(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5789910
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】プラスチック気泡シート、その製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
B29C 51/10 20060101AFI20150917BHJP
B29C 51/22 20060101ALI20150917BHJP
B29C 51/26 20060101ALI20150917BHJP
B32B 3/26 20060101ALI20150917BHJP
B29L 31/60 20060101ALN20150917BHJP
【FI】
B29C51/10
B29C51/22
B29C51/26
B32B3/26 A
B29L31:60
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2009-183920(P2009-183920)
(22)【出願日】2009年8月6日
(65)【公開番号】特開2010-58502(P2010-58502A)
(43)【公開日】2010年3月18日
【審査請求日】2012年8月1日
(31)【優先権主張番号】特願2008-206449(P2008-206449)
(32)【優先日】2008年8月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000199979
【氏名又は名称】川上産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100070161
【弁理士】
【氏名又は名称】須賀 総夫
(72)【発明者】
【氏名】川上 肇
(72)【発明者】
【氏名】岩坂 正基
(72)【発明者】
【氏名】町田 智則
(72)【発明者】
【氏名】山田 邦晶
【審査官】
増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−252999(JP,A)
【文献】
特開2005−125564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/00−51/46
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックを材料とし、多数のキャップ状突起をもつキャップフィルムと、そのキャップの底面に貼り合わせた平坦なバックフィルムとからなり、多数の密閉された空気室を有するプラスチック気泡シートであって、バックフィルムの肉厚が16μm以下であり、バックフィルムの肉厚のバラツキが±10%以内であって、目付が35g/m2以下であるプラスチック気泡シート。
【請求項2】
プラスチックを材料とし、多数のキャップ状突起をもつキャップフィルムと、そのキャップの底面に貼り合わせた平坦なバックフィルムとからなり、多数の密閉された空気室を有するプラスチック気泡シートを、
A)回転する金属の円筒に多数の凹みを設け、凹みの底を真空吸引源に接続した成形ロールに、熱可塑化状態にあるプラスチックフィルムを供給し、真空成形を行なって多数のキャップ状突起を有するキャップフィルムを形成し、かつ
B)このようにして成形されたキャップフィルムの底面に、キャップフィルムが真空成形ロールの上にある間に、T−ダイから溶融押出しされ、熱可塑化状態にあるバックフィルムを接触させて融着させることにより製造する方法において、
キャップフィルムの底面にバックフィルムが接触して融着する直前の位置に放電装置を配置し、この放電装置と真空成形ロールとの間に高圧の直流電圧を印加し、放電装置と真空成形ロールの中心とを結ぶ平面上を放電電流が通過する放電を行なってバックフィルムに静電気を帯びさせ、バックフィルムが静電気により真空成形ロールに吸引されてキャップフィルムの底面に密着するようにすることにより、上記の融着を促進するようにしたことを特徴とするプラスチック気泡シートの製造方法。
【請求項3】
放電装置と真空成形ロールとの間に印加する直流電圧の値と、放電装置と真空成形ロールとの距離を、使用したプラスチックの特性およびバックフィルムの厚さに応じて選択して放電を安定的に継続させることにより、バックフィルムのキャップフィルムに対する密着を確保して実施する請求項2のプラスチック気泡シートの製造方法。
【請求項4】
プラスチックを材料とし、多数のキャップ状突起をもつキャップフィルムと、そのキャップの底面に貼り合わせた平坦なバックフィルムとからなり、多数の密閉された空気室を有するプラスチック気泡シートであって、キャップフィルムおよびバックフィルムが、いずれもポリエチレンであって、それぞれ下記の範囲の厚さをもち、
キャップフィルム:10〜180μm
バックフィルム:7.5〜150μm、
かつ、バックフィルムの肉厚のバラツキが±10%以内であって、目付が30〜300g/m2であるプラスチック気泡シートを製造するための方法であって、放電装置がプラスであって真空成形ロールがマイナスとなる直流電圧を印加し、その電圧を25〜50kV、放電装置の先端と真空成形ロールの表面との距離を50〜100mmの範囲から選択して実施する請求項2の製造方法。
【請求項5】
プラスチックを材料とする、多数のキャップ状突起をもつキャップフィルムと、そのキャップの底面に貼り合わされた平坦なバックフィルムとから構成されるプラスチック気泡シートを製造する装置であって、下記の各部分、
イ)バックフィルム(II)を熱可塑化状態で押し出すためのT−ダイ(1B)、
ロ)熱可塑化状態にあるキャップフィルム用のプラスチックフィルムを真空成形によりキャップフィルムとするための、多数の凹みと真空吸引手段とをそなえた真空成形ロール(2)、
ハ)キャップフィルムの底面にバックフィルムが融着して形成されたプラスチック気泡シート(III)を真空成形ロールから分離させるための剥離ロール(4)、
ニ)プラスチック気泡シートを引き取ってコイルとする巻取手段、
を有するプラスチック気泡シートの製造装置において、
熱可塑化状態で下降してくるバックフィルムが真空成形ロール上のキャップフィルムと接触する線よりわずか上方に、導電性材料で製造した放電針(6A)を多数、平行かつ等間隔に植えた放電基板(6B)を配置し、放電針の先端を連ねる直線と真空成形ロールの軸との間の平行を保ちつつ、放電基板の位置を変更可能にする手段を設け、さらに、放電針と真空成形ロールとの間に、値が可変の高圧の直流電圧を印加する手段(7)を設けてなることを特徴とする製造装置。
【請求項6】
キャップフィルム用のプラスチックフィルム(I)を熱可塑化状態で押し出して、真空成形ロールに直接するためのT−ダイ(1A)を備えた請求項5の製造装置。
【請求項7】
請求項5に記載の構成部分に加えて、さらに
ホ)真空成形ロール(2)上であって放電針(6A)の後に、ラミネートロール(8)を備え、かつ、
ヘ)ラミネートロール(8)の後にエアナイフ(9)を配置した
請求項5または6の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉厚が均一なプラスチック気泡シートに関し、そのようなプラスチック気泡シートを製造する方法および装置にも関する。本発明により、所要の緩衝性能を発揮し、必要な強度を維持しながら、目付(製品プラスチック気泡シートの単位面積当たりの重量)を可能な限度まで減らしたプラスチック気泡シートが提供される。さらに本発明により、キャップフィルムへのバックフィルムの融着が確実で、透明性が向上したプラスチック気泡シートを製造する方法が提供されるとともに、製造装置から、バックフィルム加圧ロールが不要となる。
【背景技術】
【0002】
プラスチック、代表的にはポリエチレンを材料とし、真空成形により多数のキャップを形成したキャップフィルムと、平坦なバックフィルムとを貼り合わせ、多数の密閉された空気室を形成したプラスチック製の気泡シートが、主として緩衝包装の分野で、また一部は断熱材として使用されている。この二層構成の気泡シートに対して、キャップシートのキャップの頂を連ねてもう1枚の平坦なライナーシートを貼り合わせた、三層品がある。
【0003】
このプラスチック気泡シートは、その用途にとって必要な緩衝性能ないし断熱性能を有している限り、できるだけ少量の材料で製造することができれば、製造コストを低くすることができ、資源の消費量を低減することができるだけでなく、使用済みの気泡シートを焼却処分したりするときにも、二酸化炭素の発生量を抑制することができて好ましい。
【0004】
一方で、上記の三層構成のプラスチック気泡シートを構成する各フィルムの厚さを厚くして行けば、剛性が増して、プラスチック気泡ボードが得られる。この気泡ボードは、プラスチック中空板として使用可能である。この種のプラスチック中空板の材料としては、ポリプロピレンが最適である。ポリプロピレンを材料とするプラスチック中空板は、自動車部品やコンテナーをはじめとする種々の製品の構造材として、広く使用されるようになってきた。
【0005】
上記の二層構成の気泡シートの製造は、通常、
図2に示すように、キャップフィルムの成形を、回転可能に設置した金属製の円筒であって、その表面に多数のキャップ状のキャビティを設け、それらの底部を真空吸引装置に接続した真空成形ロール(2)を用いて、可塑化状態にあるキャップフィルム用フィルム(I)を真空成形することによって行ない、キャップフィルムが真空成形ロール上にある間に、キャップの底面に、可塑化状態にあるバックフィルム用フィルム(II)を、加圧ロール(3)を用いて押しつけることによって融着させる、という手順で行なっている。
【0006】
この加圧ロール(3)は、鋼製のロールの上にゴムの層を設け、さらにフッ素樹脂のコーティングを施したものが、一般に使用されている。加圧ロールの役割には、上記した、バックフィルム用フィルム(II)を押しつけることに加えて、バックフィルムの融着しない外側を冷却することにもある。しかし、冷却は、過度に進むとバックフィルムのキャップフィルムへの融着を不完全にするので、適度でなければならない。とくに、バックフィルムが薄い場合や、ラインスピードが遅い操業の場合、冷却の度合は、微妙なコントロールを必要とする。それに加え、加圧ロールにはメンテナンスの問題もある。それは、フッ素樹脂コーティングに損傷が生じると、それがバックフィルムの表面に転写されるので、頻繁に交換しなければならないという煩わしさがあることで、これはコストにも反映する。
【0007】
フィルム製造の実際において、高い引取速度においても、透明度が高く幅方向の収縮が少ないフィルムを製造することを目的として、冷却ロールに溶融フィルムを密着させるためのピンニング装置を使用することが提案されている(特許文献1)。このピンニング装置とは、実際には、冷却ロールの軸方向に平行に電極線を張り、この電極線と冷却ロールとの間に高い直流の電圧を印加し、Tダイからフィルム状に押し出された材料に静電気を起こさせて、フィルム状の材料を冷却ロールに密着させる、という原理に従っている。しかし、特許文献1には、電極線は冷却ロールおよびフィルムとの関係においてどこに位置させるべきか、またどの程度の電圧を印加すればよいか、など具体的な開示がない。
【特許文献1】特開2004−255720
【0008】
発明者らは、キャップフィルム用のフィルムを真空成形したばかりの、キャビティにキャップが付着している真空成形ロールに向かってバックフィルムを加圧する手段として、放電装置を用いた静電気による吸引を利用することを試みたところ、キャップフィルムがロール上に存在するにもかかわらず、それにより意図したことが妨げられることなく、バックフィルムがキャップフィルムの底面に密着し、確実な融着が実現することが確認できた。それによって、従来使用していたバックフィルムを加圧するためのロールが、まったく不要となった。
【0009】
さらに研究を進めた結果、静電気による吸引を利用してバックフィルムをキャップフィルムに密着させたときは、バックフィルムに生じる肉厚の不均一さが避けられることを見出した。その機構を追求した発明者らは、従来技術において使用されてきた加圧ロールが、バックフィルムをキャップフィルムに融着させるときに、若干であるが、バックフィルムを「押し潰す」ことを知った。押し潰しの現象は、実は、従来の二層構成プラスチック気泡シートについて、キャップ・バック融着部分の単位面積当たりの重量を測定したときに、気泡シート全体の目付に対して10%近い誤差(融着部分が軽量)があることから確認された。
【0010】
そこで、バックフィルムの気泡を構成している部分の厚さの分布を調べたところ、
図1Aに誇張して示すような断面形状および肉厚分布が生じていることがわかった。すなわち、気泡の側壁の立ち上がり部分に近いバックフィルムは、周囲から押された材料が面方向に移動して集まり、キャップ・バック融着部分よりも厚くなるのに対して、気泡の中心部分は加圧ロールとバックフィルムとの間に挟まれた空気層の存在により押されて、薄くなる。これに対し、静電気の力でバックフィルムをキャップフィルムの底部に密着させると、加圧ロールが加えるほど強い力がバックフィルムに加えられないため、材料が押されて移動することがなくなるので、
図1Bに示すように、理想的に均一な肉厚が実現するわけである。このようにして、バックフィルムのキャップフィルム底部への密着に静電気を利用する手法は、バックフィルムとして従来よりも薄いフィルムを使用しても、同じ程度のキャップ圧壊強度を実現できるという、実用上の利益をもたらした。
【0011】
装置に関する改善としては、加圧ロールの廃止に伴い、キャップフィルムに密着させたバックフィルムをエアナイフで急冷することが容易になり、それによってバックフィルムの透明性を高めることが可能になった。さらに場合によっては、静電気発生装置と剥離ロールとの間に小径の水冷ロールを置くことができるようになった。これは、バックフィルム上に任意のラミネート基材を貼り合わせる態様を可能にする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上述した発明者らが得た新知見を活用して、基本的には、多数のキャップを有するキャップフィルムのキャップの底部にバックフィルムを貼り合わせて多数の密閉された空気室を形成したプラスチック気泡シートにおいて、材料の使用効率をより高くし、従来品よりも低減された目付で、同等のキャップ圧壊強度を示し、したがって従来どおりの緩衝性能を発揮することができるものを提供することにある。
【0013】
本発明のさらなる目的は、第一には、上記のようなプラスチック気泡シートを製造する方法であって、キャップフィルムへのバックフィルムの融着が確実で、透明性が向上したプラスチック気泡シートを製造する方法を提供することにある。第二には、上記したプラスチック気泡シートを製造する装置であって、バックフィルム加圧ロールを必要としないものを提供することにある。第三には、上記したプラスチック気泡シートであって、バックフィルム上にラミネートを施したものを製造する装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のプラスチック気泡シートは、プラスチックを材料とし、多数のキャップ状突起をもつキャップフィルムと、そのキャップの底面に貼り合わせた平坦なバックフィルムとからなり、多数の密閉された空気室を有するプラスチック気泡シートであって、
図1Bに示すように、バックフィルムの肉厚が16μm以下であり、バックフィルムの肉厚の平均のバラツキが±10%以内であって、目付が35g/m
2以下であるプラスチック気泡シートである。適切な材料を使用して製造した本発明のプラスチック気泡シートは、キャップの圧壊強度が、直径10mm、高さ3.5mmのキャップを例にとったとき、40N/個を確保することができる。
【0015】
このようなプラスチック気泡シートを製造する本発明の方法は、上記の構造をもつプラスチック気泡シートを、
A)回転する金属の円筒に多数の凹みを設け、凹みの底を真空吸引源に接続した成形ロールに、熱可塑化状態にあるプラスチックフィルムを供給し、真空成形を行なって多数のキャップ状突起を有するキャップフィルムを形成し、かつ
B)このようにして成形されたキャップフィルムの底面に、キャップフィルムが真空成形ロールの上にある間に、T−ダイから溶融押出しされ熱可塑化状態にあるバックフィルムを接触させて融着させることにより製造する方法において、
キャップフィルムの底面にバックフィルムが接触して融着する直前の位置に放電装置を配置し、この放電装置と真空成形ロールとの間に高圧の直流電圧を印加し、放電装置と真空成形ロールの中心とを結ぶ平面上を放電電流が通過する放電を行なってバックフィルムに静電気を帯びさせ、バックフィルムが静電気により真空成形ロールに吸引されてキャップフィルムの底面に密着するようにすることにより、上記の融着を促進するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のプラスチック気泡シートは、前述のように、バックフィルムの肉厚が均一になるから、キャップにおいて強度上の弱点になる肉薄部分が、少なくともバックフィルムには存在せず、もっぱらキャップ稜部のような、成形工程上原理的に肉薄となる部分だけ関心を払えばよい。つまり、バックフィルムをその限度いっぱいに薄くすることが可能である。この利益は、具体的にいえば、常用のポリエチレンを材料とするプラスチック気泡シートの目付を、これまで下限とされてきた40g/m
2より引き下げ、上記したように35g/m
2以下で足りるようにした。
【0017】
プラスチック気泡シートを製造する本発明の方法によるときは、可塑化状態で垂下してきたバックフィルムが、静電気の作用により真空成形ロールに向かって吸引される結果、真空成形ロール上にあって、まさに成形されたばかりのキャップフィルムのキャップの底面に密着し、確実に融着する。このとき、バックフィルムは、従来の製造方法によるような、加圧ロールによる背面の冷却を受けていないから、完全な可塑化状態に保たれており、かつ、十分な熱を保有しているから、キャップフィルムとの融着が完全に行なわれ、融着不完全な部分が生じることはない。その結果、得られるプラスチック気泡シートは透明性の高いものである。
【0018】
前述のように、従来技術によるときは、加圧ロールによるバックフィルムの冷却の程度を適切にコントロールする必要があったが、本発明によるときは、その問題は自動的に解消し、バックフィルムが薄い場合でも、また、ラインスピードが遅い場合でも、冷却の微妙なコントロールに悩まされることがなくなる。加圧ロールの廃止は、そのメンテナンスに伴う問題をも同時に解消したから、前記したフッ素樹脂コーティングの損傷が製品に転写されるという問題を根本からなくし、製品の品質の維持にとって有利であるばかりか、コスト面でも有利になる。
【0019】
設備に関して、加圧ロールに代って放電装置とその電源が必要になるが、設備費は僅かですみ、消費電力などの運転コストもとるに足らないものである。加圧ロールがなくなることは、真空成形ロールと加圧ロールとの間に作業員が挟まれる危険が解消することを意味し、作業環境の安全性が格段に向上することも特筆すべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
プラスチック気泡シートのバックフィルムに肉厚の不均一が生じることは、これまで予想されなかった。発明者らは、キャップフィルムとバックフィルムとが融着した部分の肉厚が全体の目付を代表する値でないことに気付き、その原因を追及して、
図1Bにみるように、キャップ側壁の内側を一周するように肉厚部分が存在することを知った。この偏肉は、真空成形ロールによりキャップの成形が行なわれたキャップフィルムにバックフィルムが融着したとき、バックフィルムの溶融していた部分が加圧ロールに押されて面方向に移動し、キャップ内に入ってそこに落ち着くという機構により生じたものと理解される。しかも、加圧ロールの押圧により加圧ロールとバックフィルムとの間に空気が挟まれ、バックフィルムのキャップ底面中央部分がキャップ内に押しやられるので、中央部分のバックフィルムは、肉薄になる傾向がある。
【0021】
上記したような原因で生じたバックフィルムの肉厚の不均一は、キャップの圧壊強度に対しては当然に不利に働く。本発明に従って、キャップフィルムへのバックフィルムの密着を静電気を利用して行ない、加圧ローラを廃止すれば、上記の原因に基づいてバックフィルムに生じていた偏肉はすべて解消し、バックフィルムの厚さが、キャップの圧壊強度の向上に最も効率よく寄与するようになる。このようにして、本発明の気泡シートは、同じ目付であってもより強度が高いものとなる。
【0022】
キャップフィルムは、真空成形ロールに接して成形される時点では熱可塑化状態にある必要があり、その条件をもっとも直接的に実現するには、T−ダイから溶融押出ししたフィルムを、可塑化状態にある間に真空成形ロールに供給する、いわゆる「直接法」が簡明である。一方、いったんフィルムにしたプラスチック材料を使用し、真空成形ロールに至る間に加熱ロールと接触させるなどの手段により加熱して可塑化状態として供給する、いわゆる「再加熱法」があり、気泡シートの製造に当たっては、とくに腰の強い製品を製造したい場合に行なわれている。本発明の実施に当たっては、直接法と再加熱法のどちらも可能である。
【0023】
本発明のプラスチック気泡シートの製造装置は、
図2に示すように、プラスチックを材料とする、多数のキャップ状突起をもつキャップフィルムと、そのキャップの底面に貼り合わされた平坦なバックフィルムとから構成されるプラスチック気泡シートを製造する装置であって、下記の各部分、
イ)バックフィルム(II)を熱可塑化状態で押し出すためのT−ダイ(1B)、
ロ)熱可塑化状態にあるキャップフィルム用のプラスチックフィルムを真空成形によりキャップフィルムとするための、多数の凹みと真空吸引手段とをそなえた真空成形ロール(2)、
ハ)キャップフィルムの底面にバックフィルムが融着して形成されたプラスチック気泡シート(III)を真空成形ロールから分離させるための剥離ロール(4)、
ニ)プラスチック気泡シートを引き取ってコイルとする巻取手段、
を有するプラスチック気泡シートの製造装置において、
熱可塑化状態で下降してくるバックフィルムが真空成形ロール上のキャップフィルムと接触する線よりわずか上方に、
図4に示すような、導電性材料で製造した放電針(6A)を多数、平行かつ等間隔に植えた放電基板(6B)を配置し、放電針の先端を連ねる直線と真空成形ロールの軸との間の平行を保ちつつ、放電基板の位置を変更可能にする手段を設け、さらに、放電針と真空成形ロールとの間に、値が可変の高圧の直流電圧を印加する手段(7)を設けてなることを特徴とする。
【0024】
図3に示した構成の装置は、キャップフィルム用のプラスチックフィルム(I)を熱可塑化状態で押し出して、真空成形ロール(2)に直接供給するためのT−ダイ(1A)を備えており、上記した直接法を実施する装置である。再加熱法を実施する装置においては、T−ダイ(1A)に代えて、キャップフィルム用のプラスチックフィルムをコイルから繰り出す手段と、繰り出されたフィルムを加熱して可塑化状態にするための加熱ロールを備える。
【0025】
本発明の実施に当たっては、
図6に示すように、放電電流が、放電針の先端から真空成形ロールの軸に向かう平面(P)上を、面から逸脱することなく安定して継続的に流れる、という条件を確保することが肝要である。この条件としては、まず、放電針の先端を連ねる直線とライナー加圧ロールの軸とが完全に平行であることと、放電針の先端と真空成形ロールの表面との距離(L)を一定に保つことが必要であるが、それに加えて、放電電流が通過する平面(P)の位置を適切に選択しなければならない。さらに、放電の安定性と継続性にとって、印加する直流電圧の値と、放電針から真空成形ロールへの距離との選択が重要であり、それらは、使用したプラスチックの特性と、バックフィルムの厚さに応じて選択する。これには若干の試行錯誤を要するが、当業者は、後記する実施例を参考にして、印加する直流電圧は25〜50kV、放電針の先端と真空成形ロール表面との距離は50〜100mmの範囲から、適切な条件を容易に見出すことができるであろう。
【0026】
高圧の直流電圧を印加する方向は、材料とするプラスチックの種類に応じて選択する。その選択とは、プラスチックが高圧の直流電場におかれたとき、プラスに帯電しやすいかマイナスに帯電しやすいかによるのであって、前者であれば、ライナー加圧ロールをプラス、放電針をマイナスとし、後者であれば、逆に、放電針がプラスであって、ライナー加圧ロールがマイナスとなるようにすればよい。具体的には、ナイロンはプラスに帯電しやすく、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィンはマイナスに帯電しやすい。ポリエステルやポリスチレンもマイナスになる。
【0027】
本発明のプラスチック気泡シートを構成する、キャップフィルム用のフィルム(I)およびバックフィルム(II)は、ともに熱可塑化した状態で加工するものであるから、T−ダイから溶融押出しされたプラスチックフィルムを使用することが有利である。2枚のシートを、
図2に示したように、すべてT−ダイ(1A,1B)から溶融押出しして供給すれば、完全インライン操業が可能である。しかし、同じ加工条件つまり熱可塑化した状態は、別に製造したこれらのシートを、いったんリールに巻き取ってから繰り出し、加熱ロールに接触させて所要の温度に加熱することによっても実現可能である。場合によっては、上記のT−ダイから直接溶融押出しすることと、加熱ロールによる可塑化とを併用することもできる。
【0028】
プラスチック気泡シートを製造するために使用する本発明の装置の別の態様は、バックフィルムの上に、もう1枚のフィルムないしシートからなるラミネート基材を貼り合わせる機能を有するものであって、
図7に示すように、真空成形ロール(2)上、放電針(6A)の後に、ラミネートロール(8)を備えた構成の装置である。ラミネートロール(8)は、強い加圧を行なったのでは加圧ロールをなくした意味がないから、ラミネート基材の貼り合わせに必要な限度で押圧する程度の加圧力のものとする。このロールは温度調節が重要であって、通常は内部に冷水を通して冷却するが、場合により温水を通して過度の冷却にならないようにする。温度は、ラミネート基材の種類および厚さ、バックフィルムの種類と厚さ、キャップフィルムに接するときの温度、ラインスピードなどの諸要因を考慮して決定する。この装置は、必要により、図示したように、ラミネートロール(8)の後にエアナイフ(9)を置いて、キャップフィルム−バックフィルム−ラミネート基材からなる積層材を冷却することができる。冷却は、製品気泡シートの透明化や、高いラインスピードの実現に役立つ。
【0029】
本発明のプラスチック気泡シートの材料としては、熱可塑性であってフィルム化が可能なものであれば、とくに制限はないが、プラスチック気泡シートの材料としてとくに有用なポリエチレンおよびポリプロピレン、あるいは両者のブレンドが、好適に使用可能である。
【0030】
製品のシート厚さや坪量、さらにキャップの直径および高さ、配置および密度などは、プラスチック気泡シートの用途に関連して所望される物理的特性や緩衝性能などに従って選択する。緩衝包装材や、引っ越しや模様替え工事のための養生材という常用の用途に向けるものについていえば、フィルムの厚さは、それぞれ下記の範囲が一般的であって、
キャップフィルム:10〜180μm、
バックフィルム:7.5〜150μm、
この厚さは、坪量にして30〜300g/m
2に相当する。前述のように、本発明により、従来は実用上40g/m
2が下限とされてきた、緩衝材として十分な気泡圧壊強度を有する気泡シートの目付の下限を、35g/m
2、理想的な態様では30g/m
2に低減することが可能になった。
【0031】
気泡シートのキャップの直径は、3〜15mmの範囲、高さはそれに応じて3〜15mmの範囲が一般的である。配置は、千鳥配置、格子配置、斜め格子配置など、任意に選択できる。気泡シートに行なわれている千鳥配置は、方向性がないという点で好ましいが、場合によっては、格子配置が有利なこともある。本発明のプラスチック気泡シートには、製造に当たって、任意の添加剤、たとえば着色剤、充填剤、酸化防止剤、帯電防止剤、抗菌剤、燃焼補助剤などを添加できることはいうまでもない。
【実施例1】
【0032】
本発明の気泡シート製造装置を、つぎのようにして製作した。すなわち、太さ2mm×長さ20mmの金属製であって先端を鋭くした針を、10mmの間隔をおいて、金属製の放電基板の上に植えた。直径が300mmで、内部に冷却水の流路を設けた真空成形ロールを対象に、上記の放電装置を、放電針の先端とロール表面との距離(L)が約75mmとなるように配置した。放電電流が流れる平面(P)、すなわち放電針の先端と真空成形ロールの軸とを結ぶ平面がバックフィルムを横切る直線(C
2)は、放電によるバックフィルムの密着を行なわない場合にバックフィルムが真空成形ロールに接触する直線(C
1)よりも、約15mm上方にある。
【0033】
上記のようにして用意した気泡シート製造装置をそなえ、
図2に示した構成であって、2種のシートをすべてT−ダイから押し出して供給するようにした装置を用い、材料としてPE「ニポロンLF10」(東ソー製)を使用し、プラスチック気泡シートを製造した。2種のフィルムの押し出し厚さはつぎのとおりであり、
キャップフィルム:35μm
バックフィルム: 25μm
キャップの大きさは、外径が10mm、ピッチが11.5mmであって、配置は千鳥配置である。
放電針の側をプラス、真空成形ロールの側がマイナスとなるように、30kVの直流電圧を印加したとき、上記の厚さ25μmのバックフィルムを通過する安定的な放電が継続し、バックフィルムが真空成形ロールに引き寄せられ、キャップフィルムに一直線上で密着した。
【0034】
得られたプラスチック気泡シートは、厚さが60mm、目付が55g/m
2である。この製品のバックフィルムとキャップフィルムとの密着は、ほぼ完全であって、融着不良を示す部分はきわめてまれであった。
【実施例2】
【0035】
材料としてPE「ペトロセン213」(東ソー製)を使用し、2種のフィルムの押し出し厚さをつぎのとおりとし、目付を35g/m
2に低減した気泡シートを製造した。
キャップフィルム:28μm
バックフィルム: 10μm
キャップの大きさは、実施例1と同様に、外径が10mm、ピッチが11.5mmであって、配置は千鳥配置である。
【0036】
キャップを軸にそって中央で切断し、その底部に位置するバックフィルムの厚さを測定した。厚さの最大値は10.5μm、最小値は9.5μmであって、肉厚のバラツキは±5%であった。このキャップは、圧壊強度47N/粒を示した。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明のプラスチック気泡シートの改善点を説明するための、キャップの拡大した断面を若干誇張して示した図であって、Aは従来技術によるキャップ、Bは本発明のキャップの断面を、それぞれ示す。
【
図2】本発明のプラスチック気泡シートの製造方法を説明するための、従来の装置の構成を示す断面図。
【
図3】本発明のプラスチック気泡シートの製造装置を説明するための装置の構成を示す、
図2に対応する断面図。
【
図4】本発明のプラスチック気泡シートの製造技術を特徴付ける、放電によりバックフィルムを真空成形ロールに密着させるための、放電針を備えた装置を示す平面図。
【
図5】
図4の装置を本発明のプラスチック気泡シートの製造技術に使用したが、放電による密着を行なっていない場合を示す断面図。
【
図6】
図4の装置において、放電による密着を行なった場合を、若干誇張して表現した断面図。
【
図7】本発明のプラスチック気泡シートの製造装置について別の態様を説明するための、装置の主要部を示す、
図3の一部に対応する断面図。
【符号の説明】
【0038】
1A,1B T−ダイ
2 真空成形ロール
3 バックフィルム加圧ロール
4 剥離ロール
6A 放電針 6B 放電基板 6C 放電針の先端
7 直流電圧印加装置
8 ラミネートロール
9 エアナイフ
I キャップフィルム
II バックフィルム
III プラスチック気泡シート
P 放電電流が通過する平面(放電針の先端と真空成形ロールの軸とを結ぶ平面)
L 放電針の先端と真空成形ロールの表面との距離
C
1 バックフィルムが真空成形ロールに接触する直線(放電を行なわない場合)
C
2 バックフィルムが真空成形ロールに接触する直線(放電を行なった場合)