特許第5790468号(P5790468)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5790468
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】焼結鉱の構造評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/207 20060101AFI20150917BHJP
   C22B 1/16 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   G01N23/207
   C22B1/16 Q
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-270524(P2011-270524)
(22)【出願日】2011年12月9日
(65)【公開番号】特開2013-122403(P2013-122403A)
(43)【公開日】2013年6月20日
【審査請求日】2014年2月12日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】高山 透
(72)【発明者】
【氏名】木村 正雄
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 裕二
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 潤
【審査官】 松谷 洋平
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−064987(JP,A)
【文献】 特開平09−297112(JP,A)
【文献】 特開平07−011349(JP,A)
【文献】 特開昭51−124491(JP,A)
【文献】 特開2011−127191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/227
C22B 1/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉原料用の焼結鉱の回折パターンをX線回折法により測定する測定工程と、
前記回折パターンにリートベルト解析法を適用して、前記焼結鉱の構成相として、Fe及びOを含む相と、Fe及びO及びCaを含む複数の相とを決定し、当該構成相の相分率を定量する相分率定量工程と、
前記相分率を用いて焼結鉱の特性を表す指標を導出する指標導出工程と、を含み、
前記指標導出工程は、Fe及びO及びCaを含む複数の相の相分率から、Fe及びO及びCaを含む複数の相の総量を、前記焼結鉱の特性を表す指標として導出することを特徴とする焼結鉱の構造評価方法。
【請求項2】
前記相分率定量工程は、
Fe-O相を有する複数の標準物質の候補の相に、リートベルト解析の理論回折強度を適用し、前記測定した回折パターンに最も近くなるように、当該理論回折強度のフィッティングを行うFe-O相フィッティング工程と、
前記Fe-O相フィッティング工程によりフィッティングを行った結果から、前記焼結鉱の構成相として、Fe及びOを含む相を決定し、当該構成相の相分率を定量するFe-O相分率定量工程と、
前記Fe-O相フィッティング工程によるフィッティングが行われた後に、Ca-Fe-O相を有する複数の標準物質の候補の相に、リートベルト解析の理論回折強度を適用し、前記測定した回折パターンに最も近くなるように、当該理論回折強度のフィッティングを行うCa-Fe-O相フィッティング工程と、
前記Ca-Fe-O相フィッティング工程によりフィッティングを行った結果から、前記焼結鉱の構成相として、Fe及びO及びCaを含む複数の相を決定し、当該構成相の相分率を定量するCa-Fe-O相分率定量工程と、を更に含ことを特徴とする請求項1に記載の焼結鉱の構造評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉原料用の焼結鉱の特性を、X線回折パターンを用いて決定した構成相の種類と定量値から推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉原料用の焼結鉱は、次のように作られる。まず、鉱石、石灰石、その他の副原料、炭材、水を、ミキサーあるいは混錬機によって造粒する。この造粒した混合物を擬似粒子と呼ぶ。そして、焼結機の無端帯状に連結されて移動する複数のパレット上に、移動方向上流側で、擬似粒子を装入し、上方からバーナーで擬似粒子内の炭材に着火する。そして、複数のパレットの下方に配置された複数のウインドボックス(風箱)を介して、擬似粒子が積載されたパレットを下方から吸気する。よって、着火後熱は、擬似粒子の層の上層から下層に伝熱され、焼結鉱が製造される。製造された焼結鉱は、移動方向の下流側の排鉱部でパレットから排鉱される。
【0003】
焼結反応は次のようにして起こる。焼結層内の温度が1200℃近くまで上昇すると、Fe2O3とCaOとの界面で固相拡散が進行し、固体のCaO-Fe2O3が生成する。さらに温度が上昇すると、CaO-Fe2O3が融液の形態をとる。1200-1300℃にかけてCaO-Fe2O3の融液量はさらに増加し、融液の拡散が活性化することで周りの原料を焼結させる。一般に、焼結反応は、昇温過程の1100℃から最高温度到達点を経て降温過程の1100℃までとされ、その時間は数分である。前述のごとく焼結反応は、非平衡かつ短時間の反応であるが、その間に鉱物相が生成される。主要鉱物は、ヘマタイト、マグネタイト、カルシウムフェライト、スラグ、及び気孔である。
【0004】
高炉用焼結鉱の品質には、強度、被還元性、還元粉化性といった特性が求められる。これらの特性は、焼結鉱の組織形態、気孔情報、及び構成相等によって大きく変化する(非特許文献1を参照)。これらを解析する技術として、例えば、焼結鉱の組織形態や気孔情報に関しては、光学顕微鏡による観察技術や、電子線を利用した元素マッピングを利用した技術等がある(非特許文献1を参照)。しかしながら、焼結鉱の構成相に関しては、解析技術は乏しい。現在、焼結鉱の構成相を解析する方法としては、組織観察に利用される光学顕微鏡を用いて、焼結鉱の組織のコントラストの差異から、焼結鉱の構成相を評価する方法がある。しかしながら、この方法では、測定範囲が数mm2程度と局所領域であることや、観察者の主観に評価の結果が依存し易くなるため、絶対的な評価が難しいという欠点がある。そのため、組織観察からの構成相情報を指数化し、それを焼結鉱特性に相関させることは困難であった。
【0005】
また、焼結鉱強度の指標として、鉄鉱石銘柄の焼結特性を指数化して評価することで、焼結鉱の強度を設計する方法がある(特許文献1を参照)。この方法は鉄鉱石の融液浸透性を評価し、それを指数化して、焼結反応後の焼結鉱強度を設計する方法である。しかし、この方法は、鉄鉱石銘柄による評価が必要であるため、鉄鉱石成分の変化に対応しにくいという欠点があった。
以上のような状況に鑑み、本発明者等は、焼結鉱そのものを評価し、焼結鉱全体で平均化された情報を用いて、絶対的な評価を行うことにより、焼結鉱の構成相の決定と定量とを行うことが必要であると考えた。そこで、本発明者等は、結晶構造からの相の決定と相分率の定量とが可能であるX線構造解析に注目した(非特許文献2、3を参照)。
【0006】
X線構造解析で相分率の定量を行う際には、X線回折パターンを標準物質の回折パターンと比較することによる手法が一般的である。しかしながら、焼結鉱には、構成相が複数存在しているため、それら複数の構成相の相分率の定量が難しい。また、焼結反応は、非平衡かつ短時間の反応であるため、焼結鉱には構造が未知の構成相が多く存在する。これらの理由で、従来は、X線構造解析で相分率の定量を行うことを焼結鉱に適用することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−82417号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】稲角忠弘著,「「鉄鋼技術の流れ」第二シリーズ第1巻 焼結鉱」,日本鉄鋼協会,2000年
【非特許文献2】菊田惺志著,「X線回折・散乱技術」,東京大学出版会,1992年
【非特許文献3】中井泉・泉富士夫編著,「粉末X線解析の実際」,朝倉書店,2002年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、X線回折を用いた結晶構造解析により、高炉原料用の焼結鋼の構成相の決定と相分率の定量とを行い、焼結鉱の特性の評価を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の焼結鉱の構造評価方法は、高炉原料用の焼結鉱の回折パターンをX線回折法により測定する測定工程と、前記回折パターンにリートベルト解析法を適用して、前記焼結鉱の構成相として、Fe及びOを含む相と、Fe及びO及びCaを含む複数の相とを決定し、当該構成相の相分率を定量する相分率定量工程と、前記相分率を用いて焼結鉱の特性を表す指標を導出する指標導出工程と、を含み、前記指標導出工程は、Fe及びO及びCaを含む複数の相の相分率から、Fe及びO及びCaを含む複数の相の総量を、前記焼結鉱の特性を表す指標として導出することを特徴とする。
また、本発明の焼結鉱の構造評価方法は、前記相分率定量工程は、Fe-O相を有する複数の標準物質の候補の相に、リートベルト解析の理論回折強度を適用し、前記測定した回折パターンに最も近くなるように、当該理論回折強度のフィッティングを行うFe-O相フィッティング工程と、前記Fe-O相フィッティング工程によりフィッティングを行った結果から、前記焼結鉱の構成相として、Fe及びOを含む相を決定し、当該構成相の相分率を定量するFe-O相分率定量工程と、前記Fe-O相フィッティング工程によるフィッティングが行われた後に、Ca-Fe-O相を有する複数の標準物質の候補の相に、リートベルト解析の理論回折強度を適用し、前記測定した回折パターンに最も近くなるように、当該理論回折強度のフィッティングを行うCa-Fe-O相フィッティング工程と、前記Ca-Fe-O相フィッティング工程によりフィッティングを行った結果から、前記焼結鉱の構成相として、Fe及びO及びCaを含む複数の相を決定し、当該構成相の相分率を定量するCa-Fe-O相分率定量工程と、を更に含ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、焼結鉱の構成相が明らかになることから、焼結鉱の特性と構成相の定量との相関を得ることができる。そして、焼結鉱の特性の新指標を提案できることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】焼結鉱のX線回折パターン(XRD測定データ)の一例を示す図である。
図2】Fe-O相のみのX線回折プロファイルをフィッティングした計算データの一例を示す図である。
図3】全ての相のX線回折プロファイルをフィッティングした計算データの一例を示す図である。
図4】XRD測定データと、全ての相のX線回折プロファイルをフィッティングした計算データとを重ねて示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。
本発明者らは、焼結鉱の構成相の決定と相分率の定量とを結晶構造の情報から明らかにすることを検討した。粉末状にした焼結鉱のXRD(X線回折法)測定を行い、その結果をリートベルト解析で解析した。その結果、焼結鉱には、Fe-O相であるヘマタイト(Fe2O3)及びマグネタイト(Fe3O4)と、複数のCa-Fe-O相(カルシウムフェライト相)とが存在することが確認された。焼結鉱のXRD測定データに対する従来の解析法でも、カルシウムフェライト相の検出や定量は可能であった。しかしながら、組成の異なる複数のカルシウムフェライト相を別々に検出し、定量できる解析法は、XRD測定データのリートベルト解析のみである。カルシウムフェライト相が複数の相になる原因は、焼結反応が短時間で終了しかつ非平衡であるためである。また、同様の理由で、CaO-Fe2O3擬2元系平衡状態図から構成相を予想することは、これまで困難であった。
【0014】
本発明の実施形態では(1)高炉用焼結鉱のX線回折パターンを測定し、(2)その測定データ(X線回折パターン)をFe及びOに適用させたリートベルト解析を行うことで、焼結鉱の構成相の同定と相分率の定量とを行い、(3)相分率を焼結鉱特性の指標とする。以下、これら(1)〜(3)の具体的な方法の例を示すが、本発明による方法はその内容に限定されるものではない。
【0015】
第一に、X線回折法(XRD)による焼結鉱試料の測定について述べる。粉末に砕いた焼結鉱試料のX線回折パターンを粉末X線回折装置で測定する。より正確な解析を行うために、XRDによる測定では、測定範囲2θのできる限り広い範囲を、長時間スキャンすることが望ましい。尚、本実施形態(実施例)では、次の通りの測定条件で測定を行った。すなわち、測定範囲2θを10°〜120°とし、ステップ刻みをとし0.04°、1ステップの露光時間を20sとした。また、光学系は集中法を使用し、X線源としてCuのKαを使用した。図1は、ある焼結鉱のX線回折パターン(XRD測定データ)の一例を示す図である。
【0016】
第二に、以上のようにして得られたX線回折パターンのリートベルト解析について述べる。リートベルト解析を行う理由は、従来の標準物質による定量法では、構造が未知の相が複数存在する焼結鉱の定量が困難なためである。
リートベルト解析とは、実測パターンとできるだけよく一致するよう近似構造モデルに基づいて計算した回折パターンを、XRD測定データ(X線回折パターン)に当てはめる手法である。リートベルト解析を行うと、全粉末回折パターンに含まれている情報を最大限に抽出することができる。
【0017】
リートベルト解析には、(A)粉末試料に対するXRD測定データ(X線回折パターン)からナノ構造の決定が可能である、(B)構造データベースが無くても、試料の構造の推定が可能である、(C)平均化情報で定量が可能である、といった特徴がある。このリートベルト解析により、XRD測定データ(X線回折パターン)から、焼結鉱の構成相の決定と相分率の定量とを行うことが可能となる。理論回折強度fi(x)の計算式を以下の(式1)に示す。
【0018】
【数1】
【0019】
ここで、iは、測定データ点を示す番号であり、sは、尺度因子であり、SR(θi)は、試料表面粗さの補正因子であり、A(θi)は、吸収因子であり、D(θi)は、一定照射補正因子であり、Kは、ブラッグ反射強度に寄与する反射の番号であり、mKは、ブラッグ反射の多重度であり、FKは、結晶構造因子であり、PKは、選択配向関数であり、L(θK)は、ローレンツ偏光因子であり、θKは、ブラッグ角であり、Φ(Δ2θiK)は、プロファイル関数であり、yb(2θi)は、バックグラウンド関数である。
【0020】
通常のリートベルト解析による構成相の定量は以下の手順で行う。まず、測定したX線回折パターンを観察し、標準物質の候補を選択する。標準物質は、過去の知見よりそれぞれの回折パターン(ピークパターン)をもっているので、測定したX線回折パターンのピークに合うピークを有する標準物質を(構成相の)候補として選択する。その後、選択した複数の標準物質の候補の相に、理論回折強度fi(x)の計算式(式1)を適用し、測定したX線回折パターンに基づき仮定した相分率を、候補として選択した複数の標準物質の回折パターンに乗じる。そして、それら相分率を乗じた「候補として選択した複数の標準物質の回折パターン」を足し合わせる。そして、以上の計算から得られる回折パターンであって、測定パターンに最も近くなる回折パターンを非線形最小二乗法により計算する(所謂パラメータのフィッティングを行う)。その結果から、構成相の相分率が定量できる。このように、リートベルト解析結果の信頼性は、理論回折強度fi(x)を如何に真に近いモデルで計算できるかという点に依存する。このリートベルト解析による構成相の定量は、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、各種のインターフェースを備えたコンピュータ(例えばパーソナルコンピュータ)を用いることにより実現できる。そして、例えば、このコンピュータに、解析を行うための専用のソフトウェア(例えば、株式会社リガク製の統合粉末X線解析ソフトウェア(PDXL))をインストールし、このソフトウェアを実行することにより前述した処理を実行することができる。
【0021】
より高精度の解析結果を導くために、本実施形態では、リートベルト解析法を用いて、焼結鉱の構成相の同定と相分率の定量とを以下の方法で行う。以下、焼結鉱の構成相の同定と相分率の定量とを具体的に解析する手法の一例を示すが、本発明による手法は、その内容に限定されるものではない。尚、これらの処理も、例えば、前述した専用のソフトウェアがインストールされたパーソナルコンピュータを用いることにより実現できる。
【0022】
焼結鉱の構成相の中には、主としてFe-O相(Fe及びOを含む相)と、Ca-Fe-O相(Fe及びO及びCaを含む相)とが存在している。これらの相を区別して定量することが重要である。そのために、まず、Fe2O3、Fe3O4、FeOで構成されているFe-O相を有する複数の標準物質の候補の相に、理論回折強度fi(x)の計算式(式1)を適用し、測定したX線回折パターンに最も近くなるように、理論回折強度fi(x)のフィッティングを行う。これらの相は、焼結鉱の60%以上を占めることから、回折パターンによる構成相の決定も比較的容易である。Fe2O3の回折パターンでは、2θ=33°付近にメインピークが存在する。同様に、Fe3O4の回折パターンでは2θ=35°付近、FeOの回折パターンでは2θ=42°付近にそれぞれメインピークが存在する。図2は、以上のポイントを踏まえて、Fe-O相のみのX線回折プロファイルをフィッティングした計算データの一例を示す図である。これらFe-O相のピークは強度が強く、且つ、シャープであるため、候補相の決定は難しくない。
【0023】
次に、Ca-Fe-O相を有する複数の標準物質の候補の相に、理論回折強度fi(x)の計算式(式1)を適用し、測定したX線回折パターンに最も近くなるように、理論回折強度fi(x)のフィッティングを行う。Fe-O相と比較して、Ca-Fe-O相であるカルシウムフェライト相の決定は難しい。それは(A)Fe-O相に比べて量が少ない、(B)組成の異なる複数の相が存在する、といった理由があるためである。
【0024】
したがって、Ca-Fe-O相のフィッティングには、次のことを考慮して行う。(a)測定したX線回折パターン(XRD測定データ)からFe-O相の(全ての)ピークを除き、(b)2θ=20°〜50°の領域のピークのみを対象にして、(c)候補とするカルシウムフェライト相の結晶構造から得られる回折パターン(ピークパターン)から、強度の大きさが1番目〜N番目(Nは2以上の整数)に大きいピークを抽出し、抽出したピークと、XRD測定データとを比較することで、候補とするカルシウムフェライト相を選択する。例えば、回折パターンのピークのうち、2つのピークがその他のピークに比べて強度が大きい場合には、その2つのピークを抽出する。また、回折パターンのピークの強度の大きさが全体的に同じくらいである場合には、回折パターンに応じて多くのピークを抽出する。尚、2θ=20°〜50°の領域のピークのみを対象とするのは、カルシウムフェライトの回折パターンでは、2θ=20°〜50°の領域に大きな強度(ピーク)が存在する傾向があるためである。
【0025】
例えば、カルシウムフェライトの一種であるダイカルシウムフェライト(2CaO・Fe2O3)は、2θ=30°〜33°に大きな強度のピークをもつ結晶構造を有する。XRD測定データが2θ=30°〜33°の領域に大きな強度を持つならば、ダイカルシウムフェライト(2CaO・Fe2O3)を候補の相として選択し、フィッティングを行うことができる。(a)及び(b)の条件で(c)の処理を(カルシウムフェライトの候補を変えて)繰り返し行うことによって、XRD回折パターンのある領域のピークの位置と強度とから複数の候補のカルシウムフェライト相を決定し、それらの相分率を定量する。尚、(c)の処理の繰り返しは、R値の減少が飽和し、十分に小さくなった時点(例えば15%以下になった時点)で終了する。
【0026】
図3は、最終的に全ての相のX線回折プロファイルをフィッティングした計算データの一例を示す図である。図3に示すように、全ての相のX線回折プロファイルをフィッティングした計算データは、図2に示すFe-O相のみのX線回折プロファイルをフィッティングした計算データと比較して、弱くブロードなピークでもフィッティングできていることが確認できる。
図4は、XRD測定データ(図1)と、全ての相のX線回折プロファイルをフィッティングした計算データ(図3)とを重ねて示した図である。図4に示すように、最終的な計算データが測定データに近い分布であることが確認できた。
最後に、複数のカルシウムフェライト相の相分率を全て足し合わせた値をカルシウムフェライトの総量とし、これを焼結鉱特性の指標とする。
【0027】
以上のように、リートベルト解析を、焼結鉱のXRD測定データ(X線回折パターン)に適用することで、焼結鉱の構成相を決定し、焼結鉱の各構成相の相分率を定量する手法を確立することができる。この手法より、カルシウムフェライト相が焼結鉱に複数存在することが初めて明らかになった。また、カルシウムフェライトの総量を数値化することも初めて可能になった。
更に、以上の解析法で明らかにした定量値(カルシウムフェライトの総量(合計量))と焼結鉱特性とが関係していることも明らかになった。すなわち、焼結鉱特性の一つである歩留(強度)に注目すると、カルシウムフェライトの総量と歩留とには相関が見られることが明らかになった。このことを実施例で説明する。
【0028】
(実施例1)
本実施例では、鉄鉱石の配合を変えた2つの焼結鉱Aと焼結鉱Bとを例に挙げて説明する。鉄鉱石は、産地によってその成分が異なる。そのため、鉄鉱石の配合を変化させると焼結鉱特性に影響があるということが知られている。この焼結鉱Aと焼結鉱Bには、歩留に違いが見られる。焼結鉱Aと焼結鉱Bについて、それぞれ、XRD測定データを得て、Fe-O相を有する複数の標準物質の候補の相と、Ca-Fe-O相を有する複数の標準物質の候補の相に、理論回折強度fi(x)の計算式(式1)を適用し、XRD測定データに最も近くなるようにフィッティングを行い(リートベルト解析を行い)、各構成相の相分率を求めた。その結果を表1に示す。尚、表1の数字の単位はmass%である(ただし歩留の単位は%である)。
【0029】
【表1】
【0030】
表1より、従来の解析手法では明らかにできなかったカルシウムフェライトの複数相の存在やカルシウムフェライトの総量(CF総量)等を定量することが可能となることが分かる。
また、構成相の定量が可能となったことから焼結鉱A、焼結鉱Bの構成相に関する違いを数値として比較することが可能となった。
組織観察等の従来法では、焼結鉱の粒を埋め込み、断面を切り出したサンプルを光学顕微鏡で観察する。光学顕微鏡による測定面積は数mm2であったため、焼結鉱の局所的な情報としての定量しかできなかった。また、焼結鉱の構成相は粒によってばらつきが存在するため、一般性に問題があった。更に、組成の異なる複数のカルシウムフェライト相を別々に検出し定量することは不可能であったため、カルシウムフェライト相と焼結鉱の特性とを関連付けて相関を得ることが困難であった。
【0031】
一方、本発明の実施形態で説明した解析法では、焼結鉱の粒を複数個集めてこれら粉砕して作製した粉末試料のX線回折パターンの測定を行う。よって、構成相の測定部位の依存性や粒度依存性をなくし、焼結鉱全体で平均化された情報として、構成相を定量することが可能である。また、組成の異なる複数のカルシウムフェライト相の決定と定量とが可能であるため、カルシウムフェライト相と焼結鉱の特性とを関連付けることが可能になる。
焼結鉱Aと焼結鉱Bでは、歩留に大きな差が見られる。また、両焼結鉱A、Bについての本実施例のリートベルト解析結果を比較すると、カルシウムフェライトの総量に差が見られることが明らかになった。このことから、カルシウムフェライトの総量が多いと歩留が高いという相関が確認された。
【0032】
カルシウムフェライトはCaとFeとの複合酸化物であり、焼結反応の程度を表すと言われている。焼結反応の際に高温で生成される液相が冷えて固まったものがカルシウムフェライトであり、一般的に高温時に液相が多くなると、焼結鉱が焼き固められ強度が向上することから、歩留が上昇するという知見がある。XRDによって決定したカルシウムフェライトの総量からも、カルシウムフェライトの存在量が多いと歩留が高いという相関が導かれていることが確認できる。そのため、カルシウムフェライトの総量が、焼結鉱の歩留を示す一つの指標として使用できることを意味している。
【0033】
(実施例2)
実施例1と同様に鉄鉱石配合の異なった焼結鉱Cについて、XRD測定データを得てリートベルト解析を行った。そして、焼結鉱Cの構成相と実施例1の焼結鉱Aの構成相との比較を行った。その結果を表2に示す。尚、表2の数字の単位はmass%である(ただし歩留の単位は%である)。
【0034】
【表2】
【0035】
実施例1では、焼結鉱Aよりも歩留が低い焼結鉱Bを焼結鉱Aとの比較対象にしたが、実施例2では焼結鉱Aよりも高い歩留である焼結鉱Cを焼結鉱Aとの比較対象にした。実施例1と同様に、歩留が高い方がカルシウムフェライトの総量も多いことが判かる。
例えば、実施例1の表1と実施例2の表2とから、カルシウムフェライトの総量が18mass%以上存在している場合、歩留は70%以上であることが判かる。このように、焼結鉱に対してXRD測定を行えば、歩留の評価を行うことができる。一方で、カルシウムフェライトの総量が18mass%以下の場合は、疑似粒子の温度が十分に上がらず、液相が拡散しにくくなることから歩留が悪くなる。
【0036】
また、焼結鉱の種類によって、候補に挙げられる「異なる組成のカルシウムフェライト相」にも差が見られる。これは、高温時に液相を伴う焼結反応が複雑であるため、急冷されたカルシウムフェライトの組成及び結晶構造に違いが出てくることが原因である。これより、カルシウムフェライト相の種類と存在量は、焼結反応の履歴を反映しており、XRDによる解析手法を利用することで、カルシウムフェライト相の違いを明らかにすることができ、未だ知見の少ない焼結反応の理解を得ると共に、これらを焼結機の制御に反映することが示唆され、焼結技術の向上に大きな影響を与えると考えられる。
【0037】
尚、以上説明した本発明の実施形態のうち、焼結鉱の構成相を決定し、焼結鉱の各構成相の相分率を定量する処理と、カルシウムフェライトの総量を導出する処理は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、プログラムをコンピュータに供給するための手段、例えばかかるプログラムを記録したCD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体、又はかかるプログラムを伝送する伝送媒体も本発明の実施の形態として適用することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体などのプログラムプロダクトも本発明の実施の形態として適用することができる。前記のプログラム、コンピュータ読み取り可能な記録媒体、伝送媒体及びプログラムプロダクトは、本発明の範疇に含まれる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
図1
図2
図3
図4