【実施例】
【0027】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、これらは説明のための単なる例示であって、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0028】
実施例1:
第1のカーボンナノチューブとしてVGCF(登録商標)−H(平均直径150nm、平均繊維長10μm)900gを用い、第2のカーボンナノチューブとしてVGCF(登録商標)−X(平均直径15nm、平均繊維長3μm)100gを用いた。この両者を純水50リットルにポリイソチアナフテンスルホン酸0.5gを溶解した溶液に入れて、ミキサー(IKA社製 ULTRA−TURRAX UTC 80)を用いて予備的に混合した。
【0029】
得られた混合物を湿式ジェットミル(スギノマシン社製StarBurst HJP−25005)を用いて圧力200MPaで処理した。得られたスラリーに構造体としてカーボン短繊維(ドナカーボ・チョップS−232、大阪ガス社製)を100g添加して、再び湿式ジェットミル(ULTRA−TURRAX UTC 80)を用いて混合した。
【0030】
カーボン短繊維を混合したこのスラリーを3リットル用いて、横210mm、縦300mmの長方形の濾過機に流し込み、吸引濾過してケーキを作製した。得られたケーキに総荷重20トンをかけて圧縮してから、重しを載せて200℃の乾燥器に入れて乾燥させた。乾燥したケーキの厚さは5mmで総重量は56gであった。乾燥したケーキを50mm ×50mmの大きさに切りだし、電極とした。
図1は、得られた電極材料の透過電子顕微鏡写真である。電極材料は、第1のカーボンナノチューブ1の表面に第2のカーボンナノチューブ2が付着して絡み、第2のカーボンナノチューブ2が複数の第1のカーボンナノチューブ1間に跨った構造を有する。透過電子顕微鏡で電極材料を観察した際に、合計100本の第2のカーボンナノチューブを観察した結果、72本の第2のカーボンナノチューブ2が複数の第1のカーボンナノチューブ1間を跨った構造をしていた。
【0031】
得られた前記電極をカソード及びアノードとして1枚ずつ用いてレドックスフローバッテリーを組んで出力をテストした。アノード側に2価のバナジウムイオン(V
+2)の水溶液、カソード側に5価のバナジウムイオン(V
+5)の水溶液を導入し、それぞれの水溶液をチューブポンプで循環させた。なお、これらバナジウムイオンの水溶液は濃度4.5Mの硫酸を含む。両電極間の隔膜はNafion(登録商標)膜を用いた。
【0032】
前記レドックスフローバッテリーにおいて、バナジウムイオンの溶液中の濃度は1.5M、全溶液使用量は50mlであった。したがって理論容量は7200クーロンである。
【0033】
前記レドックスフローバッテリーで1Aの定電流放電を行った。カソードとアノードの電位差を起電力とし、起電力が1.0Vに達した時を終点とすると、1.7Vからスタートし平均約1.2Vで推移し、1.0Vまでに通過した電気量は7000クーロンであった。放電時間は117分であった。
【0034】
放電し終わったレドックスフローバッテリーに1Aの定電流充電を行い、カソードとアノードの電位差が1.6Vになったところで定電圧充電に切り替えた。その時の充電容量は7200クーロンであった。
【0035】
実施例2:
ポリイソチアナフテンスルホン酸15gを溶解したこと、およびカーボン短繊維を添加しなかったことを除いて、実施例1と同じ条件で50mm×50mmの大きさの電極を作製した。透過電子顕微鏡により観察したところ、得られた電極材料は、実施例1と同様に第2のカーボンナノチューブが複数の第1のカーボンナノチューブ間に跨った構造を有することが確認された。
【0036】
得られた電極を用い、実施例1と同様にレドックスフローバッテリーを組んで出力をテストした。1Aの定電流放電では、起電力が1.7Vからスタートし平均約1.2Vで推移し、電気量は7100クーロンであった。放電時間は122分であった。
【0037】
放電し終わった前記レドックスフローバッテリーの1Aの定電流充電での充電容量は7200クーロンであった。
【0038】
実施例3:
第1のカーボンナノチューブとして平均直径100nmのカーボンナノチューブ900gを用いたことを除いて、実施例1と同じ条件で50mm×50mmの大きさの電極を作製した。乾燥後の目視で、圧縮されたケーキの外周部に小さな割れが複数認められたが、外周部を避けて、割れのない電極を切り出すことができた。透過電子顕微鏡により観察したところ、得られた電極材料は、実施例1と同様に第2のカーボンナノチューブが複数の第1のカーボンナノチューブ間に跨った構造を有することが確認された。
【0039】
得られた電極を用い、実施例1と同様にレドックスフローバッテリーを組んで出力をテストした。1Aの定電流放電では、起電力が1.7Vからスタートし平均約1.1Vで推移し、電気量は6200クーロンであった。放電時間は102分であった。
【0040】
放電し終わったレドックスフローバッテリーの1Aの定電流充電での充電容量は6400クーロンであった。
【0041】
実施例4:
第2のカーボンナノチューブとして平均直径30nmのカーボンナノチューブ100gを用いたことを除いて、実施例1と同じ条件で50mm×50mmの大きさの電極を作製した。乾燥後の目視で、圧縮されたケーキの外周部に大きな割れが複数認められたが、圧縮されたケーキの中央部から、割れのない電極を切り出すことができた。透過電子顕微鏡により観察したところ、得られた電極材料は、実施例1と同様に第2のカーボンナノチューブが複数の第1のカーボンナノチューブ間に跨った構造を有することが確認された。
【0042】
得られた電極を用い、実施例1と同様にレドックスフローバッテリーを組んで出力をテストした。1Aの定電流放電では、起電力が1.7Vからスタートし平均約1.1Vで推移し、電気量は6100クーロンであった。放電時間は95分であった。
【0043】
放電し終わった前記レドックスフローバッテリーの1Aの定電流充電での充電容量は6300クーロンであった。
【0044】
比較例1:
実施例1において、第2のカーボンナノチューブを1000g用い、第1のカーボンナノチューブを用いなかったことを除き、同様に電極材料の作製を試みた。第2のカーボンナノチューブは湿式ジェットミルを通したのち、濾過機に流し込んで、同様な方法で乾燥させた。しかし、乾燥収縮でバラバラになってしまい、50mm×50mmの試片を取れなかった。そのため、その後の工程に進むことができなかった。これは、湿式ジェットミルとともに、第1のカーボンナノチューブも第2のカーボンナノチューブの分散に寄与しているものと考えられる。
【0045】
比較例2:
実施例1において、第1のカーボンナノチューブを1000g用い、第2のカーボンナノチューブを用いなかったことを除き、同様にレドックスフローバッテリーを作製し、評価を行った。
【0046】
実施例1とおなじ濾過機にスラリーを流し込んで、同様に乾燥させて取り出したところ、数本大きな割れが発生してしまった。割れた切れ端の大きいところを選んで、50mm×50mmを切り出し、同様にレドックスフローバッテリーを組んで充放電を行った。1Aの定電流放電では、起電力1.5Vからスタートし、1.0Vまでに通過した電気量は5400クーロンであった。
【0047】
比較例3:
第1のカーボンナノチューブとして平均直径80nmのカーボンナノチューブ900gを用いたことを除いて、実施例1と同じ条件で濾過機にスラリーを流し込んで、同様に乾燥させて取り出した。圧縮されたケーキ全体に大きな割れが複数発生し、50mm×50mmの試片を取れなかったので、その後の工程に進めなかった。バラバラになった小片を透過電子顕微鏡により観察したところ、第2のカーボンナノチューブが、複数の第1のカーボンナノチューブに跨った構造は観察されなかった。
【0048】
比較例4:
第2のカーボンナノチューブとして平均直径80nmのカーボンナノチューブ100gを用いたことを除いて、実施例1と同じ条件で濾過機にスラリーを流し込んで、同様に乾燥させて取り出した。圧縮されたケーキは、乾燥収縮でバラバラになってしまい、50mm×50mmの試片を取れなかったので、その後の工程に進めなかった。
バラバラになった小片を透過電子顕微鏡により観察したところ、比較例3と同様に第2のカーボンナノチューブが、複数の第1のカーボンナノチューブに跨った構造は観察されなかった。
【0049】
比較例5:
ミキサーを用いた予備混合後の湿式ジェットミル(スギノマシン社製StarBurst HJP−25005)による処理、およびカーボン短繊維添加後の湿式ジェットミル(ULTRA−TURRAX UTC 80)による混合のいずれも行わなかったことを除いて、実施例1と同じ条件で濾過機にスラリーを流し込んで、同様に乾燥させて取り出した。圧縮されたケーキは、乾燥収縮でバラバラになってしまい、50mm× 50mmの試片を取れなかったので、その後の工程に進めなかった。
バラバラになった小片を透過電子顕微鏡により観察したところ、第2のカーボンナノチューブは凝集しており、この凝集体と第1のカーボンナノチューブが混在する構造であった。比較例3、4と同様、第2のカーボンナノチューブが、複数の第1のカーボンナノチューブに跨った構造は観察されなかった。