特許第5789342号(P5789342)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5789342優れた耐孔食性を有する高機能性高窒素2相ステンレス鋼
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5789342
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】優れた耐孔食性を有する高機能性高窒素2相ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20150917BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20150917BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20150917BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20150917BHJP
【FI】
   C22C38/00 302H
   C22C38/38
   C22C38/58
   !C21D9/46 Z
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-537011(P2014-537011)
(86)(22)【出願日】2013年1月25日
(65)【公表番号】特表2014-534345(P2014-534345A)
(43)【公表日】2014年12月18日
(86)【国際出願番号】KR2013000619
(87)【国際公開番号】WO2013115524
(87)【国際公開日】20130808
【審査請求日】2014年4月21日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0009787
(32)【優先日】2012年1月31日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2012-0009794
(32)【優先日】2012年1月31日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】594058838
【氏名又は名称】コリア インスティチュート オブ マシーナリー アンド マテリアルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ハ、ホン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】イ、テ−ホ
(72)【発明者】
【氏名】ファン、ビョン チュル
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−239799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
16.5ないし19.5重量%のクロム(Cr)と、2.5ないし3.5重量%のモリブデン(Mo)と、1.0ないし5.5重量%のタングステン(W)と、5.5ないし7.0重量%のマンガン(Mn)と、0.35ないし0.45重量%の窒素(N)と、残部である鉄(Fe)及び不純物として0.03重量%以下の炭素(C)と、0.5重量%以下のシリコン(Si)とを含有し、フェライト−オーステナイト相からなる、2相ステンレス鋼(duplex stainless steels)。
【請求項2】
前記2相ステンレス鋼が、0.01ないし0.7重量%のニッケル(Ni)をさらに含有することを特徴とする、請求項1記載のフェライト−オーステナイト相からなる2相ステンレス鋼。
【請求項3】
前記2相ステンレス鋼が、ニッケルを含まないことを特徴とする、請求項1記載のフェライト−オーステナイト相からなる2相ステンレス鋼。
【請求項4】
前記2相ステンレス鋼が、フェライト相の体積分率が40ないし60%であることを特徴とする、請求項1記載のフェライト−オーステナイト相からなる2相ステンレス鋼。
【請求項5】
前記2相ステンレス鋼が、820MPa以上の引張強度、及び25%以上の延伸率値を示し、引張強度と延伸率の積が24,000MPa・%以上であることを特徴とする、請求項1記載のフェライト−オーステナイト相からなる2相ステンレス鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐孔食性を有する高機能性高窒素2相ステンレス鋼に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニッケル(Ni)依存型商用オーステナイトステンレス鋼は、汎耐食環境に適用したステンレス鋼でステンレス鋼使用量全体の60%を占める市場占有率が最大の鋼種である。しかし、オーステナイト相安定元素として必須的なニッケル(Ni)は、高価であり価格が不安定な問題を有しているので、固定需要に対する安定的供給に難しさが発生している。それを解決するために、商用オーステナイトステンレス鋼をニッケル低含有(low Ni)またはニッケル無含有(Ni-free)ステンレス鋼に代替して経済性を確保しようとする研
究が活発に進行されている。
【0003】
2相ステンレス鋼(duplex stainless steel)は、フェライト相とオーステナイト相が約50:50の嵩比で微細に結合したステンレス鋼で、商用オーステナイト系ステンレス鋼に比べてニッケル(Ni)含量が低くて価格競争力が高く、合金組成及び微細組織の制御を通じて具現することができる性能範囲が非常に広いという長所があり、既存のニッケル(Ni)依存型ステンレス鋼の代替材に活用するための研究が進行中である。
【0004】
また、2相ステンレス鋼でもニッケル(Ni)含量をさらに低めた低減型(lean)2相ステンレス鋼が研究・開発され、その中の一部の製品が商用化されて既存のオーステナイト系ステンレス鋼に代替して用いられている。低減型2相ステンレス鋼の種類としては、クロム(Cr)23重量%及びニッケル(Ni)4重量%を含む2304級2相ステンレス鋼(UNS S32304)と、ニッケル(Ni)含量を1重量%まで低めながらもAISI 316Lステンレス鋼と同等な耐蝕水準とAISI 316Lより優れた強度及び延伸率を具現したLDX2101(クロム(Cr)21重量%、ニッケル(Ni)1重量%、UNS S32101)が開発されたことがある。
【0005】
しかし、2相ステンレス鋼は、窒素固溶度が0.04重量%以下と低いフェライト相が嵩比で約50%を占めるので、ステンレス鋼の窒素(N)含有量を高めることが容易ではない。したがって、2相ステンレス鋼の母材に固溶させた窒素はオーステナイト相に優先的に固溶して、オーステナイト相に過固溶した窒素(N)によってオーステナイト相とフェライト相の化学組成に差異が現れ、またクロム−窒素結合及び析出相形成によってステンレス鋼の機械的−化学的物性を低下させる問題が発生する。このような問題によって、窒素(N)を積極的に活用した高窒素2相ステンレス鋼の開発及び商用化が遅延していて、それに対する解決策が早急に準備されなければならない実情である。
【0006】
そこで、本発明者らは、フェライト相とオーステナイト相の2相構造で構成されて物性具現範囲の拡張が可能な2相ステンレス鋼を対象に、マンガン(Mn)と窒素(N)を活用してオーステナイト相を安定化させることによって、ニッケル(Ni)使用量を低減するかまたはニッケル使用量を排除して、モリブデン(Mo)とタングステン(W)を活用して商用オーステナイトステンレス鋼及び商用2相ステンレス鋼水準以上の耐食性を示し、それぞれの合金元素を最適に組み合わせることによって、商用オーステナイトステンレス鋼及び2相ステンレス鋼に比べて非常に優れた機械的特性を示す低ニッケル−高窒素2相ステンレス鋼の組成を開発して本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、優れた耐孔食性を有する高機能性高窒素2相ステンレス鋼を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、16.5ないし19.5重量%のクロム(Cr)と、2.5ないし3.5重量%のモリブデン(Mo)と、1.0ないし5.5重量%のタングステン(W)と、5.5ないし7.0重量%のマンガン(Mn)と、0.35ないし0.45重量%の窒素(N)と、残部である鉄(Fe)及び不純物として0.03重量%以下の炭素(C)と、0.5重量%以下のシリコン(Si)を含むフェライト−オーステナイト相からなる2相ステンレス鋼(duplex stainless steels)を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の耐孔食性が優れた高機能性高窒素2相ステンレス鋼は、マンガン(Mn)と窒素(N)を活用して鋼材価格の不安定要因及び環境負担を重くするニッケル(Ni)を排除するかまたは大部分代替することによって鋼の経済性、価格安定性、及び環境親和性を向上させることができる。
【0010】
また、窒素(N)含量を0.35ないし0.45重量%の範囲に適切に調節することによって、既存高窒素ステンレス鋼に比べて、(1)製造時の窒素(N)加圧の負担が少なくて、(2)熱間圧延及び溶体化処理温度を1100℃以下に下げることができ、製造工程でのエネルギー消耗を低減させることができ、(3)窒素(N)過固溶による析出物形成が抑制されるので機械的特性と耐食性向上の効果を得ることができ、(4)窒素(N)の固溶度を高めるためのマンガン(Mn)の使用を減らすことができるので耐食性向上に効果的で、(5)フェライト−オーステナイト相間合金元素分配の差異が減少して、微細ガルバニック腐食による孔食成長が抑制されるので耐食性が追加で向上する効果を得ることができ、それと同時に(6)優れた強度と軟性の組み合わせを示す特性を得ることができる。
【0011】
さらに、本発明の2相ステンレス鋼は、ニッケル(Ni)を0.7重量%以下で少量含むことで汎耐食環境用オーステナイトステンレス鋼に比べて鋼材の価格安全性が高いという長所がある。
【0012】
本発明の2相ステンレス鋼は、汎耐食環境用オーステナイトステンレス鋼に比べて同等/優れた水準の耐食性を有しながらも商用オーステナイトステンレス鋼に比べて非常に優れた機械的特性を示すので、汎耐食環境用商用オーステナイトステンレス鋼用途を代替することができ、保存容器、輸送器機のフレーム部材、製紙産業、海洋、化学工程、精油、発電産業などの構造材、鋼管材料、生体適用分野などの高付加価値材料に用いることができる。また、本発明の2相ステンレス鋼は、チューブ、線材、ストリップ、棒材、シート材、またはバー形態の資材または高強度と高延伸特性が求められるその他資材に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の2相ステンレス鋼の微細組織及び結晶粒別結晶方位を観察した電子後方散乱回折(EBSD:electron backscattered diffraction)写真である。
図2】本発明の2相ステンレス鋼の機械的特性(引張強度×延伸率)を商用オーステナイトステンレス鋼及び商用2相ステンレス鋼の機械的特性水準と比較して示したグラフである。
図3】本発明の2相ステンレス鋼の孔食抵抗性水準を商用オーステナイトステンレス鋼及び商用2相ステンレス鋼と比較して示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、16.5ないし19.5重量%のクロム(Cr)と、2.5ないし3.5重量%のモリブデン(Mo)と、1.0ないし5.5重量%のタングステン(W)と、5.5ないし7.0重量%のマンガン(Mn)と、0.35ないし0.45重量%の窒素(N)と、残部である鉄(Fe)及び不純物として0.03重量%以下の炭素(C)と、0.5重量%以下のシリコン(Si)を含有し、フェライト−オーステナイト相からなる2相ステンレス鋼(duplex stainless steels)を提供する。
【0015】
ここで、本発明の前記2相ステンレス鋼は、0.01ないし0.7重量%のニッケル(Ni)をさらに含有していてもよい。
前記2相ステンレス鋼は、0.01ないし0.7重量%のニッケルをさらに含むことで、オーステナイト相を腐食しない(noble)ようにして、インゴット(ingot)の冷却時の窒素固溶量を高い水準に維持することができる。
【0016】
また、本発明の前記2相ステンレス鋼は、ニッケルを含まないこともある。
さらに、前記2相ステンレス鋼は、16.5ないし19.5重量%のクロム(Cr)と、2.5ないし3.5重量%のモリブデン(Mo)と、1.0ないし5.5重量%のタングステン(W)と、5.5ないし7.0重量%のマンガン(Mn)と、0.35ないし0.45重量%の窒素(N)と、残部である鉄(Fe)及び不純物として0.03重量%以下の炭素(C)と、0.5重量%以下のシリコン(Si)を含有するものであってもよい。
【0017】
本発明の前記2相ステンレス鋼は、材料価格の不安定要因を有し、環境及び人体に有害なニッケル(Ni)を代替するために、0.35ないし0.45重量%の含量で窒素を固溶し、かつ5.5重量%以上のマンガン(Mn)を添加することによって経済的にオーステナイト相を安定化した。
【0018】
また、ニッケルの使用を低減して汎耐食環境用オーステナイトステンレス鋼に比べて鋼材の価格安定性を高め、環境負担を低減することができるようにした。
さらに、クロム(Cr)含量を19.5重量%以下に低めて材料の単価をより低減(lean)させることができ、クロム(Cr)含量が高い場合に析出するシグマ(σ)相の形成を抑制してフェライト相を安定化させることができる。モリブデン(Mo)及びタングステン(W)は、フェライト相を安定化させるとともに優れた耐孔食性を付与することができる。特に、タングステン(W)はモリブデン(Mo)と類似にフェライト安定化及び耐孔食性向上特性を示すと同時に、機械的特性及び耐食性に有害なシグマ(σ)相の析出活性がモリブデン(Mo)に比べて低いので、モリブデン(Mo)の代替元素として用いることができる。
【0019】
また、本発明の前記2相ステンレス鋼において、フェライト相の体積分率は40ないし60%に構成することが好ましい。前記フェライト相の体積分率が40%未満の場合には強度及び応力腐食割れ(stress corrosion cracking,SCC)抵抗性が低下する問題があり
、フェライト相の体積分率が60%を超過する場合にはオーステナイト相の体積分率が低くなって延伸率が低下する問題がある。
【0020】
以下に、本発明の2相ステンレス鋼内の主要合金元素に対して詳しく説明する。
(1)クロム(Cr)
クロム(Cr)は、フェライト安定化元素でステンレス鋼に耐食性を付与する必須的な元素である。また、クロム(Cr)は窒素(N)の固溶度を増加させる役割を遂行するので、本発明の2相ステンレス鋼は鋼材の耐食性確保及び鋼材内の窒素(N)の溶解度向上
をはかるために、クロム(Cr)を16.5重量%以上添加した。しかし、クロム(Cr)が過度に添加される場合、溶湯の凝固後にデルタフェライト相を過量で残存させて、2相ステンレス鋼のシグマ(σ)相析出を促進させる問題がある。また、デルタフェライト相及びシグマ(σ)相の析出による組織の不均一性は鋼材の孔食抵抗性を減少させるため、クロム(Cr)の含量を16.5ないし19.5重量%に制限した。
(2)モリブデン(Mo)
モリブデン(Mo)は、フェライト相を安定化し、還元性酸溶液と塩化物(Cl)溶液に対する母材の一般腐食抵抗性及び局所腐食抵抗性を顕著に向上させる。特に合金に窒素(N)とともに添加する場合、孔食抵抗性向上をさらに強化する相乗効果を示す。したがって、本発明の2相ステンレス鋼は、モリブデン(Mo)を2.5重量%以上添加して合金の耐孔食性を向上させた。しかし、モリブデンが過度に添加される場合、凝固後に残存するデルタフェライト相の分率を増加させて、クロム(Cr)と同じく有害なシグマ(σ)相などを形成して鋼材の物性が低下する問題がある。また、モリブデン(Mo)は非常に高価な合金元素なので鋼材の経済性確保のためにその含量が3.5重量%を越えないように制限した。
(3)タングステン(W)
タングステン(W)は、ステンレス鋼の合金元素として役割(フェライト相安定化、耐食性向上など)がモリブデン(Mo)と類似で、モリブデン(Mo)より価格競争力に優れるのでモリブデン(Mo)の代替元素に用いられる。また、モリブデン(Mo)に比べてシグマ(σ)相を形成する活性度が低いので二次相析出による機械的特性及び耐食性低下を防止することができる。さらにモリブデン(Mo)をタングステン(W)に代替して合金の低温衝撃強度を向上させることができる。したがって、本発明の2相ステンレス鋼はモリブデン(Mo)とタングステン(W)を両方用いて、モリブデン(Mo)の含量中の一部をタングステン(W)に代替して用いることができ、ここでタングステンの含量を1.0ないし5.5重量%に制限した。
(4)ニッケル(Ni)
ニッケル(Ni)は、代表的なオーステナイト相安定化元素であるが、上述したように価格変動性が大きく、環境及び人体に有害な元素なので含量を極めて制限する。しかし、ニッケルは製造合金の熱間及び冷間加工性を向上させて高い応力腐食割れ(stress corrosion cracking,SCC)抵抗性と酸性溶液での優れた耐食性を付与して、母材の凝固過
程中にデルタフェライト形成を抑制する長所があるので、本発明の2相ステンレス鋼ではニッケル(Ni)の添加量は0.01ないし0.7重量%と規定するかまたはニッケルを含まない。
(5)マンガン(Mn)
マンガン(Mn)は、経済的なオーステナイト相安定化元素で、高価なオーステナイト相安定化元素であるニッケル(Ni)を代替するための目的で添加される。また、マンガンは鋼材内の窒素(N)の固溶度を増加させるので結果的にステンレス鋼の強度を向上させることができる。そこで本発明の2相ステンレス鋼は、鋼材の経済性と窒素(N)固溶度増加のために5.5重量%以上のマンガン(Mn)を含む。しかし、マンガン(Mn)が過度に添加される場合、不純物元素である硫黄(S)または酸素(O)と結合してマンガン硫化物(MnS)またはマンガン酸化物(MnO)のような非金属介在物(nonmetallic inclusion)を形成し得る。前記、非金属介在物は、孔食発生部位と作用してステン
レス鋼の孔食抵抗性を低下させる問題があり、マンガンの含量を7.0重量%以下に制限した。
(6)窒素(N)
窒素(N)は、強力なオーステナイト相安定化元素であり、マンガン(Mn)とともにニッケル(Ni)を効果的に代替することができる。また、ステンレス鋼の強度を増加させるのと同時に軟性を高水準で維持させることができ、耐孔食性を大きく向上させることができる。したがって、本発明の2相ステンレス鋼は窒素(N)を0.35重量%以上固溶させて鋼材に優れた強度−軟性の組み合わせ(エコ指数、Eco index)及び耐孔食性を
付与する。しかし、過度に添加される場合には窒素(N)がチッ化物を形成することあり得、鋼材の脆化及び鋳造材に空隙が形成される問題がある。それを防止するために、本発明の2相ステンレス鋼は窒素(N)の含量を0.35ないし0.45重量%に制限した。(7)炭素(C)及びシリコン(Si)
炭素(C)は、窒素(N)と原子の大きさが似ている侵入型元素でオーステナイト相の安定化機能をし、鋼材の強度を向上させる長所がある。しかし、炭素(C)は高温でステンレス鋼の主要合金元素であるクロム(Cr)と容易に結合して安定したクロム−炭化物(Cr23等)を形成する。前記クロム−炭化物は、隣接部基地のクロム(Cr)を消耗しながら結晶粒系から析出して、析出したクロム−炭化物周囲のクロム−枯渇領域(Cr-depletion zone)が孔食腐食の発生もととして作用する問題がある。したがって、本
発明の2相ステンレス鋼は炭素(C)の含量が 0.03重量%を越えないように制限した。
【0021】
一方、シリコン(Si)はフェライト相形成元素であって、母材中の酸素(O)と容易に結合する特性を有するので、製鋼工程中で脱酸剤として主に用いられる。しかし、過剰添加される場合、靭性と関連した機械的特性を大きく減少させて、金属間化合物を形成する問題があり、本発明の2相ステンレス鋼はシリコンの含量を0.5重量%以下に制限した。
(8)フェライト相
優れた強度及び応力腐食割れ(stress corrosion cracking,SCC)抵抗性を確保し
て溶接性を改善するために、本発明の2相ステンレス鋼はフェライト相の体積分率を40%以上に維持する。しかし、過度に高いフェライト含量は低温衝撃靭性及び水素脆性に対する抵抗性を悪化させるので、フェライト相の体積分率は60%を超過しないように制限する。
【0022】
本発明の2相ステンレス鋼は、826ないし933MPaの引張強度(tensile strength,TS)、574ないし640MPaの降伏強度(yield strength,YS)及び26な
いし51%の延伸率(elo ngation,%)値を示し、引張強度と均一延伸率の積(product)であるエコ指数(Eco-index)が24,000MPa・%以上の優れた特性を示す。
【0023】
鉄鋼材料のエコ指数(またはエコ性能指数、Eco-index;ecological index of performance)というのは、未来型鉄鋼素材に要求される多くの環境親和的(eco-friendly)特性
中、優れた耐久性(sustainability)を定量化した指数であり、鉄鋼材料の引張強度(MPa)と延伸率(%)を掛けた値で定義される。
【0024】
また、本発明の2相ステンレス鋼は、汎耐食環境用商用300系列オーステナイトステンレス鋼(UNS S30400、UNS S31603)及び商用2相ステンレス鋼(UNS S32304)に比べて同等以上、優れた孔食抵抗性を示す。本発明の2相ステンレス鋼の機械的特性は、既存の商用オーステナイト系ステンレス鋼及び2相ステンレス鋼の引張強度、降伏強度及び延伸率値を上回り、また耐孔食性も優れているのでそれを通じて本発明の2相ステンレス鋼の優秀性が分かる。
【0025】
以下、本発明を実施例を通じてより具体的に説明する。しかし、下記の実施例は本発明を説明するためだけのものであって、下記実施例によって本発明の権利範囲が限定されるのではない。
<実施例1−7>2相ステンレス鋼の製造
電解鉄、Fe−Cr、Fe−Mn、Fe−Mo及びNi、W母合金を表1の実施例1ないし実施例7に示した組成で具現されるように組成比率を合わせて、それぞれ真空誘導溶解炉(VIM 4III−P、ドイツALD社)に装入して完全溶解させた後、窒素ガスを注入して10kgのインゴットを製造した。製造した40mm厚のインゴットを130
0℃で2時間均質化熱処理した後、40%以上の圧下率で1回以上のパスを通じて最終厚さ4mmまで熱間圧延した。また、析出物形成を防止するために1050℃以上の温度で圧延を仕上げた後、水冷することによって本発明の2相ステンレス鋼を製造した。
<比較例1−4>
商用オーステナイトステンレス鋼の304ステンレス鋼(UNS S30400)、316Lステンレス鋼(UNS S31603)及び商用2相ステンレス鋼の2304ステンレス鋼(UNS S32304)及び2205ステンレス鋼(UNS S31803)をそれぞれ比較例1ないし比較例4に用いた。
【0026】
前記実施例1ないし7で製造した2相ステンレス鋼と比較例1ないし比較例4の商用ステンレス鋼の組成を下記の表1に示した。
【0027】
【表1】
【0028】
<実験例1>微細組織及び結晶構造分析
本発明の2相ステンレス鋼の微細組織及び結晶構造を分析するために、電子後方散乱回折(EBSD:electron backscattered diffraction)分析を行なって、その結果を下記の表2、図1に示した。
【0029】
【表2】
【0030】
前記表2の微細組織において、bccはフェライト相を示して、fccはオーステナイト相を示す。
表2及び図1に示したように、本発明の実施例1ないし実施例7の2相ステンレス鋼は、フェライトとオーステナイト相分率が40:60ないし50:50を満足することが分かる。また、比較例1ないし2の商用オーステナイトステンレス鋼は、オーステナイト単相の微細組織で構成され、商用2相ステンレス鋼の比較例3ないし比較例4は、フェライトとオーステナイトの相分率が約50:50で構成されていることを確認することができる。
【0031】
適切な分率のフェライト相は、優れた強度及び応力腐食割れ(stress corrosion cracking,SCC)抵抗性を付与することができ、前記範囲でフェライト相が構成されること
によって過度に高いフェライト相が構成される場合に発生する低温衝撃靭性及び水素脆性に対する抵抗性悪化問題を防止することができる。
<実験例2>機械的特性分析
本発明の実施例1ないし実施例7の2相ステンレス鋼及び比較例1ないし比較例4の商用化されたステンレス鋼の引張強度、降伏強度及び延伸率を引張試験機(model:Instron 5882)を用いて測定して、その結果を表3及び図2に示した。
【0032】
【表3】
【0033】
表3及び図2に示したように、比較例1ないし比較例2の商用オーステナイトステンレス鋼は170ないし205MPaの降伏強度、485ないし515MPaの引張強度及び40%の延伸率を示し、比較例3ないし比較例4の商用2相ステンレス鋼は400ないし450MPaの降伏強度、630ないし680MPaの引張強度、そして25%の延伸率を示した。したがって、比較例1ないし比較例4の商用ステンレス鋼材は、15750ないし20600MPa・%水準のエコ指数(Eco-index)を示す。それに比べて本発明の
実施例1ないし実施例7の2相ステンレス鋼は、826ないし933MPaの引張強度(tensile strength,TS)、574ないし640MPaの降伏強度(yield strength,YS)及び26ないし51%の延伸率(elongation,%)値を示す。したがって、引張強度と延伸率の積であるエコ指数(Eco-index)は、24102ないし43022MPa・%
水準で、これは比較例で用いられた商用ステンレス鋼材より非常に高い数値である。
【0034】
これを通じて、本発明の2相ステンレス鋼は、商用2相ステンレス鋼及びオーステナイトステンレス鋼と比べてニッケル(Ni)を用いないか、少量用いるにもかかわらず適切な水準のオーステナイト基地を確保することができ、充分に高い強度及び延伸率を有していてその組み合わせが優れていることが分かる。
<実験例3>耐孔食性分析
本発明の実施例1ないし7によって製造される2相ステンレス鋼及び比較例1ないし比較例4の商用ステンレス鋼の耐孔食性を測定するために、実施例と比較例の合金試片を常温の1M NaCl溶液に浸漬して電位走査速度(dV/dt)3mV/sで電位を増加させながら陽極分極挙動を観察して分極試験結果を図3に示した。また分極試験中に各合金に孔食が発生した電位(pitting potential,Epit)を表4に示した。
【0035】
【表4】
【0036】
図3及び表4に示したように、商用オーステナイト系ステンレス鋼の孔食は、0.1967ないし0.3733VSCEで発生することが分かり、商用2相ステンレス鋼の2205ステンレス鋼は本実験例の条件で孔食が発生しなかった。一方、本発明の実施例1ないし実施例5によって製造された2相ステンレス鋼は、本実験例の条件で0.2424VSCE以上の電位で孔食が発生するかまたは孔食が発生しないことが分かる。また、実施例6及び実施例7で製造された2相ステンレス鋼は、本実験の塩化物雰囲気で孔食が発生しないことが分かる。これを通じて、塩化物雰囲気で本発明の2相ステンレス鋼が汎耐食環境用商用オーステナイト系ステンレス鋼に比べてすべて優れた孔食抵抗性を有し、特に少量のニッケルを含んだ2相ステンレス鋼の耐孔食性は、商用2相ステンレス鋼の孔食抵抗性と同等な水準であることを確認した。
図1
図2
図3