特許第5790142号(P5790142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5790142トルクセンサ及びこれを備えた電動パワーステアリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5790142
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】トルクセンサ及びこれを備えた電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   G01L 3/10 20060101AFI20150917BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   G01L3/10 303Z
   B62D5/04
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-110758(P2011-110758)
(22)【出願日】2011年5月17日
(65)【公開番号】特開2012-242180(P2012-242180A)
(43)【公開日】2012年12月10日
【審査請求日】2014年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075579
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 嘉昭
(72)【発明者】
【氏名】窪川 稔
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬幸
(72)【発明者】
【氏名】吉田 一弘
【審査官】 岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−267045(JP,A)
【文献】 特開2001−281080(JP,A)
【文献】 特開平9−61264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 3/00− 3/26
G01B 7/00− 7/34
G01D 5/00− 5/252
G01D 5/39− 5/62
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の両端から内方に延長するフランジ部を形成して内周面を開放した断面コ字状で円環状を有し、内部に検出コイルを配置した一対のヨークを軸方向に隣接させて固定配置し、
該一対のヨークの内周面側に当該一対のヨークと所定間隔を保って対向して円筒部材を配置し、
円筒部材の内周面側に、軸方向の凸条を円周方向に所定間隔で形成し、伝達されるトルクに応じて当該円筒部材と相対回転されるセンサシャフト部を配置し、
前記円筒部材に、前記一対のヨークに個別に対向し、円周方向に位置を異ならせて前記一対のヨークの検出コイルで互い逆方向にインピーダンスを変化させる一対の窓を、各窓の軸方向の一端が、対向するヨークの前記軸方向の一端側のフランジ部の軸方向の厚み内に位置し、かつ、各窓の軸方向の他端が、対向するヨークの前記軸方向の他端側のフランジ部の軸方向の厚みに位置するように形成し、
前記一対のヨークの各々に配置された一対の検出コイルのインピーダンスに基づいてトルクを演算するトルク演算部と、
前記一対の検出コイルのインピーダンス変化を検出して前記円筒部材の軸方向変位を検出する軸方向変位検出部と
を備えたトルクセンサ。
【請求項2】
前記一対のヨークを2組軸方向にシールド板を介して配置し、
前記トルク演算部は、
前記2組の一対のヨークのうちの一方の組の一対のヨークに配置された一対の検出コイルとこれらに直列に接続した抵抗体とで構成される第1のブリッジ回路と、
前記2組の一対のヨークのうちの他方の組の一対のヨークに配置された一対の検出コイルとこれらに直列に接続した抵抗体とで構成される第2のブリッジ回路と、
前記第1のブリッジ回路及び第2のブリッジ回路に個別に交流信号を印加したときの差分信号に基づいて少なくとも2組の検出トルクを演算するトルク演算回路と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のトルクセンサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のトルクセンサを備え、該トルクセンサの検出トルクに基づいてステアリング機構に伝達する操舵補助トルクを発生する電動モータを駆動して操舵補助制御を行う操舵補助制御部を有することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のトルクセンサを備え、該トルクセンサの検出トルクに基づいてステアリング機構に伝達する操舵補助トルクを発生する電動モータを駆動して操舵補助制御を行う操舵補助制御部と、前記トルクセンサの複数のトルク演算部から出力される複数の検出トルクに基づいて前記トルクセンサのトルク検出部の異常を判定する異常判定部とを有することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸に発生するトルクを非接触で検出するトルクセンサ及びこれを備えた電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電動パワーステアリング装置に適用されるトルクセンサとして、特許文献1に記載されたトルクセンサが知られている。このトルクセンサは、回転軸に生じるトルクに応じて互いに逆方向にインピーダンスが変化する1対の検出コイル及び抵抗でなるブリッジ回路を2系統設けて、これらブリッジ回路を冗長的に接続している。これにより、異常を容易に検出可能にするとともに、検出回路の一方で異常を生じても、他方の検出回路からのトルク信号によって操舵アシストを継続することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−267045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に記載のトルクセンサにあっては、それぞれが個別のコイルヨークに内装された4つのコイルが軸方向に沿って配列され、これらのコイルと抵抗体とでブリッジ回路を構成し、差動回路でトルクを検出するので、コイルの温度変化などによるドリフトの影響を差動回路である程度除去することはできる。
しかしながら、上記特許文献1に記載のトルクセンサでは、トルクによる非磁性円筒体とセンサシャフト部との相対回転差を検出してトルクを検出することが主目的であり、 非磁性円筒体の軸方向変位は検出することができないという未解決の課題がある。
【0005】
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、非磁性円筒体とセンサシャフト部との相対回転によってトルクを検出するとともに、非磁性円筒体の軸方向変位も検出することができるトルクセンサ及びこれを備えた電動パワーステアリング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を解決するために、本発明の第1の形態に係るトルクセンサは、内周面を開放した断面コ字状で円環状を有し、内部に検出コイルを配置した一対のヨークを軸方向に隣接させて固定配置し、該一対のヨークの内周面側に当該一対のヨークと所定間隔を保って対向して円筒部材を配置し、該非磁性円筒体の内周面側に、軸方向の凸条を円周方向に所定間隔で形成し、伝達されるトルクに応じて当該円筒部材と相対回転されるセンサシャフト部を配置し、前記円筒部材に、前記一対のヨークに個別に対向し、円周方向に位置を異ならせて前記一対のヨークの検出コイルで互い逆方向にインピーダンスを変化させる一対の窓の両端が当該一対のヨークの幅内となるように形成し、前記一対のヨークの各々に配置された一対の検出コイルのインピーダンスに基づいてトルクを演算するトルク演算部と、前記一対の検出コイルのインピーダンス変化を検出して前記円筒部材の軸方向変位を検出する軸方向変位検出部とを備えている。
【0007】
また、本発明の第2の形態に係るトルクセンサは、前記一対のヨークを2組軸方向にシールド板を介して配置し、前記トルク演算部は、前記2組の一対のヨークのうちの一方の組の一対のヨークに配置された一対の検出コイルとこれらに直列に接続した抵抗体とで構成される第1のブリッジ回路と、前記2組の一対のヨークのうちの他方の組の一対のヨークに配置された一対の検出コイルとこれらに直列に接続した抵抗体とで構成される第2のブリッジ回路と、前記第1のブリッジ回路及び第2のブリッジ回路に個別に交流信号を印加したときの差分信号に基づいて少なくとも2組の検出トルクを演算するトルク演算回路とを備えている。
【0008】
また、本発明の第3の形態に係る電動パワーステアリング装置は、第1又は第2の形態のトルクセンサを備え、該トルクセンサの検出トルクに基づいてステアリング機構に伝達する操舵補助トルクを発生する電動モータを駆動して操舵補助制御を行う操舵補助制御部を有することを特徴としている。
また、本発明の第4の形態に係る電動パワーステアリング装置は、第1又は第2の形態のトルクセンサを備え、該トルクセンサの検出トルクに基づいてステアリング機構に伝達する操舵補助トルクを発生する電動モータを駆動して操舵補助制御を行う操舵補助制御部と、前記トルクセンサの複数のトルク演算部から出力される複数の検出トルクに基づいて前記トルクセンサのトルク検出部の異常を判定する異常判定部とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、トルク演算部で、一対のヨークにそれぞれ配置した一対の検出コイルのインピーダンス変化に基づいてトルクを検出することができるとともに、軸方向変位検出部で一対の検出コイルのインピーダンス変化を検出することにより、非磁性円筒体の軸方向変位を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態を示す電動パワーステアリング装置の主要部を示す断面図である。
図2図1の実施形態に適用し得るトルクセンサを示す斜視図である。
図3】トルクセンサのセンサシャフト部の表面の凸条と円筒部材の窓配置を説明する軸直角方向の断面図である。
図4】ヨークと非磁性円筒体の窓との軸方向配置関係を示す説明図である。
図5】トルクと検出コイルのインダクタンスとの関係を示す特性線図である。
図6図2の実施形態に適用し得るトルク演算部を示すブロック図である。
図7】軸方向変位検出部で実行する軸方向変位検出処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る電動パワーステアリング装置の主要部を示す断面図であり、図2は、本発明に係るトルクセンサの構成を示す斜視図である。
図1において、ハウジング5は入力軸側ハウジング部5aと出力軸側ハウジング部5bとに2分割された構造を有する。入力軸側ハウジング部5aの内部には、入力軸1が軸受6aによって回転自在に支持されている。また、出力軸側ハウジング部5bの内部には出力軸2が軸受6b及び6cによって回転自在に支持されている。
【0012】
そして、入力軸1及び出力軸は入力軸1の内部に配設されたトーションバー3を介して連結されている。
入力軸1、トーションバー3及び出力軸2は同軸に配置されており、入力軸1とトーションバー3とはピン結合し、また、トーションバー3と出力軸2とはスプライン結合している。図1において、入力軸1の出力軸2とは反対側には、図示されていないステアリングホイールが一体的に取り付けられている。また、出力軸2には入力軸1とは反対側にピニオン軸2aが一体的に形成されており、ピニオン軸2aはラック4と噛合して公知のラックアンドピニオン式ステアリング機構を構成している。
【0013】
また、出力軸2には、これと同軸で且つ一体に回転するウォームホイール7が固着されており、図示されていない電動モータで駆動されるウォーム8と出力軸側ハウジング部5b内で噛合している。ウォームホイール7は金属製のハブ7aに合成樹脂製の歯部7bが一体的に固定されている。電動モータの回転力は、ウォーム8及びウォームホイール7を介して出力軸2に伝達され、電動モータの回転方向を適宜切り換えることにより、出力軸2に任意の方向の操舵補助トルクが付与される。
【0014】
次に、図1及び図2を参照して入力軸1及び出力軸間のトルクを検出するトルクセンサTSを構成するトルク検出部10の構成を説明する。トルク検出部10は入力軸1の、図1で出力軸側に形成されたセンサシャフト部11と、入力軸側ハウジング部5aの内側に配置された2対の検出コイル13a,13b及び14a,14bと、両者の間に配置された円筒部材12から構成される。
【0015】
図2はトルク検出部の構成を示す斜視図である。入力軸1の、図1で右端に近い外側には磁性材料で構成されたセンサシャフト部11が形成されており、センサシャフト部11の表面には、軸方向に延びた複数(図示の例では9個)の凸条11aが円周方向に沿って等間隔に形成されており、凸条11aの間には凸条11aの幅t1よりも幅広の溝部11bが形成されている。
【0016】
また、センサシャフト部11の外側には、センサシャフト部11に接近して導電性で且つ非磁性の材料、例えばアルミニウムで構成された円筒部材12がセンサシャフト部11と同軸に配置されており、円筒部材12の延長部12eは出力軸2の端部2eの外側に固定されている。
円筒部材12には、前記したセンサシャフト部11の表面の凸条11aに対向する位置に、円周方向に等間隔に配置された複数個(図2では9個)の長方形の窓12aからなる第1の窓列と、前記第1の窓列から軸方向にずれた位置に、前記窓12aと同一形状で、円周方向の位相が異なる複数個(図2では9個)の長方形の窓12bからなる第2の窓列とが設けられている。
【0017】
円筒部材12の外周は、同一規格の検出コイル13a、13b及び13c、13dが内側に巻回されたヨーク15a、15b及び15c、15dで包囲されている。ここで、ヨーク15a〜15dのそれぞれは、扁平な円筒の軸方向の両端から内方に延長するフランジを形成して内周面を開放した断面コ字状に形成されている。
【0018】
また、ヨーク15a〜15cは、ヨーク15b及び15c間に扁平な円筒状のシールド板16を介在させて軸方向に配置されている。
そして、検出コイル13a、13b及び13c、13dは円筒部材12と同軸に配置され、検出コイル13a及び13cは窓12a及び12cからなる第1の窓列部分を包囲し、検出コイル13b及び13dは窓12b及び12dからなる第2の窓列部分を包囲する。ヨーク15a及び15bは入力軸側ハウジング部5aの内部に固定され、検出コイル13a、13b及び13c、13dの出力線17は入力軸側ハウジング部5aの内部に配置された回路基板18に接続されている。
【0019】
図3(a)及び(b)は出力軸2側から見たセンサシャフト部11の表面の凸条11aと円筒部材の窓配置を説明する図で、図3(a)は、基準位置(トーションバー3が捩れていない状態)におけるセンサシャフト部11の表面の凸条11aと円筒部材12における第1の窓列の窓12a及び12cとの位置関係を示し、図3(b)は基準位置(トーションバー3が捩れていない状態)におけるセンサシャフト部11の表面の凸条11aと円筒部材12における第2の窓列の窓12b及び12dとの位置関係を示す図である。
【0020】
この実施例では、窓12a〜12dがそれぞれ9個設けられているので、第1の窓列の窓12a,12c及び第2の窓列の12b,12dは、それぞれ円周方向に角度θ=360/9=40度ずつずれていることになる。
窓12a〜12dの角度aは窓12a〜12dのない部分の角度bよりも小さく設定(a<b)され、凸条11aの角度cは溝部11bの角度dよりも小さく設定(c<d)される。これは、検出コイルのインピーダンスの変化を急峻にするためである。
【0021】
図3(a)及び(b)から明らかなように、トーションバー3が捩れていない状態、即ち操舵トルクが零(0)の状態では、窓12a及び12cの円周方向の幅の中央部にセンサシャフト部11の凸条11aの円周方向の一方の端部が位置し、窓12b及び12dの円周方向の幅の中央部に凸条11aの円周方向の他方の端部が位置するように、窓12a〜12dの円周方向の幅と凸条11aの幅、及び窓12a〜12dとの円周方向の相対位置関係が設定される。即ち、凸条11aに対する窓12a及び12cと窓12b及び12dとの円周方向の位置関係は互いに逆になっている。
【0022】
また、窓12a〜12dとヨーク15a〜15dの軸方向の位置関係は、図4に示すように、ヨーク15a〜ヨーク15dのフランジの軸方向の厚みであるヨーク幅Wy内に窓12a及び12cと窓12b及び12dとの軸方向の両端部が位置するように設定されている。このように窓12a,12c及び12b,12dとヨーク15a,15c及び15b,15dの軸方向の位置関係を設定する理由は、通常ステアリング装置が、車体側部材にブラケットを介して衝撃荷重を吸収する衝撃吸収(EA:Energy Absorption)ストロークを確保するように支持されているので、この衝撃吸収ストロークの作動を検出可能とするためである。
【0023】
そして、操舵系が直進状態にあって操舵トルクが零である場合はトーションバー3には捩れが発生せず、入力軸1と出力軸2とは相対回転しない。したがって入力軸1の側にあるセンサシャフト部11の表面の凸条11aと、出力軸2の側にある円筒部材12との間にも相対回転が生じない。
【0024】
一方、ステアリングホイールを操作して入力軸1に回転力が加わると、その回転力はトーションバー3を経て出力軸2に伝達される。このとき、出力軸2には舵輪と路面との間の摩擦力や出力軸2に結合されているステアリング機構のギヤの噛み合い等の摩擦力が作用するため、入力軸1と出力軸2との間を結合するトーションバーに捩れが発生し、入力軸1の側にあるセンサシャフト部11の表面の凸条11aと出力軸2の側にある円筒部材12との間に相対回転が生じる。
【0025】
円筒部材12に窓がない場合は、円筒部材12は導電性で且つ非磁性材で構成されていることから、検出コイル13に交流電流を流して交番磁界を発生させると、円筒部材12の外周面にコイル電流と反対方向の渦電流が発生する。この渦電流による磁界とコイル電流による磁界とを重畳すると、円筒部材12の内側の磁界は相殺される。
円筒部材12に窓が形成されている場合は、円筒部材12の外周面に発生した渦電流は、窓12a及び12bによって外周面を周回できないため、窓12a及び12bの端面に沿って円筒部材12の内周面側に回り込み、内周面をコイル電流と同方向に流れ、また隣の窓12a及び12bの端面に沿って外周面側に戻り、ループを形成する。つまり、検出コイル内側に渦電流のループを、円周方向に周期的に配置した状態が発生する。コイル電流による磁界と渦電流による磁界とは重畳され、円筒部材12の内外には、円周方向に周期的に強弱変化する磁界と、中心に向かうほど小さくなる半径方向に勾配を持った磁界が形成される。円周方向の周期的な磁界の強弱は、隣り合う渦電流の影響を受ける窓12a,12c及び12b,12dの中心で強く、そこからずれるに従い弱くなる。
【0026】
円筒部材12の内側には、磁性材料からなるセンサシャフト部11が同軸に配置されており、その凸条11aは、窓12a,12c及び12b,12dと同じ周期で配置されている。磁界中に置かれた磁性体は磁化して磁束を生じるが、磁束の量は飽和するまでは磁界の強さに応じて大きくなる。このため、円筒部材12により円周方向の周期的な磁界の強弱と中心に向かうほど小さくなる半径方向に勾配を持った磁界とにより、センサシャフト部11に発生する磁束は、円筒部材12とセンサシャフト部11との相対的な位相により増減する。磁束が最大となる位相は、円筒部材12の窓12a,12c及び12b,12dの中心とセンサシャフト部11の凸条11aの中心とが一致した状態で、磁束の増減に応じて検出コイル13a,13b及び13c,13dのインダクタンスも増減し、略正弦波状に変化する。
【0027】
トルクが作用しない状態では、インダクタンスが最大となる位相(窓12a,12c及び12b,12dと凸条11aの中心とが一致している位相)に対して、センサシャフト部11の凸条11aの中心は凸条11aの中心角cの1/2だけずれた位置に設定されているから、トルクが作用してトーションバー3が捩れ、センサシャフト部11と円筒部材12との間に位相差が生じると、2つの検出コイル13a,13c及び13b,13dのインダクタンスは、一方が増加し他方が減少する。
【0028】
図5操舵トルクTと検出コイル13a(又は13c)及び13b(又は13d)のインダクタンスの変化との関係を示す特性線図で、横軸は操舵トルクT、縦軸はインダクタンスLを示す。右操舵トルク発生時は、図3(a)及び(b)においてセンサシャフト部11が反時計方向に回転するから、図5の特性曲線L13に示すように、トルクが増大するにつれ検出コイル13a,13c(又は13b,13d)のインダクタンは増加し、図5の特性曲線L14に示すように、検出コイル13b,13d(又は13a,13c)のインダクタンは減少する。
【0029】
また、左操舵トルク発生時は、図3(a)及び(b)においてセンサシャフト部11が時計方向に回転するから、図5の特性曲線L13に示すようにトルクが増大するにつれ検出コイル13a,13c(又は13b,13d)のインダクタンは減少し、図5の特性曲線L14に示すように、検出コイル13b,13d(又は13b,13d)のインダクタンは増加する。
図5特性曲線L13、L14に示すインダクタンの特性は比例して出力される電圧にそのまま置き換えることができ、特性曲線L13、L14に示すインダクタンの特性を電圧に置き換えると、検出コイル13a(又は13c)の検出トルク電圧、検出コイル13b(又は13d)の検出トルク電圧と操舵トルクTとの関係になり、両検出トルク電圧の交点である中立電圧が本実施形態では2.5Vとなるように調整されている。この電圧クロス特性から検出コイル13a(又は13c)の検出トルク電圧と検出コイル13b(又は13d)の検出トルク電圧との合計値は2.5+2.5=5.0Vとなる。
【0030】
一方、入力軸1に衝撃荷重が付加されていない状態では、図4について前述したように、円筒部材12の窓12a及び12bの軸方向の両端部がそれぞれヨーク15a及び15bのフランジに対向する位置となっており、図5について前述した操舵トルクに対して特性曲線L13、L14に示すようにインダクタンがクロス特性となるものであるが、入力軸に衝撃荷重が付加されて、入力軸1が軸方向にラック軸4の方向に移動し、これに応じて出力軸2もラック軸4の方向に移動した場合に、窓12a及び12bが軸方向に移動することにより、検出コイル13a〜13dに通電したときのセンサシャフト部11の凸条11aとの間で発生する磁路が変化して検出コイル13a〜13dの出力が変化する。
【0031】
図6は、回路基板18に搭載されるトルク演算処理部20及び軸方向変位検出部40のブロック図である。
トルク演算処理部20は、トルク検出部10の軸方向両端側の一対の検出コイル13a及び13bを使用して第1のトルクを検出する第1トルク検出系統と、軸方向中央側の一対の検出コイル13c及び13dを使用して第2のトルクを検出する第2トルク検出系統とを構成するように同一構成を有する2組のトルク演算部21A及び21Bを備えている。
【0032】
なお、トルク演算部21A及び21Bに所定周波数の交流信号を出力する交流信号源200と、トルク演算部21A及び21Bからそれぞれ出力されるメイントルク及びサブトルクが入力されるノイズフィルタ202及びノイズフィルタ202から出力されるフィルタ出力を外部の図示しない電動モータを操舵補助制御するコントロールユニット30に出力するコネクタ203とはトルク演算部21A及び21Bに対して共通に設けられている。また、コネクタ203に入力される電源及び基準電源がノイズフィルタでフィルタ処理されて電源電圧V及び基準電圧Vrefとして交流信号源200とトルク演算部21A及び21Bとに供給される。
【0033】
ここで、交流信号源200は、所定周波数の交流信号を発生する発振部201と、この発振部201から出力される交流信号を電流増幅してトルク演算部21A及び21Bに供給する電流増幅部211A及び211Bを備えている。
トルク演算部21Aは、一対の検出コイル13a及び13bの一端が互い接続されて接地され、他端に抵抗R1a及びR1bが直列に接続され、これら抵抗R1a及びR1bの他端を互いに接続した構成を有するブリッジ回路210Aを備えている。
【0034】
同様に、トルク演算部21Bは、一対の検出コイル13c及び13dの一端が互い接続されて接地され、他端に抵抗R2a及びR2bが直列に接続され、これら抵抗R2a及びR2bの他端を互いに接続した構成を有するブリッジ回路210Bを備えている。
これらブリッジ回路210A及び210Bでは、入力軸1にトルクが作用していない状態では、検出コイル13a,13c及び13b,13dの両端に表れる電圧がそれぞれ等しくなるように、つまり差分電圧が0となるように予め抵抗R1a、R1b及びR2a、R2bの抵抗値が調整されている。
【0035】
そして、ブリッジ回路210A及び210Bの抵抗R1a、R1bの接続点及び抵抗R2a、R2bの接続点がそれぞれ交流信号源200の電流増幅部211A及び211Bに個別に接続されて、交流電圧信号Vosc1及びVosc2cが入力される。
また、トルク演算部21Aは、ブリッジ回路210Aの検出コイル13a及び13bの両端に表れるインピーダンス変化に応じた電圧信号が入力されるとともに、交流電圧信号Vosc1が入力されたメイン増幅・全波整流部212Aと、このメイン増幅・全波整流部212Aから出力される整流信号が入力されるメイン平滑・中立調整部213Aを有する。ここで、メイン増幅・全波整流部212Aでは、検出コイル13a及び13bの両端に表れる電圧信号の差分信号Vdefを算出し、この差分信号Vdefを増幅するとともに、整流して整流信号をメイン平滑・中立調整部213Aに出力する。
【0036】
また、メイン平滑・中立調整部213Aでは、メイン増幅・全波整流部212Aから入力される整流信号を平滑化するとともに、中立電圧を調整してトルク検出信号としてノイズフィルタ202に出力する。そして、ノイズフィルタ202でフィルタ処理されたトルク検出信号がコネクタ203を介してメイン検出トルク信号Tm1として操舵補助制御を行うコントロールユニット30に出力される。
【0037】
また、トルク演算部21Aは、ブリッジ回路210Aの検出コイル13a及び13bの両端に表れる電圧信号が入力されるとともに、交流電圧信号Vosc1が入力されたサブ増幅・全波整流部214Aと、このサブ増幅・全波整流部214Aから出力される整流信号が入力されるサブ平滑・中立調整部215Aを有する。ここで、サブ増幅・全波整流部214Aでは、検出コイル13a及び13bの両端に表れる電圧信号の差分信号Vdefを算出し、この差分信号Vdefを増幅するとともに、整流して整流信号をサブ平滑・中立調整部215Aに出力する。また、サブ平滑・中立調整部215Aでは、サブ増幅・全波整流部214Aから入力される整流信号を平滑化するとともに、中立電圧を調整してトルク検出信号としてノイズフィルタ202に出力する。そして、ノイズフィルタ202でフィルタ処理されたトルク検出信号がコネクタ203を介してサブ検出トルク信号Ts1として操舵補助制御を行うコントロールユニット30に出力される。
【0038】
さらに、トルク演算部21Aは、前述した特許文献1に記載されているように、交流電圧信号Vosc1及びサブ増幅・全波整流部214Aから出力されるブリッジ回路210Aの差分信号Vdefに基づいて検出コイル13a又は13bと抵抗R1a又はR1bとの接触不良等をブリッジ回路の差分電圧の変化で検出するとともに、基準電圧に対する位相ずれに基づいて回路系の異常を検出し、異常を検出したときに異常信号AB1を出力する。すなわち、監視部216Aでは、印加した交流信号の波形と、ブリッジ回路の差分電圧の信号である差分信号Vdefの波形との位相差を検出し、位相差が所定値を超えたときに検出コイル、抵抗若しくは回路が異常であると判定して異常信号AB1を出力する。
【0039】
この監視部216Aから出力される異常信号AB1はサブ平滑・中立調整部215Aに供給され、このサブ平滑・中立調整部215Aでは、異常信号AB1が入力されると、出力するトルク検出信号を0Vに設定する。これにより、メイントルク信号との図4に示すクロストルク特性のバランスが崩れることにより、コントロールユニット30が故障を検出することができる。このため、コントロールユニット30で操舵補助用電動モータ31の駆動に使用するメイン側のメイン平滑・中立調整部213Aには異常信号AB1は入力されない。
【0040】
同様に、トルク演算部21Bでも、トルク算部21Aと同様の構成を有するメイン増幅・全波整流部212B、メイン平滑・中立調整部213B、サブ増幅・全波整流部214B、サブ平滑・中立調整部215B及び監視部216Bを備えている。
コントロールユニット30は、図に示すように、トルクセンサTSからメイン検出トルク信号Tm1、Tm2及びサブ検出トルク信号Ts1、Ts2が入力されている。このコントロールユニット30は、入力されたメイン検出トルク信号Tm1、Tm2及びサブ検出トルク信号Ts1、Ts2に基づいて信号監視を行う異常判定部32と、メイン検出トルク信号Tm1、Tm2に基づいて操舵補助制御を行って操舵補助用電動モータ31を駆動制御する操舵補助制御部33とを備えている。
【0041】
異常判定部32は、メイン検出トルク信号Tm1及びTm2が所定値(例えば0.3V)以下か否かで断線や地絡を検出し、所定値(例えば4.7V)以上か否かで天絡を検出する。また、サブ検出トルク信号Ts1及びTs2が所定値(例えば0.3V)以下か否かで断線や地絡を検出するとともに、トルク演算回路の自己診断を行い、所定値(例えば4.7V)以上か否かで天絡を検出する。さらに、メイン検出トルク信号Tm1、Tm2とサブ検出トルク信号Ts1、Ts2の各加算値が所定値(例えば5.3V)以上若しくは所定値(例えば4.7V)以下か否かで、図4に示すクロス特性から外れる異常を検出する。
【0042】
そして、操舵補助制御部33では、上記異常判定部32によって異常が検出されない正常状態では、メイン検出トルク信号Tm1を用いて操舵補助電流指令値を演算し、演算した操舵補助電流指令値と、操舵補助用電動モータ31に供給するモータ電流の検出値との偏差を例えばPD制御処理して操舵補助電圧指令値を算出し、算出した操舵補助電圧指令値に基づいてモータ駆動回路34を制御する駆動信号を形成し、この駆動信号をモータ駆動回路34出力する。
ここで、サブ検出トルク信号Ts1、Ts2はトルクセンサの異常監視に利用されるのみで、操舵補助用電動モータの駆動には利用されない。
【0043】
異常判定部32で、トルクセンサTSの第1トルク検出系統の異常が判定された場合に、第2トルク検出系統が正常であるときには、第1トルク検出系統のメイン検出トルク信号Tm1に代えて第2トルク検出系統のメイン検出トルク信号Tm2を用いて操舵補助制御部33で操舵補助制御を継続する。
さらに、異常判定部32で、第1トルク検出系統及び第2トルク検出系統の双方の異常が判定された場合には、操舵補助制御部33で、正常な過去トルク値を使用して操舵補助用電動モータを駆動し、操舵補助トルクを徐々に減少させるトルク漸減処理を行い、安全に操舵補助制御を停止させるフェールセーフモードに移行する。
【0044】
また、軸方向変位検出部40は、例えば、ブリッジ回路210Aの検出コイル13a及び13の両端に表れる電圧信号が入力されたマイクロコンピュータ等の演算処理装置で構成され、所定時間毎に検出コイル13a及び13bの両端に表れる電圧信号の変化を検出して出力軸2の軸方向変位を検出している。
すなわち、軸方向変位検出部40では、図7に示す軸方向変位検出処理を実行する。この軸方向変位検出処理は、図7に示すように、所定時間(例えば100msec)毎のタイマ割込理として実行され、先ず、ステップS1で、ブリッジ回路210Aから出力される検出コイル13a及び13bの両端に表れる現在の電圧信号Va(n)及びVb(n)を読込み、RAM等に形成した2段のシフトレジスタ構成を有する電圧信号記憶領域の初段に記憶する。
【0045】
次いで、ステップS2に移行して、電圧信号記憶領域に記憶されている前回の処理時に読込んだ電圧信号Va(n-1)及びVb(n-1)を読出し、下記(1)式及び(2)式の演算を行って電圧変化量ΔVa及びΔVbを算出する。
ΔVa=Va(n)−Va(n-1) …………(1)
ΔVb=Vb(n-1)−Vb(n) …………(2)
【0046】
次いで、ステップS3に移行して、電圧変化量ΔVaが予め設定した通常時のトルク変化に応じた電圧変化量より大きな閾値ΔVs1以上であるか否かを判定し、ΔVa≧ΔVs1であるときには、電圧変動が大きいものと判断してステップS4に移行する。
このステップS4では、電圧変化量ΔVbが予め設定した通常時のトルク変化に応じた電圧変化量より大きな閾値ΔVs2以上であるか否かを判定し、ΔVb≧ΔVs2であるときには、電圧変化量ΔVbが通常時より大きく、出力軸2すなわち円筒部材12が軸方向に変位したものと判断してステップS5に移行する。
このステップS5では、論理値“1”の軸方向変位検出信号Ssを外部の制御装置に出力してからタイマ割込処理の実行を終了する。
【0047】
一方、前記ステップS3の判定結果が、ΔVa<ΔVs1であるとき及び前記ステップS4の判定結果がΔVb<ΔVs2であるときにはステップS6に移行して、論理値“0”の軸方向変位検出信号Ssを出力してからタイマ割込処理を終了して所定のメインプログラムに復帰する。
外部の制御装置では、論理値“1”の軸方向変位検出信号Ssが入力される各種電気系統の遮断動作、エアバッグの動作等の運転者の安全を確保するために必要な動作を行う。
【0048】
次に、上記実施形態の動作を説明する。
先ず、入力軸1に衝撃荷重が付加されていない状態で、図示しないステアリングホイールを操舵していない状態では、入力軸1にトルクが伝達されないので、トーションバー3が捩じれることはなく、センサシャフト部11の凸条11aと円筒部材12の窓12a及び12bとは図3(a)及び(b)の関係を保っており、検出コイル13a及び13cのインダクタンス及び検出コイル13b及び13dのインダクタンスが図5の特性曲線L13及びL14のクロスする点となって、互いに等しい値となっている。
【0049】
このため、ブリッジ回路210Aにおいて、検出コイル13a及び13bの端子間電圧が等しくなり、メイン増幅・全波整流部212A及びサブ増幅全波整流部21Aから出力される検出トルクがともに零となり、コネクタ203からメイン検出トルク信号Tm1及びサブ検出トルク信号Ts1がコントロールユニット30に出力される。
同様に、ブリッジ回路210Bにおいても、検出コイル13c及び13dの端子間電圧が等しくなり、メイン増幅・全波整流部212B及びサブ増幅全波整流部21Bから出力される検出トルクがともに零となり、コネクタ203からメイン検出トルク信号Tm2及びサブ検出トルク信号Ts2がコントロールユニット30に出力される。
【0050】
この状態では、コントロールユニット30の異常判定部32でトルク演算部21A及び21Bが正常であると判定されて、操舵補助制御部33でメイン検出トルク信号Tm1に基づいて操舵補助制御処理が行われる。しかしながら、メイン検出トルク信号Tm1が零であるので、モータ駆動回路34による操舵補助用電動モータ31の駆動は停止されている。
このステアリングホイールの非操舵状態からステアリングホイールを右操舵(又は左操舵)すると、前述したように、検出コイル13a及び13cのインダクタンスが増加(又は減少)し、検出コイル13b及び13dのインダクタンスが減少(又は増加)する。このインダクタンスの変化に応じてブリッジ回路210A及び210Bから出力される差分電圧が正(又は負)となる。したがって、メイン増幅・全波整流部212A及び212Bとサブ増幅・全波整流部214A及び214Bから出力される検出トルクが正方向(又は負方向)に増加し、これに応じたメイン検出トルク信号Tm1及びTm2とサブ検出トルク信号Ts1及びTs2がコネクタ203を介してコントロールユニット30に出力される。
【0051】
このため、操舵補助制御部33で、メイン検出トルク信号Tm1に基づいて操舵補助制御処理が行われて、操舵補助電圧指令値が演算されて、これがモータ駆動回路34に出力されることにより、操舵補助用電動モータ31が正転(又は逆転)駆動されて、ステアリングホイールから入力された操舵トルクに応じた操舵補助トルクを発生する。
この正常状態から異常判定部32で第1のトルク検出系統が異常であると判定されたときには、第2のトルク検出系統が正常である状態では、操舵補助制御部33で、トルク演算部21Bのメイン増幅・全波整流部212B及びメイン平滑・中立調整部213Bで演算されたメイン検出トルク信号Tm2に基づいて操舵補助制御が継続されてモータ駆動回路3が制御され、このモータ駆動回路3から出力されるモータ電流で操舵補助用電動モータ31が駆動され、操舵トルクに応じた操舵補助トルクが発生される。
【0052】
さらに、異常判定部32で、第1のトルク検出系統及び第2のトルク検出系統の双方が異常である判定されたときには、操舵補助制御部33で、正常な過去トルク値を使用して操舵補助用電動モータを駆動し、操舵補助トルクを徐々に減少させるトルク漸減処理を行い、安全に操舵補助制御を停止させるフェールセーフモードに移行する。
このように、トルクセンサTSに2つのトルク検出系統を設けているので、一方のトルク検出系統に異常が発生しても、操舵補助制御を正常に継続することができる。
【0053】
一方、軸方向変位検出部40では、図7に示す軸方向変位検出処理をタイマ割込処理として実行しており、入力軸1に衝撃荷重が付加されていない状態では、円筒部材12の窓12a及び12bとヨーク15a及び15bとの軸方向の位置関係は、図4に示すように、窓12aの軸方向右端がヨーク15aの軸方向右端側のフランジに対向し、窓12aの軸方向左端がヨーク15aの軸方向左端側のフランジに対向している。同様に、窓12bの軸方向右端がヨーク15bの軸方向右端側のフランジに対向し、窓12bの軸方向左端がヨーク15bの軸方向左端側のフランジに対向している。
【0054】
したがって、検出コイル13a及び13cは窓12a及び12cに対向し、検出コイル13b及び13dは窓12b及び12dに対向している。このため、検出コイル13aのインダクタンスと検出コイル13bのインダクタンスは一方が増加すると他方が減少することになり、ステップS2で算出される電圧変化量ΔVa及びΔVbは略等しい値となる。すなわち、トルクが大きい場合には、電圧変化量ΔVa及びΔVbがともに大きな値となり、逆にトルクが小さい場合には電圧変化量ΔVa及びΔVbがともに小さな値となる。
【0055】
このため、ステップS3でΔVa≧ΔVs1と判定されたときには、ステップS4でΔVb≧ΔVs2と判定されることにより、ステップS6に移行して、円筒部材12の軸方向変位が生じていないことを表す論理値“0”の軸方向変位検出信号Ssが外部の制御装置に出力される。
また、ステップS3でΔVa<ΔVs1と判定されたときには直ちにステップS6に移行して、論理値“0”の軸方向変位検出信号Ssが外部の制御装置に出力される。
【0056】
ところが、入力軸1に衝撃荷重が付加された場合には、この衝撃荷重がトーションバー3を介して出力軸2に伝達されることから円筒部材12がラック軸4側に軸方向変位する。
この円筒部材12の軸方向変位によって、図4に示す窓12aの右端がヨーク15aの軸方向右端側のフランジより右側に突出し、窓12bの右端も右側に移動してヨーク15aの軸方向左端側のフランジに対向する状態となると、ヨーク15bの軸方向左端側のフランジには窓12bが対向しない状態となる。
【0057】
このため、ヨーク15a及び15bとセンサシャフト部11の凸条11aとの対向面積は、ヨーク15aの対向面積がヨーク15bの対向面積より大きくなり、ヨーク15aに対向する凸条11aを通る磁束が増加し、ヨーク15bに対向する凸条11を通る磁束が大きく減少する。したがって、検出コイル13aのインダクタンスが急操舵時のトルク変化に基づくインダクタンス変化より大きく増加し、同様に検出コイル13bのインダクタンスが急操舵時のトルク変化に基づくインダクタンス変化より大きく低下する。
【0058】
このため、ブリッジ回路210Aから出力される電圧信号Vaはトルクに応じた値より大きな値となり、電圧信号Vbはトルクに応じた値より小さい値となるので、図7の軸方向変位検出処理が実行されたときに、ステップS3では電圧変化量ΔVaが閾値ΔVs1より大きくなるため、ステップS4に移行する。このステップS4では、電圧変化量ΔVbが閾値ΔVs2より大きくなるので、円筒部材12が軸方向に変位したものと判断してステップS5に移行し、軸方向変位を生じたことを表す論理値“1”の軸方向変位検出信号Ssを外部の制御装置に出力する。
【0059】
このため、外部制御装置では、軸方向変位検出信号Ssが論理値"0"から論理値"1"に変化するので、入力軸1に衝撃荷重が付加されたことを検知することができ、各種電気系統の遮断動作、エアバッグの動作等の運転者の安全を確保するために必要な動作を行うことができる。
このように上記実施形態では、ヨーク15a及び15b内に装着される検出コイル13a及び13がそれぞれ窓12a及び12bに対向し、ヨーク15c及び15d内に装着されるコイル13c及び13dがそれぞれ窓12c及び12dに対向するので、ヨーク内の検出コイル同士のトルクに対するインダクタンス特性が同一となり、ヨークを共用することができ、4つの検出コイル毎にヨークを形成する場合に比較して軸方向長さを短くすることができる。
【0060】
しかも、軸方向に配列された検出コイル13a〜13dのうち、軸方向両端側の検出コイル13a及び13dと抵抗体とを組み合わせてブリッジ回路210Aを構成し、軸方向中央側の検出コイル13b及び13cと抵抗体とを組み合わせてブリッジ回路210Bを構成するので、ブリッジ回路を構成する2つのコイル間で磁気的対称性を取ることができ、磁路構成の影響を取り除くことができる。これにより、温度などによる影響を受けにくく、従来例に比較して安定したトルクを検出することができる。
さらに、トルクセンサTSのトルク演算処理部20が前述した構成を有するので、メイン検出トルク信号Tm1及びTm2とサブ検出トルク信号Ts1及びTs2との4つの検出トルク信号に基づいてトルク演算部の異常を判定することが可能となり、信頼性の高い電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【0061】
その上、入力軸1に衝撃荷重が付加されて円筒部材12が軸方向に変位した場合に、この円筒部材の軸方向の変位を検出コイルに交流信号を印加したときのインピーダンスの変化として検出することができ、別途特別な変位検出センサを設けることなく、円筒部材12の軸方向変位を容易に検出することができる。
なお、上記実施形態においては、コントロールユニット30側に異常判定部32を設けた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、トルク演算処理部20側に異常判定部32を設け、この異常判定部32の異常判定結果をコントロールユニット30に通知するようにしてもよい。
【0062】
また、上記実施形態においては、ブリッジ回路210Aの電圧信号Va及びVbに基づいて軸方向変位を検出する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ブリッジ回路210Bの電圧信号Vc及びVdに基づいて軸方向変位を検出するようにしてもよい。
さらに、上記実施形態においては、軸方向変位検出部40で、電圧変化量ΔVa及びΔVを算出して、軸方向変位を検出する場合について説明したが、電圧変化量ΔVa及びΔVに代えて、電圧変化速度を検出して軸方向変位を検出するようにしてもよい。
【0063】
また、上記実施形態においては、一対のヨーク15a及び15bと15c及び15dとの2組の一対のヨークを軸方向に形成した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、一対のヨーク15a及び15bのみを設ける場合でも、トルクの検出と円筒部材12の軸方向変位との双方を検出することができる。
また、上記実施形態においては、本発明によるトルクセンサTSを電動パワーステアリング装置に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、電動パワーステアリング装置以外にも回転軸のトルクを検出する場合に本発明によるトルクセンサTSを適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1…入力軸、2…出力軸、3…トーションバー、5…ハウジング、5a…入力軸側ハウジング部、5b…出力軸側ハウジング部、7…ウォームホイール、8…ウォーム、TS…トルクセンサ、10…トルク検出部、11…センサシャフト、12…円筒部材、13a〜13d…検出コイル、15a,15b,15c,15d…ヨーク、16…シールド板、17…出力線、18…回路基板、20…トルク演算処理回路、21A,21B…トルク演算部、30…コントロールユニット、31…操舵補助用電動モータ、32…異常判定部、33…操舵補助制御部、34…モータ駆動回路、40…軸方向変位検出部、200…交流信号源、201……発振部、202…ノイズフィルタ、203…コネクタ、210A,210B…ブリッジ回路、211A,211B…電流増幅部、212A,212B…メイン増幅・全波整流部、213A,213B…メイン平滑・中立調整部、214A,214B…サブ増幅・全波整流部、215A,215B……サブ平滑・中立調整部、216A,216B…監視部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7