992)。3つのヘリックスバンドルから形成され、E、D、A、BおよびCと命名された、プロテインA (SpA)の5つの免疫グロブリン結合ドメインの各々が類似の構造的および機能的特性を及ぼす(Sjodahl 1977; Jansson et al., 1998)。プロテインAに異なる部位で非競合的に結合するFcおよびV
H3 (Fab)リガンドの有る状態でも無い状態でも、ドメインDの溶液・結晶構造が解析されている(Graille 2000)。
【0117】
結晶構造複合体において、Fabは、4本のVH領域β鎖から構成される表面を介してドメインDのヘリックスIIおよびヘリックスIIIと相互作用する(Graille 2000)。ドメインDのヘリックスIIの主軸は鎖の方向に対しておよそ50°であり、ドメインDのヘリックス間部分はC0鎖の最も近位にある。Fab上の相互作用の部位は、Ig軽鎖および重鎖定常領域から離れている。この相互作用には以下のドメインD残基が含まれる: ヘリックスIIのAsp-36、ヘリックスIIとヘリックスIIIとの間のループ中のAsp-37およびGln-40およびいくつかの他の残基(Graille 2000)。どちらの相互作用表面も、極性側鎖から主に構成されており、相互作用によってドメインD上の3つの陰性荷電残基および2A2 Fab上の2つの陽性荷電残基が沈み込み、二分子間の全体的な静電気引力をもたらす。FabとドメインDとの間で特定された5つの極性相互作用のうち、3つが側鎖間である。塩橋がArg-H19とAsp-36との間で形成され、二つの水素結合がTyr-H59とAsp-37との間でおよびAsn-H82aとSer-33との間で作出される。プロテインAの全5つのIgG結合ドメインにおけるAsp-36およびAsp-37の保存を理由に、本発明者らはこれらの残基を変異させた。
【0118】
Fab結合に関わるSpA-D部位は、Fcγ結合を媒介するドメイン表面から構造的に離れている。FcγとドメインDとの相互作用には主に、ヘリックスI中の残基が関与し、ヘリックスIIの関与はもっと低い(Gouda et al., 1992; Deisenhofer, 1981)。両方の複合体における接触面積の狭い界面のGln-32を除いて、Fcγ相互作用を媒介する残基のどれもFab結合には関与しない。これらの異なるIg結合部位の間の空間関係を調べるため、これらの複合体におけるSpAドメインを重ね合わせてFab、SpA-ドメインDおよびFcγ分子の間の複合体のモデルを構築した。この三成分モデルにおいて、FabおよびFcγはいずれの相互作用の立体障害の証拠なしにヘリックスIIの反対面周囲にサンドイッチを形成する。これらの所見は、SpAドメインが、その小さなサイズ(すなわち、56〜61 aa)にもかかわらず、いかにして両方の活性を同時に示しうるかを例証し、Fabと個々のドメインとの相互作用が非競合的であるという実験的証拠を説明している。SpA-DとFcγとの間の相互作用のための残基はGln-9およびGln-10である。
【0119】
対照的に、ドメインD上でのIgGのFc部分の占有によって、vWF A1およびおそらく同様にTNFR1とのその相互作用が遮断される(O'Seaghdha et al., 2006)。IgG Fc結合に不可欠な残基(F5、Q9、Q10、S11、F13、Y14、L17、N28、I31およびK35)における変異はまた、vWF A1およびTNFR1の結合に必要である(O'Seaghdha et al., 2006; Cedergren et al., 1993; Gomez et al., 2006)のに対し、VH3相互作用に極めて重要な残基(Q26、G29、F30、S33、D36、D37、Q40、N43、E47)はIgG Fc、vWF A1またはTNFR1の結合活性に影響を与えない(Jansson et al., 1998; Graille et al., 2000)。プロテインA免疫グロブリンFab結合活性は、表面にV
H3ファミリー関連のIgMを発現するB細胞のサブセットを標的とし、すなわちこれらの分子はVH3型B細胞受容体として機能する(Roben et al., 1995)。SpAとの相互作用によって、これらのB細胞は素早く増殖し、次いでアポトーシスに傾倒し、先天性様Bリンパ球(すなわち、辺縁帯B細胞および濾胞性B2細胞)の選択的かつ持続的欠失を引き起こす(Goodyear and Silverman 2003; Goodyear and Silverman 2004)。40%超の循環血中B細胞がプロテインA相互作用により標的化され、V
H3ファミリーが、病原菌に対する防御体液性反応を与える最も大きなファミリーのヒトB細胞受容体に相当する(Goodyear and Silverman, 2004; Goodyear and Silverman, 2003)。かくして、プロテインAはブドウ球菌超抗原に対しても同じように機能する(Roben et al., 1995)が、これは後者のクラスの分子、例えばSEB、TSST-1、TSST-2がT細胞受容体と複合体を形成して宿主免疫反応を不適切に刺激し、それによってブドウ球菌感染に特有の疾患特徴を誘発するにもかかわらずである(Roben et al., 1995; Tiedemann et al., 1995)。総合して、これらの所見はブドウ球菌感染の樹立でのおよび宿主免疫反応の調節でのプロテインAの寄与を立証するものである。
【0120】
要するに、プロテインAドメインは宿主分子との結合のために二つの異なる界面を提示すると見なすことができ、プロテインAに基づくワクチンのいかなる開発であれ、宿主細胞シグナル伝達、血小板凝集、免疫グロブリンの分画またはB細胞増殖およびアポトーシスの誘導を撹乱しないワクチンの作出を考慮しなければならない。そのようなプロテインA変種はまた、前述のSpA活性を遮断しかつその二重の結合界面の5つの繰り返しドメインを占有する抗体を作製する能力についてワクチンを分析するうえで有用なはずである。この目標について本明細書で初めて明示かつ追跡し、ヒトのために安全なワクチンとして使用できるプロテインA変種の作出のための方法について詳細に記述する。IgG Fcγ、vWF AIおよびTNFR1の結合を撹乱するために、グルタミン(Q) 9および10 [Uhlen et al., 1984に記述されているSpAドメインDに由来する付番]を変異させ、両方のグルタミンに代えてリジンの置換を作出したが、これらによって第一の結合界面でのリガンドの特質がなくされるという思惑からであった。IgM Fab VH3結合を撹乱するために、B細胞受容体との結合に各々が必要なアスパラギン酸(D) 36および37を変異させた。D36およびD37をアラニンでともに置換した。Q9,10KおよびD36,37A変異をここで、組み換え分子SpA-DQ9,10K;D36,37A中で組み合わせ、プロテインAの結合特質について試験した。さらにSpA-DおよびSpA-DQ9,10K;D36,37Aをマウスおよびウサギにおける免疫研究に供し、[1] 特異的抗体(SpA-D Ab)の産生; [2] プロテインAおよびその4つの異なるリガンドの間の結合を遮断するSpA-D Abの能力; ならびに、[3] ブドウ球菌感染に対する防御免疫を生み出すSpA-D Abの特質について分析した(以下の実施例の項を参照のこと)。
【0121】
B. ブドウ球菌コアグラーゼ
コアグラーゼはブドウ球菌によって産生される酵素であり、フィブリノゲンをフィブリンに変換する。CoaおよびvW
hは、タンパク質分解なしでプロトロンビンを活性化する(Friedrich et al., 2003)。コアグラーゼ・プロトロンビン複合体はフィブリノゲンを特異的基質として認識し、フィブリノゲンを直接的にフィブリンへ変換する。活性複合体の結晶構造によって、D1およびD2ドメインのプロトロンビンとの結合ならびにそのIle1-Val
2 N末端のIle
16ポケットへの挿入、その結果、立体構造変化を通じた酵素前駆体における機能的な活性部位の誘導が明らかとなった(Friedrich et al., 2003)。α-トロンビンのエキソサイトI、フィブリノゲン認識部位、およびプロトロンビン上のプロエキソサイトIはCoaのD2によって遮断される(Friedrich et al., 2003)。それにもかかわらず、四量体(Coa・プロトロンビン)
2複合体の会合により、高い親和性で新しい部位にてフィブリノゲンを結合する(Panizzi et al., 2006)。このモデルから、コアグラーゼによる凝固性および効率的なフィブリノゲン変換が説明される(Panizzi et al., 2006)。
【0122】
フィブリノゲンは、「三量体の二量体」を形成するように共有結合的に連結されたAα-鎖、Bβ-鎖およびγ-鎖の3つの対によって形成される大きな糖タンパク質(Mrおよそ340,000)であり、ここでAおよびBは、トロンビン切断によって放出されるフィブリノペプチドを指し示す(Panizzi et al., 2006)。この伸長分子は3つの別個のドメイン、つまり全6本の鎖のN末端を含む中央の断片EならびにBβ-鎖およびγ-鎖のC末端によって主に形成される2つの隣接断片Dに折り重なる。これらの球状ドメインは長い三重らせん構造によってつながれる。ヒトフィブリノゲンを自己重合性のフィブリンに変換するコアグラーゼ・プロトロンビン複合体は、循環血中トロンビン阻害剤によって標的化されない(Panizzi et al., 2006)。かくして、ブドウ球菌コアグラーゼは生理学的な血液凝固経路を迂回する。
【0123】
全ての黄色ブドウ球菌株はコアグラーゼおよびvWbpを分泌する(Bjerketorp et al., 2004; Field and Smith, 1945)。以前の取り組みによって、ブドウ球菌感染の発病に対してのコアグラーゼの重要な寄与が報告された(Ekstedt and Yotis, 1960; Smith et al., 1947)が、分子遺伝学のツールを用いたもっと最近の研究ではマウスの心内膜炎、皮膚膿瘍および乳腺炎モデルで病毒性の表現型がないことを認めることにより、この考えに異議が唱えられている(Moreillon et al., 1995; Phonimdaeng et al., 1990)。十分に病毒性の臨床分離株である黄色ブドウ球菌Newmanの同質遺伝子変種の作出(Duthie et al., 1952)により、coa変異体が実際に、マウスの致死的菌血症および腎膿瘍モデルにおいて病毒性の欠損を呈することが本明細書において記述される。本発明者らの経験では、黄色ブドウ球菌8325-4は十分に病毒性ではなく、この菌株における変異病変がインビボで病毒性の欠損を明らかにできないかもしれないと推測される。さらに、CoaまたはvWbpに対して作製された抗体は、遺伝子欠失の影響を反映する程度にまで黄色ブドウ球菌Newman感染の発病を撹乱する。CoaおよびvWbpはブドウ球菌膿瘍形成および致死的菌血症に寄与し、サブユニットワクチンにおける防御抗原として機能することもできる。
【0124】
生化学的研究によってCoaおよびvWbpに対する抗体の生物学的価値が立証される。抗原との結合および凝固因子とのその会合の遮断によって、抗体はCoa・プロトロンビンおよびvWbp・プロトロンビン複合体の形成を阻止する。受動移入研究から、CoaおよびvWbp抗体によるブドウ球菌膿瘍形成および致死的攻撃からの実験動物の防御が明らかになった。かくして、CoaおよびvWbp中和抗体はブドウ球菌疾患に対する免疫防御を生み出す。
【0125】
以前の研究によって、血中での食作用に耐えるのにコアグラーゼが要求されることが明らかとなり(Smith et al., 1947)、本発明者らは、レピルジン処理マウス血液にてΔcoa変異体に対して類似の表現型を認めた(以下の実施例3を参照のこと)。vWbpはヒトプロトロンビンに対しマウス対応物よりも高い親和性を示すので、同じことがヒト血液中でのΔvWbp変種にも当てはまりうるのではないかと疑われる。さらに、膿瘍病変部におけるCoaおよびvWbpの発現、ならびにブドウ球菌膿瘍群集(SAC)周囲の好酸球性の偽被膜または末梢フィブリン壁におけるその顕著な分布から、分泌されたコアグラーゼがこれらの病変部の樹立に寄与することが示唆される。この仮説について試験したところ、実際に、Δcoa変異体は膿瘍の樹立において不完全であった。特異的抗体でCoa機能を遮断する、対応した試験によって同じ効果が生み出された。その結果として、予防ワクチンの開発のために標的化されうるブドウ球菌膿瘍の樹立においてはフィブリンの凝固が極めて重要な事象であるものと提案される。CoaもvWbpもともに、ヒトプロトロンビンに対するその重複機能から、ワクチン開発のための優れた候補であるものと考えられる。
【0126】
C. 他のブドウ球菌抗原
過去数十年の間にわたる研究から、重要な病毒性因子として黄色ブドウ球菌外毒素、表面タンパク質および調節分子が特定された(Foster, 2005; Mazmanian et al., 2001; Novick, 2003)。これらの遺伝子の調節に関して相当な進歩が達成された。例えば、ブドウ球菌は、同族受容体に閾値濃度で結合し、それによってリン酸リレイ反応の活性化および外毒素遺伝子の多くの転写活性化を行う自己誘導性ペプチドの分泌を介して細菌個体数の調査を行う(Novick, 2003)。ブドウ球菌感染の発病はこれらの病毒性因子(分泌された外毒素、エキソ多糖類および表面付着因子)に依る。ブドウ球菌ワクチンの開発は、ブドウ球菌浸潤機構の多面性によって妨げられる。弱毒化生微生物は極めて効果的なワクチンであることが十分に確立されている。このようなワクチンによって誘発される免疫反応は多くの場合、複製しない免疫原によってもたらされる免疫反応よりも大きなものであり、長い作用時間のものである。これに対する一つの説明は、弱毒化生菌株が宿主において限定的な感染を樹立し、自然感染の初期段階を模倣するということでありうる。本発明の態様では、変種SpAポリペプチドおよびペプチド、ならびに感染に対しての軽減または免疫で用いるグラム陽性細菌の他の免疫原性細胞外タンパク質、ポリペプチドおよびペプチド(分泌タンパク質またはペプチドも細胞表面タンパク質またはペプチドもともに含む)を含む、組成物および方法に関する。特定の態様において、細菌はブドウ球菌細菌である。細胞外タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドには、標的細菌の分泌タンパク質および細胞表面タンパク質が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0127】
ヒト病原菌である黄色ブドウ球菌は細菌外被を越えて、EsxAおよびEsxB、二つのESAT-6様タンパク質を分泌する(参照により本明細書に組み入れられるBurts et al., 2005)。ブドウ球菌esxAおよびesxBは転写の順に6種の他の遺伝子: esxA esaA essA esaB essB essC esaC esxBとクラスタ形成される。頭文字esa、essおよびesxは、コードされるタンパク質が分泌に関して補助的(esa)もしくは直接的(ess)な役割を果たすか、または細胞外環境中に分泌される(esx)かどうかに依って、それぞれ、ESAT-6分泌の補助、系および細胞外を表す。8種の遺伝子のクラスタ全体は本明細書においてEssクラスタといわれる。esxA、esxB、essA、essBおよびessCは全て、EsxAおよびEsxBの合成または分泌に必要とされる。EsxA、EsxBおよびEssCを産生できない変異体は、黄色ブドウ球菌によるネズミ膿瘍の発病の欠損を示し、この特化された分泌系がヒト細菌性病因の全般的戦略となりうることを示唆している。ESX-1経路による非WXG100基質の分泌が、EspA、EspB、Rv3483cおよびRv3615cを含むいくつかの抗原について報告されている(Fortune et al., 2005; MacGurn et al., 2005; McLaughlin et al., 2007; Xu et al., 2007)。代替的なESX-5経路も病原性ミコバクテリアにおいてWXG100タンパク質と非WXG100タンパク質の両方を分泌することが示されている(Abdallah et al., 2007; Abdallah et al., 2006)。
【0128】
黄色ブドウ球菌Ess経路は、特殊化した運搬成分(Ess)、補助因子(Esa)および同族分泌基質(Esx)を備えた分泌モジュールと見なすことができる。EssA、EssBおよびEssCはEsxAおよびEsxBの分泌に必要とされる。EssA、EssBおよびEssCは膜貫通タンパク質であると予測されるので、これらのタンパク質は分泌装置を形成するものと考えられる。ess遺伝子クラスタにおけるタンパク質のなかには分泌基質を(モーターとして働き)能動的に運搬するものもあるが、運搬を調節するもの(調節因子)もある。調節は分泌ポリペプチドに対する転写機構もしくは翻訳後機構、特異的基質の規定部位(例えば、細胞外培地もしくは宿主細胞)への選別、または感染中の分泌事象のタイミングによって達成されうるが、これらに限定される必要はない。現時点では、分泌Esxタンパク質の全てが毒素として機能するか、または発病に間接的に寄与するかどうかは不明である。
【0129】
ブドウ球菌は免疫防御からの回避に向けた戦略として表面タンパク質を介した宿主細胞への接着または組織浸潤に依っている。さらに、黄色ブドウ球菌は感染中に表面タンパク質を利用して、宿主から鉄を隔離する。ブドウ球菌発病に関わる表面タンパク質の大部分はC末端局在化シグナルを保有しており、すなわち、それらはソルターゼによって細胞壁外膜に共有結合的に連結される。さらに、表面タンパク質の固定に必要な遺伝子、すなわち、ソルターゼAおよびBを欠くブドウ球菌株は、いくつかの異なる疾患マウスモデルにおいて病毒性の劇的な欠損を示す。このように、表面タンパク質抗原は、その対応遺伝子がブドウ球菌疾患の発現に不可欠であり、本発明のさまざまな態様において利用可能であるため、有効なワクチン標的になる。ソルターゼ酵素スーパーファミリーは、表面タンパク質病毒性因子をペプチドグリカン細胞壁層に固定するのに関わるグラム陽性トランスペプチダーゼである。黄色ブドウ球菌において2つのソルターゼアイソフォームSrtAおよびSrtBが同定されている。これらの酵素は基質タンパク質中のLPXTGモチーフを認識することが示されている。SrtBアイソフォームはヘム鉄獲得および鉄恒常性において重要であるように思えるが、SrtAアイソフォームは細胞壁ペプチドグリカンへの付着因子および他のタンパク質の共有結合的固定を介して細菌が宿主組織に付着する能力を修飾することによりグラム陽性細菌の発病において重要な役割を果たす。ある種の態様において、本明細書において記述されるSpA変種をCoa、Eap、Ebh、Emp、EsaC、EsaB、EsxA、EsxB、Hla、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、ClfA、ClfB、IsdC、SasF、vWbpおよび/またはvWhタンパク質のような他のブドウ球菌タンパク質と組み合わせて用いることができる。
【0130】
本発明のある種の局面では、SpA変種および他のブドウ球菌抗原、例えばEss経路によって運搬される他のタンパク質、またはソルターゼ基質をコードするポリペプチド、ペプチド、または核酸を含んだタンパク質性組成物に関する方法および組成物を含む。これらのタンパク質は欠失、挿入および/または置換によって修飾されてもよい。
【0131】
Esxポリペプチドはブドウ球菌属における細菌由来のEsxタンパク質のアミノ酸配列を含む。Esx配列は黄色ブドウ球菌などの、特定のブドウ球菌種由来であってよく、Newmanなどの、特定の菌株由来であってよい。ある種の態様において、EsxA配列は菌株Mu50由来のSAV0282 (これはNewmanの場合と同じアミノ酸配列である)であり、参照により本明細書に組み入れられるGenbankアクセッション番号Q99WU4 (gi|68565539)を用いてアクセスすることができる。他の態様において、EsxB配列は菌株Mu50由来のSAV0290 (これはNewmanの場合と同じアミノ酸配列である)であり、参照により本明細書に組み入れられるGenbankアクセッション番号Q99WT7 (gi|68565532)を用いてアクセスすることができる。さらなる態様において、Ess経路により運搬される他のポリペプチドを用いることができ、当業者はデータベースおよびインターネットアクセス可能な情報源を用いてその配列を同定することができる。
【0132】
ソルターゼ基質ポリペプチドはブドウ球菌属における細菌由来のSdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、ClfA、ClfB、IsdCまたはSasFタンパク質のアミノ酸配列を含むが、これらに限定されることはない。ソルターゼ基質ポリペプチド配列は黄色ブドウ球菌などの、特定のブドウ球菌種由来であってよく、Newmanなどの、特定の菌株由来であってよい。ある種の態様において、SdrD配列は菌株N315由来であり、参照により組み入れられるGenBankアクセッション番号NP_373773.1 (gi|15926240)を用いてアクセスすることができる。他の態様において、SdrE配列は菌株N315由来であり、参照により組み入れられるGenBankアクセッション番号NP_373774.1 (gi|15926241)を用いてアクセスすることができる。他の態様において、IsdA配列は菌株Mu50由来のSAV1130 (これはNewmanの場合と同じアミノ酸配列である)であり、参照により組み入れられるNP_371654.1 (gi|15924120)を用いてアクセスすることができる。他の態様において、IsdB配列は菌株Mu50由来のSAV1129 (これはNewmanの場合と同じアミノ酸配列である)であり、参照により組み入れられるNP_371653.1 (gi|15924119)を用いてアクセスすることができる。さらなる態様において、Ess経路により運搬されまたはソルターゼによりプロセッシングされる他のポリペプチドを用いることができ、当業者はデータベースおよびインターネットアクセス可能な情報源を用いてその配列を同定することができる。
【0133】
本発明の関連において使用できるさまざまなタンパク質の例は、各々が参照により組み入れられるアクセッション番号NC_002951 (GI:57650036およびGenBank CP000046)、NC_002758 (GI:57634611およびGenBank BA000017)、NC_002745 (GI:29165615およびGenBank BA000018)、NC_003923 (GI:21281729およびGenBank BA000033)、NC_002952 (GI:49482253およびGenBank BX571856)、NC_002953 (GI:49484912およびGenBank BX571857)、NC_007793 (GI:87125858およびGenBank CP000255)、NC_007795 (GI:87201381およびGenBank CP000253)を含むが、これらに限定されない細菌ゲノムのデータベース寄託物の分析によって同定することができる。
【0134】
本明細書において用いられる場合「タンパク質」または「ポリペプチド」とは、少なくとも10個のアミノ酸残基を含む分子をいう。いくつかの態様において、タンパク質またはポリペプチドの野生型が利用されるが、しかし、本発明の多くの態様において、免疫反応を生じさせるために修飾されたタンパク質またはポリペプチドが利用される。上記の用語は互換的に用いることができる。「修飾タンパク質」もしくは「修飾ポリペプチド」または「変種」とは、その化学構造、特にそのアミノ酸配列が野生型のタンパク質またはポリペプチドに対して改変されているタンパク質またはポリペプチドをいう。いくつかの態様において、修飾/変種タンパク質またはポリペプチドは少なくとも一つの修飾された活性または機能を有する(タンパク質またはポリペプチドが複数の活性または機能を持ちうることを認識して)。具体的には、修飾/変種タンパク質またはポリペプチドは一つの活性または機能に関して改変されうるが、それでも免疫原性のような、その他の点では野生型の活性または機能を保持しているものと考えられる。
【0135】
ある種の態様において、(野生型または修飾)タンパク質またはポリペプチドのサイズは、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575、600、625、650、675、700、725、750、775、800、825、850、875、900、925、950、975、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1750、2000、2250、2500もしくはそれ以上の、およびその中で導き出せる任意の範囲のアミノ分子、または本明細書において記述されるもしくは参照される対応アミノ配列の派生体を含むことができるが、これらに限定されることはない。ポリペプチドを切断によって突然変異させ、それらを、対応するその野生型よりも短くさせてもよいが、それらを(例えば、標的化または局在化のために、免疫原性の増強のために、精製目的のために、など)特定の機能を有する異種タンパク質配列に融合または結合させることによって変化させることもできると考えられる。
【0136】
本明細書において用いられる場合、「アミノ分子」とは、当技術分野において公知の任意のアミノ酸、アミノ酸誘導体またはアミノ酸模倣体をいう。ある種の態様において、タンパク質性分子の残基は逐次的であり、アミノ分子残基の配列を中断するいかなる非アミノ分子も含まれない。他の態様において、その配列は一つまたは複数の非アミノ分子部分を含むことができる。特定の態様において、タンパク質性分子の残基の配列は一つまたは複数の非アミノ分子部分によって中断されることができる。
【0137】
したがって、「タンパク質性組成物」という用語は、天然に合成されたタンパク質における20種の共通アミノ酸の少なくとも一つ、または少なくとも一つの修飾もしくは異常アミノ酸を含むアミノ分子配列を包含する。
【0138】
タンパク質性組成物は、(i) 標準的な分子生物学的技術を通じたタンパク質、ポリペプチドもしくはペプチドの発現、(ii) 天然源からのタンパク質性化合物の単離、または(iii) タンパク質性物質の化学的合成を含めて、当業者に公知の任意の技術により作出することができる。さまざまな遺伝子に対するヌクレオチドならびにタンパク質、ポリペプチドおよびペプチド配列がこれまでに開示されており、公認のコンピュータ化されたデータベースにおいて見出される可能性がある。そのようなデータベースの一つが全米バイオテクノロジー情報センターのGenbankおよびGenPeptデータベース(www.ncbi.nlm.nih.gov/の)である。これらの公知の遺伝子に対するコード領域は、本明細書において開示される技術を用いてまたは当業者に周知であるように、増幅されおよび/または発現されうる。
【0139】
本発明のSpA、コアグラーゼおよび他のポリペプチドのアミノ酸配列変種は置換変種、挿入変種または欠失変種でありうる。本発明のポリペプチドの変化は野生型と比べて、ポリペプチドの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50個またはそれ以上の非連続または連続アミノ酸に影響を与えうる。変種は、本明細書において提供または参照されるいずれかの配列、例えば、SEQ ID NO:2〜8またはSEQ ID NO:11〜30に対して、以下の間の全ての値および範囲を含め、少なくとも50%、60%、70%、80%または90%同一であるアミノ酸配列を含みうる。変種は2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個またはそれ以上の置換アミノ酸を含みうる。本明細書において記述される組成物および方法で用いるために、Ess経路によってプロセッシングもしくは分泌されるポリペプチドまたは他の表面タンパク質(表1参照)あるいはいずれかのブドウ球菌種および株由来のソルターゼ基質が企図される。
【0140】
欠失変種は、典型的には、天然または野生型タンパク質の一つまたは複数の残基を欠損している。個々の残基を欠失させてもよく、またはいくつかの隣接アミノ酸を欠失させてもよい。終止コドンを(置換または挿入により)コード化核酸配列に導入して、切断型タンパク質を作出することができる。挿入変異体は、典型的には、ポリペプチドにおける非末端点での物質の付加を伴う。これには一つまたは複数の残基の挿入を含めることができる。融合タンパク質と呼ばれる、末端付加体を作出することもできる。これらの融合タンパク質は、本明細書において記述または参照される一つまたは複数のペプチドまたはポリペプチドの多量体または鎖状体を含む。
【0141】
置換変種は、典型的には、タンパク質内の一つまたは複数の部位での一つのアミノ酸と別のアミノ酸との交換を含み、他の機能または特性を失うかまたは失うことなく、ポリペプチドの一つまたは複数の特性を修飾するようにデザインされてもよい。置換は保存的であってもよく、すなわち、一つのアミノ酸が類似の形状および電荷のアミノ酸に置換されてもよい。保存的置換は当技術分野において周知であり、これには、例えば、アラニンのセリンへの、アルギニンのリジンへの、アスパラギンのグルタミンまたはヒスチジンへの、アスパラギン酸塩のグルタミン酸塩への、システインのセリンへの、グルタミンのアスパラギンへの、グルタミン酸塩のアスパラギン酸塩への、グリシンのプロリンへの、ヒスチジンのアスパラギンまたはグルタミンへの、イソロイシンのロイシンまたはバリンへの、ロイシンのバリンまたはイソロイシンへの、リジンのアルギニンへの、メチオニンのロイシンまたはイソロイシンへの、フェニルアラニンのチロシン、ロイシンまたはメチオニンへの、セリンのトレオニンへの、トレオニンのセリンへの、トリプトファンのチロシンへの、チロシンのトリプトファンまたはフェニルアラニンへの、およびバリンのイソロイシンまたはロイシンへの変化が含まれる。あるいは、置換はポリペプチドの機能または活性が影響を受けるように非保存的であってもよい。非保存的変化は、典型的には、非極性または非荷電アミノ酸の代わりに極性または荷電アミノ酸を用いるような、およびその逆のような、一つの残基を化学的に異なる残基に置換することを伴う。
【0142】
(表1) 黄色ブドウ球菌株の例示的な表面タンパク質
【0143】
本発明のタンパク質は組み換えであっても、またはインビトロで合成されてもよい。あるいは、非組み換えまたは組み換えタンパク質を細菌から単離してもよい。そのような変種を含有する細菌を、本発明の組成物および方法のなかで実践できることも考えられる。結果的に、タンパク質は単離されなくてもよい。
【0144】
「機能的に同等なコドン」という用語は、アルギニンまたはセリンに対する6種のコドンのような、同じアミノ酸をコードするコドンをいうように本明細書において用いられ、同様に、生物学的に同等のアミノ酸をコードするコドンもいう(以下の表2を参照のこと)。
【0146】
アミノ酸および核酸配列は、タンパク質の発現が関与している生物学的タンパク質活性(例えば、免疫原性)の維持を含めて、上記の基準を満たす限り、それぞれ、さらなるN末端もしくはC末端アミノ酸、または5'もしくは3'配列のような、さらなる残基を含むこともあり、それでも本質的には、本明細書において開示されている配列の一つに記載の通りでありうることも理解されよう。末端配列の付加は核酸配列に特に当てはまり、例えば、コード領域の5'または3'部分のどちらかに隣接する種々の非コード配列を含むことができる。
【0147】
以下は、変種ポリペプチドまたはペプチドを作出するためにタンパク質のアミノ酸を変化させることに基づく考察である。例えば、ある種のアミノ酸を、例えば、抗体の抗原結合領域または基質分子上の結合部位のような構造との相互作用結合能をかなり失うようにまたはさほど失わないようにタンパク質構造中の他のアミノ酸の代わりに用いることができる。タンパク質の機能活性を規定するのはタンパク質の相互作用能および性質であることから、タンパク質配列の中に、およびその基礎となるDNAコード配列の中にある種のアミノ酸置換を施し、それでも、所望の特性を有するタンパク質を産生させることができる。このように、遺伝子のDNA配列において種々の変化を施すことができるものと本発明者らは企図している。
【0148】
本発明の組成物においては、1 mlあたり約0.001 mg〜約10 mgの総ポリペプチド、ペプチド、および/またはタンパク質が存在することが企図される。組成物中のタンパク質の濃度は約、少なくとも約またはせいぜい約0.001、0.010、0.050、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0 mg/mlまたはそれ以上(またはその中で導き出せる任意の範囲)でありうる。このうち、約、少なくとも約、またはせいぜい約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100%がSpA変種またはコアグラーゼであってよく、他の細菌ペプチドおよび/または抗原のような、他のペプチドまたはポリペプチドと組み合わせて用いられてもよい。
【0149】
本発明は、ブドウ球菌病原菌による感染と関連する疾患または状態の発症に対する予防的治療または治療効果に影響を与えるための変種SpAポリペプチドまたはペプチドの投与を企図する。
【0150】
ある種の局面において、ブドウ球菌感染の処置または予防に有効である免疫原性組成物の作出においてブドウ球菌抗原の組み合わせが用いられる。ブドウ球菌感染はいくつかの異なる段階を経て進行する。例えば、ブドウ球菌の生活環には、片利共生定着、隣接する組織もしくは血流に接近することによる感染の開始、および/または血液中での嫌気的増殖が含まれる。黄色ブドウ球菌病原性決定因子と宿主防御機構との間の相互作用は、心内膜炎、転移性膿瘍形成および敗血症候群のような合併症を誘発しうる。細菌表面上の異なる分子が感染サイクルの異なる段階に関与する。ある種の抗原の組み合わせによって、多段のブドウ球菌感染を防御する免疫反応が引き起こされる可能性がある。免疫反応の有効性は動物モデルアッセイ法においておよび/またはオプソニン作用アッセイ法を用いて測定することができる。
【0151】
D. ポリペプチドおよびポリペプチド産生
本発明は、本発明のさまざまな態様で用いるためのポリペプチド、ペプチドおよびタンパク質ならびにそれらの免疫原性断片について記述する。例えば、特定のポリペプチドを、免疫反応を誘発するかアッセイし、または免疫反応を誘発するために用いる。特定の態様において、本発明のタンパク質の全部または一部を、従来の技術にしたがって溶液中でまたは固体支持体上で合成することもできる。各種の自動合成機が市販されており、それらを公知のプロトコルにしたがって用いることができる。例えば、Stewart and Young, (1984); Tarn et al., (1983); Merrifield, (1986); およびBarany and Merrifield (1979)を参照されたく、これらの各々が参照により本明細書に組み入れられる。
【0152】
あるいは、本発明のペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現ベクターに挿入し、これを適切な宿主細胞に形質転換または形質移入し、これを発現に適した条件の下で培養する組み換えDNA技術を利用することもできる。
【0153】
本発明の一つの態様では、ポリペプチドまたはペプチドの産生および/または提示のための、微生物を含む、細胞への遺伝子移入の使用を含む。関心対象のポリペプチドまたはペプチドに対する遺伝子を適切な宿主細胞に移入し、引き続いて適切な条件下での細胞の培養を行うことができる。組み換え発現ベクターの作出、およびそのベクターに含まれる要素は、当技術分野において周知であり、本明細書において手短に論じられている。あるいは、産生されるタンパク質は、単離かつ精製される細胞によって通常合成される内因性タンパク質であってもよい。
【0154】
本発明の別の態様では、免疫原産物、より具体的には、免疫原性活性を有するタンパク質を発現するウイルスベクターにより形質移入された、自己Bリンパ球細胞株を用いる。哺乳類宿主細胞株の他の例としては、VeroおよびHeLa細胞、CEM、721.221、H9、Jurkat、Rajiなどの、他のB-およびT-細胞株、ならびにチャイニーズハムスター卵巣細胞株、WI38、BHK、COS-7、293、HepG2、3T3、RINおよびMDCK細胞が挙げられるが、これらに限定されることはない。さらに、挿入された配列の発現を調節する、または所望とされる様式で遺伝子産物を修飾およびプロセッシングする宿主細胞株を選択することもできる。タンパク質産物のそのような修飾(例えば、グリコシル化)およびプロセッシング(例えば、切断)は、タンパク質の機能にとって重要でありうる。異なる宿主細胞は、タンパク質の翻訳後プロセッシングおよび修飾の特徴的かつ特異的な機構を有する。発現される外来タンパク質の的確な修飾およびプロセッシングを確実とするために、適切な細胞株または宿主系を選択することができる。
【0155】
tk-、hgprt-またはaprt-細胞での、それぞれ、HSVチミジンキナーゼ、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼおよびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子を含むが、これらに限定されない、いくつかの選択系を用いることができる。同様に、選択の基礎として抗代謝物耐性: トリメトプリムおよびメトトレキサートに対する耐性を付与するdhfr; ミコフェノール酸に対する耐性を付与するgpt; アミノグリコシドG418に対する耐性を付与するneo; ならびにハイグロマイシンに対する耐性を付与するhygroを用いることもできる。
【0156】
動物細胞はインビトロにおいて二つの様式で、つまり培養の大半を通じて浮遊状態で増殖する非足場依存性細胞として、または増殖のためには固体基材への付着を要する足場依存性細胞として増殖させることができる(すなわち、単層型の細胞増殖)。
【0157】
連続樹立細胞株由来の非足場依存性培養または浮遊培養は、細胞および細胞産物の、最も広く使われている大規模産生手段である。しかしながら、浮遊培養細胞には、腫瘍形成能および接着細胞よりも低いタンパク質産生のような制限がある。
【0158】
タンパク質を本明細書において具体的に述べる場合、それは、好ましくは、天然もしくは組み換えタンパク質、または場合により任意のシグナル配列が除去されたタンパク質への言及である。タンパク質は、ブドウ球菌株から直接単離されてもよく、または組み換えDNA技術によって産生されてもよい。タンパク質の免疫原性断片を本発明の免疫原性組成物に含めてもよい。これらは、タンパク質のアミノ酸配列から連続的に取り出される、少なくとも10アミノ酸、20アミノ酸、30アミノ酸、40アミノ酸、50アミノ酸、または100アミノ酸を、その間の全ての値および範囲を含めて、含む断片である。さらに、そのような免疫原性断片は、ブドウ球菌タンパク質に対して作製された抗体と免疫学的に反応性であり、またはブドウ球菌による哺乳類宿主の感染によって作出された抗体と免疫学的に反応性である。免疫原性断片はまた、有効量で(単独でまたは担体に結合されたハプテンとしてのいずれかで)投与される場合に、ブドウ球菌感染に対する防御的または治療的免疫反応を誘発する断片も含み、ある種の局面において、それは黄色ブドウ球菌および/または表皮ブドウ球菌感染を防ぐ。そのような免疫原性断片は、例えば、N末端リーダー配列、ならびに/あるいは膜貫通ドメインおよび/またはC末端アンカードメインを欠損するタンパク質を含むことができる。好ましい局面において、本発明による免疫原性断片は、本明細書において記述または参照されるポリペプチドの配列選択セグメントに対し、少なくとも80%の同一性、少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、または少なくとも97〜99%の同一性を、その間の全ての値および範囲を含めて、有するタンパク質の細胞外ドメインの実質的に全てを含む。
【0159】
本発明の免疫原性組成物の中に同様に含まれるのは、一つもしくは複数のブドウ球菌タンパク質、またはブドウ球菌タンパク質の免疫原性断片から構成される融合タンパク質である。そのような融合タンパク質は、組み換えによって作出することができ、少なくとも1、2、3、4、5または6種のブドウ球菌タンパク質またはセグメントの一部分を含むことができる。あるいは、融合タンパク質は、少なくとも1、2、3、4または5種のブドウ球菌タンパク質の複数部分を含むこともできる。これらは、異なるブドウ球菌タンパク質および/または同一のタンパク質もしくはタンパク質断片の複数のもの、あるいは同一タンパク質における免疫原性断片を組み合わせ(多量体または鎖状体を形成させ)ることができる。あるいは、本発明はまた、T細胞エピトープまたは精製タグの供与体のような異種配列、例えばβガラクトシダーゼ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、エピトープタグ、例えばFLAG、mycタグ、ポリヒスチジン、またはウイルス表面タンパク質、例えばインフルエンザウイルス赤血球凝集素、または細菌タンパク質、例えば破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイドもしくはCRM197との融合タンパク質としての、ブドウ球菌タンパク質またはその免疫原性断片の個々の融合タンパク質も含む。
【0160】
IV. 核酸
ある種の態様において、本発明は、本発明のタンパク質、ポリペプチド、ペプチドをコードする組み換えポリヌクレオチドに関する。SpA、コアグラーゼおよび他の細菌タンパク質に対する核酸配列が含まれ、これらの全てが参照により組み入れられ、これらを用いてペプチドまたはポリペプチドを調製することができる。
【0161】
本出願において用いられる場合、「ポリヌクレオチド」という用語は、組み換えであるか、全ゲノム核酸がない状態で単離されているかのどちらかの核酸分子をいう。「ポリヌクレオチド」という用語のなかに含まれるのは、オリゴヌクレオチド(長さが100残基またはそれ以下の核酸)、例えば、プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルスなどを含む、組み換えベクターである。ポリヌクレオチドは、ある種の局面において、天然の遺伝子またはタンパク質コード配列から実質的に単離されている、調節配列を含む。ポリヌクレオチドは、一本鎖(コーディングもしくはアンチセンス)または二本鎖であってよく、RNA、DNA (ゲノム、cDNAもしくは合成)、その類似体、またはその組み合わせであってよい。ポリヌクレオチドのなかにさらなるコーディングまたは非コーディング配列が存在してもよいが、存在しなくてもよい。
【0162】
この点において、「遺伝子」、「ポリヌクレオチド」または「核酸」という用語は、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードする核酸(適切な転写、翻訳後修飾または局在化に必要とされる任意の配列を含む)をいうように用いられる。当業者に理解されるように、この用語はゲノム配列、発現カセット、cDNA配列、ならびにタンパク質、ポリペプチド、ドメイン、ペプチド、融合タンパク質および変異体を発現するまたは発現するように適合されうる、遺伝子操作されたもっと小さな核酸セグメントを包含する。ポリペプチドの全部または一部をコードする核酸は、本明細書において記述または参照される一つまたは複数のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの、以下の間の全ての値および範囲を含めて、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、441、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、990、1000、1010、1020、1030、1040、1050、1060、1070、1080、1090、1095、1100、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000、6500、7000、7500、8000、9000、10000またはそれ以上のヌクレオチド、ヌクレオシドまたは塩基対の連続核酸配列を含むことができる。また、特定のポリペプチドは、わずかに異なる核酸配列を有するが、それでも、同じまたは実質的に類似のタンパク質をコードする、変種を含んだ核酸によってコードされうることも考えられる(上記の表2を参照のこと)。
【0163】
特定の態様において、本発明は、変種SpAまたはコアグラーゼをコードする核酸配列を組み入れた、単離核酸セグメントおよび組み換えベクターに関する。「組み換え」という用語は、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドとともに用いることができ、これは一般に、インビトロにおいて産生および/もしくは操作されているポリペプチドもしくはポリヌクレオチド、またはこのような分子の複製産物であるポリペプチドもしくはポリヌクレオチドをいう。
【0164】
他の態様において、本発明は、被験体において免疫反応を生じさせる変種SpAまたはコアグラーゼポリペプチドまたはペプチドをコードする核酸配列を組み入れた、単離核酸セグメントおよび組み換えベクターに関する。さまざまな態様において、本発明の核酸は遺伝子ワクチンに用いることができる。
【0165】
本発明において用いられる核酸セグメントは、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、付加的な制限酵素部位、マルチクローニング部位、他のコードセグメントなどのような、他の核酸配列と組み合わせることができ、したがってその全長はかなり変化することがある。それゆえ、ほぼすべての長さの核酸断片を利用することができ、その全長は精製の容易さおよび意図した組み換え核酸プロトコルでの用途によって制限されることが好ましいものと考えられる。場合によっては、核酸配列は、例えば、ポリペプチドの精製、輸送、分泌、翻訳後修飾を可能にするための、または標的化もしくは効力のような治療的有用性を可能にするための、さらなる異種コード配列を有するポリペプチド配列をコードすることができる。先に論じられるように、タグまたは他の異種ポリペプチドを、修飾されたポリペプチドをコードする配列に付加することができ、ここで「異種」とは、修飾されたポリペプチドと同じものではないポリペプチドをいう。
【0166】
ある種の他の態様において、本発明は、配列内にSEQ ID NO:1 (SpAドメインD)もしくはSEQ ID NO:3 (SpA)由来の隣接核酸配列またはコアグラーゼもしくは他の分泌病毒性因子および/もしくは表面タンパク質、例えば、Ess経路により運搬され、ソルターゼによりプロセッシングされるタンパク質、もしくは参照により本明細書に組み入れられるタンパク質などをコードするその他任意の核酸配列を含んだ単離核酸セグメントおよび組み換えベクターに関する。
【0167】
ある種の態様において、本発明は、本明細書において開示される配列に対して実質的同一性を有するポリヌクレオチド変種、つまり本明細書において記述される方法(例えば、標準パラメータによるBLAST解析)を用い本発明のポリヌクレオチド配列と比べて、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%またはそれ以上の配列同一性を、その間の全ての値および範囲を含めて、含むものを提供する。
【0168】
本発明はまた、上述した全てのポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドの使用を企図する。
【0169】
E. ベクター
本発明のポリペプチドは、ベクター中に含まれる核酸分子によってコードされてもよい。「ベクター」という用語は、異種核酸配列を、複製され発現されうる細胞へ導入するために、挿入できる担体核酸分子をいうように用いられる。核酸配列は「異種」であってよく、これは文脈中で、ベクターが導入されている細胞にとって、または核酸配列が組み入れられる核酸にとって核酸配列が異質であることを意味し、これには、細胞または核酸中の配列と同種であるが、しかし通常は見られない、宿主細胞または核酸内の位置にある配列が含まれる。ベクターにはDNA、RNA、プラスミド、コスミド、ウイルス(バクテリオファージ、動物ウイルスおよび植物ウイルス)、ならびに人工染色体(例えば、YAC)が含まれる。当業者は、標準的な組み換え技術(例えば、ともに参照により本明細書に組み入れられるSambrook et al., 2001; Ausubel et al., 1996)を通じてベクターを構築するのに必要なものを十分に持っているであろう。変種SpAポリペプチドをコードすることに加えて、ベクターは一つまたは複数の他の細菌ペプチド、タグまたは免疫原性増強ペプチドのような他のポリペプチド配列をコードしてもよい。そのような融合タンパク質をコードする有用なベクターには、pINベクター(Inouye et al., 1985)、一続きのヒスチジンをコードするベクター、ならびに後の精製および分離または切断に向けたグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)可溶性融合タンパク質の作出で用いるpGEXベクターが含まれる。
【0170】
「発現ベクター」という用語は、転写されうる遺伝子産物の少なくとも一部をコードする核酸配列を含むベクターをいう。場合によっては、次にRNA分子をタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドに翻訳する。発現ベクターは、特定の宿主生物において機能的に連結されたコード配列の転写およびおそらく翻訳にとって必要な核酸配列をいう種々の「制御配列」を含みうる。転写および翻訳を支配する制御配列に加えて、ベクターおよび発現ベクターは、他の機能も果たす、かつ本明細書において記述する核酸配列を含んでもよい。
【0171】
1. プロモーターおよびエンハンサー
「プロモーター」は制御配列である。プロモーターは、典型的には、転写の開始および速度が制御される核酸配列の領域である。これには、RNAポリメラーゼおよび他の転写因子のような、調節タンパク質および分子が結合しうる遺伝要素を含めてもよい。「機能的に配置された」、「機能的に連結された」、「制御下」および「転写制御下」という語句は、プロモーターが核酸配列との関連で、その配列の転写開始および発現を制御するのに正しい機能的位置および/または方向にあることを意味する。プロモーターは、核酸配列の転写活性化に関わるシス作用調節配列をいう「エンハンサー」とともに用いられても用いられなくてもよい。
【0172】
当然、発現用に選択された細胞種または生物においてDNAセグメントの発現を効率的に指令するプロモーターおよび/またはエンハンサーを利用することが重要でありうる。分子生物学の当業者は、タンパク質を発現させるためにプロモーター、エンハンサー、および細胞種の組み合わせを用いることを一般的に承知している(参照により本明細書に組み入れられるSambrook et al., 2001を参照のこと)。利用されるプロモーターは構成的、組織特異的または誘導的であってよく、ある種の態様において、組み換えタンパク質またはペプチドの大規模産生などの特定条件の下で、導入されたDNAセグメントの高レベル発現を指令しうる。
【0173】
遺伝子の発現を調節するために本発明との関連で種々の要素/プロモーターが用いられてもよい。特定の刺激に反応して活性化されうる核酸配列の領域である、そのような誘導性要素の例としては、免疫グロブリン重鎖(Banerji et al., 1983; Gilles et al., 1983; Grosschedl et al., 1985; Atchinson et al., 1986, 1987; Imler et al., 1987; Weinberger et al., 1984; Kiledjian et al., 1988; Porton et al.; 1990)、免疫グロブリン軽鎖(Queen et al., 1983; Picard et al., 1984)、T細胞受容体(Luria et al., 1987; Winoto et al., 1989; Redondo et al.; 1990)、HLA DQαおよび/またはDQβ(Sullivan et al., 1987)、βインターフェロン(Goodbourn et al., 1986; Fujita et al., 1987; Goodbourn et al., 1988)、インターロイキン-2 (Greene et al., 1989)、インターロイキン-2受容体(Greene et al., 1989; Lin et al., 1990)、MHCクラスII 5 (Koch et al., 1989)、MHCクラスII HLA-DRα(Sherman et al., 1989)、β-アクチン(Kawamoto et al., 1988; Ng et al.; 1989)、筋クレアチニンキナーゼ(MCK) (Jaynes et al., 1988; Horlick et al., 1989; Johnson et al., 1989)、プレアルブミン(トランスチレチン) (Costa et al., 1988)、エラスターゼI (Ornitz et al., 1987)、メタロチオネイン(MTII) (Karin et al., 1987; Culotta et al., 1989)、コラゲナーゼ(Pinkert et al., 1987; Angel et al., 1987)、アルブミン(Pinkert et al., 1987; Tronche et al., 1989, 1990); α-フェトプロテイン(Godbout et al., 1988; Campere et al., 1989)、γ-グロビン(Bodine et al., 1987; Perez-Stable et al., 1990)、β-グロビン(Trudel et al., 1987)、c-fos (Cohen et al., 1987)、c-Ha-Ras (Triesman, 1986; Deschamps et al., 1985)、インスリン(Edlund et al., 1985)、神経細胞接着分子(NCAM) (Hirsh et al., 1990); α1-アンチトリペイン(Latimer et al., 1990); H2B (TH2B)ヒストン(Hwang et al., 1990); マウスおよび/またはI型コラーゲン(Ripe et al., 1989)、グルコース調節タンパク質(GRP94およびGRP78) (Chang et al., 1989)、ラット成長ホルモン(Larsen et al., 1986)、ヒト血清アミロイドA (SAA) (Edbrooke et al., 1989)、トロポニンI (TN I) (Yutzey et al., 1989)、血小板由来増殖因子(PDGF) (Pech et al., 1989)、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Klamut et al., 1990)、SV40 (Banerji et al., 1981; Moreau et al., 1981; Sleigh et al., 1985; Firak et al., 1986; Herr et al., 1986; Imbra et al., 1986; Kadesch et al., 1986; Wang et al., 1986; Ondek et al., 1987; Kuhl et al., 1987; Schaffner et al., 1988)、ポリオーマ(Swartzendruber et al., 1975; Vasseur et al., 1980; Katinka et al., 1980, 1981; Tyndell et al., 1981; Dandolo et al., 1983; de Villiers et al., 1984; Hen et al., 1986; Satake et al., 1988; Campbell et al., 1988)、レトロウイルス(Kriegler et al., 1982, 1983; Levinson et al., 1982; Kriegler et al., 1983, 1984a, b, 1988; Bosze et al., 1986; Miksicek et al., 1986; Celander et al., 1987; Thiesen et al., 1988; Celander et al., 1988; Choi et al., 1988; Reisman et al., 1989)、乳頭腫ウイルス(Campo et al., 1983; Lusky et al., 1983; Spandidos and Wilkie, 1983; Spalholz et al., 1985; Lusky et al., 1986; Cripe et al., 1987; Gloss et al., 1987; Hirochika et al., 1987; Stephens et al., 1987)、B型肝炎ウイルス(Bulla et al., 1986; Jameel et al., 1986; Shaul et al., 1987; Spandau et al., 1988; Vannice et al., 1988)、ヒト免疫不全ウイルス(Muesing et al., 1987; Hauber et al., 1988; Jakobovits et al., 1988; Feng et al., 1988; Takebe et al., 1988; Rosen et al., 1988; Berkhout et al., 1989; Laspia et al., 1989; Sharp et al., 1989; Braddock et al., 1989)、サイトメガロウイルス(CMV) IE (Weber et al., 1984; Boshart et al., 1985; Foecking et al., 1986)、テナガザル白血病ウイルス(Holbrook et al., 1987; Quinn et al., 1989)が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0174】
誘導性要素にはMT II-ホルボルエステル(TFA)/重金属(Palmiter et al., 1982; Haslinger et al., 1985; Searle et al., 1985; Stuart et al., 1985; Imagawa et al., 1987, Karin et al., 1987; Angel et al., 1987b; McNeall et al., 1989); MMTV (マウス乳腺腫瘍ウイルス)-グルココルチコイド(Huang et al., 1981; Lee et al., 1981; Majors et al., 1983; Chandler et al., 1983; Lee et al., 1984; Ponta et al., 1985; Sakai et al., 1988); β-インターフェロン-ポリ(rI)x/ポリ(rc) (Tavernier et al., 1983); アデノウイルス5 E2-E1A (Imperiale et al., 1984); コラゲナーゼ-ホルボルエステル(TPA) (Angel et al., 1987a); ストロメリシン-ホルボルエステル(TPA) (Angel et al., 1987b); SV40-ホルボルエステル(TPA) (Angel et al., 1987b); ネズミMX遺伝子-インターフェロン、ニューカッスル病ウイルス(Hug et al., 1988); GRP78遺伝子-A23187 (Resendez et al., 1988); α-2-マクログロブリン-IL-6 (Kunz et al., 1989); ビメンチン-血清(Rittling et al., 1989); MHCクラスI遺伝子H-2κb-インターフェロン(Blanar et al., 1989); HSP70-E1A/SV40ラージT抗原(Taylor et al., 1989, 1990a, 1990b); プロリフェリン-ホルボルエステル/TPA (Mordacq et al., 1989); 腫瘍壊死因子-PMA (Hensel et al., 1989); および甲状腺刺激ホルモンα遺伝子-甲状腺ホルモン(Chatterjee et al., 1989)が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0175】
本発明のペプチドまたはタンパク質をコードするポリヌクレオチドの発現を制御するために利用される特定のプロモーターは、標的細胞、好ましくは細菌細胞においてポリヌクレオチドを発現できる限り、決定的に重要であるものとは考えられない。ヒト細胞が標的化される場合、ポリヌクレオチドコード領域を、ヒト細胞において発現されうるプロモーターの近傍かつ制御下に位置付けることが好ましい。一般的に言えば、そのようなプロモーターは細菌プロモーター、ヒトプロモーターまたはウイルスプロモーターのいずれかを含みうる。
【0176】
タンパク質の発現のため被験体にベクターが投与される態様において、ベクターとともに用いるのに望ましいプロモーターは、サイトカインによって下方制御されないもの、またはたとえ下方制御されても、免疫反応を誘発するのに有効な量の変種SpAを産生するのに十分に強力なものであることが企図される。これらの非限定的な例はCMV IEおよびRSV LTRである。とりわけ、発現が樹状細胞またはマクロファージのような、抗原の発現が望ましい細胞におけるなら、組織特異的プロモーターを用いることができる。哺乳類MHC IおよびMHC IIプロモーターは、そのような組織特異的プロモーターの例である。
【0177】
2. 開始シグナルおよび内部リボソーム結合部位(IRES)
特異的開始シグナルもコード配列の効率的な翻訳に必要とされうる。これらのシグナルには、ATG開始コドンまたは隣接配列が含まれる。ATG開始コドンを含む外因性の翻訳制御シグナルを提供する必要がありうる。当業者は容易にこれを決定して、必要なシグナルを提供することができるであろう。
【0178】
本発明のある種の態様では、内部リボソーム進入部位(IRES)要素を用いて、多重遺伝子の、または多シストロン性の伝達暗号を作出する。IRES要素は、5'メチル化Cap依存的翻訳のリボソーム走査モデルを迂回して、内部部位で翻訳を開始することができる(Pelletier and Sonenberg, 1988; Macejak and Sarnow, 1991)。IRES要素は異種の読み取り枠に連結させることができる。IRESによって各々が隔てられた多数の読み取り枠をともに転写し、多シストロン性の伝達暗号を作出することができる。単一のプロモーター/エンハンサーを用いて多数の遺伝子を効率的に発現させ、単一の伝達暗号を転写させることができる(参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,925,565号および同第5,935,819号を参照のこと)。
【0179】
3. 選択可能およびスクリーニング可能なマーカー
本発明のある種の態様において、本発明の核酸構築体を含む細胞は、発現ベクターの中にスクリーニング可能または選択可能なマーカーをコードすることによってインビトロまたはインビボで同定することができる。転写され翻訳される場合、マーカーは同定可能な変化を細胞に付与し、発現ベクターを含んだ細胞の容易な同定を可能にする。一般的に、選択可能なマーカーは、選択を可能にする特性を付与するものである。陽性選択可能なマーカーは、マーカーが存在することでその選択が可能になるものであるのに対し、陰性選択可能なマーカーは、マーカーが存在することでその選択が妨害されるものである。陽性選択可能なマーカーの例は、薬物耐性マーカーである。
【0180】
F. 宿主細胞
本明細書において用いられる場合、「細胞」、「細胞株」および「細胞培養物」という用語は互換的に用いることができる。これらの用語の全てが、任意のおよび全ての次世代の、その子孫も含む。故意または偶然の変異により全ての子孫が同一ではないことがあると理解されよう。異種核酸配列を発現するという文脈において、「宿主細胞」とは、原核細胞または真核細胞をいい、これには、ベクターを複製できるまたはベクターによってコードされる異種遺伝子を発現できる、任意の形質転換可能な生物が含まれる。宿主細胞はベクターまたはウイルスのレシピエントとして、使用されることができ、使用されている。宿主細胞は「形質移入」または「形質転換」されてもよく、それらは組み換えタンパク質をコードする配列などの、外因性の核酸が宿主細胞に移入または導入される過程をいう。形質転換細胞には、初代被験細胞およびその子孫が含まれる。
【0181】
ベクターの複製または核酸配列の一部もしくは全部の発現のための細菌、酵母細胞、昆虫細胞および哺乳類細胞を含め、宿主細胞は原核生物または真核生物に由来することができる。多数の細胞株および培養物が宿主細胞用として利用可能であり、それらは、生きている培養物および遺伝物質のための保管庫としての機能を果たす機構であるアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC) (www.atcc.org)を通じて入手することができる。
【0182】
G. 発現系
先に論じた組成物の少なくとも一部または全部を含む多数の発現系が存在する。原核生物および/または真核生物に基づく系を本発明で用いるために利用して、核酸配列、またはその同源のポリペプチド、タンパク質およびペプチドを産生することができる。そのような多くの系が市販されており、広く利用可能である。
【0183】
昆虫細胞/バキュロウイルス系は、ともに参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,871,986号、同第4,879,236号に記述されているように、異種核酸セグメントの高レベルのタンパク質発現をもたらすことができ、例えば、INVITROGEN(登録商標)からMAXBAC(登録商標) 2.0の名称で、およびCLONTECH(登録商標)からBACPACK(商標) BACULOVIRUS EXPRESSION SYSTEMの名称で購入することができる。
【0184】
本発明の開示の発現系に加え、発現系の他の例としては、合成エクダイソン誘導性受容体またはそのpET発現系、つまり大腸菌発現系を伴う、STRATAGENE(登録商標)のCOMPLETE CONTROL(商標) Inducible Mammalian Expression Systemが挙げられる。誘導性発現系の別例はINVITROGEN(登録商標)から入手可能で、T-REX (商標) (テトラサイクリン調節発現)系、つまり全長CMVプロモーターを用いた誘導性の哺乳類発現系を有するものである。INVITROGEN(登録商標)は、メチロトローフ酵母ピチアメタノリカ(Pichia methanolica)における組み換えタンパク質の高レベル産生のためにデザインされた、Pichia methanolica Expression Systemと呼ばれる酵母発現系も提供している。当業者なら、発現構築体のようなベクターを発現させる方法、核酸配列またはその同源のポリペプチド、タンパク質もしくはペプチドを産生する方法を承知しているであろう。
【0185】
V. 多糖類
本発明の免疫原性組成物は、PIA (PNAGとしても公知)の一つもしくは複数を含む莢膜多糖類、ならびに/または黄色ブドウ球菌V型および/もしくはVIII型莢膜多糖類、ならびに/または表皮ブドウ球菌I型および/もしくはII型および/もしくはIII型莢膜多糖類をさらに含むことができる。
【0186】
H. PIA (PNAG)
現在では、PS/A、PIAおよびSAAとして同定されたブドウ球菌表面多糖類の各種形態は同じ化学的実体、つまりPNAGであることが明らかである(Maira-Litran et al., 2004)。それゆえ、PIAまたはPNAGという用語は、これらの全ての多糖類またはそれらに由来するオリゴ糖を包含する。
【0187】
PIAは多糖類細胞間付着因子であり、N-アセチルおよびO-スクシニル構成要素で置換されたβ-(1→6)結合グルコサミンの重合体から構成される。この多糖類は黄色ブドウ球菌にも表皮ブドウ球菌にもともに存在し、どちらの供給源からも単離することができる(Joyce et al., 2003; Maira-Litran et al., 2002)。例えば、PNAGは黄色ブドウ球菌株MN8mから単離することができる(WO04/43407)。表皮ブドウ球菌から単離されるPIAは、生物膜の複合的構成要素である。それは細胞間接着の媒介に関与しており、おそらく、成長中のコロニーを宿主の免疫反応から守る働きもする。ポリ-N-スクシニル-β-(1→6)-グルコサミン(PNSG)として既知の多糖類は、最近になって、N-スクシニル化の同定が間違いであったため、予想された構造を有するものではないことが示された(Maira-Litran et al., 2002)。それゆえ、正式にはPNSGとして公知の、かつ現在では、PNAGであることが分かっている多糖類もPIAという用語に包含される。
【0188】
PIA (またはPNAG)は、400 kDaを超えるものから、75〜400 kDaまで、10〜75 kDaまで、最大で30までの(N-アセチルおよびO-スクシニル構成要素で置換されたβ-(1→6)結合グルコサミンの)反復単位から構成されるオリゴ糖まで、さまざまなサイズのものでありうる。任意のサイズのPIA多糖類またはオリゴ糖を本発明の免疫原性組成物に用いることができるが、一つの局面において多糖類は40 kDa超である。サイジングは、当技術分野において公知の任意の方法により、例えばマイクロ流動化、超音波照射または化学的切断により行うことができる(WO 03/53462、EP497524、EP497525)。ある種の局面において、PIA (PNAG)は少なくともまたはせいぜい40〜400 kDa、40〜300 kDa、50〜350 kDa、60〜300 kDa、50〜250 kDaおよび60〜200 kDaである。
【0189】
PIA (PNAG)は酢酸塩によるアミノ基上の置換によって異なるアセチル化度を持ちうる。インビトロで産生されるPIAは、アミノ基上でほぼ完全に(95〜100%)置換されている。あるいは、60%、50%、40%、30%、20%、10%未満のアセチル化を有する脱アセチル化PIA (PNAG)を用いることができる。PNAGの非アセチル化エピトープはオプソニンによるグラム陽性細菌、好ましくは黄色ブドウ球菌および/または表皮ブドウ球菌の殺傷の媒介で効率的であるため、脱アセチル化PIA (PNAG)の使用が好ましい。ある種の局面において、PIA (PNAG)は、40 kDa〜300 kDaのサイズを有し、60%、50%、40%、30%または20%未満のアミノ基がアセチル化されているように脱アセチル化される。
【0190】
脱アセチル化PNAG (dPNAG)という用語は、60%、50%、40%、30%、20%または10%未満のアミノ酸基(amino agroups)がアセチル化されているPNAG多糖類またはオリゴ糖をいう。ある種の局面において、天然の多糖類を化学的に処理することにより、PNAGを脱アセチル化してdPNAGを形成する。例えば、天然PNAGを、pHが10超まで上昇するように塩基性溶液で処理する。例えば、PNAGを0.1〜5 M、0.2〜4 M、0.3〜3 M、0.5〜2 M、0.75〜1.5 Mまたは1 MのNaOH、KOHまたはNH
4OHで処理する。処理は、20〜100℃、25〜80℃、30〜60℃もしくは30〜50℃または35〜45℃の温度で少なくとも10〜30分間、または1、2、3、4、5、10、15もしくは20時間である。dPNAGはWO 04/43405に記述されているように調製することができる。
【0191】
多糖類は担体タンパク質に結合されてもまたは結合されなくてもよい。
【0192】
I. 黄色ブドウ球菌由来の5型および8型多糖類
ヒトでの感染を引き起こす黄色ブドウ球菌の大部分の菌株が5型または8型多糖類のいずれかを含む。およそ60%のヒト菌株が8型であり、およそ30%が5型である。5型および8型莢膜多糖類抗原の構造はMoreauら(1990)およびFournierら(1984)に記述されている。どちらもその反復単位の中にFucNAcpと、スルフヒドリル基を導入するのに使用できるManNAcAとを有する。それらの構造は:
5型
→4)-β-D-ManNAcA(3OAc)-(1→4)-α-L-FucNAc(1→3)-β-D-FucNAc-(1→
8型
→3)-β-D-ManNAcA(4OAc)-(1→3)-α-L-FucNAc(1→3)-β-D-FucNAc-(1→
であり、
最近(Jones, 2005)では、NMR分光法によってそれらの構造は:
5型
→4)-β-D-ManNAcA-(1→4)-α-L-FucNAc(3OAc)-(1→3)-β-D-FucNAc-(1→
8型
→3)-β-D-ManNAcA(4OAc)-(1→3)-α-L-FucNAc(1→3)-α-D-FucNAc(1→
に訂正されている。
【0193】
多糖類は当業者に周知の方法を用いて適切な黄色ブドウ球菌株から抽出することができ、米国特許第6,294,177号を参照されたい。例えば、ATCC 12902は5型黄色ブドウ球菌株であり、ATCC 12605は8型黄色ブドウ球菌株である。
【0194】
多糖類は天然のサイズのものであり、あるいは、例えばマイクロ流動化、超音波照射または化学的処理によってサイジングされてもよい。本発明はまた、黄色ブドウ球菌の5型および8型多糖類に由来するオリゴ糖を網羅する。本発明の免疫原性組成物に含まれる5型および8型多糖類は、好ましくは、下記のように担体タンパク質と結合され、あるいは非結合とされる。本発明の免疫原性組成物は、あるいは、5型または8型多糖類のどちらかを含む。
【0195】
J. 黄色ブドウ球菌336抗原
一つの態様において、本発明の免疫原性組成物は、米国特許第6,294,177号に記述されている黄色ブドウ球菌336抗原を含む。336抗原は、β結合ヘキソサミンを含み、O-アセチル基を含まず、ATCC 55804の下で寄託された黄色ブドウ球菌336型に対する抗体と特異的に結合する。一つの態様において、336抗原は多糖類であり、これは天然のサイズのものであり、あるいは、例えばマイクロ流動化、超音波照射または化学的処理によってサイジングされてもよい。本発明はまた、336抗原に由来するオリゴ糖を網羅する。336抗原は担体タンパク質に結合されなくてもまたは結合されてもよい。
【0196】
K. 表皮ブドウ球菌由来のI型、II型およびIII型多糖類
ワクチン接種に多糖類を用いることに付随する問題の中には、多糖類それ自体が不十分な免疫原であるという事実がある。本発明において利用される多糖類を、傍観T細胞の助けをもたらすタンパク質担体に連結させて、免疫原性を改善することが好ましい。多糖類免疫原と結合されうるそのような担体の例としては、ジフテリアおよび破傷風トキソイド(それぞれDT、DT CRM 197およびTT)、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、ならびにツベルクリン精製タンパク質誘導体(PPD)、緑膿菌エキソプロテインA (rEPA)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)由来のプロテインD、肺炎球菌溶血素またはこれらのうちのいずれかの断片が挙げられる。用いるのに適した断片には、Tヘルパーエピトープを包含する断片が含まれる。特に、インフルエンザ菌由来のプロテインD断片は、そのタンパク質のN末端側の3分の1を含むことが好ましいであろう。プロテインDは、インフルエンザ菌由来のIgD結合タンパク質であり(EP 0 594 610 B1)、潜在的な免疫原である。さらに、ブドウ球菌タンパク質を本発明の多糖類結合体における担体タンパク質として用いることができる。
【0197】
ブドウ球菌ワクチンに関して用いるのに特に有利であるものと考えられる担体タンパク質は、ブドウ球菌αトキソイドである。結合の過程で毒性が低減するので、この天然形態を多糖類と結合させてもよい。残留毒性がより低いことから、His35LeuまたはHis35Arg変種のような、遺伝学的に解毒されたα毒素が担体として用いられることが好ましい。あるいは、架橋試薬ホルムアルデヒドまたはグルタルアルデヒドでの処理によって、α毒素を化学的に解毒する。遺伝学的に解毒されたα毒素を、好ましくは架橋試薬、ホルムアルデヒドまたはグルタルアルデヒドでの処理により任意で化学的に解毒して、毒性をさらに低減してもよい。
【0198】
多糖類は、いずれかの公知の方法(例えば、米国特許第4,372,945号、同第4,474,757号および同第4,356,170号に記述されている方法)によって担体タンパク質に連結させることができる。CDAP結合化学反応が行われることが好ましい(WO95/08348参照)。CDAPでは、シアニル化試薬1-シアノ-ジメチルアミノピリジニウムテトラフルオロボレート(CDAP)が多糖類-タンパク質結合体の合成に用いられることが好ましい。シアニル化反応は、アルカリ感受性多糖類の加水分解を回避するような比較的穏やかな条件の下で行うことができる。この合成により、担体タンパク質への直接的なカップリングが可能である。
【0199】
結合には担体タンパク質と多糖類との間の直接的な連結の作出が含まれることが好ましい。任意で、スペーサー(アジピン酸ジヒドリド(adipic dihydride; ADH)のような)が担体タンパク質と多糖類との間に導入されてもよい。
【0200】
IV. 免疫反応およびアッセイ法
上記のように、本発明は、被験体において変種SpAまたはコアグラーゼペプチドに対する免疫反応を惹起または誘導することに関係する。一つの態様において、免疫反応は、感染または関連する疾患、とりわけブドウ球菌に関連する疾患を有する、有することが疑われる、または発症するリスクがある被験体を防御または処置することができる。本発明の免疫原性組成物の使い方の一つは、病院または感染のリスク増大を伴う他の環境において医療手当を受ける前に被験体を予防接種することによって院内感染を予防することである。
【0201】
A. 免疫アッセイ法
本発明は、本発明の組成物により免疫反応が誘導または惹起されるかどうか、およびどの程度まで誘導または惹起されるかを評価するための血清学的アッセイ法の実施を含む。実施されうる多くのタイプの免疫アッセイ法が存在する。本発明により包含される免疫アッセイ法には、米国特許第4,367,110号に記述されているもの(二重モノクローナル抗体サンドイッチアッセイ法)および米国特許第4,452,901号に記述されているもの(ウエスタンブロット)が含まれるが、これらに限定されることはない。他のアッセイ法には、インビトロおよびインビボの両方での、免疫細胞化学および標識リガンドの免疫沈降が含まれる。
【0202】
免疫アッセイ法は一般に、結合アッセイ法である。ある種の好ましい免疫アッセイ法は、当技術分野において公知のさまざまなタイプの酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)および放射免疫アッセイ法(RIA)である。組織切片を用いる免疫組織化学的検出もまた特に有用である。一例を挙げれば、抗体または抗原をポリスチレンマイクロタイタープレート中のウェル、ディップスティック、またはカラム支持体などの、選択した表面に固定化する。次いで、臨床サンプルなどの、所望の抗原または抗体を含有すると疑われる試験組成物をウェルに加える。結合および非特異的に結合した免疫複合体を除去するための洗浄の後、結合した抗原または抗体を検出することができる。検出は一般に、検出可能な標識に連結されている、所望の抗原または抗体に特異的な、別の抗体の添加によって達成される。このタイプのELISAは「サンドイッチELISA」として公知である。検出は、所望の抗原に特異的な二次抗体の添加の後、該二次抗体に対して結合親和性を有する三次抗体であって、検出可能な標識に連結されている該三次抗体の添加によって達成することもできる。
【0203】
試験サンプルが既知量の標識抗原または抗体と結合で競合する、競合ELISAも実行の可能性がある。未知サンプル中の反応性種の量は、コーティングされたウェルとのインキュベーションの前または間に、該サンプルと既知の標識種とを混合することによって測定される。サンプル中の反応性種の存在は、ウェルへの結合に利用可能な標識された種の量を低下させるように作用し、したがって最終的なシグナルを減少させる。利用される形式に関係なく、ELISAはコーティング、インキュベーティングまたは結合、非特異的に結合された種を除去するための洗浄、および結合された免疫複合体の検出などの、ある種の特徴を共通して有する。
【0204】
抗原または抗体はプレート、ビーズ、ディップスティック、膜またはカラム基材の形態でのような、固体支持体に連結されてもよく、分析されるサンプルが、固定化された抗原または抗体に適用される。プレートを抗原または抗体のいずれかでコーティングする際に、一般的に、プレートのウェルは、一晩または特定の期間の間、抗原または抗体の溶液とともにインキュベートされる。次にプレートのウェルを洗浄して、不完全に吸着された物質を除去する。次いで、ウェルに残存している任意の利用可能表面を、試験抗血清に関して抗原的に中性である非特異的タンパク質で「コーティング」する。これらには、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼインおよび粉乳の溶液が含まれる。コーティングは、固定性表面上での非特異的吸着部位のブロッキングを可能にし、したがって、該表面上への抗血清の非特異的結合によって引き起こされるバックグラウンドを低減する。
【0205】
B. 細菌感染の診断
上記の感染を処置または予防するためのタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチド、ならびにこれらのポリペプチド、タンパク質および/またはペプチドに結合する抗体の使用に加え、本発明は、患者内であれ医療機器上であれ、同様に感染しうる感染症を診断するためのブドウ球菌の存在の検出を含む、種々の様式でのこれらのポリペプチド、タンパク質、ペプチドおよび/または抗体の使用を企図する。本発明によれば、感染の存在を検出する好ましい方法は、個体から、例えば、個体の血液、唾液、組織、骨、筋肉、軟骨または皮膚から採取されたサンプルのような、一種または複数種のブドウ球菌種または菌株に感染していることが疑われるサンプルを得る段階を含む。サンプルの単離に続き、本発明のポリペプチド、タンパク質、ペプチドおよび/または抗体を利用する診断アッセイ法を行ってブドウ球菌の存在を検出することができ、サンプル中でのそのような存在を判定するためのそのようなアッセイ技術は当業者に周知であり、放射免疫アッセイ法、ウエスタンブロット分析およびELISAアッセイ法などの方法を含む。概して、本発明によれば、ブドウ球菌に感染していることが疑われるサンプルを本発明によるポリペプチド、タンパク質、ペプチド、抗体またはモノクローナル抗体に加え、サンプル中の、ポリペプチド、タンパク質および/もしくはペプチドに結合する抗体、または抗体に結合するポリペプチド、タンパク質および/もしくはペプチドによってブドウ球菌が示される、感染を診断する方法が企図される。
【0206】
したがって、本発明による抗体は、ブドウ球菌の感染の予防(すなわち、受動免疫)のために、進行中の感染の処置のために、または研究ツール用として用いることができる。本明細書において用いられる「抗体」という用語は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、二重特異性抗体、サル化抗体およびヒト化抗体または霊長類化抗体、ならびにFab免疫グロブリン発現ライブラリの産物を含め、抗体の結合特異性を維持している断片のような、Fab断片を含む。したがって、本発明は、抗体の可変重鎖および軽鎖のような一本鎖の使用を企図する。これらのタイプのいずれの抗体または抗体断片の作出も当業者に周知である。細菌タンパク質に対する抗体の作出の具体例は、参照により全体が本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第20030153022号のなかで見出すことができる。
【0207】
上記のポリペプチド、タンパク質、ペプチドおよび/または抗体のいずれも、ブドウ球菌の同定および定量のために、検出可能な標識で直接的に標識することができる。免疫アッセイ法で用いるための標識は一般に、当業者に公知であり、コロイド金またはラテックスビーズのような着色粒子を含めて、酵素、放射性同位体、ならびに蛍光物質、発光物質および発色物質を含む。適当な免疫アッセイ法は酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)を含む。
【0208】
C. 防御免疫
本発明のいくつかの態様において、タンパク質性組成物は被験体に防御免疫を付与する。防御免疫とは、免疫反応が起こる作用因子を伴った特定の疾患または状態を被験体が発症することを防ぐ特異的な免疫反応を開始する身体の能力をいう。免疫原性上有効な量は、被験体に防御免疫を付与することができる。
【0209】
本明細書においておよび付随する特許請求の範囲において用いられる場合、ポリペプチドまたはペプチドという用語は、ペプチド結合を介して共有結合的に連結された一続きのアミノ酸をいう。異なるポリペプチドは、本発明による異なる機能性を有する。一つの局面によれば、ポリペプチドは、レシピエントにおいて能動免疫反応を誘導するようにデザインされた免疫原に由来するが、本発明の別の局面によれば、ポリペプチドは、例えば動物での、能動免疫反応の誘発後に生じる、かつレシピエントにおいて受動免疫反応を誘導する働きのできる、抗体に由来する。しかしながら、どちらの場合も、ポリペプチドは、任意の可能なコドン使用頻度にしたがってポリヌクレオチドによりコードされる。
【0210】
本明細書において用いられる場合、「免疫反応」またはその等価語「免疫学的反応」という語句は、レシピエント患者での本発明のタンパク質、ペプチド、炭水化物またはポリペプチドに向けられた体液性(抗体を介した)反応、細胞性(抗原特異的T細胞もしくはその分泌産物によって媒介される)反応、または体液性反応と細胞性反応の両方の発生をいう。そのような反応は、免疫原の投与によって誘導された能動反応または抗体、抗体を含有する材料もしくは初回抗原刺激を受けたT細胞の投与によって誘導された受動反応でありうる。細胞性免疫反応はクラスIまたはクラスII MHC分子と結び付いたポリペプチドエピトープの提示により誘発されて、抗原特異的なCD4 (+) Tヘルパー細胞および/またはCD8 (+)細胞傷害性T細胞を活性化する。反応には単球、マクロファージ、NK細胞、好塩基球、樹状細胞、星状細胞、小膠細胞、好酸球または先天性免疫の他の成分も伴われうる。本明細書において用いられる場合、「能動免疫」とは、抗原の投与によって被験体に付与される任意の免疫をいう。
【0211】
本明細書において用いられる場合、「受動免疫」とは、被験体への抗原の投与なしで被験体に付与される任意の免疫をいう。「受動免疫」はそれゆえ、免疫反応の細胞メディエータまたはタンパク質メディエータ(例えば、モノクローナルおよび/またはポリクローナル抗体)を含めた活性化免疫エフェクタの投与を含むが、これらに限定されることはない。モノクローナルまたはポリクローナル抗体組成物は、抗体によって認識される抗原を持った生物による感染の予防または処置のための受動免疫付与に用いることができる。抗体組成物は、さまざまな生物と関連しうる種々の抗原に結合する抗体を含むことができる。抗体成分はポリクローナル抗血清であることができる。ある種の局面において、抗体は動物または抗原を接種された第二の被験体からアフィニティー精製される。あるいは、ブドウ球菌を含むがこれに限定されない、グラム陽性菌、グラム陰性菌などの、同一の、関連の、または別の微生物または生物に存在する抗原に対するモノクローナルおよび/またはポリクローナル抗体の混合物である、抗体混合物を用いることもできる。
【0212】
受動免疫は、免疫グロブリン(Ig)、および/またはドナーもしくは周囲の免疫反応性を有する他の非患者供給源から得られる他の免疫因子を患者に投与することによって、患者または被験体に与えることができる。他の局面において、本発明の抗原組成物は、ブドウ球菌または他の生物に対して作製された抗体を含んだ、抗原組成物での攻撃に反応して産生されるグロブリン(「過免疫グロブリン」)の供給源もしくはドナーとしての役割を果たす被験体に投与することができる。このように処置された被験体は、過免疫グロブリンを、従来の血漿分画法により得て、ブドウ球菌感染に対する耐性を与えるためにまたはブドウ球菌感染を処置するために別の被験体に投与できる、血漿を提供することができる。本発明による過免疫グロブリンは、免疫不全の個体に、侵襲的処置を受けている個体に、または個体がワクチン接種に反応して自身の抗体を産生できる時間のない個体にとりわけ有用である。受動免疫に関連した例示的な方法および組成物は、米国特許第6,936,258号、同第6,770,278号、同第6,756,361号、同第5,548,066号、同第5,512,282号、同第4,338,298号、および同第4,748,018号を参照されたく、これらはそれぞれ、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0213】
本明細書および添付の特許請求の範囲のために「エピトープ」および「抗原決定基」という用語は、Bおよび/またはT細胞が反応するまたは認識する抗原上の部位をいうように互換的に用いられる。B細胞エピトープは、タンパク質の三次元の折り畳みが並置した隣接アミノ酸からも非隣接アミノ酸からも形成されることができる。隣接アミノ酸から形成されたエピトープは、通常、変性溶媒に曝されても保持されるのに対し、三次元の折り畳みによって形成されたエピトープは、通常、変性溶媒を用いた処理によって失われる。エピトープは、通常、固有の空間的構造の中に少なくとも3個、より通常には、少なくとも5個または8〜10個のアミノ酸を含む。エピトープの空間的構造を決定する方法は、例えば、x線結晶学および2次元核磁気共鳴を含む。例えば、Epitope Mapping Protocols (1996)を参照されたい。同じエピトープを認識する抗体は、ある抗体が標的抗原への別の抗体の結合を遮断する能力を示す、単純な免疫アッセイ法において特定することができる。T細胞はCD8細胞の場合およそ9アミノ酸の、またはCD4細胞の場合およそ13〜15アミノ酸の連続エピトープを認識する。エピトープを認識するT細胞は、エピトープに反応して、初回抗原刺激を受けたT細胞がする
3H-チミジンの取り込み(Burke et al., 1994)により、抗原依存的な死滅化(細胞傷害性Tリンパ球アッセイ法, Tigges et al., 1996)により、またはサイトカイン分泌により決定されるように、抗原依存的な増殖を測定するインビトロでのアッセイ法により特定することができる。
【0214】
細胞を介した免疫学的反応の存在は、増殖アッセイ法(CD4 (+) T細胞)またはCTL (細胞傷害性Tリンパ球)アッセイ法により決定することができる。免疫原の防御効果または治療効果に対する体液性および細胞性反応の相対的寄与は、免疫した同系動物からIgGおよびT細胞を個別に単離し、第二の被験体において防御効果または治療効果を測定することにより、識別することができる。
【0215】
本明細書においておよび特許請求の範囲において用いられる場合、「抗体」または「免疫グロブリン」という用語は、互換的に用いられ、動物またはレシピエントの免疫反応の一部として機能する構造的に関連したタンパク質のいくつかのクラスのいずれかをいい、それらのタンパク質にはIgG、IgD、IgE、IgA、IgMおよび関連タンパク質が含まれる。
【0216】
正常な生理学的条件の下で、抗体は、血漿および他の体液中にならびにある種の細胞の膜中に見られ、B細胞と表示されるタイプのリンパ球またはその機能的等価体によって産生される。IgGクラスの抗体は、ジスルフィド結合によってともに連結された四本のポリペプチド鎖で構成されている。インタクトなIgG分子の四本の鎖は、H鎖といわれる二本の同一の重鎖およびL鎖といわれる二本の同一の軽鎖である。
【0217】
ポリクローナル抗体を産生するために、ウサギまたはヤギなどの宿主を、一般的にアジュバントとともにおよび、必要なら、担体にカップリングされた、抗原または抗原断片で免疫する。その後、抗原に対する抗体を宿主の血清から回収する。ポリクローナル抗体を単一特異性にする抗原に対して、ポリクローナル抗体を親和性精製することができる。
【0218】
モノクローナル抗体は、抗原での適切なドナーの過免疫により、または脾細胞の初代培養物もしくは脾臓に由来する細胞株の使用によりエクスビボで産生することができる(Anavi, 1998; Huston et al., 1991; Johnson et al., 1991; Mernaugh et al., 1995)。
【0219】
本明細書においておよび特許請求の範囲において用いられる場合、「抗体の免疫学的部分」という語句は、抗体のFab断片、抗体のFv断片、抗体の重鎖、抗体の軽鎖、抗体の重鎖および軽鎖からなるヘテロ二量体、抗体の軽鎖の可変断片、抗体の重鎖の可変断片、ならびにscFvとしても公知の、抗体の一本鎖変種を含む。さらに、この用語は、種の一つがヒトでありうる異なる種に由来する融合遺伝子の発現産物であるキメラ免疫グロブリンも含み、その場合、キメラ免疫グロブリンはヒト化されているといわれる。典型的には、抗体の免疫学的部分は、それを得たインタクトな抗体と、抗原への特異的結合で競合する。
【0220】
任意で、抗体または好ましくは抗体の免疫学的部分は、他のタンパク質との融合タンパク質に化学的に抱合されても、またはその融合タンパク質として発現されてもよい。本明細書および添付の特許請求の範囲のために、そのような全ての融合タンパク質は、抗体または抗体の免疫学的部分の定義のなかに含まれる。
【0221】
本明細書において用いられる場合、「免疫原性作用物質」または「免疫原」または「抗原」という用語は、アジュバントとともに、単独で、またはディスプレイ媒体上に提示された状態で、レシピエントに投与することにより、それ自体に対する免疫学的反応を誘導できる分子を記述するよう互換的に用いられる。
【0222】
D. 処置方法
本発明の方法は、ブドウ球菌病原菌によって引き起こされる疾患または状態の処置を含む。本発明の免疫原性ポリペプチドは、ブドウ球菌に罹患している者またはブドウ球菌に曝されていると疑われる者において免疫反応を誘導するために与えることができる。ブドウ球菌への曝露で陽性と判定された個体、または曝露の可能性に基づいて感染のリスクがあると思われる個体について、それらの方法を利用することができる。
【0223】
具体的には、本発明は、ブドウ球菌感染、特に病院獲得型の院内感染の処置の方法を包含する。本発明の免疫原性組成物およびワクチンは、待期的手術の場合に用いるのに特に好都合である。そのような患者は、前もって手術日を承知しており、前もって予防接種することができよう。本発明の免疫原性組成物およびワクチンはまた、医療従事者を予防接種するために用いるのに好都合である。
【0224】
いくつかの態様において、処置は、アジュバントもしくは担体または他のブドウ球菌抗原の存在下で投与される。さらに、いくつかの例において、処置は、一つまたは複数の抗生物質などの、細菌感染に対してよく使われる他の薬剤の投与を含む。
【0225】
ワクチン接種のためにペプチドを用いるには、B型肝炎表面抗原、キーホールリンペットヘモシアニン、またはウシ血清アルブミンなどの、免疫原担体タンパク質とのペプチドの抱合が必要になりうるが、必ず必要になるわけではない。この抱合を行うための方法は、当技術分野において周知である。
【0226】
VI. ワクチンおよび他の薬学的組成物ならびに投与
E. ワクチン
本発明は、ブドウ球菌感染、特に病院獲得型の院内感染を予防または改善するための方法を含む。したがって、本発明は、能動免疫と受動免疫の両方の態様で用いるためのワクチンを企図する。ワクチンとして用いるのに適当であると提唱されている免疫原性組成物は、SpAドメインD変種または免疫原性コアグラーゼのような、免疫原性SpAポリペプチドから調製することができる。他の態様において、SpAまたはコアグラーゼを他の分泌病毒性タンパク質、表面タンパク質またはその免疫原性断片と組み合わせて用いることができる。ある種の局面において、抗原材料は、望ましくない低分子量分子を除去するために十分に透析され、および/または所望の媒体へのより容易な処方のために凍結乾燥される。
【0227】
タンパク質/ペプチドに基づくワクチンのための他の選択肢は、DNAワクチンとしての、抗原をコードする核酸の導入を伴う。この点で、最近の報告によれば、隣接する10個の最小のCTLエピトープ(Thomson, 1996)、またはいくつかの微生物由来のB細胞、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)およびT-ヘルパー(Th)エピトープの組み合わせ(An, 1997)を発現する組み換えワクシニアウイルスの構築、ならびに防御免疫反応に抗原刺激を与えるためにそのような構築体を用いてマウスを免疫することの成功について記述されている。このように、文献の中には、防御免疫反応の効率的なインビボ抗原刺激のためにペプチド、ペプチドパルス抗原提示細胞(APC)、およびペプチドをコードする構築体を利用することの成功に関する十分な証拠が存在している。ワクチンとしての核酸配列の使用は、米国特許第5,958,895号および同第5,620,896号に例示されている。
【0228】
活性成分としてポリペプチドまたはペプチド配列を含むワクチンの調製は一般的に、米国特許第4,608,251号、同第4,601,903号、同第4,599,231号、同第4,599,230号、同第4,596,792号、および同第4,578,770号によって例示されるように、当技術分野において十分に理解されており、それらの特許の全てが参照により本明細書に組み入れられる。典型的には、そのようなワクチンは、液体溶液または液体懸濁液のいずれかとして注射用剤として調製される: 注射前の液体溶液または液体懸濁液に適した固体剤形を調製することもできる。調製物は乳化されてもよい。活性な免疫原性成分は、薬学的に許容されるかつ活性成分と適合性である、賦形剤と混合されることが多い。適当な賦形剤は、例えば、水、生理食塩液、デキストロース、グリセロール、エタノールなどおよびその組み合わせである。さらに、必要に応じて、ワクチンは、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝剤、またはワクチンの有効性を増強するアジュバントのような補助物質の量を含んでもよい。特定の態様において、ワクチンは、米国特許第6,793,923号および同第6,733,754号に記述されるように、物質の組み合わせを用いて処方され、それらの特許は参照により本明細書に組み入れられる。
【0229】
ワクチンは、通常、非経口的に、注射により、例えば、皮下または筋肉内のいずれかにより投与されうる。他の投与方法に適したさらなる処方物は、坐剤および、場合により、経口処方物を含む。坐剤の場合、従来の結合剤および担体は、例えば、ポリアルカレングリコールまたはトリグリセリドを含むことができ; そのような坐剤は、活性成分を約0.5%〜約10%、好ましくは約1%〜約2%の範囲内で含有する混合物から形成されることができる。経口処方物は、例えば、薬学的等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどのような通常利用される賦形剤を含む。これらの組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル、徐放性処方物または粉末の形態をとり、約10%〜約95%の、好ましくは約25%〜約70%の活性成分を含有する。
【0230】
ポリペプチドおよびポリペプチドをコードするDNA構築体は、中性型または塩型としてワクチンに処方することができる。薬学的に許容される塩は、酸付加塩(ペプチドの遊離アミノ基と形成される)および、例えば、塩酸もしくはリン酸のような無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などのような有機酸と形成されるものを含む。
【0231】
典型的には、ワクチンは、投与処方物に適合する様式で、および治療的に有効かつ免疫原性であるような量で投与される。投与される量は、個体の免疫系の抗体合成能および望ましい防御の程度を含め、処置される被験体に依る。投与されるのに必要な活性成分の的確な量は、医師の判断に依る。しかしながら、適切な投与量範囲は、ワクチン接種1回あたり数百マイクログラムの活性成分の次数のものである。初回投与および追加免疫の接種に適したレジメも同様に多様であるが、初回投与後にその後の接種または他の投与を行うことが典型的である。
【0232】
適用の様式は広く異なってもよい。ワクチンの投与のための従来の方法のいずれも適用可能である。これらには、固体の生理学的に許容される基剤内でのまたは生理学的に許容される分散液中での経口適用、非経口的に、注射により、などが含まれると考えられる。ワクチンの投与量は投与経路に依るであろうし、被験体のサイズおよび健康状態によって異なるであろう。
【0233】
場合によっては、ワクチンの複数回の投与、例えば、2、3、4、5、6回またはそれ以上の投与が有ることが望ましいであろう。ワクチン接種は、以下の間の全ての範囲を含めて、1、2、3、4、5、6、7、8〜5、6、7、8、9、10、11、12、12週間の間隔であってもよい。抗体の防御レベルを維持するには、1〜5年の間隔での定期的な追加免疫が望ましいであろう。米国特許第3,791,932号; 同第4,174,384号および同第3,949,064号に記述されているように、免疫過程の後に、抗原に対する抗体のアッセイを行ってもよい。
【0234】
1. 担体
所与の組成物はその免疫原性が異なる場合がある。それゆえ、宿主免疫系を追加免疫することが必要になることが多く、これはペプチドまたはポリペプチドを担体にカップリングさせることにより達成することもできる。例示的なかつ好ましい担体はキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびウシ血清アルブミン(BSA)である。卵白アルブミン、マウス血清アルブミンまたはウサギ血清アルブミンなどの他のアルブミンを担体として用いることもできる。ポリペプチドを担体タンパク質に抱合させるための手段は、当技術分野において周知であり、グルタルアルデヒド、m-マレイミドベンゾイル(maleimidobencoyl)-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、カルボジイミドおよびビスジアゾ化(bis-biazotized)ベンジジンを含む。
【0235】
2. アジュバント
ポリペプチドまたはペプチド組成物の免疫原性は、アジュバントとして公知の、免疫反応の非特異的刺激物質を用いることによって増強することができる。適当なアジュバントはサイトカイン、毒素または合成組成物などの、許容される全ての免疫刺激性化合物を含む。変種SpAポリペプチドもしくはコアグラーゼ、または本明細書において企図されるその他任意の細菌タンパク質もしくは組み合わせに対する抗体反応を増強するために、いくつかのアジュバントを用いることができる。アジュバントは、(1) 抗原を体内に捕捉して持続放出を引き起こすこと; (2) 免疫反応に関わる細胞を投与部位に引き付けること; (3) 免疫系細胞の増殖もしくは活性化を誘導すること; または(4) 被験体の体全体に抗原を広げるのを改善することができる。
【0236】
アジュバントは、水中油型乳濁液、油中水型乳濁液、無機塩類、ポリヌクレオチド、および天然物質を含むが、これらに限定されることはない。使用できる具体的なアジュバントはIL-1、IL-2、IL-4、IL-7、IL-12、γ-インターフェロン、GMCSP、BCG、水酸化アルミニウムまたは他のアルミニウム化合物などのアルミニウム塩、thur-MDPおよびnor-MDPなどのMDP化合物、CGP (MTP-PE)、脂質A、ならびにモノホスホリル脂質A (MPL)を含む。細菌から抽出された三種の成分、つまりMPL、トレハロースジマイコレート(TDM)および細胞壁骨格(CWS)を2%スクアレン/Tween 80乳濁液中に含有する、RIBI。MHC抗原をさらに使用することができる。他のアジュバントまたは方法は、各々が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,814,971号、同第5,084,269号、同第6,656,462号に例示されている。
【0237】
ワクチンのアジュバント作用を達成するさまざまな方法には、それぞれ、一般的に約0.05〜約0.1%のリン酸緩衝生理食塩水溶液として用いられる水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウム(ミョウバン)のような作用物質を用いること、約0.25%の溶液として用いられる合成糖重合体(Carbopol(登録商標))とともに混合すること、約70℃〜約101℃の範囲の温度で30秒〜2分間の熱処理によってワクチンにおけるタンパク質を凝集させることが含まれる。アルブミンに対するペプシン処理抗体(Fab)での再活性化による凝集、細菌細胞(例えば、C.パルブム(C. parvum))、グラム陰性菌の内毒素もしくはリポ多糖類成分との混合物、生理学的に許容される油性媒体中の乳濁液(例えば、マンニドモノ-オレエート(Aracel A)); またはブロック代用物として用いられる20%のペルフルオロカーボン溶液との乳濁液(Fluosol-DA(登録商標))を利用して、アジュバント作用をもたらすこともできる。
【0238】
アジュバントの例かつ多くの場合に好ましいアジュバントには、フロイントの完全アジュバント(結核菌(Mycobacterium tuberculosis)死菌を含む免疫反応の非特異的な刺激物質)、フロイントの不完全アジュバント、および水酸化アルミニウムが含まれる。
【0239】
いくつかの局面において、Th1またはTh2型の反応のいずれかの選択的誘発物質となるようにアジュバントを選択することが好ましい。高レベルのTh1型サイトカインは、所与の抗原に対する細胞性免疫反応の誘導に有利に働く傾向があるのに対し、高レベルのTh2型サイトカインは、抗原に対する体液性免疫反応の誘導に有利に働く傾向がある。
【0240】
Th1およびTh2型免疫反応の区別は絶対的ではない。実際には、個体は、主にTh1または主にTh2とされている免疫反応を支持する。しかし、多くの場合、MosmannおよびCoffman (Mosmann, and Coffman, 1989)によりネズミCD4+ T細胞クローンにおいて記述されているものに関してサイトカインのファミリーを考えることが好都合である。伝統的には、Th1型反応は、Tリンパ球によるINF-γおよびIL-2サイトカインの産生と関連している。IL-12のような、Th1型免疫反応の誘導に直接関連することが多いその他のサイトカインは、T細胞によって産生されない。対照的に、Th2型反応は、IL-4、IL-5、IL-6、IL-10の分泌に関連する。
【0241】
アジュバントの他に、生体反応修飾物質(BRM)を同時投与して、免疫反応を増強することが望ましいかもしれない。BRMは、T細胞免疫を上方制御するまたはサプレッサー細胞活性を下方制御することが示されている。そのようなBRMは、シメチジン(CIM; 1200 mg/d) (Smith/Kline, PA); または低用量シクロホスファミド(CYP; 300 mg/m
2) (Johnson/Mead, NJ)およびγインターフェロン、IL-2もしくはIL-12のようなサイトカイン、またはB-7のような、免疫ヘルパー機能に関与するタンパク質をコードする遺伝子を含むが、これらに限定されることはない。
【0242】
F. 脂質成分および部分
ある種の態様において、本発明は、核酸またはポリペプチド/ペプチドと結び付いた一つまたは複数の脂質を含む組成物に関する。脂質は水に不溶な、かつ有機溶媒で抽出可能な物質である。本明細書において具体的に記述するもの以外の化合物は、当業者により脂質と理解され、本発明の組成物および方法によって包含される。脂質成分および非脂質は、共有結合的または非共有結合的に、互いに付着されてもよい。
【0243】
脂質は天然の脂質または合成脂質であってもよい。しかしながら、脂質は、通常、生物学的物質である。生物学的脂質は、当技術分野において周知であり、例えば、中性脂肪、リン脂質、ホスホグリセリド、ステロイド、テルペン、リゾ脂質、スフィンゴ糖脂質、糖脂質、スルファチド、エーテルかつエステル結合した脂肪酸を有する脂質および重合可能な脂質、ならびにその組み合わせを含む。
【0244】
脂質と会合した、核酸分子またはポリペプチド/ペプチドを、脂質を含有する溶液に分散させ、脂質によって溶解させ、脂質によって乳化させ、脂質と混合させ、脂質と組み合わせ、脂質に共有結合させ、脂質中の懸濁液として含有させ、または他の方法で脂質と会合させてもよい。本発明の脂質または脂質-ポックスウイルス-会合組成物は、任意の特定の構造に限定されない。例えば、それらを単純に溶液中に散在させ、おそらくサイズまたは形状のどちらかが均一ではない凝集体を形成させてもよい。別の例において、それらは二層構造で、ミセルとして、または「崩壊した」構造で存在してもよい。別の非制限的な例において、リポフェクトアミン(Gibco BRL)-ポックスウイルスまたはSuperfect (Qiagen)-ポックスウイルス複合体も企図される。
【0245】
ある種の態様において、組成物は約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%、約21%、約22%、約23%、約24%、約25%、約26%、約27%、約28%、約29%、約30%、約31%、約32%、約33%、約34%、約35%、約36%、約37%、約38%、約39%、約40%、約41%、約42%、約43%、約44%、約45%、約46%、約47%、約48%、約49%、約50%、約51%、約52%、約53%、約54%、約55%、約56%、約57%、約58%、約59%、約60%、約61%、約62%、約63%、約64%、約65%、約66%、約67%、約68%、約69%、約70%、約71%、約72%、約73%、約74%、約75%、約76%、約77%、約78%、約79%、約80%、約81%、約82%、約83%、約84%、約85%、約86%、約87%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、またはその間の任意の範囲の、特定の脂質、脂質型、あるいはアジュバント、抗原、ペプチド、ポリペプチド、糖、核酸または本明細書に開示されるもしくは当業者に公知であるような他の材料などの非脂質成分を含むことができる。非限定的な例において、組成物は約10%〜約20%の中性脂質、および約33%〜約34%のセレブロシド、および約1%のコレステロールを含むことができる。別の非限定的な例において、リポソームは、ミセルの約1%が特にリコペンであって、リポソームの約3%〜約11%が他のテルペンを含んだままの、約4%〜約12%のテルペン、ならびに約10%〜約35%のホスファチジルコリン、および約1%の非脂質成分を含むことができる。このように、本発明の組成物は、任意の組み合わせまたは百分率の範囲で脂質、脂質型または他の成分のいずれを含んでもよいと企図される。
【0246】
G. 併用療法
本発明の組成物および関連する方法、特に、変種SpAポリペプチドもしくはペプチドを含む、分泌病毒性因子もしくは表面タンパク質、および/または他の細菌ペプチドもしくはタンパク質の患者/被験体への投与を従来の治療の施行と併せて用いることもできる。これらには、ストレプトマイシン、シプロフロキサシン、ドキシサイクリン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、アンピシリン、テトラサイクリン、または抗生物質の各種組み合わせなどの抗生物質の投与が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0247】
一つの局面において、ポリペプチドワクチンおよび/または治療を、抗細菌処置とともに用いることが企図される。あるいは、治療は数分から数週間に及ぶ間隔だけ、他剤での処置に先行するまたは続くこともできる。他の薬剤および/またはタンパク質もしくはポリヌクレオチドが別々に投与される態様において、薬剤および抗原組成物が依然として、有利に組み合わさった効果を被験体に及ぼすことができるように、一般に、各送達時間の間にかなりの時間が経ってしまわないことを確実にする。そのような場合、双方の様式を互いに約12〜24時間以内にまたは互いに約6〜12時間以内に施すことができると企図される。場合によっては、投与の期間をかなり延ばすことが望ましい場合もあり、その場合には各投与の間隔は数日(2、3、4、5、6または7日)から数週間(1、2、3、4、5、6、7または8週間)である。
【0248】
例えば抗生物質治療を「A」とし、抗原などの、免疫治療レジメの一部として投与される免疫原性分子を「B」とし、種々の組み合わせを利用することができる。
【0249】
A/B/A B/A/B B/B/A A/A/B A/B/B B/A/A A/B/B/B B/A/B/B
【0250】
B/B/B/A B/B/A/B A/A/B/B A/B/A/B A/B/B/A B/B/A/A
【0251】
B/A/B/A B/A/A/B A/A/A/B B/A/A/A A/B/A/A A/A/B/A
【0252】
患者/被験体への本発明の免疫原性組成物の投与は、SpA組成物、または本明細書において記述される他の組成物の、もしあれば、毒性を考慮に入れながらも、そのような化合物の投与に関する一般的なプロトコルに従う。処置周期は必要に応じて繰り返されるものと期待される。同様に、水和などの、種々の標準的な治療を記述の治療と併せて適用できるものと企図される。
【0253】
H. 一般的な薬学的組成物
いくつかの態様において、薬学的組成物が被験体に投与される。本発明の種々の局面では、被験体に組成物の有効量を投与することを伴う。本発明のいくつかの態様において、ブドウ球菌抗原、Ess経路の成員、例えばEsaもしくはEsxクラスのポリペプチドもしくはペプチドなど、および/またはソルターゼ基質の成員を患者に投与して、一種または複数種のブドウ球菌病原菌を防御することができる。あるいは、一つまたは複数のそのようなポリペプチドまたはペプチドをコードする発現ベクターを、予防的処置として患者に与えることもできる。さらに、そのような化合物を抗生物質または抗菌薬と併せて投与することもできる。そのような組成物は一般に、薬学的に許容される担体または水媒体中に溶解または分散される。
【0254】
静脈内注射または筋肉内注射のためのものなどの、非経口投与のために処方される化合物に加えて、他の薬学的に許容される形態には、例えば、錠剤または経口投与のための他の固形物; 徐放カプセル; およびクリーム、ローション、洗口液、吸入薬などを含む、現在用いられているその他任意の形態が含まれる。
【0255】
本発明の活性化合物は、非経口投与のために処方することができ、例えば、静脈内経路、筋肉内経路、皮下経路、またはさらに腹腔内経路による注射のために処方することができる。MHCクラスI分子の発現を増大する化合物を含む水性組成物の調製は、本開示に照らして当業者に公知であろう。典型的には、そのような組成物は、液体溶液または液体懸濁液のいずれかとして注射用剤として調製することができ: 注射前に液体を加えることで溶液または懸濁液を調製するために用いるのに適した固体剤形を調製することもでき; および調製物を乳化することもできる。
【0256】
遊離塩基または薬理学的に許容される塩としての活性化合物の溶液をヒドロキシプロピルセルロースなどの、界面活性剤と適当に混合された水の中で調製することができる。分散液を同様に、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびその混合物の中でならびに油中で調製することができる。保存および使用の通常の状況下では、これらの調製物は微生物の増殖を防ぐよう保存剤を含む。
【0257】
注射可能な用途に適した薬学的形態は、無菌の水溶液または分散液; ごま油、落花生油または水性プロピレングリコールを含む処方物; および無菌の注射可能な溶液または分散液の即時調製用の無菌の粉末を含む。いかなる場合でも、この形態は無菌でなければならず、容易に注射可能となる程度に流動性でなければならない。それは製造および保存の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの、微生物の汚染作用に対して保護されなければならない。
【0258】
タンパク質性組成物は、中性型または塩型で処方されてもよい。薬学的に許容される塩は、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基と形成される)および、例えば、塩酸もしくはリン酸のような無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などのような有機酸と形成されるものを含む。また、遊離カルボキシル基と形成される塩は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、もしくは水酸化第二鉄のような無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどのような有機塩基に由来することができる。
【0259】
また、担体は、例えば、水、エタノール、多価アルコール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、適当なそれらの混合物、ならびに植物油を含有する溶媒または分散媒とすることができる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散液の場合には必要とされる粒径の維持によりおよび界面活性剤の使用により維持することができる。微生物の作用の予防はさまざまな抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらすことができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含めることが好ましいであろう。注射可能な組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの組成物中での使用によってもたらすことができる。
【0260】
無菌の注射可能な溶液は、必要な量の活性化合物を適切な溶媒の中に、必要に応じて、上に列挙した種々の他の成分とともに組み入れ、その後ろ過滅菌することによって調製される。一般に、分散媒はさまざまな滅菌活性成分を、基礎の分散媒および上に列挙したものより必要とされるその他の成分を含む無菌の媒体の中に組み入れることによって調製される。無菌の注射可能な溶液の調製用の無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、活性成分に加え任意の付加的な望ましい成分の粉末を、予めろ過滅菌されたその溶液から得る真空乾燥および凍結乾燥技術である。
【0261】
本発明による組成物の投与は、典型的には、任意の共通の経路によるであろう。これには、経口投与、鼻腔投与または口腔投与が含まれるが、これらに限定されることはない。あるいは、投与は同所性の、皮内の、皮下の、筋肉内の、腹腔内の、鼻腔内の、または静脈内の注射によるものであってもよい。ある種の態様において、ワクチン組成物は吸入することができる(例えば、参照により具体的に組み入れられる米国特許第6,651,655号)。そのような組成物は、通常、薬理学的に許容される担体、緩衝液または他の賦形剤を含む薬学的に許容される組成物として投与される。本明細書において用いられる場合、「薬学的に許容される」という用語は、正しい医学的判断の範囲内にあり、妥当な損益比に応じて過度の毒性、刺激、アレルギー反応、またはその他の問題もしくは合併症なしにヒトおよび動物の組織と接触させて用いるのに適した化合物、材料、組成物、および/または剤形をいう。「薬学的に許容される担体」という用語は、化学剤の運搬または輸送に関わる、液体もしくは固体の増量剤、希釈剤、賦形剤、溶媒または封入材料のような、薬学的に許容される材料、組成物または媒体を意味する。
【0262】
水溶液での非経口投与の場合、例えば、溶液を、必要ならば、適当に緩衝化し、液体希釈剤を最初に、十分な生理食塩水またはグルコースを用いて等張にしなければならない。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内投与のために特に適している。これに関連して、利用できる無菌水性媒体は、本開示に照らして当業者に公知であろう。例えば、一投与量を等張NaCl溶液に溶解し、皮下注入液に加えるか、または提案される注入部位に注射してもよい(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 1990を参照のこと)。若干の投与量のばらつきは被験体の状態に応じて必然的に生じると考えられる。いずれにしても、投与責任者が個々の被験体に適した用量を判定すると考えられる。
【0263】
治療用または予防用組成物の有効量は、意図する目的に基づいて判定される。「単位用量」または「投与量」という用語は、被験体での使用に適した物理的に異なる単位をいうが、各単位はその投与、すなわち、適切な経路および投与計画に関連する上記の所望の反応を生じるように算出された所定の量の組成物を含有する。処置回数および単位用量の両方によって投与される量は、望まれる防御に依る。
【0264】
また、組成物の的確な量は医師の判断に依り、各個体に特有のものである。用量に影響する要因には、被験体の身体的および臨床的状態、投与経路、意図する処置の目的(症状の緩和対治癒)、ならびに特定の組成物の効力、安定性および毒性が含まれる。
【0265】
処方によって、溶液は、投与量処方物と適合する様式でおよび治療的にまたは予防的に有効であるような量で投与される。処方物は上記の注射可能な溶液のタイプなどの、種々の投与量形態で容易に投与される。
【0266】
I. インビトロ、エクスビボまたはインビボ投与
本明細書において用いられる場合、インビトロ投与という用語は、培養細胞を含むが、これに限定されない、被験体から取り出されたまたは被験体の体外の細胞に対して行われる操作をいう。エクスビボ投与という用語は、インビトロにおいて操作されており、その後で、被験体に投与される細胞をいう。インビボ投与という用語は、被験体の体内で行われる全ての操作を含む。
【0267】
本発明のある種の局面において、組成物はインビトロで、エクスビボで、またはインビボで投与することができる。ある種のインビトロの態様において、自己Bリンパ球細胞株を、本発明のウイルスベクターと24〜48時間インキュベートするか、変種SpAおよび/もしくはコアグラーゼならびに/または本明細書において記述されるその他任意の組成物と2時間インキュベートする。次いで形質導入細胞を、インビトロでの分析に、あるいはエクスビボ投与に用いることができる。ともに参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,690,915号および同第5,199,942号には、治療用途で用いるための血中単核細胞および骨髄細胞のエクスビボ操作のための方法が開示されている。
【0268】
J. 抗体および受動免疫
本発明の別の局面は、レシピエントまたはドナーを本発明のワクチンで免疫する段階およびレシピエントまたはドナーから免疫グロブリンを単離する段階を含む、ブドウ球菌感染の予防または処置で用いる免疫グロブリンを調製する方法である。この方法によって調製される免疫グロブリンは、本発明のさらなる局面である。本発明の免疫グロブリンおよび薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物は、ブドウ球菌疾患の処置または予防のための薬物の製造において使用できる本発明のさらなる局面である。本発明の薬学的調製物の有効量を患者に投与する段階を含むブドウ球菌感染の処置または予防のための方法は、本発明のさらなる局面である。
【0269】
ポリクローナル抗体の産生のための接種材料は、典型的には、抗原組成物を、生理食塩水またはヒトへの使用に適した他のアジュバントなどの生理学的に許容される希釈剤に分散させて、水性組成物を形成することにより調製される。免疫刺激量の接種材料を哺乳類に投与し、接種を受けた哺乳類をその後、抗原組成物が防御抗体を誘導するのに十分な時間維持する。
【0270】
この抗体を親和性クロマトグラフィーなどの周知の技術によって所望とされる程度まで単離することができる(Harlow and Lane, 1988)。抗体には、種々の一般に用いられる動物、例えば、ヤギ、霊長類、ロバ、ブタ、ウマ、モルモット、ラット、またはヒト由来の抗血清調製物を含めることができる。
【0271】
本発明によって産生される免疫グロブリンは、全抗体、抗体断片または抗体小断片を含むことができる。抗体は、いずれかのクラス(例えば、IgG、IgM、IgA、IgDまたはIgE)の全免疫グロブリン、キメラ抗体または本発明の二種もしくはそれ以上の抗原に対して二重特異性を有するハイブリッド抗体であることができる。それらはハイブリッド断片を含む断片(例えば、F(ab')2、Fab'、Fab、Fvなど)であってもよい。免疫グロブリンはまた、特異的な抗原と結合して複合体を形成することにより抗体のように作用する、天然タンパク質、合成タンパク質または遺伝子操作されたタンパク質も含む。
【0272】
本発明のワクチンをレシピエントに投与することができ、このレシピエントが、特定のワクチンによる曝露に応じて産生される免疫グロブリンの供給源として働く。このようにして処置された被験体は、従来の血漿分画法によって過免疫グロブリンが得られうる血漿を提供するであろう。過免疫グロブリンは、ブドウ球菌感染に対する耐性を与えるためにまたはブドウ球菌感染を処置するために別の被験体に投与されよう。本発明の過免疫グロブリンは、幼児、免疫不全個体におけるブドウ球菌疾患の処置もしくは予防に特に有用であり、または処置が必要とされ、かつワクチン接種に応じて抗体を産生する時間が個体にない場合に特に有用である。
【0273】
本発明のさらなる局面は、グラム陽性細菌、好ましくはブドウ球菌、より好ましくは黄色ブドウ球菌または表皮ブドウ球菌による感染を処置または予防するために使用できる、本発明の免疫原性組成物の少なくとも二つの構成要素に対して反応性の二種またはそれ以上のモノクローナル抗体(またはその断片; 好ましくはヒトまたはヒト化モノクローナル抗体)を含む薬学的組成物である。このような薬学的組成物は、本発明の二種またはそれ以上の抗原に対して特異性を有するいずれかのクラスの全免疫グロブリン、キメラ抗体またはハイブリッド抗体でありうるモノクローナル抗体を含む。それらはハイブリッド断片を含む断片(例えば、F(ab')2、Fab'、Fab、Fvなど)であってもよい。
【0274】
モノクローナル抗体を作出する方法は、当技術分野において周知であり、脾細胞と骨髄腫細胞との融合を含むことができる(Kohler and Milstein, 1975; Harlow and Lane, 1988)。あるいは、適当なファージディスプレイライブラリをスクリーニングすることによってモノクローナルFv断片を得ることもできる(Vaughan et al., 1998)。モノクローナル抗体は、公知の方法によってヒト化され、または部分的にヒト化されてもよい。
【実施例】
【0275】
VII. 実施例
以下の実施例は、本発明のさまざまな態様を例証する目的で与えられており、いかなる形においても本発明を限定することを意図するものではない。本発明は本明細書の中にある目標、目的および利点のほかに、言及されている、目標を実行するために、かつ目的および利点を得るために十分に適していることを当業者は容易に理解するであろう。本実施例は、本明細書において記述される方法とともに、目下、好ましい態様を代表するものであり、例示するものであり、本発明の範囲に対する限定と意図するものではない。その変更および特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨のなかに包含されるその他の用途が、当業者には思い浮かぶであろう。
【0276】
実施例1 黄色ブドウ球菌感染を予防するためのサブユニットワクチンとしての毒素非産生性プロテインA変種
黄色ブドウ球菌感染の動物モデル
BALB/cマウスに静脈内注射によって1×10
7 CFUのヒト臨床分離株の黄色ブドウ球菌Newmanを感染させた(Baba et al., 2007)。感染後6時間以内に、99.999%のブドウ球菌が血流から消失し、脈管構造を介して行き渡った。末梢組織へのブドウ球菌の播種は、腎臓および他の末梢器官組織における細菌負荷が最初の3時間以内に1×10
5 CFU g
-1に達したことから、急速に起こった。腎臓組織におけるブドウ球菌の負荷は、24時間以内に1.5 log CFU増加した。感染から48時間後に、マウスはヘマトキシリン・エオシン染色し、薄切片にした腎臓組織の光学顕微鏡検査によって検出可能な、多器官における播種性膿瘍を発現した。初期の膿瘍直径は524 μM (± 65 μM)であった。病変部は病初では多形核白血球(PMN)の流入が目立ち、識別可能なブドウ球菌組織化がなく、その大部分はPMN内に存在するものと思われた。感染5日目に、膿瘍はサイズが増大し、好酸球性の無形性物質の層および大きなPMNカフで囲まれた、中心のブドウ球菌集団を含んでいた。病理組織診断によって、膿瘍病変部の中心にあるブドウ球菌巣のすぐ近くでのPMNの大量壊死および一面の正常食細胞が明らかになった。正常腎組織を病変部と区別する好酸球性の無形性物質に隣接する、膿瘍病変部周辺の壊死PMNの縁が観察された。膿瘍は15または36日目に≧ 1,524 μMの直径に最終的に達した。もっと後の時間間隔で、ブドウ球菌負荷は10
4〜10
6 CFU g
-1まで増大し、成長中の膿瘍病変部は器官被膜の方へ移動した。末梢病変部は裂けやすく、それによって壊死物質およびブドウ球菌を腹膜腔または後腹膜腔へ放出した。これらの事象は菌血症および膿瘍の第二波を引き起こし、最終的には致死的転帰を招いた。
【0277】
腎組織における細菌負荷を数え上げるために、動物を殺処理し、その腎臓を切除し、コロニー形成のため組織ホモジネートを寒天培地上に広げた。感染5日目に、黄色ブドウ球菌Newmanに対して平均1×10
6 CFU g
-1腎組織が観察された。膿瘍形成を定量化するために、腎臓を目視検査し、各個々の器官に1または0のスコアをつけた。最終の合計を腎臓の総数で割って表面膿瘍の割合を計算した(表3)。さらに、無作為に選択した腎臓をホルマリン中で固定し、包埋し、薄片を作り、およびヘマトキシリン・エオシンで染色した。腎臓ごとに、200 μMの間隔で4枚の矢状切片を顕微鏡で見た。病変部の数を切片ごとにカウントし平均して、腎臓内の膿瘍の数を定量化した。黄色ブドウ球菌Newmanは腎臓あたり4.364±0.889個の膿瘍を引き起こし、腎臓20個のうち14個(70%)で表面膿瘍が観察された(表3)。
【0278】
走査電子顕微鏡法によって調べた場合、黄色ブドウ球菌Newmanは、膿瘍の中心にある密に結び付いた菌叢に位置していた。ブドウ球菌は、細菌を膿瘍白血球のカフから分離していた無定形の偽被膜に被包されていた。これら中心のブドウ球菌巣の中に免疫細胞は認められなかったが、時折、赤血球が細菌の間に位置していた。ブドウ球菌膿瘍群集(SAC)と名付けた、膿瘍中心の細菌集団は、均質に見え、電子密度の高い顆粒状物質によって被膜されていた。感染病変部の外観の動態および黄色ブドウ球菌Newmanによって形成された膿瘍の形態的特質は、黄色ブドウ球菌USA300 (LAC)、つまり米国において現在まん延している市中獲得型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(CA-MRSA)クローン(Diep et al., 2006)によるマウスの感染後に観察されたものに類似していた。
【0279】
(表3) マウスにおける黄色ブドウ球菌Newmanの膿瘍形成に対する遺伝的要件
a攻撃菌株あたりBALB/cマウス15匹のコホートにおいて感染から5日後のホモジナイズ腎組織でlog
10 CFU g
-1として計算されたブドウ球菌負荷の平均。平均の標準誤差(±SEM)が示してある。
b統計的有意性をスチューデントt検定で計算し、P値を記録した; P値<0.05を有意と見なした。
clog
10 CFU g
-1として計算された細菌負荷の低下。
d感染から5日後の腎臓組織における膿瘍形成を巨視的検査(陽性%)によって測定した。
e動物8〜10匹からヘマトキシリン・エオシン染色し、薄切片にした腎臓の病理組織診断; 腎臓あたりの平均膿瘍数を記録し、最終平均(±SEM)を目的に再び平均化した。
f統計的有意性をスチューデントt検定で計算し、P値を記録した。P値<0.05を有意と見なした。
【0280】
黄色ブドウ球菌プロテインA (spa)変異体は非病原性であり、膿瘍を形成しえない
ソルターゼAは、黄色ブドウ球菌株Newmanの外膜中に19種の表面タンパク質を固定化するトランスペプチダーゼである(Mazmanian et al., 1999; Mazmanian et al., 2000)。以前の研究では、多数の動物モデル系においてソルターゼAを病毒性因子と同定しているが、膿瘍の形成または存続へのこの酵素およびその固定表面タンパク質の寄与はまだ明らかにされていない(Jonsson et al., 2002; Weiss et al., 2004)。野生型の親株と比べて(Baba et al., 2007)、同質遺伝子srtA変種(ΔsrtA)は2、5または15日目に肉眼検査または病理組織学的検査のいずれに関しても膿瘍病変部を形成できなかった。strA変異体に感染したマウスでは、感染5日目に腎臓組織から1×10
4 CFU g
-1しか回収されず、これは野生型の親株と比べて2.046 log
10 CFU g
-1の低下である(P=6.73×10
-6)。類似の欠陥はMRSA株USA300のsrtA変異体にも観察された(データ不掲載)。走査電子顕微鏡法から、srtA変異体が、その他の点では健常な腎組織において高度に分散し、多くの場合、白血球と結び付いていることが示された。感染後15日目に、srtA変異体は、腎組織から除去され、野生型と比べて≧ 3.5 log
10 CFU g
-1の低下であった(表3)。このように、ソルターゼA固定表面タンパク質は、宿主組織において膿瘍病変部の形成および細菌の存続を可能にし、その場所でブドウ球菌は、細胞外マトリックスに埋め込まれ、かつ無定形の偽被膜により周囲の白血球から保護された群集として複製する。
【0281】
ソルターゼAは、LPXTGモチーフ選別シグナルを有する広範なタンパク質を細胞壁外膜に固定し、それによって多くの病毒性因子の表面提示を可能にする(Mazmanian et al., 2002)。ブドウ球菌膿瘍形成に必要な表面タンパク質を同定するために、LPXTGモチーフタンパク質を有するポリペプチドをコードする遺伝子の5'コード配列の中にブルサアウレアリス(bursa aurealis)の挿入を導入し(Bae et al., 2004)、これらの変異を黄色ブドウ球菌Newmanへ形質導入した。プロテインAに対する構造遺伝子(spa)における変異は感染マウス腎臓組織におけるブドウ球菌負荷を1.004 log
10 (P=0.0144)低減した。本発明者らは、腎臓組織での膿瘍形成能を組織病理診断によって分析した場合に、spa変異体が野生型親菌株の黄色ブドウ球菌Newmanと比べて膿瘍を形成しえないことを認めた(野生型黄色ブドウ球菌Newmanでは腎臓あたり4.364±0.889個の膿瘍 vs 同質遺伝子spa変異体では0.375±0.374個の病変部あり; P = 0.0356)。
【0282】
プロテインAは先天性および適応性免疫反応を遮断する
研究によって、プロテインAは黄色ブドウ球菌感染の発病の間の重要な病毒性因子と特定された。以前の取り組みによって、プロテインAは、免疫グロブリンのFc成分に結合することによりブドウ球菌の食作用を妨害し(Jensen 1958; Uhlen et al., 1984)、フォンウィルブランド因子を介して血小板凝集を活性化し(Hartleib et al., 2000)、VH3を持つIgMのF(ab)
2領域を捕捉することによりB細胞超抗原として機能し(Roben et al., 1995)、および、そのTNFR1活性化を通じて、ブドウ球菌性肺炎を引き起こしうる(Gomez et al., 2004)ことが実証された。プロテインAが免疫グロブリンを捕捉し、有毒な特質を呈するという事実によって、この表面分子がヒトでのワクチンとして機能しうる可能性は厳密には追求されてこなかった。本発明者らは初めて、プロテインA変種が免疫グロブリンにもはや結合できず、vWFおよびTNFR-1はその毒素産生能が取り除かれ、ブドウ球菌疾患を防御する体液性免疫反応を刺激しうることを実証する。
【0283】
プロテインA表面提示および機能の分子基盤
プロテインAは、細菌細胞質中で前駆体として合成され、そのYSIRKシグナルペプチドを介して隔壁、すなわち、ブドウ球菌の細胞分裂隔壁の位置で分泌される(
図1A) (DeDent et al., 2007; DeDent et al., 2008)。C末端LPXTG選別シグナルの切断の後、プロテインAはソルターゼAによって細菌ペプチドグリカン架橋に固定される(Schneewind et al., 1995; Mazmanian et al., 1999; Mazmanian et al., 2000)。プロテインAは最も豊富なブドウ球菌表面タンパク質である; この分子はほぼ全ての黄色ブドウ球菌株によって発現される(Said-Salim et al., 2003; Cespedes et al., 2005; Kennedy et al., 2008)。ブドウ球菌は分裂周期1回につきその細胞壁の15〜20%を代謝する(Navarre and Schneewind 1999)。ネズミヒドロラーゼはペプチドグリカンのグリカン鎖および壁ペプチドを切断し、それにより、付着されたC末端細胞壁二糖類テトラペプチドを有するプロテインAを細胞外培地へ放出する(Ton-That et al., 1999)。このように、生理学的デザインによって、プロテインAは細胞壁に固定もされ、細菌表面に提示もされるが、宿主感染の間に周辺組織中に放出もされる(Marraffini et al., 2006)。
【0284】
プロテインAは免疫グロブリンを細菌表面に捕捉し、この生化学的活性によって宿主先天性および後天性免疫反応からのブドウ球菌による回避が可能とされる(Jensen 1958; Goodyear and Silverman 2004)。興味深いことに、プロテインAの領域X (Guss et al., 1984)、つまりLPXTG選別シグナル/細胞壁アンカーにIgG結合ドメインをつなぎ止める繰り返しドメインは、おそらく、ブドウ球菌ゲノムのなかで最も可変的な部分である(Schneewind et al., 1992; Said-Salim et al., 2003)。3つのヘリックスバンドルから形成され、E、D、A、BおよびCと命名された、プロテインA (SpA)の5つの免疫グロブリン結合ドメインの各々が類似の構造的および機能的特性を及ぼす(Sjodahl 1977; Jansson et al., 1998)。プロテインAに異なる部位で非競合的に結合するFcおよびV
H3 (Fab)リガンドの有る状態でも無い状態でも、ドメインDの溶液・結晶構造が解析されている(Graille et al., 2000)。
【0285】
結晶構造複合体において、Fabは、4本のVH領域β鎖から構成される表面を介してドメインDのヘリックスIIおよびヘリックスIIIと相互作用する(Graille et al., 2000)。ドメインDのヘリックスIIの主軸は鎖の方向に対しておよそ50°であり、ドメインDのヘリックス間部分はC0鎖の最も近位にある。Fab上の相互作用の部位は、Ig軽鎖および重鎖定常領域から離れている。この相互作用には以下のドメインD残基が含まれる: SpA-Dによるいくつかの他の残基に加えて、ヘリックスIIのAsp-36ならびにヘリックスIIとヘリックスIIIとの間のループ中のAsp-37およびGln-40 (Graille et al., 2000)。どちらの相互作用表面も、極性側鎖から主に構成されており、相互作用によってドメインD上の3つの陰性荷電残基および2A2 Fab上の2つの陽性荷電残基が沈み込み、二分子間の全体的な静電気引力をもたらす。FabとドメインDとの間で特定された5つの極性相互作用のうち、3つが側鎖間である。塩橋がArg-H19とAsp-36との間で形成され、二つの水素結合がTyr-H59とAsp-37との間でおよびAsn-H82aとSer-33との間で作出される。プロテインAの全5つのIgG結合ドメインにおけるAsp-36およびAsp-37の保存を理由に、これらの残基を突然変異誘発のために選択した。
【0286】
Fab結合に関わるSpA-D部位は、Fcγ結合を媒介するドメイン表面から構造的に離れている。FcγとドメインBとの相互作用には主に、ヘリックスI中の残基が関与し、ヘリックスIIの関与はもっと低い(Deisenhofer 1981; Gouda et al., 1992)。両方の複合体における接触面積の狭い界面のGln-32を除いて、Fcγ相互作用を媒介する残基のどれもFab結合には関与しない。これらの異なるIg結合部位の間の空間関係を調べるため、これらの複合体におけるSpAドメインを重ね合わせてFab、SpA-ドメインDおよびFcγ分子の間の複合体のモデルを構築した。この三成分モデルにおいて、FabおよびFcγはいずれの相互作用の立体障害の証拠なしにヘリックスIIの反対面周囲にサンドイッチを形成する。これらの所見は、SpAドメインが、その小さなサイズ(すなわち、56〜61 aa)にもかかわらず、いかにして両方の活性を同時に示しうるかを例証し、Fabと個々のドメインとの相互作用が非競合的であるという実験的証拠を説明している。SpA-DとFcγとの間の相互作用のための残基はGln-9およびGln-10である。
【0287】
対照的に、ドメインD上でのIgGのFc部分の占有によって、vWF A1およびおそらく同様にTNFR1とのその相互作用が遮断される(O'Seaghdha et al., 2006)。IgG Fc結合に不可欠な残基(F5、Q9、Q10、S11、F13、Y14、L17、N28、I31およびK35)における変異はまた、vWF A1およびTNFR1の結合に必要である(Cedergren et al., 1993; Gomez et al., 2006; O'Seaghdha et al. 2006)のに対し、V
H3相互作用に極めて重要な残基(Q26、G29、F30、S33、D36、D37、Q40、N43、E47)はIgG Fc、vWF A1またはTNFR1の結合活性に影響を与えない(Jansson et al., 1998; Graille et al., 2000)。プロテインA免疫グロブリンFab結合活性は、表面にVH3ファミリー関連のIgMを発現するB細胞のサブセットを標的とし、すなわちこれらの分子はVH3型B細胞受容体として機能する(Roben et al., 1995)。SpAとの相互作用によって、これらのB細胞は素早く増殖し、次いでアポトーシスに傾倒し、先天性様Bリンパ球(すなわち、辺縁帯B細胞および濾胞性B2細胞)の選択的かつ持続的欠失を引き起こす(Goodyear and Silverman 2003; Goodyear and Silverman 2004)。40%超の循環血中B細胞がプロテインA相互作用により標的化され、VH3ファミリーが、病原菌に対する防御体液性反応を与える最も大きなファミリーのヒトB細胞受容体に相当することに留意するのは重要である(Goodyear and Silverman 2003; Goodyear and Silverman 2004)。かくして、プロテインAはブドウ球菌超抗原に対しても同じように機能する(Roben et al., 1995)が、これは後者のクラスの分子、例えばSEB、TSST-1、TSST-2がT細胞受容体と複合体を形成して宿主免疫反応を不適切に刺激し、それによってブドウ球菌感染に特有の疾患特徴を誘発するにもかかわらずである(Roben et al., 1995; Tiedemann et al., 1995)。総合して、これらの所見はブドウ球菌感染の樹立でのおよび宿主免疫反応の調節でのプロテインAの寄与を立証するものである。
【0288】
毒素非産生性プロテインA変種
本発明者らは、ブドウ球菌プロテインAの毒素非産生性の変種を開発し、この試薬を手にして、初めて、プロテインA免疫に対する動物の免疫反応を測定することを目標とした。さらに、本発明者らは、毒素非産生性プロテインA変種による動物の免疫が、ブドウ球菌感染に対する防御免疫を高める免疫反応を生じうるかどうかについて取り組む。
【0289】
プロテインAのIgG Fc、vWF A1およびTNFR1結合活性を撹乱するために、グルタミン(Q)残基番号9および10 [ここで付番はSpAドメインDに対して設定されたものに由来する]を、両方のグルタミンに代えてリジンまたはグリシンを用いて、修飾し、これらの置換が、野生型プロテインAとそのリガンドとの間で形成されるイオン結合をなくすことを期待した。二重のリジン置換の相加的効果は、これらの正電荷を持つ残基が反発性の電荷を免疫グロブリンに導入するということでありうる。IgM Fab VH3結合を撹乱するために、本発明者らは、各々がプロテインAとB細胞受容体との結合に必要な、SpA-Dのアスパラギン酸(D)残基番号36および37を選択した。D36およびD37をアラニンでともに置換した。Q9、10KおよびD36、37A置換を組み換え分子SpA-D
Q9,10K;D36,37Aにおいて組み合わせ、プロテインAの結合特性について調べた。
【0290】
手短に言えば、黄色ブドウ球菌N315のプロテインA (spa)ゲノム配列をプライマー
でPCR増幅し、pET15bベクター(pYSJ1, コドン番号48-486)にクローニングし(Stranger-Jones, et al., 2006)、組み換えプラスミドを大腸菌BL21(DE3)に形質転換した(Studier et al., 1990)。pYSJ1由来のプロテインA産物は、N末端Hisタグ(MGSSHHHHHHSSGLVPRGS (SEQ ID NO:37))に融合されたSpA残基番号36-265を持つ。IPTG誘導発現の後、組み換えN末端His
6タグ付きSpAをNi-NTA樹脂上でのアフィニティークロマトグラフィーによって精製した(Stranger-Jones et al., 2006)。SpAのドメインD (SpA-D)を特異的プライマーの対
でPCR増幅し、pET15bベクター(pHAN1, spaコドン番号212-261)にサブクローニングし、組み換えプラスミドを大腸菌BL21(DE3)に形質転換して組み換えN末端His
6タグ付きタンパク質を発現させ、精製した。SpA-Dコード配列における変異を作出するために、二本のプライマー対のセットを合成した(DからAへの置換の場合には:
; QからKへの置換の場合には
; QからGへの置換の場合には
。
プライマーをquick-change突然変異誘発プロトコルに用いた。突然変異誘発の後、DNA配列を組み換えタンパク質: SpA、SpA-DならびにSpA-D
Q9,10G;D36,37AおよびSpA-D
Q9,10K;D36,37Aの各々について確認した。タンパク質は全て、Ni-NTAクロマトグラフィーを用いて組み換え大腸菌の溶解物から精製し、その後、PBSに対して透析し、4℃で貯蔵した。
【0291】
免疫グロブリンとプロテインAおよびその変種との結合を測定するために、精製タンパク質200 μgを、カラム用緩衝液(50 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, pH7.5)を用いて1 mlの容量に希釈し、次いで、予め平衡化されたNi-NTAカラム(1 mlのベッド容量)に添加した。カラムをカラム用緩衝液10 mlで洗浄した。精製ヒトIgG 200 μgを全量1 mlのカラム用緩衝液に希釈し、次いでプロテインAおよびその変種を充填したカラムの各々にアプライした。カラムをその後、洗浄用緩衝液(カラム用緩衝液中10 mMのイミダゾール) 5 mlおよびカラム用緩衝液5 mlで洗浄した。タンパク質サンプルを溶出用緩衝液(カラム用緩衝液中500 mMのイミダゾール) 2 mlで溶出し、画分を回収し、アリコットをSDS-PAGEゲル電気泳動に供し、引き続いてクマシーブルー染色を行った。
図1Cに示されるように、野生型プロテインA (SpA)およびそのSpA-ドメインDはともに、クロマトグラフィーの間に免疫グロブリンを保持した。対照的に、SpA-D
Q9,10K;D36,37A変種は免疫グロブリンに結合しなかった。
【0292】
プロテインAおよびその変種と免疫グロブリンのFc部分およびFabのVH3ドメインとの結合を定量化するために、HRP結合されたヒト免疫グロブリンG [hIgG]、ヒトIgGのFc部分[hFc]およびヒトIgGのF(ab)
2部分[hF(ab)
2]ならびにELISAアッセイ法を用いて、プロテインAおよびその変種との相対的な結合量を定量化した。
図1D中のデータは、SpAおよびSpA-DとhIgGおよびhFcとの結合を実証するのに対し、SpA-D
Q9,10G;D36,37AおよびSpA-D
Q9,10K;D36,37Aはバックグラウンドの結合活性しか示さなかった。SpAは類似の量のhFcおよびhF(ab)
2を結合したが、SpA-DとhF(ab)
2との結合は全長SpAと比べて低減された。この結果は、複数のIgG結合ドメインの存在がB細胞受容体に結合するプロテインAの能力を協調的に増大しうることを示唆している。hF(ab)
2に対するSpA-Dの結合力の低減と比べた場合、二つの変種のうちSpA-D
Q9,10K;D36,37Aだけが免疫グロブリンのVH3ドメインを結合する能力の顕著な低減を示した。SpA-Dおよびその変種の毒素産生特性について調べるために、精製タンパク質をマウスに注射し、これを4時間後に殺処理してその脾臓を切除した。器官組織をホモジナイズし、莢膜物質を除去し、B細胞を蛍光CD19抗体で染色した。脾臓組織中のB細胞の存在量を定量化するFACS分析を受けて、SpA-Dが、モック(PBS)対照と比べてB細胞数の5%の減少を引き起こすことが認められた(
図1E)。対照的に、SpA-D
Q9,10K;D36,37AはB細胞数の低減を引き起こさず、変異体分子がB細胞増殖および死を刺激するというその毒素産生特性を喪失したことを示すものであった(
図1E)。要約すれば、SpA-D残基Q9、Q10、D36およびD37におけるアミノ酸置換は、プロテインAドメインが免疫グロブリンを結合する能力またはヒトおよび動物組織において毒素産生機能を及ぼす能力をなくした。
【0293】
毒素非産生性プロテインA変種はワクチン防御を誘発する
プロテインAおよびその変種がワクチン抗原として機能できるかどうか試験するために、SpA、SpA-D、SpA-D
Q9,10K;D36,37AおよびSpA-D
Q9,10K;D36,37Aを完全または不完全フロインドアジュバントで乳化し、1日目および11日目に精製タンパク質50 μgで4週齢のBALB/cマウスに免疫した。免疫スケジュールの前(0日目)および後(21日目)に動物から採血することにより免疫に対する体液性免疫反応について動物のコホート(n=5)を分析した。表4は、免疫されたマウスが野生型プロテインAまたはそのSpA-Dモジュールに対する体液性免疫反応をわずかしか生じなかったのに対し、SpA-D
Q9,10K;D36,37AまたはSpA-D
Q9,10K;D36,37Aによる免疫の後に引き起こされた抗体の量が4〜5倍に増えたことを示す。1×10
7 CFUの黄色ブドウ球菌Newmanによる静脈内攻撃の後、動物を4日目に殺処理し、その腎臓を切除し、(組織ホモジネートを寒天プレート上にプレーティングし、コロニー形成単位CFUを数え上げることにより)ブドウ球菌負荷または組織病理診断のいずれかについて分析した。予想通り、モック(PBS)免疫マウス(n=19)は腎臓組織において6.46 log
10 (±0.25)のCFUを持ち、感染病変部は器官あたり膿瘍3.7 (±1.2)個(n=10)へと組織化された(表4)。SpAによる動物の免疫は5日目に2.51 log
10のCFUの低減(P=0.0003)をもたらし、器官あたりの膿瘍は2.1 (±1.2)個となった。後者のデータは、膿瘍形成に有意な低減がなかった(P=0.35)ことを示している。SpA-Dによる免疫は類似の結果: 5日目に2.03 log
10のCFUの低減(P=0.0001)をもたらし、器官あたりの膿瘍は1.5 (±0.8)個(P=0.15)となった。対照的に、SpA-D
Q9,10K;D36,37AまたはSpA-D
Q9,10G;D36,37Aによる免疫は、防御の増大を生み出し、4日目に、それぞれ、3.07 log
10および3.03 log
10のCFUの低減を伴った(どちらの観察結果についても統計的有意性P<0.0001)。さらに、SpA-D
Q9,10K;D36,37AおよびSpA-D
Q9,10G;D36,37Aの両方による免疫は、器官あたり0.5 (±0.4)および0.8 (±0.5)個の感染病変部(P=0.02およびP=0.04)しか特定されなかったので、ブドウ球菌膿瘍形成からの顕著な防御を生じた。このように、毒素非産生性プロテインA変種による免疫は、プロテインAに対する体液性免疫反応の増大を生じ、ブドウ球菌の攻撃に対する防御免疫を与える。これらのデータは、プロテインAが、黄色ブドウ球菌疾患を予防するヒトワクチンの理想的な候補であることを示している。
【0294】
これらの刺激的な結果は、ヒトワクチンのデザインにいくつかの影響がある。第一に、単独でまたは二つもしくはそれ以上のドメインの組み合わせで、プロテインAの免疫グロブリン結合ドメインの能力に影響を与える置換変異の作出は、ワクチンの開発に適した毒素非産生性の変種を作出することができる。プロテインAの構造に酷似している変異体IgG結合ドメインの組み合わせは、SpA-ドメインD単独の場合に本明細書で報告されるようにさらに良好な体液性免疫反応を生み出せる可能性が高いように思われる。さらに、プロテインA特異的抗体の、可能性が高い特性は、抗原結合部位と微生物表面との相互作用によって、ブドウ球菌が免疫グロブリンを、そのFc部分を介して捕捉する能力またはB細胞受容体を、VH3結合活性を介して刺激する能力を中和できるということでありうる。
【0295】
(表4) 黄色ブドウ球菌疾患を予防するワクチン抗原としての毒素非産生性プロテインA変種
aBALB/cマウス18〜20匹のコホートにおいて感染から4日後のホモジナイズ腎組織でlog
10 CFU g
-1として計算されたブドウ球菌負荷の平均。平均の標準誤差(±SEM)が示してある。
c統計的有意性をスチューデントt検定で計算し、P値を記録した; P値 <0.05を有意と見なした。
blog
10 CFU g
-1として計算された細菌負荷の低下。
d感染から4日後の腎臓組織における膿瘍形成を巨視的検査(陽性%)によって測定した。
e動物10匹からヘマトキシリン・エオシン染色し、薄切片にした腎臓の組織病理診断; 腎臓あたりの膿瘍数を記録し、最終平均(±SEM)を目的に平均化した。
f統計的有意性をスチューデントt検定で計算し、P値を記録した; P値 <0.05を有意と見なした。
SpA-D1およびSpA-D2は、それぞれ、SpA-D
Q9,10K;D36,37AおよびSpA-D
Q9,10G;D36,37Aを表す。
【0296】
ネズミ膿瘍、ネズミ致命的感染およびネズミ肺炎モデルにおけるワクチン防御
三つの動物モデルは黄色ブドウ球菌感染性疾患の研究のために樹立された。これらのモデルをここで用いて、プロテインA特異的抗体の作出を介して提供される防御免疫のレベルを調べる。
【0297】
材料および方法
ネズミ膿瘍
後肢への筋肉内注射により精製タンパク質でBALB/cマウス(24日齢雌性、1群あたりマウス8〜10匹、Charles River Laboratories, Wilmington, MA)を免疫する(Chang et al., 2003; Schneewind et al., 1992)。精製SpA、SpA-DまたはSpA-DQ9、10K;D36、37A (タンパク質50 μg)を0日目(完全フロインドアジュバントで1:1に乳化)および11日目(不完全フロインドアジュバントで1:1に乳化)に投与する。血液サンプルを0、11および20日目に眼窩後部採血によって採血する。特異的なSpA-DおよびSpA-DQ9、10K;D36、37A結合活性に対するIgGの力価についてELISAにより血清を調べる。黄色ブドウ球菌Newmanまたは黄色ブドウ球菌USA300懸濁液(1×10
7 cfu) 100 μlの眼窩後部注射によって21日目に免疫動物を攻撃する。このため、黄色ブドウ球菌Newmanの終夜培養の培養物を新鮮なトリプトソイブロスに100分の1希釈し、37℃で3時間増殖させる。ブドウ球菌を遠心分離し、二回洗浄し、PBS中で希釈してA
600 0.4 (1×10
8 cfu/ml)を得る。寒天上でのプレーティングおよびコロニー形成によって希釈を実験的に検証する。マウスを体重1キログラムあたり80〜120 mgのケタミンおよび3〜6 mgのキシラジンの腹腔内注射によって麻酔し、眼窩後部注射によって感染させる。攻撃後5日目または15日目に、マウスを圧縮CO
2の吸入によって安楽死させる。腎臓を切除し、1% Triton X-100中でホモジナイズする。cfuの3回繰り返しの判定のためアリコットを希釈し、寒天培地上にプレーティングする。組織診断のため、腎臓組織を24時間10%ホルマリン中にて室温でインキュベートする。組織をパラフィン包埋し、薄片にし、ヘマトキシリン・エオシンで染色し、顕微鏡検査する。
【0298】
ネズミ致命的感染
後肢への筋肉内注射により精製SpA、SpA-DまたはSpA-D
Q9、10K;D36、37A (タンパク質50 μg)でBALB/cマウス(24日齢雌性、1群あたりマウス8〜10匹、Charles River Laboratories, Wilmington, MA)を免疫する(Chang et al., 2003; Schneewind et al., 1992)。ワクチンを0日目(完全フロインドアジュバントで1:1に乳化)および11日目(不完全フロインドアジュバントで1:1に乳化)に投与する。血液サンプルを0、11および20日目に眼窩後部採血によって採血する。特異的なSpA-DおよびSpA-D
Q9、10K;D36、37A結合活性を有するIgGの力価についてELISAにより血清を調べる。黄色ブドウ球菌Newmanまたは黄色ブドウ球菌USA300懸濁液(15×10
7 cfu) 100 μlの眼窩後部注射によって21日目に免疫動物を攻撃する(34)。このため、黄色ブドウ球菌Newmanの終夜培養の培養物を新鮮なトリプトソイブロスに100分の1希釈し、37℃で3時間増殖させる。ブドウ球菌を遠心分離し、二回洗浄し、PBS中で希釈してA
600 0.4 (1×10
8 cfu/ml)を得てから、濃縮する。寒天上でのプレーティングおよびコロニー形成によって希釈を実験的に検証する。マウスを体重1キログラムあたり80〜120 mgのケタミンおよび3〜6 mgのキシラジンの腹腔内注射によって麻酔する。2×10
10 cfuの黄色ブドウ球菌Newmanまたは3〜10×10
9 cfuの臨床黄色ブドウ球菌分離株での腹腔内注射によって21日目に免疫動物を攻撃する。動物を14日間モニタリングし、致命的疾患を記録する。
【0299】
ネズミ肺炎モデル
黄色ブドウ球菌株NewmanまたはUSA300 (LAC)をOD
660 0.5までトリプトソイブロス/寒天中にて37℃で増殖させる。50 mlの培養物アリコットを遠心分離し、PBS中で洗浄し、死亡率研究の場合にはPBS 750 μl (容量30 μlあたり3〜4×10
8 CFU)に懸濁し、または細菌負荷および組織病理学的実験の場合にはPBS 1,250 μl (容量30 μlあたり2×10
8 CFU)に懸濁する(2, 3)。肺感染のため、7週齢のC57BL/6Jマウス(The Jackson Laboratory)を左鼻孔への黄色ブドウ球菌懸濁液30 μlの植菌の前に麻酔する。動物を回復のために背臥位で檻の中に入れ、14日間観察する。能動免疫の場合、4週齢のマウスに0日目にCFA中20 μgのSpA-DまたはSpA-D
Q9,10K;D36,37Aを筋肉内経路を介して投与し、引き続き10日目に不完全フロインドアジュバント(IFA)中20 μgのSpA-DまたはSPA-D
Q9,10K;D36,37Aで追加免疫を行う。21日目に黄色ブドウ球菌で動物を攻撃する。血清を免疫前におよび20日目に回収して、特異的抗体の産生を評価する。受動免疫試験の場合、7週齢のマウスに攻撃24時間前に腹腔内注射を介してNRS (正常ウサギ血清)またはSpA-D特異的なウサギ抗血清のいずれか100 μlを投与する。肺炎の病理的相関を評価するために、両肺の除去前に強制CO
2吸入によって感染動物を殺処理する。肺細菌負荷の計数のために右肺をホモジナイズする。左肺を1%ホルマリンに入れ、パラフィン包埋し、薄片にし、ヘマトキシリン・エオシンで染色し、顕微鏡検査する。
【0300】
ウサギ抗体
精製されたSpA-DまたはSpA-D
Q9,10K;D36,37A 200 μgをウサギ抗血清の産生用の免疫原として用いる。0日目の時点で注射用にCFAでタンパク質200 μgを乳化し、引き続き21日目および42日目にIFAで乳化されたタンパク質200 μgで追加免疫を行う。ウサギ抗体の力価をELISAによって判定する。精製抗体をSpA-DまたはSpA-D
Q9,10K;D36,37Aセファロース上でのウサギ血清のアフィニティークロマトグラフィーによって得る。溶出された抗体の濃度をA
280での吸光度によって測定し、特異的抗体の力価をELISAによって測定する。
【0301】
SpA-ドメインD変種による能動免疫
ワクチン効力を判定するために、動物を精製SpA-DまたはSpAD
Q9,10K;D36,37Aで能動免疫する。対照として、動物をアジュバントだけで免疫する。抗原としてSpA-DまたはSpA-D
Q9,10K;D36,37Aを用いてプロテインA調製物に対する抗体の力価を判定する; SpA-D
Q9,10K;D36,37A変種はIgGのFcまたはFab部分を結合できないことに注意する。上記の感染性疾患モデルを用いて、細菌負荷(ネズミ膿瘍および肺炎)のいずれかの低減、ブドウ球菌疾患(ネズミ膿瘍および肺炎)の組織病理学的証拠ならびに致死的疾患(ネズミ致死的攻撃および肺炎)からの防御を測定する。
【0302】
SpA-ドメインD変種に対して作製されたアフィニティー精製ウサギポリクローナル抗体による受動免疫
プロテインA特異的ウサギ抗体の防御免疫を判定するために、マウスを5 mg/kgの精製SpA-DまたはSpA-D
Q9,10K;D36,37A由来ウサギ抗体で受動免疫する。これらの抗体調製物のどちらも、固定化されたSpA-DまたはSpA-D
Q9,10K;D36,37Aを用いたアフィニティークロマトグラフィーによって精製する。対照として、動物をrV10抗体(ブドウ球菌感染の転帰に影響を与えないペスト防御抗原)で受動免疫する。この変種はIgGのFcまたはFab部分を結合できないので、SpA-D
Q9,10K;D36,37Aを抗原として用いて、全てのプロテインA調製物に対する抗体の力価を判定する。上記の感染性疾患モデルを用いて、細菌負荷(ネズミ膿瘍および肺炎)の低減、ブドウ球菌疾患(ネズミ膿瘍および肺炎)の組織病理学的証拠ならびに致死的疾患(ネズミ致死的攻撃および肺炎)からの防御を測定する。
【0303】
実施例2 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染のための毒素非産生性プロテインAワクチン
黄色ブドウ球菌の臨床分離株はプロテインA (Shopsin et al., 1999、その一次翻訳産物はN末端シグナルペプチド(DeDent et al., 2008)、5つのIg-BD (E、D、A、BおよびCと命名された)(Sjodahl, 1977)、8残基ペプチドの可変的反復を有する領域X (Guss et al., 1984)およびSpAの細胞壁固定のためのC末端選別シグナル(Schneewind et al., 1992; Schneewind et al., 1995)から構成される)を発現する(
図1A〜1B)。アミノ酸相同性(Uhlen et al., 1984)、IgBDの三重α-ヘリックスバンドル構造(Deisenhofer et al., 1978; Deisenhofer et al., 1981)およびFab V
H3 (Graille et al., 2000)またはFcγ (Gouda et al., 1998)との原子相互作用による導きで、グルタミン9および10、ならびにアスパラギン酸36および37を、それぞれ、SpAと抗体またはB細胞受容体との結び付きに重要であるとして選択した。置換Gln9Lys、Gln10Lys、Asp36AlaおよびAsp37AlaをDドメインに導入して、SpA-D
KKAAを作出した(
図1B)。ヒトIgGを結合する単離SpA-DまたはSpA-D
KKAAの能力をアフィニティークロマトグラフィーによって分析した(
図1D)。ポリヒスチジンタグ付きSpA-Dおよび全長SpAはヒトIgGをNi-NTA上に保持したのに対し、SpA-D
KKAAおよび陰性対照(SrtA)は保持しなかった(
図1C)。腫瘍壊死因子受容体1 (TNFR1)(Gomez et al., 2004)とともに、グルタミン9および10を介しプロテインAを同様に結合できる、フォンウィルブランド因子(Hartleib et al., 2000)で類似の結果が認められた(
図1D)。ヒト免疫グロブリンは60〜70%のV
H3型 IgGを包含する。本発明者らは、IgのFcドメインおよびB細胞受容体活性化を区別し、ともに全長SpAまたはSpA-Dに結合したが、SpA-D
KKAAに結合しなかった、ヒトFcγおよびF(ab)
2断片の結び付きを測定した(
図1D)。マウスの腹腔内へのSpA-Dの注射はB細胞増加、その後BALB/cマウスの脾臓組織におけるCD19+リンパ球のアポトーシス崩壊を生じた(Goodyear and Silverman, 2003)(
図1E)。B細胞超抗原活性はSpA-D
KKAAによる注射後に認められず、脾臓組織のTUNEL染色では、SpAまたはSpA-Dの注射に続くアポトーシス細胞の増加を検出することができなかった(
図1E)。
【0304】
SpA-D
KKAAに対する抗体はMSSAおよびMRSA感染を防御する
未処置の6週齢BALB/cマウスに、CFA中で乳化された精製SpA、SpA-DまたはSpA-D
KKAA各50 μgを注射し、IFA中で乳化された同じ抗原を追加免疫した。SpA-Dが活性化されたクローン性B細胞集団のアポトーシス崩壊を促進するという仮説に一致して、本発明者らは、B細胞超抗原と比べて毒素非産生性の変種によるマウスの免疫後にSpA-D
KKAA特異的抗体の10倍高い力価を認めた(Spa-D vs. SpA-D
KKAA P <0.0001、表5)。全長SpAによる免疫でもたらされた抗体の力価は、SpA-Dで誘発されたものよりも高く(P=0.0022)、これはこの抗原のいっそう大きなサイズおよび反復ドメイン構造による可能性が高い(表5)。それにもかかわらず、SpAでさえもプロテインA (520残基、SEQ ID NO:33)の50アミノ酸しか含まない、SpA-D
KKAAよりも低い抗体力価を誘発した(P=0.0003)。免疫マウスを黄色ブドウ球菌Newmanでの静脈内接種によって攻撃し、腎組織において膿瘍をまき散らすブドウ球菌の能力を攻撃から4日後に剖検によって調べた。モック(PBS/アジュバント)免疫マウスのホモジナイズ腎組織において、6.46 log
10 CFU g
-1の平均ブドウ球菌負荷が測定された(表5)。SpAまたはSpA-Dによるマウスの免疫は、ブドウ球菌負荷の低下をもたらしたが、SpA-D
KKAAワクチン接種動物は腎組織において黄色ブドウ球菌Newmanのさらに高い、3.07 log
10 CFU g
-1の低下を呈した(P <0.0001、表5)。腎臓における膿瘍形成を組織病理診断によって分析した(
図2)。モック免疫動物は腎臓あたり平均3.7 (±1.2)個の膿瘍を有していた(表5)。SpA-D
KKAAによるワクチン接種は膿瘍の平均数を0.5 (±0.4)(P=0.0204)にまで減らしたのに対し、SpAまたはSpA-Dによる免疫は膿瘍病変部の数の顕著な低下を引き起こさなかった(表5)。SpA-D
KKAAワクチン接種動物由来の病変部はサイズがさらに小さくなり、浸潤PMNがいっそう少なく、ブドウ球菌膿瘍群集を特徴的に欠いていた(Cheng et al., 2009)(
図2)。SpAまたはSpA-Dで免疫されていた動物における膿瘍は、モック免疫動物での同じ全体構造の病変部を呈した(
図2)。
【0305】
本発明者らは、SpA-D
KKAA免疫がMRSA菌株からマウスを防御できるかどうか調べ、動物攻撃用にUSA300 LAC分離株を選択した(Diep et al., 2006)。この強毒性のCA-MRSA菌株は全米中で急速に広まっており、ヒトでの顕著な罹患率および死亡率を引き起こしている(Kennedy et al., 2008)。アジュバント対照マウスと比べて、SpA-D
KKAA免疫動物は感染腎臓組織の細菌負荷の1.07 log
10 CFU g
-1の低下を有していた。黄色ブドウ球菌USA300による攻撃後の腎組織の組織病理検査は、膿瘍の平均数が4.04 (±0.8)から1.6 (±0.6)(P=0.02774)まで低減されることを明らかにした。対照的に、SpAまたはSpA-D免疫は細菌負荷または膿瘍形成の有意な低下を引き起こさなかった(表5)。
【0306】
SpA-D
KKAA抗体は免疫グロブリン-プロテインA相互作用を阻止する
ウサギをSpA-D
KKAAで免疫し、特異的抗体をSpA-D
KKAAアフィニティーカラム上で精製し、その後SDS-PAGEを行った(
図3)。SpA-D
KKAA特異的なIgGをペプシンで切断してFcγおよびF(ab)
2断片を作出し、この後者をSpA-D
KKAAカラム上でのクロマトグラフィーによって精製した(
図3)。ヒトIgGまたはvWFとSpAまたはSpA-Dとの結合は、SpA-D
KKAA特異的なF(ab)
2によって撹乱され、SpA-D
KKAA由来の抗体がプロテインAのB細胞超抗原の機能およびIgとのその相互作用を中和することを示唆するものであった(
図3)。
【0307】
SpA
KKAAは改善された防御免疫反応を生み出す
毒素非産生性プロテインAのワクチン特性をさらに改善するため、本発明者らは、IgBDの5つのドメイン(E、D、A、BおよびC)のそれぞれの中に、4つのアミノ酸置換、つまりドメインDのGln9Lys、Gln10Lys、Asp36AlaおよびAsp37Alaに対応する置換を有する全5つのIgBDを含む、SpA
KKAAを作出した。ポリヒスチジンタグ付きSpA
KKAAをアフィニティークロマトグラフィーによって精製し、クマシーブルー染色したSDS-PAGEによって分析した(
図4)。全長SpAとは異なり、SpA
KKAAはヒトIgG、FcおよびF(ab)
2またはvWFを結合しなかった(
図4)。SpA
KKAAは、BALB/cマウスへのこの変種の注射が脾臓組織においてCD19+ B細胞の枯渇を引き起こさなかったので、B細胞超抗原活性を呈することができなかった(
図4)。SpA
KKAAワクチン接種は、SpA-D
KKAA免疫よりも高い特異的抗体の力価を生じ、黄色ブドウ球菌USA300の攻撃からの防御増強をマウスに与えた(表5)。攻撃から4日後、SpA
KKAAワクチン接種動物は腎組織において3.54 log
10 CFU g
-1少ないブドウ球菌を有し(P=0.0001)、膿瘍病変部の数のさらに大幅な低下も引き起こした(P=0.0109) (表5)。プロテインAワクチンが他のMRSA菌株に影響を与えるかどうかの試験として、マウスを日本のバンコマイシン耐性MRSA分離株Mu50 (Hiramatsu et al., 1997)で攻撃した。MRSA分離株USA300で認められたデータと同様に、SpA
KKAAワクチン接種動物はモック免疫動物よりも腎組織において少ないMu50ブドウ球菌を有していた(P=0.0248、
図7)。
【0308】
SpA特異的抗体の受動移入はブドウ球菌疾患を予防する
SpA
KKAAを用いてウサギを免疫した。SpA-D
KKAAまたはSpA
KKAAに特異的なウサギ抗体を、固定化された同種抗原を有する基材上でアフィニティー精製し、BALB/cマウスの腹腔へ5 mg kg
-1体重の濃度で注射した(表6)。24時間後に、特異的抗体の力価を血清中で判定し、動物を黄色ブドウ球菌Newmanの静脈内接種によって攻撃した。受動移入はSpA-D
KKAA (P=0.0016)またはSpA
KKAA (P=0.0005)特異的抗体に対する腎臓組織でのブドウ球菌負荷を低減した。組織病理検査に関し、どちらの抗体も黄色ブドウ球菌Newmanで攻撃されたマウスの腎臓における膿瘍病変部の存在量を低減した(表6)。総合して、これらのデータは、SpA-D
KKAAまたはSpA
KKAAによる免疫後のワクチン防御が、プロテインAを中和する抗体によって与えられることを明らかにしている。
【0309】
本発明者らはまた、プロテインA特異的な抗体が動物を致死的攻撃から防御できるかどうか確認しようとした。BALB/cマウスを能動的または受動的に免疫してSpA
KKAAに対する抗体を作製し、次いで、黄色ブドウ球菌Newmanの致死的用量での腹腔内注射により攻撃した(
図6)。SpA
KKAAに対する抗体は、能動免疫(P=0.0475、SpA
KKAA vs. モック)または受動免疫(P=0.0493、SpA
KKAA vs. モック)によって作製されたかにかかわらず、黄色ブドウ球菌Newmanでの致死的攻撃からの防御を与えた(
図6)。
【0310】
(表5) プロテインAワクチンによるマウスの能動免疫
a免疫1回あたりBALB/cマウス15〜20匹のコホートにおいて感染から4日後のホモジナイズ腎組織でlog
10 CFU g
-1として計算されたブドウ球菌負荷の平均。3回の独立したかつ再現可能な動物実験の代表を示す。平均の標準誤差(±SEM)が示してある。
b統計的有意性を対応のない両側スチューデントt検定で計算し、P値を記録した; P値 <0.05を有意と見なした。
clog
10 CFU g
-1として計算された細菌負荷の低下。
d無作為に選択した5つの血清IgGの力価の平均をELISAによってブドウ球菌感染の前に測定した。
e動物10匹からヘマトキシリン・エオシン染色し、薄切片にした腎臓の組織病理診断; 腎臓あたりの平均膿瘍数を記録し、最終平均(±SEM)を目的に再び平均化した。
【0311】
(表6) プロテインAに対する抗体によるマウスの受動免疫
aアフィニティー精製された抗体を1×10
7 CFUの黄色ブドウ球菌Newmanによる静脈内攻撃の24時間前にBALB/cマウスの腹腔へ5 mg・kg
-1の濃度で注射した。
b免疫1回あたりBALB/cマウス15匹のコホートにおいて感染から4日後のホモジナイズ腎組織でlog
10 CFU g
-1として計算されたブドウ球菌負荷の平均。2回の独立したかつ再現可能な動物実験の代表を示す。平均の標準誤差(±SEM)が示してある。
c統計的有意性を対応のない両側スチューデントt検定で計算し、P値を記録した; P値 <0.05を有意と見なした。
dlog
10 CFU g
-1として計算された細菌負荷の低下。
e無作為に選択した5つの血清IgGの力価の平均をELISAによってブドウ球菌感染の前に測定した。
f動物10匹からヘマトキシリン・エオシン染色し、薄切片にした腎臓の組織病理診断; 腎臓あたりの平均膿瘍数を記録し、最終平均(±SEM)を目的に再び平均化した。
【0312】
ブドウ球菌感染またはSpA
KKAA免疫後のプロテインAに対する免疫反応
病毒性の黄色ブドウ球菌による感染の後、マウスは同じ菌株によるその後の感染に対する防御免疫を発現しない(Burts et al., 2008)(
図8)。これらの動物におけるSpA-D
KKAA特異的なIgGの平均存在量はドットブロットにより、菌株NewmanおよびUSA300 LACに対して、それぞれ、0.20 μg ml
-1 (±0.04)および0.14 μg ml
-1 (±0.01)と判定された(
図4)。SpA
KKAAまたはSpA-D
KKAAワクチン接種動物での疾患防御に必要なプロテインA特異的IgGの最小濃度(P .0.05 ブドウ球菌CFU g
-1腎組織のlog
10の低下)は、4.05 μg ml
-1 (±0.88)と計算された。成人健常ヒト志願者(n=16)におけるSpA特異的IgGの平均血清濃度は、0.21 μg ml
-1 (±0.02)であった。このように、マウスまたはヒトにおける黄色ブドウ球菌感染は、プロテインAに対して作製される中和抗体の有意なレベルのものを産生させる免疫反応と関係がなく、これはこの分子のB細胞超抗原特性によるものである可能性が高い。対照的に、ヒト志願者におけるジフテリア毒素に特異的なIgGの平均血清濃度0.068 μg ml
-1 (±0.20)は、ジフテリアに対する防御免疫の範囲内であった(Behring, 1890; Lagergard et al., 1992)。
【0313】
臨床黄色ブドウ球菌分離株はプロテインA、すなわち、そのB細胞超抗原活性およびオプソニン作用による排除からの回避性は、ブドウ球菌膿瘍形成のために絶対必要な必須の病毒性因子を発現する(Palmqvist et al., 2005; Cheng et al., 2009; Silverman and Goodyear, 2006)。プロテインAはしたがって、防御免疫を達成するにはその分子特性が中和されなければならない、発病に不可欠な、毒素と考えられうる。FcγまたはVH
3-Fabドメインを介してIgを結合できない毒素非産生性の変種を作出することにより、本発明者らは本明細書で初めて、プロテインA中和免疫反応を、黄色ブドウ球菌感染からの防御免疫に相互に関連するものとして測定する。多くのメチシリン感受性菌株とは対照的に、CA-MRSA分離株のUSA300 LACは病毒性がはるかに高い(Cheng et al., 2009)。例えば、表面抗原IsdBでの実験動物の免疫(Kuklin et al., 2006; Stranger-Jones et al., 2006)は、黄色ブドウ球菌Newmanに対する防御を与える抗体を産生させる(Stranger-Jones et al., 2009)が、USA300による攻撃に対してはそうでない。
【0314】
材料および方法
細菌株および増殖
黄色ブドウ球菌株NewmanおよびUSA300はトリプトソイブロス(TSB)にて37℃で増殖させた。大腸菌株DH5αおよびBL21(DE3)は、100 μg ml
-1のアンピシリンを有するルリア・ベルターニ(LB)ブロスにて37℃で増殖させた。
【0315】
ウサギ抗体
黄色ブドウ球菌Newmanの鋳型DNAを用いて二つのプライマー
でSpAのコード配列をPCR増幅した。二つのプライマー
でSpA-DをPCR増幅した。Q9K,Q10Kの場合には
ならびにD36A,D37Aの場合には
の二セットのプライマーでSpA-D
KKAAの配列を突然変異誘発させた。SpA
KKAAの配列はIntegrated DNA Technologies, Incによって合成された。PCR産物をpET-15bにクローニングし、N末端His
6タグ付き組み換えタンパク質を作出した。プラスミドをBL21(DE3)に形質転換した。形質転換体の終夜培養の培養物を新鮮な培地中で100分の1倍に希釈し、37℃でOD
600 0.5まで増殖させ、この時点で培養物を1 mMイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)で誘導し、さらに3時間増殖させた。細菌細胞を遠心分離により沈降させ、カラム用緩衝液(50 mM Tris-HCl, pH 7.5, 150 mM NaCl)に懸濁し、フレンチプレス細胞破砕機により14,000 psiで破壊した。溶解物から40,000×gでの超遠心分離によって膜および不溶性成分を除去した。可溶性溶解物中のタンパク質をニッケル-ニトリロ三酢酸(Ni-NTA, Qiagen)アフィニティークロマトグラフィーに供した。連続的に高濃度のイミダゾール(100〜500 mM)を含有するカラム用緩衝液中にタンパク質を溶出させた。ビシンコニン酸(BCA)アッセイ法(Thermo Scientific)によってタンパク質濃度を判定した。抗体産生のため、ウサギ(6ヶ月齢New-Zealandホワイト、雌性、Charles River Laboratories)に、完全フロインドアジュバント(Difco)中で乳化されたタンパク質500 μgを被膜下(subscapular)注射によって免疫した。追加免疫のため、タンパク質を不完全フロインドアジュバント中で乳化し、初回免疫から24日または48日後に注射した。60日目に、ウサギから採血し、血清を回収した。
【0316】
抗体単離
精製抗原(タンパク質5 mg)をHiTrap NHS-活性化HPカラム(GE Healthcare)に共有結合的に連結させた。4℃でのウサギ血清10〜20 mlのアフィニティークロマトグラフィーのために抗原-基材を用いた。充填された基材を50カラム容量のPBSで洗浄し、抗体を溶出用緩衝液(1 Mグリシン, pH 2.5, 0.5 M NaCl)で溶出し、1 M Tris-HCl, pH 8.5ですぐに中和した。精製抗体を4℃でPBSに対して終夜透析した。
【0317】
F(ab)
2断片
アフィニティー精製された抗体をペプシン3 mgと37℃で30分間混合した。反応液を1 M Tris-HCl, pH 8.5でクエンチし、F(ab)
2断片を、特異的抗原を結合させたHiTrap NHS活性化HPカラムでアフィニティー精製した。精製抗体を4℃でPBSに対して終夜透析し、SDS-PAGEゲルに負荷し、クマシーブルー染色で可視化した。
【0318】
能動および受動免疫
BALB/cマウス(3週齢、雌性、Charles River Laboratories)に、完全フロインドアジュバント(Difco)中で乳化されたタンパク質50 μgを筋肉内注射によって免疫した。追加免疫のため、タンパク質を不完全フロインドアジュバント中で乳化し、初回免疫から11日後に注射した。免疫後20日目に、マウス5匹から採血して酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)による特異的抗体の力価を目的に血清を得た。
【0319】
BALB/cマウスを筋肉内注射によって免疫し、11および25日後にミョウバン中の同一抗原で追加免疫した。34日目に、マウスから採血して特異的抗体の力価を目的に血清を得た。アフィニティー精製された抗体を、それぞれ、亜致死的または致死的攻撃の24時間または4時間前にBALB/cマウスの腹腔へ注射した。動物血液を眼窩周囲静脈穿刺によって集め、抗原特異的な血清抗体の力価をELISAによって測定した。
【0320】
マウス腎膿瘍
黄色ブドウ球菌NewmanまたはUSA300 (LAC)の終夜培養の培養物を新鮮TSB中に100分の1希釈し、37℃で2時間増殖させた。ブドウ球菌を沈降させ、洗浄し、OD
600 0.4 (およそ1×10
8 CFU ml
-1)でPBSに懸濁した。サンプルアリコットをTSA上に広げ、形成されたコロニーを数え上げることによって接種材料を定量化した。BALB/cマウス(6週齢、雌性、Charles River Laboratories)を体重1キログラムあたり100 mg ml
-1のケタミンおよび20 mg ml
-1のキシラジンの腹腔内注射によって麻酔した。眼窩後部注射によって1×10
7 CFUの黄色ブドウ球菌Newmanまたは5×10
6 CFUの黄色ブドウ球菌USA300をマウスに感染させた。攻撃後4日目に、マウスをCO
2の吸入によって殺処理した。両方の腎臓を切除し、一方の器官におけるブドウ球菌負荷を、PBS, 1% Triton X-100で腎組織をホモジナイズすることによって分析した。ホモジネートの連続希釈液をTSA上に広げ、コロニー形成のためにインキュベートした。残りの器官は組織病理診断によって調べた。手短に言えば、腎臓を室温にて24時間10%ホルマリン中で固定した。組織をパラフィン包埋し、薄片にし、ヘマトキシリン・エオシンで染色し、光学顕微鏡検査により検査して膿瘍病変部を数え上げた。全てのマウス実験は、シカゴ大学の施設内生物安全委員会(IBC)および動物実験委員会(IACUC)による実験プロトコルの審査および承認に従う施設内ガイドラインによって実施された。
【0321】
マウス感染
ブドウ球菌を用いて眼窩後部注射(1×10
7 CFUの黄色ブドウ球菌Newman、5×10
6 CFUの黄色ブドウ球菌USA300または3×10
7 CFUの黄色ブドウ球菌Mu50)により麻酔マウスに感染させた。4、15または30日目に、マウスを殺処理し、腎臓を切除し、ホモジナイズ組織をコロニー形成のために寒天上に広げた。器官組織をまた、薄片にし、ヘマトキシリン・エオシンで染色し、顕微鏡検査した。動物実験は、シカゴ大学の施設内生物安全委員会(IBC)および動物実験委員会(IACUC)による実験プロトコルの審査および承認に従う施設内ガイドラインによって実施された。
【0322】
致死的攻撃の実験のため、BALB/cマウス(実験あたり動物8〜10匹のコホート)の腹腔へ2〜6×10
8 CFUの黄色ブドウ球菌Newmanまたはその同質遺伝子的なΔspa変種の懸濁液を注射した。動物の生存を15日間にわたってモニタリングし、生存データの統計的有意性をlog-rank試験で解析した。
【0323】
プロテインA結合
ヒトIgGの結合のため、Ni-NTAアフィニティーカラムにカラム用緩衝液中200 μgの精製タンパク質(SpA、SpA-D、SpA-D
KKAAおよびSrtA)を予め充填した。洗浄後、ヒトIgG (Sigma) 200 μgをカラムに負荷した。タンパク質サンプルを洗浄液および溶出液から回収し、SDS-PAGEゲル電気泳動に供し、引き続いてクマシーブルー染色を行った。精製タンパク質(SpA、SpA
KKAA、SpA-DおよびSpA-D
KKAA)を0.1 M炭酸緩衝液(pH 9.5)中1 μg ml
-1の濃度で終夜4℃にてMaxiSorp ELISAプレート(NUNC)上にコーティングした。プレートを次に、5%全乳でブロッキングし、ペルオキシダーゼ結合ヒトIgG、FcまたはF(ab)
2断片の連続希釈液とのインキュベーションを1時間行った。プレートを洗浄し、OptEIA ELISA試薬(BD)を用いて発色させた。反応を1 Mリン酸でクエンチし、A
450の読み出しを用いて最大半量の力価および結合割合を計算した。
【0324】
フォンウィルブランド因子(vWF)結合アッセイ法
精製タンパク質(SpA、SpA
KKAA、SpA DおよびSpA-D
KKAA)を上記のようにコーティングし、ブロッキングした。プレートを2時間1 μg ml
-1の濃度のヒトvWFとともにインキュベートし、次いで洗浄し、さらに1時間ヒトIgGでブロッキングした。洗浄後、プレートを、ヒトvWFに対して作製されたペルオキシダーゼ結合抗体の連続希釈液とともに1時間インキュベートした。プレートを洗浄し、OptEIA ELISA試薬(BD)を用いて発色させた。反応を1 Mリン酸でクエンチし、A
450の読み出しを用いて最大半量の力価および結合割合を計算した。阻害アッセイ法のため、プレートをリガンド結合アッセイ法の前に1時間10 μg ml
-1の濃度のSpA-D
KKAA特異的アフィニティー精製F(ab)
2断片とともにインキュベートした。
【0325】
脾細胞アポトーシス
アフィニティー精製されたタンパク質(SpA、SpA-D、SpA
KKAAおよびSpA-D
KKAA 150 μg)をBALB/cマウス(6週齢、雌性、Charles River Laboratories)の腹腔へ注射した。注射から4時間後に、動物をCO
2の吸入によって殺処理した。それらの脾臓を切除し、ホモジナイズした。細胞ろ過器を用いて細胞残屑を除去し、懸濁細胞をACK溶解用緩衝液(0.15 M NH
4Cl、10 mM KHCO
3、0.1 mM EDTA)に移入して、赤血球を溶解した。白血球を遠心分離により沈降させ、PBSに懸濁し、250分の1希釈されたR-PE結合抗CD19モノクローナル抗体(Invitrogen)で氷上および暗所中にて1時間染色した。細胞を1% FBSで洗浄し、4℃にて終夜4%ホルマリンで固定した。翌日、細胞をPBS中で希釈し、フローサイトメトリーによって分析した。組織病理診断を目的に、残りの器官を調べた。手短に言えば、脾臓を室温にて24時間10%ホルマリン中で固定した。組織をパラフィン包埋し、薄片にし、Apoptosis検出キット(Millipore)で染色し、光学顕微鏡検査により検査した。
【0326】
抗体定量化
血清を、30日間黄色ブドウ球菌NewmanもしくはUSA300で感染されていたか、または上記のようにSpA-D
KKAA/SpA
KKAAで免疫されていた健常ヒト志願者またはBALB/cマウスから回収した。ヒト/マウスIgG (Jackson Immunology Laboratory)、SpA
KKAAおよびCRM
197をニトロセルロース膜上にブロットした。膜を5%全乳でブロッキングし、引き続きヒトまたはマウス血清のいずれかとのインキュベーションを行った。IRDye 700DX結合アフィニティー精製抗ヒト/マウスIgG (Rockland)を用いてOdyssey(商標)赤外画像システム(Li-cor)によりシグナル強度を定量化した。ヒト志願者由来の血液を用いた実験では、シカゴ大学の施設内治験審査委員会(IRB)の規制監督下で審査され、承認され、実施されたプロトコルを伴った。
【0327】
統計解析
両側スチューデントt検定を実施して、腎膿瘍、ELISAおよびB細胞超抗原のデータの統計的有意性を解析した。動物生存のデータはlog-rank試験(Prism)で解析した。
【0328】
実施例3 黄色ブドウ球菌のコアグラーゼは膿瘍形成に寄与し、防御抗原として機能する
全ての黄色ブドウ球菌臨床分離株はコアグラーゼ活性、つまりフィブリノゲンを切断するためのプロトロンビンの非タンパク質分解活性化による血液または血漿の凝固を示す。本発明者らは、感染マウスのブドウ球菌膿瘍病変部においてプロトロンビン、フィブリノゲン、コアグラーゼ(Coa)およびフォンウィルブランド因子結合タンパク質(vWbp)を特定した。分泌CoaおよびvWbpはともに、黄色ブドウ球菌Newmanコアグラーゼ活性に寄与し、それによってマウスにおいて膿瘍形成および致死的疾患を可能にした。精製CoaまたはvWbpに対して作製された抗体は、対応するポリペプチドとプロトロンビンおよびフィブリノゲンとの結合を特異的に遮断する。Coa-およびvWbp-特異的抗体は、能動免疫または受動免疫により作製されたかにかかわらず、ブドウ球菌に感染したマウスの膿瘍形成および死亡数を抑制した。
【0329】
VIII. 結果
ブドウ球菌膿瘍におけるコアグラーゼおよび凝固因子の局在
以前の研究により、1×10
7 CFUのヒト臨床分離株・黄色ブドウ球菌Newman (Baba et al., 2007)がBALB/cマウス(Albus et al., 1991)の血流中に注射されるマウス腎膿瘍モデルが樹立された。感染から48時間後に、マウスはヘマトキシリン・エオシン染色され、薄切片にされた腎臓組織の光学顕微鏡検査により検出可能な、多器官における播種性膿瘍を、病初では細菌をほとんど含まない多形核白血球(PMN)の蓄積として発現する(Cheng et al., 2009)。感染から5日目までに、膿瘍はサイズが増大し、好酸球性の無形性物質の層(偽被膜)および大きなPMNカフで囲まれた、中心のブドウ球菌集団(ブドウ球菌膿瘍群集-SAC)を含む(Cheng et al., 2009)。組織病理診断から、膿瘍病変部の中心にあるブドウ球菌巣のすぐ近くでのPMNの大量壊死および一面の正常食細胞が明らかである。もっと後の時間間隔で、SACは増大し、膿瘍が破裂して、血流中に壊死物質およびブドウ球菌を放出する。新たなラウンドの膿瘍形成が始まり、最終的には感染の致死的転帰を招く(Cheng et al., 2009)。
【0330】
膿瘍病変部にコアグラーゼを局在化させるため、黄色ブドウ球菌Newmanを5日間感染させておいたマウスの腎臓を薄片にし、免疫組織化学によりアフィニティー精製Coa-またはvWbp-特異的ウサギ抗体で染色した(
図10)。本発明者らは、SAC周囲の偽被膜においておよび膿瘍病変部の辺縁、すなわち、非感染組織に隣接するフィブリン被膜において強いCoa染色を認めた。vWbpの染色は膿瘍病変部全体で、しかし同様に辺縁部に蓄積した状態で行われた。プロトロンビン特異的抗体は、偽被膜でのおよび辺縁での酵素原の染色を明らかにしたが、フィブリノゲン/フィブリン特異的な染色は膿瘍病変部全体で行われた。総合して、これらのデータは、ブドウ球菌膿瘍の好酸球性の偽被膜がプロトロンビンおよびフィブリノゲンを有し、これらがCoaと共局在することを示している。膿瘍病変部の辺縁に、Coa、vWbp、プロトロンビンおよびフィブリノゲン/フィブリンが共局在化される。これらの所見は、CoaおよびvWbpがプロトロンビンを介したフィブリノゲンのフィブリンへの変換の誘発による膿瘍の樹立にとって重要な寄与因子であるかどうかに関するさらなる調査を促した。
【0331】
黄色ブドウ球菌coaおよびvWbpはマウス血液の凝固に寄与する
黄色ブドウ球菌Newmanの染色体上のcoaおよび/またはvWbp遺伝子を、pKOR1技術を用いて対立遺伝子置換により欠失させた(Bae and Schneewind, 2005)。coaまたはvWbp構造遺伝子およびその上流プロモーター配列をpOS1 (Schneewind et al., 1993)にクローニングすることによって、二つの補完性プラスミドpcoaおよびpvWbpを作出した。プラスミドをブドウ球菌に電気穿孔し、その継続的複製を、クロラムフェニコールを補充した培地にて選択した(Schneewind et al., 1992)。コアグラーゼを特異的抗体でプローブした場合、本発明者らはCoa分泌を、野生型およびΔvWbp菌株によって認めたが、ΔcoaまたはΔcoa/ΔvWbp変種によっては認めなかった(
図11)。ΔcoaおよびΔcoa/ΔvWbp変異体の表現型欠損は、pcoaでの電気穿孔によって回復されたが、pvWbpによっては回復されなかった(
図11)。同様に、vWbpの分泌は黄色ブドウ球菌Newman (野生型)およびΔcoa変異体培養物において認められたが、ΔvWbpまたはΔcoa/ΔvWbp変種においては認められなかった(
図11)。この欠損はpvWbpでの電気穿孔によって回復したが、pcoaによっては回復しなかった。
【0332】
血液の凝固はヒルジン(レピルジン) (Harvey et al., 1986)、つまりトロンビンと1:1の複合体を形成し、それによってフィブリノゲンのフィブリンへのタンパク質分解変換を遮断するヒル由来の65残基のペプチドによって効果的に阻害される(Markwardt, 1955)。新鮮レピルジン処理マウス血液に黄色ブドウ球菌Newmanを接種することによって12時間未満で凝固が誘発されたのに対し、モック感染血液は48時間超の間、凝固のないままであった(
図11C)。このアッセイ法を用いて、コアグラーゼ活性を欠くブドウ球菌変種が凝固時間の遅延、つまりΔcoa 36時間およびΔvWbp 24時間を呈することが認められた(
図11C)。二重変異体Δcoa/ΔvWbpはマウス血液を凝固させることができなかった。これらの欠損はプラスミドpvWbpおよびpcoaの電気穿孔によって補完された。総合すれば、これらのデータは、二つのコアグラーゼCoaおよびvWbpが、マウス血液を凝固させる黄色ブドウ球菌Newmanの能力に寄与することを示している(
図11C)。
【0333】
CoaおよびvWbpはマウスでの血中ブドウ球菌生存、膿瘍形成および致死的菌血症に必要である
コアグラーゼの病毒性寄与について分析するため、本発明者らは初めに、レピルジン処理血液でのブドウ球菌の生存について調べた。野生型菌株の黄色ブドウ球菌Newmanはマウス血液中で殺処理されなかったが、しかしCoaを欠く同質遺伝子変種、すなわちΔcoaおよびΔcoa/ΔvWbpは、各々がインキュベーションから30分後にCFUの顕著な低減を示した。この生存の欠損はpcoaによって回復されたが、pvWbpによっては回復されなかったことから、マウス血液中でのブドウ球菌の生存にはCoaだけが必要であることを示唆している。
【0334】
ブドウ球菌菌血症は病院でのヒトの死亡率の原因になることが多い(Klevens et al., 2007)。本発明者らは、1×10
8 CFUの黄色ブドウ球菌Newmanの静脈内注射後の、BALB/cマウスの致死的攻撃にコアグラーゼが必要であるかどうかを確認しようとした。野生型親菌株Newmanに感染した動物は全て、24時間以内に感染に屈した(
図12B)。単一変異体ΔcoaまたはΔvWbpに感染した動物は、各々が短いものの、統計的に有意な死亡までの時間の遅延を示した(
図12B)。二重変異体菌株は、単一の欠失を有する変異体よりも顕著に弱められ、Δcoa/ΔvWbp菌株に感染した動物は野生型と比べて病毒性の最大の低減を示した(
図12B)。
【0335】
本発明者らは次に、感染マウスの腎組織における膿瘍形成を分析し、Δcoa変種は感染5日目および15日目までに膿瘍を形成するその能力が損なわれていることを認めた(表7、
図12G、12I)。ΔvWbp変異体は膿瘍を形成し続けたが、これらの変種では細菌負荷、ブドウ球菌膿瘍群集の全体サイズおよび免疫細胞浸潤物の量が低減した(表7、
図12D、12F)。コアグラーゼの変異体は、Δcoaが15日目までにいっそう低い膿瘍形成および細菌負荷を有するので、病毒性がvWbpのものよりもわずかに弱毒化されている。しかしながら、Δcoa/ΔvWbp二重変異体は、膿瘍を形成するその能力が著しく奪われており、感染組織内にとどまる(表7、
図12H、12K)。このように、コアグラーゼもフォンウィルブランド因子結合タンパク質も、血流中か末端器官組織中かを問わず、宿主内でのブドウ球菌の生存に重要である。
【0336】
(表7) 黄色ブドウ球菌Newman coa、vWbpおよびcoa/vWbp変異体の病毒性
*BALB/cマウス(n=18〜20)の腹膜へ0日目に、アフィニティー精製されたvWbpに対するウサギ抗体(α-vWbp)、Coaに対するウサギ抗体(α-Coa)またはvWbpおよびCoaに対するウサギ抗体(α-vWbp/Coa)の各100 μlを注射した。24時間後、動物を血清中IgG抗体の力価について調べ、1×10
7コロニー形成単位(CFU)の黄色ブドウ球菌Newmanまたはその変異体の静脈内接種により攻撃した。5または15日後、動物を殺処理し、両方の腎臓を切除した。一方の腎臓をホルムアルデヒド中で固定し、パラフィン包埋し、薄片にし、ヘマトキシリン・エオシン染色し、腎臓あたり4枚の矢状切片を膿瘍形成について分析した。もう一方の腎臓をPBS緩衝液中でホモジナイズし、ホモジネートをコロニー形成のため寒天培地上に広げ、ブドウ球菌負荷をCFUとして数え上げた。
a免疫1回あたりBALB/cマウス18〜20匹のコホートにおいて感染から4日後のホモジナイズ腎組織でlog
10 CFU g
-1として計算されたブドウ球菌負荷の平均。平均の標準誤差(±SEM)が示してある。
b統計的有意性を対応のない両側スチューデントt検定で計算し、P値を記録した; P値 <0.05を有意と見なした。
clog
10 CFU g
-1として計算された細菌負荷の低下。
e感染から4日後の腎臓組織における膿瘍形成を巨視的検査(陽性%)によって測定した。
f動物10匹からヘマトキシリン・エオシン染色し、薄切片にした腎臓の組織病理診断; 腎臓あたりの平均膿瘍数を記録し、最終平均(±SEM)を目的に再び平均化した。
g統計的有意性を対応のない両側スチューデントt検定で計算し、P値を記録した; P値 <0.05を有意と見なした。
【0337】
コアグラーゼに対する抗体およびブドウ球菌感染の間に誘導される血液凝固に及ぼすその効果
組み換えHis
6-CoaおよびHis
6-vWbpをNi-NTA上でのアフィニティークロマトグラフィーによって精製し(
図13A)、アジュバント中で乳化し、ウサギを注射して特異的抗体を産生させ、これを、組み換えタンパク質を有するアフィニティー基材上で精製した。Coaに対して作製された抗体はCoaに選択的に結合し、vWbpには結合しなかった(
図13B)。この相反性はvWbpに対して作製された抗体にも当てはまった(
図13B)。本発明者らは、黄色ブドウ球菌Newmanに感染したレピルジン処理マウス血液への添加時に、Coa、vWbpまたはCoaおよびvWbpに対して作製された抗体がそれぞれ、血液の凝固を遮断することを認めた(
図13C)。対照として、モック処理サンプルまたは無関係のV10抗体(ペスト菌(Yersinia pestis) III型注射に対する防御を与える(DeBord et al., 2006))では効果がなかった(
図13C)。
【0338】
単離CoaまたはvWbpに対する抗体の役割を調べるために、本発明者らは、機能的に活性な組み換えタンパク質(Friedrich et al., 2003)を精製し、これをレピルジン処理マウス血液に添加した。CoaまたはvWbp処理マウス血液は30分未満で凝固した(
図13D)。対照として、モック(PBS)または無関係のV10抗体による処理では、凝固に影響がなかった。CoaまたはvWbpに対して作製された抗体は、組み換えタンパク質で処理されたマウス血液の凝固を遅延し、これは交差反応性の相同因子でさえも起こった(
図13D)。ELISAおよびウエスタンブロットによって抗体の最小の交差反応性が認められたが、機能の交差阻害が存在する。
【0339】
コアグラーゼとプロトロンビンまたはフィブリノゲンとの間の結合を遮断する抗体
表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて、αCoaおよびαvWbp抗体が、コアグラーゼの生理学的機能をいかにして妨げるかについて調べた。プロトロンビンをCM5チップ上に固定化した。サンプルに対して精製Coaを流し、文献(Friedrich et al., 2003)での他の報告に見合った測定値である、解離定数K
D 28 nMが計算された。αCoaの添加はプロトロンビン-Coaの形成に対する反応シグナルの濃度依存的な減少をもたらし、これらの抗体がCoaとプロトロンビンとの結合を遮断することを示していた(
図14A)。SPRによってさらに、コアグラーゼとフィブリノゲンとの間の結合(K
D 93.1 nM、
図14B)が確認された。本発明者らは、αCoaとのプレインキュベーションによって、Coaとフィブリノゲンとの結合の劇的な減少を認めた(
図14B)。総合すれば、これらの結果は、Coaに対して作製された抗体がこの分子と血液凝固因子との結合を遮断することを示している。
【0340】
精製vWbpはプロトロンビン(K
D 38.4 nM、
図13C)およびフィブリノゲン(484 nM、
図13D)に対して強い親和性を示し、このうちの後者はこれまでに認識されていなかった(Kroh et al., 2009)。さらに、vWbpに対して作製された抗体とのプレインキュベーションは、vWbpとプロトロンビンまたはフィブリノゲンとの間の結合を用量依存的に遮断した(
図13C、13D)。これらの所見は血液凝固アッセイ法の結果を支持するものであり、特異的ポリクローナル抗体が、CoaまたはvWbpと凝固カスケードの特異的成分との間の相互作用を遮断できることを実証している(
図12)。
【0341】
コアグラーゼに特異的な抗体がフィブリノゲンのフィブリンへの変換を遮断するかどうか試験するために、フィブリノゲンのフィブリンへの切断の代用物であるS-2238を切断するプロトロンビン・コアグラーゼ複合体の能力を測定した(
図14E、14F)。プロトロンビン・Coaまたはプロトロンビン・vWbpに対する特異的抗体の添加は、基質を生成物に変換するこれらの複合体の能力を低減した。さらに、コアグラーゼ特異的抗体の交差阻害を認め、この場合には交差反応性抗体の添加がプロトロンビン・vWbp複合体の活性の低減を引き起こした。これらのデータから、CoaまたはvWbpに対して作製された特異的抗体は、それらが結合する分泌産物の病態生理学的作用を中和することが示唆される。
【0342】
コアグラーゼに対する抗体はブドウ球菌疾患に対する防御を与える
CoaまたはvWbpに特異的なIgG型抗体を、CNBrセファロースへの抗原の共有結合性架橋によって作出された、アフィニティーカラムに対するクロマトグラフィーによってウサギ血清から単離した。本発明者らは、Coaおよび/またはvWbpに対して作製された中和抗体の投与によってブドウ球菌の発病を撹乱しようと試みた。マウスにウサギ抗体を投与し、これを致死的用量の黄色ブドウ球菌株Newmanで攻撃した。CoaまたはvWbp特異的抗体の注射によって、ネズミの生存時間が顕著に延ばされた(
図15)。
【0343】
致死的菌血症に対して可能なワクチン防御について抗体試薬を試験するために、アフィニティー精製されたIgG (5 mg kg
-1体重)をマウスの腹腔へ注射した。24時間後、動物の眼窩後部血管叢へ1×10
8 CFUの黄色ブドウ球菌NewmanのPBS懸濁液を注射した。動物を経時的にモニタリングし、本発明者らは、vWbpに対して作製された抗体(αvWbp)が無関係のαV10抗体を投与され、12〜48時間以内に死亡した動物と比べて、死亡までの時間の増大および10%の生存時間の増大をもたらすことを認めた(
図15)。Coaに対する抗体(αCoa)は、受動的に免疫されたマウスの死亡までの時間をさらに増大した(
図15)。両方の抗体(αCoa/αvWbp)の混合物は、αCoa抗体に比べて生存時間または死亡までの時間の統計的に有意な改善を生じなかった。
【0344】
ブドウ球菌膿瘍形成に対する防御について受動免疫を調べるために、精製抗体(5 mg kg
-1体重)をマウスの腹腔へ注射し、1×10
7 CFUの黄色ブドウ球菌Newmanによる静脈内攻撃後5日間、膿瘍形成をモニタリングした。vWbpに対する抗体は細菌負荷の顕著な低減または炎症性病変部の数の顕著な低減をもたらさなかった(表8)が、認められた病変部はモック免疫マウスと比べてより小さな膿瘍群集を有し、PMN浸潤物を低減した(
図16)。コアグラーゼに対する抗体はブドウ球菌負荷(P=0.042)および炎症性病変部の数(P=0.039)を低減した。大きなPMN浸潤物の病巣の位置にブドウ球菌群集を有する膿瘍病変部は検出されなかった(
図16および表8)。両方の抗体αWbpおよびαCoaを投与された動物は、ブドウ球菌負荷のさらに大きな低減(P=0.013)および炎症性病変部の存在量の低減(P=0.0078)を呈した(表8)。総合して、これらのデータは、受動免疫によって投与された、コアグラーゼに対する抗体が膿瘍形成からマウスを防御し、宿主組織からの侵入病原菌の除去を可能にすることを示している。vWbpに対する抗体は、vWbpがマウスでの黄色ブドウ球菌感染の発病の間にCoaと同じ重要な役割を果たさないという所見に一致して、ワクチン防御に対して比較的わずかな寄与しかしない(表8)。
【0345】
(表8) Coaおよび/またはvWbpに対するウサギ抗体によるマウスの受動免疫
*BALB/cマウス(n=18〜20)の腹膜へ0日目に、アフィニティー精製されたvWbpに対するウサギ抗体(α-vWbp)、Coaに対するウサギ抗体(α-Coa)またはvWbpおよびCoaに対するウサギ抗体(α-vWbp/Coa)の各100 μlを注射した。24時間後、動物を血清中IgG抗体の力価について調べ、1×10
7コロニー形成単位(CFU)の黄色ブドウ球菌Newmanの静脈内接種により攻撃した。5日後、動物を殺処理し、両方の腎臓を切除した。一方の腎臓をホルムアルデヒド中で固定し、パラフィン包埋し、薄片にし、ヘマトキシリン・エオシン染色し、腎臓あたり4枚の矢状切片を膿瘍形成について分析した。もう一方の腎臓をPBS緩衝液中でホモジナイズし、ホモジネートをコロニー形成のため寒天培地上に広げ、ブドウ球菌負荷をCFUとして数え上げた。
a免疫1回あたりBALB/cマウス18〜20匹のコホートにおいて感染から4日後のホモジナイズ腎組織でlog
10 CFU g
-1として計算されたブドウ球菌負荷の平均。平均の標準誤差(±SEM)が示してある。
b統計的有意性を対応のない両側スチューデントt検定で計算し、P値を記録した; P値 <0.05を有意と見なした。
clog
10 CFU g
-1として計算された細菌負荷の低下。
e感染から4日後の腎臓組織における膿瘍形成を巨視的検査(陽性%)によって測定した。
f動物10匹からヘマトキシリン・エオシン染色し、薄切片にした腎臓の組織病理診断; 腎臓あたりの平均膿瘍数を記録し、最終平均(±SEM)を目的に再び平均化した。
g統計的有意性を対応のない両側スチューデントt検定で計算し、P値を記録した; P値 <0.05を有意と見なした。
【0346】
コアグラーゼはブドウ球菌感染の防御抗原として機能する
ポリヒスチジンタグ付きCoAおよびvWbpを大腸菌から精製し、サブユニットワクチン抗原として用いた。タンパク質(100 μg; CFAまたはIFA中に乳化)を0日目(CFA)または11日目(IFA)に未処置のBALB/cマウスへ注射した。黄色ブドウ球菌Newmanの静脈内接種によって21日目に動物を攻撃した。攻撃の時点で対照動物5匹から採血し、ワクチン抗原に対する血清抗体の力価をELISAによって判定した(表9)。攻撃から5または15日後に動物を殺処理し、ブドウ球菌負荷および膿瘍病変部の組織病理診断の分析を行った。Coaによる免疫は細菌負荷を5日目(P=0.03、PBSモック vs. Coa)および15日目(P=4.286×10
-5、PBSモック vs. Coa、表9参照)までに低減した。Coaワクチン接種も、腎臓組織において形成された感染病変部の数を減らした; モック vs. Coa、P=0.03 (5日目)およびP=0.0522 (15日目) (表9)。注目すべきは、Coa免疫マウスのどれも典型的な膿瘍病変部を発現しなかった(
図17)。時折、ブドウ球菌膿瘍群集と関連のないPMNの小さな蓄積を認めた(
図17)。vWbpによる免疫はブドウ球菌負荷を5日目に(P=0.39、PBSモック vs. vWbp)または15日目に(P=0.09、PBSモック vs. vWbp)あまり低減しなかった。炎症性病変部の総数は減らなかった。それにもかかわらず、膿瘍の構造はvWbpによる免疫後に変化していた。ブドウ球菌群集は膿瘍の中心に検出されず、その代わりに、PMNの浸潤を認めた(
図17)。組み合わせワクチンvWbp-Coaは、腎臓組織における炎症細胞の数をさらに低減し、感染動物は膿瘍病変部を5または15日目に呈さなかった(表9)。
【0347】
(表9) Coaおよび/またはvWbpによるマウスの能動免疫
*BALB/cマウス(n=18〜20)に0日目に、CFA中で乳化された精製vWbp、CoaまたはvWbpおよびCoaの各100 μgを注射し、11日目にIFA中で乳化された同じ抗原を追加免疫した。20日目にIgG抗体の力価について動物を調べ、21日目に1×10
7コロニー形成単位(CFU)の黄色ブドウ球菌Newmanの静脈内接種によって動物を攻撃した。25日目に、動物を殺処理し、両方の腎臓を切除した。一方の腎臓をホルムアルデヒド中で固定し、パラフィン包埋し、薄片にし、ヘマトキシリン・エオシン染色し、腎臓あたり4枚の矢状切片を膿瘍形成について分析した。もう一方の腎臓をPBS緩衝液中でホモジナイズし、ホモジネートをコロニー形成のため寒天培地上に広げ、ブドウ球菌負荷をCFUとして数え上げた。
a免疫1回あたりBALB/cマウス18〜20匹のコホートにおいて感染から4日後のホモジナイズ腎組織でlog
10 CFU g
-1として計算されたブドウ球菌負荷の平均。平均の標準誤差(±SEM)が示してある。
b統計的有意性を対応のない両側スチューデントt検定で計算し、P値を記録した。P値 <0.05を有意と見なした。
clog
10 CFU g
-1として計算された細菌負荷の低下。
d無作為に選択した5つの血清IgGの力価の平均をSpA-D
KKAA抗原でのELISAによってブドウ球菌感染の前に測定した。
e感染から4日後の腎臓組織における膿瘍形成を巨視的検査(陽性%)によって測定した。
f動物10匹からヘマトキシリン・エオシン染色し、薄切片にした腎臓の組織病理診断; 腎臓あたりの平均膿瘍数を記録し、最終平均(±SEM)を目的に再び平均化した。
g統計的有意性を対応のない両側スチューデントt検定で計算し、P値を記録した; P値 <0.05を有意と見なした。
h黄色ブドウ球菌Newmanによる感染から5日後のマウスの分析。
i黄色ブドウ球菌Newmanによる感染から15日後のマウスの分析。
【0348】
IX. 材料および方法
細菌株および培養物の増殖
ブドウ球菌はトリプトソイ寒天またはブロスにて37℃で培養された。大腸菌株DH5αおよびBL21(DE3) (Studier et al., 1990)は、ルリア寒天またはブロスにて37℃で培養された。アンピシリン(100 μg/ml)およびクロラムフェニコール(10 μg/ml)を、それぞれ、pET15b (Studier et al., 1990)およびpOS1 (Schneewind et al., 1993)プラスミド選択に用いた。
【0349】
変異体の作出
プライマーattB1_Coa、Coa1_BamHI、Coa2_BamHI、attbB2_CoaおよびattB1_vWF、vWF1_BamHI、vWF2_BamHI、attbB2_vWF (表10)を用いて、coaおよびvWbpの1 kb上流および下流のDNA配列をPCR増幅した。この断片を、BPクロナーゼIIキット(Invitrogen)を用いてpKOR1上に入れ替えた(Bae and Schneewind, 2005)。これらのベクターを黄色ブドウ球菌Newmanへ電気穿孔し、温度変化誘導性の対立遺伝子交換に供して対応する欠失を作出した(Bae and Schneewind, 2005)。変異体を、遺伝子座のPCR増幅、DNA配列決定および免疫ブロット分析によって確認した。
【0350】
補完性プラスミドを作出するために、プライマーのCoa_promoter_BamHI_F、Coa_out_PstI_R、vWbp_promoter_BamHI_F、vWbp_out_PstI_R (表10)をデザインしてvWbpまたはcoaの上流プロモーター領域を含め、増幅された領域をpOS1にクローニングした。これらのプラスミドを配列決定によって確認し、次いでブドウ球菌株へ電気穿孔した。免疫ブロット分析のため、トリプトソイブロス(Difco)中で増殖させたブドウ球菌の終夜培養の培養物を、100分の1にリフレッシュし、OD
600 0.4に達するまで37℃で振盪させながら増殖させた。各培養物のサンプル1 mlを卓上遠心分離機中にて10分間13,000×gで遠心分離し、上清を回収した。100% w/v溶液のトリクロロ酢酸75 μlを加え、サンプルを10分間氷上にてインキュベートし、引き続いて遠心分離および氷冷100%アセトン1 mlでの洗浄を行った。サンプルを終夜風乾させ、サンプル用緩衝液(4% SDS、50 mM Tris-HCl、pH 8、10%グリセロールおよびブロモフェノールブルー) 50 μl中で可溶化した。
【0351】
血中生存アッセイ法および血液凝固
ブドウ球菌株の終夜培養の培養物を新鮮TSB中に100分の1希釈し、OD
600 0.4に達するまで37℃で増殖させた。培養物1 mlを遠心分離し、ブドウ球菌を洗浄し、無菌PBS 10 mlに懸濁して1×10
7 CFU/mlの懸濁液を作出した。未処置6週齢Balb/cマウス由来の全血を回収し、REFLUDAN(商標) (lepirudin, Bayer)を終濃度50 μg/mlまで加えた。血液450 μLを1 mlのエッペンドルフ管へ分注し、50 μlの細菌サンプル(1×10
5 CFU/ml)と混合した。サンプルをゆっくり回転させながら37℃でインキュベートした。アリコット100 μlを0分および30分の時点で除去し、2%サポニン/PBSと1:1混合し、30分間氷上でインキュベートした。5つの10分の1連続希釈液を調製し、コロニーの形成および数え上げのためにアリコット10 μlをTSA寒天上に広げた。
【0352】
細菌血液凝固活性を評価するために、上記の細菌培養原液10 μlを無菌のプラスチック試験管(BD falcon)中の抗凝固処理マウス血液100 μlに添加して、1×10
5 CFU/mlの終濃度を達成した。抗体撹乱のため、3×10
-5 Molの抗体を含有するPBSさらに10 ulを混合物に添加した。組み換えタンパク質を評価するため、PBS緩衝液中10 μlのタンパク質を50 μMの終濃度まで添加した。試験管を室温でインキュベートし、一定間隔で試験管を45°の角度に傾けることによって血液の流動性または凝固を確認した。
【0353】
タンパク質精製
ワクチン接種研究のため、プライマーのCoa_foward_XhoI、Coa_reverse_BamHI、vWbp_forward_XhoI、vWbp_reverse_BamHI (表10)を用いpET15bベクターに成熟CoaまたはvWbpの全長コード配列をクローニングしてHis
6-CoaおよびHis
6-vWbpを得た。発現ベクターを持つ大腸菌BL21(DE3)を37℃で増殖させ、2時間後1 mM IPTGで誘導した。誘導から4時間後に、細胞を6,000×gで遠心分離し、1×カラム用緩衝液(0.1 M Tris-HCl pH 7.5, 0.5 M NaCl)に懸濁し、フレンチプレス中にて14,0000 lb/in
2で溶解した。溶解物を30分間40,000×gでの超遠心分離に供し、上清をNi-NTAクロマトグラフィーに供し、25 μMイミダゾールを含有するカラム用緩衝液で洗浄し、引き続き500 μMイミダゾールでの溶出を行った。溶出液を1×PBSで透析した。内毒素を除去するため、1,000分の1のTriton-X114を添加し、溶液を5分間冷却し、37℃で10分間インキュベートし、13,000×gで遠心分離した。上清をHiTrap脱塩カラムに負荷して、Triton-X114のいずれの残存物も除去した。
【0354】
(表10) 本研究に用いたプライマー
【0355】
酵素的研究、ELISAおよびSPRのため、コアグラーゼの初めのIle-Val-Thr-LysおよびvWbpの初めのVal-Val-Ser-Glyに先行して第Xa因子部位を含んだ、プライマーのCoa_Xho_factorXa_F、Coa_reverse_BamHI、vWbp_Xho_factorXa_F、vWbp_reverse_BamHI (表10)で成熟CoaまたはvWbpの全長コード配列をpET15bにクローニングした。これらのタンパク質を、上記のプロトコルを用いて発現かつ精製し、次に25℃にて1時間10単位の第Xa因子/1 mlで切断して、N末端からHis
6タグを除去した。次いで、最終精製のためにSuperdex 75 (GE Healthcare)カラムにタンパク質を負荷した。溶出されたタンパク質は全て、1×PBS中で貯蔵した。
【0356】
ウサギ抗体
タンパク質濃度はBCAキット(Thermo Scientific)を用いて決定した。純度はSDS pageゲル分析およびクマシーブリリアントブルー染色によって確認した。6ヶ月齢New-Zealandホワイトの雌性ウサギ(Charles River Laboratories)に初回免疫の場合にはCFA (Difco)または24および48日目の追加免疫の場合にはIFA中で乳化されたタンパク質500 μgを免疫した。60日目に、ウサギから採血し、免疫ブロッティングまたは受動移入実験のために血清を回収した。抗体精製のため、組み換えHis
6-CoaまたはHis
6-vWbp (5 mg)をHiTrap NHS-活性化HPカラム(GE Healthcare)に共有結合的に連結させた。この抗原-基材を次に、4℃でのウサギ血清10〜20 mlのアフィニティークロマトグラフィーに用いた。充填された基材を50カラム容量のPBSで洗浄し、抗体を溶出用緩衝液(1 Mグリシン, pH 2.5、0.5 M NaCl)で溶出させ、1 M Tris-HCl, pH 8.5ですぐに中和した。精製抗体を4℃でPBSに対して終夜透析した。
【0357】
表面プラズモン共鳴
親和性ならびに結合速度および解離速度をBIAcore 3000にて測定した。緩衝液をろ過滅菌し、脱気した。アミン結合を目的に0.2 M EDCおよび0.05 M NHSの存在下でのヒトプロトロンビン(500 nM, pH 4.0) (Innovative Research)およびヒトフィブリノゲン(200 nM, pH 4.5) (Innovative Research)の注入によってCM5チップを調製した。コアグラーゼとプロトロンビンおよびフィブリノゲンとの相互作用を測定するため、CoaをHBS-P緩衝液(20 mM HEPES [pH 7.4]、150 mM NaCl、0.005% [体積/体積]界面活性剤P20)の中に濃度0〜75 nMで希釈し、連続してコアグラーゼの注入300秒間、引き続き解離を300秒、引き続きNaOHによる再生(50 μL、30秒)を行った。BiaEvaluationソフトウェアを用いてK
Dおよびχ
2を決定し、ドリフティングベースラインおよび局所R
maxありの1:1結合モデルで最良の適合を決定した。フォンウィルブランド因子とプロトロンビンおよびフィブリノゲンとの相互作用を同じように測定した。全ての実験は三つ組で繰り返した。ポリクローナル抗体による阻害実験は上記と同じ注入条件の下、0 nM〜200 nMのαCoaとともにインキュベートされたコアグラーゼ(25 nM)の連続注入によって行った。vWF (50 nM)を0 nM〜400 nMのαvWFとともに同様にインキュベートした。注入の前から注入の終わりまでの反応単位の変化として反応の差異を測定した。
【0358】
コアグラーゼ活性の測定
1×10
-16 Mのプロトロンビン(Innovative Research)を等量の機能的コアグラーゼまたはvWbpとともに室温で20分間プレインキュベートした後、1×PBS 100 μlの全反応緩衝液中1 mMの終濃度までS-2238 (発色基質)の添加を行った。吸光度の変化を分光光度計にて10分間450 nmで測定し、時間の関数としてプロットし、線形曲線に適合させた。曲線の傾き(dA/dt)はS-2238加水分解の速度であると解釈され、したがって、酵素機能(コアグラーゼ-プロトロンビンまたはvWbp-プロトロンビン複合体活性 %)を反映していると解釈された。このアッセイを、3 M過剰(3×10
-16 M)で添加された特異性または交差性抗体の存在下で繰り返し、データを、阻害なしでの平均活性%に対して規準化した。
【0359】
腎膿瘍モデルおよび致死的攻撃
ブドウ球菌株の終夜培養の培養物を新鮮TSB中に100分の1希釈し、OD
600 0.4に達するまで増殖させた。細菌10 mlを7,500×gで遠心分離し、洗浄し、1×PBS 10 mlに懸濁した。6週齢雌性BALB/cマウス(Charles River)の眼窩後部にPBS 100 μl中1×10
7 CFUのブドウ球菌懸濁液を注射した。マウス10匹のコホートを用いた。感染後5日目に、これらのマウスをCO
2窒息によって殺処理し、その腎臓を切除した。全ての器官を表面病変部について調べ、右腎8〜10個を組織病理切片作製およびヘマトキシリン・エオシン染色のために発送した。これらのスライドを内部膿瘍を目的に光学顕微鏡検査によって調べた。致死的攻撃モデルの場合、全ての実験条件は、1×10
8 CFUのブドウ球菌を投与したこと、およびマウスを感染後10日間、生存についてモニタリングしたことを除いて何ら変わりない。
【0360】
腎切片の免疫組織化学染色
切片化された腎臓を脱パラフィン化し、キシレンおよびEtOHの連続希釈を通じて蒸留水に再水和された。それらを抗原回復用緩衝液(DAKO, pH 6.0)中でインキュベートし、蒸し器にて20分間96℃超で加熱した。洗浄後、スライドを5分間3%の過酸化水素、次いで30分間0.025%のTritonx-100-PBS中10%の正常血清中にてインキュベートした。30分のインキュベーションの間のブロッキング試薬として10%ヒトIgGを用いた(Sigma-Aldrich)。湿度室中4℃での終夜インキュベーションの間、スライド上に一次抗体を適用した。使用した一次抗体は、500分の1のラット抗マウスプロトロンビン(Innovative Research)、500分の1のウサギ抗マウスフィブリノゲン(Innovative Research)、250分の1のウサギ抗スタフィロコアグラーゼまたは250分の1のウサギ抗ブドウ球菌vwbpであった。TBS洗浄の後、スライドをビオチン化二次抗体(Vector Laboratoriesの50分の1希釈のビオチン化抗ラットIgG, BA-4001; またはVectorの200分の1希釈のビオチン化抗ウサギIgG, BA-1000)、次いでABC試薬(Vector Laboratories)とともにインキュベートした。抗原-抗体結合をDAB基質色素原の系によって検出した。スライドを対比染色のためにヘマトキシリン中に手短に浸漬し、光学顕微鏡下で評価した。
【0361】
能動免疫
3週齢BALB/cマウスにCFA 100 μl中で乳化された各タンパク質50 μgを注射した。マウス15匹のコホートを用い、マウス5匹は採血および抗体力価のために取っておいた。ワクチン接種から11日後に、これらのマウスにIFA 100 μl中で乳化された各タンパク質50 μgを追加免疫した。21日目に、マウスに腎膿瘍モデルの場合には1×107 CFU、または致死的攻撃の場合には1×108 CFUのブドウ球菌を注射した。感染の時点でマウス5匹から採血して抗体の力価を得た。
【0362】
抗体の受動移入
感染の24時間前に、6週齢BALB/cマウスにCoaおよび/またはvWbpに対する精製抗体を5 mg/kg体重の用量で注射した。マウス10匹のコホートを用いた。これらのマウスを1×10
7 CFUのブドウ球菌(腎膿瘍モデル)または1×10
8 CFUのブドウ球菌(致死的菌血症)の眼窩後部注射によって攻撃した。
【0363】
参考文献
以下の参考文献は、本明細書に記載のものを補完する例示的な手順のまたはその他の詳細を提供する程度に、参照により本明細書に特に組み入れられる。