(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
超音波と電気信号を相互に変換する容量性振動要素と、複数の前記容量性振動要素が表面に形成された半導体基板と、前記容量性振動要素の表面側に設けられる音響レンズと、前記半導体基板の裏面側に設けられるバッキング層を備える超音波探触子において、
前記バッキング層は、前記半導体基板と接する第1のバッキング層と、該第1のバッキング層の裏面側に設けられる第2のバッキング層を有し、
前記第1のバッキング層の音響インピーダンスは、前記半導体基板の音響インピーダンスに比べて前記音響レンズの音響インピーダンスに近い値に設定され、
前記第2のバッキング層は、前記第1のバッキング層を透過した超音波を減衰可能な減衰材で形成され、
前記第1のバッキング層は、樹脂で形成され、該樹脂に該第1のバッキング層の線膨張係数を前記半導体基板の線膨張係数に近づける調整材を混入して形成され
前記調整材は、炭素繊維又はガラス繊維であり、繊維の長手方向を前記第1のバッキング層の長手方向に合わせて前記樹脂に混入されることを特徴とする超音波探触子。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。
(実施形態)
図1〜3に示すように、本実施形態の超音波探触子は、容量性の振動要素であるCMUTセル13と、多数のCMUTセル13が表面に形成された半導体基板15とで形成されたCMUTチップ1と、CMUTチップ1の表面側に設けられる音響レンズ3と、CMUTチップ1の裏面側に設けられるバッキング層5とを、ケース7に取り付けることよって形成されている。CMUTチップ1には、金属ワイヤ9を介してフレキシブル基板11が接続されている。フレキシブル基板11は、電源などの図示していない外部装置に電線を介して接続されている。これにより、CMUTチップ1に向けて駆動信号を送信できるとともに、直流バイアス電圧を印加できる。また、CMUTチップ1で受信した反射エコーを電気信号に変換して外部装置に送信できる。
【0016】
図2に示すように、各CMUTセル13は、絶縁材料からなる絶縁層17内に形成した凹所の開口を膜体18で塞いで形成された真空(又はガス封入)間隙19を有し、真空空隙19を挟んで膜体18の表面と絶縁層17の裏面に一対の電極21、23を対向させて設けた構造になっている。そして、CMUTセル13は、一対の電極21、23間に超音波周波数の電気信号を印加することにより、膜体18を静電気力で振動させて超音波を被検体内に送信する。また、被検体内からの反射エコーを膜体18で受信し、膜体18の変位を一対の電極21、23間の静電容量の変化として電気信号に変換する。また、各CMUTセル13の相互間は、絶縁層17で形成された枠体で隔離されている。各CMUTセル13は、
図3に示すように、リソグラフィ技術などの半導体製造技術によって、半導体基板15上にパターンニングして形成されている。このような構造を有する多数のCMUTセル13の集合体によって1つの振動子が形成され、このような振動子を同一の半導体基板15上に1次元又は2次元に複数配列してCMUTチップ1が形成さている。なお、導体デバイスの製造技術によってパターンニングされて、半導体基板15上に、例えば、1次元又は2次元に複数配置されるこのような構造を有する多数のCMUTセル13の集合体によって1つの振動子が形成される。なお、半導体基板15は、例えば、シリコンによって形成されている。
【0017】
図1に示すように、CMUTチップ1の表面側には、CMUTチップ1から照射された超音波を集束させる音響レンズ3が取り付けられている。音響レンズ3は、超音波の照射方向に突出する凸部を備えた、凸型の音響レンズである。音響レンズ3は、被検体の音響インピーダンスに近い材料で形成されている。例えば、生体を被検体とする場合は、生体の音響インピーダンスである1.5MRaylに近い音響インピーダンスの材料で、音響レンズ3は形成される。
【0018】
CMUTチップ1の裏面側には、CMUTチップ1の後方への超音波を吸収するバッキング層5が設けられている。バッキング層5と、CMUTチップ1の半導体基板15は、接着層25を介して接着している。なお、使用する超音波の使用周波数における波長よりも接着層25の厚みを薄くする、例えば、接着層25の厚みを10μm以下にすることが好ましい。これにより、使用周波数の超音波の大部分が接着層25を透過するから、接着層25の音響インピーダンスの影響を無視できる。
【0019】
次に、本実施形態の特徴構成を説明する。
図1に示すように、バッキング層5は、接着層25を介して半導体基板15と接する第1のバッキング層27と、第1のバッキング層の裏面側に設けられた第2のバッキング層29を備えている。バッキング層27は、半導体基板15の板厚に基づいて設定される設定値の音響インピーダンスの材料で形成される。バッキング層29は、バッキング層27よりも超音波の減衰率が高く、かつ、バッキング層27の音響インピーダンスに近い音響インピーダンスの材料で形成される。
【0020】
このように形成される本実施形態の超音波探触子の動作を説明する。CMUTセル13の電極21、23間に外部装置からフレキシブル基板11を介して所定の直流バイアス電圧が印加されて、CMUTセル13の電気機械結合係数が所定値に設定される。そして、外部装置からフレキシブル基板11を介して所定の駆動信号が電極21、23間に送信されると、電気機械結合係数に応じて超音波が生成される。生成された超音波は、音響レンズ3によって集束されて被検体に照射される。被検体で反射した超音波の反射エコーは、音響レンズ3を通過してCMUTセル13の膜体18を振動させる。この振動によって真空間隙19の静電容量が変化し、この変化に応じた電気信号が電極21、23間から出力される。この電気信号は、フレキシブル基板11を介して、CMUTチップ1から外部装置に送信され、適宜処理されて超音波画像が生成される。
【0021】
次に、本実施形態の超音波探触子の特徴動作を説明する。所定の音圧を得るために、CMUTセル13の電気機械結合係数を小さく設定する。そのため、圧電セラミック製のトランスデューサに比べて、CMUTは超音波を電気信号に変換する効率が低く、電気信号に変換されなかった反射エコーが半導体基板15を透過する。この反射エコーが半導体基板15とバッキング層5の界面で反射すると、多重反射の原因となる。この際、半導体基板15の板厚が厚い、例えば、板厚が200μmの場合は、半導体基板15とバッキング層5との音響インピーダンスを整合させると、半導体基板15とバッキング層5の界面の音圧反射率を低下できる。しかし、半導体基板15の板厚を200μmよりも薄くすると、半導体基板15とバッキング層5の界面の音圧反射率は増加する。例えば、後述する
図4によれば、半導体基板15の板厚が5μm、25μm、50μmの場合は、半導体基板15の音響インピーダンス(20MRayl)よりもバッキング層5の音響インピーダンスを下げた方が、半導体基板15とバッキング層5の界面の音圧反射率を低下できる。これは、使用する超音波の波長と比較して、半導体基板15の板厚が十分薄くなる、例えば、1/20以下になると、半導体基板15の音響インピーダンスの影響を無視できるためと推察される。そのため、半導体基板15とバッキング層5の界面を、音響レンズ3とバッキング層5の界面と見なすことができるから、バッキング層5の音響インピーダンスを下げて、音響レンズ3の音響インピーダンス(1.5MRayl)に近づけることで、半導体基板15とバッキング層5の界面の音圧反射率を低減できる。したがって、半導体基板15を透過した反射エコーは、半導体基板15とバッキング層5の界面を透過するので、この界面と被検体との間で反射エコーが繰り返し反射する多重反射を抑制できる。なお、半導体基板15の板厚を薄くすると、半導体基板15とバッキング層5の界面の音圧反射率が低下する傾向にあるから、半導体基板15の板厚を薄くすることが好ましい。一方、半導体基板15の板厚を薄くすると、半導体基板15の強度低下などの問題が生じるから、半導体基板15の板厚は25μm以上、好ましくは、25μm以上50μm以下が好ましい。
【0022】
ところで、バッキング層5の音響インピーダンスを下げるためには、バッキング層5の材料に、6―ナイロンのような熱可塑性の樹脂を用いることになる。このような樹脂は、一般に、線膨張係数が大きい。一方、半導体基板15は、線膨張係数が小さいシリコンなどで形成される。そのため、半導体基板15をバッキング層5に接着する際の熱応力によって、半導体基板15とバッキング層5の接合体に反りなどの構造歪みが生じる。特に、バッキング層5の長手方向は変形が大きく、構造歪みが大きい。このように構造歪みが生じると、目標の寸法が得られず、装置の信頼性が低下する。そこで、本実施形態は、半導体基板15に接する側に、線膨張係数を下げて半導体基板15に近づけた第1のバッキング層27を配置した。例えば、繊維の長手方向がバッキング層27の長手方向に沿うように、炭素繊維又はガラス繊維を樹脂に混合して、バッキング層27を形成する。
【0023】
一方、線膨張係数を下げたバッキング層27は、超音波の減衰率が低く、バッキング層27のみでは超音波を減衰しきれない。そこで、本実施形態は、バッキング層27の裏面側に、バッキング層27よりも超音波の減衰率が高い第2のバッキング層29を配置した。バッキング層29の材料は、バッキング層27よりも超音波の減衰率が高く、かつ、バッキング層27に用いた樹脂よりも弾性率が小さい樹脂、例えば、ポリウレタン、エポキシ樹脂、フェライトゴムなどを用いることができる。バッキング層27とバッキング層29の音響インピーダンスの差が大きいと、バッキング層27とバッキング層29の界面の音圧反射率が大きくなる。そのため、バッキング層29を形成する樹脂にタングステン、シリコンなどを混合し、バッキング層29の音響インピーダンスをバッキング層27の音響インピーダンスに近づける。これにより、バッキング層27とバッキング層29の界面の音圧反射率を小さくできるから、減衰率の高いバッキング層29により、反射エコーを減衰できる。以下、第1のバッキング層27と第2のバッキング層29の詳細を実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0024】
本発明の発明者らは、半導体基板とバッキング層の音響インピーダンスを整合させても、半導体基板の板厚が薄いと多重反射の抑制度合いが低いことを知見した。バッキング層の音響インピーダンスを、半導体基板の板厚に応じて変えると、多重反射の抑制に有効であることに基づく本発明の原理を説明する。
【0025】
被検体からの反射エコーが半導体基板を透過し、半導体基板とバッキング層の界面で反射し、この界面と被検体との間で繰り返し反射することにより、多重反射が生じる。したがって、半導体基板とバッキング層の界面の超音波の反射率(音圧反射率)を低減できれば、多重反射を抑制できる。この音圧反射率(mr)は、以下の数1で算出できる。
【0026】
【数1】
mr:半導体基板とバッキング層の界面の音圧反射率
Z
1:半導体基板の音響インピーダンス
Z
2:音響レンズの音響インピーダンス
Z
3:バッキング層の音響インピーダンス
γ
1:半導体基板の伝播定数
d
1:半導体基板の板厚
【0027】
半導体基板の音響インピーダンス(Z
1)を20MRaylとし、音響レンズの音響インピーダンス(Z
2)を1.5MRaylとし、バッキング層の音響インピーダンス(Z
3)を1.5MRayl、4MRayl、6MRayl、20MRaylとし、半導体基板の板厚(d
1)を5μm、25μm、50μm、200μmとして、半導体基板とバッキング層の界面の音圧反射率(mr)を数1で算出した。そして、算出した音圧反射率を半導体基板の板厚ごとに分類して、
図4(a)から(d)のグラフを得た。(a)は半導体基板の板厚が5μm、(b)は半導体基板の板厚が25μm、(c)は半導体基板の板厚が50μm、(d)は半導体基板の板厚が200μmの場合を示している。また、(a)から(d)は、縦軸を半導体基板とバッキング層の界面の音圧反射率、横軸を超音波診断に使用する超音波の使用周波数としたグラフである。なお、半導体基板の音響インピーダンス(Z
1)と半導体基板の伝播定数(γ
1)は、半導体基板の一般的な材料であるシリコンの音響インピーダンスと、超音波の伝播定数を用いた。
【0028】
半導体基板の板厚が薄い(a)から(c)と、半導体基板の板厚が厚い(d)を比較すると、半導体基板の板厚が薄い場合は、バッキング層の音響インピーダンスを、半導体基板の音響インピーダンスである20MRaylよりも低く設定すると、半導体基板とバッキング層の界面の音圧反射率を低減できる。これに対して、半導体基板の板厚が厚い場合は、バッキング層の音響インピーダンスを、半導体基板の音響インピーダンスである20MRaylに設定した方が、半導体基板とバッキング層の界面の音圧反射率を低減できる。これは、半導体基板の板厚が薄くなると、半導体基板の音響インピーダンスの影響が小さくなったためと推察される。すなわち、超音波探触子は、音響レンズ、半導体基板、バッキング層の順に形成されるため、半導体基板を無視すると、半導体基板とバッキング層の界面は、音響レンズとバッキング層の界面と見なすことができる。したがって、バッキング層の音響インピーダンスを下げて音響レンズに近づけることで、半導体基板とバッキング層で界面の音圧反射率が低減すると推察される。
【0029】
これらの知見に基づいて、本発明の超音波探触子の実施例1は、
図1〜3に示したように、超音波と電気信号を相互に変換する容量性振動要素であるCMUTセル13と、複数の容量性振動要素が表面に形成された半導体基板15と、容量性振動要素の表面側に設けられる音響レンズ3と、半導体基板15の裏面側に設けられるバッキング層5を備える超音波探触子において、バッキング層5は、半導体基板と接する第1のバッキング層27と、第1のバッキング層27の裏面側に設けられる第2のバッキング層29を有し、第1のバッキング層27は、半導体基板15の板厚に基づいて音響インピーダンスが設定され、第2のバッキング層29は、第1のバッキング層27を透過した超音波を減衰可能な減衰材で形成され、音響インピーダンスは第1のバッキング層27の音響インピーダンスに合わせて設定されることを特徴とする。
【0030】
すなわち、バッキング層5の音響インピーダンスが同じであっても、半導体基板15の板厚によって、半導体基板15とバッキング層5の界面の音圧反射率が変化するから、多重反射の抑制度合いが変わる。そのため、半導体基板15の板厚に基づいて、半導体基板15に接する第1のバッキング層27の音響インピーダンスを、多重反射の抑制に有効な音響インピーダンスに設定する。これにより、多重反射の抑制度合いを向上できるから、超音波画像の虚像の描出原因となる多重反射による不要応答を低減できる。
【0031】
なお、第1のバッキング層27は、半導体基板と接するので使用できる材料に制約があり、超音波の減衰率の高い材料を使用できないことがある。そのため、第1のバッキング層27よりも超音波の減衰率の大きな第2のバッキング層29を設け、第1のバッキング層
27を透過した反射エコーを減衰させることが好ましい。
【0032】
ところで
図4(b)によれば、超音波診断の超音波の使用周波数が5MHz以下の場合は、第1のバッキング層27の音響インピーダンスを1.5MRaylに設定すると、半導体基板15とバッキング層27の界面の音圧反射率が最も低くなる。一方、超音波の使用周波数が15MHzの場合は、第1のバッキング層27の音響インピーダンスを6MRaylに設定すると、半導体基板15とバッキング層27の界面の音圧反射率が最も低くなる。したがって、第1のバッキング層27の音響インピーダンスは、1.5MRayl以上6MRayl以下に設定することが好ましい。特に、超音波診断に使用する超音波の使用周波数は、一般に、2〜15MHzであるから、この使用周波数の超音波を一つの超音波探触子で送信する場合は、第1のバッキング層27の音響インピーダンスを4MRayl以上6MRayl以下に設定することで、使用周波数の広い領域において多重反射の抑制度合いを向上できる。
【0033】
また、
図4(c)の半導体基板の板厚が50μmの場合において、超音波の使用周波数が7MHzを超えると、第1のバッキング層27の音響インピーダンスが1.5MRaylでは、多重反射の抑制効果が従来よりも低い。したがって、この場合は、第1のバッキング層27の音響インピーダンスの設定値を、1.5MRaylを超える値、好ましくは、4MRayl以上6MRayl以下に設定することで、使用周波数の広い領域において、多重反射の抑制度合いを向上できる。
【0034】
ところで、第1のバッキング層27の音響インピーダンスを、1.5MRayl、4MRayl、6MRayl等の低い値に設定するためには、音響インピーダンスの低い樹脂で第1のバッキング層27を形成することになる。そのため、第1のバッキング層27の線膨張係数が大きくなる。一方、半導体基板15は線膨張係数の小さなシリコン等で形成される。そのため、半導体基板15と第1のバッキング層27との接着作業を高温で行うと、半導体基板15と第1のバッキング層27との接着時に生じる熱応力によって構造歪みが生じるおそれがある。
【0035】
この場合は、半導体基板15と第1のバッキング層27の線膨張係数を近づけることが好ましい。例えば、炭素繊維又はガラス繊維等の長手方向を第1のバッキング層の長手方向に合わせて樹脂に混入し、第1のバッキング層を形成することが好ましい。また、多孔質セラミックに樹脂を充填して第1のバッキング層27を形成することで、半導体基板15と第1のバッキング層27の線膨張係数を近づけることができる。
【0036】
図5(a)(b)に、実施例1の第1のバッキング層27を示す。実施例1は、音響インピーダンスが、音響レンズ3に近い6−ナイロンをベース31とし、このベース31に調整材として炭素繊維33を混入して、第1のバッキング層27を形成した。バッキング層27は、例えば、6−ナイロンと炭素繊維33の混合物を型に押し込む射出成形により形成できる。この際、型の壁面側は、摩擦により混合物の流速が低下し、炭素繊維33の長手方向が射出方向に揃えられる。したがって、6−ナイロンと炭素繊維33の混合物の注入方向とバッキング層27の長手方向を一致させることで、バッキング層27と炭素繊維33の長手方向を揃えることができる。これらにより、バッキング層27の音響インピーダンスを4MRaylに設定し、バッキング層27の長手方向の線膨張係数を5ppm/℃に調整した。ベース31の樹脂の種類や調整材の種類及び混合量を適宜変更することで、バッキング層27の音響インピーダンスと線膨張係数を所望の値に設定できる。なお、半導体基板15の材料であるシリコンの線膨張係数は、3ppm/℃である。一方、6−ナイロン単体の線膨張係数は、90から100ppm/℃であり、炭素繊維の線膨張係数は、約0ppm/℃である。また、バッキング層27は、長手方向と短手方向で線膨張係数が異なる異方性材料である。
【0037】
バッキング層27を、CMUTセル13が形成された半導体基板15に接着する。半導体基板15は、シリコンを材料とし、板厚を40μmに形成した。この状態で、バッキング層27の裏面側に第2のバッキング層29の型を取り付け、この型にバッキング層29の材料を流し込み、バッキング層27の裏面側にバッキング層29を形成した。バッキング層29の材料は、熱硬化型のポリウレタンをベースとして、このベースにタングステンを添加した混合物を用いた。これにより、バッキング層29の音響インピーダンスを4MRaylに設定し、弾性率を500MPaに設定した。また、バッキング層29の厚みを6mmとし、バッキング層29の硬化温度を40℃に設定した。なお、バッキング層29の音響インピーダンスと弾性率は、ベースの樹脂の種類、添加剤の種類及び添加量を適宜変更することで、所望の値に設定できる。また、バッキング層29の厚みは、バッキング層27の超音波の減衰率に基づいて、適宜設定できる。
【0038】
バッキング層27、29が形成されたCMUTチップ1を、ケース7に実装して、実施例1の超音波探触子とした。この超音波探触子の半導体基板15とバッキング層27の界面における超音波の音圧反射率を
図6に示す。
図6は、縦軸を半導体基板15とバッキング層27の界面の音圧反射率、横軸を超音波診断に使用する超音波の使用周波数としたグラフである。なお、半導体基板の音響インピーダンスに整合させるために、PVC―タングステンの複合材を使用して音響インピーダンスを20Mraylに設定し、その他の構成は実施例1と同じ超音波探触子を比較例1として
図6に記載した。
【0039】
図6から明らかなように、バッキング層27の音響インピーダンスを、半導体基板15の音響インピーダンスに整合させた比較例1よりも、音響レンズ3の音響インピーダンスに近づけた実施例1の方が、一般的な超音波の使用周波数(2から15MHz)において、半導体基板15とバッキング層27の界面における音圧反射率が低くなっている。例えば、超音波の使用周波数が5MHzでは、比較例1は音圧反射率が85%であったが、実施例1は63%まで低減できた。すなわち、実施例1の超音波探触子は、多重反射の抑制度合いが高いから、多重反射による虚像が超音波画像に現れることを抑制でき、信頼性の高い超音波画像を得ることができる。
【0040】
一方、半導体基板15とバッキング層27の接着時の加熱によって、半導体基板15とバッキング層27の接着体に反りが生ずる。この反り量を
図7に示す。
図7は、縦軸を接着体の反り量とし、横軸をバッキング層の長手方向の距離としたグラフである。また、ナイロンとタングステンの混合材料を使用して形成した線膨張係数60ppm/℃のバッキング層を、比較例2として
図7に記載した。
図7によれば、比較例2は、70mm程度の反りが発生しているが、実施例1は、反り量を10mm程度にまで低減できる。したがって、反りによる構造歪みを低減でき、超音波探触子の精度及び信頼性を向上できる。
【0041】
なお、第2のバッキング層29の線膨張係数は100ppm/℃であった。しかし、第2のバッキング層29を第1のバッキング層27よりも弾性率が小さく、かつ、硬化温度の低い材料を用いることで、バッキング層27、29の間に生ずる熱応力をバッキング層29で吸収できる。これにより、バッキング層27、29の間の構造歪みを抑制できる。
【0042】
なお、第1のバッキング層27の炭素繊維33の混合量を、例えば、40vol%に設定できる。しかし、炭素繊維33が多くなると、バッキング層27の断面に占める炭素繊維33が多くなり、音響インピーダンスが増加するから、上限は、炭素繊維33の混合量の上限は、50vol%以下に設定することが好ましい。また、炭素繊維33の長さは適宜選択できるが、例えば、長さが3mmの炭素繊維33を用いることができる。
【0043】
また、実施例1は、バッキング層27の線膨張係数を炭素繊維33で調整したが、炭素繊維33に代えてガラス繊維で線膨張係数を調整できる。
【0044】
また、シリカやタングステンをバッキング層27に混合して、バッキング層27の音響インピーダンスを調整できる。
【実施例2】
【0045】
図8に、実施例2の超音波探触子の、半導体基板15とバッキング層27の界面における超音波の音圧反射率を示す。実施例2が実施例1と相違する点は、半導体基板15の板厚を30μmに設定した点である。さらに、第2のバッキング層29を、エポキシ樹脂とタングステンの混合材料で形成した点である。なお、その他の構成は実施例1と同じであるから説明を省略する。また、実施例2のバッキング層29は、音響インピーダンスを4MRayl、弾性率を500MPa、厚みを6mm、線膨張係数を100ppm/℃、硬化温度を40℃に設定した。つまり、実施例2のバッキング層29は、組成以外は、実施例1と同じである。
【0046】
図8は、縦軸を半導体基板15とバッキング層27の界面の音圧反射率、横軸を超音波診断に使用する超音波の使用周波数としたグラフである。なお、半導体基板の音響インピーダンスに整合させるために、PVC―タングステンの複合材を使用して音響インピーダンスを20Mraylに設定した第1のバッキング層を用い、その他の構成は実施例2と同じ超音波探触子を、比較例3として
図8に記載した。
【0047】
図8から明らかなように、バッキング層27の音響インピーダンスを、比較例3よりも、実施例2の方が、一般的な超音波の使用周波数(2から15MHz)において、半導体基板15とバッキング層27の界面における音圧反射率が低くなっている。例えば、超音波の使用周波数が5MHzでは、比較例3の音圧反射率は85%であったが、実施例2で58%まで音圧反射率を低減できる。
【0048】
また、実施例1と実施例2を比較すると、実施例2の方が半導体基板15とバッキング層27の界面の音圧反射率が低くなっている。したがって、半導体基板15の板厚が薄い方が、半導体基板15とバッキング層27の界面の音圧反射率が低く、多重反射の抑制効果が高いことがわかる。
【0049】
なお、実施例2においても、実施例1と同様に、半導体基板15とバッキング層27の接着体の反り量を10mm程度に抑えることができる。
【実施例3】
【0050】
図9に実施例3の超音波探触子の短軸方向の断面図を示す。実施例3が実施例1と相違する点は、第2のバッキング層29をフェライトゴムで形成し、第1のバッキング層27と第2のバッキング層29を熱硬化型のエポキシ樹脂の接着剤で接着した点である。その他の構成は実施例1と同一であるから同一の符号を付して説明を省略する。
【0051】
フェライトゴムは、設定寸法に成形され、又は設定寸法に切り出されて形成されている。このフェライトゴムを減衰材として、バッキング層29に用いる。バッキング層27とバッキング層29は、接着材のエポキシ樹脂層35を介して接着した。この際、エポキシ樹脂層35の厚みを10μm以下まで薄くする。これにより、超音波の使用周波数での波長と比較して、材料厚みが著しく小さくできるから、エポキシ樹脂層35の音響インピーダンスを無視でき、エポキシ樹脂層35の界面における超音波の反射を抑制できる。
【0052】
実施例3の超音波探触子も、実施例1と同様に、半導体基板15とバッキング層27の界面における音圧反射率を低減できた。また、半導体基板15とバッキング層27の接合体の反り量は、実施例1よりも小さく、5mmであった。
【0053】
なお、バッキング層29としては、フェライトゴムの他、タングステン含有塩ビ酢ビ等、通常の超音波探触子におけるバッキング材をベースとした材料を用いることができる。
【0054】
また、接着材は、エポキシ樹脂に限定されず、硬化温度が室温に近く、かつ、弾性率の低い材料を用いることができる。
【実施例4】
【0055】
以下に実施例4を説明する。実施例4が
図1の実施例1と相違する点は、半導体基板15の板厚を25μmとした点である。さらに、第2のバッキング層29を、熱硬化型のエポキシ樹脂にタングステン及びマイクロバルーンを混ぜた複合材料により厚み3mmに形成した点である。その他の構成は実施例1と同一であるから説明を省略する。
【0056】
バッキング層29は、エポキシ樹脂にタングステンと中空粒子であるマイクロバルーンを混合して形成される。マイクロバルーンを混合すると、同一音響インピーダンスでありながら、超音波の減衰率を大きくできる。したがって、実施例1と比較して、実施例4は、バッキング層29の厚みを半分にできる。
【0057】
バッキング層29の超音波の減衰率とマイクロバルーンの配合量の関係を
図10に示す。
図10は、縦軸をバッキング層29の超音波減衰率、横軸をマイクロバルーンの配合比としたグラフである。
図10のグラフから明らかなように、マイクロバルーンの配合量が増加すると、超音波の減衰率が増加する。したがって、バッキング層29を薄くできるから、超音波探触子を軽量化できる。なお、実施例4のバッキング層29は、音響インピーダンスを4MRayl、線膨張係数100ppm/℃、弾性率500MPa、硬化温度は40℃とした。
【0058】
図11に、実施例4の超音波探触子の半導体基板15とバッキング層27の界面における超音波の音圧反射率を示す。
図11は、縦軸を半導体基板15とバッキング層27の界面の音圧反射率、横軸を超音波診断に使用する超音波の使用周波数としたグラフである。なお、比較のため、第1のバッキング層27を半導体基板の音響インピーダンスに整合させるために、PVC―タングステンの複合材を使用して音響インピーダンスを20MRaylに設定し、その他の構成は実施例4と同じに形成した比較例4の音圧反射率を
図11に記載した。
【0059】
図11に示すように、実施例4の超音波探触子は、比較例4よりも半導体基板15と第1のバッキング層27の界面における音圧反射率を低減できる。例えば、超音波の使用周波数が5MHzでは音圧反射率を85%から55%に低減できる。また、超音波の使用周波数が10MHz付近の音圧反射率においても85%から70%程度に低減できた。半導体基板15と第1のバッキング層27の接着時の反り量に関しても、反り量を5mm程度まで低減できた。
【実施例5】
【0060】
図12に実施例5の超音波探触子の断面構造を示す。実施例5が実施例1と相違する点は、半導体基板15の裏面側に、接着層25を介してフレーム材39を接着した点である。そして、フレーム材39の中央部を刳り貫き、その刳り貫き部に第1のバッキング層27を挿入し、第1のバッキング層27を接着層25を介して半導体基板15の裏面側に接着している点である。その他の構成は実施例1と同一であるから同一の符号を付して説明を省略する。
【0061】
フレーム材39は、セラミックや合金などの材料で形成され、CMUTチップ1とフレキシブル基板11を固定する基台の役割を果たす。フレーム材39の中央部には、バッキング層27を挿入可能な刳り貫き部が形成されている。バッキング層27は、刳り貫き部に挿入されて固定されている。バッキング層27は、CMUTチップ1よりも小さく形成されている。これは、CMUTチップ1の音響放射部(超音波放射部)は、CMUTチップ1の全体にあるわけではないので、音響放射部がある中央部のみにバッキング層27を配置し、音響放射部をバッキング層27でカバーした。
【0062】
これによれば、バッキング層27よりも構造が安定なフレーム材39でCMUTチップ1を支持できるから、超音波探触子の組み立て作業などの実用性を向上できる。なお、実施例5の多重反射の抑制効果、及び構造歪みの低減効果は、実施例1と同様である。
【実施例6】
【0063】
以下に実施例6の超音波探触子を説明する。実施例6が
図1の実施例1と相違する点は、多孔質セラミックに樹脂を充填して第1のバッキング層27を形成した点である。また、熱硬化型のエポキシ樹脂にタングステンを混ぜて第2のバッキング層29を形成した点である。その他の構成は実施例1と同じであるから、説明を省略する。
【0064】
バッキング層27は、音響インピーダンスを6MRayl、線膨張係数を10ppm/℃に設定した。バッキング層29は、音響インピーダンス6MRayl、線膨張係数を80ppm/℃、弾性率を500MPa、厚さ6mmに設定した。バッキング層29は、実施例1と同様に硬化温度40℃で流し込みにより形成した。なお、半導体基板15の厚みを40μmとした。
【0065】
図13に、実施例6の超音波探触子の、半導体基板15とバッキング層27の界面における超音波の音圧反射率を示す。
図13は、縦軸を半導体基板15とバッキング層27の界面の音圧反射率、横軸を超音波診断に使用する超音波の使用周波数としたグラフである。なお、比較のため、第1のバッキング層27を半導体基板の音響インピーダンスに整合させるために、PVC―タングステンの複合材を使用して音響インピーダンスを20MRaylに設定し、その他の構成は実施例6と同じに形成した比較例5の音圧反射率を
図13に記載した。
【0066】
図13に示すように、実施例6の超音波探触子は、比較例5よりも半導体基板15とバッキング層27の界面における音圧反射率を低減できる。例えば、超音波の使用周波数が5MHzでは音圧反射率を85%から70%に低減できた。一方、実施例6は実施例1よりも音響インピーダンスが大きいので、実施例1よりも実施例6は音圧反射率が大きくなった。したがって、半導体基板15とバッキング層27の界面における音圧反射率を、例えば、85%よりも低く設定する場合は、バッキング層27の音響インピーダンスは6MRayl以下に設定することが好ましい。