(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら本発明による半導体光集積素子の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
図1及び
図2は、本発明の一実施形態に係る半導体光集積素子1Aを示す図である。
図1(a)はこの半導体光集積素子1Aの平面図であり、
図1(b)は半導体光集積素子1Aの底面図であり、
図1(c)は
図1(a)に示されたI−I線に沿った断面を示している。また、
図2(a)は
図1(a)に示されたII−II線に沿った断面を示しており、
図2(b)は
図1(a)に示されたIII−III線に沿った断面を示している。
図1及び
図2に示されるように、この半導体光集積素子1Aは、半絶縁性基板10と、半絶縁性基板10の主面10a上に設けられた利得領域20及び波長制御領域40とを備えている。
【0017】
半絶縁性基板10は、例えばFeドープInPといった半絶縁性の化合物半導体材料から成る。半絶縁性基板10の主面10aは、所定の光導波方向A1に並ぶ第1の領域10c及び第2の領域10dを含んでいる。利得領域20及び波長制御領域40は、半絶縁性基板10の主面10a上において、所定の光導波方向A1に並んで配置されている。換言すれば、利得領域20は第1の領域10c上に設けられており、波長制御領域40は第2の領域10d上に設けられている。
【0018】
図1(c)及び
図2(b)に示されるように、利得領域20は、主面10aの第1の領域10c上に設けられた第1導電型の第1クラッド層であるn型クラッド層21、n型クラッド層21上に設けられた活性層22、及び活性層22上に設けられた第2導電型の第2クラッド層であるp型クラッド層23を有している。n型クラッド層21及びp型クラッド層23は、それぞれ例えばSiドープInP及びZnドープInPによって構成される。活性層22は、例えばInGaAsP(バンドギャップ波長1.54μm)からなる井戸層と、InGaAsP(バンドギャップ波長1.25μm)からなる障壁層とが交互に積層された単一または多重の量子井戸構造を有する。なお、活性層22は、単一の層によって構成されてもよい。
【0019】
n型クラッド層21の内部には、図示しない回折格子層が設けられることができる。この回折格子層は、所定の周期で形成された例えばInGaAsPからなる周期構造が、これより屈折率が小さい材料(例えばInP)によって埋め込まれた構成を備えている。
【0020】
n型クラッド層21、活性層22及びp型クラッド層23は、ストライプメサ構造24を構成しており、活性層22をコア層とし、所定の光導波方向A1に沿って延びる光導波路となっている。このストライプメサ構造24の両側面は、例えばFeドープInPといった半絶縁性半導体からなる埋込領域25によって埋め込まれている。埋込領域25上には、絶縁性の保護膜79,80が形成されている。保護膜79,80は、例えばSiO
2、SiN若しくはSiONといった絶縁性シリコン化合物からなる。保護膜79,80のうちストライプメサ構造24上の部分には開口が形成されており、ストライプメサ構造24上に設けられたp型オーミック電極27と、保護膜80上に形成された配線28の一端とが、該開口を介して互いに接触している。p型オーミック電極27は例えばInGaAs層とオーミック接触可能なAuZn又はPt合金から成り、配線28は例えばTiW/Au又はTi/Pt/Auから成る。配線28の他端の上には、例えばAuメッキにより形成されたワイヤボンディングのためのパッド電極29が設けられている。
【0021】
また、保護膜79,80のうちn型クラッド層21上の部分には別の開口が形成されており、n型クラッド層21上に設けられたn型オーミック電極30と、保護膜80上に形成された配線32の一端とが、該別の開口を介して互いに接触している。n型オーミック電極30は例えばInP層とオーミック接触可能なAuGe又はAuGeNi合金から成り、配線32は例えばTiW/Au又はTi/Pt/Auから成る。配線32の他端の上には、例えばAuメッキにより形成されたワイヤボンディングのためのパッド電極33が設けられている。
【0022】
また、本実施形態の利得領域20は、n型クラッド層21と半絶縁性基板10との間に、エッチングマーク層31を更に有している。エッチングマーク層31は、後述する貫通孔11を半絶縁性基板10にエッチングにより形成する際に、該エッチングの停止タイミングを知らせるエッチングマークとなる層である。エッチングマーク層31は、例えば光吸収率がn型クラッド層21や活性層22と同程度に低い半導体材料、例えばInGaAsP(例えばバンドギャップ波長1.05μm)からなるとよい。なお、利得領域20は、このエッチングマーク層31に代えて、半絶縁性基板10に対してエッチング選択性を有する層(エッチング停止層)を有しても良い。
【0023】
利得領域20において、半絶縁性基板10には、2つの貫通孔(スルーホール)11が形成されている。これらの貫通孔11は、半絶縁性基板10の裏面10bから厚さ方向に延びて主面10aの第1の領域10cに達している。なお、本実施形態では、貫通孔11はエッチングマーク層31を貫通しており、n型クラッド層21に達している。また、これらの貫通孔11は、半絶縁性基板10の厚さ方向から見て、利得領域20において光導波路となる部分(すなわちストライプメサ構造24)と重ならない位置に配置されている。具体的には、これらの貫通孔11は、半絶縁性基板10の厚さ方向から見て、ストライプメサ構造24の両側面に沿った領域にそれぞれ配置されている。
【0024】
貫通孔11の内部には、金属部材12が設けられている。金属部材12は、例えばAuからなり、半絶縁性基板10の裏面10bからn型クラッド層21に達している。このような金属部材12は、貫通孔11の内面に通電用の金属膜(例えばPt/Ti/Pt/Au)を形成したのち、Auメッキを施すことによって好適に形成される。本実施形態では、貫通孔11は金属部材12によって埋め込まれている。本実施形態では、貫通孔11がエッチングマーク層31を貫通してn型クラッド層21に達しているので、金属部材12の一端はn型クラッド層21と接触している。金属部材12の他端は、半絶縁性基板10の裏面10bと面一になっている。また、金属部材12は、貫通孔11と同様に、半絶縁性基板10の厚さ方向から見て、利得領域20において光導波路となる部分(ストライプメサ構造24)と重ならない位置に配置されている。具体的には、金属部材12は、半絶縁性基板10の厚さ方向から見て、ストライプメサ構造24の両側面に沿った領域にそれぞれ配置されている。
【0025】
図1(c)及び
図2(a)に示されるように、波長制御領域40は、主面10aの第2の領域10d上に設けられた下部クラッド層41(第3クラッド層)、下部クラッド層41上に設けられた光導波層42、及び光導波層42上に設けられた上部クラッド層43(第4クラッド層)を有している。下部クラッド層41は、例えば利得領域20のn型クラッド層21と共通の層として設けられる。その場合、下部クラッド層41は例えばSiドープInPからなる。上部クラッド層43は、例えばZnドープInPによって構成される。光導波層42は、例えばバンドギャップが活性層22より大きいInGaAsP(例えばバンドギャップ波長1.33μm)からなる。なお、下部クラッド層41の内部には、利得領域20と共通の回折格子層が設けられることができる。
【0026】
下部クラッド層41、光導波層42及び上部クラッド層43は、ストライプメサ構造44を構成しており、光導波層42をコア層とし、所定の光導波方向A1に沿って延びる光導波路となっている。このストライプメサ構造44の両側面は、利得領域20と共通の埋込領域25によって埋め込まれている。埋込領域25上には、利得領域20と共通の保護膜79,80が形成されている。但し、この波長制御領域40では、保護膜79,80のストライプメサ構造44上の部分及び下部クラッド層41上の部分には開口が形成されていない。
【0027】
なお、本実施形態の波長制御領域40は、下部クラッド層41と半絶縁性基板10との間に、利得領域20と共通のエッチングマーク層31を更に有している。波長制御領域40において、エッチングマーク層31は、例えば後述する抵抗体50からの熱が半絶縁性基板10へ逃げることを防ぐ役割を果たす。
【0028】
波長制御領域40は、加熱部材としての抵抗体50を更に有している。抵抗体50は、ストライプメサ構造44上における保護膜79上において、光導波層42に沿って設けられている。
図1(a)に示されるように、抵抗体50は所定の光導波方向A1に沿って延びており、該方向の一端には配線51aを介してパッド電極52aが接続され、該方向の他端には配線51bを介してパッド電極52bが接続されている。抵抗体50は、例えばTiWやNiCrSiといった材料から成り、その厚さは例えば200nmである。なお、配線51a,51bは例えばTiW/Au又はTi/Pt/Auから成り、パッド電極52a,52bは例えばAuメッキにより形成される。
【0029】
図1(b)及び
図1(c)に示されるように、半導体光集積素子1Aは、半絶縁性基板10の裏面10b上に設けられた金属膜60を更に備えている。金属膜60は、例えばPt/Ti/Pt/Auから成り、半導体光集積素子1Aが実装(チップボンディング)される際に、金属接着剤等による接合の為に用いられる。金属膜60は、半絶縁性基板10の厚さ方向から見て、第2の領域10dと重なる領域(すなわち波長制御領域40)に形成された開口60aを有する。半導体光集積素子1Aが実装される際、この開口60aによって、半絶縁性基板10と実装面との間に空隙が形成される。
【0030】
以上の構成を備える半導体光集積素子1Aは、次のように動作する。利得領域20では、パッド電極29,33から配線28,32を介して電流が注入されると、活性層22において井戸層のバンドギャップに応じた波長の光が発生する。この光は、利得領域20及び波長制御領域40の光導波路内を共振してレーザ光となり、半導体光集積素子1Aの光導波方向A1における一端面から外部へ出射する。また、波長制御領域40では、パッド電極52a,52bから配線51a,51bを介して供給される電流が抵抗体50を通過することにより、抵抗体50においてジュール熱が発生する。波長制御領域40は、このジュール熱によって光導波層42の温度を制御することにより、光導波層42を導波するレーザ光の波長を選択する。
【0031】
続いて、本実施形態に係る半導体光集積素子1Aの製造方法の例について説明する。
図3〜
図11は、この製造方法の各工程を示す斜視図である。また、
図12〜
図14は、この製造方法のその後の工程を示す断面図であって、
図12及び
図13は光導波方向に垂直な断面(
図1のIII−III断面に相当)を示しており、
図14は光導波方向に沿った断面(
図1のI−I断面に相当)を示している。なお、以下の説明において、各半導体層の成長には、有機金属気相成長法(OMVPE)が好適に用いられる。
【0032】
まず、
図3(a)に示されるように、半絶縁性基板10の主面10a上に、エッチングマーク層31、n型バッファ層70、回折格子層71、及びキャップ層(図示せず)を順に成長させる。なお、n型バッファ層70は例えばn型InPから成り、
図1及び
図2に示されたn型クラッド層21及び下部クラッド層41の各一部を構成する。回折格子層71は例えばInGaAsPから成り、キャップ層は例えばInPから成る。エッチングマーク層31、n型バッファ層70、回折格子層71、及びキャップ層の各厚さは、それぞれ例えば200nm、500nm、70nm、及び20nmである。
【0033】
次に、CVDによりSiN膜をキャップ層上に形成したのち、このSiN膜上にレジストを塗布し、干渉露光法によりレジストに回折格子パターンを形成する。そして、このレジストをマスクとしてSiN膜をエッチングすることにより、SiN膜に回折格子パターンを形成する。なお、このとき、CF
4系ガスを用いた誘導結合プラズマイオンエッチング(ICP−RIE)によりSiN膜をエッチングするとよい。また、エッチングがSiN膜を貫通したのち、ICP−CVDにおけるエッチングガスをO
2に切り替えることにより、レジストをアッシングして除去するとよい。その後、このSiN膜をマスクとして、回折格子層71をエッチングすることにより、回折格子層71に回折格子パターンを形成する。なお、このとき、CH
4/H
2系ガスを用いたICP−RIEにより回折格子層71をエッチングするとよい。また、エッチングが回折格子層71を貫通してn型クラッド層21(下部クラッド層41)に到達したところでエッチングを停止する。その後、フッ酸を用いてSiN膜を除去し、RIEにより損傷した表層部分を硫酸及び過酸化水素の水溶液を用いてエッチング除去する。
【0034】
続いて、回折格子層71の上に、波長制御領域40の為の各半導体層、すなわちn型InP層72、光導波層42、p型InP層73、下部キャップ層及び上部キャップ層(不図示)を順に成長させる。なお、n型InP層72は、n型クラッド層21及び下部クラッド層41の各一部を構成する。また、p型InP層73は、上部クラッド層43の一部を構成する。下部キャップ層は例えばZnドープInGaAsP(バンドギャップ波長1.15μm)からなり、上部キャップ層は例えばZnドープInPからなる。n型InP層72、光導波層42、p型InP層73、下部キャップ層及び上部キャップ層の各厚さは、例えばそれぞれ120nm、250nm、460nm、20nm、及び20nmである。
【0035】
続いて、CVDによりSiO
2膜をp型InP層73上に形成する。そして、このSiO
2膜のうち波長制御領域40上に相当する部分をレジストにより保護する。このレジストをマスクとしてSiO
2膜をエッチングすることにより、SiO
2膜のうち利得領域20上に相当する部分を除去する。この後、レジストを除去する。こうして、
図3(b)に示されるように、波長制御領域40となるべき領域を覆うエッチングマスク74が形成される。
【0036】
続いて、
図4(a)に示されるように、エッチングマスク74を用いて、上部キャップ層及び下部キャップ層(不図示)、p型InP層73、及び光導波層42をエッチングする。具体的には、まず、上部キャップ層を、塩酸、水及び酢酸の混合液(体積比は塩酸1:水1:酢酸10)を用いてエッチングする。塩酸の濃度は例えば36重量パーセントであり、酢酸の濃度は例えば31重量パーセントである。次に、下部キャップ層を、硫酸、過酸化水素水及び水の混合液(体積比は硫酸1:過酸化水素水1:水1)を用いてエッチングする。硫酸の濃度は例えば96重量パーセントである。そして、p型InP層73を、臭化水素及び水の混合液(体積比は臭化水素2:水1)を用いてエッチングする。臭化水素の濃度は例えば47重量パーセントである。続いて、光導波層42を、塩酸、過酸化水素水及び水の混合液(体積比は塩酸1:過酸化水素水5:水5)を用いてエッチングする。なお、これらの層の側面(利得領域20と波長制御領域40との境界面)は、わずかにサイドエッチングされる。深さ方向のエッチングは、n型InP層72において停止する。
【0037】
続いて、エッチングマスク74が残った状態で、
図4(b)に示されるように、利得領域20の為の各半導体層、すなわち活性層22及びp型InP層75を主面10aの第1の領域10c上に選択的に成長させる。p型InP層75は、p型クラッド層23の一部を構成する層である。なお、本工程では、活性層22を成長させる前に下部光閉じ込め層を更に成長させ、活性層22を成長させた後に上部光閉じ込め層を更に成長させてもよい。下部光閉じ込め層および上部光閉じ込め層は、例えばアンドープInGaAsP(バンドギャップ波長1.25μm)から成る。下部光閉じ込め層、上部光閉じ込め層、及びp型InP層75の各厚さは、例えばそれぞれ50nm、50nm、及び500nmである。また、活性層22を多重量子井戸構造とする場合、井戸層及び障壁層の各厚さをそれぞれ5nm、10nmとし、井戸層の数を例えば6とするとよい。本工程により、活性層22と光導波層42とのバットジョイント(Butt−Joint)構造が形成される。
【0038】
なお、上述した製造工程において、波長制御領域40の為の各半導体層を先に成長させ、利得領域20の為の各半導体層をその後に成長させているが、これらの領域20,40の成長の順序はこれに限られるものではない。例えば、主面10a上に活性層22及びp型InP層75を成長させ、エッチングマスク74と同様のマスクをp型InP層75上に形成して活性層22及びp型InP層75をエッチングしたのち、該マスクを用いて光導波層42及びp型InP層73を選択的に成長させてもよい。この場合、p型InP層75の厚さを例えば460nmとして、その上に下キャップ層及び上キャップ層(それぞれ厚さ20nm)を成長させ、p型InP層73の厚さを例えば500nmとするとよい。
【0039】
続いて、フッ酸を用いてエッチングマスク74を除去したのち、
図5(a)に示されるように、p型InP層76を主面10a上の全面に成長させる。このp型InP層76は、利得領域20においてp型クラッド層23の残りの部分を構成し、また、波長制御領域40において、上部クラッド層43の残りの部分を構成する。この工程では、更に、図示しないp型InGaAsコンタクト層をp型InP層76上に成長させる。
【0040】
続いて、
図5(b)に示されるように、p型InP層76上(p型InGaAsコンタクト層上)にエッチングマスク77を形成する。具体的には、まず、CVDによりSiO
2膜をp型InP層76上に形成する。そして、p型InP層76のうちストライプメサ構造24,44となるべき部分を覆うSiO
2膜の部分をレジストにより保護する。このレジストをマスクとしてSiO
2膜をエッチングすることにより、ストライプ状のエッチングマスク77が形成される。この工程ののち、レジストを除去する。
【0041】
続いて、
図6(a)に示されるように、エッチングマスク77を用いて、p型InP層76からn型バッファ層70に達するまでエッチングを行う。こうして、ストライプメサ構造24,44が形成される。なお、この工程では、例えばHI系ガスを用いたICP−RIEを行い、エッチング深さは例えば3.0μm〜4.0μmである。また、この工程では、組成が互いに異なる活性層22及び光導波層42をほぼ等しい速度でエッチングしてエッチング面が平坦になるように、活性層22及び光導波層42のエッチング速度差が小さいエッチングガスを用いることが望ましい。
【0042】
続いて、
図6(b)に示されるように、エッチングマスク77を残した状態で埋込領域25を成長させることにより、ストライプメサ構造24,44の両側面を埋め込む。なお、この工程では、例えば1,2ジクロロエタン添加の下でFeドープInPを成長させるとよい。その場合、ストライプメサ構造24,44の両側面における成長速度は、主面10aに沿ったn型バッファ層70の表面における成長速度よりも速くなる。これにより、埋込領域25の表面には、ストライプメサ構造24,44に沿って延びる斜面25aが形成される。この工程ののち、フッ酸を用いてエッチングマスク77を除去する(
図7(a))。
【0043】
続いて、
図7(b)に示されるように、ストライプメサ構造24,44上及び埋込領域25上に、エッチングマスク78を形成する。エッチングマスク78は、光導波方向と交差する方向において半導体光集積素子の半導体積層部分を分離するためのエッチングに用いられる。このため、エッチングマスク78は、ストライプメサ構造24,44の両側面に沿った両側縁78aを有する。なお、エッチングマスク78は、前述したエッチングマスク74、77と同様の方法によって好適に形成される。
【0044】
続いて、
図8(a)に示されるように、エッチングマスク78を用いて、埋込領域25、n型バッファ層70、及びエッチングマーク層31をエッチングする。具体的には、まず、埋込領域25及びn型バッファ層70を、塩酸、水及び酢酸の混合液(体積比は塩酸1:水1:酢酸10)を用いてエッチングする。塩酸の濃度は例えば36重量パーセントであり、酢酸の濃度は例えば31重量パーセントである。次に、エッチングマーク層31を、硫酸、過酸化水素水及び水の混合液(体積比は硫酸1:過酸化水素水1:水1)を用いてエッチングする。こうして、半絶縁性基板10の主面10aを露出させる。
【0045】
続いて、
図8(b)に示されるように、保護膜79を形成する。保護膜79は、主に半導体層を後述する抵抗体50から保護する為に設けられる。保護膜79は、例えばCVDにより絶縁性シリコン化合物膜を堆積することによって形成され、その厚さは例えば200nmである。
【0046】
続いて、
図9(a)に示されるように、ストライプメサ構造44上の保護膜79の上に抵抗体50を形成する。具体的には、抵抗体50の材料となる金属膜(例えばTiW膜)を主面10a上の全面にスパッタし、この金属膜のうち抵抗体50となるべき領域の上にエッチングマスクを形成する。そして、エッチングマスクに覆われていない金属膜の部分をエッチングにより除去する。その後、
図9(b)に示されるように、半導体層および抵抗体50を保護するための保護膜80を、主面10a上の全面に形成する。保護膜80は、例えばCVDにより絶縁性シリコン化合物膜を堆積することによって形成され、その厚さは例えば200nmである。
【0047】
続いて、
図10(a)に示されるように、p型オーミック電極27をストライプメサ構造24上に形成する。この工程では、まず、ストライプメサ構造24上の領域に開口を有するレジストマスクを形成し、このレジストマスクを用いて保護膜79,80をエッチングする。これにより、ストライプメサ構造24上の保護膜79,80の部分に、開口(コンタクトホール)が形成される。そして、レジストマスクを残存させた状態でAu/Zn/Auの金属蒸着を行い、リフトオフ法により不要なAu/Zn/Auを除去してp型オーミック電極27を形成する。その後、350℃〜420℃の熱処理を行い、p型InGaAsコンタクト層との合金化を行う。
【0048】
続いて、
図10(b)に示されるように、n型オーミック電極30をn型バッファ層70上に形成する。この工程では、まず、ストライプメサ構造24を除くn型バッファ層70上の領域に開口を有するレジストマスクを形成し、このレジストマスクを用いて保護膜79,80及び埋込領域25をエッチングする。なお、保護膜79,80はフッ酸を用いて除去することができ、また埋込領域25は塩酸、水及び酢酸の混合液(体積比は塩酸1:水1:酢酸10)を用いて除去することができる。こうして、n型バッファ層70の表面を露出させる。そして、レジストマスクを残存させた状態でAu/Geの金属蒸着を行い、リフトオフ法により不要なAu/Geを除去してn型オーミック電極30を形成する。その後、320℃〜350℃の熱処理を行い、n型バッファ層70との合金化を行う。
【0049】
続いて、
図11(a)に示されるように、抵抗体50を保護膜80から露出させる。この工程では、抵抗体50の平面形状に応じた開口を有するレジストマスクを保護膜80上に形成し、このレジストマスクを用いて保護膜80をエッチングすることにより、抵抗体50を保護膜80から露出させることができる。なお、保護膜80はフッ酸を用いて除去することができる。
【0050】
続いて、
図11(b)に示されるように、配線28,32,51a及び51b、並びにパッド電極29,33,52a及び52bを形成する。この工程では、まず、TiW/Au膜を主面10a上の全面にスパッタし、配線28,32,51a及び51b、並びにパッド電極29,33,52a及び52bが形成されるべき領域を除くTiW/Au膜の部分を除去する。そして、残存したTiW/Au膜に通電を行いながらAuメッキを行う。その後、主面10a上の全面に対してAuエッチングを行い不要なAuを除去する。以上の工程により、主面10a上におけるプロセスが完了する。
【0051】
続いて、半絶縁性基板10の主面10a側をレジストにて保護した後、主面10a側を支持板に張り付けた状態で半絶縁性基板10の裏面10bを研磨することにより、半絶縁性基板10の厚さを100μm〜300μm程度まで薄くする。そして、
図12(a)に示されるように、貫通孔11の平面形状に対応する開口を有するレジストマスク81を、フォトリソグラフィー技術を用いて半絶縁性基板10の裏面10b上に形成する。その後、
図12(b)に示されるように、レジストマスク81を用いて半絶縁性基板10をエッチング(好ましくはドライエッチング)することにより、半絶縁性基板10に貫通孔11を形成する。この工程では、貫通孔11が半絶縁性基板10の主面10aに達するまでエッチングを行う。本実施形態では、例えばHI系ガスを用いたICP−RIEを行い、エッチングマーク層31がエッチングされたときに生じるGaプラズマ発光強度をエッチング中に観察することによって、エッチング深さを高い精度で制御することができる。
【0052】
続いて、
図13(a)に示されるように、先の工程により露出したエッチングマーク層31をエッチングする。この工程では、エッチングマーク層31を、硫酸、過酸化水素水及び水の混合液(体積比は硫酸1:過酸化水素水1:水1)を用いてエッチングする。この工程により、貫通孔11がエッチングマーク層31を貫通してn型バッファ層70に達し、n型バッファ層70が露出する。
【0053】
続いて、Pt/Ti/Pt/Auといった金属膜を、裏面10b上の全面(貫通孔11の内面を含む)に蒸着させる。この金属膜は、本工程において行われるAuメッキにおける通電に用いられ、また、メッキされたAuの密着度を高める役割を果たす。そして、貫通孔11上に開口を有するレジストマスクを、フォトリソグラフィー技術等を用いて上記金属膜上に形成する。このレジストマスクを用いて上記金属膜をエッチングすることにより上記金属膜の不要部分を除去したのち、Auメッキ処理を行う。その後、裏面10b上の全面に対してAuエッチングを行い不要なAuを除去する。以上の工程により、
図13(b)に示されるように、貫通孔11の内部を埋め込むAuから成る金属部材12が形成される。
【0054】
続いて、
図15に示されるように、半絶縁性基板10の裏面10b上に金属膜60を形成する。この工程では、まず、裏面10bのうち第1の領域10cと対向する領域上(すなわち、半絶縁性基板10の厚さ方向から見て第1の領域10cと重なる領域上)に開口を有するレジストマスクを、裏面10b上に形成する。そして、このレジストマスクを残存させた状態でTi/Pt/Auの金属蒸着を行い、リフトオフ法により不要なTi/Pt/Auを除去する。この工程により、金属膜60が形成される。この金属膜60は、半絶縁性基板10の厚さ方向から見て、第2の領域10dと重なる領域(すなわち波長制御領域40)に形成された開口60aを有する。この工程の後、250℃〜300℃の熱処理にて半絶縁性基板10と金属膜60との密着度を向上させる。その後、半絶縁性基板10の主面10a側を保持していた支持板から半絶縁性基板10を分離し、主面10a側に形成されていた保護用のレジストを除去する。最後に、半絶縁性基板10をチップ状に切断する。こうして、
図1及び
図2に示された半導体光集積素子1Aが完成する。
【0055】
以上に説明した半導体光集積素子1Aによって得られる作用効果について、比較例に係る半導体光集積素子が有する課題とともに説明する。
【0056】
図15及び
図16は、比較例として、本実施形態に係る半導体光集積素子1Aが解決しようとする課題を有する半導体光集積素子の一例を示す図である。
図15(a)はこの半導体光集積素子100の平面図であり、
図15(b)は半導体光集積素子100の底面図であり、
図15(c)は
図15(a)に示されたIV−IV線に沿った断面を示している。また、
図16(a)は
図15(a)に示されたV−V線に沿った断面を示しており、
図16(b)は
図15(a)に示されたVI−VI線に沿った断面を示している。
図15及び
図16に示されるように、この半導体光集積素子100は、n型半導体基板110と、n型半導体基板110の主面110a上に設けられた利得領域120及び波長制御領域140とを備えている。利得領域120及び波長制御領域140は、n型半導体基板110の主面110a上において、所定の光導波方向A1に並んで配置されている。
【0057】
図15(c)及び
図16(b)に示されるように、利得領域120は、n型クラッド層121、活性層122、及びp型クラッド層123を有しており、これらの層121〜123は、ストライプメサ構造124を構成しており、所定の光導波方向A1に沿って延びる光導波路となっている。このストライプメサ構造124の両側面は、半絶縁性半導体からなる埋込領域125によって埋め込まれており、埋込領域125上には、絶縁性の保護膜151,152が形成されている。保護膜151,152のうちストライプメサ構造124上の部分には開口が形成されており、ストライプメサ構造124上に設けられたp型オーミック電極127と、保護膜152上に形成された配線128の一端とが、該開口を介して互いに接触している。なお、配線128の他端の上には、ワイヤボンディングのためのパッド電極129が設けられている。また、n型半導体基板110の裏面110b上の全面には、n型オーミック電極130が設けられている。
【0058】
また、
図15(c)及び
図16(a)に示されるように、波長制御領域140は、下部クラッド層141、光導波層142、及び上部クラッド層143を有しており、これらの層141〜143は、ストライプメサ構造144を構成しており、所定の光導波方向A1に沿って延びる光導波路となっている。ストライプメサ構造144の両側面は、利得領域120と共通の埋込領域125によって埋め込まれており、埋込領域125上には、利得領域120と共通の保護膜151,152が形成されている。但し、波長制御領域140においては、ストライプメサ構造144上に保護膜151,152の開口は形成されていない。
【0059】
更に、波長制御領域140は、ストライプメサ構造144上における保護膜151の上に設けられた抵抗体145を有している。
図15(a)及び
図15(c)に示されるように、抵抗体145は所定の光導波方向A1に沿って延びており、該方向の一端には配線146aを介してパッド電極147aが接続され、該方向の他端には配線146bを介してパッド電極147bが接続されている。抵抗体145は例えばTiWといった金属から成り、パッド電極147a,147bから配線146a,146bを介して電流供給される電流が抵抗体145を通過することによって熱が発生する。波長制御領域140では、この熱によって光導波層142の温度が制御されることにより、光導波層142を導波する光の波長が選択される。
【0060】
図15及び
図16に示された半導体光集積素子100では、波長制御領域140において抵抗体145からの熱を出来るだけ逃がさずに光導波層142に与え、熱効率を高めることが望まれる。しかし、半導体光集積素子100では、導電性であるn型半導体基板110を介して熱が逃げ易くなっている。これに対し、
図1及び
図2に示された本実施形態の半導体光集積素子1Aでは、半絶縁性基板10上に波長制御領域40が設けられているので、
図15及び
図16に示された半導体光集積素子100と比較して熱が逃げにくくなっている。更に、本実施形態の半導体光集積素子1Aでは、半絶縁性基板10と波長制御領域40の下部クラッド層41との間にエッチングマーク層31が介在している。このエッチングマーク層31は、例えばInGaAsPといった、下部クラッド層41(InP)よりも熱伝導率が小さい材料によって構成されることができる。したがって、抵抗体50からの熱が半絶縁性基板10へ逃げることをより効果的に抑えることができる。
【0061】
また、本実施形態のように、半絶縁性基板10の裏面10b上にチップボンディング用の金属膜60が設けられる場合、この金属膜60は、半絶縁性基板10の厚さ方向から見て第2の領域10dと重なる領域(すなわち波長制御領域40と重なる領域)に形成された開口60aを有することが好ましい。これにより、半導体光集積素子1Aが平坦な実装面上に実装されたときに、半絶縁性基板10と実装面との間に空隙(断熱層)が生じるので、当該領域における半絶縁性基板10から実装面への熱の伝達を抑え、抵抗体50からの熱が半絶縁性基板10を介して実装面へ逃げることをより効果的に抑えることができる。
【0062】
また、
図1及び
図2に示された本実施形態の半導体光集積素子1Aでは、半絶縁性基板10に貫通孔11が形成されており、この貫通孔11内部には金属部材12が設けられている。この金属部材12によって、利得領域20において発生した熱を半絶縁性基板10の裏面10b側へ効果的に逃がすことができるので、利得領域20の温度変化による発振特性の低下を抑えることができる。特に、本実施形態では、貫通孔11がエッチングマーク層31を貫通してn型クラッド層21に達しており、金属部材12がn型クラッド層21に接触している。このように、熱伝導性が比較的高いInPからなるn型クラッド層21に金属部材12が接触していることによって、利得領域20において発生した熱をより効果的に逃がすことができる。
【0063】
また、本実施形態のように、貫通孔11及び金属部材12は、半絶縁性基板10の厚さ方向から見て、利得領域20において光導波路となる部分(すなわちストライプメサ構造24)と重ならない位置に配置されていることが好ましい。これにより、光導波路内におけるレーザ光の共振が金属部材12によって妨げられることを抑制し、発振特性の低下を抑えることができる。
【0064】
また、本実施形態のように、利得領域20及び波長制御領域40を支持する基板として半絶縁性基板10が用いられることによって、
図15及び
図16に示したようなn型半導体基板110を用いる場合と比較して、寄生容量を抑えることができる。これにより、例えば利得領域20及び波長制御領域40と並んで高周波動作の光変調領域が設けられるような場合であっても、波形の歪みを抑えることができる。また、半絶縁性基板10には電流が殆ど流れないので、本実施形態のように主面10a側にn型オーミック電極30を設けることとなる。このとき、利得領域20の素子抵抗を考慮して、n型クラッド層21の厚みが決定される。
【0065】
以上に説明した本実施形態の半導体光集積素子1Aによれば、利得領域20及び波長制御領域40を半絶縁性基板10上に好適に設けることができるので、電子デバイス(例えば、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ)との光電素子集積化が可能となり、光通信システムの高速化及び高機能化、並びにこれらに伴う小型化及び低コスト化に著しく寄与することができる。
【0066】
本発明による半導体光集積素子は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上述した実施形態では半絶縁性基板10が用いられているが、この半絶縁性基板10に代えて絶縁性の基板が用いられてもよい。また、上述した実施形態では活性層より下層(基板側)の導電型がn型となっており、活性層より上層の導電型がp型となっているが、これらの導電型は逆であってもよい。すなわち、活性層より下層(基板側)の導電型がp型であり、活性層より上層の導電型がn型であっても、本発明の効果を好適に奏することができる。
【0067】
また、上述した実施形態では、活性層や光導波層の組成についてInGaAsPを例示しているが、活性層や光導波層の組成はこれに限定されるものではなく、例えばAlGaInAs系の組成であってもよい。
【0068】
以上、本発明を実施例に基づいて具体的に説明したが、本発明は、この実施例に限定されるものではなく、その要旨に逸脱しない範囲において変更可能である。