特許第5789573号(P5789573)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5789573
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】ノイズ低減用巻線素子
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20150917BHJP
   H01F 37/00 20060101ALI20150917BHJP
   H01F 27/24 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   H01F17/04 F
   H01F17/04 A
   H01F37/00 N
   H01F37/00 A
   H01F27/24 J
【請求項の数】7
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2012-184175(P2012-184175)
(22)【出願日】2012年8月23日
(65)【公開番号】特開2014-41962(P2014-41962A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2014年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】一原 主税
(72)【発明者】
【氏名】井上 憲一
(72)【発明者】
【氏名】財津 享司
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩司
【審査官】 井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−082489(JP,A)
【文献】 特開平06−013244(JP,A)
【文献】 特開2012−069896(JP,A)
【文献】 特開2008−186990(JP,A)
【文献】 特開2004−207552(JP,A)
【文献】 特開2008−218724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/04
H01F 27/24
H01F 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のノイズを低減するためのノイズ低減用巻線素子であって、
帯状の導体部材を、該導体部材の幅方向が該コイルの軸方向に沿うように巻回することによって構成されたコイルと、
前記コイルによって生じた磁束を通すとともに、前記コイルを収納する磁性コアと、
前記軸方向における前記コイルの両端面をそれぞれ覆うように配置される磁性板部材とを備え、
前記磁性コアは、第1透磁率であって第1飽和磁束密度である第1磁性材料から形成され、
前記磁性板部材は、前記第1透磁率よりも高い第2透磁率であって前記第1飽和磁束密度よりも低い第2飽和磁束密度である第2磁性材料から形成されること
を特徴とするノイズ低減用巻線素子。
【請求項2】
前記コイルの内周面に配置され、前記第2磁性材料から形成された第1磁性円筒部材をさらに備えること
を特徴とする請求項1に記載のノイズ低減用巻線素子。
【請求項3】
前記コイルの外周面に配置され、前記第2磁性材料から形成された第2磁性円筒部材をさらに備えること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載のノイズ低減用巻線素子。
【請求項4】
前記第1磁性材料は、鉄粉と樹脂とを混合した圧粉コア用材料であること
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のノイズ低減用巻線素子。
【請求項5】
前記第2磁性材料は、フェライトであること
を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のノイズ低減用巻線素子。
【請求項6】
前記第1磁性材料は、前記第1透磁率が500以下であって、前記第1飽和磁束密度が1T以上である材料であり、
前記第2磁性材料は、前記第2透磁率が1000以上であって、前記第2飽和磁束密度が0.5T以下である材料であること
を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のノイズ低減用巻線素子。
【請求項7】
前記コイルは、ダブルパンケーキ構造であること
を特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のノイズ低減用巻線素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のノイズを低減するために、特に高周波ノイズを好適に低減するために用いられるノイズ低減用巻線素子に関する。
【背景技術】
【0002】
PWM(pulse width modulation)制御によってモータ(電動機)を駆動するモータ駆動システムは、3相交流電圧を直流電圧に整流するAC−DCコンバータと、前記AC−DCコンバータから出力された直流電力をスイッチング素子のスイッチング動作によってパルス幅変調するPWMインバータとを備え、所望の電圧および周波数を持つようにパルス幅変調された電力をPWMインバータからモータへ供給する。このようなモータ駆動システムでは、前記PWMインバータにおけるスイッチング素子のスイッチング動作によって、モータの中性線(Y結線の中立点)における電圧がゼロにならないため、いわゆるコモンモード電圧Vinvが発生する。
【0003】
また、このコモンモード電圧は、他の種々の原因によっても生じる。例えば、モータがコギングまたはトルクリップルの大きなモータ(ロータ−ステータ構造のモータ)である場合や、UVWの各相に対応するモータの各巻線に個体差(バラツキ)がある場合、ステータおよびヨークコアに幾何学的な不完全性がある場合、回生動作等の回転負荷が位相に対して急変化する場合、および、インバータとモータとの間のケーブル(接地ライン含む)に、磁気的に誘導される工場の電磁ノイズが生じている場合等にも、コモンモード電圧は、発生する。
【0004】
このコモンモード電圧は、伝導ノイズとなる高周波漏れ電流や、インバータでモータを駆動する際における軸電圧の原因となる。このため、コモンモード電圧を低減(除去を含む)するために、様々な対策が検討されている。この対策の1つに、コモンモードチョークコイルとコンデンサとを組み合わせたコモンモードフィルタがある(例えば特許文献1参照)。
【0005】
このコモンモードフィルタのコモンモードチョークコイルは、磁性材料から形成されたコアに3相の巻線を、極性と巻数とが等しくなるように巻いたものである。あるいは、前記コモンモードチョークコイルは、3相の巻線を挿通した1または複数のコアである。このコモンモードチョークコイルは、ノーマルモードに対し、3相の電流による起磁力が相殺されるためインダクタンスが零となる一方、コモンモードに対し、大きなリアクトルとして動作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−246391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、コモンモードチョークコイルの磁束密度が飽和磁束密度を越えてしまうと、インダクタンスが激減し、コモンモードフィルタとして機能しない。ここで、インバータのキャリア周期をTiとし、直流電流をEdとし、そして、巻数をNとする場合に、コモンモード電圧Vinvが全てコモンモードチョークに印加される場合における鎖交磁束φinvは、「φinv=(Ed・Ti)/(8N)」となる。
【0008】
装置の高パワー化および短スイッチング周期化という世の中の趨勢によって、直流電圧Edが高くなり、あるいは、スイッチング周期が短くなり(スイッチング周波数が高くなり)、その結果、鎖交磁束φinvは、大きくなる。このため、コモンモードチョークは、磁気飽和し易い。一方、コモンモードチョークコイルが磁気飽和しないように、磁束密度を小さくするためには、コモンモードチョークコイルのコア断面積Sを大きくする、および/または、巻数Nを多くする必要がある。この結果、コモンモードチョークコイルが大型化および重量化してしまう。
【0009】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、高パワー化および短スイッチング周期化に対応した、より小型であってより軽量化したノイズ低減用巻線素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかるノイズ低減用巻線素子は、所定のノイズを低減するためのノイズ低減用巻線素子であって、帯状の導体部材を、該導体部材の幅方向が該コイルの軸方向に沿うように巻回することによって構成されたコイルと、前記コイルによって生じた磁束を通すとともに、前記コイルを収納する磁性コアと、前記軸方向における前記コイルの両端面をそれぞれ覆うように配置される磁性板部材とを備え、前記磁性コアは、第1透磁率であって第1飽和磁束密度である第1磁性材料から形成され、前記磁性板部材は、前記第1透磁率よりも高い第2透磁率であって前記第1飽和磁束密度よりも低い第2飽和磁束密度である第2磁性材料から形成されることを特徴とする。
【0011】
このようなノイズ低減用巻線素子では、ノイズを低減するために、第2磁性材料の磁性板部材が主に機能する一方、第2磁性材料の磁性板部材が磁気飽和すると、第1磁性材料の磁性コアがノイズを低減するように機能する。このため、このようなノイズ低減用巻線素子は、高パワー化および短スイッチング周期化(高スイッチング周波数化)に対応することができ、さらに、より小型化およびより軽量化を実現することができる。
【0012】
また、他の一態様では、上述のノイズ低減用巻線素子において、前記コイルの内周面に配置され、前記第2磁性材料から形成された第1磁性円筒部材をさらに備えることを特徴とする。
【0013】
このようなノイズ低減用巻線素子は、比較的小さな電流に対して第1磁性円筒部材が機能することで、比較的小さな電流に対してもノイズをより低減することができる。
【0014】
また、他の一態様では、これら上述のノイズ低減用巻線素子において、前記コイルの外周面に配置され、前記第2磁性材料から形成された第2磁性円筒部材をさらに備えることを特徴とする。
【0015】
このようなノイズ低減用巻線素子は、比較的小さな電流に対して第2磁性円筒部材が機能することで、比較的小さな電流に対してもノイズをより低減することができる。
【0016】
また、他の一態様では、これら上述のノイズ低減用巻線素子において、前記第1磁性材料は、鉄粉と樹脂とを混合した圧粉コア用材料であることを特徴とする。また、他の一態様では、これら上述のノイズ低減用巻線素子において、前記第2磁性材料は、フェライトであることを特徴とする。また、他の一態様では、これら上述のノイズ低減用巻線素子において、前記第1磁性材料は、前記第1透磁率が500以下であって、前記第1飽和磁束密度が1T以上である材料であり、前記第2磁性材料は、前記第2透磁率が1000以上であって、前記第2飽和磁束密度が0.5T以下である材料であることを特徴とする。
【0017】
このようなノイズ低減用巻線素子では、第1磁性材料や第2磁性材料が比較的容易に提供される。
【0018】
また、他の一態様では、これら上述のノイズ低減用巻線素子において、前記コイルは、ダブルパンケーキ構造であることを特徴とする。
【0019】
このようなノイズ低減用巻線素子は、コイルの巻始め端と巻き終わり端とを容易にコイルの外周へ引き出すことができ、コイルに対する配線が容易となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかるノイズ低減用巻線素子は、高パワー化および短スイッチング周期化(高スイッチング周波数化)に対応することができ、さらに、より小型化およびより軽量化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態におけるノイズ低減用巻線素子の概略構成を示す縦断面図である。
図2】第1実施形態のノイズ低減巻線素子に用いられる圧粉材料およびフェライト材料の各B−μ特性を示す図である。
図3】第1実施形態におけるノイズ低減用巻線素子の製造方法を示す図である。
図4】第1実施形態におけるノイズ低減用巻線素子の作用を説明するための図である。
図5】第1実施形態におけるノイズ低減用巻線素子の等価回路を示す図である。
図6】第1実施形態におけるノイズ低減用巻線素子のフィルタ作用を説明するための図(その1)である。
図7】第1実施形態におけるノイズ低減用巻線素子のフィルタ作用を説明するための図(その2)である。
図8】ノーマルモードの磁力線を示す図である。
図9】第1実施形態のノイズ低減用巻線素子に対する磁場解析結果を示す磁力線図である。
図10】相対的に小さい30Aの電流を通電した場合における、第1実施形態のノイズ低減用巻線素子に対するコモンモードの磁場解析結果を示す磁束密度等高線図である。
図11】相対的に大きい120Aの電流を通電した場合における、第1実施形態のノイズ低減用巻線素子に対するコモンモードの磁場解析結果を示す磁束密度等高線図である。
図12】相対的に小さい30Aの電流を通電した場合における、比較例のノイズ低減用巻線素子に対するコモンモードの磁場解析結果を示す磁束密度等高線図である。
図13】相対的に大きい120Aの電流を通電した場合における、比較例のノイズ低減用巻線素子に対するコモンモードの磁場解析結果を示す磁束密度等高線図である。
図14】第1実施形態におけるノイズ低減用巻線素子のインダクタンス特性を示す図である。
図15】実施形態のノイズ低減用巻線素子を用いたパワーコントロール装置の電気的な構成を示す回路図である。
図16】第2実施形態におけるノイズ低減用巻線素子の概略構成を示す縦断面図である。
図17】第3実施形態におけるノイズ低減用巻線素子の概略構成を示す縦断面図である。
図18】第4実施形態におけるノイズ低減用巻線素子の製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明にかかる実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。また、本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0023】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態におけるノイズ低減用巻線素子の構成について説明する。図1は、第1実施形態におけるノイズ低減用巻線素子の概略構成を示す縦断面図である。図2は、第1実施形態のノイズ低減巻線素子に用いられる圧粉材料およびフェライト材料の各B−μ特性を示す図である。図2の横軸は、T単位で表す磁束密度であり、その縦軸は、比透磁率である。図3は、第1実施形態におけるノイズ低減用巻線素子の製造方法を示す図である。
【0024】
本実施形態のノイズ低減用巻線素子は、所定のノイズを低減するために用いられ、特に高周波ノイズを好適に低減するために用いられる。本実施形態のノイズ低減用巻線素子は、後述するように、いわゆるコモンモードノイズを主に低減または除去することができるが、いわゆるノーマルモードノイズに対しても効果があり、低減することができる。
【0025】
このような本実施形態のノイズ低減用巻線素子1aは、例えば、図1に示すように、コイル11と、磁性コア12と、磁性板部材13とを備えている。
【0026】
コイル11は、帯状の長尺な導体部材を、該導体部材の幅方向がコイル11の軸方向に沿うように絶縁部材(図略)を挟んで巻回することによって構成される(フラットワイズ巻線構造)。このような帯状の長尺な導体部材は、シート形状、リボン形状あるいはテープ形状であり、幅(幅方向の長さ、軸方向の長さ)Wに対する厚さ(厚み方向の長さ、径方向の長さ)tが1未満である(0<t/W<1)。コイル11の前記導体部材は、導電性を有する種々の材料で形成することができるが、良導電性や良熱伝導性等の観点から、例えば、銅やアルミニウム等の金属材料(合金を含む)が好ましい。そして、このような構造のコイル11は、コイル11で生じる磁束方向に沿って帯状の導体部材が配置されることになるので、コイル11のいわゆる渦電流損を低減することができる。
【0027】
そして、コイル11は、複数の相に対応するために、複数のサブコイルを備えている。本実施形態では、コイル11は、3相に対応するために、第1ないし第3サブコイル111、112、113を備えている。
【0028】
また、このような構造のコイル11は、導体部材が帯状であるため、互いに隣接する導体部材間の対向面積を広くすることができるので、コイル11自体に分布静電容量を持っている。このため、本構造コイルでLとCとの分布定数回路を形成するため高周波域で優れたフィルタ特性を実現することができる。そして、このコイル11の静電容量を所定の容量とするために、コイル11の前記絶縁部材として、適宜な誘電率を持った材料が選択される。例えば、コイル11の前記絶縁部材として、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、PEN(ポリエチレンナフタレート)およびフィラー入り樹脂等が挙げられる。これらPET、PP、PPSおよびPENの各誘電率は、1kHzで20℃である場合に、それぞれ、3.2、2.2、3.0、2.9である。また、フィラー入り樹脂は、前記フィラーの充填率(体積%)を変えることによって、5〜40程度の範囲で様々な値の誘電率とすることができる。
【0029】
磁性コア12は、コイル11によって生じた磁束を通すとともに、コイル11を収納するための部材である。本実施形態では、磁性コア12は、有蓋有底の円筒部材であり、例えば、同一の構造を有する第1および第2コア部材121、122を備えている。これら第1および第2コア部材121、122は、例えば、磁気的に(例えば透磁率が)等方性を有し、それぞれ、例えば円板形状を有する円板部121a、122aの板面に、該円板部121a、122aと同径の外周面を有する円筒部121b、122bが連続して成る。磁性コア12は、このような構成を有する第1および第2コア部材121、122が互いに前記各円筒部121b、122bの端面同士で略隙間が生じないように重ね合わせられることによりコイル11および磁性板部材13を内部に収容するための空間を備える。すなわち、本実施形態の磁性コア12は、コイル11および磁性板部材13を内包する構造であり、いわゆるポット型となっている。
【0030】
なお、磁性コア12は、上述では、第1および第2コア部材121、122で構成されたが、これに限定されるものではなく、例えば、磁性コア12は、コイル11および磁性板部材13を内包し得る内径を有する中空の円柱形状(円筒形状)である第11コア部材と、その外径が第11コア部材の内径よりも大きい円板である1組の第12および13コア部材とを備え、第12コア部材は、略隙間が生じないように、第11コア部材の一方端部に連結され、第13コア部材は、略隙間が生じないように、第11コア部材の他方端部に連結されて構成されてもよい。
【0031】
このような磁性コア12は、例えば仕様等に応じた所定の磁気特性、所定の第1透磁率μ1および第1飽和磁束密度Bs1を持つ第1磁性材料から形成される。第1磁性材料は、例えば、上述のような所望の形状の成形容易性の観点から、軟磁性体粉末であり、磁性コア12は、この軟磁性体粉末を形成したものであることが好ましい。このような磁性コア12を備えるノイズ低減用巻線素子1aは、容易に磁性コア12を形成することができ、その鉄損も低減することができる。また例えば、第1磁性材料は、軟磁性体粉末と非磁性体粉末との混合物であり、磁性コア12は、この軟磁性体粉末と非磁性体粉末との混合物を成形したものであってもよい。このような第1磁性材料は、軟磁性体粉末と非磁性体粉末との混合率比を比較的容易に調整することができ、前記混合比率を適宜に調整することによって、磁性コア12における前記所定の磁気特性をそれぞれ所望の磁気特性に容易に実現することが可能となる。
【0032】
前記軟磁性体粉末は、強磁性の金属粉末であり、より具体的には、例えば、純鉄粉、鉄基合金粉末(Fe−Al合金、Fe−Si合金、センダスト、パーマロイ等)およびアモルファス粉末、さらには、表面にリン酸系化成皮膜などの電気絶縁皮膜が形成された鉄粉等が挙げられる。これら軟磁性体粉末は、公知の手段、例えば、アトマイズ法等によって微粒子化する方法や、酸化鉄等を微粉砕した後にこれを還元する方法等によって製造することができる。また、一般に、透磁率が同一である場合に飽和磁束密度が大きいので、軟磁性粉末は、例えば上記純鉄粉、鉄基合金粉末およびアモルファス粉末等の金属系材料であることが特に好ましい。
【0033】
また、前記非磁性体粉末は、樹脂粉末である。したがって、第1磁性材料の一例として、鉄粉と樹脂とを混合した圧粉コア用材料が挙げられる。
【0034】
このような軟磁性体粉末(軟磁性体粉末および非磁性体粉末の混合物を含む)を形成した圧粉コアである磁性コア12は、例えば、圧粉形成等の公知の常套手段によって形成することができる。
【0035】
このようないわゆる圧粉コアを磁性コア12に用いたノイズ低減用巻線素子1aは、渦電流損を低減することができる。特に、ノイズ低減用巻線素子1aが高周波駆動回路に用いられる場合には、このようなノイズ低減用巻線素子1aは、好適に渦電流損を低減することができる。
【0036】
磁性板部材13は、軸方向におけるコイル11の両端面をそれぞれ覆うように配置される部材である。より具体的には、磁性板部材13は、軸方向におけるコイル11の一方端面を覆うように配置され、環状板状に形成された第1磁性環状板131と、軸方向におけるコイル11の他方端面を覆うように配置され、環状板状に形成された第2磁性環状板132とを備えている。これら第1および第2磁性環状板131、132の外径は、コイル11の外径に略等しく、中心に空けられた円形孔の直径は、コイル11における空芯部の直径に略等しい。
【0037】
そして、磁性板部材13(第1および第2磁性環状板131、132)は、例えば仕様等に応じた所定の磁気特性、所定の第2透磁率μ2および第2飽和磁束密度Bs2を持つ第2磁性材料から形成される。この第2透磁率μ2は、磁性コア12の第1磁性材料における第1透磁率μ1よりも高い(μ2>μ1)。また、この第2飽和磁束密度Bs2は、磁性コア12の第1磁性材料における第1飽和磁束密度Bsよりも低い。このような磁性板部材13の第2磁性材料は、好ましくは、強磁性を示し、酸化鉄を主成分とするセラミックスであるフェライトである。
【0038】
本実施形態のノイズ低減用巻線素子1aにおける磁性コア12および磁性板部材13に好適に用いられる圧粉(高密度圧粉(◇)および低密度圧粉(×))およびフェライト(□)の各磁束密度と比透磁率との関係(B−μ特性)が図2に示されている。好ましくは、第1磁性材料は、第1透磁率μ1が500以下であって、第1飽和磁束密度Bs1が1T以上である材料であり、第2磁性材料は、第2透磁率μ2が1000以上であって、第2飽和磁束密度Bs2が0.5T以下である材料である。より好ましくは、第1磁性材料は、第1透磁率μ1が50以下であって、第1飽和磁束密度Bs1が1T以上である材料であり、第2磁性材料は、第2透磁率μ2が4000以上であって、第2飽和磁束密度Bs2が0.4T以下である材料である。
【0039】
このような構造のノイズ低減用巻線素子1aは、例えば、次の工程によって作製可能である。なお、以下では、3相用のノイズ低減用巻線素子1aについて説明するが、単相用のノイズ低減用巻線素子も、複数相用のノイズ低減用巻線素子も同様に作製可能である。
【0040】
まず、図3(A)に示すように、所定の厚みを有するリボン状の、相数に対応した3個の導体部材111、112、113が絶縁部材(図略)を挟んで重ね合わされ、次に、図3(B)に示すように、これらが中心(軸芯)から所定の径だけ離間した位置から所定回数だけ巻き回される。これにより、中心に所定の径を有する円柱状の空芯部S1を備えたシングルパンケーキ構造の空芯のコイル11が形成される。
【0041】
次に、図3(C)に示すように、軸方向におけるコイル11の一方端面に、この一方端面を覆うように第1磁性環状板131が配置され、軸方向におけるコイル11の他方端面に、この他方端面を覆うように第2磁性環状板132が配置される。そして、圧粉形成等によって形成された第1および第2コア部材121、122が、前記第1および第2磁性環状板131、132によって両端面をそれぞれ覆われたコイル11を挟み込むように各円筒部121b、122bの端面同士で重ね合わされる。これにより、図3(D)に示すような例えば円盤状のノイズ低減用巻線素子1aが作成される。
【0042】
次に、第1実施形態におけるノイズ低減用巻線素子の作用について説明する。図4は、第1実施形態におけるノイズ低減用巻線素子の作用を説明するための図である。
【0043】
上記構成のノイズ低減用巻線素子1aは、高パワー化および短スイッチング周期化(高スイッチング周波数化)に対応することができ、さらに、より小型化およびより軽量化を実現することができる。より詳しくは、次の論理によって本実施形態のノイズ低減用巻線素子1aは、構成されている。
【0044】
上述したように、コモンモード電圧は、コモンモードチョークコイルとコンデンサとを組み合わせたコモンモードフィルタによって、低減または除去される。このコモンモードチョークコイルは、例えば、図4(A)に示すように、3相配線が挿通される、磁性材料から形成された1または複数(図4(A)に示す例では4個)の環状(リング状)のコアから成る。
【0045】
このようなコモンモードチョークコイルでは、高パワー化および短スイッチング周期化に対応するために、図4(B)に示すように、コアの個数を増加することによってコア断面積Sが大きされ、そして、図4(D)に示すように、巻数Nが増加される。このような対策を単に実施した場合には、上述したよう、コモンモードチョークコイルが大型化および重量化してしまう。
【0046】
そこで、図4(C)に示すように、複数のコアは、互いに異なる磁気特性を有する磁性材料から形成された複数種類のコアを備えている。すなわち、コアは、図4(C)に示すように、相対的に透磁率μが低く相対的に飽和磁束密度Bsが高い第1磁性材料(低μ・高Bs)のコアと、相対的に透磁率μが高く相対的に飽和磁束密度Bsが低い第2磁性材料(高μ・低Bs)のコアとから成る。このような複数の磁性材料から成る複数種類のコアでは、第1磁性材料(低μ・高Bs)のコアによって比較的高周波のノイズが低減または除去され、このコアで除去しきれなかった周波数成分のノイズが第2磁性材料(高μ・低Bs)のコアによって低減または除去される。本実施形態では、上述したように、磁性コア12が第1磁性材料で形成され、磁性板部材13が第2磁性材料で形成されている。例えば、図2に示すB−μ特性を有する圧粉コアの磁性コア12およびフェライトの磁性板部材13を用いたノイズ低減用巻線素子1aでは、磁束密度が約0.5T以下では、比較的高い比透磁率μ2を持つフェライトの磁性板部材13がノイズを低減または除去するように機能し、磁束密度が約0.5Tを越えると、このような磁束密度の範囲でもインダクタンスとして機能する圧粉コアの磁性コア12がノイズを低減または除去するように機能する。
【0047】
そして、本実施形態のノイズ低減用巻線素子1aでは、コアの複数種類化を実現するための磁性板部材13は、図4(F)および図1に示すように、コイル11の軸方向の両端面を覆うように配置され、磁性コア12によって内包されている。
【0048】
したがって、本実施形態のノイズ低減用巻線素子1aでは、コアが複数種類化されているだけでなく、このような構造が採用されているため、高パワー化および短スイッチング周期化に対応することができ、より小型化およびより軽量化を実現することができる。
【0049】
さらに、本実施形態のノイズ低減用巻線素子1aでは、コイル11は、帯状の長尺な導体部材を、該導体部材の幅方向がコイル11の軸方向に沿うように絶縁部材を挟んで巻回することによって構成されている。このため、本実施形態のノイズ低減用巻線素子1aは、コイル11における互いに隣接する帯状の導体部材間の対向面積を広くすることができ、コイル11自体が分布静電容量を有している。このため、本実施形態のノイズ低減用巻線素子1aは、別途にコンデンサを必要とすることなく、単体で、コモンモードフィルタになる。したがって、本実施形態のノイズ低減用巻線素子1aは、さらに、より小型化およびより軽量化を実現することができる。
【0050】
次に、第1実施形態におけるノイズ低減用巻線素子の特性解析について説明する。図5は、第1実施形態におけるノイズ低減用巻線素子の等価回路を示す図である。なお、本実施形態のノイズ低減用巻線素子1aは、インダクタとコンデンサとの分布定数回路で表されるが、図5では、簡便のために、インダクタとコンデンサとの集中回路で表されている。図6は、第1実施形態におけるノイズ低減用巻線素子のフィルタ作用を説明するための図(その1)である。図7は、第1実施形態におけるノイズ低減用巻線素子のフィルタ作用を説明するための図(その2)である。図8は、ノーマルモードの磁力線を示す図である。図9は、第1実施形態のノイズ低減用巻線素子に対する磁場解析結果を示す磁力線図である。図9(A)は、コイル11に相対的に小さい30Aの電流を通電した場合におけるコモンモードの結果であり、図9(B)は、コイル11に相対的に大きい120Aの電流を通電した場合におけるコモンモードの結果である。図9(C)は、コイル11に相対的に小さい30Aの電流を通電した場合におけるノーマルモードの結果であり、図9(D)は、コイル11に相対的に大きい120Aの電流を通電した場合におけるノーマルモードの結果である。図10は、相対的に小さい30Aの電流を通電した場合における、第1実施形態のノイズ低減用巻線素子に対するコモンモードの磁場解析結果を示す磁束密度等高線図である。図11は、相対的に大きい120Aの電流を通電した場合における、第1実施形態のノイズ低減用巻線素子に対するコモンモードの磁場解析結果を示す磁束密度等高線図である。図12は、相対的に小さい30Aの電流を通電した場合における、比較例のノイズ低減用巻線素子に対するコモンモードの磁場解析結果を示す磁束密度等高線図である。図13は、相対的に大きい120Aの電流を通電した場合における、比較例のノイズ低減用巻線素子に対するコモンモードの磁場解析結果を示す磁束密度等高線図である。図14は、第1実施形態におけるノイズ低減用巻線素子のインダクタンス特性を示す図である。図14の横軸は、A単位で表す電流であり、その縦軸は、μH単位で表すインダクタンスである。
【0051】
上記構成のノイズ低減用巻線素子1aの等価回路は、図5に示すように、U相のサブコイル111に対応するインダクタンスLuのインダクタLuと、U相のサブコイル111とV相のサブコイル112との間における相互インダクタンスMuvのトランスMuvおよびキャパシタンスCuvのコンデンサCuvと、V相のサブコイル112に対応するインダクタンスLvのインダクタLvと、V相のサブコイル112とW相のサブコイル113との間における相互インダクタンスMvwのトランスMvwおよびキャパシタンスCvwのコンデンサCvwと、W相のサブコイル113に対応するインダクタンスLwのインダクタLwと、W相のサブコイル113とU相のサブコイル111との間における相互インダクタンスMwuのトランスMwuおよびキャパシタンスCwuのコンデンサCwuとを備えている。
【0052】
トランスMuvの1次側には、インダクタLuが並列に接続されるとともにトランスMwuの1次側が直列に接続され、トランスMuvの2次側には、トランスMvwの一次側が直列に接続される。トランスMvwの1次側には、インダクタLvが並列に接続され、その2次側には、トランスMwuの2次側が直列に接続される。そして、トランスMwuの2次側には、インダクタLwが並列に接続される。コンデンサCuvは、トランスMuvの1次側と2次側との間に接続され、コンデンサCvwは、トランスMvwの1次側と2次側との間に接続され、そして、コンデンサCwuは、トランスMwuの1次側と2次側との間に接続される。
【0053】
なお、図5には、ノイズ低減用巻線素子1aの等価回路に加えて、インバータIVおよびモータMも記載されている。インバータIVの高調波成分、モータMの負荷変動および電磁ノイズ等がノイズの原因となる。
【0054】
コモンモード電流は、図6(A)紙面左側および図7(B)に示すように、図略の電源からコア内を挿通する配線を流れて接地(グランド)で前記電源へ戻るように流れる。磁気回路では、図6(B)紙面左側に示すように、前記配線および接地に流れる電流の方向に応じた方向の磁界が生じ、コモンモード電流に対する磁力線は、図6(C)および図7(A)に示すように、磁性コア12全体を通る。このコモンモード電流に対する磁力線Zcomは、図7(B)に示すように、電流の角周波数をωとし、コモンモード電流に作用するインダクタンスをLcとした場合に、ω×Lcと近似することができる(Zcom≒ω×Lc)。コモンモード電流に作用するインダクタンスLcは、インダクタンスの定義式と、磁力線が磁性コア12に集中することとから、UVW相の3相に対応したコイル11の巻数をNとし、磁束密度の振幅を|B|とし、コイル11の芯部の半径をrcとし、コイル11に流れる電流の振幅を|I|とした場合に、N×π×rc×<|B|>/|I|と表される(Lc=N×π×rc×<|B|>/|I|)。ここで、<A>は、Aの平均を表す演算子である。
【0055】
一方、ノーマルモード電流は、図6(A)紙面右側および図7(B)に示すように、図略の電源から一方コア内を挿通する一方配線を流れて他方コア内を挿通する他方配線で前記電源へ戻るように流れる。磁気回路では、図6(B)紙面右側に示すように、前記各配線に流れる電流の方向に応じた方向の磁界が生じ、ノーマルモード電流に対する磁力線は、図6(C)、図7(A)および図8に示すように、コイル11を介して一対の磁性板部材131、132間を通る。このノーマルモード電流に対する磁力線Znormalは、図7(B)に示すように、電流の角周波数をωとし、ノーマルモード電流に作用するインダクタンスをLnとし、相互インダクタンスをMcとした場合に、ω×(2Lc−2Mc+2Ln〜ω×2Lnと近似することができる(Znormal≒ω×2Ln)。ノーマルモード電流に作用するインダクタンスLnは、インダクタンスの定義式と、U相の電流IuがI(Iu=I)でV相およびW相の各電流Iv、Iwが−I/2(Iv=Iw=−I/2)である位相を考えると磁力線が図8に示すようにU−V線間およびW−U線間にのみ生じることとから、U−V線間の磁束密度の振幅を|Buv|とし、コイル11の芯部の半径をrcとし、コイル11の外径をroとし、U−V線間の間隔をsとした場合に、N×π×(rc+ro)×s×<|Buv|>/|I|と表される(Ln=N×π×(rc+ro)×s×<|Buv|>/|I|)。なお、図8では、磁力線は、一点鎖線で表され、磁束密度は、実線で表されている。
【0056】
このような解析結果に対する磁場の解析結果が図9および図13に示され、インダクタンス特性が図14に示されている。本解析におけるコイル11のターン数は、5ターンである。コモンモードでは、条件Iu、Iv=Iw=0での静磁場の結果が示され、ノーマルモードでは、条件Iu、Iv=Iw=−Iu/2での静磁場の結果が示されている。
【0057】
図9から分かるように、コモンモードの場合、電流30Aの小電流では磁力線がフェライトの磁性板部材13に他の部分に較べて集中しており、それを磁性コア12に挿入した効果が確認される。また、電流120Aの大電流ではほとんどの磁力線が圧粉の磁性コア12に入っている。一方、ノーマルモードの場合、上記小電流、上記大電流に関わらず、磁力線は、略同様となっている。このため、フェライトの磁性板部材13を磁性コア12へ挿入しても、ノーマルモードフィルタの特性に影響を与えないことが分かる。そして、図10ないし図13から分かるように、コモンモードであって大電流である場合において、比較例の圧粉の磁性コア12のみの場合(図12および図13)に比較して、実施例のフェライトの磁性板部材13をそれに挿入した場合(図10および図11)では、コイル11の外周部において、局所的な磁気飽和が低減されていることが分かる。すなわち、フェライトの磁性板部材13を磁性コア12へ挿入することによって、磁気飽和による鉄損を低減することができることが分かる。
【0058】
図14において、実施例1は、磁性コア12が高密度圧粉によって形成され、磁性板部材13がフェライトによって形成されたノイズ低減用巻線素子1a1であり、そのコモンモード電流に対するインダクタンス特性は、○で示され、ノーマルモード電流に対するインダクタンス特性は、|で示されている。実施例2は、磁性コア12が低密度圧粉によって形成され、磁性板部材13がフェライトによって形成されたノイズ低減用巻線素子1a2であり、そのコモンモード電流に対するインダクタンス特性は、*で示され、ノーマルモード電流に対するインダクタンス特性は、□で示されている。
【0059】
また、比較例1は、磁性板部材13を持たない従来のノイズ低減用巻線素子であって、磁性コア12がフェライトによって形成されており、そのコモンモード電流に対するインダクタンス特性は、■で示され、ノーマルモード電流に対するインダクタンス特性は、×で示されている。比較例2は、実施例1および実施例2の比較としての磁性板部材13を持たないノイズ低減用巻線素子(本願出願人が特願2012−100739で提案している技術であって従来技術ではない)であって、磁性コア12が高密度圧粉によって形成されており、そのコモンモード電流に対するインダクタンス特性は、◆で示され、ノーマルモード電流に対するインダクタンス特性は、●で示されている。
【0060】
コモンモード電流に対するインダクタンス特性は、図14から分かるように、比較例1のノイズ低減用巻線素子では電流Iuが大きくなるに従って磁気飽和によりインダクタンスLが大きく低減しているが、本実施形態のノイズ低減用巻線素子1aに相当する実施例1および実施例2のノイズ低減用巻線素子1a1、1a2では、電流Iuが大きくなってもインダクタンスLの低減は、比較的小さい。
【0061】
また、比較的小さい電流では、実施例1および実施例2のノイズ低減用巻線素子1a1、1a2は、比較例2のノイズ低減用巻線素子に較べて、より大きなインダクタンスを得ることができ、この結果、より良いフィルタ特性を得ることができる。
【0062】
また、図14から分かるように、実施例1および実施例2のノイズ低減用巻線素子1a1、1a2は、ノーマルモード電流に対し、比較例1および比較例2のノイズ低減用巻線素子と同等の効果を示している。
【0063】
次に、上述した第1実施形態のノイズ低減用巻線素子1aを装置に適用した一適用例について説明する。
【0064】
(適用の一例)
第1実施形態のノイズ低減用巻線素子1aは、所定のノイズを低減するために、特に高周波ノイズを好適に低減するために、様々な装置に適用可能であるが、ここでは、負荷に供給する電力を制御するパワーコントロール装置PCに用いられている。
【0065】
図15は、実施形態のノイズ低減用巻線素子を用いたパワーコントロール装置の電気的な構成を示す回路図である。このパワーコントロール装置PCは、例えば、電源から供給された電力の電圧および周波数等を制御することによって負荷に供給する電力を制御するものであり、例えば、図15に示すように、コンバータ部CVと、インバータ部IVと、これらコンバータ部CVおよびインバータ部IVを収納する筐体HSと、高周波ノイズを除去または低減するために、ノイズ低減用巻線素子FT1、FT2とを備えている。
【0066】
コンバータ部CVは、電源Vdから供給された電力の電圧を昇圧または降圧する装置である。コンバータ部CVは、例えば、チョークコイルL4と、平滑コンデンサC4と、ダイオードD41と、スイッチング素子Tr4と、還流ダイオード(フリーホイールダイオード)D42とを備える、いわゆるチョッパ式のDC−DCコンバータ回路である。スイッチング素子Tr4は、例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT,Insulated Gate bipolar transistor)素子やパワーMOSFET素子等の電力用のトランジスタ素子である。ここでは、大電力用のIGBT素子がスイッチング素子Tr4として用いられている。IGBT素子Tr4のコレクタ端子は、ダイオードD41のアノード端子が接続され、そのエミッタ端子は、接地ライン(Nライン)に接続され、ゲート端子は、IGBT素子Tr4にオンオフのタイミングを制御する図略のコンバータ制御回路に接続される。そして、IGBT素子Tr4のコレクタ端子とエミッタ端子との間には、還流ダイオードD42が並列に接続される。すなわち、IGBT素子Tr4のコレクタ端子には、還流ダイオードD42のカソード端子が接続され、IGBT素子Tr4のエミッタ端子には、還流ダイオードD42のアノード端子が接続されている。このように還流ダイオードD42は、その向きがIGBT素子Tr4の入出力方向とは逆に接続されている。そして、このダイオードD41とスイッチング素子Tr4との直列接続回路が平滑コンデンサC4の両端に並列で接続されている。また、電源ライン(Pライン)には、チョークコイルL4が介挿されている。すなわち、チョークコイルL4の一方端子は、ノイズ低減用巻線素子FT1における電源ライン側の出力端子に接続されることになり、また、チョークコイルL4の他方端子は、IGBT素子Tr4のコレクタ端子とダイオードD41のアノード端子との接続点に接続される。
【0067】
このようなコンバータ部CVでは、スイッチング素子Tr4がオンすると、電源VdからのエネルギーがチョークコイルL4に蓄積され、スイッチング素子Tr4がオフすると、チョークコイルL4に蓄積されたエネルギーが放出される。これにより電源Vdの電圧にチョークコイルL4の電圧が加算されて電圧レベルが変換され、ダイオードD41を介して平滑コンデンサC4で平滑されつつ出力される。平滑コンデンサC4の両端がコンバータ部CVの出力端子となっている。
【0068】
インバータ部IVは、直流電力を交流電力へ変換する装置である。インバータ部IVは、コンバータ部CVの出力端子、すなわち、平滑コンデンサC4の両端に接続される。インバータ部IVは、例えば、複数のスイッチング素子Tr5と、これら複数のスイッチング素子Tr5のそれぞれに接続される複数の還流ダイオードD5とを備えている。本実施形態では、例えば負荷が3相誘導電動機Mであるので、直流電力から、U相、V相およびW相の3相の交流電力を生成するために、6(=3×2)の整数倍の個数のスイッチング素子Tr5と、スイッチング素子Tr5と同数の還流ダイオードD5とを備えている。より具体的には、電流量を稼ぐために(大容量化のために)、この3相に対応する6個のスイッチング素子Tr5および6個の還流ダイオードD5が周方向に3組あって、さらにこれが積層方向に3層用意されているため、インバータ部IVは、6個×3組×3層=54個のスイッチング素子Tr5と、54個の還流ダイオードD5とを備えている。図15には、説明の簡略化のため、1組分の6個のスイッチング素子Tr5と、6個の還流ダイオードD5とが示されており、以下、図15に示す例に沿ってインバータ部IVの電気的な構成を説明する。スイッチング素子Tr5(Tr51〜Tr56)は、スイッチング素子Tr4と同様に、例えばIGBT素子やパワーMOSFET素子等の電力用のトランジスタ素子であり、ここでは、大電力用のIGBT素子がスイッチング素子Tr5として用いられている。
【0069】
IGBT素子Tr51とIGBT素子Tr54とは、IGBT素子Tr51のエミッタ端子がIGBT素子Tr54のコレクタ端子に接続されることによって、直列に接続されており、1対のスイッチング部(例えばU相のためのスイッチング部)を構成している。同様に、IGBT素子Tr52とIGBT素子Tr55とは、IGBT素子Tr52のエミッタ端子がIGBT素子Tr55のコレクタ端子に接続されることによって、直列に接続されており、1対のスイッチング部(例えばV相のためのスイッチング部)を構成し、そして、IGBT素子Tr53とIGBT素子Tr56とは、IGBT素子Tr53のエミッタ端子がIGBT素子Tr56のコレクタ端子に接続されることによって、直列に接続されており、1対のスイッチング部(例えばW相のためのスイッチング部)を構成している。これらIGBT素子Tr51〜Tr56の各ゲート端子は、IGBT素子Tr51〜Tr6にオンオフのタイミングを制御する図略のインバータ制御回路に接続される。また、還流ダイオードD51〜D56は、それぞれ、そのアノード端子がエミッタ端子に接続されるともにそのカソード端子がコレクタ端子に接続されることによって、IGBT素子Tr51〜Tr56のそれぞれに並列に接続される。すなわち、これら還流ダイオードD51〜D56は、それぞれ、その向きがIGBT素子Tr51〜Tr56の入出力方向とは逆に接続されている。
【0070】
これらIGBT素子Tr51およびIGBT素子Tr54の直列接続回路と、IGBT素子Tr52およびIGBT素子Tr55の直列接続回路と、IGBT素子Tr53およびIGBT素子Tr56の直列接続回路とは、互いに並列に接続され、さらに、コンバータ部CVの出力端子、すなわち、平滑コンデンサC4の両端に接続される。言い換えれば、平滑コンデンサC4の一方端には、IGBT素子Tr51、IGBT素子Tr52およびIGBT素子Tr53の各コレクタ端子が接続され、平滑コンデンサC4の他方端には、IGBT素子Tr54、IGBT素子Tr55およびIGBT素子Tr56の各エミッタ端子が接続されている。
【0071】
このようなインバータ部IVは、図略の前記インバータ制御回路の制御によって、これらIGBT素子Tr51〜Tr56を適宜なタイミングでオンオフすることによって、直流電力から3相交流電力へ変換する。そして、各直列接続回路の各接続点から、すなわち、IGBT素子Tr51とIGBT素子Tr54との接続点、IGBT素子Tr52とIGBT素子Tr55との接続点、および、IGBT素子Tr53とIGBT素子Tr56との接続点の各接続点から、インバータ部5のU相、V相およびW相の電力が出力される。
【0072】
筐体HSは、これらコンバータ部CVおよびインバータ部IVを収納する部材である。より具体的には、筐体HSは、例えば、有底有蓋の筒形状である略閉塞された筐体本体と、前記筐体本体内に配置される第1および第2バスバーと、前記筐体本体内に配置される1または複数の搭載用部材とを備えている。
【0073】
前記第1および第2バスバーは、給電用であって、前記筐体本体(筐体HS)の軸線と同軸で配置され、前記筐体本体(筐体HS)の前記軸線の方向に延びる、中実または中空の柱形状の部材であり、導電性を有する金属(合金を含む)によって形成されている。前記第1および第2バスバーは、互いに同軸で配置された中空の円柱形状、すなわち、筒形状の部材であり、前記第2バスバーは、例えば隙間を設けることや絶縁層を設けること等によって前記第1バスバーと電気的に絶縁された状態で、前記第1バスバー内に、挿通されて配置されている。このように前記第1および第2バスバーは、二重円筒型となっている。前記第1バスバーは、例えば、電源ライン(Pライン)となるPバスバーであり、前記第2バスバーは、接地ラインとなるNバスバーである。
【0074】
前記搭載用部材は、コンバータ部CVおよびインバータ部IVを構成する上述の回路部品を搭載するための部材である。本実施形態では、筒形状の前記筐体本体の周壁(周面)と前記第1および第2バスバーとの間に形成されたスペース(空間)に、前記回路部品を搭載するべく、前記搭載用部材は、例えば、中心に前記第1および第2バスバーを挿通するための貫通孔(貫通開口)を形成した円板形状の部材である。前記搭載用部材は、前記回路部品を搭載するための一方主面(表面)および他方主面(裏面)が前記筐体本体の軸線と直交するように配置される。前記搭載用部材は、本実施形態では、コンバータ部CVの回路部品を搭載するための1枚の部材と、インバータ部IVの回路部品を搭載するための3枚の部材との4枚で構成されており、これら4枚の搭載用部材は、前記筐体本体の一方端側から他方端側へ順に、前記回路部品が載置可能な間隔を空けて、軸線方向(軸方向)に積層されている。
【0075】
そして、これらコンバータ部CVおよびインバータ部IVの前記回路部品で発生する熱を筐体HSの外部へ放熱するために、前記搭載用部材の外周端部は、前記搭載用部材を熱伝導した熱を効率よく前記筐体本体へ熱伝導するべく、前記筐体本体の周壁に内周面で当接している。本実施形態では、前記筐体本体の周壁の内周面に周方向に沿った嵌合凹部が形成されており、この嵌合凹部に前記搭載用部材の外周端部が嵌め込まれている。この嵌合凹部によって前記搭載用部材を熱伝導した熱をより効率よく前記筐体本体へ熱伝導することができ、また、前記搭載用部材の位置決めおよび支持も可能となっている。
【0076】
また、これらコンバータ部CVおよびインバータ部IVの前記回路部品を前記第1および第2バスバーに電気的に接続するために、前記第1および第2バスバーには、それぞれ、周方向に複数の分岐部が設けられている。このような複数の分岐部を設けることによって、前記第1および第2バスバーから、インバータ部IVを構成する回路部品への給電路が最短距離で簡素に構成される。したがって、このような構成によって配線長が短くなり、配線インダクタンスが低減される。
【0077】
また、このような2重円筒型の前記第1および第2バスバーによって低インダクタンスを実現することができる。その理由は、インダクタンスは、電流が作る磁界が存在する体積積分と等価であることによる。平行導線、平行平板では、どうしても近傍空間に磁界が漏れ出すために、無視できない浮遊インダクタンスが生じてしまうが、同軸導体では、その隙間のわずかな空間に限られるからである。
【0078】
そして、インバータ部IVの三相(U相、V相、W相)出力を取り出すために、出力用バスバーが設けられている。より具体的には、前記出力用バスバーは、長尺なロッド状(円柱形状)の部材であり、例えば純銅や純アルミニウムまたはそれらの低濃度合金等の導電性の金属(合金を含む)によって形成される。このロット状の前記出力用バスバーは、本実施形態では、3相交流電力に対応してU相用、V相用およびW相用の3個であり、各相用の各出力用バスバーのそれぞれは、前記第1バスバーから絶縁のために径方向に所定の間隔を空けて、その長尺方向が前記第1バスバーの軸方向に沿うように、配置される。そして、これら各相用の各出力用バスバーは、前記第1バスバーの周方向に所定の間隔を空けて配列される。また、U相用の出力用バスバーには、IGBT素子Tr51のエミッタ端子とIGBT素子Tr54のコレクタ端子とが接続され、V相用の出力用バスバーには、IGBT素子Tr52のエミッタ端子とIGBT素子Tr55のコレクタ端子とが接続され、W相用の出力用バスバーには、IGBT素子Tr53のエミッタ端子とIGBT素子Tr56のコレクタ端子とが接続される。このように各相用の各出力用バスバーは、前記第1バスバーの周りに立体的に配線されるので、いわゆる浮遊インダクタンスを低減することができる。
【0079】
ノイズ低減用巻線素子FT1、FT2は、高周波ノイズを低減するための素子であり、上述の第1本実施形態のノイズ低減用巻線素子1aである。ノイズ低減用巻線素子FT1、FT2(ノイズ低減用巻線素子1a)におけるコイル11は、図15に示す例では、パワーコントロール装置PCの入力側における電源ラインおよび接地ライン、ならびに、パワーコントロール装置PCの出力側におけるU相ライン、V相ラインおよびW相ラインの複数のラインに対して用いられるため、コイル11は、絶縁材(図略)を挟んで重ね合わせた帯状の複数の長尺な導体部材、図15に示す例では、図1に示すように3枚の長尺な導体部材111、112、113を所定回数だけ巻回することによって構成されて成る複数のコイルで構成されている。
【0080】
そして、ノイズ低減用巻線素子FT1としてのノイズ低減用巻線素子1aは、電源Vdとパワーコントロール装置PCのコンバータ部CVとの間の配線に介挿され、ノイズ低減用巻線素子FT2としてのノイズ低減用巻線素子1aは、パワーコントロール装置PCのインバータ部IVと3相誘導電動機Mとの間の配線に介挿される。このように電源Vdとパワーコントロール装置PCのコンバータ部CVとの間の配線にノイズ低減用巻線素子1a(FT1)を介挿することによって、パワーコントロール装置PCから電源Vd側への高調波ノイズを低減または除去することができるとともに、電源Vd側からパワーコントロール装置PCへの電圧や電流のスパイクやサージを低減または除去することができる。また、パワーコントロール装置PCのインバータ部IVと3相誘導電動機Mとの間の配線にノイズ低減用巻線素子1a(FT2)を介挿することによって、ノイズを低減または除去して電圧波形および電流波形を改善し、負荷のパフォーマンスを改善することができる。
【0081】
より具体的には、まず、ノイズ低減用巻線素子FT1としてのノイズ低減用巻線素子1aの場合について説明すると、ノイズ低減用巻線素子1aの入力端が電源Vdに接続され、ノイズ低減用巻線素子1aの出力端がパワーコントロール装置PCの入力端(コンバータ部CVの入力端)に接続されることでノイズ低減用巻線素子1aの入力端がパワーコントロール装置PCの入力端(コンバータ部CVの入力端)の代替入力端とされ、ノイズ低減用巻線素子1aは、前記筐体本体(筐体HS)と一体化される。より詳しくは、ノイズ低減用巻線素子1aのコイル11におけるコイル111の入力側の一方端部Tm11が電源Vdの電源ラインに接続され、ノイズ低減用巻線素子1aのコイル11におけるコイル111の出力側の他方端部Tm12がパワーコントロール装置PCのコンバータ部CVにおける入力端となるチョークコイルL4の一方端に接続される。ノイズ低減用巻線素子1aのコイル11におけるコイル113の入力側の一方端部Tm31が電源Vdの接地ラインに接続され、ノイズ低減用巻線素子1aのコイル11におけるコイル113の出力側の他方端部Tm32がパワーコントロール装置PCのコンバータ部CVにおける入力端の接地ラインに接続される。そして、ノイズ低減用巻線素子1aのコイル11におけるコイル112の入力側の一方端部Tm21および出力側の他方端部Tm22は、それぞれ、接地される。そして、ノイズ低減用巻線素子1aは、そのコイル11の出力端が引き出される磁性コア12の面を、パワーコントロール装置PCの筐体HSにおける前記筐体本体と当接することで、前記筐体本体(筐体HS)と一体化される。放射ノイズをより低減するために、磁性コア12の前記面は、前記筐体本体と隙間無く当接、すなわち、密着していることが好ましい。この観点から、磁性コア12の第2コア部材122は、前記筐体本体と一体成形されることが好ましい。あるいは、前記筐体本体にノイズ低減用巻線素子1aが嵌り込む凹部が形成され、前記凹部にノイズ低減用巻線素子1aが嵌り込むことで、ノイズ低減用巻線素子1aは、前記筐体本体(筐体HS)と一体化されてもよい。さらに、ノイズ低減用巻線素子1aは、その軸線が前記筐体本体(筐体HS)の軸線と一致する位置で、筐体本体と一体化されていることが好ましい。この結果、ノイズ低減用巻線素子1aは、その軸線が前記第1および第2バスバーの軸線とも一致することになる。
【0082】
次に、ノイズ低減用巻線素子FT2としてのノイズ低減用巻線素子1aの場合について説明すると、ノイズ低減用巻線素子1aの入力端がパワーコントロール装置PCの出力端(インバータ部IVの出力端)に接続されることでノイズ低減用巻線素子1aの出力端がパワーコントロール装置PCの出力端(インバータ部IVの出力端)の代替出力端とされ、ノイズ低減用巻線素子1aの出力端が3相誘導電動機Mの入力端に接続され、ノイズ低減用巻線素子1aは、前記筐体本体(筐体HS)と一体化される。より詳しくは、ノイズ低減用巻線素子1aのコイル11におけるコイル111の入力側の一方端部Tm11がU相用の出力用バスバーに接続され、ノイズ低減用巻線素子1aのコイル11におけるコイル111の出力側の他方端部Tm12が3相誘導電動機MのU相の入力端に接続される。ノイズ低減用巻線素子1aのコイル11におけるコイル112の入力側の一方端部Tm21がV相用の出力用バスバーに接続され、ノイズ低減用巻線素子1aのコイル11におけるコイル112の出力側の他方端部Tm22が3相誘導電動機MのV相の入力端に接続される。そして、ノイズ低減用巻線素子1aのコイル11におけるコイル113の入力側の一方端部Tm31がW相用の出力用バスバーに接続され、ノイズ低減用巻線素子1aのコイル11におけるコイル113の出力側の他方端部Tm32が3相誘導電動機MのW相の入力端に接続される。そして、ノイズ低減用巻線素子1aは、上述したノイズ低減用巻線素子1aと同様の種々の態様のうちのいずれかで、前記筐体本体(筐体HS)と一体化される。さらに、ノイズ低減用巻線素子1aは、その軸線が前記筐体本体(筐体HS)の軸線と一致する位置で、前記筐体本体と一体化されていることが好ましい。この結果、ノイズ低減用巻線素子1aは、その軸線が前記第1および第2バスバーの軸線とも一致することになる。
【0083】
このようなノイズ低減用巻線素子FT1、FT2としてのノイズ低減用巻線素子1a、1aでは、コイル11が帯状の導体部材を、該導体部材の幅方向がコイル11の軸方向に沿うように絶縁材(図略)を挟んで巻回することによって構成されるので、各ターンの導体部材が絶縁材を介した1ターン内側の導体部材および絶縁材を介した1ターン外側の導体部材との間でコンデンサを形成するから、コイル11自体が容量性を備えることができる。なお、このコイル11に形成されるコンデンサは、図15では、符号C11、C12、C31、C32で示されている。このため、このようなノイズ低減用巻線素子1a、1aは、単独でL成分およびC成分を備えることができ、好適にLCフィルタを単独で構成することができる。したがって、このようなノイズ低減用巻線素子1a、1aは、コンデンサが別途に不要となり、部品点数を低減することが可能となる。そして、このような筐体HSおよびパワーコントロール装置PC(インバータ部IV)は、上述のノイズ低減用巻線素子1a、1aを用いるので、インバータIVによって生じるノイズを低減することができ、部品点数の低減も可能となる。
【0084】
次に、別の実施形態について説明する。
【0085】
(第2実施形態)
図16は、第2実施形態におけるノイズ低減用巻線素子の概略構成を示す縦断面図である。第2実施形態のノイズ低減用巻線素子1bは、第1実施形態のノイズ低減用巻線素子1aにおいて、さらに、第1磁性円筒部材14を備えるものである。すなわち、第2実施形態のノイズ低減用巻線素子1bは、例えば、図16に示すように、コイル11と、磁性コア12と、磁性板部材13と、第1磁性円筒部材14とを備えている。この第2実施形態のノイズ低減用巻線素子1dにおけるコイル11、磁性コア12および磁性板部材13は、磁性コア12が第1磁性円筒部材14をさらに収納する点を除き、第1実施形態のノイズ低減用巻線素子1aにおけるコイル11、磁性コア12および磁性板部材13と同様であるので、その説明を省略する。
【0086】
第1磁性円筒部材14は、コイル11の内周面(芯部の周面)に、コイル11の内周面全体を覆うように配置され、例えばフェライト等の第2磁性材料から形成されている。したがって、第1磁性円筒部材14は、コイル11の内径よりも若干小さい外径を有する円筒部材であり、軸方向における第1磁性円筒部材14の両端部は、それぞれ、径方向内側における磁性板部材131、132の各端部に近接して配置されている。
【0087】
このような第2実施形態のノイズ低減用巻線素子1bは、比較的小さな電流に対して第1磁性円筒部材14が機能することで、比較的小さな電流に対してもノイズをより低減することができる。
【0088】
次に、別の実施形態について説明する。
【0089】
(第3実施形態)
図17は、第3実施形態におけるノイズ低減用巻線素子の概略構成を示す縦断面図である。第3実施形態のノイズ低減用巻線素子1cは、第1および第2実施形態のノイズ低減用巻線素子1a、1bにおいて、さらに、第2磁性円筒部材15を備えるものである。すなわち、第3実施形態のノイズ低減用巻線素子1cは、例えば、図17に示すように、コイル11と、磁性コア12と、磁性板部材13と、第1磁性円筒部材14と、第2磁性円筒部材15とを備えている。この第3実施形態のノイズ低減用巻線素子1cにおけるコイル11、磁性コア12および磁性板部材13は、磁性コア12が第1および第2磁性円筒部材14、15をさらに収納する点を除き、第1実施形態のノイズ低減用巻線素子1aにおけるコイル11、磁性コア12および磁性板部材13と同様であるので、その説明を省略する。そして、第3実施形態のノイズ低減用巻線素子1cにおける第1磁性円筒部材14は、第2実施形態のノイズ低減用巻線素子1bにおける第1磁性円筒部材14と同様であるので、その説明を省略する。
【0090】
第2磁性円筒部材15は、コイル11の外周面に、コイル11の外周面全体を覆うように配置され、例えばフェライト等の第2磁性材料から形成されている。したがって、第2磁性円筒部材15は、コイル11の外径よりも若干大きい内径を有する円筒部材であり、軸方向における第2磁性円筒部材15の両端部は、それぞれ、径方向外側における磁性板部材131、132の各端部に近接して配置されている。
【0091】
このような第3実施形態のノイズ低減用巻線素子1cは、比較的小さな電流に対して第2磁性円筒部材15が機能することで、比較的小さな電流に対してもノイズをより低減することができる。
【0092】
なお、図17には、第2実施形態のノイズ低減用巻線素子1bにおいて、さらに、第2磁性円筒部材15を備える第3実施形態のノイズ低減用巻線素子1cが示されているが、上述したように、第3実施形態のノイズ低減用巻線素子は、図1に示す第1実施形態のノイズ低減用巻線素子1aにおいて、さらに、第2磁性円筒部材15を備えてもよい。
【0093】
次に、別の実施形態について説明する。
【0094】
(第4実施形態)
これら上述の第1ないし第3実施形態のノイズ低減用巻線素子1a、1b、1cにおけるコイル11は、シングルパンケーキ構造であるが、これら上述の第1ないし第3実施形態のノイズ低減用巻線素子1a、1b、1cにおいて、このコイル11に代え、ダブルパンケーキ構造のコイル31が用いられてもよい。
【0095】
このようなダブルパンケーキ構造のコイル31を備える第4実施形態におけるノイズ低減用巻線素子1dは、コイル31と、磁性コア12と、磁性板部材13とを備えている。この第4実施形態のノイズ低減用巻線素子1dにおける磁性コア12および磁性板部材13は、磁性コア12がコイル11に代えコイル31を収納する点を除き、第1実施形態のノイズ低減用巻線素子1aにおける磁性コア12および磁性板部材13と同様であるので、その説明を省略する。
【0096】
コイル31は、帯状の長尺な導体部材を、該導体部材の幅方向がコイル31の軸方向に沿うように絶縁材を挟んで巻回することによって構成される(フラットワイズ巻線構造)。そして、コイル31は、重ね合わせた帯状の複数の導体部材を上部コイルおよび下部コイルの軸方向に2層に巻き上げたいわゆるダブルパンケーキ構造である。
【0097】
このような第4実施形態のノイズ低減用巻線素子1dは、例えば、次の各工程によって製造することができる。図18は、第4実施形態におけるノイズ低減用巻線素子の製造方法を示す図である。
【0098】
まず、所定の厚さtを有するとともに絶縁被覆された帯状の導体部材がサブコイルの個数(相数)だけ用意される。以下では、3相に対応するノイズ低減用巻線素子1dを製造すべく、導体部材が3個として説明する。もちろん、各工程は、任意の個数(1または複数)の導体部材であっても同様に実施することができる。
【0099】
次に、これら絶縁被覆された3個の導体部材が順次に重ね合わせられ(順次に積層され)、図18(A)に示すように、この重ね合わされた3個の導体部材(重ね合わせ導体部材SB)がその両端からそれぞれ巻回され、その中間部分が例えば塑性成形によって帯状の重ね合わせ導体部材SBを含む平面内において長尺方向と直交する方向(幅方向)に所定角度だけ曲げられる。
【0100】
次に、図18(B)に示すように、この曲げた部分が中心巻枠CFの外周面に当接され、この重ね合わせ導体部材SBが、この当接点を起点に、所定の巻き数となるように、中心巻枠CFの外周面に巻き付けられ、図18(C)に示すように、中心巻枠CFを巻枠としてダブルパンケーキ巻き(DP巻き)される。
【0101】
次に、重ね合わせ導体部材SBが中心巻枠CFに巻き付け終わると、図18(D)に示すように、中心巻枠CFが抜き取られて、第1ないし第3コイル311〜313から構成されて成るコイル31が形成される。
【0102】
次に、図18(E)に示すように、各磁性板部材131、132がコイル31の軸方向の両端面にそれぞれ配設され、重ね合わせ導体部材SBの巻き残しが第1ないし第3コイル311〜313の各接続端子Tm1〜Tm3として外部に取り出されるように、磁性コア12内に、磁性板部材131、132およびコイル31が収納される。
【0103】
このような手順によって、磁性板部材131、132およびダブルパンケーキ構造のコイル31を有底有蓋円筒形状の磁性コア12収納する第4実施形態のノイズ低減用巻線素子1dが作製される。
【0104】
このようなダブルパンケーキ構造のコイル31を用いた第4実施形態のノイズ低減用巻線素子1dは、コイル31の巻始め端と巻き終わり端とを容易にコイル31の外周へ引き出すことができ、コイル31に対する配線が容易となる。
【0105】
なお、上述において、第2および第3実施形態のノイズ低減用巻線素子1b、1cのように、さらに、第1磁性円筒部材14および/または第2磁性円筒部材15を備えてもよい。すなわち、図16に示す第2実施形態のノイズ低減用巻線素子1bにおいて、コイル11に代えコイル31が用いられてもよく、また、図17に示す第3実施形態のノイズ低減用巻線素子1cにおいて、コイル11に代えコイル31が用いられてもよく、また、図略の第1磁性円筒部材14を備えずに、磁性板部材13および第2磁性円筒部材15を備える第3実施形態のノイズ低減用巻線素子において、コイル11に代えコイル31が用いられてもよい。なお、Aおよび/またはBは、AおよびBのうちの少なくとも一方を意味する。
【0106】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0107】
1a、1b、1c、1d ノイズ低減用巻線素子
11、31 コイル
12 磁性コア
13 磁性板部材
図1
図2
図3
図5
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
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図17
図18
図4
図6