(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5789310
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】船体外板付アノード取付構造
(51)【国際特許分類】
B63B 59/04 20060101AFI20150917BHJP
B63B 59/00 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
B63B59/04 A
B63B59/00 C
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-13001(P2014-13001)
(22)【出願日】2014年1月28日
(65)【公開番号】特開2015-140058(P2015-140058A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2014年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000146814
【氏名又は名称】株式会社新来島どっく
(74)【代理人】
【識別番号】100090044
【弁理士】
【氏名又は名称】大滝 均
(72)【発明者】
【氏名】大谷 洋一
【審査官】
中村 泰二郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−228987(JP,A)
【文献】
実開昭56−170267(JP,U)
【文献】
中国特許出願公開第101967644(CN,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0118915(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 59/00,59/04
C23F 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶船体外板の適宜の箇所に防食アノードを配置するレセスを設け、前記アノードの表面を前記船体外板と面一又はそれより低い適宜の位置とし、かつ、前記レセスと前記アノードとの間に周囲の水流が流れ込む間隙を設け、前記アノードを船体内から押し出し可能にし、船舶の航海速力の低下あるいは主機燃費の計算結果に基づいて前記アノードの船体内からの押し出し量が決定したことを特徴とする船体外板付アノード取付構造。
【請求項2】
船舶船体外板の適宜の箇所に防食アノードを配置するレセスを設け、当該レセス開口面に複数の開口を有するアノードカバーを前記船体外板と面一に設けたことを特徴とする請求項1に記載の船体外板付アノード取付構造。
【請求項3】
前記レセスは、船舶のプロペラ近傍の船尾部に配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の船体外板付アノード取付構造。
【請求項4】
前記アノードカバーに設ける複数の開口のうちの一つの開口の大きさを前記アノードカバーの表面積の30分の1よりも小さくしたことを特徴とする請求項2に記載の船体外板付アノード取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船体外板に取り付けるアノードの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶には
図4および
図5のように船体外板の電食を防止するため防腐板としてアノード電極が取付けられている。
図4は、従来の船舶に取り付けられるアノード電極の配置位置を示す概略図であり、
図5は、当該アノード電極を船体外板上から見た拡大図である。
図4、
図5において、符号100は、船体、101は、船体外板、102は、アノード、103は、喫水線、104は、居住区、太矢印は水の流れである。
【0003】
図5から明らかなように、従来の船舶では、前記アノード102を前記船体外板101に取り付けた場合、該アノード102の深さ分だけ船体外板101から突出しているため、喫水線103下の水の流れに悪影響を与えてしまい、航海速力の低下あるいは主機燃費の悪化といった問題を引き起こす可能性があった。例えば、5年仕様のアノード電極の場合、約0.05ノットの速度低下を招く。
【0004】
そこで、例えば、前記アノードを船尾船体外板に設けたレセス内に配置する実開昭63−102595号公報に開示のものが知られている。
実開昭63−102595号の開示は、考案名称「船舶の防食用アノード」に係り、「船尾ライン形状に影響を及ぼさない取付可能な規格型アノードと取替えの簡便さを目的とし、新設時から衰耗による取替え時期までアノードが船体外板ラインとほぼ同一面に位置し、船舶の推進性能の維持、向上を計かる。また、従来のアノード配置は垂直方向とすると水の抵抗が増すため、水平方向の配置しか出来なかったが、これをアノード配置効率と船体形状(船のライン)に適切な多方向の取付けを可能とする、船舶の防食用アノードをも提供する」ことの解決する問題点において(同公報明細書2頁10行〜19行参照)、「船尾船体外板に設けた開口にボックスプレートから成る水密構造のレセスを設け該レセスに緩衝材を有するアノードを前記外板に当接した」構成とすることにより(同公報明細書実用新案登録請求の範囲の記載参照)、「(1)船尾ラインがスムーズな曲線となり、船舶の推進性能が向上する。(2)アノードの取付け、取替えが容易となる。(3)船体構造部位に適した多方向への配置が可能。」等の効果を奏するものである(同公報明細書5頁4行〜8行参照)。
【0005】
図6は、実開昭63−102595号公報に第2図として添付される開示の考案の船舶の防食用アノードの一実施例の部分詳細図であり、
図6において、201は、船尾船体、203は、アノード、204は、開口、205は、ボックスプレート、206は、緩衝材、207は、レセスである(なお、符号は、先行技術であることを明らかにするために、本願出願人において、201から始まる3桁に変更して付した。)。
【0006】
しかしながら、実開昭63−102595号に開示の「船舶の防食用アノード」は、レセス207内に緩衝材206を配設するため、緩衝材206自体の劣化により反発力が低下し、船舶推進性能の低下やアノード効果の機能低下等の問題が生じる。また、船舶推進性能という点からすれば、船体外板101とアノード表面は面一であることが望ましいが、防食という面からすれば、船体外板101に凹部を設け、その周辺を流れる水流を凹部に引き込み、前記アノード面全体を水流に接触させる方が防食効果を高め、船体外板101等に対する防食効果に寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭63−102595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、上記の問題点に鑑み、船体外板からアノードを突出させず、かつ、アノードの表面位置を適宜の位置に調整可能なアノード取付構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本願請求項1に係る発明は、船舶船体外板の適宜の箇所に防食アノードを配置するレセスを設け、前記アノードの表面を前記船体外板と面一又はそれより低い適宜の位置とし、かつ、前記レセスと前記アノードとの間に周囲の水流が流れ込む間隙を設け、前記アノードを船体内から押し出し可能にし
、船舶の航海速力の低下あるいは主機燃費の計算結果に基づいて前記アノードの船体内からの押し出し量が決定したことを特徴とする。
また、本願請求項2に係る発明は、前記
請求項1に記載の船体外板付アノード取付構造において、船舶船体外板の適宜の箇所に防食アノードを配置するレセスを設け、当該レセス開口面に複数の開口を有するアノードカバーを前記船体外板と面一に設けたことを特徴とする。
さらに、本願請求項3に係る発明は、前記請求項
1又は2に記載の船体外板付アノード取付構造において、前記レセスは、船舶のプロペラ近傍の船尾部に配置したことを特徴とする。
そして、本願請求項
4に係る発明は、前記請求項2に記載の船体外板付アノード取付構造において、前記アノードカバーに設ける複数の開口のうちの一つの開口の大きさを前記アノードカバーの表面積の30分の1よりも小さくしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上述のとおり構成されているので、次に記載する効果を奏する。
(1)アノードの持つ防食効果を損なうことなく、かつ、船体水線面に突出させないため、喫水線下の水の流れへの悪影響を最小限に留めることが可能となった。
(2)また、主機燃費の悪影響を最小限とすることが可能となった。
(3)さらに、アノードの押し出し量を主機燃費等と相関させるようにしたので、アノード効果と推進性能について、効率の良い船体外板付アノード取付構造とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1(a)(b)(c)は、本発明に係る船体外板付アノード取付構造を実施するための船体外板付アノード取付構造の実施例1に係る船体外板付アノード取付構造を上から見た概略図であり、
図1(a)はアノード取り付け時、
図1(b)は、アノード減少時、
図1(c)は、アノード押し出し時の状態を示す概略図である。
【
図2】
図2(a)は、本発明に係る船体外板付アノード取付構造の実施例2に係る船体外板付アノード取付構造を上から見た概略図であり、
図2(b)は、
図2(a)に示した矢印方向から見た概略図である。
【
図3】
図3(a)(b)(c)は、本実施例3に係る船体外板付アノード取付構造を上から見た概略図であり、
図3(a)はアノード1の取り付け概略図、
図3(b)は、
図3(a)に示した矢印方向から見たアノードカバー6の概略図、
図3(c)は、アノード1の押し出し時の状態を示す概略図である。
【
図4】
図4は、従来の船舶に取り付けられるアノード電極の配置位置を示す概略図である。
【
図5】
図5は、当該アノード電極を船体外板上から見た拡大図である。
【
図6】
図6は、実開昭63−102595号公報に第2図として添付される開示の考案の船舶の防食用アノードの一実施例の部分詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る船体外板付アノード取付構造を実施するための実施例を図面に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1(a)(b)(c)は、本発明に係る船体外板付アノード取付構造を実施するための船体外板付アノード取付構造の実施例1に係る船体外板付アノード取付構造を上から見た概略図であり、
図1(a)はアノード取り付け時、
図1(b)は、アノード減少時、
図1(c)は、アノード押し出し時の状態を示す概略図である。
図1(a)(b)(c)において、符号101は、
図2、
図3に示したと同じ船体外板、1は、アノード、2は、レセス、3は、ネジ状支持棒、4は、水密パッキン、5は、ハンドルである。
【0014】
図1(a)(b)(c)から明らかなように、本実施例1に係る船体外板付アノード取付構造は、前記アノード1の取り付け箇所の前記船体外板101に前記レセス2(凹構造)を設け、つまり、前記アノード1を前記船体外板101に設けた凹構造であるレセス2内に配置する構造とすることにより、前記アノード1の表面を前記船体外板101と面一又は低い適宜の位置とする構造とし、周囲の水流を前記レセス2と前記アノード1との間に流れ込みやすくさせ、水流とアノード1との接触面積を高め、適切な一にアノード1の表面とすることにより、アノード効果、すなわち、防食効果を高めんとするものである。つまり、アノード効果を高めつつ、推進性能の維持の両者の調整を図ろうとするものであり、この結果、前記アノード1の厚さは、2年仕様で40mm、3年仕様で50mm程度で足りることとなる。
【0015】
そして、このような構成からなる本実施例1に係る船体外板付アノード取付構造において、前記アノード1が経年の喫水線103下に置かれること等により前記アノード1が減少したりして、その表面が後退して、
図1(b)に示すように、前記船体外板101と前記アノード1の表面が、適切な位置を維持できなくなる状態となったときには、前記ハンドル5、5を回動させて前記アノード1を押し出し、
図1(c)に示すように、その表面が前記船体外板101に対し、適切な位置になるようにして、アノード効果を維持すると共に船体抵抗を減少することができるようにしたものである。
なお、当該押し出し量は、航海速力の低下あるいは主機燃費等の計算結果から算出される押し出し量とする。
【0016】
このように本実施例1に係る船体外板付アノード取付構造は、アノード1の押し出し量を航海速力の低下あるいは主機燃費と関連づけて決定できるようにしたことにある。
【0017】
個々のアノード取付位置や船舶の推進性能及びアノード1の減少から見て、プロペラ(図示外)近傍の船尾部に配置すれば最も効果的であると想定されるが、
図4に示すように、船底全体に配置することを妨げない。また、レセス2の大きさは、本実施例1に係る船体外板付アノード取付構造では、300mm×150mm×100mm(縦×横×深さ)を想定しているが、排水量、船底面積、取付位置等をも勘案して前記レセス2の大きさや前記アノード1の押し出し量を決定する。
【実施例2】
【0018】
次に、本発明に係る船体外板付アノード取付構造を実施するための実施例2を図面に基づき詳細に説明する。
図2(a)は、本発明に係る船体外板付アノード取付構造の実施例2に係る船体外板付アノード取付構造を上から見た概略図であり、
図2(b)は、
図2(a)に示した矢印方向から見た概略図である。
図2(a)(b)において、符号1、2及び101は、
図1(a)(b)(c)に示したものと同じアノード1及びレセス2並びに船体外板101であり、その余の符号の6は、アノードカバー、7は、アノードカバー受け、8は、留具である。
【0019】
本実施例2に係る船体外板付アノード取付構造は、当該レセス2内に前記アノード1を配置し、さらに、当該レセス2の開口面に前記船体外板101と面一となる前記アノードカバー6を設けた構造のものである。このため、前記レセス2内の前記船体外板101近傍には、前記アノードカバー受け7、7を設け、前記アノードカバー6を前記留具8、8で固定するようにしたものである。
また、前記アノードカバー6は、
図2(b)に示すように、複数の開口であるアノードカバー穴9、9、9、9が設けられ、当該複数のアノードカバー穴9を通じて船体防食の、いわゆるアノード効果を得られるようにしたものである。
【0020】
当該アノードカバー穴9の数及び面積は、当該アノードカバー6の表面積に比して大きくない面積とし、その結果、船舶の推進性能に影響を及ぼさない範囲内のものとする。具体的には、水槽試験によれば、本実施例2に係る船体外板付アノード取付構造では、前記アノードカバー6のアノードカバー穴9の数を4個とし、かつ、その一つの穴9の大きさを前記アノードカバー6の表面積の30分の1程度とすれば、船舶の推進性能に影響を及ぼさない。したがって、1つのアノードカバー穴9の大きさを前記アノードカバー6の表面積の30分の1よりも小さくするのであれば、前記アノードカバー穴9の数を増やしても良い。なお、前記アノードカバー穴9の形状は、長方形、円形、楕円形のいずれでもあっても良い。
【0021】
また、本実施例2に係る船体外板付アノード取付構造も、船体に対する取付位置等は、上記実施例1に係る船体外板付アノード取付構造の取付位置に準じて配置する。
【実施例3】
【0022】
次に、本発明に係る船体外板付アノード取付構造を実施するための実施例3を図面に基づき詳細に説明する。
図3(a)(b)(c)は、本実施例3に係る船体外板付アノード取付構造を上から見た概略図であり、
図3(a)はアノード1の取り付け概略図、
図3(b)は、
図3(a)に示した矢印方向から見たアノードカバー6の概略図、
図3(c)は、アノード1の押し出し状態を示す概略図である。
図3(a)(b)(c)において、使用する符号は、
図1(a)(b)(c)及び
図2(a)(b)に示した同じ部材は同じ符号で示し、各部材の機能に変更がない限りその説明は省略する。
【0023】
図3(a)(b)(c)から明らかなように、 本実施例3に係る船体外板付アノード取付構造は、上記実施例1に係る船体外板付アノード取付構造と実施例2に係る船体外板付アノード取付構造の組み合わせに係る構造であり、船体外板101内にレセス2を設け、当該レセス2内にアノード1を配置し、さらに、当該レセス2の開口面に前記アノードカバー6を設けたアノード構造のものであり、具体的には、前記船体外板101の所定箇所に所定大きさの前記レセス2を設け、当該レセス2内に船体内部から前記ハンドル5、5等で押し出し可能な前記アノード1を設け、かつ、前記レセス2の開口面には、前記船体外板101と面一となる前記アノードカバー穴9、9・・が開口された前記アノードカバー6を設けたものである。
【0024】
本実施例3に係る船体外板付アノード取付構造においても、その取付位置は、上述する実施例1に係る船体外板付アノード取付構造及び実施例2に係る船体外板付アノード取付構造に準じて配置される。
また、前記アノードカバー6のアノードカバー穴9の数及び各穴9の大きさ、形状等も上記実施例2に係る船体外板付アノード取付構造に準ずる。すわわち、前記アノードカバー6に設けられるアノードカバー穴9の数及び面積は、前記アノードカバー6の表面積の30分の1程度とし、1つのアノードカバー穴9の大きさを前記アノードカバー6の表面積の30分の1よりも小さくするのであれば、前記アノードカバー穴9の数を増やしたりすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、船体外板に取り付けるアノードの取付構造に利用される。
【符号の説明】
【0026】
1 アノード
2 レセス
3、3 ネジ状支持棒
4、4 水密パッキン
5、5 ハンドル
6 アノードカバー
7、7 アノードカバー受け
8、8 留具
9、9・・ アノードカバー穴
100 船体
101 船体外板
102 アノード
103 喫水線
104 居住区
201 船尾船体
203 アノード
204 開口
205 ボックスプレート
206 緩衝材
207 レセス