(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5789619
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】包括二次元ガスクロマトグラフ法による模擬蒸留
(51)【国際特許分類】
G01N 30/86 20060101AFI20150917BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20150917BHJP
G01N 30/74 20060101ALI20150917BHJP
G01N 30/68 20060101ALI20150917BHJP
G01N 30/78 20060101ALI20150917BHJP
G01N 33/22 20060101ALI20150917BHJP
G01N 30/46 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
G01N30/86 J
G01N30/88 M
G01N30/74 Z
G01N30/68 Z
G01N30/78
G01N33/22
G01N30/46 A
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-553952(P2012-553952)
(86)(22)【出願日】2011年2月14日
(65)【公表番号】特表2013-520654(P2013-520654A)
(43)【公表日】2013年6月6日
(86)【国際出願番号】US2011024679
(87)【国際公開番号】WO2011103042
(87)【国際公開日】20110825
【審査請求日】2013年10月24日
(31)【優先権主張番号】13/021,061
(32)【優先日】2011年2月4日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/338,500
(32)【優先日】2010年2月19日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390023630
【氏名又は名称】エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100106596
【弁理士】
【氏名又は名称】河備 健二
(72)【発明者】
【氏名】ワン,フランク,チェン−ユ
(72)【発明者】
【氏名】ヘイジー,ブライアン,イー.
【審査官】
後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2009/0282897(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0137481(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0163672(US,A1)
【文献】
Colombe Vendeuvre, Rosario Ruiz-Guerrero, Fabrice Bertoncini, Laurent Duval, Didier Thiebaut, Merie-Claire Hennion ,Characterisation of middle-distillates by comprehensive two-dimensional gas chromatography(GC×GC): A powerful alternative for performing various standard analysis of middle-distillates,Journal of Chromatography A,2005年,1086,p.21-28
【文献】
Rosario Ruiz-Guerrero, Colombe Vendeuvre, Didier Thiebaut, Fabrice Bertoncini, Didier Espinat,Comparison of Comprehensive Two-Dimensional Gas Chromatography Coupled with SulfurChemiluminescesnce Detector to Standard Methods for Speciation of Sulfur-Containing Compounds in Middle Distillates,Journal of Chromatographic Science,2006年10月,Vol.44,p.566-573
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼル沸点範囲の石油試料の蒸留を、包括二次元ガスクロマトグラフ法によって、沸点の関数として、化合物区分ごとに前記試料中の化合物の部分全収率でもって模擬する方法であって、
a)前記石油試料を、二次元ガスクロマトグラフで、下記(i)および(ii)の次元に分離する工程:
(i)非極性カラムにおける保持時間である第一次元(前記第一次元における成分の保持時間の決定には、水素炎イオン化検出器(FID)を用い、前記保持時間は、同じ条件下における、ノルマルパラフィン混合物を用いる参照保持時間への温度較正により、沸点に転換される)
(ii)成分の検出が極性区分に応じてなされる極性カラムにおける保持時間である第二次元(硫黄化学発光検出器(SCD)を用い、成分の存在を、成分の相対モル量に応じて温度の関数として決定する)
b)前記二次元ガスクロマトグラフを所定温度で積分および標準化して、分離された成分の相対モル量を化合物区分ごとに温度の関数として決定する工程
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油または製油所ストリームの特徴付けに関する。
【背景技術】
【0002】
蒸留は、石油精製産業の基本的な分離プロセスであることから、原油または製油所ストリームを、精製装置において、その沸点挙動に基づいて特徴付けることができることは、重要である。実験室規模の蒸留は、比較的時間がかかり、かつ高くつく。従って、ガスクロマトグラフィ(GC)による模擬蒸留は、石油産業において、沸騰収率を予測するのに広く用いられてきた。それは、精製時の蒸留プロセスの指標を設定するための情報を提供する重要な手段である。
【0003】
先行技術で常用されるGC模擬蒸留は、非極性カラム(分子を沸点に基づいて溶出する)、および水素炎イオン化検出器を用いる。しかし、GC技術の最近の発達は、分離を、従来の一次元(1D)分離(沸点など)から、包括二次元(2D)分離(沸点および極性など)へ進展している。包括二次元ガスクロマトグラフ法(2DGCまたはGC×GC)技術は、模擬蒸留に適用することができる。水素炎イオン化検出器(FID)などの炭化水素検出器が用いられる場合には、最も重要な利点は、各化合物区分(飽和分、一環芳香族、二環芳香族、および三環芳香族など)の全収率曲線および部分全収率を決定することができることである。硫黄化学発光検出器(SCD)などの元素選択性検出器が用いられる場合には、硫黄化合物区分(メルカプタン/硫化物/チオフェン、ベンゾチオフェン、およびジベンゾチオフェンなど)を、全収率に加えて、決定することができる。同様に、窒素特定検出器(2DGCと共に)は、窒素含有分子(脂肪族アミン、ピロール、インドール、およびカルバゾールなど)の個別区分の沸騰収率を決定するのに、用いられることができるであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、蒸留の模擬を、包括二次元ガスクロマトグラフ法によって行ない、結果を、沸点の関数として、予め決定された化合物区分の全収率および部分全収率と共に蒸留の模擬へ転換するための方法を記載する。新規な2D(2DGCまたはGC×GC)模擬蒸留の結果は、特には異なる化合物区分の収率に関して、従来の1D模擬蒸留の結果より多くの情報を提供するであろう。これらの結果の最も直接的な効果は、原油および/または製油所ストリームの価値を決定する点にあろう。本発明はまた、精製産業が、留出油生成物中の硫黄(および窒素)レベルを限定するという、新規かつより厳しい規制を満足するのに資する手段を提供するために、特に有用であり得よう。
【0005】
本発明の工程は、石油ストリームを、その沸点挙動に基づいて特徴付ける。本発明には、石油ストリームを二次元ガスクロマトグラフで分離して、極性を温度の関数として決定する工程、および次いで、二次元ガスクロマトグラフを所定温度で積分して、信号強度を決定する工程が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】ディーゼル温度沸騰範囲の炭化水素混合物について、GC×GCクロマトグラムを示す。
【
図2】
図1で分離された化合物区分に基づく模擬蒸留曲線を示す。
【
図3】
図1および
図2におけると同様に、硫黄含有試料について、GC×GCクロマトグラムを示す。
【
図4】
図3で分離された化合物区分に基づく、試料の模擬蒸留曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実験機器および条件
2DGC(GC×GC)システムは、LECO corp.(St. Joseph, Michigan, USA)により製造されるpeagus 4Dであり、これは、注入口、カラム、および検出器で構成されるAgilent 6890ガスクロマトグラフ(Agilent Technology、Wilmington, DE)からなる。100−バイアルトレイのオートサンプラーを有するスプリット/スプリットレス注入口システムが、用いられた。二次元キャピラリーカラムシステムは、非極性の第一カラム(BPX−5、30メートル、内径0.25mm、膜厚1.0μm)、および極性(BPX−50、3メートル、内径0.25mm、膜厚0.25μm)の第二カラムを用いる。両キャピラリーカラムとも、SGE Inc.(Austin, TX)の製品である。Zoex技術(Zoex Corp、Lincoln, NE)に基づいたデュアルジェットサーマルモジュレーションアセンブリ[dual jet thermal modulaion assembly]は、液体窒素で冷却された「トラップ−リリース[trap−release]」型デュアルジェットサーマルモジュレーターであり、これは、これら二つのカラム間に設置される。水素炎イオン化検出器(FID)および硫黄化学発光検出器(SCD)(GE analytical Inc.)が、信号を検出するのに用いられる。試料1.0マイクロリットルが、300℃で、スプリット75:1で注入口から注入された。キャリヤーガスは、1.0ml/分の流れである。オーブンは、60℃(0分保持、および3℃/分の昇温)から、300℃(0分保持)へプログラム制御された。全GC運転時間は、80分であった。モジュレーション時間は、10秒であった。検出器のサンプリング速度は、100Hzであった。データ取得後、それは、LECOソフトウェアパッケージ(機器に付属される)による定性および定量分析で処理された。表示−品質クロマトグラムは、データを二次元画像へ変換することによって完成された。これは、商業プログラム(「Transform」(Research System Inc.、Boulder, CO))によって処理された。二次元画像は、更に、「PhotoShop」(Adobe System Inc.、San Jose, CA)によって処理されて、公表可能画像が作成された。模擬蒸留転換は、デジタルデータをエクセルファイルへエクスポートすることによって為され、模擬蒸留曲線は、関連するエクセルのセルを合計することによって作成された。温度較正は、ノルマルパラフィン混合物を用いて、参照保持時間が、同じ実験条件下に作成されることによって為された。
【実施例】
【0008】
実施例1
ディーゼル温度沸騰範囲の炭化水素混合物の、GC×GCまたは2DGC−FIDクロマトグラムである。
【0009】
図1は、ディーゼル温度範囲で沸騰する炭化水素混合物について、GC×GC(または2DGC)を示す。図面は、一、二、および三環芳香族炭化水素からの飽和炭化水素の分離を示す。
【0010】
X軸は、
図1の保持時間から、
図2の温度へ転換することができる。
図1のX軸は、第一のカラムの保持時間である。先に記載されるように、(GC×GCの)第一のカラムは、非極性カラムである。非極性カラムの溶出液は、化合物の沸点に基づく。分離されたn−パラフィンの混合物(例えば、n−ヘキサン(C
6)〜n−テトラコンタン(C
40))が、調製される。この混合物は、GC×GCを用いて、模擬蒸留試料を運転する場合と同様の条件で分析される。n−パラフィンのみによるクロマトグラムが、得られるであろう。各n−パラフィンは、固有の保持時間を有する。各n−パラフィンの沸点は周知であることから、各n−パラフィンの保持時間は、その固有温度で置換えられることができる。各n−パラフィンの間の他の保持時間は、保持時間および温度が線形対応するとの仮定に基づいて、内挿することができる。この温度較正実験および内挿により、X軸(保持時間軸)は、温度が表示された軸(温度軸)へ転換することができる。
【0011】
水素炎イオン化検出器(FID)の信号強度は、分析される試料の重量%へ転換することができる。FIDの信号強度は、検出される成分中の炭素原子の数に正比例する。炭化水素のみの成分については、この信号強度は、その特定成分の相対重量に直接反映される。相対的な信号強度(相対重量)を標準化することによって、信号強度は、重量%へ転換することができる(単一のFID強度が、クロマトグラムの全FID信号強度で除される)。
【0012】
図1の黒線は、異なる化合物区分の領域を類別する。GC×GCクロマトグラムは、三次元データの表示である。Y軸に沿った全データは、化合物区分の領域によって集約され、各X軸位置で合計することができる。ノルマルパラフィン化合物の混合物による較正の後、X軸の保持時間は、温度へ転換することができる。温度尺度に沿って累算された化合物区分の重量%(集約された化合物区分の強度は、引続いて、FID信号強度が重量%へ転換される)のプロット、即ち模擬蒸留曲線を作成することができる。
図2は、
図1における試料の分離に基づいた模擬蒸留曲線である。
【0013】
実施例2
硫黄化学発光検出器(SCD)が、GC×GC(または、2DGC)へ取り付けられるか、または既存の水素炎イオン化検出器と一体化される場合には、化合物区分またはタイプによる硫黄種の内訳を、決定することができる。同様に、炭化水素検出器(FID)の信号について上記されるように、2DGCからの硫黄の信号は、個々の硫黄分子タイプの模擬蒸留曲線を作成するのに用いられることができる。
【0014】
硫黄化学発光検出器(SCD)の信号強度は、分析される試料のモル%へ変換することができる。SCDの信号強度は、検出される成分中の硫黄原子の数に正比例する。硫黄原子含有炭化水素については、それらの殆どは、単に、各成分中に一個の硫黄原子を有し、この信号強度は、その特定成分の相対モルにそのまま反映される。相対信号強度(相対モル)を標準化することによって、信号強度は、モル%へ変換することができる(単一のSCD強度が、クロマトグラフの全SCD信号強度で除される)。
【0015】
図3は、
図1および2におけると同じ試料について、硫黄含有化合物のGC×GC(または2DGC)クロマトグラムを示す。
図3の硫黄化合物区分は、次のように表示される。即ち、MST=メルカプタン/硫化物/チオフェン、BT=ベンゾチオフェン、およびDBT=ジベンゾチオフェン、である。温度尺度に沿って累積された化合物区分のモル%のプロットは、模擬蒸留曲線を作成することができる。
【0016】
図4は、
図3で分離された化合物区分に基づいて作成された、試料の模擬蒸留曲線を示す。
【0017】
新規な2DGC(またはGC×GC)模擬蒸留技術は、特には異なる化合物区分の収率に関して、従来の1D模擬蒸留の結果より多くの情報をもたらすであろう。これらの結果の最も直接的な効果は、原油または製油所ストリームの価値を示すであろう。