(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5790388
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】鉄鋼スラグの塩酸溶液による成分分離方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/00 20060101AFI20150917BHJP
C04B 5/00 20060101ALI20150917BHJP
C02F 1/64 20060101ALI20150917BHJP
B22D 1/00 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
B09B3/00 304C
C04B5/00 CZAB
C02F1/64 Z
B22D1/00 L
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-223337(P2011-223337)
(22)【出願日】2011年10月7日
(65)【公開番号】特開2013-81896(P2013-81896A)
(43)【公開日】2013年5月9日
【審査請求日】2014年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】関屋 政洋
(72)【発明者】
【氏名】山本 充
(72)【発明者】
【氏名】大谷 康彦
(72)【発明者】
【氏名】松林 重治
(72)【発明者】
【氏名】萩原 快朗
【審査官】
岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−027153(JP,A)
【文献】
特開平09−075891(JP,A)
【文献】
特表2001−524371(JP,A)
【文献】
特開2011−179086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00
B22D 1/00
C22B 7/00−04
C02F 1/00−78
C04B 5/00−06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼スラグを溶解槽においてpH2〜3の塩酸溶液で処理することによりCa分はCaCl2溶液に分離し、Fe分は未溶解物に分離する工程1と、
分離されたCaCl2溶液を、電気分解によりCl2、H2及びCa(OH)2とする工程2と、
電気分解により製造したCl2及びH2からHClを合成する工程3と、
を実施することを特徴とする鉄鋼スラグの塩酸溶液による成分分離方法。
【請求項2】
前記工程1において、溶解槽はメイン溶解槽とプレ溶解槽から成り、プレ溶解槽においては、メイン溶解槽で生成したHClを含むCaCl2溶液を用いて鉄鋼スラグを溶解し、メイン溶解槽においては、塩酸溶液を用いてプレ溶解槽で生成した未溶解物を溶解することを特徴とする請求項1に記載した鉄鋼スラグの塩酸溶液による成分分離方法。
【請求項3】
前記工程2において用いられるCaCl2溶液は、溶液処理槽において、pH処理材を用いてpH5〜6とし、CaCl2溶液に含有されるFe分をFe(OH)3として除去した後に、電気分解によりCl2、H2及びCa(OH)2とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鉄鋼スラグの塩酸溶液による成分分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼スラグの塩酸溶液による成分分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所において、転炉、溶銑予備処理炉等の精錬工程から発生する製鋼スラグ(以下でスラグと略す)は、スラグ中に石灰が遊離した形(以下で遊離CaOと称す)が残存しているため、そのままの形で道路用材、土木用材などに利用した場合、遊離CaOの水酸化により膨張が起こることが知られている。そこで、現在一般にスラグを自然冷却し、破砕した後、屋外で山積みするかあるいは人為的に水蒸気と接触させることにより遊離CaOを安定化させている。
しかし、このエージングは、非常に長時間を要することであり、そのために製鉄所内に非常に広いスペースが必要であるという問題がある。
【0003】
また、破砕、ふるい分けにより発生する粉状の鉄鋼スラグは、微粉を多く含むため、そのままでは路盤材として殆ど利用することができない。そこで、水砕スラグ、高炉スラグ微粉末、又は、高炉セメント等と混合、散水、転圧及び養生をした後、固体化しなければならないという問題がある。
【0004】
又、製鋼スラグを養生し、道路用材又は土木用材などへ利用するにしても、その需要は、公共事業への投資状況その他の景気情況により変動するので、その利用促進が滞ることがある。この場合、大量の製鋼スラグが製鉄所内に滞留するという問題がある。
【0005】
製鋼スラグ中の遊離CaOを酸で処理し、安定化させるという考え方がある。
遊離CaOを含む製鋼スラグをエージングによらずに製鉄所の酸処理工程で発生する廃酸を用いて、pH−1〜4、温度60℃以上で処理する製鋼スラグの改質方法の提案がある(特許文献1)。
又、粉粒状の製鋼スラグを酸洗処理した後、高湿潤雰囲気中で炭酸ガスを含有する気体又は炭酸水と接触反応させて炭酸化エージングを行なうという提案がある(特許文献2)。
【0006】
製鋼スラグの改質方法ではないが、キルン又は焼却炉のダストから重金属とCa化合物を分別し、重金属を再生する考え方がある。
都市ごみ等を処理する焼却炉等の高温処理炉から生じる飛灰中に含まれる重金属分を一連の湿式処理によって金属の種類ごとに濃縮し、それぞれを非鉄製錬用原料として使用できる程度の濃縮体として回収する方法の提案がある(特許文献3)。
又、キルン集塵ダストから、非鉄精錬原料として利用可能な重金属化合物と、重金属を含まないセメント原料として利用可能なカルシウム化合物とを分別して回収する処理方法の提案がある(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−72746号公報
【特許文献2】特開2000−350976号公報
【特許文献3】特開平8−309313号公報
【特許文献4】特開2003−326228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の提案は、製鋼スラグを温度60℃以上で処理することで、フリーCaOを中和塩に変えてスラグから除去する、あるいは、スラグ中に残存させ、スラグを改質するものである。しかし、60℃以上での酸処理が必要であり、大規模な設備を要し、大量の製鋼スラグを処理するプロセスとしては難点がある。
【0009】
特許文献2に記載の提案は、製鋼スラグを予め酸洗処理することでスラグの内部にあるフリーCaOを表面に出現させ、それらの炭酸化を促進することで、強度不足が起きない固形物を製造可能とするものである。しかし、酸処理に長時間(6時間)を要し、大規模な設備を要し、大量の製鋼スラグを処理するプロセスとしては難点がある。
そして、特許文献1及び特許文献2に記載の提案では、酸により溶解したCa分は、再利用されることなく廃棄されるという問題がある。
【0010】
特許文献3に記載の提案は、都市ごみ焼却炉等の飛灰中のPb,Zn,Cu等を回収することを主な目的とするものであり、pH3以下でPbを沈殿回収した後、pH7以上で硫化剤を添加することによりZn,Cuを硫化物として回収するものである。しかし、Ca分は回収されることが無く廃棄されるという問題がある。
【0011】
特許文献4に記載の提案は、キルン集塵ダスト中のPb,Zn,Fe,Ca等を回収することを主な目的とするものである。pH6.5〜8での硫化剤を添加することによりPb及びZn等を硫化物として回収した後、pH8〜12とし、Fe,Ca等を水酸化物(セメント原料)として回収するものである。Fe分とCa分は、分離されることが無いという問題がある。
【0012】
製鋼スラグは、エージングにより遊離CaOを安定化させた後、有用な資材として道路用材又は土木用材などに利用されてきた。しかし、このエージングには、非常に長時間を要し、そのために製鉄所内に非常に広いスペースが必要であるという問題があった。又、経済状況によっては、道路用材、土木用材としての需要の変動があり、時には、製鉄所内で非常に広いスペースを占有するという問題があった。
そして、製鉄プロセスにおいては、製鋼スラグに限らず、Ca分とFe分を含有するスラグが大量に発生し、その有効活用が望まれてきた。
【0013】
従来技術の課題は、第一に、従来の製鋼スラグのエージングによる遊離CaOの安定化技術とは別に、製鋼スラグの有用な利用方法を開発することである。そして、第二の課題としては、製鉄スラグに含有されるCa分とFe分をそれぞれ分離し、それぞれを有用な材料として活用することである。
本発明の目的は、製鉄スラグからCa分とFe分を分離し、製鉄プロセスで再利用することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、希塩酸で処理することにより、製鋼スラグに含まれるCa分とFe分を分離することができることを見出した。本発明は、これらの知見に基づくものである。そして、本発明は、製鋼スラグに限られず、Ca分とFe分を含有する鉄鋼スラグ全般に適用できるものである。
【0015】
本発明の要旨とするところは、以下のとおりである。
【0016】
(1)鉄鋼スラグを溶解槽において
pH2〜3の塩酸溶液で処理することによりCa分はCaCl
2溶液に分離し、Fe分は未溶解物に分離する工程1と、
分離されたCaCl
2溶液を、電気分解によりCl
2、H
2及びCa(OH)
2とする工程2と、
電気分解により製造したCl
2及びH
2からHClを合成する工程3と、
を実施することを特徴とする鉄鋼スラグの塩酸溶液による成分分離方法。
(2)前記工程1において、溶解槽はメイン溶解槽とプレ溶解槽から成り、プレ溶解槽に
おいては、メイン溶解槽で生成したHClを含むCaCl
2溶液を用いて鉄鋼スラグを溶
解し、メイン溶解槽においては、塩酸溶液を用いてプレ溶解槽で生成した未溶解物を溶解
することを特徴とする(1)に記載した鉄鋼スラグの塩酸溶液による成分分離方法。
(3)前記工程2において用いられるCaCl
2溶液は、溶液処理槽において、pH処理材を用いて
pH5〜6とし、CaCl
2溶液に含有されるFe分をFe(OH)
3として除去した後に、電気分解によりCl
2、H
2及びCa(OH)
2とすることを特徴とする(1)又は(2)に記載の鉄鋼スラグの塩酸溶液による成分分離方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、鉄鋼スラグからCa分とFe分を分離し、製鉄プロセスで再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】鉄鋼スラグの塩酸溶液による成分分離のフローの例を示す図。
【
図2】溶解槽がメイン溶解槽とプレ溶解槽からなる場合の、鉄鋼スラグの塩酸溶液による成分分離のフローの例を示す図。
【
図3】CaCl
2溶液に含有するFe分を除去した後に、電気分解する場合の鉄鋼スラグの塩酸溶液による成分分離のフローの例を示す図。
【
図5】塩酸による製鋼スラグの溶解により生成した溶液の成分を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第一の実施形態]
本発明の第一の実施形態は、鉄鋼スラグを溶解槽において塩酸溶液で処理することによりCa分はCaCl
2溶液、Fe分は未溶解物に分離し、分離されたCaCl
2溶液を、電気分解によりCl
2、H
2及びCa(OH)
2とし、電気分解により製造したCl
2及びH
2からHClを合成する実施形態である。
この実施形態を
図1により説明する。この例では、原料は、磁選後の製鋼スラグである。製鋼スラグのFe分(酸化物換算)は、約25%程度であるが、製鋼スラグ中のFe
2O
3の一部は、着磁性のあるダイカルシュム・フェライト(2CaO・Fe
2O
3)として存在するので、磁選することにより、Fe分を約40%程度に高めることができる。
【0020】
磁選後の製鋼スラグを塩酸含有の溶解槽おいて、pH2〜3で処理する。Ca分は、CaCl
2として溶解するが、Fe分は、溶解することなく鉄分含有率が高い残渣として残留する。鉄分含有率が高い残渣は、水洗し、Cl分を除去した後に製鉄原料として再利用する。
溶解後のCaCl
2とは、電気分解装置により電気分解することにより、陽極でCl
2、陰極でH
2を発生しながらCa(OH)
2が生成される。
電気分解装置で発生したCl
2とH
2は、塩酸合成装置において酸化され、HClが生成され、再利用される。
【0022】
図1のフローにおいて、10万t/yの磁選後の製鋼スラグを処理した場合のマテリアルバランスを示す。鉄分が60%、6万t/yの鉄分含有率が高い残渣は、焼結用原料となる。又、Ca(OH)
2は、6万t/y生成され、焼結用副原料として有用である。
【0023】
[第二の実施形態]
本発明の第二の実施形態は、溶解槽がメイン溶解槽とプレ溶解槽から成り、プレ溶解槽においては、メイン溶解槽で生成したHClを含むCaCl
2溶液を用いて鉄鋼スラグを溶解し、メイン溶解槽においては、塩酸溶液を用いてプレ溶解槽で生成した未溶解物を溶解することを特徴とする。
この実施形態を
図2により説明する。まず、プレ溶解槽において、原料である鉄鋼スラグを溶解するが、溶解液は、メイン溶解槽で生成したHClを含むCaCl
2溶液である。メイン溶解槽では、pH2〜3で処理するので、発生する溶液は、CaCl
2の他にHClを含んでいる。そこで、プレ溶解槽において、メイン溶解槽で生成したCaCl
2溶液に含まれるHClにより製鋼スラグ中の反応性の高いCaO分と予め反応させることで、後段のメイン溶解槽での激しい反応を回避することができる。
メイン溶解槽においては、プレ溶解槽で生成した未溶解物を溶解するが、溶解液は、塩酸溶液である。塩酸溶液は、製鉄所内で発生する鉄鋼の酸洗廃水でも良い。
その他の工程は、第一の実施形態と同様である。即ち、プレ溶解槽において生成するCaCl
2溶液は、電気分解装置により電気分解し、Cl
2とH
2とCa(OH)
2とを生成し、Cl
2とH
2とは、塩酸合成装置において酸化され、HClが生成され、再利用される。そして、メイン溶解槽で生成した鉄分含有率が高い残渣は、水洗し、Cl分を除去した後に製鉄原料として再利用する。
【0024】
[第三の実施形態]
本発明の第三の実施形態は、Ca溶解後のCaCl
2溶液を溶液処理槽において、pH処理材を用いてCaCl
2溶液に含有するFe分をFe(OH)
3として除去した後に、電気分解によりCl
2、H
2及びCa(OH)
2とすることを特徴とする。
この実施形態を
図3により説明する。前記第二の実施形態におけるプレ溶解槽で生成したCaCl
2溶液は、若干のFe分を含んでいるため、次の工程であるCaCl
2溶液の電気分解装置内で、Fe(OH)
3が析出し、電気分解に支障をきたす虞がある。そこで、プレ溶解槽で生成したCaCl
2溶液を、溶液処理層において、PHを5以上、6以下としてCaCl
2溶液に含まれるFe分をFe(OH)
3として除去するものである。
pHが5未満では、Fe分の析出が不十分であり、pHは5〜6でFeの除去は十分であり、6を超える必要はない。
CaCl
2溶液の電気分解後のHClの再利用と、Ca除去後の鉄分含有率が高い残渣の製鉄原料としての再利用は、第一の実施形態および、第二の実施形態の場合と同様である。
【実施例】
【0025】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明は、これに限られるものではない。
粒径が5mm以下の製鋼スラグ10gを3.6%塩酸200mlに投入し、スターラー攪拌子(回転速度120rpm)を用いて5分間程度、反応させた。反応前の製鋼スラグと反応後の溶解残渣の成分質量を
図4に示す。反応前と反応後で、Fe
2O
3は変化が無く、Fe分の溶解はなかったが、CaOは、約70%が減少し、Ca分が選択的に溶解した。
溶液中の塩化物の重量比を
図5に示す。CaCl
2が62%を占めており、製鋼スラグのうち、Ca分が選択的に溶解したことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
製鉄スラグからCa分とFe分を分離し、製鉄プロセスで再利用することができる。