特許第5790701号(P5790701)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田中央研究所の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5790701
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】クラッチ機構及び変速機
(51)【国際特許分類】
   F16D 23/02 20060101AFI20150917BHJP
   F16H 3/089 20060101ALI20150917BHJP
   F16D 11/12 20060101ALI20150917BHJP
   F16H 63/30 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   F16D23/02
   F16H3/089
   F16D11/12
   F16H63/30
【請求項の数】6
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2013-84995(P2013-84995)
(22)【出願日】2013年4月15日
(65)【公開番号】特開2014-206250(P2014-206250A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2014年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩津 勇
【審査官】 上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−216565(JP,A)
【文献】 特開2012−127471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 23/02
F16D 11/12
F16H 3/089
F16H 63/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転部材と、
係合部が設けられた可動部材と、
可動部材の係合部と係合可能な被係合部が設けられた第2回転部材と、
を備え、
第1回転部材には可動部材を支持する支持部が設けられ、可動部材は第1回転部材に対して支持部に沿って相対移動可能であり、
支持部は、
可動部材の係合部が第2回転部材の被係合部と係合しない位置で可動部材を支持する非係合部と、
非係合部より第2回転部材側に位置する右ねじれ部及び左ねじれ部と、
非係合部から右ねじれ部及び左ねじれ部に分岐する分岐部と、
分岐部より第2回転部材側に位置し、右ねじれ部及び左ねじれ部が合流する合流部と、
を有し、
可動部材の支持部による支持位置が非係合部から分岐部に移動したときに、可動部材の係合部と第2回転部材の被係合部との係合が開始され、
可動部材の支持部による支持位置が合流部であるときに、可動部材の第1回転部材に対する相対移動を拘束する拘束機構をさらに備える、クラッチ機構。
【請求項2】
請求項1に記載のクラッチ機構であって、
可動部材に第2回転部材から離間させる方向の荷重を作用させる荷重発生機構をさらに備える、クラッチ機構。
【請求項3】
請求項2に記載のクラッチ機構であって、
可動部材には、支持部に支持される被支持部が設けられ、
右ねじれ部と左ねじれ部のいずれかには、荷重発生機構による荷重が可動部材に作用することで被支持部が当接する被当接面が形成されている、クラッチ機構。
【請求項4】
第1回転部材と、
第1係合部が設けられた第1可動部材と、
第1歯車を有し、さらに、第1可動部材の第1係合部と係合可能な第1被係合部が設けられた第1歯車部材と、
第2係合部が設けられた第2可動部材と、
第2歯車を有し、さらに、第2可動部材の第2係合部と係合可能な第2被係合部が設けられた第2歯車部材と、
第1歯車と噛み合う第3歯車と、第2歯車と噛み合う第4歯車とともに回転する第2回転部材と、
を備え、
第1歯車と第3歯車の歯数比は、第2歯車と第4歯車の歯数比と異なり、
第1回転部材には、第1可動部材を支持する第1支持部と、第2可動部材を支持する第2支持部が設けられ、第1可動部材は第1回転部材に対して第1支持部に沿って相対移動可能で、第2可動部材は第1回転部材に対して第2支持部に沿って相対移動可能であり、
第1支持部は、
第1可動部材の第1係合部が第1歯車部材の第1被係合部と係合しない位置で第1可動部材を支持する第1非係合部と、
第1非係合部より第1歯車部材側に位置する第1右ねじれ部及び第1左ねじれ部と、
第1非係合部から第1右ねじれ部及び第1左ねじれ部に分岐する第1分岐部と、
第1分岐部より第1歯車部材側に位置し、第1右ねじれ部及び第1左ねじれ部が合流する第1合流部と、
を有し、
第1可動部材の第1支持部による支持位置が第1非係合部から第1分岐部に移動したときに、第1可動部材の第1係合部と第1歯車部材の第1被係合部との係合が開始され、
第2支持部は、
第2可動部材の第2係合部が第2歯車部材の第2被係合部と係合しない位置で第2可動部材を支持する第2非係合部と、
第2非係合部より第2歯車部材側に位置する第2右ねじれ部及び第2左ねじれ部と、
第2非係合部から第2右ねじれ部及び第2左ねじれ部に分岐する第2分岐部と、
第2分岐部より第2歯車部材側に位置し、第2右ねじれ部及び第2左ねじれ部が合流する第2合流部と、
を有し、
第2可動部材の第2支持部による支持位置が第2非係合部から第2分岐部に移動したときに、第2可動部材の第2係合部と第2歯車部材の第2被係合部との係合が開始され、
第1可動部材の第1支持部による支持位置が第1合流部であるときに、第1可動部材の第1回転部材に対する相対移動を拘束する第1拘束機構と、
第2可動部材の第2支持部による支持位置が第2合流部であるときに、第2可動部材の第1回転部材に対する相対移動を拘束する第2拘束機構と、
をさらに備える、変速機。
【請求項5】
請求項4に記載の変速機であって、
第1可動部材に第1歯車部材から離間させる方向の荷重を作用させる第1荷重発生機構と、
第2可動部材に第2歯車部材から離間させる方向の荷重を作用させる第2荷重発生機構と、
をさらに備える、変速機。
【請求項6】
請求項5に記載の変速機であって、
第1可動部材には、第1支持部に支持される第1被支持部が設けられ、
第2可動部材には、第2支持部に支持される第2被支持部が設けられ、
第1右ねじれ部と第1左ねじれ部のいずれかには、第1荷重発生機構による荷重が第1可動部材に作用することで第1被支持部が当接する第1被当接面が形成され、
第2右ねじれ部と第2左ねじれ部のいずれかには、第2荷重発生機構による荷重が第2可動部材に作用することで第2被支持部が当接する第2被当接面が形成されている、変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力の断続を行うクラッチ機構、及びクラッチ機構を備える変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
動力の断続を行うクラッチ機構の関連技術が下記特許文献1に開示されている。特許文献1のクラッチ機構は、セルフシンクロナスシフティングクラッチ(SSSクラッチ)であり、切換スリーブは、同期回転数に達するまで蒸気タービンの回転数で回転し、同期回転数に達すると発電機軸の切換部の爪によってしっかり保持される。同期回転数を超えようとすると、切換スリーブは、ねじによって蒸気タービンの方向に軸線方向移動を生じる。その短時間後に切換スリーブの歯と発電機軸の歯との係合が起き、これらの歯を介して動力の伝達が起きる。一方、蒸気タービンの回転数が同期回転数より低下すると、切換スリーブは、ねじによって蒸気タービンと反対方向に軸線方向移動を生じ、切換スリーブの歯と発電機軸の歯との係合が解除されることで、動力の伝達が遮断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2010−506113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のSSSクラッチでは、駆動側(蒸気タービン)からの駆動により切換スリーブの歯と発電機軸の歯が係合し、係合状態を維持するために蒸気タービン以外の動力源による動力を必要としない。しかし、SSSクラッチの解放状態から係合状態への移行は、駆動側(蒸気タービン)の回転速度が上昇して被動側(発電機軸)の回転速度まで達した条件に限られ、SSSクラッチの係合状態から解放状態への移行は、駆動側の回転速度が低下して被動側の回転速度よりも低くなった条件に限られる。そのため、駆動側(蒸気タービン)の回転速度が被動側(発電機軸)の回転速度よりも低い条件では、SSSクラッチの係合動作(切換スリーブの歯を移動させて発電機軸の歯と係合させる動作)を行うことができない。さらに、駆動側の回転速度が被動側の回転速度よりも高くなるようにSSSクラッチの解放動作(切換スリーブの歯を移動させて発電機軸の歯との係合を解除する動作)を行うこともできない。
【0005】
本発明は、第1回転部材と第2回転部材の回転速度の条件に関係なく第1回転部材と第2回転部材間で動力の断続を行うことができ、且つ第1回転部材と第2回転部材の係合状態を維持するための動力を必要としないクラッチ機構を提供することを目的とする。また、本発明は、このクラッチ機構を利用してアップシフトとダウンシフトを行う変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るクラッチ機構及び変速機は、上述した目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明に係るクラッチ機構は、第1回転部材と、係合部が設けられた可動部材と、可動部材の係合部と係合可能な被係合部が設けられた第2回転部材と、を備え、第1回転部材には可動部材を支持する支持部が設けられ、可動部材は第1回転部材に対して支持部に沿って相対移動可能であり、支持部は、可動部材の係合部が第2回転部材の被係合部と係合しない位置で可動部材を支持する非係合部と、非係合部より第2回転部材側に位置する右ねじれ部及び左ねじれ部と、非係合部から右ねじれ部及び左ねじれ部に分岐する分岐部と、分岐部より第2回転部材側に位置し、右ねじれ部及び左ねじれ部が合流する合流部と、を有し、可動部材の支持部による支持位置が非係合部から分岐部に移動したときに、可動部材の係合部と第2回転部材の被係合部との係合が開始され、可動部材の支持部による支持位置が合流部であるときに、可動部材の第1回転部材に対する相対移動を拘束する拘束機構をさらに備えることを要旨とする。
【0008】
本発明の一態様では、可動部材に第2回転部材から離間させる方向の荷重を作用させる荷重発生機構をさらに備えることが好適である。
【0009】
本発明の一態様では、可動部材には、支持部に支持される被支持部が設けられ、右ねじれ部と左ねじれ部のいずれかには、荷重発生機構による荷重が可動部材に作用することで被支持部が当接する被当接面が形成されていることが好適である。
【0010】
また、本発明に係る変速機は、第1回転部材と、第1係合部が設けられた第1可動部材と、第1歯車を有し、さらに、第1可動部材の第1係合部と係合可能な第1被係合部が設けられた第1歯車部材と、第2係合部が設けられた第2可動部材と、第2歯車を有し、さらに、第2可動部材の第2係合部と係合可能な第2被係合部が設けられた第2歯車部材と、第1歯車と噛み合う第3歯車と、第2歯車と噛み合う第4歯車とともに回転する第2回転部材と、を備え、第1歯車と第3歯車の歯数比は、第2歯車と第4歯車の歯数比と異なり、第1回転部材には、第1可動部材を支持する第1支持部と、第2可動部材を支持する第2支持部が設けられ、第1可動部材は第1回転部材に対して第1支持部に沿って相対移動可能で、第2可動部材は第1回転部材に対して第2支持部に沿って相対移動可能であり、第1支持部は、第1可動部材の第1係合部が第1歯車部材の第1被係合部と係合しない位置で第1可動部材を支持する第1非係合部と、第1非係合部より第1歯車部材側に位置する第1右ねじれ部及び第1左ねじれ部と、第1非係合部から第1右ねじれ部及び第1左ねじれ部に分岐する第1分岐部と、第1分岐部より第1歯車部材側に位置し、第1右ねじれ部及び第1左ねじれ部が合流する第1合流部と、を有し、第1可動部材の第1支持部による支持位置が第1非係合部から第1分岐部に移動したときに、第1可動部材の第1係合部と第1歯車部材の第1被係合部との係合が開始され、第2支持部は、第2可動部材の第2係合部が第2歯車部材の第2被係合部と係合しない位置で第2可動部材を支持する第2非係合部と、第2非係合部より第2歯車部材側に位置する第2右ねじれ部及び第2左ねじれ部と、第2非係合部から第2右ねじれ部及び第2左ねじれ部に分岐する第2分岐部と、第2分岐部より第2歯車部材側に位置し、第2右ねじれ部及び第2左ねじれ部が合流する第2合流部と、を有し、第2可動部材の第2支持部による支持位置が第2非係合部から第2分岐部に移動したときに、第2可動部材の第2係合部と第2歯車部材の第2被係合部との係合が開始され、第1可動部材の第1支持部による支持位置が第1合流部であるときに、第1可動部材の第1回転部材に対する相対移動を拘束する第1拘束機構と、第2可動部材の第2支持部による支持位置が第2合流部であるときに、第2可動部材の第1回転部材に対する相対移動を拘束する第2拘束機構と、をさらに備えることを要旨とする。
【0011】
本発明の一態様では、第1可動部材に第1歯車部材から離間させる方向の荷重を作用させる第1荷重発生機構と、第2可動部材に第2歯車部材から離間させる方向の荷重を作用させる第2荷重発生機構と、をさらに備えることが好適である。
【0012】
本発明の一態様では、第1可動部材には、第1支持部に支持される第1被支持部が設けられ、第2可動部材には、第2支持部に支持される第2被支持部が設けられ、第1右ねじれ部と第1左ねじれ部のいずれかには、第1荷重発生機構による荷重が第1可動部材に作用することで第1被支持部が当接する第1被当接面が形成され、第2右ねじれ部と第2左ねじれ部のいずれかには、第2荷重発生機構による荷重が第2可動部材に作用することで第2被支持部が当接する第2被当接面が形成されていることが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るクラッチ機構によれば、第1回転部材と第2回転部材の回転速度の条件に関係なく第1回転部材と第2回転部材間で動力の断続を行うことができ、且つ第1回転部材と第2回転部材の係合状態を維持するための動力を不要とすることができる。また、本発明に係る変速機によれば、このクラッチ機構を利用してアップシフトとダウンシフトを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るクラッチ機構の概略構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係るクラッチ機構の概略構成を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係るクラッチ機構の概略構成を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係るクラッチ機構の動作を説明する図である。
図5】本発明の実施形態に係るクラッチ機構の動作を説明する図である。
図6】本発明の実施形態に係るクラッチ機構の動作を説明する図である。
図7】本発明の実施形態に係るクラッチ機構の動作を説明する図である。
図8】拘束機構の構成例を示す図である。
図9】拘束機構の動作を説明する図である。
図10】拘束機構の動作を説明する図である。
図11】拘束機構の動作を説明する図である。
図12】本発明の実施形態に係るクラッチ機構の動作を説明する図である。
図13】本発明の実施形態に係るクラッチ機構の動作を説明する図である。
図14】拘束機構の動作を説明する図である。
図15】本発明の実施形態に係るクラッチ機構の動作を説明する図である。
図16】本発明の実施形態に係るクラッチ機構の動作を説明する図である。
図17】本発明の実施形態に係るクラッチ機構の動作を説明する図である。
図18】本発明の実施形態に係る変速機の概略構成を示す図である。
図19】本発明の実施形態に係る変速機の概略構成を示す図である。
図20】本発明の実施形態に係る変速機の概略構成を示す図である。
図21】本発明の実施形態に係る変速機の動作を説明する図である。
図22】本発明の実施形態に係る変速機の動作を説明する図である。
図23】本発明の実施形態に係る変速機の動作を説明する図である。
図24】本発明の実施形態に係る変速機の動作を説明する図である。
図25】本発明の実施形態に係る変速機の動作を説明する図である。
図26】本発明の実施形態に係る変速機の動作を説明する図である。
図27】本発明の実施形態に係る変速機の動作を説明する図である。
図28】本発明の実施形態に係る変速機の動作を説明する図である。
図29】本発明の実施形態に係る変速機の動作を説明する図である。
図30】本発明の実施形態に係る変速機の動作を説明する図である。
図31】本発明の実施形態に係る変速機の動作を説明する図である。
図32】本発明の実施形態に係る変速機の動作を説明する図である。
図33】本発明の実施形態に係る変速機の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
【0016】
図1〜3は、本発明の実施形態に係るクラッチ機構の概略構成を示す図である。図1は主要構成の斜視図を示し、図2は第1及び第2回転軸12,22の軸線方向と直交する方向から見た主要構成の断面図を示し、図3は第1回転軸12の外周面を周方向に沿って展開した展開図を示す。第1回転部材としての第1回転軸12は、例えばエンジンやモータ等の駆動源からの動力が伝達されることで所定方向に回転する。第1回転軸12の外周には、可動部材としてのスリーブ14を支持するための支持溝30が形成されている。スリーブ14の内周には、複数(図1,3に示す例では3つ)の被支持部15が周方向に互いに間隔をおいて(例えば120°の等間隔で)設けられており、各被支持部15が第1回転軸12の支持溝30に嵌ることで、スリーブ14が第1回転軸12に支持される。スリーブ14の各被支持部15が支持溝30の延長方向に沿って移動可能であることで、スリーブ14は第1回転軸12に対して支持溝30に沿って相対移動可能である。さらに、スリーブ14の外周には、複数の係合歯16が周方向に互いに間隔をおいて(等間隔で)設けられている。図1では、第1回転軸12とスリーブ14を分けて図示している。
【0017】
第2回転部材としての第2回転軸22は、第1回転軸12と同軸に配置され、ベアリング23を介して第1回転軸12に回転可能に支持されている。第2回転軸22は、第1及び第2回転軸12,22の軸線方向(以下単に軸線方向とする)においてスリーブ14より一方側(図2の左側)に配置される。第2回転軸22における軸線方向他方側(図2の右側)の端面には、複数の被係合歯26が周方向に互いに間隔をおいて(係合歯16と等間隔で)設けられている。スリーブ14の係合歯16は、第2回転軸22の被係合歯26と軸線方向に対向配置され、第2回転軸22の被係合歯26と噛合可能(係合可能)である。
【0018】
図3の展開図に示すように、第1回転軸12の支持溝30は、軸線方向に沿って延びる非係合溝31と、非係合溝31より軸線方向一方側(第2回転軸22側)に位置する右ねじれ溝32及び左ねじれ溝33と、非係合溝31から右ねじれ溝32及び左ねじれ溝33に分岐する溝分岐部34と、溝分岐部34より軸線方向一方側(第2回転軸22側)に位置し、右ねじれ溝32及び左ねじれ溝33が合流する溝合流部35とを有する。図3に示す例では、非係合溝31と右ねじれ溝32と左ねじれ溝33と溝分岐部34と溝合流部35が、それぞれ3つずつ形成されている。そして、3つの非係合溝31が周方向に互いに間隔をおいて(スリーブ14の被支持部15と等間隔で)配置され、3つの溝分岐部34も周方向に互いに間隔をおいて(被支持部15及び非係合溝31と等間隔で)配置され、3つの溝合流部35も周方向に互いに間隔をおいて(被支持部15、非係合溝31、及び溝分岐部34と等間隔で)配置されている。各右ねじれ溝32は、溝合流部35から溝分岐部34(軸線方向の一方側から他方側)へ向かうにつれて右回りに螺旋して形成されており、各左ねじれ溝33は、溝合流部35から溝分岐部34(軸線方向の一方側から他方側)へ向かうにつれて左回りに螺旋して形成されている。3つの右ねじれ溝32同士でねじれ角は互いに等しく、3つの左ねじれ溝33同士でねじれ角は互いに等しい。右ねじれ溝32と左ねじれ溝33とで、ねじれ角の大きさは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、右ねじれ溝32と左ねじれ溝33は、溝合流部35から溝分岐部34までの間、ねじれ角は一定であってもよいし、連続的に変化してもよいし、断続的に変化してもよい。また、非係合溝31と右ねじれ溝32と左ねじれ溝33と溝分岐部34と溝合流部35の数は、3つ以外の複数であってもよいし、1つずつであってもよい。
【0019】
図3に示すように、スリーブ14の被支持部15が非係合溝31に嵌っているとき、つまりスリーブ14の支持溝30による支持位置が非係合溝31であるときは、スリーブ14の係合歯16は第2回転軸22の被係合歯26と噛み合わない(係合しない)。そのときは、スリーブ14の被支持部15が非係合溝31の延長方向(軸線方向)に沿って移動可能であることで、スリーブ14は第1回転軸12に対して軸線方向に相対移動可能である。
【0020】
図4に示すように、スリーブ14の被支持部15が非係合溝31から軸線方向一方側に移動して溝分岐部34に嵌っているとき、つまりスリーブ14の支持溝30による支持位置が非係合溝31から溝分岐部34に移動したときは、スリーブ14の係合歯16が第2回転軸22の被係合歯26と噛み合い始める(係合し始める)。
【0021】
図5または図6に示すように、スリーブ14の被支持部15が右ねじれ溝32または左ねじれ溝33に嵌っているとき、つまりスリーブ14の支持溝30による支持位置が右ねじれ溝32または左ねじれ溝33であるときは、スリーブ14の係合歯16は第2回転軸22の被係合歯26と部分的に噛み合う(部分的に係合する)。そのときは、スリーブ14の被支持部15が右ねじれ溝32または左ねじれ溝33の延長方向に沿って移動可能であることで、スリーブ14は第1回転軸12に対して相対回転しながら軸線方向に相対移動可能である。スリーブ14の被支持部15が溝合流部35に近づく(溝分岐部34から離れる)ほど、スリーブ14の係合歯16が第2回転軸22の被係合歯26と噛み合う部分の割合が増加する。
【0022】
図7に示すように、スリーブ14の被支持部15が溝合流部35に嵌っているとき、つまりスリーブ14の支持溝30による支持位置が溝合流部35であるときは、スリーブ14の係合歯16が第2回転軸22の被係合歯26と完全に噛み合う(係合する)。
【0023】
荷重発生機構としてのばね38は、第2回転軸22に取り付けられている。ばね38は、軸線方向に弾性を有し、スリーブ14に第2回転軸22から離間させる方向の荷重(軸線方向他方側への荷重)を作用させる。拘束機構40は、スリーブ14の被支持部15が溝合流部35に嵌っている(スリーブ14の支持溝30による支持位置が溝合流部35である)ときに、被支持部15の支持溝30に沿った移動を拘束することで、スリーブ14の第1回転軸12に対する相対移動を拘束する。拘束機構40の構成例を図8に示す。図8に示す構成例では、周方向に隣接する拘束部材42,43が、ばね44,45をそれぞれ介して第1回転軸12の外周部に支持されており、ばね44,45の弾性力によってそれぞれ軸線方向他方側へ付勢されている。拘束部材42,43には、切り欠きが形成されていることで、スリーブ14の被支持部15を保持するための保持部41が形成されている。さらに、拘束部材42,43には、軸線方向に対して傾斜したテーパ面46,47がそれぞれ形成されている。
【0024】
拘束部材42,43がばね44,45の弾性力によって軸線方向他方側へ付勢されている状態では、図8に示すように、保持部41が溝合流部35に位置し、拘束部材42のテーパ面46が右ねじれ溝32に面し、拘束部材43のテーパ面47が左ねじれ溝33に面する。右ねじれ溝32に嵌っているスリーブ14の被支持部15が溝合流部35へ向けて移動すると、図9に示すように、被支持部15が拘束部材42のテーパ面46を押圧することで、拘束部材42がばね44を圧縮しながら軸線方向一方側へ移動し、被支持部15が溝合流部35に移動する。被支持部15が溝合流部35に移動すると、圧縮されていたばね44が元に戻ることで、拘束部材42が軸線方向他方側へ移動して付勢される。また、左ねじれ溝33に嵌っているスリーブ14の被支持部15が溝合流部35へ向けて移動すると、図10に示すように、被支持部15が拘束部材43のテーパ面47を押圧することで、拘束部材43がばね45を圧縮しながら軸線方向一方側へ移動し、被支持部15が溝合流部35に移動する。被支持部15が溝合流部35に移動すると、圧縮されていたばね45が元に戻ることで、拘束部材43が軸線方向他方側へ移動して付勢される。これによって、図11に示すように、スリーブ14の被支持部15が拘束部材42,43の保持部41に保持され、スリーブ14の第1回転軸12に対する相対移動が拘束される。スリーブ14の被支持部15が右ねじれ溝32または左ねじれ溝33から溝合流部35へ向けて移動する際には、スリーブ14がばね38を圧縮しながら軸線方向一方側へ移動する。
【0025】
駆動機構52は、スリーブ14の被支持部15が非係合溝31に嵌る状態から溝分岐部34に嵌る状態に移行するように、スリーブ14を軸線方向一方側へ移動させる。つまり、スリーブ14の支持溝30による支持位置を非係合溝31から溝分岐部34に移動させる。図1,2に示す構成例では、駆動機構としてシフト部材52が第1回転軸12の内周に設けられ、シフト部材52が第1回転軸12に対して軸線方向に相対移動可能である。さらに、第1回転軸12にはリンク機構54が設けられ、リンク機構54が第1回転軸12に対して軸線方向と垂直な軸まわりに回動可能である。図12に示すように、シフト部材52を軸線方向他方側(図12の右側)へ移動させると、リンク機構54が図12の反時計まわりに回動してスリーブ14を軸線方向一方側へ押圧することで、スリーブ14がばね38を圧縮しながら軸線方向一方側へ移動し、図3から図4に示すように、スリーブ14の被支持部15が非係合溝31から溝分岐部34に移動する。これによって、スリーブ14の支持溝30による支持位置が非係合溝31から溝分岐部34に移動する。
【0026】
また、駆動機構52は、スリーブ14の第1回転軸12に対する相対移動の拘束機構40による拘束を解除する。図1,2に示す構成例では、図13に示すように、シフト部材52を軸線方向一方側(図13の左側)へ移動させると、シフト部材52が拘束機構40(拘束部材42,43)を軸線方向一方側へ押圧することで、図14に示すように、拘束部材42,43がばね44,45を圧縮しながら軸線方向一方側へ移動する。これによって、スリーブ14の被支持部15が拘束部材42,43の保持部41に保持された状態が解除され、スリーブ14の第1回転軸12に対する相対移動の拘束が解除される。なお、駆動機構52の駆動(シフト部材52の軸線方向移動)については、電子制御によりアクチュエータを駆動することで行うことも可能であるし、操作者の操作により行うことも可能である。
【0027】
次に、本実施形態に係るクラッチ機構の動作、特に、第1回転軸12と第2回転軸22間で動力の断続を行う場合の動作について説明する。以下の説明では、エンジンやモータ等の駆動源からの動力が第1回転軸12に入力される場合について説明する。
【0028】
図3に示すように、スリーブ14の支持溝30による支持位置が非係合溝31である(スリーブ14の被支持部15が非係合溝31に嵌っている)場合は、スリーブ14の係合歯16は第2回転軸22の被係合歯26と噛み合わない。その場合、クラッチ機構は解放状態であり、第1回転軸12と第2回転軸22間の動力伝達が遮断される。駆動源からの動力により第1回転軸12が所定方向(図2の例では軸線方向一方側(図2の左側)から第1回転軸12を見た場合の時計方向とする)に回転すると、スリーブ14も第1回転軸12とともに同じ回転速度で所定方向に回転する。
【0029】
クラッチ機構を解放状態から係合状態に移行させて、第1回転軸12と第2回転軸22間で動力伝達を行うためには、図12に示すように、まずシフト部材52を軸線方向他方側へ移動させてリンク機構54によりスリーブ14を軸線方向一方側へ押圧する。スリーブ14がばね38を圧縮しながら軸線方向一方側へ移動し、図3から図4に示すように、スリーブ14の被支持部15が非係合溝31から溝分岐部34まで移動すると、図12に示すように、スリーブ14の係合歯16が第2回転軸22の被係合歯26と噛み合い始め、スリーブ14と第2回転軸22が回転同期する。
【0030】
スリーブ14の被支持部15が溝分岐部34まで移動したときに、第1回転軸12の所定方向の回転速度が第2回転軸22よりも高い場合は、図4から図5に示すように、スリーブ14の被支持部15が溝分岐部34から右ねじれ溝32に移動して右ねじれ溝32の延長方向に沿って溝合流部35へ向けて移動することで、スリーブ14が第1回転軸12に対して所定方向(第1回転軸12の回転方向)と逆方向に相対回転しながら軸線方向一方側へ相対移動する。これによって、第1回転軸12の所定方向の回転速度がスリーブ14(第2回転軸22)よりも高くなるように第1回転軸12とスリーブ14の回転差を許容しながら、スリーブ14を軸線方向一方側へ移動させることができる。スリーブ14が軸線方向一方側へ移動すると、スリーブ14の係合歯16が第2回転軸22の被係合歯26と噛み合う部分の割合が増加する。
【0031】
スリーブ14の被支持部15が右ねじれ溝32を溝合流部35へ向けて移動する際には、スリーブ14がばね38を押圧しながら軸線方向一方側へ移動し、ばね38からスリーブ14に軸線方向他方側への荷重が作用する。ばね38の荷重によって、図15に示すように、スリーブ14の被支持部15が右ねじれ溝32の軸線方向他方側の側面(被当接面)32aに当接することで、右ねじれ溝32の側面32aから被支持部15に押圧力(反力)FR1が作用し、この押圧力(反力)FR1がばね38を介して第2回転軸22に作用する。右ねじれ溝32の側面32aは、第1回転軸12の回転方向(所定方向)に対してその前側から後側にかけて軸線方向一方側へ傾斜しているため、右ねじれ溝32の側面32aから被支持部15に作用する押圧力FR1は、第1回転軸12の回転方向(所定方向)の成分Fa1を有する。したがって、第2回転軸22に取り付けられたばね38からスリーブ14に軸線方向他方側への荷重が作用することで、スリーブ14に所定方向のトルクが作用する。この所定方向のトルクを利用して、駆動源から第1回転軸12に入力された動力の一部を第2回転軸22に伝達することが可能となる。
【0032】
右ねじれ溝32を移動するスリーブ14の被支持部15が溝合流部35付近まで到達すると、図9に示すように、被支持部15が拘束部材42のテーパ面46を押圧することで、拘束部材42がばね44を圧縮しながら軸線方向一方側へ移動し、被支持部15が溝合流部35に移動する。被支持部15が溝合流部35に移動すると、圧縮されていたばね44が元に戻ることで、拘束部材42が軸線方向他方側へ移動して付勢される。これによって、図11に示すように、スリーブ14の被支持部15が拘束部材42,43の保持部41に保持され、スリーブ14の第1回転軸12に対する相対移動が拘束される。
【0033】
一方、スリーブ14の被支持部15が溝分岐部34まで移動したときに、第1回転軸12の所定方向の回転速度が第2回転軸22よりも低い場合は、図4から図6に示すように、スリーブ14の被支持部15が溝分岐部34から左ねじれ溝33に移動して左ねじれ溝33の延長方向に沿って溝合流部35へ向けて移動することで、スリーブ14が第1回転軸12に対して所定方向(第1回転軸12の回転方向)と同方向に相対回転しながら軸線方向一方側へ相対移動する。これによって、第1回転軸12の所定方向の回転速度がスリーブ14(第2回転軸22)よりも低くなるように第1回転軸12とスリーブ14の回転差を許容しながら、スリーブ14を軸線方向一方側へ移動させることができる。
【0034】
スリーブ14の被支持部15が左ねじれ溝33を溝合流部35へ向けて移動する際にも、スリーブ14がばね38を押圧しながら軸線方向一方側へ移動し、ばね38からスリーブ14に軸線方向他方側への荷重が作用する。ばね38の荷重によって、図16に示すように、スリーブ14の被支持部15が左ねじれ溝33の軸線方向他方側の側面(被当接面)33aに当接することで、左ねじれ溝33の側面33aから被支持部15に押圧力(反力)FL1が作用し、この押圧力(反力)FL1がばね38を介して第2回転軸22に作用する。左ねじれ溝33の側面33aは、第1回転軸12の回転方向(所定方向)に対してその前側から後側にかけて軸線方向他方側へ傾斜しているため、左ねじれ溝33の側面33aから被支持部15に作用する押圧力FL1は、第1回転軸12の回転方向(所定方向)と逆方向の成分Fb1を有し、スリーブ14に所定方向と逆方向のトルクが作用する。
【0035】
左ねじれ溝33を移動するスリーブ14の被支持部15が溝合流部35付近まで到達すると、図10に示すように、被支持部15が拘束部材43のテーパ面47を押圧することで、拘束部材43がばね45を圧縮しながら軸線方向一方側へ移動し、被支持部15が溝合流部35に移動する。被支持部15が溝合流部35に移動すると、圧縮されていたばね45が元に戻ることで、拘束部材43が軸線方向他方側へ移動して付勢される。これによって、図11に示すように、スリーブ14の被支持部15が拘束部材42,43の保持部41に保持され、スリーブ14の第1回転軸12に対する相対移動が拘束される。
【0036】
図7,11に示すように、スリーブ14の被支持部15が拘束部材42,43の保持部41に保持されている(溝合流部35に位置する)状態では、スリーブ14の第1回転軸12に対する相対移動が拘束され、且つ図17に示すようにスリーブ14の係合歯16が第2回転軸22の被係合歯26と完全に噛み合う。その場合は、クラッチ機構が係合状態であり、駆動源から第1回転軸12に入力された動力が第2回転軸22に伝達される。
【0037】
一方、クラッチ機構を係合状態から解放状態に移行させて、第1回転軸12と第2回転軸22間の動力伝達を遮断するためには、図13に示すように、まずシフト部材52を軸線方向一方側へ移動させて拘束機構40(拘束部材42,43)を軸線方向一方側へ押圧する。図14に示すように、拘束部材42,43がばね44,45を圧縮しながら軸線方向一方側へ移動すると、スリーブ14の被支持部15が拘束部材42,43の保持部41に保持された状態が解除され、スリーブ14の第1回転軸12に対する相対移動の拘束が解除される。
【0038】
スリーブ14の第1回転軸12に対する相対移動の拘束が解除されたときに、第1回転軸12の所定方向の回転速度が第2回転軸22よりも低くなろうとする場合は、図7から図5に示すように、スリーブ14の被支持部15が溝合流部35から右ねじれ溝32に移動して右ねじれ溝32の延長方向に沿って溝分岐部34へ向けて移動することで、スリーブ14が第1回転軸12に対して所定方向(第1回転軸12の回転方向)と同方向に相対回転しながら軸線方向他方側へ相対移動する。これによって、第1回転軸12の所定方向の回転速度がスリーブ14(第2回転軸22)よりも低くなるように第1回転軸12とスリーブ14の回転差を許容しながら、スリーブ14を軸線方向他方側へ移動させることができる。スリーブ14が軸線方向他方側へ移動すると、スリーブ14の係合歯16が第2回転軸22の被係合歯26と噛み合う部分の割合が減少する。
【0039】
スリーブ14の被支持部15が右ねじれ溝32を溝分岐部34へ向けて移動する際には、圧縮されているばね38からスリーブ14に軸線方向他方側への荷重が作用する。ばね38の荷重によって、図15に示すように、スリーブ14の被支持部15が右ねじれ溝32の軸線方向他方側の側面32aに当接することで、右ねじれ溝32の側面32aから被支持部15に押圧力(反力)FR1が作用し、この押圧力(反力)FR1がばね38を介して第2回転軸22に作用する。右ねじれ溝32の側面32aから被支持部15に作用する押圧力FR1は、第1回転軸12の回転方向(所定方向)の成分Fa1を有し、スリーブ14に所定方向のトルクが作用する。この所定方向のトルクを利用して、第1回転軸12の動力の一部を第2回転軸22に伝達することが可能となる。
【0040】
一方、スリーブ14の第1回転軸12に対する相対移動の拘束が解除されたときに、第1回転軸12の所定方向の回転速度が第2回転軸22よりも高くなろうとする場合は、図7から図6に示すように、スリーブ14の被支持部15が溝合流部35から左ねじれ溝33に移動して左ねじれ溝33の延長方向に沿って溝分岐部34へ向けて移動することで、スリーブ14が第1回転軸12に対して所定方向(第1回転軸12の回転方向)と逆方向に相対回転しながら軸線方向他方側へ相対移動する。これによって、第1回転軸12の所定方向の回転速度がスリーブ14(第2回転軸22)よりも高くなるように第1回転軸12とスリーブ14の回転差を許容しながら、スリーブ14を軸線方向他方側へ移動させることができる。
【0041】
スリーブ14の被支持部15が左ねじれ溝33を溝分岐部34へ向けて移動する際にも、圧縮されているばね38からスリーブ14に軸線方向他方側への荷重が作用する。ばね38の荷重によって、図16に示すように、スリーブ14の被支持部15が左ねじれ溝33の軸線方向他方側の側面33aに当接することで、左ねじれ溝33の側面33aから被支持部15に押圧力(反力)FL1が作用し、この押圧力(反力)FL1がばね38を介して第2回転軸22に作用する。左ねじれ溝33の側面33aから被支持部15に作用する押圧力FL1は、第1回転軸12の回転方向(所定方向)と逆方向の成分Fb1を有し、スリーブ14に所定方向と逆方向のトルクが作用する。
【0042】
右ねじれ溝32または左ねじれ溝33を移動したスリーブ14の被支持部15が溝分岐部34まで到達すると、圧縮されているばね38からスリーブ14に軸線方向他方側への荷重が作用することで、図4から図3に示すように、スリーブ14の被支持部15が溝分岐部34から非係合溝31に軸線方向他方側へ移動して、図2に示すように、スリーブ14の係合歯16が第2回転軸22の被係合歯26と噛み合わなくなる。その場合は、クラッチ機構が解放状態であり、第1回転軸12と第2回転軸22間の動力伝達が遮断される。
【0043】
以上説明した本実施形態によれば、第1回転軸12の所定方向の回転速度が第2回転軸22よりも高い条件では、スリーブ14の被支持部15が溝分岐部34から右ねじれ溝32を経由して溝合流部35へ移動することで、クラッチ機構の係合動作(スリーブ14の係合歯16を軸線方向一方側へ移動させて第2回転軸22の被係合歯26と噛み合わせる動作)を行うことができる。一方、第1回転軸12の所定方向の回転速度が第2回転軸22よりも低い条件では、スリーブ14の被支持部15が溝分岐部34から左ねじれ溝33を経由して溝合流部35へ移動することで、クラッチ機構の係合動作を行うことができる。また、クラッチ機構の解放動作(スリーブ14の係合歯16を軸線方向他方側へ移動させて第2回転軸22の被係合歯26との噛み合いを解除する動作)においては、スリーブ14の被支持部15が溝合流部35から右ねじれ溝32を経由して溝分岐部34へ移動することで、第1回転軸12の所定方向の回転速度が第2回転軸22よりも低い条件でクラッチ機構を解放することができる。一方、クラッチ機構の解放動作において、スリーブ14の被支持部15が溝合流部35から左ねじれ溝33を経由して溝分岐部34へ移動することで、第1回転軸12の所定方向の回転速度が第2回転軸22よりも高い条件でクラッチ機構を解放することができる。したがって、第1回転軸12と第2回転軸22の回転速度の条件に関係なく、クラッチ機構の係合動作と解放動作を行うことができ、第1回転軸12と第2回転軸22間で動力の断続を行うことができる。
【0044】
さらに、スリーブ14の被支持部15が溝合流部35に位置し、スリーブ14の係合歯16が第2回転軸22の被係合歯26と完全に噛み合った状態では、スリーブ14の第1回転軸12に対する相対移動を拘束機構40により拘束するので、クラッチ機構の係合状態(第1回転軸12と第2回転軸22の係合状態)を維持するために、外部からの動力は必要としない。そして、スリーブ14の被支持部15が非係合溝31に位置し、スリーブ14の係合歯16が第2回転軸22の被係合歯26と噛み合わない状態でも、第1回転軸12と第2回転軸22の解放状態を維持するために、外部からの動力は必要としない。
【0045】
また、スリーブ14の被支持部15が右ねじれ溝32または左ねじれ溝33を移動する際には、ばね38からスリーブ14に作用する軸線方向他方側への荷重によって、被支持部15が右ねじれ溝32の側面32aまたは左ねじれ溝33の側面33aに当接することで、スリーブ14にトルクが作用する。このトルクによって、クラッチ機構の係合状態と解放状態の切り替え中において、第1回転軸12と第2回転軸22間で動力の一部を伝達することができるとともに、クラッチ機構の係合状態と解放状態を切り替えるときに生じるショックを低減することができる。
【0046】
以上のクラッチ機構では、スリーブ14に第2回転軸22から離間させる方向の荷重を作用させるためのばね38をスリーブ14に取り付けることも可能である。また、スリーブ14に第2回転軸22から離間させる方向の荷重を作用させるために、ばね38に代えてダンパーを設けることも可能である。
【0047】
以上のクラッチ機構では、クラッチ機構の係合により、駆動源から第1回転軸12に入力された動力を第2回転軸22へ伝達する場合について説明した。ただし、クラッチ機構の係合により、駆動源から第2回転軸22に入力された動力を第1回転軸12へ伝達することも可能である。
【0048】
また、本実施形態に係るクラッチ機構については変速機に適用することも可能である。本実施形態に係るクラッチ機構を備える変速機の構成例を図18〜20に示す。図18は主要構成の斜視図を示し、図19は第1回転軸112の軸線方向と直交する方向から見た主要構成の断面図を示し、図20は第1回転軸112の外周面を周方向に沿って展開した展開図を示す。第1回転部材としての第1回転軸112の外周には、第1可動部材としての第1スリーブ114を支持するための第1支持溝130と、第2可動部材としての第2スリーブ214を支持するための第2支持溝230が形成されている。第2支持溝230は、第1支持溝130よりも軸線方向の一方側に配置される。
【0049】
第1スリーブ114の内周には、複数の被支持部(第1被支持部)115が周方向に互いに間隔をおいて(等間隔で)設けられており、各被支持部115が第1回転軸112の第1支持溝130に嵌ることで、第1スリーブ114が第1回転軸112に支持される。第1スリーブ114の各被支持部115が第1支持溝130の延長方向に沿って移動可能であることで、第1スリーブ114は第1回転軸112に対して第1支持溝130に沿って相対移動可能である。さらに、第1スリーブ114の外周には、複数の係合歯(第1係合歯)116が周方向に互いに間隔をおいて(等間隔で)設けられている。
【0050】
同様に、第2スリーブ214の内周には、複数の被支持部(第2被支持部)215が周方向に互いに間隔をおいて(等間隔で)設けられており、各被支持部215が第1回転軸112の第2支持溝230に嵌ることで、第2スリーブ214が第1回転軸112に支持される。第2スリーブ214の各被支持部215が第2支持溝230の延長方向に沿って移動可能であることで、第2スリーブ214は第1回転軸112に対して第2支持溝230に沿って相対移動可能である。さらに、第2スリーブ214の外周には、複数の係合歯(第2係合歯)216が周方向に互いに間隔をおいて(等間隔で)設けられている。
【0051】
第1歯車部材122は、第1回転軸112と同軸に配置され、ベアリング123を介して第1回転軸112に回転可能に支持されている。第1歯車部材122は、軸線方向において第1スリーブ114より一方側に配置される。第1歯車部材122は、その外周部に第1歯車124を有し、さらに、軸線方向他方側の端面には、複数の被係合歯(第1被係合歯)126が周方向に互いに間隔をおいて(係合歯116と等間隔で)設けられている。第1スリーブ114の係合歯116は、第1歯車部材122の被係合歯126と軸線方向に対向配置され、第1歯車部材122の被係合歯126と噛合可能(係合可能)である。
【0052】
第2歯車部材222も、第1回転軸112と同軸に配置され、ベアリング223を介して第1回転軸112に回転可能に支持されている。第2歯車部材222は、軸線方向において第2スリーブ114より他方側で且つ第1歯車部材122より一方側に配置される。第2歯車部材222は、その外周部に第2歯車224を有し、さらに、軸線方向一方側の端面には、複数の被係合歯(第2被係合歯)226が周方向に互いに間隔をおいて(係合歯216と等間隔で)設けられている。第2スリーブ214の係合歯216は、第2歯車部材222の被係合歯226と軸線方向に対向配置され、第2歯車部材222の被係合歯226と噛合可能(係合可能)である。
【0053】
第2回転部材としての第2回転軸162には、第3歯車164と第4歯車264が固定されており、第2回転軸162が第3歯車164及び第4歯車264とともに一体で回転する。第3歯車164は第1歯車124と噛み合い、第4歯車264は第2歯車224と噛み合う。第1歯車124と第3歯車164の歯数比は、第2歯車224と第4歯車264の歯数比と異なる。図18,19に示す例では、第3歯車164から第1歯車124にかけてのギア比(第1歯車歯数/第3歯車歯数)が、第4歯車264から第2歯車224にかけてのギア比(第2歯車歯数/第4歯車歯数)よりも大きい。
【0054】
図20の展開図に示すように、第1支持溝130は、軸線方向に沿って延びる第1非係合溝131と、第1非係合溝131より軸線方向一方側(第1歯車部材122側)に位置する第1右ねじれ溝132及び第1左ねじれ溝133と、第1非係合溝131から第1右ねじれ溝132及び第1左ねじれ溝133に分岐する第1溝分岐部134と、第1溝分岐部134より軸線方向一方側(第1歯車部材122側)に位置し、第1右ねじれ溝132及び第1左ねじれ溝133が合流する第1溝合流部135とを有する。同様に、第2支持溝230は、軸線方向に沿って延びる第2非係合溝231と、第2非係合溝231より軸線方向他方側(第2歯車部材222側)に位置する第2右ねじれ溝232及び第2左ねじれ溝233と、第2非係合溝231から第2右ねじれ溝232及び第2左ねじれ溝233に分岐する第2溝分岐部234と、第2溝分岐部234より軸線方向他方側(第2歯車部材222側)に位置し、第2右ねじれ溝232及び第2左ねじれ溝233が合流する第2溝合流部235とを有する。第1支持溝130(第1非係合溝131と第1溝分岐部134と第1右ねじれ溝132と第1左ねじれ溝133と第1溝合流部135)、及び第2支持溝230(第2非係合溝231と第2溝分岐部234と第2右ねじれ溝232と第2左ねじれ溝233と第2溝合流部235)の具体的構成例については、図3〜7のクラッチ機構で説明した支持溝30(非係合溝31と溝分岐部34と右ねじれ溝32と左ねじれ溝33と溝合流部35)と同様である。
【0055】
第1荷重発生機構としての第1ばね138は、第1歯車部材122に取り付けられている。第1ばね138は、軸線方向に弾性を有し、第1スリーブ114に第1歯車部材122から離間させる方向の荷重(軸線方向他方側への荷重)を作用させる。第2荷重発生機構としての第2ばね238は、第2歯車部材222に取り付けられている。第2ばね238は、軸線方向に弾性を有し、第2スリーブ214に第2歯車部材222から離間させる方向の荷重(軸線方向一方側への荷重)を作用させる。
【0056】
第1拘束機構140は、第1スリーブ114の被支持部115が第1溝合流部135に嵌っているときに、被支持部115の第1支持溝130に沿った移動を拘束することで、第1スリーブ114の第1回転軸112に対する相対移動を拘束する。第2拘束機構240は、第2スリーブ214の被支持部215が第2溝合流部235に嵌っているときに、被支持部215の第2支持溝230に沿った移動を拘束することで、第2スリーブ214の第1回転軸112に対する相対移動を拘束する。第1及び第2拘束機構140,240の具体的構成例については、図8〜11,14のクラッチ機構で説明した拘束機構40(拘束部材42,43とばね44,45)と同様である。
【0057】
駆動機構152は、第1スリーブ114の第1支持溝130による支持位置を第1非係合溝131から第1溝分岐部134に移動させることが可能である。さらに、駆動機構152は、第2スリーブ214の第2支持溝230による支持位置を第2非係合溝231から第2溝分岐部234に移動させることも可能である。図18,19に示す構成例では、駆動機構としてシフト部材152が第1回転軸112の内周に設けられ、シフト部材152が第1回転軸112に対して軸線方向に相対移動可能である。さらに、第1回転軸112には第1及び第2リンク機構154,254が設けられ、第1及び第2リンク機構154,254が第1回転軸112に対して軸線方向と垂直な軸まわりに回動可能である。図21に示すように、シフト部材152を軸線方向他方側へ移動させると、第1リンク機構154が図21の反時計まわりに回動して第1スリーブ114を軸線方向一方側へ押圧することで、第1スリーブ114が第1ばね138を圧縮しながら軸線方向一方側へ移動し、第1スリーブ114の被支持部115が第1非係合溝131から第1溝分岐部134に移動する。一方、図22に示すように、シフト部材152を軸線方向一方側へ移動させると、第2リンク機構254が図22の時計まわりに回動して第2スリーブ214を軸線方向他方側へ押圧することで、第2スリーブ214が第2ばね238を圧縮しながら軸線方向他方側へ移動し、第2スリーブ214の被支持部215が第2非係合溝231から第2溝分岐部234に移動する。
【0058】
また、駆動機構152は、第1スリーブ114の第1回転軸112に対する相対移動の第1拘束機構140による拘束を解除することが可能である。さらに、駆動機構152は、第2スリーブ214の第1回転軸112に対する相対移動の第2拘束機構240による拘束を解除することも可能である。図18,19に示す構成例では、図23に示すように、シフト部材152を軸線方向一方側へ移動させて第1拘束機構140を軸線方向一方側へ押圧することで、図8〜11,14のクラッチ機構で説明した拘束機構40と同様に、第1拘束機構140が軸線方向一方側へ移動して第1スリーブ114の第1回転軸112に対する相対移動の拘束が解除される。また、シフト部材152を軸線方向他方側へ移動させて第2拘束機構240を軸線方向他方側へ押圧することで、図8〜11,14のクラッチ機構で説明した拘束機構40と同様に、第2拘束機構240が軸線方向他方側へ移動して第2スリーブ214の第1回転軸112に対する相対移動の拘束が解除される。なお、駆動機構152の駆動(シフト部材152の軸線方向移動)については、電子制御によりアクチュエータを駆動することで行うことも可能であるし、操作者の操作により行うことも可能である。
【0059】
次に、本実施形態に係る変速機の動作、特に、変速機の変速比を変更する場合の動作について説明する。以下の説明では、エンジンやモータ等の駆動源からの動力が第2回転軸162に入力され、第2回転軸162に入力された動力を変速して第1回転軸112から出力する場合について説明する。
【0060】
図20に示すように、第1スリーブ114の被支持部115が第1非係合溝131に嵌っており、且つ第2スリーブ214の被支持部215が第2非係合溝231に嵌っている場合は、図19に示すように、第1スリーブ114の係合歯116は第1歯車部材122の被係合歯126と噛み合わず、且つ第2スリーブ214の係合歯216は第2歯車部材222の被係合歯226と噛み合わない。その場合、変速機はニュートラル状態であり、第2回転軸162と第1回転軸112間の動力伝達が遮断される。駆動源からの動力により第2回転軸162が回転すると、第1歯車部材122及び第2歯車部材222が所定方向(図19の例では軸線方向一方側(図19の左側)から第1回転軸112を見た場合の時計方向とする)に回転する。第3歯車164から第1歯車124にかけてのギア比(第1歯車歯数/第3歯車歯数)が、第4歯車264から第2歯車224にかけてのギア比(第2歯車歯数/第4歯車歯数)よりも大きいため、第1歯車部材122の所定方向の回転速度は第2歯車部材222よりも低くなる。第1回転軸112は、動力が伝達されず、回転が停止している。
【0061】
変速機の変速段として1速ギア段(ローギア段)を選択するためには、図21に示すように、まずシフト部材152を軸線方向他方側へ移動させて第1リンク機構154により第1スリーブ114を軸線方向一方側へ押圧する。第1スリーブ114が第1ばね138を圧縮しながら軸線方向一方側へ移動し、第1スリーブ114の被支持部115が第1非係合溝131から第1溝分岐部134まで移動すると、図21に示すように、第1スリーブ114の係合歯116が第1歯車部材122の被係合歯126と噛み合い始め、第1スリーブ114と第1歯車部材122が回転同期する。
【0062】
第1スリーブ114の被支持部115が第1溝分岐部134まで移動したときは、第1歯車部材122の所定方向の回転速度が第1回転軸112よりも高いため、図24に示すように、被支持部115が第1溝分岐部134から第1左ねじれ溝133に移動して第1左ねじれ溝133の延長方向に沿って第1溝合流部135へ向けて移動することで、第1スリーブ114が第1回転軸112に対して所定方向に相対回転しながら軸線方向一方側へ相対移動する。これによって、第1スリーブ114(第1歯車部材122)の所定方向の回転速度が第1回転軸112よりも高くなるように第1スリーブ114と第1回転軸112の回転差を許容しながら、第1スリーブ114を軸線方向一方側へ移動させることができる。第1スリーブ114が軸線方向一方側へ移動すると、第1スリーブ114の係合歯116が第1歯車部材122の被係合歯126と噛み合う部分の割合が増加する。
【0063】
第1スリーブ114の被支持部115が第1左ねじれ溝133を第1溝合流部135へ向けて移動する際には、第1スリーブ114が第1ばね138を押圧しながら軸線方向一方側へ移動し、第1ばね138から第1スリーブ114に軸線方向他方側への荷重が作用する。第1ばね138の荷重によって、図25に示すように、被支持部115が第1左ねじれ溝133の軸線方向他方側の側面(第1被当接面)133aに当接する。第1左ねじれ溝133の側面133aは、第1回転軸112の回転方向(所定方向)に対してその前側から後側にかけて軸線方向他方側へ傾斜しているため、被支持部115から第1左ねじれ溝133の側面133aに作用する押圧力FL2は、第1回転軸112の回転方向(所定方向)の成分Fb2を有する。したがって、第1歯車部材122に取り付けられた第1ばね138から第1スリーブ114に軸線方向他方側への荷重が作用することで、第1回転軸112に所定方向のトルクが作用する。この所定方向のトルクを利用して、駆動源から第2回転軸162に入力された動力の一部を第1回転軸112に伝達することが可能となる。
【0064】
第1スリーブ114の被支持部115が第1溝合流部135まで移動すると、図26に示すように、第1スリーブ114の係合歯116が第1歯車部材122の被係合歯126と完全に噛み合い、さらに、被支持部115の第1支持溝130に沿った移動が第1拘束機構140により拘束されることで、第1スリーブ114の第1回転軸112に対する相対移動が拘束される。これによって、1速ギア段が選択され、駆動源から第2回転軸162に入力された動力が第3歯車164から第1歯車124にかけてのギア比で変速されて第1回転軸112に伝達される。1速ギア段においては、第1歯車部材122と第1スリーブ114と第1回転軸112が一体となって所定方向に回転し、その回転速度は第2歯車部材222よりも低くなる。
【0065】
変速機の変速段として1速ギア段(ローギア段)から2速ギア段(ハイギア段)に切り替えるアップシフトを行うためには、図22に示すように、まずシフト部材152を軸線方向一方側へ移動させることで、第2リンク機構254により第2スリーブ214を軸線方向他方側へ押圧するとともに、第1拘束機構140を軸線方向一方側へ押圧する。第2スリーブ214が第2ばね238を圧縮しながら軸線方向他方側へ移動し、第2スリーブ214の被支持部215が第2非係合溝231から第2溝分岐部234まで移動すると、図22に示すように、第2スリーブ214の係合歯216が第2歯車部材222の被係合歯226と噛み合い始め、第2スリーブ214と第2歯車部材222が回転同期する。
【0066】
第2スリーブ214の被支持部215が第2溝分岐部234まで移動したときは、第2歯車部材222の所定方向の回転速度が第1回転軸112よりも高いため、図27に示すように、被支持部215が第2右ねじれ溝232に移動して第2右ねじれ溝232の延長方向に沿って第2溝合流部235へ向けて移動することで、第2スリーブ214が第1回転軸112に対して所定方向に相対回転しながら軸線方向他方側へ相対移動する。これによって、第2スリーブ214(第2歯車部材222)の所定方向の回転速度が第1回転軸112よりも高くなるように第2スリーブ214と第1回転軸112の回転差を許容しながら、第2スリーブ214を軸線方向他方側へ移動させることができる。第2スリーブ214が軸線方向他方側へ移動すると、第2スリーブ214の係合歯216が第2歯車部材222の被係合歯226と噛み合う部分の割合が増加する。
【0067】
第2スリーブ214の被支持部215が第2右ねじれ溝232を第2溝合流部235へ向けて移動する際に、図23に示すように、シフト部材152を軸線方向一方側へさらに移動させて第1拘束機構140を軸線方向一方側へさらに押圧すると、第1拘束機構140が軸線方向一方側へ移動して第1スリーブ114の第1回転軸112に対する相対移動の拘束が解除される。
【0068】
また、第2スリーブ214の被支持部215が第2右ねじれ溝232を第2溝合流部235へ向けて移動する際には、第2スリーブ214が第2ばね238を押圧しながら軸線方向他方側へ移動し、第2ばね238の荷重によって、図28に示すように、被支持部215が第2右ねじれ溝232の軸線方向一方側の側面(第2被当接面)232aに当接する。第2右ねじれ溝232の側面232aは、第1回転軸112の回転方向(所定方向)に対してその前側から後側にかけて軸線方向一方側へ傾斜しているため、被支持部215から第2右ねじれ溝232の側面232aに作用する押圧力FR2は、第1回転軸112の回転方向(所定方向)の成分Fa2を有する。したがって、第2歯車部材222に取り付けられた第2ばね238から第2スリーブ214に軸線方向一方側への荷重が作用することで、第1回転軸112に所定方向のトルクが作用する。第1スリーブ114の第1回転軸112に対する相対移動の拘束を解除しても、この所定方向のトルクを利用して、駆動源から第2回転軸162に入力された動力の一部を第1回転軸112に伝達することが可能となる。
【0069】
第2スリーブ214の被支持部215が第2溝合流部235まで移動すると、図29に示すように、第2スリーブ214の係合歯216が第2歯車部材222の被係合歯226と完全に噛み合い、さらに、被支持部215の第2支持溝230に沿った移動が第2拘束機構240により拘束されることで、第2スリーブ214の第1回転軸112に対する相対移動が拘束される。第1回転軸112の所定方向の回転速度は、第1歯車部材122よりも高くなろうとするため、図30に示すように、第1スリーブ114の被支持部115が第1溝合流部135から第1左ねじれ溝133に移動して第1左ねじれ溝133の延長方向に沿って第1溝分岐部134へ向けて移動することで、第1スリーブ114が第1回転軸112に対して所定方向(第1回転軸112の回転方向)と逆方向に相対回転しながら軸線方向他方側へ相対移動する。これによって、第1回転軸112と第1スリーブ114の回転差を許容しながら、第1スリーブ114を軸線方向他方側へ移動させることができる。第1スリーブ114の被支持部115が第1左ねじれ溝133を第1溝分岐部134へ向けて移動する際には、圧縮されている第1ばね138から第1スリーブ114に軸線方向他方側への荷重が作用することで、被支持部115が第1左ねじれ溝133の側面133aに当接する。第1スリーブ114の被支持部115が第1溝分岐部134まで到達すると、圧縮されている第1ばね138から第1スリーブ114に軸線方向他方側への荷重が作用することで、被支持部115が第1溝分岐部134から第1非係合溝131に軸線方向他方側へ移動して、第1スリーブ114の係合歯116が第1歯車部材122の被係合歯126と噛み合わなくなる。以上の動作により、1速ギア段から2速ギア段へのアップシフトが行われ、駆動源から第2回転軸162に入力された動力が第4歯車264から第2歯車224にかけてのギア比で変速されて第1回転軸112に伝達される。2速ギア段においては、第2歯車部材222と第2スリーブ214と第1回転軸112が一体となって所定方向に回転し、その回転速度は第1歯車部材122よりも高くなる。
【0070】
変速機の変速段としてから2速ギア段から1速ギア段に切り替えるダウンシフトを行うためには、まずシフト部材152を軸線方向他方側へ移動させることで、第1リンク機構154により第1スリーブ114を軸線方向一方側へ押圧するとともに、第2拘束機構240を軸線方向他方側へ押圧する。第1スリーブ114が第1ばね138を圧縮しながら軸線方向一方側へ移動し、第1スリーブ114の被支持部115が第1非係合溝131から第1溝分岐部134まで移動すると、第1スリーブ114の係合歯116が第1歯車部材122の被係合歯126と噛み合い始め、第1スリーブ114と第1歯車部材122が回転同期する。
【0071】
第1スリーブ114の被支持部115が第1溝分岐部134まで移動したときは、第1歯車部材122の所定方向の回転速度が第1回転軸112よりも低いため、図31に示すように、被支持部115が第1溝分岐部134から第1右ねじれ溝132に移動して第1右ねじれ溝132の延長方向に沿って第1溝合流部135へ向けて移動することで、第1スリーブ114が第1回転軸112に対して所定方向と逆方向に相対回転しながら軸線方向一方側へ相対移動する。これによって、第1スリーブ114(第1歯車部材122)の所定方向の回転速度が第1回転軸112よりも低くなるように第1スリーブ114と第1回転軸112の回転差を許容しながら、第1スリーブ114を軸線方向一方側へ移動させることができる。
【0072】
第1スリーブ114の被支持部115が第1右ねじれ溝132を第1溝合流部135へ向けて移動する際に、シフト部材152を軸線方向他方側へさらに移動させて第2拘束機構240を軸線方向他方側へさらに押圧すると、第2拘束機構240が軸線方向他方側へ移動して第2スリーブ214の第1回転軸112に対する相対移動の拘束が解除される。
【0073】
第1スリーブ114の被支持部115が第1右ねじれ溝132を第1溝合流部135へ向けて移動する際には、第1スリーブ114が第1ばね138を押圧しながら軸線方向一方側へ移動し、第1ばね138から第1スリーブ114に軸線方向他方側への荷重が作用する。第1ばね138の荷重によって、図32に示すように、被支持部115が第1右ねじれ溝132の軸線方向他方側の側面(第1被当接面)132aに当接する。第1右ねじれ溝132の側面132aは、第1回転軸112の回転方向(所定方向)に対してその前側から後側にかけて軸線方向一方側へ傾斜しているため、被支持部115から第1右ねじれ溝132の側面132aに作用する押圧力FR3は、第1回転軸112の回転方向(所定方向)と逆方向の成分Fa3を有し、第1回転軸112に所定方向と逆方向のトルクが作用する。
【0074】
第1スリーブ114の被支持部115が第1溝合流部135まで移動すると、第1スリーブ114の係合歯116が第1歯車部材122の被係合歯126と完全に噛み合い、さらに、被支持部115の第1支持溝130に沿った移動が第1拘束機構140により拘束されることで、第1スリーブ114の第1回転軸112に対する相対移動が拘束される。第1回転軸112の所定方向の回転速度は、第2歯車部材222よりも低くなろうとするため、図33に示すように、第2スリーブ214の被支持部215が第2溝合流部235から第2左ねじれ溝233に移動して第2左ねじれ溝233の延長方向に沿って第2溝分岐部234へ向けて移動することで、第2スリーブ214が第1回転軸112に対して所定方向に相対回転しながら軸線方向一方側へ相対移動する。これによって、第1回転軸112と第2スリーブ214の回転差を許容しながら、第2スリーブ214を軸線方向一方側へ移動させることができる。第2スリーブ214の被支持部215が第2左ねじれ溝233を第2溝分岐部234へ向けて移動する際には、圧縮されている第2ばね238から第2スリーブ214に軸線方向一方側への荷重が作用することで、被支持部215が第2左ねじれ溝233の軸線方向一方側の側面(第2被当接面)に当接する。第2スリーブ214の被支持部215が第2溝分岐部234まで到達すると、圧縮されている第2ばね238から第2スリーブ214に軸線方向一方側への荷重が作用することで、被支持部215が第2溝分岐部234から第2非係合溝231に軸線方向一方側へ移動して、第2スリーブ214の係合歯216が第2歯車部材222の被係合歯226と噛み合わなくなる。以上の動作により、2速ギア段から1速ギア段へのダウンシフトが行われる。
【0075】
以上説明した本実施形態によれば、第1回転軸112と第1歯車部材122の回転速度の条件に関係なく、第1回転軸112と第1歯車部材122の係合動作と解放動作を行うことができ、1速ギア段の選択及びその解除を行うことができる。同様に、第1回転軸112と第2歯車部材222の回転速度の条件に関係なく、第1回転軸112と第2歯車部材222の係合動作と解放動作を行うことができ、2速ギア段の選択及びその解除を行うことができる。したがって、第1回転軸112と第1及び第2歯車部材122,222の回転速度の条件に関係なく、ニュートラル状態から1速ギア段の選択、1速ギア段から2速ギア段へのアップシフト、及び2速ギア段から1速ギア段へのダウンシフトを行うことができる。さらに、1速ギア段の選択状態において、第1スリーブ114の第1回転軸112に対する相対移動を第1拘束機構140により拘束することで、第1回転軸112と第1歯車部材122の係合状態を維持するために、外部からの動力は必要とせず、2速ギア段の選択状態において、第2スリーブ214の第1回転軸112に対する相対移動を拘束機構240により拘束することで、第1回転軸112と第2歯車部材222の係合状態を維持するために、外部からの動力は必要としない。そして、ニュートラル状態においても、第1回転軸112と第1及び第2歯車部材122,222の解放状態を維持するために、外部からの動力は必要としない。
【0076】
また、第1スリーブ114の被支持部115が第1右ねじれ溝132または第1左ねじれ溝133を移動する際には、第1ばね138から第1スリーブ114に作用する軸線方向他方側への荷重によって、被支持部115が第1右ねじれ溝132の側面132aまたは第1左ねじれ溝33の側面133aに当接することで、第1回転軸112にトルクが作用する。第2スリーブ214の被支持部215が第2右ねじれ溝232または第2左ねじれ溝233を移動する際にも、第2ばね238から第2スリーブ214に作用する軸線方向一方側への荷重によって、被支持部215が第2右ねじれ溝232の側面232aまたは第2左ねじれ溝233の側面に当接することで、第1回転軸112にトルクが作用する。このトルクによって、ニュートラル状態から1速ギア段の選択中、1速ギア段から2速ギア段へのアップシフト中、及び2速ギア段から1速ギア段へのダウンシフト中のそれぞれにおいて、第1回転軸112と第2回転軸162間で動力の一部を伝達することができるとともに、1速ギア段と2速ギア段を切り替えるときに生じる変速ショックを低減することができる。
【0077】
以上説明した変速機では、第1スリーブ114に第1歯車部材122から離間させる方向の荷重を作用させるための第1ばね138を第1スリーブ114に取り付けることも可能であり、第2スリーブ214に第2歯車部材222から離間させる方向の荷重を作用させるための第2ばね238を第2スリーブ214に取り付けることも可能である。また、第1スリーブ114に第1歯車部材122から離間させる方向の荷重を作用させるために、第1ばね138に代えてダンパーを設けることも可能であり、第2スリーブ214に第2歯車部材222から離間させる方向の荷重を作用させるために、第2ばね238に代えてダンパーを設けることも可能である。
【0078】
以上の変速機では、駆動源から第2回転軸162に入力された動力を変速して第1回転軸112から出力する場合について説明した。ただし、駆動源から第1回転軸112に入力された動力を変速して第2回転軸162から出力することも可能である。
【0079】
以上の変速機では、変速段を2段階(1速ギア段と2速ギア段)に切り替える場合について説明した。ただし、変速機の変速段を3段階以上に切り替えることも可能である。
【0080】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0081】
12,112 第1回転軸、14 スリーブ、15,115,215 被支持部、16,116,216 係合歯、22,162 第2回転軸、23,123,223 ベアリング、26,126,226 被係合歯、30 支持溝、31 非係合溝、32 右ねじれ溝、33 左ねじれ溝、34 溝分岐部、35 溝合流部、38,44,45 ばね、40 拘束機構、41 保持部、42,43 拘束部材、46,47 テーパ面、52,152 駆動機構(シフト部材)、54 リンク機構、114 第1スリーブ、122 第1歯車部材、124 第1歯車、130 第1支持溝、131 第1非係合溝、132 第1右ねじれ溝、133 第1左ねじれ溝、134 第1溝分岐部、135 第1溝合流部、138 第1ばね、140 第1拘束機構、154 第1リンク機構、164 第3歯車、214 第2スリーブ、222 第2歯車部材、224 第2歯車、230 第2支持溝、231 第2非係合溝、232 第2右ねじれ溝、233 第2左ねじれ溝、234 第2溝分岐部、235 第2溝合流部、238 第2ばね、240 第2拘束機構、254 第2リンク機構、264 第4歯車。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33