(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記磁石部は、前記ピストンロッドが前記シリンダ内に最も進入したときの前記ピストンの位置に対応して前記永久磁石が配設されることを特徴とする請求項1に記載の磁気粘性流体緩衝器。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態の磁気粘性流体緩衝器100の断面図である。
【0012】
磁気粘性流体緩衝器100は、磁界の作用によって粘性が変化する磁気粘性流体を用いることによって、軸方向に加わる力に対する減衰係数が変化可能なダンパである。磁気粘性流体緩衝器100は、その減衰係数が、ピストン21のストローク量に応じて比例的に変化するように形成される。
【0013】
磁気粘性流体緩衝器100は、磁気粘性流体が封入されるシリンダ10と、シリンダ10内に、シリンダ10の軸方向に摺動自在に配置されるピストン21と、ピストン21が連結されるピストンロッド22と、シリンダ10の外周に固定されてシリンダ10内に磁界を作用させる磁石部30と、を備える。
【0014】
シリンダ10内に封入される磁気粘性流体は、磁界の作用によって見かけの粘性が変化するものであり、油等の液体中に強磁性を有する微粒子を分散させた液体である。磁気粘性流体の粘度は、作用する磁界の強さに応じて変化し、磁界の影響がない場合に最低となる。
【0015】
シリンダ10は、その両端に開口部を有する円筒状に形成される円筒部11と、円筒部11における両端の開口部に取り付けられるヘッド部材12とボトム部材13とを備える。
【0016】
円筒部11は、一方の開口部における内周に形成される螺合部11aと、他方の開口部における内周に形成される螺合部11bとを有する。
【0017】
ヘッド部材12の外周には、螺合部11aと螺合する螺合部12bが形成される。円筒部11の内周とヘッド部材12の外周との間には、シール部材14aが設けられ、シリンダ10内の磁気粘性流体がシールされる。ヘッド部材12には、ピストンロッド22が挿通する孔12aが形成される。
【0018】
同様に、ボトム部材13の外周には、螺合部11bと螺合する螺合部13bが形成される。円筒部11の内周とボトム部材13の外周との間には、シール部材14bが設けられ、シリンダ10内の磁気粘性流体がシールされる。ボトム部材13には、ピストンロッド22が挿通する孔13aが形成される。
【0019】
シリンダ10は、非磁性体によって形成される。これにより、シリンダ10が磁路になることが防止され、シリンダ10内に封入された磁気粘性流体に磁石部30の磁界が効率的に作用する。
【0020】
シリンダ10は、円筒部11の外周にシリンダ10の他の部分と比較して薄肉に形成される環状の凹部15を有する。凹部15の周囲に磁石部30が嵌装される。
【0021】
ピストン21は、その外径がシリンダ10における円筒部11の内径よりも小径の円柱状に形成される。つまり、ピストン21は、シリンダ10における円筒部11の内周との間に磁気粘性流体が通過可能な環状の間隔をもって形成される。
【0022】
ピストン21がシリンダ10内を軸方向に摺動すると、ピストン21とシリンダ10との間の間隔を磁気粘性流体が通過する。磁気粘性流体緩衝器100は、ピストン21とシリンダ10との間の環状の間隔が絞りの役割をすることによって、減衰力を発生するものである。
【0023】
ピストン21は、非磁性体によって形成される。これにより、ピストン21に磁石部30の磁界が直接作用することはなく、また、ピストン21が片側に寄せられてフリクションが増加することを防止できる。
【0024】
ピストンロッド22は、ピストン21と同軸になるように形成され、ピストン21の中心を挿通する。ピストンロッド22は、ピストン21と一体に形成される。ピストンロッド22をピストン21と別体に形成して、ねじ等によって接合してもよい。
【0025】
ピストンロッド22の一方の端部22aは、ヘッド部材12の孔12aを挿通し、ヘッド部材12に摺動自在に支持されるとともに、シリンダ10の外部へと延在する。ピストンロッド22の他方の端部22bは、ボトム部材13の孔13aを挿通し、ボトム部材13に摺動自在に支持される。
【0026】
このように、ピストンロッド22は、ヘッド部材12及びボトム部材13に摺動自在に支持されることによって、ピストン21の外周とシリンダ10の内周との間に環状の間隔があいていても、シリンダ10内にて径方向にずれることなく軸方向に摺動可能である。
【0028】
図2は、本発明の第1の実施形態の磁石部30の説明図である。
図2(a)は、
図1におけるA−A断面図であり、
図2(b)は、磁石部30の永久磁石31の説明図である。
【0029】
磁石部30は、
図2(a)に示すように、その断面が円環状に形成されており、シリンダ10の凹部15の周囲に嵌装されている。凹部15は、シリンダ10の他の部分と比較して薄肉に形成されるため、磁石部30の磁界がシリンダ10内に封入される磁気粘性流体に作用することを妨げない。
【0030】
磁石部30は、一対の永久磁石31(31−1、31−2)と、永久磁石31を支持する支持部材33と、永久磁石31及び支持部材33の周囲に嵌装される円環状のリング部材32とから構成される。
【0031】
永久磁石31は、シリンダ10の軸の中心と同一の軸を中心とする第1の円周の一部の弧からなる内周面31aと、第1の円周と同一の中心を有し第1の円周よりも径が大きな第2の円周の一部の弧からなる外周面31bと、内周面31a及び外周面31bとを結ぶ側面31cとによって囲まれた円弧状の形状を有するセグメント形状(C型)の永久磁石である。永久磁石31−1と31−2とは同一の形状であり、シリンダ10の中心軸に対して対称に配置される。
【0032】
永久磁石31は、
図2(b)に示すように周方向に一組の磁極が着磁されており、周方向の一方の側部31cがN極に、他方の側部31cがS極に、それぞれ着磁される。永久磁石31−1と31−2とは、それぞれシリンダ10の軸の中心に対して回転対称に配置される。永久磁石31−1と31−2との磁極は、互いに異極と対向する。
【0033】
すなわち、永久磁石31−1の一方の側部31cの磁極がN極であり、これに対向する永久磁石31−2の側部31cの磁極はS極である。また、永久磁石31−1の他方の側部31cの磁極がS極であり、これに対向する永久磁石31−2の側部31cの磁極はN極である。
【0034】
支持部材33は、その内周側は環状に形成された凹部15の周囲に沿うような円筒形状に形成され、その外周側は円周上の外径に永久磁石31が固定されるための溝部33a、33bが形成される。溝部33a、33bに永久磁石31がそれぞれ固定された状態で、支持部材33の外周が、前述の第2の円周と同一の円となる。なお、支持部材33は、非磁性材料によって構成されている。
【0035】
支持部材33の外周には、円環状のリング部材32が嵌装される。リング部材32は、溝部33a、33bに永久磁石31がそれぞれ固定された支持部材33の外周に密着して嵌装される。なお、リング部材32は、非磁性材料によって構成されている。リング部材32は、永久磁石31に不純物が付着することを防止する目的で取付けられるものであり、筒状の非磁性部材に限られず、塗装やコーティング等であってもよい。
【0036】
永久磁石31−1と31−2とは、支持部材33によって分離して固定される。すなわち、永久磁石31は、内周面31a及び外周面31bの中心角が180°未満に設定される。また、永久磁石31の外周面31bは、リング部材32の内周面に密接している。
【0037】
このような構成により、磁石部30は、
図2(a)に示す白抜き矢印のような方向に磁界が発生する。すなわち、一対の永久磁石31の配置によって、特に側部31c付近では、互いに向き合う磁極によってシリンダ10の外縁に沿うような方向に磁界が発生する。この磁界は、ピストン21とシリンダ10との間の間隔に存在する磁気粘性流体に作用し、磁気粘性流体の粘度を上昇させることができる。
【0039】
磁石部30は、ピストンロッド22がシリンダ10内に最も進入したときのピストン21の位置に対応して配設される。そのため、シリンダ10内の磁気粘性流体の粘度は、軸方向の位置によって相違する。具体的には、シリンダ10内の磁気粘性流体は、磁石部30に近付くほど磁界の影響が大きくなり強磁性を有する微粒子が集まることによって粘度が高くなる。一方、シリンダ10内の磁気粘性流体は、磁石部30から離れるほど磁界の影響が小さくなって粘度が低くなる。
【0040】
そのため、ピストンロッド22がシリンダ10内に進入する方向にストロークすると、ピストン21とシリンダ10との間の間隔を通過する磁気粘性流体への磁石部30による磁界の影響が徐々に大きくなる。よって、シリンダ10内に進入する方向へのピストンロッド44のストロークに応じて、磁気粘性流体の見かけの粘度が高くなる。したがって、磁気粘性流体緩衝器100の減衰係数は、ピストンロッド22がシリンダ10内に進入するほど大きくなることとなり、ピストン21のストローク量に対して減衰係数Cを連続的に変化させることができる。
【0041】
次に、磁気粘性流体緩衝器100の作用について説明する。
【0042】
図3において、横軸は、シリンダ10に対するピストンロッド22の進入量であるストローク量S[m]であり、縦軸は、磁気粘性流体緩衝器100の減衰係数C[N・s/m]である。
図3において、直線Xは、磁気粘性流体緩衝器100の減衰係数Cを示すものであり、直線Yは、磁気粘性流体緩衝器100に磁石部30を設けずに、シリンダ10内の磁気粘性流体に磁界が作用しない場合の減衰係数Cを示すものである。
【0043】
磁石部30が設けられない場合には、シリンダ10に対してピストンロッド22が進入していっても、絞りの役割をするピストン21とシリンダ10との間の環状の間隔は、常に一定である。また、磁石部30が設けられないため、シリンダ10内の磁気粘性流体に磁界が影響せず、シリンダ10内における磁気粘性流体の粘度はピストンロッド22のストローク量にかかわらず一定である。よって、この場合の減衰係数Cは、直線Yに示すように、ストローク量Sの変化に対して常に一定の値である。
【0044】
これに対して、磁気粘性流体緩衝器100では、直線Xに示すように、シリンダ10からピストンロッド22が最も退出したストローク量がS
minの状態では、減衰係数Cは最小である。ただし、このストローク量がS
minの状態においても、シリンダ10内の磁気粘性流体には磁石部30による磁界が影響して強磁性を有する微粒子が整列しているため、磁石部30が設けられない場合と比較すると減衰係数Cは大きくなっている。
【0045】
ストローク量がS
minの状態からピストンロッド22がシリンダ10内に進入してゆくと、減衰係数Cは比例的に大きくなり、ストローク量がS
maxのときに減衰係数Cが最大となる。これは、ピストン21とシリンダ10との間の環状の間隔における磁気粘性流体の粘度が徐々に大きくなるためである。また、ピストン21が、磁界の影響が大きい磁石部30の内周側に進入し、ピストン21とシリンダ10との間の環状の間隔のうち、磁界の影響を直接的に受ける長さが徐々に大きくなるためである。
【0046】
このように、ピストンロッド22がシリンダ10内に最も進入したときのピストン21の位置に相当する位置に磁石部30を配設することによって、ピストンロッド22がシリンダ10内に進入する方向のストローク量に対して、磁気粘性流体緩衝器100の減衰係数Cを比例的に大きくすることができる。
【0047】
以上のように、本発明の第1の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0048】
シリンダ10とピストン21とは非磁性体によって形成され、シリンダ10にはシリンダ10内の磁気粘性流体に磁界を作用させる磁石部30が取り付けられる。よって、シリンダ10やピストン21が磁路を形成することはなく、シリンダ10とピストン21との間の間隔を通過する磁気粘性流体への磁界の影響は、ピストン21がストロークして磁石部30に近付くにつれて徐々に大きくなることとなる。したがって、ピストン21のストローク量に対して減衰係数Cを連続的に変化させることができる。
【0049】
また、磁気粘性流体が封入される円筒形のシリンダ10の外周形状に沿う内周形状を有するセグメント形状の一対の永久磁石31を備え、これら一対の永久磁石31の磁極が、シリンダ10の中心軸に対して互いに相反して配向するので、磁界がピストン21の外壁に沿うような方向となる。これにより、磁界を効率的に磁気粘性流体に作用させることができる。
【0051】
次に本発明の第2の実施形態を説明する。
【0052】
図4は、本発明の第2の実施形態の磁石部30の説明図である。
図4(a)は、
図1におけるA−A断面図であり、
図4(b)は、磁石部30の永久磁石31の説明図である。なお、第2の実施形態は、前述の第1の実施形態の
図1に示す基本構成は同一であり、磁石部3の構成のみが異なる。
【0053】
磁石部30は、第1の実施形態における
図2と同様に、一対の永久磁石31(31−1、31−2)と、永久磁石31を支持する支持部材33と、永久磁石31及び支持部材33の周囲に嵌装される円環状のリング部材32とから構成される。
【0054】
永久磁石31は、セグメント形状(C型)の永久磁石であり、永久磁石31−1と31−2とはシリンダ10の軸に対称に配置される。
【0055】
第2の実施形態においては、永久磁石31は、
図4(b)に示すように周方向に一組の磁極が着磁されており、周方向の一方の側部31cがN極に、他方の側部31cがS極に、それぞれ着磁される。また、永久磁石31−1と31−2とは、それぞれシリンダ10の軸の中心に対して対称に配置される。すなわち、永久磁石31−1の一方の側部31cの磁極がN極であり、これに対向する永久磁石31−2の側部31cの磁極はN極である。また、永久磁石31−1の他方の側部31cの磁極がS極であり、これに対向する永久磁石31−2の側部31cの磁極はS極である。
【0056】
このような構成により、磁石部30は、
図4(a)に示す白抜き矢印のような方向に磁界が発生する。すなわち、一対の永久磁石31の磁極の組み合わせによって、シリンダ10の外縁に沿うような方向に磁界が発生する。この磁界は、ピストン21とシリンダ10との間の間隔に存在する磁気粘性流体に満遍なく作用し、磁気粘性流体の粘度を上昇させることができる。
【0057】
特に、永久磁石31の側部31c付近では、互いに磁極が相反して配置されるので、互いに反発する方向に大きな磁界が発生し、磁気粘性流体の粘度を上昇させることができる。
【0059】
以上のように、本発明の第2の実施形態では、前述の第1の実施形態と同様に、ピストン21のストローク量に対して減衰係数Cを連続的に変化させることができる。
【0060】
また、第2の実施形態では、一対の永久磁石31の磁極を、互いに同極となるように対向させたので、側部31c付近では、相対する磁極同士で反発する強い磁界が発生する。これにより、より効率的に磁界を磁気粘性流体に作用させることができる。
【0061】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。