特許第5789929号(P5789929)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友電気工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5789929-III族窒化物結晶の成長方法 図000007
  • 特許5789929-III族窒化物結晶の成長方法 図000008
  • 特許5789929-III族窒化物結晶の成長方法 図000009
  • 特許5789929-III族窒化物結晶の成長方法 図000010
  • 特許5789929-III族窒化物結晶の成長方法 図000011
  • 特許5789929-III族窒化物結晶の成長方法 図000012
  • 特許5789929-III族窒化物結晶の成長方法 図000013
  • 特許5789929-III族窒化物結晶の成長方法 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5789929
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】III族窒化物結晶の成長方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20150917BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20150917BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   C30B29/38 D
   C30B25/20
   H01L21/205
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2010-174534(P2010-174534)
(22)【出願日】2010年8月3日
(65)【公開番号】特開2012-36012(P2012-36012A)
(43)【公開日】2012年2月23日
【審査請求日】2013年6月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣村 友紀
(72)【発明者】
【氏名】上松 康二
(72)【発明者】
【氏名】吉田 浩章
(72)【発明者】
【氏名】藤原 伸介
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−046377(JP,A)
【文献】 特開2008−308401(JP,A)
【文献】 特開2006−315947(JP,A)
【文献】 特開2008−143772(JP,A)
【文献】 特開平03−075298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
C30B 25/20
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面充填ができる三角形および凸四角形のいずれかの形状である主表面を有するタイル基板を複数準備する工程と、
前記タイル基板の頂点部が互いに向かい合う任意の点において互いに向かい合う前記頂点部の数が3以下であるように、複数の前記タイル基板を一部の前記タイル基板の頂点部と他の一部の前記タイル基板の頂点部とが向かい合わないようにずらして平面充填させて配置する工程と、
配置された複数の前記タイル基板の前記主表面上にIII族窒化物結晶を成長させる工程と、を備え、
複数の前記タイル基板を平面充填させて配置する工程において、隣り合う前記タイル基板において互いに隣り合う側表面の間の距離が20μm以下であり、かつ、前記タイル基板の頂点部が互いに向かい合う複数の点のうち互いに隣り合う任意の二点の間の距離が100μm以上となるように前記タイル基板を配置するIII族窒化物結晶の成長方法。
【請求項2】
前記タイル基板の前記主表面の形状は、平面充填ができる凸四角形である請求項1に記載のIII族窒化物結晶の成長方法。
【請求項3】
前記タイル基板は、GaN基板である請求項1または請求項2に記載のIII族窒化物結晶の成長方法。
【請求項4】
前記III族窒化物結晶を成長させる工程において、ハイドライド気相成長法により、900℃以上1100℃以下で前記III族窒化物結晶としてGaN結晶を成長させる請求項1から請求項3のいずれかに記載のIII族窒化物結晶の成長方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のタイル基板の主表面上にIII族窒化物結晶を成長させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光デバイス、電子デバイスなどの半導体デバイスに好適に用いられるIII族窒化物結晶は、そのコストを低減する観点から、大型のものが求められている。
【0003】
ここで、自然界において大型のIII族窒化物結晶が存在しないため、下地基板として、III族窒化物結晶以外の化学式を有する基板を用いて、III族窒化物結晶を成長させる必要がある。たとえば、特開2000−349338号公報(以下、特許文献1という)には、下地基板であるIII族窒化物結晶以外の化学式を有する基板上に反りや割れを発生させずに厚いIII窒化物(GaN)結晶膜を成長させる方法が開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1に開示されている成長方法では、下地基板の主表面の面積を大きくすると、III族窒化物結晶と下地基板との間の結晶格子の不整合により、III族窒化物結晶内部の歪みが大きくなり、反りや割れが発生するため、大型のIII族窒化物結晶を成長させることが困難であった。
【0005】
そこで、特開2008−133151号公報(以下、特許文献2という)は、複数の種基板を種基板の側部側にずらして配置する配置工程と、HVPE法(ハイドライド気相成長法、以下同じ)により複数の種基板の各々の表面上にIII族窒化物結晶を成長させる成長工程とを備え、その成長工程において複数の種基板の各々の表面上に成長した結晶の各々が一体化するように成長させる結晶成長方法を提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−349338号公報
【特許文献2】特開2008−133151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2に提案されている結晶成長方法では、一体化して得られたIII族窒化物結晶は、その主表面にピットが多く発生するため、それから得られるIII族窒化物結晶基板の歩留まりが低下する問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するため、複数のタイル基板を用いて主表面におけるピットの発生が少ない大型のIII族窒化物結晶を成長させるIII族窒化物結晶の成長方法を提供することを目的とする。このようなピットの発生が少ない大型のIII族窒化物結晶からは、大型のIII族窒化物結晶基板が歩留まりよく得られる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、平面充填ができる三角形および凸四角形のいずれかの形状である主表面を有するタイル基板を複数準備する工程と、タイル基板の頂点部が互いに向かい合う任意の点において互いに向かい合う頂点部の数が3以下であるように、複数のタイル基板を一部のタイル基板の頂点部と他の一部のタイル基板の頂点部とが向かい合わないようにずらして平面充填させて配置する工程と、配置された複数のタイル基板の主表面上にIII族窒化物結晶を成長させる工程と、を備え、複数のタイル基板を平面充填させて配置する工程において、隣り合うタイル基板において互いに隣り合う側表面の間の距離が20μm以下であり、かつ、タイル基板の頂点部が互いに向かい合う複数の点のうち互いに隣り合う任意の二点の間の距離が100μm以上となるように、タイル基板を配置するIII族窒化物結晶の成長方法である。
【0010】
本発明にかかるIII族窒化物結晶の成長方法において、タイル基板の主表面の形状は、平面充填ができる凸四角形とすることができる。また、タイル基板は、GaN基板とすることができる。また、上記のIII族窒化物結晶を成長させる工程において、ハイドライド気相成長法により、900℃以上1100℃以下でIII族窒化物結晶としてGaN結晶を成長させることができる
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数のタイル基板を用いて主表面におけるピットの発生が少ない大型のIII族窒化物結晶を成長させるIII族窒化物結晶の成長方法を提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明にかかるIII族窒化物結晶の成長方法において、タイル基板の準備工程および配置工程の一例を示す概略図である。ここで、(A)は配置されたタイル基板の概略平面図であり、(B)は(A)のIB−IBにおける概略断面図である。
図2】本発明にかかるIII族窒化物結晶の成長方法において、III族窒化物結晶の成長工程を示す概略断面図である。
図3】従来のIII族窒化物結晶の成長方法におけるタイル基板の配置の一例を示す概略平面図である。
図4】本発明にかかるIII族窒化物結晶の成長方法におけるタイル基板の配置の一例を示す概略平面図である。
図5】従来のIII族窒化物結晶の成長方法におけるタイル基板の配置の別の例を示す概略平面図である。
図6】本発明にかかるIII族窒化物結晶の成長方法におけるタイル基板の別の配置を示す概略平面図である。
図7】本発明にかかるIII族窒化物結晶の成長方法において用いられる結晶成長方法の一例を示す概略断面図である。
図8】III族窒化物結晶の成長方法において、タイル基板の頂点部が互いに向かい合う複数の点のうち互いに隣り合う二点の間の小さい方の距離とIII族窒化物結晶の主表面におけるピット発生率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1および図2を参照して、本発明の一実施形態であるIII族窒化物結晶の成長方法は、平面充填ができる三角形および凸四角形のいずれかの形状である主表面10mを有するタイル基板10を複数準備する工程(図1)と、タイル基板の頂点部が互いに向かい合う任意の点Pにおいて互いに向かい合う頂点部の数が3以下であるように、複数のタイル基板10を平面充填させて配置する工程(図1)と、配置された複数のタイル基板10の主表面10m上にIII族窒化物結晶20を成長させる工程(図2)と、を備える。本実施形態のIII族窒化物結晶の成長方法によれば、主表面20mに発生するピット20pが少ない大型のIII族窒化物結晶20が得られる。
【0014】
(タイル基板の準備工程)
図1を参照して、本実施形態のIII族窒化物結晶の成長方法は、まず、平面充填ができる三角形および凸四角形のいずれかの形状である主表面10mを有するタイル基板10を複数準備する工程(タイル基板の準備工程)を備える。
【0015】
ここで、平面充填とは、平面内を一定形状のタイル基板で稠密に敷き詰める操作をいう。タイル基板10の主表面の形状は、平面充填ができる三角形および凸四角形のいずれかである。ここで、凸四角形とは、4つの角が全て凸状になっている四角形、すなわち4つの角の内角がいずれも180°未満の四角形をいう。平面充填ができる三角形は、任意の三角形であれば足りるが、タイル基板を容易に作製する観点から、正三角形、二等辺三角形、直角三角形などが好ましい。平面充填できる凸四角形は、平行四辺形であれば足りるが、タイル基板を容易に作製する観点から、正方形、長方形、菱形などが好ましい。
【0016】
タイル基板10の大きさは、特に制限はないが、タイル基板のハンドリング性が高い観点から、タイル基板10の主表面10mにおいて、最も短い辺の長さが10mm以上が好ましく、最も長い辺の長さが50mm以下が好ましい。タイル基板10の厚さは、特に制限はないが、タイル基板の機械的強度およびハンドリング性が高い観点から、100μm以上2000μm以下が好ましい。
【0017】
また、タイル基板10は、その主表面10m上にIII族窒化物結晶20をエピタキシャル成長させることができるものであれば特に制限はないが、III族窒化物結晶と格子定数の整合性が高く結晶性の高いIII族窒化物結晶を成長させることができる観点から、サファイア基板、SiC(炭化珪素)基板、GaAs基板、III族窒化物基板が好ましく、これらの中でIII族窒化物基板がより好ましい。また、III族窒化物結晶としてGaN結晶を成長させる場合は、GaN基板が特に好ましい。
【0018】
ここで、タイル基板10は、特に制限はないが、たとえば、バルク結晶を所定の結晶面で切り出し、その主表面10mおよび側表面10sを研磨またはエッチングなどの表面処理をすることにより準備される。ここで、側表面10sを上記の表面処理をしていないタイル基板10であっても、主表面10mを上記の表面処理をしている限り、用いることも可能である。タイル基板10の主表面上に結晶性の高いIII族窒化物結晶をエピタキシャル成長させる観点から、タイル基板10は、その主表面10mおよび側表面10sは所定の面方位を有することが好ましい。たとえば、タイル基板10が、六方晶系で近似されるコランダム(鋼玉)型構造の結晶構造を有するサファイア基板、六方晶系の結晶構造を有する2H、4H、6H、8H、10H型のSiC基板、六方晶系のウルツ鉱型構造の結晶構造を有するIII族窒化物基板(特にGaN基板)の場合は、タイル基板10の主表面10mは(0001)面、タイル基板10の側表面10sは{1−100}面(M面)、{11−20}面(A面)、{31−40}面、ならびに{31−40}面および{0001}面の両面に垂直な面(ここで、{31−40}面、ならびに{31−40}面および{0001}面の両面に垂直な面は、いずれもM面とA面との間の面方位を有する面である。)の少なくともいずれかの面などが好ましい。また、タイル基板10が、立方晶系の閃亜鉛鉱型構造の結晶構造を有するGaAs基板の場合は、タイル基板10の主表面10mは(111)面、タイル基板の側表面は{1−10}面、{001}面などが好ましい。
【0019】
また、配置された複数のタイル基板の主表面上に一体化した結晶性の高いIII族窒化物結晶をエピタキシャル成長させる観点から、タイル基板10は、その主表面10mの平均粗さRaは、20nm以下が好ましく、5nm以下がより好ましく、その側表面10sの平均粗さRaは、20nm以下が好ましく、5nm以下がより好ましい。ここで、平均粗さRaとは、JIS B0601:2001に規定される算術平均粗さRaをいい、具体的には、粗さ曲線からその平均線の方向に標準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から粗さ曲線までの距離(偏差の絶対値)を合計し標準長さで平均した値をいう。かかる平均粗さRaは、AFM(原子間力顕微鏡)により測定される。
【0020】
また、上記の複数のタイル基板をより稠密に平面充填させる観点から、タイル基板の寸法のばらつきに関して、頂点部の内角の平均値からのばらつきは、±1°以内が好ましく、±0.1°以内がより好ましく、一辺の長さの平均値からのばらつきは、±5μm以内が好ましく、±1μm以内がより好ましい。
【0021】
(タイル基板の配置工程)
図1を参照して、本実施形態のIII族窒化物結晶の成長方法は、次いで、タイル基板10の頂点部が互いに向かい合う任意の点Pにおいて互いに向かい合う頂点部の数が3以下であるように、複数のタイル基板10を平面充填させて配置する工程(タイル基板の配置工程)を備える。このように、複数のタイル基板10を配置することにより、図2に示すように、それらの主表面10m上に、主表面20mに発生するピット20pが少ない大型のIII族窒化物結晶が20を成長させることができる。
【0022】
図3を参照して、従来のIII族窒化物結晶の成長方法においては、たとえば、主表面10mが正三角形である複数のタイル基板10を、それらの頂点部が互いに向かい合うように平面充填させて配置する。すなわち、タイル基板10の頂点部が互いに向かい合う任意の点P(たとえば、点P31、点P32)において、互いに向かい合う頂点部の数は6である。このように配置された複数のタイル基板10においてはタイル基板10の頂点部が互いに向かい合う任意の点Pにおける空隙部が大きくなるため、これらの複数のタイル基板10上にエピタキシャル成長されたIII族窒化物結晶の主表面におけるピットの発生が多くなる。このため、かかるIII族窒化物結晶から得られるIII族窒化物結晶基板の歩留まりが低くなる。
【0023】
ここで、図3のような平面充填においては、タイル基板10の頂点部が互いに向かい合う複数の点Pのうち互いに隣り合う任意の二点(たとえば、点P31と点P32)間の距離Dは、主表面が正三角形であるタイル基板10の一辺の長さSに隣り合うタイル基板の互いに対向する側表面の間の距離Eを加えた距離D0(D0=S+E)に相当する(すなわち、D=D0)。
【0024】
これに対して、図4を参照して、本発明にかかるIII族窒化物結晶の成長方法においては、たとえば、主表面10mが正三角形である複数のタイル基板10を、一部のタイル基板の頂点部と他の一部のタイル基板の頂点部とが向かい合わないようにずらして平面充填させて配置する。すなわち、タイル基板10の頂点部が互いに向かい合う任意の点P(たとえば、点P41、点P42、点P43、点P44)において、互いに向かい合う頂点部の数は3となる。したがって、このような平面充填をすることにより、タイル基板10の頂点部が互いに向かい合う任意の点Pにおいて互いに向かい合う頂点部の数を3以下とすることができる。このように配置された複数のタイル基板10においては、タイル基板10の頂点部が互いに向かい合う点P(たとえば、点P41、点P42、点P43、点P44)の数は多くなるが、それらの点における空隙部が小さくなるため、これらの複数のタイル基板10上にエピタキシャル成長されたIII族窒化物結晶の主表面におけるピットの発生が少なくなる。このため、かかるIII族窒化物結晶から得られるIII族窒化物結晶基板の歩留まりが高くなる。
【0025】
ここで、図4のような平面充填においては、タイル基板10の頂点部が互いに向かい合う複数の点Pのうち互いに隣り合うある二点の間の距離Dにおいて、たとえば、点P41と点P42との間の距離D41と、点P42と点P43との間の距離D42は、互いに異なる場合がある。主表面が正三角形であるタイル基板10の一辺の長さSに隣り合うタイル基板の互いに対向する側表面の間の距離Eを加えたものに相当する距離D0と、上記距離D41と、上記距離D42との間には、D0=D41+D42の関係がある。
【0026】
また、複数のタイル基板10上にエピタキシャル成長されたIII族窒化物結晶の主表面におけるピットの発生をより少なくする観点から、タイル基板10の頂点部が互いに向かい合う複数の点のうち互いに隣り合う任意の二点の間の距離(図4においては、距離D41および距離D42)は、10μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、1000μm以上がさらに好ましい。
【0027】
また、複数のタイル基板10上に一体化されたIII族窒化物結晶をエピタキシャル成長させ、さらに成長させるIII族窒化物結晶の主表面におけるピットの発生を少なくする観点から、隣り合うタイル基板の互いに対向する側表面の間の距離Eは、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、2μm以下がさらに好ましく、理想的には0μmであることが望ましい。
【0028】
なお、図3および図4においては、タイル基板の主表面の形状が正三角形の場合について説明したが、タイル基板の主表面の形状が、二等辺三角形、直角三角形、その他の任意の三角形の場合についても同様である。
【0029】
図5を参照して、従来のIII族窒化物結晶の成長方法においては、たとえば、主表面10mが正方形である複数のタイル基板10を、それらの頂点部が互いに向かい合うように平面充填させて配置する。すなわち、タイル基板10の頂点部が互いに向かい合う任意の点P(たとえば、点P51、点P52)において、互いに向かい合う頂点部の数は4である。このように配置された複数のタイル基板10においてはタイル基板10の頂点部が互いに向かい合う任意の点Pにおける空隙部が大きくなるため、これらの複数のタイル基板10上にエピタキシャル成長されたIII族窒化物結晶の主表面におけるピットの発生が多くなる。このため、かかるIII族窒化物結晶から得られるIII族窒化物結晶基板の歩留まりが低くなる。
【0030】
ここで、図5のような平面充填においては、タイル基板10の頂点部が互いに向かい合う複数の点Pのうち互いに隣り合う任意の二点(たとえば、点P51と点P52)間の距離Dは、主表面が正方形であるタイル基板10の一辺の長さSに隣り合うタイル基板の互いに対向する側表面の間の距離Eを加えた距離D0(D0=S+E)ものに相当する(すなわち、D=D0)。
【0031】
これに対して、図6を参照して、本発明にかかるIII族窒化物結晶の成長方法においては、たとえば、主表面10mが正方形である複数のタイル基板10を、一部のタイル基板の頂点部と他の一部のタイル基板の頂点部とが向かい合わないようにずらして平面充填させて配置する。すなわち、タイル基板10の頂点部が互いに向かい合う任意の点P(たとえば、点P61、点P62、点P63、点P64)において、互いに向かい合う頂点部の数は2となる。したがって、このような平面充填をすることにより、タイル基板10の頂点部が互いに向かい合う任意の点Pにおいて互いに向かい合う頂点部の数を3以下とすることができる。このように配置された複数のタイル基板10においては、タイル基板10の頂点部が互いに向かい合う点P(たとえば、点P61、点P62、点P63、点P64)の数は多くなるが、それらの点における空隙部が小さくなるため、これらの複数のタイル基板10上にエピタキシャル成長されたIII族窒化物結晶の主表面におけるピットの発生が少なくなる。このため、かかるIII族窒化物結晶から得られるIII族窒化物結晶基板の歩留まりが高くなる。
【0032】
ここで、図6のような平面充填においては、タイル基板10の頂点部が互いに向かい合う複数の点Pのうち互いに隣り合うある二点の間の距離Dにおいて、たとえば、点P61と点P62との間の距離D61と、点P62と点P63との間の距離D62は、互いに異なる場合がある。主表面が正方形であるタイル基板10の一辺の長さSに隣り合うタイル基板の互いに対向する側表面の間の距離Eを加えたものに相当する距離D0と、上記距離D61と、上記距離D62との間には、D0=D61+D62の関係がある。
【0033】
また、複数のタイル基板10上にエピタキシャル成長されたIII族窒化物結晶の主表面におけるピットの発生をより少なくする観点から、タイル基板10の頂点部が互いに向かい合う複数の点のうち互いに隣り合う任意の二点の間の距離(図6においては、距離D61および距離D62)は、10μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、1000μm以上がさらに好ましい。
【0034】
また、複数のタイル基板10上に一体化されたIII族窒化物結晶をエピタキシャル成長させ、さらに成長させるIII族窒化物結晶の主表面におけるピットの発生を少なくする観点から、隣り合うタイル基板の互いに対向する側表面の間の距離Eは、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、2μm以下がさらに好ましく、理想的には0μmであることが望ましい。
【0035】
なお、図5および図6においては、タイル基板の主表面の形状が正方形の場合について説明したが、タイル基板の主表面の形状が、長方形、菱形、その他の任意の平行四辺形の場合についても同様である。
【0036】
(III族窒化物結晶の成長工程)
図2を参照して、本実施形態のIII族窒化物結晶の成長方法は、次いで、配置された複数のタイル基板10の主表面10m上にIII族窒化物結晶20を成長させる工程を備える。上記のような配置がされた複数のタイル基板10の主表面10m上にIII族窒化物結晶20を成長させることにより、主表面におけるピットの発生が少ない大型のIII族窒化物結晶20が得られる。このため、かかるIII族窒化物結晶から歩留まりよく大型のIII族窒化物結晶基板が得られる。
【0037】
ここで、III族窒化物結晶20を成長させる方法は、特に制限はないが、結晶性の高いIII族窒化物結晶をエピタキシャル成長させる観点から、HVPE(ハイドライド気相成長)法、MOCVD(有機金属化学気相堆積)法、MBE(分子線エピタキシ)法、昇華法などの気相法、フラックス法、高窒素圧溶液法などの液相法などが、好適に用いられる。これらの成長方法の中で、結晶成長速度が大きい観点から、HVPE法が特に好ましい。
【0038】
図7を参照して、HVPE法によるIII族窒化物結晶20の成長方法を説明する。図7に示すように、HVPE装置100は、反応室110、III族元素原料ガス生成室120、ならびに反応室110およびIII族元素原料ガス生成室120を加熱するためのヒータ131,132,133を備える。反応室110およびIII族元素原料ガス生成室120には、HClガス71をIII族元素原料ガス生成室120内に導入するためのHClガス導入管122が配設されている。III族元素原料ガス生成室120には、その内部にIII族元素原料72を入れるIII族元素原料ボート121が配置され、生成されたIII族元素原料ガス73を反応室110内に導入するためのIII族元素原料ガス導入管123が配設されている。反応室110には、窒素原料ガス75を反応室110内に導入するための窒素原料ガス導入管113および排ガス79を反応室110から排出するためのガス排出管115が配設されている。また、反応室110内には、III族窒化物結晶20を成長させるための複数のタイル基板10を配置するための結晶ホルダ119が配置されている。反応室110を形成する反応管には、特に制限はないが、大きな反応管が容易に作製できる観点から、石英反応管が好ましく用いられる。
【0039】
まず、HClガス71がHClガス導入管122を介してIII族元素原料ガス生成室120に導入される。III族元素原料ガス生成室120内には、III族元素原料72が入っているIII族元素原料ボート121が配置されており、III族元素原料72はHClガス71と反応して、III族元素原料ガス73であるIII族元素塩化物ガスが生成される。
【0040】
このIII族元素原料ガス73は、III族元素原料ガス生成室120からIII族元素原料ガス導入管123を介して反応室110内に導入される。また、窒素原料ガス75であるNH3ガスが、窒素原料ガス導入管113を介して反応室110内に導入される。
【0041】
反応室110内でIII族元素原料ガス73と窒素原料ガス75とが反応して結晶成長部の結晶ホルダ119上に配置された複数のタイル基板10の主表面10m上にIII族窒化物結晶20が成長する。過剰のガスは排ガス79として、ガス排出管115を介して反応室110内から排出される。このとき、III族元素原料ガスおよび窒素原料ガスを効率的に輸送したり、各原料ガスの分圧を調節するために、キャリアガスが併用される。キャリアガスとしては、水素ガス(H2ガス)、窒素ガス(N2ガス)などが用いられる。
【0042】
ここで、複数のタイル基板10の主表面10m上にIII族窒化物結晶20を効率よく成長させる観点から、原料ガス導入部(反応室110において、HClガス導入管122、III族元素原料ガス生成室120、III族元素原料ガス導入管123および窒素原料ガス導入管113が配置されている部分ならびにその近傍の部分であって、主としてヒータ131,132により加熱される部分をいう。以下同じ。)の雰囲気温度(かかる温度を、III族元素原料ガス生成温度という。)は800℃以上900℃以下程度であり、結晶成長部(反応室110において、結晶ホルダ119が配置されている部分およびその近傍部分であって、主としてヒータ133により加熱される部分をいう。以下同じ。)の雰囲気温度(かかる温度を、結晶成長温度という。)は、900℃以上1300℃以下程度に調節される。
【0043】
こうして、複数のタイル基板10の主表面10m上にIII族窒化物結晶20が一体化して成長して、主表面20mにピットの発生が少ない大型のIII族窒化物結晶20が得られる。
【0044】
ここで、上記のHVPE法により、III族窒化物結晶20として、GaN結晶を成長させる場合は、結晶成長温度として、900℃以上1300℃以下が好適である。結晶成長温度が、900℃より低いと結晶性が低くなり、1300℃より高いとHVPE装置の負荷が大きくなる。
【0045】
ここで、従来のIII族窒化物結晶の成長方法(すなわち、タイル基板の頂点部が互いに向かい合う任意の点において互いに向かい合う頂点部の数が4以上となるように平面充填された複数のタイル基板の主表面上にIII族位窒化物結晶を成長させる方法)でGaN結晶を成長させる場合においては、900℃以上1100℃以下の結晶成長温度で主表面に発生するピットの発生率が高くなるという問題点があった。
【0046】
これに対して、本実施形態のIII族窒化物結晶の成長方法(すなわち、タイル基板の頂点部が互いに向かい合う任意の点において互いに向かい合う頂点部の数が3以下なるように平面充填された複数のタイル基板の主表面上にIII族窒化物結晶を成長させる方法)でGaN結晶を成長させる場合においては、900℃以上1100℃以下の結晶成長温度においても、主表面に発生するピットの発生率を低く抑制することができる。かかる観点から、HVPE法によりIII族窒化物結晶(たとえばGaN結晶)を成長させる場合、結晶成長温度が900℃以上1100℃以下のときに、本実施形態のIII族窒化物結晶の成長方法の有用性が高い。
【実施例】
【0047】
(実施例A)
1.タイル基板の準備
GaN母結晶をその(0001)面に平行な面でワイヤソーにより切り出して複数のウエハを形成し、これらのウエハを{1−100}面に平行な方向および{11−20}面に平行な方向の二次元方向に切り出して、それらの切り出し面をCMP(化学機械的研磨)により研磨することにより、主表面の面方位が(0001)面で、主表面の面方位のずれ角が(0001)面から0.1°以内であり、側表面の面方位が{1−100}面および{11−20}面のいずれかであり、側表面の面方位のずれ角が{1−100}面および{11−20}面のいずれかから0.1°以内であり、主表面および側表面における各頂点部の内角が90°±0.1°であり、一辺の長さが16mm±1μmで厚さが400μm±1μmである正方形板状のGaNタイル基板が多数得られた。ここで、タイル基板の上記寸法は、ダイヤルゲージにより測定した。かかるGaNタイル基板の主表面および側表面の平均粗さRaは、AFM(原子間力顕微鏡)により測定したところ、いずれも5nm以下であった。
【0048】
2.タイル基板の配置
図1を参照して、上記のようにして得られたGaNタイル基板を、GaNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う複数の点のうち互いに隣り合う任意の二点の間の距離D(具体的には、距離D11および距離D12)のうち小さい方の距離D11が、1μm±1μm以内(例A−1)、10μm±1μm(例A−2)、100μm±1μm(例A−3)、1000μm±1μm(例A−4)の4種類のパターンで、<1−100>方向に10枚、<11−20>方向に10枚、合計100枚を平面充填させて配置した。隣り合うGaNタイル基板において互いに隣り合う側表面の間の距離は、顕微鏡により観察したところ、2μm以下であった。
【0049】
主表面が一辺16mm±1μmの正方形であるGaNタイル基板を100枚平面充填させて得られた一辺がほぼ160mmの正方形状の主表面を有する基板の中には、直径6インチ(152.4mm)の円Cが含まれていた。
【0050】
ここで、例A−1の場合は、点P1と点P2、点P3と点P4、点P5と点P6、点P7と点P8、点P9と点P10、点P11と点P12、点P13と点P14、点P15と点P16、および点P17と点P18が、それぞれ実質的に一致する場合であり、GaNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う点の数は81であり、これらの各点において互いに向かい合う頂点部の数が4である従来の配置の例である。また、例A−2、例A−3および例A−4の場合は、GaNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う点の数は162であり、これらの各点において互いに向かい合う頂点部の数が2である本発明の配置の例である。
【0051】
3.III族窒化物結晶の成長
上記の例A−1〜例A−4のそれぞれにおいて、平面充填させた100枚のGaNタイル基板の主表面上に、HVPE法により、GaN結晶を成長させた。結晶成長条件は、HClガスの分圧が10kPa、GaClガス(III族元素原料ガス)生成温度が850℃、NH3ガス(窒素原料ガス75)の分圧が20kPa、H2ガス(キャリアガス)の分圧が70kPa、結晶成長温度が1050℃であった。かかる条件で10時間結晶成長させることにより、いずれの例においても、約160mm×160mm×厚さ2000μmの一体化したGaN結晶が得られた。すなわち、例A−1〜例A−4において得られたGaN結晶から直径6インチ(152.4mm)のGaN結晶基板を得ることが可能であった。それぞれの例において、得られたGaN結晶の主表面に発生したピットの数を確認した。具体的には、波長365nmの水銀ランプを光源として顕微鏡にて蛍光像を観察し、ピットを形成するファセットの成長痕の数を数えることによりピットの数を確認した。かかるピットの数を、GaNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う点の数で割ることにより、ピット発生率(%)を算出した。例A−1〜例A−4における、GaNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う点の数、ピットの数およびピット発生率を表1にまとめた。
【0052】
【表1】
【0053】
(実施例B)
1.タイル基板の準備
GaN母結晶をその(0001)面に平行な面でワイヤソーにより切り出して複数のウエハを形成し、これらのウエハを{31−40}面に平行な方向ならびに{31−40}面および{0001}面の両面に垂直な方向の二次元方向に切り出して、それらの切り出し面をCMP(化学機械的研磨)により研磨することにより、主表面の面方位が(0001)面で、主表面の面方位のずれ角が(0001)面から0.1°以内であり、側表面の面方位が{31−40}面ならびに{31−40}面および{0001}面の両面に垂直な面のいずれかであり、側表面の面方位のずれ角が{31−40}面ならびに{31−40}面および{0001}面の両面に垂直な面のいずれかから0.1°以内であり、主表面および側表面における各頂点部の内角が90°±0.1°であり、一辺の長さが16mm±1μmで厚さが400μm±1μmである正方形板状のGaNタイル基板が多数得られた。かかるGaNタイル基板の主表面および側表面の平均粗さRaは、いずれも5nm以下であった。
【0054】
2.タイル基板の配置
図1を参照して、上記のようにして得られたGaNタイル基板を、GaNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う複数の点のうち互いに隣り合う任意の二点の間の距離D(具体的には、距離D11および距離D12)のうち小さい方の距離D11が、1μm±1μm以内(例B−1)、10μm±1μm(例B−2)、100μm±1μm(例B−3)、1000μm±1μm(例B−4)の4種類のパターンで、<31−40>方向に10枚、<31−40>方向および<0001>方向の両方向に垂直な方向に10枚、合計100枚を平面充填させて配置した。隣り合うGaNタイル基板において互いに隣り合う側表面の間の距離は、2μm以下であった。
【0055】
主表面が一辺16mm±1μmの正方形であるGaNタイル基板を100枚平面充填させて得られた一辺がほぼ160mmの正方形状の主表面を有する基板の中には、直径6インチ(152.4mm)の円Cが含まれていた。
【0056】
ここで、例B−1の場合は、点P1と点P2、点P3と点P4、点P5と点P6、点P7と点P8、点P9と点P10、点P11と点P12、点P13と点P14、点P15と点P16、および点P17と点P18が、それぞれ実質的に一致する場合であり、GaNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う点の数は81であり、これらの各点において互いに向かい合う頂点部の数が4である従来の配置の例である。また、例B−2、例B−3および例B−4の場合は、GaNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う点の数は162であり、これらの各点において互いに向かい合う頂点部の数が2である本発明の配置の例である。
【0057】
3.III族窒化物結晶の成長
上記の例B−1〜例B−4のそれぞれにおいて、実施例Aと同様にして、GaN結晶を成長させた。いずれの例においても、約160mm×160mm×厚さ2000μmの一体化したGaN結晶が得られた。すなわち、例B−1〜例B−4において得られたGaN結晶から直径6インチ(152.4mm)のGaN結晶基板を得ることが可能であった。実施例Aと同様にして、それぞれの例において、得られたGaN結晶の主表面に発生したピットの数を測定し、ピット発生率(%)を算出した。例B−1〜例B−4における、GaNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う点の数、ピットの数およびピット発生率を表2にまとめた。
【0058】
【表2】
【0059】
(実施例C)
1.タイル基板の準備
実施例Aと同様にして、多数のGaNタイル基板を得た。得られたGaNタイル基板は、主表面の面方位が(0001)面で、主表面の面方位のずれ角が(0001)面から0.1°以内であり、側表面の面方位が{1−100}面および{11−20}面のいずれかであり、側表面の面方位のずれ角が{1−100}面および{11−20}面のいずれかから0.1°以内であり、主表面および側表面における各頂点部の内角が90°±0.1°であり、一辺の長さが16mm±1μmで厚さが400μm±1μmであった。かかるGaNタイル基板の主表面および側表面の平均粗さRaは、いずれも5nm以下であった。
【0060】
2.タイル基板の配置
上記のようにして得られたGaNタイル基板を、実施例Aと同様にして、合計100枚を平面充填させて配置した。隣り合うGaNタイル基板において互いに隣り合う側表面の間の距離は、2μm以下であった。
【0061】
ここで、例C−1の場合は、図1において、点P1と点P2、点P3と点P4、点P5と点P6、点P7と点P8、点P9と点P10、点P11と点P12、点P13と点P14、点P15と点P16、および点P17と点P18が、それぞれ実質的に一致する場合であり、GaNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う点の数は81であり、これらの各点において互いに向かい合う頂点部の数が4である従来の配置の例である。また、例C−2、例C−3および例C−4の場合は、GaNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う点の数は162であり、これらの各点において互いに向かい合う頂点部の数が2である本発明の配置の例である。
【0062】
3.III族窒化物結晶の成長
上記の例C−1〜例C−4のそれぞれにおいて、平面充填させた100枚のGaNタイル基板の主表面上に、HVPE法により、GaN結晶を成長させた。結晶成長条件は、HClガスの分圧が10kPa、GaClガス(III族元素原料ガス)生成温度が850℃、NH3ガス(窒素原料ガス75)の分圧が20kPa、N2ガス(キャリアガス)の分圧が70kPa、結晶成長温度が1135℃であった。かかる条件で10時間結晶成長させることにより、いずれの例においても、約160mm×160mm×厚さ2000μmの一体化したGaN結晶が得られた。すなわち、例C−1〜例C−4において得られたGaN結晶から直径6インチ(152.4mm)のGaN結晶基板を得ることが可能であった。実施例Aと同様にして、それぞれの例において、得られたGaN結晶の主表面に発生したピットの数を測定し、ピット発生率(%)を算出した。例C−1〜例C−4における、GaNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う点の数、ピットの数およびピット発生率を表3にまとめた。
【0063】
【表3】
【0064】
(実施例D)
1.タイル基板の準備
実施例Bと同様にして、多数のGaNタイル基板を得た。得られたGaNタイル基板は、主表面の面方位が(0001)面で、主表面の面方位のずれ角が(0001)面から0.1°以内であり、側表面の面方位が{31−40}面ならびに{31−40}面および{0001}面の両面に垂直な面のいずれかであり、側表面の面方位のずれ角が{31−40}面ならびに{31−40}面および{0001}面の両面に垂直な面のいずれかから0.1°以内であり、主表面および側表面における各頂点部の内角が90°±0.1°であり、一辺の長さが16mm±1μmで厚さが400μm±1μmであった。かかるGaNタイル基板の主表面および側表面の平均粗さRaは、いずれも5nm以下であった。
【0065】
2.タイル基板の配置
上記のようにして得られたGaNタイル基板を、実施例Bと同様にして、合計100枚を平面充填させて配置した。隣り合うGaNタイル基板において互いに隣り合う側表面の間の距離は、2μm以下であった。
【0066】
ここで、例D−1の場合は、図1において、点P1と点P2、点P3と点P4、点P5と点P6、点P7と点P8、点P9と点P10、点P11と点P12、点P13と点P14、点P15と点P16、および点P17と点P18が、それぞれ実質的に一致する場合であり、GaNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う点の数は81であり、これらの各点において互いに向かい合う頂点部の数が4である従来の配置の例である。また、例D−2、例D−3および例D−4の場合は、GaNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う点の数は162であり、これらの各点において互いに向かい合う頂点部の数が2である本発明の配置の例である。
【0067】
3.III族窒化物結晶の成長
上記の例D−1〜例D−4のそれぞれにおいて、実施例Cと同様にして、GaN結晶を成長させた。いずれの例においても、約160mm×160mm×厚さ2000μmの一体化したGaN結晶が得られた。すなわち、例D−1〜例D−4において得られたGaN結晶から直径6インチ(152.4mm)のGaN結晶基板を得ることが可能であった。実施例Aと同様にして、それぞれの例において、得られたGaN結晶の主表面に発生したピットの数を測定し、ピット発生率(%)を算出した。例D−1〜例D−4における、GaNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う点の数、ピットの数およびピット発生率を表4にまとめた。
【0068】
【表4】
【0069】
実施例A〜実施例Dにおいて得られた表1〜表4中のピット発生率を、表5にまとめた。
【0070】
【表5】
【0071】
表5に示された実施例A〜実施例Dにおけるタイル基板の頂点部が互いに向かい合う複数の点のうち互いに隣り合う任意の二点の間の小さい方の距離とピット発生率との関係を図8に図示した。
【0072】
表5および図8を参照して、実施例A〜実施例Dのいずれの場合であっても、タイル基板の頂点部が互いに向かい合う複数の点のうち互いに隣り合う任意の二点の間の小さい方の距離が1μm±1μm(このとき、二点は実質的に一致し、タイル基板の頂点部が互いに向かい合う任意の点において向かい合う頂点部の数は4)のときは、GaN結晶(III族窒化物基板)の主表面におけるピット発生率は高いのに対し、上記の距離が10μm±1μm、100μm±1μm、および1000μm±1μm(いずれの距離においても、タイル基板の頂点部が互いに向かい合う任意の点において向かい合う頂点部の数は2)のときは上記のピット発生率が低くなり、上記の距離が10μm±1μm、100μm±1μm、および1000μm±1μmと大きくなる程、上記のピット発生率が低下することがわかった。
【0073】
また、実施例AおよびCと実施例BおよびDとを対比して、タイル基板の側表面が、{1−100}面および{11−20}面の少なくともいずれかの場合に比べて、{31−40}面ならびに{31−40}面および{0001}面の両面に垂直な面の少なくともいずれかの場合の方が、上記のピット発生率は低くなることがわかった。
【0074】
また、実施例AおよびBと実施例CおよびDとを対比して、GaN結晶(III族窒化物結晶)の結晶成長温度が900℃以上1100℃以下(たとえば、1050℃)と低い場合に比べて、1100℃より大きく1300℃以下(たとえば、1135℃)と高い場合は、タイル基板の配置条件およびGaN結晶の成長条件が同一の条件における上記のピット発生率が低いことがわかった。これに対して、GaN結晶(III族窒化物結晶)の結晶成長温度が1100℃より大きく1300℃以下(たとえば、1135℃)と高い場合に比べて、900℃以上1100℃以下(たとえば、1050℃)と低い場合は、上記のピット発生率についてのタイル基板の頂点部が互いに向かい合う複数の点のうち互いに隣り合う任意の二点の間の小さい方の距離が大きくなるときの低下率が大きいことがわかった。
【0075】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0076】
10 タイル基板、10m,20m 主表面、10s 側表面、20 III族窒化物結晶、20p ピット、71 HClガス、72 III族元素原料、73 III族元素原料ガス、75 窒素原料ガス、79 排ガス、100 HVPE装置、110 反応室、113 窒素原料ガス導入管、115 ガス排出管、119 結晶ホルダ、120 III族元素原料ガス生成室、121 III族元素原料ボート、122 HClガス導入管、123 III族元素原料ガス導入管、131,132,133 ヒータ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8