【実施例】
【0041】
下記表1に本発明化合物の一例を示す。
【0042】
【表1】
【0043】
本発明化合物は、公知の方法によって化学合成することができ、また市販品を使用することもできる。市販品は、例えば、化合物1(3−メチル−4−フェニル−2−ブタノール)はIFF社より、化合物2(3−メチル−1−フェニル−3−ペンタノール)及び化合物3(2−メチル−4−フェニル−2−ブタノール)は東京化成工業社より、化合物4(1.1−ジメチル−3−フェニル−プロピルアセテート)及び化合物5(2−メチル−4−フェニル−3−ブテン−2−オール)はSIGMA−AlDRICH社より入手可能である。
【0044】
以下に、表1に示す本発明の化合物(化合物6〜11)の製造例を示す。
1H−NMRスペクトルは、CHCl
3(7.24)を内部標準物質として用いて、Bruker社製Avance−600により測定し、
13CNMRスペクトルは、CHCl
3(77.0)を内部標準物質として用いて、Bruker社製Avance−600により測定した。
【0045】
製造例1 化合物6、7の合成
(1)α−メチルシンナミックアルデヒド(a)(152mg)をTHF(9mL)に溶解し、0℃でエチルマグネシウムブロミド(1M in THF、1.14mL)を加え、2.5時間撹拌した。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液と酢酸エチルを加え分離し、酢酸エチル相を減圧乾燥後、シリカゲルクロマトグラフィーによって精製し、(E)−2−メチル−1−フェニル−1−ペンテン−3−オール(b)(86.9mg)を得た。
【0046】
(2)(1)で得られたアルコール(b)(41.6mg)を酢酸エチル(3mL)に溶解し、窒素雰囲気下でPd/C(10%、20mg)を加えた後、系内を水素ガスで置換して室温で3時間撹拌した。反応液をセライト濾過し、濾液を減圧乾燥後、シリカゲルクロマトグラフィーによって精製し、2−メチル−1−フェニル−3−ペンタノール(dr=55:45、化合物6)(41.1mg)を得た。
【0047】
【化5】
【0048】
化合物6のNMRスペクトルを以下に示す。
1HNMR (600 MHz, CDCl
3) δ 7.29-7.25 (m, 2H), 7.20-7.15 (m, 3H), 3.45-3.38 (m, 1H), 2.91 (dd, J = 13.4, 4.5 Hz, 0.55H), 2.79 (dd, J = 13.5, 6.4 Hz, 0.45H), 2.33 (dd, J = 13.4, 9.7 Hz, 0.55H), 1.88-1.80 (m, 1H), 1.66-1.59 (m, 0.55H), 1.52-1.41 (m, 1.45H), 0.99 (t, J = 7.4 Hz, 1.65H), 0.93 (t, J = 7.4 Hz, 1.35H), 0.85 (d, J = 6.8 Hz, 1.35H), 0.83 (d, J = 6.9 Hz, 1.65H);
13CNMR (150 MHz, CDCl
3) δ 141.2 (2C), 129.2, 129.1, 128.2 (2C), 125.7 (2C), 77.0, 75.6, 40.6, 40.0, 39.8, 38.4, 27.5, 26.5, 15.3, 12.9, 10.6, 10.2.
【0049】
(3)α−メチルシンナミックアルデヒド(a)(159.3mg)をTHF(9mL)に溶解し、0℃でイソプロピルマグネシウムブロミド(0.73M in THF、2.24mL)を加え、1.5時間撹拌した。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液と酢酸エチルを加え、酢酸エチル相を減圧乾燥後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し、2,4−ジメチル−1−フェニル−1−ペンテン−3−オール(c)(40.9mg)を得た。
【0050】
(4)(3)で得られたアルコール(c)(17.9mg)を酢酸エチル(2mL)に溶解し、窒素雰囲気下でPd/C(10%、9.0mg)を加えた後、系内を水素ガスで置換して室温で1.5時間撹拌した。反応液をセライト濾過し、濾液を減圧乾燥後、シリカゲルクロマトグラフィーによって精製し、2,4−ジメチル−1−フェニル−3−ペンタノール(dr=55:45、化合物7)(14.6mg)を得た。
【0051】
【化6】
【0052】
化合物7のNMRスペクトルを以下に示す。
1HNMR (600 MHz, CDCl
3) δ 7.29-7.25 (m, 2H), 7.20-7.15 (m, 3H), 3.16 (dd, J = 6.4, 5.4 Hz, 0.55H), 3.07-3.02 (m, 1H), 2.73 (dd, J = 13.5, 6.8 Hz, 0.45H), 2.51 (dd, J = 13.5, 8.3 Hz, 0.45H), 2.28 (dd, J = 13.4, 10.3 Hz, 0.55H), 2.00-1.93 (m, 0.45H), 1.90-1.83 (m, 1.1H), 1.76-1.69 (m, 0.45H), 0.98 (d, J = 6.9 Hz, 1.65H), 0.96 (d, J = 6.6 Hz, 1.35H), 0.92 (d, J = 6.6 Hz, 1.65H), 0.84 (d, J = 6.8 Hz, 1.35H), 0.83 (d, J = 6.8 Hz, 1.35H), 0.79 (d, J = 6.9 Hz, 1.65H);
13CNMR (150 MHz, CDCl
3) δ 141.3, 141.1, 129.3, 129.1, 128.2, 128.1, 125.8, 125.7, 80.8, 79.3, 40.7, 38.1, 37.9, 37.0, 31.3, 30.1, 20.0, 19.1, 19.0, 16.2, 16.0, 12.4.
【0053】
製造例2 化合物8、9の合成
(1)2,2−ジメチル−3−フェニル−1−プロパノール(d)(489mg)をジクロロメタン(15mL)に溶解し、ヨードベンゼンジアセテート(1.44g)およびTEMPO(92.9mg)を加え、室温で3.5時間撹拌した。反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、チオ硫酸ナトリウム水溶液、ヘキサンを加え分離し、ヘキサン相を減圧乾燥後、シリカゲルクロマトグラフィーによって精製し、2,2−ジメチル−3−フェニルプロピオンアルデヒド(e)(354mg)を得た。
【0054】
(2)(1)で得られたアルデヒド(e)(54.8mg)をTHF(3.4mL)に溶解し、0℃でメチルマグネシウムブロミド(3M in ジエチルエーテル、0.17mL)を加え、30分撹拌した。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液と酢酸エチルを加え分離し、酢酸エチル相を減圧乾燥後、シリカゲルクロマトグラフィーによって精製し、3,3−ジメチル−4−フェニル−2−ブタノール(化合物8)(48.2mg)を得た。
【0055】
【化7】
【0056】
化合物8のNMRスペクトルを以下に示す。
1HNMR (600 MHz, CDCl
3) δ 7.28-7.24 (m, 2H), 7.21-7.15 (m, 3H), 3.53 (q, J = 6.4 Hz, 1H), 2.68 (d, J = 13.0, 1H), 2.50 (d, J = 13.0 Hz, 1H), 1.16 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 0.86 (s, 3H), 0.79 (s, 3H);
13CNMR (150 MHz, CDCl
3) δ 138.9, 130.7, 127.7, 125.8, 73.8, 44.5, 38.7, 23.0, 21.7, 18.0.
【0057】
(3)(1)で得られたアルデヒド(e)(58.9mg)をTHF(3.6mL)に溶解し、0℃でエチルマグネシウムブロミド(1M in THF、0.55mL)を加え、30分撹拌した。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液と酢酸エチルを加え分離し、酢酸エチル相を減圧乾燥後、シリカゲルクロマトグラフィーによって精製し、2,2−ジメチル−1−フェニル−3−ペンタノール(化合物9)(48.0mg)を得た。
【0058】
【化8】
【0059】
化合物9のNMRスペクトルを以下に示す。
1HNMR (600 MHz, CDCl
3) δ 7.28-7.24 (m, 2H), 7.21-7.14 (m, 3H), 3.15 (dd, J = 10.6, 1.9 Hz, 1H), 2.70 (d, J = 13.0, 1H), 2.51 (d, J = 13.0 Hz, 1H), 1.69-1.60 (m, 1H), 1.36-1.27 (m, 1H), 1.00 (t, J = 7.4 Hz, 3H), 0.86 (s, 3H), 0.81 (s, 3H);
13CNMR (150 MHz, CDCl
3) δ 139.0, 130.7, 127.7, 125.8, 79.9, 44.7, 38.8, 24.2, 23.2, 22.3, 11.5.
【0060】
製造例3 化合物10の合成
(1)水素化ナトリウム(純度55%、4.80g)をトルエン(100mL)に懸濁し、100℃でジイソプロピルケトン(f)(13.7g)を滴下した後、3時間撹拌した。その後、ベンジルクロライド(12.7g)を滴下し、さらに3時間撹拌した。反応液を70℃に冷却後、水(100g)を加え、有機相を分離した。この有機相を減圧乾燥後、シリカゲルクロマトグラフィーによって精製し、2,2,4−トリメチル−1−フェニル−3−ペンタノン(g)(12.3g)を得た。
【0061】
(2)LiAlH
4(1.86g)をTHF(100mL)に懸濁し、(1)で得られたケトン(g)(5.00g)をTHF(15mL)に溶解したものを加え、0℃で30分間撹拌した。反応液に水(4mL)、15%水酸化ナトリウム水溶液(4mL)、水(12mL)の順で加え、1日撹拌し、不溶物を濾過した。濾液を減圧乾燥後、シリカゲルクロマトグラフィーによって精製し、2,2,4−トリメチル−1−フェニル−3−ペンタノール(化合物10)(4.11g)を得た。
【0062】
【化9】
【0063】
化合物10のNMRスペクトルを以下に示す。
1HNMR (600 MHz, CDCl
3) δ 7.32-7.28 (m, 2H), 7.26-7.19 (m, 3H), 3.21 (d, J = 2.2 Hz, 1H), 2.75 (d, J = 12.9 Hz, 1H), 2.58 (d, J = 12.9 Hz, 1H), 2.10-2.01 (m, 1H), 1.03 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 0.99 (d, J = 6.8 Hz, 3H), 0.95 (s, 3H), 0.89 (s, 3H);
13CNMR (150 MHz, CDCl
3) δ 139.0, 130.8, 127.7, 125.8, 81.7, 45.8, 39.7, 28.5, 23.7, 23.6, 23.0, 16.7.
【0064】
製造例4 化合物11の合成
(1)ヨウ化銅(I)(9.43g)をジエチルエーテル(110mL)に懸濁し、−3
0℃でフェニルマグネシウムブロミド(1M in THF、500mL)を滴下した後、2−シクロへキセン−1−オン(h)(34.0g)を滴下して、4時間撹拌した。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液とジエチルエーテルを加え分離し、ジエチルエーテル相を減圧乾燥後、シリカゲルクロマトグラフィーによって精製し、3−フェニルシクロヘキサノン(i)(37.0g)を得た。
【0065】
(2)(1)で得られたケトン(i)(12.2g)をジエチルエーテル(30mL)に溶解し、−40℃でメチルリチウム(1M in ジエチルエーテル、100mL)をジエチルエーテル(100mL)に溶解した溶液に加え、5時間撹拌した。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液とジエチルエーテルを加え分離し、ジエチルエーテルを減圧乾燥後、シリカゲルクロマトグラフィーによって精製し、t−1−メチル−3−フェニルシクロヘキサノール(化合物11)(8.0g)を得た。
【0066】
【化10】
【0067】
化合物11のNMRスペクトルを以下に示す。
1HNMR (600 MHz, CDCl
3) δ 7.30-7.25 (m, 2H), 7.22-7.15 (m, 3H), 2.91 (dddd, J = 12.6, 12.6, 3.5, 3.5 Hz, 1H), 1.90-1.85 (m, 1H), 1.84-1.79 (m, 1H), 1.78-1.65 (m, 3H), 1.49 (dd, J = 13.2, 13.2 Hz, 1H), 1.42-1.30 (m, 2H), 1.25 (s, 3H);
13CNMR (150 MHz, CDCl
3) δ 147.0, 128.4, 126.9, 126.0, 70.1, 46.5, 39.4, 38.2, 33.2, 31.9, 22.0.
【0068】
実施例1 TRPA1活性抑制作用
(1)ヒトTRPA1安定発現株の作製
ヒトTRPA1遺伝子は、その全長をOpen biosystems社よりpENTR223.1に挿入された状態で購入した。購入したエントリーベクターよりTRPA1遺伝子を発現用ベクターpcDNA3.2−V5/DEST(インビトロジェン社)へサブクローニングし、リポフェクトアミン2000(インビトロジェン社)によりHEK293細胞へ形質導入した。形質導入された細胞をG−418(450μg/ml;プロメガ社)を含有するDMEM培地中で増殖させることにより選抜した。なおHEK293細胞は内在性TRPA1を発現しないため、TRPA1形質導入株に対する対照(コントロール)として使用できる。
【0069】
(2)カルシウムイメージング
蛍光カルシウムイメージング法を用いてHEK293細胞へ形質導入したTRPA1活性の測定を行った。まず培養したTRPA1発現細胞をポリ−D−リジンコートされた96ウェルプレート(BDファルコン社)に播種(30000細胞/ウェル)し、37℃で一晩、インキュベートした後、培養液を除去し、リンガー液に溶解させたFluo4−AM(2μg/ml;同仁化学社)を添加し、37℃で60分間インキュベートした。その後、Fluo4−AM液を除去し、ウェルにリンガー液を添加して蛍光プレートリーダー(FDSS3000;浜松ホトニクス社)にセットした。装置庫内温度24℃にした状態で励起波長480nmで励起させたときの蛍光イメージを検出波長520nmにてCCDカメラで検出した。測定は1秒毎に4分間行い、測定開始15秒後にFDSS3000内蔵の分注器によりTRPA1刺激物質であるアリルイソチオシアネートおよび本発明化合物をそれぞれ終濃度5.0μMおよび0.01%で添加し、その後の蛍光強度の変化によりTRPA1活性を評価した。TRPA1活性は刺激物質添加後の蛍光強度のピーク(F
peak)を刺激物質添加前の蛍光強度(F
0)で除算した蛍光強度比(Ratio;F
peak/F
0)で表した。対照としてTRPA1を形質導入していないHEK293細胞に同様の物質を添加し、その際の蛍光強度比(Ratio
293)を算出し、刺激物質による活性のピークがTRPA1活性化に由来することを確認した。
【0070】
(3)TRPA1活性抑制評価
アリルイソチオシアネートによるTRPA1活性化に対する各化合物の効果を検証するため、アリルイソチオシアネート(5.0μM)およびエタノール(0.01%;溶媒コントロール)を添加した際のTRPA1活性に対する各化合物の抑制作用(活性抑制率;%)を評価した。アリルイソチオシアネート(刺激物質)(5.0μM)と化合物(0.01%)を混合し添加することによるTRPA1活性抑制作用は下記の式により算出した。
〔数1〕
TRPA1活性抑制率(%)=(1−((刺激物質+化合物添加によるRatio)−(刺激物質+化合物添加によるRatio
293))/((刺激物質+エタノール添加によるRatio)−(刺激物質+エタノール添加によるRatio
293)))×100
【0071】
(4)TRPA1活性化抑制作用の評価
アリルイソチオシアネート5.0μMによるTRPA1活性化に対する、以下に示す本発明の化合物及び比較化合物(各100μM)及びd−camphor(100μM、500μM、1000μM)のTRPA1活性化抑制効果(活性抑制率)を評価した(表2)
【0072】
【表2】
【0073】
(5)TRPA1活性抑制作用(2)
2,2,4−トリメチル−1−フェニル−3−ペンタノール(化合物10)、t−1−メチル−3−フェニルシクロヘキサノール(化合物11)のTRPA1活性抑制効果について、用量依存性を検証した。
アリルイソチオシアネート10μMによるTRPA1活性化に対する各化合物の効果を測定し(
図1)、各化合物のIC
50値を表3に示す。その結果、各化合物によるTRPA1活性抑制効果に容量依存性が認められた。
【0074】
【表3】
【0075】
実施例2 ヒト皮膚感覚刺激性低減効果
(1)刺激物質に対する感覚刺激性評価
洗顔後、10分間の馴化を行い、0.02%本発明化合物水溶液(化合物10及び化合物11)約350μlを含ませた3センチ四方のろ紙を頬部に3分間貼付した。その後、ろ紙を取り除き、頬の水分を十分除去した状態で1分間馴化させた。その後、0.4mMアリルイソチオシアネート溶液約200μlを含ませた直径2センチのろ紙を、先ほど0.02%本発明化合物水溶液を含ませたろ紙貼付した範囲に乗せ、測定を開始した。測定開始後、15、30、60、90、120、150、180秒後に下記痛み基準値に従い申告された痛みの程度(強さ)を記録した。
【0076】
0.0 ;何も感じない
0.5 ;ほんの少し痛い
1.0 ;少し痛い
1.5 ;少し〜多少痛い
2.0 ;多少痛い
2.5 ;多少〜かなり痛い
3.0 ;かなり痛い
【0077】
各被験者の違和感値の合計値を、Willcoxon(ウィルコクソン)符号順位検定法により検定を行った。結果を
図2に示す。
【0078】
図2より、アリルイソチオシアネートによって違和感(痛み)のスコアの上昇が、本発明によって低減することが示された。