特許第5789551号(P5789551)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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5789551受信装置、ノイズフィルタでの誤差収束制御方法、プログラム、および記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5789551
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】受信装置、ノイズフィルタでの誤差収束制御方法、プログラム、および記録媒体
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/10 20060101AFI20150917BHJP
   H04B 7/005 20060101ALI20150917BHJP
   H04B 1/16 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   H04B1/10 H
   H04B7/005
   H04B1/16 Z
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-69748(P2012-69748)
(22)【出願日】2012年3月26日
(65)【公開番号】特開2013-201683(P2013-201683A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2014年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人 エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 薫
(72)【発明者】
【氏名】高谷 広徳
【審査官】 小池 堂夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−211264(JP,A)
【文献】 特開2009−212785(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/004157(WO,A1)
【文献】 特開2006−166402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/10
H04B 1/16
H04B 7/005
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放送波の受信信号および遅延させた受信信号に対してタップ係数を乗算した後に合成することにより、前記受信信号に含まれるノイズ成分を抑制するフィルタ処理部と、
前記フィルタ処理部からの出力信号の振幅と基準値との誤差成分を算出する誤差演算部と、
算出された前記誤差成分に収束係数を乗算して、前記フィルタ処理部に用いる前記タップ係数を更新するタップ係数更新部と、
前記収束係数を更新する収束係数更新部と、
を有し、
前記収束係数更新部は、
電界レベルおよびマルチパスノイズのそれぞれを軸とした二次元平面に対して複数の設定値を割り当て、前記放送波の受信信号の電界レベルおよびマルチパスノイズを前記二次元平面の2つの軸に対する各々の値として用いて前記設定値を選択する、
ことを特徴とする受信装置。
【請求項2】
複数の前記設定値は、
前記二次元平面において前記マルチパスノイズのノイズレベルが小さく且つ受信電界レベルが小さい場合に用いる最小値と、
前記二次元平面において前記最小値の場合と比べて前記マルチパスノイズのノイズレベルが大きくなった場合に相当する第1の中間値と、
前記二次元平面において前記最小値の場合と比べて前記受信電界レベルが大きくなった場合に相当する第2の中間値と、
前記二次元平面において前記第1の中間値での前記マルチパスノイズのノイズレベルおよび前記第2の中間値での前記受信電界レベルに相当する最大値と、を含み、
前記収束係数更新部は、
前記マルチパスノイズのノイズレベルが小さく且つ前記受信電界レベルが小さい場合には前記最小値を選択し、
前記マルチパスノイズのノイズレベルが大きく且つ前記受信電界レベルが小さい場合には前記第1の中間値を選択し、
前記マルチパスノイズのノイズレベルが小さく且つ前記受信電界レベルが大きい場合には前記第2の中間値を選択し、
前記マルチパスノイズのノイズレベルが大きく且つ前記受信電界レベルが大きい場合には前記最大値を選択する、
ことを特徴とする請求項1記載の受信装置。
【請求項3】
前記収束係数更新部は、
マルチパスノイズのノイズレベルおよび放送波の受信電界レベルが大きくなるにつれ、前記タップ係数の更新量が大きくなるように前記収束係数を更新する、
ことを特徴とする請求項1または2記載の受信装置。
【請求項4】
放送波の受信信号に含まれるノイズ成分を抑制するノイズフィルタでの誤差収束制御方法であって、
前記放送波の受信信号および遅延させた受信信号に対してタップ係数を乗算した後に合成するフィルタステップと、
前記フィルタステップにより処理された出力信号の振幅と基準値との誤差成分を算出するステップと、
算出された前記誤差成分に収束係数を乗算して、前記フィルタステップで用いる前記タップ係数を更新する係数更新ステップと、
を有し、
前記係数更新ステップでは、
電界レベルおよびマルチパスノイズのそれぞれを軸とした二次元平面に対して複数の設定値を割り当て、前記放送波の受信信号の電界レベルおよびマルチパスノイズを前記二次元平面の2つの軸に対する各々の値として用いて前記設定値を選択する、
ことを特徴とするノイズフィルタでの誤差収束制御方法。
【請求項5】
放送波の受信信号をデジタル変換するコンバータに接続されたコンピュータにより実行されるプログラムであって、
前記コンピュータは、
前記放送波の受信信号および遅延させた受信信号に対してタップ係数を乗算した後に合成して、前記受信信号に含まれるノイズ成分を抑制するフィルタ処理と、
前記フィルタ処理により生成された出力信号の振幅と基準値との誤差成分を算出する処理と、
算出された前記誤差成分に収束係数を乗算して、前記フィルタ処理で用いる前記タップ係数を更新する係数更新処理と、
を実行し、
前記係数更新処理では、
電界レベルおよびマルチパスノイズのそれぞれを軸とした二次元平面に対して複数の設定値を割り当て、前記放送波の受信信号の電界レベルおよびマルチパスノイズを前記二次元平面の2つの軸に対する各々の値として用いて前記設定値を選択する、
ことを特徴とするプログラム。
【請求項6】
放送波の受信信号をデジタル変換するコンバータに接続されたコンピュータにより実行されるプログラムを記録した記録媒体であって、
前記コンピュータは、
前記放送波の受信信号および遅延させた受信信号に対してタップ係数を乗算した後に合成して、前記受信信号に含まれるノイズ成分を抑制するフィルタ処理と、
前記フィルタ処理により生成された出力信号の振幅と基準値との誤差成分を算出する処理と、
算出された前記誤差成分に収束係数を乗算して、前記フィルタ処理で用いる前記タップ係数を更新する係数更新処理と、
を実行し、
前記係数更新処理では、
電界レベルおよびマルチパスノイズのそれぞれを軸とした二次元平面に対して複数の設定値を割り当て、前記放送波の受信信号の電界レベルおよびマルチパスノイズを前記二次元平面の2つの軸に対する各々の値として用いて前記設定値を選択する、
ことを特徴とするプログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信装置、ノイズフィルタでの誤差収束制御方法、プログラム、および記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチパス環境下において快適な聴取を可能にすることを目的として、近年ラジオなどの受信機に適応フィルタが用いられている(特許文献1)。
適応フィルタは、放送波により受信した受信信号および遅延させた受信信号に対してタップ係数を乗算し、これらを合成する。また、タップ係数は、合成後の受信信号に残っている誤差成分に応じた値に更新される。
この受信信号に対するフィルタ処理と、フィルタ処理後の受信信号に残る誤差成分によるタップ係数の更新処理とを繰り返すことにより、適応フィルタは、受信環境に応じたタップ係数を得て、フィルタ処理後の受信信号に含まれる誤差成分を抑制する。
これにより、適応フィルタは、たとえば車両に搭載される受信装置において、マルチパスノイズなどを除去できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4205509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1にあるような通常の適応フィルタでは、放送波の受信状態によっては、受信状態に応じたタップ係数が得られないこと又は得難いことがある。この場合、適応フィルタを用いても、放送波により受信した受信信号に含まれるノイズ成分を好適に除去できない。
たとえば放送波の受信状況がノイズなどにより常に変化するような受信環境においては、タップ係数は、その受信環境の変化に追従して変化するだけで、受信環境に応じた値に収束できないことがある。この場合、誤差成分を好適に抑制できるタップ係数が長期にわたって得られない。この追従期間ではタップ係数が適切なものとならないので、適応フィルタの合成により生成される受信信号には、比較的大きな誤差が残り続ける。
この他にもたとえば、ノイズなどによる受信環境の変化が大きい場合、タップ係数は、変化後の受信環境に応じた値に直ちに収束できない可能性がある。タップ係数が変化後の受信環境に応じた値に収束するまでの期間において、適応フィルタの合成により生成される受信信号には、誤差が残り続ける。また、受信環境の大きな変化に追従して収束できるようにタップ係数の更新量を大きくした場合、変化後の受信環境に適応した状態でも、大きな誤差が残る可能性がある。
【0005】
このように、受信装置では、受信状態の変化にかかわらず、変化した各々の受信状態において最適なタップ係数が早期に得られることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、放送波の受信信号および遅延させた受信信号に対してタップ係数を乗算した後に合成することにより、前記受信信号に含まれるノイズ成分を抑制するフィルタ処理部と、前記フィルタ処理部からの出力信号の振幅と基準値との誤差成分を算出する誤差演算部と、算出された前記誤差成分に収束係数を乗算して、前記フィルタ処理部に用いる前記タップ係数を更新するタップ係数更新部と、前記収束係数を更新する収束係数更新部と、を有し、前記収束係数更新部は、電界レベルおよびマルチパスノイズのそれぞれを軸とした二次元平面に対して複数の設定値を割り当て、前記放送波の受信信号の電界レベルおよびマルチパスノイズを前記二次元平面の2つの軸に対する各々の値として用いて前記設定値を選択する、受信装置である。
【0007】
請求項に係る発明は、放送波の受信信号に含まれるノイズ成分を抑制するノイズフィルタでの誤差収束制御方法であって、前記放送波の受信信号および遅延させた受信信号に対してタップ係数を乗算した後に合成するフィルタステップと、前記フィルタステップにより処理された出力信号の振幅と基準値との誤差成分を算出するステップと、算出された前記誤差成分に収束係数を乗算して、前記フィルタステップで用いる前記タップ係数を更新する係数更新ステップと、を有し、前記係数更新ステップでは、電界レベルおよびマルチパスノイズのそれぞれを軸とした二次元平面に対して複数の設定値を割り当て、前記放送波の受信信号の電界レベルおよびマルチパスノイズを前記二次元平面の2つの軸に対する各々の値として用いて前記設定値を選択する、ノイズフィルタでの誤差収束制御方法である。
【0008】
請求項に係る発明は、放送波の受信信号をデジタル変換するコンバータに接続されたコンピュータにより実行されるプログラムであって、前記コンピュータは、前記放送波の受信信号および遅延させた受信信号に対してタップ係数を乗算した後に合成して、前記受信信号に含まれるノイズ成分を抑制するフィルタ処理と、前記フィルタ処理により生成された出力信号の振幅と基準値との誤差成分を算出する処理と、算出された前記誤差成分に収束係数を乗算して、前記フィルタ処理で用いる前記タップ係数を更新する係数更新処理と、を実行し、前記係数更新処理では、電界レベルおよびマルチパスノイズのそれぞれを軸とした二次元平面に対して複数の設定値を割り当て、前記放送波の受信信号の電界レベルおよびマルチパスノイズを前記二次元平面の2つの軸に対する各々の値として用いて前記設定値を選択する、プログラムである。
【0009】
請求項に係る発明は、放送波の受信信号をデジタル変換するコンバータに接続されたコンピュータにより実行されるプログラムを記録した記録媒体であって、前記コンピュータは、前記放送波の受信信号および遅延させた受信信号に対してタップ係数を乗算した後に合成して、前記受信信号に含まれるノイズ成分を抑制するフィルタ処理と、前記フィルタ処理により生成された出力信号の振幅と基準値との誤差成分を算出する処理と、算出された前記誤差成分に収束係数を乗算して、前記フィルタ処理で用いる前記タップ係数を更新する係数更新処理と、を実行し、前記係数更新処理では、電界レベルおよびマルチパスノイズのそれぞれを軸とした二次元平面に対して複数の設置値を割り当て、前記放送波の受信信号の電界レベルおよびマルチパスノイズを前記二次元平面の2つの軸に対する各々の値として用いて前記設定値を選択する、プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施形態に係る車載用FM受信機の概略構成図である。
図2図2は、放送波により受信した受信信号に含まれるノイズ成分を抑制するための、従来の適応フィルタ部の概略ブロック図である。
図3図3は、本実施形態に係る、図1の適応フィルタ部の概略ブロック図である。
図4図4は、収束係数の設定値の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る受信装置について、図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る車載用FM受信機1の概略構成図である。
図1の車載用FM受信機1は、自動車などの車両に搭載される。
車載用FM受信機1は、FMラジオ放送を受信する。
【0013】
図1の車載用FM受信機1は、アンテナ11、RF(Radio Frequency)増幅部12、局部発振部13、混合部14、AD(Analog to Digital)変換部15、IF(Intermediate Frequency)増幅部16、適応フィルタ部17、FM検波部18、オーディオ処理部19、DA(Digital to Analog)変換部20、オーディオ増幅部21、スピーカ22、を有する。
【0014】
アンテナ11は、FMラジオ放送の放送帯域を受信する。アンテナ11は、たとえば車両の窓ガラス、ループトップに配置される。
アンテナ11は、RF増幅部12に接続される。
【0015】
RF増幅部12は、アンテナ11により受信される放送帯域の受信信号を増幅する。
RF増幅部12は、混合部14に接続される。
RF増幅部12は、増幅した放送帯域の受信信号を混合部14へ出力する。
【0016】
局部発振部13は、受信チャンネルに応じた周波数の局部発振信号を生成する。
局部発振部13は、PLL(Phase Locked Loop)回路を有し、基準周波数の基準信号を逓倍した局部発振信号を生成する。
局部発振部13は、混合部14に接続される。
局部発振部13は、局部発振信号を混合部14へ出力する。
【0017】
混合部14は、RF増幅部12から入力される放送帯域の受信信号と、局部発振信号とを混合する。これにより、放送帯域の受信信号は、中間周波数の受信信号へ変換される。
混合部14は、AD変換部15に接続される。
混合部14は、中間周波数の受信信号をAD変換部15へ出力する。
【0018】
AD変換部15は、中間周波数のアナログ受信信号をデジタル変換する。これにより、中間周波数のデジタル受信データが生成される。
AD変換部15は、IF増幅部16に接続される。
AD変換部15は、中間周波数のデジタル受信データを、IF増幅部16へ出力する。
【0019】
IF増幅部16は、中間周波数のデジタル受信データを増幅する。
IF増幅部16は、適応フィルタ部17に接続される。
IF増幅部16は、増幅した中間周波数のデジタル受信データを、適応フィルタ部17へ出力する。
【0020】
適応フィルタ部17は、電波により受信した受信信号に含まれるノイズ成分を除去する。
適応フィルタ部17には、電波により受信した受信信号として、増幅された中間周波数のデジタル受信データが入力される。
適応フィルタ部17は、中間周波数のデジタル受信データをフィルタ処理する。
適応フィルタ部17は、FM検波部18に接続される。
適応フィルタ部17は、フィルタ処理後の中間周波数のデジタル受信データを、FM検波部18へ出力する。
【0021】
FM検波部18は、受信チャンネルの信号を検出する。
FM検波部18は、フィルタ処理後の中間周波数のデジタル受信データを処理する。
FM検波部18は、オーディオ処理部19に接続される。
FM検波部18は、検波した信号成分によるデジタル受信データを、オーディオ処理部19へ出力する。
【0022】
オーディオ処理部19は、検波された信号成分によるデジタル受信データから、放送波に重畳された音声データを生成する。
オーディオ処理部19は、DA変換部20に接続される。
オーディオ処理部19は、音声データを、DA変換部20へ出力する。
【0023】
DA変換部20は、デジタルの音声データを、アナログの音声信号へ変換する。
DA変換部20は、オーディオ増幅部21に接続される。
DA変換部20は、音声信号を、オーディオ増幅部21へ出力する。
【0024】
オーディオ増幅部21は、アナログの音声信号を増幅する。
オーディオ増幅部21は、スピーカ22に接続される。
オーディオ増幅部21は、増幅したアナログの音声信号を、スピーカ22へ出力する。
【0025】
スピーカ22は、音声などのエンベロープ信号により駆動される。
スピーカ22は、入力される音声信号により駆動される。スピーカ22は、音声信号に対応する音声を出力する。
【0026】
また、図1において、AD変換部15、IF増幅部16、適応フィルタ部17、FM検波部18、オーディオ処理部19、DA変換部20は、受信信号から音声信号を生成するバックエンド用のマイクロコンピュータ31に実現される。マイクロコンピュータ31は、AD変換部15、DA変換部20、CPU(Central Processing Unit)32、メモリを有する。AD変換部15、DA変換部20、CPU32、およびメモリは、内部バスにより接続される。
【0027】
メモリは、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などで構成される。
メモリは、プログラムを記憶する。
なお、メモリに記憶されるプログラムは、車載用FM受信機1の出荷前に書き込まれたものでも、出荷後に書き込まれたものでもよい。出荷後にメモリに書き込まれるプログラムは、たとえばCD−ROM(Compact Disc - Read Only Memory)などの記録媒体に記録されていたもので上書きしたものでも、インターネットなどの通信ネットワークを通じてサーバ装置からダウンロードしたものでもよい。
【0028】
CPU32は、メモリに記憶されているプログラムを実行する。これにより、マイクロコンピュータ31には、IF増幅部16、適応フィルタ部17、FM検波部18、オーディオ処理部19、が実現される。
【0029】
次に、図1の車載用FM受信機1の動作を説明する。
FMラジオ放送を受信する場合、局部発振部13は、受信チャンネルに応じた周波数の局部発振信号を出力する。混合部14は、局部発振信号と、電波により受信された放送帯域の受信信号とを混合し、受信チャンネルに対応する中間周波数の受信信号を生成する。
そして、中間周波数の受信信号は、AD変換部15によりデジタル変化され、IF増幅部16により増幅され、適応フィルタ部17によりフィルタ処理され、FM検波部18により検波される。
オーディオ処理部19は、検波された中間周波数の受信信号から、受信チャンネルの音声データを生成する。音声データは、DA変換部20により、アナログの音声信号へ変換される。アナログの音声信号は、オーディオ増幅部21により増幅され、スピーカ22から出力される。
これにより、車両に乗車している視聴者は、FMラジオ放送の放送番組の音声を聞くことができる。
【0030】
ところで、このFMラジオ放送の受信処理において、適応フィルタ部は、電波により受信した受信信号から、主にマルチパスノイズを除去するために利用される。
図2は、放送波により受信した受信信号に含まれるノイズ成分を抑制するための、従来の適応フィルタ部40の概略ブロック図である。
図2の適応フィルタ部40は、CMA(Constant Modulus Algorithm)方式による適応フィルタである。
図2の適応フィルタ部40は、複数の遅延部41、複数のタップ演算部42、合成部43、包絡線検出部44、基準値記憶部45、誤差演算部46、タップ係数更新部47を有する。
【0031】
遅延部41は、適応フィルタ部40へ入力される受信データを遅延させる。
n個の受信データを合成する場合、遅延部41の個数は、「n−1」個になる。nは自然数である。
複数の遅延部41は、適応フィルタ部40に入力される受信データを順次遅延するように、シリアル接続される。適応フィルタ部40に入力される受信データは、シリアル接続の1番目の遅延部41により遅延される。1番目の遅延部41により遅延された受信データは、シリアル接続の2番目の遅延部41により遅延される。2番目の遅延部41から出力される受信データは、適応フィルタ部40に入力されている受信データに対し、2つ前の受信データである。そして、「n−1」番目の遅延部41は、「n−1」個前の受信データを出力する。
【0032】
タップ演算部42は、適応フィルタ部40に入力される受信データまたは遅延部41により遅延された受信データに、タップ係数を乗算する。
タップ係数は、たとえばマルチパスノイズを抑制する値とされる。
n個の受信データを合成する場合、タップ演算部42の個数は、n個になる。複数のタップ演算部42のタップ係数は、互いに独立した異なる値である。
n個のタップ演算部42は、適応フィルタ部40に入力された複数の受信データにタップ係数を乗算する。これにより、タップ係数により重み付けされたn個の受信データが生成される。
【0033】
合成部43は、複数のタップ演算部42により演算されたn個の重み付けデータを加算して合成する。
これにより、フィルタ処理された受信信号に対応する受信データが生成される。
【0034】
包絡線検出部44は、フィルタ処理後の受信データから、受信信号の包絡線を予測して検出する。
包絡線検出部44は、たとえば受信データが実数の場合、複数のフィルタ処理後の受信データの値に基づいて、フィルタ処理後の受信信号の包絡線を予測することができる。受信データが複素数の場合は、直ちに包絡線を算出することが可能である。
【0035】
FMラジオ放送での放送波は、一般的に、一定の振幅の搬送波を放送データで周波数変調したものである。この場合、放送波の包絡線は、一定の振幅になる。
基準値記憶部45は、たとえばこの放送波の包絡線を示す一定の振幅を、基準値として記憶する。
基準値記憶部45は、たとえばマイクロコンピュータ31のメモリに実現される。
【0036】
誤差演算部46は、包絡線検出部44により検出されたフィルタ処理後の受信信号の包絡線についての、包絡線の基準値に対する誤差を演算する。誤差演算部46は、受信データにより算出した包絡線から、基準値データを減算し、受信信号に含まれる包絡線の誤差成分を演算する。
【0037】
タップ係数更新部47は、フィルタ処理後の受信データに残っている誤差成分に、収束係数を乗算する。タップ係数更新部47は、誤差演算部46により演算された誤差成分に、収束係数を乗算する。
複数のタップ演算部42で用いる複数のタップ係数は、タップ係数更新部47により更新される。
【0038】
そして、図2の適応フィルタ部40は、入力される受信データに対するフィルタ処理と、フィルタ処理後の受信データに残る誤差成分によるタップ係数の更新処理とを繰り返すことにより、受信環境に応じたタップ係数を得ることができる。
また、受信環境に応じたタップ係数を用いることにより、フィルタ処理後の受信データに含まれる誤差成分を好適に抑制できる。
その結果、図2の適応フィルタ部40は、たとえば車両に搭載される車載用FM受信機1において、マルチパスノイズなどを除去できる。
【0039】
しかしながら、図2にあるような一般的な適応フィルタ部40では、電波による受信信号の受信状態によっては、受信状態に応じたタップ係数が得られないこと、または、得難いことがある。
この場合、適応フィルタ部40を用いても、電波により受信した受信信号に含まれるマルチパスノイズなどを除去できない。
【0040】
たとえば受信電波の受信状況が車両の走行またはマルチパスノイズなどにより常に変化するような受信環境においては、タップ係数は、その受信環境の変化に追従して変化するだけで、受信環境に応じた値に収束しないことがある。
この場合、誤差成分を好適に抑制できるタップ係数が長期にわたって得られない。この追従期間ではタップ係数が適切なものとならないので、適応フィルタの合成により生成される受信信号には、比較的大きな誤差が残り続ける。
【0041】
この他にもたとえば、ノイズなどによる受信環境の変化が大きい場合、タップ係数は、変化後の受信環境に応じた値に直ちに収束できない可能性がある。
この場合、タップ係数が変化後の受信環境に応じた値に収束するまでの期間において、適応フィルタの合成により生成される受信信号には、誤差が残り続ける。また、受信環境の大きな変化に追従して収束できるようにタップ係数の更新量を大きくした場合、変化後の受信環境に適応した状態でも、大きな誤差が残る可能性がある。
【0042】
そこで、本実施形態では、受信状態の変化にかかわらず、変化した各々の受信状態において、可能な限り最適なタップ係数が早期に得られるようにする。
【0043】
図3は、本実施形態に係る、図1の適応フィルタ部17の概略ブロック図である。
図3の適応フィルタ部17は、マルチパスノイズ強度検出部51、電界レベル検出部52、収束係数更新部53、タップ係数更新部54、複数の遅延部41、複数のタップ演算部42、合成部43、包絡線検出部44、基準値記憶部45、誤差演算部46、を有する。
【0044】
マルチパスノイズ強度検出部51は、電波により受信した受信信号に含まれるマルチパスノイズのノイズレベルを検出する。
たとえば、マルチパスノイズ強度検出部51は、適応フィルタ部17に入力される複数の受信データによる包絡線を、放送電波の包絡線と比較する。そして、放送電波の包絡線に対する誤差に応じた値の検出値を生成する。
【0045】
電界レベル検出部52は、電波の受信電界レベルを検出する。
たとえば、電界レベル検出部52は、電波により受信した受信信号の信号レベルを検出する。そして、受信信号の信号レベルに応じた検出値を生成する。
【0046】
タップ係数更新部54は、たとえば下記式1により、タップ係数を更新する。
式1において、Km(t+1)は、次のタップ演算で用いるタップ係数である。Km(t)は、現在のタップ係数である。Err(t)は、フィルタ処理後の受信データに含まれる誤差成分である。Pm(t)は、包絡線の基準値である。αは、収束係数である。
【0047】
Km(t+1)=Km(t)−α×Err(t)×Pm(t) ・・・式1
【0048】
収束係数更新部53は、タップ係数更新部54において誤差成分に乗算される収束係数を、受信状態に応じて更新する。
すなわち、式1のαは、図2の従来の適応フィルタ部17では、0から1の間の任意の固定値である。これに対し、本実施形態では、αは、0から1の間の任意の値に適宜変更される。
【0049】
収束係数とは、誤差を収束させる速度、収束状態での許容残差を規定するものである。
そして、小さい収束係数では、誤差成分が減り難くなるが、収束状態での許容残差を小さくできる。
また、大きい収束係数では、誤差成分が減り易くなるが、収束状態での許容残差が大きくなる。
【0050】
図4は、収束係数の設定値の説明図である。
図4の横軸は、電界レベルである。縦軸は、マルチパスノイズである。
図4の設定値は、収束係数を、電界レベルおよびマルチパスノイズに応じて更新する例である。
図4は、設定値の相対的な傾向を示している。
【0051】
そして、収束係数更新部53は、図4に基づく複数の設定値の設定テーブルを記憶する。
収束係数更新部53は、マルチパスノイズ強度検出部51により検出されたマルチパスノイズのノイズレベルの大きさと、電界レベル検出部52により検出された電界レベルの大きさとに基づいて、図4に基づく複数の設定値の中から、それらに応じた値の収束係数を選択し、タップ係数更新部54に設定する。
たとえば、マルチパスノイズのノイズレベルが小さく、かつ、電波の受信電界レベルが小さい場合、最小値の収束係数を設定する。
マルチパスノイズのノイズレベルが大きく、かつ、電波の受信電界レベルが小さい場合、第1の中間値の収束係数を設定する。
マルチパスノイズのノイズレベルが小さく、かつ、電波の受信電界レベルが大きい場合、第2の中間値の収束係数を設定する。
マルチパスノイズのノイズレベルが大きく、かつ、電波の受信電界レベルが大きい場合、最大値の収束係数を設定する。
このように、収束係数更新部53は、マルチパスノイズのノイズレベルおよび電波の受信電界レベルが大きくなるにつれ、タップ係数の更新量が大きくなるように収束係数を更新する。
なお、収束係数更新部53は、最小値、第1の中間値、第2の中間値、最大値以外の設定値を設定してもよい。第1の中間値と第2の中間値とは、同一でも、異なっていてもよい。
【0052】
図3の適応フィルタ部17について、上述した以外の構成は、図2のものと同じ機能を発揮するものであり、図2と同対の符号を付して、説明を省略する。
【0053】
次に、図3の適応フィルタ部17の動作について説明する。
FMラジオ放送を受信する場合、適応フィルタ部17には、AD変換部15によりデジタル変化され、IF増幅部16により増幅された中間周波数の受信信号が入力される。
【0054】
適応フィルタ部17は、入力された受信データを、シリアル接続された複数の遅延部41により受信遅延する。
複数のタップ演算部42の中の、入力側のタップ演算部42は、適応フィルタ部17に入力された受信データに、タップ係数を乗算する。残りのタップ演算部42も、複数の遅延部41により遅延された受信データに、タップ係数を乗算する。
合成部43は、複数のタップ演算部42により演算された複数の重み付けデータを加算して合成する。
これにより、フィルタ処理された受信信号についての受信データが生成される。
適応フィルタ部17は、生成した受信データを、FM検波部18へ出力する。
オーディオ処理部19は、FM検波部18により検波された中間周波数の受信データから、受信チャンネルの音声データを生成する。音声データは、DA変換部20によりアナログの音声信号へ変換され、スピーカ22から出力される。
これにより、車両に乗車している視聴者は、FMラジオ放送の放送番組の音声を聞くことができる。
【0055】
また、適応フィルタ部17においてフィルタ処理された受信データが生成されると、包絡線検出部44が受信信号の包絡線を計算し、誤差演算部46が、包絡線の誤差を演算する。
タップ係数更新部54は、演算された受信信号の誤差成分に、収束係数を乗算し、複数のタップ係数を更新する。
複数のタップ演算部42は、更新されたタップ係数を用いて、適応フィルタ部17に次に入力される受信データに対するフィルタ処理を演算する。
このように、フィルタ処理後の受信データに残る誤差成分によりタップ係数を更新することにより、本実施形態の適応フィルタ部17は、受信環境などが安定している場合、その環境に応じたタップ係数を得て、フィルタ処理後の受信データに残る誤差成分を除去できる。
【0056】
たとえば、マルチパスノイズのノイズレベルが大きくなると、収束係数更新部53は、収束係数を大きな値へ更新する。タップ係数更新部54は、更新された収束係数を乗算し、タップ係数を大きく更新する。タップ演算部42は、更新されたタップ係数を用いて、適応フィルタ部17に次に入力される受信データに対するフィルタ処理を演算する。
このようにマルチパスノイズのノイズレベルが大きくなると、フィルタ処理後の残差成分が高い割合でタップ係数に反映される。その結果、マルチパスノイズが大きくなるように変動した場合でも、それに追従してフィルタ処理での誤差成分の除去能力を上げることができる。フィルタの追従速度を速くして、大きなレベルのマルチパスノイズを早期に除去できる。
【0057】
たとえば、受信電界が小さくなると、収束係数更新部53は、収束係数を小さな値へ更新する。タップ係数更新部54は、更新された収束係数を乗算し、タップ係数を細かく更新する。タップ演算部42は、更新されたタップ係数を用いて、適応フィルタ部17に次に入力される受信データに対するフィルタ処理を演算する。
このように受信電界が小さくなると、細かい割合でタップ係数が更新される。その結果、受信電界が小さくなるように変動した場合でも、それに追従してフィルタ処理での誤差成分の除去能力を上げることができる。受信電界が小さい場合でも、収束精度を高くして、マルチパスノイズを好適に除去できる。
また、電界が弱い場合などでは、定常的に受信信号がひずみやすい。この場合、フィルタの追従速度が速いと、フィルタがノイズに頻雑に反応してしまう。追従速度が遅くなることにより、このようなノイズに対して反応しなくなり、最適なタップ係数に収束させることができる。
【0058】
以上のように、本実施形態では、適応フィルタ部17に収束係数更新部53を設け、タップ係数更新部54がタップ係数の演算に使用する収束係数を、受信信号の受信状態に応じて更新する。
よって、タップ係数の収束速度と、収束した状態での精度とは、すなわち収束の仕方は、受信信号の受信状態に応じて更新される。受信状態に応じた収束の仕方でタップ係数が収束することにより、誤差成分の収束の仕方も、受信状態の変化に応じたものになる。
その結果、適応フィルタ部17は、受信状態の変化にかかわらず、変化した各々の受信状態において最適なタップ係数を早期に得ることが可能になる。また、その早期に得られる最適なタップ係数を用いて、電波により受信した受信信号に残る誤差成分を早期に且つ小さく抑えることができる。
たとえば、マルチパスノイズのノイズレベルが大きい場合、収束係数を大きくして、追従速度を上げ、大きなノイズを早期に減衰させることができる。
また、マルチパスノイズのノイズレベルが小さい場合、または弱電界の場合、収束係数を小さくして、追従速度より追従精度を優先し、収束状態でのノイズ除去能力を向上できる。
【0059】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【0060】
たとえば上記実施形態では、収束係数更新部53は、マルチパスノイズのノイズレベル、および電界レベルに応じて、収束係数を更新する。
この他にもたとえば、収束係数更新部53は、マルチパスノイズのノイズレベル、または電界レベルに応じて、収束係数を更新してよい。
また、収束係数更新部53は、隣接局の有無、またはノイズレベルに応じて、収束係数を更新してよい。
隣接局がある場合、受信信号には、隣接局の信号成分が大きなノイズとして含まれ易い。このような場合には、収束係数を大きくして、隣接局の信号成分を早期に除去できる。
また、ノイズレベルが高い場合、収束係数を大きくし、ノイズレベルが低い場合、収束係数を小さくすればよい。これにより、大きなノイズを早期に除去し、小さく残ったノイズを精度良く除去できる。
【0061】
上記実施形態では、誤差演算部46は、包絡線検出部44により検出されたフィルタ処理後の受信信号の包絡線についての、包絡線の基準値に対する誤差を演算する。
この他にもたとえば、誤差演算部46は、放送波の包絡線ではなく、受信された放送信号の包絡線を基準として、誤差を演算してよい。この場合、AM(Amplitude Modulation)変調された放送波についても、マルチパスノイズを除去できる。
【0062】
上記実施形態の受信装置は、FMラジオ放送を受信する車載用FM受信機1である。
この他にもたとえば、受信装置は、AMラジオ放送、テレビジョン放送、通信ネットワークによるコンテンツデータなどの配信を受信するものでもよい。また、受信機能を有するナビゲーション装置、コンピュータ装置などの電子機器でもよい。
これらの受信装置においても、適応フィルタ部17を用いることにより、ノイズ成分を除去できる。
また、受信装置は、車載のものに限られず、一般家庭などに固定設置される受信装置でも、レシーバ、携帯電話機、多機能携帯端末などの携帯型の受信装置でもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 車載用FM受信機(受信装置)
17 適応フィルタ部
41 遅延部(フィルタ処理部)
42 タップ演算部(フィルタ処理部)
43 合成部(フィルタ処理部)
46 誤差演算部
53 収束係数更新部
54 タップ係数更新部
図1
図2
図3
図4