(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記タイヤの変形応答は、前記タイヤのトレッド部材の変形応答、前記タイヤのベルト部材の曲げ変形の遅れ応答、及び前記タイヤのサイドウォール部材のねじり変形の遅れ応答を含む、請求項1または2に記載のデータ処理方法。
前記タイヤの変形応答は、前記タイヤのトレッド部材の変形応答、前記タイヤのベルト部材の曲げ変形の遅れ応答、及び前記タイヤのサイドウォール部材のねじり変形の遅れ応答を含む、請求項5または6に記載のタイヤの過渡応答データの算出方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記コーナリング中の過渡応答データを算出する方法、及びタイヤ力学モデルに用いる過渡応答を定めるパラメータの値を決定する方法では、いずれもタイヤ力学モデルから導出される1次遅れ応答の応答関数を用いるので、算出される過渡応答データは、応答周波数が高いほど計測データとの乖離が大きくなる。一方、過渡応答データを算出するとき、及びタイヤ力学モデルに用いる過渡応答を定めるパラメータの値を決定するとき、上記1次遅れ応答に代えて高次の遅れ応答を含んだ応答関数を用いることもできるが、高次の遅れ応答を含んだ応答関数をタイヤ力学モデルからどのように導出すればよいのか、不明である。このため、タイヤ力学モデルにおける力学要素パラメータの値と、高次の遅れ応答を含んだ応答関数に用いる過渡応答パラメータの値との間の関係は不明である。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決するために、算出される予測データと計測データとの乖離が少ない高次の遅れ応答を含み、タイヤ力学要素パラメータと、高次の遅れ応答を含んだ応答関数に用いる過渡応答パラメータとを関係付けたタイヤ力学モデルを用いてタイヤの過渡応答データを算出する方法及び装置と、このタイヤ力学モデルを用いたデータ処理方法及び装置と、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、タイヤのコーナリング時の過渡応答の計測データからタイヤ力学モデルで用いる過渡応答パラメータの値を算出する
ことを、コンピュータに実行させるデータ処理方法である。当該方法は、
スリップ角の時系列データをタイヤ測定条件としてタイヤに与えた時に計測されるコーナリング時のタイヤ回転軸に作用する
横力およびセルフアライニングトルクの物理量の過渡応答の計測データを
コンピュータに取得
させるステップと、
タイヤ回転軸に作用する前記物理量の、スリップ角に対する応答関数であって、コーナリング時のタイヤの変形応答を再現するタイヤ力学モデルを用いて定めた応答関数に、過渡応答パラメータの値を付与し、前記値が付与された前記応答関数と前記タイヤ測定条件として用いた前記スリップ角の時系列データとを用いて積分を行うことによって、前記物理量の時系列データをタイヤの予測データとして
コンピュータに算出
させるステップと、
算出した前記予測データが許容範囲内で前記計測データに一致するまで、前記過渡応答パラメータの値の修正と、前記予測データの算出を
コンピュータに繰り返
し行わせるステップと、
前記予測データが前記計測データに前記許容範囲内で一致したときに付与した前記過渡応答パラメータの値を、前記タイヤの過渡応答を再現する過渡応答パラメータの値として
コンピュータに決定
させるステップと、を有し、
前記タイヤ力学モデルを用いて定めた前記応答関数は、前記タイヤのベルト部材の曲げ変形の遅れ応答をむだ時間による遅れ応答として構成され
、
前記応答関数は、下記式で表される横力Fy及びセルフアライニングトルクMzのスリップ角αに対する伝達関数Fy(s)/α(s)及びMz(s)/α(s)を用いて得られる時間の関数を含み、
前記式中のKy、As、Kt、T0、T1、T2、及びT3は、前記過渡応答パラメータであり、T1は前記タイヤのベルト部材の曲げ変形の遅れ応答のむだ時間であり、sは、応答関数を定める複素数である。
【0009】
本発明の他の一態様は、スリップ角を時系列データとして与えたときのコーナリング時のタイヤの過渡応答データをタイヤ力学モデルを用いて算出
することを、コンピュータに実行させるタイヤの過渡応答データの算出方法であって、
スリップ角の時系列データを取得するとともに、コーナリング時のタイヤの変形応答を再現するタイヤ力学モデルを用いて定めた応答関数であって、タイヤ回転軸に作用する
横力およびセルフアライニングトルクの物理量の、スリップ角に対する応答関数に用いる過渡応答パラメータの値を
コンピュータに取得
させるステップと、
前記応答関数に前記過渡応答パラメータの値を付与し、前記値が付与された前記応答関数と取得した前記スリップ角の時系列データとを用いて積分を行うことによって、前記物理量の時系列データをタイヤの過渡応答データとして
コンピュータに算出
させるステップと、を有し、
前記タイヤ力学モデルを用いて定めた前記応答関数は、前記タイヤのベルト部材の曲げ変形の遅れ応答をむだ時間による遅れ応答として構成さ
れ、
前記応答関数は、下記式で表される横力Fy及びセルフアライニングトルクMzのスリップ角αに対する伝達関数Fy(s)/α(s)及びMz(s)/α(s)を用いて得られる時間の関数を含み、
前記式中のKy、As、Kt、T0、T1、T2、及びT3は、前記過渡応答パラメータであり、T1は前記タイヤのベルト部材の曲げ変形の遅れ応答のむだ時間であり、sは、応答関数を定める複素数である。
【0010】
本発明のさらに他の一態様は、タイヤのコーナリング時の過渡応答の計測データからタイヤ力学モデルで用いる過渡応答パラメータの値を算出する処理をコンピュータに実行させるプログラムである。当該プログラムは、
スリップ角の時系列データをタイヤ測定条件としてタイヤに与えることにより計測されるコーナリング時のタイヤ回転軸に作用する
横力およびセルフアライニングトルクの物理量の過渡応答の計測データを取得し、
タイヤ回転軸に作用する物理量の、スリップ角に対する応答関数であって、コーナリング時のタイヤの変形応答を再現するタイヤ力学モデルを用いて定めた応答関数に、過渡応答パラメータの値を付与し、前記値が付与された前記応答関数と前記タイヤ測定条件として用いた前記スリップ角の時系列データとを用いて積分を行うことによって、前記物理量の時系列データをタイヤの予測データとして算出し、
算出した前記予測データが許容範囲内で前記計測データに一致するまで、前記過渡応答パラメータの値の修正と、前記予測データの算出を繰り返し、
前記予測データが前記計測データに前記許容範囲内で一致したときに付与した前記過渡応答パラメータの値を、前記タイヤの過渡応答を再現する過渡応答パラメータの値として決定する、処理をコンピュータに実行させ、
前記タイヤ力学モデルを用いて定めた前記応答関数は、前記タイヤのベルト部材の曲げ変形の遅れ応答をむだ時間による遅れ応答として構成され、
前記応答関数は、下記式で表される横力Fy及びセルフアライニングトルクMzのスリップ角αに対する伝達関数Fy(s)/α(s)及びMz(s)/α(s)を用いて得られる時間の関数を含み、
前記式中のKy、As、Kt、T0、T1、T2、及びT3
は、前記過渡応答パラメータであり、T1は前記タイヤのベルト部材の曲げ変形の遅れ応答のむだ時間であり、sは、応答関数を定める複素数である。
【0011】
本発明のさらに他の一態様は、スリップ角を時系列データとして与えたときのコーナリング時のタイヤの過渡応答データをタイヤ力学モデルを用いて算出する処理をコンピュータに実行させるプログラムである。当該プログラムは、
スリップ角を時系列データを取得するとともに、コーナリング時のタイヤの変形応答を再現するタイヤ力学モデルを用いて定めた応答関数であって、タイヤ回転軸に作用する
横力およびセルフアライニングトルクの物理量の、スリップ角に対する応答関数に用いる過渡応答パラメータの値を取得し、
前記応答関数に、前記過渡応答パラメータの値を付与し、前記値が付与された前記応答関数と取得した前記スリップ角の時系列データとを用いて積分を行うことによって、前記物理量の時系列データをタイヤの過渡応答データとして算出する、処理をコンピュータに実行させ、
前記タイヤ力学モデルを用いて定めた前記応答関数は、前記タイヤのベルト部材の曲げ変形の遅れ応答をむだ時間による遅れ応答として構成され、
前記応答関数は、下記式で表される横力Fy及びセルフアライニングトルクMzのスリップ角αに対する伝達関数Fy(s)/α(s)及びMz(s)/α(s)を用いて得られる時間の関数を含み、
前記式中のKy、As、Kt、T0、T1、T2、及びT3は、前記過渡応答パラメータであり、T1は前記タイヤのベルト部材の曲げ変形の遅れ応答のむだ時間であり、sは、応答関数を定める複素数である。
【0012】
また、本発明の他の一態様は、タイヤのコーナリング時の過渡応答の計測データからタイヤ力学モデルで用いる過渡応答パラメータの値を算出するデータ処理装置である。当該装置は、
スリップ角の時系列データをタイヤ測定条件としてタイヤに与えた時に計測されるコーナリング時のタイヤ回転軸に作用する
横力およびセルフアライニングトルクの物理量の過渡応答の計測データを取得するデータ取得部と、
タイヤ回転軸に作用する前記物理量の、スリップ角に対する応答関数であって、コーナリング時のタイヤの変形応答を再現するタイヤ力学モデルを用いて定めた応答関数に、過渡応答パラメータの値を付与し、前記値が付与された前記応答関数と前記タイヤ測定条件として用いた前記スリップ角の時系列データとを用いて積分を行うことによって、前記物理量の時系列データをタイヤの予測データとして算出する演算部と、
算出した前記予測データが許容範囲内で前記計測データに一致するまで、前記過渡応答パラメータの値の修正を行うことにより、前記演算部に前記予測データの算出を繰り返し実行させ、前記予測データが前記計測データに前記許容範囲内で一致したときに付与した前記過渡応答パラメータの値を、前記タイヤの過渡応答を再現する過渡応答パラメータの値として決定するパラメータ値決定部と、を有し、
前記タイヤ力学モデルを用いて定めた前記応答関数は、前記タイヤのベルト部材の曲げ変形の遅れ応答をむだ時間による遅れ応答として構成され、
前記応答関数は、下記式で表される横力Fy及びセルフアライニングトルクMzのスリップ角αに対する伝達関数Fy(s)/α(s)及びMz(s)/α(s)を用いて得られる時間の関数を含み、
前記式中のKy、As、Kt、T0、T1、T2、及びT3は、前記過渡応答パラメータであり、T1は前記タイヤのベルト部材の曲げ変形の遅れ応答のむだ時間であり、sは、応答関数を定める複素数である。
【0013】
さらに、本発明の他の一態様は、スリップ角を時系列データとして与えたときのコーナリング時のタイヤの過渡応答データをタイヤ力学モデルを用いて算出するデータ算出装置である。当該装置は、
スリップ角の時系列データを取得するとともに、コーナリング時のタイヤの変形応答を再現するタイヤ力学モデルを用いて定めた応答関数であって、タイヤ回転軸に作用する
横力およびセルフアライニングトルクの物理量の、スリップ角に対する応答関数に用いる過渡応答パラメータの値を取得するデータ取得部と、
前記応答関数に、前記過渡応答パラメータの値を付与し、前記値が付与された前記応答関数と取得した前記スリップ角の時系列データとを用いて積分を行うことによって、前記物理量の時系列データをタイヤの過渡応答データとして算出する演算部と、を有し、
前記タイヤ力学モデルを用いて定めた前記応答関数は、前記タイヤのベルト部材の曲げ変形の遅れ応答をむだ時間による遅れ応答として構成され、
前記応答関数は、下記式で表される横力Fy及びセルフアライニングトルクMzの
スリップ角αに対する伝達関数Fy(s)/α(s)及びMz(s)/α(s)を用いて得られる時間の関数を含み、
前記式中のKy、As、Kt、T0、T1、T2、及びT3は、前記過渡応答パラメータであり、T1は前記タイヤのベルト部材の曲げ変形の遅れ応答のむだ時間であり、sは、応答関数を定める複素数である。
【発明の効果】
【0014】
上記タイヤの過渡応答データの算出方法及び算出装置と、データ処理方法及びデータ処理装置と、プログラムによれば、算出される予測データと計測データとの乖離が少なく、力学要素パラメータと、高次の遅れ応答を含んだ応答関数に用いる過渡応答パラメータとを容易に関係付けることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のタイヤの過渡応答データの算出方法及び算出装置と、データ処理方法及びデータ処理装置と、プログラムについて詳細に説明する。
【0017】
一般に、転動するタイヤにスリップ角が付いたとき、タイヤのトレッド部材の接地面には、スリップ角に応じたせん断が発生し、このせん断に応じて横力がタイヤ回転軸に発生し、さらにこのとき接地面に発生するせん断力の発生分布に応じたセルフアライニングトルクがタイヤ回転軸に発生する。具体的には、スリップ角が与えられたタイヤのトレッド部材には、ベルト部材に対する路面の相対変位に応じたせん断が発生するが、このとき、トレッド部材の位置に影響を与えるベルト部材、さらには、ベルト部材の位置に影響を与えるサイドウォール部材も変形して変位する。このため、横力及びセルフアライニングトルクは、発生した横力あるいはセルフアライニングトルクの影響を再帰的に受けることになる。すなわち、タイヤにスリップ角が与えられたとき、発生する横力及びセルフアライニングトルクはフィードバック制御を受ける。したがって、時系列でスリップ角が変化して横力及びセルフアライニングトルクが発生するとき、横力及びセルフアライニングトルクの応答には、ベルト部材の横曲げ変形およびサイドウォール部材のねじり変形に起因する遅れ応答が含まれる。また、タイヤのトレッド部材のゴムは、変形速度が速くなるほど硬くなる粘弾性特性を有するので、発生する横力及びセルフアライニングトルクには、タイヤのトレッド部材の上記特性に起因する応答が含まれる。
【0018】
したがって、本実施形態のタイヤ力学モデルで表される変形応答は、タイヤのトレッド部材の変形応答、タイヤのベルト部材の曲げ変形の遅れ応答、及びタイヤのサイドウォール部材のねじり変形の遅れ応答を含む。このとき、上記変形応答は、タイヤのベルト部材の曲げ変形の遅れ応答をむだ時間による遅れ応答として構成されている。このため、本実施形態で用いる上記3つの応答を含んだステップ応答関数は、比較的単純な形で表され、さらに、ステップ応答関数に用いる過渡応答パラメータ(K
y,T
0,T
1,T
2,A
s,K
t,T
3)とタイヤ力学モデルに用いるタイヤ力学要素パラメータ(K
dr,K
rr,K
Lr)との間の関係は式で表され得る。したがって、計測データを用いて過渡応答パラメータの値を算出したとき、この過渡応答パラメータの値からタイヤ力学要素パラメータ(K
dr,K
rr,K
Lr)の値に変換することができる。これにより、タイヤ設計者にとって、どのばね定数を修正すれば、よりよい横力及びセルフアライニングトルクの応答を得ることができるか直感的に理解することができる。
以下、本実施形態について詳細に説明する。
【0019】
(データ算出装置、データ処理装置)
図1(a)は、タイヤの過渡応答データの算出方法を実施するデータ算出装置と、データ処理方法を実施するデータ処理装置とを兼ねた装置10の構成を示す図である。装置10は、CPU(Central Processing Unit)12と、ROM(Read Only Memory)14と、RAM(Random Access Memory)あるいはハードディスク等のメモリ16と、入出力部18と、を有するコンピュータである。CPU12と、ROM14と、メモリ16と、入出力部18とは、互いにバス19で接続されている。入出力部18には、マウスやキーボード等の入力操作系20と、ディスプレイ22と、計測装置24と接続されている。
【0020】
CPU12は、装置10の各部分の制御と動作管理を行う。ROM14は、装置10が立ち上がるとき、OS(Operating System)として呼び出されるプログラムを記録する。メモリ16は、本実施形態のタイヤの過渡応答データの算出方法およびデータ処理方法を実行するプログラムを記録し、また、本実施形態のタイヤの過渡応答データの算出方法およびデータ処理方法を実行するときに用いる各種データや情報の他、処理結果のデータを記憶する。
計測装置24は、コーナリング時のタイヤ回転軸に作用する横力あるいはセルフアライニングトルクの時系列データを計測データとして計測し、この計測データを入出力部18に出力する。
このような装置10は、メモリ16に記録されているプログラムを呼び出して実行することにより、タイヤの過渡応答データの算出方法およびデータ処理方法を実行する装置として機能する。
【0021】
図1(b)は、メモリ16に記録されている上記プログラムを呼び出した装置10の機能ブロック図である。
装置10は、データ取得部26と、パラメータ値決定部30と、Fy,Mz算出部32と、タイヤ力学モデル演算部34と、を有する。これらの各部分は、CPU12が実質的に各部分の機能を担うソフトウェアモジュールである。
【0022】
装置10は、オペレータの指示に応じて切り替える、過渡応答算出処理モードと、データ処理モードと、を備える。
過渡応答算出モードでは、装置10は、スリップ角を時系列データとして与えたときのコーナリング時のタイヤの過渡応答データを、タイヤ力学モデルを用いて定めた応答関数を用いて算出する。データ処理モードでは、装置10は、タイヤ力学モデルを用いて、タイヤのコーナリング時の過渡応答の計測データからタイヤ力学モデルで用いる過渡応答パラメータの値を算出する。
【0023】
データ取得部26は、過渡応答算出モードでは、スリップ角の時系列データを取得し、さらに、後述するタイヤ力学モデルから導出されるステップ応答関数に用いる過渡応答パラメータの値を取得する。ステップ応答関数は、コーナリング時のタイヤの変形応答を再現するタイヤ力学モデルにおける応答関数であって、タイヤ回転軸に作用する横力およびセルフアライニングトルクの、スリップ角に対する応答関数である。データ取得部26は、取得したスリップ角の時系列データを、タイヤ力学モデル演算部34が過渡応答の時系列データを算出できるように、タイヤ力学モデル演算部34に送る。また、データ取得部26は、取得した過渡応答パラメータの値をパラメータ値決定部30に送る。
データ取得部26は、データ処理モードでは、タイヤのコーナリング時のタイヤ回転軸に作用する横力およびセルフアライニングトルクの過渡応答の計測データ、およびこの計測においてタイヤ測定条件として用いたスリップ角の時系列データを取得する。データ取得部26は、取得した計測データを、パラメータ値決定部30に送る。データ取得部26は、取得したスリップ角の時系列データを、タイヤ力学モデル演算部34が過渡応答の時系列データを算出できるように、タイヤ力学モデル演算部34に送る。
【0024】
パラメータ値決定部30は、データ処理モードでは、設定した過渡応答パラメータの値をタイヤ力学モデル演算部34に与えることで算出される横力及びセルフアライニングトルクの予測データが、データ取得部26で得られた計測データに、許容範囲内で一致するか否かを判定する。判定の結果、予測データが計測データに対して許容範囲内で一致しない場合、パラメータ値決定部30は、設定された過渡応答パラメータの値を修正し、修正した値をタイヤ力学モデル演算部34に与える。パラメータ値決定部30は、予測データが計測データに対して許容範囲内で一致するまで、過渡応答パラメータの値の修正を繰り返し行う。
判定の結果、予め設定された許容範囲内で予測データが計測データに一致する場合、このとき設定された過渡応答パラメータの値を、計測に用いたタイヤの過渡応答を再現する過渡応答パラメータの値として決定してディスプレイ22や図示されないプリンタに出力する。さらに、パラメータ値決定部30は、決定した過渡応答パラメータの値からタイヤ力学要素パラメータ(K
dr,K
rr,K
Lr)の値を算出してディスプレイ22や図示されないプリンタに出力する。過渡応答パラメータの値からタイヤ力学要素パラメータ(K
dr,K
rr,K
Lr)の値の算出については後述する。
【0025】
上記データ処理モードでは、最初に設定される過渡応答パラメータの値、すなわち初期値は、予め設定されたデフォルト値でもよいし、以前決定された過渡応答パラメータの値であってもよい。
また、予測データが計測データと許容範囲内で一致するとは、それぞれの時系列データの差分の二乗和が許容範囲として設定された閾値以下となることである。したがって、パラメータ値決定部30における判定では、予測データと計測データの差分の二乗和が用いられる。
また、予測データが計測データと許容範囲内で一致するまで、過渡応答パラメータの値を繰り返し修正する方法は特に制限されず、公知の方法が用いられ、例えば、ニュートンラフソン法を用いることができる。
【0026】
一方、過渡応答算出モードでは、パラメータ値決定部30は、データ取得部26から送られた過渡応答パラメータの値を、タイヤ力学モデル演算部34に送る。
【0027】
Fy,Mz算出部32は、タイヤ力学モデル演算部34で算出された横力およびセルフアライニングトルクの時系列データである予測データを、所定の形式に修正してディプレイ22あるいは図示されないプリンタに出力する。
【0028】
タイヤ力学モデル演算部34は、データ取得部26から送られたスリップ角の時系列データと、パラメータ値決定部30から送られた過渡応答パラメータの値と、設定されたステップ応答関数を用いて、スリップ角の時系列データに対する横力及びセルフアライニングトルクの時系列データを予測データとして算出する。タイヤ力学モデル演算部34がパラメータ値決定部30から過渡応答パラメータの値を受けることは、パラメータ値決定部30から、過渡応答の時系列データを算出する指示を受けることを意味する。このため、タイヤ力学モデル演算部34は、パラメータ値決定部30から過渡応答パラメータの値を受けると、直ちに、以下に示す横力及びセルフアライニングトルクの予測データの算出を開始する。
【0029】
図2は、タイヤ力学モデル演算部34を説明する図である。
タイヤ力学モデル演算部34は、具体的に、
図2に示されるように、パラメータ値決定部30から受けた過渡応答パラメータ(K
y,T
0,T
1,T
2,A
s,K
t,T
3)の値をタイヤ力学モデル演算部34に設定されているステップ応答関数に付与し、値が付与されたステップ応答関数と、データ取得部26から送られたスリップ角の時系列データα(t)の時間変化量との畳み込み積分を行うことによって、横力及びセルフアライニングトルクの時系列データであるF
y(t)、M
z(t)をタイヤの過渡応答データ(予測データ)として算出する。
【0030】
より具体的には、ステップ応答関数は、ラプラス演算子sを用いて表した
図2中の伝達関数F
y(s)/α(s)、伝達関数M
z(s)/α(s)(α(s)はラプラス演算子で表されるスリップ角)に、スリップ角のステップ入力をラプラス変換した関数を乗算し、この乗算結果に時間領域に変換した関数である。ステップ応答関数は、後述するように、式(15)及び式(16)で表されるK
st(t),A
st(t)で表される。このステップ応答関数に、過渡応答パラメータ(K
y,T
0,T
1,T
2,A
s,K
t,T
3)の値が付与される。さらに、タイヤ力学モデル演算部34は、入力したスリップ角の時系列データの時間変化量(dα(t’)/dt’)とK
st(t−t’),A
st(t−t’)を乗算して積分を行う(t’は積分変数)。これにより、タイヤ力学モデル演算部34は、F
y(t),M
z(t)を算出する。算出されたF
y(t),M
z(t)は、データ処理モードではパラメータ値決定部28に、過渡応答算出モードではF
y,M
z算出部32に送られる。
【0031】
図2に示すように、ステップ応答関数を定める基準となる伝達関数F
y(s)/α(s)では、T
1に関する項がexp(−T
1s)で表されている。この項はタイヤのベルト部材の曲げ変形の遅れ応答を、むだ時間であるT
1による遅れ応答を表している。
図3(a),(b)はむだ時間を説明する図である。むだ時間であるT
1による遅れ応答とは、
図3(a)に示すように、時間0において、スリップ角0度が1度に変化してそれ以降1度を維持するスリップ角αのステップ関数に対して、発生する横力F
yは、
図3(b)に示すように、横力の立ち上がりがT
1秒遅れる応答をいう。このような遅れ応答を用いることで、時間T
1だけ遅れて立ち上った以降の応答は、伝達関数F
y(s)/α(s)のexp(−T
1s)の項を除いた残りの項の応答、すなわち、2次の遅れ応答となる。2次の遅れ応答の応答関数は、後述するように式(15)、式(16)により陽に書き表すことができるので、タイヤ力学モデル演算部34において予め式(15)、式(16)を用いてステップ応答関数を用意することができる。したがって、本実施形態の装置10は、高次の遅れ応答を用いて容易にF
y(t),M
z(t)を算出することができる。
【0032】
(タイヤ力学モデル)
図2に示すタイヤ力学モデル演算部34で用いるステップ応答関数は、タイヤ力学モデルに基づいて導出されたものである。このタイヤ力学モデルについて説明する。
図4(a),(b)は、スリップ角が付いたタイヤのトレッド部材に作用するせん断力の様子を説明する図である。タイヤのトレッド部材が地面と接地する接地面Pにおいて、ホイールの中心の方向とタイヤの移動方向との間にスリップ角度αの分ずれがあるため、トレッド部材にはせん断力が発生する。このせん断力は、接地面Pの踏み込み端から蹴り出し端に向かって徐々に大きくなる分布を有する。これによって
図4(b)に示すように、横力F
y(せん断力の合計)とセルフアライニングトルクM
y(タイヤ中心回りのモーメント)がタイヤ回転軸に発生する。しかし、このとき、ベルト部材は横力F
yに応じて横力F
yの向きに追従した横曲げの変形(ベルトがタイヤ幅方向に曲がる変形)をする。このため、横力F
yの領域R
2は、
図4(c)に示すように、
図4(b)に示す領域R
1に対して小さくなる。このときの横力F
yによるベルト部材の横曲げ変形による変位量を(εl/3)・F
yとする(εl/3は、ベルト部材の横曲げ剛性の逆数を表す定数)。
【0033】
さらに、
図4(c)に示すように、このとき発生するセルフアライニングトルクM
zはサイドウォール部材のねじり変形によりスリップ角αを小さくするように作用する。このときのスリップ角の低減量は、M
z/G
mzである。
したがって、横力F
yは下記式(5)に示すように表され、セルフアライニングトルクM
zは下記式(6)に示すように表される。ここで、K
yo,A
s0は、定数である。
【0036】
さらに、タイヤにスリップ角が時系列データとして入力されたとき、横力F
y、セルフアライニングトルクM
zは過渡応答を示す。この過渡応答は、式(5)、(6)を変形して下記式(7),(8)で表される。ここで、K
yo,A
s0をK
y,A
sと書き直している。式(5)、(6)から式(7)、(8)への変形は、スリップ角が変化したとき、タイヤの変形がタイヤ周上全体に影響を及ぼすのに必要な時間はL/v(Lはタイヤ周長、vはタイヤの回転速度)であるので、この時間に基づいて、ベルト部材及びサイドウォール部材の変形が遅れることにより横力F
y、セルフアライニングトルクM
zの遅延応答が起こると考えることに基づいている。
【0039】
したがって、上記式(7),(8)をラプラス変換して、ラプラス演算子sを用いて伝達関数を表すと、下記式(9),(10)となる。
【0042】
さらに、タイヤのトレッド部材のゴムは、変形周波数が高くなるほど硬くなる粘弾性特性を有するので、K
y,A
sを下記式(11),(12)に示すように修正することにより、下記式(13),(14)を得る。式(11)、式(12)におけるT
0は、トレッド部材の変形応答の時定数である。このとき、式(14)には、スリップ角が生じた瞬間に値が最大となり、スリップ角の変化が小さくなると値が0になるセルフアライニングトルクの周知のねじり変形要素(ねじりトルク)を第2項として加えている。ここで、ねじり変形要素における時定数をT
3とする。K
tは定数。
【0047】
横力に関する伝達関数の式(13)の上段の右辺中の分母はsの4次式となっているので、式(13)の上段で表される応答は4次の遅れ応答である。しかし、4次の遅れ応答を最下段の式に示すように近似することができる。このとき、exp(−T
1s)の項がむだ時間であるT
1による遅れ応答として構成されている。これにより、exp(−T
1s)以外の項は2次の遅れ応答となるので、横力のステップ応答関数は、2次の遅れ応答のステップ応答関数とむだ時間T
1とを用いて、下記式(15)に示すように表される。また、セルフアライニングトルクのステップ応答関数は、下記式(16)に示すように表される。
【0050】
さらに、タイヤ力学モデル演算部34は、式(15)及び式(16)で示されるステップ応答関数K
st(t)及びA
st(t)と、データ取得部26から送られたスリップ角の時系列データα(t)の時間変化量との畳み込み積分を、下記式(17)及び(18)に示すように行う。これにより、タイヤ力学モデル演算部38は横力及びセルフアライニングトルクの時系列データF
y(t),Mz(t)である予測データを算出する。算出した予測データは、データ処理モードではパラメータ値決定部30に送られ、過渡応答算出モードではF
y,M
z算出部32に送られる。
【0053】
図5は、式(13),(14)で表される伝達関数の制御ブロック図を示す。タイヤ力学モデルは、このように、トレッド部材の変形応答、ベルト部材の曲げ変形の遅れ応答、およびサイドウォール部材のねじり変形の遅れ応答を、タイヤの変形応答として少なくとも含む。
【0054】
ここで、
図4(c)に示すベルト部材の変位量(εl/3)・F
yを、横力F
yを見かけ上の横曲げ剛性で除算することにより得られる変位量と考えることにより、見かけ上の横曲げ剛性、すなわちベルト部材の変形による横曲げ剛性K
drを下記式のように定めることができる。
K
dr = 3/((εl)・L) (Lはタイヤの周長)
【0055】
また、
図4(c)に示すサイドウォール部材のねじり変形によるスリップ角の低下量M
z/G
mzを、セルフアライニングトルクM
zを見かけ上のねじり剛性で除算することにより得られる変位相当量と考えることにより、見かけ上のねじり剛性、すなわちサイドウォール部材のねじり剛性K
rrを下記式のように定めることができる。
K
rr = G
mz/L (Lはタイヤの周長)
【0056】
さらに、横ばね定数K
Lrを下記式によって定めることができる。
K
Lr = (1/K
dr + (1/K
rr )・(A
s/K
y))
−1
この横ばね定数K
Lrは、非転動時のタイヤが接地した接地面を横方向に変位させたときに得られるタイヤの周知の横ばね定数に対応する。
なお、K
drは、T
1と式(9)中に示したようなT
1=K
y・(εl/3)・L/vの関係があるので、T
1=K
y/(K
dr ・v)となる。また、K
rrは、T
1と式(10)中に示したようなT
2=A
s・L/(G
mz・v)の関係があるので、T
2=A
s/(K
rr ・v)となる。
したがって、パラメータ値決定部30において計測データと予測データが許容範囲で一致することによって決定された過渡応答パラメータT
1,T
2,K
y,A
sの値は、タイヤ力学要素パラメータであるベルト部材の変形による横曲げ剛性K
dr、サイドウォール部材のねじり剛性K
rr、さらには、横ばね定数K
Lrの値に変換され得る。
【0057】
(データ処理方法)
図6は、本実施形態のデータ処理モードで行われるデータ処理方法のフローを示す図である。
【0058】
まず、データ取得部26は、計測装置24から送られたコーナリング時のタイヤの横力及びセルフアライニングトルクの時系列データを計測データとして取得する(ステップS10)。その際、データ取得部26は、計測装置24でタイヤ測定条件として用いられたスリップ角の時系列データα(t)を同時に取得する。計測装置24が横力及びセルフアライニングトルクの計測データおよびスリップ角の時系列データを装置10に送ったとき、装置10は一旦メモリ16に記憶したのち、データ取得部26がメモリ16から呼び出して計測データおよびスリップ角の時系列データを取得してもよい。取得したスリップ角の時系列データはタイヤ力学モデル演算部34に送られる。一方、取得した計測データは、パラメータ値決定部30に送られる。
【0059】
次に、パラメータ値決定部30は、過渡応答パラメータ(K
y,T
0,T
1,T
2,A
s,K
t,T
3)の値を初期設定する(ステップS20)。値の初期設定では、予め定められたデフォルト設定値が用いられてもよいし、以前データ処理モードが行われて決定された過渡応答パラメータの値を用いてもよい。
パラメータ値決定部30は、設定された過渡応答パラメータ(K
y,T
0,T
1,T
2,A
s,K
t,T
3)の値をタイヤ力学モデル演算部34に送る。
【0060】
タイヤ力学モデル演算部34は、パラメータ値決定部30において設定された過渡応答パラメータ(K
y,T
0,T
1,T
2,A
s,K
t,T
3)の値を、式(15)、式(16)で示されるステップ応答関数K
st(t),A
st(t)の各過渡応答パラメータに付与する(ステップS30)。これにより、ステップ応答関数は数値計算可能な式となる。
【0061】
この後、タイヤ力学モデル演算部34は、数値計算可能になったステップ応答関数K
st(t),A
st(t)と、データ取得部26から送られたスリップ角の時系列データα(t)とを用いて、横力及びセルフアライニングトルクの時系列データF
y(t),M
z(t)である予測データを算出する(ステップS40)。具体的には、式(17)及び式(18)に従って、スリップ角の時系列データα(t)の時間変化量dα(t’)/dt’(t’は積分変数)と、横力及びセルフアライニングトルクのステップ応答関数K
st(t),A
st(t)のそれぞれとが乗算されて積分される。すなわち、時間変化量dα(t’)/dt’と、横力及びセルフアライニングトルクのステップ応答関数K
st(t),A
st(t)との畳み込み積分が行われる。算出された横力及びセルフアライニングトルクの時系列データF
y(t),M
z(t)は、予測データとしてパラメータ値決定部30に送られる。
【0062】
パラメータ値決定部30は、タイヤ力学モデル演算部34から送られた横力及びセルフアライニングトルクの予測データが、データ取得部26から送られた計測データと、許容範囲内で一致するか否かを判定する(ステップS50)。具体的には、予測データと計測データの差分の二乗和を算出し、この二乗和が設定された閾値以下であるか否かを判定する。判定の結果、予測データが計測データに一致しないと判定した場合(ステップS50においてNOの場合)、パラメータ値決定部30は、設定された過渡応答パラメータ(K
y,T
0,T
1,T
2,A
s,K
t,T
3)の値を修正し(ステップS60)、修正した値をパラメータ値決定部30は再度タイヤ力学モデル演算部34に送り、ステップS30に戻る。こうして、予測データが計測データと許容範囲内で一致するまで、パラメータ値決定部30における過渡応答パラメータの値の修正と、タイヤ力学モデル演算部34における予測データの算出とが繰り返し行われる。
【0063】
ステップS50における判定の結果、予測データが計測データと許容範囲内で一致する場合(ステップS50においてYESの場合)、パラメータ値決定部30は、現在設定されている過渡応答パラメータ(K
y,T
0,T
1,T
2,A
s,K
t,T
3)の値を、計測データを得たタイヤの過渡応答を再現する過渡応答パラメータの値として決定する(ステップS70)。
さらに、パラメータ値決定部30は、決定された過渡応答パラメータ(K
y,T
0,T
1,T
2,A
s,K
t,T
3)の値を用いて、タイヤ力学要素パラメータの値を算出する(ステップS80)。具体的には、パラメータ値決定部30は、T
1=K
y/(K
dr ・v)及びT
2=A
s/(K
rr ・v)の関係に従って、ベルト部材の横曲げ剛性K
drの値、サイドウォール部材のねじり剛性K
rrの値を算出する。さらに、パラメータ値決定部30は、横ばね定数K
Lr = (1/K
dr + (1/K
rr )・(A
s/K
y))
−1の式に従って横ばね定数K
Lrの値を算出する。ここで、vは現在予測しようとするタイヤの回転速度であり、Lはタイヤの周長であり、これらの値は、予め入力された値であり既知である。こうして決定された過渡応答パラメータ(K
y,T
0,T
1,T
2,A
s,K
t,T
3)の値及び、ベルト部材の横曲げ剛性K
drの値、サイドウォール部材のねじり剛性K
rrの値、及び横ばね定数K
Lrの値がディスプレイ22あるいは図示されないプリンタに出力される。さらに、決定された過渡応答パラメータの値、及びベルト部材の横曲げ剛性K
drの値、サイドウォール部材のねじり剛性K
rrの値、及び横ばね定数K
Lrの値がメモリ16に記憶される。
【0064】
(タイヤの過渡応答データの算出方法)
図7は、本実施形態の過渡応答算出モードで行われる算出方法のフローを示す図である。過渡応答算出モードでは、スリップ角の時系列データが自在に設定されたときの過渡応答データを算出する。
【0065】
まず、データ取得部26は、過渡応答パラメータ(K
y,T
0,T
1,T
2,A
s,K
t,T
3)の値を取得する(ステップS90)。取得する過渡応答パラメータ(K
y,T
0,T
1,T
2,A
s,K
t,T
3)の値は、入力操作系20を通してオペレータが入力したものであってもよいし、以前データ処理モードを行ってメモリ16に記憶された値が用いられてもよい。このときデータ取得部26は、オペレータが入力操作系20を通して入力したスリップ角の時系列データ、あるいはメモリ16に記憶されているスリップ角の時系列データを取得する。取得したスリップ角の時系列データはタイヤ力学モデル演算部34に送られる。一方、取得した過渡応答パラメータ(K
y,T
0,T
1,T
2,A
s,K
t,T
3)の値は、パラメータ値決定部30に送られる。
パラメータ値決定部30は、データ取得部26から送られた過渡応答パラメータ(K
y,T
0,T
1,T
2,A
s,K
t,T
3)の値をタイヤ力学モデル演算部34に送り、予測データを算出するようにタイヤ力学モデル演算部34に指示をする。
【0066】
タイヤ力学モデル演算部34は、パラメータ値決定部30から送られた過渡応答パラメータ(K
y,T
0,T
1,T
2,A
s,K
t,T
3)の値を、式(15)、式(16)で示されるステップ応答関数K
st(t),A
st(t)の各過渡応答パラメータに付与する(ステップS100)。これにより、ステップ応答関数K
st(t),A
st(t)は数値計算可能な式となる。
この後、タイヤ力学モデル演算部34は、数値計算可能になったステップ応答関数K
st(t),A
st(t)と、データ取得部26から送られたスリップ角の時系列データα(t)とを用いて、横力及びセルフアライニングトルクの時系列データF
y(t),M
z(t)である予測データを算出する(ステップS110)。具体的には、式(17)及び式(18)に従って、スリップ角の時系列データα(t)の時間変化量dα(t’)/dt’(t’は被積分変数)と、横力及びセルフアライニングトルクのステップ応答関数とが乗算されて積分される。すなわち、時間変化量dα(t’)/dt’と、K
st(t)及びA
st(t)のそれぞれとの畳み込み積分が行われる。横力及びセルフアライニングトルクの時系列データF
y(t),M
z(t)は、予測データとしてF
y,M
z算出部32に送られる。
F
y,M
z算出部32は、タイヤ力学モデル演算部34で算出された横力及びセルフアライニングトルクの時系列データF
y(t),M
z(t)、すなわち予測データを、所定の形式に修正してディプレイ22あるいは図示されないプリンタに出力する。
【0067】
このように本実施形態に用いるステップ応答関数では、式(15)に示すように、(t−T
1)の時間の項が用いられており、すなわち、タイヤのベルト部材の曲げ変形に対応する遅れ応答を、タイヤ力学モデルにおいてむだ時間T
1による遅れ応答として構成しているので、2次の遅れ応答を用いてステップ応答関数を表すことができる。しかも、ステップ応答関数に用いる過渡応答パラメータ(K
y,T
0,T
1,T
2,A
s,K
t,T
3)は、タイヤ力学要素パラメータ、具体的にはベルト部材の横曲げ剛性K
dr、サイドウォール部材のねじり剛性K
rr、及び横ばね定数K
Lrと式によって関係付けられているので、タイヤ設計者は、タイヤ力学要素パラメータを用いてタイヤの評価を行うとともに、コーナリング特性の改良のための対策方法を容易に見出すことができる。例えば、ベルト部材の横曲げ剛性K
drを増大させる場合、ベルト部材の曲げ剛性を高めるベルト構造を選択する等の対策を講じることができる。
【0068】
図8は、スリップ角の時系列データα(t)をタイヤ測定条件として計測装置24に与えて、計測装置24でタイヤを計測した横力の計測データの一例を示す図である。スリップ角以外のタイヤ測定条件は、タイヤサイズ205/55R16であり、内圧200kPa、荷重4kN,タイヤの回転速度v=40km/時である。
このとき、
図9は、パラメータ値決定部30で決定された過渡応答パラメータK
y,A
sの値と、ベルト部材の横曲げ剛性K
dr、サイドウォール部材のねじり剛性K
rr、及び横ばね定数K
Lrの値の一例を示している。また、
図9は、横軸にスリップ角を、縦軸に横力をとったときの計測データと予測データの軌跡を示している。
図9に示される計測データと予測データの比較から明らかなように、予測データは極めてよく計測データを再現していることがわかる。
【0069】
図10(a)は、横軸に距離周波数を、縦軸にスリップ角1度における横力のゲイン(F
y(1)ゲイン)を示し、
図10(b)は、横軸に距離周波数を、縦軸にスリップ角1度における横力の位相(F
y(1)位相)を示している。
距離周波数は、スリップ角αの角周波数ω[rad/秒]を、そのときのタイヤの回転速度v[m/秒]で除算した値である。
図10(a),(b)に示されるように、予測データは計測データによく一致していることがわかる。従来の一次遅れ応答の応答関数を用いて得られるF
y(1)位相は、
図10(b)に一点鎖線で示すように、距離周波数が高くなると、計測データから乖離するが、本実施形態のステップ応答関数を用いて得られるF
y(1)位相は、距離周波数が高くなっても、計測データとよく一致することがわかる。
【0070】
図11は、
図9に示す例に用いたタイヤの横ばね定数K
Lrの回転速度vの依存性を示す図である。回転速度vが大きくなるにつれ、横ばね定数K
Lrの値は減少することが示されている。
【0071】
図12(a)〜(e)は、異なるタイヤA〜Eの横ばね定数K
Lr、ベルト部材の横曲げ剛性K
dr、及びサイドウォール部材のねじり剛性K
rrと、F
y(1)ゲイン及びF
y(1)位相を示している。タイヤA〜Eによって、横ばね定数K
Lr、横曲げ剛性K
dr、ねじり剛性K
rrが種々異なっており、F
y(1)ゲイン及びF
y(1)位相も種々異なっている。例えば、タイヤの過渡応答特性においてF
y(1)ゲインを評価対象とし、F
y(1)ゲインを大きくしようとする場合、F
y(1)ゲインの大きいタイヤB,D,Eに注目する。このタイヤB,D,Eは、タイヤA,Cに対してねじり剛性K
rrが大きいので、F
y(1)ゲインを大きくするためには、ねじり剛性K
rr、すなわち、サイド部材のねじり剛性を高くすればよい、と想定される。したがってタイヤ設計者は、サイド部材のねじり剛性を高めるために、サイド部材の選択あるいはサイド部の構造を再検討する。このように、本実施形態を用いていて算出される横ばね定数K
Lr、ベルト部材の横曲げ剛性K
dr、及びサイドウォール部材のねじり剛性K
rrの値は、タイヤ設計者にとって有効な情報といえる。
【0072】
なお、本実施形態では、予測データを式(17)、式(18)に示すようにステップ応答関数とスリップ角の時系列データの時間変化量との畳み込み積分を行って算出するが、予測データの算出方法は、この方法に制限されない。例えば、ステップ応答関数の代わりにインパルス応答関数を用いてスリップ角の時系列データとの畳み込み積分を行ってもよい。
【0073】
本実施形態では、過渡応答算出モードでは、予測データとしてF
y(t),M
z(t)を算出するが、F
y(t),M
z(t)の少なくとも一方を算出してもよい。一方、データ処理モードでは、横力及びセルフアライニングトルクの緩和応答パラメータのうち、少なくとも横力の緩和応答パラメータであるK
y,T
0,T
1,T
2の値を算出すればよい。しかし、横ばね定数K
Lr、ベルト部材の横曲げ剛性K
dr、及びサイドウォール部材のねじり剛性K
rr等のタイヤ力学要素パラメータの値を算出する点から、横力及びセルフアライニングトルクの緩和応答パラメータ(K
y,T
0,T
1,T
2,A
s,K
t,T
3)の値を算出することが好ましい。
【0074】
以上、本発明のタイヤの過渡応答データの算出方法および算出装置、データ処理方法およびデータ処理装置、及びプログラムについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。