【実施例】
【0030】
以下、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。下記実施例で用いたアミノ酸はL−体である。
【0031】
〔実施例1〕酵素活性を指標とした植物病害抵抗性誘導の評価
(1)植物体の栽培と散布方法
キュウリの病害抵抗性誘導評価は、子葉と第一本葉を用いて行なった。子葉での評価では、キュウリ(品種「ときわ地這」)を園芸用培養土(パワーソイル; 呉羽化学工業株式会社)で播種後1週間栽培した植物を用いた。本葉での評価では、キュウリ(品種「四葉」)を園芸用培養土(パワーソイル; 呉羽化学工業株式会社)で播種後2週間栽培した植物を用いた。
かぼちゃ(品種「ほっこり姫」)、メロン(品種「レノン」)、スイカ(品種「紅こだま」)の評価は園芸用培養土(パワーソイル; 呉羽化学工業株式会社)で播種後2週間栽培した植物体の第一本葉を用いて行なった
【0032】
各植物は、培養庫内の温度は23〜25℃、日周は14時間明期、光強度はおよそ100μmol m
-2 s
-1で栽培した。通常の葉面散布処理において、展着剤としてアプローチBI(花王(株)。「アプローチBI」は同社の登録商標である。)を1/1000濃度で添加した。子葉への処理では、処理液をおよそ2μLずつ25箇所に滴下し、滴下した領域を酵素活性測定用試料として回収した。本葉への処理では、各溶液をおよそ1 mL/100 cm
2程度霧吹きで噴霧処理し、葉の中心部分の2cm四方を酵素活性測定用試料として回収した。
【0033】
(2)酵素抽出
上記の酵素活性測定用試料をサンプリング後、直ちに液体窒素で凍結し、-80℃で保存した。凍結状態のまま植物破砕機MM300 MIXER MILL GRINDER (Retsch)により破砕し、300μLの抽出バッファー[100 mM NaH
2PO
4 / Na
2HPO
4(pH6.0), 1 mM DTT, protease inhibitor/complete mini EDTA free (Roche社)]に懸濁した。10,000 rpm 5分間の遠心分離後の上清を、0.22μmフィルターに通し不溶物を除去した。得られた画分を粗抽出画分とし、Bradford法によるタンパク質濃度測定後、酵素活性測定に用いた。
【0034】
(3)キチナーゼ活性測定
キチナーゼ活性は、McCreathらによる方法(McCreath, K. et al., J. Microbiol. Methods 14:229-237, 1992)により測定した。基質である4MU-(GlcNAc)
3 (4-methylumbelliferyl-β-d-N,N',N''-triacetylchitobiose; SIGMA M5639)は、最終濃度0.4mMになるように50% エタノール中に溶解し、-20℃で保存した。使用時に10倍に希釈し、基質溶液とした。上記粗抽出画分を1μg/μLに調整した。各試料50μLずつを96穴プレート上で37℃10分間プレインキュベーションした後に、基質溶液50μLを添加し37℃で反応を開始した。
【0035】
キュウリ子葉を用いた実験では、反応開始後30分後、及び90分後、キュウリ、カボチャ、メロン本葉を用いた実験では反応開始後90分後、及び120分後、スイカ本葉を用いた実験では反応開始後60分後、及び120分後に、反応液に100μLの1M Gly/NaOH buffer (pH 10.2)を添加し、反応を停止した。反応、及び反応停止は96ウェルプレート上で行い、最終量200μLとした。液面の泡を完全に除去した後に、蛍光検出用プレートリーダーSpectraMax M2 (Molecular Devices)を用いて蛍光強度を測定した。蛍光測定では、360 nmエキサイテイーション、450 nmエミッションにより測定した。4MU(4-methylumbelliferone)を標準物質として求めた標準値にもとづき、1分間に1μmol反応する酵素量を1ユニットと定義した。
【0036】
(4)結果
各種アミノ酸溶液をそれぞれ単独の100 mM濃度でキュウリ子葉に施用し、48時間後の酵素活性を測定した結果を
図1に示す。
図1には、それぞれ3反復の実験の平均値とSDを示した。グルタミン酸ナトリウム(以下、「グルタミン酸」と記載する。)、セリン、プロリンに、病害抵抗性誘導のマーカーであるキチナーゼ活性を上昇させる効果があることが判った。
【0037】
各種アミノ酸溶液をそれぞれ20 mM濃度で、単独または混合してキュウリ本葉に施用し、48時間後の酵素活性を測定した結果を
図2に示す。
図2には、それぞれ3反復の実験の平均値とSDを示した。スレオニンに、病害抵抗性誘導のマーカーであるキチナーゼ活性を上昇させる効果があることが判った。また、グルタミン酸にアラニンとスレオニンが添加されることで活性が強化されることが判った。
【0038】
各種アミノ酸溶液をそれぞれ20 mM濃度でカボチャ、メロン、スイカ本葉に施用し、48時間後の酵素活性を測定した結果をそれぞれ
図3、
図4、
図5に示す。
図3、
図4、
図5には、それぞれ3反復の実験の平均値とSDを示した。グルタミン酸、スレオニン、セリン、プロリンに、病害抵抗性誘導のマーカーであるキチナーゼ活性を上昇させる効果があることが判った。
【0039】
グルタミン酸(5mMまたは10mM)とアラニンまたはスレオニン(2mMまたは5mM)を混合し、キュウリ子葉に施用し、48時間後の酵素活性を測定した結果を
図6に示す。それぞれ2反復の実験の平均値を棒で、個別の値を丸で示した。前記濃度ではグルタミン酸単独ではほとんど効果が認められなかったが、アラニンまたはスレオニン(2mMまたは5mM)との混合液では明瞭な効果が認められた。
【0040】
〔実施例2〕キュウリうどん粉病およびキュウリ炭疽病の防除効果
(1)植物体の栽培と散布方法
実験には、キュウリ(品種「四葉」)を園芸用培養土(パワーソイル; 呉羽化学工業株式会社)で播種後2週間栽培した植物を用いた。培養庫内の温度は23〜25℃、日周は14時間明期、光強度はおよそ100μmol m
-2 s
-1で栽培した。各試料溶液を葉面散布後48時間後に、下記の各病原菌を噴霧接種した。散布溶液には、アプローチBI(花王(株))を1/1000量添加した。
【0041】
(2)キュウリうどん粉病防除評価
キュウリうどん粉病菌(Sphaerotheca fuliginea)は、圃場で自然発生した葉面から単離した。得られた病原菌は、23〜25℃の恒温培養器内で、播種後11日目の植物に2週間毎に感染させることで維持し、以下の実験に用いた。
50mMまたは20mMグルタミン酸、20mMセリン、20mMアラニン、20 mMグルタミン酸と20 mMアラニンの混合液、をそれぞれ播種後2週間後のキュウリの第一本葉に散布し、その48時間後にキュウリうどん粉病菌(Erysiphe polygoni)を接種した。接種は、分生胞子懸濁液(2×10
5 分生胞子/mL)を葉面に噴霧することにより行った。接種10日後に、各処理葉に発生したコロニー数を測定することで評価を行った。結果を
図7に示す。それぞれ3から6反復の実験の平均値とSDを示した。対照と比較し、グルタミン酸、セリン、グルタミン酸とアラニン混合液の葉面散布により有意に病原菌の感染を防除できることが示された。一方でアラニンの葉面散布では病原菌の感染を防除できないことが示された。
【0042】
(3)キュウリ炭疽病防除評価
50mMグルタミン酸、20mMグルタミン酸と20mMアラニンの混合液、20mMグルタミン酸、20mMセリン、20mMスレオニンを、それぞれ播種後2週間後のキュウリの第一本葉に噴霧し、その48時間後にウリ類炭疽粉病菌[Colletotrichum lagenarium (syn. C. orbiculare)]を接種した。接種は、分生胞子懸濁液(1×10
5 分生胞子/mL)を葉面に噴霧することにより行った。噴霧接種後、暗所、湿室下に24時間静置することにより、ウリ類炭疽病菌を植物に感染させた。接種7日後に各処理葉に発生した罹病性病斑数を測定することで、評価を行った結果を
図8に示す。それぞれ3反復の実験の平均値とSDを示した。
図8に示すとおり、対照と比較し、グルタミン酸、グルタミン酸とアラニンの混合液、セリン、またはスレオニンの葉面散布により有意に病原菌の感染を防除できることが示された。
【0043】
〔実施例3〕メロン炭疽病の防除効果
(1)植物体の栽培と散布方法
実験には、メロン(品種「レノン」)を園芸用培養土(パワーソイル; 呉羽化学工業株式会社)で播種後2週間栽培した植物を用いた。培養庫内の温度は23〜25℃、日周は14時間明期、光強度はおよそ100μmol m
-2 s
-1で栽培した。各試料溶液を葉面散布後48時間後に、下記の各病原菌を噴霧接種した。散布溶液には、アプローチBI(花王(株))を1/1000量添加した。
【0044】
(2)メロン炭疽病防除評価
20mMグルタミン酸、20mMセリン、20 mMスレオニンを、それぞれ播種後2週間後のメロンの第一本葉に噴霧し、その48時間後にウリ類炭疽粉病菌[Colletotrichum lagenarium (syn. C. orbiculare)]を接種した。接種は、分生胞子懸濁液(1×10
5 分生胞子/mL)を葉面に噴霧することにより行った。噴霧接種後、暗所、湿室下に24時間静置することにより、ウリ類炭疽病菌を植物に感染させた。評価は罹病程度を発病度として数値化して比較を行なった。すなわち指標を[0:無病徴、1:葉の20%未満で発病、2:葉の20%以上で発病、3:部分的に枯死]の4段階として評価を行なった結果を表1に示す。それぞれ3個体に施用し、各個体の発病度を示した。表1に示すとおり、対照と比較し、グルタミン酸、スレオニン又はセリンの葉面散布により有意に病原菌の感染を防除できることが示された。
【0045】
【表1】
【0046】
〔実施例4〕アミノ酸の根圏施用によるキュウリに対するウリ類炭疽病の防除効果
播種後2週間後のキュウリの根を10mMグルタミン酸溶液に浸し、その48時間後にウリ類炭疽粉病菌[Colletotrichum lagenarium (syn. C. orbiculare)]を接種した。接種は、分生胞子懸濁液(1×10
5 分生胞子/mL)を葉面に噴霧することにより行った。噴霧接種後、暗所、湿室下に24時間静置することにより、ウリ類炭疽病菌を植物に感染させた。接種7日後に各処理葉に発生した罹病性病斑数を測定することで、評価を行った結果を
図9に示す。それぞれ3反復の実験の平均値とSDを示した。
図9に示すとおり、対照と比較し、グルタミン酸の根圏施用により有意に病原菌の感染を防除できることが示された。