特許第5790310号(P5790310)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5790310-アクチュエータ素子の製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5790310
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】アクチュエータ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/293 20130101AFI20150917BHJP
   H01L 41/047 20060101ALI20150917BHJP
   H01L 41/083 20060101ALI20150917BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20150917BHJP
   B06B 1/04 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   H01L41/293
   H01L41/047
   H01L41/083
   H01L41/09
   B06B1/04 Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-182309(P2011-182309)
(22)【出願日】2011年8月24日
(65)【公開番号】特開2013-45866(P2013-45866A)
(43)【公開日】2013年3月4日
【審査請求日】2014年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100117260
【弁理士】
【氏名又は名称】福永 正也
(72)【発明者】
【氏名】大寺 昭三
【審査官】 境 周一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−021328(JP,A)
【文献】 実開平04−083304(JP,U)
【文献】 特開平04−068596(JP,A)
【文献】 特開2002−076459(JP,A)
【文献】 特開2003−152234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/00−41/47
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電歪材料で形成され、両面に内部電極を形成してあるフィルムで構成されるアクチュエータ素子の製造方法であって
電性インクを含浸させてある連続発泡性シート又は繊維状のシートからなる外部電極を、加圧硬化することにより前記内部電極と電気的に接続することを特徴とするアクチュエータ素子の製造方法
【請求項2】
前記内部電極は、導電性インクを塗布することで形成してあることを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ素子の製造方法
【請求項3】
片面又は両面に内部電極を形成してあるフィルムを複数積層して形成してあることを特徴とする請求項1又は2に記載のアクチュエータ素子の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電歪材料で形成されたフィルムに外部電極を設けてあるアクチュエータ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療機器、産業用ロボット等は、精緻な動きを要求される機会が多い。したがって、小型、軽量であり、しかも柔軟性に富むアクチュエータ素子の開発が急務となっている。例えば電歪材料で形成された、撓み部材として用いるシートの両面に電極を設けたアクチュエータ素子等も多々開発されている。
【0003】
最近では、アクチュエータ素子をより軽量化するために、電歪材料で形成されたフィルムを用いるアクチュエータ素子も開発されている。電歪材料で形成されたフィルムの両面に導体パターンを形成することにより、アクチュエータ素子として機能させている。
【0004】
斯かるアクチュエータ素子を製造する場合、従来は圧電センサと同様の方法で製造していた。例えば特許文献1には、圧電フィルムの表面にAu、Cu、Al等を蒸着して電極パターンを形成した圧電センサ(胸郭運動検出センサ)が開示されている。特許文献1に開示されている圧電センサは、外部からの圧力により圧電フィルムにわずかに生じた歪みにより発生した電圧を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−212329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、電歪材料で形成されたフィルムを用いる場合、厚みが数μm以下と薄いことから、外部からの圧力によりフィルムは大きく変形する。したがって、電極との接続部分に、フィルムの変形により生じた応力が集中するため、電極とフィルムとが剥離するおそれがあるという問題点があった。特に接続部分において、フィルムに硬くて薄い電極が形成されているため、硬い部材である電極に応力が集中し、表面にクラックが生じるおそれがあるという問題点があった。
【0007】
電極とフィルムとが剥離した場合、あるいは電極の表面にクラックが生じた場合、電極には大きな電界が生じているので微小な放電が発生し、電極の劣化を促進するおそれもある。
【0008】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、電歪材料で形成されたフィルムの両面に電極を設け、電極とフィルムとの間で剥離が生じることを抑制することができるアクチュエータ素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために第1発明に係るアクチュエータ素子の製造方法は、電歪材料で形成され、両面に内部電極を形成してあるフィルムで構成されるアクチュエータ素子の製造方法であって、導電性インクを含浸させてある連続発泡性シート又は繊維状のシートからなる外部電極を、加圧硬化することにより前記内部電極と電気的に接続することを特徴とする。
【0010】
第1発明では、電歪材料で形成され、両面に内部電極を形成してあるフィルムで構成されたアクチュエータ素子を製造する。導電性インクを含浸させてある連続発泡性シート又は繊維状のシートからなる外部電極を、加圧硬化することにより内部電極と電気的に接続する。連続発泡性シート又は繊維状のシートは導電性インクの吸着性に富むので、連続発泡性シート又は繊維状のシート自体が導電体となる。しかも、連続発泡性シート又は繊維状のシートは可撓性を有しているので、フィルムが大きく変形した場合であっても、その変位を吸収することができ、外部電極とフィルムとの接続部分に応力が集中して、外部電極とフィルムとの間で剥離が生じることを抑制することが可能なアクチュエータ素子を製造することができる
【0011】
また、第2発明に係るアクチュエータ素子の製造方法は、第1発明において、前記内部電極は、導電性インクを塗布することで形成してあることを特徴とする。
【0012】
第2発明では、内部電極は、導電性インクを塗布することで形成してあるので、外部電極である導電性インクを含浸させた連続発泡性シート又は繊維状のシートとの親和性が高くなり、フィルム上の内部電極に外部電極を配置して、そのまま、又は導電性インクを再度塗布して加圧硬化することにより、内部電極と外部電極との接着力を高めることが可能となる。
【0013】
また、第3発明に係るアクチュエータ素子の製造方法は、第1又は第2発明において、片面又は両面に内部電極を形成してあるフィルムを複数積層して形成してあることを特徴とする。
【0014】
第3発明では、片面又は両面に内部電極を形成してあるフィルムを複数積層することにより、全体としてアクチュエータ素子の変位を大きくすることができる。
【発明の効果】
【0015】
上記構成により、導電性インクを含浸させてある連続発泡性シート又は繊維状のシートからなる外部電極を、加圧硬化することにより内部電極と電気的に接続する。連続発泡性シート又は繊維状のシートは導電性インクの吸着性に富むので、連続発泡性シート又は繊維状のシート自体が導電体となる。しかも、連続発泡性シート又は繊維状のシートは可撓性を有しているので、フィルムが大きく変形した場合であっても、その変位を吸収することができ、外部電極とフィルムとの接続部分に応力が集中して、外部電極とフィルムとの間で剥離が生じることを抑制することが可能なアクチュエータ素子を製造することができる
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態に係るアクチュエータ素子の構成を示す模式図である。
図2】本発明の実施の形態に係るアクチュエータ素子の外部電極の製造方法を示す模式図である。
図3】本発明の実施の形態に係るアクチュエータ素子の外部電極の接続した状態を示す例示図である。
図4】本発明の実施の形態に係るアクチュエータ素子の電歪フィルムと外部電極との接続部分への応力の集中を抑制する原理の説明図である。
図5】本発明の実施の形態に係るアクチュエータ素子の製造方法を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施の形態では、高分子電歪材料で形成された複数の電歪フィルム(フィルム)を積層して形成されたアクチュエータ素子の製造方法について説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態に係るアクチュエータ素子の構成を示す模式図である。本実施の形態に係るアクチュエータ素子10は、高分子電歪材料で形成された電歪フィルム31の両面に、それぞれ内部電極として導体パターン41、42が形成されている。電歪フィルム31の同じ側にて、導体パターン41、42に外部電極43、44をそれぞれ接続してある。
【0019】
電歪フィルム31を形成する高分子電歪材料は、強誘電性を有し、永久双極子を有する高分子圧電材料であれば、特に限定されるものではない。例えばPVDF(ポリビニリデンフルオロイド)、PVDF(ポリビニリデンフルオロイド)系の共重合体、例えばコーポリマであるP(VDF−TrFE−HFP)、あるいはPVDF系のターポリマであるP(VDF−TrFE−CFE)、P(VDF−TrFE−CTFE)、P(VDF−TrFE−CDFE)、P(VDF−TrFE−HFA)、P(VDF−TrFE−HFP)、P(VDF−TrFE−VC)、P(VDF−VF)等が好ましい。なお、Pはポリを、VDFはビニリデンフルオロイドを、TrFEはトリフルオロエチレンを、CFEはクロロフルオロエチレンを、CTFEはクロロトリフルオロエチレンを、CDFEはクロロディフルオロエチレンを、HFAはヘキサフルオロアセトンを、HFPはヘキサフルオロプロピレンを、VCはビニルクロライドを、VFはビニルフルオロイドを、それぞれ示している。
【0020】
特に、P(VDF−TrFE−CFE)が好ましい。電歪フィルム31を大きく変形させることが可能だからである。また、電歪フィルム31の厚みは適宜設定することが可能であるが、例えば数μm〜100μm程度が好ましい。
【0021】
具体的には、電歪フィルム31を、数μm〜100μm程度の厚みに成形し、電歪フィルム31の表裏両面に、マスクを用いて導電性インクを噴霧した後、85℃で乾燥させることにより、導体パターン(内部電極)41、42を形成する。導電性インクの粘度にもよるが、インクジェット方式、はけ塗り、スクリーン印刷方式等、適宜形成方法を変更しても良い。
【0022】
導電性インクとしては、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)、PPy(ポリピロール)、PANI(ポリアニリン)等の有機導電性材料を用い、有機バインダーとともに、溶剤に溶解させて使用する。有機バインダーとしては、例えばゼラチン系バインダー、アクリル系バインダー、ポリビニルアルコール系バインダー等を用いることができる。溶剤は、メタノール、エタノール等の有機導電性材料のような、有機バインダーを溶解することが可能な溶剤から選択すればよい。
【0023】
外部電極43、44としては、導電性インクを含浸させた連続発泡性シート又は繊維状のシートを用いる。連続発泡性シートとしては、例えばPP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)等の高分子材料で形成されたシートを用いることが好ましく、繊維状のシートとしては、セルロースからなる和紙、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)等の高分子材料のナノファイバからなる不織布等を用いることが好ましい。
【0024】
図2は、本発明の実施の形態に係るアクチュエータ素子10の外部電極43、44の製造方法を示す模式図である。図2では、高分子電歪材料で形成された電歪フィルム31の片面に、内部電極として導体パターン41又は導体パターン42が形成されている場合について説明する。図2(a)に示すように、例えば連続発泡性シート又は繊維状のシートとして和紙14を用いる場合、和紙14にPEDOTを用いた導電性インク13を含浸させた後、85℃で乾燥させる。斯かる工程を繰り返すことにより、和紙14の繊維の表面に導電性インク13を満遍なく付着させて外部電極43、44を形成する。
【0025】
そして、図2(b)に示すように、形成された外部電極43、44を、電歪フィルム31の表裏両面に形成された導体パターン(内部電極)41、42と接続する。具体的には、電歪フィルム31の表面に形成された導体パターン41と電歪フィルム31の裏面に形成された導体パターン42とは極性が異なるので、電歪フィルム31の表裏それぞれの面において、後述する導体パターン41、42の引き出し電極と外部電極43、44とを、それぞれ接続する。
【0026】
図3は、本発明の実施の形態に係るアクチュエータ素子10の外部電極43、44を接続した状態を示す例示図である。図3に示すように、電歪フィルム31の両面に形成してある導体パターン41、42の引き出し電極51、52は、同じ方向へ互いに重なり合わない位置へ、それぞれ電歪フィルム31の表面又は裏面において引き出されている。外部電極43、44は、引き出し電極51、52に接触するように、それぞれ電歪フィルム31の表面又は裏面に配置し、100℃で加圧硬化する。もちろん、配置した時点で導電性インクを適宜部分的に塗布し、85℃で加圧硬化することで外部電極43、44を固着しても良い。
【0027】
このように外部電極43、44を接続することにより、異なる極性を有する電極間で短絡が生じることを未然に回避することができる。また、外部電極43、44が可撓性を有していることから、電歪フィルム31が大きく変形した場合であっても、外部電極43、44との接続部分に応力が集中しない。
【0028】
図4は、本発明の実施の形態に係るアクチュエータ素子10の電歪フィルム31と外部電極43、44との接続部分への応力の集中を抑制する原理の説明図である。図4(a)は従来の外部電極を用いる場合を示している。従来の外部電極60は金属製であり、可撓性をほとんど有していない。したがって、電歪フィルム31が大きく変形した場合、外部電極60との接続部分の端部50には、応力が集中する。応力の集中により、外部電極60が電歪フィルム31から部分的に剥離する、外部電極60の表面にクラックが生じる等により、外部電極60の劣化が促進されるおそれがあった。
【0029】
図4(b)は、本実施の形態に係る外部電極43、44を用いる場合を示している。本実施の形態に係る外部電極43、44は可撓性を有しているので、電歪フィルム31が大きく変形した場合であっても、外部電極43、44の形状もそれに追随して変形することができる。したがって、外部電極43、44との接続部分の端部50に、応力が集中しない。
【0030】
図5は、本発明の実施の形態に係るアクチュエータ素子10の製造方法を示す斜視図である。図5では、電歪フィルム31の片面に、内部電極として導体パターン41又は導体パターン42を形成し、複数積層している場合を例に挙げて説明する。図5(a)に示すように、複数の電歪フィルム31の片面に、極性の異なる導体パターン41、42を形成する。そして、導体パターン41、42の引き出し電極51、52に外部電極43、44を、それぞれ接続してある。
【0031】
そして、外部電極43、44が同じ方向へ、交互に重なるよう、複数の電歪フィルム31を積層し、100℃で加圧硬化することにより、図5(b)に示すような積層型のアクチュエータ素子10を作製することができる。
【0032】
複数の電歪フィルム31を積層してあるので、全体としてアクチュエータ素子10の変位が大きくなる。しかし、外部電極43、44が可撓性を有しているので、アクチュエータ素子10の変位が大きくなった場合であっても電歪フィルム31から外部電極43、44が剥離するおそれが少ない。
【0033】
以上のように本実施の形態によれば、アクチュエータ素子10は、導電性インク13を含浸させてある連続発泡性シート又は繊維状のシート14を外部電極43、44を、加圧硬化することにより内部電極と電気的に接続する。連続発泡性シート又は繊維状のシート14は導電性インク13の吸着性に富むので、連続発泡性シート又は繊維状のシート14自体が導電体となる。しかも、連続発泡性シート又は繊維状のシート14は可撓性を有しているので、電歪フィルム31が大きく変形した場合であっても、その変位を吸収することができ、外部電極43、44と電歪フィルム31との接続部分に応力が集中して、外部電極43、44と電歪フィルム31との間で剥離が生じることを抑制することが可能なアクチュエータ素子を製造することができる
【0034】
その他、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内であれば多種の変形、置換等が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0035】
10 アクチュエータ素子
13 導電性インク
14 和紙(連続発泡性シート又は繊維状のシート)
31 電歪フィルム(フィルム)
41、42 導体パターン(内部電極)
43、44 外部電極
51、52 引き出し電極
図1
図2
図3
図4
図5