特許第5790109号(P5790109)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5790109
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】転がり軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20150917BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20150917BHJP
   B60B 35/02 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   F16C33/78 E
   F16C19/18
   B60B35/02 Z
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-89026(P2011-89026)
(22)【出願日】2011年4月13日
(65)【公開番号】特開2012-219970(P2012-219970A)
(43)【公開日】2012年11月12日
【審査請求日】2014年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 育夫
【審査官】 小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−132684(JP,A)
【文献】 特開2006−266451(JP,A)
【文献】 実開昭50−128546(JP,U)
【文献】 特開2010−032013(JP,A)
【文献】 特開平07−174147(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/025975(WO,A1)
【文献】 米国特許第03006701(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/72−33/82
B60B 35/02
F16C 19/00−19/56
F16C 33/30−33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に内輪軌道面を有すると共に一方の端部から外径方向に延びるフランジ部を一体に有する内輪と、該内輪よりも外周側に配置されると共に内周面に前記内輪軌道面に対応する外輪軌道面を有する外輪と、前記内輪の内輪軌道面と前記外輪の外輪軌道面との間に転動可能に配設される転動体と、前記内外輪間の端部を密封するシール装置を備えた転がり軸受装置であって、
前記内輪は、前記転動体を介して前記外輪に対して回転自在に支持されており、
前記内輪の一方の端部とフランジ部の接続される部位は、前記一方の端部の外周面から前記フランジ部側面にわたる部位を被覆する環状体が前記一方の端部に固定されており、
該環状体の外周面は、前記シール装置のシール部材が摺動する摺動面として構成されており、
前記環状体の外周側端部には、弾性変形可能な弾性部材が設けられており、該弾性部材は、前記内輪のフランジ部側面と外輪の間の隙間を塞ぐ構成であり、
前記弾性部材は、前記環状体の外周側端部から前記外輪の端部に傾斜して当接する構成とされており、該弾性部材の傾斜は、前記内輪の回転に伴う遠心力作用によって、前記弾性部材と前記外輪の当接が離れる傾斜方向に配設され、
前記弾性部材の先端部は延在する前記弾性部材の根元部に比べて延在方向から突出する形状になされて質量が大きい形状とされ、
前記弾性部材の根元部の内周面が前記外輪の傾斜した端部の外周面に当接することを特徴とする転がり軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車などの車輪を取付けることのできる車輪側フランジ部を一体に形成したハブ軸の軸部が転がり軸受を介して支持体に支承される車輪のハブ軸用軸受装置(車輪用ハブユニット)が知られている。車輪のハブ軸用軸受装置における軸受の一般的な構成は、外周面に内輪軌道面を有すると共に一方の端部から外径方向に延びるフランジ部を一体に有する内輪と、該内輪よりも外周側に配置されると共に内周面に内輪軌道面に対応する外輪軌道面を有する外輪と、内輪の内輪軌道面と外輪の外輪軌道面との間に転動可能に配設される転動体とを備えている。この内輪は、転動体を介することで外輪に対し回転自在な構成である。そのため、内輪のフランジ部側面と外輪の間が接触しないように隙間を設ける必要がある。そこで、かかる隙間に泥水が浸入するのを防ぐために内外輪間の端部を密封するシール装置を備えている。ところが、被水環境が厳しい条件においては、シール装置への泥水の浸入が著しいためシール装置のシール部材が早期に磨耗してしまう。このシール部材の早期磨耗が進捗すると泥水がシール装置を通過して軸受内に浸入してさび等の腐食を招いて軸受が損傷するおそれがあった。
これに対し、特許文献1のようなシール装置が知られている。図示を省略するが、特許文献1に開示されている内容は、金属環と弾性体で形成され外輪に固定されたシール体と、金属製で形成され内輪に固定される環状部材が軸方向から組み合わせて弾性体を挟み込む構成のシール装置である。このシール体及び環状部材は、それぞれが径方向に屈曲した形状とされており、これらが軸方向から組み合わされることでラビリンス部を構成している。これにより、泥水の浸入を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平6−39171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1におけるシール装置に設けられたラビリンス部は、一度浸入した泥水の排出が困難である。そのため、内輪のフランジ部側面と外輪の間の隙間は、被水環境が厳しい条件においてシール装置への泥水の浸入が著しい場合、依然としてシール部材の早期磨耗や軸受内の腐食等の問題が払拭されていない。また、上記特許文献1における環状部材の大部分は、フランジ部から離間した位置に配設される構成であるため泥水が直接的に浸入し難い。しかしながら、環状部材は回転する内輪側に固定されている。そのため、内輪の高速回転等によって変形してしまうとシール体との密封性能が低下するおそれがある。
【0005】
而して、本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、転がり軸受装置の内輪のフランジ部側面と外輪の間の隙間からの泥水の浸入を抑制して耐泥水性向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の転がり軸受装置は次の手段をとる。
先ず、第1の発明に係る転がり軸受装置は、外周面に内輪軌道面を有すると共に一方の端部から外径方向に延びるフランジ部を一体に有する内輪と、該内輪よりも外周側に配置されると共に内周面に前記内輪軌道面に対応する外輪軌道面を有する外輪と、前記内輪の内輪軌道面と前記外輪の外輪軌道面との間に転動可能に配設される転動体と、前記内外輪間の端部を密封するシール装置を備えた転がり軸受装置であって、前記内輪は、前記転動体を介して前記外輪に対して回転自在に支持されており、前記内輪の一方の端部とフランジ部の接続される部位は、前記一方の端部の外周面から前記フランジ部側面にわたる部位を被覆する環状体が前記一方の端部に固定されており、該環状体の外周面は、前記シール装置のシール部材が摺動する摺動面として構成されており、前記環状体の外周側端部には、弾性変形可能な弾性部材が設けられており、該弾性部材は、前記内輪のフランジ部側面と外輪の間の隙間を塞ぐ構成であることを特徴とする。
【0007】
この第1の発明によれば、環状体の外周側端部には、弾性変形可能な弾性部材が設けられている。この弾性部材は、内輪のフランジ部側面と外輪の間の隙間を塞ぐ構成である。これにより、転がり軸受装置の内輪のフランジ部側面と外輪の間の隙間からの泥水の浸入を抑制して耐泥水性向上を図ることができる。
【0008】
次に、第2の発明に係る転がり軸受装置は、上述した第1の発明において、前記弾性部材の先端は、前記外輪の端部に摺動することを特徴とする。
【0009】
この第2の発明によれば、弾性部材の先端は、外輪の端部に摺動する構成であるから、内輪のフランジ部側面と外輪の間の隙間からの泥水の浸入をより一層抑制することができる。
【0010】
次に、第3の発明に係る転がり軸受装置は、上述した第1の発明又は第2の発明において、前記弾性部材は、前記環状体の外周側端部から前記外輪の端部に傾斜して当接する構成とされており、該弾性部材の傾斜は、前記内輪の回転に伴う遠心力作用によって、前記弾性部材と前記外輪の当接が離れる傾斜方向に配設されていることを特徴とする。
【0011】
この第3の発明によれば、弾性部材は、環状体の外周側端部から外輪の端部に傾斜して当接する構成である。そして、弾性部材の傾斜は、内輪の回転に伴う遠心力作用によって、弾性部材と外輪の当接が離れる傾斜方向に配設されている。これは、内輪のフランジ部側面と外輪の間の隙間を塞ぐような接触タイプのシール部材を追加することで耐泥水性向上を図ることが考えられる。しかし、シール部材が常に外輪と接触した構成では、トルクが増加するおそれがあるという懸念が新たに生じる。
そこで、上記構成を採用することにより、内輪が低速回転時の状態では、内輪のフランジ部側面と外輪の間の隙間に泥水が浸入しやすいため弾性部材の先端が外輪端部に摺動する。一方、内輪が高速回転時では、内輪の回転に伴う遠心力作用によって弾性部材の先端が外輪端部から離れて非接触となる。これにより、転がり軸受装置の高速回転時のトルクの増加を最小限に抑制できる。また、内輪の高速回転の状況下では、遠心力作用によって泥水が浸入しにくい。そのため、弾性部材の先端が非接触状態でも耐泥水性は低下しない。これにより、転がり軸受のトルクの増加を最小限に抑制しつつ耐泥水性向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は上記各発明の手段をとることにより、転がり軸受装置の内輪のフランジ部側面と外輪の間の隙間からの泥水の浸入を抑制して耐泥水性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る転がり軸受装置を適用した状態を示す軸方向断面図である。
図2図1のII部を拡大して転がり軸受装置を示した軸方向断面図ある。
図3図2のIII部を拡大して転がり軸受装置の一部を示した部分的な軸方向断面図ある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を図1から図3にしたがって説明する。なお、本発明の転がり軸受装置を説明するにあたり、自動車などの車輪を取付けることのできる車輪側フランジ部を一体に形成したハブ軸の軸部が転がり軸受を介して支持体に支承される車輪のハブ軸用軸受装置(車輪用ハブユニット)を用いて説明する。
【0015】
車輪60のハブ軸用軸受装置A(転がり軸受装置)は、図1に図示されるように車両に構成される懸架装置(図示省略)に支持されると共に、ブレーキロータ55を介して車輪60を回転可能に支持するものである。車輪60には、タイヤ62及びホイール64が構成される。図2に図示されるように、車輪用ハブユニットとしての車輪60のハブ軸用軸受装置Aは、車輪60(図1参照)を取付けることのできる車輪側フランジ部21を一体に形成したハブ軸1が、軸受としての複列のアンギュラ玉軸受41とを一体状に有してユニット化されている。車輪60のハブ軸用軸受装置Aは、アンギュラ玉軸受41を介して、図示を省略する車両の懸架装置に支持されたナックルに支承されている。
【0016】
車輪60(図1参照)のハブ軸用軸受装置Aの基本的な構成は、図2に図示されるようにハブ軸1と、内輪形成環状部材42と、外輪部材45(外輪)と、玉50、51(転動体)と保持器52、53と、シール装置70を主体として構成される。ハブ軸1と、内輪形成環状部材42と、外輪部材45と、玉50、51は金属製で構成されている。保持器52、53は、合成樹脂製で構成されている。このうち軸受としての複列のアンギュラ玉軸受41は、ハブ軸1と内輪形成環状部材42のそれぞれ外周面に構成される内輪軌道面18、44と、外輪部材45の内周面に構成される外輪軌道面46、47と、玉50、51と、保持器52、53を主体として構成される。
【0017】
ハブ軸1は、図2に図示されるように軸部10と、嵌合軸部30と、フランジ基部23と、車輪側フランジ部21(フランジ部)を一体に有する。
【0018】
軸部10は、図2及び図3に図示されるようにアンギュラ玉軸受41が組み付けられる部位である。軸部10は、後述する車輪側フランジ部21側から先端側に向けて段軸状に形成されている。軸部10の車輪側フランジ部21側には、大径の大径部11が形成される。軸部10の先端側には、小径の小径部12が形成される。軸部10の大径部11の外周面には、転がり軸受としての複列のアンギュラ玉軸受41の一方の内輪軌道面18が形成される。内輪軌道面18の肩部と車輪側フランジ部21の隅部19は、周方向に滑らかな曲面状に形成されている。軸部10の小径部12の外周面は、後述する内輪形成環状部材42が嵌め込まれる部位である。さらに、軸部10の先端部には、小径部12と同径の端軸部15が延出されている。端軸部15の端面中心部には軸端凹部16が形成されている。
嵌合軸部30は、図2に図示されるように軸部10の一端側に形成されかつ、軸部10よりも大径で車輪60の中心孔が嵌込まれる部位である。嵌合軸部30には、車輪側フランジ部21側にブレーキロータ55に対応するブレーキロータ用嵌合部31が形成され、先端側にブレーキロータ用嵌合部31よりも若干小径で車輪60(図1参照)に対応する車輪用嵌合部32が形成されている。
フランジ基部23は、図2に図示されるように軸部10と嵌合軸部30との間に位置し、車輪側フランジ部21の基部として構成される部位である。車輪側フランジ部21(フランジ部)は、このフランジ基部23の外周面に外径方向へ放射状に延出された部位である。車輪側フランジ部21には、車輪60(図1参照)を締め付けるハブボルト27が圧入によって配置されるボルト孔24が貫設されている。
【0019】
内輪形成環状部材42は、図2に図示されるように内輪軌道面44を有する環状の部材である。内輪形成環状部材42の内周面43には、軸部10の小径部12の外径に嵌め込み可能な内径が形成される。内輪形成環状部材42の外周面には、転がり軸受としての複列のアンギュラ玉軸受41の他方の内輪軌道面44が形成される。上記した軸部10の内輪軌道面18と、この内輪形成環状部材42の内輪軌道面44によってアンギュラ玉軸受41の内輪が構成される。
【0020】
外輪部材45(外輪)は、図2に図示されるようにハブ軸1の軸部10の外周に環状空間49を保って円筒状で構成される。外輪部材45の内周面には、ハブ軸1に構成される内輪軌道面18、44に対応する外輪軌道面46、47が軸方向に所定間隔を保って形成される。また、外輪部材45の外周面に外径方向へ放射状に延出された支持体側フランジ部48が一体に形成される。この支持体側フランジ部48は、図示を省略する車両の懸架装置に支持されたナックル、キャリア等の車体側部材の取付面に締め付けるボルト54が圧入によって配置されるボルト孔48aが貫設されている。
【0021】
玉50、51(転動体)は、図2に図示されるように内輪軌道面18、44と外輪軌道面46、47との間においてそれぞれが転動可能に配設される。玉50、51は、内輪軌道面18、44と外輪軌道面46、47との間において周方向に複数個で構成されており、保持器52、53によって保持される。
【0022】
シール装置70は、図2及び図3に図示されるようにハブ軸1の軸部10及び内輪形成環状部材42によって構成される内輪と、外輪部材45の端部の間を密封するものである。さらに、ハブ軸1の車輪側フランジ部21の側面と外輪部材45の間の隙間66を塞ぐように構成される。シール装置70は、概略、シール部材80(シール部材)とスリンガー90(環状体)とからなる。
【0023】
シール部材80は、芯金81と弾性シール部86を備える第1の環状部材である。芯金81は、金属製の板部材(例えば炭素鋼板)を塑性加工、打抜加工などによって環状に形成されている。芯金81は、円筒部82と円筒部82の端部から径方向に延出した環状平板部84によって断面L型状に一体形成されている。弾性シール部86は、芯金81に取り付けられており先端にシールリップ88を有している。
スリンガー90は、シール部材80に構成される弾性シール部86のシールリップ88と摺動する摺動面92a、94aを有する第2の環状部材である。スリンガー90は、金属製の板部材(例えば炭素鋼板)を塑性加工、打抜加工などによって環状に形成されている。スリンガー90は、円筒部92と円筒部92の端部から径方向に延出した環状平板部94によって断面L型状に一体形成されている。芯金81とスリンガー90は、環状平板部84、94が、それぞれ互いに対向する位置に配置される。
【0024】
シール部材80の芯金81は、図3に図示されるように外周面が外輪部材45の一方の端部の内周面に嵌合する円筒部82と、円筒部82の端部から内径方向に延出した環状平板部84によって断面L型状に一体形成されている。芯金81の円筒部82の外周面は、外輪部材45の内周面に圧入して嵌合する嵌合面82bとして構成されている。弾性シール部86は、例えば、ニトリルゴム、アクリルゴム等の合成ゴム、天然ゴム、軟質合成樹脂等を適宜選択することができる。本実施例においては合成ゴムが選択されており、芯金81の環状平板部84に加硫接着によって取り付けられている。弾性シール部86には、外部からの水、埃、泥等の異物の侵入を防止するためのシールリップ88が形成される。シールリップ88はスリンガー90の円筒部92及び環状平板部94に摺動することで外部からの水、埃、泥等の異物の侵入を防止する構成とされており、スリンガー90の円筒部92及び環状平板部94に向かって3方向に突き出し状に形成されている。シールリップ88は、ラジアルリップ88a、補助リップ88b、サイドリップ88cの3構成である。スリンガー90の円筒部92に構成される摺動面92aに対し径方向の弾性力を付与して摺動するのがラジアルリップ88a、補助リップ88bである。また、スリンガー90の環状平板部94に構成される摺動面94aに対し軸方向の弾性力を付与して摺動するのがサイドリップ88cである。
【0025】
スリンガー90(環状体)は、図3に図示されるように円筒部92と、円筒部92の端部から外径方向に延出した環状平板部94によって断面L型に一体形成されている。円筒部92の外周面はシール部材80に構成されるシールリップ88のうち、ラジアルリップ88a、補助リップ88bと摺動する摺動面92aとして構成されており、裏面側の内周面はハブ軸1の隅部19の外周面に圧入により嵌合する嵌合面92bとして構成されている。環状平板部94のうち、円筒部92が配置される側の側面は、シールリップ88のうち、サイドリップ88cと摺動する摺動面94aとして構成されている。環状平板部94のうち、摺動面94aの裏面側の側面は、ハブ軸1の隅部19の位置においてフランジ部21の側面と当接する当接面94bとして構成されている。
【0026】
図3に図示されるように、スリンガー90の環状平板部94の外周側の端部(外周側端部)の全周には、弾性変形可能な弾性シール部96(弾性部材)が設けられている。弾性シール部96は、例えば、ニトリルゴム、アクリルゴム等の合成ゴム、天然ゴム、軟質合成樹脂等を適宜選択することができる。本実施例においては合成ゴムが選択されており、スリンガー90の環状平板部94に加硫接着によって取り付けられている。弾性シール部96の先端には、外部からの水、埃、泥等の異物の侵入を防止するためのシールリップ98を有する。シールリップ98は、環状平板部94の外周側の端部からスリンガー90の円筒部92が配置される方向に傾斜して延出して形成される。これは、ハブ軸用軸受装置Aの組み立て状態において見るとシールリップ98が外輪部材45の端部に向かって傾斜して突き出し状に形成される関係となる。そのため、シールリップ98は、内輪が構成されるハブ軸1の回転に伴って外輪部材45の端部に摺動して隙間66(内輪が構成されるハブ軸1のフランジ部21の側面と外輪部材45の間)を塞いで外部からの水、埃、泥等の異物の侵入を防止する。
また、弾性シール部96の傾斜方向は、内輪が構成されるハブ軸1の回転に伴う遠心力作用によって弾性シール部96と外輪部材45の当接が離脱可能な弾性力が作用する方向に構成される。また、弾性シール部96のシールリップ98の先端部98aは、相対的に根元部に比べて質量が大きい形状とされている。これは、内輪が構成されるハブ軸1の回転に伴う遠心力作用にともなうシールリップの98の弾性変形を促進するものである。
【0027】
ハブ軸用軸受装置Aの組み立てを図2を用いて説明する。先ず、スリンガー90は、ハブ軸1の隅部19の外周面上であって、かつフランジ部21の側面に当接する位置まで圧入により嵌合される。次に、ハブ軸1の内輪軌道面18に保持器52で保持された玉50を嵌め込む。次に、外輪部材45の外輪軌道面46の形成側の端部の内周面に弾性シール部86が取り付けられたシール部材80を圧入して組み付ける。次に、外輪部材45の外輪軌道面46をハブ軸1の内輪軌道面18と対向させる。次に、外輪部材45は、外輪軌道面46が玉50に当接する位置までハブ軸1の軸部10に嵌め込まれる。このとき、シール装置70のシールリップ88の先端部は、スリンガー90の摺動面92a、94aに摺動する位置とされる。次に、内輪形成環状部材42の内輪軌道面44に保持器53で保持された玉51を嵌め込む。次に、内輪形成環状部材42は、玉51が外輪軌道面47に当接する位置まで軸部10の小径部12の外周面に嵌め込まれる。軸端凹部16に治具を差し込んで径方向外方に拡開する。端軸部15の先端部は、径方向外方へかしめられて、かしめ部17が形成される。これにより小径部12の外周面に内輪形成環状部材42が固定される。なお、内輪軌道面18、44と外輪軌道面46、47との間に配設される各複数個の玉50、51には、軸部10の端軸部15をかしめて、かしめ部17を形成する際のかしめ力に基づいて所要とする軸方向の予圧が付与される。なお、内輪形成環状部材42の外周面には、速度センサ100に対応する被検出部105を周方向に有するパルサーリング106が必要に応じて圧入固定される。この場合、外輪部材45の端部内周面には、有蓋筒状のカバー部材101が圧入固定され、このカバー部材101の蓋板部102に速度センサ100が、その検出部をパルサーリング106の被検出部105に臨ませて取り付けられる。こうして、ハブ軸用軸受装置Aが構成される。
【0028】
このように、実施形態に係る車輪60のハブ軸用軸受装置A(転がり軸受装置)によれば、スリンガー90(環状体)の外周側端部には、弾性変形可能な弾性シール部96(弾性部材)が設けられている。この弾性シール部96は、内輪が構成されるハブ軸1のフランジ部21の側面と外輪部材45(外輪)の間の隙間66を塞ぐ構成である。これにより、ハブ軸用軸受装置Aのハブ軸1のフランジ部21の側面と外輪部材45の間の隙間66からの泥水の浸入を抑制して耐泥水性向上を図ることができる。
【0029】
また、弾性シール部96のシールリップ98の先端部98aは、外輪部材45の端部に摺動する構成であるから、内輪が構成されるハブ軸1のフランジ部21の側面と外輪部材45の間の隙間66からの泥水の浸入をより一層抑制することができる。
【0030】
また、弾性シール部96は、スリンガー90の外周側端部から外輪部材45の端部に傾斜して当接する構成である。そして、弾性シール部96の傾斜は、内輪が構成されるハブ軸1の回転に伴う遠心力作用によって、弾性シール部96と外輪部材45の当接が離れる傾斜方向に配設されている。これは、ハブ軸1のフランジ部21の側面と外輪部材45の間の隙間66を塞ぐような接触タイプのシール部材を追加することで耐泥水性向上を図ることが考えられる。しかし、シール部材が常に外輪部材45と接触した構成では、トルクが増加するおそれがあるという懸念が新たに生じる。
そこで、上記構成を採用することにより、内輪が構成されるハブ軸1が低速回転時の状態では、ハブ軸1のフランジ部21の側面と外輪部材45の間の隙間66に泥水が浸入しやすいため弾性シール部96の先端が外輪部材45の端部に摺動する。一方、内輪が構成されるハブ軸1が高速回転時では、ハブ軸1の回転に伴う遠心力作用によって弾性シール部96の先端が外輪部材45の端部から離れて非接触となる。これにより、転がり軸受装置の高速回転時のトルクの増加を最小限に抑制できる。また、内輪の高速回転の状況下では、遠心力作用によって泥水が浸入しにくい。そのため、弾性シール部96の先端が非接触状態でも耐泥水性は低下しない。これにより、転がり軸受のトルクの増加を最小限に抑制しつつ耐泥水性向上を図ることができる。
【0031】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の車輪のハブ軸用軸受装置は、本実施の形態に限定されず、その他各種の形態で実施することができるものである。
例えば、実施形態においては、従動輪について説明したが、本発明の車輪のハブ軸用軸受装置は、駆動輪についても適用可能な構成である。例えば、ドライブシャフトの一部を構成する等速自在継手の外側継手部材と、車輪を取付けるためのフランジ部をもったハブ軸と、複列転がり軸受とをユニット化した駆動輪であってもよい。
【符号の説明】
【0032】
A ハブ軸用軸受装置(転がり軸受装置)
1 ハブ軸
10 軸部
11 軸部の大径部
12 軸部の小径部
15 軸部の端軸部
16 軸端凹部
17 かしめ部
18 内輪軌道面
19 隅部
21 車輪側フランジ部(フランジ部)
23 フランジ基部
24 ボルト孔
27 ハブボルト
30 嵌合軸部
31 ブレーキロータ用嵌合部
32 車輪用嵌合部
41 アンギュラ玉軸受
42 内輪形成環状部材
43 内輪形成環状部材の内周面
44 内輪軌道面
45 外輪部材(外輪)
46 外輪軌道面
47 外輪軌道面
48 支持体側フランジ部
48a ボルト孔
49 環状空間
50 玉(転動体)
51 玉(転動体)
52 保持器
53 保持器
55 ブレーキロータ
54 ボルト
60 車輪
62 タイヤ
64 ホイール
66 隙間
70 シール装置
80 シール部材(シール部材)
81 芯金
82 円筒部
82b 嵌合面
84 環状平板部
86 弾性シール部
88 シールリップ
88a ラジアルリップ
88b 補助リップ
88c サイドリップ
90 スリンガー(環状体)
92 円筒部
92a 摺動面
92b 嵌合面
94 環状平板部
94a 摺動面
94b 当接面
96 弾性シール部(弾性部材)
98 シールリップ
98a シールリップの先端部
100 速度センサ
101 カバー部材
102 蓋板部
105 被検出部
106 パルサーリング
図1
図2
図3