(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5789433
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】排熱回収器
(51)【国際特許分類】
F01N 5/02 20060101AFI20150917BHJP
F01N 13/08 20100101ALI20150917BHJP
F01N 13/14 20100101ALI20150917BHJP
【FI】
F01N5/02 B
F01N13/08 B
F01N13/14
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-148144(P2011-148144)
(22)【出願日】2011年7月4日
(65)【公開番号】特開2013-15068(P2013-15068A)
(43)【公開日】2013年1月24日
【審査請求日】2013年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004765
【氏名又は名称】カルソニックカンセイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100114236
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 史朗
(72)【発明者】
【氏名】保田 正義
(72)【発明者】
【氏名】角倉 盛義
【審査官】
今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−163899(JP,A)
【文献】
特開平08−113115(JP,A)
【文献】
特表2010−503817(JP,A)
【文献】
特開2010−229847(JP,A)
【文献】
特開2008−144595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 5/02
F01N 13/08
F01N 13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース内にエンジンの排気の熱を回収する熱交換器と前記熱交換器をバイパスするバイパス管とを並列に設け、前記ケース内に配置されるフラッパーによって前記エンジンの排気を前記熱交換器及び前記バイパス管のいずれかに選択的に流す排熱回収器であって、
前記熱交換器は、前記熱交換器に排気との熱交換用の媒体を供給する入口パイプと、前記熱交換器内の媒体を排出する出口パイプと、
前記入口パイプ及び前記出口パイプにそれぞれ接合されるとともに、前記熱交換器と前記ケースとに接合される一対のボスと、を備え、
前記熱交換器は、前記入口パイプ及び前記出口パイプのみを前記一対のボスを介してそれぞれ前記ケースと接合することによって、前記熱交換器と前記ケースとの間に断熱層を形成するように前記ケースと接合される、
ことを特徴とする排熱回収器。
【請求項2】
ケース内にエンジンの排気の熱を回収する熱交換器と前記熱交換器をバイパスするバイパス管とを並列に設け、前記ケース内に配置されるフラッパーによって前記エンジンの排気を前記熱交換器及び前記バイパス管のいずれかに選択的に流す排熱回収器であって、
前記熱交換器は、前記熱交換器に排気との熱交換用の媒体を供給する入口パイプと、前記熱交換器内の媒体を排出する出口パイプとを備え、
前記熱交換器は、前記入口パイプ及び前記出口パイプのみを前記ケースと接合することによって、前記ケースと接合され、
前記ケースの前記バイパス管を収容する部分の外周面を外気に露出させ、かつ、前記外周面にフィンを設けた、
ことを特徴とする排熱回収器。
【請求項3】
請求項2に記載の排熱回収器であって、
前記フィンには切り起こし部が形成される、
ことを特徴とする排熱回収器。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の排熱回収器であって、
前記入口パイプ及び前記出口パイプの断面が円形である、
ことを特徴とする排熱回収器。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載の排熱回収器であって、
前記熱交換器と前記バイパス管との間に断熱層が形成される、
ことを特徴とする排熱回収器。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一つに記載の排熱回収器であって、
前記バイパス管は、前記ケース内に径方向に保持され、上流側端部と下流側端部とのいずれか一か所にて前記ケースに接合されるか、又は前記上流側端部と前記下流側端部とがともに前記ケースと接合されない、
ことを特徴とする排熱回収器。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一つに記載の排熱回収器であって、
前記ケースは、内面にリブを有しており、
前記バイパス管と前記ケースとは、前記リブを介して接触する、
ことを特徴とする排熱回収器。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一つに記載の排熱回収器であって、
前記排熱回収器は、前記熱交換器が前記バイパス管よりも上になるように車両に搭載される、
ことを特徴とする排熱回収器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気から熱を回収する排熱回収器に関する。
【背景技術】
【0002】
排熱回収器(熱交換器)によってエンジンの排気から熱を回収し、回収した熱を利用してエンジンの暖機を行ったり、熱を動力に変換してエンジンの出力補助や発電機の駆動に利用したりすることで、エンジンの効率を向上させる技術が知られている。
【0003】
排熱回収器は、特許文献1に開示されるように、排気と水との間で熱交換を行う熱交換器と、熱の回収が不要の場合又は好ましくない場合に当該熱交換器をバイパスさせるバイパス管とを並列に設け、これらの上流側に排気を熱交換器及びバイパス管のいずれに流すかを選択するフラッパーを設けることによって構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−536466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示される排熱回収器においては、熱交換器とバイパス管とが、両端において接合されて、一体化されている。
【0006】
しかしながら、水によって冷却される熱交換器と600℃前後の高温の排気に晒されるバイパス管とでは、熱膨張の程度が大きく異なり、これらが両端において接合されていると、接合部において大きな熱応力が発生する。熱応力の大きさは、排熱回収器の運転状態に応じて変動するので、応力集中部において疲労が進み、排熱回収器の寿命を短くする原因となる。
【0007】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、排熱回収器内部の熱応力を減らし、排熱回収器の寿命を長くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様によれば、ケース内にエンジンの排気の熱を回収する熱交換器と前記熱交換器をバイパスするバイパス管とを並列に設け、前記ケース内に配置されるフラッパーによって前記エンジンの排気を前記熱交換器及び前記バイパス管のいずれかに選択的に流す排熱回収器であって、前記熱交換器は、前記熱交換器に排気との熱交換用の媒体を供給する入口パイプと、前記熱交換器内の媒体を排出する出口パイプと
、前記入口パイプ及び前記出口パイプとそれぞれ接合されるとともに、前記熱交換器と前記ケースとにそれぞれ接合されて前記熱交換器と前記ケースとの間に断熱層を形成する一対のボスと、を備え、
前記熱交換器は、前記入口パイプ及び前記出口パイプのみを
前記一対のボスを介してそれぞれ前記ケースと接合することによって、前記ケースと接合される、ことを特徴とする排熱回収器が提供される。
また、本発明の別の態様によれば、ケース内にエンジンの排気の熱を回収する熱交換器と前記熱交換器をバイパスするバイパス管とを並列に設け、前記ケース内に配置されるフラッパーによって前記エンジンの排気を前記熱交換器及び前記バイパス管のいずれかに選択的に流す排熱回収器であって、前記熱交換器は、前記熱交換器に排気との熱交換用の媒体を供給する入口パイプと、前記熱交換器内の媒体を排出する出口パイプとを備え、前記熱交換器は、前記入口パイプ及び前記出口パイプのみを前記ケースと接合することによって、前記ケースと接合され、前記ケースの前記バイパス管を収容する部分の外周面を外気に露出させ、かつ、前記外周面にフィンを設けた、ことを特徴とする排熱回収器が提供される。
【発明の効果】
【0009】
上記態様によれば、熱応力が発生する接合部の数が少なくなり、排熱回収器の寿命の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】排熱回収器を
図2のIII-III線で切断した横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る排熱回収器の全体構成図、
図2は、排熱回収器の縦断面図、
図3は、排熱回収器を
図2のIII-III線で切断した横断面図である。
【0013】
排熱回収器100は、ケース本体1と、ケース本体1の上流側開口に接続される上流側アダプタ2と、ケース本体1の下流側開口に接続される下流側アダプタ3と、上流側アダプタ2内に配置されるフラッパー4と、ケース本体1内に配置される熱交換器5及びバイパス管6と、を備え、ケース本体1の下側が外気に露出するよう、図示の向き(熱交換器5が上側、バイパス管6が下側となる向き)で、車両の床下に取り付けられる。
【0014】
ケース本体1は、上流側、下流側及び下側が開いた箱形の上側ケース11と、上流側、下流側及び上側が開いた断面が半円形状の下側ケース12とを組み合わせて構成される(
図3)。
【0015】
上流側アダプタ2は、上流側がフランジ21になっており、フランジ21を介してエンジンの排気管に接続される。
【0016】
フラッパー4は、上流側アダプタ2の中央に設けられる。フラッパー4の回転軸41は、排気の流れに対して直交する方向に延び、上流側アダプタ2を貫通している。回転軸41を図示しないアクチュエータで駆動することによって、フラッパー4の位置を、排気を熱交換器5に流す位置(バイパス管6の入口を閉塞する位置、以下、「回収位置」とい。)と、排気をバイパス管6に流す位置(熱交換器5の入口を閉塞する位置、以下、「バイパス位置」という。)とで切り換えることができる。
【0017】
なお、フラッパー4の初期位置(エンジンを始動させる時及びエンジンを停止させる時の位置)はバイパス位置である。
【0018】
下流側アダプタ3は、下流側がフランジ31になっており、フランジ31を介してエンジンの排気管に接続される。
【0019】
熱交換器5は、エンジンの排気を流通させる排気通路51と、エンジンの冷却水を流通させる冷却水通路52を内部に有する(
図3)。冷却水通路52には、熱交換器5の上面から上方に延びる入口パイプ53と、熱交換器5の側面から側方に延びる出口パイプ54が接続している。熱交換器5は、フラッパー4が回収位置にある場合は、排気と冷却水との間で熱交換を行わせる。
【0020】
熱交換器5は上側ケース11の内部に配置される。熱交換器5と上側ケース11とは、入口パイプ53及び出口パイプ54をボス55を介して上側ケース11に接合することによって接合される。熱交換器5と上側ケース11との接合位置はこの二箇所のみである。また、二箇所の接合位置を除き、熱交換器5と上側ケース11との間には、断熱層としての空気層が形成される。
【0021】
図4は、
図2のA部を拡大した部分拡大図である。図中ハッチング部位は溶接部位を示している。
【0022】
入口パイプ53の端部にはボス55が溶接によって接合されており、ボス55は上側ケース11と熱交換器5の上面とに溶接によって接合されており、これによって、入口パイプ53が上側ケース11に接合される。入口パイプ53及びボス55はいずれも横断面が円形であり、これら接合部における熱応力が分散され、応力集中が緩和されるようにしている。
【0023】
なお、
図4は、入口パイプ53の接合部の構造を示しているが、出口パイプ54の接合部の構造もこれと同様である。
【0024】
バイパス管6は、断面が半円形状の管である(
図3)。バイパス管6は下側ケース12の内部に配置され、バイパス管6の上流側端部が下側ケース12と溶接によって接合される。バイパス管6の下流側端部はいずれの部材とも接合されておらず、自由端となっている(
図2)。
【0025】
また、下側ケース12の内側には周方向に延びるリブ12rが形成されており(
図2)、バイパス管6と下側ケース12とはリブ12rを介して接触する。これによって、バイパス管6と下側ケース12との間には、断熱層としての空気層が形成される。
【0026】
また、バイパス管6は熱交換器5から離して配置され、両者の間には断熱層としての空気層が形成される。
【0027】
図5は、
図2のB部を拡大した部分拡大図である。
【0028】
熱交換器5とバイパス管6との隙間の最下流側にはグラスウール71が詰められている。またバイパス管6と下側ケース12との隙間の最下流側にはSUS(ステンレス)メッシュ72が詰められている。グラスウール71及びSUSメッシュ72の位置がずれないように、バイパス管6の外周には図示しないビード部が設けられている。バイパス管6の下流側端部は、グラスウール71及びSUSメッシュ72によって径方向にのみ緩やかに保持され、これによって、バイパス管6の自由な熱膨張を許容しつつ、隙間への排気の流入を抑制している。
【0029】
熱交換器5とバイパス管6との隙間にSUSメッシュ72ではなくグラスウール71を詰めているのは、バイパス管6から熱交換器5への伝熱を抑えるためである。なお、ここではバイパス管6と下側ケース12との隙間にSUSメッシュ72を詰めているが、バイパス管6と下側ケース12との隙間にもグラスウール71を詰めるようにしてもよい。
【0030】
下側ケース12の外周には、上流側から下流側にかけて延びる複数のフィン8が周方向に略等間隔に放射状に取り付けられている(
図1、
図3)。排熱回収器100は図示の向きで車両の床下に取り付けられるので、下側ケース12及び複数のフィン8は走行風に晒され、走行中は下側ケース12の熱が放熱される。
【0031】
続いて、排熱回収器100を上記の通り構成することによる作用効果について説明する。
【0032】
まず、上記実施形態は、入口パイプ53及び出口パイプ54のみを上側ケース11と接合することによって熱交換器5と上側ケース11とを接合するようにした。これによって、熱応力が発生する接合部の数が少なくなり、排熱回収器100の寿命の低下を抑えることができる。
【0033】
この構成では、上側ケース11と入口パイプ53及び出口パイプ54との接合部に熱応力が発生するが、入口パイプ53及び出口パイプ54の断面形状を円形としたことによって、熱応力を分散させることができ、接合部における強度低下を抑えることができる。
【0034】
また、上側ケース11と入口パイプ53及び出口パイプ54とを直接接合するのではなく、これらの間にボス55を介装したことによって、接合部における剛性が上がり、上側ケース11、入口パイプ53及び出口パイプ54の変形が抑えられて、接合部の強度低下をさらに抑えることができる。
【0035】
また、熱交換器5と上側ケース11及びバイパス管6との間には断熱層としての空気層が形成される。これによって、バイパス管6を流れる排気の熱が、熱交換器5に直接、又は、上側ケース11を介して伝わるのが抑えられ、フラッパー4がバイパス位置にあるにもかかわらず排気の熱がエンジンの冷却水に伝えられてしまい、エンジンがオーバーヒートするのを抑えることができる。
【0036】
また、バイパス管6は、上流側端部においてのみ下側ケース12と接合され、下流側端部を自由端とした。これによって、バイパス管6は自由に伸縮することができ、接合部における熱応力の発生を抑えることができる。なお、上記実施形態では、バイパス管6の上流側端部を下側ケース12と接合しているが、下流側端部を下側ケース12と接合し、上流側端部を自由端としてもよい。又は、上流側端部及び下流側端部の両方を自由端としてもよい。
【0037】
また、下側ケース12の内面にリブ12rを設け、バイパス管6と下側ケース12とがリブ12rを介して接触するようにした。これによって、バイパス管6から下側ケース12に伝わる熱が少なくなり、下側ケース12から上側ケース11に伝わる熱も少なくなる。したがって、この構成によれば、上側ケース11と入口パイプ53及び出口パイプ54との接合部における熱応力の発生をさらに抑えることができる。
【0038】
また、下側ケース12の外周面を外気に露出させ、かつ、外周面にフィン8を設けたことによって、下側ケース12の放熱性を高めることができる。下側ケース12の放熱性が高まれば、下側ケース12の温度が下がるので、下側ケース12から上側ケース11に伝わる熱が少なくなり、上側ケース11と入口パイプ53及び出口パイプ54との接合部における熱応力の発生をさらに抑えることができる。
【0039】
なお、上記実施形態では、フィン8は平板であるが、
図6に示すようにフィン8の表面に複数の切り起こし部81を形成し、下側ケース12の放熱性をさらに高めるようにしてもよい。
【0040】
また、排熱回収器100は、熱交換器5がバイパス管6よりも上になる向きで車両に搭載される。この配置によれば、上側ケース11が走行風に晒されないので、熱交換器5からの放熱を抑えることができ、路面から跳ね上げられた小石等が熱交換器5に当たって熱交換器が損傷するのを防止することができる。また、下側ケース12が走行風に晒され、下側ケース12の放熱性をさらに放熱性を高めることができる。
【0041】
さらに、エンジン停止時に熱交換器5内で発生する凝縮水が重力によってバイパス管6へと移動するので、熱交換器5内に凝縮水が残留することによる熱交換器5の腐食や凍結を防止することができる。
【0042】
なお、バイパス管6に移動した凝縮水は、フラッパー4の初期位置がバイパス位置であるので、排熱回収器100の作動状態に関係なく、少なくともエンジンを始動した直後又はエンジンを停止させる直前に排気とともに車外へと放出される。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例を示したものであり、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0044】
1 ケース本体(ケース)
4 フラッパー
5 熱交換器
6 バイパス管
8 フィン
11 上側ケース(ケース)
12 下側ケース(ケース)
12r リブ
53 入口パイプ
54 出口パイプ
55 ボス
81 切り起こし部
100 排熱回収器