特許第5789285号(P5789285)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5789285
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】コーティング装置
(51)【国際特許分類】
   B05C 1/08 20060101AFI20150917BHJP
【FI】
   B05C1/08
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-121978(P2013-121978)
(22)【出願日】2013年6月10日
(62)【分割の表示】特願2008-22630(P2008-22630)の分割
【原出願日】2008年2月1日
(65)【公開番号】特開2013-173144(P2013-173144A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2013年6月10日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000237260
【氏名又は名称】富士機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】富永 保昌
(72)【発明者】
【氏名】三浦 秀宣
【審査官】 八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−186888(JP,A)
【文献】 再公表特許第2007/132755(JP,A1)
【文献】 特開2004−291314(JP,A)
【文献】 特開2007−289829(JP,A)
【文献】 特開2005−034729(JP,A)
【文献】 特開2006−095443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 1/00− 3/20
B05D 1/00− 7/26
F16C 13/00−15/00
B41N 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に搬送される基材の表面に塗工液を塗布するグラビアロールと、このグラビアロールの周面に塗工液を供給する塗工ユニットと、基材をガイドしつつグラビアロールの周面部に当接させる上下一対のガイドロールとを備えたコーティング装置であって、
上記一対のガイドロールは、上記グラビアロールに対し上下に離間するように配設され、
上記グラビアロールは、カーボンファイバー樹脂材製のロール本体と、このロール本体の外周側に設けられたセラミック材製のセル層とを有し、
上記セル層は、セラミック材が溶射されることにより形成されるとともに、その周面部にはレーザ加工により刻印された塗工用セルが形成され、
上記グラビアロールのロール本体の外径が40mm〜200mmの範囲内に、ロール本体の全長が1600mm〜4000mmの範囲内にそれぞれ設定されるとともに、上記ロール本体の全長と外径との寸法比が20〜40の範囲内であって回転時におけるグラビアロールの最大撓み量が0.05mm以下に抑えられる値に設定され、
上記塗工ユニットは、グラビアロールの周面に沿って設置されたチャンバーケースと、このチャンバーケースに設けられた塗工液溜まり内に塗工液を給送する塗工液給送手段と、上記塗工液溜まりのロール回転方向の下流側部をシールしつつ、上記グラビアロールに付着した余分な塗工液を除去するドクター刃と、塗工液溜まりのロール回転方向の上流側部をシールするシールプレートとを有することを特徴とするコーティング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のコーティング装置において、
上記グラビアロールが基材の搬送方向と逆方向に回転駆動され、
上記グラビアロールの上側に上記ドクター刃が、上記グラビアロールの下側に上記シールプレートがそれぞれ設けられたことを特徴とするコーティング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムまたは紙等からなる基材の表面にグラビアロールにより塗工液を塗布するコーティング装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば下記特許文献1公報に示されるように、走行している連続体状の基材の上面が自由状態にある位置におけるその基材の下面に塗工液を塗布するとともに、直径(外径)が約20mm〜約50mmに設定されたグラビアロールと、このグラビアロールの表面から余剰塗工液を塗布前に拭き取って定量の塗工液を塗布部に供給するドクターブレード(ドクター刃)とを設け、このドクターブレードを介して計量された定量の塗工液を塗布部に供給し、小径のグラビアロールによって塗工液を均一に塗工することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平2−7663号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1公報に開示されているように、比較的小径のグラビアロールを使用して基材に塗工液を塗布するように構成した場合には、基材に対するグラビアロールの接触面積を小さくするとともに、グラビアロールと基材との間に大きな摩擦力が作用するのを抑制することにより、このグラビアロールを介して基材に塗工液を塗布する際に塗工ムラが形成されるのを、ある程度、抑制できるという利点がある。
【0005】
しかし、上記のようにグラビアロールの直径を小さくした場合には、その断面二次モーメントが小さくなるので、基材に塗工液を塗布する際にグラビアロールに撓みが生じることに起因した塗工ムラが生じ易いという問題がある。このため、上記グラビアロールの軸受間距離を小さくするとともに、上記基材の搬送速度を遅くする等により、上記塗工液を塗布する際にグラビアロールに撓みが生じるのを防止する必要があり、広幅の基材に対して塗工液を効率よく塗工することができないという問題があった。
【0006】
なお、上記特許文献1に開示された発明では、塗工液の収容部でグラビアロールの下面を支持するように構成されているため、グラビアロールの直径を小さくしてもその変形が生じにくく、基材に塗工液を塗布する際にグラビアロールに撓みが生じることに起因した塗工ムラが生じるのを、ある程度抑制することが可能である。しかし、上記のように塗工液の収容部でグラビアロールの下面を支持するように構成した場合には、このグラビアロールを基材の下面に配設する必要があるため、その設置個所が限定される等の問題がある。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、基材の搬送速度及び基材の幅寸法が制限される等の問題を生じることなく、グラビアロールによって塗工液を均一に塗工することができるコーティング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、上下方向に搬送される基材の表面に塗工液を塗布するグラビアロールと、このグラビアロールの周面に塗工液を供給する塗工ユニットと、基材をガイドしつつグラビアロールの周面部に当接させる上下一対のガイドロールとを備えたコーティング装置であって、上記一対のガイドロールは、上記グラビアロールに対し上下に離間するように配設され、上記グラビアロールは、カーボンファイバー樹脂材製のロール本体と、このロール本体の外周側に設けられたセラミック材製のセル層とを有し、上記セル層は、セラミック材が溶射されることにより形成されるとともに、その周面部にはレーザ加工により刻印された塗工用セルが形成され、上記グラビアロールのロール本体の外径が40mm〜200mmの範囲内に、ロール本体の全長が1600mm〜4000mmの範囲内にそれぞれ設定されるとともに、上記ロール本体の全長と外径との寸法比が20〜40の範囲内であって回転時におけるグラビアロールの最大撓み量が0.05mm以下に抑えられる値に設定され、上記塗工ユニットは、グラビアロールの周面に沿って設置されたチャンバーケースと、このチャンバーケースに設けられた塗工液溜まり内に塗工液を給送する塗工液給送手段と、上記塗工液溜まりのロール回転方向の下流側部をシールしつつ、上記グラビアロールに付着した余分な塗工液を除去するドクター刃と、塗工液溜まりのロール回転方向の上流側部をシールするシールプレートとを有することを特徴とするものである(請求項1)。
【0009】
本発明によれば、軽量で剛性の高いカーボンファイバー樹脂材により上記グラビアロールのロール本体を構成したため、グラビアロールの外径を小さく設定し、かつ上記ロール本体および基材の幅寸法を長く設定するとともに、基材の搬送速度およびグラビアロールの回転速度を速く設定した場合においても、上記基材に塗工液を塗布する際にグラビアロールが撓むのを効果的に抑制することができる。したがって、比較的に小径のグラビアロールを使用することにより、基材に対するグラビアロールの接触面積を小さくすることができるとともに、グラビアロールと基材との間に大きな摩擦力が作用するのを抑制することができるため、このグラビアロールを介して基材に塗工液を塗布する際に塗工ムラが形成されるのを効果的に抑制することができる。また、上記基材の搬送速度を高速に設定するとともに、上記ロール本体および基材の幅寸法を長尺に設定する等により、上記コーティング装置を使用して基材の表面に塗工液を塗布してコーティングを行う際の品質を低下させることなく、その塗工効率を効果的に向上させることができる。
【0010】
また、カーボンファイバー樹脂材製のロール本体の外周側にセラミック材製のセル層を形成し、このセル層に塗工用セルをレーザ加工により刻印するように構成したため、優れた塗工性および耐久性を有する塗工用セルを容易かつ適正に形成できるという利点がある。
【0011】
さらに、ロール本体の外径を40mm〜200mmの範囲内に設定するとともに、ロール本体の全長と外径との寸法比を20〜40の範囲内(しかも回転時におけるグラビアロールの最大撓み量が0.05mm以下に抑えられる値)に設定したため、グラビアロールを介して基材に塗工液を塗布する際に塗工ムラが形成されるのを効果的に抑制しつつ、上記コーティング装置を使用して基材の表面に塗工液を塗布してコーティングを行う際の塗工効率を効果的に向上できるという利点がある。
【0012】
またさらに、チャンバーケースに設けられた塗工液溜まり内に塗工液を給送しつつ、塗工液溜まりのロール回転方向の下流側部をドクター刃によってシールし、さらに塗工液溜まりのロール回転方向の上流側部をシールプレートによりシールするようしたため、例えば開放状態の塗工液収容部内に収容された塗工液をグラビアローラによって汲み上げるように構成した場合と異なり、汲み上げられた塗工液がグラビアローラの回転に応じて外部に飛散したり、塗工液の溶剤が揮発して環境が汚染されたり、塗工液中に気泡が混入されること等に起因して塗工不良が発生したり、上記グラビアロールによる塗工液の塗布時に、塗工液の裏回り現象が発生したりすること等を効果的に防止できる等の利点がある。
【0013】
上記グラビアロールは、基材の搬送方向と逆方向に回転駆動されるものとすることができる。この場合には、グラビアロールの上側に上記ドクター刃が、グラビアロールの下側に上記シールプレートがそれぞれ設けられることになる(請求項2)。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明のコーティング装置によれば、基材の搬送速度及び基材の幅寸法が制限される等の問題を生じることなく、グラビアロールによって塗工液を均一に塗工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るコーティング装置の実施形態を示す説明図である。
図2】塗工チャンバーの具体的構成を示す側面断面図である。
図3】グラビアロールの具体的構成を示す断面図である。
図4】塗工チャンバーの側壁部構造を示す平面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1および図2は、本発明に係るコーティング装置の実施形態を示している。このコーティング装置は、基材1の表面に、コーティング用の塗工液を塗布するグラビアロール2と、このグラビアロール2の周面に塗工液を供給する塗工ユニット3と、この塗工ユニット3の設置部の反対側おいて下方側から上方に搬送される基材1をガイドしつつ上記グラビアロール2の周面部に当接させる第1,第2ガイドロール4,5とを備えている。
【0017】
上記塗工ユニット3には、図2に示すように、グラビアロール2の周面に対向するように開口した空間部からなる塗工液溜まり6が形成されたチャンバーケース7と、このチャンバーケース7の前面上端部、つまり上記グラビアロール2の回転方向の下流側部に取り付けられたステンレス鋼板等からなるドクター刃8と、チャンバーケース7の前面下端部、つまり上記グラビアロール2の回転方向の上流側部に設けられた鋼板材またはプラスチック板等からなるシールプレート9と、塗工液溜まり6内に塗工液を給送する塗工液給送手段10とが設けられている。
【0018】
そして、上記ドクター刃8およびシールプレート9の先端部が、上記グラビアロール2の周面に圧接されることにより、上記塗工液溜まり6の前面部上下が上記ドクター刃8およびシールプレート9によりシールされて上記塗工液溜まり6が密閉状態となるように構成されるとともに、上記グラビアロール2の回転に応じて、その周面に付着した余分な塗工液が上記ドクター刃8により掻き取られるように構成されている。
【0019】
上記第1ガイドロール4は、グラビアロール2に対し下方に離間するように配設され、上記第2ガイドロール5は、グラビアロール2に対し上方に離間するように配設されている。
【0020】
上記塗工液給送手段10は、図1に示すように、印刷用のインキ等からなる塗工液が収容された塗工液タンク11と、この塗工液タンク11内の塗工液を吸引して上記チャンバーケース7の下部に給送する給送ポンプ12が設けられた塗工液給送パイプ13と、上記チャンバーケース7の上部から排出された塗工液溜まり6内の塗工液を上記塗工液タンク11に戻すリターンパイプ14とを備えている(図1参照)。
【0021】
図3および図4に示すように、上記グラビアロール2は、カーボンファイバー樹脂材製のパイプ材等からなるロール本体15と、このロール本体15に外嵌されたステンレスパイプ材等からなる金属製外筒16と、上記ロール本体15の左右両端部に設けられた回転軸17とを有している。そして、上記金属製外筒16の周面部には、セラミック材が溶射されることによりセラミック材製のセル層18が形成され、このセル層18に連続幾何学模様等からなる塗工用セル19がレーザ加工により刻印されている。
【0022】
上記チャンバーケース7の側端部には、塗工液溜まり6の側端部を覆う側壁板20が設けられるとともに、この側壁板20には、合成ゴムまたは発泡プラスチック材等の弾性体からなるシール部材21が取り付けられている。また、上記グラビアロール2の周面左右両端部には、塗工用セル19が刻印されていない平滑面部22が設けられ、この平滑面部22に上記チャンバーケース7のシール部材21が圧接されるようになっている。
【0023】
上記グラビアロール2は、そのロール本体15の外径Dが40mm〜200mmの範囲内に設定されるとともに、ロール本体15の全長Lと外径Dとの寸法比L/Dが20〜40の範囲内に設定されている。例えば、上記ロール本体15の外径Dが40mmである場合に、上記ロール本体15の全長Lを1600mmに設定すれば、上記寸法比L/Dが40程度となり、上記ロール本体15の外径Dが200mmである場合に、上記ロール本体15の全長Lを4000mmに設定すれば、上記寸法比L/Dが20程度となる。
【0024】
上記構成において塗工液給送手段10の給送ポンプ12を作動させることにより、塗工液タンク11内に収容された塗工液を、上記チャンバーケース7の塗工液溜まり6内に供給しつつ、上記グラビアロール2を所定速度で基材1の搬送方向と逆方向に回転駆動する。この結果、上記塗工ユニット3の塗工液溜まり6内に供給された塗工液が、密閉状態でグラビアロール2の周面に接触して付着するとともに、このグラビアロール2の周面に付着した余分な塗工液が上記ドクター刃8によって除去される。そして、上記グラビアロール2の周面に付着した塗工液が、グラビアロール2の回転に応じて上記基材1とグラビアロール2との接触部に搬送され、基材1の表面に塗布される。
【0025】
上記のように基材1の表面に塗工液を塗布するグラビアロール2と、このグラビアロール2の周面に塗工液を供給する塗工ユニット3とを備えたコーティング装置において、上記グラビアロール2に、カーボンファイバー樹脂材製のロール本体15と、このロール本体15に外嵌された金属製外筒16とを設けるとともに、この金属製外筒16の周面部に塗工用セル19が形成されたセル層18を設けた構造としため、上記基材1の搬送速度及び基材1の幅寸法が制限される等の問題を生じることなく、グラビアロール2によって塗工液を基材1に対して均一に塗布できるという利点がある。
【0026】
すなわち、軽量で剛性の高いカーボンファイバー樹脂材により上記グラビアロール2のロール本体15を構成したため、ロール本体15の外径Dを小さく設定し、かつ上記ロール本体15および基材2の幅寸法を長く設定するとともに、基材1の搬送速度およびグラビアロール2の回転速度を速く設定した場合においても、上記基材1に塗工液を塗布する際にグラビアロール2が撓むのを効果的に抑制することができる。
【0027】
したがって、比較的に小径のグラビアロール2を使用することにより、基材1に対するグラビアロール2の接触面積を小さくすることができるとともに、グラビアロール2と基材1との間に大きな摩擦力が作用するのを抑制することができるため、このグラビアロール2を介して基材1に塗工液を塗布する際に塗工ムラが形成されるのを効果的に抑制できるという利点がある。また、上記基材1の搬送速度を、例えば100m/分以上の高速に設定するとともに、上記ロール本体15および基材2の幅寸法を、例えば3000mm以上の長尺に設定する等により、上記コーティング装置を使用して基材1の表面に塗工液を塗布してコーティングを行う際の品質を低下させることなく、その塗工効率を効果的に向上させることができる。
【0028】
上記グラビアロール2の軸受間距離をlとし、ロール本体15の外形をDとするとともに、その内径をdとし、かつロール本体15の縦弾性係数をEとし、その比重をγとした場合には、グラビアロール2の重量W、断面二次モーメントIおよび回転時の撓み量δは下記式(1)〜(3)で求められる。
【0029】
W=π/4×(D−d)×l×γ×10−6 (kg)…(1)
I=π/64×(D−d) (mm)…(2)
δ=5/384×Wl/IE (mm)…(3)
グラビアロール2のロール本体15を、一般的に行われているように鋼管材等を主体として形成した場合には、その縦弾性係数Eは、約2.1×10−6(kg/mm)であり、比重γは、約7.8である。したがって、上記グラビアロール2のロール本体15を、100mmの外径Dと70mmの内径dとを有する鋼管材により構成した場合において、グラビアロール2の回転時における最大撓み量δを0.05mm以下に抑えることができる軸受間距離lの最大値を、上記式(1)〜(3)に基づいて演算すると、上記軸受間距離lの最大値は1760mm程度となる。この場合に、ロール本体15の全長Lと外径Dとの寸法比L/Dは、17.6程度となる。
【0030】
これに対して上記実施形態に示すように、グラビアロール2のロール本体15を、100mmの外径Dと70mmの内径dとを有するカーボンファイバー樹脂材製のパイプ材で形成した場合、その弾性係数Eが、上記鋼管材の場合と同程度となるとともに、比重γが1/4程度となるため、回転時における最大撓み量δを0.05mm以下に抑えることができるグラビアロール2の軸受間距離lの最大値は、上記鋼管材を主体としたグラビアロールの約1.6倍、つまり2820mm程度となる。この場合に、ロール本体15の全長Lと外径Dとの寸法比L/Dは、28.2程度となる。
【0031】
また、同様にして、グラビアロール2のロール本体15を40mmの外径Dを鋼鉄製の棒材(内径d=0)により構成した場合において、グラビアロール2の回転時における最大撓み量δを0.05mm以下に抑えることができるグラビアロール2の軸受間距離lの最大値を演算すると、上記軸受間距離lの最大値は、1008mm程度となり、ロール本体15の全長Lと外径Dとの寸法比L/Dは、25程度となる。
【0032】
これに対して上記グラビアロール2のロール本体15を、40mmの外径を有するカーボンファイバー樹脂製の棒材で形成した場合において、その回転時における最大撓み量δを0.05mm以下に抑えることができるグラビアロールの軸受間距離lの最大値を演算すると、1613mm程度となり、ロール本体15の全長Lと外径Dとの寸法比L/Dは、40程度となる。
【0033】
さらに、同様にして、グラビアロール2のロール本体15を、200mmの外径Dと170mmの内径dとを有する鋼管材により構成した場合において、回転時における最大撓み量δを0.05mm以下に抑えることができるグラビアロール2の軸受間距離lの最大値を演算すると、2583mm程度となり、ロール本体15の全長Lと外径Dとの寸法比L/Dは、13程度となる。
【0034】
これに対して上記実施形態に示すように、グラビアロール2のロール本体15を、200mmの外径Dと170mmの内径dとを有するカーボンファイバー樹脂材で形成した場合において、その回転時における最大撓み量δを0.05mm以下に抑えることができるグラビアロールの軸受間距離lの最大値を演算すると、4000mm程度となり、ロール本体15の全長Lと外径Dとの寸法比L/Dは、20程度となる。
【0035】
上記演算結果から、グラビアロール2のロール本体15を、カーボンファイバー樹脂材により形成した場合には、従来のように鋼管材を主体として形成した場合に比べて、その撓み変形を抑制しつつ、ロール本体15の外径Dを比較的小径に形成することにより、グラビアロール2を介して基材1に塗工液を塗布する際に塗工ムラが形成されるのを効果的に抑制できるとともに、上記ロール本体15および基材2の幅寸法を長尺に設定する等により、上記コーティング装置を使用して基材1の表面に塗工液を塗布してコーティングを行う際の塗工効率を効果的に向上させることができることがわかる。
【0036】
また、上記実施形態では、カーボンファイバー樹脂材製のロール本体15にステンレスパイプからなる金属製外筒16を外嵌するとともに、その周面部にセラミック材を溶射することによりセラミック材製のセル層18を形成し、このセル層18に塗工用セル19をレーザ加工により刻印するように構成したため、上記セラミック材製のセル層18を上記ステンレスパイプからなる金属製外筒16に安定して保持させることができるとともに、優れた塗工性および耐久性を有する塗工用セル19を容易かつ適正に形成できるという利点がある。
【0037】
なお、上記実施形態に代え、カーボンファイバー樹脂材製のロール本体15に銅材製のパイプ材からなる金属製外筒16を外嵌するとともに、その周面部にエッチングによりに連続幾何学模様等からなる塗工用セル19を形成した構造としてもよい。この場合においても、軽量で剛性の高いカーボンファイバー樹脂材により上記グラビアロール2のロール本体15を構成したため、グラビアロール2の外径を小さくするともに、上記ロール本体15および基材2の幅寸法を長く設定するとともに、基材1の搬送速度およびグラビアロール2の回転速度を速く設定した場合においても、上記基材1に塗工液を塗布する際にグラビアロール2に撓みが生じるのを効果的に抑制できるという利点がある。
【0038】
また、上記実施形態に示すように、ロール本体15の外径Dを40mm〜200mmの範囲内に設定するとともに、ロール本体15の全長Lと外径Dとの寸法比L/Dを20〜40の範囲内に設定した場合には、グラビアロール2を介して基材1に塗工液を塗布する際に塗工ムラが形成されるのを効果的に抑制しつつ、上記コーティング装置を使用して基材1の表面に塗工液を塗布してコーティングを行う際の塗工効率を効果的に向上できるという利点がある。
【0039】
すなわち、上記ロール本体15の外径Dを40mm未満に設定した場合には、その剛性を充分に確保することが困難であり、その回転時に大きな撓みを生じることに起因して塗工ムラが発生する可能性が高くなるため、ロール本体15の外径Dを40mm以上に設定することが望ましい。また、上記ロール本体15の外径Dを200mmよりも大きく設定すると、基材1に対するグラビアロール2の接触面積大きくなるとともに、グラビアロール2と基材1との間に大きな摩擦力が作用することが避けられず、このグラビアロール2を介して基材1に塗工液を塗布する際に塗工ムラが形成されるのを効果的に抑制することが困難となるため、ロール本体15の外径Dを200mm以下に設定することが望ましい。
【0040】
さらに、上記ロール本体15の全長Lと外径Dとの寸法比L/Dを20未満に設定した場合には、上記ロール本体15および基材2の幅寸法を充分に確保することができず、上記コーティング装置を使用して基材1の表面に塗工液を塗布際の塗工効率を効果的に向上させることができないため、上記寸法比を20以上に設定することが望ましい。また、ロール本体15の全長Lと外径Dとの寸法比L/Dを40よりも大きな値に設定した場合には、グラビアロール2の回転時に大きな撓みを生じることに起因して塗工ムラが発生する可能性が高くなるため、上記寸法比L/Dを40以下に設定することが望ましい。
【0041】
また、上記実施形態では、グラビアロール2の周面に沿って設置されたチャンバーケース7と、このチャンバーケース7に設けられた塗工液溜まり6内に塗工液を給送する塗工液給送手段10と、上記塗工液溜まり6のロール回転方向の下流側部をシールしつつ、上記グラビアロール2に付着した余分な塗工液を除去するドクター刃8と、塗工液溜まり6のロール回転方向の上流側部をシールするシールプレート9とにより上記塗工ユニット3を構成したため、上記塗工液を外気に触れさせることなく、グラビアロール2の周面に塗工液を適正に塗布できるという利点がある。
【0042】
したがって、開放状態の塗工液収容部内に収容された塗工液をグラビアローラによって汲み上げるように構成された従来装置のように、汲み上げられた塗工液がグラビアローラの回転に応じて外部に飛散したり、塗工液の溶剤が揮発して環境が汚染されたり、塗工液中に気泡が混入されること等に起因して塗工不良が発生したりすることを防止できるという利点がある。しかも、上記グラビアロール2による塗工液の塗布時に、塗工液の裏回り現象が発生等を効果的に防止できるため、基材1を、その幅寸法が異なるものに変更する際に、上記グラビアロール2を異なる寸法のものに交換したり、チャンバーケース7の幅寸法を調整したりする必要がなく、上記変更操作を迅速に行うことができる。
【0043】
また、従来装置のように、水平方向に搬送される基材に沿って塗工液の収容部を配設することにより、塗工液の収容部でグラビアロールの下面を支持するように構成する必要がないため、その設置個所が限定されたり、その設置スペースを確保するために装置が大型化したりする等の問題を生じることがなく、既存のコーティング機に対しても上記塗工ユニット3を容易に設置できるという利点がある。
【符号の説明】
【0044】
1 基材
2 グラビアロール
3 塗工ユニット
4 第1ガイドロール
5 第2ガイドロール
6 塗工液溜まり
7 チャンバーケース
8 ドクター刃
9 シール部材
10 塗工液給送手段
15 ロール本体
18 セル層
19 塗工用セル
図1
図2
図3
図4