(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5789596
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】高品質液体燃料を製造するためのバイオマスの水素化熱分解
(51)【国際特許分類】
C10G 1/00 20060101AFI20150917BHJP
C10G 1/06 20060101ALI20150917BHJP
C10G 65/12 20060101ALI20150917BHJP
C10G 47/02 20060101ALI20150917BHJP
C10G 45/02 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
C10G1/00 C
C10G1/06 Z
C10G65/12
C10G47/02
C10G45/02
【請求項の数】20
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-504669(P2012-504669)
(86)(22)【出願日】2010年4月5日
(65)【公表番号】特表2012-523473(P2012-523473A)
(43)【公表日】2012年10月4日
(86)【国際出願番号】US2010001019
(87)【国際公開番号】WO2010117436
(87)【国際公開日】20101014
【審査請求日】2012年11月15日
(31)【優先権主張番号】12/419,535
(32)【優先日】2009年4月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591002016
【氏名又は名称】ガス、テクノロジー、インスティチュート
【氏名又は名称原語表記】GAS TECHNOLOGY INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(72)【発明者】
【氏名】テリー、エル.マーカー
(72)【発明者】
【氏名】ラリー、ジー.フェリックス
(72)【発明者】
【氏名】マーティン、ビー.リンク
【審査官】
▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−308564(JP,A)
【文献】
特開2007−153928(JP,A)
【文献】
特表2012−523474(JP,A)
【文献】
特表2011−515539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 65/12
C10G 45/02
C10G 47/02
C10L 1/06
C10L 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスから液体生成物を製造するプロセスであって、
a)前記バイオマスを、分子状水素および脱酸素触媒を含む水素化熱分解反応容器中で水素化熱分解し、CO2、CO、およびC1〜C4ガス、部分的に脱酸素された水素化熱分解生成物、チャー、および第1ステージ熱を含んでなる水素化熱分解反応産物を生成する工程、
b)前記水素化熱分解反応産物から前記チャーを除去する工程、
c)前記工程a)で生成したCO2、CO、およびC1〜C4ガスの存在下で、水素化転化触媒を用いて水素化転化反応容器中で前記部分的に脱酸素された水素化熱分解生成物を水素化転化し、完全に脱酸素された水素化熱分解生成物と、CO、CO2、および軽質炭化水素ガス(C1〜C4)を含んでなるガス状混合物と、第2ステージ熱とを生成する工程、
d)前記ガス状混合物の少なくとも一部を水蒸気改質し、改質された分子状水素を生成する工程、および
e)前記改質された分子状水素を、前記バイオマスを水素化熱分解する前記反応容器中に導入する工程、
を含んでなり、
前記工程a)およびc)が、前記バイオマス中の酸素の40〜60%がH2Oに転化され且つ前記酸素の40〜60%がCOおよびCO2に転化される条件下で行われる、プロセス。
【請求項2】
前記水素化転化触媒が、水性ガスシフト反応および水素化転化の両方を触媒する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記工程a)、c)、およびd)が、実質的に同じ圧力で行われる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記圧力が、2.07MPa〜5.52MPa(約300〜約800psig)である、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記水素化熱分解が、427℃〜510℃(約800〜約950°F)の温度で行われ、前記水素化転化が、316℃〜427℃(約600〜約800°F)の温度で行われる、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記水素化転化が、0.3〜0.7の液空間速度で行われる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
前記完全に脱酸素された水素化熱分解生成物が、輸送燃料としての使用に適したディーゼル留分およびガソリン留分に分離される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
前記水素化熱分解反応容器が、流動床を含む流動床反応器であり、前記水素化熱分解反応容器中でのガス滞留時間が1分未満である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
前記流動床の上方から、前記チャーが、前記流動床反応器から除去される、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記完全に脱酸素された水素化熱分解生成物の高沸点部分を用いた再循環液体中で前記水素化熱分解によるガス産物を泡立たせることで、前記水素化熱分解反応産物からチャーが除去される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項11】
前記プロセスの産物が、液体生成物およびCO2から本質的になる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項12】
前記脱酸素触媒が、粒状化されており且つ前記チャーを摩耗させるような十分な耐摩耗性を有し、それにより、前記流動床の上方から前記チャーを前記流動床反応器から除去することが可能になる、請求項8に記載のプロセス。
【請求項13】
バイオマスから液体生成物を製造するプロセスであって、
H2および脱酸素触媒の存在下にて反応容器中で前記バイオマスを熱分解し、部分的に脱酸素された水素化熱分解生成物、チャー、および第1の熱部分を含んでなる熱分解プロセス産物を生成する工程、
前記熱分解プロセス産物から前記チャーを分離する工程、
前記部分的に脱酸素された水素化熱分解生成物を水素化転化触媒の存在下で水素化転化し、完全に脱酸素された水素化熱分解生成物と、COおよびC1〜C4軽質炭化水素ガスを含んでなるガス状混合物と、第2の熱部分とを生成する工程、
前記ガス状混合物の少なくとも一部を水蒸気改質し、改質されたH2を生成する工程、および
前記バイオマスの前記熱分解の前記反応容器中に前記改質されたH2を再循環させる工程、
を含んでなり、
前記バイオマス中の酸素の40〜60%が、H2Oに転化され、前記酸素の40〜60%が、COおよびCO2に転化される、プロセス。
【請求項14】
前記水素化転化触媒が、水性ガスシフト反応および水素化転化の両方を触媒する、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
前記水素化熱分解工程および前記水素化転化工程が、同じ圧力で行われる、請求項13に記載のプロセス。
【請求項16】
前記圧力が、2.07MPa〜5.52MPa(約300〜約800psig)である、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
前記水素化熱分解工程が、427℃〜510℃(約800〜約950°F)の水素化熱分解温度で行われ、前記水素化転化工程が、316℃〜427℃(約600〜約800°F)の水素化転化温度で行われる、請求項13に記載のプロセス。
【請求項18】
前記完全に脱酸素された水素化熱分解生成物が、輸送燃料としての使用に適したディーゼル留分およびガソリン留分に分離される、請求項13に記載のプロセス。
【請求項19】
前記反応容器が、流動床を含む流動床反応器である、請求項13に記載のプロセス。
【請求項20】
前記プロセスの産物が、液体生成物およびCO2から本質的になる、請求項13に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスを高品質液体燃料に熱化学的に変換する統合プロセス(integrated process)に関する。本発明の一実施形態としては、バイオマスから高品質液体燃料を製造するための実質的自己維持(self−sustaining)プロセスに関する。本発明の別の実施形態としては、バイオマスから高品質液体燃料を製造するための多段階水素化熱分解プロセスに関する。本発明の別の実施形態としては、全てのプロセス流体がバイオマスによってまかなわれる、バイオマスを高品質液体燃料に変換する水素化熱分解プロセスに関する。本発明の別の実施形態としては、プロセス産物が実質的に液体生成物およびCO
2のみである、バイオマスを高品質液体燃料に変換する水素化熱分解プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスの従来の熱分解、典型的には急速熱分解は、H
2または触媒を利用しないか又は必要とせず、プロセス中に形成された水、オイル、およびチャーを含有する濃い酸性の反応性液体生成物を生成する。急速熱分解は、最も一般的には不活性雰囲気下で行われるため、バイオマス中に存在する酸素の多くが熱分解中に生成したオイル中に持ち込まれ、オイルの化学的反応性が高くなる。この従来の熱分解によって生成する不安定な液体は、時間の経過と共に増稠(thicken)し易く、親水性相および疎水性相が形成されるまで反応することもあり得る。熱分解液体をメタノール等のアルコールで希釈するとオイルの活性および粘度が低下することが示されているが、大量の熱分解液体を生成および輸送するために大量の回収不能なアルコールが必要であることから、このアプローチは実用的でないまたは経済的に実行可能ではないとは考えられている。
【0003】
不活性環境下で行われる従来の熱分解では、水混和性液体生成物は、高度に酸素化されており且つ反応性であり、全酸価(TAN)が100〜200であり、重合化に対する化学的安定性が低く、水混和性であるために石油炭化水素と相溶性でなく、酸素含有量が約40重量%と非常に高く、発熱量が少ない。したがって、この生成物の輸送および利用には問題があり、従来の熱分解および従来の急速熱分解中に通常起こる逆行反応(retrograde reaction)のため、この生成物を液体燃料にアップグレードすることは困難である。更に、従来の熱分解によって生成したチャーを液体の熱分解生成物から除去することは、熱分解蒸気中に大量の酸素およびフリーラジカルが存在し、これらが高い反応性を維持しておりフィルター表面上でチャー粒子と密着した時にピッチ様の材料を形成するため、技術的に困難である。その結果、高温の熱分解蒸気からチャーを分離するために使用されるフィルターは、フィルター表面上のチャー層の上またはその内部で起こるチャーおよびオイルの反応によってすぐに詰まる。
【0004】
従来の急速熱分解によって生成された熱分解オイルの水素化転化によるアップグレードは、過剰なH
2を消費し、プロセス条件が極端であるため、不経済である。この反応は、高圧が必要であるため本質的にバランスがとれておらず、過剰な水を生成し、過剰なH
2を消費する。更に、水素化転化反応器は、熱分解オイル中に存在するコークス前駆物質のためまたは触媒の結果生じるコークス生成物によって、頻繁に詰まる。
【0005】
一般的に、水素化熱分解は、分子状水素の存在下で行われる触媒的な熱分解プロセスである。通常、従来の水素化熱分解プロセスの目的は単一工程での液体収率を最大化することであったが、第2ステージの反応が付け加えられたケースであっても、その目的は、高い酸素除去率を得つつ収率を最大化することであった。しかし、このアプローチでさえ、経済性が損なわれ、H
2の外部源を必要とする系になり、過剰な内部圧で行わなければならない。水素の連続的供給が必要であることに加え、そのような従来の水素化熱分解プロセスでは過剰なH
2Oが生成し、これをその後処理しなくてはならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的の1つは、水素化熱分解を用いてバイオマスを液体生成物に転化する、バランスのとれた自己維持プロセスを提供することである。自己維持とは、一度プロセスが開始されれば、外部源から更なる反応物、熱、またはエネルギーをプロセスに供給する必要がないことを意味する。
【0007】
本発明のもう1つの目的は、水素化熱分解を用いてバイオマスを液体生成物に転化するプロセスであって、プロセス全体の総産物が実質的に液体生成物およびCO
2のみであるプロセスを提供することである。本発明において、「液体生成物」という用語は、本発明のプロセスによって生成される炭化水素生成物、通常−C
5+の液体を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記および本発明のその他の目的は、バイオマスから液体生成物を製造する多段階自己維持プロセスであって、分子状水素および脱酸素触媒を含む反応容器中でバイオマスが水素化熱分解されることで、部分的に脱酸素された熱分解液体、チャー、および第1ステージプロセス熱が生じるプロセスによって取り組まれる。部分的に脱酸素された熱分解液体は、水素化転化触媒を用いて水素化され、実質的に完全に脱酸素された熱分解液体と、COおよび軽質炭化水素ガス(C
1〜C
4)を含んでなるガス状混合物と、第2ステージプロセス熱とが生成される。ガス状混合物はその後、水蒸気改質装置中で改質され、改質された分子状水素が生成される。改質された分子状水素はその後、更なるバイオマスを水素化熱分解するために反応容器に導入される。
【0009】
完全にバランスのとれた自己維持プロセスを提供するために、水素化熱分解工程および水素化転化工程は、バイオマス中の酸素の約40〜60%がH
2Oに転化され且つ酸素の約40〜60%がCOおよびCO
2に転化される条件下で行われる。すなわち、生成したH
2O中の酸素の、生成したCOおよびCO
2中の酸素に対する割合は約1となる(すなわち、H
2O/(CO+CO
2)≒1)。好ましくは、水素化熱分解工程および水素化転化工程のプロセス圧力は約300〜約800psigであり、両方の工程でほぼ同じである。約800psigを超える圧力では、液体生成物の収率がより高くなる。これは、液体生成物の収率を最大化するために従来のプロセスで用いられる運転パラメータの根拠であるが、このようなより高い圧力では、より多量の水も生成し、その結果、プロセス全体のバランスが崩れ、例えばプロセスを完全にするために水素化熱分解反応容器に外部源から更に水素を導入する必要がある。更に、このより高い圧力で生成した過剰の水は、その後精製して処理しなければならない。好ましくは、水素化熱分解工程および水素化転化工程の温度は約650〜約900°Fである。
【0010】
本発明の上記およびその他の目的および構成は、以下の詳細な説明および図面から更に深く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態による、バイオマスから液体燃料を製造する自己維持プロセスの模式的流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示す本発明のプロセスは、外部から供給されるH
2、CH
4、または水を必要とせずに、バイオマスを輸送燃料としての使用に適したガソリンおよびディーゼル液体生成物に熱化学的に変換する、コンパクトでバランスのとれた統合多段階プロセスである。このプロセスの第1反応ステージでは、加圧され且つ触媒で増強された水素化熱分解反応容器10を用いて、チャーが少なく部分的に脱酸素された水素化熱分解液体生成物を生成し、この生成物からチャーを除去する。第2反応ステージ(チャー除去の後)では、第1反応ステージと実質的に同じ圧力で水素化転化プロセスが行われる水素化転化反応容器11を用いる。次いで、高圧セパレーター12、13、および低圧セパレーター14を用いて、第2反応ステージの生成物を冷却して液体留分と気体留分に分離する。その後、2つのステージで生成したCOおよびC
1〜C
4軽質ガスを同じくプロセス中に生成した水を用いて水蒸気改質装置15中で水蒸気改質してH
2を生成する。本発明の重要な態様は、プロセスに必要な熱エネルギーが、第1および第2ステージの両方で起こる発熱反応である脱酸素反応の反応熱により供給されることである。本発明のもう1つの重要な態様は、バイオマス原料を厳密に乾燥させる必要がないことであり、実際、バイオマス原料中への水の添加または別個の原料としての水の添加は、水性ガス転化反応によるその場での(in−situ)H
2形成を促進するので、プロセスにとって好都合である。
【0013】
本発明のバランスのとれた統合プロセスは、脱炭酸、脱カルボニル、および水素化脱酸素のレベルのバランスがとられる条件下で行われ、プロセスの終わりにバイオマス中に存在する酸素の40〜60%がCOおよびCO
2として排出(reject)され、バイオマス中の酸素の残り40〜60%がH
2Oとして排出され、このH
2Oはプロセスで生成した親水性の液体生成物から容易に分離されて改質プロセスに使用される。全体では、プロセスの最初の2つのステージで生成された軽質ガスをプロセスで生成された水を用いて改質した後、プロセス中の酸素の95%超がCO
2として排出される。
【0014】
この固有の反応バランスは本発明のプロセスに非常に重要であり、各工程で適切な触媒およびプロセス条件を選択することで達成される。本発明のプロセスの各工程は、使用されるストリーム上での時間、温度、圧力、および触媒に応じて種々の生成物を生じ得るが、これらのプロセスが本発明の特定の一連の工程およびプロセス条件に統合された時にだけ、プロセス全体のH
2、CH
4、および水の全要求量がバイオマスにより供給されるバランスのとれたプロセスを提供することができ、このことは、妥当な価格で販売することができる代替燃料の製造に非常に重要である。
【0015】
図1に示す本発明のプロセスの第1工程では、バイオマスおよび分子状水素が、脱酸素触媒の入った反応容器10に導入され、この容器中でバイオマスが水素化熱分解され、チャーが少なく部分的に脱酸素された水素化熱分解液体生成物と、熱分解蒸気(C
1〜C
4ガス)と、H
2Oと、COと、CO
2と、H
2とを含んでなる産物が生成する。水素化熱分解に適した任意の反応容器を使用してよいが、好ましい反応容器は流動床反応器である。水素化熱分解プロセスでは、反応容器中の熱分解蒸気の滞留時間が約5分未満であるように、バイオマス燃料を急速に加熱する。これに対して、チャーは反応容器の底から除去されないため、滞留時間が比較的長く、そのため、反応容器の上部近くから出る蒸気によって粒子が外へ運ばれるのに十分な小ささまで、粒子サイズが小さくならなければならない。
【0016】
水素化熱分解は、反応容器中で、約800〜約950°Fの温度、約300〜約800psigの圧力で行われる。従来の水素化熱分解プロセスでは、前述したように、その目的は液体生成物の収率を最大化することであり、それにはかなり高い圧力、例えば2000psigでの運転が必要である。これは、低圧では脱炭酸が起こりやすく、高い運転圧では水素化脱酸素が起こりやすいからである。本発明のプロセス中の圧力を300〜800psig、最も好ましくは約500psigに維持することで、脱炭酸と脱水素化脱酸素のバランスがとられるが、液体生成物の収率は低下する。より高い圧力では、水素化脱酸素が多くなり、反応のバランスが崩れる。
【0017】
前述したように、本発明の水素化熱分解プロセスでは、固形バイオマス原料が、好ましくは高温流動床中で、急速に加熱され、その結果、液体生成物の収率が従来の急速熱分解の収率に匹敵するか、それより高くなることもあり得る。しかし、今度は熱分解の蒸気が流動床内で触媒および高分圧H
2の存在下にあるため、水素化活性およびいくらかの脱酸素活性が生じる。水素化活性は、反応性オレフィンの重合化を防止することで不安定なフリーラジカルの形成を低減するのに非常に望ましい。同様に、脱酸素活性も重要であり、発熱的な脱酸素反応により熱分解からの反応熱が供給されることで外部から加熱する必要がなくなる。従来の熱分解プロセスに対する水素化熱分解の利点は、水素化熱分解では、不活性雰囲気下(ほとんどの場合H
2非存在下であり、通常は触媒非存在下)で通常起こる、元のバイオマス中に存在しない多環芳香族化合物、フリーラジカル、およびオレフィン化合物の望ましくない形成を促進する熱分解の逆行反応が回避されることである。
【0018】
本発明の第1ステージ水素化熱分解プロセスは、水素化転化プロセスの典型的な温度よりも高い温度で行われ、その結果、バイオマスが急速に液化される。したがって、このプロセスは、水素化熱分解蒸気を安定化するための活性触媒を必要とするが、急速にコークス化するほど活性ではない。本プロセスの温度範囲での使用に適した任意の脱酸素触媒が水素化熱分解プロセスに使用され得るが、本発明の好ましい実施形態に係る触媒は以下の通りである。
【0019】
ガラスセラミック触媒
ガラスセラミック触媒は、非常に強力且つ耐摩耗性であり、熱含浸された(すなわち担持された)触媒としてまたはバルク触媒として調製することができる。硫化されたNiMo、Ni/NiO、またはCoベースのガラスセラミック触媒として使用する場合、得られる触媒は、容易に入手可能であるが柔らかい従来のNiMo、Ni/NiO、またはCoベースの触媒の耐摩耗型である。硫化されたNiMo、Ni/NiO、またはCoベースのガラスセラミック触媒は、従来の担持触媒の触媒作用を提供することができ、はるかに強固で耐摩耗性の形態であるため、高温流動床中での使用に特に適している。更に、触媒の耐摩耗性により、反応容器内で水素化熱分解反応が進行するにつれてバイオマスとチャーは同時により小さい粒子へと粉砕される。したがって、触媒の強度および耐摩耗性が非常に高いため、最終的に回収されるチャーに触媒からの触媒混入物が実質的に含まれない。触媒の摩耗速度は、典型的には、標準的な高速ジェットカップ摩耗試験(high velocity jet cup attrition test)指数試験による測定で、約2重量%/時間未満、好ましくは1重量%/時間未満である。
【0020】
リン化ニッケル触媒
リン化Ni触媒は、作用するために硫黄を必要としないため、硫黄を含まない環境中でも、H
2S、COS、およびその他の硫黄含有化合物を含む環境中と同じように活性である。したがって、この触媒は、硫黄がほとんどまたは全く存在しないバイオマスに対しても、硫黄を含むバイオマス(例えばトウモロコシ茎葉)の場合と同じように活性である。この触媒は、別個の触媒として炭素に含浸されてもよく、バイオマス供給原料自体に直接含浸されてもよい。
【0021】
ボーキサイト
ボーキサイトは非常に安価な材料であるため、使い捨て触媒として使用することができる。ボーキサイトはNi、Mo等のその他の材料と含浸されてもよく、硫化されてもよい。
【0022】
低活性水素化転化触媒を形成するために少量のNiMoまたはCoMoを含浸して硫化された小サイズ噴霧乾燥シリカ−アルミナ触媒
市販のNiMoまたはCoMo触媒は通常、固定床または沸騰床中で使用するための1/8〜1/16の大サイズのタブレットとして提供されている。本発明の場合には、NiMoが噴霧乾燥シリカアルミナ触媒に含浸され、流動床中で使用される。この触媒は、従来のNiMo触媒よりもNiMoの充填量が少なく低い活性を示すが、流動床中での使用に適したサイズである。
【0023】
水素化熱分解プロセスと水素化転化プロセスの間で、熱分解液体生成物からチャーが除去される。チャーは、フィルターを被覆し、酸素化された熱分解蒸気と反応して、高温プロセスフィルターを詰まらせ得る粘性の被膜を形成し易いため、チャーの除去は従来の急速熱分解における大きな障壁であった。チャーは、蒸気ストリームからのろ過または洗浄工程からのろ過(沸騰床)により、本発明のプロセスに従って除去され得る。本発明のプロセスで使用される水素が熱分解蒸気の反応性を十分に低減させていれば、フィルターからのチャーの除去にバックパルスを使用してもよい。電気集塵またはバーチャルインパクタセパレーターを用いて、液体生成物の冷却および凝縮前に高温の蒸気ストリームからチャーおよび灰粒子を除去してもよい。
【0024】
本発明の一実施形態では、高温ガスろ過を用いてチャーを除去してもよい。この場合、水素がフリーラジカルを安定化し且つオレフィンを飽和しているため、フィルターに捕捉されたダストケーキは、従来の急速熱分解で生成するエアロゾルの高温ろ過によって除去されるチャーよりも容易に清浄化されるはずである。本発明の別の実施形態では、再循環液体中で第1ステージ生成物ガスを泡立てる(bubble)ことでチャーが除去される。使用される再循環液体は、本プロセスの最終オイルの高沸点部分であり、したがって、沸点が約650°°Fよりも高い完全に飽和(水素化)されて安定化されたオイルである。第1反応ステージに由来するチャーまたは触媒の微粉(fine)はこの液体中に捕捉される。液体の一部は微粉を除去するためにろ過され得、一部は第1ステージの水素化熱分解反応器へと再循環され得る。再循環液体を使用する利点の1つは、チャーおよび触媒の微粒子を除去しつつ第1反応ステージに由来するチャーを含むプロセス蒸気の温度を第2反応ステージの水素化転化プロセスに望ましい温度まで下げる方法が提供されることである。液体ろ過を用いるもう1つの利点は、詳細な報告のあるフィルター清浄化の問題を伴う高温ガスろ過の使用が完全に回避されることである。
【0025】
本発明の一実施形態では、沸騰床中に配置された大サイズのNiMoまたはCoMo触媒をチャーの除去に用いて微粒子の除去と同時に更に脱酸素を行う。この触媒の粒子は大きいべきであり、好ましくは約1/8〜1/16インチのサイズであるべきであり、それにより、第1反応ステージから運ばれた通常200メッシュ(約70マイクロメートル)未満である微粉チャーから容易に分離することが可能になる。
【0026】
チャー除去後、熱分解液体蒸気は、第1反応ステージの水素化熱分解工程に由来するH
2、CO、CO
2、H
2O、およびC
1〜C
4ガスと共に、水素化転化反応容器11に導入され、そこで、第2反応ステージの水素化転化工程を受ける。この水素化添加工程は、好ましくは、触媒の寿命を延ばすために第1反応ステージの水素化熱分解工程よりも低い温度(600〜800°°F)および第1反応ステージの水素化熱分解工程とほぼ同じ圧力(300〜800psig)で行われる。この工程の液空間速度(LHSV)は約0.3〜約0.7である。この工程で使用される触媒は、触媒の作用を損なわせ得る、バイオマス中に存在するNa、K、Ca、P、およびその他の金属から保護されるべきであり、そうすることで触媒の寿命が延びやすくなる。この触媒は、第1反応ステージのプロセスで行われる触媒アップグレードによりオレフィンおよびフリーラジカルからも保護されるべきである。この工程に通常選択される触媒は高活性水素化転化触媒、例えば硫化NiMoおよび硫化CoMo触媒である。この反応ステージでは、触媒はCO+H
2Oの水生ガスシフト反応を触媒してCO
2+H
2を生成するために使用され、これにより、第2反応ステージ反応容器11中でその場での(in situ)水素生成が可能になり、水素化転化に必要な水素が少なくなる。NiMoおよびCoMo触媒はどちらも水性ガスシフト反応を触媒する。この第2反応ステージの目的もやはり脱酸素反応のバランスをとることである。このバランス調整は、適切な触媒選択に加えて比較的低圧(300〜800psig)を用いて行われる。従来の水素化脱酸素プロセスでは約2000〜約3000psigの圧力が通常使用される。これは、従来のプロセスが、極めて不安定であり且つ低いH
2圧で処理することが困難な熱分解オイルの転化を意図しているからである。
【0027】
水素化転化工程後、オイル生成物は実質的に完全に脱酸素されており、高圧セパレーター12、13、および低圧セパレーター14を用いて分離された後、ガソリン部分およびディーゼル部分に蒸留することで輸送燃料として直接使用することができる。このプロセスの重要な態様は、プロセス内で生成する軽質ガスを改質することでプロセスに必要な全H
2を生成することができるように、温度、圧力、および空間速度を調整して脱カルボニル化、脱炭酸、および水素化脱酸素のレベルのバランスをとることである。過剰な水素化脱酸素が起こると、プロセスに過剰なH
2が必要になり、系のバランスが崩れる。同様に、過剰な脱炭酸または脱カルボニル化が起こると、過剰な炭素が液体生成物に転化される代わりにCO
2およびCOに失われ、その結果、液体の収率が低下する。
【0028】
水素化転化工程後、そこからの流出物は、沸騰しているガソリンおよびディーゼル材料が凝縮して軽質ガスだけが蒸気相に残るように実質的に冷却される。これらのガス(CO、CO
2、CH
4、エタン、プロパン、ブタン、ヘプタン等を含む)は、プロセスで生じた水と共に水蒸気改質装置15に送られてH
2およびCO
2に転化される。これらのガスの一部は炉またはその他の燃焼器内で燃焼され、ガスの残りの部分を水蒸気改質装置の運転温度である約1700°Fに加熱する。水蒸気改質装置は、反応平衡を動かすために原料中の水蒸気と炭化水素の比率が3:1であるが、これは反応に必要な量よりもはるかに多い。水蒸気は回収されて水蒸気改質装置内でリサイクルされる。CO
2は圧力スイング吸着(PSA)によってプロセスから除かれ、H
2はプロセスの第1反応ステージ(水素化熱分解)に再循環される。生成液は輸送燃料としての使用に適したディーゼル留分およびガソリン留分に分離される。
【0029】
更に、このプロセスは、水蒸気改質工程に必要な水が全て提供されるのに十分な水がプロセス中で生成するように、水に関してもバランスがとられている。本発明の一実施形態では、使用される水の量は、プロセス全体の産物が実質的にCO
2および液体生成物のみを含むような量であり、これにより、過剰な水を処理する追加的プロセス工程を回避している。本明細書中に記載する水素化熱分解工程および水素化転化工程と水蒸気改質との併用は、プロセスによって生成されるCOおよびCO
2中のO
2に対するH
2O中のO
2の割合が約1.0である自己維持プロセスを提供することが目的である場合にのみ意味があることが当業者には理解されよう。そのような目的がない場合には、水素化熱分解プロセスに必要なH
2が外部源によって提供されるので、水蒸気改質は不要である。本明細書に記載の目的をもたずに水蒸気改質を用いたとしても、プロセス産物が液体生成物およびCO
2から本質的になる本発明の自己維持プロセスは得られないであろう。
【0030】
本発明の一実施形態では、第2反応ステージで発生する熱は、第1反応ステージの水素化熱分解プロセスを進めるために必要な熱の全部または一部を供給するために用いられ得る。本発明の一実施形態では、プロセスは更に、前述したように、重質の最終生成物の再循環を第2工程における洗液として使用して、第1ステージの熱分解反応器から出るプロセスの微粉を捕捉し、反応熱を調整する。本発明の一実施形態では、この液体は、水素化転化にも再循環され、場合によると第1ステージ水素化熱分解工程にも再循環されて、各工程における熱の発生を調整する。再循環速度は、バイオマス供給速度の約3〜5倍が好ましい。これは、水素化脱酸素が強力な発熱反応であるため、必須である。
【0031】
本発明の一実施形態によれば、バイオマス原料は、高脂質含有バイオマス、例えば藻類であり、藻類から抽出された脂質から製造される同じ脱酸素ディーゼルオイルならびに藻類バイオマスの残部から製造することができる更なるガソリンおよびディーゼルの生成を可能にする。脂質の抽出は高価であるため、このことは特に魅力的である。対照的に、藻類バイオマスの従来の急速熱分解は、急速熱分解に特徴的な制御されない熱反応がこれらの脂質を分解するため、非常に魅力的でない。したがって、本発明の統合プロセスは、通常部分的にしか脱水されない藻類に対して行うことができ、それにも関わらず高品質のディーゼルおよびガソリン生成物を生成することができるため、藻類の転化に理想的である。
【0032】
本発明のプロセスは、以下の点で従来の急速熱分解をベースにしたプロセスに対する複数の明らかな利点を提供する。即ち、チャーがごくわずかであるか少ない、部分的に脱酸素された、安定化された生成物を生成し、高温ガスろ過または再循環液体との接触により残留チャーを生成物から容易に分離可能であること、上流で使用された圧力とほぼ同じ圧力で運転される直結された第2の触媒促進プロセスユニット中で、清浄且つ高温の水素化熱分解オイル蒸気を最終製品に直接アップグレードすることができること、および、水素化熱分解工程で生成した蒸気中で分解が起こり得る前に素早くアップグレードが行われること、である。
【0033】
このプロセスによって生成される液体生成物は、全酸価(TAN)が低く酸素含有量が5%未満、好ましくは2%未満であると考えられ、重合化に対する化学的安定性が良好であるか反応性が低減されていると考えられる。生成物の全酸素含有量が2%未満に低下されている本発明の好ましい実施形態では、炭化水素相が疎水性になっているため、任意の通常の分離容器中で水相と炭化水素相が容易に分離する。これは、高度に酸素化された熱分解オイルに水が混和性であり且つ混入する従来の熱分解と比べて、大きな利点である。表1は、混合硬材(hardwood)原料を用いた本発明に係るバランスのとれた水素化熱分解+水素化転化プロセスの推定材料バランスを示している。本発明が提唱するプロセスで生成される代替燃料は酸素含有量が低いので、このプロセスから生成した余分な水は全て、溶存炭化水素を比較的含まず、溶存する全有機炭素(TOC)が2000ppm未満であると考えられるので、乾燥地域での灌漑に好適である。更に、ここでの最終炭化水素生成物は容易に輸送可能であり、全酸価(TAN)が低く、化学的安定性が優れている。従来の急速熱分解では、熱分解オイルは通常、酸素化炭化水素の形態で50〜60%の酸素を含み、25%の溶存水を含む。したがって、本発明の統合された水素化熱分解+水素化転化プロセスの最終生成物の輸送コストは、従来の急速熱分解でのコストの半分未満である。更に、この提唱するプロセスで生成する水は、特に乾燥地帯にとって、貴重な副産物となる。
【0035】
本明細書中で、本発明を特定の好ましい実施形態に関連させて記載したが、多くの詳細は説明を目的として記載したものであり、本発明には更なる実施形態が可能であり、本明細書に記載した特定の詳細が本発明の基本原理から逸脱することなく大幅に変更可能であることは当業者には明らかであろう。