【実施例1】
【0021】
図1は、本発明に係る振動発電装置1の概略構成を示す。なお、
図1は振動発電装置1を縦断面、すなわちZX平面で切断したときの断面図である。振動発電装置1は、不図示の筐体の内部に収納される第一基板3及び第二基板5を備えている。第一基板3と、第二基板5は、互いに対向した状態を保ったまま、相対的に移動可能に構成されている。そして、本実施例においては、第二基板5は筐体に固定されている。これに対して、第一基板3は、その両端がそれぞれバネによって筺体につながれているため、第一基板3そのものは、振動発電装置1に対して外部から付与された外部振動によって、筐体に対して移動(振動)するように構成されている。なお、
図1においては、第一基板3の振動方向が、白抜き矢印で示されている。
【0022】
なお、第一基板3と第二基板5は、互いに対向した状態で、かつ互いに平行な状態を保ったまま、つまり対向する面の間隔が一定の状態を保ったまま、相対的に移動可能に構成されている。これにより、後述するように第一基板3側のエレクトレット2の作用によって生じる電荷(発電電荷)を、第二基板5側の一対の集電電極6、7で集め、各集電電極につながれた負荷抵抗10、11に供給することが可能となる。このエレクトレット2の作用による発電原理については従来技術であることから、本明細書ではその詳細な説明は割愛する。また、第一基板3と第二基板5との間の間隔を保持する構成、すなわち両者の円滑な相対移動を維持するための構成は、上記発電の効率を高めるために重要ではあるが、本願発明の核心から外れるものであるから、本明細書では言及は控えることとする。
【0023】
ここで、第一基板3側の構造について説明する。第一基板3における第二基板5との対向面側には、それぞれ導電体上に形成された複数のエレクトレット2と、複数のガード電極4が、第一基板3と第二基板5との相対的な移動方向(図中の振動方向)に沿って交互に並ぶように配置されている。この複数のエレクトレット2が、本発明に係るエレクトレット群に相当する。この複数のエレクトレット2と複数のガード電極4はそれぞれ櫛状に形成され、それぞれのエレクトレット2と、それぞれのガード電極4が入れ子状に配置されているが、上記のとおり、
図1はZX断面図であるため、エレクトレット2とガード電極4が交互に配置されているように図示される。本実施形態においては、エレクトレット2はマイナスの電荷を半永久的に保持するように構成されている。このようにエレクトレット2とガード電極4が交互に並ぶ配置において、相対移動方向におけるエレクトレット2の幅と、同じように相対移動方向におけるガード電極4の幅は共にw3とされ、隣接するエレクトレット2とガード電極4との相対移動方向における間隔はdとされる。
【0024】
次に、第二基板5側の構造について説明する。第二基板5おける第一基板3との対向面側には、エレクトレット2の作用により発生した電荷を集め、負荷抵抗に該電荷による電力を供給する一対の電極(第一集電電極6と第二集電電極7)を含む電極群が形成されている。具体的には、第一集電電極6と第二集電電極7は、電気的に絶縁された状態で第二基板5上に形成されており、複数の第一集電電極6は配線L1によって端子6Aで集約された上で、接地されている負荷抵抗10に対して端子10Aを介して接続される。更に、複数の第二集電電極7は配線L2によって端子7Aで集約された上で、接地されている負荷抵抗11に対して端子11Aを介して接続される。
【0025】
このように第二基板5において形成された電極群については、相対移動方向における第一集電電極6の幅w1と第二集電電極7の幅w2は同じに設定される。また、第二基板5において繰り返される一組の電極配列によるピッチ、すなわち、第一集電電極6、第二集電電極7によるピッチは、第一基板3において繰り返される一組の配列によるピッチ、すなわちエレクトレット2、ガード電極4によるピッチと同じpとなるように、第一集電電6と第二集電電極7との間隔aが適宜設定される。
【0026】
上述のように
図1に示す構成を有する振動発電装置1における発電および負荷抵抗10
、11への電力供給について、
図2および
図3に基づいて説明する。
図2は、
図1に示す第一集電電極6と第二集電電極7との間の寄生容量を説明するための、振動発電装置1のモデル図である。なお、
図2においては、
図1に示す振動発電装置1の構成要素と同一の要素には、当該構成要素と同一の参照番号を付している。また、
図3は、
図2に示す振動発電装置1と比較するための、参考例に係る振動発電装置のモデル図である。
図3に示す参考例では、第一集電電極6、第二集電電極7に相当する電極が、第一集電電極600、第二集電電極700として形成されているが、電力供給を受ける負荷抵抗100につながれているのは第一集電電極600のみであり、第二集電電極700は直接に接地されている。なお、集電電極側の基板に対向する基板に設けられたエレクトレット200およびガード電極400に関する構成は、
図2に示すエレクトレット2およびガード電極4に関する構成と同じである。
【0027】
このように
図3に示す参考例では、第一集電電極600によって集められた電荷による電力のみが負荷抵抗100に供給され、第二集電電極700によって集められた電荷は、第二集電電極700と接地面との間を行き来するだけである。したがって、当該参考例においては、集電電極は二種類あるものの、実質的に負荷抵抗100に電力供給を行っている集電電極は第一集電電極600のみであるため、集電電極からの電力供給は、効率的なものではない。一方で、
図2に示す振動発電装置1では、第一集電電極6で集められた電荷は負荷抵抗10へ供給され、第二集電電極7で集められた電荷は負荷抵抗11へ供給されることから、原理的には、二種類の集電電極を共に負荷抵抗への電力供給に利用することができる。
【0028】
しかしながら、
図2に示す振動発電装置1であれ、
図3に示す参考例であれ、第二基板5側に形成された電極群において、隣接する集電電極と集電電極との間には、電極からの電荷の移動を阻害するように作用する仮想的な容量部である寄生容量部20、200が存在する。この寄生容量部20等の容量(以下、単に「寄生容量」という)は、原理的には隣接する電極の端面の形状、電極厚み、電極本数、電極長さ、基板の比誘電率、電極間隔等に起因して決定される。
図2に示す振動発電装置1では、第一集電電極6と第二集電電極7との間に存在する寄生容量部20の寄生容量は、Cpとされる。また、
図3に示す参考例においても、第一集電電極600と第二集電電極700の電極間隔、電極の端面の形状、大きさは、
図2に示す例と同じとし、したがって、第一集電電極600と第二集電電極700との間に存在する寄生容量部200の寄生容量もCpとされる。
【0029】
ここで、本出願人は、
図2に示す振動発電装置1は2つの集電電極で電力供給を行えるものの、第一集電電極6と第二集電電極7との間に存在する寄生容量部20に起因して、各集電電極につながれた負荷抵抗の大きさに応じて、各集電電極による負荷抵抗への電力供給の程度が変動し、当該変動が、振動発電装置1の電力供給量に影響を及ぼすことを見出した。そこで、当該電力供給の程度の変動について、
図4に基づいて説明する。なお、
図4および後述する
図5における電力供給量の推移の前提となる、振動発電装置に付与される振動の条件は、本明細書においては全て同一とする。
【0030】
図4に示すグラフ(線L3)は、
図2に示すモデルにおいて、負荷抵抗10の抵抗値(インピーダンス)を
図1に示す振動発電装置1の内部インピーダンスと同じ15MΩに設定したときに、負荷抵抗11の抵抗値を0〜50MΩの範囲で変化させていった場合の、負荷抵抗10がつながれている第一集電電極6による該負荷抵抗10への電力供給量の推移を示す図である。ここで、負荷抵抗10の抵抗値を15MΩに設定したのは、従来からのインピーダンス整合の考え方に基づくものである。また
図4に示すグラフより、負荷抵抗11の抵抗値が0Ωであるとき第一集電電極6による電力供給量は最大となり、約27μWであると理解できるが、これは、
図3に示すモデルにおいて負荷抵抗100の抵抗値をその振動発電装置の内部インピーダンスと同じく15MΩに設定した場合の、第一集電
電極600による負荷抵抗100のみへの電力供給量に相当し、当該最大の電力供給量を「単負荷時最大電力供給量」と称する。
【0031】
ここで、
図4に示すように、負荷抵抗10の抵抗値が15MΩで固定された状態において、負荷抵抗11の抵抗値が大きくなるに従い、第一集電電極6による負荷抵抗10への電力供給量は低下していく。そして、負荷抵抗11の抵抗値が、負荷抵抗10と同じように振動発電装置1の内部インピーダンスと同じ15MΩとなるとき、第一集電電極6による負荷抵抗10への電力供給量は約13.5μWとなり、上記単負荷時最大電力供給量の約半分となる。したがって、この場合、振動発電装置1としての電力供給量である2つの集電電極6、7による電力供給量の総量は、上記単負荷時最大電力供給量と同程度となる。一方で、負荷抵抗11の抵抗値が、0Ωより大きく、振動発電装置1の内部インピーダンスと同じ15MΩより小さい範囲(以下、「低インピーダンス範囲」と称する。)に属する抵抗値である場合には、第一集電電極6による負荷抵抗10への電力供給量は、上記単負荷時最大電力供給量の半分を超える供給量となる。
【0032】
このように、第二集電電極7につながる負荷抵抗11の抵抗値が低インピーダンス範囲に属する場合に、第一集電電極6による電力供給量が比較的高くなる理由としては、負荷抵抗11の低インピーダンス化により、第一集電電極6と第二集電電極7との間の寄生容量部20への電荷の流れ込みが抑制されていることが考えられる。そのため、負荷抵抗11の抵抗値が低くなるほど、寄生容量部20による影響、すなわち第一集電電極6から負荷抵抗10への電力供給(電荷の移動)の阻害の程度は、小さくなると考えられる。
【0033】
ここで、上述の負荷抵抗の低インピーダンス化による、寄生容量部20に起因した電力供給の阻害程度が軽減される点を考慮し、
図5に、振動発電装置1において負荷抵抗10、11の抵抗値を変動させたときの、該抵抗値と、当該負荷抵抗がつながれている集電電極6、7による電力供給量との相関、および同じように
図3に示す振動発電装置における負荷抵抗100の抵抗値と集電電極600による電力供給量の相関を示す。詳細には、線L4は、
図2に示す振動発電装置1において負荷抵抗10および負荷抵抗11の抵抗値を変化させたときの第一集電電極6による電力供給量の推移を示し、線L5は、
図2に示す振動発電装置1において負荷抵抗10および負荷抵抗11の抵抗値を変化させたときの第二集電電極7による電力供給量の推移を示し、線L6は、参考例の振動発電装置において負荷抵抗100の抵抗値を変化させたときの第一集電電極600による電力供給量の推移を示す。
【0034】
ここで、各負荷抵抗の抵抗値が、
図2に示す振動発電装置1および参考例の振動発電装置の内部インピーダンスである15MΩと同じである場合には、線L4および線L5で示すように、第一集電電極6、第二集電電極7による電力供給量は約13.5μWであり、一方で、線L6で示すように、第一集電電極600による電力供給量はピーク値の約27μWである。したがって、この場合、電力供給を行う2つの集電電極(第一集電電極6、第二集電電極7)を有する振動発電装置1の電力供給量は、電力供給を行う集電電極を実質的に1つしか持たない参考例の振動発電装置の電力供給量と同程度になる。
【0035】
一方で、各負荷抵抗の抵抗値が、低インピーダンス範囲(0Ω〜15MΩ)に属する場合には、第一集電電極6、第二集電電極7による電力供給量は、第一集電電極600による電力供給量の半分を超える値である。したがって、この場合、電力供給を行う2つの集電電極を有する振動発電装置1の電力供給量は、電力供給を行う集電電極を実質的に1つしか持たない参考例の振動発電装置の電力供給量を超えることになる。換言すれば、振動発電装置において、その内部インピーダンスより低いインピーダンスを有する負荷に対して電力を供給する場合には、参考例の構成(すなわち、電力供給を行う集電電極が実質的に1つとなる構成)に代えて、
図2に示す構成(すなわち、電力供給を行う集電電極が2
つとなる振動発電装置1に係る構成)を採用することで、振動発電装置としての電力供給量を向上させることができる。
【0036】
また、別の側面から振動発電装置による電力供給能力を捉える。上記の通り、参考例の振動発電装置では、負荷抵抗600の抵抗値が当該振動発電装置の内部インピーダンスと同程度となるときに、その電力供給量がピーク値の約27μWとなるが、振動発電装置1では、負荷抵抗6、7の抵抗値が、低インピーダンス範囲に属する8MΩ近傍の値であるときに、その電力供給量がピーク値の約16μWとなる。したがって、振動発電装置1では、負荷抵抗6、7の抵抗値を8MΩ近傍の値とすることで、装置としての総電力供給量は約32μWとなり、参考例の振動発電装置の総電力供給量と比べて約20%程度増加し、電力供給量の最大化を実現することができる。
【実施例2】
【0037】
図6に、本発明の振動発電装置1に係る第二の実施例のモデル構成を示す。
図6に示すモデル構成と、
図2に示すモデル構成とで相違する点は、第一集電電極6および第二集電電極7につながれる負荷抵抗に関する構成である。具体的には、
図6に示すモデル構成では、ブリッジ型全波整流回路9の二つの入力端子に、それぞれ第一集電電極6と第二集電電極7がつながれるとともに、ブリッジ型全波整流回路9の出力端子間に負荷抵抗10’がつながれている。したがって、
図5に示すモデル構成では、第一集電電極6で集められた電荷による電力と、第二集電電極7で集められた電荷による電力が、ブリッジ型全波整流回路9を介して合成され共通の負荷抵抗10’に供給されることになる。なお、第一集電電極6、第二集電電極7、およびエレクトレット2等の構成については、
図2に示すモデル構成と同じである。
【0038】
このように構成される振動発電装置1でも、
図2に示すモデル構成と同じように、負荷抵抗10’の抵抗値を、振動発電装置1の内部インピーダンスに関連付けられた低インピーダンス範囲に属する値に設定することで、振動発電装置1の電力供給量の向上や、振動発電装置1としての電力供給量の最大化を図ることができる。
【0039】
<変形例>
図6において、全波整流回路9に代えて、両波整流回路を採用してもよい。なお、両波整流回路については公知の技術であるため、その構成の図示は割愛するが、その場合、両波整流回路を通してつながれる電力供給負荷は、第一集電電極6および第二集電電極7からの正の合成出力に接続される電力供給負荷と、第一集電電極6および第二集電電極7からの負の合成出力に接続される電力供給負荷のそれぞれが設けられる。
【0040】
<その他の実施例>
上述までの振動発電装置1においては、負荷抵抗10、11に発電電力が供給されているが、振動発電装置1による発電電力を利用できる負荷であれば、様々な態様の負荷を電力供給負荷として採用できる。例えば、発電電力を蓄電するためのキャパシタ(蓄電回路)や、発電電力の電圧を変換する電圧変換回路の態様も、電力供給負荷として採用できる。また、振動発電装置1が設置される周囲の環境パラメータ(例えば、温度や湿度、加速度等)を検出するセンサの駆動回路(電源回路)や、検出したその環境パラメータを外部のサーバまで送信する送信回路(有線、無線を問わず)の態様も、電力供給負荷として採用できる。