(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のカム構造は、次のような問題点を有している。
【0006】
特許文献1のカム構造の場合、切り欠き部の対向面(曲面)の曲率半径はローラの外周面の曲率半径と中心位置が同じであるため、切り欠き部の対向面(曲面)とローラの外周面との間の隙間は一定幅の狭いものである(即ち開口が狭い隙間である)。このため、ローラ径の選定の自由度が小さい。また、隙間を介してローラへ潤滑油を供給しようとしても、かかる潤滑油の供給が困難である。また、隙間に切り粉等の異物が入り込んだ場合、当該異物の排出性が悪く、ローラへの異物の噛み込みを生じるおそれがある。
【0007】
また、カムローブとカムシャフトが別体のものである場合、ピンを用いてカムローブをカムシャフトに連結することが考えられるが、この場合、例えばカムローブに設けるピン孔の位置によっては、カムローブの耐久性を損なうおそれがある。このため、ピンを用いる場合には、ピン孔の配置などに工夫を施す必要がある。
【0008】
従って本発明は、ローラ径の選定の自由度が大きく、ローラへの潤滑油の供給が容易なカム構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する第1発明のカム構造は、
内燃機関の作動と連動して回転するカムシャフトと、
前記内燃機関の動弁機構の被駆動部を駆動させるカムローブと
を備えたカム構造であって、
前記カムローブは、ベース円部とバルブリフト部とから形成されたベースカムと、前記バルブリフト部の先端部に設けられるとともに前記カムシャフトの中心軸と平行な軸に対して回転自在なローラとを有し、
前記ローラは、前記ローラの外周面の一部が、前記バルブリフト部の先端部の外周面よりも外側に出るように、前記バルブリフト部の先端部に形成された切り欠き部に設けられ、
前記切り欠き部の対向面は、前記ローラ側に曲がった曲面であり、
前記曲面の曲率半径は、前記ローラの外周面の曲率半径と中心位置が異なり、且つ、前記ローラの外周面の曲率半径よりも大きく設定されて
おり、
前記被駆動部は、前記内燃機関の吸気バルブまたは排気バルブの基端部に接続されるバルブタペットである
ことを特徴とする。
【0010】
また、第2発明のカム構造は、第1発明のカム構造において、
前記ローラは、前記ローラの外周面の一部が、前記切り欠き部の対向面の両端を結んだ直線よりも前記カムシャフト側に位置するように設けられている
ことを特徴とする。
【0011】
また、第3発明のカム構造は、第1又は第2発明のカム構造において、
前記カムローブは、前記カムシャフトと別体に形成され、前記ベース円部に設けられたシャフト取り付け孔に前記カムシャフトを挿通した後、前記切り欠き部の対向面と前記ベース円部の外周面とに開口して設けられたピン孔にわたって挿通されると共に前記カムシャフトを貫通するピンにより前記カムシャフトに連結されており、
前記カムシャフトは、内部に潤滑油が流れる油路を備え、
前記ピンは、前記カムシャフトに連結された状態で、前記油路と連通されるとともに前記切り欠き部の対向面に位置する端部で
のみ開口する油孔を備えている
ことを特徴とする。
【0013】
また、第
4発明のカム構造は、第
3発明のカム構造において、
前記切り欠き部の対向面に位置する前記油孔の端部は、前記ローラと前記対向面とが最も近接する位置に形成されている
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1発明のカム構造によれば、切り欠き部の対向面を曲面とすることで、切り欠き部の設定が容易となり、ローラの外径や取り付け位置の選定の自由度を大きくすることができる。
また、切り欠き部の対向面(曲面)の曲率半径が、ローラの外周面の曲率半径と中心位置が異なり、且つ、ローラの外周面の曲率半径よりも大きく設定されているため、ローラの外周面と切り欠き部の対向面との間には、開口が広く、中央部が狭い隙間(通路)が形成される。従って、被駆動部の被駆動部(例えばバルブタペット)上の潤滑油を、切り欠き部の対向面のエッジ部で掻き揚げて、ローラの回転によりローラ部へ供給することができるため、ローラ廻りの潤滑を向上させるとともに、切り欠き部で潤滑油が適度に保持されるので、ローラと被駆動部との間の摺動抵抗が低減される。
また、ローラの外周面と切り欠き部の対向面との間の隙間は開口が広いため、当該隙間からの切り粉等の異物の排出性もよく、ローラへの異物の噛み込みを防止することができる。
更に、ローラの外周面と切り欠き部の対向面との間の隙間(空間)の拡大により、ローラの組み付け性も向上する。
【0015】
第2発明のカム構造によれば、ローラと切り欠き部の対向面との距離が短くなるので、ローラ廻りの潤滑をより確実に向上させることができると共に、切り欠き部での潤滑油の保持性能が向上し、ローラと被駆動部との間の摺動抵抗がより低減される。
【0016】
第3発明のカム構造によれば、ピン孔によってバルブリフト部における被駆動部との接触面積を減らすことがなく、即ちカムローブの耐久性を損なうことなく、カム作成時にカムローブに生じる歪みを抑制することができる。
また、潤滑油を切り欠き部に確実に供給できるので、ローラと被駆動部との間の摺動抵抗をより確実に低減することができる。また、ピン内部に潤滑油が流通する油孔を設けることで、カムローブに新たに孔を設ける必要が無いため、カムローブの耐久性を維持することができる。
【0018】
第
4発明のカム構造によれば、ローラと対向面が最も近づく位置から潤滑油が供給されるので、ローラ廻りに潤滑油をより確実に供給することができ、ローラと被駆動部との間の摺動抵抗がより低減される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態例を図面に基づき詳細に説明する。
【0021】
<構成>
まず、
図1(a),
図1(b),
図2及び
図3に基づき、本発明の実施の形態例に係るカム構造11の構成について説明する。
【0022】
これらの図に示すように、本実施の形態例のカム構造11は、車両の走行駆動用のエンジンの作動と連動して回転するカムシャフト12と、前記エンジンの動弁機構の被駆動部を駆動させるカムローブ13とを備えている。なお、図示は省略するが、カムローブ13は前記エンジンの各気筒におけるバルブ(吸気バルブ又は排気バルブ)に対応させて、カムシャフト12に複数設けられており、何れも同じ構造を有している。
【0023】
カムローブ13は、ベースカム14とローラ15とを有している。ベースカム14は、ベース円部14aとバルブリフト部14bとから形成されており、外周面が周方向全体に亘って連続している。
【0024】
カム構造11の回転方向は
図1(b)に示す矢印Dの方向であり、バルブリフト部14bは、
図1(b)における右側がバルブリフトの立ち上がり側(バルブが開く側)、右側がバルブリフトの立下り側(バルブが閉じる側)である。
【0025】
バルブリフト部14bの先端部(カムトップ部)14dには、切り欠き部14eが設けられている。切り欠き部14eは、バルブリフト部14bの先端部14d(以下、バルブリフト先端部と称する)の幅方向(
図1(b)の左右方向)の中央部に形成されている。このため、バルブリフトの立ち上がり側及び立下り側におけるバルブリフト部14bの基端部14f(以下、バルブリフト基端部と称する)では、ベース円部14aと同じ広い幅を有している一方、バルブリフト先端部14dでは、切り欠き部14eの幅の分だけ、バルブリフト基端部14fの幅よりも狭くなっている。
【0026】
ローラ15は、バルブリフト先端部14dに設けられるとともに、カムシャフト12の中心軸と平行な軸に対して回転自在となっている。具体的には、ローラ15は、切り欠き部14eに嵌め込んだ状態で、回転軸15aをカムシャフト12の中心軸と平行にしてローラ15に形成された軸取り付け孔15bと、バルブリフト先端部14dに形成された軸取り付け孔14nとに挿通することにより、バルブリフト先端部14dに取り付けられている。また、ローラ15は、外周面の一部が、バルブリフト先端部14dの外周面よりも外側に出るように取り付けられている。
【0027】
詳細は後述するが、ベースカム14は、バルブリフトの立ち上がりで正の第1のバルブ加速度ピーク(即ちバルブリフトの立ち上がりにおいてカムローブ13が、動弁機構の被駆動部から受ける最大荷重)を生じ、バルブリフトの立下りで正の第2のバルブ加速度ピーク(即ちバルブリフトの立下りにおいてカムローブ13が、動弁機構の被駆動部から受ける最大荷重)を生じ、前記第1のバルブ加速度ピークと前記第2のバルブ加速度ピークとの間でバルブ加速度が負となるバルブ加速度特性を有している。そして、ローラ15は、前記第1のバルブ加速度ピークと前記第2のバルブ加速度ピークとの間で、動弁機構の被駆動部が、バルブリフトの立ち上がりではバルブリフト部14bからローラ15に乗り、バルブリフトの立ち下りではローラ15からバルブリフト部14bに乗り移るように、ローラ15の外径と取り付け位置とが設定されている。
【0028】
ローラ15の外周面と対向する切り欠き部14eの対向面14gは、ローラ15側(バルブリフト部14bの先端側)に曲がった曲面となっている。しかも、対向面(曲面)14gの曲率半径は、ローラ15の外周面の曲率半径と中心位置が異なっており、且つ、ローラ15の外周面の曲率半径よりも大きく設定されている。このため、対向面14gとローラ15の外周面との間に形成される隙間(通路)16は、左右両端部の開口16a,16bで幅が広く、中央部16cで幅が狭くなっている。
【0029】
また、対向面14gの一方のエッジ部14hは、前記第1のバルブ加速度ピークが生じる部分(☆印で示す部分)20aよりもバルブリフト先端部14d側に位置するように設定されている。同様に、対向面14gの他方のエッジ部14iは、前記第2のバルブ加速度ピークが生じる部分(☆印で示す部分)20bよりもバルブリフト先端部14d側に位置するように設定されている。即ち、第1及び第2のバルブ加速度ピーク20a,20bが生じる部分が、バルブリフト部14bのうちの切り欠き部14eが形成されていない幅の広い部分(動弁機構の被駆動部との接触面積が大きい部分)となるように設定されている。
【0030】
図1(b)に示すように、カム構造11(カムローブ13)のバルブリフトの立ち上がり側及び立下り側において、領域a
1,a
1’が、バルブリフト部14aのうちの、切り欠き部14eが形成されていない、幅の広い領域(動弁機構の被駆動部との接触面積が大きい領域)、領域b
1,b
1’が、バルブリフト部14bのうちの、切り欠き部14eが形成されている、幅の狭い領域(動弁機構の被駆動部との接触面積が大きい領域)、領域c
1,c
1’が、バルブリフトに関わるローラ15の領域(動弁機構の被駆動部がバルブリフト部14bからローラ15に乗り移る領域)、領域d
1が、ベース円部14aの領域である。切り欠き部14eの対向面(曲面)14gの曲率半径やローラ15の外径及び取り付け位置の設定に応じて、領域a
1,a
1’と領域b
1,b
1’の境界位置や領域b
1,b
1’と領域c
1,c
1’の境界位置は変化する。
【0031】
カムローブ13は、カムシャフト12と別体に形成されており、ベース円部14aに設けられたシャフト取り付け孔14cにカムシャフト12を挿通した後、対向面14gに設けられたピン孔14jを介して、ピン22によりカムシャフト12に連結されている。
【0032】
更に説明すると、カムシャフト12は、カムシャフト12の中心軸と垂直な方向に沿って形成された貫通孔12aを有している。ピン22は、貫通孔12aに挿入(圧入)されて締結されることにより、カムシャフト12に固定されている。ピン孔14jは、カムシャフト12をシャフト取り付け孔14cに挿通した状態で、カムシャフト12の中心軸と垂直な方向になるようにベースカム14に形成され、一端側の開口14kが対向面14g上に位置し、他端側の開口14mがベース円部14aの外周面上に位置している。また、ピン孔14jの径は、ピン孔14jの内周面とピン22の外周面との間に隙間23が形成されるように設定されている。
【0033】
また、カムシャフト12には油路12bが形成され、ピン22には油孔22aが形成されている。油路12bは、カムシャフト12の中心軸の方向に沿ってカムシャフト12に形成され、内部に潤滑油が流れる。油孔22aは、ピン22がカムシャフト12に連結された状態で(即ちカムシャフト12の貫通孔12a及びベースカム14のピン孔14jに挿通された状態で)、油路12bと連通されるとともに切り欠き部14eの対向面14gに位置する端部で開口するようにピン22に形成されている。従って、図示しない潤滑油供給手段から供給されて油路12b内を流れる潤滑油は、油孔22aの一方の端部(開口)から油孔22aへ流入して、油孔22a内を流れ、油孔22aの他方の端部(開口)から流出して、ローラ15へ供給される。
【0034】
次に、
図4に基づき、本実施の形態例のカム構造11を用いた動弁機構の構成について説明する。
【0035】
図4に示すように、動弁機構30は、カム構造11と、カム構造11によって駆動されるバルブタペット31(動弁機構の被駆動部)と、固定部32と、バルブタペット31と固定部32との間に介設されたバルブスプリング33とを有して成るものである。バルブタペット31には、バルブ(吸気バルブ又は排気バルブ)41の基端部が接続されている。また、カム構造11におけるベースカム14のベース円部14aと、バルブタペット31との間には僅かな隙間が設定されており、バルブ41の不要な開閉動作を防止している。
【0036】
エンジンの作動と連動してカムシャフト12が矢印Dのように回転すると、このカムシャフト12とともにカムローブ13が回転する。このとき、ベースカム14のベース円部14aがバルブタペット31と対向している間は、前記隙間が設定されているため、ベース円部14aからバルブタペット31への押圧力は生じない。従って、バルブ41は開閉動作をせず、バルブスプリング33のバネ力で全閉状態に保持される。その後、カムローブ13が更に回転して、バルブタペット31がベースカム14のベース円部14aからバルブリフト部14bに乗り移ると、バルブリフト部14bに押圧される。このため、バルブスプリング33のバネ力に抗して、バルブ41がバルブタペット31とともに押し下げられることにより、開き始める(バルブリフトが立ち上がり始める)。
【0037】
続いて、バルブタペット31がバルブリフト部14bからローラ15に乗り移ると、ローラ15がバルブタペット31を押圧する。このため、バルブスプリング33のバネ力に抗してバルブ41が更に押し下げられ、バルブリフトが更に増加し、ついには最大のバルブリフトとなる。その後は逆にバルブスプリング33のバネ力により、バルブ41は押し上げられて閉まり始め(バルブリフトが立下り始め)、ついには全閉となる。
【0038】
次に、
図5(a)及び
図5(b)に基づき、本発明の比較例に係るカム構造51について説明する。
【0039】
本比較例のカム構造51は、ローラ15の外周面と対向する切り欠き部14eの対向面14gが、平面になっており、その他の構成についてはカム構造11と同様である。
【0040】
図5(b)に示すように、カム構造51(カムローブ13)のバルブリフトの立ち上がり側及び立下り側において、領域a
2,a
2’が、バルブリフト部14bのうちの、切り欠き部14eが形成されていない、幅の広い領域(動弁機構の被駆動部との接触面積が大きい領域)、領域b
2,b
2’が、バルブリフト部14bのうちの、切り欠き部14eが形成されている、幅の狭い領域(動弁機構の被駆動部との接触面積が大きい領域)、領域c
2,c
2’が、バルブリフトに関わるローラ15の領域(動弁機構の被駆動部がバルブリフト部14bからローラ15に乗り移る領域)、領域d
2が、ベース円部14aの領域である。
【0041】
また、カム構造11の各領域a
1,a
1’,b
1,b
1’,c
1,c
1’,d
1と、カム構造51の各領域a
2,a
2’,b
2,b
2’,c
2,c
2’,d
2とを対比したものが、
図6である。カム構造11では対向面14gを曲面とし、カム構造51では対向面14gを平面としているため、第1及び第2のバルブ加速度ピークが生じる部分20a,20bが、カム構造11では幅の広い領域a
1,a
1’に位置しているに対して、カム構造51では幅の狭い領域b
2,b
2’に位置している。なお、カム構造11の領域c
1,c
1’,d
1とカム構造51のc
2,c
2’,d
2については、両者とも同じである。
【0042】
次に、
図7に基づき、カム構造11とカム構造51の動弁特性(バルブリフト特性、バルブ加速度特性)について説明する。
図7(a)〜
図7(d)には、カム構造11,51が矢印D方向への回転しているときの各カム回転角における状態を表しており、切り欠き部14eの対向面14gに関しては、カム構造11(曲面)の場合を実線で示し、カム構造51(平面)の場合を一点鎖線で示している。
図7(e)において、縦軸は左側がバルブリフト、右側がバルブ加速度、横軸はカム回転角である。そして、
図7中の点線はベースカム14のバルブリフト特性、実線はベースカム14のバルブ加速度特性である。また、
図7中の一点鎖線は、ローラ15に関するバルブリフト特性、二点鎖線はローラ15に関するバルブ加速度特性である。
【0043】
図7(e)に示すように、カム構造11とカム構造51は同じバルブリフト特性及びバルブ加速度特性を有しているが(バルブリフト特性及びバルブ加速度特性は切り欠き部14eの対向面14gの形状によらず一定であるが)、第1及び第2のバルブ加速度ピークが生じる領域に関しては異なる。
【0044】
詳述すると、
図7(e)に示すようにカム構造11,51のバルブ加速度特性においては、P1〜P6の正のバルブ加速度ピークが生じる。
【0045】
バルブリフトの立ち上がりでは、まず、バルブタペット31がベースカム14のベース円部14a(領域d
1,d
2)からバルブリフト部14b(領域a
1,a
2)に乗り移るとき、小さなバルブ加速度ピークP1が発生する。
【0046】
その後、一旦、バルブ加速度が0になってから、大きなバルブ加速度ピークP2(第1のバルブ加速度ピーク)が生じ、バルブリフト(バルブ41の開度)が急速に大きくなる。そして、このバルブ加速度ピークP2が、カム構造11では切り欠き部14eの対向面14gを曲面にしてエッジ部14hの位置を調整したため、バルブリフト部14bにおける幅の広い領域a
1で生じる一方、カム構造51では切り欠き部14eの対向面14gが平面であり、エッジ部14hの位置調整を行っていないため、バルブリフト部14bにおける幅の狭い領域b
2で生じる。
【0047】
バルブ加速度ピークP2が発生した後、バルブ加速度は低下して負になるが、バルブタペット31がベースカム14のバルブリフト部14b(領域b
1,b
2)からローラ15(領域c
1,c
2)に乗り移るときには、バルブ加速度ピークP2に比べて小さなバルブ加速度ピークP3が生じる。換言すれば、ベースカム14のバルブ加速度特性において、バルブリフトの立ち上がりで正のバルブ加速度ピークP2が発生した後、バルブ加速度が低下して負になったときに(或いはバルブ加速度が、バルブ加速度ピークP2から下降している途中でもよい)、バルブタペット31が、ベースカム14のバルブリフト部14b(領域b
1,b
2)からローラ15(領域c
1,c
2)に乗り移るように、ローラ15の外径と取り付け位置が設定されている。
【0048】
バルブ加速度ピークP3が生じた後は、バルブ加速度が負となる状態が続くが、この間にバルブリフト(バルブ41の開度)は最大値に達し、これ以降は小さくなっていく(バルブリフトの立ち上がりから立下りへ移る)。
【0049】
バルブリフトの立ち下がりでは、バルブリフトの立ち上がりの場合と逆の順序でバルブ加速度ピークP4〜P6が生じる。まず、バルブタペット31がローラ15(領域c
1,c
2)からベースカム14のバルブリフト部14b(b
1’,b
2’)に乗り移るときに、バルブ加速度ピークP5(第2のバルブ加速度ピーク)に比べて小さなバルブ加速度ピークP4が生じる。換言すれば、ベースカム14のバルブ加速度特性において、バルブリフトの立ち下がりで正のバルブ加速度ピークP5が発生する前のバルブ加速度が負のときに(或いはバルブ加速度が、バルブ加速度ピークP5へと上昇している途中でもよい)、バルブタペット31が、ローラ15(領域c
1’,c
2’)からベースカム14のバルブリフト部14b(b
1’,b
2’)に乗り移るように、ローラ15の外径と取り付け位置が設定されている。
【0050】
バルブ加速度ピークP4が発生した後、ベースカム14のバルブリフト部14bでは、大きなバルブ加速度ピークP5(第2のバルブ加速度ピーク)が生じる。
【0051】
即ち、バルブ加速度ピークP2(第1のバルブ加速度ピーク)とバルブ加速度ピークP5(第2のバルブ加速度ピーク)との間で、バルブタペット31が、バルブリフトの立ち上がりではバルブリフト部14b(領域b
1,b
2)からローラ15(領域c
1,c
2)に乗り、バルブリフトの立ち下りではローラ15(領域c
1,c
2)からバルブリフト部14bに乗り移るように、ローラ15の外径と取り付け位置とが設定されている。
【0052】
しかも、バルブ加速度ピークP5が、カム構造11では切り欠き部14eの対向面14gを曲面にしてエッジ部14iの位置を調整したため、バルブリフト部14bの幅の広い領域a
1’で生じる一方、カム構造51では切り欠き部14eの対向面14gが平面であり、エッジ部14iの位置調整を行っていないため、バルブリフト部14bの幅の狭い領域b
2’で生じる。
【0053】
その後、一旦、バルブ加速度が0になってから、バルブタペット31がベースカム14のバルブリフト部14b(領域a
1’,a
2’)からベース円部14aに乗り移るときに小さなバルブ加速度ピークP6が生じる。
【0054】
なお、
図7には前述のベースカム14のベース円部14aとバルブタペット31との間の隙間を考慮しない場合の動弁特性を示しており、実際には前記隙間が設定されているため、小さなバルブ加速度ピークP1,P6は発生せず、バルブリフト立ち上がりの最初に大きなバルブ加速度ピークP2(第1バルブ加速度ピーク)が生じ、バルブリフト立ち下がりの最後に大きなバルブ加速度ピークP5(第2のバルブ加速度ピーク)が生じる。
【0055】
<作用効果>
以上のように、本実施の形態例のカム構造11によれば、エンジンの作動と連動して回転するカムシャフト1と、エンジンの動弁機構30のバルブタペット31を駆動させるカムローブ13とを備えたカム構造11であって、カムローブ13は、ベース円部14aとバルブリフト部14bとから形成されたベースカム14と、バルブリフト先端部14dに設けられるとともにカムシャフト12の中心軸と平行な軸15aに対して回転自在なローラ15とを有し、ベースカム14は、バルブリフトの立ち上がりで正の第1のバルブ加速度ピークP2を生じ、バルブリフトの立下りで正の第2のバルブ加速度ピークP5を生じ、第1のバルブ加速度ピークP2と第2のバルブ加速度ピークP5との間でバルブ加速度が負となるバルブ加速度特性を有しており、第1のバルブ加速度ピークP2と第2のバルブ加速度ピークP5との間で、動弁機構30のバルブタペット31が、バルブリフトの立ち上がりではバルブリフト部14bからローラ15に乗り、バルブリフトの立ち下りではローラ15からバルブリフト部14bに乗り移るように、ローラ15の外径と取り付け位置とが設定されていることを特徴としているため、第1及び第2のバルブ加速度ピークP2,P5、即ちカムローブ13が動弁機構30のバルブタペット31から受ける最大荷重を、ローラ15部分ではなくベースカム14で受けることができる。このため、ベースカム14のバルブリフト先端部14dにローラ15が取り付けられたカムローブ13の耐久性が向上する。
【0056】
また、本実施の形態例のカム構造11によれば、ローラ15は、バルブリフト先端部14dに形成された切り欠き部14eに設けられ、ローラ15の外周面と対向する切り欠き部14eの対向面14gのエッジ部14h,14iは、第1及び第2のバルブ加速度ピークP2,P5が生じる部分20a,20bよりもバルブリフト先端部14d側に位置するように設定されていることを特徴としているため、第1及び第2のバルブ加速度ピークP2,P5を、ベースカム14のバルブリフト部14bにおける切り欠き部14eの無い幅の広い部分(即ち動弁機構30のバルブタペット31との接触面積が大きい部分)で受けることができる。このため、カムローブ13の耐久性が向上する。
【0057】
また、本実施の形態例のカム構造11によれば、切り欠き部14eの対向面14gは、ローラ15側に曲がった曲面であり、前記曲面の曲率半径は、ローラ15の外周面の曲率半径と中心位置が異なり、且つ、ローラ15の外周面の曲率半径よりも大きく設定されていることを特徴としているため、次のような作用効果を得ることができる。
即ち、切り欠き部14eの対向面14gを曲面とすることで、切り欠き部14eの設定が容易となり、ローラ15の外径や取り付け位置の選定の自由度を大きくすることができる。
【0058】
また、切り欠き部14eの対向面(曲面)14gの曲率半径が、ローラ15の外周面の曲率半径と中心位置が異なり、且つ、ローラ15の外周面の曲率半径よりも大きく設定されているため、ローラ15の外周面と切り欠き部14eの対向面14gとの間には、開口16a,16bが広く、中央部16cが狭い隙間(通路)16が形成される。従って、被駆動部30のバルブタペット31上の潤滑油を、切り欠き部14eの対向面14gのエッジ部14h,14i(特にバルブリフトの立下り側のエッジ部14i)で掻き揚げて、ローラ15の回転によりローラ15部へ供給することができるため、ローラ15廻りの潤滑を向上させるとともに、切り欠き部14eで潤滑油が適度に保持されるので、ローラ15とバルブタペット31との間の摺動抵抗が低減される。
また、ローラ15の外周面と切り欠き部14eの対向面14gとの間の隙間16は開口16a,16bが広いため、当該隙間16からの切り粉等の異物の排出性もよく、ローラ15への異物の噛み込みを防止することができる。
更に、ローラ15の外周面と切り欠き部14eの対向面14gとの間の隙間(空間)16の拡大により、ローラ15の組み付け性も向上する。
【0059】
また、本実施の形態例のカム構造11によれば、カムローブ13は、カムシャフト12と別体に形成され、ベース円部14aに設けられたシャフト取り付け孔14cにカムシャフト12を挿通した後、対向面14gに設けられたピン孔14jを介して、ピン22によりカムシャフト12に連結されていることを特徴としているため、ピン孔14jの一方の開口14kは切り欠き部14eの対向面14g上に位置し、ピン孔14jの他方の開口14mはベース円部14aの外周面上に位置している。このため、ピン孔14jによってバルブリフト部14bにおけるバルブタペット31との接触面積を減らすことがなく、即ちカムローブ13の耐久性を損なうことなく、カム作成時にカムローブ13に生じる歪みを抑制することができる。
【0060】
また、本実施の形態例のカム構造11によれば、カムシャフト12は、内部に潤滑油が流れる油路12bを備え、ピン22は、カムシャフト12に連結された状態で、油路12bと連通されるとともに切り欠き部14eの対向面14gに位置する端部で開口する油孔22aを備えていることを特徴としているため、潤滑油を切り欠き部14eに確実に供給できるので、ローラ15とバルブタペット31との間の摺動抵抗をより確実に低減することができる。また、ピン22内部に潤滑油が流通する油孔22aを設けることで、カムローブ13に新たに孔を設ける必要が無いため、カムローブ13の耐久性を維持することができる。