(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被配線物に対して平面方向に沿って相対移動可能に支持された電線供給部から送り出される電線を前記被配線物の表面の凹部に挿入しつつ前記被配線物に配線する布線装置であって、
前記電線を前記被配線物の凹部に向けて押さえる部材であり、前記電線供給部とともに前記電線供給部に対し前記平面方向に沿って相対移動可能に支持され、前記電線と接触する先端部にローラが設けられたローラ式線押し部材と、
前記平面方向に交差する第一直線に沿って前記ローラ式線押し部材を移動させる電動シリンダ式アクチュエータと、
前記電動シリンダ式アクチュエータを制御することにより、前記電動シリンダ式アクチュエータによる前記ローラ式線押し部材の保持位置を、前記ローラが前記被配線物上の前記電線に接触しない状態となる待避位置と、前記ローラが前記被配線物上の前記電線に接触する状態となる少なくとも2点以上の作動位置とのうちの1つに位置するように調整する第一制御部と、を備えることを特徴とする布線装置。
前記電線を前記被配線物の凹部に向けて押さえる部材であり、前記電線供給部とともに前記電線供給部に対し前記平面方向に沿って相対移動可能に支持され、前記電線と接触する先端部に可動部が設けられていないスポット式線押し部材と、
前記第一直線に平行な第二直線に沿って前記スポット式線押し部材を移動させるエアシリンダ式アクチュエータと、
前記エアシリンダ式アクチュエータを制御することにより、前記スポット式線押し部材及び前記被配線物の前記平面方向における相対移動の停止中に、前記エアシリンダ式アクチュエータによる前記スポット式線押し部材を、前記スポット式線押し部材の先端部が前記被配線物上の前記電線に接触しない状態となる待避位置と前記スポット式線押し部材の先端部が前記被配線物上の前記電線に接触する作動位置との間で往復させる第二制御部と、をさらに備える請求項1に記載の布線装置。
前記ローラ式線押し部材に設けられ、前記電動シリンダ式アクチュエータの駆動力を伝える作用部から力を受ける被作用部が形成された転がり軸受機構をさらに備える請求項3に記載の布線装置。
【背景技術】
【0002】
自動車における電気配線に用いられる電気接続箱として、被覆電線によって構成された導電回路を備える電気接続箱がある。そのような電気接続箱は、表面に被覆電線の経路を形成する凹部が形成された絶縁板などの被配線物と、その被配線物の凹部に嵌め入れられた状態で導電回路を構成する被覆電線とを備える。被覆電線を用いた電気接続箱は、バスバーを用いた導電回路に比べ、回路の不要な短絡の防止及び設計変更への対応の柔軟性などの点において優れている。なお、被配線物の凹部は、配線経路に沿って形成された溝、又は複数の凸部の間の隙間である。
【0003】
従来、被覆電線を用いた電気接続箱の製造過程において、被配線物に対して被覆電線を配線する布線装置が用いられている。以下、電線及び被覆電線のいずれの用語も被覆電線を意味する用語として用いる。
【0004】
特許文献1及び特許文献2などに示されるように、布線装置は、電線供給部から供給される電線を、被配線物の表面に形成された凹部に挿入しつつ被配線物に配線する装置である。布線装置は、電線供給部と電線を被配線物の凹部に向けて押さえる線押し部材とが配置された布線ヘッドを、被配線物に対して平面方向に沿って相対移動可能に支持する。以下、電線供給部及び線押し部材が、被配線物に対して平面方向に沿って相対移動することを、線押し部材の平面内移動と称する。
【0005】
そして、布線装置は、線押し部材を被配線物に対して往復移動させることによって被配線物の凹部へ電線を押し込む動作と、平面内移動によって電線を被配線物上に沿わせる動作とにより、被配線物上に電線を配線する。また、特許文献2には、布線装置が、被配線物上の電線を押さえるローラを備えることについても示されている。
【0006】
従来の布線装置は、線押し部材を被配線物に対して直線に沿って往復移動させるアクチュエータとして、エアシリンダ式アクチュエータを備える。エアシリンダ式アクチュエータは、直線上の2箇所の位置の間を往復移動させることができる。従って、従来の布線装置は、線押し部材を、線押し部材の先端部が被配線物上の電線に接触しない待避位置と、その先端部が被配線物上の電線に接触する作動位置との間で往復移動させることができる。
【0007】
また、電気接続箱の生産性向上の観点から、線押し部材の平面内移動の速度が極力速い速度に設定されること、及び、配線中に線押し部材の平面内移動を停止させる頻度が少ないことが望ましい。また、昨今、被覆電線を用いた電気接続箱において、被配線物上に電線を二重以上に重ねて配線する重ね配線によって被配線物上の電線の集積度を高めることが要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、エアシリンダ式アクチュエータによって線押し部材を移動させる従来の布線装置は、被配線物上の電線の高さに応じて線押し部材の作動位置を詳細に調節することができない。そのため、従来の布線装置は、先端にローラが設けられた線押し部材を用いたとしても、線押し部材の平面内移動の最中に電線を被配線物の凹部に押し込む動作を実行すると、電線が線押し部材からの過大な圧力によって損傷しやすいという問題点を有している。
【0010】
また、従来の布線装置において、線押し部材の平面内移動の速度が速いと、線押し部材の圧力による電線の損傷の問題がより顕著になる。さらに、電線が被配線物上に重ね配線される場合、配線中において被配線物上の電線の高さの変化が大きい箇所が生じ、そのような箇所において、線押し部材の圧力による電線の損傷の問題がより顕著になる。
【0011】
また、線押し部材の作動位置を詳細に調節することができない場合、電線の配線方向が転換する位置ごとに、線押し部材の平面内移動の停止及び平面内移動の後戻りなどの効率の悪い動作が必要となる。そのため、従来の布線装置は、生産性を高めることが難しいという問題点も有している。
【0012】
本発明は、布線装置において、線押し部材の圧力による電線の損傷を防止でき、さらに、配線中に線押し部材の平面内移動を停止させる頻度を低減して配線工程の効率を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る布線装置は、被配線物に対して平面方向に沿って相対移動可能に支持された電線供給部から送り出される電線を前記被配線物の表面の凹部に挿入しつつ前記被配線物に配線する装置であり、以下に示す各構成要素を備える。
(1)第1の構成要素は、前記電線を前記被配線物の凹部に向けて押さえる部材であり、前記電線供給部とともに前記電線供給部に対し前記平面方向に沿って相対移動可能に支持され、前記電線と接触する先端部にローラが設けられたローラ式線押し部材である。
(2)第2の構成要素は、前記平面方向に交差する第一直線に沿って前記ローラ式線押し部材を移動させる電動シリンダ式アクチュエータである。
(3)第3の構成要素は、前記電動シリンダ式アクチュエータを制御することにより、前記電動シリンダ式アクチュエータによる前記ローラ式線押し部材の保持位置を、前記ローラが前記被配線物上の前記電線に接触しない状態となる待避位置と、前記ローラが前記被配線物上の前記電線に接触する状態となる少なくとも2点以上の作動位置
とのうちの1つに位置するように調整する第一制御部である。
【0014】
また、本発明に係る布線装置が、さらに以下の各構成要素を備えることも考えられる。
(4)第4の構成要素は、前記電線を前記被配線物の凹部に向けて押さえる部材であり、前記電線供給部とともに前記電線供給部に対し前記平面方向に沿って相対移動可能に支持され、前記電線と接触する先端部に可動部が設けられていないスポット式線押し部材である。
(5)第5の構成要素は、前記第一直線に平行な第二直線に沿って前記スポット式線押し部材を移動させるエアシリンダ式アクチュエータである。
(6)第6の構成要素は、前記エアシリンダ式アクチュエータを制御することにより、前記スポット式線押し部材及び前記被配線物の前記平面方向における相対移動の停止中に、前記エアシリンダ式アクチュエータによる前記スポット式線押し部材を、前記スポット式線押し部材の先端部が前記被配線物上の前記電線に接触しない状態となる待避位置と前記スポット式線押し部材の先端部が前記被配線物上の前記電線に接触する作動位置との間で往復させる第二制御部である。
【0015】
また、本発明に係る布線装置が、さらに以下の構成要素を備えることも考えられる。
(7)第7の構成要素は、前記ローラ式線押し部材を、前記第一直線を中心に回転駆動する駆動部である。
【0016】
また、本発明に係る布線装置が、さらに以下の構成要素を備えることも考えられる。
(8)第8の構成要素は、前記ローラ式線押し部材に設けられ、前記電動シリンダ式アクチュエータの駆動力を伝える作用部から力を受ける被作用部が形成された転がり軸受機構である。
【0017】
また、本発明に係る布線装置が、さらに以下の構成要素を備えることも考えられる。
(9)第9の構成要素は、前記電動シリンダ式アクチュエータの駆動力を伝える作用部に取り外し可能に設けられた樹脂製パッドである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る布線装置において、ローラ式線押し部材は、ほぼ擦れることなく滑らかに電線に接触する。そして、ローラ式線押し部材の平面内移動の最中に、ローラ式線押し部材が動作位置で保持されれば、ローラ式線押し部材の平面内移動を停止する頻度が少なくなり、配線工程の効率が高まる。
【0019】
また、ローラ式線押し部材は、電動シリンダ式アクチュエータによって直線方向に駆動され、ローラ式線押し部材の位置は、被配線物上における電線の高さに応じて、少なくとも2点以上の作動位置
のうちの1つに位置するように調節される。そのため、電線が被配線物上に重ね配線される場合、或いは、ローラ式線押し部材の平面内移動の速度が速い場合などにおいても、被配線物上における電線の高さに応じてローラ式線押し部材から電線への圧力が調節され、電線の損傷が防止される。
【0020】
また、本発明に係る布線装置は、ローラ式線押し部材の作動位置を詳細に調節することができるため、被配線物上における配線方向が転換する位置において、電線を被配線物の凹部の底面から浮いた高さで押さえつつ、電線を凹部の側壁に巻き込む動作も可能である。そのため、本発明に係る布線装置が採用されれば、配線方向が転換する位置において、ローラ式線押し部材の平面内移動の停止及び平面内移動の後戻りなどの効率の悪い動作が省かれ、配線工程の効率がより高まる。
【0021】
ところで、電動シリンダ式アクチュエータで駆動される線押し部材が、電線の引っ掛かりが生じやすい凹部に電線を押し込むと、電線が、予め設定された深さまで押さえられて損傷する恐れがある。一方、エアシリンダ式アクチュエータは、圧縮空気の弾性により、電線から一定の応力を受けた時点で、電線に損傷を与える前に変位動作が停止する。
【0022】
そこで、本発明に係る布線装置が、先端部に可動部が設けられていないスポット式線押し部材と、それを被配線物に向けて往復駆動するエアシリンダ式アクチュエータとをさらに備えていればなお好適である。この場合、ローラ式線押し部材による電線の押さえ動作と、スポット式線押し部材による電線の押さえ動作とを目的に応じて適切に使い分けることが可能となる。
【0023】
前述したように、線押し部材の平面内移動の最中に電線を押す動作は、ローラ式線押し部材を電動シリンダ式アクチュエータで駆動することが適している。一方、被配線物における狭い凹部など、電線の引っ掛かりが生じやすい凹部に電線を深く押し込む動作などは、スポット式線押し部材をエアシリンダ式アクチュエータで駆動することが適している。
【0024】
また、本発明に係る布線装置が、ローラ式線押し部材を、その移動線である第一直線を中心に回転駆動する駆動部をさらに備えれば好適である。ローラ式線押し部材は、第一直線を中心に回転する場合、先端のローラが電線に接触する状態を維持したまま回転できる。即ち、ローラ式線押し部材は、動作位置で電線を押さえつつ、配線方向の転換のために回転できる。そのため、被配線物上における配線方向が転換する位置において、ローラ式線押し部材の回転にともなってローラ式線押し部材と被配線物との位置関係を再調整することなく配線動作の継続が可能となる。従って、配線工程の効率がより高まる。
【0025】
ローラ式線押し部材が、電線を被配線物に押し付ける状態で回転すると、電動シリンダ式アクチュエータの駆動力を伝える作用部と、その作用部から被配線物へ向かう方向への力を受ける被作用部とが、強く擦れて摩耗する。そこで、作用部から力を受ける被作用部が形成された転がり軸受機構がローラ式線押し部材に設けられれば、作用部及び被作用部の摩耗が軽減される。
【0026】
また、本発明に係る布線装置において、樹脂製パッドが、電動シリンダ式アクチュエータの駆動力を伝える作用部に取り外し可能に設けられていれば、万一、樹脂製パッドに摩耗が生じた場合にも、樹脂製パッドを交換するだけですぐに装置を再稼働できる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。
【0029】
<被配線物>
まず、
図2を参照しつつ、本発明の実施形態に係る布線装置1による電線の配線先となる被配線物8について説明する。
図2に示されるように、被配線物8は、板状の基材81の表面に電線9の配線経路となる凹部83が形成された絶縁性部材である。
図2に示される被配線物8の凹部83は、板状の基材81の表面に形成された複数の凸部82の間の隙間である。なお、被配線物8の凹部83が、基材81の表層において配線経路に沿って形成された溝である場合もある。
【0030】
電線9は、予め定められた経路に沿って被配線物8の凹部83に嵌め入れられた状態で導電回路を構成する。被配線物8の凹部83に嵌め入れられる電線9は、被覆電線である。
【0031】
<装置の構成>
次に、
図1を参照しつつ、本発明の実施形態に係る布線装置1の構成について説明する。布線装置1は、被配線物8に対して平面方向に沿って相対移動可能に支持された電線供給部34から送り出される電線9を被配線物8の表面の凹部83に挿入しつつ被配線物8に配線する装置である。
【0032】
図1に示されるように、布線装置1は、第一直線移動装置10と、第二直線移動装置20と、布線ユニット30と、制御装置7とを備える。
【0033】
<第一直線移動装置>
第一直線移動装置10は、被配線物8が載置される台11を支持するとともに、その台11を第一方向に沿って直線移動させ、目的の位置に位置決めする装置である。
図1において、第一直線移動装置10が台11、即ち、被配線物8を移動させる第一方向はX軸方向である。
【0034】
<第二直線移動装置>
一方、第二直線移動装置20は、布線ユニット30を支持するとともに、その布線ユニット30を第一方向に交差する第二方向に沿って直線移動させ、目的の位置に位置決めする装置である。
図1において、第二直線移動装置20が布線ユニット30を移動させる第二方向は、X軸方向に直交するY軸方向である。
【0035】
第一直線移動装置10及び第二直線移動装置20は、布線ユニット30に設けられた電線供給部34と、後述するローラ式線押し部材41及びスポット式線押し部材51とを、被配線物8に対して平面方向に沿って相対移動可能に支持する装置の一例である。本実施形態においては、第一方向(X軸方向)及びこれに直交する第二方向(Y軸方向)により定まる平面が、電線供給部34、ローラ式線押し部材41及びスポット式線押し部材51を含む布線ユニット30が、被配線物8に対して相対移動する平面である。以下、その平面をX−Y平面と称する。即ち、布線ユニット30及びその一部である布線ヘッド31の被配線物8に対する相対的な平面内移動は、X−Y平面内での移動である。
【0036】
<布線ユニット>
布線ユニット30は、電線9を被配線物8へ導く電線ガイド部91と、電線9を被配線物8の凹部83に向けて押さえる部材であるローラ式線押し部材41及びスポット式線押し部材51と、それらを駆動する機器とが一体に保持されたユニットである。
【0037】
ローラ式線押し部材41は、電線9と接触する先端部にローラ42が設けられた棒状の部材である。また、スポット式線押し部材51は、電線9と接触する先端部52にローラなどの可動部が設けられていない棒状の部材である。スポット式線押し部材51の先端部52は、ローラ式線押し部材41のローラ42よりも小さく、薄く形成されている。
【0038】
ローラ式線押し部材41は、布線ユニット30において、被配線物8に対する平面内移動の平面方向(X−Y方向)に交差する第一直線40に沿って移動可能に支持されている。また、スポット式線押し部材51は、布線ユニット30において、第一直線40に平行な第二直線50に沿って移動可能に支持されている。その詳細は後述する。
【0039】
なお、本実施形態では、第一直線40は、被配線物8に対するローラ式線押し部材41の平面内移動の平面であるX−Y平面に直交する第三方向に沿う直線である。第三方向は、
図1に示されるZ軸方向である。しかしながら、第一直線40は、必ずしもX−Y平面に直交する直線であるとは限らない。例えば、第一直線40が、X−Y平面に直交するZ軸方向に対し、配線の進行方向又はその反対の方向へ若干傾斜した方向に沿う直線であることも考えられる。
【0040】
電線ガイド部91は、不図示の電線リールから供給される電線9を被配線物8の方へ導く機構であり、例えば、電線9が通された管などである。さらに、布線ユニット30における被配線物8に対向する部分には、布線ヘッド31が設けられている。布線ヘッド31には、第一ガイド部32、第二ガイド部33及び電線供給部34が設けられている。
【0041】
第一ガイド部32は、布線ヘッド31から被配線物8に向かって伸び出たローラ式線押し部材41の第一直線40に沿う移動を案内する部分である。また、第二ガイド部33は、布線ヘッド31から被配線物8に向かって伸び出たスポット式線押し部材51の第二直線50に沿う移動を案内する部分である。また、電線供給部34は、電線ガイド部91によって導かれてくる電線9を、被配線物8における、ローラ式線押し部材41及びスポット式線押し部材51の下方の位置へ送り出す部分である。
【0042】
また、布線ユニット30には、電動シリンダ式アクチュエータ44と、エアシリンダ式アクチュエータ54とが支持されている。電動シリンダ式アクチュエータ44は、X−Y平面方向に交差する第一直線40に沿ってローラ式線押し部材41を移動させる。また、エアシリンダ式アクチュエータ54は、スポット式線押し部材51を、第一直線40に平行な第二直線50に沿って移動させる。
【0043】
電動シリンダ式アクチュエータ44は、モータと、モータによって回転するねじ軸と、そのねじ軸に組み合わされたナットと、そのナットに連結され、ナットとともに直線に沿って往復移動するロッドとを備えている。なお、モータによって回転するナットと、そのナットに組み合わされたネジ軸と、そのネジ軸に連結され、ネジ軸とともに直線に沿って往復移動するロッドとを備えた電動シリンダ式アクチュエータ44も存在する。
【0044】
一方、エアシリンダ式アクチュエータ54は、圧縮空気を作るコンプレッサと、圧縮空気が流入するシリンダチューブと、シリンダチューブへの圧縮空気の流入・排出を調節する調節弁と、シリンダチューブ内で圧縮空気の圧力によって直線に沿って往復移動するピストン及びロッドとを備えている。
【0045】
また、電動シリンダ式アクチュエータ44のロッドは、第一直線40に沿う方向の駆動力をローラ式線押し部材41側へ伝える板状の第一作用部45に連結されている。同様に、エアシリンダ式アクチュエータ54のロッドは、第二直線50に沿う方向の駆動力をスポット式線押し部材51側へ伝える板状の第二作用部55に連結されている。
【0046】
ローラ式線押し部材41は、ローラ42に対し反対側の根元部が転がり軸受部431を構成する軸軌道板43Aに固定されている。転がり軸受部431は、例えば、スラスト玉軸受などであり、転がり軸受部431を構成する軸軌道板43A及びハウジング軌道板43Bは、第一直線40を中心に相対的に回転する。また、転がり軸受部431のハウジング軌道板43Bには、第一円板432が固定されている。この第一円板432は、電動シリンダ式アクチュエータ44の駆動力を伝える第一作用部45から力を受ける被作用部の一例である。
【0047】
即ち、転がり軸受部431及び第一円板432は、ローラ式線押し部材41に設けられ、電動シリンダ式アクチュエータ44の駆動力を伝える第一作用部45から力を受ける第一円板432が形成された転がり軸受機構43を構成している。
【0048】
一方、スポット式線押し部材51は、電線9に接触する先端部52に対し反対側の根元部が第二円板53に固定されている。この第二円板53は、エアシリンダ式アクチュエータ54の駆動力を伝える第二作用部55から力を受ける被作用部の一例である。
【0049】
また、第一作用部45における第一円板432と接触する部分には、樹脂製パッド451が、ネジ452によって取り外し可能に取り付けられている。同様に、第二作用部55における第二円板53と接触する部分にも、樹脂製パッド551が、ネジ552によって取り外し可能に取り付けられている。
【0050】
また、転がり軸受部431の軸軌道板43Aは、連結棒35によって布線ヘッド31と連結されている。布線ヘッド31は、サーボモータ37と、そのサーボモータ37と布線ヘッド31とを連結するリンク機構36により、第一直線40を中心として回転駆動される。
【0051】
ローラ式線押し部材41が通された第一ガイド部32は、布線ヘッド31の回転中心の位置に設けられている。また、スポット式線押さえ部51が通された第二ガイド部33と、電線9を送り出す電線供給部34は、布線ヘッド31の回転中心以外の位置に設けられている。また、第二円板53の回転中心の位置には、ローラ式線押し部材41が通された貫通孔が形成されている。さらに、第二円板53の回転中心以外の位置には、スポット式線押さえ部51の根元部が固定され、電線ガイド部91が通された貫通孔が形成されている。また、第一円板432の回転中心以外の位置には、電線ガイド部91が通された貫通孔が形成されている。
【0052】
従って、サーボモータ37の駆動によって布線ヘッド31が回転すると、転がり軸受部431の軸軌道板43Aにおける回転中心に固定されたローラ式線押し部材41は、第一直線40を中心に回転し、スポット式線押さえ部51及び電線供給部34は、ローラ式線押さえ部41との相対的な位置を維持しながら、第一直線40の周りを回動する。
【0053】
図1において、第一直線40を中心とする回転方向がθで示されている。即ち、布線装置1は、X軸、Y軸、Z軸及びθ軸の4軸において、ローラ式線押し部材41、スポット式線押さえ部51及び電線供給部34と、被配線物8とを相対移動させる機構を備えている。なお、サーボモータ37及びリンク機構36は、ローラ式線押し部材41を、第一直線40を中心に回転駆動する駆動部の一例である。
【0054】
<制御装置>
制御装置7は、布線装置1が備える各駆動源、即ち、第一直線移動装置10と、第二直線移動装置20と、電動シリンダ式アクチュエータ44と、エアシリンダ式アクチュエータ54と、サーボモータ37とを制御する装置である。制御装置7は、不図示のマイクロコンピュータと、そのマイクロコンピュータが実行するプログラムを記憶する不揮発性メモリと、マイクロコンピュータが出力する制御信号に対応した各駆動源に対する駆動信号を出力する駆動回路などを備えている。マイクロコンピュータは、不揮発性メモリに記憶された制御プログラムを実行することによって各駆動源を制御する。
【0055】
制御装置7は、布線ヘッド31が被配線物8上における予め定められた配線経路上を通過するように、第一直線移動装置10及び第二直線移動装置20を制御する。さらに、制御装置7は、電線供給部34から送り出される電線9が、被配線物8上における予め定められた配線経路に存在する凹部83に対して適切に嵌め入れられるように、サーボモータ37、電動シリンダ式アクチュエータ44及びエアシリンダ式アクチュエータ54を制御する。
【0056】
以下、
図3から
図5を参照しつつ、制御装置7による電動シリンダ式アクチュエータ44及びエアシリンダ式アクチュエータ54の制御の具体例について説明する。なお、
図3から
図5は、それぞれローラ式線押し部材41が電線9を押す第1の状態、第2の状態及び第3の状態を示す図である。
【0057】
図3から
図5において、仮想線(二点鎖線)で記されているローラ式線押し部材41は、電動シリンダ式アクチュエータ44によるローラ式線押し部材41の保持位置が、ローラ42が被配線物8上の電線9に接触しない待避位置である状態を示す。一方、
図3から
図5において、実線で記されているローラ式線押し部材41は、電動シリンダ式アクチュエータ44によるローラ式線押し部材41の保持位置が、ローラ42が被配線物8上の電線9に接触する作動位置である状態を示す。
図3から
図5に示されるように、作動位置は、状況に応じて異なる位置に設定される。
【0058】
即ち、制御装置7は、電動シリンダ式アクチュエータ44を制御し、電動シリンダ式アクチュエータ44によるローラ式線押し部材41の保持位置を、待避位置と2点以上の作動位置とに調整する制御を実行する。なお、この制御を実行する制御装置7は、第一制御部の一例である。
【0059】
図3は、布線ヘッド31及び被配線物8がX−Y平面内で直線方向に相対移動している最中に、電線9が、ローラ式線押し部材41によって被配線物8の凹部83の底に嵌め入れられている状態を示す。この場合、制御装置7は、布線ヘッド31及び被配線物8がX−Y平面に沿って相対移動しているときに、電動シリンダ式アクチュエータ44を制御し、電動シリンダ式アクチュエータ44によるローラ式線押し部材41の保持位置を被配線物8の凹部83の底面に近い第1の動作位置に維持する。この第1の動作位置は、ローラ42の先端が、凹部83の底面から電線9の直径よりも若干短い距離を隔てた位置で電線9に接触する状態となる位置である。
【0060】
図4は、布線ヘッド31及び被配線物8がX−Y平面内で直線方向に相対移動している最中に、電線9が、ローラ式線押し部材41によって既に配線済みの電線9の上に重ねて被配線物8の凹部83に嵌め入れられている状態を示す。この場合、制御装置7は、布線ヘッド31及び被配線物8がX−Y平面に沿って相対移動しているときに、電動シリンダ式アクチュエータ44を制御し、電動シリンダ式アクチュエータ44によるローラ式線押し部材41の保持位置を被配線物8の凹部83の底面から電線9の直径よりも長い距離を隔てた第2の動作位置に維持する。
【0061】
ローラ式線押し部材41は、先端にローラ42が設けられているため、ほぼ擦れることなく滑らかに電線9に接触する。そして、
図3及び
図4に示されるように、ローラ式線押し部材41の平面内移動の最中に、ローラ式線押し部材41が動作位置で保持されれば、ローラ式線押し部材41の平面内移動を停止する頻度が少なくなり、配線工程の効率が高まる。
【0062】
図5は、布線ヘッド31及び被配線物8がX−Y平面内で方向転換しながら相対移動しているときに、電線9が、被配線物8の凹部83の底面から浮いた高さで押さえられつつ、凹部83の側壁である凸部82に巻き込まれる状態を示す。この場合、制御装置7は、布線ヘッド31及び被配線物8がX−Y平面に沿って方向転換しながら相対移動しているときに、電動シリンダ式アクチュエータ44を制御し、電動シリンダ式アクチュエータ44によるローラ式線押し部材41の保持位置を被配線物8の凹部83の底面から電線9の直径よりも長い距離を隔てた第3の動作位置に維持する。さらに、制御装置7は、ローラ式線押し部材41の保持位置を第3の動作位置に保持しつつ、サーボモータ37を制御することにより、X−Y平面内での方向転換に合わせてローラ式線押し部材41を回転させる。
【0063】
以上に示したように、布線装置1は、ローラ式線押し部材41の作動位置を詳細に調節することができるため、電線9が被配線物8上に重ね配線される場合、或いは、ローラ式線押し部材41の平面内移動の速度が速い場合などにおいても、被配線物8上における電線9の高さに応じてローラ式線押し部材41から電線9への圧力が調節され、電線9の損傷が防止される。
【0064】
さらに、布線装置1は、被配線物8上における配線方向が転換する位置において、電線9を被配線物8の凹部83の底面から浮いた高さで押さえつつ、電線9を凹部83の側壁に巻き込む動作も可能である。そのため、布線装置1が採用されれば、配線方向が転換する位置において、ローラ式線押し部材41の平面内移動の停止及び平面内移動の後戻りなどの効率の悪い動作が省かれ、配線工程の効率がより高まる。
【0065】
なお、制御装置7がローラ式線押し部材41の動作位置を2点以上の位置に調節する方法としては、例えば、予め設定された複数の位置から選択して調節する方法、或いは、予め設定された電線の直径と電線9を押す位置における電線9の重ね回数とに基づいて動作位置を自動計算する方法などが考えられる。
【0066】
また、
図5に示されるように、ローラ式線押し部材41は、待避位置から動作位置への移動線である第一直線40を中心に回転するため、先端のローラ42が電線9に接触する状態を維持したまま回転できる。即ち、ローラ式線押し部材41は、動作位置で電線9を押さえつつ、配線方向の転換のために回転できる。そのため、被配線物8上における配線方向が転換する位置において、ローラ式線押し部材41の回転にともなってローラ式線押し部材41と被配線物8との位置関係を再調整することなく配線動作の継続が可能となる。従って、配線工程の効率がより高まる。
【0067】
また、布線装置1は、ローラ式線押し部材41を、電線9に押し付けた状態のまま回転させることも可能である。この場合、転がり軸受機構43が存在しなければ、電動シリンダ式アクチュエータ44の駆動力を伝える第一作用部45と、その第一作用部45から力を受ける第一円板432とが、強く擦れて摩耗する。しかしながら、布線装置1は、転がり軸受機構43を備えるため、第一作用部45及び第一円板432の摩耗が軽減される。
【0068】
また、樹脂製パッド451が、第一作用部45に取り外し可能に設けられているため、万一、樹脂製パッド451に摩耗が生じた場合にも、樹脂製パッド451を交換するだけですぐに装置を再稼働できる。なお、樹脂製パッド451のメリットは、エアシリンダ式アクチュエータ54に対応する第二作用部55の樹脂製パッド551についても同様である。
【0069】
次に、
図6を参照しつつ、制御装置7によるエアシリンダ式アクチュエータ54の制御の具体例について説明する。なお、
図6は、スポット式線押し部材51が電線9を押す状態を示す図である。
【0070】
図6において、仮想線(二点鎖線)で記されているスポット式線押し部材51は、エアシリンダ式アクチュエータ54によるスポット式線押し部材51の保持位置が、スポット式線押し部材51の先端部52が被配線物8上の電線9に接触しない待避位置である状態を示す。一方、
図6において、実線で記されているスポット式線押し部材51は、エアシリンダ式アクチュエータ54によるスポット式線押し部材51の保持位置が、スポット式線押し部材51の先端部52が被配線物8上の電線9に接触する作動位置である状態を示す。
【0071】
即ち、制御装置7は、エアシリンダ式アクチュエータ54を制御し、エアシリンダ式アクチュエータ54によるスポット式線押し部材51の保持位置を、待避位置と作動位置との間で往復移動させる制御を実行する。その際、制御装置7は、エアシリンダ式アクチュエータ54によるスポット式線押し部材51の保持位置を、予め定められた待避位置と作動位置との間の中間位置へ積極的に調節することはない。なお、この制御を実行する制御装置7は、第二制御部の一例である。
【0072】
図6は、布線ヘッド31及び被配線物8のX−Y平面内での相対移動が停止しているときに、電線9が、スポット式線押し部材51によって被配線物8の凹部83の底に嵌め入れられている状態を示す。この場合、制御装置7は、布線ヘッド31及び被配線物8がX−Y平面に沿って相対移動していないときに、エアシリンダ式アクチュエータ54を制御し、エアシリンダ式アクチュエータ54によるスポット式線押し部材51の保持位置を、待避位置から動作位置へ移行させた後に待避位置へ戻す。
【0073】
電動シリンダ式アクチュエータ44で駆動される線押し部材41が、電線9の引っ掛かりが生じやすい凹部83に電線9を押し込むと、電線9が、予め設定された深さまで押さえられて損傷する恐れがある。一方、エアシリンダ式アクチュエータ54は、圧縮空気の弾性により、電線9から一定の応力を受けた時点で、電線9に損傷を与える前に変位動作が停止する。
【0074】
そこで、布線装置1は、
図3から
図6に示されるように、ローラ式線押し部材41による電線9の押さえ動作と、スポット式線押し部材51による電線9の押さえ動作とを目的に応じて適切に使い分ける。例えば、線押し部材の平面内移動の最中に電線9を押す動作は、ローラ式線押し部材41を電動シリンダ式アクチュエータ44で駆動することが適している。一方、電線9の引っ掛かりが生じやすい凹部83に電線9を深く押し込む動作などは、スポット式線押し部材51をエアシリンダ式アクチュエータ54で駆動することが適している。