【実施例1】
【0025】
図1は、本発明に係る振動発電装置1の概略構成を示す。なお、
図1は振動発電装置1を縦断面、すなわちZX平面で切断したときの断面図である。振動発電装置1は、不図示の筐体の内部に収納される第一基板3及び第二基板5を備えている。第一基板3と、第二基板5は、互いに対向した状態を保ったまま、相対的に移動可能に構成されている。そして、本実施例においては、第二基板5は筐体に固定されている。これに対して、第一基板3は、その両端がそれぞれバネによって筺体につながれているため、第一基板3そのものは、振動発電装置1に対して外部から付与された外部振動によって、筐体に対して移動(振動)するように構成されている。なお、
図1においては、第一基板3の振動方向が、白抜き矢印で示されている。
【0026】
なお、第一基板3と第二基板5は、互いに対向した状態で、かつ互いに平行な状態を保ったまま、つまり対向する面の間隔が一定の状態を保ったまま、相対的に移動可能に構成されている。これにより、後述するように第一基板3側のエレクトレット2の作用によって生じる電荷(発電電荷)を、第二基板5側の一対の集電電極6、7で集め、各集電電極につながれた負荷抵抗10、11に供給することが可能となる。このエレクトレット2の作用による発電原理については従来技術であることから、本明細書ではその詳細な説明は割愛する。また、第一基板3と第二基板5との間の間隔を保持する構成、すなわち両者の
円滑な相対移動を維持するための構成は、上記発電の効率を高めるために重要ではあるが、本願発明の核心から外れるものであるから、本明細書では言及は控えることとする。
【0027】
ここで、第一基板3側の構造について説明する。第一基板3における第二基板5との対向面側には、それぞれ導電体上に形成された複数のエレクトレット2と、複数のガード電極4が、第一基板3と第二基板5との相対的な移動方向(図中の振動方向)に沿って交互に並ぶように配置されている。この複数のエレクトレット2が、本発明に係るエレクトレット群に相当する。この複数のエレクトレット2と複数のガード電極4はそれぞれ櫛状に形成され、それぞれのエレクトレット2と、それぞれのガード電極4が入れ子状に配置されているが、上記のとおり、
図1はZX断面図であるため、エレクトレット2とガード電極4が交互に配置されているように図示される。本実施形態においては、エレクトレット2はマイナスの電荷を半永久的に保持するように構成されている。このようにエレクトレット2とガード電極4が交互に並ぶ配置において、相対移動方向におけるエレクトレット2の幅と、同じように相対移動方向におけるガード電極4の幅は共にw3とされ、隣接するエレクトレット2とガード電極4との相対移動方向における間隔はdとされる。
【0028】
次に、第二基板5側の構造について説明する。第二基板5おける第一基板3との対向面側には、エレクトレット2の作用により発生した電荷を集め、負荷抵抗に該電荷による電力を供給する一対の電極(第一集電電極6と第二集電電極7)と、第一集電電極6と第二集電電極7との間に配置される接地電極8を含む電極群が形成されている。具体的には、第一集電電極6と第二集電電極7は、電気的に絶縁された状態で第二基板5上に形成されており、複数の第一集電電極6は配線L1によって端子6Aで集約された上で、接地されている負荷抵抗10に対して端子10Aを介して接続される。更に、複数の第二集電電極7は配線L2によって端子7Aで集約された上で、接地されている負荷抵抗11に対して端子11Aを介して接続される。そして、このように電気的に形成される第一集電電極6と第二集電電極7との間の第二基板5上に、負荷抵抗を介することなく配線L3によって直接に接地されている接地電極8が配置されている。そのため、この接地電極8は負荷抵抗への電力供給を担う電極ではなく、その観点から第一集電電極6と第二集電電極7と区別することができる。
【0029】
このように第二基板5において形成された電極群については、相対移動方向における第一集電電極6の幅w1と第二集電電極7の幅w2は同じに設定される。また、第二基板5において繰り返される一組の電極配列によるピッチ、すなわち、第一集電電極6、接地電極8、第二集電電極7、接地電極8によるピッチは、第一基板3において繰り返される一組の配列によるピッチ、すなわちエレクトレット2、ガード電極4によるピッチと同じpとなるように、接地電極8の幅b、第一集電電極6と接地電極8との間隔aおよび第二集電電極7と接地電極8との間隔cが適宜設定される。
【0030】
上述のように
図1に示す構成を有する振動発電装置1における発電および負荷抵抗10、11への電力供給について、
図2および
図3に基づいて説明する。
図2は、
図1に示す集電電極1と接地電極間、および集電電極2と接地電極間の寄生容量を示した図である。なお、
図2においては、
図1に示す振動発電装置1の構成要素と同一の要素には、当該構成要素と同一の参照番号を付している。また、
図3は、
図2に示す振動発電装置1と比較するための、参考例に係る振動発電装置のモデル図である。
図3に示す参考例では、第一集電電極6、第二集電電極7に相当する電極が、第一集電電極600、第二集電電極700として形成されているが、電力供給を受ける負荷抵抗100につながれているのは第一集電電極600のみであり、第二集電電極700は直接に接地されている。また、
図3に示す参考例では、
図2に示す接地電極8に相当する構成は存在しない。なお、集電電極側の基板に対向する基板に設けられたエレクトレット200およびガード電極400に関する構成は、
図2に示すエレクトレット2およびガード電極4に関する構成と同じである。
【0031】
ここで、
図2に示す振動発電装置1であれ、
図3に示す参考例であれ、第二基板5側に形成された電極群において、隣接する電極と電極との間には、電極からの電荷の移動を阻害するように作用する仮想的な容量部である寄生容量部20、21、200が存在する。この寄生容量部20等の容量(以下、単に「寄生容量」という)は、原理的には隣接する電極の端面の形状、電極厚み、電極本数、電極長さ、基板の比誘電率、電極間隔等に起因して決定される。
図2に示す振動発電装置1では、第一集電電極6と接地電極8との間隔aと、第二集電電極7と接地電極8との間隔cは同じであり、また各電極の端面の形状、大きさは同一であるから、第一集電電極6と接地電極8との間に存在する寄生容量部20の寄生容量と、第二集電電極7と接地電極8との間に存在する寄生容量部21の寄生容量は、同じくCpである。また、
図3に示す参考例においても、第一集電電極600と第二集電電極700の電極間隔、電極の端面の形状、大きさは、
図2に示す例と同じとし、したがって、第一集電電極600と第二集電電極700との間に存在する寄生容量部200の寄生容量もCpである。
【0032】
先ず、
図3に示す参考例について説明する。
図3に示す参考例では、第一集電電極600によって集められた電荷による電力のみが負荷抵抗100に供給され、第二集電電極700によって集められた電荷は、第二集電電極700と接地面との間を行き来するだけである。したがって、当該参考例においては、集電電極は二種類あるものの、実質的に負荷抵抗100に電力供給を行っている集電電極は第一集電電極600のみであるため、集電電極からの電力供給は、効率的なものではない。また、負荷抵抗100への電力供給時における該負荷抵抗100での電圧降下をVとすると、第一集電電極600と第二集電電極700との間に存在する寄生容量部200への印加電圧は−Vとなる。したがって、寄生容量部200に、印加電圧−Vに応じたエネルギーが蓄積し得る状態となり、その結果、当該蓄積エネルギーに応じて、第一集電電極600から負荷抵抗100への電力供給(電荷の移動)が阻害されることになる。
【0033】
一方で、
図2に示す振動発電装置1では、第一集電電極6によって集められた電荷による電力は負荷抵抗10に供給され、第二集電電極7によって集められた電荷による電力は負荷抵抗11に供給される。したがって、振動発電装置1においては、二種類ある集電電極のそれぞれによって、各集電電極につながれた負荷抵抗に電力供給が為されるため、振動発電装置1全体としてみれば、参考例と比べても、効率的な集電電極を介した電力供給を実現し得る。
【0034】
また、参考例と同じように、振動発電装置1における寄生容量部20、21による影響についても検討する。第一集電電極6から負荷抵抗10への電力供給時における該負荷抵抗10での電圧降下をV1とすると、接地電極8は接地されていることより、第一集電電極6と接地電極8との間に存在する寄生容量部20への印加電圧は−V1となる。したがって、寄生容量部20に、印加電圧−V1に応じたエネルギーが蓄積し得る状態となり、その結果、当該蓄積エネルギーに応じて、第一集電電極6から負荷抵抗10への電力供給(電荷の移動)が阻害されることになる。一方で、第二集電電極7から負荷抵抗11への電力供給時における該負荷抵抗11での電圧降下をV2とすると、接地電極8は接地されていることより、第二集電電極7と接地電極8との間に存在する寄生容量部21への印加電圧は−V2となる。したがって、寄生容量部21に、印加電圧−V2に応じたエネルギーが蓄積し得る状態となり、その結果、当該蓄積エネルギーに応じて、第二集電電極7から負荷抵抗11への電力供給(電荷の移動)が阻害されることになる。
【0035】
したがって、振動発電装置1では、上記の通り第一集電電極6および第二集電電極7のそれぞれで、対応する負荷抵抗10、11に電力供給を行うが、各集電電極と接地電極との間に存在する寄生容量部20、21によって、相応の電力供給の阻害を受けることにな
る。しかし、
図3に示す参考例では、第一集電電極600のみによる電力供給と、集電電極間の寄生容量部200による電力供給の阻害が存在することを踏まえると、当該参考例との比較の上では、振動発電装置1全体の電力供給能力は、参考例に係る電力供給能力を大きく上回ることになる。例えば、負荷抵抗10、11および負荷抵抗100の抵抗値を同一とし、外部振動による発電時に各負荷抵抗で生じる電圧降下が同程度とすると、振動発電装置1全体による電力供給能力は、参考例に係る電力供給能力の2倍程度となり得る。
【0036】
より詳細に、
図4に、振動発電装置1に係る電力供給能力(発電量)と、負荷抵抗10、11の抵抗値との相関をグラフL4で示し、参考例に係る電力供給能力(発電量)と、負荷抵抗100の抵抗値との相関をグラフL5で示す。なお、
図4に示すグラフでは、振動発電装置1における負荷抵抗10、11の抵抗値は同一とする。
図4から理解できるように、負荷抵抗の抵抗値に応じて、振動発電装置1に係る電力供給能力(発電量)と参考例に係る電力供給能力(発電量)は変動するものの、負荷抵抗の抵抗値を両者の間で固定すると、振動発電装置1に係る電力供給能力(発電量)が、参考例に係る電力供給能力(発電量)の1.7倍程度となっている。このように、本発明に係る振動発電装置1に係る電力供給能力は、極めて高いことが理解できる。
【0037】
なお、
図1、
図2に示すように、振動発電装置1の第二基板5においては、第一集電電極6、第二集電電極7は電力供給に直接関与する電極であるが、接地電極8は負荷抵抗につながれていないことから電力供給に直接関与する電極ではない。したがって、第二基板5に形成される電極群について、接地電極8が占める面積が大きくなるほど、各集電電極が占める面積が小さくなり、結果として、振動発電装置1の電力供給能力が低下することになる。
【0038】
そこで、接地電極8の幅bは、第一集電電極6および第二集電電極7のそれぞれに接続された負荷抵抗10、11への電力供給能力が最大となるように、例えば、接地電極8が製造可能な範囲において可及的に小さく設定されるのが好ましい。
【0039】
<変形例>
図1に示す振動発電装置1の構成では、第一集電電極6と第二集電電極7のいずれの間にも、接地電極8が配置されている。しかし、上記の通り、接地電極8が占める面積が大きくなると振動発電装置1の電力供給能力が低下することから、部分的に、第一集電電極6と第二集電電極7の間に接地電極を配置するようにしてもよい。このとき、接地電極を部分的に省略すると、当該箇所では寄生容量部の影響が強くなると考えられることから、接地電極8を部分的に省略することによる、集電電極の占有面積の増加と寄生容量部の影響との相関を踏まえて、どの程度接地電極8を部分的に配置するかを決定するのが好ましい。
【実施例2】
【0040】
図5に、本発明の振動発電装置1に係る第二の実施例のモデル構成を示す。
図5に示すモデル構成と、
図2に示すモデル構成とで相違する点は、第一集電電極6および第二集電電極7につながれる負荷抵抗に関する構成である。具体的には、
図5に示すモデル構成では、ブリッジ型全波整流回路9の二つの入力端子に、それぞれ第一集電電極6と第二集電電極7がつながれるとともに、ブリッジ型全波整流回路9の出力端子間に負荷抵抗10’がつながれている。したがって、
図5に示すモデル構成では、第一集電電極6で集められた電荷による電力と、第二集電電極7で集められた電荷による電力が、ブリッジ型全波整流回路9を介して合成され共通の負荷抵抗10’に供給されることになる。なお、第一集電電極6、第二集電電極7、接地電極8およびエレクトレット2等の構成については、
図2に示すモデル構成と同じである。
【0041】
このように構成される振動発電装置1でも、
図2に示すモデル構成と同じように、第一集電電極6と接地電極8との間、および第二集電電極7と接地電極8との間に、それぞれ寄生容量部20、21が存在する。そして、負荷抵抗10’への電力供給時に各寄生容量部に印加される電圧をV’とすると、ブリッジ型全波整流回路9による入力電圧の合成作用により、負荷抵抗10’に印加される端子間電圧が2V’となる。
【0042】
ここで、
図5に示すモデル構成と比較するための参考例に係るモデル構成を
図6に示す。
図6に示すモデル構成は、
図3に示すモデル構成と同じように、
図2、
図5に示す接地電極8に相当する構成を含まないものであり、
図5との比較のために第一集電電極600、第二集電電極700と負荷抵抗100’との接続に関する構成は実質的に
図5に示す構成と同じとされる。すなわち、
図6に参考例でも、ブリッジ型全波整流回路900の二つの入力端子に、それぞれ第一集電電極600と第二集電電極700がつながれるとともに、ブリッジ型全波整流回路900の出力端子間に負荷抵抗100’がつながれている。
【0043】
このように構成される参考例では、
図3に示すモデル構成と同じように、第一集電電極600と第二集電電極700との間に、寄生容量部200が存在する。そして、
図5に示す振動発電装置1と同じように、ブリッジ型全波整流回路900の合成作用によって、負荷抵抗100’に2V’の電圧が印加されるとすると、寄生容量部200に印加される電圧も2V’となる。
【0044】
以上より、本発明に係る
図5に示す振動発電装置1では、ブリッジ型全波整流回路9による出力の合成作用により、発電電力を負荷抵抗10’に集約しながら、寄生容量部20、21に印加される電圧をV’に抑えることができる。一方で、参考例では、同じようにブリッジ型全波整流回路9による出力の合成作用により、発電電力を負荷抵抗10’に集約することはできるものの、寄生容量部200に印加される電圧は、
図5に示す例の2倍となる。一般に、容量部に蓄積されるエネルギーは印加電圧の2乗に比例することから、参考例と比べて
図5に示す振動発電装置1では寄生容量部の数は多いものの、振動発電装置の全体としては、該寄生容量部20、21による負荷抵抗への電力供給の阻害程度を軽減することができ、以てより効率的な電力供給を実現できる。
【0045】
<変形例>
図5において、全波整流回路9に代えて、両波整流回路を採用してもよい。なお、両波整流回路については公知の技術であるため、その構成の図示は割愛するが、その場合、両波整流回路を通してつながれる電力供給負荷は、第一集電電極6および第二集電電極7からの正の合成出力に接続される電力供給負荷と、第一集電電極6および第二集電電極7からの負の合成出力に接続される電力供給負荷のそれぞれが設けられる