(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5790637
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】空気式防舷材
(51)【国際特許分類】
E02B 3/26 20060101AFI20150917BHJP
B32B 25/10 20060101ALI20150917BHJP
B63B 59/02 20060101ALI20150917BHJP
D02G 3/02 20060101ALI20150917BHJP
D02G 3/44 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
E02B3/26 J
B32B25/10
B63B59/02 Z
D02G3/02
D02G3/44
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-277990(P2012-277990)
(22)【出願日】2012年12月20日
(65)【公開番号】特開2014-121806(P2014-121806A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2014年12月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100068685
【弁理士】
【氏名又は名称】斎下 和彦
(72)【発明者】
【氏名】奥野 裕子
【審査官】
竹村 真一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−179656(JP,A)
【文献】
特開2003−90025(JP,A)
【文献】
特開平10−157016(JP,A)
【文献】
特開平3−234817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/26
B32B 25/10
B63B 59/02
D02G 3/02
D02G 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面ゴム層と外面ゴム層との間に少なくとも1層の繊維補強層を埋設した空気式防舷材において、前記繊維補強層のうち、少なくとも1層の繊維補強層について、その縦糸を、PEN繊維からなる撚りコードで構成し、この撚りコードの引張強度を210N以上、切断伸度を14%〜20%、67N引張り時の中間伸度を3%以下にしたことを特徴とする空気式防舷材。
【請求項2】
前記繊維補強層が、前記撚りコードを多数本、平行に引き揃えたすだれ織構造である請求項1に記載の空気式防舷材。
【請求項3】
前記撚りコードが、PEN繊維を2本または3本撚り合わせた諸撚り構造である請求項1または2に記載の空気式防舷材。
【請求項4】
前記繊維補強層が3層以上であり、これら繊維補強層のうち、少なくとも最内周側および最外周側に配置される繊維補強層について、その縦糸を、前記PEN繊維からなる撚りコードで構成した請求項1〜3のいずれかに記載の空気式防舷材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気式防舷材に関し、さらに詳しくは、スチーム加硫されても繊維補強層が劣化し難く、かつ、耐疲労性に優れ、厳しい使用条件下の実用に耐え得る空気式防舷材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、空気式防舷材の繊維補強層には、強度および伸度がある程度高く、寸法安定性が良好で低コストであるPET(ポリエチレンテレフタレート)繊維からなる撚りコードが使用されている。ところで、空気式防舷材は、モールド内でブラダーによって押圧されて所定温度、所定圧力で加硫されるタイヤ等のゴム製品とは異なり、加硫函の中でスチーム加硫によって製造される。そのため、ゴム中の加硫促進剤などに含まれるアミンによって劣化し易いPET繊維は、スチーム加硫によってその劣化がさらに助長され、引張強度低下およびゴムとの接着性が低下するという問題があった。
【0003】
スチーム加硫されても劣化し難く、ゴムとの接着性および寸法安定性がPET繊維と比較して良好である繊維としては、PEN(ポリエチレン−2,6−ナフタレート)繊維が知られているが、PET繊維に比して分子鎖が剛直である等によって切断伸びが小さく、耐疲労性に劣るという問題があった。空気式防舷材は、船舶が接舷する際などには、非常に強く押圧されて大きく変形するため、繊維補強層の繊維コードには、その変形に耐えるために大きな伸びが必要とされる。また、繰り返し強く押圧されて大きく変形するので、耐疲労性も重要視される。このように従来のPEN繊維は、空気式防舷材の繊維補強層として重要な性能を満足するものではなかったので、実用することができなかった。
【0004】
伸びを大きくしたPEN繊維も提案されているが(特許文献1参照)、この文献で提案されているPEN繊維の撚りコードは高伸度であるが、十分な引張強度を有していない。そのため、このPEN繊維を空気式防舷材の繊維補強層に実用することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−208504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、スチーム加硫されても繊維補強層が劣化し難く、かつ、耐疲労性に優れ、厳しい使用条件下の実用に耐え得る空気式防舷材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の空気式防舷材は、内面ゴム層と外面ゴム層との間に少なくとも1層の繊維補強層を埋設した空気式防舷材において、前記繊維補強層のうち、少なくとも1層の繊維補強層について、その縦糸を、PEN繊維からなる撚りコードで構成し、この撚りコードの引張強度を210N以上、切断伸度を14%〜20%、67N引張り時の中間伸度を3%以下にしたことを特徴とする。
【0008】
本発明のPEN繊維とは、ポリエチレン−2,6−ナフタレートを主成分とする繊維である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、空気式防舷材に使用される少なくとも1層の繊維補強層について、その縦糸を、PEN繊維からなる撚りコードで構成したので、従来のPET繊維からなる撚りコードに比して、スチーム加硫による劣化を抑えることができ、引張強度低下およびゴムとの接着性の低下を防止するには有利になる。
【0010】
加えて、撚りコードの引張強度を210N以上、切断伸度を14%〜20%、67N引張り時の中間伸度を3%以下にすることで、優れた耐疲労性を確保することができ、厳しい使用条件下の実用にも耐えることが可能になる。
【0011】
前記繊維補強層は、例えば、前記撚りコードを多数本、平行に引き揃えたすだれ織構造にする。すだれ織構造によって縦糸と横糸との干渉が少なくなり、繊維補強層の耐久性を向上させるには有利になる。
【0012】
前記撚りコードは、例えば、PEN繊維を2本または3本撚り合わせた諸撚り構造にする。これにより、耐疲労性を向上させるには有利になる。
【0013】
前記繊維補強層が3層以上であり、これら繊維補強層のうち、相対的に大きな応力が生じる少なくとも最内周側および最外周側に配置される繊維補強層について、その縦糸を、前記PEN繊維からなる撚りコードで構成することもできる。これにより、その他の繊維補強層については、従来のようにPET繊維からなる撚りコードを使用して、製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の空気式防舷材の胴部の内部構造を例示する一部切欠き側面図である。
【
図2】
図1の空気式防舷材の上半分の横断面図である。
【
図3】本発明の繊維補強層を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の空気式防舷材を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0016】
図1、
図2に例示する実施形態の空気式防舷材1では、円筒状の胴部2の両端を覆う鏡部3のうち、一方の鏡部3に口金4が設けられている。胴部2および鏡部3では、内面ゴム層5と外面ゴム層6との間に複数の繊維補強層7が埋設されている。繊維補強層7は少なくとも1層設けられ、その積層数は、空気式防舷材1の大きさ等によって決定される。
【0017】
胴部2では、複数の繊維補強層7が縦糸8を筒軸方向に対して所定のバイアス角度で傾斜させるように配置されている。積層されて隣り合う上下の繊維補強層7では、縦糸8のバイアス角度が筒軸方向に対して対称になっている。
【0018】
それぞれの繊維補強層7は、
図3に例示するように、縦糸8と横糸11とのすだれ織構造になっている。繊維補強層7は平織構造にすることもできるが、すだれ織構造にすることによって、縦糸8と横糸11との干渉が少なくなり、繊維補強層7の耐久性を向上させるには有利になる。すだれ織構造の縦糸8の織密度は30〜70本/5cm、横糸11の織密度は2〜8本/5cm程度である。
【0019】
本発明では、縦糸8を下記するように特別な仕様にしている。横糸11は、例えば、ポリエステル、ポリケトン、アラミド、ビニロン、ナイロンなどの種々の合成繊維で形成されたものを使用することができる。
【0020】
縦糸8は、
図4に例示するように、PEN繊維のフィラメント糸10からなる撚りコード9で構成されている。この実施形態では、2本のフィラメント糸10をそれぞれ1本ずつ同一方向に下撚りし、次いで、これら下撚りしたフィラメント糸10を合わせて逆方向に上撚りすることにより撚りコード9が構成されている。
【0021】
この撚りコード9(縦糸8)は、1本または複数のフィラメント糸を引き揃え、一方向に撚っただけの片撚り構造に比べて、良好な耐疲労性を得ることができる。下撚りと上撚りは、異なる撚り数にすることもできるが、安定性を得るために同数、或いは略同数とすることが好ましい。引張強度や柔軟性等を考慮して、撚りコード9の繊度は1000〜2000dtex程度であり、撚り合わせるフィラメント糸10は2本または3本程度である。
【0022】
下撚り数、上撚り数は下記(1)式で規定される撚り係数Kが1300〜2500程度になる撚り数が好ましい。撚り係数Kが1300未満では耐久性が十分に確保できず、2500超では強度が不十分になる。
撚り係数K=T×D
1/2 ・・・(1)
T:コードの上撚り数(回/10cm)
D:コードの総繊度(dtex)
【0023】
撚りコード9の引張強度は210N以上、切断伸度は14%〜20%、67N引張り時の中間伸度は3%以下になっている。
【0024】
撚りコード9の引張強度が210N未満では、繊維補強層7の引張強度が低くなって、補強層としての補強性能が不十分になる。これに起因して、繊維補強層7の積層数増加につながるため、空気式防舷材1の軽量化やコスト低減には不利になる。撚りコード9の引張強度の上限は400N程度である。
【0025】
撚りコード9の切断伸度が14%未満では、空気式防舷材1が接舷時に強く押圧された際の大きな変形に耐えることが難しくなり、厳しい使用条件下での耐疲労性が不十分になる。一方、撚りコード9の引張強度が20%超では、中間伸度も大きくなるので、空気式防舷材1を水中に設置した際の空気式防舷材1の伸びが過大になる。そして、下記するISOで規定された基準を満足することが難しくなる。
【0026】
撚りコード9の67N引張り時の中間伸度が3%超であると、ISO17357の9.5で規定された水圧試験において、空気式防舷材1の伸びを基準内に抑えることが困難になる。それ故、基準を満足するには、繊維補強層7の積層数増加が必要になり、空気式防舷材1の軽量化やコスト低減には不利になる。また、中間伸度が3%超であると繊維補強層7の寸法安定性が低下する。
【0027】
そして、撚りコード9の引張強度210N以上、切断伸度14%〜20%、67N引張り時の中間伸度3%以下のすべての条件を満たすことによって、耐疲労性に優れ、厳しい使用条件下の実用に耐え得る空気式防舷材1を得ることができる。いずれかの条件を満たさなければ、目的とする空気式防舷材1を得ることができない。また、繊維補強層7の積層数の増加を抑えることができるので、空気式防舷材1の軽量化、コスト低減にも有利になる。
【0028】
繊維補強層7の主要部材である縦糸8を、PEN繊維からなる撚りコード9で構成したので、従来のPET繊維に比してスチーム加硫による劣化を抑えることができる。それ故、繊維補強層7(撚りコード9)の引張強度低下およびゴムとの接着性の低下を防止するには有利になる。例えば、RFL(レゾルシン・ホルマリン・ラテックス)系の接着剤を用いると、PEN繊維を使用した繊維補強層7と、ゴムとの接着性が一段と良好になる。
【0029】
実施形態では、すべての繊維補強層7の縦糸8がPEN繊維のフィラメント糸10からなる撚りコード9で構成されているが、繊維補強層7のすべてがPEN繊維により構成されていることがより好ましい。尚、繊維補強層7が複数層の場合は、そのうち少なくとも1層の繊維補強層7について、その縦糸8を、PEN繊維のフィラメント糸10からなる撚りコード9で構成することもできる。例えば、繊維補強層7が3層以上の場合、これら繊維補強層7のうち、最内周側および最外周側に配置される繊維補強層7について、その縦糸8を、PEN繊維のフィラメント糸10からなる撚りコード9で構成することもできる。
【0030】
空気式防舷材1は、船舶が接舷した際には、繊維補強層7の中で最内周側および最外周側の繊維補強層7に相対的に大きな応力が生じ易い。そこで、既述した仕様の繊維補強層7を、最内周側の1層および最外周側の1層の繊維補強層7にのみ適用する。或いは、少なくとも最内周側および最外周側に配置される繊維補強層7について、既述した仕様の繊維補強層7にすることもできる。
【0031】
最内周側および最外周側の繊維補強層7で挟まれた繊維補強層7は、スチーム加硫の影響を相対的に受け難くなるため、ここに配置される繊維補強層には、従来のようにPET繊維からなる撚りコードを構成部材とした繊維補強層を用いることもできる。このように安価なPET繊維を使用することで製造コストを低減することができる。
【実施例】
【0032】
繊維補強層を構成する縦糸の撚りコードの仕様を表1のように異ならせて、それぞれの撚りコードを使用して、10種類のすだれ織構造(縦糸の織密度50本/5cm、横糸の織密度5本/cm)の繊維補強層を作製した。表1中の撚り係数Kは、既述したとおりである。コード特性はJIS L1017に準拠して測定した値である。
【0033】
作製した繊維補強層を用いて、繊維補強層のみが異なる空気式防舷材の試験サンプル(実施例1〜5、比較例1〜5)を作製し、それぞれの試験サンプルについて、下記の破壊圧試験、耐疲労性試験、水圧試験を行なった。試験サンプルは、サイズ(外径3.3m、長さ6.5m)、繊維補強層の積層数は6プライであった。
【0034】
また、それぞれ(実施例1〜5、比較例1〜5)の繊維補強層について、下記のゴムとの接着性試験を行なった。その結果は表1に示すとおりである。
【0035】
[破壊圧試験]
ISO17357に規定された試験方法に準拠して行ない、試験サンプルの内部を加圧して、試験サンプルが破壊した際の加圧圧力を測定した。破壊圧が525kPa以上であれば実用に耐えるレベルである。
【0036】
[耐疲労性試験]
ISO17357の8.4に規定された試験方法に準拠して行ない、空気圧が50kPaの試験サンプルに、直径の60%圧縮変形を3000回繰り返し加え、繊維補強層の損傷具合を評価した。損傷具合が実用に耐え得る許容範囲内の場合を○で示し、許容範囲外であり実使用できない場合を×で示した。
【0037】
[水圧試験]
ISO17357の9.5に規定された試験であり、空気式防舷材の試験サンプルに水圧100Nを負荷した際の試験サンプルの伸びを測定した。測定した伸びが10%以下の場合は水圧試験に合格であり○で示し、10%超の場合は不合格であり×で示した。
【0038】
[ゴムとの接着試験]
それぞれの繊維補強層と、空気式防舷材に一般的に使用されるゴム(天然・SBR系ゴム)とを同一条件下でスチーム加硫して、接着性を評価した。評価方法は、JIS K6256−1に規定された試験方法に準拠して行ない、はく離強さを測定した。そのはく離強さが110N/inch以上の場合を接着性が良好として○で示し、110N/inch未満の場合を接着性が不良として×で示した。
【0039】
【表1】
【0040】
表1の結果から実施例1〜5では、破壊圧、耐疲労性、水圧試験およびゴムとの接着性のすべてについて一定水準を確保することができ、厳しい使用条件下の実用に耐え得ることが分かる。
【符号の説明】
【0041】
1 空気式防舷材
2 胴部
3 鏡部
4 口金
5 内面ゴム層
6 外面ゴム層
7 繊維補強層
8 縦糸
9 撚りコード
10 PEN繊維(フィラメント糸)
11 横糸