(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に開示された回転電機においては、フランジは保持リングの外周縁から半径方向外方へと延びており、フランジ上には、複数の取付孔が円周方向に所定の間隔に配置されている。当該フランジをハウジングのボス端面に当接させた後、それぞれの取付孔に挿通させた取付ボルトをボスにネジ締めすることによって、ステータはハウジングに固定される。
【0005】
通常、ハイブリッド車両等に搭載される回転電機のハウジングは、軽量化のためにアルミニウム合金のような軽金属によって形成されている。一方、コアが圧入等により取り付けられる保持リングは、温度変化によるコアに対する保持力の低下を避けるために、熱膨張率の差の小さいコアと同質の材質によって形成されている。したがって、保持リングは鉄系の材量にて形成され、ハウジングとは異質の金属材料となる場合が多い。
【0006】
これにより、回転電機に温度変化が発生すると、保持リングとハウジングとの間に相対的な動きが現れる。例えば、回転電機の温度が上昇すると、熱膨張率の大きい金属材料によって形成されたハウジングが、保持リングよりも半径方向外方へと伸長する。したがって、ステータにおいては、ハウジングのボスが保持リングのフランジに形成された取付孔に対して相対的に移動し、ボスに締め付けられている取付ボルトに剪断方向荷重が働き、取付ボルトに緩みが発生する恐れがある。
特に、フランジとボスとの間の相対移動によって、ハウジングの表面に摩耗(フレッティング)が発生した後は、取付ボルトによる締付力が急激に低下する。
【0007】
この場合に、取付ボルトのネジ径をサイズアップして、取付ボルトの締め付けによる軸力を増大させて、その緩みを防止する方法がある。しかしながら、取付ボルトのネジ径を増大させると、保持リングのフランジおよびハウジングが大型化し、延いては、回転電機全体の大型化を余儀なくされる。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ステータをハウジングに取り付けている取付ネジの緩みを防止することのできる回転電機のステータおよびステータの保持リングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る回転電機のステータの発明の構成は、円筒部の軸方向端部において、取付ネジによってハウジングに固定される取付フランジが、半径方向外方に延びるように形成された保持リングと、各々コイルが巻回されるとともに、円環状に並んだ状態で円筒部の内周面に取り付けられた複数のコアと、を備え、ハウジングに回転可能に取り付けられたロータに対し、半径方向外方に対向するように設けられた回転電機のステータであって、取付フランジ上には、円周上において互いに所定の間隔を有するように複数の取付穴群が配置され、各々の取付穴群は、取付ネジが挿入されるように取付フランジを貫通する互いに近接した複数の取付穴によって形成されており、同一の取付穴群に属する互いに隣接した取付穴同士の間の円周方向の間隔は、それぞれ異なる取付穴群に属する互いに隣接した取付穴同士の間の円周方向の間隔より小さく形成され
、取付フランジ上には、同一の取付穴群に属する隣接した取付穴同士の間を切り欠くように形成された溝が形成されたことである。
【0009】
請求項2に係る発明の構成は、
円筒部の軸方向端部において、取付ネジによってハウジングに固定される取付フランジが、半径方向外方に延びるように形成された保持リングと、各々コイルが巻回されるとともに、円環状に並んだ状態で円筒部の内周面に取り付けられた複数のコアと、を備え、ハウジングに回転可能に取り付けられたロータに対し、半径方向外方に対向するように設けられた回転電機のステータであって、取付フランジ上には、円周上において互いに所定の間隔を有するように複数の取付穴群が配置され、各々の取付穴群は、取付ネジが挿入されるように取付フランジを貫通する互いに近接した複数の取付穴によって形成されており、同一の取付穴群に属する互いに隣接した取付穴同士の間の円周方向の間隔は、それぞれ異なる取付穴群に属する互いに隣接した取付穴同士の間の円周方向の間隔より小さく形成され、取付フランジ上には、同一の取付穴群に属する隣接した取付穴同士の間を切り欠くように、外周縁から半径方向内方に進入する溝が形成されたことである。
【0010】
請求項3に係る発明の構成は、請求項1または2の回転電機のステータにおいて、複数の取付穴群は、円筒部の軸方向端部において円周上に均等に配置されるとともに、各々の取付穴群は、一対の取付穴により形成されており、同一の取付穴群に属する双方の取付穴から、ロータの回転軸に対してそれぞれ垂直に下ろされた一対の直線によって形成される角度をβとし、隣り合った取付穴群のそれぞれの円周方向の中心から、回転軸に対してそれぞれ垂直に下ろされた一対の直線によって形成される角度をαとし、円筒部の軸方向端部に設けられた取付穴群の数をNとした場合、関係式β<α/Nが成り立つことである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る回転電機のステータによれば、取付フランジ上には、円周上において互いに所定の間隔を有するように複数の取付穴群が配置され、各々の取付穴群は、互いに近接して設けられた複数の取付穴によって形成されていることにより、ステータの温度変化によって、保持リングの取付フランジに形成された取付穴とハウジングとの間に相対移動が発生しても、それに伴って生ずる剪断方向荷重を、各々の取付穴群に属する取付穴に挿通された複数の取付ネジにより負担するため、1本当たりの取付ネジの剪断方向荷重を低減し、取付ネジの緩みを防止することができる。
【0013】
また、それぞれ異なる取付穴群に属する互いに隣接した取付穴同士の間の円周方向の間隔は、同一の取付穴群に属する互いに隣接した取付穴同士の間の円周方向の間隔より大きく形成されているため、取付フランジに対するハウジングの相対移動は、隣接した取付穴群の間の部位と対向するハウジングの部分によって吸収することができる。
また、1本当たりの取付ネジの剪断方向荷重を低減できることにより、取付ネジのネジ径をサイズアップする必要がないため、保持リングの取付フランジおよびハウジングの大型化を防ぎ、回転電機全体が大型化することを防止することができる。
また、取付フランジ上には、同一の取付穴群に属する隣接した取付穴同士の間を切り欠くように形成された溝が形成されたことにより、回転電機の温度が変化して、保持リングに対してハウジングが半径方向内方に相対移動したとしても、溝によって取付フランジ上の隣接した取付穴同士が接近可能であるため、取付フランジに発生する応力を低減し、延いては取付ネジに働く剪断方向荷重を低減することができる。
【0014】
請求項2に係る回転電機のステータによれば、
取付フランジ上には、円周上において互いに所定の間隔を有するように複数の取付穴群が配置され、各々の取付穴群は、互いに近接して設けられた複数の取付穴によって形成されていることにより、ステータの温度変化によって、保持リングの取付フランジに形成された取付穴とハウジングとの間に相対移動が発生しても、それに伴って生ずる剪断方向荷重を、各々の取付穴群に属する取付穴に挿通された複数の取付ネジにより負担するため、1本当たりの取付ネジの剪断方向荷重を低減し、取付ネジの緩みを防止することができる。
また、それぞれ異なる取付穴群に属する互いに隣接した取付穴同士の間の円周方向の間隔は、同一の取付穴群に属する互いに隣接した取付穴同士の間の円周方向の間隔より大きく形成されているため、取付フランジに対するハウジングの相対移動は、隣接した取付穴群の間の部位と対向するハウジングの部分によって吸収することができる。
また、1本当たりの取付ネジの剪断方向荷重を低減できることにより、取付ネジのネジ径をサイズアップする必要がないため、保持リングの取付フランジおよびハウジングの大型化を防ぎ、回転電機全体が大型化することを防止することができる。
また、取付フランジ上には、同一の取付穴群に属する隣接した取付穴の間を切り欠くように、外周縁から半径方向内方に進入する溝が形成されたことにより、回転電機の温度が変化して、保持リングに対してハウジングが半径方向内方に相対移動したとしても、溝によって取付フランジ上の隣接した取付穴同士が接近可能であるため、取付フランジに発生する応力を低減し、延いては取付ネジに働く剪断方向荷重を低減することができる。
【0015】
請求項3に係る回転電機のステータによれば、複数の取付穴群は、円筒部の軸方向端部において円周上に均等に配置されるとともに、各々の取付穴群は、一対の取付穴により形成されており、同一の取付穴群に属する双方の取付穴から、ロータの回転軸に対してそれぞれ垂直に下ろされた一対の直線によって形成される角度をβとし、隣り合った取付穴群のそれぞれの円周方向の中心から、回転軸に対してそれぞれ垂直に下ろされた一対の直線によって形成される角度をαとし、円筒部の軸方向端部に設けられた取付穴群の数をNとした場合、関係式β<α/Nが成り立つことにより、ステータの温度変化によって、保持リングに対してハウジングが相対移動したとしても、取付ネジへの剪断方向荷重を低減して取付ネジの緩みを防止することができるとともに、取付フランジに発生する応力を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1乃至
図7に基づき、本発明の一実施形態による電動モータ1について説明する。電動モータ1(回転電機に該当する)は、ハイブリッド車両の車輪駆動用の同期モータである。しかしながら、本発明はこれに限定されるべきものではなく、家庭用電器に設けられるモータあるいは一般的な産業用機械を駆動するモータといった、あらゆる電動モータに適用することが可能である。
尚、説明中において回転軸方向または軸方向という場合、特に断らなければ、電動モータ1に含まれたロータ13の回転軸Cに沿った方向、すなわち
図1における左右方向を意味する。また、
図1において、左方を電動モータ1およびクラッチ装置3の前方といい、右方を後方ということがあるが、実際の車両上における方向とは無関係である。
【0020】
図1に示すように、モータハウジング11(ハウジングに該当する)は、ロータ13およびステータ14を内蔵した状態で、前方をモータカバー12により封止されている。モータカバー12の前方には、図示しない車両のエンジンが取り付けられ、モータハウジング11の後方にはトランスミッション(図示せず)が配設されている。
また、電動モータ1を構成するロータ13とエンジンとの間には、湿式多板クラッチであるノーマリクローズタイプのクラッチ装置3が介装されている。さらに、電動モータ1は、トランスミッションを介して図示しない車両の駆動輪と接続されており、電動モータ1による駆動力が駆動輪に入力される。
【0021】
図1に示した電動モータ1が搭載された車両は、エンジンにより走行する場合、エンジンがトランスミッションを介して駆動輪を回転させる。また、電動モータ1により走行する場合、電動モータ1がトランスミッションを介して駆動輪を回転させる。この時、クラッチ装置3をレリーズさせて、エンジンと電動モータ1との間の接続を解除している。さらに、電動モータ1は、クラッチ装置3を介してエンジンにより駆動され、発電機としても機能する。
【0022】
モータカバー12の内周端には、軸受31を介してクラッチ装置3のインプットシャフト32が、回転軸Cを中心に回転可能に取り付けられている。回転軸Cは、エンジンおよびトランスミッションのタービンシャフト2の回転軸でもある。インプットシャフト32は、エンジンのクランクシャフトと接続されている。
また、インプットシャフト32は、クラッチ装置3の係合部33を介して、クラッチアウタ34と接続されている。係合部33が係脱することにより、インプットシャフト32とクラッチアウタ34との間が断続される。
クラッチアウタ34は、電動モータ1のロータ13に連結されるとともに、半径方向内方へと延びて、内端においてタービンシャフト2とスプライン嵌合している。また、クラッチアウタ34とモータハウジング11の固定壁111との間には、双方の間の相対回転が可能なように、ベアリング装置35が介装されている。
【0023】
電動モータ1のロータ13は、クラッチアウタ34を介して、モータハウジング11に回転可能に取り付けられている。ロータ13は、積層された複数の電磁鋼板131を一対の保持プレート132a、132bにより挟み、これに固定部材133を貫通させて端部をかしめることにより形成されている。また、ロータ13の円周上には、図示しない複数の界磁極用マグネットが設けられている。一方の保持プレート132bは、クラッチアウタ34に取り付けられ、これにより、ロータ13はクラッチアウタ34と連結されている。
【0024】
また、モータハウジング11の内周面には、ロータ13と半径方向に対向するように、電動モータ1のステータ14が取り付けられている。ステータ14は、ステータリング15(本発明の保持リングに該当する)の円筒部151の内周面に、回転磁界発生用の複数のコア体16(本発明のコアに該当する)が円環状に並ぶように取り付けられて形成されている。
【0025】
各々のコア体16は、複数のケイ素鋼板(電磁鋼板)が積層されることにより形成されたティース161を備えている。ティース161には一対のボビン162、163が装着され、ボビン162、163は、ティース161の外周面を囲むように互いに嵌合している。さらに、ボビン162、163の回りには、回転磁界を発生させるためのコイル164が巻回されている。コア体16の周囲に巻回されたコイル164は、図示しないバスリングを介して外部のインバータと接続される。
上述した構成を備えた電動モータ1において、コイル164に例えば三相の交流電流が供給されることによりステータ14において回転磁界が発生し、回転磁界に起因する吸引力または反発力によって、ステータ14に対しロータ13が回転される。
【0026】
ステータリング15は鋼板をプレス成形して形成されており、
図2に示すように、リング状の円筒部151と、円筒部151の軸方向端部から半径方向外方に延びた、5個の固定フランジ152a、152b、152c、152d、152e(取付フランジに該当し、以下、総称する場合、固定フランジ152a〜152eと表す)を有している。固定フランジ152a〜152eは、ステータ14をモータハウジング11に取り付けるために、円筒部151の端部円周上において、互いに所定の間隔を有するように配置されている。また、固定フランジ152a〜152e同士の間には、固定フランジ152a〜152eよりも幅狭の外周フランジ153が形成されている。
【0027】
固定フランジ152a〜152eには、それぞれ互いに近接して設けられた一対の取付穴154a、154b、154c、154d、154e、154f、154g、154h、154i、154j(以下、総称する場合、取付穴154a〜154jと表す)が貫通している。取付穴154a〜154jは全て同径に形成され、固定フランジ152a〜152eが全て同形状を呈するように、すべての固定フランジ152a〜152e上において、同位置に形成されている。
ここで、取付穴154aと取付穴154b、取付穴154cと取付穴154d、取付穴154eと取付穴154f、取付穴154gと取付穴154h、取付穴154iと取付穴154jは、各々取付穴群を形成する。
【0028】
図2に示したように、それぞれ一対の取付穴154a〜154jが貫通した複数の固定フランジ152a〜152eは、円筒部151の端部円周上において均等間隔に配置されている。すなわち、それぞれ一対の取付穴154a〜154jによって形成される複数の取付穴群は、円筒部151の端部円周上において均等間隔に配置されている。
ここで、例えば、互いに隣接した固定フランジ152aと固定フランジ152b(固定フランジ152bと固定フランジ152c、または固定フランジ152cと固定フランジ152d、もしくは固定フランジ152dと固定フランジ152eでもよい)のそれぞれの円周方向の中心(それぞれ、取付穴154aと取付穴154bとの間の中央、取付穴154cと取付穴154dとの間の中央となる)から、回転軸Cに対してそれぞれ直線L1、L2を垂直に下ろし、一対の直線L1、L2によって形成される角度(以下、フランジ間ピッチという)をα(本実施形態においてはα=72°)とする。
【0029】
また、同一の固定フランジ152a〜152e上に形成された互いに隣接した取付穴154aおよび取付穴154b、取付穴154cおよび取付穴154d、取付穴154eおよび取付穴154f、取付穴154gおよび取付穴154h、取付穴154iおよび取付穴154jの中心から、回転軸Cに対してそれぞれ直線M1、M2を垂直に下ろし、一対の直線M1、M2によって形成される角度(以下、ボルト間ピッチという)をβとする。
【0030】
さらに、それぞれ異なる固定フランジ152aおよび固定フランジ152b(固定フランジ152bと固定フランジ152c、または固定フランジ152cと固定フランジ152d、あるいは固定フランジ152dと固定フランジ152e、もしくは固定フランジ152eと固定フランジ152aでもよい)上に形成された互いに隣接した取付穴154bおよび取付穴154c(取付穴154dおよび取付穴154e、または取付穴154fおよび取付穴154g、あるいは取付穴154hおよび取付穴154i、もしくは取付穴154jおよび取付穴154aでもよい)の中心から、回転軸Cに対して垂直に下ろした一対の直線M2、M1によって角度γが形成される。
【0031】
図2から明らかなように、本実施形態においては、上述したボルト間ピッチβとγとの間に、関係式γ>βが成り立っている。すなわち、同一の取付穴群に属する(換言すれば、同一の固定フランジ152a上に形成された)互いに隣接した取付穴154aおよび取付穴154b同士の間の円周方向の間隔であるボルト間ピッチβは、それぞれ異なる取付穴群に属する(換言すれば、それぞれ異なる固定フランジ152aおよび固定フランジ152b上に形成された)互いに隣接した取付穴154bおよび取付穴154c同士の間の円周方向の間隔γより小さく形成されている。
【0032】
また、ステータリング15の円周上に形成された取付穴群の数(換言すれば、対になった取付穴154a〜154jが形成された固定フランジ152a〜152eの数)をN(本実施形態においてはN=5)とした場合、Nと上述したフランジ間ピッチα、ボルト間ピッチβとの間には、関係式β<α/Nが成り立っている。
さらに、
図2および
図3に示したように、各々の固定フランジ152a〜152e上には、同一の取付穴群に属する隣接した取付穴154a〜154j同士の間を切り欠くように、固定フランジ152a〜152eの外周縁から半径方向内方に進入するスリット155(溝に該当する)が形成されている。
また、円筒部151の固定フランジ152a〜152eが形成された側と反対側の端部には、リインフォース156が全周において半径方向内方に向けて延びている。
【0033】
上述したように、複数のコア体16は、円筒部151の内周面に焼き嵌めにより取り付けられる。完成したステータリング15は所定温度に加熱されて、その内径が拡張される。加熱された円筒部151に対し、ティース161のバックヨーク部(符号なし)を互いに当接させて、複数のコア体16を円環状に並べた状態で挿入していく。複数のコア体16が円筒部151内に挿入された後、ステータリング15は冷却されて収縮し、各々のコア体16を強固に保持することができる。
また、コア体16をステータリング15内に取り付ける方法として、常温における圧入を適用してもよい。さらに、圧入によりコア体16をステータリング15内に保持させる場合、コア体16と円筒部151との間に接着剤を介在させ、その保持力を増大させてもよい。
【0034】
図1に示すように、コア体16が取り付けられたステータリング15は、モータハウジング11に固定される。固定フランジ152a〜152eをモータハウジング11のボス部112に当接させ、取付ボルト17(取付ネジに該当する)を取付穴154a〜154jに挿通した後、ボス部112に螺合させることにより、固定フランジ152a〜152eはモータハウジング11に取り付けられる。
【0035】
ステータリング15がモータハウジング11に固定された状態で電動モータ1に通電すると、ロータ13の回転にともないステータ14が発熱する。この時、モータハウジング11とステータリング15との間の熱膨張率が異なることに起因して、モータハウジング11のボス部112が、固定フランジ152a〜152eに対して半径方向外方に伸長していく。ボス部112の固定フランジ152a〜152eに対する相対移動により、各々のボス部112と螺合した取付ボルト17には剪断方向荷重が働くが、本実施形態においては、この剪断方向荷重を各々の固定フランジ152a〜152eに貫通した(各々の取付穴群に属する)一対の取付ボルト17によって負担する。
また、モータハウジング11の半径方向外方への伸長の大部分は、互いに異なる固定フランジ152a〜152e(互いに異なる取付穴群)の間の部位と対向するモータハウジング11の部分によって吸収する。
【0036】
図4および
図5は、ステータリング15の軸方向端部に5個の固定フランジ152a〜152eが均等に形成されたステータ14において、100℃に加熱した場合(高温時)と、−60℃に冷却した場合(低温時)の、ボルト間ピッチβに応じて取付ボルト17に働く剪断方向荷重と固定フランジ152a〜152eのリング外側R部(
図3において、Pにてそれぞれ示す)に発生する応力を、有限要素法(Finite Element Method)による構造解析によって求めた特性をそれぞれ示している。
尚、
図4、
図5および後述する
図6において、その特性が示されたステータリング15の各固定フランジ152a〜152eには、前述したスリット155が形成されている。
【0037】
これらによれば、高温時および低温時の双方の場合において、上述した関係式β<α/N(=360°/N
2)を満足するように、β<14.4°(
図4および
図5において、β=14.4°の位置を一点鎖線にて示す)とすることにより、取付ボルト17に働く剪断方向荷重と固定フランジ152a〜152eに発生する応力の増大を、ともに防ぐことができることが分かる。
同様に
図6は、固定フランジを4個にした場合の、高温時における取付ボルト17に働く剪断方向荷重と固定フランジに発生する応力を示している。これからも、高温時において関係式β<α/Nを満足するように、β<22.5°(
図6において、β=22.5°の位置を一点鎖線にて示す)とすることにより、取付ボルト17に働く剪断方向荷重と固定フランジに発生する応力の増大を、ともに防ぐことができることが分かる。
【0038】
すなわち、固定フランジ152a〜152e上に設けられた一対の取付ボルト17のボルト間ピッチβを所定角度以下に設定することにより、ステータ14の温度変化に起因して発生する剪断方向荷重を双方の取付ボルト17によって負担して、各々の取付ボルト17に働く剪断方向荷重を低減することができるが、取付ボルト17のボルト間ピッチβをあまり小さい値にすると、固定フランジ152a〜152e上に発生する応力が増大することになる。本実施形態においては、関係式β<α/Nを満足するようにβの値を設定しているため、取付ボルト17に働く剪断方向荷重と固定フランジ152a〜152eに発生する応力の双方を低減することができる。
【0039】
また、電動モータ1の温度が常温よりも低下して、ステータリング15に対してモータハウジング11が半径方向内方に相対移動したとしても、隣接した取付穴154a〜154jの間を切り欠くように形成されたスリット155によって、固定フランジ152a〜152e上の取付穴154a〜154j同士が接近する(
図3においてFにて示す)ことにより、固定フランジ152a〜152eに発生する応力と取付ボルト17に働く剪断方向荷重を低減する。
固定フランジ152a〜152e上の隣接した取付穴154a〜154jの間を切り欠くようにスリット155を設けない場合、スリット155を設けた場合に比べ、低温時に固定フランジ152a〜152e上に発生する応力が増大し、延いては、
図7において示したように、取付ボルト17に働く剪断方向荷重が著しく増大する。
【0040】
本実施形態によれば、ステータリング15の軸方向端部には、円周上において互いに所定の間隔を有するように取付穴群が配置され、各々の取付穴群は、固定フランジ152a〜152e上において互いに近接して設けられた複数の取付穴154a〜154jによって形成されている。これによって、ステータ14に温度変化が生じて、固定フランジ152a〜152eに形成された取付穴154a〜154jとモータハウジング11との間に相対移動が発生しても、それに伴って生ずる剪断方向荷重を、各々の取付穴群に属する取付穴154a〜154jに挿通された複数の取付ボルト17により負担するため、1本当たりの取付ボルト17の剪断方向荷重を低減し、取付ボルト17の緩みを防止することができる。
【0041】
また、それぞれ異なる取付穴群に属する互いに隣接した取付穴154a〜154j同士の間の円周方向の間隔は、同一の取付穴群に属する互いに隣接した取付穴154a〜154j同士の間の円周方向の間隔より大きく形成されているため、固定フランジ152a〜152eに対するモータハウジング11の相対移動は、ステータリング15の隣接した取付穴群の間の部位と対向するモータハウジング11の部分によって吸収することができる。
また、1本当たりの取付ボルト17の剪断方向荷重を低減できることにより、取付ボルト17のネジ径をサイズアップする必要がないため、ステータリング15の固定フランジ152a〜152eおよびモータハウジング11の大型化を防ぎ、電動モータ1全体が大型化することを防止することができる。
【0042】
また、固定フランジ152a〜152e上には、同一の取付穴群に属する隣接した取付穴154a〜154jの間を切り欠くように、外周縁から半径方向内方に進入するスリット155が形成されたことにより、電動モータ1の温度が常温よりも低下して、ステータリング15に対してモータハウジング11が半径方向内方に相対移動したとしても、スリット155によって固定フランジ152a〜152e上の隣接した取付穴154a〜154j同士が接近可能であるため、固定フランジ152a〜152eに発生する応力を低減し、延いては取付ボルト17に働く剪断方向荷重を低減することができる。
【0043】
また、複数の取付穴群は、円筒部151の軸方向端部において円周上に均等に配置されるとともに、各々の取付穴群は、一対の取付穴154a〜154jにより形成されており、同一の取付穴群に属する双方の取付穴154a〜154jから、ロータ13の回転軸Cに対してそれぞれ垂直に下ろされた一対の直線M1、M2によって形成される角度をボルト間ピッチβとし、隣り合った取付穴群のそれぞれの円周方向の中心から、回転軸Cに対してそれぞれ垂直に下ろされた一対の直線L1、L2によって形成される角度をフランジ間ピッチαとし、円筒部151の軸方向端部に設けられた取付穴群の数をNとした場合、関係式β<α/Nが成り立っている。
これにより、ステータ14の温度変化によって、ステータリング15に対してモータハウジング11が相対移動したとしても、取付ボルト17への剪断方向荷重を低減して取付ボルト17の緩みを防止することができるとともに、固定フランジ152a〜152eに発生する応力を低減することができる。
【0044】
<他の実施形態>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。
ステータリング15上の固定フランジ152a〜152eの形成個数は、モータハウジング11に対するステータ14の取付強度を考慮して、最適な数に決めればよい。また、各々の固定フランジ152a〜152e上に、3個以上の取付穴154a〜154jを設けることにより、取付ボルト17のネジ径を低減してもよい。
【0045】
また、隣り合った固定フランジ152a〜152e同士の間の間隔は、必ずしも均等でなければならないわけではなく、上述したように、隣接する固定フランジ152a〜152eの各々の円周方向の中心から回転軸Cに垂直に下ろした直線L1、L2によって形成されるフランジ間ピッチαを、固定フランジ152a〜152eによって互いに異ならせてもよい。
また、ステータリング15が取り付けられるモータハウジング11の材質は、マグネシウム合金またはチタン合金等の軽金属材料であってもよい。
また、本発明による電動モータ1は、同期モータ、誘導モータ、直流モータあるいはそれ以外のあらゆる回転電機に適用可能である。