(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の転動体を介して相対回転可能に対向配置された外方軌道輪及び内方軌道輪と、前記外方軌道輪を組み込んで位置決め固定するための略円筒状の軸箱と、内部を外部から封止して密封状態に保つための密封部材とを備え、内部へ潤滑用のグリースが封入されたグリース封入密封複列円錐コロ軸受であって、
前記外方軌道輪には、その外周部から内周部までを貫通するグリース給脂孔が複数形成され、前記軸箱には、その外周部から内周部までを貫通し、前記グリース給脂孔のいずれか一つと連通可能なテーパ状のネジ溝を有する貫通孔が形成されており、
前記複数の内一つのグリース給脂孔と前記貫通孔を連通させた状態で、これらグリース給脂孔及び貫通孔へテーパ状のネジ溝を有する連通管を挿入し、当該連通管を通して前記軸箱の外部から内部へ潤滑用のグリースが補給され、
前記複数の内残りのグリース給脂孔は、所定の封止部材を当該グリース給脂孔に対して螺合させて封止されることを特徴とするグリース封入密封複列円錐コロ軸受。
前記軸箱は、前記外方軌道輪の軸方向に対して一方側の端部と当接する軸箱後蓋を備え、当該軸箱後蓋は、軸方向に対して他方側の端部を前記外方軌道輪の端部と当接させており、
前記軸箱後蓋の端部及び前記外方軌道輪の端部には、その一方に凸部が設けられ、他方に当該凸部と嵌合可能な凹部が設けられており、これらの凸部と凹部を相互に嵌合させた状態において、前記グリース給脂孔と前記貫通孔との位置決めを行い、前記グリース給脂孔と前記貫通孔が連通され、これらグリース給脂孔及び貫通孔に対して連通管が挿入可能となることを特徴とする請求項1に記載のグリース封入密封複列円錐コロ軸受。
前記外方軌道輪には、複数の前記グリース給脂孔が周方向へ所定間隔で形成されており、これら各グリース給脂孔をそれぞれ前記貫通孔と連通させるための前記凸部もしくは前記凹部が周方向へ前記グリース給脂孔と同一間隔で設けられていることを特徴とする請求項2に記載のグリース封入密封複列円錐コロ軸受。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、軸受装置の稼働中(端的には、軸受Bの回転中)、軸箱82の内周部と外輪72の外周部との間では微小変動が繰り返されており、当該微小変動の繰り返しによってフレッチングが発生し、その摩耗粉が軸箱内径溝82a及び外輪外径溝72aに充填されているグリース中に混入してしまう場合がある。このようなフレッチング摩耗粉混入グリースが中間給脂の際に軸受装置内に侵入すると、潤滑性能低下などのグリース劣化を招き、ひいては軸受寿命の低下をも招く虞がある。
また、中間給脂以外の時期においても、軸受装置の稼働中(端的には、軸受Bの回転中)の振動によって、軸箱内径溝82a及び外輪外径溝72aに充填されているフレッチング摩耗粉混入グリースが、重力の作用によって外輪72の給脂孔72bから軸受B内へ流動してしまう場合がある。この場合にも、中間給脂の場合と同様のグリース劣化や軸受寿命低下などを招く虞がある。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされており、その目的は、軸箱と軸受との間(具体的には、軸箱の内周部と軸受の外輪外周部との間)でフレッチング摩耗が生じた場合であっても、中間給脂などの軸受装置へのグリース補給時、及び中間給脂時以外の時においてもフレッチング摩耗粉の軸受装置内への侵入を確実に防止することが可能なグリース
封入密封複列円錐コロ軸受(一例として、鉄道車両用車軸軸受装置)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するために、本発明に係るグリース
封入密封複列円錐コロ軸受は、複数の転動体を介して相対回転可能に対向配置された外方軌道輪及び内方軌道輪と、前記外方軌道輪を組み込んで位置決め固定するための略円筒状の軸箱と、内部を外部から封止して密封状態に保つための密封部材とを備え、内部へ潤滑用のグリースが封入されている。かかるグリース
封入密封複列円錐コロ軸受において、前記外方軌道輪には、その外周部から内周部までを貫通するグリース給脂孔が
複数形成され、前記軸箱には、その外周部から内周部までを貫通し、前記グリース給脂孔
のいずれか一つと連通可能な
テーパ状のネジ溝を有する貫通孔が形成されており、前記
複数の内一つのグリース給脂孔と前記貫通孔を連通させた状態で、これらグリース給脂孔及び貫通孔へ
テーパ状のネジ溝を有する連通管を挿入し、当該連通管を通して前記軸箱の外部から内部へ潤滑用のグリースが補給され
、前記複数の内残りのグリース給脂孔は、所定の封止部材を当該グリース給脂孔に対して螺合させて封止される。
【0008】
この場合、前記軸箱は、前記外方軌道輪の軸方向に対して一方側の端部と当接する軸箱後蓋を備え、当該軸箱後蓋は、軸方向に対して他方側の端部を前記外方軌道輪の端部と当接させており、前記軸箱後蓋の端部及び前記外方軌道輪の端部には、その一方に凸部が設けられ、他方に当該凸部と嵌合可能な凹部が設けられており、これらの凸部と凹部を相互に嵌合させた状態において、
前記グリース給脂孔と前記貫通孔との位置決めを行い、前記グリース給脂孔と前記貫通孔が連通され、これらグリース給脂孔及び貫通孔に対して連通管が挿入可能となる。
【0009】
なお、前記外方軌道輪には、複数の前記グリース給脂孔を周方向へ所定間隔で形成し、これら各グリース給脂孔をそれぞれ前記貫通孔と連通させるための前記凸部もしくは前記凹部を周方向へ前記グリース給脂孔と同一間隔で設けることが好ましい。
【0010】
また、前記外方軌道輪には、前記グリース給脂孔の外周部側の開口周りに密封部材を装着し、前記貫通孔と連通させた前記グリース給脂孔へ挿入された前記連通管の当該挿入方向の一方側を、前記密封部材により前記グリース給脂孔と密着させ、前記連通管の前記挿入方向の他方側には、当該連通管を潤滑用グリースの補給源と接続するための接続具が設ければよい。
前記グリース給脂孔は、テーパ状のネジ溝を有したネジ孔であり、前記封止部材は、テーパ状のネジ溝を有したネジ構造体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るグリース
封入密封複列円錐コロ軸受(一例として、鉄道車両用車軸軸受装置)によれば、軸箱と軸受との間(具体的には、軸箱の内周部と軸受の外輪外周部との間)でフレッチング摩耗が生じた場合であっても、中間給脂などの軸受装置へのグリース補給時、及び中間給脂時以外の時においてもフレッチング摩耗粉の軸受装置内への侵入を確実に防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係るグリース
封入密封複列円錐コロ軸受について、添付図面を参照して説明する。なお、本発明のグリース
封入密封複列円錐コロ軸受は、軸受潤滑のためにグリースが軸受内部へ封入され、当該封入グリースの軸受外部への漏洩防止を図るために密封された軸受であればその用途は特に限定されないが、ここでは、かかる軸受が鉄道車両の車軸を支持するために用いられるもの(鉄道車両用の密封軸受装置(以下、単に軸受装置という))である場合を一例として想定する。
図1には、このような軸受装置の構成例が示されており、かかる軸受装置は、複数の転動体(一例として、円すいころ)6a,6bを介して相対回転可能に対向配置された外方軌道輪4及び内方軌道輪2と、前記外方軌道輪4を組み込んで位置決め固定するための略円筒状の軸箱30と、内部を外部から封止して密封状態に保つための密封部材(シールケース16及びオイルシール18)とを備えている。
【0014】
この場合、内方軌道輪(以下、内輪という)2は、第1の内輪2aと第2の内輪2bで構成され、車輪(図示しない)に接続されて車輪とともに回転する回転輪となっているのに対し、外方軌道輪(以下、外輪という)4は、車両側に固定される軸箱30に組み込まれて常時非回転状態に維持される静止輪となっている。内輪2(第1の内輪2a及び第2の内輪2b)の外周面には、全周に亘って2つの内輪軌道面20a,20bが形成され、外輪4の内周面には、当該2つの内輪軌道面20a,20bとそれぞれ対向するように、全周に亘って2つの外輪軌道面40a,40bが形成されており、これらの内外輪軌道面により2列の転動体軌道が構成されている。転動体(円すいころ)6a,6bは、保持器10によって1つずつ回転自在に保持された状態で2列の転動体軌道へそれぞれ組み込まれ、当該保持器10とともに公転(転動)している。なお、内輪軌道面20a,20b、及び外輪軌道面40a,40bは、いずれも転動体(円すいころ)6a,6bの転動面となる円すい面の傾斜に合わせた傾斜面となっており、内輪2(第1の内輪2a及び第2の内輪2b)には、内輪軌道面20a,20bの両肩にそれぞれ鍔部が設けられている。
内輪2(第1の内輪2a及び第2の内輪2b)は、車軸Sに外嵌された環状の位置決め部材(後ろ蓋F、油切りP及び内輪間座14)によって軸方向(
図1においては、左右方向)に対して位置決めされている。この場合、第1の内輪2aの端面2eと後ろ蓋Fの端面F1とが当接し、第2の内輪2bの端面2fと油切りPの端面P1とが当接している。また、第1の内輪2aの端面2cと内輪間座14の端面14aとが当接し、第2の内輪2bの端面2dと内輪間座14の端面14bとが当接している。
【0015】
なお、
図1に示す構成において、第1の内輪2aと第2の内輪2bの間には、内輪間座14を介在させているが、当該内輪間座14を介在させることなく、第1の内輪2aの端面2cと第2の内輪2bの端面2dとを直接当接させた構成としても構わない。
また、転動体としては、円すいころ6a,6bを組み込む場合を想定しているが、このような円すいころではなく、円筒ころや球面ころ(たる型ころ)、中空ころ、あるいは玉などを組み込むことも想定可能である。
【0016】
図1に示す構成では、後ろ蓋Fは、一例として、断面視階段状(2段)の円筒を成し、その大径側内周面F3が車軸Sの外周面大径部S2、当該大径側内周面F3と小径側内周面F4とを連結する内周中間部F5が車軸Sの外周面段差部S1、そして小径側内周面F4に全周に亘って連続して設けられたフランジ部Ffが車軸Sの外周面小径部S3とそれぞれ当接するとともに、小径側内周面F4が外周面小径部S3と所定の間隔を空けて対向するように車軸Sへ外嵌されている。この場合、後ろ蓋Fの内周中間部F5は、車軸Sの外周面段差部S1に沿って連続した凸曲面状に形成されている。
この状態において、後ろ蓋Fは、一端側(例えば、車軸Sの軸端St側(
図1の左側))の端面F1が、対向する内輪2(第1の内輪2a)の端面2eに軸方向(一例として、同図においては、右方)から当接している。
【0017】
これに対し、油切りPは、筒状に形成された本体Pmと、当該本体Pmの一端側(例えば、車軸Sの軸端St側(
図1の左側))の外周面P2に全周に亘って連続して設けられたフランジ部Pfとで構成され、本体Pmの内周面P3が車軸Sの外周面小径部S3に当接するように当該車軸Sへ外嵌されている。
この状態において、油切りPは、一端側(一例として、
図1においては、右側)の端面P1が、対向する内輪2(第2の内輪2b)の端面2fに軸方向(一例として、同図においては、左方)から当接するとともに、他端側(例えば、車軸Sの軸端St側(同図の左側))の端面P4が固定ナット12と当接する。
【0018】
また、内輪間座14は、内外径寸法がいずれも一定の環状をなし、その内周面14cが車軸Sの外周面小径部S3に当接するように当該車軸Sへ外嵌されるとともに、第1の内輪2aと第2の内輪2bの間に介在されている。
これにより、内輪2は、第1の内輪2aと第2の内輪2bの間に内輪間座14を介在させ、後ろ蓋F及び油切りPを介して車軸Sの外周面段差部S1と固定ナット12との間で挟み付けられた状態で、車軸Sの軸端St側(
図1の左側)から回り止めリング22を介してボルト24で固定(緩み止め)されている。
【0019】
外輪4は、車両側に固定される軸箱30に組み込まれて軸方向(
図1においては、左右方向)、及び径方向に対してそれぞれ位置決め固定されている。軸箱30は、軸方向に対して延出されて外輪4の外周部を覆う略円筒状をなす軸箱本体32と、当該軸箱本体32の軸方向両端に設けられた軸箱前蓋34及び軸箱後蓋36を備えており、これらの軸箱前蓋34及び軸箱後蓋36が軸箱本体32に対してボルトにより締結固定されることで一体化された構造体となっている。この場合、軸箱後蓋36は、軸箱本体32の軸方向一端部(
図1においては、右端部)に当接して軸箱本体32との固定部分となる固定部36mと、当該環状部から軸箱本体32の内周部に沿って軸方向(同図においては、左方向)へ延出された円筒部36fを有する構造体(例えば、径方向へ半円環状に二分された分割構造体や円環状の構造体など)となっている。そして、外輪4の軸方向に対して一方側(
図1においては、右側)の端部4aと軸箱後蓋36の軸方向に対して他方側(同図においては、左側)の端部(円筒部36fの延出端部)36aが当接し、当該外輪4の軸方向に対して他方側の端部4bと軸箱本体32の軸方向に対して一方側の内周部に設けたフランジ部32fが当接している。なお、フランジ部32fは、前記軸箱本体32の内周部から縮径方向へ全周に亘って突出するように設けられている。
【0020】
軸受装置には、密封部材としてシールケース16及びオイルシール18が設けられており、これらは、装置内部を外部から封止して密封状態に保ち、軸受装置の内部から外部へのグリースの漏洩を防止するとともに、軸受装置の外部から内部への異物(例えば、水や塵埃)の侵入も防止している。
シールケース16は、断面視階段状(例えば、3段)の円筒をなし、その一端側(大径側)が外輪4に内嵌され、その他端側(小径側)が後ろ蓋F及び油切りP方向に延出し、その延出端は後ろ蓋F及び油切りPとは非接触状態に位置付けられている。そして、シールケース16と後ろ蓋Fとの間、並びにシールケース16と油切りPとの間には、軸受装置内部を装置外部から封止するためのオイルシール18が介在されている。なお、オイルシール18としては、例えば、断面形状が略L字状を成す円環状のシール芯金の一部に、各種の弾性材(例えば、ゴムやプラスチックなどの樹脂材)でなる複数のシールリップ(オイルリップやダストリップなど)を連結して構成され、当該シールリップを後ろ蓋F及び油切りPの外周面F2,P2に摺接させる多リップシールなどを適用すればよい。
【0021】
本実施形態において、外輪4には、その外周部から内周部までを貫通するグリース給脂孔42が形成され、軸箱30には、その外周部から内周部までを貫通し、前記グリース給脂孔42と連通可能な貫通孔(以下、軸箱貫通孔という)32hが形成されている。
図1には、外輪4の軸方向(同図(a)においては、左右方向)に対する幅の略中間部(外輪軌道面40a,40bの間の部位)を径方向へ放射状に貫通するグリース給脂孔42の構成を一例として示すとともに、軸箱30の軸箱本体32の軸方向に対する幅の略中間部を径方向へ放射状に貫通し、グリース給脂孔42と連通させた軸箱貫通孔32hの構成を一例として示している。
そして、軸受装置に対し、グリース給脂孔42と軸箱貫通孔32hを連通させた状態で、これら軸箱貫通孔32h及びグリース給脂孔42へ連通管26を挿入し、当該連通管26を通して軸箱30の外部から内部へ潤滑用のグリースが補給される。
【0022】
なお、
図1及び
図2(a)に示すように、軸箱貫通孔32hは、軸箱本体32の外周側開口近傍(以下、入口部という)の内周部が当該外周側開口へ向かうに従って徐々に拡張(換言すれば、入口部の孔径が外周側開口へ向かうに従って徐々に拡径)されており、かかる入口部の内周部にはネジ溝32aが形成されている。すなわち、軸箱貫通孔32hは、前記入口部にテーパ状のネジ溝32aを有したネジ孔となっている。
一方、
図1及び
図2(a)に示すように、連通管26は、軸箱貫通孔32h及びグリース給脂孔42への挿入方向へ向かうに従って先細りとなっており、その外周部に前記軸箱貫通孔32hの入口部のテーパ状のネジ溝32aと螺合可能なネジ溝26aが形成されている。すなわち、連通管26は、その外周部にテーパ状のネジ溝26aを有したネジ構造体となっている。
【0023】
これにより、軸箱貫通孔32hへ連通管26を挿入する際、そのネジ溝26aを軸箱貫通孔32hのネジ溝32aと螺合させることで、当該連通管26を軸箱貫通孔32h及びグリース給脂孔42に対してより確実に挿入することができるとともに、これら連通管26と軸箱貫通孔32h及びグリース給脂孔42との間の間隙を螺合させたテーパ状のネジ溝26a,32aによって封止することができる。なお、連通管26は、そのネジ溝26aを軸箱貫通孔32hのネジ溝32aと螺合させた際、軸箱貫通孔32h及びグリース給脂孔42への挿入方向の先端部26bが当該グリース給脂孔42の外輪4の内周側開口よりも僅かに装置内部(2列の転動体軌道の列間)へ突出した状態となるように、前記挿入方向への長さ(寸法)が調整されている。
【0024】
軸箱後蓋36の端部36a及び外輪4の端部4aには、その一方に凸部が設けられ、他方に当該凸部と嵌合可能な凹部が設けられている。
本実施形態においては、軸箱後蓋36に対し、上記軸方向の他方側の端部(
図1においては、左端部)36aの外周縁から軸方向(同図においては、左方)へ突出する3つの凸部38が周方向へ等間隔(120°の位相差)で設けられているとともに、外輪4に対し、上記軸方向の一方側の端部(同図においては、右端部)4aの外周縁近傍を軸方向(同図においては、左方)へ窪ませた(別の捉え方をすれば、当該外周縁近傍を縮径させた)3つの凹部44が周方向へ等間隔(120°の位相差)で設けられている。
なお、これらの凸部と凹部は、相互に嵌合可能であれば、いずれも軸箱後蓋36の端部36a、あるいは外輪4の端部4aへ設けることが可能であり、凸部及び凹部の形状や大きさ、個数なども任意に設定することが可能である。例えば、軸箱後蓋36及び外輪4にそれぞれ2つ以下、あるいは4つ以上の凸部38及び凹部44を設けてもよいし、軸箱後蓋36及び外輪4にそれぞれ凸部と凹部の両方を設けてもよい。
このように、軸箱後蓋36の端部36aに3つの凸部38を設けるとともに、外輪4の端部4aに3つの凹部44を設けることで、これらの凸部38と凹部44を相互に嵌合させるだけで、外輪4を軸箱後蓋36、ひいては軸箱30に対して組み込み、当該軸箱30に対して位置決めさせることができる。
【0025】
これらの凸部38と凹部44を相互に嵌合させた状態においては、外輪4のグリース給脂孔42と軸箱30(軸箱本体32)の軸箱貫通孔32hの位置(周方向に対する位置)が一致し、これらのグリース給脂孔42と軸箱貫通孔32hが連通され、当該連通孔に対して連通管26が挿入可能となる。
すなわち、外輪4のグリース給脂孔42及び軸箱本体32の軸箱貫通孔32h、そして、外輪4の凹部44及び軸箱後蓋36の凸部38は、これらの凸部38と凹部44を相互に嵌合させた状態(すなわち、外輪4が軸箱30に対して位置決めされた状態)において、グリース給脂孔42と軸箱貫通孔32hが連通され、連通管26を挿入可能となるように、それぞれの位置を相互に調整して外輪4及び軸箱30(軸箱本体32、軸箱後蓋36)に配されている。一例として、
図1及び
図3には、軸箱後蓋36及び外輪4に対し、周方向へ等間隔(120°の位相差)で3つの凸部38及び凹部44を配するとともに、外輪4の各凹部44に対して周方向へ180°対向する位置に、3つのグリース給脂孔42を周方向へこれら凹部44と同一間隔(120°の位相差をなす等間隔)で配している。つまり、外輪4は、3つの凹部44と3つのグリース給脂孔42が周方向に対して等間隔(60°の位相差)で1つずつ交互に配された構成となっている。
【0026】
そして、これら3つのグリース給脂孔42と連通可能となるように、軸箱本体32に対し、軸箱後蓋36のいずれか2つの凸部38の周方向中間位置に軸箱貫通孔32hが1つだけ配されている。これにより、凸部38と凹部44を相互に嵌合させた状態(すなわち、外輪4が軸箱30に対して位置決めされた状態)において、いずれかのグリース給脂孔42と軸箱貫通孔32hの位置(周方向に対する位置)を一致させ、当該グリース給脂孔42と軸箱貫通孔32hを相互に連通させることができる。例えば、
図1には、径方向の一方側(同図においては、真上側)で軸箱後蓋36の凸部38と外輪4の凹部44が相互に嵌合するとともに、その反対側である径方向の他方側(同図においては、真下側)で外輪4のグリース給脂孔42と軸箱本体32の軸箱貫通孔32hが連通した状態を一例として示している。
【0027】
また、凸部38と凹部44を相互に嵌合させた状態(すなわち、外輪4が軸箱30に対して位置決めされた状態)において、軸箱貫通孔32hとその位置(周方向に対する位置)が一致し、相互に連通可能なグリース給脂孔42を外輪4に対して複数(本実施形態においては、3つ)形成することで、例えば、外輪4の疲労寿命を延長させるべく、軸受装置の点検時などにおいて外輪4を周方向へ回転させ、荷重を負担していた範囲(負荷圏)を荷重領域から外し、荷重を負担していない範囲(非負荷圏)を新たに荷重領域に移動させることが可能となる。つまり、負荷圏を荷重領域から外し、非負荷圏が新たに荷重領域に移動されるように外輪4を周方向へ回転させた場合であっても、凸部38と凹部44を相互に嵌合させるだけで、いずれかのグリース給脂孔42を軸箱貫通孔32hと容易に連通させることが可能となる。外輪4の負荷圏を考慮すれば、グリース給脂孔42と当該グリース給脂孔42の軸箱貫通孔32hとの位置合わせ用の凹部44は、本実施形態のように3つ程度配すればよいが、これらを4つ以上配することも可能であり、2つ以下とすることも可能である。
【0028】
外輪4には、グリース給脂孔42の外周部側の開口周りに密封部材(一例として、Oリング)28が装着されている。この場合、グリース給脂孔42の外周部側の開口周りには、Oリング28を装着するために当該開口周りを全周に亘って拡径させてなる溝(Oリング装着用の円環溝)50が形成され、Oリング28は、当該溝50に装着されている。
これにより、軸箱貫通孔32hと連通させたグリース給脂孔42へ挿入された連通管26の挿入方向の一方側(
図1及び
図2(a)においては、上側)は、密封部材(Oリング)28によってグリース給脂孔42と密着される。同時に、外輪4の外周部と軸箱30(軸箱本体32)の内周部の間の間隙と、グリース給脂孔42との連通部分(端的には、溝50)が密封部材(Oリング)28によって封止される。
すなわち、連通管26と軸箱貫通孔32h及びグリース給脂孔42との間の間隙が螺合させたテーパ状のネジ溝26a,32aによって封止されるだけでなく、当該間隙を密封部材(Oリング)28によっても封止することができ、装置内部をより確実に密封することができる。また、外輪4の外周部と軸箱30(軸箱本体32)の内周部との間の間隙を密封部材(Oリング)28によってグリース給脂孔42に対して封止することができ、これら外輪4と軸箱30(軸箱本体32)の微小変動の繰り返しによってフレッチング摩耗が生じた場合であっても、その摩耗粉のグリース給脂孔42への侵入を確実に防止することができる。
【0029】
また、連通管26の軸箱貫通孔32h及びグリース給脂孔42への挿入方向の他方側(
図1及び
図2(a)においては、下側)には、当該連通管26を潤滑用グリースの補給源(グリースの補給タンク等とつながるグリースガンなど)と接続するための接続具(一例として、カプラ)52が設けられている。
図1及び
図2(a)には、連通管26の管内へ挿入され、その挿入方向の先端部52bが連通管26の先端部26bと同様にグリース給脂孔42の外輪4の内周側開口よりも僅かに装置内部(2列の転動体軌道の列間)へ突出し、基端部52aに前記グリースガンなどとの接続口を設けたカプラ52の構成を一例として示している。
したがって、カプラ52の基端部(接続口)52aにグリースの補給タンク等とつながるグリースガン(図示しない)などを接続し、当該グリースガンからグリースを噴出させることで、連通管26を通して装置内部(一例として、2列の転動体軌道の列間)へグリースを吐出させることができる。
すなわち、本実施形態によれば、軸受装置の稼働中、外輪4の外周部と軸箱30(軸箱本体32)の内周部との間でフレッチング摩耗が生じた場合であっても、その摩耗粉のグリース給脂孔42への侵入を密封部材(Oリング)28によって防止しつつ、連通させた軸箱貫通孔32hとグリース給脂孔42へ挿入した連通管26を通して軸受装置の内部へグリースを補給することができる。つまり、中間給脂などのグリース補給時はもちろん、中間給脂時以外の時においても、軸受装置の内部へのフレッチング摩耗粉の侵入を確実に防止することができる。
【0030】
ここで、本実施形態においては、外輪4に対して3つのグリース給脂孔42を形成しているが、軸箱30(軸箱本体32)の軸箱貫通孔32hと連通され、連通管26が挿入されるのは、そのうちの1つのグリース給脂孔(
図1及び
図2(a)に示すグリース給脂孔42(以下便宜上、連通グリース給脂孔という))のみであり、残りの2つのグリース給脂孔(以下便宜上、非連通グリース給脂孔という)は、外輪4の外周側開口が軸箱本体32の内周部と接触した状態となっている(
図2(b)に示す状態)。
このため、連通グリース給脂孔が軸箱30(軸箱本体32)の軸箱貫通孔32hと連通され、当該連通グリース給脂孔へ連通管26が挿入された状態においては、非連通グリース給脂孔を所定の封止部材によって封止している。本実施形態においては、一例として封止部材がネジ状の封止栓である場合を想定しており、当該封止栓を非連通グリース給脂孔に対して螺合させることで、当該非連通グリース給脂孔を封止している。
【0031】
本実施形態において、3つのグリース給脂孔42は、外輪4の外周側開口近傍(以下、入口部という)の内周部が当該外周側開口へ向かうに従って徐々に拡張(換言すれば、入口部の孔径が外周側開口へ向かうに従って徐々に拡径)されており、かかる入口部の内周部にはネジ溝42aが形成されている。すなわち、グリース給脂孔(連通グリース給脂孔及び非連通グリース給脂孔)42は、前記入口部にテーパ状のネジ溝42aを有したネジ孔となっている。
一方、
図2(b)に示すように、封止栓54は、非連通グリース給脂孔42への挿入方向へ向かうに従って先細りとなっており、その外周部に非連通グリース給脂孔42のテーパ状のネジ溝42aと螺合可能なネジ溝54aが形成されている。すなわち、封止栓54は、その外周部にテーパ状のネジ溝54aを有したネジ構造体となっている。
【0032】
これにより、封止栓54のネジ溝54aを非連通グリース給脂孔42のネジ溝42aと螺合させることで、当該封止栓54を非連通グリース給脂孔42に対して容易に取り付けることができる(取り外しも可能である)とともに、これら封止栓54と非連通グリース給脂孔42との間の間隙を螺合させたテーパ状のネジ溝54a,42aによって封止することができる。すなわち、非連通グリース給脂孔42を封止栓54によって封止することができ、装置内部へ封入されたグリースの非連通グリース給脂孔42を通した外部への漏洩を確実に防止することができる。上述したように、負荷圏を荷重領域から外し、非負荷圏を新たに荷重領域に移動させるために外輪4を周方向へ回転させた際、連通グリース給脂孔と非連通グリース給脂孔が入れ替わった場合には、非連通グリース給脂孔から連通グリース給脂孔となったグリース給脂孔42からOリング28及び封止栓54を取り外すとともに、連通グリース給脂孔から非連通グリース給脂孔となるグリース給脂孔42に対してOリング28及び封止栓54を取り付ければよい。なお、Oリング28は、非連通グリース給脂孔から連通グリース給脂孔となったグリース給脂孔42から取り外すことなく、装着状態のままとしておいてもよい。また、連通グリース給脂孔から非連通グリース給脂孔となったグリース給脂孔42に対して取り付ける封止栓54は、別途新たなものを使用すればよいが、非連通グリース給脂孔から取り外したものを再利用することも可能である。
なお、封止栓54は、そのネジ溝54aを非連通グリース給脂孔42のネジ溝42aと螺合させた際、非連通グリース給脂孔42への取付方向(
図1においては、下から上へ向かう方向)とは反対側の端部54bが軸箱本体32の内周部とちょうど当接した状態、あるいは非接触状態となるように、前記取付方向への長さ(寸法)が調整されている。
【0033】
上述した第1実施形態においては、外輪4のグリース給脂孔42と軸箱30(軸箱本体32)の軸箱貫通孔32hの位置(周方向に対する位置)を一致させ、これらのグリース給脂孔42と軸箱貫通孔32hを連通させるため、相互に嵌合可能な凸部38と凹部44を軸箱後蓋36と外輪4に対して設けた構成としているが、グリース給脂孔42と軸箱貫通孔32hの位置合わせのための手段は、このような凸部38及び凹部44には特に限定されない。
例えば、
図4に示す本発明の第2実施形態に係る軸受装置のようなテーパ構造とすることも可能であり、軸箱後蓋36の端部36a及び外輪4の端部4aにそれぞれキー溝加工を施し、キーでグリース給脂孔42と軸箱貫通孔32hの位置合わせを行うことも可能である。すなわち、グリース給脂孔42と軸箱貫通孔32hの位置合わせを容易に行うことが可能であれば、任意の手段であって構わない。
以下、本発明の第2実施形態に係る軸受装置の構成について説明する。その際、グリース給脂孔42と軸箱貫通孔32hの位置合わせのための手段であるテーパ構造以外の軸受装置の構成は、上述した第1実施形態(
図1から
図3)と同様であるため、以下では、第2実施形態に特有のグリース給脂孔42と軸箱貫通孔32hの位置合わせ用テーパ構造についての説明に止める。
【0034】
本実施形態において、軸箱後蓋36には、端部36aの一部に周方向へ傾斜しつつ、軸方向(
図1における左右方向に相当)へ突出するテーパ状の凸部58を設けている。一方、外輪4には、端部4aの一部に周方向へ傾斜しつつ、軸方向へ窪み、テーパ状の凸部58と嵌合可能なテーパ状の凹部46を設けている。このように、軸箱後蓋36にテーパ状の凸部58を設けるとともに、外輪4にテーパ状の凹部46を設けることにより、これらの凸部58と凹部46を相互に嵌合させることで、外輪4を軸箱後蓋36に対して組み込むことができる。そして、この状態で軸箱後蓋36を軸箱本体32に対してボルトにより締結固定すると、テーパ状の凸部58及び凹部46のセンタリング作用によって軸箱30(具体的には、軸箱本体32)内で外輪4が若干回転し、当該外輪4を軸箱30に対して位置決めさせることができる。その際、外輪4のグリース給脂孔42と軸箱30(軸箱本体32)の軸箱貫通孔32hの位置(周方向に対する位置)を一致させ、これらのグリース給脂孔42と軸箱貫通孔32hを連通させることが可能となる。なお、
図4に示すテーパ構造においては、軸箱後蓋36にテーパ状の凸部58を設けるとともに、外輪4にテーパ状の凹部46を設けているが、これとは逆に、軸箱後蓋36にテーパ状の凹部を設けるとともに、外輪4にテーパ状の凸部を設けたテーパ構造とすることも想定可能である。