特許第5790401号(P5790401)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5790401
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】車両用走行支援装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20150917BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20150917BHJP
【FI】
   B62D6/00
   B62D101:00
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-232364(P2011-232364)
(22)【出願日】2011年10月24日
(65)【公開番号】特開2013-86781(P2013-86781A)
(43)【公開日】2013年5月13日
【審査請求日】2014年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119644
【弁理士】
【氏名又は名称】綾田 正道
(72)【発明者】
【氏名】吉畑 友太
(72)【発明者】
【氏名】島影 正康
【審査官】 杉▲崎▼ 覚
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−241870(JP,A)
【文献】 特開平07−105499(JP,A)
【文献】 特開2008−059366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/00− 6/06
B62D 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行路上の自車前方に前方注視点距離だけ離れた目標走行位置を設定し、自車が設定した目標走行位置を走行するように自車の走行を支援する車両用走行支援装置において、
走行路に対する自車の向きを判定する姿勢判定手段と、
自車が走行路外側を向いている場合には自車の向きが走行路と平行である場合よりも前記前方注視点距離を短縮し、自車が走行路中央側を向いている場合には自車の向きが走行路と平行である場合よりも前記前方注視点距離を延長する注視点距離設定手段と、
を備えたことを特徴とする車両用走行支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用走行支援装置において、
走行路中央位置からの自車の横変位を検出する横変位検出手段を設け、
前記注視点距離設定手段は、自車が走行路外側を向いている場合であって検出された横変位が横変位閾値以上であるときには、横変位が前記横変位閾値未満である場合よりも前記前方注視点距離を短縮することを特徴とする車両用走行支援装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用走行支援装置において、
走行路中央位置からの自車の横変位を検出する横変位検出手段を設け、
前記注視点距離設定手段は、自車が走行路中央側を向いている場合であって検出された横変位が横変位閾値以上であるときには、横変位が前記横変位閾値未満である場合よりも前記前方注視点距離を延長することを特徴とする車両用走行支援装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の車両用走行支援装置において、
自車前方の道路境界線までの距離を検出する境界線距離検出手段を設け、
前記注視点距離設定手段は、検出された道路境界線までの距離があらかじめ設定された境界線距離閾値以下である場合には、道路境界線までの距離が前記境界線距離閾値を超える場合よりも前記前方注視点距離を短縮することを特徴とする車両用走行支援装置。
【請求項5】
請求項に記載の車両用走行支援装置において、
前記注視点距離設定手段は、検出された道路境界線までの距離が前記境界線距離閾値以下である場合、前記前方注視点距離を道路境界線までの距離と等しく設定することを特徴とする車両用走行支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用走行支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の走行路中央位置からのオフセット量が大きいほど、操舵制御の目標走行位置を決める前方注視点距離を長く設定する技術が開示されている。
特許文献2には、走行路の曲率半径が小さいほど、前方注視点距離を短く設定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−76573号公報
【特許文献2】特開平10−167100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、曲率半径の小さなカーブでオフセット量が大きい場合、カーブの曲率半径とは無関係に前方注視点距離が長く設定されるため、車線逸脱の可能性が高くなる。
一方、特許文献2に記載された技術では、車線逸脱の可能性が低い場合でも曲率半径の小さなカーブでは常に前方注視点距離が短く設定されるため、車両挙動が大きく変化することでドライバに違和感を与えてしまう。
本発明の目的は、車線逸脱の抑制とドライバに与える違和感の軽減との両立を図ることができる車両用走行支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、自車が走行路外側を向いている場合には自車の向きが走行路と平行である場合よりも前方注視点距離を短縮し、自車が走行路中央側を向いている場合には自車の向きが走行路と平行である場合よりも前方注視点距離を延長する。
【発明の効果】
【0006】
自車が走行路外側を向いている場合、車線逸脱の可能性が高く、自車が走行路外側を向いていない場合、車線逸脱の可能性が低い。よって、自車が走行路外側を向いているときには、前方注視点距離を短縮することで車線逸脱を抑制できる。一方、自車が走行路中央側を向いていときには、前方注視点距離を延長することでドライバに与える違和感を軽減できる。
この結果、車線逸脱の抑制とドライバに与える違和感の軽減との両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1の車両用走行支援装置を適用した車両の操舵系を示す模式図である。
図2】実施例1のコントロールユニット6の制御ブロック図である。
図3】実施例1のコントロールユニット6で実行される操舵制御処理の流れを示すフローチャートで
図4】実施例1の操舵制御の各パラメータと制御方法を示す模式図である。
図5】直線路でドライバの操舵介入がなされたときの実施例1の操舵制御作用を示すタイムチャートおよび車両の状態を示す模式図である。
図6】実施例1の姿勢角φに応じた前方注視点距離Lsの設定作用を示す模式図である。
図7】実施例2の道路境界までの距離Ldに応じた前方注視点距離Lsの設定作用を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の車両用走行支援装置を実施するための形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
〔実施例1〕
図1は、実施例1の車両用走行支援装置を適用した車両の操舵系を示す模式図であり、実施例1の車両の操舵系は、左右前輪1L,1Rと、ステアリングギア2と、ステアリングホイール3と、ステアリングシャフト4と、操舵アクチュエータ5と、コントロールユニット6と、車輪速センサ7と、カメラ8と、GPS受信機9とを備える。
【0009】
ステアリングギア2は、ドライバがステアリングホイール3を回転操作することでステアリングシャフト4に入力された回転運動を車幅方向の平行運動に変換し、左右前輪1L,1Rを転舵させる。
操舵アクチュエータ5は、例えば、電動モータであり、ステアリングシャフト4にトルクを出力して左右前輪1L,1Rを転舵させる。
車輪速センサ7は、各輪に設けられ、車輪の回転速度を検出する。
カメラ8は、自車前方を撮像する。
GPS受信機9は、GPS衛星からの信号を受信し、地図データベースを参照して自車位置を検出する。
【0010】
コントロールユニット6は、車輪速センサ7、カメラ8およびGPS受信機9からの情報を入力し、所定の制御ロジックに基づいて操舵アクチュエータ5を駆動し、走行支援を行う。
コントロールユニット6は、走行支援として、自車が走行路の車線幅中央の目標走行ライン上を走行するように、自車の走行ラインが目標走行ライン上から逸れたとき、走行路上の自車前方に前方注視点距離だけ離れた目標走行位置(前方注視点)を設定し、その目標走行位置を車両が走行するように操舵アクチュエータ5を駆動して左右前輪1L,1Rを転舵させる操舵制御を実行する。
【0011】
図2は、実施例1のコントロールユニット6の制御ブロック図であり、コントロールユニット6は、目標走行ライン認識部10と、姿勢角・横変位検出部(横変位検出手段)11と、車速検出部12と、目標走行位置設定部13と、前方注視点距離設定部(注視点距離設定手段)14と、操舵制御部15とを備え、以下に示す操舵制御を実施する。
目標走行ライン認識部10は、カメラ8から得られた撮像画像とGPS受信機9から得られた自車位置情報とに基づいて、目標走行ラインを認識する。
姿勢角・横変位検出部11は、カメラ8から得られた撮像画像とGPS受信機9から得られた自車位置情報とに基づいて、走行路に対する姿勢角φと、目標走行ラインからの自車の横変位yとを算出する。姿勢角φは、自車の左右中心位置を通る目標走行ラインの接線と平行な直線(以下、目標走行ラインの接線という。)に対して、車両の軸線(自車の左右中心位置を通る車両前後方向に延びる直線)が成す角度である。姿勢角φは、目標走行ラインの接線に対して車両の軸線が走行路の左右外側を向いている場合には正(+)の符号とし、目標走行ラインの接線に対して車両の軸線が走行路の中央を向いている場合には負(-)の符号とする。
【0012】
車速検出部12は、各車輪速センサ7からの信号に基づいて、自車の車体速(車速)Vを検出する。車速Vの算出方法は任意であり、例えば、4輪の各車輪速の平均値、従動輪である左右後輪の車輪速の平均値を車速Vとしてもよい。
目標走行位置設定部13は、目標走行ライン上の自車から前方注視点距離Ls離れた位置を目標走行位置Pとして算出する。
前方注視点距離設定部14は、姿勢角φから走行路に対する自車の向きを判定する姿勢判定部(姿勢判定手段)14aを備え、走行路に対する自車の向き、車速Vおよび横変位yに基づいて、前方注視点距離Lsを設定する。
操舵制御部15は、自車位置と目標走行位置Pとを結ぶ目標曲線を算出し、目標曲線に基づいて左右前輪1L,1Rの操舵制御量を算出すると共に、算出した操舵制御量に基づいて操舵アクチュエータ5を駆動する。
【0013】
[操舵制御処理]
図3は、実施例1のコントロールユニット6で実行される操舵制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
ステップS1では、車速検出部12において、車輪速センサ7からのセンサ信号を読み込むと共に、目標走行ライン認識部10および姿勢角・横変位検出部11において、カメラ8からの撮像画像とGPS受信機9からの自車位置情報とを読み込む。
ステップS2では、目標走行ライン認識部10において、カメラ8から得られた撮像画像とGPS受信機9から得られた自車位置情報とに基づいて、目標走行ラインを認識する。
【0014】
ステップS3では、姿勢角・横変位検出部11において、カメラ8から得られた撮像画像とGPS受信機9から得られた自車位置情報とに基づいて、走行路に対する車両の姿勢角φと、目標走行ラインからの自車の横変位yとを算出する。
ステップS4では、姿勢判定部14aにおいて、姿勢角φから走行路に対する自車の向きを判定する。姿勢角φの符号が正(+)の場合、自車が走行路外側を向いていると判定し、姿勢角φの符号が負(-)の場合、自車が走行路中央側を向いていると判定し、姿勢角φがゼロの場合、自車の向きが走行路と平行であると判定する。
ステップS5では、前方注視点距離設定部14において、車速V、横変位yおよび走行路に対する自車の向きに基づいて、前方注視点距離Lsを設定する。前方注視点距離Lsの設定方法については後述する。
【0015】
ステップS6では、目標走行位置設定部13において、目標走行ライン上の自車から前方注視点距離Ls離れた位置を目標走行位置Pとして算出する。
ステップS7では、操舵制御部15において、自車位置と目標走行位置Pとを一定曲率で結ぶ目標曲線を算出し、目標曲線に応じた左右前輪1L,1Rの操舵制御量を算出する。このとき、目標曲線上を通過するような操舵制御量を算出してもよいが、ステアリングシャフト4上にトルクセンサを設けてドライバの操舵介入を検出し、操舵介入時には操舵制御量をゼロとしたり、目標曲線上を通過する左右前輪1L,1Rの転舵角までドライバの操舵操作を誘導するような操舵トルクを与えたりしてもよい。
ステップS8では、操舵制御部15において、操舵制御量に基づいて操舵アクチュエータ5を駆動する。
図4に、実施例1の操舵制御における自車位置、目標走行ライン、横変位y、姿勢角φ、前方注視点距離Ls、目標走行位置Pおよび目標曲線を示す。
【0016】
[前方注視点距離Lsの設定方法]
前方注視点距離設定部14は、車速Vに基づいて前方注視点距離のベース値Ls_baseを算出する。ベース値Ls_baseは、車速Vにあらかじめ設定された所定の自定数を乗算して求める。
実施例1では、前方注視点距離のベース値Ls_baseを姿勢角φと横変位yとに基づいて短縮または延長する。具体的には、横変位yが横変位閾値y_th以上である場合、前方注視点距離のベース値Ls_baseは変更せず、横変位yが横変位閾値y_th以上である場合、姿勢角φに応じて前方注視点距離のベース値Ls_baseを変更する。
【0017】
1.自車が走行路外側を向いている場合
自車が走行路外側を向いている場合は、前方注視点距離のベース値Ls_baseをあらかじめ設定された割合で短縮する。
2.自車が走行路中央側を向いている場合
自車が走行路中央側を向いている場合は、前方注視点距離のベース値Ls_baseをあらかじめ設定した割合で延長する。
3.自車の向きが走行路と平行である場合
自車の向きが走行路と平行である場合は、前方注視点距離のベース値Ls_baseを変更しない。
【0018】
次に、作用を説明する。
図5は、直線路でドライバの操舵介入がなされたときの実施例1の操舵制御作用を示すタイムチャートおよび車両の状態を示す模式図である。図5において、左右前輪1L,1Rの転舵角θおよび横変位yは左側を正(+)、右側を負(-)とし、姿勢角φは目標走行ラインの接線mに対して車両の軸線nが走行路の左右外側を向いている場合を正(+)、車両の軸線が走行路の中央を向いている場合を負(-)とする。
時点t1よりも前の時点では、車両は目標走行ライン上を走行している。
時点t1では、ドライバの操舵介入により転舵角θが増加し始め、これに伴い姿勢角φと横変位yが増加するが、横変位yは横変位閾値y_th未満であるため、前方注視点距離Lsは前方注視点距離のベース値Ls_baseのままである。
【0019】
時点t2では、横変位yが横変位閾値y_th以上となったため、前方注視点距離Lsはベース値Ls_baseよりも短縮される。
時点t3では、ドライバの操舵介入が終了して転舵角θが減少し始めることで、姿勢角φが減少を開始する。
時点t4では、姿勢角φが正から負へと変化したため、前方注視点距離Lsはベース値Ls_baseよりも延長される。
時点t5では、横変位yが横変位閾値y_th未満となったため、前方注視点距離Lsは前方注視点距離のベース値Ls_baseに戻る。
時点t6では、車両が目標走行ライン上に復帰する。
【0020】
[姿勢角の向きに応じた前方注視点距離Lsの設定作用]
特開2010-76573号公報に記載された技術では、車両の横変位の大きさが大きいほど前方注視点距離を延長しているが、曲率半径の小さなカーブを走行しているとき、横変位に応じて前方注視点距離を延長すると、車線逸脱の可能性が高くなってしまう。
これに対し、実施例1では、図6(a)に示すように、自車が走行路外側を向いている場合、前方注視点距離のベース値Ls_baseを短縮した前方注視点距離Lsを設定する。前方注視点距離を短縮することで、目標走行位置Pに応じた目標曲線はより自車に近い位置となる。ここで、目標曲線の曲率半径が小さくなるほど、目標曲線上を通過するために必要な左右前輪1L,1Rの操舵制御量は大きくなる。つまり、操舵制御の制御ゲインが強くなる。
【0021】
すなわち、自車が走行路外側を向いているということは、車両が目標走行ラインから逸れる方向に向かっており、車線逸脱の可能性が高いことを意味しているため、この場合は前方注視点距離を短縮して操舵制御の制御ゲインを強めることにより、車両の逸脱傾向を早期に解消でき、車線逸脱を抑制できる。
よって、曲率半径の小さなカーブにおいて、ドライバの操舵介入等により車両姿勢が目標走行ラインからずれた場合であっても、すばやく姿勢を戻すことができるため、車線逸脱を抑制できる。
【0022】
特開平10-167100号公報に記載された技術では、走行路の曲率半径が小さいほど前方注視点距離を短縮しているが、車線逸脱の可能性が低い場合であっても一律に前方注視点距離を短縮すると、操舵制御の制御ゲインが強くなりすぎて車両挙動が大きく変化するため、ドライバに違和感を与えてしまう。
これに対し、実施例1では、図6(b)に示すように、自車が走行路中央側を向いている場合、前方注視点距離のベース値Ls_baseを延長した前方注視点距離Lsを設定する。前方注視点距離を延長することで、目標走行位置Pはより自車から遠い位置となる。ここで、目標曲線の曲率半径が大きくなるほど、目標曲線上を通過するために必要な左右前輪1L,1Rの操舵制御量は小さくなる。つまり、操舵制御の制御ゲインが弱まる。
【0023】
すなわち、自車が走行路中央側を向いているということは、車両が目標走行ラインに復帰する方向に向かっており、車線逸脱の可能性が低いことを意味しているため、この場合は前方注視点距離を延長して操舵制御の制御ゲインを弱めることにより、車両挙動変化を抑制でき、ドライバに与える違和感を軽減できる。
よって、曲率半径の小さなカーブにおいて、不要に前方注視点距離が短縮されるのを抑制でき、ドライバに与える違和感を軽減できる。
【0024】
実施例1の操舵制御では、目標走行ラインに対して常に一定の動きで追従させるのではなく、目標走行ラインに対してさらに逸れようとする動きは抑制しつつ、目標走行ラインに戻る動きはゆっくりと動作させることで、ドライバの運転感覚に合致した動きになる。
このため、ドライバの操舵介入後に目標走行ラインに復帰する、または目標走行ラインから逸れた位置から操舵制御を開始する際の、急激な車両挙動変化を抑制でき、ドライバに与える違和感を軽減できる。
また、ドライバがステアリング操作を行う場合にも、目標走行ラインから逸れるときに操舵反力が大きくなり、目標走行ラインに戻るときには操舵反力が小さくなるため、ドライバに与える違和感を軽減できる。
【0025】
[横変位yに応じた前方注視点距離Lsの設定作用]
実施例1では、自車が走行路外側を向いている場合、横変位yが横変位閾値y_th以上であるときには、前方注視点距離Lsをベース値Ls_baseよりも短縮し、横変位yが横変位閾値y_th未満であるときには、前方注視点距離Lsをベース値Ls_baseのままとしている。
車線逸脱は、目標から逸れようとする動き、すなわち車両の向きに加え、目標からの逸脱量、すなわち横変位yにも起因し、横変位yが大きい場合は小さい場合よりも車線逸脱の可能性が高くなる。
よって、横変位yが大きい場合には前方注視点距離Lsを短くすることで、車線逸脱をより確実に抑制できる。また、横変位yが小さい場合には前方注視点距離Lsを短くしないことで、車線逸脱の可能性が低いときの制御ゲインを小さく抑え、ドライバに与える違和感を軽減できる。
【0026】
また、実施例1では、自車が走行路中央側を向いている場合、横変位yが横変位閾値y_th以上であるときには、前方注視点距離Lsをベース値Ls_baseよりも延長し、横変位yが横変位閾値y_th未満であるときには、前方注視点距離Lsをベース値Ls_baseのままとしている。
横変位yが小さい場合には、前方注視点距離Lsにかかわらず、車両を目標走行ラインに復帰させるための操舵制御の制御ゲインが小さいため、この場合は前方注視点距離Lsを長くしないことで、早期に車両を目標走行ライン上に復帰させることができる。一方、横変位yが大きい場合には、制御ゲインが大きいため、この場合は前方注視点距離Lsを長くすることで、制御ゲインをできるだけ小さくしてドライバに与える違和感を軽減できる。
【0027】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両用走行支援装置にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
(1) 走行路上の自車前方に、車速Vに応じた前方注視点距離Lsだけ離れた目標走行位置Pを設定し、自車が設定した目標走行位置Pを走行するように自車の走行を支援する車両用走行支援装置において、走行路に対する自車の向きを判定する姿勢判定部14aと、自車が走行路外側を向いている場合、自車の向きが走行路と平行である場合よりも車速Vに応じた前方注視点距離のベース値Ls_baseを短縮した前方注視点距離Lsを設定する前方注視点距離設定部14と、を備えた。これにより、車線逸脱の抑制とドライバに与える違和感の軽減との両立を図ることができる。
【0028】
(2) 走行路上の自車前方に、車速Vに応じた前方注視点距離Lsだけ離れた目標走行位置Pを設定し、自車が設定した目標走行位置Pを走行するように自車の走行を支援する車両用走行支援装置において、走行路に対する自車の向きを判定する姿勢判定部14aと、自車が走行路中央側を向いている場合、自車の向きが走行路と平行である場合よりも車速Vに応じた前方注視点距離のベース値Ls_baseを延長した前方注視点距離Lsを設定する前方注視点距離設定部14と、を備えた。これにより、車線逸脱の抑制とドライバに与える違和感の軽減との両立を図ることができる。
【0029】
(3) 目標走行ラインからの自車の横変位yを検出する姿勢角・横変位検出部11を設け、前方注視点距離設定部14は、自車が走行路外側を向いている場合であって、検出された横変位yが横変位閾値y_th以上である場合には、横変位yが横変位閾値y_th未満である場合よりも短い前方注視点距離Lsを設定する。これにより、車線逸脱の抑制とドライバに与える違和感の軽減との両立をより確実に図ることができる。
【0030】
(4) 目標走行ラインからの自車の横変位yを検出する姿勢角・横変位検出部11を設け、前方注視点距離設定部14は、自車が走行路中央側を向いている場合であって、検出された横変位yが横変位閾値y_th以上である場合には、横変位yが横変位閾値y_th未満である場合よりも長い前方注視点距離Lsを設定する。これにより、目標走行ラインへの早期復帰とドライバに与える違和感の軽減との両立を図ることができる。
【0031】
〔実施例2〕
実施例2は、車両前方の道路境界線までの距離に基づいて前方注視点距離Lsを設定する例であり、実施例1と異なる部分について説明する。
姿勢角・横変位検出部(境界線距離検出手段)11は、カメラ8から得られた撮像画像とGPS受信機9から得られた自車位置情報とに基づいて、走行路に対する車両の姿勢角φと、目標走行ラインからの自車の横変位yとに加え、車両前方の道路境界線までの距離Ldを算出する。
前方注視点距離設定部14は、車速V、横変位y、姿勢角φおよび車両前方の道路境界線までの距離Ldに基づいて、前方注視点距離Lsを設定する。
【0032】
[操舵制御処理]
実施例2の操舵制御処理は、図3に示した実施例1の操舵制御処理とほぼ同じであるが、ステップS3において車両前方の道路境界線までの距離Ldを算出する点と、ステップS4において車速V、横変位y、姿勢角φおよび車両前方の道路境界線までの距離Ldに基づいて、前方注視点距離Lsを設定する点が相違する。
【0033】
[前方注視点距離Lsの設定方法]
車速Vに応じた前方注視点距離のベース値Ls_baseを算出し、ベース値Ls_baseを姿勢角φの向きと横変位yに応じて変更する点は実施例1と同じである。
実施例2ではさらに、姿勢角φの向きと横変位yとに応じて設定した前方注視点距離Lsに対し、車両前方の道路境界線までの距離Ldが境界線距離閾値Ld_th以下である場合には、前方注視点距離Lsを距離Ldに設定する。
【0034】
次に、作用を説明する。
[道路境界線までの距離Ldに応じた前方注視点距離Lsの設定作用]
実施例2では、車両前方の道路境界線までの距離Ldが境界線距離閾値Ld_thを超える場合、図7(a)に示すように、前方注視点距離Lsはベース値Ls_baseを走行路に対する自車の向きと横変位yとに応じて変更した値のままである。一方、車両前方の道路境界線までの距離Ldが境界線距離閾値Ld_th以下である場合、図7(b)に示すように、前方注視点距離Lsを距離Ldに設定する。
特に、曲率半径の小さなカーブでは、車両が目標走行ラインに沿って走行していたとしても、車両前方の道路境界線までの距離Ldが短いと、車線逸脱の可能性が高くなる。このとき、走行路に対する自車の向きと横変位yとに基づいて設定された前方注視点距離Lsでは、車線逸脱を回避できない恐れがある。
【0035】
そこで、実施例2では、距離Ldが境界線距離閾値Ld_th以下である場合には前方注視点距離Lsを短縮することで、車線逸脱をより確実に抑制できる。このとき、前方注視点距離Lsを距離Ldとすることで、走行路から逸脱しない適切な目標走行位置Pを設定できる。
また、Ld≦Ld_thの場合には前方注視点距離Lsを道路境界線までの距離Ldに制限する構成を追加したことで、曲率半径の小さなカーブに十分対応できることから、車速Vに応じた前方注視点距離のベース値Ls_baseを実施例1の場合よりも長くできるため、ドライバに与える違和感をより軽減できるという効果が得られる。
【0036】
次に、効果を説明する。
実施例2の車両用走行支援装置にあっては、実施例1の効果(1)〜(4)に加え、以下に列挙する効果を奏する。
(5) 車両前方の道路境界線までの距離Ldを検出する姿勢角・横変位検出部(境界線距離検出手段)11を設け、前方注視点距離設定部14は、検出された道路境界線までの距離Ldが境界線距離閾値Ld_th以下である場合には、道路境界線までの距離Ldが境界線距離閾値Ld_thを超える場合よりも前方注視点距離Lsを短縮する。これにより、曲率半径の小さなカーブにおける車線逸脱をより確実に抑制できる。また、前方注視点距離のベース値Ls_baseを長めに設定できるため、ドライバに与える違和感をより軽減できる。
【0037】
(6) 前方注視点距離設定部14は、検出された道路境界線までの距離Ldが境界線距離閾値Ld_th以下である場合、前方注視点距離Lsを道路境界線までの距離Ldと等しく設定するため、走行路から逸脱しない適切な目標走行位置Pを設定できる。
【0038】
(他の実施例)
以上、本発明を実施するための形態を、実施例に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
例えば、走行路の対する自車の向きのみに基づいて前方注視点距離のベース値Ls_baseを短縮または延長してもよい。
前方注視点距離のベース値Ls_baseを短縮または延長する際、姿勢角φ、横変位yまたは車両前方の道路境界線までの距離Ldに応じて短縮割合または延長割合を可変としてもよい。例えば、姿勢角φの場合は、姿勢角φの絶対値|φ|が大きいほど、短縮割合または延長割合を大きくする。
【符号の説明】
【0039】
1L,1R 左右前輪
2 ステアリングギア
3 ステアリングホイール
4 ステアリングシャフト
5 操舵アクチュエータ
6 コントロールユニット
7 車輪速センサ
8 カメラ
9 GPS受信機
10 目標走行ライン認識部
11 姿勢角・横変位検出部(横変位検出手段,境界線距離検出手段)
12 車速検出部
13 目標走行位置設定部
14 前方注視点距離設定部(注視点距離設定手段)
14a 姿勢判定部(姿勢判定手段)
15 操舵制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7