特許第5790599号(P5790599)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5790599
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】振動発電装置
(51)【国際特許分類】
   H02N 1/08 20060101AFI20150917BHJP
【FI】
   H02N1/08
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-155089(P2012-155089)
(22)【出願日】2012年7月10日
(65)【公開番号】特開2014-18008(P2014-18008A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2014年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100106622
【弁理士】
【氏名又は名称】和久田 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 剛
(72)【発明者】
【氏名】正木 達章
(72)【発明者】
【氏名】鍋藤 実里
(72)【発明者】
【氏名】松浦 圭記
【審査官】 宮地 将斗
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/021488(WO,A1)
【文献】 特開2012−85515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向した状態を保ったまま、外部振動により相対移動が可能となるように構成された第一基板および第二基板と、
前記第一基板の一方の面側に、前記相対移動方向に並べられた複数のエレクトレットからなるエレクトレット群と、
前記第二基板における前記エレクトレット群と対向する面側に、前記相対移動方向に並べられた複数の電極からなる電極群であって、外部振動による発電電力が供給される電力供給負荷にそれぞれ電気的に接続された第一集電電極および第二集電電極と、該第一集電電極と該第二集電電極との間に設けられ且つ接地された接地電極とを含む電極群と、
を備える、振動発電装置。
【請求項2】
外部振動による前記第一基板と前記第二基板の相対移動に伴って、前記第一集電電極および前記第二集電電極のそれぞれに接続された前記電力供給負荷に電力供給する、
請求項1に記載の振動発電装置。
【請求項3】
前記接地電極は、前記第二基板に並べられた前記第一集電電極と前記第二集電電極のうち、一部の該第一集電電極と該第二集電電極との間に設けられる、
請求項1又は請求項2に記載の振動発電装置。
【請求項4】
前記相対移動方向に沿った前記接地電極の幅は、前記第一集電電極および前記第二集電電極のそれぞれに接続された前記電力供給負荷への供給電力量が最大値となる幅である、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の振動発電装置。
【請求項5】
前記第一集電電極と前記第二集電電極は、同一の整流回路を介して前記電力供給負荷に接続される、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の振動発電装置。
【請求項6】
前記整流回路は、全波整流回路である、
請求項5に記載の振動発電装置。
【請求項7】
前記第一集電電極と前記第二集電電極は、それぞれ個別に形成される整流回路を介して前記電力供給負荷に接続される、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の振動発電装置。
【請求項8】
前記整流回路は、両波整流回路である、
請求項7に記載の振動発電装置。
【請求項9】
前記第一集電電極に電気的に接続された前記電力供給負荷と、前記第二集電電極に電気的に接続された前記電力供給負荷は、互いに独立して接地される、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の振動発電装置。
【請求項10】
前記接地電極は、前記電力供給負荷よりインピーダンスが低い所定インピーダンス回路を介して接地される、
請求項1から請求項9の何れか1項に記載の振動発電装置。
【請求項11】
前記電力供給負荷は、供給された発電電力を蓄電する蓄電回路、供給された発電電力を電源として所定の動作を実施する負荷回路、供給された発電電力の電圧変換を行う電圧変換回路のうち何れか、もしくはそれらの任意の組合せである、
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の振動発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトレットを利用し外部振動により発電を行う振動発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の省エネルギーの流れから、化石燃料等に依存しない日常的に存在する環境エネルギーが注目されている。環境エネルギーとして太陽光や風力等による発電エネルギーは広く知られているが、これらに劣らないエネルギー密度を有する環境エネルギーとして、日常周囲に存在する振動エネルギーを挙げることができる。
【0003】
そして、この振動エネルギーを利用して発電を行う振動発電装置が開発されており、その発電装置には電荷を半永久的に保持できるエレクトレットが広く利用されている(例えば、非特許文献1を参照)。当該技術では、エレクトレットを利用した発電装置において、発電のために往復運動する互いに対向する一対の可動基板が配置され、一方の基板の表面にエレクトレットが配置され、他方の基板の表面にエレクトレットの作用により生じる電荷を集めるための一対の集電電極が配置されている。この一対の集電電極のうち、一方の集電電極は、発電した電力を供給する負荷抵抗を介して接地され、他方の集電電極は、負荷抵抗を介することなく接地されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】H. Okamoto, T. Suzuki, K. Mori and H. Kuwano, “A CONCEPT OF AN ELECTRET POWER GENERATOR INTEGRATED WITH A RECTIFIER”, PowerMEMS2009, Washington DC, USA, December 1-4, 2009, pp.292-295
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来から開発されているエレクトレットを利用した振動発電装置では、エレクトレットの作用で発生した電荷を集めるための電極を、エレクトレットに対向するように配置する。そして、当該電極を、電力供給の対象である電力供給負荷につなぐことで、発電電力の利用が図られる。ここで、従来技術では、一対の電極が、エレクトレットが配置される基板に対向する基板上に並べられるが、一対の電極のうち一方の電極は、電力供給負荷を介することなく接地され、いわゆる接地電極(グラウンド電極)として使用されるに留まっている。
【0006】
そのため、エレクトレットの作用により当該一方の電極上にも電荷は集められることになるが、その電荷は電力供給負荷に供給されることなく、当該一方の電極と接地面との間を移動するだけである。この結果、電力供給負荷への電力供給の観点に立てば、基板上に並べられた電極のうち、片方の電極のみが実質的に電力供給負荷への電力供給を担っている状態となり、基板上の表面の利用効率が好ましいものではなかった。換言すれば、従来技術では、エレクトレットの作用により生じた電力を、効率的に電力供給負荷に供給できるように取出すことができてはいなかった。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、エレクトレットを利用した振動発電装置による発電電力を、効率的に電力供給負荷に供給することを可能とする振動発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては、上記課題を解決するために、エレクトレットを利用した振動発電装置において、エレクトレットに対向する基板上に、発電電力を集める一対の集電電極と、その集電電極間に接地電極を配置する電極構成を採用するとともに、一対の集電電極のそれぞれに電力供給負荷をつなぎ接地することで、当該電力供給負荷に発電電力の供給を行う構成を採用した。各集電電極に電力供給負荷をつなぐことで、当該電力供給負荷への電力供給が可能となるとともに、集電電極間に接地電極を配置させることで、集電電極間に存在する寄生容量部への印加電圧を抑制し、集電電極に発生した電荷を円滑に電力供給負荷側に送り出すことができ、好適な電力供給が可能となる。
【0009】
詳細には、本発明は、互いに対向した状態を保ったまま、外部振動により相対移動が可能となるように構成された第一基板および第二基板と、前記第一基板の一方の面側に、前記相対移動方向に並べられた複数のエレクトレットからなるエレクトレット群と、前記第二基板における前記エレクトレット群と対向する面側に、前記相対移動方向に並べられた複数の電極からなる電極群であって、外部振動による発電電力が供給される電力供給負荷にそれぞれ電気的に接続された第一集電電極および第二集電電極と、該第一集電電極と該第二集電電極との間に設けられ且つ接地された接地電極とを含む電極群と、を備える、振動発電装置である。
【0010】
本発明に係る振動発電装置は、電荷を半永久的に保持できるエレクトレットの性質を利用し、相対移動可能な二つの基板に設けられた電極群とエレクトレット群との間での外部振動に応じた電荷容量の変動が、第一集電電極および第二集電電極で取出され、電力供給負荷へと供給される。ここで、当該振動発電装置では、第一集電電極と第二集電電極には、それぞれ電力供給負荷がつながれることで、各集電電極で集められた電荷を電力供給負荷へ供給し得る構成となっているが、本出願人の努力により、集電電極上の電荷の電力供給負荷への流れ込みが阻害される事象を見出した。
【0011】
第一基板と第二基板の相対移動方向に沿って、第一集電電極と第二集電電極が並べられている電極構成において、電極と電極の間に、電荷を溜め込む仮想的な容量部(寄生容量部)が存在すると考えられる。この寄生容量部において電荷を貯め込もうとする能力、すなわち寄生容量は、隣接する互いの基板の側面(側方端面)の大きさや基板間の距離に強く影響されるものと考えられるが、一定の大きさの寄生容量が存在すると、集電電極上の電荷の電力供給負荷への移動が阻害され、発電電力の効率的な供給が困難になると考えられる。そして、この寄生容量部に印加される電圧、すなわち寄生容量部を形成する隣接する電極間の電位差が大きくなると、寄生容量部に蓄積されるエネルギー量が増加することから、電力供給負荷への電力の供給が円滑に行われにくくなり、以て、振動発電装置として電力供給負荷への電力供給能力が制限されることになる。
【0012】
そこで、本発明に係る振動発電装置では、第一集電電極と第二集電電極との間に接地電極を配置する構成を採用した。接地電極を両集電電極の間に配置することで、第一集電電極と接地電極との間、および第二集電電極と接地電極との間に寄生容量部の存在が見込まれることになるが、第一集電電極側の寄生容量部については、第一集電電極につながる電力供給負荷での電圧降下に応じた、第一集電電極と接地電極との間の電位差が印加された状態となり、一方で、第二集電電極側の寄生容量部については、第二集電電極につながる電力供給負荷での電圧降下に応じた、第二集電電極と接地電極との間の電位差が印加された状態となる。この結果、各寄生容量部に印加されることになる電圧(電位差)を、接地電極が設けられない場合と比べて小さくすることができる。
【0013】
一般に、寄生容量部に蓄積される電荷エネルギーは、そこに印加される電圧の2乗に比例することを踏まえると、上記のように各寄生容量部に印加される電圧を小さくすることで、集電電極から電力供給負荷への電力供給の阻害の程度が軽減され、以て、発電電力を
好適に電力供給負荷に供給することが可能となる。
【0014】
なお、各集電電極につながれた電力供給負荷に関しては、該負荷への電力供給が好適に行われる限りにおいて、該電力供給負荷を接地してもよく、又は接地しなくてもよい。例えば、後述するように、上記振動発電装置からの出力電圧を整流して電力供給負荷に供給する場合には、その整流回路の態様に応じて該電力供給負荷の接地要否を適宜決定すればよい。
【0015】
ここで、上記振動発電装置において、前記接地電極は、前記第二基板に並べられた前記第一集電電極と前記第二集電電極のうち、一部の該第一集電電極と該第二集電電極との間に設けられてもよい。すなわち、上述した寄生容量部による電力供給負荷への電力供給の阻害程度を軽減するために、第一集電電極と第二集電電極との間に接地電極を配置すると、第二基板上において、電荷を集電するための電極の有効面積(即ち、集電電極による占有面積)が減少し、それに起因して振動発電装置の電力供給負荷への電力供給能力が低下することになる。そこで、接地電極を配置することによる電極の有効面積の減少と、寄生容量部による電力供給の阻害程度の軽減との相関を考慮して、より好ましくは、両者の相関を踏まえた上で振動発電装置の電力供給能力が最大となるように、接地電極を、一部の第一集電電極と第二集電電極との間に配置するようにしてもよい。なお、本発明においてこのような構成を採用し得ることであっても、全ての第一集電電極と第二集電電極との間に、接地電極を配置する構成の採用を妨げるものではない。
【0016】
また、上述までの振動発電装置において、前記相対移動方向に沿った前記接地電極の幅は、前記第一集電電極および前記第二集電電極のそれぞれに接続された前記電力供給負荷への供給電力量が最大値となる幅であってもよい。接地電極は、第一集電電極と第二集電電極との間に、接地された電極として存在することで、上記に示す寄生容量部による電力供給の阻害程度が軽減されるが、その電極幅の増大は、第二基板における電極の有効面積を減少させるものである。そこで、接地電極の幅を、電力供給負荷への電力供給能力が最大となるように設定するのが好ましい。また、振動発電装置の電力供給能力の最大化の観点から、接地電極の幅に加えて、接地電極と第一集電電極、第二集電電極との間隔も、適宜設定するのが好ましい。
【0017】
また、接地電極の幅を別の側面から捉え、上述までの振動発電装置において、前記相対移動方向に沿った前記接地電極の幅は、該相対移動方向に沿った前記第一集電電極と該接地電極の間隔と同一、又は該相対移動方向に沿った前記第二集電電極と該接地電極の間隔と同一としてもよい。このような構成を採用することで、本出願人は、本発明に係る振動発電装置による電力供給能力を好適に向上させる場合があることを見出した。
【0018】
ここで、上述までの振動発電装置において、前記第一集電電極に電気的に接続された前記電力供給負荷と、前記第二集電電極に電気的に接続された前記電力供給負荷は、互いに独立して接地されるように構成することで、各集電電極で集めた電力を、それぞれにつながる電力供給負荷に供給するようにしてもよい。
【0019】
また、上記の第一集電電極と第二集電電極が同一の電力供給負荷を介して接地される構成において、該第一集電電極と該第二集電電極は、同一の整流回路を介して該電力供給負荷に接続されてもよい。このように整流回路を介して各集電電極と電力供給負荷とを接続することで、各集電電極からの出力を好適に合成した上で電力供給負荷に供給することが可能となる。なお、整流回路としては、全波整流回路を例示することができる。また、整流回路として両波整流回路を利用することも可能であり、その場合は、前記第一集電電極および前記第二集電電極は、それぞれ個別に形成される整流回路を介して前記電力供給負荷に接続されてもよい。
【0020】
また、上述までの振動発電装置において、前記接地電極は、前記電力供給負荷よりインピーダンスが低い所定インピーダンス回路を介して接地されてもよい。接地電極につながる所定インピーダンス回路のインピーダンスが、電力供給負荷のインピーダンスより低い場合には、接地電極と各集電電極との間の寄生容量部に印加される電圧を比較的小さくでき、寄生容量部による電力供給の阻害程度が比較的小さいまま、電力供給負荷への電力供給を実現し得る。
【0021】
また、上述までの振動発電装置において、前記電力供給負荷は、発電電力が供給される負荷であれば、負荷抵抗やキャパシタンス等であってもよく、より具体的には、供給された発電電力を蓄電する蓄電回路、供給された発電電力を電源として所定の動作を実施する負荷回路(例えば、所定のパラメータを検出するためのセンサを搭載する回路や、その検出パラメータを送信するための無線回路等)、供給された発電電力の電圧変換を行う電圧変換回路のうち何れか、もしくはそれらを任意で組み合わせたものであってもよい。
【発明の効果】
【0022】
エレクトレットを利用した振動発電装置による発電電力を、効率的に電力供給負荷に供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第一の実施例に係る振動発電装置の概略構成を示す図である。
図2図1に示す振動発電装置のモデル図である。
図3】第一の参考例に係る振動発電装置のモデル図である。
図4】発電量について、図1に示す振動発電装置と図3に示す振動発電装置とを比較した図である。
図5】本発明の第二の実施例に係る振動発電装置のモデル図である。
図6】第二の参考例に係る振動発電装置のモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、図面を参照して本発明の振動発電装置1について説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本発明はこの実施の形態の構成に限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明に係る振動発電装置1の概略構成を示す。なお、図1は振動発電装置1を縦断面、すなわちZX平面で切断したときの断面図である。振動発電装置1は、不図示の筐体の内部に収納される第一基板3及び第二基板5を備えている。第一基板3と、第二基板5は、互いに対向した状態を保ったまま、相対的に移動可能に構成されている。そして、本実施例においては、第二基板5は筐体に固定されている。これに対して、第一基板3は、その両端がそれぞれバネによって筺体につながれているため、第一基板3そのものは、振動発電装置1に対して外部から付与された外部振動によって、筐体に対して移動(振動)するように構成されている。なお、図1においては、第一基板3の振動方向が、白抜き矢印で示されている。
【0026】
なお、第一基板3と第二基板5は、互いに対向した状態で、かつ互いに平行な状態を保ったまま、つまり対向する面の間隔が一定の状態を保ったまま、相対的に移動可能に構成されている。これにより、後述するように第一基板3側のエレクトレット2の作用によって生じる電荷(発電電荷)を、第二基板5側の一対の集電電極6、7で集め、各集電電極につながれた負荷抵抗10、11に供給することが可能となる。このエレクトレット2の作用による発電原理については従来技術であることから、本明細書ではその詳細な説明は割愛する。また、第一基板3と第二基板5との間の間隔を保持する構成、すなわち両者の
円滑な相対移動を維持するための構成は、上記発電の効率を高めるために重要ではあるが、本願発明の核心から外れるものであるから、本明細書では言及は控えることとする。
【0027】
ここで、第一基板3側の構造について説明する。第一基板3における第二基板5との対向面側には、それぞれ導電体上に形成された複数のエレクトレット2と、複数のガード電極4が、第一基板3と第二基板5との相対的な移動方向(図中の振動方向)に沿って交互に並ぶように配置されている。この複数のエレクトレット2が、本発明に係るエレクトレット群に相当する。この複数のエレクトレット2と複数のガード電極4はそれぞれ櫛状に形成され、それぞれのエレクトレット2と、それぞれのガード電極4が入れ子状に配置されているが、上記のとおり、図1はZX断面図であるため、エレクトレット2とガード電極4が交互に配置されているように図示される。本実施形態においては、エレクトレット2はマイナスの電荷を半永久的に保持するように構成されている。このようにエレクトレット2とガード電極4が交互に並ぶ配置において、相対移動方向におけるエレクトレット2の幅と、同じように相対移動方向におけるガード電極4の幅は共にw3とされ、隣接するエレクトレット2とガード電極4との相対移動方向における間隔はdとされる。
【0028】
次に、第二基板5側の構造について説明する。第二基板5おける第一基板3との対向面側には、エレクトレット2の作用により発生した電荷を集め、負荷抵抗に該電荷による電力を供給する一対の電極(第一集電電極6と第二集電電極7)と、第一集電電極6と第二集電電極7との間に配置される接地電極8を含む電極群が形成されている。具体的には、第一集電電極6と第二集電電極7は、電気的に絶縁された状態で第二基板5上に形成されており、複数の第一集電電極6は配線L1によって端子6Aで集約された上で、接地されている負荷抵抗10に対して端子10Aを介して接続される。更に、複数の第二集電電極7は配線L2によって端子7Aで集約された上で、接地されている負荷抵抗11に対して端子11Aを介して接続される。そして、このように電気的に形成される第一集電電極6と第二集電電極7との間の第二基板5上に、負荷抵抗を介することなく配線L3によって直接に接地されている接地電極8が配置されている。そのため、この接地電極8は負荷抵抗への電力供給を担う電極ではなく、その観点から第一集電電極6と第二集電電極7と区別することができる。
【0029】
このように第二基板5において形成された電極群については、相対移動方向における第一集電電極6の幅w1と第二集電電極7の幅w2は同じに設定される。また、第二基板5において繰り返される一組の電極配列によるピッチ、すなわち、第一集電電極6、接地電極8、第二集電電極7、接地電極8によるピッチは、第一基板3において繰り返される一組の配列によるピッチ、すなわちエレクトレット2、ガード電極4によるピッチと同じpとなるように、接地電極8の幅b、第一集電電極6と接地電極8との間隔aおよび第二集電電極7と接地電極8との間隔cが適宜設定される。
【0030】
上述のように図1に示す構成を有する振動発電装置1における発電および負荷抵抗10、11への電力供給について、図2および図3に基づいて説明する。図2は、図1に示す集電電極1と接地電極間、および集電電極2と接地電極間の寄生容量を示した図である。なお、図2においては、図1に示す振動発電装置1の構成要素と同一の要素には、当該構成要素と同一の参照番号を付している。また、図3は、図2に示す振動発電装置1と比較するための、参考例に係る振動発電装置のモデル図である。図3に示す参考例では、第一集電電極6、第二集電電極7に相当する電極が、第一集電電極600、第二集電電極700として形成されているが、電力供給を受ける負荷抵抗100につながれているのは第一集電電極600のみであり、第二集電電極700は直接に接地されている。また、図3に示す参考例では、図2に示す接地電極8に相当する構成は存在しない。なお、集電電極側の基板に対向する基板に設けられたエレクトレット200およびガード電極400に関する構成は、図2に示すエレクトレット2およびガード電極4に関する構成と同じである。
【0031】
ここで、図2に示す振動発電装置1であれ、図3に示す参考例であれ、第二基板5側に形成された電極群において、隣接する電極と電極との間には、電極からの電荷の移動を阻害するように作用する仮想的な容量部である寄生容量部20、21、200が存在する。この寄生容量部20等の容量(以下、単に「寄生容量」という)は、原理的には隣接する電極の端面の形状、電極厚み、電極本数、電極長さ、基板の比誘電率、電極間隔等に起因して決定される。図2に示す振動発電装置1では、第一集電電極6と接地電極8との間隔aと、第二集電電極7と接地電極8との間隔cは同じであり、また各電極の端面の形状、大きさは同一であるから、第一集電電極6と接地電極8との間に存在する寄生容量部20の寄生容量と、第二集電電極7と接地電極8との間に存在する寄生容量部21の寄生容量は、同じくCpである。また、図3に示す参考例においても、第一集電電極600と第二集電電極700の電極間隔、電極の端面の形状、大きさは、図2に示す例と同じとし、したがって、第一集電電極600と第二集電電極700との間に存在する寄生容量部200の寄生容量もCpである。
【0032】
先ず、図3に示す参考例について説明する。図3に示す参考例では、第一集電電極600によって集められた電荷による電力のみが負荷抵抗100に供給され、第二集電電極700によって集められた電荷は、第二集電電極700と接地面との間を行き来するだけである。したがって、当該参考例においては、集電電極は二種類あるものの、実質的に負荷抵抗100に電力供給を行っている集電電極は第一集電電極600のみであるため、集電電極からの電力供給は、効率的なものではない。また、負荷抵抗100への電力供給時における該負荷抵抗100での電圧降下をVとすると、第一集電電極600と第二集電電極700との間に存在する寄生容量部200への印加電圧は−Vとなる。したがって、寄生容量部200に、印加電圧−Vに応じたエネルギーが蓄積し得る状態となり、その結果、当該蓄積エネルギーに応じて、第一集電電極600から負荷抵抗100への電力供給(電荷の移動)が阻害されることになる。
【0033】
一方で、図2に示す振動発電装置1では、第一集電電極6によって集められた電荷による電力は負荷抵抗10に供給され、第二集電電極7によって集められた電荷による電力は負荷抵抗11に供給される。したがって、振動発電装置1においては、二種類ある集電電極のそれぞれによって、各集電電極につながれた負荷抵抗に電力供給が為されるため、振動発電装置1全体としてみれば、参考例と比べても、効率的な集電電極を介した電力供給を実現し得る。
【0034】
また、参考例と同じように、振動発電装置1における寄生容量部20、21による影響についても検討する。第一集電電極6から負荷抵抗10への電力供給時における該負荷抵抗10での電圧降下をV1とすると、接地電極8は接地されていることより、第一集電電極6と接地電極8との間に存在する寄生容量部20への印加電圧は−V1となる。したがって、寄生容量部20に、印加電圧−V1に応じたエネルギーが蓄積し得る状態となり、その結果、当該蓄積エネルギーに応じて、第一集電電極6から負荷抵抗10への電力供給(電荷の移動)が阻害されることになる。一方で、第二集電電極7から負荷抵抗11への電力供給時における該負荷抵抗11での電圧降下をV2とすると、接地電極8は接地されていることより、第二集電電極7と接地電極8との間に存在する寄生容量部21への印加電圧は−V2となる。したがって、寄生容量部21に、印加電圧−V2に応じたエネルギーが蓄積し得る状態となり、その結果、当該蓄積エネルギーに応じて、第二集電電極7から負荷抵抗11への電力供給(電荷の移動)が阻害されることになる。
【0035】
したがって、振動発電装置1では、上記の通り第一集電電極6および第二集電電極7のそれぞれで、対応する負荷抵抗10、11に電力供給を行うが、各集電電極と接地電極との間に存在する寄生容量部20、21によって、相応の電力供給の阻害を受けることにな
る。しかし、図3に示す参考例では、第一集電電極600のみによる電力供給と、集電電極間の寄生容量部200による電力供給の阻害が存在することを踏まえると、当該参考例との比較の上では、振動発電装置1全体の電力供給能力は、参考例に係る電力供給能力を大きく上回ることになる。例えば、負荷抵抗10、11および負荷抵抗100の抵抗値を同一とし、外部振動による発電時に各負荷抵抗で生じる電圧降下が同程度とすると、振動発電装置1全体による電力供給能力は、参考例に係る電力供給能力の2倍程度となり得る。
【0036】
より詳細に、図4に、振動発電装置1に係る電力供給能力(発電量)と、負荷抵抗10、11の抵抗値との相関をグラフL4で示し、参考例に係る電力供給能力(発電量)と、負荷抵抗100の抵抗値との相関をグラフL5で示す。なお、図4に示すグラフでは、振動発電装置1における負荷抵抗10、11の抵抗値は同一とする。図4から理解できるように、負荷抵抗の抵抗値に応じて、振動発電装置1に係る電力供給能力(発電量)と参考例に係る電力供給能力(発電量)は変動するものの、負荷抵抗の抵抗値を両者の間で固定すると、振動発電装置1に係る電力供給能力(発電量)が、参考例に係る電力供給能力(発電量)の1.7倍程度となっている。このように、本発明に係る振動発電装置1に係る電力供給能力は、極めて高いことが理解できる。
【0037】
なお、図1図2に示すように、振動発電装置1の第二基板5においては、第一集電電極6、第二集電電極7は電力供給に直接関与する電極であるが、接地電極8は負荷抵抗につながれていないことから電力供給に直接関与する電極ではない。したがって、第二基板5に形成される電極群について、接地電極8が占める面積が大きくなるほど、各集電電極が占める面積が小さくなり、結果として、振動発電装置1の電力供給能力が低下することになる。
【0038】
そこで、接地電極8の幅bは、第一集電電極6および第二集電電極7のそれぞれに接続された負荷抵抗10、11への電力供給能力が最大となるように、例えば、接地電極8が製造可能な範囲において可及的に小さく設定されるのが好ましい。
【0039】
<変形例>
図1に示す振動発電装置1の構成では、第一集電電極6と第二集電電極7のいずれの間にも、接地電極8が配置されている。しかし、上記の通り、接地電極8が占める面積が大きくなると振動発電装置1の電力供給能力が低下することから、部分的に、第一集電電極6と第二集電電極7の間に接地電極を配置するようにしてもよい。このとき、接地電極を部分的に省略すると、当該箇所では寄生容量部の影響が強くなると考えられることから、接地電極8を部分的に省略することによる、集電電極の占有面積の増加と寄生容量部の影響との相関を踏まえて、どの程度接地電極8を部分的に配置するかを決定するのが好ましい。
【実施例2】
【0040】
図5に、本発明の振動発電装置1に係る第二の実施例のモデル構成を示す。図5に示すモデル構成と、図2に示すモデル構成とで相違する点は、第一集電電極6および第二集電電極7につながれる負荷抵抗に関する構成である。具体的には、図5に示すモデル構成では、ブリッジ型全波整流回路9の二つの入力端子に、それぞれ第一集電電極6と第二集電電極7がつながれるとともに、ブリッジ型全波整流回路9の出力端子間に負荷抵抗10’がつながれている。したがって、図5に示すモデル構成では、第一集電電極6で集められた電荷による電力と、第二集電電極7で集められた電荷による電力が、ブリッジ型全波整流回路9を介して合成され共通の負荷抵抗10’に供給されることになる。なお、第一集電電極6、第二集電電極7、接地電極8およびエレクトレット2等の構成については、図2に示すモデル構成と同じである。
【0041】
このように構成される振動発電装置1でも、図2に示すモデル構成と同じように、第一集電電極6と接地電極8との間、および第二集電電極7と接地電極8との間に、それぞれ寄生容量部20、21が存在する。そして、負荷抵抗10’への電力供給時に各寄生容量部に印加される電圧をV’とすると、ブリッジ型全波整流回路9による入力電圧の合成作用により、負荷抵抗10’に印加される端子間電圧が2V’となる。
【0042】
ここで、図5に示すモデル構成と比較するための参考例に係るモデル構成を図6に示す。図6に示すモデル構成は、図3に示すモデル構成と同じように、図2図5に示す接地電極8に相当する構成を含まないものであり、図5との比較のために第一集電電極600、第二集電電極700と負荷抵抗100’との接続に関する構成は実質的に図5に示す構成と同じとされる。すなわち、図6に参考例でも、ブリッジ型全波整流回路900の二つの入力端子に、それぞれ第一集電電極600と第二集電電極700がつながれるとともに、ブリッジ型全波整流回路900の出力端子間に負荷抵抗100’がつながれている。
【0043】
このように構成される参考例では、図3に示すモデル構成と同じように、第一集電電極600と第二集電電極700との間に、寄生容量部200が存在する。そして、図5に示す振動発電装置1と同じように、ブリッジ型全波整流回路900の合成作用によって、負荷抵抗100’に2V’の電圧が印加されるとすると、寄生容量部200に印加される電圧も2V’となる。
【0044】
以上より、本発明に係る図5に示す振動発電装置1では、ブリッジ型全波整流回路9による出力の合成作用により、発電電力を負荷抵抗10’に集約しながら、寄生容量部20、21に印加される電圧をV’に抑えることができる。一方で、参考例では、同じようにブリッジ型全波整流回路9による出力の合成作用により、発電電力を負荷抵抗10’に集約することはできるものの、寄生容量部200に印加される電圧は、図5に示す例の2倍となる。一般に、容量部に蓄積されるエネルギーは印加電圧の2乗に比例することから、参考例と比べて図5に示す振動発電装置1では寄生容量部の数は多いものの、振動発電装置の全体としては、該寄生容量部20、21による負荷抵抗への電力供給の阻害程度を軽減することができ、以てより効率的な電力供給を実現できる。
【0045】
<変形例>
図5において、全波整流回路9に代えて、両波整流回路を採用してもよい。なお、両波整流回路については公知の技術であるため、その構成の図示は割愛するが、その場合、両波整流回路を通してつながれる電力供給負荷は、第一集電電極6および第二集電電極7からの正の合成出力に接続される電力供給負荷と、第一集電電極6および第二集電電極7からの負の合成出力に接続される電力供給負荷のそれぞれが設けられる
【実施例3】
【0046】
実施例1および実施例2においては、振動発電装置1における接地電極8は、抵抗等を介さずに直接接地されているが、これに代えて、比較的抵抗値の低い抵抗を介して接地されてもよい。より具体的には、第一集電電極6および第二集電電極7につながれる負荷抵抗10、11より低い抵抗値を有する抵抗を介して、接地電極8を接地するようにしてもよい。このような場合であっても、第一集電電極6と接地電極8の間の寄生容量部20、第二集電電極7と接地電極8の間の寄生容量部21に印加される電圧を低く保持できる限りにおいては、寄生容量部20、21による電力供給の阻害程度を軽減し得る。
【0047】
<その他の実施例>
上述までの振動発電装置1においては、負荷抵抗10、11に発電電力が供給されているが、振動発電装置1による発電電力を利用できる負荷であれば、様々な態様の負荷を電
力供給負荷として採用できる。例えば、発電電力を蓄電するためのキャパシタ(蓄電回路)や、発電電力の電圧を変換する電圧変換回路の態様も、電力供給負荷として採用できる。また、振動発電装置1が設置される周囲の環境パラメータ(例えば、温度や湿度、加速度等)を検出するセンサの駆動回路(電源回路)や、検出したその環境パラメータを外部のサーバまで送信する送信回路(有線、無線を問わず)の態様も、電力供給負荷として採用できる。
【符号の説明】
【0048】
1・・・・振動発電装置
2・・・・エレクトレット
3・・・・第一基板
4・・・・ガード電極
5・・・・第二基板
6・・・・第一集電電極
7・・・・第二集電電極
8・・・・接地電極
9・・・・整流器
10、10’、11・・・・負荷抵抗
20・・・・寄生容量部
L1、L2、L3・・・・配線
図1
図2
図3
図4
図5
図6