(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5789524
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】建設機械の軸受装置
(51)【国際特許分類】
E02F 3/38 20060101AFI20150917BHJP
F16C 17/04 20060101ALI20150917BHJP
F16C 33/10 20060101ALI20150917BHJP
F16C 33/14 20060101ALI20150917BHJP
F16C 11/04 20060101ALI20150917BHJP
E02F 9/00 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
E02F3/38 B
F16C17/04 Z
F16C33/10 Z
F16C33/14 Z
F16C11/04 D
E02F9/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-6873(P2012-6873)
(22)【出願日】2012年1月17日
(65)【公開番号】特開2013-147792(P2013-147792A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】秋田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 茂行
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 暁子
(72)【発明者】
【氏名】五木田 修
【審査官】
富山 博喜
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−122235(JP,A)
【文献】
特開2009−041659(JP,A)
【文献】
特開2002−349571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 3/38
E02F 9/00
F16C 11/04
F16C 17/04
F16C 33/10
F16C 33/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体上に上部旋回体を搭載し、この上部旋回体に作業装置を取り付けた建設機械の連結部に用いる軸受装置であって、
前記軸受装置はボス部を有する第1の部材と、このボス部を左右両側から挟む左右ブラケットを有する第2の部材と、前記ボス部の内周側に保持されるブッシュと、このブッシュと前記左右ブラケット間に配置され前記ブッシュから潤滑媒体が漏れるのを防止するシール手段と、前記左右ブラケットと前記ボス部間に挿入されるスラストプレートと、前記左右ブラケットと前記ブッシュとを貫通して挿入される締結ピンを有し、
前記スラストプレートは環状の一部を切り欠いた形状とすることにより前記締結ピンを前記左右ブラケットに貫挿した後に前記締結ピンに挿入可能に形成され、且つ前記スラストプレートの前記切り欠き部の周方向角度はその内周部で180°より小さい角度に構成され、さらに前記スラストプレートには、前記切り欠き部の近傍であって内周の円弧部分から切り欠き部の曲線に移り変わる変曲点の近傍に、このスラストプレートを弾性変形可能にする孔を設けていることを特徴とする建設機械の軸受装置。
【請求項2】
下部走行体上に上部旋回体を搭載し、この上部旋回体に作業装置を取り付けた建設機械の連結部に用いる軸受装置であって、
前記軸受装置はボス部を有する第1の部材と、このボス部を左右両側から挟む左右ブラケットを有する第2の部材と、前記ボス部の内周側に保持されるブッシュと、このブッシュと前記左右ブラケット間に配置され前記ブッシュから潤滑媒体が漏れるのを防止するシール手段と、前記左右ブラケットと前記ボス部間に挿入されるスラストプレートと、前記左右ブラケットと前記ブッシュとを貫通して挿入される締結ピンを有し、
前記スラストプレートは環状の一部を切り欠いた形状とすることにより前記締結ピンを前記左右ブラケットに貫挿した後に前記締結ピンに挿入可能に形成され、且つ前記スラストプレートの前記切り欠き部の周方向角度はその内周部で180°より小さい角度に構成され、さらに前記スラストプレートには、このスラストプレートの内周面から半径方向外側に向かう少なくとも1個のスリットを形成していることを特徴とする建設機械の軸受装置。
【請求項3】
前記スラストプレートの少なくとも一方の表面に複数のディンプルを形成したことを特徴とする請求項1または2に記載の建設機械の軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建設機械に係り、特に建設機械のブームやアーム等の連結部に用いて好適な建設機械の軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の建設機械では、作業用のフロント部を構成するブームやアーム、バケット等を互いに回動可能に連結するために、軸受装置が設けられている。このフロント部に設けられる軸受装置では、典型的には、ブームやアームの一方の端部を内周側にブッシュが嵌着されたボス部材とし、これと連結されるアームやバケットの端部をブラケットとしている。そして、ボス部材の外側に左右一対のブラケットを配置し、これらを連結ピンで回動可能に連結している。
【0003】
このような軸受装置を有する従来の建設機械の連結部の例が、特許文献1に記載されている。この公報に記載の建設機械では、アームやブーム等の2部材を回動自在に連結する場合に、連結部の2部材間に形成される軸方向隙間を隙間調整板で調整している。そしてこの調整板を、弾性板と接着性を有する金属板とで構成し、調整板は屈曲のない扁平形状とし、中心部から周辺部に延びるU字状の切り欠きを形成している。さらに、切り欠き部を連結ピンに通すことにより、軸方向の隙間を調整している。
【0004】
建設機械の軸受装置の他の例が、特許文献2に記載されている。この公報に記載の軸受装置は、建設機械のアームやブーム等の連結部において、ブラケットに形成した穴とこの穴に貫挿するピンとの半径方向隙間に起因するがたつきを抑え、発生する振動を低減することを目的としている。そのため、軸受装置は、ブラケットの一部とピン間に弾性筒体を設けて弾性的に支持するとともに、弾性筒体が配置されていないブラケット部とピン間の半径方向隙間を、弾性筒体の最大弾性変形量より小さくしている。
【0005】
建設機械のピン結合部の例が、特許文献3に記載されている。この公報では、アームとバケットのピン結合部を例にとり、アームの先端側を内側にバケットのブラケットを外側にしてピンを挿入し、2部材を回動可能に結合している。その際、ピン挿入方向に生じる隙間をシム部材で調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平2−11852号公報
【特許文献2】特開2001−330024号公報
【特許文献3】特開2004−204650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の軸受装置では、左右のブラケット間にボス部材を配置してピンで連結する場合に、左右のブラケット間の間隔とボス部材の軸方向長さの差として形成される隙間を、スラストプレートやシム等の手段により調整し、隙間形成による土砂等の異物の侵入防止と振動騒音による摩擦摩耗の発生等を防止している。
【0008】
例えば、特許文献1に記載の隙間調整板を用いたピン連結部においては、隙間調整板にU字状切り欠き部を形成することにより、ブラケットおよびボス部材にピンを挿入した後に現場合わせで隙間調整板の挿入を可能にしている。しかしながら、この公報に記載の隙間調整板を使用した場合、建設現場で生じる衝撃力等により隙間調整板がピンから抜け落ちる恐れがあることにつては、十分には考慮されていない。すなわち、建設機械を長期に使用すると各部の僅かな変形により、ピン結合部においても軸方向隙間が増大することが予想される。その結果、U字状切り欠き部の周方向位置が上部に位置した場合には、重力や衝撃等の力でピンから隙間調整板が抜け落ちる恐れがある。
【0009】
また、特許文献2に記載の軸受装置では、ピンを固定するブラケット側において、ピンとブラケット間の半径方向隙間を弾性筒体で吸収するようにしているのでピンが固定され、騒音や摩擦摩耗を低減できる。しかしながら、この公報においては、ブラケットとボス部材間の軸方向隙間に関しては開示されておらず、ブラケットが軸方向に移動して騒音や摩擦摩耗の一因になる恐れがあることについては十分には考慮されていない。
【0010】
さらに特許文献3に記載のピン結合部構造では、シム部材を予め配置して組み立てることにより、ブラケットとボス部材間に形成される隙間を吸収できる。この公報に記載のピン結合部に用いるシム部材は変形可能に構成されているので、ブラケットとボス部材と共にピンを挿入して組み立てることができるという利点を有する。しかし、変形可能にするために構造が複雑となり、組み立て時の取り扱いが煩雑になり組み立てに要する工数も増加する。
【0011】
本発明は、上記従来技術の不具合に鑑みなされたものであり、建設機械のピン結合部において、簡単な構成でブラケットとボス部材間に生じる軸方向の隙間を吸収できるようにすることにある。また、本発明の他の目的は、上記隙間をブラケットとボス部材にピンを挿入してピンを固定した後に吸収できるようすることにある。すなわち、予め組み立て隙間等を計測しなくとも、簡単な構成により現場合わせで隙間を吸収できるようにして、軸受装置の組み立て作業性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成する本発明の特徴は、下部走行体上に上部旋回体を搭載し、この上部旋回体に作業装置を取り付けた建設機械の連結部に用いる軸受装置であって、前記軸受装置はボス部を有する第1の部材と、このボス部を左右両側から挟む左右ブラケットを有する第2の部材と、前記ボス部の内周側に保持されるブッシュと、このブッシュと前記左右ブラケット間に配置され前記ブッシュから潤滑媒体が漏れるのを防止するシール手段と、前記左右ブラケットと前記ボス部間に挿入されるスラストプレートと、前記左右ブラケットと前記ブッシュとを貫通して挿入される締結ピンとを有し、前記スラストプレートは環状の一部を切り欠いた形状とすることにより前記締結ピンを前記左右ブラケットに貫挿した後に前記締結ピンに挿入可能に形成されており、さらに前記スラストプレートの前記切り欠き部の周方向角度はその内周部で180°より小さい角度としたことにある。
【0013】
そしてこの特徴において、前記スラストプレートは前記切り欠き部の近傍であって内周の円弧部分から切り欠き部の曲線に移り変わる変曲点の近傍に、このスラストプレートを弾性変形可能にする孔を設けてもよく、前記スラストプレートの最小隙間部近傍に、このスラストプレートを面方向に弾性変形可能にする孔を設けてもよい。
【0014】
また、上記特徴において、前記スラストプレートの少なくとも一方の表面に複数のディンプルを形成するのが好ましく、前記スラストプレートの内周面から半径方向外側に向かう少なくとも1個のスリットを形成してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、建設機械の軸受装置において、ブラケットとボス部材間に生じる軸方向の隙間を、面方向に弾性変形可能な平板から構成したスラストプレートで吸収するようにしたので、ブラケットとボス部材をピンで結合した後であっても隙間を吸収できる。したがって、軸受装置の組み立て作業性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る建設機械の一実施例の側面図である。
【
図2】
図1に示した建設機械の軸受装置の一実施例の縦断面図である。
【
図3】
図2に示した軸受装置に用いるスラストプレートの正面図である。
【
図4】
図2に示した軸受装置に用いるスラストプレートの他の実施例の正面図である。
【
図5】
図4に示したスラストプレートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る建設機械のいくつかの実施例を、図面を用いて説明する。
図1は、本発明に係る建設機械100の一実施例の側面図である。
【0018】
建設機械100は、例えば掘削用の油圧ショベルであり、無限軌道履帯を取り付けた下部走行体1と、この下部走行体1上に旋回可能に搭載された上部旋回体2とを有している。下部走行体1と上部旋回体2の間には、上部旋回体2の旋回を制御する旋回装置が設けられている。上部旋回体2では、前部に作業者が搭乗して操作するキャブ3を、後部にはこの作業機を駆動および制御するためのエンジンや油圧ポンプが格納された機械室4が配置されている。
【0019】
上部旋回体2の前方には、俯仰動可能に作業装置5が取り付けられている。作業装置5は、基端側が上部旋回体2にピン結合されたブーム6と、このブーム6の基端側とは反対端側にこれもピン結合されたアーム8と、アーム8の先端にピン結合で取り付けられ掘削等に供するバケット等のアタッチメント10から構成される。そして、これらブーム6およびアーム8、バケット10には、それぞれブームシリンダ7、アームシリンダ9、バケットシリンダ11等の油圧アクチュエータが配設されている。
【0020】
ブームシリンダ7やアームシリンダ11を用いてブーム6やアーム8を回動するために、ブーム6の基端部と上部旋回体2間の接続部B、およびブーム6の反対端とアーム8の端部側の接続部Aやバケット10の取付け部には、軸受装置31が配設されている。
図2に、軸受装置31の詳細を、縦断面図で示す。
【0021】
図2は、
図1のA部の詳細図である。同図のB部も同様の構成になっている。ブーム6の先端部は、アーム8との接続のため、フォーク状に左右2個のブラケット17A、17Bが延びており、この左右のブラケット17A、17Bがアーム8の先端側に設けられたボス部32を挟持している。
【0022】
アーム8のボス部32をブーム6に対して回動可能に連結するため、左右のブラケット17A、17Bには貫通穴17C、17Dが形成されており、この左右の貫通穴17C、17Dに連結ピン20が貫挿されている。この連結ピン20は、アーム8も貫通しており、以下に説明するボス側ブッシュ16の内周面に摺動可能に挿入されている。この連結ピン20が左右のブラケット17A、17Bから抜け落ちるのを防止するために、一方のブラケット17Bの外側には、連結ピン20が嵌合する孔が形成されたブッシュ18が溶接により取り付けられている。
【0023】
ブッシュ18および連結ピン20では、軸方向に直角な方向に貫通する貫通穴19および抜け止め穴20aが形成されている。これらの貫通穴19および抜け止め穴20aには、ボルト14が挿入されており、ナット15によりボルト締結されている。これにより、連結ピン20はブラケット17A、17Bに対して抜け止めおよび回り止め状態で固定される。
【0024】
アーム8のボス部32はほぼ円筒状に形成されている。アーム8のボス部32の内周面は嵌合孔33Aとなっており、クロムモリブデン鋼や含油焼結金属等の硬質材料製のボス側ブッシュ16が2個嵌着されている。ボス側ブッシュ16は軸方向長さがLであり、軸方向に間隔をおいて配置されている。ボス側ブッシュ16、16間の軸方向隙間はグリース溜り34であり、図示しないグリース供給経路を経て外部からグリースが供給される。ボス側ブッシュ16の内周面は上述したように、連結ピン20との摺動面を形成する。
【0025】
ブーム6の左右のブラケット17A、17Bの対向面側とボス側ブッシュ16、16の端面間には、シール部材38が配置されている。シール部材38は、オイルシール等の接触型シールで構成されおり、オイル溜り34からボス側ブッシュ16と連結ピン20間の摺動部に回り込んだグリースがこの摺動部から外部へ流出するのを防止する。
【0026】
ここで、左右のブラケット17A、17Bの対向面間距離は、アーム8のボス部32の軸方向長さよりわずかに大きくなっており、左右のブラケット17A、17Bとボス部32間には隙間35が形成されている。つまり、連結部の組み立て性の向上とアーム8やブーム6を含む作業装置5に作用するスラスト力(連結ピン20の軸方向に作用する力)の負担のため隙間35が形成される。この隙間35には、詳細を後述する本発明の特徴であるスラストプレート36が、挿入されている。このスラストプレート36の両面とアーム8のボス部32の軸方向端面32a、32bおよび左右のブラケット17A、17Bとの間は、スラスト軸受として作用する。
【0027】
ところで従来は、ウレタンゴムやポリエチレン製のスラストプレートを円環状に形成し、アームのボス部にブッシュを収容した後に、このアームのボス部とブラケットと共に連結ピンを内部に挿入して連結するようにしていた。そのため、ブラケットとアームのボス部またはブラケットとブッシュの間に形成される軸方向隙間を調整することが困難であり、ややもすると過大な隙間により軸方向の振動や摩擦摩耗を生じていた。
【0028】
この不具合を解消するため、本発明では以下のようにスラストプレート36を構成している。すなわち、
図3ないし
図5に示すように、左右のブラケット17A、17Bの軸方向内側に配置するスラストプレート36は、円環状の素材から円周方向の一部を切り欠いた形状に形成されている。このように形成したスラストプレート36は、連結ピン20で左右のブラケット17A、17Bとアーム8のボス部32を連結した後に、ハンマー等で切り欠き部から先に押し込まれる。そのため、左右のブラケット17A、17Bおよびアーム8のボス部32の外周角部には面取り21が施されており、スラストプレート36の円滑な挿入とハンマー作業の作業性の向上が図られている。
【0029】
図3に示すスラストプレート36は、厚さtの鋼の素材を熱処理した後に、表面に窒化等の表面処理を施して形成されている。厚さtは、連結ピン20の組み立て後に形成される隙間35に応じて決定されるが、1mm程度である。スラストプレート36の内径は、連結ピン20の外径d
0よりわずかに大きな2rとなっている。また、切り欠き部24の大きさは、最小隙間部における幅Wがこのスラストプレート36の内径2rよりもわずかに小さく、さらに連結ピンの直径d
0よりも小さな幅とする。そのため、切り欠き部24を除いた全周角θは、θ>180°となる。なお、最小隙間部は、円弧から直線部に変化するので、変曲点を構成している。
【0030】
より具体的には、このスラストプレート36を連結ピン20側に挿入する際に、最小隙間部(幅W部)の角部が塑性変形せずに弾性変形の範囲内で変形する範囲とする。このような範囲とすることにより、一旦連結ピン20部にスラストプレート36を挿入した後は、たとえ軸受装置31に振動が発生しても、最小隙間部(幅W部)の角部が弾性変形から回復しボトルネックとなり、スラストプレート36が連結ピン20から脱落することを防止できる。
【0031】
上述したように、本発明で使用するスラストプレート36は、最小隙間部(幅W部)で弾性変形することが必須であるから、この最小隙間部(幅W部)の角部を弾性変形しやすくすれば効果的である。そこで、スラストプレート36の弾性変形を助長するために、最小隙間部(幅W部)の近傍に、直径dの小孔22を形成する。
【0032】
図3に示したスラストプレート36を使用した軸受装置31では、連結ピン20を左右のブラケット17A、17Bに挿入して軸受装置31を組み立てた後、スラストプレート36をハンマー作業でアーム8のボス部32と左右のブラケット17A、17B間に取り付ける。その際、スラストプレート36の最小隙間部(幅W部)が連結ピン20の直径d
0より狭いので、スラストプレート36の最小隙間部(幅W部)は一時的に拡張するように変形する。この拡張する変形は、最小隙間部(幅W部)の近傍に小孔22があるので小孔22に吸収される。連結ピン20の最大径部をスラストプレート36が通過した後は、最小隙間部(幅W部)近傍に発生した内部応力により弾性変形から回復し、元の最小隙間Wを確保する。
【0033】
なお、上記実施例では、切り欠き部24の形状を扇形とし、矩形状の切り欠きから片側で角度αだけ外径側に開く形状としている。しかしながら、切り欠き形状は扇形に限るものではなく、軸受性能を重視するような場合には矩形状であってもよい。ただし扇形の方が、ハンマー作業でスラストプレート36を挿入する際に抵抗が少なく挿入できる利点がある。また、小孔22の形状を丸孔としているが、これも丸孔に限らず長円形等であってもよい。小孔22の位置は最小隙間部(幅W部)の近傍に限られるが、このスラストプレート36を連結ピン20部に挿入する際に破壊されない距離だけ端部から離れている必要がある。実験的に得られた結果では、最小隙間部(幅W部)よりも
図3でやや上方に位置することが望ましい。
【0034】
本発明の他の実施例を、
図4(a)および
図5により説明する。本実施例が、上記実施例と異なるのは、スラストプレート36a〜36cの片面または両面に微小な窪み(ディンプル)40(40a〜40c)をほぼ均一に設けたことにある。ディンプル40の形状は球を押し付けた形状であり、図に示したように縦横規則的に配置されていてもよく、また千鳥状に配置されていてもよい。ディンプル40の直径および深さはそれぞれ2mm、0.2mm程度である。
【0035】
図5(a)は片面だけにディンプル40を形成した例であり、
図5(b)、(c)は両面に形成した例である。ただし、
図5(a)では表裏面でディンプル40の位置を変えているが、
図5(d)ではディンプル40の位置を表裏面で同じにしている。このディンプル40の加工はプレス等により、全面同時に加工可能である。ディンプル40を形成したのは、グリース溜り34から供給されるまたは予め表面に塗布されたグリースを、長期間このスラストプレート36a〜36c上に保持するためである。
【0036】
本実施例においては上記実施例の効果に加え、グリースを長期間にわたり軸受装置31が保持できるという効果がある。なお、本実施例においても、上記実施例と同様に小孔22の形状や位置、切り欠き24の形状を変更可能である。ただし、最小隙間部でスラストプレートが弾性変形することは必須である。
【0037】
本発明のさらに他の実施例を
図4(b)および
図5により説明する。本実施例が上記各実施例と異なるのは、小孔の代わりにスリット42を設けたことにある。
図4(a)に示した実施例で用いたのと同様のスラストプレート36a〜36cにおいて、切り欠き部24と反対側に幅p、長さqのスリット42を形成している。スリット42を形成したので、スラストプレート36a〜36cを連結ピン20部に挿入する際は、初めにスリット42を中心にしてスラストプレート36a〜36cの切り欠き部が拡張する。スラストプレート36a〜36cの最小隙間部が連結ピン20部を通過したら、弾性力によりスリット42が復元するように作用する。
【0038】
したがって、一旦連結ピン20部にスラストプレート36a〜36cが挿入されれば、たとえ軸受装置31に振動が発生しても、スラストプレート36a〜36cが連結ピン20から脱落するのを防止できる。本実施例においても切り欠き部24の形状やディンプル40の配置等は、
図4(a)に示した実施例と同様に変更可能である。また、スリット42の位置も変更可能であるが、対称性を保持するほうが均一な応力を発生しやすく、スラストプレート36a〜36cの破壊等を回避しやすい
以上述べた各実施例によれば、グリース溜りおよびスラストプレートの熱処理や表面処理により、潤滑性を向上させているので、従来用いられている樹脂製のスラストプレートと同程度の潤滑性が確保できる上に、軸受装置の軸方向隙間を低減して摩擦や摩耗を低減できる。また簡単な構成であるので現場合わせも容易であり、加工工数および組み立て工数を低減できる。
【0039】
なお、上記実施例では、アームとブームの結合部の軸受装置を例にとり説明したが、本発明は上記部分に限るものではなく、ブーム基部のようにピン結合している軸受装置に適用できる。また、上記実施例では油圧ショベルを例にとり説明したが、クレーン等の他の建設機械にも適用できる。
【符号の説明】
【0040】
1…下部走行体、2…上部旋回体、3…キャビン、4…機械室、5…作業装置、6…ブーム(第2の部材)、7…ブームシリンダ、8…アーム(第1の部材)、9…アームシリンダ、10…バケット、11…バケットシリンダ、14…ボルト、15…ナット、16…ボス側ブッシュ、17A、17B…ブラケット、18…ブッシュ、19…貫通穴、20…連結ピン、20a…抜け止め穴、21…面取り、22…孔、24…開口部、31…軸受装置、32…ボス部、33A…嵌合孔、34…グリース溜り、35…隙間(軸方向隙間)、36、36a〜36c…スラストプレート、38…シール部材、40、40a〜40c…ディンプル、42…スリット、100…油圧ショベル(建設機械)。