特許第5789710号(P5789710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5789710
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】磁気記録媒体および磁気記録再生装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/725 20060101AFI20150917BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20150917BHJP
   C10M 105/54 20060101ALI20150917BHJP
   C10M 107/38 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   G11B5/725
   G11B5/84 B
   C10M105/54
   C10M107/38
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-257205(P2014-257205)
(22)【出願日】2014年12月19日
【審査請求日】2015年3月4日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100146879
【弁理士】
【氏名又は名称】三國 修
(72)【発明者】
【氏名】中村 悟
(72)【発明者】
【氏名】洪 泰寧
(72)【発明者】
【氏名】郭 嘉騏
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 大三
【審査官】 柴垣 俊男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−116060(JP,A)
【文献】 特開2013−157048(JP,A)
【文献】 特開2013−163667(JP,A)
【文献】 特開2010−108583(JP,A)
【文献】 特開2009−289411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/62− 5/858
C10M101/00−175/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板上に、少なくとも磁性層と保護層と潤滑剤層とをこの順序で有する磁気記録媒体であって、
前記保護層が、炭素または窒化炭素からなり、
前記潤滑剤層が、前記保護層上に接して形成されており、下記一般式(1)に示す化合物Aと、下記一般式(2)に示す化合物Bとを含み、前記化合物Bに対する前記化合物Aの質量比(A/B)が0.2〜3.0の範囲内であり、前記潤滑剤層の平均膜厚が0.8nm〜2nmであり、
前記化合物Aの平均分子量が1500〜1800の範囲内であり、
前記化合物Bの平均分子量が1000〜1700の範囲内であることを特徴とする磁気記録媒体。
R1−COCHCH(OH)CHOCH−R2−CHOCHCH(OH)CHOH ‥‥(1)
(一般式(1)中、R1は、炭素数1〜4のアルコキシ基である。R2は、−CFO(CFCFO)x(CFO)yCF−(x、yのカッコ内は、この順に、または逆に、またはランダムにつなげて良い(x、yは、それぞれ0〜15の実数である。)。))
CHCHCH(OH)CHOCHCFCFO(CFCFCFO)mCFCFCHOCHCH(OH)CHOH ‥‥(2)
(一般式(2)中、mは整数である。)
【請求項2】
請求項1に記載の磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する媒体駆動部と、
前記磁気記録媒体に情報の記録再生を行う磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体に対して相対運動させるヘッド移動部と、
前記磁気ヘッドからの記録再生信号の処理を行う記録再生信号処理部と、を具備することを特徴とする磁気記録再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクドライブなどの磁気記録再生装置に好適に用いられる磁気記録媒体およびこれを備えた磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録再生装置の記録密度を向上させるために、高記録密度に適した磁気記録媒体の開発が進められている。
磁気記録媒体としては、磁気記録媒体用の基板上に、情報を記録する磁性層と、カーボン等で形成された保護層と、潤滑剤層とをこの順序で形成したものがある。
保護層は、磁性層に記録された情報を保護するとともに、磁気記録媒体に対する磁気ヘッドの摺動性を高めるものである。しかし、磁性層上に保護層を設けただけでは、磁気記録媒体の耐久性は十分には得られない。
【0003】
このため、一般に、保護層の表面に潤滑剤を塗布して潤滑剤層を形成し、磁気記録媒体の耐久性を向上させている。潤滑剤層を設けることにより、磁気記録再生装置の磁気ヘッドと保護層とが直接接触することを防止できる。また、潤滑剤層を設けることにより、磁気記録媒体と、磁気記録媒体上を摺動する磁気ヘッドとの摩擦力が著しく低減される。また、潤滑剤層は、周囲の環境から侵入した不純物によって、磁気記録媒体の磁性層等が腐食されるのを防ぐ役割を有する。
【0004】
従来、磁気記録媒体の潤滑剤層に使用される潤滑剤として、パーフルオロポリエーテル系潤滑剤や脂肪族炭化水素系潤滑剤などがある。
例えば、特許文献1には、HOCH−CFO−(CO)p−(CFO)q−CHOH(p、qは整数。)の構造をもつパーフロロアルキルポリエーテルの潤滑剤を炭素保護膜上に塗布した磁気記録媒体が開示されている。
【0005】
特許文献2には、HOCHCH(OH)−CHOCHCFO−(CO)p−(CFO)q―CFCHOCH―CH(OH)CHOH(p、qは整数。)で表されるパーフロロアルキルポリエーテル(テトラオール)よりなる潤滑剤を塗布した磁気記録媒体が開示されている。
【0006】
特許文献3には、ホスファゼン化合物と、パーフルオロオキシアルキレン単位を有する化合物とを特定の範囲で混合した潤滑剤層を有する磁気記録媒体が記載されている。また、特許文献3には、この潤滑剤層は、保護層との結合力が高く、かつ、保護層の層厚を下げた場合にも高い被覆率が得られることが開示されている。
【0007】
特許文献4には、R−CO−CHCH(OH)CHOCH−R−CH−O−Rで示される化合物を含有する潤滑剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭62−66417号公報
【特許文献2】特開平9−282642号公報
【特許文献3】特開2010−108583号公報
【特許文献4】特開2013−163667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
磁気記録再生装置においては、より一層記録密度を向上させて、磁気ヘッドの浮上量を小さくすることが要求されている。この要求に対応するためには、磁気記録媒体の潤滑剤層の厚みを、より一層薄くすることが好ましい。しかし、潤滑剤層の厚さを薄くすると、潤滑剤層に隙間が形成されやすくなる。その結果、保護層の表面を被覆している潤滑剤層の被覆率が低下する。被覆率の低い潤滑剤層の隙間から、潤滑剤層の下層に汚染物質を生成させる環境物質が侵入すると、環境物質によってイオン性不純物などの磁気記録媒体を汚染する汚染物質が生成されてしまう。
【0010】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、十分に薄い厚みの潤滑剤層によって、保護層の表面が高い被覆率かつ高い結合性で被覆されている磁気記録媒体およびこれを具備する磁気記録再生装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために、以下に示すように鋭意検討した。
すなわち、潤滑剤層の材料として用いられる化合物は、その分子構造中に含まれるOH基の数が多い程、炭素等で形成されている保護層との結合性が高いことが知られている。そのため、従来、潤滑剤層に用いられる化合物に含まれるOH基の数は、2個、4個、6個、8個と増加していく傾向にあった。
【0012】
しかしながら、本発明者らが検討した結果、化合物中におけるOH基の数を増加させると、OH基同士の相互作用によって、この化合物を含む潤滑剤層を有する磁気記録媒体の表面エネルギーが高まることが明らかになった。また、化合物中のOH基の数を増やすと、化合物の分子量が高まる傾向がある。このため、化合物を含む潤滑剤の粘性が高くなって潤滑剤の塗布性が低下し、潤滑剤を塗布して形成された潤滑剤層がアイランド状または網目状となる傾向が高まってしまう。
【0013】
そこで本発明者は、潤滑剤層の材料を最適化するために、磁気記録媒体の表面エネルギーに着目して検討した。すなわち、従来、磁気記録媒体の表面に形成された潤滑剤層の被覆性を評価する手法としては、磁性層上に潤滑剤層を形成して高温高湿環境下でのコロージョン耐性を評価する等の間接的な方法しかなかった。これは、磁気記録媒体の潤滑剤層の厚さは1nm程度と薄く、直接的な解析が困難であったためである。そして、このことは潤滑剤層の材料の最適化を困難にしていた。これに対し、本願発明者は、磁気記録媒体の表面におけるトータルの表面エネルギー(以下「γtotal」という場合がある。)を計算により求め、γtotalの十分に低い潤滑剤層を形成すればよいことを見出した。
【0014】
この表面エネルギー(γtotal)は、潤滑剤層と保護層との結合性を表すパラメータをγABとし、潤滑剤の被覆性を表すパラメータをγLWとすると、それらの合計値(γtotal=γAB+γLW(γtotal、γAB、γLWの単位はmJ/mである。))として示すことができる。γAB、γLWは、例えば、The Measurement of Surface Energy of Polymers by Means of Contact Angles of Liquids on Solid Surfaces(2004,Finn Knut Hansen,University of Oslo)に記載の方法により算出できる。γABが低いほど結合性が高いことを示し、γLWが低いほど被覆性が高いことを示す。
【0015】
したがって、γABおよびγLWが低い(すなわち、表面エネルギー(γtotal)が低い)潤滑剤層であるほど、厚さが薄くてもアイランド状または網目状となりにくく、保護層の表面に対する高い被覆性および結合性を有する。
【0016】
本発明者は、表面エネルギー(γtotal)の低い潤滑剤層の得られる材料について検討を重ねた。その結果、下記一般式(1)に示す化合物Aと下記一般式(2)に示す化合物Bとを、所定の割合で含有する所定の膜厚のものとすることで、表面エネルギー(γtotal)の十分に低い潤滑剤層が得られることを見出した。そして、このような潤滑剤層が、保護層の表面に対する高い被覆性および結合性を有していることを確認し、以下に示す本発明を完成するに至った。
【0017】
[1] 非磁性基板上に、少なくとも磁性層と保護層と潤滑剤層とをこの順序で有する磁気記録媒体であって、前記保護層が、炭素または窒化炭素からなり、前記潤滑剤層が、前記保護層上に接して形成されており、下記一般式(1)に示す化合物Aと、下記一般式(2)に示す化合物Bとを含み、前記化合物Bに対する前記化合物Aの質量比(A/B)が0.2〜3.0の範囲内であり、前記潤滑剤層の平均膜厚が0.8nm〜2nmであることを特徴とする磁気記録媒体。
【0018】
R1−COCHCH(OH)CHOCH−R2−CHOCHCH(OH)CHOH ‥‥(1)
(一般式(1)中、R1は、炭素数1〜4のアルコキシ基である。R2は、−CFO(CFCFO)x(CFO)yCF−(x、yのカッコ内は、この順に、または逆に、またはランダムにつなげて良い(x、yは、それぞれ0〜15の実数である。)。)、または−CFCFO(CFCFCFO)zCFCF−(zは1〜15の実数である。)、または−CFCFCFO(CFCFCFCFO)nCFCFCF−、である(nは0〜4の実数である。)。)
【0019】
CHCHCH(OH)CHOCHCFCFO(CFCFCFO)mCFCFCHOCHCH(OH)CHOH ‥‥(2)
(一般式(2)中、mは整数である。)
【0020】
[2] 前記化合物Aの平均分子量が1500〜1800の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
[3] 前記化合物Bの平均分子量が1000〜1700の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【0021】
[4] [1]〜[3]のいずれかに記載の磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する媒体駆動部と、前記磁気記録媒体に情報の記録再生を行う磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体に対して相対運動させるヘッド移動部と、前記磁気ヘッドからの記録再生信号の処理を行う記録再生信号処理部と、を具備することを特徴とする磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明の磁気記録媒体は、保護層上に接して形成されている潤滑剤層が、上記一般式(1)に示す化合物Aと上記一般式(2)に示す化合物Bとを、所定の割合で含有する所定の膜厚のものである。このため、十分に薄い厚みの潤滑剤層によって、保護層の表面が高い被覆率かつ高い結合性で被覆されている磁気記録媒体となる。
【0023】
したがって、本発明の磁気記録媒体では、イオン性不純物などの汚染物質を生成させる環境物質が潤滑剤層の隙間から侵入することが防止され、環境物質に起因する磁気記録媒体の汚染が防止される。よって、本発明の磁気記録媒体は、耐環境性に優れ、安定した磁気記録再生特性を有する。
また、本発明の磁気記録媒体は、十分に薄い厚みの潤滑剤層を有するものであるので、さらなる記録密度の向上に対応可能しうるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の磁気記録媒体の一例を示す断面模式図である。
図2】本発明の磁気記録再生装置の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の磁気記録媒体および磁気記録再生装置について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
はじめに、本発明の磁気記録媒体において、炭素または窒化炭素からな保護層上に接して形成されている潤滑剤層について説明する。
【0026】
「潤滑剤層」
本発明者は、上述したように、潤滑剤層の材料の最適化に関して、磁気記録媒体の表面エネルギーに着目して検討した。そして、磁気記録媒体の表面におけるトータルの表面エネルギーであるγtotal(γtotal=γAB+γLW)を低減できる潤滑剤層について検討した。
【0027】
γABは、Lewis acid−baseの相互作用から成り立つ表面エネルギーである。γABにより、保護層および潤滑剤層に存在する電子の均衡状態を見積もることが出来る。一般的に、保護層(Lewis base)は電子のdonorであり、潤滑剤層(Lewis acid)は電子のacceptorである。γABの値が低いということは、保護層と潤滑剤層との相互作用が十分に発揮されている状態であるといえる。したがって、γABの値が低いということは、潤滑剤層と保護層との結合性が高いと考えることができる。
【0028】
γLWは、ロンドン分散力またはDipole−Dipole量子論からなるファンデルワールス力を示す表面エネルギーである。γLWにより、潤滑剤層を形成している化合物の分散性を見積もることが出来る。γLWの値が低いということは、潤滑剤層の被覆性が十分に発揮されている状態であるといえる。したがって、γLWの値が低いということは、保護層の露出を妨げる効果が高い(被覆率が高い)と考えることができる。
【0029】
γAB、γLWは次の手順で算出した。先ず、3種類の溶媒(溶媒A、溶媒B、溶媒C)を用いて、磁気記録媒体の保護層上の接触角を測定した。
接触角は公知の方法で測定できる。すなわち、磁気記録媒体の保護層表面に一定量の溶媒を滴下し、一定時間経過後の水滴と保護層表面とのなす角度を接触角計で測定する。
なお、本願発明では、溶媒Aとして水、溶媒Bとしてヨウ化メチレン(Methylene Iodide)、溶媒Cとしてエチレングリコール(Ethylene Glycol)を使用した。溶媒Aを用いた場合の接触角をθ、溶媒Bを用いた場合の接触角をθ、溶媒Cを用いた場合の接触角をθとした。
【0030】
γAB、γLWの算出に用いる式、パラメータは下記のとおりである。
下記の式において「γ」などの符号における数字の1は、溶媒のパラメータであることを示し、「γ」などの符号における数字の2は潤滑剤のパラメータであることを示す。また、「γ」などの符号における「+」はVan Ossの方法の電子受容性の寄与を示すパラメータであることを示し、「γ」などの符号における「−」はVan Ossの方法の電子供与性の寄与を示すパラメータであることを示す。
γtotal、γAB、γLWは、γ、γLW、γ、γが公知である溶媒A〜溶媒Cを用いて、下記の連立方程式を解くことにより求めた。
【0031】
γAB=2(γγ1/2+2(γγ1/2
γLW=2(γLWγLW1/2
γ1A(1+COSθ)=2(γ1ALWγLW1/2+2(γ1Aγ1/2+2(γ1Aγ1/2
γ1B(1+COSθB)=2(γ1BLWγLW1/2+2(γ1Bγ1/2+2(γ1Bγ1/2
γ1C(1+COSθC)=2(γ1CLWγLW1/2+2(γ1Cγ1/2+2(γ1Cγ1/2
【0032】
水:γ1A=72.8、γ1ALW=21.8、γ1A=25.5、γ1A=25.5
ヨウ化メチレン:γ1B=50.8、γ1BLW=50.8、γ1B=0、γ1B=0
エチレングリコール:γ1C=48.0、γ1CLW=29.0、γ1C=1.92、γ1C=47.0
【0033】
本実施形態の磁気記録媒体の潤滑剤層は、上記の方法により算出した磁気記録媒体の表面におけるトータルの表面エネルギー(γtotal)が26.0mJ/m以下のものである。トータルの表面エネルギー(γtotal)は、25.0mJ/m以下であることが好ましく、24.0mJ/m以下であることがより好ましい。表面エネルギー(γtotal)が26.0mJ/m以下であると、保護層の表面が高い被覆率かつ高い結合性で潤滑剤層に被覆された磁気記録媒体となる。
【0034】
本実施形態の磁気記録媒体の潤滑剤層は、上記一般式(1)に示す化合物Aと、上記一般式(2)に示す化合物Bとを含む。表面エネルギー(γtotal)の低い潤滑剤層を得るには、潤滑剤層に含まれる化合物中におけるOH基同士の相互作用を抑制する必要がある。このため、本実施形態では、化合物Aおよび化合物Bとして、分子構造中に含まれるOH基の数が3個のものを用いる。また、化合物Aおよび化合物Bは、分子構造中に含まれるOH基の数が3個であるため、OH基の数が4個以上である化合物と比較して、好ましい分子量を有する化合物となりやすい。したがって、化合物Aおよび化合物Bを含む潤滑剤を塗布して形成した潤滑剤層が、アイランド状または網目状となりにくく、好ましい。しかも、潤滑剤層が化合物Aおよび化合物Bを含むことにより、OH基の数が1個または2個以上である化合物を用いる場合と比較して、保護層との結合性が高い潤滑剤層が得られる。
【0035】
上記一般式(1)に示す化合物Aは、主に、保護層の表面における潤滑剤層の被覆率に寄与する。潤滑剤層が化合物Aを含むことにより、γLWの値が低くなり、表面エネルギー(γtotal)が低くなりやすくなる。
一般式(1)に示す化合物Aとしては、平均分子量が1500〜1800の範囲内であるものが好ましい。化合物Aの平均分子量が上記範囲内であると、化合物Aおよび化合物Bを含む潤滑剤を塗布して潤滑剤層を形成する場合に、十分に粘性が低く塗布しやすい潤滑剤が得られるため、好ましい。
【0036】
一般式(1)に示す化合物Aは、例えば、特許文献4に開示されているように、片方の末端に水酸基を有し、他方の末端にヒドロキシアルキル基を有する直鎖フルオロポリエーテルと、エポキシ基を有するフェノキシ化合物とを反応させることにより得られる。
【0037】
上記一般式(1)に示す化合物Aの市販のものとして、例えば、MORESCO社製のART−1(商品名)を用いることができる。ART−1は、一般式(1)中のR1が炭素数1のアルコキシ基であり、R2が−CFO(CFCFO)x(CFO)yCF−であって、平均分子量が1500〜1800となるようにx、yが調整されたものである。
【0038】
上記一般式(2)に示す化合物Bは、主に、保護層と潤滑剤層との結合力に寄与する。潤滑剤層が化合物Bを含むことにより、γABの値が低くなり、表面エネルギー(γtotal)が低くなりやすくなる。
一般式(2)に示す化合物Bとしては、平均分子量が1000〜1700の範囲内であるものが好ましい。化合物Bの平均分子量が上記範囲内であると、化合物Aおよび化合物Bを含む潤滑剤を塗布して潤滑剤層を形成する場合に、十分に粘性の低い塗布しやすい潤滑剤が得られるため、好ましい。
【0039】
一般式(2)に示す化合物Bの市販のものとして、例えば、MORESCO社製のD3OH(s)(製品名)などを用いることができる。D3OH(s)は、一般式(2)中のmの値が、平均分子量が1000〜1700の範囲内となるように調整されたものである。
【0040】
本実施形態の磁気記録媒体の潤滑剤層は、一般式(2)に示す化合物Bに対する一般式(1)に示す化合物Aの質量比(A/B)が0.2〜3.0の範囲内のものであり、0.25〜2.3の範囲内であることが好ましい。質量比(A/B)を0.2〜3.0の範囲内とすることにより、保護層の表面が潤滑剤層によって、高い被覆率かつ高い結合性で被覆されたものとなる。
【0041】
質量比(A/B)が3.0を超えると、化合物Bが不足するため、潤滑剤層がアイランド状となりやすくなり、保護層の被覆率が不十分になる。また、質量比(A/B)が0.2未満になると、化合物Aが不足するため、潤滑剤層が網目状となりやすくなり、保護層と潤滑剤層との結合力が不十分になる。
【0042】
潤滑剤層は、平均膜厚は、0.8nm(8Å)〜2nm(20Å)の範囲内とされており、1nm〜1.9nmの範囲内であることが好ましい。潤滑剤層の平均膜厚を0.8nm以上とすることにより、潤滑剤層がアイランド状または網目状とならず、潤滑剤層によって、保護層の表面を均一の膜厚で高い被覆率で被覆できる。潤滑剤層の平均膜厚が厚いほど、γABおよびγLWの値が低くなるため、表面エネルギー(γtotal)が低くなる。したがって、潤滑剤層の平均膜厚が厚いほど、潤滑剤層によって、保護層の表面が高い被覆率かつ高い結合性で被覆される。また、潤滑剤層の平均膜厚を2nm以下とすることにより、磁気ヘッドの浮上量を十分小さくして、磁気記録媒体の記録密度を高くすることができる。
【0043】
「磁気記録媒体」
以下に、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態である磁気記録媒体の一例を示す断面模式図である。
図1に示すように、本実施形態の磁気記録媒体11は、非磁性基板1上に、磁性層2と保護層3と潤滑剤層4とがこの順序で積層されたものである。
【0044】
本実施形態においては、非磁性基板1と磁性層2との間に、密着層と軟磁性下地層とシード層と配向制御層とがこの順序で積層されている場合を例に挙げて説明する。密着層、軟磁性下地層、シード層、配向制御層は、必要に応じて設けられるものであり、これらのうちの一部または全部は設けられていなくてもよい。
【0045】
非磁性基板1としては、Alなどの金属材料、またはAl合金などの合金材料からなる基体上に、NiPまたはNiP合金からなる膜が形成されたものなどを用いることができる。また、非磁性基板1としては、ガラス、セラミックス、シリコン、シリコンカーバイド、カーボン、樹脂などの非金属材料からなるものを用いてもよいし、この非金属材料からなる基体上にNiPまたはNiP合金の膜を形成したものを用いてもよい。
【0046】
密着層は、非磁性基板1と密着層上に設けられる軟磁性下地層とを接して配置した場合における非磁性基板1の腐食の進行を防止するものである。密着層の材料としては、例えば、Cr、Cr合金、Ti、Ti合金など適宜選択できる。密着層の厚みは、密着層を設けることによる効果が十分に得られるように2nm以上であることが好ましい。
密着層は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0047】
軟磁性下地層は、第1軟磁性膜と、Ru膜からなる中間層と、第2軟磁性膜とが順に積層された構造を有していることが好ましい。すなわち、軟磁性下地層は、2層の軟磁性膜の間にRu膜からなる中間層を挟み込むことによって、中間層の上下の軟磁性膜がアンチ・フェロ・カップリング(AFC)結合した構造を有していることが好ましい。軟磁性下地層がAFC結合した構造を有していることにより、外部からの磁界に対しての耐性、並びに垂直磁気記録特有の問題であるWATE(Wide Area Tack Erasure)現象に対しての耐性を高めることができる。
【0048】
軟磁性下地層の膜厚は、15〜80nmの範囲であることが好ましく、20〜50nmの範囲であることが更に好ましい。軟磁性下地層の膜厚が15nm未満であると、磁気ヘッドからの磁束を十分に吸収することができず、書き込みが不十分となり、記録再生特性が悪化する恐れがあるため、好ましくない。一方、軟磁性下地層の膜厚が80nmを超えると、生産性が著しく低下するため好ましくない。
【0049】
第1および第2軟磁性膜は、CoFe合金からなるものであることが好ましい。第1および第2軟磁性膜がCoFe合金からなるものである場合、高い飽和磁束密度Bs(1.4(T)以上)を実現できる。また、第1および第2軟磁性膜に使用されるCoFe合金には、Zr、Ta、Nbの何れか1種以上を添加することが好ましい。これにより、第1および第2軟磁性膜の非晶質化が促進され、軟磁性下地層上に形成されるシード層の配向性を向上させることが可能になるとともに、磁気ヘッドの浮上量を低減することが可能となる。
軟磁性下地層は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0050】
シード層は、その上に設けられる配向制御層および磁性層2の配向および結晶サイズを制御する。シード層が設けられていることにより、磁気ヘッドから発生する磁束の基板面に対する垂直方向成分が大きくなるとともに、磁性層2の磁化の方向がより強固に非磁性基板1と垂直な方向に固定される。
【0051】
シード層は、NiW合金からなるものであることが好ましい。シード層がNiW合金からなるものである場合、必要に応じてNiW合金にB、Mn、Ru、Pt、Mo、Taなどの他の元素を添加してもよい。
シード層の膜厚は、2〜20nmの範囲であることが好ましい。シード層の膜厚が2nm未満であると、シード層を設けたことによる効果が十分に得られない場合がある。一方、シード層の膜厚が20nmを超えると、結晶サイズが大きくなるために好ましくない。
シード層は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0052】
配向制御層は、磁性層2の配向が良好なものとなるように制御するものである。配向制御層は、Ru又はRu合金からなるものであることが好ましい。
配向制御層の膜厚は、5〜30nmの範囲であることが好ましい。配向制御層の膜厚を30nm以下とすることで、磁気ヘッドと軟磁性下地層との間の距離が小さくなり、磁気ヘッドからの磁束を急峻にすることができる。また、配向制御層の膜厚を5nm以上とすることで、磁性層2の配向を良好に制御できる。
【0053】
配向制御層は、1層からなるものであってもよいし、複数層からなるものであってもよい。配向制御層が複数層からなるものである場合、全ての配向制御層が同じ材料からなるものであってもよいし、少なくとも一部が異なる材料からなるものであってもよい。
配向制御層は、スパッタリング法により形成できる。
【0054】
磁性層2は、磁化容易軸が基板面に対して垂直方向を向いた磁性膜からなる。磁性層2は、CoとPtを含むものであり、更にSNR特性を改善するために、酸化物や、Cr、B、Cu、Ta、Zrなどを含むものであってもよい。
磁性層2に含有される酸化物としては、SiO、SiO、Cr、CoO、Ta、TiOなどが挙げられる。
【0055】
磁性層2は、1層からなるものであってもよいし、組成の異なる複数層からなるものであってもよい。
例えば、磁性層2が第1磁性層と第2磁性層と第3磁性層の3層からなる場合、第1磁性層は、Co、Cr、Ptを含み、さらに酸化物を含んだ材料からなるグラニュラー構造のものであることが好ましい。第1磁性層に含有される酸化物としては、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどの酸化物を用いることが好ましい。その中でも特に、TiO、Cr、SiOなどを好適に用いることができる。また、第1磁性層は、酸化物を2種類以上添加した複合酸化物からなることが好ましい。その中でも特に、Cr−SiO、Cr−TiO、SiO−TiOなどを好適に用いることができる。
【0056】
第1磁性層は、Co、Cr、Pt、酸化物の他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Reの中から選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。
第1磁性層が上記元素を含むことにより、磁性粒子の微細化を促進、又は結晶性や配向性を向上させることができ、より高密度記録に適した記録再生特性、熱揺らぎ特性を得ることができる。
【0057】
第2磁性層には、第1磁性層と同様の材料を用いることができる。第2磁性層は、グラニュラー構造のものであることが好ましい。
また、第3磁性層は、Co、Cr、Ptを含み、酸化物を含まない材料からなる非グラニュラー構造のものであることが好ましい。第3磁性層は、Co、Cr、Ptの他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Re、Mnの中から選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。第3磁性層がCo、Cr、Ptの他に上記元素を含むことにより、磁性粒子の微細化を促進、又は結晶性や配向性を向上させることができ、より高密度記録に適した記録再生特性及び熱揺らぎ特性を得ることができる。
【0058】
磁性層2の厚みは、5〜25nmとすることが好ましい。磁性層2の厚みが上記未満であると、十分な再生出力が得られず、熱揺らぎ特性も低下する。また、磁性層2の厚さが上記範囲を超えた場合には、磁性層2中の磁性粒子の肥大化が生じ、記録再生時におけるノイズが増大し、信号/ノイズ比(S/N比)や記録特性(OW)に代表される記録再生特性が悪化するため好ましくない。
【0059】
磁性層2が複数層からなるものである場合、隣接する磁性層の間には、非磁性層を設けることが好ましい。磁性層2が第1磁性層と第2磁性層と第3磁性層の3層からなる場合、第1磁性層と第2磁性層との間と、第2磁性層と第3磁性層との間に、非磁性層を設けることが好ましい。磁性層間に非磁性層を適度な厚みで設けることで、個々の膜の磁化反転が容易になり、磁性粒子全体の磁化反転の分散を小さくすることができ、S/N比をより向上させることができる。
【0060】
磁性層の間に設けられる非磁性層は、例えば、Ru、Ru合金、CoCr合金、CoCrX1合金(X1は、Pt、Ta、Zr、Re,Ru、Cu、Nb、Ni、Mn、Ge、Si、O、N、W、Mo、Ti、V、Zr、Bの中から選ばれる少なくとも1種又は2種以上の元素を表す。)などを好適に用いることができる。
【0061】
磁性層の間に設けられる非磁性層としては、酸化物、金属窒化物、又は金属炭化物を含んだ合金材料を使用することが好ましい。具体的には、酸化物として、例えば、SiO、Al、Ta、Cr、MgO、Y、TiOなどを用いることができる。金属窒化物として、例えば、AlN、Si、TaN、CrNなどを用いることができる。金属炭化物として、例えば、TaC、BC、SiCなどを用いることができる。
【0062】
磁性層の間に設けられる非磁性層の厚みは、0.1〜1nmとすることが好ましい。非磁性層の厚みを上記の範囲とすることで、S/N比をより向上させることができる。
非磁性層は、スパッタリング法により形成できる。
【0063】
また、磁性層2は、より高い記録密度を実現するために、磁化容易軸が基板面に対して垂直方向を向いた垂直磁気記録の磁性層であることが好ましい。磁性層2は、面内磁気記録であってもよい。
磁性層2は、蒸着法、イオンビームスパッタ法、マグネトロンスパッタ法など従来の公知のいかなる方法によって形成してもよい。磁性層2は、通常、スパッタリング法により形成される。
【0064】
保護層3は、磁性層2を保護するものである。保護層3は、一層からなるものであってもよいし、複数層からなるものであってもよい。
本実施形態の保護層3は、炭素または窒化炭素で形成されている。保護層3が炭素または窒化炭素からなるものである場合、保護層3に含まれる炭素原子と、または保護層3に含まれる炭素原子および窒素原子と、潤滑剤層4とが結合して、保護層3と潤滑剤層4とが高い結合力で結合されたものとなる。その結果、潤滑剤層4の厚みが薄くても、潤滑剤層4によって、高い被覆率および結合性で保護層3の表面が被覆された磁気記録媒体11となり、磁気記録媒体11の表面の汚染を効果的に防止できる。
【0065】
保護層3の膜厚は1nm〜10nmの範囲内とすることが好ましい。
保護層3の膜厚が10nm以下である場合、本実施形態の磁気記録媒体11を備える磁気記録再生装置における磁気的スペーシングを十分に低減することができる。磁気的スペーシングとは、磁気ヘッドと磁性層2との間の距離のことを意味する。磁気的スペーシングを狭くするほど、磁気記録再生装置の電磁変換特性を向上させることができる。
保護層3の膜厚が1nm以上である場合、磁性層2を保護する効果が十分に得られ、耐久性を向上させることができる。
【0066】
保護層3の成膜方法としては、保護層3が炭素からなるものである場合、カーボンターゲット材を用いるスパッタ法や、エチレンやトルエンなどの炭化水素原料を用いるCVD(化学蒸着法)法、IBD(イオンビーム蒸着)法などを用いることができる。保護層3が窒化炭素からなるものである場合は、保護層3が炭素からなるものである場合に用いる原料に、窒素を含有させることで成膜できる。
【0067】
本実施形態の潤滑剤層4は、保護層3上に接して形成されている。潤滑剤層4は、上述したように、一般式(1)に示す化合物Aと一般式(2)に示す化合物Bとを、所定の割合で含有する所定の膜厚のものである。潤滑剤層4は、保護層3を形成している炭素または窒化炭素に対する結合性、被覆性が非常に高いものである。
潤滑剤層4は、磁気記録媒体11の汚染を防止するとともに、磁気記録媒体11上を摺動する磁気記録再生装置の磁気ヘッドの摩擦力を低減させて、磁気記録媒体11の耐久性を向上させるものである。
【0068】
潤滑剤層4は、例えば、以下に示す方法により形成できる。
まず、非磁性基板1上に保護層3までの各層の形成された製造途中の磁気記録媒体を作成する。次いで、製造途中の磁気記録媒体の保護層3上に、潤滑剤層形成用溶液を塗布する。
【0069】
潤滑剤層形成用溶液は、化合物Bに対する化合物Aの質量比(A/B)が、0.2〜3.0の範囲内となるように、化合物Aと化合物Bとを混合し、必要に応じて溶剤で希釈して、塗布方法に適した粘度および濃度とすることにより得られる。
潤滑剤層形成用溶液に用いられる溶剤としては、例えば、バートレルXF(商品名、三井デュポンフロロケミカル社製)等のフッ素系溶媒などが挙げられる。
【0070】
潤滑剤層形成用溶液の塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、スピンコート法やディップ法などが挙げられる。
ディップ法を用いる場合、例えば、以下に示す方法を用いることができる。まず、ディップコート装置の浸漬槽に入れられた潤滑剤層形成用溶液中に、保護層3までの各層が形成された非磁性基板1を浸漬する。その後、浸漬槽から非磁性基板1を所定の速度で引き上げる。このことにより、潤滑剤層形成用溶液を非磁性基板1の保護層3上の表面に塗布する。ディップ法を用いることで、潤滑剤層形成用溶液を非磁性基板1の保護層3上の表面に均一に塗布することができ、保護層3上に均一な膜厚の潤滑剤層4を形成できる。
【0071】
本実施形態の磁気記録媒体11は、非磁性基板1上に、少なくとも磁性層2と保護層3と潤滑剤層4とをこの順序で有し、保護層3が炭素または窒化炭素からなり、潤滑剤層4が保護層3上に接して形成されたものである。そして、潤滑剤層4が、一般式(1)に示す化合物Aと、一般式(2)に示す化合物Bとを含み、化合物Bに対する化合物Aの質量比(A/B)が0.2〜3.0の範囲内であり、平均膜厚が0.8nm〜2nmのものである。このことにより、本実施形態の磁気記録媒体11は、潤滑剤層4の厚みが薄くてもアイランド状または網目状とならず、潤滑剤層4によって高い被覆率かつ結合性で保護層3の表面が被覆されているものとなる。
【0072】
よって、本実施形態の磁気記録媒体11は、潤滑剤層4の隙間から潤滑剤層4の下層に侵入した環境物質が、潤滑剤層4の下層に存在するイオン成分を凝集させて、磁気記録媒体11を汚染することを防止できる。
また、本実施形態の磁気記録媒体11は、厚みが薄くても磁気記録媒体11の表面の汚染を効果的に防止できる潤滑剤層4を有しているので、潤滑剤層4を十分薄くすることにより、さらなる記録密度の向上に対応可能しうるものとなる。
また、本実施形態の磁気記録媒体11は、磁気記録媒体11の汚染がより顕著となる高温状態で使用した場合であっても、汚染されにくく、耐環境性に優れ、安定した磁気記録再生特性が得られる。
【0073】
「磁気記録再生装置」
次に、本実施形態の磁気記録再生装置の一例について説明する。図2は、本発明の実施形態である磁気記録再生装置の一例を示す斜視図である。
本実施形態の磁気記録再生装置101は、図1に示す磁気記録媒体11と、媒体駆動部123と、磁気ヘッド124と、ヘッド移動部126と、記録再生信号処理部128とを具備したものである。
【0074】
媒体駆動部123は、磁気記録媒体11を記録方向に駆動するものである。磁気ヘッド124は、磁気記録媒体11に情報の記録再生を行うものであり、記録部と再生部とを有する。ヘッド移動部126は、磁気ヘッド124を磁気記録媒体11に対して相対運動させるものである。記録再生信号処理部128は、磁気ヘッド124からの記録再生信号の処理を行うものである。
【0075】
本実施形態の磁気記録再生装置101は、十分に厚みの薄い潤滑剤層4によって高い被覆率かつ結合性で保護層3の表面が被覆されているため、磁気記録媒体上に存在する汚染物質が少ない磁気記録媒体11を具備している。したがって、磁気記録媒体11上に存在する汚染物質が、磁気記録再生装置101の磁気ヘッド124に転写されて、記録再生特性が低下したり、浮上安定性が損なわれたりすることが防止されたものとなる。よって、本発明の磁気記録再生装置101は、安定した磁気記録再生特性を有する。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
(実施例)
洗浄済みのガラス基板(HOYA社製、外形2.5インチ)を、DCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製C−3040)の成膜チャンバ内に収容して、到達真空度1×10−5Paとなるまで成膜チャンバ内を排気した。
【0077】
その後、このガラス基板の上に、スパッタリング法によりCrターゲットを用いて層厚10nmの密着層を成膜した。
次いで、スパッタリング法により、密着層の上に軟磁性下地層を形成した。軟磁性下地層としては、第1軟磁性層と中間層と第2軟磁性層とを成膜した。まず、Co−20Fe−5Zr−5Ta{Fe含有量20原子%、Zr含有量5原子%、Ta含有量5原子%、残部Co}のターゲットを用いて、100℃以下の基板温度で、層厚25nmの第1軟磁性層を成膜した。次に、第1軟磁性層の上に、層厚0.7nmのRuからなる中間層を成膜した。その後、中間層の上に、層厚25nmのCo−20Fe−5Zr−5Taからなる第2軟磁性層を成膜した。
【0078】
次に、軟磁性下地層の上に、スパッタリング法によりNi−6W{W含有量6原子%、残部Ni}ターゲットを用いて、層厚5nmのシード層を成膜した。
その後、シード層の上に、スパッタリング法により第1の配向制御層として、スパッタ圧力を0.8Paとして層厚10nmのRu層を成膜した。次に、第1の配向制御層上に、スパッタリング法により第2の配向制御層として、スパッタ圧力を1.5Paとして層厚10nmのRu層を成膜した。
【0079】
続いて、第2の配向制御層の上に、スパッタリング法により91(Co15Cr16Pt)−6(SiO)−3(TiO){Cr含有量15原子%、Pt含有量16原子%、残部Coの合金を91mol%、SiOからなる酸化物を6mol%、TiOからなる酸化物を3mol%}からなる第1磁性層を、スパッタ圧力を2Paとして層厚9nmで成膜した。
【0080】
次に、第1磁性層の上に、スパッタリング法により88(Co30Cr)−12(TiO){Cr含有量30原子%、残部Coの合金を88mol%、TiOからなる酸化物を12mol%}からなる非磁性層を層厚0.3nmで成膜した。
その後、非磁性層の上に、スパッタリング法により92(Co11Cr18Pt)−5(SiO)−3(TiO){Cr含有量11原子%、Pt含有量18原子%、残部Coの合金を92mol%、SiOからなる酸化物を5mol%、TiOからなる酸化物を3mol%}からなる第2磁性層を、スパッタ圧力を2Paとして層厚6nmで成膜した。
【0081】
その後、第2磁性層の上に、スパッタリング法によりRuからなる非磁性層を層厚0.3nmで成膜した。
次いで、非磁性層の上に、スパッタリング法によりCo−20Cr−14Pt−3B{Cr含有量20原子%、Pt含有量14原子%、B含有量3原子%、残部Co}からなるターゲットを用いて、スパッタ圧力を0.6Paとして第3磁性層を層厚7nmで成膜した。
次に、イオンビーム法により窒化炭素(窒素含有量は5原子%)からなる層厚3nmの保護層を成膜した。
【0082】
次に、以下に示す化合物Aおよび化合物B、または、その他の化合物を、以下に示す溶剤に溶解させて潤滑剤層形成用溶液を作成した。そして、得られた潤滑剤層形成用溶液をディップコート装置の浸漬槽に入れ、保護層までの各層が形成された非磁性基板を浸漬した。その後、浸漬槽から非磁性基板を一定の速度で引き上げることにより、非磁性基板の保護層上の表面に潤滑剤層形成用溶液を塗布し、潤滑剤層を形成した。以上の工程を行うことにより、実施例1〜実施例13、比較例1〜比較例6の磁気記録媒体を得た。
【0083】
「化合物A」ART−1(商品名:MORESCO社製)
「化合物B」D3OH(s)(商品名:MORESCO社製)
「その他の化合物」D4OH(商品名:MORESCO社製)
D4OHは、下記一般式(3)のpが4〜30の範囲内であり、平均分子量が約2500である。
「溶剤」バートレルXF(商品名:三井デュポンフロロケミカル社製)
【0084】
【化1】
(一般式(3)中、pは4〜30の範囲内である。)
【0085】
実施例1〜実施例13、比較例1〜比較例6の磁気記録媒体について、潤滑剤層の平均膜厚をフーリエ変換赤外分光法(FT−IR)により測定した。その結果を表1に示す。
また、潤滑剤層に含まれる化合物Aと化合物Bとの質量比(A:B)、化合物Bに対する化合物Aの質量比(A/B)を表1に示す。
【0086】
また、実施例1〜実施例13、比較例1〜比較例6の磁気記録媒体について、潤滑剤層のγAB(結合性)、γLW(被覆性)を前述の方法で測定し、(γtotal(γAB+γLW)を算出して評価した。磁気記録媒体表面(保護層上)の接触角の測定には、溶媒として、水、ヨウ化メチレン、エチレングリコールの3種類を使用した。評価結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示すように、実施例1〜実施例13の磁気記録媒体は、比較例1〜比較例6の磁気記録媒体と比較して、磁気記録媒体の表面におけるトータルの表面エネルギー(γtotal(γAB+γLW))が低いものであった。このため、実施例1〜実施例13の磁気記録媒体では、保護層の表面の被覆率が高く、かつ結合性も高いという結果になったものと推定される。
【0089】
これに対し、比較例1では化合物Aが多すぎるため、比較例2では化合物Bが多すぎるため、表面エネルギー(γtotal(γAB+γLW))が高くなり、潤滑剤層による保護層の表面に対する被覆率および結合性が不足したものと推定される。
また、比較例3は、潤滑剤層の平均膜厚が薄すぎるため、表面エネルギー(γtotal(γAB+γLW))が高くなり、潤滑剤層による保護層の表面に対する被覆率および結合性が不足したものと推定される。
【0090】
また、比較例4では化合物Bを含まないため、比較例5では化合物Aを含まないため、表面エネルギー(γtotal(γAB+γLW))が高くなり、潤滑剤層による保護層の表面に対する被覆率および結合性が不足したものと推定される。
また、比較例6では化合物がOH基を4つ有する構造の潤滑剤であるため、表面エネルギー(γtotal(γAB+γLW))が高くなり、潤滑剤層による保護層の表面に対する被覆率および結合性が不足したものと推定される。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の磁気記録媒体及び磁気記録再生装置は、高記録密度の磁気記録媒体及び磁気記録再生装置を利用・製造する産業において利用可能性がある。
【符号の説明】
【0092】
1・・・非磁性基板、2・・・磁性層、3・・・保護層、4・・・潤滑剤層、11・・・磁気記録媒体、101・・・磁気記録再生装置、123・・・媒体駆動部、124・・・磁気ヘッド、126・・・ヘッド移動部、128・・・記録再生信号処理部。
【要約】
【課題】十分に薄い厚みの潤滑剤層によって、保護層の表面が高い被覆率かつ結合性で被覆されている磁気記録媒体の提供。
【解決手段】潤滑剤層4が式(1)に示す化合物Aと式(2)に示す化合物Bとを含み、(A/B)0.2〜3.0、平均膜厚0.8nm〜2nmである磁気記録媒体11。R1−COCHCH(OH)CHOCH−R2−CHOCHCH(OH)CHOH(1)(R1は炭素数1〜4のアルコキシ基。R2は−CFO(CFCFO)x(CFO)yCF−(x、yは0〜15)、−CFCFO(CFCFCFO)zCFCF−(zは1〜15)、−CFCFCFO(CFCFCFCFO)nCFCFCF−(nは0〜4)。CHCHCH(OH)CHOCHCFCFO(CFCFCFO)mCFCFCHOCHCH(OH)CHOH(2)(mは整数)
【選択図】図1
図1
図2