特許第5790601号(P5790601)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オムロン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5790601-振動発電装置 図000002
  • 特許5790601-振動発電装置 図000003
  • 特許5790601-振動発電装置 図000004
  • 特許5790601-振動発電装置 図000005
  • 特許5790601-振動発電装置 図000006
  • 特許5790601-振動発電装置 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5790601
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】振動発電装置
(51)【国際特許分類】
   H02N 1/08 20060101AFI20150917BHJP
【FI】
   H02N1/08
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-160398(P2012-160398)
(22)【出願日】2012年7月19日
(65)【公開番号】特開2014-23302(P2014-23302A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2014年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100106622
【弁理士】
【氏名又は名称】和久田 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 剛
(72)【発明者】
【氏名】鍋藤 実里
(72)【発明者】
【氏名】正木 達章
(72)【発明者】
【氏名】松浦 圭記
【審査官】 宮地 将斗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−284663(JP,A)
【文献】 特開2012−85515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向した状態を保ったまま、外部振動により相対移動が可能となるように構成された第一基板および第二基板と、
前記第一基板の一方の面側に、前記相対移動方向に並べられた複数のエレクトレットからなるエレクトレット群と、
前記第二基板における前記エレクトレット群と対向する面側に、前記相対移動方向に並べられた第一集電電極および第二集電電極を含む電極群と、
を備える振動発電装置であって、
外部振動による発電電力が供給される電力供給負荷であって、前記振動発電装置の内部インピーダンスより低いインピーダンスを有する電力供給負荷が、前記第一集電電極および前記第二集電電極にそれぞれ電気的に接続される、
振動発電装置。
【請求項2】
前記電力供給負荷のインピーダンスは、前記振動発電装置の内部インピーダンスより低い所定インピーダンス範囲の中で、前記第一集電電極および前記第二集電電極にそれぞれ接続された前記電力供給負荷に供給される発電電力量が最大となる、所定の高効率インピーダンス近傍の値に設定される、
請求項1に記載の振動発電装置。
【請求項3】
外部振動による前記第一基板と前記第二基板の相対移動に伴って、前記第一集電電極および前記第二集電電極のそれぞれに接続された前記電力供給負荷に電力供給する、
請求項1又は請求項2に記載の振動発電装置。
【請求項4】
前記第一集電電極と前記第二集電電極にそれぞれ接続される前記電力供給負荷は、同一の電力供給負荷として形成され、
前記第一集電電極と前記第二集電電極は、同一の整流回路を介して前記同一の電力供給負荷に接続される、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の振動発電装置。
【請求項5】
前記整流回路は、全波整流回路である、
請求項4に記載の振動発電装置。
【請求項6】
前記第一集電電極と前記第二集電電極は、それぞれ個別に形成される整流回路を介して前記電力供給負荷に接続される、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の振動発電装置。
【請求項7】
前記整流回路は、両波整流回路である、
請求項6に記載の振動発電装置。
【請求項8】
前記第一集電電極に電気的に接続された前記電力供給負荷と、前記第二集電電極に電気的に接続された前記電力供給負荷は、互いに独立して接地される、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の振動発電装置。
【請求項9】
前記電力供給負荷は、供給された発電電力を蓄電する蓄電回路、供給された発電電力を電源として所定の動作を実施する負荷回路、供給された発電電力の電圧変換を行う電圧変換回路のうち何れか、もしくはそれらの任意の組合せである、
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の振動発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトレットを利用し外部振動により発電を行う振動発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の省エネルギーの流れから、化石燃料等に依存しない日常的に存在する環境エネルギーが注目されている。環境エネルギーとして太陽光や風力等による発電エネルギーは広く知られているが、これらに劣らないエネルギー密度を有する環境エネルギーとして、日常周囲に存在する振動エネルギーを挙げることができる。
【0003】
そして、この振動エネルギーを利用して発電を行う振動発電装置が開発されており、その発電装置には電荷を半永久的に保持できるエレクトレットが広く利用されている(例えば、特許文献1〜3を参照)。当該技術では、エレクトレットを利用した発電装置において、発電のために往復運動する互いに対向する一対の可動基板が配置され、各可動基板において、エレクトレットと、対向する基板上のエレクトレットの作用により生じる電荷を集めるための集電電極が配置されている。この一対の集電電極のそれぞれは、発電した電力を供給する負荷抵抗を介して接地されている。そして、各可動基板で集められた電荷は集約され、整流回路を介して負荷に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−161036号公報
【特許文献2】特開2008−161040号公報
【特許文献3】特開2009−219353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来から開発されているエレクトレットを利用した振動発電装置では、エレクトレットの採用によって集電電極で効率的に電荷を集めるために、上述した電極構造を採用している。しかしながら、当該従来技術では、集電電極から負荷への電荷の移動、すなわち発電電力の効率的な供給については、何ら言及が為されていない。
【0006】
一方で、本出願人は、エレクトレットを利用した振動発電装置において、可動基板上に設けられた集電電極で集められた電荷を負荷に供給する際に、当該電荷の電力供給負荷への流れ込みが阻害される事象を見出した。この阻害の程度が高くなるほど、振動発電装置で発電された電力を外部に取出しにくくなることを意味することから、当該電荷の流れ込みの阻害は、いわば、振動発電装置の実質的な発電性能を抑制するものであり、好ましくない。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、エレクトレットを利用した振動発電装置による発電電力を、効率的に電力供給負荷に供給することを可能とする振動発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては、上記課題を解決するために、エレクトレットを利用した振動発電装置において、エレクトレットに対向する基板上に、発電電力を集める一対の集電電極を設けるとともに、一対の集電電極のそれぞれに電力供給負荷をつなぎ、各集電電極からそれぞれの電力供給負荷に電荷を流し込むことが可能となる構成を採用した。このとき、電力
供給負荷のインピーダンスが、振動発電装置の内部インピーダンスより低く設定されることで、電力供給負荷に効率的な電力供給を行うことが可能となる。
【0009】
詳細には、本発明は、互いに対向した状態を保ったまま、外部振動により相対移動が可能となるように構成された第一基板および第二基板と、前記第一基板の一方の面側に、前記相対移動方向に並べられた複数のエレクトレットからなるエレクトレット群と、前記第二基板における前記エレクトレット群と対向する面側に、前記相対移動方向に並べられた第一集電電極および第二集電電極を含む電極群と、を備える振動発電装置であって、外部振動による発電電力が供給される電力供給負荷であって、前記振動発電装置の内部インピーダンスより低いインピーダンスを有する電力供給負荷が、前記第一集電電極および前記第二集電電極にそれぞれ電気的に接続される、振動発電装置である。
【0010】
本発明に係る振動発電装置は、電荷を半永久的に保持できるエレクトレットの性質を利用し、相対移動可能な二つの基板に設けられた電極群とエレクトレット群との間での外部振動に応じた電荷容量の変動が、第一集電電極および第二集電電極で取出され、電力供給負荷へと供給される。ここで、当該振動発電装置では、第一集電電極と第二集電電極には、それぞれ電力供給負荷がつながれることで、各集電電極で集められた電荷を電力供給負荷へ供給し得る構成となっているが、本出願人の努力により、集電電極上の電荷の電力供給負荷への流れ込みが阻害される事象を見出した。
【0011】
第一基板と第二基板の相対移動方向に沿って、第一集電電極と第二集電電極が並べられている電極構成において、電極と電極の間に、電荷を溜め込む仮想的な容量部(寄生容量部)が存在すると考えられる。この寄生容量部において電荷を溜め込もうとする能力、すなわち寄生容量は、隣接する互いの基板の側面(側方端面)の大きさや基板間の距離に強く影響されるものと考えられるが、一定の大きさの寄生容量が存在すると、集電電極上の電荷の電力供給負荷への移動が阻害され、発電電力の効率的な供給が困難になると考えられる。そして、この寄生容量部に蓄積されるエネルギー量が増加すると、電力供給負荷への電力の供給が円滑に行われにくくなり、以て、振動発電装置として電力供給負荷への電力供給能力が制限されることになる。
【0012】
そこで、本発明に係る振動発電装置では、振動発電装置の内部インピーダンスより低いインピーダンスを有する電力供給負荷を、第一集電電極と第二集電電極のそれぞれに接続する構成を採用することとした。本出願人は、自己の努力により、このような集電電極と電力供給負荷の相関関係を採用することで、第一集電電極と第二集電電極との間に存在し得る寄生容量部の影響を軽減し得ることを見出したものである。すなわち、従来は、振動発電装置の内部インピーダンスと整合するインピーダンスを有する負荷を接続することで、振動発電装置による発電電力を取り出そうとするのが一般であった。しかし、本出願人は、敢えて、各集電電極に接続される電力供給負荷のインピーダンスを、内部インピーダンスより低く設定することで、結果として、第一集電電極と第二集電電極の両方から電力供給負荷に供給し得る総電力量を、増加させることができることを見出したものである。
【0013】
なお、各集電電極につながれた電力供給負荷に関しては、該負荷への電力供給が好適に行われる限りにおいて、該電力供給負荷を接地してもよく、又は接地しなくてもよい。例えば、後述するように、上記振動発電装置からの出力電圧を整流して電力供給負荷に供給する場合には、その整流回路の態様に応じて該電力供給負荷の接地要否を適宜決定すればよい。
【0014】
ここで、上記振動発電装置において、前記電力供給負荷のインピーダンスは、前記振動発電装置の内部インピーダンスより低い所定インピーダンス範囲の中で、前記第一集電電極および前記第二集電電極にそれぞれ接続された前記電力供給負荷に供給される発電電力
量が最大となる、所定の高効率インピーダンス近傍の値に設定されてもよい。このように、電力供給負荷のインピーダンスを所定の高効率インピーダンス近傍の値に設定することで、従来のように振動発電装置の内部インピーダンスに整合されたインピーダンスを有する負荷を集電電極に接続する場合と比べて、より効率的に負荷に電力供給を行うことが可能となる。なお、所定の高効率インピーダンス近傍の値における「近傍」の程度は、上記高効率な電力供給が認められる限りにおいて許される、所定の高効率インピーダンスからのずれである。
【0015】
また、上述までの振動発電装置において、前記第一集電電極と前記第二集電電極にそれぞれ接続される前記電力供給負荷は、同一の電力供給負荷として形成される場合、前記第一集電電極と前記第二集電電極は、同一の整流回路を介して前記同一の電力供給負荷に接続されてもよい。このように整流回路を介して各集電電極と電力供給負荷とを接続することで、各集電電極からの出力を好適に合成した上で電力供給負荷に供給することが可能となる。なお、整流回路としては、全波整流回路を例示することができる。また、整流回路として両波整流回路を利用することも可能であり、その場合は、前記第一集電電極および前記第二集電電極は、それぞれ個別に形成される整流回路を介してそれぞれの前記電力供給負荷に接続されてもよい。
【0016】
ここで、上記のように前記第一集電電極と前記第二集電電極にそれぞれ接続される前記電力供給負荷を、同一の電力供給負荷として形成する形態に代えて、前記第一集電電極に電気的に接続された前記電力供給負荷と、前記第二集電電極に電気的に接続された前記電力供給負荷は、互いに独立して接地されるように構成することで、各集電電極で集めた電力を、それぞれにつながる電力供給負荷に供給するようにしてもよい。
【0017】
また、上述までの振動発電装置において、前記電力供給負荷は、発電電力が供給される負荷であれば、負荷抵抗やキャパシタンス等であってもよく、より具体的には、供給された発電電力を蓄電する蓄電回路、供給された発電電力を電源として所定の動作を実施する負荷回路(例えば、所定のパラメータを検出するためのセンサを搭載する回路や、その検出パラメータを送信するための無線回路等)、供給された発電電力の電圧変換を行う電圧変換回路のうち何れか、もしくはそれらを任意で組み合わせたものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
エレクトレットを利用した振動発電装置による発電電力を、効率的に電力供給負荷に供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第一の実施例に係る振動発電装置の概略構成を示す図である。
図2図1に示す振動発電装置のモデル図である。
図3】第一の参考例に係る振動発電装置のモデル図である。
図4図2に示す振動発電装置において、第二集電電極に接続される負荷抵抗の抵抗値を変化させたときの、第一集電電極による電力供給量の推移を示す図である。
図5】電力供給量について、図1に示す振動発電装置と参考例の振動発電装置とを比較した図である。
図6】本発明の第二の実施例に係る振動発電装置のモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して本発明の振動発電装置1について説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本発明はこの実施の形態の構成に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
図1は、本発明に係る振動発電装置1の概略構成を示す。なお、図1は振動発電装置1を縦断面、すなわちZX平面で切断したときの断面図である。振動発電装置1は、不図示の筐体の内部に収納される第一基板3及び第二基板5を備えている。第一基板3と、第二基板5は、互いに対向した状態を保ったまま、相対的に移動可能に構成されている。そして、本実施例においては、第二基板5は筐体に固定されている。これに対して、第一基板3は、その両端がそれぞれバネによって筺体につながれているため、第一基板3そのものは、振動発電装置1に対して外部から付与された外部振動によって、筐体に対して移動(振動)するように構成されている。なお、図1においては、第一基板3の振動方向が、白抜き矢印で示されている。
【0022】
なお、第一基板3と第二基板5は、互いに対向した状態で、かつ互いに平行な状態を保ったまま、つまり対向する面の間隔が一定の状態を保ったまま、相対的に移動可能に構成されている。これにより、後述するように第一基板3側のエレクトレット2の作用によって生じる電荷(発電電荷)を、第二基板5側の一対の集電電極6、7で集め、各集電電極につながれた負荷抵抗10、11に供給することが可能となる。このエレクトレット2の作用による発電原理については従来技術であることから、本明細書ではその詳細な説明は割愛する。また、第一基板3と第二基板5との間の間隔を保持する構成、すなわち両者の円滑な相対移動を維持するための構成は、上記発電の効率を高めるために重要ではあるが、本願発明の核心から外れるものであるから、本明細書では言及は控えることとする。
【0023】
ここで、第一基板3側の構造について説明する。第一基板3における第二基板5との対向面側には、それぞれ導電体上に形成された複数のエレクトレット2と、複数のガード電極4が、第一基板3と第二基板5との相対的な移動方向(図中の振動方向)に沿って交互に並ぶように配置されている。この複数のエレクトレット2が、本発明に係るエレクトレット群に相当する。この複数のエレクトレット2と複数のガード電極4はそれぞれ櫛状に形成され、それぞれのエレクトレット2と、それぞれのガード電極4が入れ子状に配置されているが、上記のとおり、図1はZX断面図であるため、エレクトレット2とガード電極4が交互に配置されているように図示される。本実施形態においては、エレクトレット2はマイナスの電荷を半永久的に保持するように構成されている。このようにエレクトレット2とガード電極4が交互に並ぶ配置において、相対移動方向におけるエレクトレット2の幅と、同じように相対移動方向におけるガード電極4の幅は共にw3とされ、隣接するエレクトレット2とガード電極4との相対移動方向における間隔はdとされる。
【0024】
次に、第二基板5側の構造について説明する。第二基板5おける第一基板3との対向面側には、エレクトレット2の作用により発生した電荷を集め、負荷抵抗に該電荷による電力を供給する一対の電極(第一集電電極6と第二集電電極7)を含む電極群が形成されている。具体的には、第一集電電極6と第二集電電極7は、電気的に絶縁された状態で第二基板5上に形成されており、複数の第一集電電極6は配線L1によって端子6Aで集約された上で、接地されている負荷抵抗10に対して端子10Aを介して接続される。更に、複数の第二集電電極7は配線L2によって端子7Aで集約された上で、接地されている負荷抵抗11に対して端子11Aを介して接続される。
【0025】
このように第二基板5において形成された電極群については、相対移動方向における第一集電電極6の幅w1と第二集電電極7の幅w2は同じに設定される。また、第二基板5において繰り返される一組の電極配列によるピッチ、すなわち、第一集電電極6、第二集電電極7によるピッチは、第一基板3において繰り返される一組の配列によるピッチ、すなわちエレクトレット2、ガード電極4によるピッチと同じpとなるように、第一集電電6と第二集電電極7との間隔aが適宜設定される。
【0026】
上述のように図1に示す構成を有する振動発電装置1における発電および負荷抵抗10
、11への電力供給について、図2および図3に基づいて説明する。図2は、図1に示す第一集電電極6と第二集電電極7との間の寄生容量を説明するための、振動発電装置1のモデル図である。なお、図2においては、図1に示す振動発電装置1の構成要素と同一の要素には、当該構成要素と同一の参照番号を付している。また、図3は、図2に示す振動発電装置1と比較するための、参考例に係る振動発電装置のモデル図である。図3に示す参考例では、第一集電電極6、第二集電電極7に相当する電極が、第一集電電極600、第二集電電極700として形成されているが、電力供給を受ける負荷抵抗100につながれているのは第一集電電極600のみであり、第二集電電極700は直接に接地されている。なお、集電電極側の基板に対向する基板に設けられたエレクトレット200およびガード電極400に関する構成は、図2に示すエレクトレット2およびガード電極4に関する構成と同じである。
【0027】
このように図3に示す参考例では、第一集電電極600によって集められた電荷による電力のみが負荷抵抗100に供給され、第二集電電極700によって集められた電荷は、第二集電電極700と接地面との間を行き来するだけである。したがって、当該参考例においては、集電電極は二種類あるものの、実質的に負荷抵抗100に電力供給を行っている集電電極は第一集電電極600のみであるため、集電電極からの電力供給は、効率的なものではない。一方で、図2に示す振動発電装置1では、第一集電電極6で集められた電荷は負荷抵抗10へ供給され、第二集電電極7で集められた電荷は負荷抵抗11へ供給されることから、原理的には、二種類の集電電極を共に負荷抵抗への電力供給に利用することができる。
【0028】
しかしながら、図2に示す振動発電装置1であれ、図3に示す参考例であれ、第二基板5側に形成された電極群において、隣接する集電電極と集電電極との間には、電極からの電荷の移動を阻害するように作用する仮想的な容量部である寄生容量部20、200が存在する。この寄生容量部20等の容量(以下、単に「寄生容量」という)は、原理的には隣接する電極の端面の形状、電極厚み、電極本数、電極長さ、基板の比誘電率、電極間隔等に起因して決定される。図2に示す振動発電装置1では、第一集電電極6と第二集電電極7との間に存在する寄生容量部20の寄生容量は、Cpとされる。また、図3に示す参考例においても、第一集電電極600と第二集電電極700の電極間隔、電極の端面の形状、大きさは、図2に示す例と同じとし、したがって、第一集電電極600と第二集電電極700との間に存在する寄生容量部200の寄生容量もCpとされる。
【0029】
ここで、本出願人は、図2に示す振動発電装置1は2つの集電電極で電力供給を行えるものの、第一集電電極6と第二集電電極7との間に存在する寄生容量部20に起因して、各集電電極につながれた負荷抵抗の大きさに応じて、各集電電極による負荷抵抗への電力供給の程度が変動し、当該変動が、振動発電装置1の電力供給量に影響を及ぼすことを見出した。そこで、当該電力供給の程度の変動について、図4に基づいて説明する。なお、図4および後述する図5における電力供給量の推移の前提となる、振動発電装置に付与される振動の条件は、本明細書においては全て同一とする。
【0030】
図4に示すグラフ(線L3)は、図2に示すモデルにおいて、負荷抵抗10の抵抗値(インピーダンス)を図1に示す振動発電装置1の内部インピーダンスと同じ15MΩに設定したときに、負荷抵抗11の抵抗値を0〜50MΩの範囲で変化させていった場合の、負荷抵抗10がつながれている第一集電電極6による該負荷抵抗10への電力供給量の推移を示す図である。ここで、負荷抵抗10の抵抗値を15MΩに設定したのは、従来からのインピーダンス整合の考え方に基づくものである。また図4に示すグラフより、負荷抵抗11の抵抗値が0Ωであるとき第一集電電極6による電力供給量は最大となり、約27μWであると理解できるが、これは、図3に示すモデルにおいて負荷抵抗100の抵抗値をその振動発電装置の内部インピーダンスと同じく15MΩに設定した場合の、第一集電
電極600による負荷抵抗100のみへの電力供給量に相当し、当該最大の電力供給量を「単負荷時最大電力供給量」と称する。
【0031】
ここで、図4に示すように、負荷抵抗10の抵抗値が15MΩで固定された状態において、負荷抵抗11の抵抗値が大きくなるに従い、第一集電電極6による負荷抵抗10への電力供給量は低下していく。そして、負荷抵抗11の抵抗値が、負荷抵抗10と同じように振動発電装置1の内部インピーダンスと同じ15MΩとなるとき、第一集電電極6による負荷抵抗10への電力供給量は約13.5μWとなり、上記単負荷時最大電力供給量の約半分となる。したがって、この場合、振動発電装置1としての電力供給量である2つの集電電極6、7による電力供給量の総量は、上記単負荷時最大電力供給量と同程度となる。一方で、負荷抵抗11の抵抗値が、0Ωより大きく、振動発電装置1の内部インピーダンスと同じ15MΩより小さい範囲(以下、「低インピーダンス範囲」と称する。)に属する抵抗値である場合には、第一集電電極6による負荷抵抗10への電力供給量は、上記単負荷時最大電力供給量の半分を超える供給量となる。
【0032】
このように、第二集電電極7につながる負荷抵抗11の抵抗値が低インピーダンス範囲に属する場合に、第一集電電極6による電力供給量が比較的高くなる理由としては、負荷抵抗11の低インピーダンス化により、第一集電電極6と第二集電電極7との間の寄生容量部20への電荷の流れ込みが抑制されていることが考えられる。そのため、負荷抵抗11の抵抗値が低くなるほど、寄生容量部20による影響、すなわち第一集電電極6から負荷抵抗10への電力供給(電荷の移動)の阻害の程度は、小さくなると考えられる。
【0033】
ここで、上述の負荷抵抗の低インピーダンス化による、寄生容量部20に起因した電力供給の阻害程度が軽減される点を考慮し、図5に、振動発電装置1において負荷抵抗10、11の抵抗値を変動させたときの、該抵抗値と、当該負荷抵抗がつながれている集電電極6、7による電力供給量との相関、および同じように図3に示す振動発電装置における負荷抵抗100の抵抗値と集電電極600による電力供給量の相関を示す。詳細には、線L4は、図2に示す振動発電装置1において負荷抵抗10および負荷抵抗11の抵抗値を変化させたときの第一集電電極6による電力供給量の推移を示し、線L5は、図2に示す振動発電装置1において負荷抵抗10および負荷抵抗11の抵抗値を変化させたときの第二集電電極7による電力供給量の推移を示し、線L6は、参考例の振動発電装置において負荷抵抗100の抵抗値を変化させたときの第一集電電極600による電力供給量の推移を示す。
【0034】
ここで、各負荷抵抗の抵抗値が、図2に示す振動発電装置1および参考例の振動発電装置の内部インピーダンスである15MΩと同じである場合には、線L4および線L5で示すように、第一集電電極6、第二集電電極7による電力供給量は約13.5μWであり、一方で、線L6で示すように、第一集電電極600による電力供給量はピーク値の約27μWである。したがって、この場合、電力供給を行う2つの集電電極(第一集電電極6、第二集電電極7)を有する振動発電装置1の電力供給量は、電力供給を行う集電電極を実質的に1つしか持たない参考例の振動発電装置の電力供給量と同程度になる。
【0035】
一方で、各負荷抵抗の抵抗値が、低インピーダンス範囲(0Ω〜15MΩ)に属する場合には、第一集電電極6、第二集電電極7による電力供給量は、第一集電電極600による電力供給量の半分を超える値である。したがって、この場合、電力供給を行う2つの集電電極を有する振動発電装置1の電力供給量は、電力供給を行う集電電極を実質的に1つしか持たない参考例の振動発電装置の電力供給量を超えることになる。換言すれば、振動発電装置において、その内部インピーダンスより低いインピーダンスを有する負荷に対して電力を供給する場合には、参考例の構成(すなわち、電力供給を行う集電電極が実質的に1つとなる構成)に代えて、図2に示す構成(すなわち、電力供給を行う集電電極が2
つとなる振動発電装置1に係る構成)を採用することで、振動発電装置としての電力供給量を向上させることができる。
【0036】
また、別の側面から振動発電装置による電力供給能力を捉える。上記の通り、参考例の振動発電装置では、負荷抵抗600の抵抗値が当該振動発電装置の内部インピーダンスと同程度となるときに、その電力供給量がピーク値の約27μWとなるが、振動発電装置1では、負荷抵抗6、7の抵抗値が、低インピーダンス範囲に属する8MΩ近傍の値であるときに、その電力供給量がピーク値の約16μWとなる。したがって、振動発電装置1では、負荷抵抗6、7の抵抗値を8MΩ近傍の値とすることで、装置としての総電力供給量は約32μWとなり、参考例の振動発電装置の総電力供給量と比べて約20%程度増加し、電力供給量の最大化を実現することができる。
【実施例2】
【0037】
図6に、本発明の振動発電装置1に係る第二の実施例のモデル構成を示す。図6に示すモデル構成と、図2に示すモデル構成とで相違する点は、第一集電電極6および第二集電電極7につながれる負荷抵抗に関する構成である。具体的には、図6に示すモデル構成では、ブリッジ型全波整流回路9の二つの入力端子に、それぞれ第一集電電極6と第二集電電極7がつながれるとともに、ブリッジ型全波整流回路9の出力端子間に負荷抵抗10’がつながれている。したがって、図5に示すモデル構成では、第一集電電極6で集められた電荷による電力と、第二集電電極7で集められた電荷による電力が、ブリッジ型全波整流回路9を介して合成され共通の負荷抵抗10’に供給されることになる。なお、第一集電電極6、第二集電電極7、およびエレクトレット2等の構成については、図2に示すモデル構成と同じである。
【0038】
このように構成される振動発電装置1でも、図2に示すモデル構成と同じように、負荷抵抗10’の抵抗値を、振動発電装置1の内部インピーダンスに関連付けられた低インピーダンス範囲に属する値に設定することで、振動発電装置1の電力供給量の向上や、振動発電装置1としての電力供給量の最大化を図ることができる。
【0039】
<変形例>
図6において、全波整流回路9に代えて、両波整流回路を採用してもよい。なお、両波整流回路については公知の技術であるため、その構成の図示は割愛するが、その場合、両波整流回路を通してつながれる電力供給負荷は、第一集電電極6および第二集電電極7からの正の合成出力に接続される電力供給負荷と、第一集電電極6および第二集電電極7からの負の合成出力に接続される電力供給負荷のそれぞれが設けられる。
【0040】
<その他の実施例>
上述までの振動発電装置1においては、負荷抵抗10、11に発電電力が供給されているが、振動発電装置1による発電電力を利用できる負荷であれば、様々な態様の負荷を電力供給負荷として採用できる。例えば、発電電力を蓄電するためのキャパシタ(蓄電回路)や、発電電力の電圧を変換する電圧変換回路の態様も、電力供給負荷として採用できる。また、振動発電装置1が設置される周囲の環境パラメータ(例えば、温度や湿度、加速度等)を検出するセンサの駆動回路(電源回路)や、検出したその環境パラメータを外部のサーバまで送信する送信回路(有線、無線を問わず)の態様も、電力供給負荷として採用できる。
【符号の説明】
【0041】
1・・・・振動発電装置
2・・・・エレクトレット
3・・・・第一基板
4・・・・ガード電極
5・・・・第二基板
6・・・・第一集電電極
7・・・・第二集電電極
9・・・・整流器
10、10’、11・・・・負荷抵抗
20・・・・寄生容量部
L1、L2・・・・配線
図1
図2
図3
図4
図5
図6