(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以降、諸図面を参照しながら、本発明の実施態様を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施態様によるハイブリッド車両の概略構成図である。図に示すように、本ハイブリッド車両は、エンジン1、モータジェネレータ2、トランスミッション3を組み合わせて構成されている。エンジン1とモータジェネレータ2の間に第1クラッチCL1が配置され、エンジン1からの駆動力、及びフリクションを断続させる事が可能である。モータジェネレータ2は、インバータ(INV)12を介してバッテリ10から電力供給を受けると電動機として使用することが可能であり、トランスミッション3、プロペラシャフト4、デファレンシャルギア5、を介して駆動輪6を駆動する機能を有している。第2クラッチCL2は、トランスミッション3内に設けられた変速用の摩擦締結要素を流用するクラッチであり、モータジェネレータ2と駆動輪6との間の駆動力の伝達を制御する。
【0010】
また、駆動輪6からデファレンシャルギア5、プロペラシャフト4、トランスミッション3を介して連れ回されると、モータジェネレータ2は発電機として使用する事も可能であり、発電した電力をインバータ12を介してバッテリ10に充電する。即ち、モータジェネレータ2は、電動機兼発電機として機能している。第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、およびモータジェネレータ2は、コントローラ9で制御される。コントローラ9の入力側には、アクセル開度(APO)を検出するアクセルポジションセンサ7、車両の走行速度を検出する車速センサ8などの各種センサが接続されている。また、バッテリセンサ11が、バッテリ10に装着されており、バッテリ10のSOC(充電容量)を測定し、測定したSOCをコントローラ9に供給している。これらの各種センサ、入力信号を元にコントローラ9は、エンジン1、第1クラッチCL1、モータジェネレータ2、第2クラッチCL2を制御している。
【0011】
コントローラ9は、クラッチ制御部9a、MG制御部9b、バッテリ制御部9c、エンジン制御部9d、および走行モード設定部9eを具える。走行モード設定部9eは、ハイブリッド車両の走行モードとして、第1クラッチCL1を開放し、エンジン(ENG)1とモータジェネレータ(MG)2とを切り離して、MGの駆動力のみで走行するEV走行モード、第1クラッチCL1を締結し、エンジンとMGとを結合して少なくともエンジンの駆動力で走行するHEV走行モードと、クラッチを締結し、エンジンとMGとを結合して、燃料供給を停止した状態でエンジンを連れ回しながら、コーストで(即ち、エンジンブレーキをかけて)、或いはモータジェネレータの駆動力で走行する、エンジン連れ回り走行モードと、のうちのいずれの走行モードに設定する。
【0012】
MG制御部9bは、設定された走行モードおよび要求駆動要求力に応じてMGを力行運転したり回生運転したりする。クラッチ制御部は、走行モード設定部9eで設定された走行モードに応じて、第1クラッチCL1および第2クラッチCL2の締結/開放を制御する。バッテリ制御部9cは、バッテリセンサ11により測定されたバッテリ(BAT)10のSOCを取得し、バッテリ10の充放電量を制御する。バッテリ制御部9cは、回生発電による充電を禁止すべき規定値を超える高いSOC値の場合は走行モード設定部にその旨を通知する。このような高SOC値の場合には、走行モード設定部9eは、走行モードをエンジン連れ回り走行モードに設定する。このエンジン連れ回り走行モードでは、コースト走行における回生(充電)を抑制し、その代わりに第1クラッチCL1を締結して(エンジンとモータジェネレータとを結合して)、燃料供給を停止した状態でエンジンを連れ回しながらコーストで(即ち、エンジンブレークをかけて)走行する、エンジン連れ回り走行モードに設定する。走行モード設定部9eにより設定された走行モードに応じて、クラッチ制御部9aが第1クラッチCL1を締結する。ここで、エンジン連れ回り走行モードは、たとえ加速要求があっても、エンジンを連れ回しながらモータジェネレータの駆動力で再加速を行うため、ドライバのアクセルのオンオフによって第1クラッチCL1の締結/開放の繰り返しを抑制でき、搭乗者への悪影響を最小限に抑えることが可能となる。
【0013】
本発明の理解に資するために、上述した
図1に示したような第1クラッチCL1、第2クラッチCL2を搭載したハイブリッド車両のクラッチ締結/開放をシーン別に説明する。
図5に示すように、このハイブリッド車両は、エンジン(ENG)1、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、モータジェネレータ2、インバータ12、バッテリ10を具える。以降の図面においても、同様の部材には同様の符号を付すものとする。停止時は、第1クラッチCL1は開放され、第2クラッチCL2が締結してある。そして、加速した場合には、バッテリ10の直流電流がインバータ12によって3相の交流電流に交換されモータジェネレータ2を回転し、その回転によって生じた駆動力が第2クラッチCL2を介して駆動輪に伝達される。
【0014】
図2は、停止から加速に至るシーンのクラッチ締結/開放の様子を説明する図である。
図2の(a)に示すように停止時は、第1クラッチCL1は開放され、第2クラッチCL2が締結してある。そして、加速した場合には、
図2の(b)に示すように、バッテリ10の直流電力がインバータ12によって3相の交流電流に変換されモータジェネレータ2を回転し、その回転によって生じた駆動力が第2クラッチCL2を介して駆動輪に伝達される。
【0015】
図3は、加速からエンジン始動に至るシーンのクラッチ締結/開放の様子を説明する図である。
図3の(a)に示すように、モータジェネレータ2の駆動力で力行運転している場合に、さらに加速要求がある場合には、同図の(b)に示すうように、第1クラッチCL1を締結して、モータジェネレータ2の駆動トルクによりエンジン1の回転を立ち上げてエンジン始動を行う。この際に、エンジン始動に伴う駆動力の変化が駆動輪6に伝わることを抑制するため、第2クラッチCL2を半クラッチ(半締結状態)にする。なお、
図2、
図3および以降の諸図面での操作は、後退時も同様の操作で制御することが可能である。
【0016】
図4は、エンジン始動から一定速に至るシーンのクラッチ締結/開放の様子を説明する図である。
図4の(a)は、
図3の(b)で説明したとおりである。エンジン始動した後は、
図4の(b)に示すように、第2クラッチCL2を半クラッチから完全な締結状態に移行させ、エンジン1から締結した第1クラッチCL1、モータジェネレータ2、第2クラッチCL2を経て、エンジントルクを駆動輪に伝達している。もちろん、ハイブリッド車なので、このとき、エンジントルクの他にモータトルクを併せて供給したり、エンジン側の燃料供給を停止して、モータトルクのみで走行することも可能である。
【0017】
図5は、一定速から減速に至るシーンのクラッチ締結/開放の様子を説明する図である。
図5の(a)は、第1クラッチCL1および第2クラッチCL2を完全に締結して一定速で走行している状態である。このような一定速から、アクセルオフした場合、SOCが標準状態の場合は、
図5(b)に示すように、EVモードでのコースト走行に移行し、第1クラッチCL1を開放して、モータジェネレータ2を発電機として機能させ、インバータ12を用いて交流電力を直流電力に変換し、バッテリ10を充電する。即ち、減速時は、バッテリ10へ電気を充電する回生運転を行う。
【0018】
図6は、減速時に高SOC時のエンジン連れ回し走行モードでのコースト運転に至るシーンのクラッチ締結/開放の様子を説明する図である。
図6の(a)は、
図5の(b)で説明したとおりのEVモードでのコースト走行である。減速しながらバッテリ10への回生運転をしているときに、或いは、アクセルをオフしたときに、バッテリ10が所定の規定値を超える高SOC状態(満充電であり、充電禁止の状態)である場合は、バッテリ10へ電力を回生をせずに減速度を出すために、
図6(b)に示すように、エンジン連れ回り走行モードでのコースト走行に移行し、第1クラッチCL1を締結して、エンジン1への燃料供給を停止したエンジンを連れ回しての走行を行う。即ち、エンジンブレーキによってコースト運転を行う。
【0019】
図7は、高SOC時のエンジン連れ回し走行モードでのコースト運転から、再加速に至るシーンのクラッチ締結/開放の様子を説明する図である。
図7の(a)は、
図6の(b)で説明したとおりのエンジン連れ回り走行モードでのコースト走行である。
図7の(a)のようなエンジン連れ回り走行モードでのコースト走行時に、ドライバがアクセルを踏み込み(アクセルオン)、加速要求を行う場合がある。この加速要求が、前述したエンジン始動を必要とするほど大きくない場合には、比較例の制御によれば、加速要求を受け、
図7の(b)に移行し、第1クラッチCL1を開放し、バッテリ10からの電力を使ってモータジェネレータ2の駆動力で加速を行う処理が行われる。しかしながら、ドライバは周囲の交通状況や道路の勾配の変化などに応じて、微妙なアクセル操作を行うものである。従って、
図7の(b)の状況で、アクセルから足を離した(アクセルオフ)場合、
図7の(a)に戻り、再度、第1クラッチを締結することとなる。このように
図7の(a),(b)の間を往復するときには、第1クラッチCL1の締結と開放とを繰り返すため、搭乗者の快適性が相当損なわれることとなる。
【0020】
そこで、本発明の一実施態様によれば、
図7の(a)のような、高SOC時のエンジン連れ回し走行モードでのコースト運転から加速を行う場合に、
図7の(c)に示すように第1クラッチCL1の締結を維持してエンジン連れ回り走行モードを継続することによって、搭乗者の快適性を損なわせることを防止することが可能となる。ここでは、エンジン1を連れ回しているため、加速時にはより多くのモータトルクが必要となり、バッテリ10の電力をその分だけ消費することになる。しかし、そもそも高SOC状態であるためバッテリ10の電力を多少消費しても影響は少ない。むしろ、バッテリ10の電力を消費してより好適な充電状態へと導くことも可能であり、それに際して、第1クラッチの開放を抑制するため搭乗者の快適性も向上するため、二重の効果を奏することになる。また、さらに加速要求する場合には、
図7の(d)に示すように、第1クラッチを締結したままエンジン1を始動して、HEV走行に移行できる。
図7の(b)から
図7の(d)に移行する場合には、第1クラッチの締結が必要であるが、
図7の(c)から(d)に移行する場合には第1クラッチの締結をそのまま維持できるためさらに都合がよい。
【0021】
図8は、比較例のアクセル開度(APO)と車速で定義された走行領域マップを示す図である。図に示すように、この比較例では、バッテリ10が高SOC状態にあるときにEV走行領域でアクセルをオフすると、エンジンとモータを結合するクラッチが締結されて、エンジン連れ回り走行領域に入るが、アクセルがオンされるとEV走行領域に戻る。即ち、アクセルのオンオフによって、クラッチの締結、開放が繰り返されることとなり、搭乗者はクラッチ締結・解放のショックをその都度被ることとなる。
【0022】
図9は、本発明の一実施態様によるアクセル開度(APO)と車速で定義された走行領域マップを示す図である。本実施態様では、一旦、第1クラッチCL1を締結して高SOC時のエンジン連れ回し走行領域(モード)に入った場合は、
図9に示すように、
図8では「EV走行領域」であった領域の低速側を除く部分を「エンジン連れ回し走行領域」に設定する。このように領域の再設定を行うことによって、アクセルのオンオフによるクラッチ締結/開放を抑制し、エンジン連れ回し走行領域(モード)を維持し続けることが可能となる。このようにEV走行領域の大部分をエンジン連れ回し走行領域に設定すると、加速を続けてアクセル開度が大きくなるか、車速が増大した場合にHEV走行領域に移行するときの、第1クラッチCL1の締結が維持され続けるため、HEV走行領域へ移行するときの第1クラッチCL1の締結動作が不要になり、さらに好都合である。
【0023】
上述したように、本発明の実施態様を走行モードや走行領域の設定という態様で説明してきたが、本発明は、高SOC時クラッチ締結要求の成立条件、或いは、締結要解除の成立条件の設定という態様で説明することも可能である。
【0024】
本発明の一実施態様によれば、下記条件全てが成立した場合に「高SOC時クラッチ締結要求あり」とする。
成立条件1:SOC≧SOC閾値A
成立条件2:車速≧車速閾値A
成立条件3:コースト状態である
【0025】
本発明の一実施態様によれば、下記の解除条件のいずれか1つが成立した場合に「高SOC時クラッチ締結要求無し」とする。
解除条件1:HEV走行モード かつ SOC<SOC閾値B
(但し、SOC閾値B<SOC閾値A)
解除条件2:車速≦車速閾値B
(但し、車速閾値B<車速閾値A)
【0026】
本発明の別の実施態様によれば、下記の解除条件のいずれか1つが成立した場合に「高SOC時クラッチ締結要求無し」とする。
解除条件1:SOC<SOC閾値B
(但し、SOC閾値B<SOC閾値A)
解除条件2:APO≧APO閾値A かつ EV走行許可判定が所定の時間閾値異状継続した場合(APOの条件を設定することによって第1クラッチCL1をオフしてEV走行に遷移することを抑制する)
解除条件3:車速≦車速閾値B
(但し、車速閾値B<車速閾値A)
【0027】
このような成立、解除条件を設定することによって、走行モードや走行領域を設定した場合と同様の動作や効果を得ることが可能である。
【0028】
図10は、本発明の一実施態様によるハイブリッド車両のクラッチ制御装置で実行される制御を示すフローチャートである。図に示すように、ステップS11では、高SOCクラッチ締結要求がオフか否かを判定する。高SOCクラッチ締結要求がオフである場合は、ステップS12にて、成立条件1のSOC≧SOC閾値Aであるか否かを判定する。ステップS13では、成立条件2の車速≧車速閾値Aであるか否かを判定する。ステップS14では、成立条件3のコースト状態であるか否かを判定する。ステップS12,13,14における3つの条件を全て満たす場合は、ステップS15に進み、高SOCクラッチ締結要求オンにして処理を終える。3つの条件を1つでも満たさない場合は、処理を終える。
【0029】
ステップS11にて、高SOC時クラッチ要求がオフでないと判定された場合は、ステップS16以降の解除条件判定処理に入る。最初にステップS16にて、EV走行要求有りか否かを判定する。EV走行要求無しの場合(即ちHEV走行)は、解除条件のSOC<SOC閾値Bであるか否かを判定する。SOC<SOC閾値Bである場合は、ステップS18にて、高SOCクラッチ締結要求をオフして処理を終える。ステップS17においてSOC<SOC閾値Bでないと判定された場合は、ステップS19に進み、解除条件の車速<車速閾値Bであるか否かを判定する。車速<車速閾値Bである場合は、ステップS18に進み、高SOCクラッチ締結要求をオフして処理を終える。車速<車速閾値Bでない場合は、解除条件を満たさないためそのままで処理を終える。
【0030】
ステップS16においてEV走行要求有りと判定された場合は、ステップS20に進む。ステップS20では、APO≧APO閾値Aであるか否かを判定する。APO≧APO閾値Aである場合は、ステップS21にてカウントを開始する。次にステップS22にて、カウント数≧N回であるか否かを判定する。カウント数≧N回である場合は、解除条件である所定の時間が経過したと見なし、高SOCクラッチ締結要求をオフして、カウントもリセットして処理を終える。このように所定の時間が経過した後、EV走行への遷移を許可することで、燃費の低下を防止する。他方、所定の時間が経過するまで、EV走行モードへの遷移を抑制するため、クラッチの締結開放が繰り返えされるのを抑制することが可能である。ステップS20の条件を満たさない場合は、ステップS24にて、解除条件の車速<車速閾値Bであるか否かを判定する。車速<車速閾値Bである場合は、ステップS23にて、高SOCクラッチ締結要求をオフして、カウントもリセットして処理を終える。車速<車速閾値Bでない場合は、解除条件を満たさないためそのままで処理を終える。
【0031】
このように、上述した実施形態では、以下の効果を得ることができる。すなわち、車両と要求駆動力に基づき設定された、エンジンへの燃料供給を停止するエンジン停止領域(
図9のエンジン停止線内の領域)とし、エンジン停止領域では、エンジンとモータとを切り離し可能に結合するクラッチを開放する一方、減速時ではクラッチを締結しこの状態から駆動力を上昇する場合はクラッチの締結を維持する。具体的には、エンジン停止領域に、要求駆動力が0以上であって所定要求駆動力以下の領域である、クラッチを締結するエンジン連れ回り走行領域と、エンジン連れ回り走行領域とは異なる領域である、クラッチを開放するEV走行領域と、をそれぞれ設定する。
【0032】
これにより、エンジン停止領域において、クラッチを締結状態とする領域を設けることで、車両への減速度を発生させることができる。また、再加速時において、クラッチの再締結を行うことがないので、クラッチの開放、締結の繰り返しの発生を抑制できる。更に、クラッチを開放する領域を設定するので、エンジンフリクション分のトルクをモータで発生する必要がなくなる。
【0033】
また、エンジン連れ回り走行領域とEV走行領域の遷移は、所定時間経過後に行う。これにより、各遷移状態を維持できるので、更にクラッチの開放、締結の繰り返しの発生を抑制できる。
【0034】
また、所定車速より遅い領域をEV走行領域とし、所定車速以上の速さの領域をエンジン連れ回り走行領域に設定する。これにより、ある車速以上の時は要求駆動力が増減したとしても、クラッチを開放することはないので、更にクラッチの開放、締結の繰り返しの発生を抑制できる。
【0035】
なお、クラッチの開放時間を延ばすことができる。高SOC(つまり回生電力をバッテリに充電できない状態)時のみに本制御を実施すると、クラッチを開放する機会が増える。また、要求駆動力が0となった減速時から加速する際にのみ本制御を実施することや、要求駆動力の変化量が小さい(例えば、車速を維持する程度)時にのみ本制御を実施することとすると、クラッチの開放、締結の繰り返しの発生が多い時に限定でき、同様の効果を発揮できる。また、上述したエンジン連れ回し領域の設定は、車速や運転者毎に変更することができる。この領域は、クラッチの開放、締結が繰り返し実行される領域を、予め実験的に求め、或いは運転者の特性を検知しながら求め、設定するものとする。
【0036】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各部、各手段などに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段などを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。