(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5789684
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】ベーパーチャンバー
(51)【国際特許分類】
F28D 15/02 20060101AFI20150917BHJP
H01L 23/427 20060101ALI20150917BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
F28D15/02 103B
F28D15/02 101H
F28D15/02 103G
F28D15/02 106Z
H01L23/46 A
H05K7/20 Q
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-3052(P2014-3052)
(22)【出願日】2014年1月10日
(65)【公開番号】特開2015-132399(P2015-132399A)
(43)【公開日】2015年7月23日
【審査請求日】2014年11月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 祐士
(72)【発明者】
【氏名】ファン ロン タン
(72)【発明者】
【氏名】望月 正孝
【審査官】
横溝 顕範
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−209356(JP,A)
【文献】
特開平10−209355(JP,A)
【文献】
特開平06−291480(JP,A)
【文献】
特開2002−062072(JP,A)
【文献】
米国特許第06997245(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/02
H01L 23/427
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上板と下板とによって密閉して形成された中空平板状のコンテナ内に、加熱されて蒸発し放熱して凝縮する作動流体を封入して構成されており、前記上板と下板とのうちいずれか一方に熱伝達可能に接続される発熱源の熱を前記作動流体の潜熱によって前記上板と下板とのうちいずれか他方に拡散させるベーパーチャンバーにおいて、
前記コンテナ内の前記上板と下板とのうちいずれか一方の面に、前記コンテナの厚さ方向に起立して、かつ、前記発熱源に対応している部分ではその他の部分に比較して高い密度で設けられている多数のフィンと、
多数の前記フィンの間であってかつ前記上板と下板とのうちいずれか一方の面に密着して配置される多孔質焼結体とを備え、
前記コンテナの厚さ方向で多数の前記フィンの端部が、前記コンテナ内の前記上板と下板とのうちいずれか他方の面に熱伝達可能に接合されており、
前記多孔質焼結体は前記フィンの密度が低い部分のみに設けられている
ことを特徴とするベーパーチャンバー。
【請求項2】
複数の前記フィンは、前記上板と下板とのうちいずれか一方の面を削り起こすことにより形成されていることを特徴とする請求項1に記載のベーパーチャンバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、中空平板状のコンテナを構成している上板と下板とのいずれか一方に伝達された熱を前記コンテナの内部に封入した作動流体の潜熱によって前記上板と下板とのいずれか他方に拡散させるように構成されたベーパーチャンバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
作動流体の潜熱の形で熱輸送を行う装置の一例としてヒートパイプが広く知られており、例えば、特許文献1には、平板状のヒートパイプが記載されている。その構成について簡単に説明すると、方形の平板である上板と、カップ状の本体部とによって中空平板形状のコンテナが形成されている。そのコンテナの内壁面の全面に多孔構造のウイックが密着させられるとともに、コンテナ内に非凝縮性ガスを脱気した状態で凝縮性の作動流体が封入されている。また、この特許文献1に記載された平板状のヒートパイプは、その上板および本体部を構成している側板の全域ならびに本体部の底板の縁部がヒートシンクのベースによって包まれている。なお、底板に発熱源であるCPUが密着させられている。
【0003】
また特許文献2には、中空平板形状のコンテナの内壁面の全面に銅粒子の焼結体によって構成されたウイックが密着させられており、そのコンテナの蒸発部におけるウイックに、上記の銅粒子の焼結体によって構成された突起部が一体的に設けられた平板状のヒートパイプが記載されている。上記の突起部は前記コンテナを構成している側板よりも低く形成されており、その突起部によって作動流体が蒸気化する面積が拡大させられている。また、コンテナを構成している上板にヒートシンクのベースが熱伝達可能に接続されている。
【0004】
さらに特許文献3には、上側部材と下側部材とによって構成された中空平板形状のコンテナ内の上面と下面とに銅粒子の焼結体によって構成されたウイックが密着させられており、かつ、それらの上面と下面とが、銅粒子の焼結体である柱状のコラムによって連結された平板状のヒートパイプが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−195738号公報
【特許文献2】特開2000−161879号公報
【特許文献3】特開2004−238672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2に記載された構成では、コンテナの内壁面の全面に亘って多孔構造のウイックが設けられている。また特許文献3に記載された構成ではコンテナの内壁面のうち、上下面に多孔構造のウイックが設けられかつそれらのウイックがコラムによって連結されている。これらの構成では、多孔構造のウイックが生じる大きい毛管力によって蒸発部に液相の作動流体を還流させている。多孔構造のウイックはその内部を流動する作動流体の抵抗が大きいため、これらの構成では、蒸発部以外の部分での作動流体の流動抵抗も大きい。つまり、蒸発部以外の部分で液相の作動流体が保持されることになるので、例えば入熱量が多いことにより蒸発部での作動流体の蒸発量が多い場合には、蒸発部に対する作動流体の還流量に不足が生じ、これが要因となって蒸発部に作動流体が存在しないドライアウトの状態となってしまう可能性がある。その結果、熱輸送量が制限されてしまう可能性がある。また、特許文献3に記載された構成では、作動流体の潜熱による熱輸送に加えて、コラムを介した熱伝導によって熱輸送を行うことにより、全体としての熱輸送量を増大できる可能性がある。しかしながら、特許文献3に記載されたコラムは上述したように多孔構造の焼結体であり、その焼結体を構成している微粒子間で熱伝達を行うため、全体として熱抵抗が大きい。そのため、上記のコラムを設けても、熱輸送量を増大させることができず、蒸発部がドライアウトの状態になってしまう可能性がある。
【0007】
この発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであり、作動流体の還流量を増大させるとともに、熱輸送性能を向上させることができるベーパーチャンバーを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明は、上板と下板とによって密閉して形成された中空平板状のコンテナ内に、加熱されて蒸発し放熱して凝縮する作動流体を封入して構成されており、前記上板と下板とのうちいずれか一方に熱伝達可能に接続される発熱源の熱を前記作動流体の潜熱によって前記上板と下板とのうちいずれか他方に拡散させるベーパーチャンバーにおいて、前記コンテナ内の前記上板と下板とのうちいずれか一方の面に、前記コンテナの厚さ方向に起立して、かつ、前記発熱源に対応している部分ではその他の部分に比較して高い密度で設けられている多数のフィ
ンと、多数の前記フィンの間であってかつ前記上板と下板とのうちいずれか一方の面に密着して配置される多孔質焼結体とを備え、前記コンテナの厚さ方向で多数の前記フィンの端部が、前記コンテナ内の前記上板と下板とのうちいずれか他方の面に熱伝達可能に接合され
ており、前記多孔質焼結体は前記フィンの密度が低い部分のみに設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
この発明における複数の前記フィンは、前記上板と下板とのうちいずれか一方の面を削り起こすことにより形成されていてよい。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、発熱源に対応している部分ではすなわち蒸発部では、その他の部分に比較して高い密度でフィンが設けられており、ここで毛管力が生じるように構成されている。これに対して、その他の部分ではフィン同士の間隔が拡大されており、液相の作動流体の流動抵抗が低減されている。そのため、その他の部分に溜まった液相の作動流体は蒸発部に設けられたフィン同士の間で生じる毛管力によって蒸発部に向けて小さな流動抵抗で還流させられる。その結果、蒸発部に対する作動流体の還流量を増大させることができ、これにより、蒸発部でのドライアウトを抑制して作動流体の潜熱による熱輸送量を向上させることができる。また、コンテナを構成している上板と下板とが多数のフィンを介して熱伝達可能に接続されている。そのため、上板と下板とのいずれか一方に伝達された熱は、前記上板と下板とのいずれか他方に、作動流体の潜熱による熱輸送に加えて、フィンを介した熱伝導によっても伝えられる。特に、蒸発部では高密度にフィンが設けられているため、それらの蒸発部に対応して設けられているフィンを介した熱伝導量を増大させることができる。それらの結果、ベーパーチャンバー全体としての熱輸送量を増大することができる。さらに、上板と下板とが多数のフィンによって接続されているため、コンテナの強度を向上させることができる。
【0012】
また、この発明によれば、コンテナ内の上板と下板とのいずれか一方の面に多孔質焼結体が密着して設けられる。つまり、コンテナの内壁面の全面に亘って多孔質焼結体を密着させる場合に比較して多孔質焼結体が密着させられる部分が限定されている。前記上板と下板とのいずれか一方の面における蒸発部以外の部分においては、多孔質焼結体によって液相の作動流体を保持することができる。また、蒸発部に対応して高密度に設けられたフィン同士の間に生じる毛管力に加えて、蒸発部に対応して設けられた多孔質焼結体が生じる毛管力によっても、蒸発部に液相の作動流体を還流させることができる。つまり、多孔質焼結体を設けた分、前記毛管力を増大させることができる。その結果、作動流体の還流量を増大させることができ、これにより蒸発部でのドライアウトを抑制して作動流体の潜熱による熱輸送量を向上させることができる。さらに、多数のフィンは上板と下板とのいずれか一方の面を削り起こすことにより形成されているため、部品点数を増大させることがなく、また、ベーパーチャンバーの熱抵抗を特には増大させることがない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明に係るベーパーチャンバーの一例を示す斜視図である。
【
図4】コンテナの底部に多孔質焼結体を設けた場合における
図1に示す矢視Aの断面図である。
【
図5】コンテナの底部に多孔質焼結体を設けた場合における
図1に示す矢視Bの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、この発明に係るベーパーチャンバーの一例を示す斜視図である。ベーパーチャンバー1の基本的な構成は、従来知られている通りであり、その構成を簡単に説明すると、気密状態に密閉された中空平板状のコンテナ2の内部に、空気などの非凝縮ガスを脱気した状態で作動流体が封入されて構成されている。そのコンテナ2は、
図2および
図3に示すように、方形の平板である上側部材3と、有底角筒形状の下側部材4とによって構成されており、上側部材3によって下側部材4の開口部5が密閉されている。また、下側部材4の底部6の下側に熱伝達可能に電子部品などの発熱源7が配置されるようになっており、その発熱源7に対応しているコンテナ2の内側部分が作動流体が蒸発する蒸発部8になっている。
【0015】
コンテナ2の内部には、その厚さ方向に起立した多数のフィン9が一体的に形成されている。それらのフィン9は、例えば上記の底部6をコンテナ2の厚み方向に一定の間隔で削り起こすことにより形成されている。また、
図2および
図3に示す例では、蒸発部8に形成されているフィン9同士の間隔は、その他の部分に形成されているフィン9同士の間隔よりも狭くなっている。つまり蒸発部8では、単位面積当たりのフィン9の設置密度が、その他の部分に比較して高くなっている。その蒸発部8でのフィン9同士の間隔は、一例として所定の毛管力を発生することができる間隔であればよく、ここに示す例では、0.08mmに設計されている。また、その他の部分でのフィン9同士の間隔は、液相の作動流体の流動抵抗を低減できる間隔であればよく、例えば、0.1から0.3mmに設計されている。各フィン9は、
図2および
図3に示す例では、下側部材4の底部6に7行3列に形成されている。さらに
図3の左右方向つまりフィン9の幅方向で、互いに隣接しているフィン9同士の間、および、下側部材4の内壁面とフィン9との間には、切り欠き部10が形成されており、これが作動流体蒸気が流通する蒸気流路となっている。そのため、発熱源7から入熱があってその熱によって蒸発部8で蒸気化した作動流体はコンテナ2内の圧力および温度が低い部分に向けてそれらの切り欠き部10やフィン9同士の間を通って拡散する。
【0016】
なお、上述した各フィン9は、幅20mm、高さ2.5mm、厚さ0.05mmに形成されている。また、上記のコンテナ2は縦38mm、横38mm、高さ4mmに設計され、もしくは、縦52mm、横52mm、高さ5mmに設計されている。そして、上述した上側部材3がこの発明における上板に相当し、下側部材4がこの発明における下板に相当し、上述したフィン9が形成されている底部6の面が、この発明における「前記コンテナ内の前記上板と下板とのうちいずれか一方の面」に相当している。
【0017】
各フィン9の自由端部11は、
図2および
図3に示すように、下側部材4の開口部5と同じ位置あるいは高さになっている。それらの自由端部11および開口部5が上側部材3における内側面12に接合されてコンテナ2が密閉されている。これは、例えば開口部5および各フィン9の自由端部11のそれぞれにハンダを付着させ、かつ、これらに上側部材3の内側面12を押し付けた状態で加熱炉(図示せず)に送って加熱することにより行われる。上記の作動流体としては、水やアルコール、アンモニア、代替フロンなどの目的とする温度範囲で蒸発および凝縮する凝縮性の流体が使用される。なお、上述した上側部材3の内側面12は、作動流体蒸気が放熱して凝縮する凝縮部となっており、この内側面12がこの発明における「前記コンテナ内における前記上板と下板とのうちいずれか他方の面」に相当している。
【0018】
なお、コンテナ2内への作動流体の注入は、コンテナ2内を真空脱気した後に作動液を注入する方法、余分な量の作動液を注入した後、これを沸騰させて非凝縮性ガスを追い出す方法など、従来知られている方法で行えばよい。
【0019】
次に、上記のように構成されたベーパーチャンバー1の作用・効果について説明する。発熱源7の熱が底部6に熱伝達されると、その熱の一部によって蒸発部8で作動流体が蒸発させられる。その作動流体蒸気は、コンテナ2内の圧力および温度が低い部分に向けて切り欠き部10やフィン9同士の間を通って拡散する。作動流体蒸気は、例えば、
図2および
図3での上方に移動し、上側部材3の内側面12で放熱して凝縮する。液相の作動流体はフィン9あるいはコンテナ2の内壁面を伝って
図2および
図3での下方に移動し、例えば蒸発部8の周囲に溜まる。蒸発部8の周囲では、フィン9同士の間隔が拡大されているため、その毛管力が低減されている。つまり、その部分での流動抵抗が低減されており、液相の作動流体が保持されにくくなっている。一方、蒸発部8には、上述したように、高密度にフィン9が設けられており、大きい毛管力が生じるようになっている。そのため、蒸発部8の周囲に溜まった液相の作動流体は、上記の毛管力によって、蒸発部8の周囲におけるフィン9同士の間を流動して蒸発部8に還流させられる。またその場合、蒸発部8の周囲に液相の作動流体が保持されにくいから、蒸発部8に対する液相の作動流体の還流量が増大する。すなわち還流特性が向上する。そのため、蒸発部8での作動流体の潜熱による熱輸送量が向上する。またドライアウトが効果的に抑制される。
【0020】
また発熱源7が発する熱の他の一部は、底部6を構成している部材の内部を移動するとともに、主として蒸発部8に高密度で形成されているフィン9に伝えられる。各フィン9は上述したように、上側部材3に熱的に接続されている。そのため、発熱源7が発する熱の他の一部は、主として蒸発部8に高密度に形成されているフィン9を介して上側部材3に伝えられる。このように上述した構成のベーパーチャンバー1では、作動流体の潜熱による熱輸送に加えて、フィン9を介した熱伝導によっても下側部材4から上側部材3に熱が伝えられる。そのため、上述した構成のベーパーチャンバー1では、全体としての熱輸送量が更に増加する。それらの結果、上述した構成のベーパーチャンバー1ではその最大熱輸送量を従来になく向上させることができる。
【0021】
さらに各フィン9は、上述したように、コンテナ2内に多数形成されており、それらの自由端部11が上側部材3における内側面12に接合されている。それらのフィン9はコンテナ2の内部空間を支える支柱として機能する。そのため、それらのフィン9によってコンテナ2の強度を向上させることができる。具体的には、作動流体が蒸発することによるコンテナ2の内圧の変化に起因する変形を抑制することができる。また、外部からの圧力に起因するコンテナ2の凹み変形などを抑制することができる。
【0022】
またこの発明では、発熱源7に熱伝達可能に接続されるコンテナ2の底部6側に多孔質焼結体13を密着して設けることにより、蒸発部8に対応して高密度に設けられたフィン9同士の間に生じる毛管力と、底部6に密着して設けられた多孔質焼結体13が生じる毛管力とによって蒸発部8に対する作動流体の還流量を増大させ
る。図4および
図5はその例を示している。コンテナ2の底部6におけるフィン9の設置密度が低い部分に限定して、多孔質焼結体13が密着して設けられている。それらの多孔質焼結体13は、例えば銅微粒子の焼結体であって、ここに示す例では、平均粒径が100μmの銅微粒子が使用されている。この多孔質焼結体13は高い毛管力を生じるとともにその多孔構造中に液相の作動流体を保持することができるため、いわゆるリザーバーとしても機能する。
【0023】
ここで、多孔質焼結体13をフィン9の底部6側および底部6に密着させる方法について簡単に説明すると、上述したようにフィン9を形成した下側部材4の底部6に銅微粒子を所定量充填する。その場合、蒸発部8に対応して設けられたフィン9同士の間隔は0.08mmに設計されており、また、その周囲のフィン9同士の間隔は0.1から0.3mmに設計されているため、銅微粒子は蒸発部8の周囲に設けられたフィン9同士の間に入り込む。その後、この下側部材4を加熱炉(図示せず)に送って加熱する。こうすることにより銅微粒子同士を焼結させ、また蒸発部8の周囲における各フィン9の底部6側および底部6に銅微粒子およびその焼結体13を密着させる。また、フィン9の設置密度が高い部分には銅微粒子を充填せずに、フィン9の設置密度が低い蒸発部8の周囲のみに銅微粒子を充填させる場合もある。すなわち、
図5での中央部であって、
図5での上下方向で発熱源7の上部に位置する切り欠き部10に対しても銅微粒子を充填させない場合もある。このような銅微粒子の充填方法の一例について簡単に説明する。例えば先ず、蒸発部8すなわち高い密度で設けられているフィン9の上部、および、それらのフィン9の周囲に形成されている切り欠き部10を蓋によって覆う。前記蓋は、蒸発部8およびその周囲の切り欠き部10を一体的に覆うように構成してもよく、あるいは、それぞれを別々に覆うように、分割して構成されていてもよい。また、蒸発部8の周囲の切り欠き部10のみを覆うように構成されていてもよい。要は、フィン9の設置密度が高い部分およびその周囲の切り欠き部10に銅微粒子が充填されないように構成されていればよい。次いで、下側部材4に銅微粒子を充填し、その後に加熱炉で加熱する。こうすることにより、フィン9の設置密度が低い蒸発部8の周囲のみに多孔質焼結体13を密着して設けることができる。
【0024】
次に、上記のように構成されたベーパーチャンバー1の作用・効果について説明する。ベーパーチャンバー1に対する入熱がない場合には、液相の作動流体は、例えば蒸発部8に対応して高密度に設けられたフィン9同士の間、および、多孔質焼結体13に保持されている。発熱源7で熱が生じ、その熱が底部6に熱伝達されると、その熱の一部によって作動流体が、蒸発部8およびその周囲の多孔質焼結体13で蒸発させられる。その作動流体蒸気は、コンテナ2内の圧力および温度が低い部分に向けて、フィン9同士の間や切り欠き部10を通って拡散する。作動流体蒸気は、例えば、
図4および
図5での上方に移動し、上側部材3の内側面12で放熱して凝縮する。液相の作動流体はフィン9およびコンテナ2の内壁面を伝って
図4および
図5での下方に流動し、各フィン9同士の間や多孔質焼結体13に保持される。
【0025】
上述したように作動流体が蒸発すると、蒸発部8に対応して高密度に設けられたフィン9同士の間に形成されたメニスカス、および、蒸発部8の周囲に設けられた多孔質焼結体13におけるメニスカスが低下する。またこれに伴う毛管力が生じ、その毛管力をポンプ力として多孔質焼結体13に保持された液相の作動流体が蒸発部8に向けて還流させられる。つまり
図4および
図5に示す例では、蒸発部8に対応して高密度に設けられたフィン9に加えて、蒸発部8の周囲に設けられた多孔質焼結体13によっても毛管力が生じる。そのため、
図4および
図5に示す例における毛管力は、
図1に示す例に比較して多孔質焼結体13が設けられている分、大きい。また、多孔質焼結体13は底部6における蒸発部8の周囲に限定して設けられているため、コンテナ2の内壁面の全面に亘って多孔質焼結体13を設ける場合に比較して、多孔質焼結体13で保持される液相の作動流体の量が低減される。つまり蒸発部8に対する作動流体の還流を特には妨げることがない。それらの結果、蒸発部8に対する液相の作動流体の還流量を増大することができる。
【0026】
発熱源7が発する熱の他の一部は、上述した
図1に示す例と同様に、主として蒸発部8に高密度に形成されているフィン9を介して上側部材3に伝えられる。そのため、上述した構成のベーパーチャンバー1では、作動流体の潜熱による熱輸送に加えて、フィン9を介した熱伝導によっても下側部材4から上側部材3に熱を伝達するためその最大熱輸送量を従来になく向上させることができる。なお、フィン9の設置密度が低い蒸発部8の周囲のみに多孔質焼結体13を設けた場合も、
図4および
図5に示す例と同様の作用・効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0027】
1…ベーパーチャンバー、 2…コンテナ、 3…上側部材、 4…下側部材、 6…底部、 9…フィン、 11…フィンの自由端部、 12…上側部材の内側面。