特許第5789276号(P5789276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本特殊陶業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5789276-点火システム 図000002
  • 特許5789276-点火システム 図000003
  • 特許5789276-点火システム 図000004
  • 特許5789276-点火システム 図000005
  • 特許5789276-点火システム 図000006
  • 特許5789276-点火システム 図000007
  • 特許5789276-点火システム 図000008
  • 特許5789276-点火システム 図000009
  • 特許5789276-点火システム 図000010
  • 特許5789276-点火システム 図000011
  • 特許5789276-点火システム 図000012
  • 特許5789276-点火システム 図000013
  • 特許5789276-点火システム 図000014
  • 特許5789276-点火システム 図000015
  • 特許5789276-点火システム 図000016
  • 特許5789276-点火システム 図000017
  • 特許5789276-点火システム 図000018
  • 特許5789276-点火システム 図000019
  • 特許5789276-点火システム 図000020
  • 特許5789276-点火システム 図000021
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5789276
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】点火システム
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20150917BHJP
   F02P 13/00 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   H01T13/20 B
   F02P13/00 301J
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-26210(P2013-26210)
(22)【出願日】2013年2月14日
(65)【公開番号】特開2014-154529(P2014-154529A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2014年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111095
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 光男
(72)【発明者】
【氏名】山田 達範
(72)【発明者】
【氏名】伴 謙治
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 智克
【審査官】 岡崎 克彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭50−157732(JP,A)
【文献】 特開2009−259776(JP,A)
【文献】 特開2011−175980(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 7/00−23/00
F02P 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に貫通する軸孔を有する筒状の絶縁体と、前記軸孔の先端側に挿設され、先端部が前記絶縁体の先端から突出する中心電極と、前記中心電極の先端部との間で間隙を形成する棒状の接地電極とを有する点火プラグと、
前記間隙に電気エネルギーを投入する電源とを備え、
前記電源から前記間隙に電気エネルギーが投入されることで、前記間隙において火花放電を生じさせる点火システムであって、
1の火花放電を生じさせる際の前記電源の出力エネルギーが100mJ以上であり、
前記間隙の大きさをG1(mm)とし、
前記軸線と直交する平面に、前記中心電極の先端部と前記接地電極とを前記軸線に沿って投影したときにおいて、前記中心電極の投影領域のうち前記接地電極の投影領域と重なる領域を除いた領域の面積をS1(mm2)とし、前記中心電極の投影領域の面積をS2(mm2)としたとき、
S1≧[{−30(mm-1)×G1+60}/100]×S2
G1<2.0
を満たすことを特徴とする点火システム。
【請求項2】
S1≦0.8×S2を満たすことを特徴とする請求項1に記載の点火システム。
【請求項3】
軸線方向に貫通する軸孔を有する筒状の絶縁体と、前記軸孔の先端側に挿設された中心電極と、前記絶縁体の外周に設けられた主体金具と、前記主体金具の先端部に配置された棒状の接地電極と、前記接地電極の先端部に設けられ、前記中心電極の先端部との間で間隙を形成する突出部とを有する点火プラグと、
前記間隙に電気エネルギーを投入する電源とを備え、
前記電源から前記間隙に電気エネルギーが投入されることで、前記間隙において火花放電を生じさせる点火システムであって、
1の火花放電を生じさせる際の前記電源の出力エネルギーが100mJ以上であり、
前記間隙の大きさをG3(mm)とし、
前記接地電極と前記中心電極の先端部との間の最短距離をG4(mm)とし、
前記軸線と直交する平面に、前記中心電極の先端部と前記接地電極と前記突出部とを前記軸線に沿って投影したときにおいて、前記中心電極の投影領域の面積をS2(mm2)とし、前記中心電極の投影領域のうち前記突出部の投影領域を除いた領域の面積をS3(mm2)とし、前記中心電極の投影領域のうち前記接地電極の投影領域及び前記突出部の投影領域を除いた領域の面積をS4(mm2)としたとき、
S3≧[{−30(mm-1)×G3+60}/100]×S2
S4≧[{−30(mm-1)×G4+60}/100]×S2
G3<2.0
G4<2.0
を満たすことを特徴とする点火システム。
【請求項4】
S3≦0.8×S2、及び、S4≦0.8×S2のうちの少なくとも一方を満たすことを特徴とする請求項3に記載の点火システム。
【請求項5】
前記軸線と直交する平面に、前記中心電極の先端部と前記接地電極と前記接地電極の中心軸とを前記軸線に沿って投影したときにおいて、前記接地電極の投影領域の少なくとも一部が前記中心電極の投影領域に重なるとともに、前記中心軸の投影線が前記中心電極の投影領域の中心からずれた位置に存在することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の点火システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点火プラグを有し、内燃機関等に使用される点火システムに関する。
【背景技術】
【0002】
点火システムは、燃焼室内の混合気等への着火のために用いられ、内燃機関(エンジン)等に取付けられる点火プラグと、点火プラグに対して電気エネルギーを供給する電源とを備えている。一般に点火プラグは、軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、軸孔の先端側に挿通される中心電極と、絶縁体の外周に設けられる主体金具と、主体金具の先端部に固定される棒状の接地電極とを備えている。また、接地電極の先端部と中心電極の先端部との間には火花放電間隙が形成されており、電源から火花放電間隙に電気エネルギーを投入し、火花放電を生じさせることで混合気等への着火がなされるようになっている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
また、着火性及び耐久性の向上を図るべく、接地電極の先端部に貴金属合金などからなる突出部を設ける技術が提案されている(例えば、特許文献2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−343157号公報
【特許文献2】特開2009−158339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで近年では、排ガス規制への対応や燃費向上の観点から、リーンバーンエンジンや直噴エンジン、低排ガスエンジン等の開発が積極的に行われており、このようなエンジンにおいては、一層良好な着火性が要求される。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、火花放電を生じさせる際における電源からの出力エネルギーを十分に生かし、優れた着火性を実現することができる点火システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記目的を解決するのに適した各構成につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果を付記する。
【0008】
構成1.本構成の点火システムは、軸線方向に貫通する軸孔を有する筒状の絶縁体と、前記軸孔の先端側に挿設され、先端部が前記絶縁体の先端から突出する中心電極と、前記中心電極の先端部との間で間隙を形成する棒状の接地電極とを有する点火プラグと、
前記間隙に電気エネルギーを投入する電源とを備え、
前記電源から前記間隙に電気エネルギーが投入されることで、前記間隙において火花放電を生じさせる点火システムであって、
1の火花放電を生じさせる際の前記電源の出力エネルギーが100mJ以上であり、
前記間隙の大きさをG1(mm)とし、
前記軸線と直交する平面に、前記中心電極の先端部と前記接地電極とを前記軸線に沿って投影したときにおいて、前記中心電極の投影領域のうち前記接地電極の投影領域と重なる領域を除いた領域の面積をS1(mm2)とし、前記中心電極の投影領域の面積をS2(mm2)としたとき、
S1≧[{−30(mm-1)×G1+60}/100]×S2
G1<2.0
を満たすことを特徴とする。
【0009】
尚、1の火花放電とあるのは、内燃機関等の1サイクル中における火花放電を意味する。例えば、吸気・圧縮・点火(膨張)・排気の4つの行程をとる4ストローク機関であれば、吸気・圧縮・点火(膨張)・排気で1サイクルであり、吸気及び圧縮と、点火及び排気との2つの行程をとる2ストローク機関であれば、吸気及び圧縮・点火及び排気で1サイクルである。
【0010】
上記構成1によれば、1の火花放電を生じさせる際の電源からの出力エネルギーが100mJ以上とされている。従って、電気エネルギーにより間隙において単に火花(火炎)を生成するだけでなく、電気エネルギーによって、火花(火炎)に対して先端側(燃焼室の中心側)に向けた拡散力を与えることができる。
【0011】
そして、このような火花(火炎)に対して先端側に向けた拡散力が与えられる構成において、上記構成1によれば、S1≧[{−30(mm-1)×G1+60}/100]×S2を満たすように構成されている。すなわち、間隙の大きさG1が小さいほど、接地電極によって火花(火炎)の先端側に向けた拡散が阻害されやすく、S1/S2が大きいほど、接地電極による火花(火炎)の拡散阻害が生じにくいところ、S1≧[{−30(mm-1)×G1+60}/100]×S2を満たすことで、接地電極による火花(火炎)の先端側に向けた拡散阻害が効果的に抑制されるように構成されている。従って、出力エネルギーを100mJ以上とすることによる、先端側に向けた拡散力を十分に生かすことができ、火花(火炎)を先端側(燃焼室の中心側)に向けて勢いよく成長させることができる。その結果、優れた着火性を実現することができる。
【0012】
構成2.本構成の点火システムは、上記構成1において、S1≦0.8×S2を満たすことを特徴とする。
【0013】
上記構成2によれば、間隙において、中心電極及び接地電極の対向面積を十分に確保することができる。従って、火花放電に伴う中心電極や接地電極の局所的な消耗をより確実に抑制することができ、良好な耐久性を得ることができる。
【0014】
構成3.本構成の点火システムは、軸線方向に貫通する軸孔を有する筒状の絶縁体と、前記軸孔の先端側に挿設された中心電極と、前記絶縁体の外周に設けられた主体金具と、前記主体金具の先端部に配置された棒状の接地電極と、前記接地電極の先端部に設けられ、前記中心電極の先端部との間で間隙を形成する突出部とを有する点火プラグと、
前記間隙に電気エネルギーを投入する電源とを備え、
前記電源から前記間隙に電気エネルギーが投入されることで、前記間隙において火花放電を生じさせる点火システムであって、
1の火花放電を生じさせる際の前記電源の出力エネルギーが100mJ以上であり、
前記間隙の大きさをG3(mm)とし、
前記接地電極と前記中心電極の先端部との間の最短距離をG4(mm)とし、
前記軸線と直交する平面に、前記中心電極の先端部と前記接地電極と前記突出部とを前記軸線に沿って投影したときにおいて、前記中心電極の投影領域の面積をS2(mm2)とし、前記中心電極の投影領域のうち前記突出部の投影領域を除いた領域の面積をS3(mm2)とし、前記中心電極の投影領域のうち前記接地電極の投影領域及び前記突出部の投影領域を除いた領域の面積をS4(mm2)としたとき、
S3≧[{−30(mm-1)×G3+60}/100]×S2
S4≧[{−30(mm-1)×G4+60}/100]×S2
G3<2.0
G4<2.0
を満たすことを特徴とする。
【0015】
上記構成3によれば、接地電極の先端部に突出部が設けられた点火システムにおいて、上記構成1と同様の作用効果を発揮させることができる。すなわち、出力エネルギーを100mJ以上とすることで、火花(火炎)に対して先端側に向けた拡散力を与えつつ、面積S3,S4が前記式を満たすように構成することで、拡散力を十分に生かすことができ、火花(火炎)を先端側(燃焼室の中心側)に向けて勢いよく成長させることができる。その結果、優れた着火性を実現することができる。
【0016】
構成4.本構成の点火システムは、上記構成3において、S3≦0.8×S2、及び、S4≦0.8×S2のうちの少なくとも一方を満たすことを特徴とする。
【0017】
上記構成4によれば、S3≦0.8×S2を満たすことで、間隙において、突出部及び中心電極の対向面積を十分に確保することができる。従って、火花放電に伴う突出部や中心電極の局所的な消耗をより確実に抑制することができ、耐久性の向上を図ることができる。
【0018】
また、S4≦0.8×S2を満たすことで、突出部及び接地電極と中心電極との対向面積を十分に確保することができる。その結果、接地電極や中心電極の局所的な消耗を抑制することができ、耐久性を向上させることができる。
【0019】
尚、一層良好な耐久性を実現するという観点では、S3≦0.8×S2、及び、S4≦0.8×S2の双方を満たすように構成することが好ましい。
【0020】
構成5.本構成の点火システムは、上記構成1乃至4のいずれかにおいて、前記軸線と直交する平面に、前記中心電極の先端部と前記接地電極と前記接地電極の中心軸とを前記軸線に沿って投影したときにおいて、前記接地電極の投影領域の少なくとも一部が前記中心電極の投影領域に重なるとともに、前記中心軸の投影線が前記中心電極の投影領域の中心からずれた位置に存在することを特徴とする。
【0021】
上記構成5によれば、接地電極のうち中心電極側に位置する面と当該面に隣接する側面との間の角部(電界強度が高くなり、火花放電の起点となる部位)を中心電極の先端部に対してより接近させることができる。従って、火花放電の起点となる部位をより多く形成することができ、中心電極や接地電極の局所的な消耗を一層効果的に抑制することができる。その結果、耐久性の更なる向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】点火システムの概略構成を示すブロック図である。
図2】点火プラグの構成を示す一部破断正面図である。
図3】点火プラグの先端部の構成を示す一部破断拡大正面図である。
図4】中心電極の先端部、及び、接地電極の投影図である。
図5】接地電極の中心軸の投影線と中心電極の投影領域の中心との位置関係を示す投影図である。
図6】火花(火炎)の成長を模式的に表す図であり、(a)は、拡大正面模式図であり、(b)は、拡大側面模式図である。
図7】第2実施形態における、点火プラグの構成を示す一部破断拡大正面図である。
図8】第2実施形態における、中心電極の先端部、接地電極、及び、突出部の投影図である。
図9】第2実施形態において、火花(火炎)の成長を模式的に表す図であり、(a)は、拡大正面模式図であり、(b)は、拡大側面模式図である。
図10】火花放電間隙の大きさを1.5mmとし、出力エネルギーを100mJとしたサンプルにおける、着火性評価試験の結果を示すグラフである。
図11】火花放電間隙の大きさを1.5mmとし、中心電極の先端面の外径を1.5mmとしたサンプルにおける、着火性評価試験の結果を示すグラフである。
図12】火花放電間隙の大きさを1.1mmとし、出力エネルギーを100mJとしたサンプルにおける、着火性評価試験の結果を示すグラフである。
図13】火花放電間隙の大きさを1.1mmとし、中心電極の先端面の外径を1.5mmとしたサンプルにおける、着火性評価試験の結果を示すグラフである。
図14】火花放電間隙の大きさを0.5mmとし、出力エネルギーを100mJとしたサンプルにおける、着火性評価試験の結果を示すグラフである。
図15】火花放電間隙の大きさを0.5mmとし、中心電極の先端面の外径を1.5mmとしたサンプルにおける、着火性評価試験の結果を示すグラフである。
図16】火花放電間隙の大きさと、着火性を向上させることができる面積割合の最小値との関係を示すグラフである。
図17】面積割合を種々変更したサンプルにおける、耐久性評価試験の結果を示すグラフである。
図18】センター配置サンプル及びオフセット配置サンプルにおける耐久寿命割合を示すグラフである。
図19】別の実施形態における、突出部の構成等を示す底面図である。
図20】別の実施形態における、接地電極の構成を示す底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、実施形態について図面を参照しつつ説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、点火システム101の概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、点火システム101は、内燃機関ENに取付けられた点火プラグ1と、点火プラグ1に電気エネルギーを供給する電源51とを備えている。尚、図1では、点火プラグ1を1つのみ示しているが、実際の内燃機関ENには複数の気筒が設けられ、各気筒に対応して点火プラグ1が設けられる。そして、電源51からの電気エネルギーが、図示しないディストリビュータを介して各点火プラグ1に供給されるようになっている。
【0024】
点火プラグ1は、図2に示すように、筒状をなす絶縁体としての絶縁碍子2、これを保持する筒状の主体金具3などから構成されるものである。尚、図2では、点火プラグ1の軸線CL1方向を図面における上下方向とし、下側を点火プラグ1の先端側、上側を後端側として説明する。
【0025】
絶縁碍子2は、周知のようにアルミナ等を焼成して形成されており、その外形部において、後端側に形成された後端側胴部10と、当該後端側胴部10よりも先端側において径方向外向きに突出形成された大径部11と、当該大径部11よりも先端側においてこれよりも細径に形成された中胴部12と、当該中胴部12よりも先端側においてこれよりも細径に形成された脚長部13とを備えている。加えて、絶縁碍子2のうち、大径部11、中胴部12、及び、大部分の脚長部13は、主体金具3の内部に収容されている。そして、中胴部12と脚長部13との連接部にはテーパ状の段部14が形成されており、当該段部14にて絶縁碍子2が主体金具3に係止されている。
【0026】
さらに、絶縁碍子2には、軸線CL1に沿って軸孔4が貫通形成されており、当該軸孔4の先端側には中心電極5が挿設されている。当該中心電極5は、熱伝導性に優れる金属〔例えば、銅や銅合金、純ニッケル(Ni)〕等からなる内層5Aと、Niを主成分とする合金からなる外層5Bとを有している。また、中心電極5の先端部には、耐消耗性に優れる金属〔例えば、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、レニウム(Re)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、又は、これらの少なくとも一種を主成分とする合金など〕からなる円柱状のチップ31が設けられている。そして、中心電極5(チップ31)は、その先端面が平坦状をなすとともに、その先端部が絶縁碍子2の先端から突出している。
【0027】
また、軸孔4の後端側には、絶縁碍子2の後端から突出した状態で端子電極6が挿入、固定されている。
【0028】
さらに、軸孔4の中心電極5と端子電極6との間には、円柱状の抵抗体7が配設されている。当該抵抗体7の両端部は、導電性のガラスシール層8,9を介して、中心電極5と端子電極6とにそれぞれ電気的に接続されている。
【0029】
加えて、前記主体金具3は、低炭素鋼等の金属により筒状に形成されており、その外周面には点火プラグ1を内燃機関等の取付孔に取付けるためのねじ部(雄ねじ部)15が形成されている。また、ねじ部15よりも後端側には鍔状の座部16が形成され、ねじ部15後端のねじ首17にはリング状のガスケット18が嵌め込まれている。さらに、主体金具3の後端側には、主体金具3を内燃機関等に取付ける際にレンチ等の工具を係合させるための断面六角形状の工具係合部19が設けられるとともに、後端部において絶縁碍子2を保持するための加締め部20が設けられている。
【0030】
また、主体金具3の内周面には、絶縁碍子2を係止するためのテーパ状の段部21が設けられている。そして、絶縁碍子2は、主体金具3に対してその後端側から先端側に向かって挿入され、自身の段部14が主体金具3の段部21に係止された状態で、主体金具3の後端側開口部を径方向内側に加締めること、つまり上記加締め部20を形成することによって固定されている。尚、段部14,21間には、円環状の板パッキン22が介在されている。これにより、燃焼室内の気密性を保持し、燃焼室内に晒される絶縁碍子2の脚長部13と主体金具3の内周面との隙間に入り込む燃料ガスが外部に漏れないようになっている。
【0031】
さらに、加締めによる密閉をより完全なものとするため、主体金具3の後端側においては、主体金具3と絶縁碍子2との間に環状のリング部材23,24が介在され、リング部材23,24間にはタルク(滑石)25の粉末が充填されている。すなわち、主体金具3は、板パッキン22、リング部材23,24及びタルク25を介して絶縁碍子2を保持している。
【0032】
また、図3に示すように、主体金具3の先端部26には、自身の中間部分にて曲げ返されて、その先端側側面が中心電極5の先端面と対向する棒状の接地電極27が接合されている。接地電極27は、Niを主成分とする合金(例えば、Niを主成分とし、ケイ素、アルミニウム、及び、希土類元素の少なくとも一種を含有する合金)により構成されている。加えて、中心電極5の先端部と接地電極27の先端部との間には、間隙としての火花放電間隙33が形成されており、電源51から火花放電間隙33に電気エネルギーが投入されることで、火花放電間隙33において火花放電を生じさせることができるようになっている。また、本実施形態では、火花放電間隙33の大きさG1(mm;中心電極5及び接地電極27間の最短距離)が、2.0mm未満とされている。尚、本実施形態では、火花放電間隙33の大きさG1が所定数値以上(例えば、0.3mm以上)とされている。
【0033】
図1に戻り、電源51は、点火プラグ1に対して電気エネルギーを供給し、火花放電間隙33にて火花放電を生じさせるものであり、一次コイル52、二次コイル53、コア54、及び、イグナイタ55を備えている。
【0034】
一次コイル52は、前記コア54を中心に巻回されており、その一端が電力供給用のバッテリ56に接続されるとともに、その他端がイグナイタ55に接続されている。また、二次コイル53は、前記コア54を中心に巻回されており、その一端が一次コイル52及びバッテリ56間に接続されるとともに、その他端が点火プラグ1の端子電極6に接続されている。
【0035】
加えて、イグナイタ55は、所定のトランジスタにより形成されており、所定の電子制御装置(ECU)71により構成された制御部61からの通電信号に応じて、バッテリ56から一次コイル52に対する電力の供給及び供給停止を切り替える。点火プラグ1に電気エネルギーを供給する場合には、バッテリ56から一次コイル52に電流を流し、前記コア54の周囲に磁界を形成した上で、制御部61からの通電信号をオンからオフに切り替えることにより、バッテリ56から一次コイル52に対する通電を停止する。通電の停止により、前記コア54の磁界が変化し、二次コイル53に負極性の電気エネルギーが発生する。この電気エネルギーが点火プラグ1(火花放電間隙33)に印加されることで、火花放電間隙33において火花放電を発生させることができる。
【0036】
加えて、本実施形態では、1の火花放電(1サイクル中の火花放電)を生じさせる際における電源51の出力エネルギーが100mJ以上とされている(尚、出力エネルギーは、1サイクル中に1回の火花放電を生じさせる場合には、その1回の火花放電を生じさせる際の出力エネルギーをいい、1サイクル中に複数の火花放電を生じさせる場合には、各火花放電を生じさせる際のエネルギーの総量をいう)。このような高エネルギーが投入されることで、火花放電間隙33においては、火花放電が生じるとともに、前記高エネルギーにより、火花(火炎)に対して軸線CL1方向先端側(つまり、燃焼室の中心側)に向けた拡散力が与えられるようになっている。尚、1の火花放電を生じさせる際における電源51の出力エネルギーが100mJ未満とした場合には、投入された電気エネルギーにより火花放電は生じるものの、前記電気エネルギーにより火花(火炎)に対して軸線CL1方向先端側に向けた拡散力が与えられるといった事象は生じず、単に時間の経過とともに火炎が伝播するのみである。
【0037】
また、本実施形態では、前述の通り、電源51の出力エネルギーが100mJ以上とされ、投入エネルギーにより火花(火炎)に対して軸線CL1方向先端側に向けた拡散力が与えられるといった特徴を踏まえて、接地電極27が次のように構成されている。
【0038】
すなわち、図4に示すように、軸線CL1と直交する平面VSに、中心電極5の先端部と接地電極27とを軸線CL1に沿って投影したときにおいて、中心電極5の投影領域5P(図4中、斜線を付した部位)のうち接地電極27の投影領域27P(図4中、散点模様を付した部位)と重なる領域を除いた領域(図4中、太線で囲んだ領域)の面積をS1(mm2)とし、中心電極5の投影領域5Pの面積をS2(mm2)としたとき、S1≧[{−30(mm-1)×G1+60}/100]×S2を満たすように構成されている。つまり、火花放電間隙33の大きさG1が小さい(つまり、軸線CL1方向先端側に向けた火炎の拡散が接地電極に27により阻害されやすい)ほど、中心電極5の先端面と接地電極27の先端部との対向面積が小さくなるように構成されている。
【0039】
一方で、中心電極5の先端面と接地電極27の先端部との対向面積が過度に小さくなってしまうと、両電極5,27間において火花放電の発生位置が集中してしまい、火花放電間隙33が急速に拡大してしまうおそれがある。この点を鑑みて、本実施形態では、S1≦0.8×S2を満たすように構成されている。すなわち、中心電極5の先端面のうち接地電極27の先端部と対向していない面が、中心電極5先端面の面積の80%以下となる(換言すれば、中心電極5の先端面のうち接地電極27の先端部と対向している面が、中心電極5先端面の面積の20%以上となる)ように構成されている。
【0040】
加えて、本実施形態では、図5に示すように、軸線CL1と直交する平面VSに、中心電極5の先端部と接地電極27と接地電極27の中心軸CL2(図3参照)とを軸線CL1に沿って投影したときにおいて、接地電極27の投影領域27Pの少なくとも一部が中心電極5の投影領域5Pに重なるとともに、前記中心軸CL2の投影線PLが中心電極5の投影領域5Pの中心CPからずれた位置に存在するように構成されている。すなわち、軸線CL1方向先端側から見たときにおいて、中心軸CL2が中心電極5の先端面中心からずれた位置に存在するように接地電極27の配置位置が設定されている。
【0041】
以上詳述したように、本実施形態によれば、1の火花放電を生じさせる際の電源51からの出力エネルギーが100mJ以上とされている。従って、電気エネルギーにより火花放電間隙33において単に火花(火炎)を生成するだけでなく、電気エネルギーによって、火花(火炎)に対して先端側(燃焼室の中心側)に向けた拡散力を与えることができる。
【0042】
そして、このような火花(火炎)に対して先端側に向けた拡散力が与えられる構成において、本実施形態では、S1≧[{−30(mm-1)×G1+60}/100]×S2を満たすように構成されている。従って、接地電極27による火花(火炎)の先端側に向けた拡散阻害を効果的に抑制することができる。これにより、図6(a),(b)に示すように、出力エネルギーを100mJ以上とすることによる、先端側に向けた拡散力(図6中、黒矢印で示す力)を十分に生かすことができ、火花(火炎)を先端側(燃焼室の中心側)に向けて勢いよく成長させることができる。その結果、優れた着火性を実現することができる。尚、図6では、火花(火炎)の成長を点線で模式的に示す。また、図6中の白抜き矢印は、火花(火炎)の伝播方向を示し、出力エネルギーが100mJ未満の場合や、面積S1,S2が上述の関係式を満たさない場合でも、この白抜き矢印方向に火花(火炎)は伝播する。
【0043】
さらに、本実施形態では、S1≦0.8×S2を満たすように構成されているため、火花放電間隙33において、中心電極5及び接地電極27の対向面積を十分に確保することができる。従って、火花放電に伴う中心電極5や接地電極27の局所的な消耗をより確実に抑制することができ、良好な耐久性を得ることができる。
【0044】
加えて、本実施形態では、軸線CL1方向先端側から見たときにおいて、中心軸CL2が中心電極5の先端面中心からずれた位置に存在している。そのため、接地電極27のうち中心電極5側に位置する面と当該面に隣接する側面との間の角部(電界強度が高くなり、火花放電の起点となる部位)を中心電極5の先端部に対してより接近させることができる。従って、火花放電の起点となる部位をより多く形成することができ、中心電極5や接地電極27の局所的な消耗を一層効果的に抑制することができる。その結果、耐久性の更なる向上を図ることができる。
〔第2実施形態〕
次いで、第2実施形態について、上記第1実施形態との相違点を中心に説明する。上記第1実施形態において、火花放電間隙33は、中心電極5の先端部と接地電極27の先端部との間に形成されている。これに対して、本第2実施形態では、図7に示すように、火花放電間隙43が、接地電極37の先端部に設けられた突出部38と、中心電極5との間に形成されている。尚、突出部38は、耐消耗性に優れる金属(例えば、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、W、Pd、又は、これらの少なくとも一種を主成分とする合金など)により構成されており、抵抗溶接により接地電極37の先端部に接合されている。
【0045】
さらに、本第2実施形態において、突出部38は、接地電極37のうち中心電極5側に位置する面よりも中心電極5側に突出している。そのため、火花放電間隙43の大きさ(中心電極5及び突出部38間の最短距離)をG3(mm)とし、接地電極37と中心電極5の先端部との間の最短距離をG4(mm)としたとき、G3<G4を満たすものとなっている。また、本第2実施形態では、G3<2.0、及び、G4<2.0を満たすように構成されている。
【0046】
加えて、図8に示すように、軸線CL1と直交する平面VSに、中心電極5の先端部と接地電極37と突出部38とを軸線CL1に沿って投影する。そして、中心電極5の投影領域5P(図8中、斜線を付した部位)の面積をS2(mm2)とし、中心電極5の投影領域5Pのうち突出部38の投影領域38P(図8中、格子模様を付した部位)を除いた領域の面積をS3(mm2)とし、中心電極5の投影領域5Pのうち接地電極37の投影領域37P(図8中、散点模様を付した部位)及び突出部38の投影領域38Pを除いた領域の面積をS4(mm2)とする。このとき、S3≧[{−30(mm-1)×G3+60}/100]×S2、及び、S4≧[{−30(mm-1)×G4+60}/100]×S2を満たすように構成されている。すなわち、火花放電間隙43の大きさG3が小さい(つまり、軸線CL1方向先端側に向けた火炎の拡散が突出部38により阻害されやすい)ほど、中心電極5の先端面と突出部38との対向面積が小さくなるように構成されている。また、前記最短距離G4が小さいほど(つまり、軸線CL1方向先端側に向けた火炎の拡散が接地電極37及び突出部38により阻害されやすい)ほど、中心電極5の先端面と接地電極37及び突出部38との対向面積が小さくなるように構成されている。
【0047】
さらに、本第2実施形態では、S3≦0.8×S2、及び、S4≦0.8×S2のうちの少なくとも一方(本実施形態では、双方)を満たすように構成されている。
【0048】
以上、本第2実施形態によれば、基本的には上記第1実施形態と同一の作用効果が奏されることとなる。すなわち、図9に示すように、出力エネルギーを100mJ以上とすることで、火花(火炎)に対して先端側に向けた拡散力(図9中、黒矢印で示す力)を与えつつ、面積S3,S4が前記式を満たすように構成することで、拡散力を十分に生かすことができ、火花(火炎)を先端側(燃焼室の中心側)に向けて勢いよく成長させることができる。その結果、優れた着火性を実現することができる。尚、図9では、火花(火炎)の成長を点線で模式的に示す。また、図9中の白抜き矢印は、火花(火炎)の伝播方向を示し、出力エネルギーが100mJ未満の場合や、面積S1,S2が上述の関係式を満たさない場合でも、白抜き矢印の方向に火花(火炎)は伝播する。
【0049】
また、S3≦0.8×S2を満たすように構成されているため、火花放電間隙43において、突出部38及び中心電極5の対向面積を十分に確保することができる。従って、火花放電に伴う突出部38や中心電極5の局所的な消耗をより確実に抑制することができ、耐久性の向上を図ることができる。
【0050】
さらに、S4≦0.8×S2を満たすように構成されているため、突出部37及び接地電極27と中心電極5との対向面積を十分に確保することができる。その結果、接地電極27や中心電極5の局所的な消耗を抑制することができ、耐久性をより一層向上させることができる。
【0051】
次いで、上記実施形態によって奏される作用効果を確認すべく、1の火花放電を生じさせる際の電源からの出力エネルギー(mJ)、火花放電間隙の大きさG1(mm)、及び、中心電極の先端面の外径(mm)を種々異なるものとするとともに、前記面積S2(mm2)に対する前記面積S1(mm2)の割合(S1/S2;以下、「面積割合」と称す)を種々変更した点火システムのサンプルを作製し、各サンプルについて、着火性評価試験を行った。着火性評価試験の概要は次の通りである。すなわち、サンプルの点火プラグを1.5L、4気筒エンジンに取付けた上で、吸引負圧−350mgで1600rpmにて動作させた。そして、空燃比(A/F)を徐々に増大させていき(燃料を徐々に薄くしていき)、失火の発生したサイクルが1000サイクル当たり10サイクル以上となったときの空燃比を限界空燃比として特定した。その上で、各サンプルにおいて、面積S1を0mm2としたサンプルにおける限界空燃比を基準として、前記基準からの限界空燃比の向上量(空燃比向上代)を算出した。尚、空燃比向上代が大きいサンプルほど、燃料が薄い状態でも失火が起きにくいものであり、着火性に優れるといえる。
【0052】
図10に、火花放電間隙の大きさG1を1.5mmとし、出力エネルギーを100mJとした上で、中心電極の先端面の外径、及び、面積割合を変更した場合における試験結果を示し、図11に、火花放電間隙の大きさG1を1.5mmとし、中心電極の先端面の外径を1.5mmとした上で、出力エネルギー、及び、面積割合を変更した場合における試験結果を示す。また、図12に、火花放電間隙の大きさG1を1.1mmとし、出力エネルギーを100mJとした上で、中心電極の先端面の外径、及び、面積割合を変更した場合における試験結果を示し、図13に、火花放電間隙の大きさG1を1.1mmとし、中心電極の先端面の外径を1.5mmとした上で、出力エネルギー、及び、面積割合を変更した場合における試験結果を示す。さらに、図14に、火花放電間隙の大きさG1を0.5mmとし、出力エネルギーを100mJとした上で、中心電極の先端面の外径、及び、面積割合を変更した場合における試験結果を示し、図15に、火花放電間隙の大きさG1を0.5mmとし、中心電極の先端面の外径を1.5mmとした上で、出力エネルギー、及び、面積割合を変更した場合における試験結果を示す。
【0053】
尚、図10,12,14においては、中心電極の先端面の外径を0.6mmとしたサンプルの試験結果を丸印でプロットし、中心電極の先端面の外径を1.0mmとしたサンプルの試験結果を三角印でプロットし、中心電極の先端面の外径を1.5mmとしたサンプルの試験結果を正方形印でプロットした。また、図11,13,15においては、出力エネルギーを40mJとしたサンプルの試験結果を丸印でプロットし、出力エネルギーを80mJとしたサンプルの試験結果を三角印でプロットし、出力エネルギーを100mJとしたサンプルの試験結果を正方形印でプロットし、出力エネルギーを200mJとしたサンプルの試験結果を菱形印でプロットした。
【0054】
図10及び図11に示すように、火花放電間隙の大きさG1を1.5mmとしたサンプルにおいては、出力エネルギーを100mJ以上としたときに、面積割合を15%以上とすることで、着火性が向上することが分かった。また、図12及び図13に示すように、火花放電間隙の大きさG1を1.1mmとしたサンプルにおいては、出力エネルギーを100mJ以上としたときに、面積割合を27%以上とすることで、着火性が向上することが確認された。さらに、図14及び図15に示すように、火花放電間隙の大きさG1を0.5mmとしたサンプルにおいては、出力エネルギーを100mJ以上としたときに、面積割合を45%以上とすることで、着火性が向上することが明らかとなった。
【0055】
そして、得られた試験結果に基づき、出力エネルギーを100mJ以上としたときにおいて、着火性を向上させることができる面積割合の最小値を確認したところ、図16に示すように、火花放電間隙の大きさG1をxとし、面積割合をyとしたとき、y≧−30x+60を満たすことで、着火性が向上することが分かった。すなわち、出力エネルギーを100mJ以上とした上で、S1≧[{−30(mm-1)×G1+60}/100]×S2を満たすことにより、着火性が向上することが明らかとなった。これは、次の(1)及び(2)が相乗的に作用することで、火花(火炎)が軸線方向先端側(燃焼室の中心側)に向けて勢いよく成長したためであると考えられる。
(1)出力エネルギーを100mJ以上としたことで、電気エネルギーにより火花(火炎)に対して軸線方向先端側(燃焼室の中心側)に向けた拡散力が与えられる状態となったこと。
(2)S1≧[{−30(mm-1)×G1+60}/100]×S2としたことで、火花(火炎)の軸線方向先端側に向けた拡散が、接地電極によって阻害されにくくなったこと。
【0056】
また、上記の考えに基づいて、接地電極に突出部を設けた点火システムにおいては、突出部及び中心電極間に形成された火花放電間隙の大きさG3(mm)と、前記面積S3(mm2)とが、S3≧[{−30(mm-1)×G3+60}/100]×S2を満たすように構成することで、火花(火炎)の軸線方向先端側に向けた拡散が、突出部によって阻害されにくくなると考えられる。さらに、接地電極及び中心電極間の最短距離G4(mm)と、前記面積S4(mm2)とが、S4≧[{−30(mm-1)×G4+60}/100]×S2を満たすように構成することで、火花(火炎)の軸線方向先端側に向けた拡散が、突出部や接地電極によって阻害されにくくなると考えられる。従って、S3≧[{−30(mm-1)×G3+60}/100]×S2、及び、S4≧[{−30(mm-1)×G4+60}/100]×S2を満たすことで、火花(火炎)を軸線方向先端側(燃焼室の中心側)に向けて勢いよく成長させることができ、良好な着火性を得ることができると考えられる。
【0057】
上記試験の結果より、接地電極及び中心電極間に火花放電間隙が形成された点火システムにおいては、着火性の向上を図るべく、1の火花放電(1サイクル中の火花放電)を生じさせる際の電源の出力エネルギーを100mJ以上とするとともに、S1≧[{−30(mm-1)×G1+60}/100]×S2を満たすように構成することが好ましいといえる。
【0058】
また、接地電極の突出部が設けられ、突出部及び中心電極間に火花放電間隙が形成された点火システムにおいては、着火性の向上を図るべく、1の火花放電(1サイクル中の火花放電)を生じさせる際の電源の出力エネルギーを100mJ以上とするとともに、S3≧[{−30(mm-1)×G3+60}/100]×S2、及び、S4≧[{−30(mm-1)×G4+60}/100]×S2を満たすように構成することが好ましいといえる。
【0059】
次に、前記面積割合(S1/S2)を種々変更した点火システムのサンプルについて、耐久性評価試験を行った。耐久性評価試験の概要は次の通りである。すなわち、サンプルの点火プラグを所定のチャンバーに取付けた上で、チャンバー内を窒素雰囲気とするとともに、チャンバー内の圧力を0.4MPaに設定した。その上で、印加電圧の周波数を30Hzとして(すなわち、毎分1800回の割合で)点火プラグを放電させた。そして、各サンプルについて、火花放電間隙の大きさが初期状態から0.20mm以上増大するまでの時間(耐久時間)を測定するとともに、面積S1を0mm2としたサンプルにおける耐久時間に対する測定された耐久時間の割合(耐久寿命割合)を算出した。尚、面積S1を0mm2としたサンプルは、中心電極及び接地電極の対向面積が最大限確保されるため、耐久性に極めて優れる。従って、耐久寿命割合が100%に近いサンプルほど(つまり、面積S1を0mm2としたサンプルの耐久時間により近い耐久時間となったサンプルほど)、良好な耐久性を有するといえる。図17に、耐久性評価試験の試験結果を示す。
【0060】
図17に示すように、面積割合(S1/S2)を80%以上としたサンプル(つまり、S1≦0.8×S2を満たすサンプル)は、耐久寿命割合が95%以上となり、優れた耐久性を有することが分かった。これは、中心電極及び接地電極の対向面積が十分に確保され、火花放電に伴う中心電極や接地電極の局所的な消耗がより確実に抑制されたためであると考えられる。
【0061】
また、上記の考えに基づいて、接地電極に突出部を設けた点火システムにおいては、面積割合(S3/S2)を80%以上する(つまり、S3≦0.8×S2を満たす)ことで、突出部や中心電極の局所的な消耗を抑制できると考えられる。さらに、面積割合(S4/S2)を80%以上とする(つまり、S4≦0.8×S2を満たす)ことで、接地電極及び突出部や中心電極の局所的な消耗を抑制できると考えられる。従って、S3≦0.8×S2、及び、S4≦0.8×S2のうちの少なくとも一方を満たすことで、良好な耐久性を得ることができ、S3≦0.8×S2、及び、S4≦0.8×S2の双方を満たすことで、極めて良好な耐久性を得ることができると考えられる。
【0062】
上記試験の結果より、接地電極及び中心電極間に火花放電間隙が形成された点火システムにおいては、耐久性の向上を図るべく、S1≦0.8×S2を満たすように構成することが好ましいといえる。
【0063】
また、接地電極の突出部が設けられ、突出部及び中心電極間に火花放電間隙が形成された点火システムにおいては、耐久性の向上を図るべく、S3≦0.8×S2、及び、S4≦0.8×S2のうちの少なくとも一方を満たすことが好ましく、両式を満たすことがより好ましいといえる。
【0064】
次いで、火花放電間隙の大きさG1を1.1mmとし、面積割合(S1/S2)を30%とした上で、軸線と直交する平面に、中心電極の先端部と接地電極の中心軸とを軸線に沿って投影したときにおいて、前記中心軸の投影線が中心電極の投影領域の中心と重なるように構成した点火システムのサンプル(センター配置サンプル)と、前記中心軸の投影線が中心電極の投影領域の中心からずれた位置に存在するように構成した点火システムのサンプル(オフセット配置サンプル)とを作製し、両サンプルについて、上述の耐久性評価試験を行った。その上で、センター配置サンプルにおける耐久時間に対する、オフセット配置サンプルにおける耐久時間の割合(耐久寿命割合)を算出した。図18に、当該試験の結果を示す。
【0065】
図18に示すように、中心軸の投影線が中心電極の投影領域の中心からずれた位置に存在するように構成したオフセット配置サンプルは、より良好な耐久性を有することが分かった。これは、接地電極をずらしたことで、接地電極の中心電極側面と側面との間の角部(電界強度が高くなり、火花放電の起点となる部位)が中心電極の先端部により接近したため、火花放電の起点となる部位がより多く形成され、その結果、中心電極や接地電極の局所的な消耗が効果的に抑制されたためであると考えられる。
【0066】
上記試験の結果より、耐久性の一層の向上を図るべく、軸線と直交する平面に、中心電極の先端部と接地電極の中心軸とを軸線に沿って投影したときにおいて、前記中心軸の投影線が中心電極の投影領域の中心からずれた位置に存在するように構成することが好ましいといえる。
【0067】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0068】
(a)上記第2実施形態において、接地電極37及び突出部38は異なる材料により構成されているが、例えば、接地電極の先端部を変形させることで、接地電極及び突出部を同一の材料により構成してもよい。
【0069】
(b)上記第2実施形態では、軸線CL1方向先端側から見たときにおいて、中心電極5の先端部の一部に対して、接地電極37が重なるように構成されている。これに対して、図19に示すように、接地電極44の側面から突出するように突出部45を構成することで、軸線CL1方向先端側から見たときにおいて、中心電極5の先端部に突出部45が重なる一方で、中心電極5の先端部に接地電極44が重ならないように構成してもよい。
【0070】
(c)上記実施形態において、接地電極27,37は、その幅が中心軸CL2に沿って一定となるように構成されているが、図20に示すように、接地電極46が、先端に向けて徐々に幅が狭くなるテーパ部47を有するように構成してもよい。このように構成することで、前記面積S1,S4をより確実に大きくすることができ、着火性をより確実に向上させることができる。
【0071】
(d)上記実施形態では、電源51からの電気エネルギーがディストリビュータを介して各点火プラグ1に供給されるようになっているが、各点火プラグ1ごとに電源51を設け、1の電源51から1の点火プラグ1に対して電気エネルギーが供給されるように構成してもよい。
【0072】
(e)電源51として、可変エネルギー電源を用いてもよい。この場合において、内燃機関の運転条件が着火性の低下が生じやすい条件であるときには、1の火花放電(1サイクル中の火花放電)を生じさせる際に電源51から比較的大きなエネルギーが出力されるようにすることで、良好な着火性をより確実に得ることができる。一方で、着火性の低下が生じにくい運転条件であるときには、1の火花放電(1サイクル中の火花放電)を生じさせる際に電源51から比較的小さなエネルギーが出力されるようにすることで、良好な着火性を維持しつつ、火花放電に伴う中心電極5や接地電極27等の消耗抑制が図られ、耐久性を向上させることができる。
【0073】
(f)上記実施形態では、主体金具3の先端部26に接地電極27が接合される場合について具体化しているが、主体金具の一部(又は、主体金具に予め溶接してある先端金具の一部)を削り出すようにして接地電極を形成する場合についても適用可能である(例えば、特開2006−236906号公報等)。
【0074】
(g)上記実施形態において、工具係合部19は断面六角形状とされているが、工具係合部19の形状に関しては、このような形状に限定されるものではない。例えば、Bi−HEX(変形12角)形状〔ISO22977:2005(E)〕等とされていてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1…点火プラグ、2…絶縁碍子(絶縁体)、3…主体金具、4…軸孔、5…中心電極、5P…(中心電極の投影領域)、27,37…接地電極、27P,37P…(接地電極の)投影領域、33,43…火花放電間隙(間隙)、38…突出部、38P…(突出部の)投影領域、51…電源、101…点火システム、CL1…軸線、CL2…(接地電極の)中心軸、CP…(中心電極の投影領域の)中心、PL…(中心軸の)投影線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20