(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5790032
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】円すいころ軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/52 20060101AFI20150917BHJP
F16C 19/36 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
F16C33/52
F16C19/36
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-47964(P2011-47964)
(22)【出願日】2011年3月4日
(65)【公開番号】特開2012-184802(P2012-184802A)
(43)【公開日】2012年9月27日
【審査請求日】2014年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089381
【弁理士】
【氏名又は名称】岩木 謙二
(72)【発明者】
【氏名】許 万領
【審査官】
日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−041681(JP,A)
【文献】
特表2007−529702(JP,A)
【文献】
実公昭15−018603(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56、33/30−33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対回転可能に対向配置された中空円環状の軌道輪と、
前記軌道輪相互間に沿って転動自在に組み込まれ、その転動面が円すい台形状を成す複数の転動体と、
前記複数の転動体を1つずつ回転可能に保持する中空円環状の保持器とを備え、
前記各転動体は、転動面の両側に、円形状の頭部側端面と、円形状の尾部側端面とを有し、頭部側端面から尾部側端面に向かうに従って先細り円すい台形状を成し、
これら前記各転動体を軌道輪相互間に組み込んだ状態で、前記各転動体の円すい角の頂点が、軸受の回転軸上の1点に集束する円すいころ軸受であって、
前記各転動体には、それぞれ、その転動軸に沿って頭部側端面から尾部側端面に貫通した1つの貫通孔が穿孔されていると共に、
前記保持器は、
前記各転動体の貫通孔に対して、頭部側端面から1つずつ挿入させる複数のピンと、
前記各ピンを周方向に沿って所定間隔で位置決め支持する中空円環状の1つの保持器本体とを備え、
前記各転動体の貫通孔は、頭部側端面から連通し、前記各ピンが挿入される第一の領域と、第一の領域と連通し、第一の領域と比して孔径を小さくして頭部側端面に亘って連通する第二の領域とからなり、
第一の領域は、挿入された前記各ピン先端と第二の領域の間に隙間が形成され、
第二の領域は、前記隙間と共に潤滑剤貯留用の領域として機能することを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項2】
前記保持器において、前記各ピンは、頭部側端面から尾部側端面に亘る前記各転動体の転動軸に沿った全長に対し、少なくとも1/2以上で、かつ、全長以下の長さに設定されていることを特徴とする請求項1に記載の円すいころ軸受。
【請求項3】
前記保持器において、前記各ピンは、その全体が、前記各転動体の円すい角の頂点から放射状に末広がり勾配を成して前記保持器本体に位置決め支持されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の円すいころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造し易い簡単な構造でありながら剛性に優れていると共に、軸受の負荷能力の向上(軸受寿命の延命化)を図ることが可能であって、かつ、ニーズに応じたサイズに構成可能な低コストの保持器を有する円すいころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラジアル荷重と、一方のアキシアル荷重とを受けることができる軸受として、各種の円すいころ軸受が知られている。この場合、これら各円すいころ軸受に適用されている保持器としては、かご形或いはもみ抜き形(例えば、特許文献1参照)、及び、ピン形(例えば、特許文献2参照)のものが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−91048号公報
【特許文献2】特開2000−81035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の保持器において、例えばかご形或いはもみ抜き形の保持器は、これを構成する一対の円環部と、円環部相互間に周方向に沿って等間隔に配列された複数の柱部の剛性上の要求から、一定の断面寸法(肉厚)を必要とする。この場合、当該保持器に保持可能な転動体(ころ)の大きさ(サイズ)や個数に制限がある。このため、軸受の負荷能力を向上(別の捉え方をすると、軸受の疲れ寿命、即ち、軸受寿命を延命化)させるには一定の限界がある。なお、軸受の負荷能力を表わす値は、動定格荷重、静定格荷重に基づいて規定される。
【0005】
更に、従来の保持器において、例えばピン形の保持器は、転動体(ころ)に回転中心に沿って穿孔された貫通孔に長尺なピンを挿通し、そのピンの両端側に、転動体(ころ)を挟み込むように円環状部材を取り付けることで、複数の転動体(ころ)を周方向に沿って保持させるようになっている。この場合、保持器に保持可能な転動体(ころ)の個数を増やすことはできるが、ニーズに応じたサイズに構成することは困難である。即ち、大型の軸受にしか対応できないと共に、使用可能な転動体(ころ)の種類(例えば、ころ丈)にも一定の制限がある。
【0006】
また、上記したようなかご形、もみ抜き形、ピン形などの各種保持器は、その構造が比較的複雑であるため、製造プロセスが煩雑になり、その結果、製造コストを低減するのには一定の限界がある。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされており、その目的は、製造し易い簡単な構造でありながら剛性に優れていると共に、軸受の負荷能力の向上(軸受寿命の延命化)を図ることが可能であって、かつ、ニーズに応じたサイズに構成可能な低コストの保持器を有する円すいころ軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するために、本発明は、相対回転可能に対向配置された中空円環状の軌道輪と、
前記軌道輪相互間に沿って転動自在に組み込まれ、その転動面が円すい台形状を成す複数の転動体と、
前記複数の転動体を1つずつ回転可能に保持する中空円環状の保持器とを備え、
前記各転動体は、転動面の両側に、円形状の頭部側端面と、円形状の尾部側端面とを有し、頭部側端面から尾部側端面に向かうに従って先細り円すい台形状を成し、これら
前記各転動体を軌道輪相互間に組み込んだ状態で、
前記各転動体の円すい角の頂点が、軸受の回転軸上の1点に集束する円すいころ軸受であって、
前記各転動体には、それぞれ、その転動軸に沿って頭部側端面から尾部側端面に貫通した1つの貫通孔が穿孔されていると共に、
前記保持器は、
前記各転動体の貫通孔に対して、頭部側端面から1つずつ挿入させる複数のピンと、
前記各ピンを周方向に沿って所定間隔で位置決め支持する中空円環状の1つの保持器本体とを備え
、前記各転動体の貫通孔は、頭部側端面から連通し、前記各ピンが挿入される第一の領域と、第一の領域と連通し、第一の領域と比して孔径を小さくして頭部側端面に亘って連通する第二の領域とからなり、第一の領域は、挿入された前記各ピン先端と第二の領域の間に隙間が形成され、第二の領域は、前記隙間と共に潤滑剤貯留用の領域として機能するようにされている。
本発明では、
前記保持器において、
前記各ピンは、頭部側端面から尾部側端面に亘る
前記各転動体の転動軸に沿った全長に対し、少なくとも1/2以上で、かつ、全長以下の長さに設定されている。
本発明では、
前記保持器において、
前記各ピンは、その全体が、
前記各転動体の円すい角の頂点から放射状に末広がり勾配を成して
前記保持器本体に位置決め支持されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、製造し易い簡単な構造でありながら剛性に優れていると共に、軸受の負荷能力の向上(軸受寿命の延命化)を図ることが可能であって、かつ、ニーズに応じたサイズに構成可能な低コストの保持器を有する円すいころ軸受を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(a)は、本発明の一実施形態に係る円すいころ軸受に適用された保持器の構成を一部拡大して示す断面図、(b)は、同図(a)に示された保持器を適用した円すいころ軸受の断面図。
【
図2】本発明の他の実施形態に係る円すいころ軸受の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る円すいころ軸受について、添付図面を参照して説明する。
図1(a),(b)に示すように、本実施形態の円すいころ軸受は、相対回転可能に対向配置された中空円環状の軌道輪(内輪2、外輪4)と、内外輪2,4相互間(具体的には、内輪軌道面2sと外輪軌道面4sとの間)に沿って転動自在に組み込まれ、その転動面6sが円すい台形状を成す複数の転動体6と、複数の転動体6を1つずつ回転可能に保持する中空円環状の保持器8とを備えている。
【0012】
なお、内輪軌道面2sは、内輪2の外周面に沿って周方向に連続し、所定の傾斜角度を成して構成されており、一方、外輪軌道面4sは、外輪4の内周面に沿って周方向に連続し、所定の傾斜角度を成して構成されている。また、内輪軌道面2sには、その両側に沿って周方向に連続した一対のつば部T1,T2が形成されている。この場合、傾斜した内輪軌道面2sの両側のつば部T1,T2は、その一方のつば部T1(以下、小径つば部と言う)が、他方のつば部T2(以下、大径つば部と言う)に比して小径の位置関係となるように構成されている。
【0013】
各転動体6は、転動面6sの両側に、円形状の頭部側端面6aと、円形状の尾部側端面6bとを有し、頭部側端面6aから尾部側端面6bに向かうに従って先細り円すい台形状を成している。この場合、各転動体6は、その転動面6sが円すい台形状を成す円すいころ(以下、ころと言う)として構成されている。
【0014】
このような円すいころ軸受において、上記した各転動体(ころ)6を内外輪2,4相互間に組み込んだ状態で、各転動体(ころ)6の円すい角の頂点Apは、軸受の回転軸Ax上の1点に集束する。なお、
図1(a)には、保持器8のみが示されており、ここに、回転軸Ax上に集束する頂点Apが模式的に示されている。
【0015】
また、当該円すいころ軸受において、各転動体(ころ)6には、それぞれ、その転動軸(図示しない)に沿って頭部側端面6aから尾部側端面6bに貫通した1つの貫通孔66が穿孔されている。この場合、各転動体(ころ)6の貫通孔66は、円筒形状を成して構成されていると共に、頭部側端面か6aら尾部側端面6bに亘って、同一の孔径を成して構成されている。なお、各貫通孔66の孔径は、例えば、転動体(ころ)6の大きさや形状或いは使用目的や使用環境に応じて設定されるため、ここでは特に数値限定しない。
【0016】
ここで、保持器8は、各転動体(ころ)6の貫通孔66に対して、頭部側端面6aから1つずつ挿入させる複数のピン8pと、各ピン8pを周方向に沿って所定間隔(例えば、等間隔)で位置決め支持する中空円環状の1つの保持器本体8mとを備えている。なお、各ピン8pは、円筒形状を成して構成されている。この場合、当該ピン8pの直径は、上記した各転動体(ころ)6の貫通孔66の孔径に対応して設定されるため、ここでは特に数値限定しない。
【0017】
また、各ピン8pは、その全体が、各転動体(ころ)6の円すい角の頂点Apに向けて放射状に先細り勾配を成して保持器本体8mに位置決め支持されている。この場合、各ピン8pは、頭部側端面6aから尾部側端面6bに亘る各転動体(ころ)6の転動軸に沿った全長6L(ころ丈とも言う)に対し、少なくとも1/2以上で、かつ、全長6L以下の長さ8Lに設定されている。
【0018】
このような保持器8において、各ピン8pは、保持器本体8mと共に一体成形してもよいし、或いは、別体として成形し、保持器本体8mに後付けしてもよい。また、当該保持器8(ピン8p、保持器本体8m)は、樹脂材料(例えば、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂など)で成形してもよいし、或いは、金属材料(例えば、炭素鋼、銅合金など)で成形してもよい。
【0019】
以上、本実施形態によれば、例えば、保持器8の各ピン8pに対して転動体(ころ)6の貫通孔66を、その頭部側端面6aから1つずつ挿入し、各ピン8pを介して複数の転動体(ころ)6を保持器8に保持させた状態(即ち、保持器本体8mが各転動体(ころ)6の頭部側端面6aに当て付いた状態)において、内輪2を保持器本体8m側から押し込む。具体的には、内輪2をその小径つば部T1側から押し込む。
【0020】
このとき、小径つば部T1によって各転動体(ころ)6に押圧力が作用するが、このとき各転動体(ころ)6に作用した押圧力が当該各転動体(ころ)6を介して各ピン8pに作用し、当該各ピン8pを弾性変形させることで、小径つば部T1が各転動体(ころ)6を乗り越えるようにして(換言すると、各転動体(ころ)6が小径つば部T1を乗り越えるようにして)、当該各転動体(ころ)6を内輪2に組み込むことができる。
【0021】
この状態において、各転動体(ころ)6は、一対のつば部T1,T2によって周方向にガイドされつつ、内輪軌道面2sに沿って転動自在となる。そして、内輪2の外側に外輪4を対向配置させる。具体的には、各転動体(ころ)6の外側に外輪4を嵌合させる。これにより、本実施形態の円すいころ軸受を組み立てることができる。
【0022】
このような組立プロセスによれば、保持器8の各ピン8pに転動体(ころ)6を1つずつ挿入し、各ピン8pの弾性力を活かして内輪2を押し込むだけで、簡単かつ短時間に複数の転動体(ころ)6を内輪2に組み込むことができる。これにより、円すいころ軸受の組立効率を飛躍的に向上させることができるため、当該組立に要する時間や手間を大幅に削減することができる。この結果、円すいころ軸受の製造コストを大幅に低減することができる。
【0023】
また、本実施形態によれば、保持器8は、中空円環状の1つの保持器本体8mと、転動体(ころ)6の全長6L(ころ丈)よりも短尺な複数のピン8pだけで構成されており、その構造が極めて簡単かつ簡素であるため、当該保持器8の製造が容易であると共に、製造に要する材料も少なくて済む。この場合、例えば樹脂製保持器8では、金型構造が非常に簡単で製造し易いと共に、例えば金属製保持器8では、簡単な削り加工か溶接加工で製造することができる。これにより、円すいころ軸受の製造効率の飛躍的な向上と、製造コストの大幅な削減とを同時に実現することができる。
【0024】
また、本実施形態において、上記した組立プロセスにより、各転動体(ころ)6は、その頭部側端面6aが保持器本体8mに当て付いた状態で、かつ、当該各転動体(ころ)6の全長6L(ころ丈)よりも短尺な複数のピン8p周りに回転可能に保持器8によって支持される。
【0025】
かかる支持構造によれば、各転動体(ころ)6の頭部側端面6aに当て付けられる保持器本体8mの径寸法を大きくするだけで、保持器8のサイズ(大きさ)を任意に構成することができる。これにより、使用目的や使用環境等におけるニーズに応じたサイズの円すいころ軸受を構成することができる。
【0026】
また、本実施形態によれば、保持器8の各ピン8pにおいて、その長さ8Lは、各転動体(ころ)6の全長6L(ころ丈)に対し、少なくとも1/2以上で、かつ、全長6L以下に設定されるため、上記した従来の長尺なピンに比して短尺に構成することができる。この場合、各ピン8pの根元(即ち、当該各ピン8pと保持器本体8mとの連結部分)に作用する応力を極めて小さくすることができる。これにより、保持器8全体の剛性を飛躍的に高めることができる。
【0027】
更に、本実施形態によれば、各ピン8pの長さ8Lを、各転動体(ころ)6の全長6L(ころ丈)の少なくとも1/2以上で、かつ、全長6L以下に設定したことで、それぞれのピン8pの剛性(即ち、保持器8全体の剛性)を高めることができる。この場合、当該保持器8に保持可能な転動体(ころ)の大きさ(サイズ)や個数に自由度を持たせることができる。これにより、軸受の負荷能力を向上(別の捉え方をすると、軸受の疲れ寿命、即ち、軸受寿命を延命化)させることができる。なお、軸受の負荷能力を表わす値は、動定格荷重、静定格荷重に基づいて規定される。
【0028】
また、上記した実施形態において、各転動体(ころ)6の貫通孔66は、頭部側端面6aから尾部側端面6bに亘って、同一の孔径を成している場合を想定したが、これに代えて
図2に示すように、各転動体(ころ)6において、各貫通孔66を、頭部側端面6aから各ピン8pが挿入される部分66a(以下、ピン挿入部分という)の孔径に比して、尾部側端面6bに亘る部分66b(以下、空隙部分という)の孔径を相違させて構成するようにしてもよい。
【0029】
この場合、空隙部分66bの孔径は、ピン挿入部分66aの孔径よりも大きく設定してもよいし、或いは、小さく設定してもよい。なお、これら部分66a,66bの孔径の相違の程度は、例えば各転動体(ころ)6の大きさや形状、或いは、使用目的や使用環境などに応じて設定されるため、ここでは特に限定しない。
図2では一例として、空隙部分66bの孔径を、ピン挿入部分66aの孔径よりも小さく設定した場合が示されている。
【0030】
このような各転動体(ころ)6の貫通孔66(
図1(b)、
図2)によれば、各ピン8pが挿入される部分以外の部分を、潤滑剤(例えば、油、グリース)の貯留(保留)用として利用することができる。この場合、当該部分に貯留(保留)された潤滑剤によって軸受内部の潤滑状態を一定に維持することができるため、円すいころ軸受の回転性能を維持向上させることができると共に、軸受構成品(内輪2、外輪4、転動体(ころ)6)の焼き付きや、それに伴う当該軸受構成品の劣化を防止することができる。これにより、円すいころ軸受を長期に亘って連続して使用することが可能となる。
【符号の説明】
【0031】
2 内輪
4 外輪
6 転動体(ころ)
6a 頭部側端面
6b 尾部側端面
6s 転動面
8 保持器
8p ピン
8m 保持器本体
66 貫通孔
Ap 転動体の円すい角の頂点
Ax 軸受の回転軸